日本看護科学会誌
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原著
子育て期のボンディングを予測する因子:妊娠期の夫婦関係からの検討
瀧本 千紗沖本 克子
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2023 年 43 巻 p. 566-577

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Abstract

目的:妊娠期の夫婦関係が子育て期のボンディングを予測するのかを明らかにすることを目的とする.

方法:20歳以上の妊娠中の母親と父親11,910名(5,955組)に無記名自記式質問紙にて,妊娠期,産後1週,1か月,4か月に,基本属性,育児支援状況,夫婦関係,ボンディング,抑うつ等を尋ねた.独立変数を妊娠期の夫婦関係,従属変数を子育て期のボンディングとした階層的重回帰分析を行った.

結果:回答が得られた母親172名,父親141名を分析対象とした.母親と父親の妊娠期の夫婦関係は,抑うつ等の影響を調整しても産後4か月のボンディングを予測していた(母親:β = –0.210,p < 0.01,父親:β = –0.199,p < 0.05).

結論:妊娠期の良好な夫婦関係は,産後4か月の良好なボンディングを予測することから,子育て期の良好なボンディング形成のために,妊娠期から夫婦関係が良好に保てるよう支援する必要がある.

Translated Abstract

Objective: The objective of this study was to clarify whether the marital relationships during pregnancy predict bonding during child-rearing.

Methods: We sent questionnaires to 11,910 pregnant mothers and fathers aged 20 years and older. The questionnaire consisted of the demographic data, Quality Marriage Index, Mother-to-Infant Bonding Questionnaire, and Edinburgh Postpartum Depression Scale. The survey periods were pregnancy, one week after childbirth, one month after childbirth, and four months after childbirth. Hierarchical multiple regression analysis was performed with bonding four months after childbirth as the dependent variable to clarify whether the marital relationship of each mother and father predicts bonding.

Results: We enrolled 172 mothers and 141 fathers who answered all the items of the questionnaire. The marital relationships during pregnancy predicted the bonding of mothers and fathers during four months after childbirth, even after considering depression (Mothers: β = –0.210, p < 0.01, Fathers: β = –0.199, p < 0.05).

Conclusion: The findings revealed that a good marital relationship during pregnancy is a contributing factor to the formation of good bonding during the four months after childbirth, and suggested the necessity of a good marital relationship during pregnancy.

Ⅰ. 緒言

近年,妊産褥婦の自殺や新生児虐待が問題となっており,妊娠期からのメンタルヘルスケアが注目されている.

日本における妊産婦死亡原因の1位は自殺であり(厚生労働省,2021),イギリス,スウェーデンと比較しても,東京の妊産婦自殺率は,2~3倍高いことが報告されている(岡野,2017).また,自殺者の背景にはメンタルヘルスの不調があったことが指摘されており,一部の研究では自殺のピークが産後4か月にあることが示されている(厚生労働省,2021).

一方,子ども虐待の撲滅は,2015年に採択された持続可能な開発目標(SDGs)の1つであり,日本国内でも「健やか親子21(第2次)」において,妊娠期からの児童虐待防止対策が重点課題として位置づけられている.0歳児死亡は子ども虐待死の中で最も多く,全体の65.3%を占める(厚生労働省,2022).この虐待死を防ぐためには妊娠期からの支援が必要不可欠であり,その具体的な方法を明らかにすることは喫緊の課題である.これまで,新生児虐待の要因の一つとして産後うつの存在が指摘されてきた.

日本では従来,支援の主体が医療機関から地域へと変わることで,支援に切れ目が生じていることが指摘されてきた.山下・吉田(2022)は,見守りと支援に関わるスタッフが移り変わる節目における支援計画見直しの必要性を述べ,支援・情報共有とタイミングとして,産科入院中(およそ産後1週)や産婦健康診査(以下,産婦健診)(産後2週,1か月),産後家庭訪問時を挙げている.このような背景のなかで,2019年の成育基本法施行や母子保健法の改正によって,母親の心身の安定と母子の愛着形成を促す支援策の一つとして,出産後1年以内の親子を対象に産後ケア事業が法制化され,産婦健診の公費助成化もおこなわれた.現在,これらの施策を基盤とし,妊娠期から子育て期の切れ目ない支援を行うことで,新生児虐待の防止を図る取り組みが始まったところである.

しかし,新生児虐待のリスク因子を調査した研究では,産後の抑うつよりもボンディング障害が新生児への虐待につながることが新たに指摘されている(Ohashi et al., 2016).ボンディングとは,親が我が子に対して「かわいい,愛おしい」と思う感情面での絆のことであり(Kinsey & Hupcey, 2013),何らかの要因で,このような陽性感情を抱けない,あるいは陰性感情を抱く状態を「ボンディング障害」と言う.ボンディングに関する研究は欧米では1990年頃から,日本でも2000年頃から行われている.ボンディングが不良な母親は,怒りと拒否の症状が時間とともに悪化していくことが明らかとなっており(Matsunaga et al., 2017),継続的かつ積極的な介入が求められている.しかし日本では,産婦健診においてボンディングの調査を行っている市町村は4割に満たず(厚生労働省,2020),産後1か月以降においても継続的な調査はなされていない.

ボンディングは,妊娠中の不安(Edhborg et al., 2011)や妊娠に対する否定的な態度(Kokubu et al., 2012),児の特徴(Bienfait et al., 2011),母親の睡眠(下中・玉城,2017),低年齢や貧困といった社会的背景(Kinsey et al., 2014)などとの関連が指摘されている.また,ボンディング障害と産後うつとの相関を示す報告(Bienfait et al., 2011Ohashi et al., 2016下中・玉城,2017徳弘ら,2015鈴宮ら,2003)は多数存在し,子育て期の抑うつはボンディングを予測することも報告されている(Figueiredo & Costa, 2009).さらに,これらの要因に加えて,重要他者の中でも配偶者との妊娠期の関係性が不良,つまり妊娠期の夫婦関係が不良な場合に,ボンディングが不良であることが指摘され始めている(Van Bussel et al., 2010).

妊娠期の夫婦関係がボンディングを予測するのかを検討した研究は,「妊娠期の夫婦」(Mercer et al., 1988Takimoto & Okimoto, 2022)と「妊娠期から子育て期の夫婦」(Nasreen et al., 2022)を対象とした研究がある.Mercer et al.(1988)は,妊娠経過が順調な妊婦の夫において,妊娠期の良好な夫婦関係が良好な妊娠期のボンディングを予測することを明らかにした.夫婦を対象としたNasreen et al.(2022)の研究では妊娠期の母親の良好な夫婦関係が産後2,3か月の良好なボンディング形成を予測していたことが明らかとなった.しかし,海外と日本を比較すると子育ての環境や文化的な背景は異なっており,先行研究においても夫婦関係やボンディングは文化的背景の影響を受けることが明らかとなっている(Greeff & De Bruyne, 2000Kinsey et al., 2014).Takimoto & Okimoto(2022)は,妊娠期の日本人夫婦を対象とした研究の中で,妊娠期の良好な夫婦関係は,母親父親の妊娠期の良好なボンディングを予測することを明らかにした.子育て期のボンディングを予測する変数として,妊娠期のストレス(Rossen et al., 2016)や妊娠期に受けたパートナーからの暴力(Kita et al., 2016)が報告されていることからも,妊娠期の夫婦関係は子育て期のボンディングを予測することが推察される.したがって,妊娠期の夫婦関係を良好に形成することは,子育て期の良好なボンディングを形成する点からも重要である可能性が考えられる.日本において妊娠期の夫婦関係が子育て期のボンディングを予測するか明らかになると,子育て期のボンディングを育む支援が妊娠期から行えることが期待でき,臨床的介入にとって有用な示唆が得られるものと考える.

そこで本研究は,妊娠期から子育て期における母親と父親の夫婦関係とボンディングを縦断的に調査し,子育て期のボンディングを予測する変数の影響を考慮しても,妊娠期の夫婦関係が子育て期のボンディングを予測するかを明らかにすることを目的とする.

Ⅱ. 研究方法

1. 用語の操作上の定義

夫婦関係とは,パートナーとの関係性のことであり,婚姻関係の有無は問わないこととした.

ボンディングとは,親が子に対して「かわいい,愛おしい」と思う感情面での絆とした.

2. 研究デザイン

縦断的観察研究

3. 調査期間

2021年4月~2022年9月

4. 調査対象

サンプルサイズはG * Power3.1.9.4を使用して算出した.検出力0.80,第一の過誤0.05,効果量0.15,説明変数の数を10と仮定し,その条件を満たすための必要標本数は118組であった.本研究の参加者は日本国内の妊娠中の母親と父親で,2021年4月から9月に母子健康手帳交付および学級受講時(無作為に抽出された保健センターのうち協力の得られた53施設),妊婦健康診査(以下,妊婦健診)時(病院・クリニック3施設,助産院2施設)に協力を依頼した.研究参加者は20歳以上で,日本語が理解できる者とした.ひとり親家庭は本研究の対象から除外したが,婚姻関係の有無は問わないこととした.

5. 調査時期

調査時期は,妊娠期(Time 1),産後1週(Time 2),1か月(Time 3),4か月(Time 4)の計4回とした.データ収集期間は2021年4月から2022年9月であった.

6. データ収集方法

対象者には協力施設にて施設担当者が,依頼文書を用いて文書及び口頭で研究内容と方法について説明した.同意の得られた対象者には,同意書と初回の質問紙の回答を郵送法で求めた.Time 2以降の調査は,産後の安静や回答のしやすさに考慮しGoogle FormsによるWebアンケートの案内を同意書記載のメールアドレスに送付し,回答を依頼した.

7. 調査項目

1) 基本属性および関連事項

年齢,出産回数,分娩週数,分娩様式,児の性別,出生体重,父親の分娩立ち会い状況,母子同室状況,入院中の父親の面会状況,児の栄養方法等について尋ねた.

2) 育児支援チェックリスト

精神科既往歴,ライフイベント,住居や育児サポート,夫や実母等との関係など育児環境要因を評価する9項目から構成され,育児を困難にする背景要因を総合的に評価するためにまとめた質問票である(日本産婦人科医会,2021).育児支援チェックリストは母親にのみ調査し,Time 1では,妊娠期に回答ができない質問項目8,9を除いて使用した.

3) 夫婦関係満足尺度(Quality Marriage Index; QMI)

Norton(1983)によって開発された尺度であり,諸井(1996)が日本語訳し,高い信頼性が確認されている(Cronbachのα係数0.93).6項目4段階(1~4点)評価の総得点は24点であり,得点が高いほど夫婦関係満足度が高いことを示している.本研究での尺度使用について諸井の許諾を得た.また,質問項目の中にある「妻」「夫」の表現は,許可を得て「パートナー」に変更した.

なお,本研究のTime 1~4のCronbachのα係数は,母親で0.89,0.95,0.96,0.96,父親で0.92,0.96,0.97,0.97であり,信頼性は十分高いと考えられる.

4) ボンディング質問票(Mother-Infant Bonding Questionnaire; MIBQ)

Kumar & Hipwell(1996)によって開発された尺度であり,山下(2003)が日本語訳し,信頼性妥当性が確認されている(Ohara et al., 2016).子どもへの肯定的ないし否定的な感情を表す形容詞からなるため,妊娠期での使用も可能である(Ohara et al., 2016).9項目4段階(0~3点)評価の総得点は27点であり,得点が高いほど否定的感情が高いことを示している.カップルを対象とした先行研究において信頼性と妥当性が確認されており,父親に対しても使用可能である(Figueiredo et al., 2005).日本語版MIBQは,妊娠期から産後1か月の日本人女性を対象とした先行研究で,内的一貫性(Cronbachのα係数0.584~0.879)と再テスト信頼性(ピアソンの積率相関係数0.48~0.73,p < 0.01)が確認されている(Ohara et al., 2016).本研究での尺度使用について山下の許諾を得た.

なお,本研究のTime 1~4のCronbachのα係数は,母親で0.72,0.70,0.71,0.68であり,信頼性は確保されていると考えられる.一方父親では,0.65,0.54,0.60,0.62であり,信頼性はやや低かった.

5) エジンバラ産後うつ病自己評価票(Edinburgh Postnatal Depression Scale; EPDS)

産後うつ病をスクリーニングするためにCox et al.(1987)が開発し,岡野(1996)によって日本語訳され信頼性妥当性が確認されている.今日では国内外で妊娠期から使用され,妊婦並びに出産後1年未満の女性を対象に使用されている.また,男性の産後うつの評価にも用いられている(Ramchandani et al., 2005).10項目4段階(0~3点)評価の総得点は30点であり,得点が高いほど抑うつ傾向が強いことを示している.日本語版EPDSは内的一貫性(Cronbachのα係数0.78)と再テスト信頼性(スピアマンの順位相関係数0.90,p < 0.001)が確認されている(岡野,1996).本尺度の臨床および研究での利用については日本産婦人科医会で Cambridge University Press より許諾が得られており,個別に許諾を得る必要はない.先行研究においてボンディングは抑うつと相関関係にあること,子育て期の抑うつはボンディングを予測することが示されており,妊娠期の夫婦関係が子育て期のボンディングを予測するかを明らかにする際,抑うつは調整変数になると考えられたため,調査項目に含めている(Moehler et al., 2006Ohoka et al., 2014Figueiredo & Costa, 2009).

なお,本研究のTime 1~4のCronbachのα係数は,母親で0.82,0.84,0.85,0.84,父親で0.78,0.82,0.80,0.83であり,信頼性は確保されていると考えられる.

8. 分析方法

夫婦関係,ボンディング,抑うつの得点は歪度を確認したうえで,母親父親間の比較にはマンホイットニーU検定を,測定時期での得点の比較にはクラスカルウォリス検定を用いた.また,夫婦関係,ボンディング,抑うつの得点は,スピアマンの順位相関係数を確認し,変数間の関係を検討した.そのうえで,妊娠期の夫婦関係は子育て期のボンディングを予測するのかを明らかにする目的で,産後4か月のボンディングを従属変数,妊娠期の夫婦関係を独立変数とし,抑うつや分娩週数等で調整した強制投入法による階層的重回帰分析を行い検討した.また,分析の過程で交互作用の可能性が考えられた場合には,中心化処理して交互作用項を投入した.交互作用項が有意であった際は,交互作用の特徴を理解するため,Aiken & West(1991)の手法に基づいてCohen & Cohen(1983)の提案する平均±1SD(標準偏差)を代入し,単純傾斜の検定を行った.

階層的重回帰分析は,変数の投入順序に階層性をもたせることにより,共変量を調整したうえで,関心の変数を加えたときの説明率の上昇(ΔR2)を検証する分析方法である(Cohen & Cohen, 1983).有意に上昇した説明率は,共変量の影響を調整しても関心の変数が従属変数を有意に予測していることを表している.本研究において階層的重回帰分析を用いることで,子育て期のボンディングを予測する複数の変数の影響を調整しても,妊娠期の夫婦関係が子育て期のボンディングを予測するのかを知ることができるため,採用した.また,階層的重回帰分析は,交互作用の検討として一般的に用いられる分散分析に比べ,間隔尺度から名義尺度への変換を行うことによる情報量の減損が防げること,群分けすることに伴う各群の人数の考慮が不要となることから,交互作用検討の面からも有用と判断した.

なお,本研究ではVIFはすべて10.0未満であり多重共線性には問題がなかった.また,夫婦関係,ボンディング,抑うつの得点は歪度が高かったが,QQプロットにより残差は正規分布であること,ダービン・ワトソン比(母親1.945,父親2.114)により残差はランダムである可能性が高いことを確認した.以上のことから本研究では,階層的重回帰分析が可能であると判断した.データの分析にはIBM SPSS Ver.28を使用した.

9. 倫理的配慮

本研究は岡山県立大学研究倫理委員会の承認を得て実施した(令和3年2月2日承認,番号20-57).調査対象者には,研究目的,方法,調査期間,研究協力者の匿名性とプライバシーの保護,研究協力中断の権利,データの管理,結果公表について説明し,書面による同意を得た.初回質問紙には,同意書とともに同意撤回書を同封した.また,Time 2以降のGoogle Formsの回答ページには研究協力同意確認のチェックボックスを毎回設けた.さらに,協力者の心理的身体的負担に配慮し,Time 2の回答がなかった協力者には,以降の調査の案内を送ることは控えた.

Ⅲ. 結果

研究のフロー図を図1に示す.5,955組11,910名に配布し,母親277名(回収率2.9%),父親270名(回収率2.4%)から同意が得られた.Time 1からTime 4までのすべての回答に欠損がなかった母親172名,父親141名を分析対象とした(有効回答率:母親62.1%,父親52.2%).

図1 

研究のフロー図

1. 対象の属性

表1に対象の属性を示す.新型コロナウイルス感染拡大防止対策として,分娩の立ち会いを希望していたが立ち会いできなかった方や,産褥入院中の面会ができなかった方がみられた.

表1 

対象の属性

育児支援チェックリストでは妊娠期から子育て期を通して9割以上の母親が,「パートナーには何でも打ち明けることができる」と回答していた.

夫婦関係はTime 3でのみ母親父親間に有意差がみられ,父親の夫婦関係満足度は母親より有意に高かった(p < 0.01).また,Time 1の夫婦関係とTime 1回答時の妊娠週数との間には相関関係は認められなかった(母親r = –0.06,父親r = –0.04).

ボンディングは母親父親ともに,Time 1の得点がTime 2やTime 3,Time 4と比較して有意に高く妊娠期から子育て期にかけてボンディングが良好になっていった(p < 0.01~0.05).

抑うつは母親においてTime 4がTime 1やTime 2と比較して有意に低かった(p < 0.01).母親父親間では,Time 1,Time 2,Time 3で母親は父親より有意に抑うつ傾向が強かった(p < 0.01~0.05).

2. 夫婦関係,ボンディング,抑うつの相関

妊娠期から子育て期の母親と父親の夫婦関係,ボンディング,抑うつの相関を表2に示す.

表2 

妊娠期から子育て期の母親と父親の抑うつ,ボンディング,夫婦関係の相関

Time 1 Time 2 Time 3 Time 4
D B MR D B MR D B MR D B MR
T1 D 0.20* –0.16 0.55** 0.30** –0.29** 0.57** 0.30** –0.33** 0.44** 0.19* –0.29**
B 0.08 –0.33** 0.12 0.57** –0.08 0.21* 0.57** –0.04 0.20* 0.58** –0.06
MR –0.41** –0.25** –0.03 –0.16 0.43** –0.04** –0.20* 0.32** –0.05 –0.34** 0.36**
T2 D 0.73** 0.07 –0.32** 0.35** –0.26** 0.67** 0.35** –0.38** 0.47** 0.19* –0.31**
B 0.17* 0.33** –0.10 0.27** –0.02 0.45** 0.84** –0.04 0.35** 0.78** –0.09
MR –0.26** 0.04 0.28** –0.34** –0.06 –0.10 –0.03 0.58** –0.08 –0.04 0.33**
T3 D 0.68** 0.07 –0.35** 0.74** 0.24** –0.30** 0.50** –0.24** 0.60** 0.28** –0.22**
B 0.17* 0.34** –0.11 0.30** 0.69** –0.09 0.26** –0.09 0.29** 0.74** –0.10
MR –0.23** –0.02 0.25** –0.20* 0.00 0.27** –0.22** –0.07 –0.13 –0.01 0.61**
T4 D 0.51** –0.09 –0.27** 0.63** 0.12 –0.28** 0.63** 0.17* –0.18* 0.40** –0.31**
B 0.03 0.31** –0.19* 0.10 0.48** –0.09 0.22** 0.56** –0.01 0.10 –0.15
MR –0.32** 0.10 0.33** –0.25** 0.04 0.11 –0.28** –0.07 0.35** –0.34** –0.08

スピアマン順位相関係数

D 抑うつ,B ボンディング,MR 夫婦関係

** p < 0.01,* p < 0.05

母親n = 172(対角線上),父親n = 141(対角線下)

母親のTime 4のボンディングとTime 1の夫婦関係の間には弱い負の相関が認められた(r = –0.34, p < 0.01).また,Time 4のボンディングは,Time 3の抑うつとの間にも弱い正の相関が認められた(r = 0.28, p < 0.01).

一方父親では,Time 4のボンディングとTime 1の夫婦関係の間に相関関係は認められなかった.また,Time 4のボンディングは,Time 3の抑うつとの間に弱い正の相関が認められた(r = 0.22, p < 0.01).

母親父親ともに,Time 1とTime 4の夫婦関係,ボンディング,抑うつの各得点は相関関係が認められた(p < 0.01).

3. 子育て期のボンディングを予測する変数

縦断的データにおいて妊娠期の夫婦関係が子育て期のボンディングを予測するのかを検討するため,Time 4のボンディングを従属変数とした階層的重回帰分析を行った(表3).子育て期の抑うつはボンディングを予測することが報告されており(Figueiredo & Costa, 2009),妊娠期から子育て期を追跡した先行研究や本研究においても,ボンディングと抑うつに相関関係が認められている(Moehler et al., 2006Ohoka et al., 2014).また,先行研究ではボンディング障害を予測する変数として,経済的な不安があること(Kinsey et al., 2014),児に何らかの健康上の問題があることあるいはNICUに入院すること(Figueiredo et al., 2009),女児であること(Edhborg et al., 2011Figueiredo et al., 2009)などが指摘されている.そこで,抑うつやこれらの変数を調整したうえでも夫婦関係がボンディングを予測するのかを調べるため,独立変数として第1ステップではTime 1からTime 3までの抑うつ,Time 1の経済的な不安(母親のみ),分娩週数,児の性別を,第2ステップではTime 1の夫婦関係を投入した(強制投入法).その結果,母親ではTime 1の夫婦関係を加えた第2ステップで説明率が有意に上昇し(ΔR2 = 0.052, p < 0.01),第2ステップにおいてTime 1の夫婦関係(β = –0.234, t = –3.145, p < 0.01),Time 3の抑うつ(β = 0.229, t = 2.284, p < 0.05)の順で有意となったため,第3ステップではTime 1の夫婦関係とTime 3の抑うつの多重共線性の問題を考慮し,これらを中心化処理して交互作用項として投入した(強制投入法).分析の結果,交互作用項(β = –0.266, t = –3.595, p < 0.001)とTime 1の夫婦関係(β = –0.210, t = –2.913, p < 0.01)が有意となったが,Time 3の抑うつは有意ではなかったことから(F(8,163) = 5.079, p < 0.001),Time 3の抑うつよりもTime 1の夫婦関係の方がよりTime 4のボンディングを予測していることが明らかとなった.また,交互作用項が有意であったことからAiken & West(1991)の手法に基づいてCohen & Cohen(1983)の提案する平均±1SD(標準偏差)を代入し,単純傾斜の検定を行ったところ,Time 3の抑うつが高い群(平均+1SD)ではTime 1の夫婦関係がTime 4のボンディングを予測し,夫婦関係が良好なほどMIBQ得点は低くなり(「夫婦関係高群」のMIBQ得点:0.14),ボンディングは良好となっていた(B = –0.405, SE = 0.084, t = –4.803, p < 0.001).一方,Time 3の抑うつが低い群(平均–1SD)では,Time 1の夫婦関係はTime 4のボンディングを予測していなかった(B = 0.021, SE = 0.091, t = 0.227, p = 0.821)(表4図2).

表3 

産後4か月のボンディングに対する階層的重回帰分析

独立変数 Step 1 Step 2 Step 3
B [95%信頼区間] β t 有意確率 B [95%信頼区間] β t 有意確率 B [95%信頼区間] β t 有意確率
母親 T1_抑うつ 0.049 [–0.063~0.162] 0.082 0.869 0.386 0.018 [–0.093~0.129] 0.030 0.314 0.757 0.005 [–0.102~0.112] 0.008 0.092 0.927
T2_抑うつ –0.021 [–0.135~0.099] –0.036 –0.358 0.721 –0.019 [–0.130~0.092] –0.034 –0.343 0.732 0.003 [–0.105~0.111] 0.006 0.058 0.954
T3_抑うつ 0.129 [0.011~0.246] 0.226 2.194 0.030* 0.131 [0.018~0.245] 0.229 2.284 0.024* 0.083 [–0.030~0.196] 0.145 1.452 0.149
T1_経済的な不安 –0.322 [–1.338~0.695] –0.049 –0.624 0.533 –0.320 [–1.311~0.671] –0.048 –0.638 0.524 –0.232 [–1.190~0.726] –0.035 –0.479 0.633
分娩週数 0.745 [–0.985~2.474] 0.064 0.850 0.396 0.635 [–1.051~2.321] 0.055 0.743 0.458 0.810 [–0.821~2.441] 0.070 0.981 0.328
児の性別 –0.441 [–1.122~0.239] –0.098 –1.281 0.202 –0.383 [–1.047~0.280] –0.085 –1.141 0.256 –0.448 [–1.090~0.194] –0.100 –1.378 0.170
T1_夫婦関係 –0.211 [–0.344~–0.079] –0.234 –3.145 0.002** –0.190 [–0.318~–0.061] –0.210 –2.913 0.004**
T1_夫婦関係×T3_抑うつ –0.050 [–0.078~–0.023] –0.266 –3.595 <0.001***
R2 0.084 0.023 0.136 0.001 0.200 <0.001
ΔR2 0.084 0.023* 0.052 0.002** 0.063 <0.001***
父親 T1_抑うつ –0.156 [–0.336~0.023] –0.218 –1.724 0.087 –0.203 [–0.385~–0.020] –0.283 –2.197 0.030* –0.186 [–0.380~0.008] –0.259 –1.895 0.060
T2_抑うつ –0.012 [–0.183~0.160] –0.019 –0.134 0.894 –0.009 [–0.178~0.160] –0.014 –0.104 0.917 –0.016 [–0.183~0.152] –0.025 –0.183 0.855
T3_抑うつ 0.255 [0.083~0.428] 0.378 2.933 0.004** 0.238 [0.067~0.408] 0.351 2.750 0.007** 0.154 [–0.030~0.338] 0.228 1.655 0.100
分娩週数 –0.321 [–2.113~1.472] –0.029 –0.354 0.724 –0.373 [–2.144~1.397] –0.034 –0.417 0.677 –0.229 [–1.989~1.531] –0.021 –0.257 0.798
児の性別 –0.134 [–0.859~0.592] –0.030 –0.364 0.717 –0.203 [–0.923~0.516] –0.046 –0.558 0.577 –0.234 [–0.957~0.490] –0.053 –0.638 0.524
T1_夫婦関係 –0.156 [–0.302~–0.011] –0.192 –2.123 0.036* –0.162 [–0.318~–0.006] –0.199 –2.051 0.042*
T1_抑うつ×T3_抑うつ 0.024 [–0.005~0.052] 0.188 1.641 0.103
T3_抑うつ×T1_夫婦関係 –0.041 [–0.093~0.012] –0.260 –1.521 0.131
T1_夫婦関係×T1_抑うつ 0.050 [–0.006~0.106] 0.311 1.781 0.077
R2 0.075 0.058 0.105 0.019 0.142 0.015
ΔR2 0.075 0.058 0.030 0.036* 0.037 0.139

*** p < 0.01,** p < 0.01,* p < 0.05

表4 

母親の産後4か月のボンディングに対する単純傾斜の検定

独立変数 抑うつが高い(+1SD)場合 抑うつが低い(–1SD)場合
B [95%信頼区間] β t 有意確率 B [95%信頼区間] β t 有意確率
T1_抑うつ 0.005 [–0.102~0.112] 0.008 0.092 0.927 0.005 [–0.102~0.112] 0.008 0.092 0.927
T2_抑うつ 0.003 [–0.105~0.111] 0.006 0.058 0.954 0.003 [–0.105~0.111] 0.006 0.058 0.954
T3_抑うつ 0.083 [–0.030~0.196] 0.145 1.452 0.149 0.083 [–0.030~0.196] 0.145 1.452 0.149
T1_経済的な不安 –0.232 [–1.190~0.726] –0.035 –0.479 0.633 –0.232 [–1.190~0.726] –0.035 –0.479 0.633
分娩週数 0.810 [–0.821~2.441] 0.070 0.981 0.328 0.810 [–0.821~2.441] 0.070 0.981 0.328
児の性別 –0.448 [–1.090~0.194] –0.100 –1.378 0.170 –0.448 [–1.090~0.194] –0.100 –1.378 0.170
T1_夫婦関係 –0.405 [–0.571~–0.238] –0.450 –4.803 <0.001*** 0.021 [–0.160~0.201] 0.023 0.227 0.821
T1_夫婦関係×T3_抑うつ –0.050 [–0.078~–0.023] –0.336 –3.595 <0.001*** –0.050 [–0.078~–0.023] –0.374 –3.595 <0.001***

*** p < 0.01

図2 

ボンディングに対する夫婦関係と抑うつの交互作用

一方父親でも,Time 1の夫婦関係を加えた第2ステップで説明率が有意に上昇し(ΔR2 = 0.030, p < 0.05),第2ステップにおいて,Time 3の抑うつ(β = 0.351, t = 2.750, p < 0.01),Time 1の抑うつ(β = –0.283, t = –2.197, p < 0.05),Time 1の夫婦関係(β = –0.192, t = –2.123, p < 0.05)の順で有意であったため,第3ステップでは,Time 3の抑うつ,Time 1の抑うつ,Time 1の夫婦関係を中心化したうえで交互作用項として投入した(強制投入法).分析の結果,Time 1の夫婦関係のみ有意となり(β = –0.199, t = –2.051, p < 0.05),全ての交互作用項とTime 3の抑うつ,Time 1の抑うつは有意ではなかったことから(F(9,131) = 2.408, p < 0.05),投入した変数の中でTime 1の夫婦関係のみがTime 4のボンディングを予測することが明らかとなった.

Ⅳ. 考察

1. 妊娠期から子育て期までの夫婦関係とボンディング

夫婦関係の平均点は,日本人を対象とした先行研究結果(Kagami et al., 2012杉・香取,2017)と類似した結果となっており,一般的な集団であることが窺える.先行研究では夫婦関係は産後に悪化し(Belsky et al., 1985Belsky & Kelly, 1995),母親の夫婦関係満足度は父親より有意に低いことが示されているが(堀口,2000),本研究では産後4か月までの有意な低下は認められず,Time 3でのみ母親父親間に有意差が認められた.小野寺(2005)は親になった当初は親密性が低下するものの,親になって2,3年が経過するうちに安定した状態になると述べている.本研究の対象は産後4か月までの母親と父親であったが,今後夫婦関係に変化や母親父親間差がみられる可能性が考えられる.

ボンディングの平均点は,日本人を対象とした先行研究結果(Kubota et al., 2020Kubota et al., 2018Ohara et al., 2016)と類似した結果となっており,ボンディング得点からも一般的な集団であることが推察された.ボンディングの得点は母親父親ともに,Time 1がTime 2やTime 3,Time 4と比較して有意に高かった.Klaus et al.(1996)は,両親は妊娠期から胎児に対する考えや期待,感情を育み,ボンディング形成の準備をし,そのプロセスは出生後も続くことを述べており,本研究においてもその傾向を確認することができた.

2. 子育て期のボンディングを予測する変数

既に先行研究(Moehler et al., 2006Ohoka et al., 2014)で示されているのと同様に,本研究においても子育て期の母親のボンディングと抑うつは相関関係が認められた.そこで,抑うつや先行研究で示されているボンディングを予測する変数(Edhborg et al., 2011Figueiredo et al., 2009Kinsey et al., 2014)の影響を調整しても,妊娠期の夫婦関係がボンディングを予測するのか明らかにするため,階層的重回帰分析を用い検討した.

階層的重回帰分析の結果,母親父親ともに,ボンディングを予測する他の変数を調整しても,妊娠期の良好な夫婦関係は産後4か月の良好なボンディングを予測することが明らかとなった.Nasreen et al.(2022)の研究では,妊娠期の良好な夫婦関係は一部の地域の母親の産後2,3か月の良好なボンディングを予測していたが,別の地域や父親の妊娠期の夫婦関係は産後2,3か月のボンディングを予測していなかった.先行研究においても夫婦関係やボンディングは文化的背景の影響を受けることが明らかになっている(Greeff & De Bruyne, 2000Kinsey et al., 2014).日本におけるボンディングを予測する変数として近年,生殖補助医療での妊娠(Yoshimasu et al., 2020)や父親の育児休業取得状況(Terada et al., 2022)が指摘されており,これらの背景が影響し,本研究では父親でも妊娠期の夫婦関係が子育て期のボンディングを予測した可能性が考えられた.

Van Bussel et al.(2010)は,母親の被養育体験とボンディングの関連をみた研究の中で,パートナーとの関係性が不良な場合に,児へのボンディングも不良であることを指摘し,その背景として対人関係における不安の有無を考察している.夫婦関係が良好であるということは,最も身近な重要他者である成人との関係性が良好に築けているということであり,このことが別の他者である児へのボンディングを形成する際の不安を取り除く一助となっていると考えられた.

また,単純傾斜の検定において抑うつの低い群の母親では夫婦関係はボンディングを予測せず,抑うつの高い群の母親では夫婦関係がボンディングを予測することが明らかとなった.つまり妊娠期の夫婦関係は子育て期のボンディングを予測するが,抑うつによってより顕著になると言える.妊娠期の母親を対象とした横断研究においても妊娠期の夫婦関係はボンディングと抑うつを予測することが明らかになっていること(Takimoto & Okimoto, 2022),妊娠期と子育て期の抑うつは相関関係にあることから,妊娠期から抑うつの程度を把握し介入することで,夫婦関係の側面からのボンディング支援がより有効的となると考える.

最後に,本研究で得た知見から今後の夫婦関係とボンディングに関する研究について考察する.本研究結果から,妊娠期の夫婦関係が母親父親双方の産後4か月のボンディングを予測することが明らかとなった.協力者の多くは,妊娠初期から中期に妊娠期の回答をしており,妊娠期の夫婦関係は4か月から約1年後のボンディングを予測していたと言える.堀口(2006)は,夫婦を対象とした縦断調査において,子どもが誕生した時点の夫婦関係が5年後の夫婦関係に影響を及ぼしており,子どもの誕生を迎えた時期の夫婦関係の質は累積して養育態度形成にかかわる可能性を示唆している.本研究においても,妊娠期の夫婦関係が子育て期のボンディングを予測したことから,妊娠期の夫婦関係の質は累積し子育て期のボンディング形成に関わることが考えられ,この累積は今後も続いていくことが推察される.先行研究において夫婦関係は,産後に悪化するが(Belsky et al., 1985Belsky & Kelly, 1995),親になって2,3年が経過するうちに安定した状態になる(小野寺,2005)ことが示されている.一方でボンディングが不良な母親の怒りと拒否の症状は,時間とともに悪化していくことが明らかになっており(Matsunaga et al., 2017),子育て期は夫婦関係が変化しやすい時期であると同時に,ボンディングも変化しやすい時期である.したがって,縦断的な研究により妊娠期や子育て期の夫婦関係が,その後のボンディングを予測していくのか明らかにしていくことで,子・母親・父親の三者関係を立体的に捉え,変化していく夫婦関係とボンディングを支援していくことが望まれる.

3. 本研究の限界

本研究はいくつかの限界を考慮する必要がある.まず,ボンディングを予測する変数には今回調整した抑うつ,経済的な不安,分娩週数,児の性別のほかに,生殖補助医療での妊娠(Yoshimasu et al., 2020)や父親の育児休業取得状況(Terada et al., 2022)などが指摘されており,今回これらの変数を調整したうえでの検討はできていない.

次に,本研究で用いたMIBQは,父親でのCronbachのα係数が十分でなかったため,今後は父親での使用についてさらに検討する必要がある.

また,今回の調査では夫婦の同居の有無は調査しておらず,初回の質問紙の多くは母親が受け取り父親へ回答を依頼したことが推察されることから,比較的関係性の良好な夫婦が参加した傾向にある.したがって,これらのやりとりが難しい,夫婦関係が良好でない夫婦については十分に検討されていないため,選択バイアスが生じた可能性がある.

Ⅴ. 結語

妊娠期から産後4か月までの母親と父親を対象とした縦断研究により,母親父親ともに妊娠期の夫婦関係は産後4か月のボンディングを予測することが明らかとなった.子育て期の良好なボンディングを育むために,妊娠期から夫婦関係が良好に保てるよう支援する必要性が示唆された.

謝辞:本研究にご協力くださいました皆様に,心より感謝申し上げます.本研究の一部は,2021年度日本助産学会若手研究助成および2021年度愛媛県立医療技術大学競争的研究費助成を受けて実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:CTは研究の着想およびデザイン,データ収集,分析,論文の作成に貢献し,KOは研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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