日本看護科学会誌
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
原著
統合失調症者におけるリアリティ・モニタリングの特徴
―自伝的記憶の実態を通じて―
浅沼 瞳菅谷 智一森 千鶴
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2023 年 43 巻 p. 709-717

詳細
Abstract

目的:統合失調症者における自伝的記憶の実態から,記憶の判別機能であるリアリティ・モニタリングの特徴を明らかにすることを目的に研究を行った.

方法:対象者は急性期病棟に入院・治療中の統合失調症者20名で,調査内容は対象者背景に加え入院や病気の状況に関する体験記憶の想起を糸口とした半構造化面接を実施し,内容分析を行った.

結果:対象者は男女10名ずつであった.語られた自伝的記憶は,130のコードから22のサブカテゴリが抽出され,最終的に【自分ではよくわかっている】【どうしたら良いか戸惑った】【私は病気だ】【信じてもらえない】【受け入れたくない】【もっと良くなりたい】【私らしくいたい】の7カテゴリが抽出された.

結論:統合失調症者は推測・想像優位のリアリティ・モニタリングが働きやすい特徴をもちながらも,知覚優位のモニタリングを通じて,現実的・客観的に自身の記憶をとらえている状況が確認された.

Translated Abstract

Purpose: This study aims at clarifying the characteristics of reality monitoring, which is a function to distinguish memories, based on the actual autobiographical memories held by patients with schizophrenia.

Methods: The study participants were 20 patients with schizophrenia who were hospitalized and treated in an acute care ward. In addition to their background, we asked about how they remember the experience of being hospitalized and their condition around that time before transitioning into a semi-structured interview with each of them. We then analyzed the contents of the narrative data.

Results: The participants were 10 males and 10 females. We found 130 codes in the autobiographical memories told by them, which we grouped into 22 subcategories, from which seven categories were finally identified: I understand myself well; I didn’t know what to do; I am ill; No one believes me; I don’t want to accept my illness; I want to be better; and I want to be me.

Conclusion: Although patients with schizophrenia are characterized by having a tendency of speculation- and imagination-dominant reality monitoring, situations were confirmed where they also see their memories realistically and objectively through perception-dominant monitoring.

Ⅰ. 背景

1. 統合失調症者のリアリティ・モニタリング

リアリティ・モニタリングは,実験心理学において発展した概念であり,“自己の体験を記銘・保持・想起する際,その情報源が外部から得た現実的な知覚情報由来か,自己の内部で生成された推測・想像情報由来かを無意識下で判別している過程の機能”である(Johnson & Raye, 1981金城,2001中田・森田,2005).この機能は日常生活場面において,多くは無意識に行われている(Johnson et al., 1993).例えば『私はある人から嫌われている』という体験の記憶について,“悪口を直接言われた”という明確で現実的な知覚に基づくのか,“無視されているように見えた”という抽象的な推測・想像に基づくのか,通常は意識せずにリアリティ・モニタリングを働かせて体験を記銘・保持・想起している.リアリティ・モニタリングは「思い込み・思い違い」により判別を誤ることもある.これをリアリティ・モニタリング・エラーという(中田・森田,2014).エラーが生じる要因には,知覚情報と推測・想像情報のどちらの情報量が多いのかが関連する(Johnson & Raye, 1981杉森・楠見,2007).統合失調症者のリアリティ・モニタリングは,幻覚・妄想などの陽性症状により,実際の体験を記銘・想起する際の判別において推測・想像情報が優位となり,健常者よりもエラーを起こしやすいと考えられている(Frith, 1987Ditman & Kuperberg, 2005田中ら,2005浅井・丹野,2007佐藤,2008浅井・今水,2011).

2. リアリティ・モニタリングの特徴が及ぼす影響

統合失調症者は広範囲にわたる重篤な記憶障害を有する場合があることが報告されている(丹羽・福田,2007).この要因の一つとしてリアリティ・モニタリング・エラーによる誤った記憶の構築が影響している可能性が考えられた.しかしながら,統合失調症者のリアリティ・モニタリングの判別過程やエラーの実態は機能の特徴上,直接確認することができない.そこでリアリティ・モニタリングの結果表れる記憶の実態に着目した.記憶の分類の一つである「自伝的記憶:autobiographical memory」は,「想起された過去の個人的経験・体験の記憶」であり,統合失調症者のリアリティ・モニタリングの結果もここに顕在化されると考えられる.自伝的記憶はまた,様々な判断や行動を方向づけるのに役立つという機能をもち(佐藤,2007),自己のアイデンティティの形成にも影響することが報告されている(松王,1994水間,2002仲,2002Wilson & Ross, 2003佐藤,2012山本,2015).よって,統合失調症者はリアリティ・モニタリング・エラーが多ければ多いほど,誤った記憶に基づいて誤った自分自身のとらえ方を形成し,その影響が対人関係上の誤解やトラブルなど,実生活の支障にもおよんでいると考えられた.

リアリティ・モニタリングを通じた記憶と自分自身のとらえ方とのつながりにおいては,統合失調症者における「メタ認知」の障害と関連づけられると考えた(三宮,2008三宮,2009).メタ認知とは記憶を客観視する認知機能,すなわち“自己という存在を現実的に客観視するうえで必要な能力”(三宮,2009)である.この能力は知識成分と活動成分から構成され,循環的に機能している.統合失調症者は症状に伴う病的体験に対して現実感をもってとらえることが困難であることが多く,また自らの障害に気づきにくく自己認識に乏しい傾向をもつ(日域ら,2005菅原・森,2011).これは,統合失調症者のリアリティ・モニタリング・エラーを通じたメタ認知の障害が,自身の病気をどのようにとらえているか,という側面から顕在化していると考えられた.よって統合失調症者のメタ認知について理解を深めるうえでも,当事者がどのような自伝的記憶をもっているのか,その背景にどのようなリアリティ・モニタリングの特徴があるのかを明らかにする必要がある.統合失調症者のリカバリーの視点からも,リアリティ・モニタリングの状態を理解することが鍵となると考えた(野中,2011大森・森,2012).

3. 本研究の目的

統合失調症者の病気に対する気づきや自覚のきっかけは生活体験の中にある(池淵,2004吉野・八木,2010鈴木ら,2017).しかし統合失調症者にとって病気と関わる生活体験,すなわち入院治療の体験やそこに至るまでの自伝的記憶はリアリティ・モニタリング・エラーの影響を受けていると考えられた.そこで,本研究は統合失調症者における自伝的記憶の実態から,記憶の判別機能であるリアリティ・モニタリングの特徴を明らかにすることを目的とした.本研究により統合失調症者をより深いレベルで理解することができ,具体的な支援方法の検討にも寄与できる知見を得ることができると考える.

Ⅱ. 方法

1. 研究対象者

関東圏内にある精神科病院の急性期病棟に入院中であり,成人で急性増悪状態を脱した統合失調症者で,本研究への参加同意が得られた者を対象者とした.認知症の診断のあるものは除外した.対象者の入院回数,罹病期間,抗精神病薬の内服量といった対象者の病態に対する選択基準の制限は設けず,幅広い対象者の実態を調査することとした.

対象者の選定は,対象施設の精神科医師,看護師長,看護師に研究の趣旨,目的,方法,倫理的配慮について説明し,協力を得た.選定基準に当てはまり,調査を行っても身体・精神健康上問題がないと判断された対象者に対して,研究者が口頭にて本研究の趣旨,目的,方法,倫理的配慮について説明を行い,同意が得られた対象者に調査を実施した.調査当日は再度担当医師と担当看護師,本人に確認の上,調査を実施した.また,研究者は対象施設外の所属であることから,対象者に慣れてもらえるよう調査開始前に対象施設の入院病棟に訪問する配慮をとった.

2. 調査内容

1) 対象者の背景

同意が得られた対象者の診療録から,性別,年齢,疾患の状況について罹病期間(月),入院回数,今回の入院日数,抗精神病薬内服量(Chlorpromazine(CP)換算)を収集した.また調査時の対象者の状態について,陽性・陰性症状評価尺度(Positive and Negative Syndrome Scale: PANSS)を用いて客観的に評価した.PANSSは,主に統合失調症の全般的な精神症状を把握することを目的とした尺度であり,陽性症状(7項目),陰性症状(7項目)に加えて不安,抑うつなどを含む総合精神病理(16項目)の全30項目(7件法)で構成されている.診療場面や研究で用いられており信頼性・妥当性が確認されている.

2) 半構造化面接

自伝的記憶の実態をつかむには,当事者自ら過去の体験を想起し語ってもらうことが必要と考えた.そこで対象者の入院と病気に関わる体験に焦点を当て,先行研究(David, 1990酒井ら,2000菅原・森,2011)を参考にインタビューガイドを作成し,半構造化面接を行った.インタビューガイドは,最初に対象者が自身の入院体験をどのように記憶しているのか,“今回の入院に至ったいきさつ”について質問し,対象者の自伝的記憶の内容やその時に感じたことについて語りを促した.続いて“自分は病気だと思うか”,“自分が病気だと感じた体験”について質問し,対象者が自分を病気だという実感をもっているかどうかに関わる自伝的記憶の表出を促した.その反応を踏まえて“そのように考えたり感じたのはどのような体験や場面からか”,“語られた体験や場面で,どんなことを考えたり感じたりしたか”を問いかけ,対象者の体験だけでなく,そこに関わる感情や思考の内容をさらに掘り下げて聴いていった.面接にあたっては対象者が語りやすい環境を本人と相談して選び,回答を無理強いしないよう会話のペースに配慮した.疲労を感じた際は休憩できるよう,対象者の様子を観察するとともに,適宜体調の変化がないか声をかけた.

3) 分析方法

(1) 対象者背景の実態

対象者背景に関する分析には,IBM SPSS Statistics Version 25を使用し,記述統計量を算出した.

(2) 自伝的記憶の実態

半構造化面接の結果は,質的分析の手法のうち,語りの内容やその意図について明らかにする内容分析を採用した(寺下,2011佐藤,2017).分析のプロセスは,①逐語録の作成,②「自身の病気に関する体験」「病気を抱えている自身」に関する自伝的記憶が表れている文節の抽出とコード化,③サブカテゴリ,カテゴリ化を行った.分析した結果は,精神保健看護学を専門とする3名の研究者間で討議を重ね,解釈の信頼性を確認した.

4) 倫理的配慮

本研究は筑波大学医学医療系「医の倫理委員会」(承認番号:1046-2),東京医療保健大学「ヒトに関する研究倫理委員会」(承認番号:28-27),ならびに研究対象施設の倫理委員会(承認番号:10)の承認を受けた上で実施した.調査が対象者にとって強制とならないよう,研究の説明・依頼時,調査実施前に必ず参加の意思を確認した.調査中も対象者の変化を随時観察し,適宜休憩を確保するだけでなく,調査の継続が可能か確認し,いつでも辞退できることを保障した.

Ⅲ. 結果

1. 対象者の特徴

対象者20名の背景を表1に示す.対象者は,男性10名(50%),女性10名(50%)であった.病気の状況について,対象者の入院回数は平均3.7(SD = 2.9)回,平均罹病期間は138.2(SD = 112.8)ヶ月と約11.5年であり,診断を受けてから1ヶ月の者から約35年間統合失調症を抱えている者が含まれていた.このことから,対象者の特徴として,病気に関わる自伝的記憶の情報量が異なる集団であることが示された.PANSSの結果からは,対象者が何らかの症状を有した状態であることが示された.

表1 

対象者背景 N = 20

度数(%) M SD Mdn 最小値 最大値
性別 男性10(50)
女性10(50)
年齢 41.6 14.4 39.0 22 68
入院回数 3.7 2.9 2.5 1 10
罹病期間/月 138.2 112.8 146.5 1 420
今回の入院日数 44.1 20.0 41.0 15 92
抗精神病薬内服量/mg 600.5 413.5 525.0 100 1550
PANSS(項目数:30)(範囲) M SD Mdn 最小値 最大値
陽性尺度(7)(7~49) 12.7 5.2 11.0 7 27
陰性尺度(7)(7~49) 10.2 3.4 10.0 6 21
総合精神病理尺度(16)(16~112) 24.3 4.9 24.0 17 33
M SD Mdn 最小値 最大値
半構造化面接時間(分) 36.5 9.3 30.0 30 60

Note.M=平均値,SD=標準偏差,Mdn=中央値,抗精神病薬内服量=CP換算

2. 自伝的記憶の実態

面接時間は平均36.5(SD = 9.3)分であった.内容分析の結果,自伝的記憶について,130のコードから22のサブカテゴリ,7つのカテゴリが抽出された(表2).以下コードは『 』,サブカテゴリは〈 〉,カテゴリは【 】で記載する.

表2 

病気に関する統合失調症者の自伝的記憶

カテゴリ サブカテゴリ コード数
自分ではよくわかっている 自分の症状がわかる 13
良い時の自分も悪い時の自分もわかる 16
冷静に自分のことを見つめたい 3
自分のことは自分でわかる 3
どうしたら良いか戸惑った 自分ではどうしようもできない 3
できなくなった自分に気が付いた 8
対処方法が間違っていた 2
疲れていた 2
私は病気だ 入院して良くなった 8
やっぱり自分は病気だった 2
他者のせいで病気になった 7
入院当初のことはわからない 4
病気なんだろうと思う 6
信じてもらえない 病気だと決めつけられた 12
私は理解してもらえない 4
受け入れたくない 自分はいなくなった方がいい 2
病気になって恥ずかしい 5
もっと良くなりたい 他者の意見も大事にしている 10
わかってもらえると嬉しい 6
私らしくいたい 病気と共に生きる 5
自分のことは自分でしたい 5
うまい対処をとっている 4

【自分ではよくわかっている】は自分自身の状態のとらえ方に関わる記憶の構築状況が示された.『幻聴や妄想があるので自分は病気だ』『私の気持ちが透けていると思い込んでしまう』など13コードから〈自分の症状がわかる〉が抽出された.また『常に具合が悪いわけではない』『調子が悪いときほど,誰にも辛さが言えなくなる』など16コードから〈良い時の自分も悪い時の自分もわかる〉が抽出された.『自分の考えを書き留めて振り返りに使っている』『インターネットを使って定期的に自分の状態をチェックしている』を含む3コードからは〈冷静に自分のことを見つめたい〉が抽出された.『退院できる状態だと自分ではわかっている』『薬の必要量は自分の方がわかる』を含む3コードからは〈自分のことは自分でわかる〉が抽出された.これらの4サブカテゴリから【自分ではよくわかっている】が構成された.

【どうしたら良いか戸惑った】は対象者が変化に自分では対処できない,対処しようとしたがうまくいかなかったという自伝的記憶が見い出された.まず『もうだめだと思って病院に行った』『調子を崩して,医師に入院先を紹介してもらった』など3コードから〈自分ではどうしようもできない〉が抽出された.また『一人暮らしができなくなっていた』『金遣いが荒くなった』など8コードからは〈できなくなった自分に気が付いた〉が抽出された.『不安で薬を飲みすぎてしまった』『症状を我慢できず,お酒を飲みすぎてしまった』の2コードからは〈対処方法が間違っていた〉,『仕事に疲弊していた』『生活費についてプレッシャーを感じていた』の2コードからは〈疲れていた〉が抽出された.これらの4サブカテゴリから【どうしたら良いか戸惑った】が構成された.

【私は病気だ】は,自分が病気を抱えていることを認めている自伝的記憶が示された.『入院して落ち着いた』『入院して症状が治まってきた』など8コードからサブカテゴリ〈入院して良くなった〉が抽出された.『本で調べた病気の特徴が自分に当てはまった』『インターネットで調べたら,病気の特徴が自分に当てはまった』の2コードからは〈やっぱり自分は病気だった〉が抽出された.また『近所からずっと嫌がらせを受けたせいでおかしくなった』『父親が怖くて具合が悪くなった』など7コードからは〈他者のせいで病気になった〉が抽出された.さらに『なぜ入院しなければいけないのか,最初はわからなかった』『入院の時のことは良く覚えていない』など4コードから〈入院当初のことはわからない〉というサブカテゴリ,『薬を飲んでいるから自分は病気だ』『病気だと思うがはっきりわからない』など6コードからは〈病気なんだろうと思う〉が抽出された.これらの5サブカテゴリから【私は病気だ】が構成された.

【信じてもらえない】は,病気に焦点があたり誤解されている,自分を信じてもらえない,という自伝的記憶が示されていた.『市役所の人に騙されて入院させられた』『病気の診断を勝手につけられた』など12コードからは〈病気だと決めつけられた〉というサブカテゴリが抽出された.また『なんでも病気のせいにされてしまい,気持ちをわかってもらえない』『家族は自分のことを理解していない』を含む4コードからは〈私は理解してもらえない〉が抽出された.これら2サブカテゴリから【信じてもらえない】が構成された.

【受け入れたくない】は病気であることを受け入れられず,自分に対する否定的な自伝的記憶が示された.『もう死んでもいいと思った』や,病気になった自身の存在に対する恐怖を語った文脈の中から抽出された『病気であることに怯え,不安が尽きない』の2コードから〈自分はいなくなった方がいい〉というサブカテゴリ,また統合失調症である自分を自ら恥じる語りから示された『自分の病気のせいで家族に迷惑をかけたくない』『間違える自分をとても恥じている』など5コードから〈病気になって恥ずかしい〉というサブカテゴリが抽出された.この2サブカテゴリから【受け入れたくない】が構成された.

【もっと良くなりたい】は,他者と建設的に関わってきた記憶や他者の理解が自分に良い影響を与えるという自伝的記憶が想起され,もっと良くなりたいという思いを抱きながら様々な体験を積んできていることが示された.『自分だけでなく相手の意見も聞くようにしている』『自分の考えが必ず正しいとは限らない』など10コードから〈他者の意見も大事にしている〉が抽出された.また『自分の話を理解してもらえると楽になる』『家族は自分を理解してくれている』など6コードから〈わかってもらえると嬉しい〉が抽出された.2つのサブカテゴリから【もっと良くなりたい】が構成された.

【私らしくいたい】は対象者が病気とうまく付き合えている体験から自伝的記憶が構築されている状況が示された.『病気である自分を活かして生きていきたい』『病気は個性の一つ』など5コードから〈病気と共に生きる〉が抽出されたことに加え,『自分の事は自分で解決している』『周囲に何を言われても,自分には信念がある』などの5コードから〈自分のことは自分でしたい〉というサブカテゴリ,『外に出ると気分転換になり幻聴が気にならなくなる』『自分で気持ちをコントロールすることが必要』など4コードから〈うまい対処をとっている〉が抽出された.これらの3サブカテゴリから【私らしくいたい】が構成された.

Ⅳ. 考察

1. リアリティ・モニタリングの特徴

分析の結果,自伝的記憶の実態として抽出されたカテゴリを構造化し,それらがどのようなリアリティ・モニタリングを経て表れたのか,どのようなリアリティ・モニタリング・エラーのリスクが考えられるのかについて,特徴を検討した(図1).

図1 

リアリティ・モニタリングの構造

【自分ではよくわかっている】では,統合失調症の症状があること,自分の状態の良し悪しに関わる自伝的記憶が示されていることから,自身の知覚情報優位なリアリティ・モニタリングが働いていると考えられた.この自伝的記憶の形成の一端には【どうしたら良いか戸惑った】という記憶が関連すると考えられる.このカテゴリでは,対象者が自身の異変・変調を自覚した体験,それに対して自分なりに何とか対処を試みたがうまくいかなかったという自伝的記憶が語られていることから,不調という知覚情報に基づくエラーのリスクが低いリアリティ・モニタリングの結果が表れており,自分を理解する材料となっていることが推察された.一方で本研究は,対象者に入院の経緯や「病気だ」と感じた自伝的記憶の想起を促している.そのため,語られた内容の中で本人が症状と判別できていない自伝的記憶については,埋もれて表れなかった可能性も考えられた.対象者が全員何らかの症状を有した状態で自伝的記憶を語っている点もふまえ,統合失調症者は陽性症状によるリアリティ・モニタリング・エラーを常に起こしているのではなく,症状がありながらも現実的な知覚情報に基づく判別を行える側面をもつことが推察された.この可能性に関して,Johnson & Raye(1981)中田・森田(2005)は,ある体験におけるリアリティ・モニタリングについて,その体験に関する情報が追加された際,再記銘での判別が変容し得ることを述べている.本研究の対象者の中には罹病期間が長期で入退院を繰り返した背景をもつ者も含まれていることから,様々な状況や環境の中で統合失調症に関する自伝的記憶に対して情報の追加と再記銘が繰り返された場合,最初はリアリティ・モニタリング・エラーが生じていたとしても,それが修正され変容した記憶が今回表れたという可能性も推察された.これらの結果は〈やっぱり自分は病気だった〉〈入院して良くなった〉という,自身が統合失調症であることの実感を伴う【私は病気だ】という自伝的記憶にもつながっていったと思われる.罹病期間,入院回数が少ない対象者の自伝的記憶はこの段階に至っていない可能性があるが,今後どのようなリアリティ・モニタリングが働くかにより,自伝的記憶の内容は変わり得ることも推察された.一方【自分ではよくわかっている】のサブカテゴリ〈自分のことは自分でわかる〉は,コードの内容から,実体験に基づく自伝的記憶だけでなく自分の状態をコントロールできるという推測も含まれていると考えられる.また【私は病気だ】の〈他者のせいで病気になった〉という,病気であることは否定していないものの実感が乏しく,原因が自分以外にあるというサブカテゴリや〈病気なんだろうと思う〉も,診断は受けているものの本人にとっては病気なのかもしれないという推測・想像情報が優位な記憶の判別状況が示されていると思われる.

これらの特徴を含む【私は病気だ】は【信じてもらえない】との対立や葛藤としての関連性をもつことが推察された.【信じてもらえない】は他者との関係性についての記憶の想起が中心に表れていた.〈病気だと決めつけられた〉〈私は理解してもらえない〉というサブカテゴリに示されるように,他者の言動・意思が介在しているにも関わらず,対象者は断言するように自伝的記憶を語っていた.この状況からは,全ての記憶が推測・想像情報によるものとは言い切れないものの,知覚情報と推測・想像情報の双方が存在するなかで,自伝的記憶の記銘・想起時には推測・想像情報が優位なリアリティ・モニタリングが働いたと考えられた.よってこれらのカテゴリは,リアリティ・モニタリング・エラーが生じやすい,もしくはエラーが内包された自伝的記憶である可能性が示唆された.さらに統合失調症者はリアリティ・モニタリングの際,推測・想像による情報を実際の知覚として判別してしまう特徴をもつ(Brebion et al., 2000Brebion et al., 2002中田・森田,2005田中ら,2005).また,自己の思考や行為について記憶がない,あるいは自信が持てないと自己以外の情報由来にモニタリングが向き(金城,2001),断片的で部分的な情報でも,印象的に残る情報であれば,それを十分な証拠と受け取ってしまう傾向をもつ(佐藤,2008).そのため,統合失調症者は自伝的記憶の背景にあるリアリティ・モニタリング・エラーを思い込みや思い違いとして自ら認識することがより困難であり,修正されないまま構築されてしまうリスク,さらには記憶そのものが薄弱で情報の追加も得られない場合には,リアリティ・モニタリング・エラーの修正も困難となってしまう可能性が推察された.特に入院初期は統合失調症の急性増悪期であり,陽性症状により自伝的記憶そのものが不明瞭となり,よりリアリティ・モニタリング・エラーが発生しやすい状況も考えられた.

【受け入れたくない】【もっと良くなりたい】【私らしくいたい】のカテゴリは,【私は病気だ】と関連すると考えられる.【受け入れたくない】は,病気である自分に対する強い否定が示されている.廣澤ら(2017)は,自己を客観的に眺めたり,自身を振り返って葛藤・後悔し,修正するという自己省察的態度が欠如した状態を自己中心性と表現している.このカテゴリでは対象者が主観的な“自分が悪い”という推測・想像にとらわれていると思われ,その結果,推測・想像情報優位で否定的な自己中心性に偏ったリアリティ・モニタリング・エラーが生じている可能性が考えられた.一方,この自伝的記憶は,対象者の実際の体験を通じて自身を卑下するアイデンティティが形成されている可能性も考えられ,否定的な知覚情報優位,あるいは否定的な推測・想像情報優位どちらのリアリティ・モニタリングであっても,自伝的記憶のあり様がセルフ・スティグマの形成に影響をおよぼすと推察された.【もっと良くなりたい】は,【信じられない】のカテゴリと同様に他者との関わりを中心としているが,他者と自分の違いを理解し,周囲の言動を新たな情報として取り入れようとしている自伝的記憶が語られている.このことから,推測・想像情報よりも現実的な知覚情報を豊富に得ようとする対象者の様子がうかがえる.また,【受け入れたくない】に示される自己中心性よりも自己省察的態度が高いと考えられ,リアリティ・モニタリング・エラーが生じにくい対象の特徴が表れていると推察された.【私らしくいたい】は,【私は病気だ】【もっと良くなりたい】に続く,これまでのカテゴリとは異なり,過去の自伝的記憶を基盤としながら未来に向かう前向きな展望を含むカテゴリと思われた.統合失調症者は自身の体験を多面的に捉えなおそうとする自己内省の傾向ももつことが報告されており(Trapnell & Campbell, 1999中島ら,2015).本研究においても統合失調症者が困難な状況にありながらも建設的に自身を現実的・客観的に捉えることができる,すなわち統合失調症者はリアリティ・モニタリング・エラーが多くメタ認知の機能も失われたままなのではなく,それらの働きを高める力も内在していることが示唆された(小澤・長谷川,2017).

2. 看護への示唆

本研究の結果,統合失調症者が自身の状況を俯瞰している様子が確認され,統合失調症者はリアリティ・モニタリング・エラーが生じる中でも軌道修正し自ら病気と病気である自身の理解を深めることが期待できる反面,リアリティ・モニタリング・エラーが重なれば,誤った方向に自伝的記憶が強化される可能性が示唆された.統合失調症者はリアリティ・モニタリング・エラーによる記憶,メタ認知に対して確信を持ちやすい傾向を持つ(菊池・吉田,2017).一方でリアリティ・モニタリング・エラーの軽減においては,記憶に関連する全ての情報を想起し,記憶について意図的に吟味する処理が有効と考えられる(Johnson et al., 1993).奥村(2002)は,統合失調症者が面接を通じて自身の病気の症状について比較的冷静に見ていること,自らを振り返り,現実の自分と今後自分がどうしたいかに気づいていくことができると述べている.このことから,症状の影響だけでなく自伝的記憶を想起する機会がこれまで乏しかった統合失調症者は,自身の記憶を省み吟味することができず,リアリティ・モニタリング・エラーの修正が困難となっていると思われた.そのため,統合失調症者がこれまでにどのような自伝的記憶を積み重ねながら,どのような思いを抱えて生きてきたのか,記憶の正誤に関わらず自伝的記憶を想起し語る機会を設けること,語りにより統合失調症者が置かれている状況を深く理解すること,そのうえで記憶の再構築に意図的に働きかけることが重要と考えた.

これらのことから,入院・治療中の統合失調症者に対する記憶の再構築支援が必要であり,その働きかけにおいては看護師の存在が重要であることが推察された.看護師は統合失調症者との日々の関わりを通じてさまざまな語りを聴く機会に恵まれた医療専門職と言える.看護師はありのままの本人に関心を寄せて語りに耳を傾けることで,そこに含まれる本人の様々な生きづらさの体験や困難だけでなく,成功体験などを含むあらゆる自伝的記憶に触れ,その情報を吟味することができる.そして看護師が吟味した情報を本人と共に省察することにより,統合失調症者は自身の自伝的記憶の不整合や曖昧さ,すなわちエラーが生じている可能性に気づくきっかけを得ることができると考える.省察を通じた記憶の再構築は,現実的な自己理解を促すことも期待され,メタ認知における障害に対しても有効なアプローチとなると考える.

3. 本研究の限界

本研究の結果から,統合失調症者の理解に対して前向きな知見が得られたと思われた.しかしこれは調査に耐えうる対象者の結果であることを考慮する必要がある.同時にリアリティ・モニタリング・エラーやメタ認知の障害が伺える状況が本調査でも見いだされた.研究対象者の背景が多様であったことも結果に影響している点を踏まえ,さらなる綿密なアプローチを検討する必要性が示唆された.

Ⅴ. 結論

統合失調症者20名の自伝的記憶の実態からリアリティ・モニタリングの特徴を明らかにすることを目的に半構造化面接を行った.その結果【自分ではよくわかっている】【どうしたら良いか戸惑った】【私は病気だ】【信じてもらえない】【受け入れたくない】【もっと良くなりたい】【私らしくいたい】の7つのカテゴリが抽出され,統合失調症者が現実的・客観的に自身の記憶をとらえ,自身の認知に繋げている特徴が明らかとなった.

付記:本研究は,筑波大学大学院人間総合科学研究科に提出した博士論文の一部を加筆・修正したものである.

謝辞:本研究にご協力くださいました対象者の皆様および病院関係者の方々に厚く御礼申し上げます.なお,本研究はJSPS(課題番号:18K10341)の助成を受けて実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:浅沼瞳,菅谷智一,森千鶴は,本研究の構想および計画立案,研究データの収集と分析・解釈,本稿の執筆および批判的な修正に関わっており,全員著者資格を有している.

文献
 
© 2023 公益社団法人日本看護科学学会
feedback
Top