2023 年 43 巻 p. 315-323
目的:産科混合病棟で勤務する助産師が認識する,産科混合病棟特有のケア経験とその経験から培った自己のケア能力について明らかにする.
方法:産科混合病棟の経験が4~5年以上の助産師8名に,半構造化面接にてデータ収集し,質的記述的に分析した.
結果:助産師は,産科混合病棟特有のケア経験と自己のケア能力は,【助産師1人の重責を感じる勤務経験に基づく,産科領域の的確な判断と調整能力】,【他科患者へのケア経験に基づく,広い視野を持ったアセスメントと調整能力】,【他科患者の人生に触れた経験に基づく,長期的な視点で退院後の生活や育児を考える能力】,【看護師と働くことに基づく,看護職チームの中で助産師の専門性をケアに活かす能力】であると認識していた.
結論:助産師1人体制での勤務や他科患者との関わりなど,産科混合病棟特有のケア経験から助産師として必要なケア能力を培えるよう,教育体制を検討する必要性が示唆された.
Purpose: This study clarifies the care experience specific to a mixed obstetrics ward as perceived by midwives working there. Furthermore, it identifies the care capabilities drawn from that experience.
Method: Eight midwives with more than four to five years of experience in a mixed obstetrics ward were interviewed using a semi-structured interview and the responses were analyzed qualitatively and descriptively.
Results: Midwives recognized that their experience of care unique to mixed maternity wards and their own care ability were [Accurate judgment and adjustment ability in the field of obstetrics based on the experience of working as a single midwife who feels a heavy responsibility], [Assessment and adjustment ability of subjects with a broad perspective based on experience in caring for patients from other departments], [The ability to think about post-discharge life and childcare from a long-term perspective based on the experience of touching the lives of patients from other departments], [The ability to utilize the midwife’s expertise in care within the nursing team based on working with nurses].
Conclusions: The experience of care unique to mixed obstetrics wards, such as the working system of one midwife and care for patients from other departments, suggests the need to consider the educational system so as to cultivate the necessary care skills as a midwife.
我が国の分娩場所は,1950年は95%を占めていた自宅分娩から,病院や診療所などの施設分娩へと移行し,1975年には99%が施設分娩となった(厚生労働省,2019).施設分娩の中でも,半数以上が病院における分娩である(厚生労働省,2019).病院での分娩は産科単科病棟または産科混合病棟で行われ,近年では,産科混合病棟が77.4%を占めている(日本看護協会,2017).さらに,産科と混合する診療科は,婦人科や小児科だけでなく多岐にわたるようになっており,産科混合病棟の85.3%が3科以上の診療科をもつことを明らかにした報告もある(出石・木村,2015).以上より,産科病棟は産科単科病棟から産科混合病棟へ,その中でも様々な診療科が混合した病棟へと移り変わり,助産師が働く場は変遷していることがわかる.
産科混合病棟で勤務する助産師が受け持つ対象者も変化している.2012年と2016年の報告を比較すると,他科患者を受け持たない割合は55.2%から16.3%に減少し,産婦と他科患者を同時に受け持つ割合は10.4%から43.7%へ増加している(日本看護協会,2017).そのような状況で勤務する助産師は,妊産褥婦よりも他科患者のケアを優先せざるを得ず(小柳,2017;日本助産師会,2003;白石,2016),妊産褥婦へのケアが身体面の観察など必要最低限に留まっていることに申し訳なさやジレンマを感じている(日本助産師会,2003;白石,2016;堀内ら,2003).妊産褥婦にとって必要と考えるケアが十分に実践できていないことを理由に,自身を助産師として自律していないと認識し(岩田ら,2018),褥婦ケアや母乳育児ケアの自己評価が産科単科病棟の助産師より低い傾向にあることも報告されている(岩崎・斎藤,2017).また,他科患者への看護業務と並行して分娩介助を行うなど助産ケアに集中しづらいことや(日本看護協会,2017;小柳,2017;島田ら,2019),先輩助産師のケアを見る機会が少ないこと(小柳,2017)を背景に,ケア技術が洗練できず助産実践能力を積み重ねにくいとの指摘もなされている.
以上のように,先行研究より,産科混合病棟で勤務することによる助産師の困難感や課題が明らかにされている.一方で,産科混合病棟の助産師は,産科単科病棟の助産師よりも仕事意欲が高いこと(石倉ら,2014)や,産科以外の新たな領域への関心を抱き(藤田ら,2019),他科患者のケアから得た学びを妊産褥婦へのケアにつなげていることも報告されている(友田・石井,2007).このことから,産科混合病棟で勤務する助産師は,産科だけでなく様々な診療科の患者に対する幅広いケアを経験し,その中にはケア能力の獲得につながる経験もあると考える.産科混合病棟が分娩取り扱い病院のうち約8割を占めることから,我が国の助産師の多くは産科混合病棟で勤務していると推察する.産科混合病棟で得られたケア経験と,その経験から培うことのできるケア能力を明らかにすることで,産科混合病棟で勤務する助産師のモチベーション向上や,産科混合病棟における助産師としての役割を認識することにつながると考える.
本研究の目的は,産科混合病棟で勤務する助産師が認識する,産科混合病棟特有のケア経験とその経験から培った自己のケア能力を明らかにすることである.
質的記述的研究
2. 用語の定義産科混合病棟:産科を含み,3科以上の診療科を有する混合病棟
ケア経験:産科混合病棟で勤務する助産師が,産科混合病棟特有であると認識する,妊産褥婦および産科以外の患者に対して心身の安全・快適さを保つために行う思考過程と,それに基づいて実践した行為(日本助産師会,2006)
3. 研究協力者分娩を取り扱う産科混合病棟をもつ病院を複数選定し,看護責任者に研究協力を依頼した.承諾を得られた病院の看護責任者から,産科混合病棟における経験が4~5年以上ある助産師の紹介を受け,研究協力に同意が得られた者とした.経験年数を4~5年以上と定めた理由は,産科混合病棟におけるケア経験と培ったケア能力についての具体的な語りを得たいと考えたためである.2019年度改訂助産実践能力習熟段階(日本看護協会,2020)における,「ケア提供した事例を具体的に思い浮かべながら助産師としての姿勢を自己評価できる」,「自己課題を明確にできる」の目標到達経験年数の目安を参考とした.
4. データ収集期間2021年6月~8月
5. データ収集方法・内容データ収集方法は,フェイスシートおよび半構造化面接であった.フェイスシートでは,年齢,経験年数や産科混合病棟を構成する診療科について記入してもらった.半構造化面接は,COVID-19感染症における国の警戒レベルが高水準であったためオンライン会議システムを用いて実施し,研究協力者の承諾を得てICレコーダーに録音した.面接では,研究協力者が産科混合病棟特有と認識するケア経験と,そのケア経験から培ったと考える自己のケア能力について語ってもらった.産科混合病棟でのケア経験とケア能力につながる他施設や他病棟での経験があれば,含めて内容を聞き取った.
6. データ分析方法Miles & Huberman(1994)による質的データ分析方法を参考に分析を行った.インタビューデータを逐語録にし,繰り返し読むことで全体像を把握した後,研究協力者が認識する産科混合病棟における特有のケア経験と,そのケア経験から培った自己のケア能力についてそれぞれの関連を見失わないよう注意しながらコード化した.コードを内容の相違点,共通点について比較することにより分類し,サブカテゴリー化,カテゴリー化した.
7. 妥当性と真実性の確保妥当性と真実性を確保するために,結果は研究協力者の語りをありのままに,かつ十分に用いて記述した.また,データの分析・解釈の過程において,助産学領域の研究者および質的研究の経験が豊富な研究者に指導・助言を受けた.さらに,分析終了後,産科混合病棟の実態を熟知している臨床助産師よりスーパーバイズを受けた.
8. 倫理的配慮本研究は,札幌医科大学倫理委員会の承認を得て行った(承認番号2-1-89).研究協力者には文書および口頭にて,研究の趣旨,研究協力の任意性と撤回の自由,研究に関する情報の提示,個人情報の保護,研究成果の公表等について説明した.研究協力者の心身に及ぼす危険性は予測されないと考えたが,研究協力者が語るケア経験やケア能力を評価するような言動をしないよう配慮することを説明し,同意書への署名をもって同意とみなした.
研究協力者は8名で,助産師経験年数は平均19.8年,産科混合病棟経験年数は平均12.1年であった.8名全員が総合病院で勤務していた.詳細は表1に示す.
研究協力者の概要
年齢 | 助産師経験年数(年) | 産科混合病棟経験年数(年) | 病棟を構成する産科以外の診療科名 | インタビュー時間(分) | |
---|---|---|---|---|---|
A | 40代 | 22 | 14 | 婦人科,循環器内科,呼吸器科,消化器科(女性のみ) | 80 |
B | 40代 | 28 | 28 | 婦人科,循環器内科,消化器内科,呼吸器科,整形外科,外科,泌尿器科(女性のみ) | 76 |
C | 40代 | 16 | 13 | 婦人科,麻酔科,眼科,耳鼻科 | 86 |
D | 40代 | 21 | 15 | 婦人科,耳鼻科,小児科,整形外科,消化器科,皮膚科,眼科 | 102 |
E | 40代 | 19 | 6 | 婦人科,耳鼻科,小児科,整形外科 | 93 |
F | 30代 | 13 | 4 | 婦人科,内科,乳腺外科,整形外科(女性のみ) | 61 |
G | 40代 | 28 | 5 | 婦人科,乳腺外科,循環器内科,呼吸器内科,消化器内科,歯科口腔外科,泌尿器科,総合診療科,整形外科など(女性のみ) | 87 |
H | 30代 | 12 | 12 | 婦人科,内科,泌尿器科,外科,整形外科(女性のみ) | 69 |
分析の結果,4つのカテゴリーが抽出された.以下,各カテゴリーについて説明する.カテゴリーは【 】,サブカテゴリーは〔 〕,各カテゴリーを言い表している研究協力者の語りを「斜体」で示し,意味内容の不足部分は( )で補足した.詳細は表2に示す.
助産師が認識する産科混合病棟特有のケア経験と自己のケア能力
カテゴリー | サブカテゴリー |
---|---|
助産師1人の重責を感じる勤務経験に基づく,産科領域の的確な判断と調整能力 | 相談する助産師がいない中で,複数の産婦をアセスメントし,産まれる順番とケアの優先順位を判断する |
分娩進行や切迫早産の妊婦の現状と予測をアセスメントし,分かりやすくこまめに看護師へ伝える | |
産科で緊急事態が起きた場合を想定し,対応や応援要請について事前に考える | |
分娩対応中も受け持ち対象者に必要なケアを常に考え,直接対応できないことは具体的に看護師に依頼する | |
他科患者へのケア経験に基づく,広い視野を持ったアセスメントと調整能力 | 妊産褥婦に対して他科疾患の可能性を含めた臨床推論をする |
妊産褥婦と他科患者の立場に立ってケアのタイミングや方法を考える | |
妊産褥婦と他科患者が表出する言葉だけでなく,その裏にある思いを読み解く | |
病棟全体の状況を把握し,事故が起きないよう自分を含めスタッフの業務調整をする | |
産科だけでなく他科を含めた複数の医師のスケジュールを把握して調整する | |
他科患者の人生に触れた経験に基づく,長期的な視点で退院後の生活や育児を考える能力 | 妊産褥婦と他科患者が退院後も順調に生活していけるよう,個別性のある背景や希望を理解したうえで必要な支援を考える |
母子の退院をゴールとするのではなく,今後の育児生活を予測的な視点でみる | |
自分の価値観とは異なる家族の多様性を理解する | |
母子と家族が満足のいく人生を送るためには,命を迎えた時から家族ケアが必要であると捉える | |
看護師と働くことに基づく,看護職チームの中で助産師の専門性をケアに活かす能力 | 看護師と協働する中で看護職チームの一員である自覚を持ち,チームに貢献する |
自身に根付く助産師の専門性を改めて自覚し,病棟管理やケアに活かす |
このカテゴリーは,〔相談する助産師がいない中で,複数の産婦をアセスメントし,産まれる順番とケアの優先順位を判断する〕,〔分娩進行や切迫早産の妊婦の現状と予測をアセスメントし,分かりやすくこまめに看護師へ伝える〕,〔産科で緊急事態が起きた場合を想定し,対応や応援要請について事前に考える〕,〔分娩対応中も受け持ち対象者に必要なケアを常に考え,直接対応できないことは具体的に看護師に依頼する〕の4つのサブカテゴリーから構成された.
助産師は,自分1人と看護師の勤務体制で,産科領域に責任をもてるのは自分しかいない緊張を感じながら勤務した経験から,産科に関する判断能力を磨き看護師との調整能力を培ったと認識していた.具体的には,複数の分娩予定者がいても助産師として対応できるのは自分だけであるため,母子全員の安全を守るために分娩進行状態を的確にアセスメントし,ケアの優先順位を判断していた.同時に,分娩進行中の産婦のケアを行いながらも,他の受け持ち対象者に必要なケアを考え続け,看護師の経験状況に合わせた具体的な依頼をしていた.また,産科領域で起きている状況を看護師に察してもらうことは難しいため,助産師は,分娩進行中の産婦や症状の悪化がみられる切迫早産の妊婦の状態と今後の予測について,分かりやすくこまめに看護師に伝えていた.さらに,病棟内には自分しか産科を守れる助産師はいないという強い責任感のもと,平常時から緊急時を見据えて,当直医の居場所や他病棟の産科経験者の有無を把握していた.
B氏:「1人なので,相談できない.判断が難しい時はすごく悩みますし,何かあれば早めにでも先生にコールしている.お産が何件か重なると,予定者が5,6人いると大変.(分娩予定者が)重なった時に,産まれる順番やタイミング(の判断)を学びました.」
G氏:「分娩室に入っている1時間,あの人の何が終わる,何を見なきゃって常に考えさせられる.頼めるところは頼みます,看護師に.お産が来たからといってその人たち(産婦以外の対象者)の受け持ちが外れるわけではないので,単発で頼むようにしています.褥婦さんには,とにかく授乳ができてて,今の時間はどうだったか聞いてきてもらっていい?というように.」
B氏:「(助産師がいない勤務では)状況を必ず看護師さんに伝えています.お産に限らず,切迫の人とかでも,いまお腹張ってきてこんな状況だからって.切迫のモニターだけ見てても状況が伝わらないこともあるので,できるだけ伝わるように.」
D氏:「いま搬送になったらどうするかなって,常にシミュレーションしています.今日,当番の先生は誰で,救急外来のスタッフは誰,この病棟の経験者は誰,何かあったらここにヘルプをお願いできるかもしれない,とか.」
2) 【他科患者へのケア経験に基づく,広い視野を持ったアセスメントと調整能力】このカテゴリーは,〔妊産褥婦に対して他科疾患の可能性を含めた臨床推論をする〕,〔妊産褥婦と他科患者の立場に立ってケアのタイミングや方法を考える〕,〔妊産褥婦と他科患者が表出する言葉だけでなく,その裏にある思いを読み解く〕,〔病棟全体の状況を把握し,事故が起きないよう自分を含めスタッフの業務調整をする〕,〔産科だけでなく他科を含めた複数の医師のスケジュールを把握して調整する〕の5つのサブカテゴリーから構成された.
助産師は,他科患者を受け持った経験から,産科領域に留まらない多角的な視点かつ対象者の視点に立ったアセスメントを行い,病棟全体を俯瞰して調整する能力を培ったと認識していた.具体的には,他科患者へのケアを通して産科では経験しない疾患に関する理解を深めたことから,妊産褥婦が訴える症状にも産科以外の疾患が隠れている可能性があることを学び,産科の枠を超えた臨床推論をしていた.また,自分主体で妊産褥婦と他科患者の状態や思いを判断するのではなく,常に相手のペースに沿い心情をくみ取り,対象者にとって最も良いケアについて考えていた.さらに,他科患者を受け持ったことで,産科だけでなく他科に関わっている医師や看護師の状況を把握できるようになり,病棟全体を見渡した調整をしていた.
E氏:「早期発見の力や疑う力が付きました.妊婦さんから耳の聞こえが良くないと相談を受けて,突発性難聴の知識がなかったら,マイナートラブルかなと思ったかもしれない.早期治療しないと良くならないから,“すぐ受診してください.”と言って,やっぱり突発性難聴だったんです.もしかして知らなかったら,そのままスルーすることですよね.」
B氏:「婦人科の癌患者さんを受け持ったんです.清拭して陰部洗浄しようと声を掛けたら,自分勝手だと言われたことがあって.自分の思う通りに進めていきたい思いの方が強くて,仕事を早く終わらせないといけないとか考えて,患者さんを見れていなかったんだという出来事がありました.その後からは,患者さんの立場に立って看護していけるようになったと思います.患者さんの状態をちゃんと見るということを意識するようになりました.」
C氏:「卵巣癌かな,状態が悪くなってモヒ(モルヒネ)とか使い始めた時に,夜中の4時にコールが来て,先生を呼んでほしいと.朝じゃ駄目なのって出かかったんですけど,なんかあるんだろうなと思って呼んだんです.家族も揃った状況で,もう呼吸をするのも辛いから意識を落とすドルミカムとか使ってほしいって,私は十分頑張ったと話すのを聞いた時に,先生を呼んでほしいと言われて断らなくて良かったと思ったんです.(言葉の)その裏にある思いを捉えるのがすごく大事だなって,その時から思うようになって.なんでそういうことを言っているのかを考えられるようになった.」
A氏:「いま(病棟で)起こっていることに対して優先順位を考えて,このスタッフだったらこれを任せられるとか采配をして,病棟全体の事故が起きないように考えながら仕事をするようになりました.他科の患者さんを受け持って,(他科の状況が)分からないわけじゃないので,自分だったらこの患者さんを受け持てるとか,大変そうなスタッフや患者さんの(全体)像を見て,采配していきます.」
3) 【他科患者の人生に触れた経験に基づく,長期的な視点で退院後の生活や育児を考える能力】このカテゴリーは,〔妊産褥婦と他科患者が退院後も順調に生活していけるよう,個別性のある背景や希望を理解したうえで必要な支援を考える〕,〔母子の退院をゴールとするのではなく,今後の育児生活を予測的な視点でみる〕,〔自分の価値観とは異なる家族の多様性を理解する〕,〔母子と家族が満足のいく人生を送るためには,命を迎えた時から家族ケアが必要であると捉える〕の4つのサブカテゴリーから構成された.
助産師は,他科患者の終末期ケアや退院調整の経験を通して,入院前後につながっている人生があることを実感し,退院後も続いていく生活や育児について考える能力を培ったと認識していた.具体的には,妊産褥婦と他科患者が最も適した退院先に帰り上手く生活していけるよう,入院前の生活や自宅環境について情報収集し,個別性を尊重したうえで必要な支援を考えていた.また,母子が退院できることだけを目標とするのではなく,退院後も続く育児生活を長期的かつ予測的に捉えて関わっていた.さらに,他科患者を看取った経験から,生と死のつながりと家族の多様性,そこに関わる医療者としてのケアの重要性を学び,産科における家族へのケアの必要性を再認識していた.それにより,子どもが産まれた家族が新たな家族として適応していけるよう関わっていた.
B氏:「(他科患者は)呼吸器や循環器で入院してくる人が多いんですけど,その後,家に帰ってからの生活を考えていかなきゃいけない.ちゃんと家での生活がうまく送れるかという見極めも,混合病棟ならでは.介入しなきゃいけない家庭環境だったり,家族背景だったり,どちら(産科と他科)にも共通するものはありますよね.今までどう生活してきたか,帰ってからどう(生活するのか)って.」
H氏:「どうやったら困らずに育児をして帰れるのか,という意味では,退院調整と同じなのかもしれない.退院するところを目標じゃなくて,地域に帰ってこの人はどういう風に育児をしていくだろうという視点で見ています.“やばいかも.”って,3日目とか4日目で思うんじゃなくて,“この人,大丈夫かな.”って思いながら見ています.」
F氏:「看取りの時は,誰か彼か来てくれるものなんだろうなと勝手に思っていたんですけど,そうじゃない人もいる.“亡くなってから連絡ください.”とか,そういう家族もいるんだと思いました.今までのその人の生き方と家族関係があるんだろうと思うと,それを無理強いすることでもない.その人の生活と性格と,今まで生きてきたのが最期に反映されるんだなと思います.」
E氏:「家族を含めてケアしていくことの大切さは,病気の人と関わることで分かっていった.(患者が)亡くなっていく時に見せる家族の顔も,子どもが産まれた瞬間に見せるお母さんの顔も,一生に1回しかない.人生に参加させてもらっている医療者として,できる限りのケアをしたい.(中略)(褥婦の)家族がどう思っているのか,家に帰ったらどんな環境なのかっていうのを,細かく聞くようになりました.前は,本人(褥婦)主体で考えることが多くて,それを取り巻く人がどういう考えなのかとか(聞いていなかった).家族を呼んで考えを聞いたり,家族に直接,本人の考えを伝えたりするようになった.」
4) 【看護師と働くことに基づく,看護職チームの中で助産師の専門性をケアに活かす能力】このカテゴリーは,〔看護師と協働する中で看護職チームの一員である自覚を持ち,チームに貢献する〕,〔自身に根付く助産師の専門性を改めて自覚し,病棟管理やケアに活かす〕の2つのサブカテゴリーから構成された.
助産師は,看護師と共に働く中で互いに学び合い,様々な出来事にチームで対応した経験から,自分も病棟を守る看護職チームの一員であることを自覚し,対象者へのケアに活かす能力を培ったと認識していた.具体的には,助産師である自分の根本には看護師があることを再認識したことから,妊産褥婦だけでなく他科患者と積極的に関わるようになり,チームメンバーの一員としてケアに貢献していた.また,看護師と関わる中で,助産師である自分は対象者の産科歴,心理社会面や母親として抱いている思いに強い関心を持っていることを再認識し,病棟管理業務やケアに活かしていた.
C氏:「助産師というものにこだわっていた.整形や内分泌の患者さんはいたんですけど,(チームが)完全に分断されていた.そこからケモをやってくださいって助産師に振られて,えっ!って.ターミナルの動けないような人もいて.お産の時の排泄は気にならないんですけど,おむつ交換という行為がすごく嫌で.なんで私がこんなことしなきゃいけないのと思っていたんですけど,夜勤の時に同期の看護師が一緒にやってくれて,“お便出て良かったね.”って患者さんに言っているのを見て.私ってすごく最低なことを言っていたと思って.ハッとさせられて,私たちって助産師の前に看護師がベースにあるんだと気付けた.(他科に)積極的に関わっていこうと思うようになりました.ナースコールが鳴っても,向こう(他科)の患者さんだし分かんないという感じだったんですけど,ひとまず話を聞いて,できることもあるかもしれないと思って.」
G氏:「看護師さんよりも,助産師特有なんでしょうね.(対象者のアセスメントを)病気から入らないで精神的なところから入ったり,家族のところから入ったり.そういうところが気になるのは,身に付いているんでしょうね.だから,お産の人の隣の部屋で(他科患者が)いいか,とか.部屋決めもしつこいですよね.もしかして,不妊治療とかしていたら嫌かな,とか.」
助産師は,自分以外に助産師がいない勤務経験から,【助産師1人の重責を感じる勤務経験に基づく,産科領域の的確な判断と調整能力】を培ったと認識していた.自分以外の助産師にいつでも相談できる状況とは異なり,助産師が1人しかいない状況は,産科に関する判断の全責任が自分にかかっている緊張の強い状況である.先行研究においても,助産師はこの状況にストレスを感じていることが示されていた(日本助産師会,2003;鈴木ら,2013;東盛ら,2015;梶井ら,2021).しかし,本研究では,産科混合病棟の助産師が認識する産科混合病棟特有のケア経験と自己のケア能力に着目した結果,助産師は,自分1人で重責を感じながら勤務した経験から,ケア能力を培ったと認識していることが明らかになった.Ericsson et al.(1993)は,課題が適度に難しく明確であることは個人を成長させる条件の一つであると述べ,木村ら(2002)は,夜勤帯リーダーや夜間の師長代行業務など責任を伴う仕事の体験は,病院勤務の助産師が成長するために有効であると述べている.自分以外に助産師がいない勤務体制は,緊張感が強いだけでなく,助産師を成長させる条件に合致しているために,ケア能力獲得の実感につながっていると考える.また,助産師は,自分以外のメンバーは全員看護師である状況から,看護師に対する細やかな調整能力を培ったと認識していた.先行研究では,看護師に産科の状況が理解してもらえないという助産師の思い(小柳,2017;白石,2016;島田ら,2019)が明らかになっていた.しかし,本研究において,助産師が培ったと認識した調整能力には,看護師に対して産科や助産師自身の状況,依頼したいケア内容を分かりやすく伝えるための工夫が含まれていた.この能力を培った背景には,助産師として産科を守るための強い責任感と,助産師の調整に対応し連携できる看護師の存在があるといえる.これにより,妊産褥婦の安全を守り,受け持ち対象者へのケアを切れ目なく行うことができ,ケア能力を培えたという助産師の認識につながっていると考える.
今回,助産師1人の勤務から得られるケア能力があることが明らかになった.一方,先行研究では,産科混合病棟の助産師は自身を自律していないと認識していること(岩田ら,2018),助産実践能力の自己評価が低いこと(岩崎・斎藤,2017)が示されている.したがって,助産師が自身の助産実践能力に自信をもてるような継続教育を検討する必要があると考える.具体的には,自信がないと感じるケア技術や臨床判断を洗練できるような教育体制を整えることや,経験する機会が少ないと思われる急変時の対応等は,他に助産師がいる勤務体制において積極的に経験を積むこと等が考えられる.さらに,自身の助産実践能力に自信がないまま,自分以外に助産師がいない勤務体制で複数の分娩予定者や緊急事態へ対応せざるを得ないことは,助産師にとって強い緊張を伴う経験であることは明らかである(日本助産師会,2003;鈴木ら,2013;東盛ら,2015;梶井ら,2021).したがって,負荷だけがかかる経験とならないよう,緊張感を持ちながらも安心して勤務ができる支援体制が必要である.また,助産師として産科領域を守るという責任感がケア能力を培うことにつながるといえるため,助産師が複数名いる勤務帯においても,妊産褥婦のケアに対する責任を自覚できるような卒前・卒後教育の検討が必要であると考える.
助産師は,看護師との協働を通して,看護師が担うケアの実際や役割について理解を深めるとともに,助産師としての自己の専門性を客観的に捉えていた.これは,多職種連携コンピテンシーモデルにおいて職種間コミュニケーションを支える要素とされている,他職種を理解する能力と自職種を省みる能力に一致している(多職種連携コンピテンシー開発チーム,2016).看護師と助産師の役割の共通点や専門性について理解することによりコミュニケーションが促進され,他職種と連携・調整する能力が磨かれていると考える.つまり,助産師が培ったと認識していた【助産師1人の重責を感じる勤務経験に基づく,産科領域の的確な判断と調整能力】と【他科患者へのケア経験に基づく,広い視野を持ったアセスメントと調整能力】は,【看護師と働くことに基づく,看護職チームの中で助産師の専門性をケアに活かす能力】により,さらに高められていくものと推察する.他職種を理解するためには,チームとして共に働くことが重要な要素であるといえるが,先行研究では,助産師と看護師の業務を区別し担当範囲を決めた方が良いという助産師の意見や,産科は独立した方が良いという助産師の意見が示されていた(友田・石井,2007).しかし,産科混合病棟で助産師が成長するためには,病棟を守る一つの看護職チームとして,看護師と共に助け合い学び合うことに意義があると考える.助産師と看護師の受け持ち対象者や業務を分断するのではなく,職種間の相互理解が深まるような役割分担と,看護職チームの一員である自覚をもてるような卒前・卒後教育の在り方を検討することが求められると考える.
助産師は,他科患者の退院調整や終末期ケアの経験から,生まれてから亡くなるまでの命のつながり,家族の関係性の多様さを改めて学んでいた.その学びから,入院中だけではなく退院後も順調に育児を行っていけるよう,長期的な視点で母子の健康と生活を支えるという助産師の役割を再認識し,【他科患者の人生に触れた経験に基づく,長期的な視点で退院後の生活や育児を考える能力】を培ったと認識していた.近年,産後うつや虐待,ハイリスク妊産婦の増加などにより,助産師には,出産施設における周産期ケアだけでなく,退院後,地域で子育てをする母子と家族を支援する役割の強化が求められている(日本看護協会,2015).他科患者に対するケアという産科混合病棟特有の経験から得られた視点を育児支援能力につなげ,助産師として母子とその家族へのケアに還元することが必要であると考える.
本研究により,産科混合病棟で勤務する助産師が認識する,産科混合病棟特有のケア経験と,その経験から培った4つのケア能力が明らかになった.先行研究では,産科混合病棟の助産師は自身の助産実践能力に自信がないこと(岩田ら,2018)や,褥婦ケアの自己評価が産科単科病棟の助産師よりも低いことが明らかになっていた(岩崎・斎藤,2017).本研究では,産科混合病棟で培ったと助産師が認識する自己のケア能力に着目した結果,的確な分娩経過のアセスメント能力や産科を中心とした調整能力,長期的な視点で母子の生活を考える能力という助産実践能力を培っていることが明らかになった.さらに,産科の範囲に留まらない広い臨床推論能力や多様性をふまえてより良いケアを検討する能力,多職種連携能力やチームの中で助産師としての自己を省みてケアに活かす能力を培っていた.これらは,助産師として必要なケア能力であると考える.
産科病棟の混合化には少子化や医療費抑制政策などの社会背景があることから,今後も産科混合病棟は存在し続けると推察され,さらに増加する可能性も高い.産科混合病棟で勤務する助産師の成長とモチベーションの向上を支援するためには,ケア能力獲得の背景にある経験を意味付け,その経験からケア能力を培えるような継続教育を検討する必要があると考える.
2. 研究の限界と今後の課題本研究結果は,研究協力者8名の語りから導かれたものであり,協力者以外の助産師が経験している産科混合病棟特有のケアや培ったケア能力が存在する可能性がある.本研究では,産科単科病棟特有のケア経験やケア能力は明らかにしていないため,比較はできない.また,本研究におけるケア能力は,研究協力者が認識する自己のケア能力であり,その獲得を客観的に評価したものではない.
今回の研究協力者の助産師経験年数は平均19.8年,産科混合病棟の経験年数は平均12.1年であったことから,助産師として熟達し,なおかつ産科混合病棟での勤務を継続できた助産師という限定された協力者から得られた研究結果である.さらに,抽出されたカテゴリーには,研究協力者の産科混合病棟経験年数の長短による違いはなかったが,その経験年数には4年から28年の幅があった.より均質な集団からデータを得るためには,経験年数を限定する必要があると考える.
今後は,産科混合病棟で勤務する助産師の人数を増やして調査を続けること,産科単科病棟の助産師との比較調査を行う必要がある.さらに,産科混合病棟で勤務する助産師のケア能力について,客観的な評価を行う必要がある.
助産師は,産科混合病棟特有のケア経験とその経験から培ったケア能力は,【助産師1人の重責を感じる勤務経験に基づく,産科領域の的確な判断と調整能力】,【他科患者へのケア経験に基づく,広い視野を持ったアセスメントと調整能力】,【他科患者の人生に触れた経験に基づく,長期的な視点で退院後の生活や育児を考える能力】,【看護師と働くことに基づく,看護職チームの中で助産師の専門性をケアに活かす能力】であると認識していた.助産師は,自分以外に助産師がいない勤務体制や他科患者との関わりなど,産科混合病棟特有のケア経験から,助産師として必要なケア能力を培ったと認識していた.産科混合病棟で勤務する助産師の成長を支援するためには,産科混合病棟特有のケア経験からケア能力を獲得するための教育体制を検討する必要性が示唆された.
付記:本研究は,札幌医科大学大学院保健医療学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.また,本論文の内容の一部は,第42回日本看護科学学会学術集会において発表した.
謝辞:妊産褥婦を守りながら多岐にわたる対象者のケアを担うお忙しい日々のなか,本研究に快くご協力くださった助産師の皆様,研究協力施設の看護責任者および病棟責任者の皆様に心より感謝申し上げます.また,研究の遂行にあたりご指導・ご助言を賜りました先生方に深謝いたします.本研究は,札幌医科大学学術振興事業による助成金を受けて行った.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:SNは研究の着想,デザイン,データ収集,分析,論文執筆のすべてのプロセスを行った.KMは原稿への示唆,すべての研究プロセスにおいて助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.