日本看護科学会誌
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資料
“死別を支える地域コミュニティ”形成に向けた教育プログラムの実践報告
小野 若菜子永井 智子
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2023 年 43 巻 p. 11-17

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Abstract

目的:地域住民を対象とした「死別を支える地域コミュニティ」形成に向けた教育プログラムを作成し,試行・評価することを目的とした.

方法:教育プログラム内容は,講義,グループワークの計2時間であった.参加者は,住民38名であった.教育目的は,死別や社会資源に関する知識,近隣サポートに関する意識や行動を高めることであった.評価は,質問紙調査,グループインタビューを実施し分析を行った.

結果:教育プログラムの満足度は高く,介入後「グリーフケアに関する知識がある」(P < 0.05)が有意に上昇した.近隣の終末期療養者・家族支援の経験がある人は,「死別を経験する近隣のサポートの大切さについて広めたいと思う」(P < 0.01)等が有意に高かった.

結論:本教育プログラムは,参加者に「死別を支える地域コミュニティ」の視点を提供し,地域コミュニティ形成,普及・啓発活動への活用が考えられる.

Translated Abstract

Objectives: The purpose was to create and evaluate an educational program for its feasibility with local community residents on how to cultivate a community supporting spirit in the face of bereavement.

Methods: The education program was a single session of a lecture and group work conducted in two hours. The participants were 38 residents. The purpose of education was to raise knowledge about bereavement and social resources, and awareness and behavior regarding neighborhood support. It was evaluated using questionnaires and group interviews.

Results: Satisfaction with the educational program was high, and “knowledge about bereavement care” (P < 0.05) raised significantly after the intervention. Those who had an experience in supporting end-of-life patients and their families in the neighborhood were significantly more likely to answer, “I would like to spread the importance of supporting the neighborhood who experiences bereavement” (P < 0.01).

Conclusion: This educational program provided participants with the perspective of community supports in the face of bereavement, and could be used for local community development, dissemination, and enlightenment activities.

Ⅰ. はじめに

日本は,少子高齢多死社会となり,看取りを行う家族介護者の負担が危惧される.また,核家族化等,家族形態そのものが変化し,家族サポートの低下が家族介護者に与える影響も懸念される.日本のがん患者の遺族への質問紙調査において,家族機能と遺族の抑うつに関連がある(Hiratsuka et al., 2021),38%の遺族が看取りの際に家族間葛藤があった(Hamano et al., 2021,有効回答数908)と報告されている.その他,死別に遭遇する人々の苦悩が危惧されているものの,葬送儀礼の簡略化が進む等,家族や親戚,近隣の支援が減少し,人々が死別の苦悩を抱え孤立していく可能性が考えられた(小野・永井,2018).これらのことから,看取りを行う家族介護者,死別の苦悩を抱え孤立する人々へのフォーマル・サポートだけでなく,インフォーマル・サポートの充実が必要であると考えられる.

しかし,日本では,在宅で看取りをした家族に対して,遺族会など遺族が語り合う場がない,地域のつながりが希薄で孤立するケース,とくに独居高齢を見守る仕組みがないなどの課題が指摘されている(水上ら,2021).一方,長年の近隣の関係性を築く中で,療養から死まで,その後においても家族介護者に対する住民の見守りがなされる状況も報告されている(小野・永井,2018).在宅終末期にある患者・家族に対するボランティアの支援によって,看取りに対する家族の満足(後藤,2018),家族介護者の心身の介護負担の軽減(後藤,2012)につながる.また,配偶者と死別した独居高齢者は,家族や友人だけでなく,近隣者などさまざまな他者からの支えを受け,悲嘆の適応に向かうと考えられる(柴田ら,2020).インフォーマルな支援である近隣の住民や友人等が積極的に在宅介護へ協力・参加することは,介護者の「一人ではない安心感」につながる(和田ら,2016).これらのことから,死別に遭遇した療養者・家族に対して,近隣者や友人,ボランティア等の他者からのインフォーマル・サポートが存在する場合,家族の支えとなる可能性が示唆される.こうした死別を支えるインフォーマル・サポートの充実は,死別を支える地域コミュニティの形成につながり,地域の社会資源になると考えられる.

アラン(2005/2022)は,生命を脅かす病気,高齢,グリーフ・死別,家庭でケアを担う市民,そんな境遇にあるすべての市民を手助けし,支援するために組織される地域コミュニティをコンパッション都市・コミュニティと呼んだ.そのコミュニティの能力開発の目的は,各自の能力,知識,スキルに対する人々の意識を高めることにあり,それによって,支援制度の利用,問題解決,意思決定,コミュニケーションや行動がより効果的に行えるようになるとされる(アラン,2005/2022).これらのことから,死別サポートにおいても,市民が知識をもち,行動に移せるよう,市民教育に取り組む,地域コミュニティ形成の必要性が考えられた.住民に向けて終末期ケアやグリーフケアに関する普及・啓発をし,近隣の死別の見守りに住民の協力を得ていくことも重要である(小野・永井,2018).さらに,人々がお互いのつながりを意識しながら,死別を支えるコミュニティをつくり,死別を語り支え合う風土や文化を養うことは,お互いを思いやるまちづくり,人々の健康の維持・増進につながるであろう(小野・永井,2018).

そこで今回,地域住民を対象とした 「死別を支える地域コミュニティ」形成に向けた教育プログラムを作成し,試行・評価することを目的とした.本教育プログラムの意義として,1)参加者が死別の知識・意識を高め,死別を経験する家族への支援の理解を深めることで,地域の見守りにつながる,2)参加者自身や参加者の身近な人が死別に遭遇した際,うつ病等の疾病予防や健康の維持・増進といった予防的アプローチにつながる可能性があると考えられた.

尚,本研究において,「死別を支える地域コミュニティ」とは,身近な生活圏において,死の前後において,死別を支える住民のつながりとした.

Ⅱ. 方法

1. 研究デザイン

教育プログラムを評価するための前後比較研究

2. 参加者の選定

参加者の選定条件は,1)東京23区に居住する40歳以上の住民,2)本プログラムの講義やグループワークに参加する意思があることとした.リクルートは,東京23区1自治体を便宜的に選び,事業所(地域包括支援センター,高齢者支援センター等),住民(町会長,民生委員,高齢者クラブ会長等)に研究協力依頼ポスターの配布を行い,申し込みを受け付けた.

3. 教育プログラムの実施

1) 全体の概要

教育プログラムは,2019年3月に2回実施した.教育目的は,死別や社会資源に関する知識,死別や近隣サポートに関する意識や行動を高めることであった.教育プログラム内容は,1回につき,講義,グループワーク各1時間であった.さらに,研究説明,事前・事後質問紙回答,事後グループインタビュー,休憩を含めて,合計3時間20分で運営した.評価は,質問紙調査とグループインタビューにより実施した.運営は,著者2名,受付1名,ファシリテータ3名の計6名で行った.ファシリテータは,地域看護領域の実践や教育の経験をもつ教員・大学院生であった.

2) 講義

講義は,著者が先行研究をもとに作成し,パワーポイントを用いて講義を行った.タイトルは「死別を支える地域コミュニティを育むために必要なことを考える」として,内容は,①大切な人との別れが人々に与える影響,②死別後の暮らし:自分の心身に向き合うこと,身近なことから自分のケア(セルフケア),③グリーフケア(遺族ケア)の基本,④死別を支える地域コミュニティ(互助の実際)であった.全体的な構成としては,①~③の死別の基本的知識の情報提供の後,④死別を支える地域コミュニティについて,近年の地域コミュニティの課題(地域における関係性の希薄化,家族のサポート力の低下等),先行研究における市民へのインタビュー結果「死別を経験する家族を支えた地域の人々の関わり」(小野・永井,2018)から,家族への支援の実際,死別を支える地域コミュニティ形成の重要性が含まれた.

3) グループワーク

グループワークは,1グループ5~6人で実施した.内容としては,近隣の死別を経験する療養者・家族の支援,死別を支える地域コミュニティの未来像について話し合った後,グループごとの話し合いの内容を参加者が発表し,全体で共有した.グループワークは,1グループに1名のファシリテータが入り,円滑に話し合いが進むよう支援した.

4) 教育プログラムの評価

(1) 質問紙

評価は,教育プログラムの直前(T0),直後(T1),1ヵ月後(T2)に無記名自記式質問紙を実施した.質問紙T0とT1は,会場で記載し,質問紙T2は,1ヵ月後に到着するように郵送し1週間以内に返信を依頼した.3時点の結果を結合して分析するため,質問紙に番号をつけた.

参加者の特性には,質問紙T0において,年齢,性別,死別に関する学習経験,身近な死別に関わった経験についての項目を設けた.

プログラムに対する満足度の評価は,プログラムの内容,講義,グループワークの満足度,参加者相互の交流や学びに対する満足度等の項目を質問紙T1に設けた.

アウトカム評価は,死別や近隣サポートに関する知識,死別や近隣サポートに関する意識,近隣・地域との関わりに関する17項目であり,質問紙T0,T1,T2で経時的に評価した.回答項目は,1.全くそう思わない~5.大変そう思うの5段階であった.

(2) グループインタビュー

教育プログラム終了後,この受講を通して学んだことや近隣の死別を支援する思いを具体的に把握するため,20分間グループインタビューを行った.インタビューガイドに基づき,講義やグループワークを通して印象に残ったこと,近隣の死別を支援する思いや困難について質問した.計7グループで実施,ファシリテータが質問を行った.内容は,ICレコーダーで録音した.

5) 分析方法

変数ごとに記述統計量を算出した.アウトカム評価17項目における教育プログラム前後の変化についてフリードマン検定を実施した.また,参加者のアウトカム評価17項目(1ヵ月後)において,「死別に関する学習経験」「近隣の終末期の療養者・家族支援の経験」による比較をするため,マン・ホイットニーのU検定を実施した.参加者の経験の有無によるアウトカムの違いを分析することで,今後の教育プログラムの内容や対象を検討する際の参考にするためである.有意水準は両側5%とした.分析は統計解析ソフトIBM SPSS statistics バージョン27を用いた.グループインタビューは,録音記録から逐語録を書き起こし,「近隣の死別を支援する思い」に焦点を当てて内容分析を行った.

6) 倫理的配慮

聖路加国際大学研究倫理審査委員会の承認を受けて実施し,研究協力の任意性,個人情報の保護等に配慮して実施した(承認番号:18-A076,2019年2月1日).研究参加の説明は,教育プログラム当日の開始前に,研究者が口頭と文書により行い,文書同意を得た.研究協力の同意撤回書を配布し,研究参加を途中で断ることができることを伝えた.

Ⅲ. 結果

1. 参加者の特徴

参加者は38人,平均年齢71.8歳(SD = 11.4,範囲45~90),女性30人(78.9%),男性8人(21.1%),死別に関する学習経験がある12人(31.6%)であった.近隣の死に向かう人やその家族の手伝いをした経験がある18人(47.4%),近隣の葬儀の手伝いをした経験がある24人(63.2%),自分自身の亡くなった家族の介護経験,自分自身の家族の最期に立ち会った経験が「ある」は各34人(89.5%)であった.

2. プログラムに対する満足度の評価

プログラムの内容,講義の内容,グループワークについての満足度は,5段階回答項目,平均4.3~4.5と良好であった(表1).

表1  プログラムに対する満足度の評価
項目 内訳
人数(%) 平均/SD/範囲
全く満足していない あまり満足していない どちらともいえない まずまず満足だった 大変満足だった 無回答
プログラムの内容 0 0 3(7.9) 21(55.3) 14(36.8) 0 平均4.3
SD = 0.6,範囲3~5)
講義の内容 0 0 1(2.6) 18(47.4) 19(50.0) 0 平均4.5
SD = 0.6,範囲3~5)
グループワーク 0 0 6(15.8) 13(34.2) 19(50.0) 0 平均4.3
SD = 0.8,範囲3~5)
参加者どうし交流することができた 0 1(2.6) 4(10.5) 16(42.1) 17(44.7) 0 平均4.3
SD = 0.8,範囲2~5)
他の参加者の発言から学ぶことができた 0 0 2(5.3) 17(44.7) 19(50.0) 0 平均4.5
SD = 0.6,範囲3~5)
自分の意見を述べることができた 0 1(2.6) 7(18.4) 17(44.7) 12(31.6) 1(2.6) 平均4.1
SD = 0.8,範囲2~5)
まったくそう思わない あまりそう思わない どちらともいえない 少しそう思う 大変そう思う 無回答
プログラムから新たな情報を得た 1(2.6) 1(2.6) 5(13.2) 11(28.9) 20(52.6) 0 平均4.3
SD = 1.0,範囲1~5)
適切でない どちらともいえない 適切である 無回答
全体の時間 0 5(13.2) 32(84.2) 1(2.6) 平均1.1
SD = 0.35,範囲1~2)

注)SD:standard deviation,標準偏差

3. アウトカム評価

1) アウトカム評価17項目における教育プログラム前後の変化

「グリーフケアに関する知識がある」(χ2 = 8.3,自由度=2,P < 0.05)が有意であり,教育プログラム後の平均値が上昇していた(表2).

表2  アウトカム評価17項目における教育プログラム前後の変化
評価指標 質問項目 アンケート時期 フリードマン検定
直前(T0) 直後(T1) 1ヶ月後(T2)
n 平均値 SD 平均値 SD 平均値 SD カイ2乗値 自由度 P
I.死別や近隣サポートに関する知識
死別に関する知識 死別に関する知識がある 33 3.5 1.3 3.7 1.2 3.9 1.0 3 2 0.219
グリーフケアに関する知識がある 33 3.2 1.4 3.6 1.2 3.2 1.2 8.3 2 0.016*
在宅死に関する知識がある 34 3.4 1.4 3.5 1.2 3.4 1.2 0.8 2 0.658
社会資源の知識 病気や介護で困った時の地域の相談窓口を知っている 34 4.0 1.0 3.9 1.2 3.9 1.2 1.7 2 0.436
グリーフケア(遺族ケア)のリソース(診療所,遺族会等)を知っている 33 2.8 1.3 3.2 1.3 3.2 1.2 2 2 0.363
在宅死をする際のサポート体制を知っている 33 2.9 1.5 3.5 1.4 3.0 1.4 5.9 2 0.051
II.死別や近隣サポートに関する意識
興味 死別を経験する近隣のサポートについて興味がある 34 3.9 0.8 3.9 0.8 3.8 0.9 0.5 2 0.784
死別を経験する近隣のサポートについて学習したい 35 3.9 0.9 3.9 0.9 3.8 0.9 0.6 2 0.736
態度 死別を経験する近隣のサポートは大切である 35 4.3 0.8 4.1 0.7 4.3 0.7 1.8 2 0.405
市民が死別に関する知識を持つことは大切である 35 4.3 0.8 4.3 0.7 4.3 0.7 0.2 2 0.893
死別を経験する近隣のサポートをしたいと思う 35 3.7 0.9 3.9 0.9 3.6 0.9 4.1 2 0.126
普及・啓発活動への意識 死別に関する知識を広めたいと思う 34 4.1 0.9 3.9 0.8 3.9 0.9 1.6 2 0.459
死別を経験する近隣のサポートの大切さを広めたいと思う 33 4.0 0.9 4.1 0.8 3.8 0.9 5.4 2 0.069
グリーフケアに関する知識を広めたいと思う 35 3.8 1.1 4.2 0.7 4.0 0.8 5.2 2 0.076
III.近隣・地域との関わり
ふだんから近隣の人とのつながりがある 34 3.9 1.2 3.7 1.1 0.7 1 0.405
死別を経験する近隣のサポートをしている 34 2.8 1.5 2.6 1.2 0.9 1 0.346
地域への愛着がある 34 4.2 0.1 4.2 0.1 0.9 1 0.763

注)フリードマン検定,SD:standard deviation,標準偏差,* P < 0.05

2) アウトカム評価17項目(1ヵ月後)における死別に関する学習経験,近隣の終末期の療養者・家族支援の経験による比較

「死別に関する学習経験」が「ある」群は,「グリーフケアに関する知識がある」「グリーフケア(遺族ケア)のリソース(診療所,遺族会等)を知っている」(P < 0.01)といった知識に関する項目が有意に高かった(表3).「近隣の終末期の療養者・家族支援の経験」が「ある」群は,「死別を経験する近隣のサポートについて学習したい」「死別を経験する近隣のサポートの大切さを広めたいと思う」(P < 0.01)といった項目に有意差があった.また,「死別を経験する近隣のサポートをしている」(P < 0.05)が有意に高かった.

表3  アウトカム評価17項目(1ヵ月後)における死別に関する学習経験,近隣の終末期の療養者・家族支援の経験による比較
評価指標 質問項目 死別に関する学習経験 近隣の終末期の療養者・家族支援の経験
ある
n = 12
ない
n = 24
P ある
n = 17
ない
n = 18
P
中央値 中央値
I.死別や近隣サポートに関する知識
死別に関する知識 死別に関する知識がある 4.0 4.0 0.103 4.0 4.0 0.528
グリーフケアに関する知識がある 4.0 3.0 0.005** 4.0 3.0 0.899
在宅死に関する知識がある 4.0 3.0 0.037* 4.0 3.0 0.471
社会資源の知識 病気や介護で困った時の地域の相談窓口を知っている 4.5 4.0 0.754 4.0 4.0 0.678
グリーフケア(遺族ケア)のリソース(診療所,遺族会等)を知っている 4.0 3.0 0.001** 4.0 3.0 0.270
在宅死をする際のサポート体制を知っている 4.0 2.5 0.073 3.5 3.0 0.659
II.死別や近隣サポートに関する意識
興味 死別を経験する近隣のサポートについて興味がある 4.0 4.0 0.557 4.0 3.5 0.043*
死別を経験する近隣のサポートについて学習したい 4.0 4.0 0.857 4.0 3.0 0.002**
態度 死別を経験する近隣のサポートは大切である 4.0 4.0 0.515 5.0 4.0 0.010*
市民が死別に関する知識を持つことは大切である 4.5 4.0 0.514 4.0 4.0 0.589
死別を経験する近隣のサポートをしたいと思う 3.5 3.0 0.890 4.0 3.0 0.228
普及・啓発活動への意識 死別に関する知識を広めたいと思う 4.0 4.0 0.177 4.0 4.0 0.036*
死別を経験する近隣のサポートの大切さを広めたいと思う 4.0 4.0 0.213 4.0 3.0 0.002**
グリーフケアに関する知識を広めたいと思う 4.0 4.0 0.764 4.0 4.0 0.013*
III.近隣・地域との関わり
ふだんから近隣の人とのつながりがある 3.0 4.0 0.167 4.0 4.0 0.295
死別を経験する近隣のサポートをしている 2.5 3.0 0.318 3.0 2.0 0.044*
地域への愛着がある 5.0 4.0 0.777 5.0 4.0 0.273

注)マン・ホイットニーのU検定,* P < 0.05,** P < 0.01

4. グループインタビューの内容:近隣の死別を支援する思い

内容としては,自分にできること,死別に関わる難しさ,死別を支える地域コミュニティの形成に大切なものの3つに分類された.自分にできることとして,【遺族が話したくなった時に話を聞く】【きっかけを見つけて遺族に声をかける】【遺族に対して自分にできることを手伝う】【遺族の興味のある活動に誘う】の4カテゴリーがあった.一方,死別にかかわる難しさとして,【アドバイスはできるが個人的なことで深入りはできない】【死別や介護は重くて関わりが難しい】の2カテゴリーがあった.さらに,死別を支える地域コミュニティの形成に大切なものとして,【大変な状況になった時は,勇気をもって人からの手助けを受ける】【これまで築いてきた人との関係性が大切である】【近隣とのつながりが情報交換や見守りにつながる】【SOSがでたときに助けられる地域のしくみづくりが必要である】の4カテゴリーがあった.

Ⅳ. 考察

1. プログラムに対する満足度の評価

プログラムの内容,講義内容については,「まずまず満足だった」「大変満足だった」が合わせて90%を超え,グループワークについては84.2%と比較的良好であった.「参加者の発言から学ぶことができた」は,「まずまず満足だった」「大変満足だった」が合わせて94.7%と良好であった.

2. アウトカム評価

1) アウトカム評価17項目における教育プログラム前後の変化

表2の結果から,有意差を認めた項目は「グリーフケアに関する知識がある」のみであった.グリーフケアについてあまり知らなかった参加者にとって,新たな知識となった可能性がある.

また,介入前(T0)の段階で,平均値4以上の項目は,「死別を経験する近隣のサポートは大切である」等があり,本研究の参加者は,死別や近隣のサポートに対する意識が高い傾向が示された.

2) アウトカム評価17項目(1ヵ月後)における死別に関する学習経験,近隣の終末期の療養者・家族支援の経験による比較

表3の結果から,「近隣の終末期の療養者・家族支援の経験」を有する人は,「死別を経験する近隣のサポート」について「興味がある」「学習したい」と捉えている傾向があり,学習ニーズがあると考えられた.また,「死別を経験する近隣のサポートは大切である」と認識し,「死別を経験する近隣のサポートの大切さを広めたいと思う」等の普及・啓発活動への意識が高い,「死別を経験する近隣のサポートをしている」傾向があった.

一方,今回の参加者の9割は,「自分自身の亡くなった家族の介護経験」「自分自身の家族の最期に立ち会った経験」があると回答しており(表1),こうした自分の経験が「近隣の終末期の療養者・家族支援」の実施につながる可能性もある.Hayashi & Nagata(2020)は,女性を対象にした調査において,在宅死の看取り介護の経験と「独居高齢者のために自分ができることをしたい」との間に統計的有意な関連があったと報告した.また,諸岡(2012)は,認知症高齢者の家族介護者が,死別後,「体験を生かす取り組み」として,家族の会やボランティアなどで活動している人がいたと報告している.その他,増永・大谷(2013)は,緩和ケア病棟におけるがん患者遺族ボランティアは,自分の家族の看取り時の被支援経験を活かした活動を展開していたと報告している.これらのことから「近隣の終末期の療養者・家族支援の経験」を有する人は,身近な地域を支え見守る,「死別を支える地域コミュニティ」の社会資源となる可能性が考えられた.

3) グループインタビュー

グループインタビューでは,近隣の死別を支援する思いとして,【SOSがでたときに助けられる地域のしくみづくりが必要である】と語られた.桂・荻原(2018)は,老老介護における介護者の研究の中で,高齢介護者は自分が倒れたらどうなるのだろうという不安と隣り合わせの中,「自分が寝込んだときに看病してくれる」「留守の時やちょっとした用事を頼める」といった手段的サポートが得られる環境が安心感につながると述べている.こうした手段的サポートは,「SOSがでたときに助けられる地域のしくみ」の一つであるといえる.さらに,在宅看取りを安心して行えるよう,遺族や看取りが近い人を抱えている家族が気軽に相談でき,感情表出ができる場を作り,民生委員やボランティアの協力のもと地域で見守りや看取りができる体制づくり,インフォーマル・サポートの構築が重要である(水上ら,2021).

また,「死別を支える地域コミュニティ」形成のためには,【これまで築いてきた人との関係性が大切である】【近隣とのつながりが情報交換や見守りにつながる】ことも語られた.保田(2011)は,地域でのグループ活動において,地域の中で知り合いが増え,地域の人の顔が見える感覚を生活の中で持つことは,その地域で生活する上での安心感や安全感を高めることにもつながるのではないかと述べている.このような普段からの地域活動を通した顔が見える関係性が,死別に遭遇した人々の「安心感や安全感」につながる可能性も考えられた.

4) 本活動の限界と今後の課題

住民に参加者を募集し教育プログラムを実施したことから,ベースラインで死別に関する知識や意識が高い傾向があった.さらに,対象者数が少なく,介入時間が短かったことから,統計的に介入効果を十分に提示できなかった.

Ⅴ. おわりに

今回,地域住民を対象とした 「死別を支える地域コミュニティ」の形成に向けた教育プログラムを作成し,試行・評価を実施した.プログラムの内容・講義の満足度は比較的高かった.「近隣の療養者・家族支援の経験」を有する人は,「死別を経験する近隣のサポート」について,学習ニーズを持っており,「死別を経験する近隣のサポート」の普及・啓発活動への意識が高い傾向があった.今後,身近な地域を支え見守る存在となる可能性が示唆された.

謝辞:本研究はJSPN科研費JP15K11866の助成を受けたものです.本研究にご協力くださった皆様に心より感謝いたします.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:WOおよびTNは研究の着想およびデザイン,教育プログラム実施に貢献,WOは統計解析の実施および草稿の作成.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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