2023 年 43 巻 p. 439-449
目的:精神科病院の看護部長が認識する入院患者のリカバリーに向けた実践に影響する要因について明らかにする.
方法:全国の精神科病院の看護部長20名を対象に半構造化面接調査を実施した.面接データは逐語録を作成し,Graneheimのデータ分析方法を参考に質的記述的分析を行った.
結果:精神科病院の看護部長が認識するリカバリーに向けた実践に影響している要因として325のコードが抽出され,【看護部長のリカバリー志向と伝達】【看護部長を理解する仲間の存在】【退院支援における看護職の充実感】【病院組織の文化と風土】の4つのコアカテゴリに分類された.
結論:精神科病院においてリカバリーに向けた実践を行っていくためには,看護管理者のリカバリー志向を高める教育と,多職種・他部門を含んだ病院全体に対するリカバリーの教育の必要性,退院後の生活を知るなどリカバリーを目の当たりにする体験の必要性が示唆された.
Purpose: To clarify the factors that influence recovery-oriented practice for inpatients as recognized by the nursing directors of psychiatric hospitals.
Methods: A semi-structured interview survey was conducted to 20 nursing directors of psychiatric hospitals in Japan. The interview data were transcribed verbatim, and qualitative descriptive analysis was performed with reference to the data analysis method of Graneheim.
Results: In terms of the factors influencing the practices facilitating the recovery of inpatients recognized by the nursing directors, 325 codes were extracted and classified into 21 categories and four core categories: nursing director’s recovery-orientation and communication to the staff, existence of colleagues who approve the idea of the nursing director, sense of professional fulfillment during discharge support, and culture and climate of the hospital organization.
Conclusion: The following points were suggested for the introduction of practices facilitating recovery in psychiatric hospitals in the future. There is a need for education that enhances recovery-oriented attitudes of nursing directors, education on patient recovery for the hospital as a whole, including multiple occupations and other departments, and a need for seeing and listening to patients’ experience of the recovery process, including understanding of the patients’ lives after hospital discharge.
わが国の精神保健医療福祉は,2004年に精神保健医療福祉の改革ビジョン「入院医療中心から地域生活中心」が策定され,精神障害者の地域生活の定着に向けて様々な施策が行われてきた(厚生労働省,2004).しかし,未だ30万人の長期入院患者が存在しており(厚生労働省,2020),精神科療養病床数は他の欧米諸国と比較して突出して多く,精神障害者の地域生活を支える基盤整備の一層の充実が必要である(菊池,2019).精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の改定により,障害者が地域や職場で生きがい・役割を持ち,その人らしく安心して暮らすことが目標に掲げられ,精神障害者のリカバリーに向けた取り組みが求められている(厚生労働省,2022).
リカバリーとは,疾患や障害があったとしても,自分らしさを大切にし,夢や希望をもちながら生きていく過程(Anthony, 1993/1998)で,精神保健医療福祉においてリカバリー概念は,精神障害者の支援の基盤となっている(Davidson et al., 2009;Gilburt et al., 2013).リカバリー志向の実践では,人々が自分のアイデンティティと人生のコントロールを取り戻し,将来に希望を持ち,仕事,人間関係,地域社会との関わりを通じて意味のある人生を送れるよう支援することを目的としている(World Health Organization, 2019).現在では,リカバリー志向の実践は精神障害者のリカバリーを促進することが証明され,多くの専門機関によってベストプラクティスとして認識されている(Piat et al., 2010).世界の精神保健医療福祉領域では,支援理念としてリカバリーを志向する実践が注目され(大島,2022),日本においてもリカバリー概念を中心に据えた精神保健サービスへと変革していくことが求められている(千葉・宮本,2017).しかし,日本は欧米に比べて脱施設化が進まず入院医療中心の文化であり(福嶋,2021),海外諸国までの発展には至っていない(藤野ら,2019).精神障害者のリカバリーを促進する要因として,医療従事者がリカバリー志向の見方をすること,そのための組織改革が奨励されることがあげられている(Gilburt et al., 2013;Le Boutillier et al., 2015).
組織の文化を変革していくためには,病院全体のシステムをリカバリーに向けた実践へと調整するために,より多くのスタッフへの教育と管理上の変更が必要である(Michelle et al., 2013).これまで,実践に向けてリカバリーに関する教育の重要性は多くの文献で言われている(McVanel-Viney et al., 2006;Knutson et al., 2013;McKenna et al., 2014;藤野ら,2019).構造化された教育がリカバリーの知識を高め,リカバリー志向の実践に対する態度を変えることが証明されており,継続的な教育と管理者からのサポートが求められている(Nardella et al., 2021).そのためにも,管理者がリカバリーを理解し,医師や他の関係者に効果的に伝え,変化を起こす必要性がある(Wainberg et al., 2017).一方で,リカバリーに向けた実践には,スタッフのリカバリー実践の理解と経験,実践に向けたリーダーシップなど実践を後押しする要因と,組織構造や医療提供者間の協力の欠如,経済的懸念など他の競合する優先事項による様々な障壁があるとされており(Le Boutillier et al., 2015;Fleury et al., 2018),実践に影響する要因への対応が求められる.
精神科病院のリカバリーに向けた実践を検討していく上で,組織変革の強力な支持者となりリカバリーの価値を実践に具体化させるなど,管理者が果たす役割は大きく(Anthony & Huckshorn, 2008;Piat et al., 2010;Carlson et al., 2012),組織の中核的な存在である看護管理者の認識が重要である.しかし,看護管理者のリカバリーに関する認識の研究は,リカバリー志向の実践を重視する組織の特性として,フラットな階層構造,メンバーからのサポート体制や,リカバリー志向の価値観に基づいたリーダーシップなどがあることを明らかにしたもの(Bauer et al., 2019),スタッフと管理者のリカバリー志向のケアの認識に関連する変数として,知識の共有などのチームプロセスと多職種連携や仕事満足度などのチームの緊急事態があることを明らかにしたもの(Fleury et al., 2018)のみであった.また,日本においては,精神科看護師がリカバリーストーリーを聴くことで,看護師のリカバリーに対する基準が「社会生活への復帰」から「当事者の生活や生き方」へ変化する傾向があることを明らかにした研究(栗原ら,2020)と,精神科看護師のリカバリー志向性の特徴と関連要因から患者の社会復帰を傍で支える看護師の姿勢がリカバリー志向性の高さに繋がっていることを明らかにした研究(藤野ら,2019)があるのみであり,看護管理者を対象にした研究は行われていなかった.精神科病院の看護部長が認識するリカバリーに向けた実践への影響要因を知ることで,今後,リカバリー志向の看護実践を導入するための示唆を得ることができると考える.
リカバリー:疾患や障害があったとしても,自分らしさを大切にし,夢や希望をもちながら生きていく過程(Anthony, 1993/1998).
リカバリーに向けた実践:リカバリーを支えるための自己決定とストレングスへの着目に基づいた支援であり(Deegan, 1988;Xie, 2013),そのためのプログラムの実施や言葉かけなど,患者や家族に働きかける行為.また,本研究においては,リカバリーに関する教育,リカバリーを支援するためのカンファレンスや多職種連携なども含み,組織的な取り組みからスタッフが個別で実施しているレベルのものまでを含むものとする.
影響要因:影響とは,物事の力や作用が他のものにまで及ぶこと,物事の関係が密接なこと(日本国語大辞典,2006)であり,リカバリーに向けた実践に関係している,きっかけ,実施・導入に当たって工夫した点・困難だった点などを影響要因とする.
本研究は,看護部長の認識に焦点を当てる探索的研究であり,質的記述的研究方法を用いることとした.
2. 研究対象者研究対象者は,全国の精神科病院の看護部長20名とした.松井ら(2019)を参考に,リカバリーに向けた実践に影響する可能性のある病床数,設置主体,地域,看護部長の性別などの基準を網羅するよう対象者を選択した.さらに,先行研究よりリカバリーに向けた実践を行っていることが明らかになっている精神科病院や研究対象者から,さらに次の研究対象者を紹介してもらう雪だるま式サンプリングを用いた.対象病院の看護部長に電話で調査を依頼し,同意が得られた方のみ面接調査を行った.
3. 調査期間2020年7月~11月
4. データ収集内容調査方法は,面接ガイドに基づく半構造化面接調査で,対象者の同意を得てICレコーダーに録音した.COVID-19の影響により対面での面接が困難な場合はZoomを用いて面接を行った.面接ガイドに,本研究におけるリカバリーの定義を示した上で面接を行った.
面接内容は,精神科看護師のリカバリー志向性の特徴と関連要因を明らかにした藤野ら(2019)を参考に,1)個人属性:年齢,性別,資格,経験年数(看護師,精神科勤務,管理者),資格,経験勤務場所,2)病院の基本情報:規模(病床数),平均在院日数,3)リカバリーに向けた実践については,実践のきっかけ,実施や導入に当たって工夫した点・困難だった点とその理由,その困難への対応であった.
5. 分析方法分析方法は,分析対象とする記述から傾向を明らかにし,その内容を生んだ原因,内容が引き起こす結果を明らかにできる内容分析(舟島,2007)の手法を用いた.面接内容を構造的にとらえるという立場を反映し,看護に応用されていて分析方法が明らかになっているGraneheimの方法を用いた.録音された面接データの逐語録を作成し,リカバリーに向けた実践に影響している要因について文章を抽出し,分析の単位を構成する1つの意味単位にまとめた.コーディングは,意味単位から凝縮された意味単位を生成し,凝縮された意味単位を抽象化し,コードでラベル付けした.コードの類似性から代表されるような名前をつけ,サブカテゴリ,カテゴリ,コアカテゴリとした.信頼性を確保するため,意味単位,凝縮された意味単位,コードの抽象化がどのように行われるかを明らかにすることで信頼性を判断しやすくした(Graneheim & Lundman, 2004).
研究対象者に対して,研究の目的と方法,予測されるリスクについて,文書と口頭で説明をした.研究への参加は自由意志であり,同意を撤回しても不利益がないこと,匿名性の確保,データの管理方法,結果の公開方法などについて書面を用いて説明し,同意を得た.面接の日時と方法について,対象者と相談し,プライバシーが保護できる場所,方法を検討し,COVID-19による感染のリスクに留意し実施した.なお本研究は,三重大学医学部附属病院医学系研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(U2020-002).
研究対象者は,全国の精神科病院の看護部長20名で,性別は,女性12名,男性8名,年齢は40歳代が5名,50歳代が11名,60歳代が4名であった.対象者の平均臨床経験年数 30.3(SD = 7.9)年,平均精神科看護師経験年数 21.3(SD = 10.1)年,平均看護管理者経験年数 4.6(SD = 3.8)年であった.研究対象者が勤務する精神科病院の平均病床数は252(SD = 101.8)床,平均在院日数399.9(SD = 530.6)日であった.平均面接時間63.7(SD = 14.2)分であった.
対象者の概要
性別 | 年齢 | 看護師以外の資格 | 経験勤務場所 | 臨床経験年数 | 精神科看護師経験年数 | 管理者経験年数 | 病床数 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
A | 女性 | 50代 | 精神科認定看護師 | 病棟・外来 | 24 | 22 | 6 | 300~399床 |
B | 女性 | 60代 | ― | ― | 43 | 4 | 4 | 150~199床 |
C | 男性 | 50代 | ― | 病棟 | 26 | 26 | 3 | 200~299床 |
D | 女性 | 50代 | ― | 病棟 | 34 | 13 | 0.5 | 200~299床 |
E | 女性 | 50代 | ― | 病棟 | 40 | 38 | 14 | 200~299床 |
F | 女性 | 50代 | ― | ― | 30 | 3 | 3 | 150~199床 |
G | 男性 | 40代 | 精神科認定看護師 | 病棟・外来 | 23 | 23 | 1 | 400~499床 |
H | 男性 | 40代 | 管理者認定看護師 | 病棟 | 24 | 24 | 0.5 | 400~499床 |
I | 男性 | 50代 | ― | 病棟 | 17 | 17 | 7 | 200~299床 |
J | 女性 | 60代 | ― | 病棟 | 31 | 18 | 3 | 100~149床 |
K | 男性 | 50代 | 精神保健福祉士 | 病棟・外来・訪問看護 | 25 | 25 | 1 | 200~299床 |
L | 男性 | 40代 | 管理者認定看護師・認知症認定看護師 | 病棟 | 25 | 25 | 5 | 150~199床 |
M | 女性 | 60代 | ― | 病棟 | 38 | 6 | 3 | 150~199床 |
N | 女性 | 50代 | 精神科認定看護師 | 病棟・外来・デイケア・訪問看護 | 35 | 29 | 5 | 50~99床 |
O | 女性 | 60代 | ― | 病棟 | 50 | 36 | 10 | 400~499床 |
P | 女性 | 40代 | 精神看護専門看護師 | 病棟 | 25 | 7 | 2 | 150~199床 |
Q | 女性 | 50代 | 管理者認定看護師・認知症認定看護師 | 病棟・デイケア・訪問看護 | 30 | 23 | 3 | 200~299床 |
R | 男性 | 50代 | ― | 病棟 | 35 | 35 | 13 | 200~299床 |
S | 男性 | 50代 | ― | 病棟・デイケア・訪問看護 | 30 | 30 | 6 | 150~199床 |
T | 女性 | 40代 | ― | 病棟・外来・訪問看護 | 21 | 21 | 2 | 300~399床 |
看護部長が認識するリカバリーに向けた実践に影響している要因を分析した結果,325のコードが抽出された.さらにコードは,94のサブカテゴリ,21のカテゴリ,【看護部長のリカバリー志向と伝達】【看護部長を理解する仲間の存在】【退院支援における看護職の充実感】【病院組織の文化と風土】の4つのコアカテゴリに分類された.以下に,コアカテゴリは【 】,カテゴリは〈 〉,サブカテゴリは[ ],対象者の語りを「斜体」で示す.
リカバリーに向けた実践に影響している要因
コアカテゴリ | カテゴリ | サブカテゴリ |
---|---|---|
看護部長のリカバリー志向と伝達 | リカバリー志向の看護部長 | 看護部長のリカバリーに関する知識・資格・経験 |
患者のストレングスに焦点を当てている看護部長 | ||
患者の自己決定を大事にしている看護部長 | ||
スタッフを尊敬している看護部長 | ||
ストレングスやリカバリーについて知ってほしいという看護部長の思い | ||
ストレングスモデルを組織に活用したいという看護部長の思い | ||
看護の醍醐味を感じてほしいという思い | ||
看護部のトップダウン | リカバリー志向の看護理念 | |
トップダウンが可能にしたリカバリー教育 | ||
管理者のリーダーシップを活かした理想の看護の実現 | ||
中間管理職への期待 | ||
退院を促す病院の方針 | ||
戦略的に行っている看護部の教育と人員配置 | 看護部長の方針に向けた教育の浸透 | |
新人教育に力を入れている看護部長 | ||
取り組みを軌道に乗せるための教育の仕組み作り | ||
看護部長の考えをくみ取ってくれる中間管理職の人員配置 | ||
退院支援やプログラムを波及させるための職位や人員配置の工夫 | ||
看護研究や院外研修への参加による学ぶ機会 | ||
ストレングスマッピングシート・患者参画型看護計画の活用 | ||
看護師の勉強意欲を支える看護部長 | ||
看護へのメリットの伝達 | ||
経営戦略への意識 | ||
委員会やプロジェクトチームの発足 | ||
医療従事者の問題解決志向 | 患者の問題点への着目 | |
リスクを優先し長期化している入院 | ||
看護部長を理解する仲間の存在 | 看護部長の考えに賛同しサポートしてくれる仲間 | 中間管理職と価値観の共有と認識の統一 |
看護部長の考えに賛同してくれるスタッフの存在 | ||
ストレングスを病棟で普及させるための仲間作り | ||
看護師の退院支援の能力差を埋める中間管理職のサポート | ||
看護部の目標を実現するための中間管理職との協力体制 | ||
看護部の方針をサポートしてくれる他部門 | ||
看護を理解する院長・事務長 | 看護部・院長・事務長の認識の統一 | |
看護師の育成を考えている院長 | ||
院長や事務長と相談ができる関係性 | ||
地域・他部門・他職種との良好な関係性 | 他職種と専門性を活かした話し合いの機会 | |
電子カルテを活用した他部門との情報の共有 | ||
退院を可能にする地域と病院とのつながり | ||
看護師間・他職種と意見が言い合える関係性 | ||
管理者間・他職種・関係機関との非協力的な関係性 | 看護管理者間で話し合いができない関係性 | |
退院について看護師と医師が話し合いができない関係性 | ||
訪問看護との連携不足 | ||
退院支援に非協力的・無理解な関係機関 | ||
退院支援における看護職の充実感 | 病棟での看護実践で気付かなかった患者の地域生活や退院への思いに触れる機会 | 視点が変わるきっかけとなった地域を見る機会 |
患者のリカバリーする姿を見る機会 | ||
患者の退院や退院後の生活に対する思いの気づき | ||
退院支援のやりがいにつながるピアサポーターの話を聞く機会 | ||
退院支援の積み重ねの中でうまくいった経験 | 看護部長自身の成功体験 | |
退院をあきらめていた患者が退院できた看護師の成功体験 | ||
積み重ねた看護師経験の中で感じたリカバリーを支えることの重要性 | ||
病棟と地域をつなぐ仕組みや関係性づくり | ||
患者の希望に寄り添うことで気づいた看護の面白さ | ||
退院支援への意欲を高める成功体験 | ||
患者自身の退院への希望 | 他患の退院から可能性を感じられた自身の退院への希望 | |
患者・看護師の退院へのあきらめ | 患者自身の退院することへのあきらめ | |
患者のリカバリーをあきらめてしまっている看護師 | ||
患者が退院できないことによる看護師のモチベーションの低下 | ||
患者の退院への思いを受け取れていない看護師 | ||
自己決定できない長期入院患者 | ||
看護師の知識・能力・経験の不足 | 看護師間の看護における能力差 | |
看護師のリカバリーの理解不足 | ||
中間管理職の社会資源の知識不足 | ||
退院後の生活が見据えられていない病棟看護師 | ||
スタッフ間・スタッフと家族間のリカバリーの感覚のずれ | スタッフ間の患者のリカバリーへの感覚のずれ | |
看護師の価値観の不一致 | ||
退院に対する患者と家族の思いの乖離 | ||
患者・家族の高齢化とそれに伴う業務量の増加 | 退院を困難にさせている患者家族の高齢化 | |
患者の高齢化とそれに伴う身体的ケアの増加 | ||
病院組織の文化と風土 | 病院内外に資源のある環境 | 社会資源が豊富な法人 |
専門看護師・認定看護師を活用した看護を発展させる体制 | ||
精神保健福祉士・作業療法士・心理士の豊富な人員配置 | ||
障害者が地域で暮らせる社会資源の増加 | ||
退院を困難にさせる社会資源の不足 | ||
病院の機能・役割や施設基準により促進した退院支援 | 病院の機能・役割から波及したリカバリーへの取り組み | |
精神科救急病棟の認可による早期退院の考えの波及 | ||
モデル的な医療が求められている公立病院 | ||
築き上げてきた組織風土 | 歴代の看護部長が築き上げてきた多職種の隔たりをなく助け合える組織風土 | |
やりたい看護ができる環境 | ||
リカバリー概念が浸透している病院 | ||
患者の地域生活を支える組織風土 | ||
患者中心の組織風土 | ||
学ぶ姿勢がある病院 | ||
リカバリー志向の医師・院長 | リカバリー志向の院長 | |
看護師にストレングス視点を求める医師 | ||
患者の生活や希望を考えている医師 | ||
新たな視点の獲得と今の医療の在り方への疑問をきっかけとしたリカバリー実践 | 他病院でされていたストレングスモデルの導入 | |
他職種のリカバリー視点を取り入れる機会 | ||
リカバリーを理解している新人看護師 | ||
新卒看護師・精神科以外の経験もつ看護師の入職による精神看護の固定概念の払拭 | ||
これまでの看護の至らなさの気づき | ||
新鮮さを覚えた患者の退院 | ||
患者のストレングスの気づき | ||
病院経営状況と組織の体制 | 新しいことに取り組む意識がない経営者 | |
看護師不足 | ||
病院経営優先の現状 |
看護部長が認識するリカバリーに向けた実践には,前提として,看護部のトップである看護部長がリカバリー志向であること,実践につなげるための【看護部長を理解する仲間の存在】があった.仲間に【看護部長のリカバリー志向を伝達】し,〈戦略的に看護部の教育と人員配置〉をすることでリカバリーに向けた実践を可能にし,その結果として【退院支援における看護職の充実感】が得られていると認識していた.このような流れを生み出すために,リカバリーを受け入れる【病院組織の文化と風土】の必要性を認識していた.
【看護部長のリカバリー志向と伝達】
精神科病院でリカバリーに向けた実践を行っている要因として,看護部長は[患者のストレングスに焦点を当てている看護部長],[ストレングスモデルを組織に活用したいという看護部長の思い]など,〈リカバリー志向の看護部長〉がいることが前提にあると認識していた.看護部長は,[退院支援やプログラムを波及させるための職位や人員配置の工夫]や[取り組みを軌道に乗せるための教育の仕組み作り]など,リカバリーに向けた実践を行うために〈戦略的に看護部の教育と人員配置〉を行っており,看護部長という立場を活用し,[リカバリー志向の看護理念]を掲げるなど〈看護部のトップダウン〉で全体に伝達することにより,リカバリーに向けた実践を導入,浸透させていた.一方で,看護師や医師の[患者の問題点への着目]など〈医療従事者の問題解決志向〉が,リカバリーに向けた実践を困難にしていると認識していた.
「精神科の患者さんって偏見があったりっていうことが多くてですね,そこをやっぱり打破する,破っていくためには,患者さん自身の持ってる力を活かすとか,できることを強みにしていくってことがすごく大事だと思うんですよ.そんなことがあって,ストレングスやり始めましょうって(O氏)」
「今,急性期に移動させた師長もデイケアとかを経験してきた師長をそこにおいていて,外来とうまく連携をしながら動いてくれないかなって(Q氏)」
「やっぱり誰かきっかけになる人が動き出すとか口に出すとかっていうことで,変わっていくものは変わっていくんじゃないかなと.で,それがトップであれば,やっぱり仕切るのは仕切りやすいですよね.自分がこうやっていきますって固めてあげれば,それに対してうちの病棟は何しようかとか,師長達は考えてくれるので(T氏)」
【看護部長を理解する仲間の存在】
精神科病院でリカバリーに向けた実践を可能にしている要因として,看護部長は[中間管理職と価値観の共有と認識を統一]し,[看護部の目標を実現するための中間管理職との協力体制]を作るなど,〈看護部長の考えに賛同しサポートしてくれる仲間〉の存在を認識していた.また,看護部長自身が[院長や事務長と相談ができる関係性]を築き,〈看護を理解する院長・事務長〉を看護部の味方にしていた.このように看護部に〈地域・他部門・他職種との良好な関係性〉があることでリカバリーに向けた実践が可能になり,反対に,[看護管理者間で話し合いができない関係性]や[退院について看護師と医師が話し合いができない関係性]など〈管理者間・他職種・関係機関との非協力的な関係性〉は,実践を困難にしていると認識していた.
「上のトップの3人がきちんと認識をちゃんと統一しておくって意味ではすごく大事やもんで,看護部の現状とかであったりとか課題とか,こうやってやりたいと方針とかは報告しやすい場はある(A氏)」
「看護師が先生はこの人の人生どう思ってるんですかって(中略)じゃぁ,言えばよかったのにって言ったらそうなんですよーって,結局言えないところもあるし,なんていうか,ズレですね.自分たちの心配と先生のが違うというか,とことん話し合うことはできないです(J氏)」
「多職種連携って部分では,気軽に先生に聞けるというか,そういう環境があると思うんですよね,ケースワーカーもOTもそうですけど,特に病棟の場合は毎週1回,全職員が集まって,いろいろ議論をかわしたりって会があるんです.そこで普段から違う職種同士意見を言い合う環境ができてる(L氏)」
【退院支援における看護職の充実感】
精神科病院でのリカバリーに向けた実践のきっかけとして,看護部長自身や看護師が[患者の退院や退院後の生活に対する思いの気づき]や[退院支援のやりがいにつながるピアサポーターの話を聞く機会],[患者のリカバリーする姿を見る機会]など,〈病棟での看護実践で気付かなかった患者の地域生活や退院への思いに触れる機会〉があることだと認識していた.看護師に[退院をあきらめていた患者が退院できた成功体験]があることや[患者の希望に寄り添うことで気づいた看護の面白さ]など,〈退院支援の積み重ねの中でうまくいった経験〉があることが,次のリカバリーに向けた実践につながっていくと捉えていた.また,看護師側だけでなく〈患者自身に退院への希望〉があることも実践を促進する要因としてあげていた.一方で,[看護師の価値観の不一致],[退院に対する患者と家族の思いの乖離]など,〈スタッフ間・スタッフと家族間のリカバリーの感覚のずれ〉があること,[退院後の生活が見据えられていない病棟看護師],[看護師のリカバリーの理解不足]など,〈看護師の知識・能力・経験が不足〉していることで,〈患者・看護師の退院へのあきらめ〉へとつながり,さらに〈患者・家族の高齢化とそれに伴う業務量の増加〉が実践を困難にさせていると認識していた.
「退院後の生活は皆さんみえてないっていうか.だったら,院長がピアの人に来てもらって話してもらうって言って(中略)なんかみんな無駄に疲労ばっかりたまっていって.じゃあみんなどんな生活しよんかなーとか知りたいですよねって(C氏)」
「誰よりもリカバリーをあきらめちゃうのが看護師だと思っていて,チャンスを見失っちゃうし,こういう支援を無理だよって決めつけちゃうのは看護師なんで(D氏)」
「この人退院できるんだったら誰だって退院できるんじゃないかってぐらいの人だったので,あとはやっぱり楽しいですよね.成功体験があるとどうしてもやる気の源になるので(G氏)」
「私もやっぱり在宅を経験して,認知症デイケアとか,訪問看護とかを経験していっていたので,やっぱりその大事さっていうか,病棟だけの視点じゃだめだよっていう,この人がどこに帰るのかっていうのをしっかり見ておかないといけないっていうところがあって(Q氏)」
【病院組織の文化と風土】
精神科病院でリカバリーに向けた実践の環境として,看護部長は[専門看護師・認定看護師を活用した看護を発展させる体制]や[精神保健福祉士・作業療法士・心理士の豊富な人員配置],[障害者が地域で暮らせる社会資源の増加]など〈病院内外に資源のある環境〉が実践の後押しとなっていると認識していた.また,もともと[リカバリー概念が浸透している病院]など,これまで〈築き上げてきた組織風土〉があることや〈リカバリー志向の医師・院長〉がいることでリカバリーに向けた実践がスムーズに行えていたり,[精神科救急病棟の認可による早期退院の考えの波及]など〈病院の機能・役割や施設基準により退院支援が促進〉されると捉えていた.その他に,[他職種のリカバリー視点を取り入れる機会]や[これまでの看護の至らなさの気づき]など,〈新たな視点の獲得と今の医療の在り方への疑問をきっかけとしたリカバリー実践〉につながった経緯を語っていた.一方で,[看護師不足]や[病院経営優先の現状]など〈病院の経営状況と組織の体制〉が実践を困難にさせていると認識していた.
「病院も考え方を変えていく時代ではあるんですよね.入院は本当に入院が必要なベッド数だけにして退院支援をいかにやっていくかって,退院してる人をいかに見ていくかっていう,っていうところに力を入れていくべきなんだろうなって(E氏)」
「医療観察法っていう病棟がありますので,そちらの方で,ストレングスみたいなところは,看護の中の一つとして,取り組みをしていたっていう経過はあるんですが,それがとてもいいことなので,それが全体に広まっていった(M氏)」
「職員教育はリカバリーとかストレングスとかをしなければいけないっていうよりも,みんなが最初からそういうふうに思ってる.この風土がどうやって作られてきたかっていうと,おそらくうちの病院を支える前理事長からはじまって,それが受け継がれていて自然とそういう体制をとってきている(P氏)」
看護部長が認識する精神科病院入院患者のリカバリーに向けた実践に影響している要因には,【看護部長のリカバリー志向と伝達】,【看護部長を理解する仲間の存在】,【退院支援における看護職の充実感】,【病院組織の文化と風土】があった.
【看護部長のリカバリー志向と伝達】では,リカバリーに向けた実践を導入するにあたり,看護部のトップである看護部長自身がリカバリー志向であることの必要性が語られた.リカバリー志向のビジョンは,リカバリーに向けた実践を促進することが明らかになっており(Fleury et al., 2018),看護部長は自身の志向の重要性を認識していたと言える.看護部長は,トップであるという立場を活用し,リカバリー志向の看護理念を掲げたり,〈戦略的に看護部の教育と人員配置〉を〈看護部のトップダウン〉として行うことで実践を可能にしていると認識していた.先行研究において,リカバリーに向けた実践をトップダウンで行うことで可能にしていた事例もあり(木村ら,2013;吉見ら,2014),トップダウンの組織的アプローチがリカバリーに向けた実践に有効であったと考えられた.
【看護部長を理解する仲間の存在】では,リカバリーに向けた実践の導入は,看護部長一人で行うことは困難であり,〈看護部長の考えに賛同しサポートしてくれる仲間〉の重要性が語られた.管理者は,仲間に影響を与え,病院のシステム変革に強く影響を及ぼす存在であり(Piat et al., 2010),仲間を作ることはリカバリーの可能性に対する前向きな態度を発展させると言われている(Ashcraft & Anthony, 2008).中でも[中間管理職と価値観の共有と認識の統一]など,病棟のトップである中間管理職を仲間にすることや,〈地域・他部門・他職種との良好な関係性〉があり,理解や協力を得られることでリカバリーに向けた実践を実現できていると認識していた.看護実践の環境は中間管理職の役割遂行能力によって変化し,リカバリーを医師や他の利害関係者に効果的に伝達し変化を起こす(Deane et al., 2006)だけでなく,看護の質や患者の安全などのアウトカムに影響を与える(Lake & Friese, 2006)と言われており,リカバリーに向けた実践を推進する上で,中間管理職を仲間にすることは重要だと言える.管理職という立場を活用した効果的なリーダーシップは,リカバリー志向の文化変革を確立し維持するために必要であり(Sally & Frank, 2017),リカバリー志向の看護部長が,仲間である中間管理職にリカバリーに向けた実践の重要性を伝達することで実践を可能にしていたと考える.
【病院組織の文化と風土】では,〈築き上げてきた組織風土〉,〈リカバリー志向の医師・院長〉,〈病院経営状況と組織の体制〉などリカバリーに向けた実践を行える環境の重要性が語られた.海外の先行研究において,病院の組織文化や風土が職場の医療従事者の態度に影響を与えると考えられているが(Aarons, 2006),病院組織のありように大きな違いがある日本においても同様の認識がされていた.先行研究において,変化に対してよりオープンな組織文化は,リカバリー志向とのより高い正の関連性がみられており(O’Connell et al., 2005),リカバリー志向の組織風土を作るうえで,院長や事務部門,医師達が果たす役割は大きいと言える.上級スタッフと経営陣からのサポートがなければ,チームがよりリカバリー志向になることが困難になる(Dawson et al., 2021)とされており,同じ管理者である院長や事務長にリカバリーに関する理解が得られていることは実践の導入に影響すると考えられた.また,患者の退院や今後の方向性を検討していく上でも医師の役割は大きく(Deane et al., 2006),医師がリカバリー志向であることも実践に影響すると考えられた.その他に,[モデル的な医療が求められている公立病院]であることや,精神科救急病棟の認可など病院に求められる機能や役割の中でリカバリーに向けた実践が促進された経緯があったことも語られた.リカバリー志向の実践に影響を与える組織因子を調査した研究では,予算が影響要因となっていたり(Brown et al., 2010),制度上の制約や法的なサポートの欠如が障壁となっていたり(Corrigan, 1998),政府の目標を達成するためにリカバリーに向けた実践が推進されていた(Gilburt et al., 2013).このように,病院の状況や病院に求められる機能によっても,リカバリーに向けた実践が推し進められることが考えられた.
【退院支援における看護職の充実感】では,〈病棟での看護実践で気付かなかった患者の地域生活や退院への思いに触れる機会〉や,退院支援の中で患者がリカバリーする姿を見るなど〈退院支援の積み重ねの中でうまくいった経験〉があることで,次の支援もリカバリーに向けた実践につながることが語られた.患者のリカバリーを信じられるようになる要因に患者のリカバリーを体験することがあり(Davidson & Tse, 2014),看護部長の語りからも,実際に患者のリカバリーを目の当たりにすることや,自分のかかわりによって患者がリカバリーしていく姿は,次の支援への意欲や看護の充実感につながっていたと考える.また,看護部長は自身のかかわり以外でも,ピアサポーターの話を聞く機会など患者の退院後の生活を知ることがリカバリーに向けた実践のきっかけになると認識していた.患者や医療従事者に退院後のリカバリーの話を共有することは,スタッフの態度を変える上で極めて重要だと言われており(Lorien et al., 2020),退院後を見据えたかかわりの動機付けになったと考えられる.反対に,〈看護師の知識・能力・経験が不足〉しており患者のリカバリーがイメージできないことや,[患者・看護師の退院へのあきらめ]の気持ちは実践を困難にさせていることが語られた.リカバリーに関する知識と能力が不足していると,リカバリー志向の実践が妨げられたり,遅れたりする可能性が指摘されている(Nardella et al., 2021).リカバリーに関する知識や経験の不足がリカバリーに向けた実践を困難にさせていたと考える.また,実際に目の当たりにしなければリカバリーを信じることは難しい(Davidson & Tse, 2014)と言われており,急性期の患者や長期入院患者を対象としている病棟では,患者のリカバリーを見る機会は少ない.病棟で働くスタッフは,外来で働くスタッフよりもリカバリーに関する否定的な信念や絶望を抱きやすく(Martensson et al., 2014),入院が長期化する中で,患者の変化を見出すことが難しくリカバリーの意識が薄れる(福嶋,2021)と言われている.そのため,退院支援の中でうまくいった経験の有無がリカバリーに向けた実践の促進要因にも阻害要因にもなりうると考えられた.
2. リカバリーに向けた実践の導入のための示唆リカバリーに向けた実践を導入するためには,スタッフのリカバリーに向けた実践の抵抗となる原因や支援的な組織文化が存在するかを確認することが重要(Clossey & Rowlett, 2008)であり,本研究結果は,今後のリカバリーに向けた実践を導入するための示唆となると考える.
看護部長が認識するリカバリーに向けた実践に影響する要因として〈リカバリー志向の看護部長〉と【病院組織の文化と風土】がベースにあることが語られた.精神科医療において,比較的新しい概念であるリカバリーを新たに実践する場合,管理者のリカバリー志向(Rapp, 2006;Fleury et al., 2018)と組織の理解や実施者の教育が必要(杉本ら,2018)であり,看護部長も同様の認識をしていた.看護部長のリカバリー志向が,看護部長を理解する仲間に伝達され,関係者間でリカバリーに関する認識が統一されていることも実践に影響すると捉えていた.Salyers et al.(2011)は,リカバリーに向けた実践の意味とそれをどのようにサポートすることができるかについての共通の理解の重要性を述べており,中間管理職,多職種,他部門の認識が統一されていたことで実践を可能にしていたと考える.組織には,リカバリーをどのように実践するかについて,組織のトップから,個人のレベルに至るまで浸透するような戦略が必要であり(Julie, 2012),先行研究では,病院管理者がリカバリープログラムに参加することで実践を促進させていた(Way et al., 2002).これより,院長や事務部門,多職種に対するアプローチや彼らからのサポートは実践を導入するためのカギとなると考える.今後は,リカバリーに向けた実践のために,看護管理者のリカバリー志向を高める必要性と,看護の枠を超えて,院長や事務部門,多職種を巻き込んだ教育の機会の必要性が示唆された.
看護部長が認識するリカバリーに向けた実践のきっかけとして,〈新たな視点の獲得と今の医療の在り方への疑問〉や〈病棟での看護実践で気付かなかった患者の地域生活や退院への思いに触れる機会〉があった.患者のリカバリーを目の当たりにする体験は,リカバリーを信じられる体験となり,その後のリカバリーに向けた実践への意欲につながると語られていた.先行研究においても,ピアサポーターの存在がリカバリー志向の組織を築く促進要因となっていた(Malinovsky et al., 2013).しかし,日本におけるピアサポートの実践は欧米に比べて発展しているとは言えない(濱田,2015).今後は,病棟の看護師が退院後の生活を知る機会や,リカバリーストーリーを聞く機会を設け,患者のリカバリーを信じられる体験が必要であることが示唆された.
3. 研究の限界と今後の課題本研究では,看護部長が認識する精神科病院入院患者のリカバリーに向けた実践に影響する要因を明らかにした.今回は,リカバリーに向けた実践が行えている病院の看護部長を対象に面接を行っており,実践の影響要因を網羅できているとは言い切れない.とりわけ,実践の阻害要因が少ない病院であった可能性がある.看護部長から語られたリカバリーに向けた実践の捉え方には差があり,捉え方によって実践に影響する要因やレベルに違いがあった可能性がある.今後はインタビューの際に,リカバリー概念の共通理解をしたうえで面接を行ったり,リカバリーに向けた実践についての例を示すなど,定義の明示方法の検討が必要である.また,今回明らかになった影響要因をもとに,精神科病院におけるリカバリーに向けた実践プログラムを作成する必要がある.
1.看護部長が認識するリカバリーに向けた実践に影響している要因には,【看護部長のリカバリー志向と伝達】,【看護部長を理解する仲間の存在】,【退院支援における看護職の充実感】,【病院組織の文化と風土】の4つのコアカテゴリがあった.
2.今後,精神科病院においてリカバリーに向けた実践を行っていくためには,看護管理者のリカバリー志向を高める教育と,病院管理者,他部門,多職種など看護の枠を超えた病院全体に対するリカバリーに関する教育,および,精神障害者のリカバリーを目の当たりにする体験の必要性が示唆された.
付記:本研究の一部は,26th East Asia Forum of Nursing Scholars 2023において発表した.
謝辞:本研究にご協力いただきました研究対象者の皆様に深く感謝申し上げます.本研究は,JSPS 科研費 19K19779の助成を受けて実施された.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:MYは,研究の着想,研究のデザインと実施,分析,執筆のすべてを行った.KMは,原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.