日本看護科学会誌
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原著
訪問看護師による高齢者の難聴ケアの実態
鍋島 純世安東 由佳子
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2023 年 43 巻 p. 408-418

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Abstract

目的:訪問看護師による高齢者の難聴ケアの実態を明らかにする.

方法:訪問看護師1,361名を対象に,難聴ケアの実態として知識,アセスメント,ケア,多職種連携,困難感,学習ニーズについてWeb調査を実施した.

結果:難聴ケアの知識は,全項目で60~90%の訪問看護師がもっていなかった.アセスメントは全項目で50~100%,ケアは1項目を除くと40~100%の訪問看護師が実施しておらず,全般的に低かった.多職種連携は全項目で60~90%の訪問看護師が実施していなかった.困難感は,難聴の程度のアセスメント(約80%),耳垢の除去(約70%)実施時の困難感が高かった.一方,学習ニーズは全項目で90%以上の訪問看護師がさらに知識が必要と回答した.

結論:訪問看護師による難聴ケアに関する知識やケアの実施率は低かったが,学習ニーズは高かった.今後の訪問看護師に対する難聴ケア教育の必要性が示唆された.

Translated Abstract

Purpose: This study aims to clarify the actual situation of hearing loss care for older adults by visiting nurses.

Method: We conducted an online survey of knowledge, assessment, care, multidisciplinary collaboration, difficulties, and learning needs with 1,361 visiting nurses to understand hearing loss care’s actual situation.

Results: On knowledge of hearing loss care, the percentage of visiting nurses who were uninformed ranged from 60 to 90% across all items. Furthermore, results for assessment and care were low overall. The percentage of visiting nurses who did not perform assessment and care ranged from 50 to 100% and 40 to 100% across all assessment items and all but one care item, respectively. Additionally, the percentage of visiting nurses who did not practice multidisciplinary collaboration ranged from 60 to 90% across all items. Finally, many visiting nurses experienced difficulties when conducting assessments of hearing loss severity (approximately 80%) and earwax removal (approximately 70%). More than 90% of visiting nurses felt that “learning needs” related to hearing loss care were necessary.

Conclusion: While the knowledge and implementation rate of visiting nurses required for hearing loss care were low, learning needs for hearing-impaired care were high. These results suggest the need for hearing loss care education for visiting nurses in the future.

Ⅰ. 緒言

我が国における高齢化率(65歳以上の人口が総人口に占める割合)は,2022年に28.9%となり(内閣府,2022),過去最高を更新している.加齢性難聴のある高齢者数は1,500万人超と算定され,70歳以上では約50%,75歳以上では約70%の有病率が示されている(内田ら,2012)が,高齢化が進んでいるわが国では,今後も加齢性難聴のある高齢者の増加が予測される.

難聴には,外耳や中耳で生じる耳垢栓塞や中耳炎が原因となる伝音難聴と,内耳で生じる突発性難聴やメニエール病,加齢性難聴などの感音難聴がある(小川,2020).高齢者の場合,もともとある加齢性難聴に耳垢栓塞が重なり聴力増悪の原因となっていた割合は約10%もあることが報告されており(杉浦ら,2009),高齢者の難聴は加齢性難聴だけでなく耳垢栓塞等を含む広範的な捉え方が重要といえる.そして,加齢性難聴(以下,難聴)は,聞こえないから不便であるというだけの問題ではなく,抑うつ(Li et al., 2014)やADL低下(Sakurai et al., 2022),そして認知機能低下の危険因子(Lin et al., 2011)とされており,難聴へのケアは重要である.

一方,高齢者自身については,耳が聞こえにくいことが周囲に知られると,年寄り,愚か者,不自由な人として他者から認識されるといった偏見をもっている(David et al., 2018).また,自覚的な聴力と実際の聴力のズレ(鍋島・山田,2014)が存在し,台北の地域在住の65歳以上の高齢者1,220人を対象とした横断調査では,21.4%しか自身の聴力低下を正確に認識していない(Chang et al., 2009)という報告がある等,難聴のケアが進み難い状況となっている.さらに,補聴器の適用である中等度難聴以上の約60%は補聴器非使用者と報告され(内田・杉浦,2017Bulğurcu et al., 2020),補聴器の装用率は低いことが明らかになっている.

このような難聴高齢者に対して,医療従事者の約60%は難聴ケアの必要性がないと回答しており(Gilliver & Hickson, 2011),看護師を含む介護施設スタッフの71.0%は補聴器の知識を持っていない(Solheim et al., 2016)と報告されている.このように,海外における医療従事者の難聴ケアに関する知識や認識は十分ではないといわれている.国内では,難聴高齢者との会話における訪問看護師の困難感の実態把握(鍋島・又吉,2020)にとどまり,在宅医療を担う看護師が行う難聴ケアの実態は不明である.

そこで,本研究は,訪問看護師による高齢者の難聴ケアの実態を明らかにすることを目的とした.本研究により,今後,強化すべき難聴ケアが明らかになり,在宅看護の質向上に貢献することができる.

Ⅱ. 研究方法

1. 用語の定義

本研究における「難聴ケア」とは,加齢性難聴や耳垢栓塞などを含む高齢者が抱える難聴や補聴器に関して,難聴の程度や補聴器に関する「アセスメント」,外耳道ケアや補聴器のメンテナンス,そしてコミュニケーションに必要な環境調整を含む「ケア」,そして難聴対策に関わる専門医療職種や高齢者が利用する他サービスの情報共有を含む「多職種連携」とする.

また,「難聴ケアに関する困難感」とは,訪問看護師が難聴の程度や補聴器に関する「アセスメント」,外耳道ケアや補聴器のメンテナンス,そしてコミュニケーションに必要な環境調整を含む「ケア」を実施する際に困ると感じることや難しいと感じることとする.

2. 調査対象者およびデータ収集方法

厚生労働省が出している全国47都道府県の訪問看護ステーション比率に合わせて,一般社団法人全国訪問看護事業協会に登録する訪問看護ステーション7,404施設(2022年8月時点)の中から200施設を無作為抽出した.

調査対象者は,研究の承諾が得られた訪問看護ステーションに勤務する訪問看護師とした.各施設の管理者を通して調査対象者である施設所属の訪問看護師全員1,361名に対しWeb調査回答依頼を郵送し,Web調査を2022年10月~11月に実施した.

3. 調査項目

1) 基本属性

年齢,性別,看護師経験年数,訪問看護師経験年数,同居の有無,雇用形態,学歴,保有資格,難聴や補聴器に関する研修受講の有無を調査した.

2) 訪問看護師による難聴ケアの実態

海外で実施された医療従事者による難聴ケアに関する実態の先行研究(Solheim et al., 2016)等を参考に調査項目を検討した.さらに,約20年間高齢者のケアをしている臨床看護師および難聴ケアを専門領域としている研究者と共に質問項目を確認し,最終的に知識・ケア・困難感・学習ニーズ・多職種連携の観点から,難聴ケアの実態を調査することとした.

(1) 難聴ケアに必要な知識

実際の知識として,加齢性難聴の病態,簡便な難聴スクリーニング法(指こすり法,電子体温計の終了音聴取法,ささやき音聴取法),耳垢除去の方法,補聴器に関する知識(補聴器の種類,メンテナンスやクリーニング等),聞き取りやすい環境調整や会話技術を調査した.それぞれの項目に対する知識の程度を「1:全くその通りでない(知識がない)」~「6:全くその通り(知識がある)」で調査した.

(2) 難聴ケアの実施状況

① アセスメント

簡便な難聴スクリーニング法(指こすり法,電子体温計の終了音聴取法,ささやき音聴取法)の実施の程度,補聴器(補聴器の汽笛音,電池確認,使用方法,困難感等),クライエントの難聴や自己防衛能力(サイレンやインターホンなど)低下,耳垢の有無確認に関するアセスメントの実施状況を調査した.

② ケア

補聴器に関するケア(電池交換,クリーニング),聞き取りやすい環境調整や会話技術,耳垢除去に関するケアの実施状況を調査した.

③ 多職種連携

専門医療機関(言語聴覚士・補聴器相談医・補聴器外来など)との連携,難聴や補聴器に関する連携(情報共有やケアの助言等)を調査した.それぞれの項目に対するケア実施の程度を「1:全く行っていない」~「6:いつも行っている」で調査した.

さらに,在宅看護の難聴ケアにおける多職種連携についての実施状況を客観的に評価するために,在宅看護の質自己評価尺度(舟島,2021)を使用した.本尺度は,在宅療養中のクライエントの看護問題に対応する看護職者の行動を下位尺度I~VIにて測定するものである.本尺度はそれぞれの項目に対して「1:ほとんど行っていない」~「5:いつも行っている」の5件法で調査し,点数が高いほどその行動を実施していることを示す.信頼性および妥当性は確保されている.下位尺度I~Vの項目は,クライエントの家族関係の構築や家族自身に関する内容で構成されており,看護師の難聴ケアにおける多職種連携の行動を測定することが困難と判断した.よって本研究は,在宅看護の質自己評価尺度のうち「下位尺度VI:知識・技術を提供し,多職種と協力して問題を解決・回避する行動」の5項目を使用し,家庭で療養するクライエントに対して実施する難聴ケアにおける多職種連携の実施頻度を測定した.

(3) 難聴ケアに関する困難感

難聴ケアの「アセスメント」,「ケア」に関する困難感の程度を調査した.難聴ケアの実施状況として質問した各アセスメントの項目,各ケアの項目それぞれに対する困難感の程度を「1:全く感じない」~「6:いつも感じる」で調査した.

(4) 難聴ケアに関する学習ニーズ

高齢者の難聴に関する基礎知識,補聴器に関する知識(補聴器の種類,メンテナンスやクリーニング等),難聴や補聴器に関する問い合わせ先や制度の知識,聞き取りやすい環境調整や会話技術等の学習ニーズを調査した.それぞれの項目に対する学習ニーズの程度を「1:全くその通りでない」~「6:全くその通りだ」で調査した.

4. 分析方法

難聴ケアに必要な知識については,「1:全くその通りでない~6:全くその通り」の割合を項目ごとに算出した.難聴ケアについては「1:全く行っていない~6:いつも行っている」の割合を項目ごとに算出した.難聴ケアに関する困難感においては,「1:全く感じない~6:いつも感じる」の割合を項目ごとに算出した.難聴ケアに関する学習ニーズについては,「1:全くその通りでない~6:全くその通り」の割合を項目ごとに算出した.在宅看護の質自己評価尺度下位得点は,平均と標準偏差を算出した.統計解析はSPSS Ver28を用いた.

5. 倫理的配慮

本研究は,名古屋市立大学大学院看護学研究科の研究倫理審査委員会(ID番号22016-2)の承認を受けて実施した.調査では,各施設の管理者に研究概要,研究目的,方法,倫理的配慮,研究参加の任意性を文書にて説明した.訪問看護師にも同様の説明を文書にて行い,Web調査開始前画面の同意確認Boxへのチェックをもって同意を得られたものとした.Web調査については,調査実施期間中Webサーバーは24時間監視付のデータセンターに設置され,回答データはパスワードで保護された圧縮ファイルで授受することについて依頼書に明記した.使用した尺度は,作成者の承諾を得て使用した.

Ⅲ. 結果

1. 対象者の概要(表1

1,361名の訪問看護師のうち158名(回収率11.6%)から回答が得られた.そのうち質問項目すべてに回答が入力されている128名を有効回答とし(有効回答率81.0%),各項目の割合を算出した.対象者の年齢は46.4 ± 9.1歳であった.看護師経験年数は21.3 ± 9.4年,訪問看護師経験年数は8.8 ± 7.7年であった.性別は女性が123名(96.1%)で,110名(85.9%)が同居していた.同居者の最年長の年齢は,60歳代が10名(9.1%),70歳代以上が17名(15.5%)であった.雇用形態は常勤が93名(72.7%)であった.学歴は専門学校卒が92名(71.9%)で最も多かった.保有資格として保健師14名(10.9%),介護支援専門員25名(19.5%)が取得していた.難聴や補聴器に関する研修の受講経験は123名(96.1%)が「なし」と回答した.

表1 

対象者の基本属性 N = 128

項目 n (%) 平均±標準偏差
年齢 46.4 ± 9.1
看護師経験年数 21.3 ± 9.4
訪問看護師経験年数 8.8 ± 7.7
性別 男性 5 (3.9)
女性 123 (96.1)
同居の有無 あり 110 (85.9)
なし 18 (14.1)
同居している最年長の家族の年齢(同居あり110名中) 20代以下 4 (3.6)
30代 11 (10.0)
40代 39 (35.5)
50代 29 (26.4)
60代 10 (9.1)
70代以上 17 (15.5)
雇用形態 常勤 93 (72.7)
非常勤 35 (27.3)
学歴 専門 92 (71.9)
大学 18 (14.1)
大学院 4 (3.1)
その他 14 (10.9)
保有資格(複数回答) 看護師 128 (100.0)
保健師 14 (10.9)
介護支援専門員 25 (19.5)
難聴や補聴器に関する研修受講経験の有無 あり 5 (3.9)
なし 123 (96.1)

2. 訪問看護師の難聴ケアに必要な知識の実態(図1

難聴ケアに必要な知識について,「1:全くその通りでない~3:ややその通りでない」を知識が「ない」,「4:ややその通り~6:全くその通り」を知識が「ある」としたとき,難聴ケアに必要な知識の全項目において,約60~90%の訪問看護師が「知識がない」と回答した.具体的には,⑦加齢性難聴の病態や及ぼす影響,⑧環境調整(聞き取りやすい環境や会話技術),⑨耳垢除去の方法について「知識がない」と回答した訪問看護師は,約60~70%であった.簡便な難聴スクリーニング法(①ささやき音聴取法,②指こすり法,⑤電子体温計の終了音聴取法)は約90%の訪問看護師,補聴器に関する知識(③種類や機能,④メンテナンスやクリーニング)は約90%の訪問看護師,⑥難聴や補聴器に関する相談先や問い合わせ先は約86%の訪問看護師が「知識がない」と回答した.

図1 

訪問看護師の難聴ケアに必要な知識の実態 N = 128

3. 訪問看護師の難聴ケアの実施状況(図2-1図2-2図2-3

難聴ケアについて「1:全く行っていない~3:あまり行っていない」を「(難聴ケアを)実施していない」,「4:時々行っている~6:いつも行っている」を「(難聴ケアを)実施している」としたとき,「アセスメント」は全項目において,約50~100%の訪問看護師が「実施していない」と回答した.具体的には,簡便な難聴のスクリーニング(①指こすり法,②ささやき音聴取法,③電子体温計の終了音聴取法)は90%以上の訪問看護師,補聴器に関するアセスメント(④補聴器の汽笛音(ハウリング),⑤補聴器の電池(電源)の確認,⑥クライエントの補聴器に関する困難感,⑦補聴器の使用方法)は約70~80%の訪問看護師,⑧難聴による自己防衛能力(サイレンやインターホンなど)低下に関するアセスメントは約70%の訪問看護師が「実施していない」と回答した.⑨難聴の程度,⑩耳垢の有無のアセスメントは約50~60%の訪問看護師が「実施していない」と回答した.

図2-1 

訪問看護師の難聴ケア(アセスメント)の実施状況 N = 128

図2-2 

訪問看護師の難聴ケア(ケア)の実施状況 N = 128

図2-3 

訪問看護師の難聴ケア(多職種連携)の実施状況 N = 128

「ケア」は,⑥環境調整(会話速度の調整)以外の項目において約40~100%の訪問看護師が「実施していない」と回答した.具体的には,補聴器に関するケア(①補聴器のイヤモールド(耳の形状に合わせた耳せん)の洗浄,②補聴器の電池交換)は約90~100%,環境調整(③会話における照明調整,⑤会話における環境音調整)は約40~60%,④耳垢の除去は約50%の訪問看護師が「実施していない」と回答した.一方,環境調整である⑥会話速度の調整は「実施していない」と回答した訪問看護師は約10%であった.

「多職種連携」は全項目において約60~90%の訪問看護師が「実施していない」と回答した.具体的には,①専門医療機関(言語聴覚士・補聴器相談医・補聴器外来など)との連携は約90%,②クライエントの難聴や補聴器に対するケア方法の共有・助言は約75%,③クライエントの難聴や補聴器に関する状態の情報共有は約60%の訪問看護師が「実施していない」と回答した.さらに,在宅看護の質自己評価尺度「VI 知識・技術を提供し多職種と協力して問題解決・回避する行動」の項目で調査した「難聴ケアにおける多職種連携」の下位得点は平均14.5 ± 5.1点であった.

4. 訪問看護師の難聴ケアに関する困難感(図3-1図3-2

「難聴ケアの実施状況」に関する質問において「全く行っていない」を除く「いつも行っている~ほとんど行っていない」と回答した者のうち,「1:全く感じない~3:あまり感じない」を「困難感なし」,「4:時々感じる~6:いつも感じる」を「困難感あり」としたとき,難聴ケアに関する困難感は全項目において約20~80%が「困難感あり」と回答した.

図3-1 

訪問看護師の難聴ケア(アセスメント)に関する困難感

図3-2 

訪問看護師の難聴ケア(ケア)に関する困難感

「アセスメント」に関する困難感は,全項目において約30~80%の訪問看護師が「困難感あり」と回答した.具体的には,①難聴の程度は約80%,②難聴による自己防衛能力(サイレンやインターホンなど)低下は約60%,③耳垢の有無は約55%の訪問看護師が「困難あり」と回答した.補聴器に関するアセスメント(④クライエントの補聴器に関する困難感,⑤補聴器の使用方法,⑥補聴器の汽笛音(ハウリング),⑦補聴器の電池(電源)の確認)は約40~50%の訪問看護師,簡便な難聴スクリーニング(⑧電子体温計の終了音聴取法,⑨ささやき音聴取法,⑩指こすり法)は約30~40%の訪問看護師が「困難感あり」と回答した.

「ケア」に関する困難感は,全項目において約20~70%の訪問看護師が「困難あり」と回答した.具体的には,①耳垢の除去は約70%の訪問看護師が「困難感あり」と回答した.環境調整(②会話速度の調整,③会話における環境音調整,⑤会話における照明調整)は約30~50%の訪問看護師,補聴器に関するケア(④補聴器の電池交換,⑥補聴器のイヤモールド(耳の形状に合わせた耳せん)の洗浄)は約20~40%の訪問看護師が「困難感あり」と回答した.

5. 訪問看護師の難聴ケアに関する学習ニーズの実態(図4

難聴ケアに関する学習ニーズについて「1:全くその通りでない~3:ややその通りでない」を学習ニーズが「ない」,「4:ややその通り~6:全くその通り」を学習ニーズが「ある」としたとき,①高齢者の難聴に関する基礎知識,補聴器に関する知識(②補聴器の種類と機能,⑥補聴器のメンテナンスとクリーニング),環境調整に関する知識(③良好な照明・音響環境・会話技術),制度(④補聴器・聴覚支援機器などに関する制度),連携(⑤難聴や補聴器に関する問い合わせ先について)といった難聴ケアに関する学習ニーズの全項目において,90%以上の訪問看護師が「さらに知識が必要である」と回答した.

図4 

訪問看護師の難聴ケアに関する学習ニーズの実態 N = 128

IV. 考察

1. 訪問看護師が行う難聴ケアの実態と課題

1) 基本的な難聴ケアの実態と課題

本研究調査結果より,訪問看護師の難聴ケアについて,「知識がない」と回答した看護師が全ての項目において約60%以上おり,全般的に知識が不足していることが示された.先行研究では,90.9%の訪問看護師が難聴高齢者の訪問経験があると報告されている(鍋島・又吉,2020).このように訪問看護を提供しているクライエントには加齢性難聴をはじめ聴覚に問題のある人が多いにもかかわらず,難聴ケアに関する知識がないと認識している訪問看護師が半数以上存在することが本調査にて明らかになった.さらに,50%以上の訪問看護師が難聴に関するアセスメントを実施しておらず,環境調整を除く難聴ケアを50%以上の訪問看護師が「実施していない」と回答した.先行研究では,例えば排便ケアに関するアセスメントは約60~90%の訪問看護師,排便ケアの実施は80%以上の訪問看護師が実施し(大野ら,2021),認知症ケアの実施も約50~90%の看護師が実施している(竹内・吉本,2022).他のケアの実施率と比較をしても,難聴ケアに関する知識や実施率の低さが浮き彫りになった.

その中でも今回,加齢性難聴の病態や及ぼす影響の知識を60%以上の訪問看護師が「ない」と回答し,難聴の程度に関するアセスメントを実施していない訪問看護師が約60%,そしてアセスメントする際に困難感を抱えている訪問看護師が約80%,学習ニーズのある訪問看護師が90%以上という結果は,着目すべき課題である.看護学士の教育課程において使用されている書籍には,加齢に伴う身体機能の生理的変化として加齢性難聴についての説明があり,聴覚機能のアセスメントとして社会生活の中での聞こえの様子などが例示されている(関,2022).難聴ケアの実施には難聴に関する基礎知識が必須であり,難聴に関する基礎知識を学びなおし,訪問看護師が困難感なく難聴ケアの実施ができることは重要である.訪問看護師自身の学習ニーズが高いことも踏まえ,難聴に関する学びなおしの機会を提供できるような指導体制が必要であることが示唆された.

また本調査では,約40%の訪問看護師が,耳垢除去の方法に関する知識を持ち,耳垢に関するアセスメントやケアを実施していた.一方,耳垢の有無の確認に約55%,耳垢除去に約70%の訪問看護師が困難感をもっていた.耳垢栓塞については,看護師でも比較的容易に耳鏡検査が可能であり,指導を受ければ耳垢の除去も可能であることが報告されている(杉浦ら,2016).今後は耳垢の有無の確認や除去といった外耳道ケアの知識や耳鏡検査の技術習得も難聴ケアの一環として捉え,訪問看護師が困難感なく実施できるような看護教育の考案が必要であると考える.

2) 補聴器に関する難聴ケアの実態と課題

補聴器に関する難聴ケアの実態は,補聴器の知識がある訪問看護師は 10%以下であり,アセスメントは約20~30%の訪問看護師,ケアの実施は約10%の訪問看護師しか実施していなかった.しかし,約40~50%の訪問看護師が補聴器に関する困難感を抱え,90%以上の訪問看護師が補聴器に関する学習ニーズをもっていた.補聴器の効果については,補聴器の使用により認知機能低下の進度が減速することや(Amieva et al., 2015),補聴器を使用することによりうつ症状が軽減する(Choi et al., 2016)といった効果が報告されており,高齢者と関わる看護職が補聴器に関する知識等をもつことは重要であるといえる.先行研究では,一人暮らしや自立度による影響で補聴器の使用が難しく(中島ら,2019),補聴器を使用している高齢者の相談先としてかかりつけ医,耳鼻咽喉科医,補聴器相談医など,関係性のある人物からのサポートが重要であるとされている(Meyer et al., 2014).日常生活のサポート役を担う訪問看護師は,難聴高齢者にとって気軽に相談しやすい医療者の一人であり,今後訪問看護師に対する補聴器の知識や技術の習得について検討が必要であることが示唆された.

3) 難聴スクリーニングに関する実態と課題

簡便な難聴スクリーニングに関する知識をもっている訪問看護師は約10%,ケアを実施している訪問看護師は10%以下,実施時に困難感を抱えている訪問看護師は約30~40%であった.多くの高齢者は,自身の偏見(David et al., 2018)などにより,自覚的に聞こえの悪さに気づいても受診しない(佐野ら,2017).加齢性難聴はフレイルの危険因子(Liljas et al., 2017)であり,高齢者の主体的な受診行動に委ねることなく,難聴の早期発見と適切な治療に繋ぐ必要性は高い.そのために,在宅医療や介護の現場では,指こすり音聴取検査(サブレ森田ら,2017),ささやき音聴取検査や電子体温計の終了音聴取検査(小出・山田,2020)など簡便で正確なスクリーニング方法が盛んに検討されている.今後,訪問看護師が,手軽に正確に行える難聴スクリーニングの知識や技術を習得することは,クライエントの難聴の早期発見に繋がる有用なケアとなり得る.訪問看護師がこのようなスクリーニングの知識や技術を獲得できる教育の検討が必要であることが示唆された.

2. 訪問看護師が行う会話に必要な環境調整の実態と課題

難聴高齢者との会話に必要な環境調整の知識を約40%の訪問看護師がもっていた.ノルウェーの医療従事者のその割合69%(Solheim et al., 2016)より低い結果である.公益社団法人日本看護協会が毎年定めている看護の質保証を目的とした研修内容(公益社団法人日本看護協会,2023)において,難聴ケアに必要な知識や技術に関する教育項目は設定されていない.本調査においても,95%以上の訪問看護師が「難聴や補聴器に関する研修の受講経験がない」と回答しており,難聴ケアを学ぶ場がないが故に難聴高齢者との会話に必要な知識や技術の習得率が低いことは当然の結果といえるものの,本邦における実態は新たな知見である.

会話に必要な環境調整を約40~60%の訪問看護師が実施する一方で,約30~40%の訪問看護師が困難感を抱え,90%以上の訪問看護師が環境調整に関する学習ニーズがあると回答した.会話の困難さは,社会的孤立や孤独感の増加のために高齢者の精神的身体的健康問題に悪影響があることが示唆されており(Palmer et al., 2016),良好なコミュニケーションは非常に重要である.良好なコミュニケーションのために,照明や音響調整を含む環境調整は重要であり,今後,一律ではない在宅環境を踏まえた会話に必要な環境調整の習得が訪問看護師にとって必要であると考える.

3. 訪問看護師が行う難聴ケアにおける多職種連携の実態と課題

難聴や補聴器に関する相談先や問い合わせ先の知識をもつ訪問看護師は約10%であり,実際に多職種と連携をしていたのは40%以下の訪問看護師であった.さらに,難聴ケアにおける多職種連携を示す「知識・技術を提供し多職種と協力して問題解決・回避する行動」の下位得点は平均14.5 ± 5.1点であり,在宅看護全般における「知識・技術を提供し多職種と協力して問題解決・回避する行動」の下位平均得点20.0 ± 3.7(舟島,2021)よりも低値であった.本調査で使用した尺度項目の具体的な内容は「クライエント・家族の問題の解決に向けて他職種と連携を図る」,「クライエント・家族に関りをもつ他職種と役割を調整する」,「看護の提供によって解決しない問題は他の専門機関を紹介する」といった内容であり,難聴ケアの提供時にこのような連携行動を訪問看護師は円滑に行えていないことが明らかになった.例えば,補聴器の長期間使用には定期的な補聴器の状況確認や点検が重要であり(長井ら,2016),医療従事者は補聴器に関するトラブルが生じた場合,補聴器に関する知識を用いて適格に判断し補聴器相談医と連携する必要がある(Solheim et al., 2016).このことは,訪問看護の場でも例外ではなく,電池交換や耳垢などによるイヤモールド汚染への対応は,補聴器を使用する高齢者にとっては緊急性が高い.相談先や補聴器に関する制度,そして難聴や補聴器に関する問い合わせ先について90%以上の訪問看護師が学習ニーズをもっていたことからも,連携の重要性を感じ,知識習得に意欲の高い集団であるといえる.今後は訪問看護師に対し難聴ケアにおける多職種連携と協働の視点も含めた看護教育の検討の必要性が示唆された.

Ⅴ. 研究の限界と今後の課題

本研究の回収率は11.6%と低かった.理由として,本研究はWeb調査であり,通信デバイス操作に慣れていない対象者は回答しなかった可能性があること,研究の依頼用紙を訪問看護師へ配布するか否かを管理者の判断に委ねたため,配布されなかった可能性があること等が考えられた.さらに,回収率の低さから,本研究結果が全国の訪問看護師による難聴ケアの実態を代表しているとは言い難く,今後は回収率の向上が課題である.また,本研究は,訪問看護師が認識している難聴ケアの実態であり,訪問看護師からみたケアの自己評価である.今後は,難聴ケアを測定する尺度等,ケアを客観的に評価できる方法の検討が必要である.さらに,本研究では,難聴ケアに関する困難感や学習ニーズが高いことは明らかになったが,対象者が実践の中で具体的にどのようなことに困難感を感じ,どのような学習ニーズをもっているか等の詳細は不明であった.今後は,質的帰納的な研究手法等により,対象者らの困難感や学習ニーズをより詳細に捉え,難聴ケアの質向上に貢献できる教育に繋げていく必要がある.

Ⅵ. 結論

全国の訪問看護師に高齢者の難聴に対するケアの実施状況と困難感についてWeb調査を行った.約60~90%の訪問看護師が難聴ケアに関する「知識」をもっていなかった.「アセスメント」は約50~100%,「ケア」は約40~100%の訪問看護師が実施しておらず,約20~80%の訪問看護師が困難感を抱えていた.難聴ケアにおける「多職種連携」については約60%~90%の訪問看護師が実施していなかった.難聴ケアに必要な知識や看護支援の実施率は低かった一方で,難聴ケアに関する「学習ニーズ」は90%以上の訪問看護師が必要と感じており,難聴ケアの重要性について認識し,知識や技術の習得に意欲の高い集団であることが明らかとなった.本研究の結果から,訪問看護師に対する高齢者への難聴ケア教育の必要性が示唆された.

付記:本論文は名古屋市立大学大学院看護学研究科に提出する博士論文の一部である.

謝辞:本研究にご協力いただきました研究対象施設の管理者様,訪問看護師の皆様に心より感謝申し上げます.本研究はJSPS科研費(20K19292)の助成を受けた.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:SNは研究の着想およびデザイン,調査の実施,分析,原稿の作成までの全てのプロセスを行った.YAは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言者として貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承諾した.

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