日本看護科学会誌
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原著
認知症有病者の遺族および診療やケアに携わる医療者自身が認知症になった場合に希望する死亡場所とその関連要因:インターネット調査
林 ゑり子山田 藍青山 真帆升川 研人宮下 光令
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2023 年 43 巻 p. 215-224

詳細
Abstract

目的:認知症有病者を看取った遺族と認知症のケアの経験がある医療職を対象者として,自分が認知症になった際の希望の死亡場所とその関連要因を明らかにする.

方法:横断的デザインによるインターネット調査を2019年10月に実施した.対象者は,認知症有病者の遺族(n = 618),医師(n = 198),看護職(n = 197),介護職(n = 193)とした.

結果:認知症有病者の遺族の希望の死亡場所は,自宅が33%,病院が31%,介護施設が32%であった.医療者は,遺族に比べ自宅の割合が41%~51%と高く,病院の割合が15~20%と低かった(P < .001).遺族の希望の死亡場所は故人の死亡場所と関連していた(故人の死亡場所が介護施設;OR = 2.80,P < .001,自宅;OR = 1.58,P = .05).

考察:認知症有病者を看取った遺族は,看取りを経験した自宅や介護施設において遺族の経験を通して得た,満足感や看取った場所のイメージが影響している.もしくは,自らが望ましいと考えている死亡場所で遺族の看取りを行った可能性がある.

Translated Abstract

Objective: The aim of this study is to clarify the preferred place of death and related factors when dementia occurs, targeting the bereaved families of dementia patients and medical professionals.

Methods: Cross-sectional internet survey was conducted in October 2019. The subjects were the bereaved family (n = 618), doctors (n = 198), nurses (n = 197), and care workers (n = 193).

Results: The preferred place of death for the bereaved families were homes (33%), hospitals (31%), and care facilities (32%). In addition, the proportion of medical professionals at home tended to be 41%–51% higher than that of bereaved families. The desired place of death of the bereaved family was related to the deceased’s place of death (Nursing care home; OR = 2.80, P < .001, Home; OR = 1.58, P = .05).

Conclusion: The bereaved families who took care of dementia patients experienced good care at home and nursing homes. It was suggested that the desired place of the bereaved family may be related to the image obtained through the experience of the bereaved family.

Ⅰ. 緒言

認知症有病者数は,世界的に増加傾向にあり,2018年に推計5,000万人だった認知症有病者は2030年には8,200万人,2050年には1億5,200万人になると予測されている(Patterson, 2018).わが国では2012年の認知症の有病者数462万人から推計すると,認知症有病者数は2025年には730万人,2040年には953万人,2060年には1,154万人と,今後もさらなる増加が推計されている(二宮ら,2015).1999年から2016年の間で,認知症有病者の総数の増加のために,病院での死亡数も増加しているが,死亡割合では,病院(1.0%)や在宅(5.85%)が減少し,介護施設(5.6%)の割合が急増している(Koyama et al., 2019).認知症有病者数の増加に伴い,認知症関連の医療ニーズが高まる一方で,医療ニーズに対応するための医療資源は不足しており,十分な看取りの場所が確保されているとは言えない.

わが国で一般市民を対象として望ましい死のあり方を検討した調査では患者の望んだ場所で過ごすことは重要な項目の1つとして考えられている(Miyashita et al., 2008).また,Nishimuraらが行った,認知症有病者の家族介護者の視点から“good end of life”を概念化するインタビュー調査では,「穏やかな死」「人間性(その人らしさ)の維持」「人生の満足感」に「希望の死亡場所」を加えた4つのテーマが特定された(Nishimura et al., 2020).このように認知症の終末期患者にとって希望の場所で亡くなることは重要な要素であると考えられる(Davies & Higginson, 2004).

これまでわが国でも希望の死亡場所に関する研究がいくつか行われている.Fukuiらの研究では,一般国民の43%が自宅を希望の死亡場所として選択すること,希望の死亡場所の選好の要因として,性別,年齢,学歴,職種,収入,親戚などの身近な人の終末期ケアに関連する経験,在宅療養の知識が在宅療養を希望することに関連していた(Fukui et al., 2011).また,Sanjoらの調査では死亡場所には望ましい死のあり方に関することが関連しており,一般国民の約50%が「自宅」を好み,緩和ケア病棟で看取った遺族の73%が「緩和ケア病棟」を希望し,自宅を希望した者は,「臨んだ場所で過ごす」こと,緩和ケア病棟を希望した者は「人として尊重される」を重視することが希望の死亡場所と望ましい死と関連していた(Sanjo et al., 2007).欧州の7つの国では,一般国民の希望する死亡場所の調査結果では,施設での死亡を好まない結果が示された(Calanzani et al., 2014).米国では,認知症有病者の希望する死亡場所に対して,介護施設と自宅が多いこと,80%以上で希望した場所で最期を過ごしたと報告されていた(Wiggins et al., 2019).わが国では,2018年に厚生労働省によって行われた一般国民・医師・看護師・介護職員を対象にした意識調査では,「認知症が進行し身の回りの手助けが必要でかなり衰弱が進んできた場合に最期を過ごしたい場所」として最も希望されるのは自宅であり,一般国民の64%,医師の74%,看護師の65%,介護職員の79%を占めていることが明らかになっているが,この調査では希望の死亡場所の選好に関連する要因は明らかになっていない(厚生労働省,2018).さらに,この調査は認知症のケア経験がない対象者を多く含み,認知症の実態がわからないまま回答した可能性がある.一般国民の多くは,認知症になった際の自分自身の病状や終末期の状態の想像が困難であると推察された.そのため,認知症有病者の病状が想像できる認知症有病者の遺族や治療やケアに携わった経験のある医療者を対象とした調査を行うことは,認知症有病者の希望する死亡場所の把握することにつながると考えた.死亡場所の希望が不明確な認知症有病者に対する死亡場所の選択に戸惑いを抱えている家族や看護師および国の政策に,認知症有病者の遺族が希望する死亡場所の傾向の示唆を提供できると考えた.

そこで本研究では,認知症有病者を看取った遺族と認知症ケアに携わる医師・看護職・介護職などの医療職を対象者として,認知症になった際の希望の死亡場所および,その関連要因を明らかにすることとした.

Ⅱ. 研究方法

1. 対象者

対象者は,Web調査会社である株式会社マクロミルに登録されている認知症有病者の遺族,認知症有病者の診療・ケアに携わる医師,看護職,介護職とした.

尚,認知症有病者の遺族の適格基準は,1)40歳以上かつ過去3年以内に家族が認知症で亡くなった,または認知症を併発して亡くなったこと,2)認知症で亡くなった家族を主として介護していたと認識していることとした.医師,看護職,介護職の適格基準は,50人以上の認知症有病者の治療やケアに携わった経験があるものとした.また,認知症の定義は「医師に認知症と診断されたこと」とした.

2. 調査方法

横断的デザインによるインターネット調査を実施した.幅広く企業のマーケティングや研究調査を担っているWeb調査会社である株式会社マクロミルで調査を行った.株式会社マクロミルは,プライバシーマーク認定企業であり,本人の同意を得ることなく調査対象者の個人情報を第三者に提供することがないことを保証している.年齢,性別,職業,地域,未既婚者,子供の有無,世帯年収等が登録されておりスクリーニング調査の後,本調査の2段階によって,認知症有病者の遺族と認知症有病者のケアに携わる医師,看護師,介護職員の医療者とした.調査票への回答前に,文書による研究説明を行い,回答をもって本研究への同意とみなすこと,匿名であるため同意撤回はできないことを説明した.調査期間は2019年10月18日から,10月22日で回答を依頼し,認知症有病者の遺族618名,医師206名,看護職206名,介護職206名という目標対象者数に達した時点で回答を締め切った.

3. 調査内容

1) 希望の死亡場所

本研究では希望の死亡場所について,「自身が認知症になりものごとを判断することが難しくなった際,どこで最期を迎えたいと思うか」という質問を行った.回答の選択肢は,1)自宅,2)病院,3)診療所,4)介護医療院・介護老人保健施設,5)老人ホーム,6)その他の6つとした.

2) 認知症有病者における望ましい死のあり方に関する重要度

認知症有病者における望ましい死のあり方として,「認知症の方ご本人にとって,望ましい死として何を重視するか」という質問について,例えば「穏やかな気持ちで過ごすこと」「慣れた環境で過ごせること」「家族とよい関係であること」「意思決定に本人の意思が反映されること」など,あらかじめ準備した36項目について,6段階のリッカート尺度(1:全くそう思わない,2:そう思わない,3:あまりそう思わない,4:ややそう思う,5:そう思う,6:非常にそう思う)で尋ねた.この調査票に使用した認知症有病者における望ましい死のあり方に関連する36項目は我々のグループが以前実施した質的な先行研究に基づいて作成した(田村ら,2018渡会ら,2019).認知症有病者における望ましい死のあり方の重要度については,36項目の探索的因子分析により明らかになった.α係数は,「関係性0.75」「安楽・安心・安全0.79」「その人らしさ0.75」の3ドメインに分類し,ドメインごとの合計点の平均点により3群(3.50点未満,3.50点以上4.75点未満,4.75点以上)にした.また36項目が,「関係性」「安楽・安心・安全」「その人らしさ」の3つに分類できることもあり,回答者にドメインの項目がわからないように調査票においてランダムに配置した.

4. 対象者背景

認知症有病者の背景として,年齢,性別,死亡場所,診断から死亡までの期間,併存疾患,死亡前1ヶ月の生活の自立度について尋ねた.認知症有病者の遺族の背景としては,年齢,性別,故人との続柄,面会頻度,年収,宗教,希望の処置,代理意思決定者の指定の希望を尋ねた.医師,看護職,介護職には年齢,性別,宗教,希望の処置,代理意思決定者の指定の希望,職務経験年数,勤務先,認知症ケアに携わった年数,終末期の患者への治療・ケア人数,認知症終末期患者への治療・ケア人数を尋ねた.

5. 分析方法

対象者の背景を明らかにするため,認知症有病者の遺族,医師,看護職,介護職の4つの対象グループごとに,対象者背景について記述統計を行なった.また,希望の死亡場所については,1)自宅,2)病院(病院・診療所),3)介護施設(介護医療院・介護老人保健施設・老人ホーム)の3つの場所に分類し,認知症有病者の遺族,医師,看護職,介護職の4つの対象グループにおいて,希望の死亡場所を目的変数としてカイ2乗検定を実施した.次に,希望の死亡場所の選好に関連する要因を調べるために多項ロジスティック回帰分析を行った.

希望の死亡場所の選好に関連する要因を探索するため,認知症有病者の遺族,医療者(医師,看護職,介護職)の2グループに分類し,二変量解析・多変量解析を行った.二変量解析については,希望の死亡場所と対象者の背景および認知症有病者における望ましい死のあり方の概念を対象としてカイ二乗検定(両側検定)を行った.この認知症有病者における望ましい死のあり方の概念は36項目「その人らしさ」「安楽・安心・安全」「関係性」の3つのドメインに分類した後,各ドメインの合計点の平均値により「重視しない:3.50未満」「軽度の重視:3.50~4.75」「重要視する:4.75以上」の3群に分類し,カテゴリー変数として用いた.

多変量解析については,目的変数を希望の死亡場所とした多項ロジスティック回帰分析を行った.説明変数は年齢,性別,年収,宗教,希望の処置,代理意思決定者の指定の希望および認知症有病者における望ましい死のあり方の概念の3ドメインとした.認知症有病者の遺族には,故人の死亡場所,故人の診断から死亡までの期間,故人の併存疾患,故人の死亡前1ヶ月の生活の自立度,故人との面会頻度を追加した.また医療者には,職務経験年数,勤務先,認知症ケアに携わった年数,終末期の患者への治療・ケア人数,認知症終末期患者への治療・ケア人数を追加した.認知症有病者の遺族と医療者の各グループで自宅と病院,介護施設と病院の2つの変数間において,希望の死亡場所と関連する要因の比較を行った.変数選択は変数減少法を用いた.

すべての分析は,JMP® Pro 15.0.0(SAS Institute Inc. Cary, NC, USA)を使用して実施し,有意水準はp < 0.05とした.

6. 倫理的配慮

本研究は,本研究施設の東北大学大学院医学系研究科の倫理委員会で承認後(承認番号2018-1-1000)実施した.調査目的や調査方法を記載し,調査票への回答によって,参加の同意をしたものとみなした.

Ⅲ. 結果

1. 対象者背景

本研究に使用した調査票の回答率は,100%であったが,認知症のケアの経験が0人と回答したものを除いて,患者の遺族618名,医師198名,看護師197名,介護職員193名の計1,206名を解析対象とした.

対象者の背景を表1に示す.医師(85%)・認知症有病者の遺族(54%)は男性が多く,看護職(90%)・介護職(69%)は女性が多かった.年齢について遺族は50代が39%と最も多く,医師は50代が29%から40代が27%と分布し,看護職は20~30代が60%,介護職は40歳未満と40代が各々40%と最も多かった.認知症有病者について,死亡場所は病院が50%と最も多く,生活の自立度は25%がほぼ全般に介助が必要な状態であった.医療者について,勤務先は医師と看護職の68%が病院,介護職の64%が介護医療院,介護老人保健施設,老人ホームなどの介護施設であった.

表1  対象者背景
遺族
n = 618
医師
n = 198
看護職
n = 197
介護職
n = 193
n % n % n % n %
性別 334 54% 169 85% 19 10% 60 31%
284 46% 29 15% 178 90% 133 69%
年齢 ~39 0 0% 44 22% 119 60% 77 40%
40~49 109 18% 53 27% 57 29% 77 40%
50~59 243 39% 58 29% 16 8% 29 15%
60~69 200 32% 43 22% 5 3% 10 5%
70~ 66 11% 0 0% 0 0% 0 0%
宗教 無宗教 288 47% 114 58% 132 67% 106 55%
仏教 281 45% 73 37% 52 26% 73 38%
その他 49 8% 11 6% 13 7% 14 7%
認知症になったと想定した場合の希望の処置
胃ろう 希望する 120 19% 24 12% 29 15% 12 6%
希望しない 498 81% 174 88% 168 85% 181 94%
手術 希望する 240 39% 107 54% 96 49% 101 52%
希望しない 378 61% 91 46% 101 51% 92 48%
延命治療 希望する 77 12% 17 9% 12 6% 27 14%
希望しない 541 88% 181 91% 185 94% 166 86%
代理意思決定者の指定 希望する 492 80% 178 90% 170 86% 156 81%
希望しない 126 20% 20 10% 27 14% 37 19%
認知症患者の性別 231 37%
387 63%
認知症患者の年齢 ~69 12 2%
70~79 94 15%
80~89 315 51%
90~ 197 32%
認知症患者の死亡場所(診療所,その他,計7件除外) 自宅 82 13%
病院 306 50%
介護施設 123 20%
認知症患者の診断から死亡までの期間 0年以上2年未満 149 24%
2年以上5年未満 212 34%
5年以上10年未満 186 30%
10年以上 71 11%
認知症患者の並存疾患 心疾患 118 19%
脳血管疾患 97 16%
がん 138 22%
該当なし 321 52%
認知症患者の生活の自立度 生活は自立していた 19 3%
一部介助が必要だった 144 23%
ほぼ全般に介助が必要だった 152 25%
分からない 3 0.5%
臨床経験年数 5年未満 5 3% 20 10% 18 9%
5年以上~19年以下 81 41% 124 63% 150 78%
20年以上 112 57% 53 27% 25 13%
勤務先 病院 134 68% 133 68% 15 8%
介護施設 6 3% 28 14% 124 64%
その他 58 29% 36 18% 54 28%
認知症患者への診療・ケア経験年数 5年未満 25 13% 40 20% 24 12%
5年以上~19年以下 117 59% 140 71% 152 79%
20年以上 56 28% 17 9% 17 9%
終末期の患者への治療・ケア人数 1~49人 49 25% 67 34% 124 64%
50~199人 64 32% 81 41% 60 31%
200人~ 85 43% 49 25% 9 5%
終末期の認知症患者への治療・ケア人数 1~49人 81 41% 87 44% 134 69%
50~199人 77 39% 83 42% 52 27%
200人~ 40 20% 27 14% 7 4%

2. 希望の死亡場所の分布

希望の死亡場所についての結果を図1に示す.希望の死亡場所として自宅を希望する割合は,認知症有病者の遺族で33%,医師は49%,看護職は41%,介護職は51%であり,病院を希望する割合は,認知症有病者の遺族で31%,医師は15%,看護職は20%,介護職は15%,介護施設を希望する割合は,認知症有病者の遺族で32%,医師は33%,看護職は35%,介護職は31%であった(p < .001).

図1 

希望の死亡場所

3. 認知症有病者の遺族における希望の死亡場所に関連する要因

認知症有病者の遺族における希望の死亡場所に関連する要因の二変量解析・多変量解析の結果を表2に示す.二変量解析において,遺族の希望の死亡場所の選考に関連した項目は「遺族の性別(p < .001)」「故人の死亡場所(p < .001)」「延命治療を希望すること(p < .001)」「代理意思決定者の指定(p = .001)」,「希望の処置:胃ろう(p = .01)」,「続柄(p = .03)」「希望の処置:手術(p = .03)」,「望ましい死のあり方としてその人らしさを重視すること(p = .003)」,「望ましい死のあり方として関係性を重視すること(p < .001)」,が同定された.さらに表3に希望の死亡場所の選考の関連要因を示す.多変量解析では,男性は「介護施設より病院を希望する(OR = .77, p = .02)」,延命治療希望者は「介護施設より病院を希望する(OR = .60, p = .02)」,故人の死亡場所が介護施設の場合は「病院よりも介護施設を希望する(OR = 2.80, p = .001)」,故人の死亡場所が自宅の場合は「病院よりも自宅を希望する(OR = 1.58, p = .05)」が同定された.

表2  認知症有病者の遺族による希望の死亡場所の選好の関連要因(2変量解析)
自宅
n = 203
病院
n = 193
介護施設
n = 199
その他
n = 23
P
n % n % n % n %
性別 男性 n = 334 130 39% 109 33% 84 25% 11 3% <.001
女性 n = 284 73 26% 84 30% 115 40% 12 4%
年齢 40~49 n = 109 42 39% 35 32% 30 28% 2 2% .17
50~59 n = 243 82 34% 74 30% 75 31% 12 5%
60~ n = 266 79 30% 84 32% 94 35% 9 3%
続柄 故人の子供 n = 433 147 34% 121 28% 147 34% 18 4% .03
その他 n = 185 56 30% 72 39% 52 28% 5 3%
故人の性別 男性 n = 231 89 39% 60 26% 70 30% 12 5% .03
女性 n = 387 114 29% 133 34% 129 33% 11 3%
故人の死亡場所 自宅 n = 82 43 52% 14 17% 20 24% 5 6% <.001
病院 n = 406 124 31% 163 40.0% 106 26% 13 3%
介護施設 n = 123 36 29% 15 12% 67 54% 5 4%
希望の処置 胃ろう n = 120 52 43% 37 31% 28 23% 3 3% .01
手術 n = 240 93 39% 75 31% 65 27% 7 3% .03
延命治療 n = 77 41 53% 26 34% 9 12% 1 1% <.001
代理意思決定者の指定 n = 492 148 30% 157 32% 174 35% 13 3% .001
望ましい死として「その人らしさ」を重視すること 重視しない(1.00~3.50) n = 17 7 41% 4 24% 6 35% 0 0% .003
軽度の重視(3.50~4.75) n = 297 75 25% 101 34% 108 36% 13 4%
重要視する(4.75~6.00) n = 304 121 40% 88 29% 85 28% 10 3%
望ましい死として「安楽・安心・安全」を重視すること 重視しない(1.00~3.50) n = 14 7 50% 4 29% 3 21% 0 0% .17
軽度の重視(3.50~4.75) n = 159 54 34% 55 35% 43 27% 7 4%
重要視する(4.75~6.00) n = 445 142 32% 134 30% 153 34% 16 4%
望ましい死として「関係性」を重視すること 重視しない(1.00~3.50) n = 106 25 24% 40 38% 34 32% 7 7% <.001
軽度の重視(3.50~4.75) n = 327 88 27% 104 32% 123 38% 12 4%
重要視する(4.75~6.00) n = 185 90 49% 49 26% 42 23% 4 2%

※死亡場所は,診療所,その他,計7件除外

※望ましい死のあり方の3項目「その人らしさ」「安楽安心安全」「関係性」は,「重視しない:3.50未満」「軽度の重視:3.50~4.75」「重要視する:4.75以上」

表3  認知症有病者の遺族および医療者の希望の死亡場所の選好の関連要因(多項ロジスティック回帰分析)
認知症有病者の遺族の希望の死亡場所(VS病院) 医療者の希望の死亡場所(VS病院)
自宅 介護施設 自宅 介護施設
OR 95%CI P OR 95%CI P OR 95%CI P OR 95%CI P
遺族または医療者の性別 
男性(vs女性)
1.21 .98~1.50 .08 .77 .96~.62 .02
延命治療が希望あり(vsしない) 1.10 .84~1.43 .48 .60 .92~.39 .02
故人の死亡場所
自宅(vs病院) 1.58 1.00~2.50 .05 .89 1.50~.53 .66 NA NA
介護施設(vs病院) 1.51 .95~2.40 .08 2.80 1.52~5.17 .001 NA NA
望ましい死として「関係性」を重視すること
重視しない3.50未満(vs重要視する4.75以上) .61 .89~.42 .01 .77 1.14~.52 .19 .76 1.48~.39 .42 .58 1.17~.29 .13
軽度の重視3.50以上4.75未満(vs重要視する4.75以上) .85 1.14~.63 .28 1.20 .91~1.59 .20 .51 .90~.29 .02 1.04 .63~1.73 .88

OR:オッズ比;95%CI:95%信頼区間

認知症有病者の遺族と医療者の各グループで自宅と病院,介護施設と病院の 2 つの変数間において,希望の死亡場所と関連する要因を比較した

認知症有病者の遺族(R2乗.10・一般化R2乗(U).21)

医療者(R2乗.015・一般化R2乗(U).033)

―:多変量解析で有意にならなかった変数

NA:医療者では収集していない変数

※(VS):Referenceの表示とし,女性,希望しない,病院,重要視する4.75以上を参考とした

4. 医療者の希望の死亡場所の選好に関連する要因

医療者の希望の死亡場所の選好に関連する要因についての二変量解析・多変量解析の結果を表4に示す.二変量解析にて医療者の希望の死亡場所の選好に関連した項目は「望ましい死のあり方としてその人らしさを重視すること(p = .006)」,「望ましい死のあり方として関係性を重視すること(p = .003)」,「臨床経験年数(p = .01)」,「勤務先(p = .03)」であった.また多変量解析で有意差が認められたのは「望ましい死のあり方として関係性を重視すること」であり,関係性を重要視する人より軽度の重視の人は「自宅より病院を希望する傾向であった(OR = .51, p = .02)」.

表4  医療者による希望の死亡場所の選好の関連要因(2変量解析)
自宅
n = 277
病院
n = 97
介護施設
n = 193
その他
n = 21
P
n % n % n % n %
性別 男性 n = 248 122 49% 37 15% 79 32% 10 4% .56
女性 n = 340 155 46% 60 18% 114 34% 11 3%
年齢 20~29 n = 63 33 52% 10 16% 18 29% 2 3% .10
30~39 n = 177 91 51% 31 18% 50 28% 5 3%
40~49 n = 187 77 41% 37 20% 64 34% 9 5%
50~59 n = 103 47 46% 15 15% 38 37% 3 3%
60~ n = 58 29 50% 4 7% 23 40% 2 3%
希望の処置 胃ろう n = 65 35 54% 11 17% 18 28% 1 2% .54
手術 n = 304 153 50% 53 17% 92 30% 6 2% .24
延命治療 n = 56 31 55% 9 16% 15 27% 1 2% .46
代理意思決定者の指定 n = 504 236 47% 77 15% 171 34% 20 4% .11
臨床経験年数 5年以下 n = 43 25 58% 5 12% 12 28% 1 2% .01
5年以上~19年以下 n = 355 177 50% 63 18% 104 29% 11 3%
20年~ n = 190 75 39% 29 15% 77 41% 9 5%
勤務先 病院 n = 282 120 43% 60 21% 90 32% 12 4% .03
介護施設 n = 158 83 53% 18 11% 50 32% 7 4%
望ましい死として「その人らしさ」を重視すること 重視しない(1.00~3.50) n = 27 13 48% 8 30% 5 19% 1 4% .006
軽度の重視(3.50~4.75) n = 254 103 41% 50 20% 93 37% 8 3%
重要視する(4.75~6.00) n = 307 161 52% 39 13% 95 31% 12 4%
望ましい死として「安楽・安心・安全」を重視すること 重視しない(1.00~3.50) n = 23 14 61% 6 26% 2 9% 1 4% .24
軽度の重視(3.50~4.75) n = 136 59 43% 27 20% 48 35% 2 1%
重要視する(4.75~6.00) n = 429 204 48% 64 15% 143 33% 18 4%
望ましい死として「関係性」を重視すること 重視しない(1.00~3.50) n = 77 33 43% 18 23% 23 30% 3 4% .003
軽度の重視(3.50~4.75) n = 317 132 42% 55 17% 120 38% 10 3%
重要視する(4.75~6.00) n = 194 112 58% 24 12% 50 26% 8 4%

※死亡場所は,診療所,その他,計7件除外

※望ましい死のあり方の3項目「その人らしさ」「安楽・安心・安全」「関係性」は,「重視しない:3.50未満」「軽度の重視:3.50~4.75」「重要視する:4.75以上」

※医療者サブグループの単変量解析で職種と希望の死亡場所が関連しなかった(p = .47)

Ⅳ. 考察

本研究は,1)認知症有病者の遺族の希望の死亡場所は,自宅が33%,病院が31%,介護施設が32%であり,医療者よりも病院を希望する割合が高く,自宅を希望する割合が低かったこと,2)故人の死亡場所と遺族の死亡場所の希望が同じ場所を選ぶ傾向にあった.3)医療者も遺族も同様に,終末期に家族との関係性を重要視する人は希望の死亡場所に自宅を選択することの3点を明らかにした.

一つ目の知見として,認知症有病者の遺族の希望の死亡場所は,医療者よりも病院を希望する割合が高く,自宅を希望する割合が低かった.厚生労働省が実施した一般市民に対し認知症になったと想定して回答を求めた調査においては,希望する死亡場所は自宅が63.5%,病院が3.4%,介護施設が0.5%,無回答が32.5%という結果であった(厚生労働省,2018).本研究では33%の認知症有病者の遺族が自宅での死亡を希望しており,これは厚生労働省の調査と比較して少ない.これは実際の認知症有病者の介護に携わった経験が反映されていると推察される(杉浦ら,2007).本研究における認知症有病者は亡くなる1ヶ月前にほぼ全般に介助が必要だった人が74%を占めており,認知症有病者の症状はかなり進行していたこと,患者年齢の80歳以上が83%と高く,遺族年齢の60歳以上が43%を占めていた.認知症有病者を在宅で看取る上で生じる老々介護に伴う負担感も考えられ,一般国民より認知症有病者の遺族が希望の死亡場所として自宅を希望しない傾向につながったなどの可能性がある.その結果として認知症有病者の遺族は医療者よりも希望の死亡場所として病院を希望する割合が高く,自宅を希望する割合が低かった.先に示した厚生労働省による調査では医療者の74%が自宅,6%が医療機関を希望していた.がん患者の遺族と医療者を対象とした希望の死亡場所に関する研究でも,医療者の方が自宅を希望する傾向にあり,医療者が自宅を望むと傾向は一致していた.この理由として認知症有病者の遺族に比べて医療者に認知症有病者のケアの中で得た日本の保険制度によって医師や看護師による24時間在宅療養体制が可能であることや,拘束感がなく自分らしく過ごせる自宅での療養環境や看取りに関する知識や経験があったことが,希望の死亡場所に自宅を選択する傾向につながったと思われる(Sanjo et al., 2007).そのため,認知症有病者の遺族が医療者との関わりの中で希望する死亡場所を意思決定する場面において,医療者との選好の価値観と異なることを理解して関わる必要性が示唆された.

二つ目の知見は,認知症有病者の遺族の希望の死亡場所は認知症有病者の死亡場所と同じ場所を選ぶ傾向があった.いくつかの先行研究によると,希望の死亡場所の選好には,看取りの経験やケアの満足度(Sanjo et al., 2007首藤,2018),また自宅での看取りに良いイメージを持つ介護者は自身も自宅で看取られることを希望するなどの,看取りを経験した場所に対するイメージが影響すると示唆されている(荒木ら,2008佐藤ら,2017).本研究では満足度については調べられていないが,認知症有病者の看取りを行なった遺族を対象に含めて実施しているため,遺族が看取りの経験を通して得た,満足感や看取った場所のイメージが影響している可能性がある.そのため,認知症有病者を看取った遺族は,看取りを経験した自宅や介護施設において自身も故人の看取りと同様に亡くなることを想像し,自身の希望の死亡場所として選択する傾向が推察された.認知症の終末期において,患者の意思決定が困難な状況の際に,代理意思決定として認知症の遺族が望ましい場所での看取りを希望した可能性も考えられた.認知症有病者が希望する死亡場所を提示する際,過去に認知症有病者を看取った経験が意思決定に影響を与える可能性が示唆された.

性別について,男性が女性よりも死亡場所として自宅を希望することについて,がん患者を対象とした先行研究とも一致していた(Gomes et al., 2012).加えて,延命治療を希望する人は,希望する死亡場所の割合について,介護施設よりも病院の割合が高い傾向にあった.これはがん患者を対象に行われた希望の死亡場所の研究で,「出来るだけの治療を受ける」を重要視する人が病院をより希望するという結果と一致した(Sanjo et al., 2007).これらのことより,がん患者に限らず,認知症有病者においても,性別と延命治療の希望が死亡場所の選好に関連することが明らかになった.

三つ目の知見は医療者も遺族も同様に,終末期に家族との関係性を重要視する人は希望の死亡場所に自宅を選択することが明らかになった.がん患者を対象とした先行研究では,家族と良好な関係を保つことなど,家族との関係性を重要視する人は希望の死亡場所として自宅を希望する傾向にあることが示されていた(Sanjo et al., 2007).本研究でも同様の結果にあったことから,家族との関係性を重要視する人は,がんや認知症に関わらず自宅を死亡場所として希望することが示された.また,特に本研究では家族との関係性についての質問項目のうち,「家族から介護を受けること」「介護者が日替わりにならずその人をよく知った人に継続的に介護を受けられること」の2つが病院や介護施設では達成しにくい項目であったと考えられた.そのため家族との関係性を重要視する人は,希望の死亡場所として病院や介護施設よりも,自宅を選択したと考えられた.死亡場所の希望が不明確な認知症有病者に対して,死亡場所の選択に戸惑いを抱えている家族の代理意思決定時の示唆の提供,および認知症有病者の療養の場の整備体制への政策に貢献できる可能性が考えられた.

本研究の限界の一つ目は,認知症有病者はその多くが認知機能の低下を起こし,終末期にこれらの調査票に回答することは困難なため,認知症有病者の代理意思決定者となり得る認知症有病者を看取った遺族を対象としたことである.認知症有病者と関わりのある認知症有病者の遺族や医療者を対象に,認知症になったと想定して回答を求めた.そのため,本研究で得られた知見が,実際の認知症有病者に当てはめられるかは不明である.二つ目は,本研究はインターネット調査であり,通信環境の有無により回答ができない場合や,インターネット利用者の特性として若年,青壮年層に対象が偏っている可能性があること,またWeb調査会社に積極的に登録する人に対象が偏るなど回答者が限定されている可能性があることである(康永ら,2006).三つ目は本研究では認知症有病者に対するケアの満足度を評価しておらず,故人の死亡場所や故人に対するケアの満足度が認知症有病者の遺族の希望の死亡場所の選定に影響したかが不明確なことである.四つ目は,認知症有病者の遺族及び医療者における希望の死亡場所に関連する要因の多変量解析では決定係数が低値であったため,結果の取り扱いに注意が必要である.五つ目は,認知症有病者における望ましい死のあり方に関する重要度に関して,「何を重視するか」という調査について,リッカート尺度にて「全くそう思う~全くそう思わない」と尋ねており表面的妥当性や信頼性に課題がある.

Ⅴ. 結論

本研究では,認知症有病者の遺族の希望の死亡場所は自宅,病院,介護施設間で偏りなく分布し,医療者の希望の死亡場所は職業にかかわらず,自宅の希望割合が高く,病院の希望割合が低い傾向が示された.また,認知症有病者の遺族の希望の死亡場所は認知症有病者の死亡場所と一致する傾向にあること,認知症有病者の遺族・医療者の両グループにおいて,家族との関係性を重要視する人は希望の死亡場所として自宅を希望することが明らかになった.

謝辞:本研究を進めるにあたり,研究に参加してくださったご遺族,医療者の皆様に心より感謝致します.また,日常の議論を通じて多くの知識や示唆を頂いた緩和ケア看護学分野の研究室の皆様に感謝致します.

研究資金:資金なし

利益相反:本研究における筆者および共著者の利益相反は存在しない

著者資格:MA,MMは研究の構想およびデザイン,MA,KM,MMは研究データの収集・分析,すべての著者は研究データの解釈,EH,AYは原稿の起草,すべての著者は原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲,投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,及び研究の説明責任に同意した.

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