日本看護科学会誌
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原著
慢性呼吸器疾患患者の病期移行期のAdvance Care Planningを支援する熟練看護師の実践
河田 照絵
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2023 年 43 巻 p. 353-361

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Abstract

目的:慢性呼吸器疾患患者の療養支援に関わる熟練看護師が病期移行期においてACPをどのように支援しているのかを明らかにすることを目的とした.

方法:慢性呼吸器疾患患者を支援している熟練看護師に半構造化インタビューを行い,質的帰納的に分析した.

結果:【信頼関係を築きながら,日常の生活にこだわって聴く】ことで,途切れない関係性を構築していた.それは【患者や家族が選択できる土台をつくる】支援へとつながっていた.また,【意思決定が求められるタイミングをみはからう】ことができるよう,【変化する状況を見極め(る)】ていた.そして【チームとしての信頼をつなぎ,前に進む】ことができる支援環境を築いていた.

結論:病期移行期のACPの支援は,安定期から不安定期を行き来する軌跡の中で,生活背景や価値を見据え,患者が選択し,意思決定ができるようサポートし,チームで支えていくため,継続的な支援が行われていた.

Translated Abstract

Objective: The purpose of this study was to reveal how expert nurses involved in recuperative assistance for patients with chronic respiratory disease support ACP during the transitional period.

Method: Semi-structured interviews were conducted with expert nurses who assisted patients with chronic respiratory disease. The interviews were analyzed qualitatively and inductively.

Results: By “listening particularly to their everyday life while building a relationship of trust,” they built an uninterrupted relationship. This led to support for “creating a foundation for patients and their families to choose.” Moreover, in order to be able to “know the timing of ACP intervention,” nurses “assessed the changing situation and provided support.” They built a supportive environment that allowed the “building of trust as a team and making progress.”

Conclusion: In the trajectory of going back and forth from a stable to an unstable period, continuous assistance was provided to support patients as a team, so that they could make choices and decisions based on their lifestyle background and values.

Ⅰ. 緒言

慢性呼吸器疾患患者に早期から緩和ケアやアドバンスケアプランニング(以下ACP)を取り入れることの重要性がいわれている(日本呼吸ケア・リハビリテーション学会,日本呼吸理学療法学会,日本呼吸器学会3学会合同セルフマネジメント支援マニュアル作成ワーキンググループ,2022).

本邦では2001年に日本老年医学会が「高齢者の終末期の医療及びケアに関する立場表明2001」を発表し,2008年に厚生労働省より終末期医療の決定プロセスガイドラインが示された.2017年に終末期医療の決定プロセスのガイドラインが改訂され,人生会議やACPという言葉が世間に広まりつつある.日本老年医学会(2019)はACPの概念を将来の医療ケアについて本人を人として尊重した意思決定の実現を支持するプロセスとして示し,できるだけ早期からACPの話し合いを開始することを提唱している.

しかし,臨床現場では最終末期の意思決定に焦点があてられることが多く,ACPの考え方が浸透している状況とは言い難い.慢性呼吸器疾患など非がん性疾患のACPや緩和ケアが早期に導入されにくい理由は,予後予測の難しさ,医療者側のコミュニケーション技術の問題,患者側の準備状況が整っていないこと,医療者と患者のコミュニケーションギャップなどが報告されている(Meehan et al., 2020).Zhou et al.(2010)は,がん領域におけるACPを阻害する要因として,患者家族の準備が整わない状況や話し合いの否認,医師が他の治療を勧める,スタッフが望んでいない,時間的な制約などを挙げている.これらからACPの考え方は事前指示書や緩和ケアとともに,最終末期の治療の選択についての意思決定といった考え方から広まったことから,ACPの話し合いについて最終末期をイメージすることが少なくない.

長期的な経過の中で身体状況が低下し,不確実で曖昧な状況の中,疾患との折り合いをつけながら生活する人にとってACPについての話し合いを早期から実践していくことは,慢性疾患を持つ人のWell-beingやComfortableを維持することにつながる支援のひとつとなる.慢性呼吸器疾患患者は,病いの軌跡の中で急性増悪に伴う入院や,酸素療法の導入の時期,身体機能が急激に低下する時期など意思決定を行ったり,生活や疾患との付き合い方を変更したりしなければならない局面としての移行期が複数存在する(谷本・竹川,2018).この移行期における意思決定は,ACPのプロセスの一部であり,どのように生きたいか,価値を置くものは何かなどの話し合いが必要となる.しかし,現在,医療者がACPへの介入を行う行動意図や,ACPを促進する要因,阻害する要因などに関連した研究はみられるものの,看護師が慢性呼吸器疾患患者に対し,生活や病みの軌跡を捉えながら行っているACPの実践を明らかにした研究は少ない.

そこで本研究では,慢性呼吸器疾患患者の療養支援に関わる熟練看護師が移行期においてACPをどのように支援しているのかを明らかにすることを目的とする.本研究で明らかになった知見は,慢性呼吸器疾患患者をはじめとする非がん性疾患患者に対して看護師がACPへの介入を行うことの意義を見出すことにつながると考えた.

Ⅱ. 用語の定義

熟練看護師:達人は膨大な経験を積んでおり,状況全体の深い理解に基づいて行動する(Benner, 2001/2005)ことができることから,本研究では慢性呼吸器疾患患者への看護に精通した認定看護師資格もしくは専門看護師資格の認定を受けている看護師とした.

Ⅲ. 方法

1. 研究デザイン

質的記述的研究デザイン

2. 研究参加者

日常的に慢性呼吸器疾患患者への実践を行っている慢性呼吸器疾患看護認定看護師5名であった.

3. データ収集期間

2021年10月~2022年3月であった.

4. データ収集方法

本研究では,半構造化インタビュー法を用いた.慢性疾患看護専門看護師をゲートキーパーとしてスノーボールサンプリングを実施し,研究参加の同意の得られた方を研究参加者とした.インタビューは2回実施した.インタビュー内容は,慢性呼吸器疾患患者の移行期(急性増悪時,在宅酸素療法導入時など)に関わった事例を想起してもらい,実践の中で大事にしていることや意思決定をどのように支援しているのかなどについて自由に語ってもらった.語りに際し,事例の詳細や語りたくない内容は語らなくてもよいことをあらかじめ伝えた.インタビューは研究参加者の許可を得て録音した.また,研究参加者の属性として,看護師としての経験年数,資格取得後の経験年数について聴取した.

5. 分析方法

データ分析は,逐語録を繰り返し読み,移行期における看護支援や意思決定支援,ACP支援につながる内容に焦点を当てコード化した.コードの意味内容や類似点,相違点を比較検討し,意味の共通するまとまりからサブカテゴリ,カテゴリとして抽象化していった.分析内容の妥当性と信頼性の確保のため,2回目のインタビュー時に研究参加者に内容の確認を行い,研究者が理解した内容に相違がないかを確認した.分析過程では,先入観の混入可能性を念頭に置き,生データに戻りながら分析を進めた.

6. 倫理的配慮

本研究は,日本赤十字看護大学研究倫理審査委員会の承認(2021-016)を得て実施した.研究参加者には,研究目的,協力内容,研究参加は自由意思であり,辞退や中断を希望した場合でも不利益は生じないこと,個人情報の保護について,口頭及び書面で説明し,研究参加の意思を確認した.インタビューは研究参加者のプライバシーを確保して実施した.

Ⅳ. 結果

1. 研究協力者の概要(表1

本研究では,研究参加者の看護師経験は平均18.8年,資格取得後の経験年数は7.6年であった.1人あたりのインタビュー時間は88~118分(平均103分)であった.3名が外来を中心とした勤務,2名は病棟を中心とした勤務,病棟勤務者1名は外来も担当しており,それぞれ異なる施設に勤務していた.

表1 

研究参加者の概要

看護師歴(年) 資格取得後の経験年数 現在の勤務状況
A氏 15年以上~20年未満 5年以上~10年未満 外来中心
B氏 20年以上~25年未満 5年以上~10年未満 病棟,週1回外来
C氏 25年以上~30年未満 5年以上~10年未満 外来中心
D氏 10年以上~15年未満 5年以上~10年未満 外来
E氏 15年以上~20年未満 5年以上~10年未満 病棟

2. 慢性呼吸器疾患患者の病期移行期のACPを支援する熟練看護師の実践

分析により,243のコード,29のサブカテゴリ,5つのカテゴリが明らかになった(表2).

表2 

慢性呼吸器疾患患者の病期移行期のACPを支援する熟練看護師の実践

カテゴリー サブカテゴリー コード例
【信頼関係を築きながら,日常の生活にこだわって聴く】 《話しを重ねて信頼関係を築いていく》
《病気の体験を紐解いていく》
《普段の会話や雑談から思いや言葉をひろう》
《生活の体験を引き出していく》
・早いうちに関係性を築いていく・関係を切らさない
・ファミリーヒストリーが浮かぶ
・苦しい体験を紐解きつつ,大事にしていることを引き出す
・雑談を重ねていく
・安定期に思いも含めた希望や言葉を拾う
・医療者が見えていない,日常に隠れている生活を理解する
【変化する状況を見極める】 《予測しながら今を支える》
《患者の予測に目を向ける》
《症状の変化をみながら予測する》
《患者と家族をつなぐ》
《日常のケアの延長としてのACP》
・医療者が予測しながら,脅かさないように今を支える
・日々のケアの中で一緒に考える
・患者が語る今後の経過の予想に目を向ける
・症状をマネジメントしていく
・家族と患者の状態を共有する
・ACPは日常ケアの一要素
・診断の時からACPは始まっている
【患者や家族が選択できる土台をつくる】 《患者が語ることに注目する》
《説明を積み重ねていく》
《話しの種をまきながら聴く》
《一緒に揺れながら寄り添う》
・患者自身が語れる場を作る
・患者を置き去りにしない
・ちょっとずつ話のタネをまいていく
・アンテナを張り,言葉の一つひとつを大事にする
・一緒に揺れながら考えていく
【チームとしての信頼をつなぎ,前に進む】 《チームをつなぐ》
《患者の意思を周囲につなぐ》
《地域とつながり,連携する》
・大切にしていることをチームで共有する
・医師と患者をつなぐ
・患者の思いを周囲へ伝える
・地域性を捉える
・地域への情報提供を行う
【意思決定が求められるタイミングをみはからう】 《状況が変化するタイミングを捉える》
《躊躇しながら関わる》
《経験を重ねていく》
・語りだすタイミングを捉える
・近い将来の時系列での語りが出始める時期
・なかなか踏み込んでいけない
・大丈夫か不安になる
・答えがない中で話し合っていく
・振り返って次に向かう

以下カテゴリを【 】,サブカテゴリを《 》,研究参加者の語りを「斜字」で示した.

1) 【信頼関係を築きながら,日常の生活にこだわって聴く】

慢性呼吸器疾患患者の療養支援において,今の生活が維持できているのかを知り,話を重ねていく中で関係性を築いていくケアを継続的に行っていた.ここでは《話しを重ねて信頼関係を築いていく》《病気の体験を紐解いていく》《普段の会話や雑談から思いや言葉をひろう》《生活の体験を引き出していく》関わりであった.

《話しを重ねて信頼関係を築いていく》では関わりの早期から関係性を築き,関係性を絶やさないようにしていた.例えば,「基本的にはとにかくあれですね,関係を切らさないですよね.通ってもらわないことにはっていうところを意識しています.」(A氏),「最初はここにつなぐ,来ていただく.」(C氏)と,通ってもらえる関係性を築くことを優先していた.

関係性を築くために《病気の体験を紐解いていく》ように聴いていた.例えばA氏は「慢性期を生きていって,終末期が将来的に迎える人にとっては,そのときにどんなことを考えていたか,そのときに一見関係ないようなお仕事や家庭状況がどうだったか,あっ,このときこうだったよねっていう共感がどれだけの武器になるか」と,病いとの付き合い方を聴くことからはじめ,日常にある苦しさや不安に目を向け,苦しい体験を紐解いていた.「経過の中でどうしても悪くなっていってしまうっていうのは言われてるけど,(中略)自分がやりたいことが少しでも多くできるようにお手伝いさせてもらえるとありがたいんです」(D氏)と日常の中での息苦しさの体験から話を拡げ,それを可能にするための方法も看護者側の姿勢も示しながら一緒に考えていた.

《普段の会話や雑談から思いや言葉をひろう》ために,「安定期の中で時間が十分過ごせますので,(中略),やはり患者さん自身がその何ていうんですかね,こういうことが例えばできなくなったという発言であれば,そういうことが本当はしたかったんだね.」(C氏)と,患者の話をリフレーミングしながら聴いたり,「話ししてれば患者さんが何を大事にしててどうなのかっていうのやっぱり見えてくる.」(D氏)のように普段の会話を積み重ね,言葉を拾っていた.

《生活の体験を引き出していく》では,「患者さん一人一人にとってはそれが初めてのことで,道筋が全く見えない中での生活になっていくので,ある程度その道筋みたいなものを漠然とバァーって話して,まあここがゴールだとするとこういったことが必要になるよね」(E氏)と道筋を伝えたり,今の身体状態を確認していた.また,「今まで楽しみにしてたことをやっていいんだよっていうところを,ちょっとこう引っ張りながら.」(D氏)と生活の中での関心事を引き合いに出し,家庭環境,身体状態,できていること,できなくなったことの話をきっかけに話を拡げていた.

2) 【変化する状況を見極める】

患者の病期や症状が変化していく中で,揺らいでいく状況を予測し,その状況に目を向けながら日常ケアの延長として患者や家族に寄り添い,状況を見極めながら支援していることが明らかになった.ここでは,《予測しながら今を支える》,《患者の予測に目を向ける》,《症状の変化をみながら予測する》《患者と家族をつなぐ》《日常のケアの延長としてのACP》支援があった.

看護師は,病状の変化があるかを《予測しながら今を支える》ために,「私たちの頭の中には先があるわけですね.(中略)それをどう受け止めるのかなとか,受け止められる環境にあるのかなっていうのをやっぱり押さえておかなければいけないわけですね.」(A氏)や「終末期のことだけじゃなくて,患者さんの価値観とかっていうのをやっぱりこう見出しながら,その人が何を大事にしているのかっていうところを情報共有していくだけでも,ACPかなって思ってる部分がある」(D氏)など,この先を予測し,大事にしている部分を共有していた.また,今の生活を支えるために「むやみに脅かさず」(B氏)に,「最低でも今の生活を維持していけるためにどうするか一緒に考えよう」(B氏)という言い方で変化への対応を話し合っていた.

《患者の予測に目を向ける》ことは,「(患者が今後を)全く何も考えてない人もいれば,自分はこういうふうに生きていきたいんだって,ちゃんとそこで,その場でもうおっしゃる方もいらっしゃいます」(C氏)と患者が語る今後の経過の予想に目を向けていた.「自分から語りたいという態度や姿勢とか,あと逆にこれから何かを伝えたいというような,あるいは伝えそびれたというような,患者さんの変化,しぐさとか,こういったところを見逃さないよう.」(A氏)にと患者の言葉だけでなく,態度なども含めて何を予測しているのかに注目していた.さらに,身体に現れている《症状の変化をみながら予測する》ことをしていた.新たな症状が出始めたときには,「どの程度その息切れとかその自分の症状,病気に対して関心を持ちながら活動してるのかっていうところを,会話を通して酌み取る」(C氏)と,変化する症状を捉え患者が対処できるように支援しながら,病気に対する向き合い方をみていた.そして「あっ,今日ちょっと何か元気ないな,どうしたんだろうとかっていうのは,やっぱこう年単位でお付き合いしてるから見えたりする」(D氏)と長く関わっていることで捉えられる日々の変化があった.

身体症状の変化がみられる患者に対し,「(思うように)動けない状態という患者さんがやっぱり多いわけですけども,御家族はそれを見て,怠け者という見方をしたりとか,何も言っても動かないというような解釈でいらっしゃるので,(中略)話を代弁するような形で,御家族にその今の患者さんのその状態というのを,そして,その心身の疲労等をお伝えしながら,御家族の理解を得ながら.」(C氏)と《患者と家族をつなぐ》働きかけをしていた.

変化が表れてくる中で,「特に慢性呼吸器疾患においては,療養の先には必ず,その衰えと,増悪と,そうした決断.ほんとに,何ていうか,その延命云々に関する決断が必ず待っているので.もう,ほんとに極論を言えば,もう診断の時点からACPは始まっている」(A氏)や,「何かすごく病気を治すためには必要だけども,生活をしていくという部分ですごく苦しめられて最終的にこう,生きるという道を閉ざされているような感覚になるというのが何か.そこを何か共感したりとかそういうふうにならないようにしていくために,じゃあどうしたらいいかっていう関わり方」(E氏)など,《日常のケアの延長としてのACP》を支援していた.

3) 【患者や家族が選択できる土台をつくる】

看護師は,状況が変化する移行期の支援は安定期から継続して【患者や家族が選択できる土台をつくる】ことを,あえてACPの支援として意識させることなく,気持ちや語りを引き出していた.具体的には,《患者が語ることに注目する》《説明を積み重ねていく》《種をまきながら聴く》《一緒に揺れながら寄り添う》という仕方で関わっていた.

《患者が語ることに注目する》ことは,「患者さんって,家では趣味のことだってそうだし,今後のこともそうだし,自分自身のことを語る場面っていうのはやっぱりあまりないみたいで,(中略)何か,そのACPで自分の予後,余生をどんなふうにしていきたいかっていう点については,どうしても心配をかけさせてしまうとか,何かやっぱり話をするのがタブーみたいな印象をお持ちの方が多いのを受けますね,何か見てると.で,御家族同士やっぱその話したことありますかって例えば奥さんに聞いても,そんな話は聞いたこともないですとか.」(C氏)と,患者の語りの内容に注目し,その様子を家族が知ることのできる場を提供していた.看護師は,患者の語る状況に合わせ,選択ができるよう説明と支援を行っていた.例えば「(在宅酸素療法の選択に当たって)持って帰らないのも1つの選択だよねという話はします.でも持って帰らないことのデメリットもありますよという話で.」(B氏)と正しく選択できるようメリットとデメリットを具体的に伝えていた.また,「イメージが頭の中にあるのとないのとでは全く違うなって,何か患者さんから置き去りにされた感がある的なことを言われることもある.」(E氏)と,患者が置き去りにされないよう,何度も《説明を積み重ねていく》ことを大切にしていた.その説明の中では,看護師は今後を予測し,身体状態が下降していくことが予想される患者について「まだ漠然と構えられていないなというところは,話を聞きつつこっちからこうちょっとずつ,ぽろぽろと話の種をまいて.」(E氏)と今後,起こりうる現実についての《話の種をまきながら聴く》ことをしていた.また「こっち(看護師)もやっぱり心配してるんだっていうことが伝わらないと,患者さんもやっぱり何も言ってくれないし,困ってても多分発信してくれないので,そういう気持ちをこっちも揺れるし,(中略)医療者も患者さんも家族も.苦しいね,どうしようって言いながら,こういうときどうすればいいんだろうって一緒に揺れながら考えていくのが大事かなって.」(D氏)と,《一緒に揺れながら寄り添(う)》っていた.

4) 【チームとしての信頼をつなぎ,前に進む】

チームとしての信頼関係を築き,チームをつなげられるようにチームに関わり,そのチームとしての関わりが患者や家族の支えになるように働きかけていた.チームは院内だけではなく,生活の場である地域との連携も築いていた.ここでは《チームをつなぐ》《患者の意思を周囲につなぐ》《地域とつながり,連携する》関わりがあった.

《チームをつなぐ》関わりは,人を育てること,他の医療者同士,また患者・家族との橋渡しをすること,チームの中心に患者・家族があることを大切にしたりしながら情報共有をし,チームをつないでいた.例えば「こういうふうに希望ありますよみたいなところは,何ていうんですか,ドクターと患者さんの橋渡しをしながら,その患者さんの思いをやっぱり先生に分かってもらうとか,在宅スタッフが入ってるならそういうところと情報共有して行っていくとかっていうところが大事かなって思ってるんです.」(D氏)と看護師が捉えた患者の思いをチームにつないでいた.また,「やっぱり逆に私も周りから助けてもらうこともあって,やっぱりその情報をいかに自分も吸い上げながら.また他職とそれを,医師とも特に共有しなきゃというとこは意識づけしながらやってはいます.」(C氏)と看護師自身もチームに支えられていた.

《患者の意思を周囲につなぐ》では,「(看護外来では,)先生に伝えたくても伝えられなかったことは,私が聞いて代わりに伝えるからねというような形をしながら,これから将来にかけて一緒にお手伝いさせていただきたいということをちゃんと意思表明しています.」(C氏)と話した.また,家族との話の中でも「御家族もやっぱり貴重な治療方針の説明のときって,御本人不在のまま御家族にされることというのが,やっぱり随分多くて.(中略)それはそれで御本人がどう思ってるかということを私自身はしっかり伝えて,先生はこう言ったけど,御本人はこういうことを言ってる.御家族はどう思いますかという話をしながら,すり合わせをしていきながら.」(C氏)と,患者の意思をつなぐ役割を担っていた.

《地域とつながり,連携する》ことについて,「ACPに関しては,その関わっていただく在宅スタッフにも,病期とか,あと経過についてやっぱり密に共有して,訪問看護師さんにこそっとこぼす情報がかなり我々にとって重要なので,そういったことを教えてくださいっていうことは,支援者会議のときとかに意識する」(A氏)と生活の場である地域性を捉えつつ,地域の医療者との双方向の情報交換を行っていた.

5) 【意思決定が求められるタイミングをみはからう】

看護師は安定期と非安定期の中で,意思決定が求められる状態のタイミングを捉えながら,変化する状況を見極めた支援をしていた.ここでは《状況が変化するタイミングを捉える》《躊躇しながら関わる》《経験を重ねていく》関わりであった.

《状況が変化するタイミングを捉える》では,看護師は,将来に対する意思決定を具体的に支援する介入のタイミングとして,在宅酸素療法導入時,急性増悪後の症状が安定してきた時と,急性増悪の間隔が短くなってきた時を捉えていた.例えば「何かぽろっと御本人さんの口から,何かそういった不安なことだったりとか,もう答えは大体分かってるんですけど,そういった悩みをお話しされて,いや,それは御自身だけじゃなくて,御家族さんと話したほうがいいよねっていうような」(E氏)と患者の口から言葉が出てきた時などの変化を介入のタイミングとして捉えていた.また,「患者さんにとってはその一瞬って,すごく大事な時間だったり」(C氏)と,その時々にある瞬間を捉えていた.

《躊躇しながら関わる》はそれまでの関係性や関わりのタイミングを捉える一方で,介入の難しさも抱えながら関わりを持っていた.その理由の一つとして,「終末期までのイメージはとても持てない方が多いですし,実際に医療者も含めてですよね.」(A氏)と,医療者,患者双方が終末期のイメージが持てないことで将来の医療ケアや意思決定の必要性などの話題を持ち出しにくい現状があった.

《経験を重ねていく》は,例えば「あのときにもう少しうまく話を持っていってたら違う結果だったのかなとか,患者さん,もうちょっと心を開いてくれたかなとか,御家族さんももうちょっと協力的になってくれたかなとかっていう思いもあった.」(E氏)が,最近は話の持っていき方がわかってきたと話し,日々の経験を重ねていくことでタイミングや関わり方を見出している様子であった.また,A氏は「(患者が)どういうふうな人かなっていうふうに我々が探る取り組みからACPは始まっている」と,日々の関わりそのものがACPを見据えていた.

Ⅴ. 考察

1. 慢性呼吸器疾患患者の移行期におけるACPに対する熟練看護師の実践

1) 移行期への変化を見極める

本研究では,診断された初期から【信頼関係を築きながら,日常の生活にこだわって聴く】関わりから,患者の価値観や大事にしていることを知り,日常を支援することが,移行期の意思決定の礎となり,ACPの実践は患者と関わり始めた時から始まっていることが明らかになった.また,その中で,移行期へ【変化する状況を見極める】【意思決定が求められるタイミングをみはからう】といったように,治療や療養,生活の変化を見極める視点を持っていた.

先行研究では,ACPを促進する要因として,患者がACPに取り組む準備をアセスメントし,介入のタイミングをはかるスキルを持つこと(Grossman et al., 2019Nguyen et al., 2013Houben et al., 2019)が明らかになっているが,本研究では,日々の療養支援において,先を予測し,患者の捉えている予想を捉え,介入のきっかけを捉えていた.非がん性呼吸器疾患患者は疾病予防の局面,増悪予防の局面,在宅酸素療法の局面,増悪を繰り返す局面,人生の最終段階と局面の変化がある(谷本・竹川,2018)とされ,変化する状況の局面を身体状態や患者や家族の語りの揺らぎの変化を捉えていた.熟練看護師は,病期の変化や心身の状態の変化を予測しながら今を支えていくこと,症状の変化をみながら先を予測すること,患者と家族をつないでいくことで状況を見極め,意思決定や何らかの選択,意思決定が必要な状態をみはからっていた.研究参加者は,タイミングをみはからいつつも,その関わりは患者や家族の状況から躊躇することもあり,経験を積み重ねていくことで個に合わせたケアの実践につながっていることが示唆された.これらは,慢性呼吸器疾患の長い療養の経過の中で病期の進行や急性増悪,さらに加齢に伴う心身の変化の揺らぎを捉え,大きな変化の局面だけではなく,だんだんと低下する心身の機能の揺らぎを見逃さないようにするスキルでもあった.

ACPの介入は実践経験がないことや介入の効果を実感できないことは介入を阻害する要因となる(Meehan et al., 2020Smallwood et al., 2018)が,本研究では,熟練看護師は躊躇したり,揺れたりする自身を捉え,振り返りながらも,経験を積み重ねていく中で,関わりの在り方を見出していた.ACPに介入するスキルを医療者が身につけていることは,介入を促進するスキルとして重要であり,スキルとして倫理的推論や内省,価値観を意識したコミュニケーションスキル,意思決定の選択肢を提示するスキルなどがあることが示唆され(Brown et al., 2012Houben et al., 2019Hirakawa et al., 2021牧野ら,2020),本研究でも熟練看護師が身につけ,実践しているスキルであった.

2) 安定期からのプロセスとして捉えるACPの実践

本研究の研究参加者は,患者や家族と関わり始めた時から,将来の意思決定や選択に介入することを見据えた信頼関係の構築やその人の大事にしている生活や価値観を知る実践を行っていた.看護外来を安全な場所として伝え関係性を絶やさずに継続した関わりが持てるように働きかけたり,病気や症状についての知識を提供したり,病みの軌跡を想像できる働きかけや,状況の変化を捉えた時には,ACPについて考える種をまきながらコミュニケーションをとるなど,患者にACPに取り組むことを前面に押し出さず,どのように生きたいか,何を選択し,意思決定していくかについてのケアをプロセスとして実践していた.ACPは繰り返して話し合いを行うプロセスである(日本老年医学会,2019)ことが示されているが,本研究で明らかになったプロセスは,看護師の継続した関わりそのものがACPにつながるケアであることが示されていた.また,それを看護師自身も認識し,その関わりが移行期の患者の変化を捉えるタイミングをつかむ重要なケアになっていた.このような関わりは長期的な経過の中での病期の推移や身体機能の低下が低下していく移行期の病みの軌跡を踏まえつつ,意思決定が必要な時に備えた土台を作り,その人にとって最善の選択ができる支援をするために重要なものであるといえる.

患者の日常を捉えることを意識的に実践し,価値を置くものや希望を捉えているからこそ,移行期に生じる患者や家族の迷いや揺らぎにも寄り添っていた.慢性疾患患者に対するACPに含まれる構成要素についての概念分析(川原,2021)において,病状や予後への不安と受け入れや家族への思いなどについての情緒的な揺らぎがあることが明らかになっているが,本研究においては,患者や家族の情緒的な揺らぎに一緒に揺れそう姿勢も明らかになった.慢性呼吸器疾患患者の揺れ動きながら下降する病期の変化を予測し,経験知から捉えた病みの軌跡を踏まえた関わりのプロセスの中で,患者や家族が捉えている病みの軌跡や予想,揺らぎを捉え患者の人生や生活に寄り添った実践が明らかになった.

また,ACPはチームでの介入ができることで介入が促進されることがいわれており(Barratt et al., 2018Smallwood et al., 2018),本研究においてもACPの実践において【チームとしての信頼をつなぎ,前に進む】とチームを育て,つなげる関わりをチームに対して行っていた.このチームは,外来や院内の看護師,他職種との関わりにとどまらず,地域におけるサービスを受けている患者に対しては訪問看護師などとも情報交換を行ったり,生活の場である地域の特性や家族関係を捉えていた.ACPの支援は地域包括ケアシステムの中での仕組みづくりの必要性もいわれており(日本呼吸ケア・リハビリテーション学会,日本呼吸理学療法学会,日本呼吸器学会3学会合同セルフマネジメント支援マニュアル作成ワーキンググループ,2022),本研究では,継続的に関わっている看護師や他職種と地域の医療職が連携して,移行期にある患者のACPを支えるチームとして役割を果たすことのできる可能性が示唆された.

2. 病期の安定期からACPに看護師が介入することの意味

本研究では熟練看護師の継続的な療養支援だけでなく,急性期病棟での支援においても看護師の関わりが移行期の患者のACPを支援することにつながっていることが明らかになった.先行研究においてACPを阻害する要因としてコミュニケーションギャップが挙げられている(Fuseya et al., 2019).また,促進する要因としても医療者がコミュニケーションスキルを持っていること(Brown et al., 2012)や,急性期病院と地域における仲介になる医療者がいること(Hirakawa et al., 2021神宮ら,2020)が挙げられている.本研究では【チームとしての信頼をつなぎ,前に進む】ことができるように地域や患者を取り囲む人々との調整を行っていた.また,調整を行うために患者や家族との信頼関係を築き,その人の望む生活が送れるように,また,選択できる土台を作るための支援を行っていた.その中では,患者と看護師間だけではなく,患者と家族,患者と医師や多職種,急性期病院と地域など様々な関係性においてコミュニケーションが円滑にとれるような役割を看護師は担っていた.また,看護師は,状況や価値観を踏まえた生活を支援する視点から様々な意思,状況,人をつなぐ役割を担える存在であるといえた.

Ⅵ. 結論

本研究では熟練看護師の慢性呼吸器疾患患者の移行期におけるACPの実践は,患者との関わりの初期から,【信頼関係を築きながら,日常の生活にこだわって聴く】ことで,病気の体験や日常生活を引き出し,紐解いていくという方法で関係性の構築をするためのコミュニケーションを重ね,途切れない関係性を構築していた.積み重ねた関係性から,【患者や家族が選択できる土台をつくる】支援へとつながっており,慢性呼吸器疾患患者の生活と療養を支援していく上で熟練看護師は重要な役割を担っていた.看護師は,患者の状況に変化がみられる時期を予測し【意思決定が求められるタイミングをみはからう】ことができるよう,普段から【変化する状況を見極める】ことができる関係性を築く支援を行っていた.さらに,地域も含めた患者を中心とした【チームとしての信頼をつなぎ,前に進む】ことができるように調整し,看護師自身もチームメンバーのサポートを受けACPを支援できる環境を整えられるよう意識した関係性を築いていた.

Ⅶ. 本研究の限界と課題

本研究の限界として,熟練看護師に関わった事例を想起してもらい,看護師の解釈に基づいた語りであるため,今後,事例研究や参加観察や患者・家族の視点からの検討を行うことで,より詳細なプロセスが明らかになると考えられる.

付記:本研究の一部は,第42回日本看護科学学会学術集会において発表した.

謝辞:本研究を行うにあたり,お忙しい中ご協力をいただきました看護師の皆様に謹んで御礼申し上げます.本研究はJSPS科研費20K23172の助成を受けたものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
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