日本看護科学会誌
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原著
入院に伴う子どもの体験
―思春期・青年期にある人の振り返り―
古屋 萌奈良間 美保
著者情報
キーワード: 子ども, 入院, 体験
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2023 年 43 巻 p. 538-546

詳細
Abstract

目的:入院に関連して子どもが体験していたことを当事者の語りから明らかにし,子どもの思いに寄り添い,心身の健やかな成長発達につながる看護への示唆を得る.

方法:過去5年以内に入院経験のある13~23歳の10名を研究対象者とし,半構造化面接で得たデータを質的に分析した.

結果:【自分に起きていることを身体で実感する】【周りの様子を伺うことで自分の気持ちや行動が左右される】【自分の中で考えて何とかしていく】【医療者と自分との間にずれを感じる】【そうしなければいけない状況の中で何も思わなくなる】【周りの人とのつながりを感じられる関係が心地よい】【これまでの経験で不安や痛みが変わっていく】等の13カテゴリーが抽出された.

結論:入院により子どもは主体や自己の育ちが損なわれる可能性があるため,子どもの日々の感覚や意思を感じ取りながら,子どもが主体でいられる体験を重ねていくことが重要である.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to understand children’s experiences of hospitalization. The narratives of adolescents hospitalized during childhood were included to obtain their suggestions for healthy nursing and ensure the growth and development of children’s minds and bodies by considering their requirements.

Method: A total of 10 participants aged 13–23 years who had been hospitalized within the past 5 years (2015–2019) were included in the study. Data obtained from their semi-structured interviews were analyzed qualitatively.

Results: In total, 13 categories were determined: [Realizing what is happening to me through my body], [My feelings and actions are influenced by my own concern regarding my surroundings], [Thinking and acting by myself], [I feel a difference between the thoughts and ideas of the medical staff and my own], [I will not consider doing what I need to do], [I feel comfortable regarding my connection with the people around me], [My feelings of anxiety and pain are influenced by my previous experiences] and others.

Conclusion: As hospitalization can impair children’s development of subjectivity and self, it is important to determine their sensations and intentions, and to accumulate experiences wherein they feel comfortable with their own initiative.

Ⅰ. 背景

子どもの病気体験の中でも,特に入院体験は様々な苦痛や不安・恐怖を感じ,自尊心や自己効力感の低下をまねく恐れがある(新家,2015)と言われている.実際に子どもは入院中に,検査や治療・処置・入院生活そのものや疾病状況などによって脅かしを受けていることや(長谷川ら,2009),生活環境や学校,対人関係,症状の出現等がストレスとなっている(山﨑ら,2006)ことが報告されている.入院によって子どもは心身へ何らかの影響を受けており,成長発達を遂げる子どもにとってはこれらが与える影響も大きい.しかし一方で,入院生活中の紙芝居や読書,散歩などといったケアにおいて子どもは安楽を感じられる(広沢,2003)とも言われており,入院が苦痛な体験をする場だと一概には言い切れない.周囲との相互作用によって成長発達を遂げる子どもにとって,医療者が子どもの主観を捉え,子ども主体のケアを提供することは苦痛軽減だけでなく,その後の心身の健やかな成長・発達にもつながる.さらにRuth & Dorothy(1982)は疾患としてのケアでなく「子ども全体」としてのケアも大切だと述べており,入院期間や疾患に限らず,子どもの入院体験そのものを捉えることは成長発達過程にある一人の人としての体験を明らかにすることができ,子どもの全人的ケアにつながる.しかし現在,入院期間や疾患を限定せず子どもの入院体験そのものを主観的に捉えた研究は国内には見当たらず,国外でも極めて少ない.そのため本研究に取り組むこととした.

Ⅱ. 目的

入院に関連して子どもが体験していたことを当事者の語りから明らかにし,子どもの思いに寄り添い,心身の健やかな成長発達につながる看護への示唆を得る.

Ⅲ. 用語の定義

体験:その人に起こった出来事に対するその人の感情や考え,認識のこと.

Ⅳ. 研究方法

1. 研究デザイン

質的記述的研究

2. 対象者

0~18歳に入院経験があり,過去5年以内に入院経験がある現在13歳~23歳の者.かつ,退院後であり心身の状態が安定している者.本研究では子どもを全人的に捉えた入院に伴うケアについて明らかにしたいと考えたため,疾患や入院期間・入院時期については特に指定しなかった.1施設3患者会からの承諾をもらい,対象者を得た.

3. 調査方法

2019年4月~2019年8月を調査期間とし,調査票による基本情報の収集と半構造化面接を行った.小児の入院診療を行う医療施設および小児疾患の患者会の責任者に文書で研究協力を依頼し,承諾の得られた1施設3患者会に対象者の選定を依頼した.施設では,外来にて研究者が対象者へ研究に関する説明・依頼を行い,患者会では対象者全員へ研究依頼書を郵送した.郵送にて研究協力に関する承諾の返送があった協力者に研究者から連絡を取り,面接を行った.調査票では現在の年齢・入院時の家族構成・今までの入院回数・入院期間・その時の年齢・入院した理由・入院中の家族の付き添いや面会状況について情報を得た.半構造化面接ではインタビューガイドに基づき「入院に関して印象に残っている体験」,「その時の思いや感じていたこと」について体験した年齢を規定せずに自由に語ってもらった.面接の内容は協力者とその保護者に承諾を得てICレコーダーに録音した.面接時間は60分程度を目安に延長の場合は協力者の意向を確認して行った.

4. 分析方法

面接で得られたデータを繰り返し聞き逐語録を作成し,協力者の感情や考え・認識などに注目し,意味のまとまりのある文節を単位として抽出し協力者の言葉や体験を可能な限り活かしてコードを作成した.また本研究の目的から,抽出した文節は入院中のみだけでなく退院後の体力の低下や周囲の人の反応といった入院に関連した文節は全て抽出した.全事例の類似性と相違性について継続比較分析をしながらサブカテゴリーを作成し,さらに抽象化を進めてカテゴリーを抽出した.抽出したコードやサブカテゴリー・カテゴリーの過不足や表現の適切性については,共同研究者と繰り返しデータに戻り見直し妥当性の確保に努めた.さらに質的研究を専門とする小児看護研究者1名によるカテゴリーの命名の適切性の確認とそれに基づく見直しと精錬を重ねた.

5. 倫理的配慮

本研究は,名古屋大学大学院医学系研究科生命倫理審査委員会(承認番号:18-139-2)の承認を得て実施した.研究調整者には対象者へ強制力が働かないよう依頼し,協力者には書面と口頭で研究は自由参加であること,匿名性の保持と情報漏洩の防止等について説明し,同意・署名を得た.協力者が未成年の場合は保護者へも同様に説明し,同意・署名を得た.また,未成年者には保護者同伴で面接を行うかを本人へ確認した.本研究は未成年の協力者も含むため,協力者への負担を考慮し分析結果の協力者による確認は見合わせた.入院に伴う体験の振り返りによる面接を行うため面接中に協力者が体調不良を来した場合は,すぐに面接を中止することとしたが今回での面接では体調不良を来す者はいなかった.

Ⅴ. 結果

1. 研究協力者の概要

協力者の入院経験回数の平均は9.1回であった.全ての協力者が入退院を繰り返し,入院回数は5~11回であった.協力者の概要を表1に示す.

表1 

研究協力者の概要

協力者 年代 性別 入院回数 入院理由
Aさん 20代 女性 11回 手術,その他検査
Bさん 10代後半 女性 9回 原因究明,食事療法,感染症
Cさん 10代前半 男性 10回 手術,その他検査
Dさん 10代後半 男性 8回 手術,感染症
Eさん 10代後半 女性 10回以上 手術,感染症
Fさん 10代前半 女性 9回 手術,感染症
Gさん 20代 男性 10回 内科的治療,その他検査
Hさん 10代前半 女性 5回 手術
Iさん 10代前半 男性 11回 手術,その他治療
Jさん 10代後半 女性 8回 手術,創傷治療

2. 入院によって体験していていること

面接調査では13カテゴリー,95サブカテゴリー,1,459コードが抽出された.以下,カテゴリーは【 】,サブカテゴリーは〔 〕,協力者の語りは“斜字”,協力者の言葉や感情の補足は( ),協力者は(斜字)で示し,概要については表2に示す.語られた体験は主に学童期・思春期における語りであった.

表2 

入院に伴う子どもの体験

カテゴリー サブカテゴリー
入院の場は今までとは別の世界 入院したらさぼったりもできてその生活に慣れていった
部屋やご飯等があんまり良くなかった
入院中の時間は面白くなくて暇だった
病院の外で生活している人とのズレを感じた
入院してる人は中の人で受診に来た人は外の人
地元の友だちとの交流は段々減っていった
大きくなるにつれ自分と同い年の子がいるのは珍しくなっていった
いつも通りの自分でいられると楽 入院したからといってそんなに卑屈な感じはなかった
入院してても日常生活とかだったら一人で全然できた
心配や同情をされるのは良い気分ではなかった
やっと退院できて嬉しかった
自分の身体が良くなることへの期待があった
地元の友だちや学校が自分の居場所をそのままにしてくれていた
地元の友だちに会いたくて写真を見たり電話をしたりしていた
治療や制限の具合によって気持ちが動かされる 自分の思い通りに体調が良くならなくて辛くて嫌だった
治療や制限などによって自由に動けず普段のことへのやりにくさがあった
治療や制限がしんどくて嫌だった
身体の制限があると何かをする気力もなくなっていった
辛い制限や状況に対して何も考えずにいた
身体に何かが付いていると縛られてる感じがして苦しくて嫌だった
やってきたことや,やりたいことができなくなりショックで嫌だった
頑張っても全然良くならないと頑張る気持ちも無くなっていった
治療をしている自分と周りを比べてうらやましく思った
制限がなくなっていくと大分楽に感じられていった
いつもの生活と違って規則もあったりするからちょっと嫌だった
処置やケアをやらなきゃいけないからやったけど嫌だった
手術中に自分の身体が動かせなくなることに怖くなった
不確かな治療をされて不信感が募っていった
無理矢理処置をやられた
何回も点滴をされて痛かった
自分に起きていることを身体で実感する ただただ身体がしんどく,痛かった
傷はそこまで痛くなかった
身体が良くなると自分のいる環境に目をやる余裕が出てきた
身体が良くなっていくのを実感していた
自分の体力が落ちていることを感じた
自分の身体がおかしいことを自分自身で感じた
処置などの時に身体に嫌な感じを抱いた
医療器具の匂いが嫌で気持ち悪くなった
周りの様子を伺うことで自分の気持ちや行動が左右される 看護師の名前ややり方が気になった
看護師や周りの子の様子を伺って自分がどうするのかを考えた
制限を受けることや周りの様子の変化で自分の状態を察していた
仲の良い子に何かが起きると自分も怖くて心配になった
家族や友だちを見てその人の状況を察していた
周りの雰囲気を感じたり実際に自分の目で見ると嫌な気分になった
知らないうちに自分の状況が変化していく しんどい状況も気付いたら終わっていた
自分では知らないうちにストレスが溜まっていた
自分が思っているよりも身体が悪くてびっくりした
何も分からない内に自分の状況が変化させられていった
自分のことだけど薬や治療のことはよく分かってなかった
自分の記憶ではあまり覚えていない部分があった
自分の中で考えて何とかしていく 自分に合うやり方や方法を自分で見つけていった
重い空気が嫌だから空気を変えるために自分から何かをしていた
入院に慣れると自分で学習して生活方法を身に付けていった
自分の中で考えて感情をなんとか収めていた
医療者と自分との間にずれを感じる 自分ではどうしようもできない時に周りに誰もいなくて不安になった
自分が思うことと医療者がするケアや治療にずれがあるけど我慢して終わった
医療者にはこっちから言わないと分かってもらえなかった
自分から言ったり何かをするには抵抗があるから我慢していた
治療や身体のことについて自分に向けて話してくれることはなかった
何回も針を刺さないで欲しかった
そうしなければいけない状況の中で何も思わなくなる 医療者に何かされてても特に何も思わなかった
治療や入院生活を送るために必要なことをするのはしょうがないと思っていた
部屋の中が快適だからそこまで外に行きたいと思わなかった
きょうだいや地元の友だちにはそこまで会いたいとは思ってなかった
看護師がそうするならそれで良いと思ってた
痛くても看護師を呼ぼうと思わなかった
自分の好きなことができる時は気晴らしになる 自分の好きなことができる時間は楽しみだった
自分の好きなものやおいしいものを食べられて嬉しかった
規則はあったけど,こっそりテレビを見たりゲームをしたりしていた
一人を感じると不安になるからそばに人を感じていたい 遊んだり面会をしていると楽しいけどその後にふと現実に戻ることがあった
友だちもいなくなると一人を実感した
部屋で一人は嫌だけど人を感じられると安心できた
周りの人と仲良くなれるか分からず不安だった
付き添いがいなくて寂しかった
家族がいると嬉しく,安心した
友だちがいない時に周りの子が声をかけてくれて良かった
年は違っても自分から少しずつ近づいて仲良くなっていった
周りの人とのつながりを感じられる関係が心地よい 仲良くなった友だちと遊んだりできて楽しかった
入院中に仲良くなった子や看護師と会えると嬉しかった
関わる時間が少ない友だちとはちょっと仲良くなるくらいだった
母とそれ以外の人とでは喋っていて楽しさが違った
保育士やクラウンが遊んでくれて楽しく,嬉しかった
看護師と話したい,仲良くなりたいと思っていた
面白い一面を自分には見せてくれた看護師が印象に残った
自分に関心を寄せてくれる医療者とは話しやすくて良いなと思った
感覚的に良い人や身近な人と感じられる医療者とは仲良くなった
自分に合ったケアや対応をしてくれて良かった
地元の友だち等がお見舞いに来てくれて嬉しかった
これまでの経験で不安や痛みが変わっていく 入院には良いイメージの方がある
前の入院と比べて今回の方が入院期間が短くて痛くなかったからましだった
針を刺すのは慣れたからそんなに嫌じゃなかった
前にやった処置がトラウマになっていてその処置だけは嫌になった
いつもと違う状況だといつも以上に痛みを感じた
注射が上手い人は今でも覚えている
手術は寝てるだけだからあまり怖くなかった

1) 【入院の場は今までとは別の世界】

このカテゴリーは入院をすることでそれまで生活していた場での過ごし方や時間の流れ,環境等の違いやズレを実感する体験を表しており7サブカテゴリーから構成された.“たまに外出して(友達に)会いに行くと大分なんかこう,なんだろな.テレビとかもすっごい見るわけじゃなくなってて,当時流行りの芸人とかもいまいち付いて行けへんみたいな.(G)”という〔病院の外で生活している人とのズレを感じた〕や,“入院してる人は中の人.外から来た,お医者さんじゃない人?んーと,受診に来た人は外の人.あと,病院で仕事してる人は中の人.(F)”という〔入院している人は中の人で受診しに来た人は外の人〕といった体験が語られた.また,“(勉強は)ああ,もういいやーみたいな.すごい楽観的になっちゃった.まあちゃんとやる人はちゃんとやるんだろうな,と思いながら.私はやんないよって.(F)”という〔入院したらさぼったりもできてその生活に慣れていった〕という入院生活・環境に関する体験等も語られた.

2) 【いつも通りの自分でいられると楽】

このカテゴリーは入院しているのは特別な自分ではなく,今まで通りの日常生活を営む変わらない自分であり,さらにはそうありたいと感じる体験を表しており7サブカテゴリーから構成された.“(再発を繰り返したが)その間,動けるっちゃ動けるし喋れるし,日常生活はできる.野球しようとかいうのはさすがにちょっと,スポーツ系は無理ですけど…トランプしよ,とか当時はカードゲームとかで遊んでたんですけどそういうのだったら全然できるんで(G)”という〔入院してても日常生活とかだったら一人で全然できた〕や“一年で半年くらい一気に(入院を)やったから,なんかあったんだろうなみたいなことは仲良い友だちはたぶん思ってて.でもみんな普通だったかな.(F)”という〔地元の友だちや学校が自分の居場所をそのままにしてくれていた〕といった体験が語られた.一方,“(退院後運動制限があり)最初はそんなあんま思わんかったんですけど,病院出て変な特別扱いがあるわけですよね.なんかこう,(体育を)見学いくらしても良いよみたいな感じだし,ちょっと疲れたんなら保健室行っておいでよみたいな.まあ何でもありなんかなー,みたいな感じは…でも何にもできなくての何でもあり,みたいな.(G)”と〔心配や同情をされるのは良い気分ではなかった〕体験等が語られた.

3) 【治療や制限の具合によって気持ちが動かされる】

このカテゴリーは治療や制限が主軸となって自身の感情や感覚が動かされる体験を表しており16サブカテゴリーから構成された.“この時が一番退院したいって,早く退院したいって言ってたね.ずーっとほとんど(ベッドの)上でした.(部屋から)出れんかった.(I)”と〔治療や制限がしんどくて嫌だった〕体験や“(課外授業に)めっちゃ行きたかったんだよ.(入院が)その一週間前くらいだったのかな.前日だったっけ?なんかすげーショックだったんだよな.なんかすごいショックだった気がする.行きたかったなーと思ってたんで.(D)”と〔やってきたことや,やりたいことができなくなりショックで嫌だった〕体験が語られた.さらに“なんか心電図…えっと酸素のこれ(経鼻酸素)と,あと点滴,みたいな.同時に付いてた時があったんですけど動く気力もないし.(A)”と〔身体の制限があると何かをする気力もなくなっていった〕体験の一方,“実際(身体が)良くなって,まあその(水分)制限しなくて良いよって言われたことが随分良かったかなっていう.(G)”という〔制限がなくなっていくと大分楽に感じられていった〕体験等も語られた.

4) 【自分に起きていることを身体で実感する】

このカテゴリーは自分の身体の辛さや痛み,回復具合等を身体で感じ,感覚そのもので捉えていく体験を表しており8サブカテゴリーから構成された.この体験はほぼ全ての協力者が語っていた.“それ(動きたい気持ち)はありましたけど動かないんですよ体が.もう全然動かなくなってるし,それこそちょっと調子良くなったら外泊とか外出とか土日とかはOKもらってたんですけど,もう外出ただけでめっちゃもう,なんか,えー(外が)暑ーとか.ちょっと歩くと疲れたから休憩しようっていう感じで.(G)”と〔自分の体力が落ちている事を感じた〕体験や“(ドレーンを)抜く時なんか変な感じがしました.ドュドュドュドュドュってなんか.気持ち悪いですね.音がこう…変な,気持ち悪い感じがしました.(C)”と〔処置などの時に身体に嫌な感じを抱いた〕体験が語られた.一方で,“(点滴をしたら)めちゃ元気になった.(D)”と〔身体が良くなっていくのを実感していた〕ことや“ちょっと(身体が)良くなった時に,あ,個室ええなぁっていうのは,ちょっとふと思うんですよね.広いなーって.広いし,その,ある程度うるさいっていうか,ずっとテレビ付けててもばれないしとかあって.(G)”と〔身体が良くなると自分のいる環境に目をやる余裕が出てきた〕といった体験等も語られた.

5) 【周りの様子を伺うことで自分の気持ちや行動が左右される】

このカテゴリーは周りの様子を伺いながら自分の状況を把握し,それらに合わせて行動する,または気持ちが揺れ動く体験を表しており6サブカテゴリーから構成された.“(点滴抜去の時に点滴のテープを自分で剥がしたいけど)たぶん看護師さんからしたら時間もかかるし,たぶん看護師さんは(早く)取りたいと思ってると思うけど.でもちょっと痛いし.だから注射針抜く時だけ抜いてもらって.だからなるべく早く(テープを自分で)取るようにはして.(E)”と〔看護師や周りの子の様子を伺って自分がどうするのかを考えた〕体験や“自分の場合(手術に行く時)行ってきまーすだったけど,同じ病室のちっちゃい子とかが手術する,行く,ってなるとたぶんそっちのが怖かった気がする.(F)”という〔仲の良い子に何かが起きると自分も怖くて心配になった〕といった体験が語られた.さらに“(制限が解除されると)良くなってることだっていうのはもう分かるんで,普通に嬉しいですね.あ,病気良くなってんな,って感じが実感されるんで.(G)”と〔制限を受けることや周りの様子の変化で自分の状態を察していた〕体験等が語られた.

6) 【知らないうちに自分の状況が変化していく】

このカテゴリーは自分が意識をしていない,認識の範囲外の部分で物事が動き,自分自身や周囲の状況が知らないうちに変わっていってしまう体験や,さらにはその変化から自分の状況を捉えていく体験を表しており6サブカテゴリーから構成された.“(入院になって)思ったよりは悪いな,みたいなのは思いましたね.え?って.入院なんてするもんじゃないと思ってたんで,え,そんなに悪いんだっていう感じはありました.普通に.(G)”と〔自分が思っているよりも身体が悪くてびっくりした〕体験や“(病態が悪化していたが自分には何も知らされないまま)大変そうにしてるんですよ,色んな人が.色んな人が大変に,その,ベッドに(自分が)乗っけられてそのベッドごと(個室に)移動させられたりしたんですけど,なんでこんなことしてんねやろこいつらみたいな.(G)”と〔何も分からない内に自分の状況が変化させられていった〕体験,“(足の手術後)一回退院してから(手術の写真を)見せてもらったことがあるんだけど,お父さんかお母さんかに.長い針?(ボルト)が右と左と,たぶんだけど6本あったから,3本ずつ入ってたんじゃないかなって.でっかいなんか,針とかが入ってたのって初めて知ったかな.(H)”と〔自分のことだけど薬や治療のことはよく分かってなかった〕体験等が語られた.

7) 【自分の中で考えて何とかしていく】

このカテゴリーは制限や治療がある中でも自分の中でやり方を考え,何とかしていく体験を表しており4サブカテゴリーで構成された.“(痛いから)気を紛らわすために絵をかいていました.こっちの手術の時もそうなんですけど,痛いんで.もう何かするしかなくて.(D)”と〔自分に合うやり方や方法を自分で見つけていった〕体験や“入院ももう慣れてるから.もう車いすで届くところは(自分で)やって,洗濯機の奥は全然届かんもんで看護師にやったり,友だちに頼んだりとかしてた.(I)”と〔入院に慣れると自分で学習して生活方法を身に付けていった〕という環境や物理的なことに対して自身で対応していこうとする体験が語られた.さらに“(安静制限中に祖母が面会に来ても)普通にするようにしてた.なんかもう言い始めたら(イライラが)止まらなさそうな気がしたから.一週間はずっとベッドでそっから起きれるようになった.でもなんか普通にしてたら,怒ってても普通にしてたら,もう怒る感情みたいなのがあんま無い(無くなる)から.もう,(祖母に)付き合って,じゃあ,ってやっとけば,じゃあって言ってピシッてやっとけば…(心を)無にしとけば無になるって思ったから.(F)”と〔自分の中で考えて感情をなんとか収めていた〕と感情面に対する体験等も語られた.

8) 【医療者と自分との間にずれを感じる】

このカテゴリーは自分が感じたことや思ったことと,医療者の対応や関わりとの間にずれを感じながら日々を送る体験を表しており6サブカテゴリーで構成された.“(酸素マスクの匂いが気持ち悪いと看護師に言ったが)最後の最後は我慢して.我慢して終わった.言うっちゃ言うんだけどね.(看護師は)ちょっと放っとく感じ,放っとく感じですよね.ゴムがあるからしょうがないって言って.(I)”と〔自分が思うことと医療者がするケアや治療にずれがあるけど我慢して終わった〕体験や“治療する時にはなんか理由が欲しい.理由を教えてほしいと思います.これは何々するための薬とか,こういう状態だから何々しなきゃいけないとか.理由だけあれば納得して受け入れられるかなーと.(A)”と〔治療や身体のことについて自分に向けて話してくれることはなかった〕体験が語られた.一方で“(点滴をする時)看護師さんとか先生にここ(前腕)は嫌だからここ(手背)でやってほしいって言って,なるべく手を動かさないようにするからって言って.(E)”と〔医療者にはこっちから言わないと分かってもらえなかった〕と自ら医療者へ伝える体験等も語られた.

9) 【そうしなければいけない状況の中で何も思わなくなる】

このカテゴリーは入院生活や治療を行うためにすべきことがあるのであれば仕方ない,もしくはそれに対して特に何かを思うことも無かった体験を表しており6サブカテゴリーで構成された.“(抑制されたままベッドにいて)普通にベッドにずっといる感じ.(A)”という〔医療者に何かされてても特に何も思わなかった〕や“(リハビリは)段々日にちが経つにつれ,別に良いかなって思って.(C)”という〔治療や入院生活を送るために必要なことをするのはしょうがないと思っていた〕体験,“(術後に疼痛があってもナースコールを)そんな押してない.痛いからもうどうしようもないなと思った.(看護師)呼んでもなーって.(D)”と〔痛くても看護師を呼ぼうと思わなかった〕体験等が語られた.

10) 【自分の好きなことができる時は気晴らしになる】

このカテゴリーは制限のある入院中に自分の好きなことができる時間が心地良く感じる体験を表しており3サブカテゴリーで構成された.“(入院中に絵を描いている時間が)なんか一番楽だった時間かなと思う.(D)”という〔自分の好きなことができる時間は楽しみだった〕や“歩けるようになってからは売店行ったりして,飲み物買ってました.ご褒美として飲み物買ったりして.(C)”という〔自分の好きなものやおいしいものを食べられて嬉しかった〕といった体験等が語られた.

11) 【一人を感じると不安になるからそばに人を感じていたい】

このカテゴリーは一人を実感することでの寂しさや不安を感じるため周囲の人との関わりを持つことを望む体験を表しており8サブカテゴリーで構成された.“(夏休みに友だちも退院して)学校もないし,何か何もない,ほんとに何も無かったんで.つまんないなーって感じはしましたね.(G)”という〔友だちもいなくなると一人を実感した〕や,“人がいれば安心する.見て,パッと人がいるのは安心した.大部屋で一人の時はちょっと寂しくなった.お盆,年末年始で入院した時,大部屋で一人だったから.看護師さんいっぱい引き留めて.めっちゃ喋りかけて.人がいた方が元気になれる.(F)”と〔部屋で一人は嫌だけど人を感じられると安心できた〕といった体験が語られた.また,“最初は友だちとあんま仲良くなかったんですけど,僕が一人でおって,部屋とかで.段々話しかけてくれたりとかはしてくれました.”(I)と〔友だちがいない時に周りの子が声をかけてくれて良かった〕体験等も語られた.

12) 【周りの人とのつながりを感じられる関係が心地よい】

このカテゴリーは医療者を含む周りの人と,患者としてではなく一人の人として関わりを持てることに心地良さを感じる体験を表しており11サブカテゴリーで構成された.“(友だちと遊んで)楽しかった,が結構強い.遊んだ記憶しかない.治療の記憶がない.(A)”と〔仲良くなった友だちと遊んだりできて楽しかった〕や“(看護師は)普通にその,近所の…近所の人っていうと言い方悪いですけど,こうなんか仲良いお姉さんみたいな感じ?やったらすごい喋りやすいなーとかはありました.(G)”という〔感覚的に良い人や身近な人と感じられる医療者とは仲良くなった〕体験,“(看護師は)結構すぐ帰っちゃうから,あんまり顔を合わせることがない.処置とか終わったらなんかナースステーションに戻って行っちゃう.(A)”一方,“(玩具の)プラスチックのつなげてネックレスとかにできるやつあったじゃないですか.(その玩具で看護師と遊んだ記憶が)残ってる.結構一番鮮明.嬉しかった.(A)”と〔自分に関心を寄せてくれる医療者とは話しやすくて良いなと思った〕体験等が語られた.

13) 【これまでの経験で不安や痛みが変わっていく】

このカテゴリーは過去の体験を基として,その時に感じる不安や痛みの程度が変わっていく体験を表しており7サブカテゴリーで構成された.“点滴は痛かった.点滴は嫌だった.採血は別にそんな.(中略)前に採血は一発で終わったけど,点滴だけはなんか全然入らなかったんです.(C)”という〔前にやった処置がトラウマになっていてその処置だけは嫌になった〕や,“ここ(正中)で採血とって,ここ(手背)で点滴してっていうのは当たり前だったから痛くないけど,ここ(前腕)でやられるのは痛くて嫌で.なんかここ(前腕)に針が刺さることって,入院の時しかないから嫌だなって.(E)”という〔いつもと違う状況だといつも以上に痛みを感じた〕体験等が語られた.

Ⅵ. 考察

1. 感覚で捉えていく体験

本研究において感覚に関する体験は多くの協力者から語られており,入院の様々な場面において子どもは感覚を通した体験をしていることが示唆された.一般的な子どもの成長発達についてピアジェは,乳幼児期の感覚優位な時期から成長とともに徐々に思考を基に物事の情報処理を行っていくようになる(波多野ら,1981)と述べているが,実際には乳幼児期に関わらず,感覚を主とした体験を多くしている.先行研究にて,集中治療室にいる成人患者は自分の感覚を駆使して自身の回復を実感していくことが支えになっていた(手島,2017)ことや学童期の子どもは身体の「だいじょうぶ」という感覚を解剖生理ではなく,子ども自身の身体感覚によって組み立てた論理を基に判断している(松尾,2006)ことはすでに言われている.実際に本研究では年齢に関わらず医療という特殊な場に身を置くことで,子どもは大人と同様に感覚を主軸として,自己および周囲の状況を捉えていることが見出された.さらに子どもは成長発達過程の途中にあることから,身体感覚から情報を得ていく比重もより大きくなり,自己の感覚を駆使して安全や安心,安楽を判断していることが考えられた.また,子どもは【知らないうちに自分の状況が変化していく】中で医療者とのずれを感じながらも【自分の中で何とかしていく】体験があることから,時には自分の能力以上のエネルギーを使いながら対応していかなければならない状況になり得ることも示唆された.そのため医療者は,子どもから発せられた言葉や行動だけでなく,子ども自身が捉えている感覚にも着目することが重要であると言える.

2. 主体が損なわれる体験

子どもは入院によって意思の伝わりにくさや環境の変化,自己コントロールができない体験を重ねることで,それらに対応しようと自ら方法を模索しており,発達に必要な気力を,周囲の状況把握や対応に奪われやすい状況下にあると考えられた.窪寺(2006)によると,社会が急速に変化すると,その社会にいる人は環境変化を把握し適応するために多くの集中力と時間,労力を外的環境の情報収集と理解に使い果たしてしまい,自分の内的世界を養い育て,確立するための時間と労力がなくなるという.自己の発達途上にある子どもにとって他事にこれまで以上のエネルギーを割かなければいけなくなる状況は,自分自身を見つめるための気力や時間が消耗させられ,自分の意思や状況を把握していくことも容易ではなくなり自己の捉えの困難さにつながる可能性が示唆された.

それらに加え本研究で子どもは,自分を取り巻く周囲の環境および医療者の考えや行動を感じ取り,察知することで自分の状況を把握し,それらに合わせて自分の言動を決める体験が多く見られた.子どもは学童中期頃から過去と現在の対比がなされていく過程によって,可変的な自己とともに不変性をもつ自己が認識されていき,場面によって異なる自分自身の行動や態度を対比していくことで一貫する自己を抽出していく(服部,1997)と言われているが,入院をすることで子どもは周りに合わせながら生活をしており,気付かぬうちに可変的な自己が優位になりやすく自己の育ちに影響を与え得る可能性が示唆された.さらに鯨岡(2016)は子どものあるがままの姿を大人が受けとめ導くことで子どもは自らあるべき主体としてのあり様に向かっていけるが,大人が自分の思いや都合で子どもを振り回し,子どもらしさと主体の育ちのバランスが崩れることで主体の育ちが危ぶまれると述べており,本研究では自分で感情を抑える体験や【そうしなければいけない状況の中で何も思わなくなる】体験が実際に見られていた.子どもは入院によって様々な事へエネルギーを割きながら,自己を抑え周囲に合わせていくことで,大人の気付かぬ内に大人の求める子どもの在り方に合わせていき,主体としての育ちが損なわれかねないことが示唆された.

3. 子どもが主体を感じられるために

協力者の多くは,日常に近い生活に安楽を感じているだけでなく,自分に関心を寄せる医療者との関わりに対しても楽しさや安楽を感じていた.子どもは防衛的にさせずリラックスさせることでありのままの姿を表現でき生き生きとした本当の人間関係につながる(佐々木,2021)ため,特別ではなく今までの自分でいられる時間は子どもにとって日常に近い時間を過ごすことができ,安楽やありのままの自分を感じられ,主体でいられる体験となる.

さらに,本研究では子ども自身が,これで良い,これが良いと感じているケアや時間が子どもの安楽につながっていた.そこには子ども自らが積極的に選択や行動を必ずしもしていたわけでは無かった.主体とは自分の思いを押し出す面だけでなく周りの人の思いを受けとめる面も含むこと,その時の自分の様態を私らしいあり方として自分で受けとめる時が主体のあり方(鯨岡,2016)であり,子どもは発言したい時としたくない時,聞きたい時と聞きたくない時,聞きたい内容と聞きたくない内容があり,それらはその時次第で変わってくる(Kelly et al., 2017)ことが言われている.入院という特殊な環境にいたとしても,その時・その場で子ども自身が主体を感じられる在り方を見出しながら支えていくことが子どもにとっての主体であり,子どもの育ちを促すことができる.そして,【これまでの経験で不安や痛みが変わっていく】ことから,子どもは過去の体験の積み重ねによってその後の自己や感覚も変化していくことが見出された.子どもと関わる医療者は一時点での苦痛や恐怖の緩和だけでなく,その先の子どもの育ちも描きながら,子どものこれまでの入院体験も含めて子どもを捉え,子どもの感覚に寄り添い,子どもが主体でいられる体験を重ねていくことが重要であると考えられた.

Ⅶ. 結論

子どもの入院に伴う体験として13カテゴリー,95サブカテゴリー,1459コードが抽出された.子どもは入院をすることで周りの様子や自分の身体に起きている事を感覚的に捉えることが多く,そのことで多くのエネルギーが消耗させられている.さらに周囲の人や環境に自己を合わせていくことで自己や主体の育ちへ影響を及ぼすことが示唆された.一方,日常に近い時間や他者とあるがままの関係性を結ぶことで心地よさや安楽を感じていた.子どもの感覚に寄り添いながらその時・その子どもに合った主体の在り方を見出しながら子どもを支え,援助していくことが重要である.そして子どもの主体としての育ちを支えていけるケアを積み重ねていくことが子どもの健康的な成長発達につながる.

Ⅷ. 研究の限界と今後の課題

本研究で語られた体験は協力者が過去を想起して語った内容であり,協力者が注目したいことや印象に残った出来事に限定されて語られていた可能性がある.また協力者は13歳~23歳と幅広く言葉や認知の発達に差があること,希望者7名は保護者同伴でインタビューを行ったことから,協力者が語りたかったこと全てがありのままに研究者へ伝わっているとは限らない.さらに記憶の限界から語られた体験はほぼすべてが学童期頃からの体験であったこと,全ての協力者が入退院を繰り返している経験があることからこれらの協力者の特性が語りの内容に反映されていると考えられる.

以上のことから,本研究で明らかになった結果を一般化するには限りがある.今後も本研究で示された内容がより深く探求できるよう,対象を広げて検討していく必要がある.また,実践活動の中や事例検討等により本研究で得られた知見の妥当性を確認し,さらなる検討を重ねていく必要がある.

付記:本研究は令和元年度名古屋大学大学院博士前期課程修士論文の一部に加筆,修正をしたものである.また,本研究は第30回日本小児看護学会学術集会にて発表した.

謝辞:本研究を行うにあたり,ご協力頂きました研究施設,研究参加者の方に深く感謝申し上げます.また,ご指導を頂きました名古屋大学大学院医学系研究科看護科学玉腰浩司教授と多くのご助言を頂いた諸先輩方に心よりお礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:FMは研究の着想およびデザインの構築,データ収集,分析,考察,論文執筆,全ての研究プロセスに関与した.NMは研究の着想およびデザインの構築,分析,考察に関与した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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