日本看護科学会誌
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
原著
高齢者の幸せの構成要素:幸福度・満足度を高める設問に対する自由記述の計量テキスト分析より
岩原 由香福井 小紀子藤川 あや石川 孝子藤田 淳子
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2023 年 43 巻 p. 38-45

詳細
Abstract

目的:本研究の目的は,高齢者が幸福度・満足度を高めるために大切だと認識していることを明らかにすることである.

方法:協力の得られた2自治体から層化無作為抽出(年齢,性別)した65歳以上の男女1,440名を対象に,無記名自記式質問紙を用いた郵送調査法を実施した.全回答者796名(回収率55.3%)のうち,自由記述に記載のある524名を分析対象とした.幸福度を高めるために大切なことに関する自由記述を,計量テキスト分析を行った.

結果:形態素解析の結果1,299語が抽出され,抽出語は,出現頻度,共起性,文書内の特徴語から10テーマに分類された.階層化クラスター分析を行った結果,10のテーマは,【健やかに生活を営む】,【人とのかかわりを持つ】,【前向きに考え,活動を楽しむ】の3つのクラスターに分類された.

結論:生活を営むために必要な収入の確保に加えて,健康や人との交流などに支援を行うことで,高齢者の幸福度・満足度が高まることが示唆された.

Translated Abstract

Purpose: The aim of the study is to examine issues recognized by older adults as important for increasing their degree of well-being.

Methods: A survey was conducted for 1,440 males and females aged 65 years and older who were selected by stratified random sampling (age and gender) from two municipalities that agreed to participate in the study. An anonymous, self-administered questionnaire was sent to the subjects by mail. Among the 796 respondents (response rate: 55.3%), questionnaires were analyzed for 524 subjects who responded to open-ended questions. The responses to these questions on issues that are important for increasing well-being were analyzed using quantitative text analysis.

Results: A morphological analysis resulted in extraction of 1,299 words, which were then classified into 10 themes. Using hierarchical cluster analysis, the 10 themes were classified into three clusters: live a healthy and affluent life, interact with people, and enjoy activities with positive thinking.

Conclusions: The results indicate that, in addition to ensuring income for making a living, the well-being of older adults can be increased by providing support services for maintaining health and interacting with people.

Ⅰ. はじめに

近年,人々の暮らしの向上について知るために,国内外でwell-beingに関する調査が実施されている.国連の国連事務総長の諮問グループの一つである持続可能な開発ソルーションネットワークが発表した世界幸福報告書では,幸福の国際比較が行われ幸福度の国際ランキングが示されている(Helliwell et al., 2020).Organisation for Economic Co-operation and Development(OECD,経済協力開発機構)(2013)は,Subjective well-being(以下:SWB)の測定に関するガイドラインを公表しGDP等経済的側面だけではとらえることのできない幸福の全体図を描き出そうとする試みを進めており,日本でも内閣府(2020)が経済社会の構造の「見える化」を行うために幸福度指標を作成している.さらに,荒川区などの自治体では,住民の主観的幸福度を調査し(荒川区自治総合研究所,2019),区政全般の政策につなげる取り組みを行っている.

SWBの高さは,よりよい健康と生存期間の長化に関連している(Diener & Chan, 2011Steptoe et al., 2015).そのため,住民の幸福感を高めることは,経済的な視点からだけでなく地域の健康の保持増進のための看護の視点からも有益である.さらに,少子高齢化の日本において,高齢者の健康の保持増進は重要な課題である.

well-beingについて,Diener et al.(1999)は,SWBは感情状態を含み,家族・仕事などの特定の領域に対する満足や人生全般に対する満足を含む広範な概念であると述べている.Steptoe et al.(2015)はこれらを評価的well-being,快楽的well-being(hedonic well-being),ユーデモニックなwell-being(eudemonic well-being)の3側面に区別できると述べている.日本における先行研究は,内閣府の幸福度(内閣府,1997, 2010, 2011, 2012a, 2012b)と生活満足度(内閣府,2012b, 2022)の調査,並びに,日本版General Social Surveysの幸福度,生活満足度についての調査(大阪商業大学JGSS研究センター,2022)などの評価的well-being,快楽的well-beingの調査が多い.

住民は,自らの幸福度・満足度を増すためにはなにが大切であると考えているのだろうか.内閣府は過去に国民の幸福度の現状調査を行い,その中で幸福の要因として重視する項目を選択してもらっている.1996年には健康と家庭生活などの基本的項目が「幸せ」の要因として重視され(内閣府,1997),2009年から2012年の調査では,健康,家族関係,家計状況が幸福に影響する3要素であった(内閣府,2010, 2011, 2012a, 2012b).主観的な生活満足度の水準は,高齢層(65~89歳)で高く,ミドル層(40~64歳)で低いという傾向がある(内閣府,2022).身体的・精神的な健康状態,経済的な状況,外出回数の減少などは,高齢者の主観的幸福感に強い相関関係がある(岡元,2019).しかし,これらの選択肢や尺度による調査は,共通点に着目するために人々の多様な考えが見過ごされやすい.幸せは人々の生活や人生が反映されるため,個人的なものであり多様性を持つ.多様性を集約するために,自由記述のテキスト・マイニング分析を行った研究が行われている(石田,2009小林・ホメリヒ,2018山田,2016吉村,2015).しかし,これらの研究は,70歳未満を対象としており,70歳以上を含めた高齢者の幸せに関する自由記述のテキスト・マイニング分析の研究は行われていない.高齢者の幸せと健康への支援を考えるためには,高齢者に焦点化した研究が必要である.

Ⅱ. 研究目的

本研究の目的は,高齢者が幸福度・満足度を高めるために大切だと認識していることを明らかにすることである.

Ⅲ. 研究方法

1. 用語の定義

幸せ:Well-beingは評価的well-being,快楽的well-being(hedonic well-being),ユーデモニックなwell-being(eudemonic well-being)の3側面に区別できる(Steptoe et al., 2015).評価的well-beingとは,人生全体の満足度をさし,快楽的well-beingは,幸せという気分や感情をさす.本研究では,この2側面を幸せとして扱う.

2. 調査対象と調査方法

調査は,2自治体(A地域:可住地人口密度5,000人/km2以上の人口集中地域とB地域:可住地人口密度1,000人/km2未満の人口分散地域)から層化無作為抽出(年齢,性別)した40歳以上の男女2,400名を対象に,無記名自記式質問紙を用いた郵送調査法を実施した.対象者に対して,研究についての説明と協力依頼の文書と調査票を送付し,研究への協力を依頼した.調査の参加と同意は,調査票の返送をもって得られることとした.本研究は,このうち65歳以上の1,440名を対象とした.データ収集期間は,2019年11月から2019年12月であった.

3. 調査項目

対象者の属性として,年齢,性別,婚姻状態,家族構成,収入,経済的ゆとり,住宅の種類,居住年数,通院,病気,介護状態,就業状態,学校教育期間を尋ねた.加えて,well-being に関して,快楽的well-beingのhappiness,ユーデモニックなwell-beingのlife satisfactionの2側面について尺度を用いて調査するとともに,幸福度を高めるために大切だと認識していることについて,「あなた自身の幸福度や満足度を高めるために,大切なことは何ですか」と尋ね自由に回答してもらった.

4. データ分析方法

質問紙の幸福度を高めるために大切なことに関する自由記述を,テキスト文章の質的分析を行う形態素解析ソフトKH corder3を用いて,計量テキスト分析を行った.

計量テキスト分析では,意味の最小単位に対象テキストを分割し,自由記述中に頻繁に用いられる用語の出現パターンや語同士の関係性を把握する.テキストの最小単位の分割・抽出方法としてKH corder3装備の辞書である形態素解析ツール茶筌による品詞自動分類を行った後,複合語(高齢者,認知症,生活費,配偶者,経済力など)を強制抽出語とし,満足,幸せ,幸福等の設問の語と事,ある,思う,感じる等の一般的な語を削除語に指定し,分析対象となる語(以下,抽出語)を抽出した.抽出語と抽出語の共起ネットワーク分析を行い,抽出語間でどの語が多く出現していたか,また,どの語とどの語がデータ中で結びついていたかを確認し,さらに,文書の階層化クラスター分析をして文書の類似性を確認した.抽出語と抽出語の共起ネットワーク分析,文書の階層化クラスター分析のそれぞれのクラスターの抽出語,そのクラスターの特徴を示す語(以下,特徴語)をもとに分類し,テーマを付けた.類似する抽出語については,文書検索機能を使って文脈を確認しながら分類した.テーマ間の類似性を見るために,テーマの階層化クラスター分析を行った.階層化クラスター分析において,抽出法はWard法,距離はJaccardを用いた.

5. 倫理面への配慮

調査は,日本赤十字看護大学研究倫理審査委員会の承認を得た上で実施した(承認番号2019-084).対象者の人権及び利益の保護のため,協力依頼文書において,本研究の目的,方法,およびプライバシーの保護について十分に説明し,理解をしていただいた上で調査協力を依頼した.個人情報・プライバシーの保護として,対象者の抽出と個人情報の取り扱いは,すべて自治体が行い,研究者ならびに調査委託業者は取り扱わなかった.

Ⅳ. 結果

1. 対象者の属性

全回答者796名(回収率55.4%)のうち,538名(67.6%)が自由記述に回答していた.そのうち,設問とは関係ない回答や,わからない,特にないなどの回答を除いた524名(65.8%)を分析対象とした.(表1

表1  対象者の属性
人数 %
居住地域 A地域 266 50.8
B地域 258 49.2
性別 男性 245 46.8
女性 275 52.5
年齢 65~74歳 208 39.7
75~84歳 196 37.4
85歳~ 120 22.9

n = 524

地域別の回答者数は,A地域が,266名(50.8%),B地域が,258名(49.2%)だった.男性245名(46.8%),女性275名(52.5%)だった.一番多い年齢層は65歳~74歳で208名(39.7%),次いで75歳~84歳196名(37.4%),85歳以上120名(22.9%)だった.平均年齢は77.2 ± 7.69歳だった.

2. 抽出語(図1

品詞自動分類の結果1,299語が抽出された.単純集計で最も出現回数の多い語は,健康であり,続いて家族,自分,生活だった.

図1 

品詞自動分類単純集計上位20語

全回答中の出現回数を示し,一人の回答者で複数回出現している語もある.

3. 抽出語のテーマ分類(表2

形態素解析の結果得られた819語の抽出語を,回答者における出現頻度,抽出語と抽出語の共起性の分析,文書の階層化クラスター分析の抽出語・特徴語をもとに10分類した.各々の語の類似性をもとに,「健康」「家族」「プラス思考」「活動」「生活」「金銭」「趣味」「人」「コミュニケーション」「食べる」のテーマを付けた.分類の難しい語は,文脈中の用法をコンコーダンス機能で確認し振り分けた.以下テーマ名を「 」で示す.

表2  テーマを構成する抽出語
テーマ 抽出語 回答者数 %
健康 健康,元気,障害,病気,ボケ,認知症,介護,健やか,寝たきり,丈夫 195 37.2%
家族 子供,息子,娘,長男,次女,夫,妻,夫婦,孫,曾孫,両親,配偶者,家族 129 24.6%
プラス思考 ポジティブ,前向き,好き,楽しい,楽しむ,楽しみ,プラス,エンジョイ,笑顔,笑う,向上心,感謝,ありがとう,嬉しい,ほがらか 85 16.2%
活動 ボランティア,スポーツ,運動,体操,ウォーキング,ハイキング,トレーニング,サークル,サイクリング,ゴルフ,スイミング,テニス,フラダンス,登山,ゲートボール,山歩き,畑仕事,参加,町内活動,農作業,歩く 57 10.9%
生活 生活,暮らす 53 10.1%
金銭 お金,年金,収入,経済,財力,資金,資産,預貯金,年金生活,金銭的余裕,経済力,生活費,金 44 8.4%
趣味 旅行,趣味,映画,読書,温泉,コンサート,カラオケ,パチンコ,囲碁,絵手紙 43 8.2%
友人,知人,親友,親族,親友,身内,親戚,親せき 31 5.9%
コミュニケーション コミュニケーション,会話,話す,話し合う,話し合える,話し合い,交流 30 5.7%
食べる 食べる,食事,ランチ,お茶,食べ物,食物,食欲,ごはん 30 5.7%

(全回答者:524名)

4. テーマの階層化クラスター分析(図2

テーマ間の階層化クラスター分析を行った結果,距離0.95に基づいて解釈すると3つのクラスターに分類された.以下クラスター名を【 】で示す.クラスター1は「家族」「生活」「健康」「金銭」からなり【健やかに生活を営む】と命名した.クラスター2は「人」「コミュニケーション」「食べる」からなり【人とのかかわりを持つ】と命名した.クラスター3は「プラス思考」「活動」「趣味」からなり【前向きに考え,活動を楽しむ】と命名した.

図2 

テーマ間の階層化クラスター分析

Ⅴ. 考察

幸福度・満足度を高めるために大切なことに関する自由記述の計量テキスト分析を行った結果,抽出語から10テーマを抽出し,テーマは【健やかに生活を営む】,【人とのかかわりを持つ】,【前向きに考え,活動を楽しむ】の3つのクラスターに分類された.

大切なこととして10の多様なテーマが抽出され,その中でも「健康」の頻度が一番高かった.Layard(2011)は主観的幸福感には7つの規定要因,家族関係,収入,雇用,地域と友人,健康,個人の自由,人生観(philosophy of life)があり,家族関係がもっとも規定力が高く,この順番で効果が低下すると述べている.しかし,アメリカ,イギリス,オーストラリアにおいて,主観的幸福感には,精神疾患があることは,収入,雇用,または身体的疾患よりも重要であること,また,精神疾患よりも影響を示す数値が弱いが,身体的健康もまた重要であることが明らかとなっている(Clark et al., 2017).Easterlin(2003)は,あらゆる年代で自身の主観的な健康度と幸福感に密接な正の相関が見られる点を指摘している.本研究では「健康」が1/3以上の文書中に出現しており,「金銭」よりも多くつかわれていた.小林・ホメリヒ(2018)の研究結果でも,家族や雇用・収入よりも健康が多くつかわれていた.本研究において「健康」が「金銭」よりも多くつかわれていたのは,「健康」を構成する抽出語が身体的な健康だけではなく認知症などの心の健康も含んだ内容として使われていたこと,回答者の主観による自由記述の分析を行ったことが影響しているものと考える.

【健やかに生活を営む】ことは,自分自身が「健康」だけでなく,「家族」も「健康」であること,そして,「生活」を営むための「金銭」が大切なこととして挙げられていた.国民選好度調査において,1996年には健康と家庭生活などの基本的項目を「幸せ」の要因として重視しており(内閣府,1997),2009年から2011年では,健康,家族関係,家計状況が幸せに影響する3要素であった(内閣府,2010, 2011, 2012a, 2012b).本研究の結果も,過去の日本の調査と同様の結果が得られている.20年の時間の経過によって社会環境は変化をしているが,幸せに影響する要素の順番に違いはあるものの大きな変化はない.そのため,日本において幸福は,健やかに生活を営んでいくことが重要であると考える.

2013年の国民生活基礎調査(厚生労働省,2014)では,65歳以上の高齢者は,半数近くの人が何らかの自覚症状を訴えているが,日常生活に影響のある者は有訴者率と比べるとおよそ半分になっている.そして,自分の健康状態を7割以上の高齢者がふつう以上であると答えている.この結果から,高齢者の主観的健康は,自覚症状が日常生活に影響を及ぼすか否かによって変わることが推察される.本研究の「健康」には,日常生活の自立という内容が含まれている可能性がある.

【人とのかかわりを持つ】ことは,それぞれのテーマに含まれる抽出語から,お茶やランチなどの「食べる」ことを手段として,知人や友人などの「人」との交流や話し合いなどの「コミュニケーション」が挙げられていた.家族・友人との交流と他者との会話は,男女共に主観的幸福感に正の影響を及ぼし(川久保・小口,2015),会話(大橋,2018)や親しくしている友人との交流の頻度(百瀬・村山,2013)が多い人ほど主観的幸福感が高い.また,女性では,近所づきあい,友人知人の訪問,旅行やスポーツなどの個人活動が活発な者ほど生活満足度得点が高い(岡本,2008).さらに,経済的あるいは健康面で恵まれている人ほど主観的幸福感が高いが,経済的に苦しい人や,健康状態が良好ではない人でも,家族や友人など人と食事をする機会がある場合や,話し相手がいたりする場合には,経済的に余裕がある人や健康状態が良好な人よりも主観的幸福感が高くなる(岡元,2019)という先行研究から,人とのかかわりを持つことは,高齢者にとって幸福度・満足度を高めるために重要であると言える.特に「食べる」という行為は,生命維持のための行為よりも,人とのかかわりのための手段として重要であることが本研究で示唆された.

【前向きに考え,活動を楽しむ】ことは,楽しい「活動」や「趣味」をするときに感じる幸せや,すべてのことに「プラス思考」で取り組むことで,「活動」そのものを楽しむということが挙げられていた.「プラス思考」で取り組むことで,「活動」そのものを楽しむというクラスターの内容は,量的先行研究では選択項目にない項目だった.本研究は,評価的well-beingと快楽的well-beingをそれぞれ単一で分析するのではなく,両者を幸せとして取り扱い.自由に回答してもらった内容を一緒に分析をしている.そのため,量的先行研究で選択項目に設定された内容だけでなく,項目に設定されなかった快楽的well-beingの内容である気分や感情に対する内容が,クラスターの結果に現れたと考える.

幸福にはタイムスパンがあり,うれしい,楽しいという感情の短いスパンから,人生が幸福であるというロングスパンの心の状態まである(前野,2013).楽しい「活動」や「趣味」をするときに感じる幸せは,短いスパンの幸福である.自らの生活を主体的・自律的に営んでいることが主観的幸福感に影響する(百瀬・村山,2013)ので,短いスパンの幸福が得られる活動を積み重ねていくことによって,ロングスパンの幸福も高まっていくものと考える.さらに,「プラス思考」には,のん気,前向き,プラスという言葉が含まれている.主観的幸福感は,楽観性および,現在の状態よりもさらにポジティブな方向に考えようとする傾向の「上方志向」と正の関連がある(橋本・子安,2011).「プラス思考」で活動することは,幸福感を高めるのに役立つと考える.

Nettle(2005)は,所得,社会的地位,物的財のように周囲と比較できる地位財(positional goods)を持つことによって得る幸福は,長続きしないのに対して,健康,自主性,愛情,社会への帰属意識,自由,良質な環境のような他人が持っているかどうか関係なく喜びを得ることのできる非地位財(non-positional goods)による幸福は,長続きすると述べている.本研究では,クラスターの内容を見ると【健やかに生活を営む】には,地位財の「金銭」と非地位財の「健康」「家族」が含まれているが,【人とのかかわりを持つ】,【前向きに考え,活動を楽しむ】には,地位財が含まれていない.高齢者にとって,非地位財による幸福のほうがより幸福度・満足度を高めると考えていると推察される.

以上のことから,生活を営むために必要な収入の確保に加えて,健康の保持増進への支援,人との交流ができる場や機会の提供,主体的に取り組むことのできる活動の場と参加の促進,プラス思考ができるような学習機会の提供などの非地位財を得るような支援を行うことによって地域住民の幸福度・満足度が高まることが示唆される.

本研究は,今まで明らかにされてこなかった高齢者の幸福度・満足度を高めるために大切なことを,住民自らの言葉から明らかにしている点で価値がある.しかし,本研究は幸福度・満足度に焦点をあてそれらを高める要素について検討したため,幸せの多様な側面すべてをとらえきれていない可能性がある.さらに,2つの地方自治体で行われたため,回答に偏りがある可能性がある.そのため全国に一般化することはできない.

Ⅵ. 結論

本研究の結果から,高齢者が幸福度・満足度を高めるために大切だと認識していることは,健やかに生活を営むこと,人とのかかわりを持つこと,前向きに考え,活動を楽しむことであることが明らかとなった.生活を営むために必要な収入の確保に加えて,健康の保持増進への支援,人との交流ができる場や機会の提供,主体的に取り組むことのできる活動の場と参加の促進,プラス思考ができるような学習機会の提供などの非地位財を得るような支援を行うことによって高齢者の幸福度・満足度が高まることが示唆された.

付記:本論文の内容の一部は,第40回日本看護科学学会学術集会において発表した.

謝辞:本研究は,令和元年度厚生労働科研費補助金「在宅医療・介護連携の質に関する評価ツールの開発と検証」の一部として実施した.本研究にあたり,ご協力いただきました魚沼市と吹田市の市民の皆様,両市役所担当者の皆様に深く感謝いたします.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:YI,SF,AF,TI,JFは研究の着想およびデザインへ貢献し,YI,SF,AFはデータ収集,YIは分析を実施した.YIが草稿を作成して著者全員が草稿に助言し,著者全員が最終原稿を読み承認した.

文献
 
© 2023 公益社団法人日本看護科学学会
feedback
Top