日本看護科学会誌
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資料
COVID-19流行下の教育支援体制を見直すきっかけとなった新人看護師の様相とそれに対して講じられた教育支援策
―看護管理者を対象とした質的研究―
遠藤 洋次木村 安貴古賀 雄二小林 成光清原 花原田 紀美枝石田 実知子椿 美智博西田 洋子脇口 優希伊東 由康角甲 純掛田 崇寛佐々木 新介梶原 弘平濱西 誠司山中 真
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2023 年 43 巻 p. 654-665

詳細
Abstract

目的:看護管理者が認識するCOVID-19流行下の教育体制を見直すきっかけとなった新卒看護師の様相とそれに対して講じられた教育支援策を明らかにする.

方法:本研究はCOVID-19流行下の新卒看護師教育に関わった15施設の看護管理者各1名ずつに,半構造化面接を実施し,質的内容分析を行った.

結果:新卒看護師の【コミュニケーションに対する困難感の増強】,【交流減少に伴う相互扶助の関係性の希薄化】【精神的負担の増強】などを捉えており,講じた教育支援策として【研修や自己学習におけるICTの活用】【不足した看護技術を補うためのシミュレーション研修および現任教育の強化】【新人看護師のペースに合わせた教育方針への転換】【相談支援体制の強化】などが抽出された.

結論: 感染症流行下の新卒看護師の教育支援体制にはICTの活用と心理的安全性を高めることが重要であると示唆された.

Translated Abstract

Objective: To identify aspects of new graduate nurses that triggered a review of the educational system during the COVID-19 pandemic as perceived by nursing managers and the educational support measures implemented in response to the disaster.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with one nursing administrator from each of the 15 facilities involved in the training of new graduate nurses during the COVID-19 pandemic. The data were qualitatively analyzed using content analysis methods.

Results: Nursing managers recognized the following experiences as indicative of the educational system’s need for revision. According to nursing managers, graduate nurses experienced increased difficulty with communication, dilution of mutual support relationships due to reduced interaction, and increased mental strain. as aspects of new graduate nurses’ experiences. In contrast, educational support measures taken included the use of ICT in training and self-study, reinforcement of simulation training and on the job training to compensate for deficient nursing skills, matching educational goals to the pace of nursing graduates, and reinforcing the consultation support system.

Conclusion: These results suggest that the use of ICT and psychological safety are important to support the education of new graduate nurses throughout the COVID-19 pandemic.

Ⅰ. 緒言

2019年末に発生した新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)は世界的に感染拡大し,2020年1月に日本で感染症患者が初めて報告された(厚生労働省,2020).感染拡大は猛威を振るい,同年4月には自主的な隔離を要求される緊急事態宣言が発令された(首相官邸,2020).医療機関では2020年2月からCOVID-19患者の受け入れが始まり,複数の病院が発表したCOVID-19対応レポートの報告(鈴木,2020)によると,感染防御のための業務量の増加による人員不足や接触を伴う看護ケアの困難,職員の心身の疲弊などが課題として挙がっており,医療の逼迫に伴い看護師の心身の負担が増大していた.その後,ワクチンの開発・普及に伴い,徐々に社会活動での制限が緩和されてきている.一方で,繰り返す変異株の出現などにより医療の逼迫は続き,未だ医療従事者に強い負担が強いられている.

COVID-19の流行拡大は医療従事者のメンタルヘルスに影響を及ぼしていることが報告されているが(Serrano-Ripoll et al., 2020),特に看護師は他の医療従事者と比較して,より高いレベルの不安とうつ病を抱えていると言われている(Batra et al., 2020).生命のリスクの高かったCOVID-19流行初期には,看護師は自身が感染するリスクや親しい人に感染させる恐れを抱いていること(Costantini et al., 2020)や,可能な限りのマンパワーや医療資源を使用しても患者に対し十分なケアを提供できていないと感じていること(Greenberg et al., 2020)が報告され,看護師のメンタルヘルスへの影響が懸念されている.日本においても2020年度における看護師の離職は増加傾向にあり,COVID-19流行の影響は,看護師が離職を選択する理由のひとつになっている可能性を示唆している(日本看護協会,2021).

一方,COVID-19流行下の看護系大学4年生の約62%が現状のまま就職することに不安を抱いており,具体的には看護技術の習得ができないことや実習経験不足への不安を抱えている(栃原・角,2021).また,COVID-19専門病院の指定を受けた医療機関に従事する新人看護師においては,漠然とした不安や感染に対する不安,新卒看護師としての成長に対する不安を抱えていることが報告されている(小林ら,2022).これらのことから,新卒看護師の職場の安全性や修学状況に合わせた適切な時期における教育支援体制の構築の必要性が高まっている.

COVID-19流行の影響を受けた新卒看護師の特性を踏まえた教育支援として,タブレット端末や院内独自のweb会議システムなどを使用した新人実技研修(長井ら,2021)や,就職前実習(松田,2021),看護技術セルフトレーニング(間瀬ら,2022)などが行われているが,新卒看護師の教育支援体制は各施設が手探りで構築している現状がある.そこで本研究は,新人看護師の教育支援に携わっている看護管理者が,COVID-19流行前と比べ流行下の新卒看護師のどのような違いを捉え,それに対しどのような教育支援策を講じているかについて焦点を当てることで,COVID-19の流行を体験し,これからこの感染症と共生していく新卒看護師の教育支援体制の構築に向けた示唆を提供できると考えた.

用語の定義

本研究では,看護管理者の定義を「看護職が形成する組織で,教育や人事を管理・統括する立場にある者」とする.

Ⅱ. 研究目的

本研究の目的は,看護管理者が認識するCOVID-19流行下における①教育体制を見直すきっかけとなった新卒看護師の様相と,②それに対して講じられた教育支援策を明らかにすることである.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,質的記述的研究デザインを用いた.

2. 研究対象者の選定と調査方法,調査期間

本研究は,医療施設の看護部に所属し,COVID-19流行下で新卒看護師の教育支援に携わっている看護管理者を対象者とした.その理由として管理部門の看護管理者はCOVID-19流行下での感染対策や教育・支援を決定していく役割を担っており,感染拡大の状況や,病棟単位ではなく組織横断的に新卒看護師の現状を把握したうえで組織運営をしていること,COVID-19流行前後において新卒看護師の教育・支援に携わっているため,より包括的にCOVID-19流行下の新卒看護師の反応や看護実践への影響から特徴と課題を捉えることができる可能性が高いと考えたためである.

対象者への研究依頼は,COVID-19の感染拡大により,緊急事態宣言を経験した地域で,機縁法にて16施設の医療施設を抽出し,承諾が得られた15施設の看護管理者へインタビュー調査を行った.インタビューの実施方法は,COVID-19への感染対策を考慮し,対象者が対面もしくはWebを選択できるよう配慮した.調査は,2021年3月31日~2021年8月17日の期間に実施した.

3. データ収集方法

インタビュー調査は,インタビューガイドを用いた半構造化面接を実施した.インタビューでは,病院の概要として医療機関の施設区分,COVID-19患者の受け入れ施設であるか,緊急事態宣言が複数回発令された地域か,職位などの基本的属性と,COVID-19流行下の新卒看護師の人物像,感染症が流行することで,卒後教育のあり方がどのように変化し,具体的に取り組むようになったこと,取り組んでいきたいと考えていることなどを尋ねた.また,語りの内容は対象者の許可を得て録音し,逐語録を作成した.インタビュー時間は60分程度とし,業務に応じていつでも中断できることを説明した.

4. 分析方法

分析は,看護管理者の語りの内容から,COVID-19流行下における教育体制の見直しのきっかけとなる新卒看護師の様相と,それに対して講じられた教育支援について語られている部分に焦点を当てて,Graneheiman & Lundman(2004)の内容分析法を参考に実施した.録音データの文字起こしは業者に依頼し,作成した逐語録を熟読し,その中から文脈の意味内容を損なわないように注意してコードを抽出した.次にコード間での比較を行い,意味内容が類似するものでサブカテゴリを作成した.さらにサブカテゴリの類似性を確認し,抽象度を上げたカテゴリを作成した.分析のプロセスは2名の研究者が中心となり実施し,質的研究の経験豊富な2名の共同研究者にスーパーバイズを得て行った.分析結果の適合性と一貫性は,データ抽出,コード作成,カテゴリ化の各段階において,質的研究に精通している研究者全員の合意が得られるまで繰り返し議論を行うことで確認した.

5. 倫理的配慮

本研究の実施にあたり,兵庫県立大学看護学部・地域ケア開発研究所研究倫理審査委員会の承認を受けた(approval no.: 2020F29).対象者には研究趣意書及び口頭で,研究への参加は自由意思であり,参加しないことや途中辞退が可能でなんら不利益がないこと,プライバシーや匿名性を遵守することなどを説明し,署名にて同意を得た.

Ⅳ. 結果

1. 研究対象者及び施設の概要(表1

調査協力が得られたのは7都道府県の15施設で,各施設1名の看護管理者にインタビューを実施した.インタビューの実施方法は,Webが12件,対面が3件であった.管理者が所属する施設のうち,14施設のある地域で複数回の緊急事態宣言の発令を経験していた.対象者の職位は看護部長が8名,副看護部長が3名,看護部参事2名,看護部次長1名,看護・介護局長1名であった.インタビューの実施期間中に,COVID-19患者の受け入れを行っているのは10施設であった.

表1 

対象者の基本的属性

施設No 役職 病床数 緊急事態宣言の複数回経験 都道府県別10万人あたりの感染者数 インタビュー形式
1 副看護部長 1,000~ 200人以上 Web
2 看護部次長 500~999 200人以上 Web
3 副看護部長 100~499 200人以上 Web
4 看護部参事 500~999 200人以上 Web
5 看護部長 500~999 200人以上 Web
6 看護部長 1,000~ 120~200人 対面
7 副看護部長 1,000~ 200人以上 Web
8 看護部長 100~499 200人以上 対面
9 看護部長 100~499 200人以上 Web
10 看護部長 100~499 200人以上 Web
11 看護部長 500~999 40~120人 Web
12 看護・介護局長 100~499 200人以上 対面
13 看護部長 100~499 200人以上 Web
14 看護部参事 100~499 200人以上 Web
15 看護部長 500~999 200人以上 Web

Reprinted from都道府県単位に見る10万人当たりの感染者数,n.d., Retrieved from https://covid-19.nec-solutioninnovators.com Copyright 2022 by NEC Solution Innovators

※10万人あたりの感染者数の集計期間:2020/1/15~2021/3/31(全国平均:375.48人)

2. 看護管理者が認識する教育体制を見直すきっかけとなった新卒看護師の様相(表2

逐語録の分析から看護管理者がCOVID-19流行下の新卒看護師に対して抱いている懸念は,56コードが抽出され,13サブカテゴリと4カテゴリに集約された.以下カテゴリは【 】,サブカテゴリは[ ],生データは「 」で斜体文字を用いて示す.

表2 

看護管理者が認識するCOVID-19流行下の教育支援体制を見直すきっかけとなった新卒看護師の様相

カテゴリー サブカテゴリー コード 施設No.
コミュニケーションに対する困難感の増強 先輩看護師に対する報告の苦手意識の増強 普通に就職しても先輩には報告がしにくい事例はよく聞くので,(臨地実習を体験していないと)余計に苦手であると思う No. 2
(リモートを中心とした教育を受けてきたせいか)今年の1年生も先輩が他のことを話をしているのに,そこに割って入ってきたりすることが,結構そういう傾向があるって聞くことがある No. 2
どのタイミングでどういうふうに先輩に声を掛けたらいいのか(わからないようで),コミュニケーションの部分が,例年の新人さんよりもさらにちょっと一歩引いてる感じがあるなという気がする No. 9
先輩が忙しそうにしており,今聞かないと患者さんが困るが,報告が遅過ぎて「何で早く言わなかったの」と言われたりというようなことがあり,コミュニケーションスキルが(例年に比べ)少し落ちてるのか,経験が不足しているように感じる No. 9
患者との関わり方に対する困難感の高まり 患者さんにまずどんなふうに声掛けたらいいのかというとこが例年以上に戸惑ってるなというふうなところがある No. 9
(今年の新人看護師は)患者さんとの関わり方がなかなか難しいっていう振り返りで記述している者が多かった No. 8
家族への対応を学ぶ機会の喪失 今,家族の面会ができないことが,(家族の)情報を得て対応するスキルにも影響するのではないかと思う No. 6
家族の面会がなく,患者さんの退院支援で家族と話し合う機会が全く無かったので,家族への対応や配慮というのを教育出来る場が失われている No. 15
組織としての行動規範に対する意識の乏しさ 相談なく自己判断する傾向 1年生でも(実習経験がなくて)すり抜けてきてしまったのか,勝手にいろんなことをすることがあり,そのことが大きな事故につながったりするとお互い不幸だと(思う) No. 2
ある程度(相談の必要性は)イメージは実習でついてくると思うが,今年の1年目は,まだ実習は4年生の時だけど来年の(新卒看護師)は3年生の実習も受けていないと思うので,影響が大きいと思う No. 14
報告しにくさやしやすいではなく,結局その先に患者さんがいるっていうことが,新卒看護師は自分に余裕がないと自分中心に考えてしまうのか(イメージできていないと感じる) No. 2
行動規範に対する意識の乏しさ 入職する前の研修に向けて2週間は自宅待機の条件付けが,旅行している者や,他府県への移動をしているものがかなりいて,感染防止対策に対する認識が乏しいと思った No. 2
交流減少に伴う相互扶助の関係性の希薄化 同期入職者同士の支え合う関係性を育む交流の減少 入職式から新人看護師同士で部署を超えた同期で交流や連絡先を交換するする機会がない No. 3
(落ち込んでいるときに)支え合う新人同士の交流の場が失われている No. 12
コロナ禍で,同期と一緒に食事することも制限され,同期同士の関係性構築もままならずかわいそうだと思う No. 14
ちょっとした息抜きの時間や普通に話をすることが少なくなっていることは支え合うのに大きな影響があると思う No. 8
(感染症流行前は)先輩の看護観を聞く場がいっぱいあったけど,今は食事の時間も沈黙でコミュニケーションが取れないので,大事な機会が失われている No. 8
コロナ禍で同僚や先輩とのコミュニケーションの制限が多く,精神的なケア(フォロー)が得られないことが一番かわいそうに思う No. 10
コロナ流行前の集合研修では,新人看護師同士のやり取りから状況の共有を行っていたが,リモートでは同期の様子がわからないため,自分だけできていないと捉えがちになっている No. 14
密集を避けるためコミュニケーションを取らないことで,体験している困難が自分だけではないと気付く機会が乏しいことがかわいそうだと思う No. 6
患者との関わりで落ち込み仲間と助け合った経験が乏しく,相談できず一人で閉じこもるしかなくなっていると思う No. 12
新採用の人たちは全員で交流を目的とした宿泊研修をしていたが,一切できなくなっている No. 12
表情が捉えられないことによるコミュニケーションの希薄さ アクリル板やマスク外して会話ができないなど,何か全体的にコミュニケーションが希薄を(感じる) No. 2
新人看護師は接遇面で挨拶が上手くできない上に,コロナ感染対策でマスク着用や距離を取ることによって日常的な個人的な挨拶すらできなくなった No. 7
普段の何気ない関りの減少による先輩看護師へ相談する機会の減少 コロナ感染のリスク回避のため,一緒に休憩室で食事を取らないことで,仕事だけでなく,私生活のことを理解する機会が減っている No. 2
食事にも誘って行くことができず,職場でも先輩看護師達のコミュニティの中に入るきっかけがない No. 8
食事休憩のときなんかも結構いろんな話をみんなするんですけどあんまりできていない No. 2
覚える技術はサポートできているが,職場の仕事以外のことや親密な関係づくりっていうのが非常にやっぱ厳しいのが心配です No. 10
普段に更衣室で着替えながら普通に話することは少なくなってると思う No. 8
休憩室でクラスターが発生したため,休憩室での交流の制限がかかり,先輩と相談する機会が乏しい No. 8
コロナ禍で食事中の会話が制限されるため,ベテラン看護師がこれまで経験してきた雑談の中から情報を得る機会がない No. 6
今までグループで行っていたことでも,密集を避けるため個々で対応することになり,困っていることを相談できる機会がない No. 3
休憩中の会話や仕事後に先輩や同期同士で食事に行くことも禁止しており,コミュニケーションが少なくなることで悩みなどを話したり,発散する機会がない No. 2
先輩看護師と本音で話し合えていないため,疎外感を感じている者がいる No. 8
部署を超えた多職種との関係性構築に関連する交流イベントの喪失 コロナの影響で,以前は頻回に行っていた医師など全職種で集まる機会がほとんどなくなり,交流できなくなった No. 12
他部署間で職員が交流すると感染源が把握できなくなるため,部署を超えた交流が難しい No. 9
グループの事業所が一堂に会した研修が中止となり,統一した意識づけが行えず,組織としての一体化が薄れてくる No. 12
去年の新卒者から歓迎会してあげられなくて,食事をしながら悩みを打ち明ける機会がとれない No. 10
歓送迎会がないことで先輩とお互い親睦が深まる機会が少なく相談相手を作る機会がなくなっているので,飲み会の重要性を感じる No. 7
精神的負担の増強 臨地実習経験の乏しさに関連した臨床実践に対するリアリティショックの増強 臨地実習経験がないことに対する不安が強いなか,いきなり臨床現場に直面することで恐怖を感じていると思う No. 3
実習経験が乏しい中で業務や新たなコミュニティへ適応していかなければならないことによるメンタルの不調がないか心配している No. 6
実習で自分のできなさを感じる機会が少ないため,これまでの新卒者に比べて就職後のリアリティショックを受けて落ち込んでいると思う No. 7
オンラインを利用した実習では現場の雰囲気を体験しておらず,ナースコールやモニター音への反応や人の動きなどが把握できていない No. 3
例年と違い,コロナの影響を受けた新人看護師は,人と違うところを叱られると先輩から大丈夫と言われても自分だけができていないと考えがちであると感じる No. 14
感染対策に伴う重圧 コロナ禍での新人看護師は社会人への転換時に,コロナ対応を行っている病院で働く緊張感による負担が重なり精神的に大変だろうと思う No. 2
入職直後から感染対策として友人同士など食事会や移動の制限,マスク着用などが強いられ精神的な影響を心配する No. 15
入職した直後から医療者として自分が感染させないように過ごさなければならない重圧からすごいストレスを感じていると思う No. 4
医療従事者としてコロナに感染してはいけないという,精神的疲労に対して支援がしっかり取れていないことを心配している No. 10
行動制限によるストレス対処行動に対する弊害 食事会や会話を通したやり取りの中でストレスを発散できるが,コロナ禍で不要不急の外出制限のため会話や食事を通した交流ができず,例年になくストレスがすごく大きいと感じる No. 14
コロナの流行によって食事にいくことが制限され,これまでの看護師が行っていたような気分転換ができていない No. 10
ベテランの看護師でもメンタル不調をきたす中,新人看護師も感染対策で今まで通りのリフレッシュ方法が図れず心身のバランスを崩す中で初めて仕事を覚えていかなければならない No. 6
頑張る時と休憩する時の切り替えがうまくできていない No. 3
遠方出身の新卒者はコロナ流行による移動の制限で実家に帰れず,近くに友人もなく,同期で集まれない状況に孤独を感じている No. 7
コロナ禍で,会話などを通した精神的支援が減少しており孤独感を感じていないか懸念する No. 3
抑うつ傾向や離職する新卒看護師の増加 例年も行っている新人のメンタルケアの中で,抑うつ傾向となる新人看護師がコロナ禍になって増えている No. 7
コロナの感染流行を受けて,慢性的に疲労し,離職する人が多くなっている No. 10

1) 【コミュニケーションに対する困難感の増強】

看護管理者は,新卒看護師の様子や指導者との話し合いを通して,感染流行前よりも[先輩看護師に対する報告の苦手意識の増強]や,新卒看護師の振り返りの記述から,[患者との関わり方に対する困難感の高まり]を捉えていた.さらに,患者との関わりだけでなく,家族の面会制限によって[家族への対応を学ぶ機会の喪失]している状況に対して,家族への支援が困難になることを懸念していた.

「慣れて経験するとできるんでしょうけど,例年の新卒看護師さんよりもコミュニケーションにおいて,さらにちょっと一歩引いている感じがあります.どのようなタイミングでどういうふうに先輩に声を掛けたらいいのかわかっていません」(No. 9)

「家族の面会がなかったので……家族との会話する機会がないんですよね.患者さんの様子をお伝えしたり,家ではどうでしたかということを聞いたりして説明を,家族と患者さん一緒にするっていう家族への対応や配慮を行う機会が全くなくなってしまいました.」(No. 15)

2) 【組織としての行動規範に対する意識の乏しさ】

このカテゴリは,先輩に[相談なく自己判断する傾向]に対し,患者に不利益を及ぼす可能性を危惧していた.また,感染予防に対する行動制限に従えない者もおり[行動規範に対する意識の乏しさ]を感じ,臨地実習を受けていないことによる組織としての行動規範に不慣れな様子を捉えていた.

「ある程度実習で(報連相の)イメージっていうのが付いてくると思うんですが,今年の1年目は,まだ実習は4年生の時だけど来年の(新卒看護師)は3年生の実習も受けていないと思うので,(この)影響は大きいと思います」(No. 14).

3) 【交流減少に伴う相互扶助の関係性の希薄化】

このカテゴリは,看護管理者が感染予防対策の影響による職員間の交流機会の減少している現状を捉え,新卒看護師が支え合う関係性の希薄化を懸念していることを示す.具体的には,マスクの着用やアクリル板を使用している現状から[表情が捉えられないことによるコミュニケーションの希薄さ]を感じ,感染予防対策に関連して,休憩室での食事中や更衣室での会話ができず[普段の何気ない関りの減少による先輩看護師へ相談する機会の減少]につながっている現状を感染流行前と比較して捉えていた.さらに,先輩看護師だけでなく同期同士やその他の医療スタッフとの交流する機会がなくなり[同期入職者同士の支え合う関係性を育む交流の減少]や[部署を超えた多職種との関係性構築に関連する交流イベントの喪失]が生じていることを懸念していた.

「普段に普通に話することは少なくなってると思いますね.(中略)更衣室で着替えながらとか言ってたと思うんですよね,自分たちも.」(No. 8)

4) 【精神的負担の増強】

このカテゴリは,新卒看護師の臨床実習経験が乏しい現状から,看護管理者は感染流行前の新卒看護師に比べ[臨地実習経験の乏しさに関連した臨床実践に対するリアリティショックの増強]を推察していた.また,[感染対策に伴う重圧]や[行動制限によるストレス対処行動に対する弊害],さらに,面談を通して[抑うつ傾向となる新卒看護師の増加]を把握しており,新卒看護師の【精神的負担の増強】を心配していた.

「実習に行くと自分のできなさがすごく出てくると思うんですけど.だからそれを考えると,就職されてからは結構リアリティショックが今まで以上に強くなるので,やっぱできないできないっつって落ち込むとか,そういったところが増えてくるのかなというふうには思います.」(No. 7)

3. COVID-19流行下の新卒看護師に講じた教育支援策(表3

COVID-19流行下の新人看護師に講じた教育支援策については,43コードが抽出され,12サブカテゴリと6カテゴリに集約された.

表3 

COVID-19流行禍の新卒看護師に講じられた教育支援策

カテゴリー サブカテゴリー コード 施設No.
研修や自己学習におけるICTの活用 集合教育からweb研修への切り替え 大会議室で全員集めてやっていましたが,パソコンで(配信し),各配置部署の会議室で講義をしている No. 14
栄養やリハビリ,感染などの集合研修をすべてWeb研修に変えた No. 15
web研修は事前に学習ができ,復習もできるまた,先輩看護師も同じものをみれるので,web研修が発達した No. 15
院内教育にweb教育を導入している No. 13
研修や自己学習へのeラーニング教材の活用 自宅学習や課題でe-ラーニングを活用してもらった No. 3
eラーニングで医療安全や感染などの研修をうけてもらった No. 3
eラーニングで見る部分と実技指導を併せて行ったので指導者の負担が減った No. 3
オリエンテーションで,講義動画を撮影し流したり,企業の教育動画を活用している No. 1
研修は縮小して,eラーニングを活用している No. 1
不足した看護技術を補うためのシミュレーション研修および現任教育の強化 シミュレーション研修の強化 医師との合同の静脈注射研修はシミュレーターを活用することは省かなかった No. 3
新人看護師研修では技術演習ができるブースを増やし,演習の機会を増やしている No. 14
報連相(報告・連絡・相談)シミュレーション研修を行った No. 2
主任以上指導者や教育担当者が,研修センターを使って輸液ポンプやシリンジポンプの使い方など技術的なことを教えている No. 2
病棟配置前の看護技術の補習の強化 病棟配置前に学生時代にやったことない技術を現場の看護師に教えてもらい実践する場を設けている No. 13
実習をどこまで受けたのかについて聞き取りを行い,補習,事前研修として就職前研修を取り入れた No. 2
早期からの現任教育の強化 教育委員や指導者が現場でつきっきりで,輸液ポンプの使い方や電子カルテの使い方をマンツーマンでレクチャーしている No. 1
昨年から早く部署になれる時間を作った方がよいということで,早い段階で部署内で小集団に分かれての研修を行っている No. 4
現場の教育を大事にしており,病棟でシャドー(イング)を強化している No. 5
各部署で内で育てていこうということでOJTが充実してきた No. 9
密を避けるや対面の期間をなるべく短くすることを守ることが中心であったため,集合研修は1週間くらいに減り,現場教育の方に移行させた No. 13
実際の現場でパートナーとしっかり組んで実践する方が良いということで,(これまで演習はしているので)シミュレーターを使っての演習は省いた No. 13
採用者を会議室に全員集めて,モデル(人形)や電子カルテを用いて集合研修をしていたが,集まれないということで,OJTに頼らざるを得なかった No. 14
集合教育が一切できなかったので,全体説明はほとんどせずに最初から現場で育てるという形に変えた No. 15
新卒看護師のペースに合わせた教育目標への転換 新卒看護師のペースに合わせた教育目標への転換 1年間の計画の進む速度は遅くなるが,最終的な1年後のあるべき姿は変わらないと思う No. 14
実習での経験不足を補うため,1ヶ月ごとにやっていることを振り返りながら教育を行うように指導者に話している No. 10
患者や看護師・病院スタッフと関わる経験が少ないことから例年よりもゆっくり時間をかけて指導するようあらかじめ(教育担当者に)伝えている No. 12
リアリティショックを大きく受けることを想定して新人研修をゆっくりしたペースで計画している No. 4
時間をかけて丁寧に指導を進めることや新卒看護師に意識的にコミュニケーションをとる No. 2
多くの技術の習得を進めようとする現場(の看護師)に対して,ゆっくり進めるように意識づける No. 8
通常の教育がされてない新卒者が入職してくるため,丁寧に時間をかけて指導していくよう教育委員を中心に現場に念入りに呼びかけている No. 14
相談支援体制の強化 ストレス発散ができるような話を聞く場の提供 キャリア支援室で専従の看護師や管理職が,意図的に新人(看護師)に声をかけて,ストレスが発散出来るように話を聞いて支援する機会を多く設けている No. 4
新人指導者とのリフレクションの場を多く設けた No. 9
自分たちで時間外に食べに行ったりすることができないので,意図的に時間を取って集まってストレス発散ができるような時間をキャリア支援室でとれるようにした No. 4
(看護管理者が入職後)1ヶ月後に丁寧に1人1人面接を行って話を聞いている No. 14
困ったときの相談を促す支援的な声かけ (看護管理者が)現場まで行って(新人看護師に)困ったら何でもいいから言ったらいいのよと声をかけている No. 14
1人の新人看護師に部署に早くなじめるように声かけをしたり,健康管理に気を配ったりしながら,自分のお姉さん,お兄さんのような(関わりをする)サポーター(という役割の先輩看護師)をつけて支援している No. 1
ストレスコーピング研修の強化 ストレスコーピング研修を多めに取り入れた No. 2
交流促進に向けた仕組の取り入れ 新人看護師同士の交流機会の提供 横のつながりをつけるために,新人看護師で固まって,勉強以外の悩みなどの話をする時間と場を定期的に設けた No. 9
みんなが集まる期間にはzoomやLINEなど(のオンラインアプリケーション)を使って事項紹介をする機会を設けた No. 3
入職オリエンテーションのとき,Webを用いて同じ部署に配置される同士でグループディスカッションを行ってもらった No. 1
交流促進に向けたビデオレターの活用 自己PRの動画を新人全員に撮ってもらって,全職種,新人全員がお互いに見れるように(共有してもらった) No. 12
職場の先輩からビデオレターというのをサプライズで(作成し),1人ずつの名前を呼んで,「これ出来ているよ」や「本当にありがとう」という言葉,病棟に戻ってから流すという(取り組み)を行った No. 5
COVID-19に対応している病棟を避ける配属調整 COVID-19に対応している病棟を避ける配属の調整 COVID-19に対応している病棟に配属しない No. 14

1) 【研修や自己学習におけるInformation and Communication Technology(以下ICT)の活用】

このカテゴリは,感染拡大予防にあわせた新卒看護師の教育の工夫として【研修や自己学習におけるICTの活用】を促進していた.感染対策の一環として密集を避けるために[集合教育からweb研修への切り替え]を行い,さらに,[研修や自己学習へのeラーニング教材の活用]をしていた.

「(新人看護師は)事前に見ておくのも含めて,あと復習もできます.(中略)その講演も誰でも見れるようになって,そういうWeb研修がとても発達しました.」(No. 15).

2) 【不足した看護技術を補うためのシミュレーション研修および現任教育の強化】

このカテゴリは,新卒看護師の臨地実習経験不足に伴う看護技術の補強を図っていた.まず,[病棟配置前の看護技術の補習の強化]では,学生の技術修得状況に合わせた教育支援がなされていた.また,[シミュレーション研修の強化]では,これまで実施していた静脈注射や輸液ポンプに関する技術のシミュレーション研修は省かず,主任以上指導者や教育担当者が技術指導を行っていた.さらに,報告・連絡・相談のためのコミュニケーション強化に向けたロールプレイ研修を取り入れていた.さらに,感染対策の一環から[早期からの現任教育の強化]を行っていた.

「一切集合教育ができない中でどうやって工夫するかなっていうことでしたので,(中略)最初はもうOJTからスタートしましたので,全体説明というのをほとんどせずに,現場で育てるという形に変えました.」(No. 15)

3) 【新卒看護師のペースに合わせた教育目標への転換】

このカテゴリは,新卒看護師の臨地実習の不足を予め想定し,教育指導者や病棟看護師に対し[新人看護師のペースに合わせた教育目標への転換]をしていた.

「恐らくリアリティーショックがおっきいんではないかということを現場は想定しまして,できるだけゆっくりしたペースにしようということで計画は立てている」(No. 4).

4) 【相談支援体制の強化】

このカテゴリは,感染拡大予防に伴う新卒看護師の相談しにくさに配慮し,【相談支援体制の強化】を図っていた.個人レベルの支援として[困ったときの相談を促す支援的な声かけ]を行っていた.また,集団レベルでは[ストレスコーピング研修の強化]をし,環境の調整として[ストレス発散ができるような話を聞く場の提供]をしていた.

「部署に早くなじめるようにっていうことで,いろんな声掛けをしたり,健康管理についても気を配ったりとかしながら,そういった,自分のお姉さん,お兄さんみたいな人を1人付けておりますので,それは縦のつながりっていったところも広げていけるように支援しております.」(No. 1)

5) 【交流促進に向けた仕組の工夫】

このカテゴリは,感染拡大予防に伴う制限により新卒看護師の同期同士や先輩看護師と交流する機会の減少に対して,【交流促進に向けた仕組の工夫】を行っていた.また,[新人看護師同士の交流機会の提供]をしていた.さらに,[交流促進に向けたビデオレターの活用]を通して,交流が深まる工夫を講じていた.

「オンラインでちょっとZoomを使って中継してみたり,みんなで集まる期間とかLINEを使って自己紹介する機会とか,こちら側もちょっと工夫をしながら……」(No. 3)

「自己PRの動画を全員新人に撮ってもらって,全職種.それを動画を各全新人がお互いに見れるように」(No. 12).

6) 【COVID-19に対応している病棟を避ける配属調整】

このカテゴリは1コードからなり,新卒看護師をできる限りCOVID-19を対応していない病棟への配置にする調整をしていた.

Ⅴ. 考察

本研究は,看護管理者が認識するCOVID-19流行下における教育体制を見直すきっかけとなる新卒看護師の様相とそれに対して講じられた教育支援策を明らかにした.以下は,看護管理者が認識しているCOVID-19流行下の新人看護師の様相のカテゴリから,看護実践とメンタルヘルスへの影響に分けて,それぞれに講じた教育支援策について考察を述べる.新卒看護師の様相とそれに対する支援策の関係性を図1に示す.そして,感染症流行下における新卒看護師の教育支援体制の構築に向けた示唆を述べる.

図1 

COVID-19流行下新卒看護師の様相とその教育支援策

1. 新卒看護師の看護実践への影響と講じた教育支援策

まず,COVID-19流行下における新卒看護師の看護実践への影響とその教育支援策に着目して考察する.本研究の看護管理者が捉えている新卒看護師は2020年度の卒業であり,日本看護学校協議会共済会(2021)の調査によると,2020年度はCOVID-19流行拡大に伴い約7割の看護職養成校では非対面方式による講義・演習を実施し,9割以上が臨地実習の受け入れができなかったことを報告している.本研究において,看護管理者はあらかじめ臨地実習ができていない現状から看護技術の不足を察して,【不足した看護技術を補うためのシミュレーション研修および現任教育の強化】を行っていた.具体的には,[病棟配置前の看護技術の補習の強化]として,学生のときに経験したことがない技術について聞き取りを行い,研修への取り入れや臨床現場の看護師と共有し技術指導をする場を設けていた.

また,看護管理者はCOVID-19流行下の新卒看護師に対し流行以前の新卒看護師と比べ,[先輩看護師に対する報告の苦手意識]や[患者との関わり方に対する困難感]の増強を抱えている様子を捉えており,【コミュニケーションに対する困難感の増強】を課題と捉えていた.大野(2021)は,非対面での授業や臨地実習ができないことによる学生教育への影響としてコミュニケーションへの不安を挙げており,オンライン通信でのコミュニケーションが主流になったことから非言語的なコミュニケーションスキルを育成する上で弊害が生じていると述べている.このコミュニケーションスキルに対する教育支援のひとつとして,報告連絡相談のシミュレーション研修としてロールプレイを強化していた.また,看護管理者は感染拡大予防のため家族の面会制限を余儀なくされており,新卒看護師が家族への対応や配慮について教育できる場が失われていることを危惧していた.そのため今後のコミュニケーションの課題として,家族に焦点化したシミュレーション教育等を強化していく必要があると考える.

さらに,看護管理者は【組織としての行動規範に対する意識の乏しさ】を捉えていた.「慣れていけば身についているだろうとはわかっているが,組織としての連携が取れないことによる不利益が生じる」と語っているように,臨床現場への不慣れさを理解しつつも,患者や新卒看護師にとっても不利益が生じないか懸念していた.実習では,病棟の緊迫した空気感を肌で感じながら看護師の動きや病棟の雰囲気を読み,学生としてのふるまいを考えながら学んでいく(大野,2021)と述べているように,看護管理者は,臨地実習の体験が少ない新卒看護師に対し,組織の規範的意識の乏しさを不慣れの様相として捉えていたと考える.それに対し,臨床現場で慣れさせるためにも,現任教育の早期導入と強化を重視していた.シャドーイングの強化や先輩看護師と患者へのケアの体験を促していた.

2. 新卒看護師のメンタルヘルスへの影響と講じた教育支援策

次に,新卒看護師のメンタルヘルスへの影響とその教育支援策に着目して考察する.COVID-19流行に伴い医療従事者は,自身が感染させないように過ごさなければならない重圧や医療従事者としてCOVID-19と接する緊張感を強く抱いていることが国内外で報告されている(Rathnayake et al., 2021新改ら,2022).このメンタルヘルスへの影響について,看護管理者は,新卒看護師に対しても早急に支援体制が必要であると考えていた.新卒看護師のうつ傾向や離職の増加傾向から【精神的負担の増強】を捉えており,その一つとして臨地実習の体験の不足から,流行前と比べ[リアリティショックの増加]を察していた.日本の看護系大学生を対象とした調査では,COVID-19の流行により,看護実践の経験が不十分なまま看護師になることを不安に思っていることが報告されている(Kobayashi et al., 2023).このことから,新たな臨床現場に適応していく中で,臨地実習の経験不足に対する自信のなさも合わさり,リアリティショックがCOVID-19流行前よりも増している可能性がある.リアリティショックに対する支援に関して,イスラエルの看護学生を対象にした研究(Drach-Zahavy et al., 2022)では,臨床実践の経験がストレスを軽減する能力を向上させていることを報告している.感染対策上の一環から現任教育の早期導入が進んだが,臨床実践を体験することは,レジリエンスを高めるという点で実習経験不足に伴うリアリティショックを軽減する可能性がある.加えて,【新卒看護師のペースに合わせた教育目標への転換】を各病棟の教育指導者と共有し,教育支援体制の統一を図ることで,新卒看護師の教育達成目標を長い目で支援的に見守る体制は精神的負担の軽減につながることが推察される.また,看護管理者は新卒看護師が[COVID-19流行下の感染対策に伴う重圧]を抱えていることを心配していた.COVID-19感染拡大防止の一環で,マスクの着用やアクリル板を隔てての会話,密集を避け,黙食をすることなどの行動制限が政府から推奨され(厚生労働省,2022),勤務時間内外の過ごし方が一変した.医療従事者においても行動制限や自粛への不満を感じていること(村松・片山,2022)が報告されている.看護管理者は,新卒看護師おいては同期同士でストレス発散するための外出もできず,また,遠方から就職している新卒看護師は帰郷することもできない状況を把握するなかで,[行動制限に伴うストレス対処行動の不足]に伴う精神的な疲弊を心配していた.さらに,同期の新人や病棟内外のスタッフ同士の交流が減少していることで,新卒看護師が相談や親密さなどの関係性を構築する弊害となり,十分な相談ができず新卒看護師が孤独を抱いていることを懸念していた.そのような【交流減少に伴う相互扶助の関係性の希薄化】に対して,思いや感情を発散できることを重要視し,【相談支援体制の強化】を図っていた.具体的には,ストレス発散ができるようキャリア支援室を活用し話ができる場を設置し,看護管理者や先輩看護師が相談にのれるよう声かけやリフレクションの機会を多く設けるなど病院内の教育や環境の調整を講じていた.また,[新人看護師同士の交流機会の提供]や[交流促進に向けたビデオレターの活用]など【交流促進に向けた仕組の取り入れ】を講じていた.このようなICTを活用した看護師へのeヘルスケア介入の有効性のシステマティックレビューでは,Webやスマートフォンなどでの感情を発散させる介入群は未介入群に比べ,燃え尽き症候群を含むメンタルヘルスを改善することを報告している(Park et al., 2022).また,国内では出身学校が話し合う場の提供としてホームカミングデイと称して,新卒の卒業生同士が実践のシミュレーション研修を通して,振り返り,自己の成長に気づきやリフレッシュにつながっていることが報告されている(花園,2022).このように現行の取り組みも有効であると考えるが,流行下の新卒看護師の精神的負担を軽減するためには,思いや感情を表出させ,他者と共有し,自己を振り返る,リフレクションができる支援体制を構築することが重要であると考える.

3. COVID-19流行下における新卒看護師の教育支援の特性

最後に,COVID-19流行下における新卒看護師の教育支援の特性について考察し,今後の新卒看護師の教育支援についての示唆を述べる.看護管理者の視点から,新卒看護師はCOVID-19の流行拡大に伴い様々な行動制限を強いられ,看護実践やメンタルヘルスへの負の影響が浮き彫りとなった.しかし,それと同時にCOVID-19流行下の試行錯誤は,病院における新卒看護師の教育支援も進化させていることも明らかになった.ひとつはICTの急速な発達と普及である.教育支援においては,[集合教育からweb研修への切り替え]や[研修や自己学習へのeラーニング教材の活用]など,感染対策の一貫としてICTが活用されるようになった.このことは,新卒看護師の学習効果を高めること,指導者の負担軽減につながっていること,職員同士の交流を促進するツールとしての認識の高まりなどから,感染症収束後も教育支援へのICTの発展が期待される.もうひとつは,職場の心理的安全性を高める教育支援の重要性が浮き彫りになったことである.心理的安全性とは「みんなが気兼ねなく意見を述べることができ,自分らしくいられる文化」(Edmondson, 2018/2021)であり,COVID-19の流行は新人看護師にとって,修学への影響や交流の弊害は心理的安全性を大きく脅かす状況であったと考える.その状況下において,心理的安全性を高めるためには,できていない実践状況を非議するのではなく,新卒看護師の教育における達成度を丁寧に確認し,病棟指導者やスタッフ,看護管理者が共有することが重要であることを新卒看護師の指導者が認識することである.また,早期からの現任教育の強化による看護師実践のロールモデルを示しつつ,個別性を重視した教育支援は,臨地実習に行けなかったことに不安を抱えている新卒看護師に安心感をもたらすと考える.さらに,相談支援や交流を促進する取り組みは新卒看護師が自らの思いを語り,自己の振り返りを促すことは自分らしくいられるための重要な支援であると考える.このように,看護管理者の語りから,COVID-19流行下の新卒看護師の教育支援においてICTの活用と心理的安全性を高めることの重要性が明らかとなった.日本におけるCOVID-19の扱いは,2023年度から感染症法上の分類を2類から5類に変更されることが検討されている(厚生労働省,2023).しかし,COVID-19流行下の影響を受けた学生は,これから新卒看護師になり臨床現場で活躍していくため,引き続き数年単位でこれらの特性を踏まえた教育支援は必要であると考える.これらのことから,この感染症と共生していく新卒看護師の教育支援体制の構築への示唆となると考える.

Ⅵ. 研究の限界

本研究の強みは,新卒看護師の教育支援体制を調整している看護管理者の視点でCOVID-19流行下の新卒看護師への影響を踏まえた教育支援の特性を明らかにしたことである.今後,COVID-19流行前の状況に徐々に戻っていくことが予測されるが,本研究で得られた知見は,今後,同様の感染症が流行した際に,新卒看護師の教育支援体制構築に必要な示唆を提供できると考える.

一方で,本研究は一部の地域の施設を対象としているため日本国内の看護管理者を代表している結果を反映しているとは限らない.また,施設間の違いの特性を見出すせるよう研究をデザインしていない.今回抽出された結果を用いて,量的に調査することで,施設間の特性の違いを明らかにできると考える.さらに,本研究のデータは,看護管理者のみの視点で語られたデータであるため,今後,新卒看護師や教育担当看護師のデータと照らし合わせていく必要がある.

Ⅶ. 結論

看護管理者は,COVID-19流行下の新卒看護師の教育支援体制を見直すきっかけとなる新卒看護師の様相として,看護実践では【コミュニケーションに対する困難感の増強】と【組織としての行動規範に対する意識の乏しさ】を捉え,メンタルヘルスでは【交流減少に伴う相互扶助の関係性の希薄化】や【精神的負担の増強】を捉えていた.それに対し講じられた教育支援は【研修や自己学習におけるICTの活用】や【不足した看護技術を補うシミュレーション研修および現任教育の強化】,【新人看護師のペースに合わせた教育目標への転換】,【相談支援体制の強化】,【交流促進に向けた仕組の取り入れ】,【COVID-19に対応している病棟を避ける配属調整】であった.これらのことからCOVID-19流行下の新卒看護師の教育支援体制の構築には,ICTの活用や心理的安全性を高める教育支援が重要であることが示唆された.

付記:本研究論文の内容は,第42回日本看護科学学会学術集会に発表した内容を基に,さらに分析と推敲を行ったものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

研究助成:本研究は兵庫県立大学令和3年度次世代研究プロジェクト推進事業【ポストコロナ分野】の助成を受けて行った.

著者資格:YEは研究の設計及びデータの分析,原稿の執筆を行った.YKはデータの分析と原稿の執筆を行った.YK,MK,HK,KH,MI,MT,YN,YW,YIは,研究の設計及び調査対象の選定,調査スケジュールの調整,調査を実施した.また,YK,MK,MI,YNがデータ分析を行った.JK,TK,SS,KK,SH,MYは調査計画の立案・設計,分析結果の客観的検討,原稿の批判的検討,および調査プロセス全体の監督を行った.最終原稿は著者全員が確認し,承認した.

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