日本看護科学会誌
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原著
3歳未満の子どもを養育する父親におけるコペアレンティングの影響要因に関する横断研究
山﨑 晶子濱西 誠司泊 祐子
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2023 年 43 巻 p. 261-269

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Abstract

目的:3歳未満の子どもを育てる父親のコペアレンティングに妊娠期から出産後に形成される父親像が及ぼす影響を明らかにする.

方法:対象者は1,621人であった.先行研究よりコペアレンティングとの関連が示唆された項目と「親になる移行期の父親らしさ尺度」を独立変数,「日本語版コペアレンティング関係尺度:CRS-J」を従属変数とし,独立変数を段階的に投入した3つの重回帰モデルを作成した.

結果:全てのモデルで有意な回帰性が認められた(p < .01).ただし,CRS-J得点との有意な関連は,「子どもの存在から沸き立つ思い」「父親意識の高まり」「妻への思い」の得点にのみ認められた.

結論:妊娠期からの父親像の形成状況が,乳幼児期のコペアレンティングに影響を及ぼしている可能性が示された.特に,独立変数の中で最も高く影響していたのは「妻への思い」であり,妊娠中の良好な夫婦関係がコペアレンティングに影響を及ぼす重要な要因となっていることが示唆された.

Translated Abstract

Purpose: This study determines the influence of paternal image formation in coparenting among couples raising children under three years of age in Japan, during the period from pregnancy to immediate postpartum.

Method: A total of 1,621 subjects were studied. Three multiple regression models were created using items that past research has found to be related to coparenting.

A Scale of Father identity in the Transition Period and factors predicted to influence coparenting were set as independent variables, while the Coparenting Relationship Scale Japanese version (CRS-J) was set as the dependent variable in the multiple regression model.

Results: Significant regression was found in all models (p < .01). However, significant associations with CRS-J scores were found only for the scores of “a rush of emotion coming from the existence of a child/children,” “the upwelling consciousness of being a father” and “concerns for the wife”.

Conclusion: The results suggest that differences in paternal image formation that arise during pregnancy may impact coparenting during infancy. Among the independent variables, “concerns for the wife” had the highest influence, suggesting that a good marital relationship is an important factor affecting coparenting.

Ⅰ. 緒言

日本の父親の育児時間は他国と比べて短く,育児や家事の役割分担はその7割を母親が担っており,特に乳幼児期に母親の育児負担が大きいことが報告されている(男女共同参画局,2020).2020年における父親の育児休業取得率は12.65%(厚生労働省,2021)に留まっており,さらに男性が育児休業を取得しやすいように育児・介護休業法が改正された(厚生労働省,2022).しかし,父親は「子どものお風呂」や「子どもの遊び相手」などを担うことが多く(日本労働組合総連合会,2019),乳幼児期に負担の多い食事・排泄・活動といった日常的な世話に継続的に関わることが多い母親の負担が大きくなりやすいことから,父母の育児・家事の分担の偏りにも課題があると言える.

Feinberg(2003)は,これまでの夫婦関係や子育てに関する研究では,夫婦関係の側面と子育ての側面がそれぞれ別々に焦点が当てられているために,この2つの側面に関連性が持てていないことを言及している.子育てを夫婦が共同して行うためには,夫婦関係の親密さ,子どもとの関係性や子育ての状況に着目する必要性を指摘した.共同育児(コペアレンティング)の概念を親がそれぞれの役割で互いに関連して調整し合い,子どもを育てる責任を共に担い共有すること(Feinberg, 2003)と定義し用語の確立を図った.さらにFeinberg et al.(2012)は,育児の共同において重要な側面である育児の合意や育児における親密さ,パートナーの子育ての支持および育児の分業などの7つの因子から構成されるCoparenting Relationship Scale尺度を開発した.コペアレンティングについては,夫婦関係の質や子どもとの関係性が影響していること(Holland & McElwain, 2013Le et al., 2019)が指摘されており,子どもの気質や父親の子どもへの愛着関係についても検討されている(Cook et al., 2009Brown et al., 2010).

育児者としての父親をみると,初めて親になる男性は父親となるイメージをもちにくいこと(笹木・村田,2013石田ら,2020)が指摘されている.佐々木ら(2004)は,父親が胎動を確認することや生まれてくる赤ちゃんをイメージすることは親の意識の発達に関連すると報告している.つまり,子どもをイメージすることにより,父親としての自覚が芽生えてくると思われる.先行研究において父親像の形成は父親として胎児や妻への感情が生じ,父親としての具体的な行動として現れること(木越・泊,2006佐々木,2009森田ら,2010保田・畑下,2012)が知られている.

以上より,コペアレンティングができるために父親自身の親としての自覚や父親像の形成がどのように関連するのかを検討する必要があると考える.しかし,父親像の形成状況とコペアレンティングとの関連性を検討した研究は見当たらなかった.子どもの出生前に獲得している父親像が,将来のコペアレンティングに関連していることが明らかになれば,妊娠中からの新たな育児支援方法を検討するための知見となり得る.初めて親になる父親が獲得した妊娠期から出産後1か月頃までにおける父親像の形成状況が,乳幼児期のコペアレンティングにどの程度影響を及ぼしているかを明らかにすることを本研究の目的とした.

Ⅱ. 方法

1. 研究デザイン

本研究の研究デザインは横断研究であり,現在の状況と第一子の妊娠から出産後1か月頃までの状況に関する単回調査を実施した.

2. 用語の定義

1) コペアレンティング

本研究では,コペアレンティングをFeinberg(2003)加藤・神谷(2018)を参考に親が子育ての責任を共有し,夫婦と子ども(胎児)との三者を含めて,親としての役割を調整してサポートし合うことと定義した.

2) 父親像形成

本研究では,松田(2018)の妊娠期から親になる移行期の父親らしさを参考に,父親像は家庭における父親自身が持つ自己像であり,妻への思いをベースに成立する子ども(胎児)の存在から生じる子どもへの思いや,父親になっていくことを感じて父親のイメージを作りあげることと定義した.

3. 対象者

本研究では,3歳未満の実子を養育している18歳~55歳の父親を対象者とした.また,養育している3歳未満の子が第一子であることと調査時点で配偶者がいることを適格基準として設定した.なお,対象者の選定は調査委託会社である(株)インテージに委託し,モニター登録者の中から適格基準に基づき対象者を選定した.

4. 調査方法と期間

調査委託会社を通じ,インターネット上での無記名自記式質問紙調査を行う.全質問への回答終了後,提出可能となる設定であり,欠損値が出ない仕組みになっている.なお,調査期間は2022年3月16日~18日,4月4日~8日であった.

5. 調査内容

1) 基本属性

本研究では,先行研究においてコペアレンティングに影響を及ぼすことが報告されている対象者の年齢(深川・佐伯,2016佐々木,2012a),年収(多喜代・北宮,2019佐々木,2012b),妻の就業の有無(高瀬・荒木田,2022),夫婦以外の育児・家事支援者(以下,夫婦以外の支援者)の有無(多喜代・北宮,2019)を基本属性とした.

2) コペアレンティング

コペアレンティングを測定するためにFeinberg et al.(2012)が開発したCoparenting Relationship Scaleを武石ら(2017)が翻訳し作成した日本語版コペアレンティング関係尺度(Coparenting Relationship Scale Japanese version: CRS-J)を使用する(使用許諾済み).CRS-Jの下位尺度は【育児の合意(4項目)】【育児による親密性(5項目)】【子どもの前でのもめごと(5項目)】【サポート(6項目)】【阻害(6項目)】【パートナーの育児の承認(7項目)】【家事・育児の分担(2項目)】の7つの下位尺度および全35項目の質問項目から構成されている.なお,開発時の因子分析(Feinberg et al., 2012)において,採択された下位尺度の因子負荷量は.46~.81であることが示されている.また,CRS-Jの下位尺度のCronbach’s αはそれぞれα = .766,α = .731,α = .883,α = .912,α = .887,α = .836,α = .715であることが報告されており,尺度全体でのCronbach’s α係数は.879であった.また,CRS-Jの質問項目には7段階のリッカート法(0~6)が用いられており,得点が高い方がコペアレンティングの関係性が良いことを示している.なお,下位尺度得点は合計点を項目数で徐算することで算出しており,尺度得点範囲は0~6点で示される.また,構成概念の妥当性を確認するため,夫婦ペアレンティング調整尺度(Coparental Regulation Inventory; CRI)(Locke & Williamson, 1958三隅ら,1999)および夫婦間調整テスト(Marital Adjustment Test; MAT)(加藤ら,2014)との相関分析が行われており,r = .670(p < .001),r = .745(p < .001)という結果が得られている(武石ら,2017).

3) 父親像形成

父親像形成を測定するために「親になる移行期の父親らしさ」尺度(以下,父親らしさ尺度)を用いる(松田,2018)(使用許諾済み).この尺度は,妻の妊娠中から出産後1か月頃までの父親としての準備期における妻と子ども(胎児)との三者関係に焦点を当てている.その下位項目は,「子どもの存在から沸き立つ思い(10項目)」と「父親意識の高まり(7項目)」と「妻への思い(4項目)」で構成されている.なお,「子どもの存在から沸き立つ思い」は,妻の妊娠中から子どもの存在を認識することによって触発され,現在から未来にかけての子どもに対する肯定的な思いの現れとされている.次に,「父親意識の高まり」は,妊娠という事実に伴い父親自身が実際に変化した行動や体験などから親を意識することとされている.最後に「妻への思い(4項目)」は夫にとっての妻に対する存在の大きさや尊敬といったこれからの生活においてかけがえのない存在としての思いとされている.なお,開発時の因子分析において因子負荷量が.40以上であった項目を父親らしさ尺度の下位尺度として採択されている.下位尺度のCronbach’s α係数はそれぞれα = .867,α = .789,α = .843,尺度全体ではα = .908と報告されており,「親性の発達尺度」との相関分析ではr = .476(p < .01)と中程度の相関が認められることを示している(松田,2018).なお,父親らしさ尺度の質問項目は4段階のリッカート法(1~4)が用いられており,得点が高いほど父親になることへの肯定的な思いやイメージが高いことを示している(尺度得点範囲:21~84).

4) その他の質問項目

佐々木ら(2004)は,「胎動を確認した主観的頻度」や「生まれてくる赤ちゃんのイメージ」といった胎児存在の実感や胎児への関心と親になる意識との間に関連があることを報告している.さらに木越・泊(2006)は,妊娠期における父性意識とその後の育児参加に関連があることを示していることから,この2項目はコペアレンティングに影響すると考え,その他の質問項目に設定した.なお,「胎動を確認した主観的頻度」については4件法で回答を求め,「度々した」を高頻度,「たまにした」を中頻度,「あまりしなかった」「しなかった」を低頻度とした.「生まれてくる赤ちゃんのイメージ(以下赤ちゃんのイメージ)」は,「できた」「できなかった」の2件法で回答を求めた.

6. 分析方法

本研究では妊娠期から出産後までの父親像の形成状況が3歳未満までのコペアレンティングの状況にどの程度影響を及ぼしているかを検証するために,CRS-Jの得点を従属変数に設定した重回帰モデルを構築した.

モデル1:「子どもの存在から沸き立つ思い」「父親意識の高まり」「妻への思い」

モデル2:モデル1に「胎動を確認した主観的頻度」「赤ちゃんのイメージ」を追加した.

モデル3:モデル2に「年齢」「年収」「妻の就業」「夫婦以外の支援者」を追加した.

すべての統計的検定において有意水準5%に設定し,SPSS Statistics Ver. 28(IBM, USA)を使用して統計解析を行った.

7. 倫理的配慮

本研究は,関西福祉大学研究倫理審査委員会の承認(第3-0223号)を得て実施した.本研究では調査を行った際に研究目的・研究参加に関する諾否の自由,個人情報の保護,結果の公表方法等について説明依頼文にて周知しており,同意を得られた対象者にのみ本調査を配信した.なお,調査委託を行った(株)インテージはプライバシーマークを取得しており,本研究を開始するにあたり守秘義務に関する契約を交わした上で,数値化されたデータのみ提供を受けた.なお,本研究にご協力いただいた方に対しては,調査委託会社を介してポイントが付与される形で謝礼が支払われた.

Ⅲ. 結果

1. 対象者の特徴

対象者は,調査委託会社の登録モニターから配偶者があり3歳未満の実子である第1子を養育中の18~55歳の父親とした.この条件に該当した19,693人に協力依頼の案内を行い,全ての質問に回答した1,621人を本研究の対象者とした(図1).対象者の平均年齢は37.2 ± 6.0歳,年収は400~600万円未満が最も多く,63.5%の家庭で妻が仕事を有しており,夫婦以外に家事や育児を支援してくれる存在がいると回答した者は59.2%だった.また,妊娠中に胎動を頻繁に確認したと回答した者は55.3%,妊娠中に赤ちゃんのイメージができたと回答した者は71.1%だった(表1).なお,父親らしさ尺度とCRS-Jの平均得点は,それぞれ68.84 ± 10.24と3.51 ± 0.42であった.

図1 

研究対象者選択フロー図

表1  研究対象者の特徴
N (%)
年齢
18~29歳 156 (9.6)
30~39歳 886 (54.7)
40~55歳 579 (35.7)
年収
400万円未満 391 (24.1)
400~600万円未満 682 (42.1)
600万円以上 548 (33.8)
妻の就業
あり 1,029 (63.5)
なし 592 (36.5)
夫婦以外の支援者
あり 959 (59.2)
なし 662 (40.8)
胎動確認の主観的頻度
高頻度 896 (55.3)
中頻度 549 (33.9)
低頻度 176 (10.8)
赤ちゃんのイメージ
できた 1,152 (71.1)
できなかった 469 (28.9)

N = 1,621

2. CRS-Jに影響する項目の群間比較

「年齢」「年収」「妻の就業」「夫婦以外の支援者」「胎動確認の主観的頻度」と「赤ちゃんのイメージ」の違いによってCRS-Jスコアに差が生じるかを確認するために群間比較を行った.表2に示す通り,「年齢」については18~29歳群の方が40歳以上群と比べ有意にCRS-Jスコアが高かった.次に「夫婦以外の支援者」については,支援者がいる方が有意に高いスコアを示した.また,「胎動確認の主観的頻度」が高かった父親,妊娠中から「赤ちゃんのイメージ」を持てている父親の方が,コペアレンティングが良好であることを示していた.一方で,「年収」と「妻の就業」についてはいずれもCRS-J得点に差が認められなかった.

表2 

CRS-Jに影響する基本属性とその他の質問項目の群間比較

3. CRS-Jを従属変数とした重回帰モデル

CRS-J得点を従属変数とした重回帰分析の結果を表3に示す.独立変数に父親らしさ尺度の3つの下位尺度得点のみを投入したモデル1の回帰性は有意(p < .01)であり,調整済みR2乗は.36を示した.また,投入した独立変数はいずれもCRS-J得点に有意な影響を及ぼしていた.次に,モデル1に胎動確認の主観的頻度と妊娠中の赤ちゃんのイメージを独立変数に追加したモデル2についても有意な回帰性(p < .01)が示され,調整済みR2乗は.36であった.また,CRS-J得点に有意な影響を及ぼす独立変数はモデル1と同様に父親らしさ尺度の3つの下位尺度得点のみであった.さらに,モデル2に年齢,年収,妻の就業状況及び夫婦以外の支援者の有無を追加投入したモデル3についてもモデル1・2と同様に有意な回帰性(p < .01)が確認できたものの,父親らしさ尺度以外にCRS-J得点に有意な影響が確認できた変数は存在しなかった.なお,すべてのモデルにおいて,投入した独立変数のVIFは5未満であった.

表3  CRS-Jを従属変数とした重回帰モデル
モデル1 モデル2 モデル3
標準誤差 標準化偏回帰係数 VIF 標準誤差 標準化偏回帰係数 VIF 標準誤差 標準化偏回帰係数 VIF
父親らしさ1:沸き立つ思い <.01 .11* 2.18 <.01 .10* 2.20 <.01 .11* 2.20
父親らしさ2:父親意識 <.01 .13* 2.11 <.01 .12* 2.14 <.01 .12* 2.17
父親らしさ3:妻への思い <.01 .45* 1.46 <.01 .45* 1.46 <.01 .45* 1.47
胎動確認の主観的頻度 0.01 –.01 1.00 0.01 –.01 1.01
赤ちゃんのイメージ 0.02 .04 1.10 0.02 .04 1.11
年齢 <.01 <.01 1.07
年収 <.01 .01 1.07
妻の就業 0.02 .02 1.01
夫婦以外の支援者 0.02 .03 1.03

* p < .01

モデル1:F = 306.89;p < .01 調整済みR2乗=.36

モデル2:F = 185.05;p < .01 調整済みR2乗=.36

モデル3:F = 103.11;p < .01 調整済みR2乗=.36

Ⅳ. 考察

父親らしさ尺度の「子どもの存在から沸き立つ思い」,「父親意識の高まり」,「妻への思い」の3つの下位尺度のいずれもが,父親のCRS-J得点に有意に影響を及ぼしていることが示された.その中でも,特に「妻への思い」は,最も強く影響を及ぼすことが示唆された.なお,全ての重回帰モデルの独立変数のVIFは5未満であったことから,本結果に影響を及ぼす多重共線性は存在しなかった(Jong, 2019)と考える.

1. 基本属性およびその他の項目とコペアレンテンィングとの関連

本調査の対象者の平均年齢は37.2 ± 6.0歳で年収は400~600万円未満が42.1%と最も多く,国税庁(2020)の2021年の35~44歳の男性の平均年収が518~571万円であるという報告と概ね一致していた.本対象者は平均的な日本人男性の社会的背景から逸脱するものではなかったと考える.

多喜代・北宮(2019)は,年収が高いほど育児時間が短くなることを,佐々木(2012a)も父親の年収が高いほど育児への参加が少なくなることをそれぞれ報告している.本研究でも父親の年収を独立変数に投入してコペアレンティングに及ぼす影響の強さについて検討してみたが,全ての重回帰モデルにおいてコペアレンティングに対する有意な影響は確認できなかった.本研究では夫婦間で子育てについて責任を共有し,相互にサポートしあうコペアレンティングの状況を評価したCRS-J得点を従属変数に設定しており,先行研究における育児時間や育児参加度とは異なる評価指標とは結果が一致しなかった可能性がある.

深川・佐伯(2016)は,父親の年齢が若いほど育児参加度が高いことを報告している.佐々木(2012a, b)の結果は,父親の年齢が若いほど仕事重視度が高く,間接的に育児参加が少なくなる傾向があることを示す一方,父親の年齢と子育て参加の間に直接的な関連は示されておらず,父親の年齢とコペアレンティングとの関係については一致した知見が得られていない.本研究においても群間比較では父親の年齢が低い群の方がCRS-J得点が高いという結果が得られたが,重回帰分析においては父親の年齢はコペアレンティングに対する影響は確認できなかった.

高瀬・荒木田(2022)の調査では,共働き家庭の夫の育児協力度が高いことが報告されている一方,久保(2017)の報告では,妻の就業の有無と夫の育児内容には関連が認められておらず,別の調査でも夫が担う「家事・育児・介護時間」は妻の就業状況の影響をあまり受けないことが示されている(男女共同参画局,2020).このように,妻の就業状況とコペアレンティングとの関連については一致した見解が得られておらず,本研究においても妻の就業状況はコペアレンティングに影響しないという結果が得られている.

夫婦以外の支援者の有無についても群間比較で有意な差が確認できたが,重回帰分析ではコペアレンティングに対する影響が確認されなかった.夫を対象とした先行研究において,夫は第一の育児協力者に妻を挙げており(多喜代・北宮,2019),他の研究において妻も第一の育児協力者に夫を挙げていた(小原ら,2008明野ら,2010).少なくとも3歳未満の子を養育中の夫婦のコペアレンティングについては,第三者からの援助よりも夫婦が互いに第一の育児協力者であるという認識の方が重要な役割を果たしている可能性がある.

2. 父親像形成とコペアレンティングとの関連

一人目の子どもが生まれた直後の父親191人を対象とした松田(2018)の父親らしさ尺度の得点は66.49 ± 7.13であったが,本結果における父親らしさ尺度の得点は68.84 ± 10.24であった.一方,本対象者のCRS-J得点は3.51 ± 0.42であり,相馬ら(2021)の27~57歳の共働きの父親290人を対象とした研究におけるCRS-J得点(2.06 ± 0.87)よりも高い値を示していた.3歳未満の初めての子を養育する本対象者の父親像形成状況については先行研究の対象者と同程度であったと考えられるが,コペアレンティングについては先行研究の対象者よりも良好な集団であった可能性がある.

重回帰分析の結果,父親像の形成状況を示す「子どもの存在から沸き立つ思い」や「父親意識の高まり」の尺度得点はコペアレンティングに対して有意な影響を示していた.本結果は,出産前から父親像の形成が進んでいる夫の方が出産後に円滑なコペアレンティングを育めることを示唆していると考える.父親と生まれたばかりの子どもとの父子関係の形成は,生後2か月後から強くなり始め,1歳頃までには多くの父親が父親としての自覚を持つようになることが報告されている(Shorey & Ang, 2019田中ら,2011).妻に比べて夫の父親意識の芽生えに時間を要することが,さらに父子関係を確立するまでに時間を要する一因となり,育児負担の強い乳幼児期において父親の育児参加が進まないことに関連している可能性がある.また,「胎動確認の主観的頻度」や出産前の「赤ちゃんのイメージ」は妊娠期における父親像形成状況を現していると考えて重回帰モデルに組み入れたが,コペアレンティングに対する有意な影響は示されなかった.しかし,群間比較では「胎動確認の主観的頻度」や「赤ちゃんのイメージ」の得点が高い方がCRS-J得点も高くなることが示されたことから,コペアレンティングに対する間接的な関連が存在しているのかもしれない.また,胎動を確認した頻度が中頻度以上と回答した者が約90%,赤ちゃんのイメージができた者が70%以上と高い割合であったこともコペアレンティングに有意な影響を示さなかった一因となっていると考えられる.

全ての重回帰モデルにおいて「妻への思い」がコペアレンティングに対して他の要因よりも強い影響を及ぼしていることが確認された.Altenburger et al.(2014)は出産前の夫婦の関係性が出産後のコペアレンティングと強い関連があり,妊娠期の夫婦関係が良好であるほど出産後のコペアレンティングも良好であったことを報告している.また,良好な夫婦関係は妻の妊娠後の家事・育児の方針の話し合いの機会を増やす(阿川・中山,2020)ことも指摘されており,出産前からの良好な夫婦関係が築けていることがコペアレンティングを規定する要因になり得ると考えられる.つまり,夫の「妻への思い」が出産後のコペアレンティングを促進する重要な要因になることが示唆された.

今回の調査対象とした3歳未満の時期は,特に育児に関する負担が強くなりやすい時期と言われている(渡辺・石井,2005村上ら,2005).そのため,出産前から父親像形成を高めるような支援を行うことができれば,育児負担が強い乳幼児期におけるコペアレンティングを高めることにつながることが期待できる.今後は,妊娠期における父親像形成状況と父親の特徴との関連を検討するとともに,乳幼児期におけるコペアレンティングを高めるための有用な支援方法についても検討していく必要があると考える.

3. 研究の限界と今後の展望

対象者の性格特性の違いの1つである性別役割分担意識や夫婦の関係性など考慮しておらず,その点が本結果の限界となっている可能性があり,今後探究すべき点であると考える.また,本研究の対象者は調査委託業者を通して選択基準に該当する者に研究参加の案内をしているため,サンプリングバイアスが生じている可能性があるものの,サンプルサイズも一定程度の大きさを有するため,その他の方法で対象者を募集した場合と比べ,大きな差異は生じていないと考える.

むしろ,妊娠期から出産後にかけて感じた心情を想起しながら回答することに起因するリコールバイアスの方が結果に影響を及ぼしている可能性の方が高い.そのため,今後は本結果を基にさらに調査を重ね,良好な育児につながる妊娠期からの父母支援のあり方について検討を行っていく予定である.

Ⅴ. 結論

3歳未満の子を養育する父親において,妊娠期から出産後に芽生えている「子どもの存在から沸き立つ思い」「父親意識の高まり」「妻への思い」が,乳幼児期におけるコペアレンティングに有意に影響を及ぼしていることが示された.その中でも「妻への思い」の影響度が最も高く,出産前からの良好な夫婦関係がコペアレンティングを促進する大きな要因である可能性が示唆された.

謝辞:本研究の調査にご協力いただきました参加者の皆様に御礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:YAは,研究計画,データ収集・分析,原稿作成のプロセス全体に関与した.HSは,データ分析・解釈,論文構成,TYは,研究計画・データ分析,論文の構成のプロセスに貢献した.すべての著者は最終論文を読み承認した.

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