2023 年 43 巻 p. 295-304
目的:炎症性腸疾患患者が大腸内視鏡検査に伴いどのような苦痛を体験しているかを明らかにする.
方法:発症後に大腸内視鏡検査を1回以上受けた経験がある寛解期の患者10名に半構造化面接を行い,質的記述的に分析した.
結果:患者は大腸内視鏡検査に伴い,【前処置による心身の負担】【検査中の痛み】【検査への恐怖】【異性の医療者に対する抵抗感】【検査後の疲労と病状悪化】【検査結果への不安】【時間と費用の負担】という苦痛を体験していた.【検査中の痛み】には『炎症時の内視鏡操作に伴う痛み』『内視鏡挿入時や体位変換時の合併症による痛み』『腸管屈曲部に内視鏡が当たる痛み』『送気による腹部の張りと痛み』があった.
結論:大腸内視鏡検査に伴い炎症性腸疾患患者は,腸管の炎症や合併症によって疾患特有の苦痛を体験していた.
Purpose: The study aimed to explore pain with colonoscopy experienced by patients with inflammatory bowel disease.
Methods: We conducted semi-structured interviews with 10 patients with inflammatory bowel disease who were in remission and analyzed the data qualitatively and descriptively.
Results: Participants experienced pain with colonoscopy such as “physical and mental burden with the bowel preparation,” “pain during colonoscopy,” “fear of colonoscopy,” “a feeling of resistance to healthcare professionals of the opposite sex,” “fatigue and disease aggravation after colonoscopy,” “anxiety about investigation results,” and “burden of time and cost.” “Pain during colonoscopy” included ‘pain accompanying the colonoscopy procedure when the inflammation was active,’ ‘pain due to complications of inflammatory bowel disease when inserting the colonoscope or changing body position,’ ‘pain when the tip of the colonoscope was in the colic flexure,’ and ‘abdominal tension and pain from insufflated air.’
Conclusion: Patients with inflammatory bowel disease experienced disease-specific pain with colonoscopy owing to intestinal inflammation and complications of the disease.
炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease;以下,IBD)は消化管に難治性の炎症を起こす疾患であり,主に潰瘍性大腸炎とクローン病が含まれる.いずれの疾患も原因不明で根治療法はなく,難病指定されている.患者数は年々増加しており,2020年度の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は潰瘍性大腸炎患者が約14万人,クローン病患者が約4.7万人であり,2000年の所持者数と比べて2倍以上に増加している(厚生労働省,2022).
IBD患者に対して大腸内視鏡検査は確定診断のみならず,疾患活動性評価,治療効果の判定,発がんのサーベイランスを目的として行われる.これまでIBDの治療目標は臨床症状の改善であったが,最近では内視鏡所見にて寛解になっていること,すなわち内視鏡的寛解や粘膜治癒へと変遷しており,腸管粘膜を直接観察できる大腸内視鏡検査は診断や治療上,ますます重要な検査となっている.また,長期罹患患者の増加に伴い,IBDに関連する大腸がんの発生件数が増加傾向にあり(Keller et al., 2019),がんの早期発見の観点からも有用な検査である.
その一方で,大腸内視鏡検査は前処置を含め患者にとって侵襲が大きく,苦痛を伴う検査である.秋森ら(1998)は文献と患者の訴えから大腸内視鏡検査を受ける患者の苦痛を精神的苦痛,肉体的苦痛,社会的苦痛に分類している.精神的苦痛には「痛みに対する恐怖心」「検査結果に対する不安」などが,肉体的苦痛には「腸管洗浄剤を大量に服用することによる腹部膨満感,腹痛,悪心,嘔吐」「内視鏡挿入に伴う腹痛,送気による腹部膨満感」などが,社会的苦痛には「前処置に時間を要するため,仕事を休んだり,家を空けなければいけない」「検査処置料が高額である」が含まれる.また,大腸内視鏡検査を受ける患者の精神的苦痛には性別,年齢,検査経験の有無が影響することが示されている(山路ら,2014).しかしながら,これらの先行研究の対象者は主に健診で精査が必要となり,大腸内視鏡検査を受ける人であり,IBD患者の大腸内視鏡検査に伴う苦痛に焦点を当てた先行研究は見当たらない.IBD患者の場合,とくに病状が悪化している活動期では検査前から腹痛や下痢,血便といった症状を有していることが多く,大腸粘膜は脆弱で出血しやすいため,内視鏡操作で出血や腸管穿孔といった偶発症を起こすリスクが高い.また,IBDの大腸内視鏡検査は疾患活動性評価や治療効果の判定,発がんのサーベイランスを検査目的とするため,診断後も定期的に検査を受ける必要があり,患者の苦痛はその後の検査や治療のアドヒアランスにも影響すると考えられる.看護師は,検査に伴う患者の苦痛を最小限にし,かつ正確な検査結果が得られるように援助する必要がある(本庄ら,2016).
そこで,本研究は大腸内視鏡検査に伴いIBD患者がどのような苦痛を体験しているかを明らかにすることを目的とした.IBD患者に共通する検査に伴う苦痛が明らかになれば,広くIBD患者が検査を受ける際の援助を検討するための基礎資料になると考える.なお,IBDの重症例では前処置や内視鏡検査によって病状が増悪することがあり,無処置で直腸やS状結腸までの観察に留める場合があるが(髙津,2016),本研究の「大腸内視鏡検査」とは「前処置のもとで肛門から内視鏡スコープを挿入して大腸全域を直接観察する検査」を指すものとした.また,本研究における「苦痛」とは,秋森ら(1998)の定義をもとに「IBD患者が大腸内視鏡検査予約時から検査終了後,結果について医師から説明を受けるまでの身体的・精神的・社会的に安楽ではない感覚を生じている状態」を示すものと定義した.
本研究は大腸内視鏡検査を受けるIBD患者がどのような苦痛を体験しているかを明らかにすることが目的であり,苦痛はそれを体験する者の主観的体験であるため,体験者の語りを通して明らかにする必要があると考え,質的記述的研究デザインを用いることにした.
2. 研究参加者潰瘍性大腸炎とクローン病は異なる疾患であるが,消化器症状や治療目標,大腸内視鏡検査の目的や必要性,偶発症のリスクは共通する点が多く,大腸内視鏡検査に伴う苦痛にも共通する体験があると考えられた.そのため,本研究では両疾患をあわせたIBD患者を対象とした.
面接調査に耐えうるように寛解期にある20歳以上のIBD患者で,IBD発症後に大腸内視鏡検査を1回以上受けた経験がある患者を参加者の条件とした.特定の医療機関を通じて調査協力を依頼すると,その医療機関での大腸内視鏡検査の実施方法によって得られる結果に偏りが生じる恐れが考えられたため,関西地区を拠点としたA患者会の会員のうち本研究への協力の同意が得られた者を研究参加者とした.
3. データ産出方法半構造化面接を行い,データを産出した.データ産出期間は,2022年8月から同年10月であった.参加者1人に対して35分から57分(平均48分)の面接を1回行った.COVID-19の感染状況を考慮し,面接はすべてビデオ会議ツール(Zoom)または電話にて実施した.半構造化面接では,インタビューガイドを用いて,初めに年齢と性別,診断時の年齢,診断名,発症後の大腸内視鏡検査の受検回数,受検頻度,調査時点での就学や就業の有無について尋ね,次に「これまで受けた大腸内視鏡検査において検査前,検査中,検査後において具体的にどのようなことに苦痛を感じたか」について,そのときのエピソードをまじえて出来るだけ具体的に語っていただくように依頼した.IBD患者は疾患活動性評価や治療効果の判定,発がんのサーベイランスを目的として1年から数年単位で定期的に大腸内視鏡検査を受けることが多く,患者の検査に伴う苦痛はその後の検査体験に影響すると考えられたため,検査について診断後の時期や病期などは限定せず,参加者にこれまでの体験を振り返って自由に語っていただいた.面接内容は,参加者の承諾を得た後にICレコーダーに録音した.
面接および分析は質的研究のデータ産出とデータ分析経験のある同一の研究者が実施した.研究者はIBD患者へのケア経験のある看護師であるが,本研究の参加者に対してケアを提供する立場にはなかった.
4. データ分析方法データ分析は,データの文脈と意味を重視した質的な内容分析(グレッグ,2016)を用いて,以下の手順で行った.まず録音内容から逐語録を作成し,IBD患者が体験する大腸内視鏡検査に伴う苦痛を表わす文章をまとまりとして抜き出した.次に,抽出した部分の意味を損なわず,かつ明瞭になるように要約してコード化した.そして,コード化したものについて他の参加者から得られたコードとの類似点と相違点を比較し,コードに共通して見出される意味ごとにまとまりをつくり,その意味を表すサブカテゴリーを生成した.サブカテゴリーについて,さらに共通性のあるものでまとめ,より抽象的かつ概念的な意味を表すカテゴリーを生成した.
研究の真実性を確保するため,研究参加者2名に分析結果についての意見を求め,それらを結果に反映することにより妥当性の確保に努めた.また,分析過程を通じて日本消化器内視鏡学会認定消化器内視鏡技師の資格を有しIBD患者の大腸内視鏡検査の経験豊富な看護師1名に分析結果を示し,研究者のデータ解釈が妥当かを確認した.
5. 倫理的配慮本研究は,武庫川女子大学・武庫川女子大学短期大学部研究倫理委員会の承認を得た(承認番号No. 22-06).研究者がA患者会の会長から研究協力への承諾を得た上,全会員に対して文書で研究協力を依頼した.協力の返信が得られた会員に対して,再度研究者から研究の目的と方法,研究参加は自由意思に基づくものであり,不参加や途中辞退の権利があること,またそのような場合も不利益を生じないことを説明した.加えて,得られたデータはパスワード付のパソコンに保存し,研究者の研究室の鍵のかかる棚で保管すること,データ分析については個人が特定できないようにデータを処理すること,学会および学術雑誌で公表することを文書と口頭で説明した.また,面接前に参加者に対して,面接中にお手洗いを希望する場合は途中退席が可能であること,体調が悪化した場合は遠慮せずに研究者に申し出ることを文書と口頭で説明した.同意書は各参加者に郵送し,署名後,研究者へ返送を依頼した.
参加者10名のうちクローン病患者が4名,潰瘍性大腸炎患者が6名であった.診断後の罹病期間は平均28.6(9~51)年,発症後の大腸内視鏡検査の受検回数は3回から50回以上であった.受検頻度は1年に1回が5名であり,全員の参加者が調査時点から2年以内に直近の検査を受けていた(表1).
| コード | 年代 | 性別 | 病名 | 診断後の罹病期間 | 発症後の大腸内視鏡検査受検回数 | 大腸内視鏡検査受検頻度 | 就学・就業の有無 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| A | 60歳代 | 男 | クローン病 | 43年 | 28回 | 1回/2,3年 | 有 |
| B | 60歳代 | 女 | クローン病 | 40年 | 8回 | 1回/4,5年 | 無 |
| C | 50歳代 | 女 | 潰瘍性大腸炎 | 20年 | 20回 | 1回/年 | 有 |
| D | 60歳代 | 男 | 潰瘍性大腸炎 | 33年 | 50回以上 | 1回/年 | 有 |
| E | 20歳代 | 女 | クローン病 | 9年 | 4回 | 1回/2年 | 有 |
| F | 60歳代 | 女 | 潰瘍性大腸炎 | 51年 | 40回 | 1回/1,2年 | 無 |
| G | 60歳代 | 男 | 潰瘍性大腸炎 | 26年 | 30回以上 | 1回/年 | 有 |
| H | 30歳代 | 男 | 潰瘍性大腸炎 | 19年 | 18回 | 1回/年 | 有 |
| I | 50歳代 | 女 | 潰瘍性大腸炎 | 36年 | 42回 | 1回/年 | 無 |
| J | 30歳代 | 男 | クローン病 | 9年 | 3回 | 1回/3,4年 | 有 |
分析の結果,7カテゴリー,20サブカゴリー,153コードが抽出された.IBD患者は大腸内視鏡検査に伴い,【前処置による心身の負担】【検査中の痛み】【検査への恐怖】【異性の医療者に対する抵抗感】【検査後の疲労と病状悪化】【検査結果への不安】【時間と費用の負担】という苦痛を体験していた(表2).以下,文中ではカテゴリーは【 】,サブカテゴリーは『 』,データの例示は斜体で示す.
| カテゴリ | サブカテゴリ | コード例 | コード数 |
|---|---|---|---|
| 前処置による心身の負担 | 洗浄剤は美味しくない | 洗浄剤が不味くて,一口飲むのもつらい | 12 |
| 洗浄剤は飲みにくく,それで体調が悪くなりそうである | |||
| 洗浄剤は美味しくなくて飲みづらい | |||
| 大量の洗浄剤を服用する負担感 | 不味い洗浄剤を大量に飲むのは苦痛以外の何物でもない | 16 | |
| 洗浄剤と水で3Lも服用しなければいけないのが負担である | |||
| 大量の洗浄剤を服用するのは労力と時間がかかり大変である | |||
| 炎症時の体力の消耗 | 下剤を服用して腹痛で塗炭の苦しみを味わう | 14 | |
| 炎症時はトイレで出すことに体力を消耗してしんどい | |||
| 前処置で何度もトイレに行き,お尻を拭くので,お尻が痛い | |||
| 通院中の便意切迫感 | 病気で元々下痢のため,洗浄剤を服用するとすぐに排便が始まり,通院中が負担である | 5 | |
| 通院途中で便を漏らさないか,心配である | |||
| 検査中の痛み | 炎症時の内視鏡操作に伴う痛み | 出血して腹痛もある時に検査を受けると,痛みが強くてつらい | 11 |
| 腸管の炎症時は内視鏡が入ると,ひどく痛い | |||
| 炎症時は内視鏡が入りづらく,痛い | |||
| 内視鏡挿入時や体位変換時の合併症による痛み | 大腿骨頭壊死のため,検査中の体位変換がつらい | 6 | |
| 癒着があるため,内視鏡が入りづらく痛い | |||
| 痔瘻のためお尻に敏感になり構えていまい,内視鏡挿入時は痛い | |||
| 腸管屈曲部に内視鏡が当たる痛み | S状結腸など腸管が曲がるところで痛い | 12 | |
| 下行結腸から横行結腸の移行部から臍のあたりまでが検査中,苦しい | |||
| 腸管が曲がるところに内視鏡が当たると痛みが生じる | |||
| 送気による腹部の張りと痛み | 送気で,お腹が張り苦痛である | 14 | |
| 送気によるお腹の張りで気持ち悪くなる | |||
| 検査への恐怖 | 検査中の痛みに対する恐怖 | 入院中の検査待ちは恐怖の順番待ちで死刑囚の気持ちがよくわかる | 6 |
| 検査前から検査中の痛みに対する恐怖を感じる | |||
| 一度,痛い思いをすると,それが恐怖になってしまう | |||
| 先が見えない不安 | 何も説明がないまま淡々と検査されると,素人の患者としては不安である | 3 | |
| 検査中,先が見えないと不安が強くなる | |||
| 検査に伴う偶発症への恐怖 | 腸管穿孔を起こすリスクがあるため,麻酔を拒否する | 5 | |
| 検査後に出血し,それが恐怖になってしまう | |||
| 異性の医療者に対する抵抗感 | 異性の医療者への羞恥心 | 異性の医師が担当だと恥ずかしい | 4 |
| 同性の医師に検査を行ってほしい | |||
| 異性の医療者に対する抵抗感 | 異性の医師の検査を受けるのは抵抗がある | 5 | |
| 生理中に異性の医療者に囲まれ検査を受けた時は嫌な思いをした | |||
| 検査後の疲労と病状悪化 | 長時間の検査による疲労 | 大腸の奥まで内視鏡が到達するのに時間がかかり疲れてしまう | 4 |
| 検査終了後はしんどいため,しばらく医療機関で休ませてほしい | |||
| 薬剤による倦怠感 | 検査後,眠気やダルさが残る | 3 | |
| 麻酔覚醒後のダルさと頭がボーっとした感じが残る | |||
| 検査後の病状悪化 | 検査後に出血する | 5 | |
| 検査のストレスで検査後に病状が悪化すると思う | |||
| 検査結果への不安 | 病状への不安 | 狭窄があった場合,検査後,手術が必要なのか気になる | 6 |
| 検査中,自分の大腸粘膜が正常なのか,よくわからず,不安である | |||
| 調子が悪い時は検査が受けられないと不安である | |||
| がん化の不安 | 大腸がんではないかという恐れをもって検査を受ける | 9 | |
| 大腸がんのリスクが高いため,定期的に検査を受けないと不安である | |||
| 検査でがんが見つからないかという心配と不安がある | |||
| 時間と費用の負担 | 通院・検査に伴う時間負担 | 就業していると,検査の都合をつけるのは大変である | 11 |
| 麻酔を使うため,公共交通機関を使って通院すると時間がかかる | |||
| 検査のために1日何もできない,時間が無駄になる感覚がある | |||
| 通院・検査に伴う費用負担 | 通院にタクシーを使うと,出費になる | 2 | |
| 軽症となり難病医療費助成から外れると,検査の自己負担が大きくなる | |||
| 合計 | 153 |
これは,患者の前処置として処方される下剤や洗浄剤を服用することへの負担感,服用後の症状による身体的苦痛や症状への懸念を表わすものである.このカテゴリーは,『洗浄剤は美味しくない』『大量の洗浄剤を服用する負担感』『炎症時の体力の消耗』『通院中の便意切迫感』の4つのサブカテゴリーで構成された.
やっぱり何べん飲んでも洗浄剤は飲みにくいし,塩辛くて.なんかそれでもう体調悪くなりそうですね.(参加者F)
生活に困るぐらい下痢をするとかトイレに駆け込むとか,そういう悪い状態がここ最近はないので,まだ飲めるんですけど.やっぱり炎症があるって自分がわかっているときに飲むのは,飲む負担もありますし,出すことへの体力の消耗っていうんでしょうか.下痢の時ってすごいしんどいんですね,水分をもっていかれるからか.(参加者C)
お腹がギュルルってなったらすぐトイレに駆け込まないと漏れそうな感じだったので.途中,ちょくちょく(トイレに)行きつつ,駅のトイレ使ったりしてたので.途中,漏らさないか,結構心配でしたね.駅からクリニックまで歩くから,途中にコンビニがないか調べてたりしてました.下準備して頑張って向かったという感じだったので,その意味で負担でした.(参加者J)
2) 【検査中の痛み】これは,検査中の内視鏡操作による疼痛や送気による腹部膨満感などの患者の身体的苦痛を表わすものである.とくに腸管炎症時や肛門部狭窄,痔瘻,癒着などのIBD合併症を有する患者では検査中の身体的苦痛が大きかった.このカテゴリーは,『炎症時の内視鏡操作に伴う痛み』『内視鏡挿入時や体位変換時の合併症による痛み』『腸管屈曲部に内視鏡が当たる痛み』『送気による腹部の張りと痛み』の4つのサブカテゴリーで構成された.
入院している時にカメラが入ると,痛くて.真っ赤っかな腸管を見ながら,すごく痛かったです.(参加者G)
癒着もあるので,なかなか入らなくて.「痛い!痛い」って言います,私,いつも.(参加者I)
大腿骨頭壊死があるので体位を変えたり,体の向きを変えたり,足の付け根なので,それがやっぱりできない.結構,それもつらかった.(参加者D)
曲がるところでゴーンっという感じになってしまって,曲がるところで痛い.(参加者F)
腸を膨らませるためにガスを入れるんですけど,それもちょっとお腹が張って痛い.(参加者H)
3) 【検査への恐怖】これは,患者の検査中の痛みや検査に伴い起こりうる偶発症を恐れる気持ちを表わすものである.このカテゴリーは,『検査中の痛みに対する恐怖』『先が見えない不安』『検査に伴う偶発症への恐怖』の3つのサブカテゴリーで構成された.過去に受けた検査で痛み,出血などの偶発症を体験した患者,また検査後に病状が悪化した患者ほど検査への恐怖を感じていた.
もう検査の前は恐怖,恐怖,恐怖の状態でした.トボトボ歩いてカメラのところに行って,「あぁ,とうとう来たか.逃げられへんな」という,まな板の鯉状態.(参加者A)
「ちょっとキツイけど,もうちょっと,そこ過ぎたらもう大丈夫だから」と先に言っていただくと,「今,ここが一番しんどい.ここ超えたらいけるんだ」っていう,耐えれるとかはあると思うので.後どれくらいしんどいとか,今,痛みがピークなのか,もうちょっとあるのかとか知ってると.先が見えないのは不安が強くなっちゃうので.(参加者C)
その後もすごく出血したりとかがあってね.それがすごく恐怖になってしまってね.(参加者F)
4) 【異性の医療者に対する抵抗感】これは,異性の医師や看護師から前処置や検査が行われることへの患者の羞恥心とそれによる抵抗感を表わすものである.このカテゴリーは,『異性の医療者への羞恥心』『異性の医療者に対する抵抗感』の2つのサブカテゴリーで構成された.この抵抗感はとくに女性患者が強く感じていた.
内視鏡自体が,はじめは男性の先生ばっかりだったんですけど,やっぱり初めてとか,何回目ぐらいかはすごく抵抗がありましたね.今は女性の先生なんで,痛い時は痛いって言えるし,何でも言えるからいいですけど.看護師さんも,女性の浣腸をするときは女性の看護師さんに来てほしいなっていうのは,すごく思いますね.(参加者F)
私は出産が終わった後だったのでいいんですけども,お尻の穴から入れるっていうのが,10代とか若いお嬢さんはお尻を見せるっていう行為が,しかも男性の先生が多いと思うので,そこの抵抗感というか.(参加者C)
5) 【検査後の疲労と病状悪化】これは,検査を受けた後に患者が感じる身体的疲労や病状悪化の認識を表わすものである.このカテゴリーは,『長時間の検査による疲労』『薬剤による倦怠感』『検査後の病状悪化』の3つのサブカテゴリーで構成された.
あそこ(内視鏡検査室)にいる時間が長いですね.いつ終わるのかなって思って.結構ゆっくり入れながら見はるので.検査時間も結構長いですからね.終わった直後はしばらく休まないと帰れない状態で.(参加者B)
意外と下剤を飲んだ後の体への負担とか,鎮静剤や麻酔から目が覚めた後の眠気とかダルさとか,そういったものも結構,後々残ってたので.(参加者J)
たぶんストレスからか,終わってから出血がひどくなったりとか.私ははじめ,内視鏡で引っ掻き回されるから出血がひどくなったんじゃないかって思ってたんですけど,そうじゃなくてストレスで病気が悪くなるんじゃないかって思うようになりました.(参加者F)
6) 【検査結果への不安】これは,患者が感じる検査結果への心配や不安を表わすものである.このカテゴリーは,『病状への不安』『がん化の不安』の2つのサブカテゴリーで構成された.
狭窄があると先に進まないんで.そしたら当然(検査が)全部できないというのがあって.その狭窄は例えば,手術が必要なレベルなのかどうなのかっていうのは,後から気になるところ.(参加者A)
クローン病って一般の人よりがんのリスクが高い.健常者と比べたら腸の病気でお尻の痔瘻がんとかリスクは高くなるんで.大腸内視鏡検査でそういう腫瘍が見つからないかっていう心配と不安はあります.肉眼的にカメラの所見上わからなくても生検でわかる場合もあるので.生検結果で悪性が出ていないかっていうのは心配になるところです.(参加者J)
7) 【時間と費用の負担】これは,患者が受検のために日程を調整し,当日の通院や受検のための時間的拘束と自己負担費用に対して感じる負担感を表わすものである.このカテゴリーは,『通院・検査に伴う時間負担』『通院・検査に伴う費用負担』の2つのサブカテゴリーで構成された.
クローン病である限り,治らない限り,ずっと受けていかなければいけないことで負担だなって.検査のために1日何もできない,時間が無駄になるっていう感覚もあるので.(参加者J)
初めの頃は難病の特定疾患の医療費で支払ってましたので,負担額は少なかったんですよ.結構,重症だったんで.今は軽症になったので,その療養制度から外れたんですね.その分,負担は大きくなってます.(参加者H)
本研究により,大腸内視鏡検査に伴いIBD患者が体験する苦痛として【前処置による心身の負担】【検査中の痛み】【検査への恐怖】【異性の医療者に対する抵抗感】【検査後の疲労と病状悪化】【検査結果への不安】【時間と費用の負担】が見出された.
一般的に大腸内視鏡検査を受ける患者の体験に関するシステマティックレビューの結果では,大腸内視鏡検査を受ける患者の不安や心配は,腸管の前処置,検査手技に伴う困難(恥ずかしさ,痛み,起こりうる偶発症,鎮静),診断に関する懸念の3つに大別された(Yang et al., 2018).また,大半の患者が前処置を検査の中で最も負担であると感じており,痛みへの不安や予期,恥ずかしさや傷つきやすさといった困難を抱えていることが報告されている(McLachlan et al., 2012).これらの結果と本研究結果を比較すると,【前処置による心身の負担】は大腸内視鏡検査を受ける患者に共通した体験であるといえる.しかしながら,【前処置による心身の負担】の中でも『炎症時の体力の消耗』はIBD患者に特有の苦痛であると考える.消化管の炎症は栄養素の消化吸収能の低下,腸管からの栄養素の漏出,代謝の亢進を引き起こすだけでなく,炎症時は腹痛や下痢などによる食欲や食事摂取量の低下により,たんぱく質エネルギー低栄養状態となる患者が多い(杉原ら,2021).そこに前処置として下剤や腸管洗浄剤を服用すると腹痛や下痢の症状が増強するだけでなく,脱水を起こし,患者の体力は著しく消耗する.また,『通院中の便意切迫感』は大腸内視鏡検査を受ける患者に共通する体験であるが,IBD患者において,その程度が強いことが考えられる.便意切迫感は,軽症から重症をあわせて約6割のIBD患者にみられることが報告されている(Dawwas et al., 2021).日本の潰瘍性大腸炎患者を対象とした調査では,56%の患者が便意切迫感の症状を有しており,患者の改善したい症状は腹痛や下痢,血便といった代表的な症状よりも便意切迫感が最も多かった(Hibi et al., 2020).そのため,便意切迫感は検査前からIBD患者によくみられる症状であり,そこに前処置が加わるため,『通院中の便意切迫感』はIBD患者にとって切実な苦痛であると考えられる.一方で,患者が医療者に相談しにくい症状は便失禁が最も多く,次いで残便感と便意切迫感であった(Hibi et al., 2020).そのため,IBD患者は大腸内視鏡検査に伴い『通院中の便意切迫感』とそれに伴う便失禁への恐怖を抱えていても,その苦痛を医療者に表出しにくいことが考えられる.
Hafeez et al.(2012)の研究では,IBD患者は非IBD患者に比べて大腸内視鏡検査を受けた回数が多いにもかかわらず,検査中,とくに内視鏡操作中の不快や痛みがより頻繁に述べられたことが示されている.本研究においても同様に,参加者の大半が発症後に大腸内視鏡検査を10回以上受けていたが,【検査中の痛み】について多くのコードが得られた.【検査中の痛み】を構成するサブカテゴリーの結果から,IBD患者は検査中に様々な痛みを体験していることが明らかになった.このうち『腸管屈曲部に内視鏡が当たる痛み』『送気による腹部の張りと痛み』は大腸内視鏡検査を受ける患者に共通した体験(秋森ら,1998)であるが,『炎症時の内視鏡操作に伴う痛み』『内視鏡挿入時や体位変換時の合併症による痛み』はIBD患者に特有の苦痛であると考える.IBD患者における内視鏡検査の特殊性として,腹痛や下痢,血便などの有症状時の検査が多いこと,狭窄・癒着・瘻孔・肛門病変などの腸管合併症を有した状態での検査が必要となることが挙げられている(與賀田ら,2016).炎症時は腸管が腫脹しており,IBDの腸管合併症として狭窄や癒着があると内視鏡が挿入しづらく,患者の苦痛は増大する.また,参加者Dはステロイドにより大腿骨頭壊死を起こし,検査中の体位変換に苦痛を感じていた.そのような治療の副作用のみならず,IBDには腸管外合併症として関節炎や皮膚症状があるため,検査中の体位によって患者の苦痛が助長することが考えられる.
【検査への恐怖】,【異性の医療者に対する抵抗感】,【検査結果への不安】,【時間と費用の負担】は先行研究(Yang et al., 2018;McLachlan et al., 2012;秋森ら,1998)に含まれるものであり,一般的に大腸内視鏡検査を受ける患者に共通した体験であるといえる.
一方,【検査後の疲労と病状悪化】は先行研究ではみられず,IBD患者特有の苦痛であると考える.IBD患者において疲労は,健常者に比べ2倍多くみられ(Jelsness-Jørgensen et al., 2011),47%の患者に起こる症状であり,病状が悪化している活動期では72%の患者が疲労を感じていた(D’Silva et al., 2022).IBD患者にみられる疲労の原因として,炎症,貧血,微量元素欠乏,薬剤,腸内細菌叢が挙げられる(Nocerino et al., 2020).そのため,大腸内視鏡検査という同じ侵襲を受けても,IBD患者は健常者に比べて検査後の疲労を起こしやすく,とくに活動期の疲労は大きいと考えられる.IBD患者では前述の【検査中の痛み】のために鎮静剤や鎮痛剤を使用することが多いため,『薬剤による倦怠感』にも注意が必要と考える.さらにIBD患者の場合,大腸粘膜は脆弱で傷つきやすいため,前処置や内視鏡操作によって腸管に負荷がかかり,『検査後の病状悪化』を引き起こしやすい.また,参加者Fの語りのようにストレスによる病状への悪影響も考えられる.ストレスは脳腸相関によって腸内細菌叢の変化や炎症性サイトカインを増加させ,IBDに悪影響を及ぼすことが報告されている(Brzozowski et al., 2016;Bernstein, 2017).検査に伴う苦痛が患者にとってストレスとなれば,それがIBDの病状悪化につながることが考えられる.
2. IBD患者にとって大腸内視鏡検査とそれに伴う苦痛が意味するものBarsky et al.(2021)の調査では,IBD患者が疾患活動性を評価するための検査を選択する際,最も重視する基準は正確性であり,調査開始当初は60%の患者が大腸内視鏡検査より便検査を選好したが,便検査の最新のエビデンスに基づく正確性に関する情報を提供した後では,65%の患者が便検査より大腸内視鏡検査の方を選好していた.また,Lopez et al.(2016)の調査では,IBD患者が最も恐れる合併症はがんであり,大腸がんスクリーニングの最適な方法として86%の患者が大腸内視鏡検査を選択し,CTやMRI,便潜血検査,血液検査などの他の検査方法より選択回答者が多かった.本研究で抽出された『病状への不安』『がん化の不安』は患者が検査前から抱えるものであり,大腸内視鏡検査によってそれらの不安が払拭されることを期待しながら検査に臨むのではないかと考える.その場合,検査に伴う苦痛は,患者にとって検査で得られる正確性より優先度が低く位置づけられる.IBD患者にとって大腸内視鏡検査は受けたくないが受けなければならない検査であり,参加者Aの「まな板の鯉状態」という語りから,患者にとって検査に伴う苦痛は自身でコントロールすることが難しいもの,正確な検査結果を得るために我慢すべきものとして意味づけられていると考える.
IBDと共に生きることに焦点を当てたメタ統合の結果では,患者は普通の生活を求めpush(押す)が,IBDがそれをpull(引き戻す)ことを繰り返す,IBDと「普通の生活」との絶えざる対立が示されている(Kemp et al., 2012).大腸内視鏡検査に伴う苦痛は,患者にとってIBDにpullされる,すなわち自分がIBD患者であることを突き付けられる体験であると考える.IBDと共に生きる限り,今後も受けていかなければならない検査であり,患者にとって大腸内視鏡検査とそれに伴う苦痛はその都度,「普通の生活」から引き戻される体験を意味すると考える.
3. 看護実践への示唆本研究により,IBD患者が大腸内視鏡検査に伴って体験する苦痛が明らかになった.IBD患者に特化した大腸内視鏡検査に伴う苦痛については,これまで国内外の研究で明らかにされていなかった.本研究結果より看護師は,IBD患者特有の検査に伴う苦痛とその意味付けを理解し,それが今後の検査での苦痛につながらないように苦痛の軽減に向けた援助が求められる.
まず,【前処置による心身の負担】の『炎症時の体力の消耗』について,炎症時は検査前から腹痛や発熱などで食事が十分に摂れず,下痢で排便回数が多い患者では,前処置なしでも腸内容物がほとんど残っておらず,検査で必要な情報を得られることが多い(野村・山崎,2012).そのため,事前に患者の症状の程度や食事摂取状況を確認し,前処置の必要性について医師に確認する.『通院中の便意切迫感』は患者にとって切実であるが,医療者に相談しにくい問題であるため,看護師から声をかけ,事前に患者の通院手段や経路を確認し,通院途中で利用できるトイレの場所についても一緒に確認する.便失禁対策としてパットの使用や下着の着替えを準備しておくことを提案する.また,『通院中の便意切迫感』とそれによる便失禁への恐怖に対して,検査を受ける医療機関を受診してから洗浄剤を服用することが可能であれば,一つの方法として提案する.
腸管炎症時や合併症を有する患者ではとくに【検査中の痛み】が強いことを理解し,事前に検査を受ける患者の疾患活動性を血液検査データや症状をもとに評価し,狭窄・癒着・瘻孔・肛門病変などの腸管合併症についても手術歴とともに確認する.炎症時は内視鏡が炎症部位に触れると痛みを訴える患者が多いため,鎮痛剤や鎮静剤を医師の指示のもと使用する.狭窄や高度の癒着のある場合は,医師と相談して細径の軟らかいスコープを選択し,患者の状態観察を注意深く行いながら医師の指示のもと用手圧迫や体位変換を行う(野村,2014).痔や痔瘻などの肛門病変を有する患者では検査時に使用する潤滑剤を通常より多めに準備する.また,関節炎・結節性紅斑などの腸管外合併症の有無と程度についても確認し,検査中の体位によって患者の苦痛が助長することがないように毛布やクッションなどを用いて安楽な体位を整える.
検査後は,患者の【検査後の疲労と病状悪化】に注意する.とくに病状が活動期にあり貧血のみられる患者,検査が長時間に及んだ患者,倦怠感を起こしやすい薬剤を使用した患者では,検査後の疲労が強いと考えられるため,保温に留意してゆっくり休める時間とスペースを確保する.また,IBD患者では『検査後の病状悪化』を起こしやすいため,腹痛や出血の増強などの具体的な悪化徴候とともにそれらがみられた際の具体的な対処法を事前に患者へ丁寧に説明する.とくに活動期や重症の患者では検査により病状が悪化する可能性が高いため,入院可能な施設で検査に臨めるよう調整する,あるいは外来で検査後に電話などを用いて体調を確認することも必要と考える.
本研究の参加者は,全員が患者会会員であり,罹病期間が比較的長く,IBD発症後に大腸内視鏡検査を10回以上受けた参加者が多かったことが分析結果に影響している可能性がある.しかしながら,そのような受検回数が多い患者であっても大腸内視鏡検査は患者にとって様々な苦痛を伴う検査であることが示された.今後は,患者会に入会していない患者や罹病期間が比較的短い患者にも研究協力を募り,調査と分析を継続していく.その結果をふまえ,大腸内視鏡検査を受けるIBD患者の苦痛軽減に向けた援助についてさらに検討していく必要がある.
本研究では,IBD患者が大腸内視鏡検査に伴い体験する苦痛を明らかにすることを目的として,患者に面接調査を行い,質的記述的に分析した.結果,IBD患者は大腸内視鏡検査に伴い,【前処置による心身の負担】【検査中の痛み】【検査への恐怖】【異性の医療者に対する抵抗感】【検査後の疲労と病状悪化】【検査結果への不安】【時間と費用の負担】という苦痛を体験していた.
謝辞:本研究の趣旨をご理解くださり,快く面接調査に応じてくださいました研究参加者の皆様に心よりお礼申し上げます.本研究はJSPS科研費22K10861の助成を受けたものである.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:MNは研究の着想から最終原稿作成に至るまで,研究プロセス全体に貢献した.MTは研究の分析,原稿への示唆および研究プロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.