日本看護科学会誌
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資料
看護師のストレス解消を目指したマインドフルネスWebアプリケーションに関するニーズの把握
佐野 理湖熊澤 恵美杉江 美樹若林 愛弥
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2023 年 43 巻 p. 344-352

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Abstract

目的:マインドフルネスを活用したWebアプリの開発を目指し,ストレス解消のためのWebアプリに関する看護師のニーズを把握すること.

方法:20歳以上の常勤看護師を対象にフォーカスグループディスカッションを実施.参加者12名から得られたデータより逐語録を作成,テキストマイニングにより分析した.

結果:共起ネットワークの分析結果より,出現回数が最多であった単語は,「自分」「開く」「見る」であった.階層的クラスター分析により抽出語は7つのクラスターに分類された.これらの結果からカテゴリー化を行い,7つのカテゴリーを示した(集中と解消,体を動かす,アプリを使う,毎日触る,毎日開く,変化が見れる,続ける褒美).

結論:ストレス解消を目的としたWebアプリに関する看護師のニーズをより深く理解することができた.今後はニーズにあったマインドフルネスを活用したWebアプリの開発を行い,その実用性と有効性を検証する必要がある.

Translated Abstract

Objective: This study explored nurses’ need for stress reduction web applications, with the aim of developing a web application.

Methods: A total of 12 nurses, aged 20 years or older, who were working as full-time staff nurses participated in a focus group discussion. Audio transcriptions were made from the data and analyzed by text mining using KH Coder.

Results: The results of the co-occurrence network revealed that the words “myself,” “open,” and “watch” were the most frequently occurring. The hierarchical cluster analysis classified them into seven clusters. The results of the two analyses identified the following seven categories: concentration and reduction, physical exercise, use of the application, touch the application every day, open the application every day, I can see the changes from using the application, and rewards to continue using the application.

Conclusion: The study results identified key elements that should be considered in developing a stress reduction web application, according to nurses’ needs. In the future, it is necessary to develop a web application that meets the needs of nurses and to examine the feasibility and effectiveness of the web application.

Ⅰ. 背景

看護師はその専門職としての特色から,ストレスを抱えやすく燃え尽き症候群,2次外傷性ストレスやコンパッションファティーグに陥りやすいと言われている(Figley, 2002Newell & MacNeil, 2010Valent, 2002).これらの心理的身体的ストレス症状は,看護師個人に影響を与えるだけでなく看護の質,さらには医療現場における生産性にも影響を与える可能性がある.したがって,看護師自身が心理的身体的ストレスを抱えるリスクが高いことを認識することが重要であり,仕事を通して生じるネガティブな結果を予防しさらに減らすようなサポート体制が必要であると考える.

精神的なストレスに関係する認知的な脆弱性を減少させるアプローチとして近年マインドフルネスが注目されている.マインドフルネスは,今自分に起きている事柄や経験していることに注意を向け集中する心理的過程であると定義されている(Bishop et al., 2006).マインドフルネスを使用した介入研究では,ストレスや(Keng et al., 2012),不安や心配などのネガティブな感情(Gard et al., 2012)が軽減されたことが明らかになっている.しかし,このような介入は,3時間の講義を8週間行うなど一定期間のまとまった時間を必要とするトレーニングが多く,看護師が仕事を行いながら実施することは難しいと考えられる.

一方,スマートフォンのアプリケーション(以下,アプリ)を使用したマインドフルネストレーニングが,ストレスの軽減に関係することが明らかにされている(Bostock et al., 2019).さらに,スマートフォンを使用したマインドフルネスのアプリが,心的外傷後ストレス障害(以下,PTSD)を患わった退役軍人大学生の症状を緩和し,レジリエンスを促進したことが示されている(Reyes et al., 2020).また,COVID-19のパンデミックが続く中,業務に従事し続ける医療従事者はトラウマを体験しPTSDに悩まされている現状があり,トラウマの克服のために携帯端末アプリを有効的に使用することが推奨されている(Alexopoulos et al., 2020).これらのことから,携帯端末アプリを利用したマインドフルネスの看護師への普及は,看護師のセルフマネージメント能力の1つであるストレスコーピング能力の向上に影響を与えることが期待できる.しかしながら,国内でも,マインドフルネスを利用したアプリは開発されているものの,その有効性は実証的に検証されていない.

インターネット利用率は,2008年には90%以上の高い水準にあり,現在でもほぼ同水準である.さらに10代から40代では各年代とも80%程度かそれ以上がスマートフォンをインターネット接続端末として利用しており,この割合は他の端末と比較すると最も多くなっている.50代ではスマートフォンとパソコンが共に70%を超えているが,スマートフォンが若干多くなっている(総務省,2009).しかし,携帯端末アプリは使用機器や機種ごとにアプリを作成しなければならないため,普及させるためには作成費用と期間を要する.そこで,携帯端末アプリよりも効果的に普及する可能性のあるWebアプリに着目した.Webアプリはインターネットにアクセスできる環境であれば,使用機器機種に関係なく利用が可能であり,作成費用と期間を大幅に抑えて,普及させることができると考える.以上のことから,ストレス解消のためにはマインドフルネスを活用したWebアプリが必要なのではないかとの考えに至った.本研究は,第一段階として,マインドフルネスを活用したWebアプリの開発を目指し,ストレス解消のためのWebアプリに関する看護師のニーズを把握することを目的とする.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究参加者と研究期間

A県内300床以上を有する総合病院のうち,同意の得られた病院において,常勤スタッフナースとして働いている20歳以上の看護師を対象とした.フォーカスグループディスカッション(以下,FGD)への研究参加者は,看護部を通して病棟・外来等の各部署に説明文書を配布して常勤スタッフナースを募った.各対象施設内の借用した一室をディスカッション場所に設定し,指定日時に集合した常勤スタッフナースの中で,研究参加に同意が得られた方を研究参加者とした.研究期間は倫理審査委員会の承認を得た後の2019年11月,各施設で指定された1日で実施した.

2. データ収集方法

本研究では,質的研究の技法であるFGDを用いた.研究参加者の特性は,無記名自記式質問紙を用いて把握した.FGD開始にあたり,マインドフルネスの概念,およびWebアプリについての説明を行い,質疑応答の時間をもち用語の認識を統一した.FGDの実施方法(Polit & Beck, 2008Kitzinger, 1994Kitzinger, 1995)を参考にガイドラインを本研究用に独自に作成した(表1).モデレーターはFGDのガイドラインに沿ってWebアプリについての研究参加者の意見,知識,経験,感情,価値観,ニーズが引き出せるように1時間程度ディスカッションを進行した.ディスカッションの状況を見ながら適宜話題を提供し,参加者同士が質問をしあったり,自身の体験談を話したり,他の参加者の経験や価値観について自由に意見交換ができるよう,ディスカッションを促進した.ディスカッションの様子は研究に必要な情報として,研究参加者の同意を得てビデオ撮影すると同時に,アシスタントモデレーターが質問に対する反応や様子等を観察しフィールドノートを作成した.研究参加者には謝礼としてギフトカード1,000円分を配布した.

表1 

フォーカスグループディスカッションのガイドライン

項目 内容
目的 看護師のアプリに対する意見,感情,価値観,ニーズをより深く理解する
方法
参加者の特性把握 無記名自記式質問紙を用いる
用語の認識を統一 マインドフルネスの概念,Webアプリについての説明
ディスカッション モデレーターによるディスカッションの進行(1時間程度)
マインドフルネスアプリについて,参加者の意見,知識,経験,感情,価値観を引き出す
ディスカッションの流れを見ながら,適宜質問を行い,ディスカッションを促進
質問内容 マインドフルネスを使ったストレス解消方法についてどう思うか
Webアプリケーションについてどう思うか
ストレス解消のためのマインドフルネスWebアプリができるとしたら,どのような内容がついていたら実際に使用すると思うか
内容の例:瞑想,ヨガなど
ストレス解消のためのマインドフルネスWebアプリができるとしたら,どのような機能がついていたら便利で実際に使用すると思うか
機能の例:カレンダー&ダイアリー,リマインダーなど
フィールドワーク 研究参加者の同意を得てディスカッションの様子をビデオ撮影
研究参加者の同意を得てアシスタントモデレーターが,ディスカッションの様子を記録する

3. 分析方法

1)研究参加者の基本特性は記述統計により把握した.FGDにより得られたデータから逐語録を作成し,KH Coderを用いたテキストマイニングにより分析した(樋口,2020).KH Coderは,文書形式のデータに含まれる語を自動的に切り出し,多変量解析することによって全体を要約提示することができ,全体の傾向を把握することができるため,FGDで得られたデータから看護師のストレス解消のためのアプリに関するニーズを的確に抽出し,把握できると考えた.また,データを客観的に解析することがより参加者のニーズを反映できると考え,本研究ではKH Coder の1段階の分析を実施した.

2)集計単位を文として逐語録をデータクレンジングし,品詞選択の後,最小出現数が4以上の語を抽出語の対象とした共起ネットワークにより,出現語の共起性を確認した.描画する共起関係の選択は,Jaccard係数上位60個の語と語の組み合わせとし,最小スパニング・ツリーを用いて共起性を明確にし,文脈の相違を確認するためにKWICコンコーダンスでテキストデータの確認をした.

3)特徴のあるクラスターを明確にするためにKH Coderの機能である併合水準を用い,出現語間の似ていない度合いを示す非類似度を確認し,クラスター数を調整した.抽出語を関連性の強さでカテゴリー化した階層的クラスター分析により,抽出語のつながりを明らかにした.

4)FGDのビデオデータや参加者の様子や反応を記録したフィールドノートはテキストデータでは表れない参加者の表情,反応,言動,雰囲気などを確認しFGDを描写できるよう加味した(Munhall, 2007).

4. 倫理的配慮

本研究は岐阜医療科学大学研究倫理委員会の承認を得た上で実施した(承認番号2019-3).研究参加者には,研究主旨,匿名性の保護,研究参加は自由意志であること,参加有無および途中辞退により不利益を被らないこと等について文書及び口頭で説明し,十分考える時間を確保した後,文書で同意を得た.FGD時には,研究参加者の感情の変化や疲労,ストレス,身体状況にも慎重に配慮した.個人情報の取扱いに関して,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」及び適用される法令等に従い実施した.本研究で得られたデータは適切に取り扱い,厳重に保管した.

Ⅲ. 結果

1. 基本特性と概要

地域の基幹病院であり救急病院となる2施設から研究参加への同意が得られた.研究参加者の基本特性は表2に示す.平均年齢は,33歳(SD = 10.25),看護師の平均経験年数は,9.08年(SD = 8.75)であり,配属病棟は一般病棟(内科,外科,混合病棟),NICU病棟(新生児集中治療室),ICU病棟であった.2施設で行われたFGDから得られた12名の参加者のデータより遂語録を作成した.文章数160文,総抽出語数3,753語(使用語数1,217語)をKH Coderを用いてテキストチェック・前処理を行い,抽出された語についてテキスト分析を行った.

表2 

研究参加者の基本特性(n = 12)

n % 平均 SD
性別
 女性 12 100.0
年齢 33.00 10.25
最終学歴
 短期大学・専門学校卒業 5 41.7
 4年生大学卒業 7 58.3
看護師としての経験年数 9.08 8.75
結婚の有無
 既婚 5 41.7
 未婚 7 58.3
家族構成
 単身 5 41.7
 本人・配偶者 4 33.3
 本人・子供 1 8.3
 本人・両親・兄弟 1 8.3
 本人・友人 1 8.3

2. 共起ネットワークの分析結果

抽出語の出現回数と抽出語間の関連の強さを理解するために,共起ネットワーク図を描画した.図1がその結果である.出現回数の多さは,円の大きさで示され,抽出語間の共起性の強さを示すJaccard係数は,それぞれの抽出語間の数値で示されている.

図1 

統合したデータからスパニングツリーを用いた共起ネットワーク

抽出語の「自分」「開く」「見る」は,それぞれ出現回数が22回であった.「自分」との共起の程度が強く見られた言葉は「選べる」と「触る」でJaccard係数は「選べる」(.17),「触る」(.22)であった.抽出語の「開く」では,「毎日」と「Instagram」と共起性がみられ,Jaccard係数は「毎日」(.38),「Instagram」(.17)であった.抽出語の「見る」では「Instagram」と「友達」との共起性がみられ,Jaccard係数は「Instagram」(.19),「友達」(.17)であった.抽出語の共起性に着目すると,共起性が強い順に,「体」と「動かす」(.67),次いで「体」と「元気」(.43),「解消」と「集中」(.40),「アプリ」と「使う」(.40)であった.それぞれの出現回数は,表3に示す.

表3 

共起性が強い抽出語の出現回数

抽出語 出現回数(回)
7
動かす 5
元気 4
解消 4
集中 4
アプリ 10
使う 6

3. 階層的クラスター分析

抽出語の類似性を把握するために階層的クラスター分析を行った.併合水準から非類似度を確認すると,クラスター4とクラスター7で急激な低下がみられた.抽出語の類似性によるグループ化が特徴である階層的クラスター分析では,クラスターの数が少なすぎると分析効果が弱いと判断し,クラスター7の分類を用いた(樋口,2020).結果を図2に示す.

図2 

階層的クラスター分析による分類とカテゴリー

4. カテゴリー化

共起ネットワークと階層的クラスター分析の結果によりカテゴリー化をおこなった.階層的クラスター分析で分類されたそれぞれのクラスターの抽出語の中から,共起ネットワークで共起語の数が多い抽出語を1つ選択し,カテゴリーキーワードとした.さらに,そのカテゴリーキーワードと共起性が強い抽出語を選びデータ中の文脈で使用されている意味を確認した.カテゴリーキーワードとカテゴリーキーワードとの共起性が強い抽出語をもとに,それぞれのクラスターのカテゴリー化を行った.最終的なカテゴリー7つを以下の表4図1図2,に示した.

表4 

共起ネットワークとクラスター分析の結果によるカテゴリー

クラスター 抽出語 カテゴリーキーワード カテゴリーキーワードと共起性の強い抽出語(Jaccard係数) カテゴリー
1 違う 休み 仕事 旅行 解消 集中 ストレス 好き 作る 解消 集中(.40) 集中と解消
2 元気 動かす 体 疲れる 寝る 行ける 自分 選べる 動かす(.67) 元気(.43) 体を動かす
3 アプリ 使う 新しい ゲーム 結構 音楽 前 種類 無料 使う アプリ(.40) アプリを使う
4 触る 入る きょう 歩く 触る 入る(.29) 毎日(.25) 自分(.22) 毎日触る
5 毎日 開く 情報 Instagram 見る 思う 人 感じ 分かる 友達 食べる 多分 お金 家 遠い YouTube 行く ヨガ 運動 毎日 開く(.38) 毎日開く
6 楽しい 変化 見れる 変化 見れる(.33) 変化が見れる
7 褒美 続ける 携帯 続く 褒美 続ける(.33) 続ける褒美

1) クラスター1

5つの共起語を持つ「解消」をカテゴリーキーワードとした.その中でも共起性が強い抽出語は,「集中」であった.文脈を確認すると,【集中できる】【ストレス解消】【運動不足の解消】が多くみられ,このことからカテゴリーを『集中と解消』とした.

2) クラスター2

「体」と「疲れる」のそれぞれが3つの抽出語と共起していたが,より共起性の強い抽出語をもつ「体」をカテゴリーキーワードとした.「動かす」「元気」との共起性が強く,文脈では【体を動かす】が最も多く,カテゴリーを『体を動かす』とした.

3) クラスター3

どの抽出語も2つの共起語を持つが,最も共起性の強い抽出語である「アプリ」の共起語である「使う」をカテゴリーキーワードとした.文脈中では【アプリを使う】【よく使う】が多くみられたが【あまり使わなくなった】も1つあった.多くは前者であったため,カテゴリーを『アプリを使う』とした.

4) クラスター4

3つの共起語を持つ「触る」をカテゴリーキーワードとした.共起性の強い抽出語は「自分」「毎日」「入る」であり,文脈中では【毎日必ず触る】【自分がよく触る】がみられたため,カテゴリーを『毎日触る』とした.

5) クラスター5

抽出語間での共起性の程度に大きな差がみられなかった.その中でも強い共起性を持つ「毎日」をカテゴリーキーワードとした.共起性の強い抽出語は「開く」であり,文脈中ではほとんどが【アプリを毎日開く】,少数に【毎日必ず触る】【毎日,情報が変わる】であった.このことからカテゴリーを『毎日開く』とした.

6) クラスター6

2つの共起語を持つ「変化」をカテゴリーキーワードとした.共起性の強い抽出語は「見れる」であり,文脈からは【変化が見れる】が最も多く,カテゴリーを『変化が見れる』とした.

7) クラスター7

2つの共起語を持つ「褒美」をカテゴリーキーワードとした.共起性の強い抽出語は「続ける」であり,文脈中では【褒美がある】【褒美的なのがいいかもしれない】がみられ,ここではカテゴリーを『続ける褒美』とした.

Ⅳ. 考察

本研究では,質的研究の技法であるFGDを用いた.看護師のニーズにあったWebアプリの開発と実用化に向け,看護師のアプリに対するニーズを深く理解するためには,FGDが有効であると考えた.Kitzinger(1994)によると,FGDでは,定義された母集団より少人数の対象者を集めることでグループの属性をできる限り均一化させ,テーマについて研究参加者同士が質問をしあったり,自身の体験談を共有したり,他の参加者の経験や価値観について意見を述べる.このグループプロセスにより,参加者自身がテーマに対する価値観を探求することができ,さらにテーマの本質を明確にすることができる.これは,FGDの強みであり,個々あるいはグループインタビューでは難しい側面であるとされている.また,FGDでは参加者は,テーマに対する自分自身の知識や経験についてより深く考える機会を与えられるため,参加者がテーマについて何を思うかだけではなく,どのように考えるか,また,なぜそのように考えるかを明らかにすることができる(Polit & Beck, 2008Kitzinger, 1994Kitzinger, 1995).このことから,本研究で実施したFGDから収集したカテゴリー化されたデータは,より効果的に参加者のアプリ利用に対するニーズを示すものと考えられる.したがって,本研究結果は,参加者自身にテーマに対する価値観を探求させ看護師のストレス解消に関するWebアプリに対する意見,感情,価値観,ニーズをより深く反映させていると考えられる.さらに,KH Coderを用いたことによりFGDで得られたデータから,抽出語の出現回数と抽出語間の関連の強さを把握し,抽出語の類似性を理解し分類することで,参加者がWebアプリに関し重視している点が明確になり,Webアプリに対するニーズを示唆することができたと考えられる.

本研究結果で得られた7つのカテゴリーをストレス解消につながるWebアプリに関するニーズとしてとらえマインドフルネスを活用したWebアプリの開発に応用させていく.カテゴリー1『集中と解消』とカテゴリー2の『体を動かす』をWebアプリのコンテンツに応用すると,マインドフルネスに着目したヨガや呼吸法,瞑想などのトレーニング方法の動画をwebアプリで配信し,動画で学びながら同時に体を動かし,ストレス解消法を身につけることが期待できる.これはマインドフルネスの基本となる考えである,今に精神を集中させることで(Bishop et al., 2006),未来への不安や過去に体験した不安が軽減,解消することができると考えられる.また,FGDのフィールドノートより【集中して】【仕事を忘れて】の発言に参加者はうなずく様子が見られ,共感した様子が確認できた.ヨガやスポーツクラブの話題で,うなずく様子や笑顔がみられ話題が盛りあがった場面からも,カテゴリーは適切であると考える.

次に,カテゴリー3『アプリを使う』,カテゴリー4の『毎日触る』,カテゴリー5『毎日開く』,をWebアプリのコンテンツに応用すると,対象者が使いなれたスマートフォンやタブレットを使用しWebアプリにアクセスすることは手軽に継続的にアプリを使用する一助になると考えられる.FGDのフィールドノートからもアプリの使用には携帯電話を使用することが多いという発言に賛同していることが窺える.注目すべき反応としては,スポーツクラブに登録していても忙しくて通えないという話題にうなずく様子があり,時間と場所を自由に選ぶことが可能で身近にあり使い慣れた端末を使用するWebアプリは効果的であることが期待される.

カテゴリー6『変化が見れる』については,Webアプリの機能を付加することで可能となる.Webアプリに継続的な使用状況を可視化する機能を備えることで,マインドフルネスを日々の生活の中に取り入れた自身の心と体の健康の経時的変化に気づくことが可能となる.また,ストレスやウェルビーイングの程度をセルフチェックする機能を付加し,心と体の変化を自覚することも可能となる.これらの機能を備えたアプリを継続的に使用することで,心と体の健康に意識を向け,看護師が自身に適したストレスコーピングを選択するための第一歩となり,ウェルビーイングの向上につながると考えられる.

カテゴリー7『続ける褒美』に関しては,FGDのフィールドノートから,積算してご褒美がある,ゲーム感覚でできる,無料である,等の使い続けるための条件に関して話題が盛り上がった様子が窺えた.Webアプリの利用頻度に比例して何らかの変化が見えるゲーム的な機能の付加により,褒美的な感覚が得られるような工夫が継続の一助となると考える.これは,カテゴリー6『変化が見れる』にも同様な効果が期待できると考える.

以上の7つのカテゴリーより,看護師が日常的にストレスを緩和するためのセルフマネージメント能力を獲得できるようなアプリが求められていると考えた.先行研究でおこなわれた,対面で一定期間実施するマインドフルネストレーニングは,ストレスの軽減や(Keng et al., 2012),ネガティブな感情の軽減(Gard et al., 2012)に影響をあたえ看護師のウェルビーイングに関連する可能性があるものの,看護師が仕事を行いながら実施し継続することは難しいと考えられる.一方,スマートフォンのアプリを使用したマインドフルネストレーニングはストレス軽減に関係する(Bostock et al., 2019).また,身体・呼吸・心理に同時に働きかけることにより総合的なかかわりが相乗効果を生み,10分間のリラクゼーション法でも効果が得られるように(山口・窪田,2020),呼吸法や瞑想法等取り入れ方を工夫することにより10分程度でストレス緩和につなげることが可能となる.さらに,今起きている事柄や経験していることに注意を向け集中するというマインドフルネスを(Bishop et al., 2006),日頃使い慣れた端末を使用し自発的に行い習慣化させていくことが,よりストレス緩和につながるセルフマネージメント能力を高めるのではないかと考えた.

看護師のストレスコーピングに関する先行研究では,看護師はストレス軽減に効果的ではないコーピングを行う傾向が見られ,燃え尽き症候群や高い職場ストレスと関係していたことから(Healy & McKay, 2000),看護師が適切なコーピングを選択する能力が必要であると思われる.また,看護師のストレス軽減を目的としマインドフルネスを利用した介入研究では,燃え尽き症候群の症状や,リラクゼーション,人生の満足度が改善された(Mackenzie et al., 2006).他の先行研究においては,同僚としての医師との関係性や患者・家族との関係性が良好であるときに,自分を大切に思う価値観であるセルフコンパッションによって看護師の燃え尽き症候群や2次的外傷性ストレスなどを軽減した(Sano et al., 2018).これらのことより,看護師が自分自身に意識を向け,ストレスコーピングを高めることはウェルビーイングの向上につながる可能性がある.

以上のことより,マインドフルネスWebアプリのコンテンツとして,以下4つを考慮して開発に向けていく.

1)マインドフルネスについて説明をおこない,トレーニングの意義を伝える.

2)簡単にできるマンドフルネストレーニングとして,ヨガや瞑想などをふくむ5~10分程度の映像を数種類配信する.参加者が自由に選び映像とともにトレーニングを行う.

3)心理状況をセルフチェックする機能として,Webアプリでウェルビーイングやストレスに関連した尺度のオンラインアンケートを作成する.利用者が個人結果をWebアプリ上で確認することを可能にする.

4)継続的な使用を促進させるための補助的な機能を付加する.ゲーム感覚で楽しめ,褒美的な感覚が得られるような工夫としては,利用状況などを記録できるカレンダー機能や,Webアプリの利用頻度に比例しアプリの背景が少しずつ変化していくなど補助的な機能が効果的ではないかと考える.

マインドフルネス携帯端末アプリのクオリティーについてのシステマティックレビューによると,クオリティーの高いアプリには,視覚的な美しさ,マインドフルネストレーニングへの取り組み,機能性,情報の質が影響していることが示唆されている(Mani et al., 2015).この結果は,本研究で提案するマインドフルネスアプリのコンテンツと一致しており,クオリティーの高いアプリの開発に向けていけるのではないかと考える.

また,看護師が日々使用している携帯端末を用いることで,ストレス緩和ツールとしてのWebアプリを使用しやすくするだけでなく継続的に使用できることが期待できる.これは長期的な看護師のストレス緩和につながる可能性があり,ウェルビーイング向上を目指すための効果的なアプローチ方法と考える.

Ⅴ. 結論

本研究では,『集中と解消』,『体を動かす』,『アプリを使う』,『毎日触る』,『毎日開く』,『変化が見れる』,『続ける褒美』の7つのカテゴリーが,ストレス解消を目的としたWebアプリに関する看護師のニーズとして示された.FGDから得られたデータを用いテキストマイニングで分析することでより深く看護師のニーズを理解することができたと考える.今後は本研究結果を反映させ,よりニーズにあったストレス緩和ツールとしてWebアプリの開発にむけていくことができると考える.開発されたWebアプリを用いて看護師のストレスの要因とコーピングの方法,ストレス反応の関係性を明らかにし,ウェルビーイングの向上にどのような影響を与えるかを理解しその実用性と有効性と検証する必要がある.これは,今後の看護師のサポート体制の一つとして,意義のあるものであると考える.

付記:本論文の内容の一部は,第41回日本看護科学学会学術集会において発表した.

謝辞:本研究の趣旨を理解し快く協力して頂いた,調査対象施設および調査対象者の皆様に心から感謝します.本研究は,岐阜医療科学大学学内特別研究Aの助成を受けて実施したものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:RSは研究の着想から原稿作成までの研究プロセス全般を遂行し,EKはデータ収集・分析・解釈・原稿作成に貢献,MSはデータ収集・分析・解釈・原稿作成に貢献,MWはデータ収集・分析・解釈および原稿への示唆に貢献した.そしてすべての著者は,最終原稿を読み承認した.

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