2023 年 43 巻 p. 117-125
目的:新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動が職場適応状態に及ぼす影響を検討する.
方法:新人看護師1,349名を対象に,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度,職場適応状態尺度を用いて質問紙調査を行った.新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動は,職場適応状態に影響するという仮説を立て,多重指標モデルを作成し,共分散構造分析を行った.
結果:有効回答272名を分析対象とした.モデルの適合度は,GFI = .963,AGFI = .922,CFI = .965,RMSEA = .074であった.すべてのパス係数は.1%水準で有意を示し,[プロアクティブ行動]から[職場適応状態]へのパス係数は.77,決定係数は.59を示した.
結論:新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動は,職場適応状態に影響を及ぼすことが明らかになった.新人看護師が職場に適応するためには,組織からの働きかけだけでなく,新人看護師自身もプロアクティビティを発揮する重要性が示唆された.
Aim: This study examined the influence of proactive behaviors in organizational socialization of new graduate nurses on their state of workplace adaptation.
Methods: A questionnaire survey was conducted with 1,349 new graduate nurses using the Scale of Proactive Behaviors in the Organizational Socialization of New Graduate Nurses and the Workplace Adaptation State Scale. As it was hypothesized that proactive behaviors in organizational socialization would influence the nurses’ state of workplace adaptation, multi-indicator models were created, and covariance structural analysis was performed.
Results: The study analyzed 272 valid responses. The model’s goodness of fit was GFI = .963, AGFI = .922, CFI = .965, and RMSEA = .074. All path coefficients were significant at the .1% level, with a path coefficient from [proactive behaviors] to [the state of workplace adaptation] of .77 and a coefficient of determination of .59.
Conclusion: Proactive behaviors in the organizational socialization of new graduate nurses influenced their state of workplace adaptation. The results suggest the importance of not only encouragement from organizations but also the proactive behaviors of graduate nurses in workplace adaptation.
2010年に新人看護職員研修が努力義務化されてから,新人看護職員の離職率は低下傾向にあったが,2019年度の新卒看護職員の離職率は8.6%,2020年度は8.2%と横ばい状態が続いている(日本看護協会,2022).離職は組織社会化が図れなかったことを示す帰結であり(卯川,2016),組織への適応がうまく図れなかったことをあらわしている.
組織社会化は社会化の下位概念であり,社会化の研究者であるChild(1954)の定義では,社会化とは,「極めて広い範囲に制約された現実的行動を発達させる方向へと導かれる過程」であるといわれている.社会学の分野では,「個人が他者との相互行為を通して,諸資質を獲得し,その社会(集団)に適合的な行動のパターンを発達させる過程」(濱島ら,1977)といわれている.日本でよく使われる組織社会化の定義としては,高橋(1993)の「組織への参入者が組織の一員となるために,組織の規範・価値・行動様式を受け入れ,職務遂行に必要な技能を習得し,組織に適応していく過程」がある.組織社会化を促進する重要な組織側の要因として挙げられるのは社会化戦術である.これは,組織が個人を受動的な存在とみなし,彼らの社会化の達成を目的として実施する一連の施策で,具体的には,組織参入直後の新入社員研修やキャリア開発プログラムなどが該当する(宗方・渡辺,2002).
プロアクティブ行動は,1990年代に組織社会化研究のなかから発展してきた.新人を単に情報を受け入れる客体としてではなく,積極的に自身の適応を促す主体としてとらえ直す取り組みが注目されはじめた(小川・尾形,2011).プロアクティブ行動は経営学で研究されており,組織社会化研究の流れから発展してきたため,主として新規参入者(newcomer)を対象とした研究であるが,さまざまな方向からアプローチされており定まった定義はない(Crant, 2000).Crant(2000)のように,組織社会化研究以外の文脈も含めた広い意味において,自発的かつ革新的な行動としてとらえる立場もある(小川,2008).Bindl & Parker(2011)は,プロアクティブ行動を,組織内において,自己決定的かつ未来志向的な行動で,状況に対する変化および自分自身に対する変化をもたらすことを目的としていると述べている.Ashforth et al.(2007)は,組織社会化過程のなかのプロアクティブ行動が社会化学習に影響し,職場適応に至るというモデルを提唱している.また,組織社会化のなかで発揮されるプロアクティブ行動は,これまでの研究において,直接的にも間接的にも適応に正の関係をもつことが明らかになっている(Ashford & Black, 1996;Bauer et al., 2007;Wanberg & Kammeyer-Mueller, 2000;Ashforth et al., 2007).
卯川・細田(2020)は新人看護師が組織社会化のなかで発揮するプロアクティブ行動を概念化し,測定尺度を開発した.この尺度は【看護技術習熟行動】【人間関係構築行動】【積極的学習行動】【他者からのフィードバック探索行動】の4つの下位尺度,20項目からなり,信頼性・妥当性が検証されている.新人看護師の社会化学習は,【看護技術習熟行動】や【人間関係構築行動】であり,【積極的学習行動】や【他者からのフィードバック探索行動】をとることで主体的に深められているのではないかと考えられる.Miller & Jablin(1991)は,組織社会化過程における個人は,組織への適応に必要な情報を十分に獲得しておらず,情報獲得への動機を見出し,情報探索行動を行うと紹介している.新人看護師は新しく組織に参入し,不確実性のなかで他者との相互作用や認知をコントロールして,情報探索や【他者からのフィードバック探索行動】をとりながら適応に向かうのはないかと考えられる.そのため,本研究では,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動の下位概念も踏まえて明らかにしていく必要があると考えた.
看護学分野における適応の研究は,職場適応というキーワードで行われている(水田,2004).新人看護師の職場適応への過程を明らかにした研究では,新人看護師のストレッサーとしては,業務の前提となる学習課題や質問しにくい職場風土,リアリティショック,早期からの夜勤の開始などがあるといわれている(中嶋ら,2017).職場適応とは,「職場の環境に合うような考え方や行動がとれるようになること」(古市ら,2006),「過度な緊張がなく業務を行い,先輩看護師や職場環境に馴染んでいる状態」(赤塚,2012),「身体的・精神的に良好な状態を保ちながら,仕事や職場の環境に順応すること」(小野田ら,2012)などと定義されており,主観的な側面が強く安定した状態を表す概念と考えられる.職場適応の指標に使用される概念は,組織適応と同様に,適応していないことを示すストレス,リアリティショック,バーンアウトや,適応していることを示す職務満足,自尊感情などの心理的側面からの研究が行われている(勝原ら,2004;古市ら,2006;佐居ら,2007;小野田ら,2012;砂見・八重田,2010).北島・細田(2022)は,職場適応を「職場に新たに加わることにより内的・外的な均衡の崩れを経験した個人の新たな均衡状態を獲得するために自ら変容したり環境へ働きかけたりする行動と,その結果としての個人と職場との調和した均衡状態」と定義し,職場適応行動と職場適応状態を測る尺度を開発した.職場適応状態尺度は新人看護師の職場適応状態を現実的かつ具体的に描写した尺度で,【看護実践への効力感】,【仕事への肯定感】,【チームへの所属感】,【独り立ちした自覚】の4つの構成要素からなっており,個人と職場との調和した均衡状態を示している(北島・細田,2022).
先行研究から,組織からの働きかけのみならず,新人看護師自身が適応に向けて主体的な行動をとることで早期の職場適応に繋がる可能性があると考えた.しかし,これまでの研究で新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動と職場適応状態の関連を明らかにした研究はない.そこで,本研究では新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動と職場適応状態の下位概念を踏まえ,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動が職場適応状態に及ぼす影響ついて検討することとした.
免許取得後に初めて就労する看護職員で,就職後1年以内のもの(厚生労働省,2014)とする.
2. 組織社会化組織の成員が,組織成員としての役割を果たすのに必要な社会的知識・技術を学習するプロセス(Van Maanen & Schein, 1979)とする.
3. プロアクティブ行動順向的に未知の情報を求め,主体的に他者との関係を構築し,自己の認知をコントロールして適応のための行動選択をすること(卯川,2018)とする.
4. 職場適応状態新人看護師が職場適応行動をとった結果獲得したと認識する均衡状態(北島・ 細田,2022)とする.
全国病院一覧データから病床数200床以上の病院を無作為に抽出し,協力を得られた病院64施設に勤務する,就職後一部署にとどまっており,社会人経験がない新人看護師1,349名を対象とした.
2. 調査方法選定基準に該当する施設の看護部長に研究協力の承諾を得て,新人看護師を対象に無記名自記式質問紙を配布した.調査期間は2017年9月~10月であった.
新人看護師にとっての就職直後の3~4か月間は,問題を生じやすい危機的な時期であり,以後の職場適応を見極めるという点においても大きな意味を持っていると言われているため(片山,1998),5か月を経過した9月~10月とした.
3. 調査内容 1) 新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度(卯川・細田,2020)は,【看護技術習熟行動】【人間関係構築行動】【積極的学習行動】【他者からのフィードバック探索行動】の4つの下位尺度からなり,20項目で構成される.項目の回答は,「1:まったく当てはまらない」「2:あまり当てはまらない」「3:どちらともいえない」「4:やや当てはまる」「5:とてもよく当てはまる」の5段階のリッカートスケールで測定する.この尺度は社会人としての就業経験がない就業後1年未満の看護師を対象として作成されている.尺度の信頼性および構成概念妥当性,基準関連妥当性は検証されている.
2) 職場適応状態職場適応状態尺度(北島・細田,2022)は,【看護実践への効力感】【仕事への肯定感】【チームへの所属感】【独り立ちした自覚】の4つの下位尺度からなり,26項目で構成される.「1.全く当てはまらない」「2.あまり当てはまらない」「3.どちらとも言えない」「4.やや当てはまる」「5.とてもよく当てはまる」の5段階のリッカートスケールで測定する.この尺度は社会人としての就業経験および准看護師経験がない就業後1年未満の看護師を対象として作成されている.尺度の信頼性および構成概念妥当性,基準関連妥当性は検証されている.
3) 個人属性年齢,性別,一般学歴,看護専門学歴,看護師としての経験年数,現在の勤務場所,病院の設置主体,新人看護職員臨床研修の有無,配属部署での同期看護師の人数とした.
4) 分析方法研究対象者の個人背景を把握するために記述統計量を算出後,データの正規性と尺度の内的一貫性を確認した.研究の概念枠組みに基づき,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動は,職場適応状態に影響を及ぼすという多重指標モデルを作成し,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動が職場適応状態に及ぼす影響を検討した.新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動と職場適応状態を潜在変数とし,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度は【看護技術習熟行動】【人間関係構築行動】【積極的学習行動】【他者からのフィードバック探索行動】のそれぞれの合計得点,職場適応状態は【看護実践への効力感】【仕事への肯定感】【チームへの所属感】【独り立ちした自覚】のそれぞれの合計得点を観測変数として投入した.共分散構造モデルの評価は,Goodness of Fit Index(GFI),Adjusted Goodness of Fit Index(AGFI),Comparative Fit Index(CFI),Root Mean Square Error of Approximation(RMSEA)を用いた.適合度指標を用いて豊田(1998),Schermelleh-Engel, Moosbrugger, & Müller(2003)が示した基準に従い検討した.統計解析にはIBM SPSS Statistics Ver.25,Amos Ver.25を使用した.
4. 倫理的配慮本研究は,大阪府立大学大学院看護学研究科研究倫理委員会の承認を得て実施した(申請番号29-27).
研究対象者に書面にて研究の目的と方法,研究への協力は自由意思,個人情報の保護とデータ管理などについて説明した.尺度の使用にあたっては,開発者の許諾を得た.
新人看護師293名(回収率21.7%)から回答が得られた.欠損値のある21名を削除した272名(有効回答率20.2%)を分析対象とした.対象者の背景は,女性が250名(91.9%),男性が22名(8.1%),年齢は平均22.4 ± 2.3歳,看護師としての経験月数は5.5 ± .7か月であった.勤務場所は病棟が247名(90.8%)で,手術室が13名(4.8%),外来が1名(.4%)であった.新人看護職員臨床研修はすべての対象者が有りと回答していた(表1).
n | % | 平均値 | 標準偏差 | ||
---|---|---|---|---|---|
年齢 | 22.4 | 2.3 | |||
看護師としての経験月数 | 5.5 | .7 | |||
性別 | 女性 | 250 | 91.9 | ||
男性 | 22 | 8.1 | |||
一般学歴 | 高等学校 | 155 | 57.5 | ||
短期大学 | 14 | 5.1 | |||
大学 | 101 | 37.1 | |||
大学院 | 0 | .0 | |||
不明 | 2 | .7 | |||
修了した看護専門学歴(複数回答) | 専門学校2年課程 | 16 | 5.9 | ||
専門学校3年課程 | 132 | 48.5 | |||
短期大学2年課程 | 2 | .7 | |||
短期大学3年課程 | 11 | 4.0 | |||
大学 | 95 | 34.9 | |||
大学院修士課程 | 0 | .0 | |||
大学院博士課程 | 0 | .0 | |||
保健師学校・専攻科 | 4 | 1.5 | |||
助産師学校・専攻科 | 8 | 2.9 | |||
その他 | 17 | 6.3 | |||
現在の勤務場所 | 病棟 | 247 | 90.8 | ||
外来 | 1 | .4 | |||
手術室 | 13 | 4.8 | |||
その他 | 11 | 4.0 | |||
設置主体 | 独立行政法人国立病院機構 | 80 | 29.4 | ||
医療法人 | 59 | 21.7 | |||
都道府県・市町村 | 71 | 26.1 | |||
その他/不明 | 62 | 22.8 | |||
配属部署での同期看護師人数(欠損値9) | 3.0 | 1.5 | |||
新人看護職員臨床研修の有無 | あり | 272 | 100.0 | ||
なし | 0 | .0 |
新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動の【看護技術習熟行動】の平均値は18.41 ± 2.65,歪度は–0.50,尖度は0.37であった.【人間関係構築行動】の平均値は16.00 ± 2.30,歪度は–0.34,尖度は–0.26であった.【積極的学習行動】の平均値は23.60 ± 3.12,歪度は–0.27,尖度は0.30であった.【他者からのフィードバック探索行動】の平均値は17.38 ± 3.69,歪度は–0.30,尖度は0.36であった.新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度全体の平均値は75.40 ± 8.89,歪度は–0.27,尖度は0.20であった.
正規性の検討については,尖度と歪度がともに±2を超えない値(In’nami, 2006)であり,ヒストグラムが釣鐘状で,QQプロットがほぼ直線上であることから,近似的に正規性があると判断した.また,尺度全体の信頼性係数は.864であった.
3. 職場適応状態尺度の記述統計量職場適応状態の【看護実践への効力感】の平均値は29.96 ± 5.57,歪度は–0.16,尖度は0.57であった.【仕事への肯定感】の平均値は21.56 ± 5.62,歪度は–0.27,尖度は–0.21であった.【チームへの所属感】の平均値は21.57 ± 3.93,歪度は–0.49,尖度は–0.02であった.【独り立ちした自覚】の平均値は9.72 ± 2.80,歪度は–0.22,尖度は–0.56であった.職場適応状態尺度の平均値は82.81 ± 14.29,歪度は–0.38,尖度は0.47であった.正規性の検討については,尖度と歪度がともに±2を超えない値(In’nami, 2006)であり,ヒストグラムが釣鐘状で,QQプロットがほぼ直線上であることから,近似的に正規性があると判断した.また,尺度全体の信頼性係数は.932であった.
4. 新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動が職場適応状態に及ぼす影響の検討本研究の概念枠組みに基づき,潜在変数[プロアクティブ行動]の観測変数に【看護技術習熟行動】【人間関係構築行動】【積極的学習行動】【他者からのフィードバック探索行動】を投入した.潜在変数[職場適応状態]は,観測変数に【看護実践への効力感】【仕事への肯定感】【チームへの所属感】【独り立ちした自覚】を投入した.最尤法による共分散構造分析の結果,すべてのパス係数は.1%水準で有意を示し,[プロアクティブ行動]から[職場適応状態]へのパス係数は.78であった.[職場適応状態]の決定係数は.61であった.本モデルの適合度は,GFI = .942,AGFI = .890,CFI = .929,RMSEA = .100であった.
適合度の結果を踏まえて,修正指数と改善度を参考にモデルに修正を加え,再分析を行った.【看護実践への効力感】の誤差(e5)と【チームへの所属感】の誤差(e7),【看護実践への効力感】の誤差(e5)と【独り立ちした自覚】の誤差(e8)にそれぞれ共分散を設定した.その結果,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動が職場適応状態に及ぼす影響の多重指標モデル(修正モデル)の適合度は,GFI = .963,AGFI = .922,CFI = .965,RMSEA = .074であった.すべてのパス係数は.1%水準で有意を示し,[プロアクティブ行動]から[職場適応状態]へのパス係数は.77であった.[職場適応状態]の決定係数は.59であった.[プロアクティブ行動]から下位尺度に対するパス係数は,【看護技術習熟行動】は.63,【人間関係構築行動】は.75,【積極的学習行動】は.66,【他者からのフィードバック探索行動】は.55であった.[職場適応状態]から下位尺度に対するパス係数は,【看護実践への効力感】は.67,【仕事への肯定感】は.73,【チームへの所属感】は.93,【独り立ちした自覚】は.48であった.【看護実践への効力感】の誤差(e5)と【独り立ちした自覚】の誤差(e8)の相関係数は.23であり.5%水準で有意な相関を示した.【看護実践への効力感】の誤差(e5)と【チームへの所属感】の誤差(e7)の相関係数は–.51であり,.1%水準で有意な相関を示した(図2).
新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動が職場適応状態に及ぼす影響の多重指標モデル(修正モデル)
適合度指標の結果から,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動が職場適応状態に及ぼす影響の多重指標モデル(修正モデル)は許容範囲内のモデルであると判断した.したがって,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動は職場適応状態に影響を与えることが確認された.
[プロアクティブ行動]から[職場適応状態]へのパス係数は.77であり,決定係数は.59であった.決定係数は当該内生変数の分散が他の予測変数から説明される割合を表し,1に近いほど予測精度が高いと解釈される(豊田,2007).したがって,[プロアクティブ行動]は職場適応状態にある程度の影響を与えることが確認できた.新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動は職場適応状態に影響を及ぼすことが明らかになった.このことにより,新人看護師の組織社会化において新人看護師自身が主体的に適応に向けて,プロアクティビティを発揮する重要性が示唆された.
Ashforth et al.(2007)は,組織社会化過程のなかのプロアクティブ行動が社会化学習に影響し,職場適応に至るというモデルを提唱している.ここでいう社会化内容とは,個人が組織の一員となるために学ぶべき内容のことであり,Morrison(1995)の技術情報,指示情報,社会的情報,評価情報,規範的情報,組織情報,政治的情報の7つの情報である.新人の組織社会化におけるプロアクティブ行動は組織からの働きかけである社会化戦術よりも社会化内容の学習に影響を及ぼすことが明らかになっているが,どの社会化内容に影響するのかは検討されていない.本研究では,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動と職場適応状態の下位概念も併せて影響を検討した.
[プロアクティブ行動]から【看護技術習熟行動】【人間関係構築行動】【積極的学習行動】【他者からのフィードバック探索行動】へのパス係数はすべて.50以上であり有意な正の関係を示した.新人看護師は職場に適応するために,積極的に社会化内容の学習を行い,技術を習得するための環境を自己にて整備しながら適応に向かっているのではないかと考えられた.また,【人間関係構築行動】のパス係数が.75と最も大きいことから,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動は,他者との関係を構築することに最も影響していることが示唆された.プロアクティブに職場での人間関係を構築することができるように,新人看護師自身が自覚して取り組むことが重要である.しかし,新人看護師は社会人としても未熟であり,自己を表現することが難しい.新人看護師の対人的な社会的スキルを認知的側面,行動的側面(相川・津村,1996)から評価し,社会的スキルがうまく獲得できていない新人看護師には,ただ単に専門的知識,技術を教育するだけでなく,社会的スキル獲得を促進するための支援も必要になってくるのではないかと考える.
[プロアクティブ行動]から【積極的学習行動】へのパス係数は.66,【看護技術習熟行動】は.63であった.水田(2004)は,リアリティショック概念をキーワードにして,新卒看護師の職場適応に関する研究を行い,リアリティショックの回復過程には,看護業務遂行能力の獲得やさまざまなケアへの対応能力の発達があることを明らかにしている.新人看護師は職場で求められる看護技術を習熟するために積極的に学習行動をとることでリアリティショックを乗り越えようとしているのではないかと考えられた.
[プロアクティブ行動]から【他者からのフィードバック探索行動】へのパス係数は.55と4つの下位尺度のなかでは最も低かったが,フィードバック探索は,課業熟達(仕事の内容を遂行する方法の学習)と正の関係をもつことが明らかになっている(Morrison, 1993).Wanberg & Kammeyer-Mueller(2000)は,フィードバック探索行動は,職務満足に正の関係をもち,実際の離職には負の関係があること,フィードバック探索と関係構築は,仕事関連の結果と強く結びついていると述べている.新人看護師においても,他者からの情報探索行動の重要性を認識させることにより,自己の状況を客観的にとらえ目標設定していくことが,部署で必要とする知識,技術の獲得を促進し,職場適応につながることを意識したうえで,プロアクティブ行動をとることができるように支援していくことが大切になってくるのではないかと考える.このように,Ashforth et al.(2007)の研究と同様に,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動も社会化学習に影響しており,新人看護師は主体的な学習行動をとることによって自分に必要な学習を深めていることがわかった.
また,[職場適応状態]から【看護実践への効力感】【仕事への肯定感】【チームへの所属感】【独り立ちした自覚】へのパス係数もすべてが有意な正の関係を示した.特に【チームへの所属感】のパス係数が.93と最も大きかった.新人看護師の職場適応状態が【チームへの所属感】に影響することから,職場に適応することが【チームへの所属感】を高め,好循環になるのではないかと推測された.新人看護師の職場適応状態を促進するためには,職場の人的サポートが重要であることはすでに明らかになっている(小野田ら,2012;砂見・八重田,2010)が,先述したように,[プロアクティブ行動]が【人間関係構築行動】との関係が強いことから,新人看護師の人的環境からのサポートだけでなく,新人看護師自身が他者との関係を構築しようと働きかけ,チームに所属しようとする前向きな行動が必要ではないかと考えられた.また,それだけではなく,周囲の上位者も人間関係の調整に介入していくことが重要であると考える.
修正モデルでは,【看護実践への効力感】の誤差(e5)と【独り立ちした自覚】の誤差(e8),【看護実践への効力感】の誤差(e5)と【チームへの所属感】の誤差(e7)に共分散を描いた.【看護実践への効力感】の誤差(e5)と【独り立ちした自覚】の誤差(e8)は有意な弱い正の相関を示し,【看護実践への効力感】の誤差(e5)と【チームへの所属感】の誤差(e7)は有意な負の相関を示した.【看護実践への効力感】は,所属部署で求められる看護技術を一通り実施できるようになった,急変時のアセスメントができるようになった,など日常業務の自立と関連している(北島・細田,2022).【独り立ちした自覚】は独り立ちして業務を任されるようになった,独り立ちしたことを実感できるようになった,など新人看護師自身が,自分自身の成長を実感しており,それが【看護実践への効力感】として表されているのではないかと考える.
看護職を対象としたプロアクティブ行動研究は少ないが,若年就業者を対象にプロアクティブ行動を促進する要因を検討した研究(尾形,2016)では,職場特性としてのコミュニケーションの積極性を指摘している.また,北居(2014)の研究でも組織レベルの学習促進文化が個人の学習に影響を与えることが明らかになっている.組織社会化におけるプロアクティブ行動は社会的相互作用が積極的に行われる職場で発揮される行動である.個人の特性とともに社会的相互作用を惹起しやすい環境が影響していることが考えられる.今後は,新人看護師がプロアクティビティを発揮できるような学習支援,環境整備なども検討していくことが重要である.
2. 本研究の限界と今後の課題プロアクティブ行動研究はまだ黎明期にある.本研究は新人看護師がリアリティショックのショック期を終えたと想定される時期に行った横断的研究であり,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動がどのように変化していくのかを明らかにしていない.今後は縦断的に新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動を調査していく必要がある.さらに,調査時期以前に退職した新人看護師が含まれていないことから,危機的な状況を乗り越えて,適応に向かう段階の新人看護師が対象者となった可能性がある.また,質問紙調査であるため,職場適応自体に元来協力的である方々が研究対象者となったことが推測される.
すでに他の学問領域ではプロアクティブ行動に関する研究は始まっており,たとえば,大学での学び・生活が就職後のプロアクティブ行動に与える影響を検討した研究では,授業外のコミュニティをもっている学生,大学生活が充実している学生ほど就職後にプロアクティブ行動を行っていることが明らかになっている(舘野ら,2016).看護学においても,今後は,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動に関連する要因や個人的要因,先行要件,職場環境などを調査していく必要がある.
さらにプロアクティブ行動の直接的効果についても検証していくことで,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動が社会化学習にどのように影響しているかを明らかにし,具体的な支援策を検討していくことができるのではないかと考える.
本研究において,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動が職場適応状態に影響を及ぼすという仮説に基づく共分散構造モデルを構築し分析した結果,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動は職場適応状態に影響を及ぼすことが確認された.
付記:本研究は,大阪府立大学大学院看護学研究科に提出した博士論文の一部を加筆・修正したものである.
謝辞:本研究にご協力くださいました新人看護師の皆様および病院関係者の方々に厚く御礼申し上げます.また,熱心にご指導いただきました大阪府立大学大学院の中山美由紀教授,志田京子教授に深く感謝申し上げます.なお本研究は,科学研究費助成事業 奨励研究の助成を受けて行った(JSPS KAKENHI Grant Number 17H00698).
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:HUおよびYHは研究の着想およびデザインに貢献;HUはデータ収集,統計解析の実施および草稿の作成;YHは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.