日本看護科学会誌
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原著
養護教諭が抱く職務上困難感の構成因子
柴田 優里絵齋藤 美和山脇 京子
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2023 年 43 巻 p. 909-918

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Abstract

目的:本研究の目的は,養護教諭が抱く職務上困難感の構成因子を明らかにすることである.

方法:四国4県の国公立小・中学校に勤務する養護教諭960名を対象に,質問紙調査法を実施した.探索的因子分析を行い,内的整合性の確認のため各因子のCronbach’s α係数を算出した.

結果:最尤法・プロマックス回転による因子分析を行った結果,5因子53項目が抽出された.各因子のCronbach’s α係数は0.824~0.931を示し,内的整合性が確認された.第5因子以外の全因子において,経験年数5年未満はいずれかの経験年数グループより職務上困難感が有意に高かった.

考察:養護教諭の職務上困難感は,個々の児童生徒への支援や連携におけるコーディネートにとどまらず,専門的立場から連携・協働のための仕組みづくりを行うことについての因子によって構成されていた.

結論:養護教諭の専門性発揮には,経験年数の低い養護教諭への支援と,全ての養護教諭が職務を遂行するための校内体制構築の必要性の示唆を得た.

Translated Abstract

Purpose: The purpose of this study was to identify factors related to work-related difficulties experienced by Yogo teachers.

Method: We conducted a questionnaire survey. Participants were 960 Yogo teachers working at national and public elementary and junior high schools in Shikoku. We performed exploratory factor analysis and calculated Cronbach’s α coefficient for each factor to confirm internal consistency.

Results: Five factors with 53 items were identified by factor analysis using the maximum likelihood method and promax rotation. Cronbach’s α coefficient for each factor was 0.824–0.931, confirming internal consistency.

For all factors except factor 5, Yogo teachers with less than 5 years of experience had a significantly higher sense of difficulty in their work than those with more than 5 years of experience.

Consideration: Yogo teachers’ sense of difficulty in their work was not limited to coordinating support for individual children and students, it was also composed of factors related to creating a system for cooperation and collaboration from a professional standpoint.

Conclusion: Our findings suggest that it is necessary to support Yogo teachers with little experience and to build a school system that helps Yogo teachers perform their duties.

Ⅰ. 緒言

近年の社会環境や生活環境の変化に伴う子どもの心身の健康課題の複雑化により,養護教諭に求められる役割も多岐にわたり変化している.1972年の保健体育審議会答申(文部科学省,1972)では,養護教諭は疾病や情緒障害,体力や栄養に関する問題等,心身の健康に問題のある児童生徒の個別指導と共に,健康な児童生徒等についても健康の増進に関する指導を行う役割を持つと記されており,1995年には学校教育法施行規則の改正により養護教諭が保健主事を兼任できるようになった.2008年の中央教育審議会答申(文部科学省,2008)では,「養護教諭は子どもの現代的な健康課題の解決に向けて重要な責務を担っている」とし,学校及び地域の医療機関等との連携を推進する上でのコーディネーターの役割が新たに明記された.そして近年,社会や経済の変化に伴う子どもや家庭,地域社会の変容により,特別支援教育や子どもの貧困について等,学校の抱える課題はいっそう複雑化・困難化し,心理や福祉など教育以外の高い専門性が求められる事案も増えてきている.2015年の中央教育審議会答申(文部科学省,2015)では「チームとしての学校のあり方と今後の改善方策について」が提言され,その中で養護教諭は「チーム学校」の一員として他職種者と協働し,専門性と保健室の機能を最大限に活かすことが求められている.

しかし,養護教諭は学校に一人配置であることが多く(日本学校保健会,2016),新採用や初めて配属になった養護教諭も既に専門職として一人で判断し対応する能力が求められる(石田・園田,2016a).一方で相川(1999)鈴木ら(1994)は,養護教諭は他教諭との協力体制がとりにくく孤立しやすいことや,管理職や他教諭からの理解が得られにくいことを指摘している.また,養護教諭の免許状は勤務校種の縛りがないうえに,全校の児童生徒を対象とすることから,幅広い発達段階に応じた知識や技術が求められる.さらに,養護教諭の免許状取得においては他の教諭とは異なり多様な養成機関が存在し(岡田,2014),久保(2012)は,自身の力量に関する認知や,職務内容に関する意識や負担感などに差が生じていると報告している.

このような中,養護教諭は専門職として職務を遂行する上で,様々な困難感を抱えていることが予想できる.柴田ら(2020)が行った養護教諭が抱く困難感についての文献検討の結果,養護教諭はその活動場面において,健康相談等の日常的な職務や地域との連携にあたり困難感を抱いていることが報告されていた.しかし,文献によって示されている具体的な職務内容は,保健管理や保健教育といった同領域における項目の中でも異なっており,養護教諭の職務の捉え方には差異があることが指摘されていた.また,学校保健計画及び安全計画についての項目を含む文献は少なく,養護教諭の職務内容について整理し,幅広い職務内容を網羅した研究の必要性が述べられていた.

養護教諭がその専門性を発揮し,子どもたちへのよりよい関わりや学校保健活動の推進にあたるためには,養護教諭が多岐にわたる職務を遂行する上で抱く困難感の構造について明らかにすることが重要である.養護教諭の幅広い職務内容を整理した上で職務上困難感の構造を明らかにすることは,重責を担う養護教諭が職務を遂行するための支援体制構築に寄与すると考えた.そこで本研究は,養護教諭が抱く職務上困難感の構成因子を明らかにすることを目的とした.

Ⅱ. 研究方法

1. 用語の定義

職務上困難感:職務上困難感は,養護教諭の職務遂行を阻害し得るものであると考える.本研究では中下ら(2010)の定義を参考に,職務上困難感を「養護教諭の職務内容について,困難と感じること」とした.

2. 対象者および調査方法

四国4県の国立・公立の小学校・中学校(3学級未満の学校を除く)に勤務する養護教諭960人を対象に,無記名自記式質問用紙調査法を行った.学校長および養護教諭に対して調査協力依頼文書を添え,学校に調査用紙を郵送した.複数配置の場合はどちらか一方の養護教諭に回答を依頼し,調査用紙の回収は,研究者宛の返信封筒を用いて対象者の意思で投函できるようにした.

3. データ収集期間

2020年1月から3月

4. 調査内容

1) 対象者の基本的属性

養護教諭の経験年数について,実数で回答を求めた.また,現在勤務している学校種について,小学校か中学校のいずれかで回答を求めた.

2) 養護教諭の職務上困難感

養護教諭の職務項目は,学校保健計画及び学校安全計画,危機管理,救急処置,健康診断,健康観察,感染症対策,疾病管理,学校環境衛生,保健指導,保健学習,健康相談,保健室登校,特別支援教育,保健室経営,保健組織活動,その他の職務に関する70項目とした.これらの項目は,新養護概説(采女,2019),新訂養護概説(三木,2018),文部科学省より提言された保健体育審議会答申(文部科学省,1972文部科学省,1997)・中央教育審議会答申(文部科学省,2008文部科学省,2015),養護教諭の困難感についての13編の先行研究(萩野ら,2002矢野,2005佐光・伊豆,2008中下ら,2010中島・津島,2011中村・荒木田,2013浦口・藤生,2014畑中,2015細丸ら,2015石田・園田,2016a石田・園田,2016b鎌田,2016沖西,2017)を参考に,独自に作成した.当初は100項目を想定し作成したが,養護教諭養成教育に携わる教員と看護教育に関する実践的な研究を行っている教員のスーパーバイズを受け検討した結果,70項目となった.更に3名の現職養護教諭にプレテストを実施し,内容妥当性を検討した結果,70項目を決定した.それらの職務を行う際に抱く困難感について「1:全く困難ではない」,「2:困難ではない」,「3:あまり困難ではない」,「4:やや困難である」,「5:困難である」,「6:非常に困難である」の6段階で回答を求め,1点~6点として職務上困難感を算出した.また,「経験なし」も選択できるようにし,点数として算出せず無回答,不正回答と共に欠損値扱いとした.

5. データ分析方法

統計処理には,統計解析ソフトIBM SPSS Statistics Ver27を使用した.

1) 質問項目の選定

養護教諭の職務項目の選定条件を,平均値+標準偏差が最高値の6以上を示す天井効果がないこと,平均値-標準偏差がとりうる最低値の1以下を示す床効果がないこととした.また,項目ごとの歪度・尖度を算出し,回答分布の偏りを確認した.

2) 因子分析

養護教諭が抱く職務上困難感がどのような因子から構成されているかを明らかにするために,養護教諭の職務項目について因子分析を行った.因子の抽出方法は最尤法,回転法はプロマックス回転を行い,各因子に項目が含まれていると判断する因子負荷量は0.35とした.内的整合性の確認のため,抽出された因子についてCronbach’s α係数を算出した.

3) 平均値の差の検定

養護教諭が抱く職務上困難感の経験年数における差異をみるために,Kruskal-Wallis検定を行った.Kruskal-Wallis検定後の多重比較は,Dunn-Bonferroni検定を用いた.

6. 倫理的配慮

本研究は筆者の所属する高知大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:31-144).調査は無記名とし,得られた情報には個人が特定されないように番号をつけ,個人が特定されない情報とした.質問用紙調査への協力の有無は対象者の個人の自由意思であり,参加辞退による不利益は被ることはないことを紙面上で説明し保障した.質問紙のチェックボックスにチェックすることで同意の意思を確認することを明記し,チェックと返信で同意を得た.データの取り扱について,回収された用紙・データは外部の目に触れないように大学内で保管し,鍵のかかる保管庫で厳重に管理した.

Ⅲ. 研究結果

1. 回収率と有効回答率

調査対象者数960人のうち,456人より回答を得た(回収率47.5%).分析対象は,同意欄にチェックがない3件,半数以上が無回答である5件,職務内容において「経験なし」の選択および不正回答のあった173件を除く,275件とした(有効回答率60.3%).

2. 対象者の概要

対象者の平均経験年数は16.4 ± 11.7年であり,経験年数5年未満が42人(15.3%),5~9年が67人(24.3%),10~19年が61人(22.2%),20~29年が50人(18.2%),30年以上が55人(20.0%)であった(表1).対象者が現在勤務している学校種は小学校184人(66.9%),中学校91人(33.1%)であった.

表1 

対象者の経験年数 N = 275

人数 %
経験年数 5年未満 42 15.3
5~9年 67 24.3
10~19年 61 22.2
20~29年 50 18.2
30年以上 55 20.0

3. 項目の選定

養護教諭の職務内容についての項目すべての記述統計量を算出し,得点の分布を確認した結果,著明な天井効果や床効果がある項目は見られなかった(表2).

表2 

各項目の平均値と標準偏差 N = 275

項目 平均値 標準偏差 最大値 (%) 最小値 (%) 天井効果 床効果 歪度 標準誤差 尖度 標準誤差
1 2.61 1.09 6 (0.73) 1 (17.45) 3.70 1.52 0.29 0.14 –0.22 0.29
2 2.84 1.17 6 (1.45) 1 (13.45) 4.00 1.67 0.28 0.14 –0.33 0.20
3 2.59 1.01 6 (0.36) 1 (15.64) 3.59 1.58 0.17 0.14 –0.30 0.29
4 2.76 1.05 6 (0.36) 1 (12.36) 3.81 1.71 0.10 0.14 –0.52 0.29
5 2.96 1.08 6 (0.73) 1 (10.18) 4.03 1.88 –0.05 0.14 –0.44 0.29
6 3.08 1.04 6 (1.09) 1 (6.55) 4.11 2.04 0.07 0.14 –0.06 0.20
7 3.18 1.02 6 (0.36) 1 (5.45) 4.20 2.16 –0.18 0.14 –0.41 0.29
8 3.34 1.00 6 (0.36) 1 (3.27) 4.34 2.34 –0.17 0.14 –0.36 0.29
9 3.12 1.03 6 (0.73) 1 (5.45) 4.16 2.09 0.05 0.14 –0.24 0.29
10 2.98 1.01 6 (0.36) 1 (7.64) 3.99 1.97 –0.03 0.14 –0.29 0.20
11 2.34 0.90 5 (0.73) 1 (18.18) 3.23 1.44 0.23 0.14 –0.39 0.29
12 1.99 0.85 4 (3.64) 1 (33.09) 2.84 1.14 0.39 0.14 –0.74 0.29
13 2.19 0.94 5 (0.73) 1 (25.82) 3.13 1.25 0.44 0.14 –0.43 0.29
14 2.54 1.01 6 (0.36) 1 (16.00) 3.55 1.53 0.27 0.14 –0.28 0.20
15 2.58 0.97 5 (1.09) 1 (16.00) 3.55 1.61 –0.06 0.14 –0.68 0.29
16 3.01 0.99 6 (0.73) 1 (8.73) 3.99 2.02 –0.22 0.14 0.07 0.29
17 3.23 0.98 6 (1.09) 1 (4.73) 4.21 2.26 –0.17 0.14 0.13 0.29
18 2.83 1.09 6 (0.73) 1 (13.45) 3.91 1.74 0.01 0.14 –0.44 0.20
19 3.14 1.02 6 (0.36) 1 (6.55) 4.16 2.12 –0.14 0.14 –0.22 0.29
20 2.56 1.07 5 (2.91) 1 (19.27) 3.62 1.49 0.14 0.14 –0.72 0.29
21 2.98 1.02 6 (0.73) 1 (8.36) 4.00 1.96 –0.07 0.14 –0.19 0.29
22 2.39 1.02 6 (0.36) 1 (21.45) 3.42 1.37 0.43 0.14 –0.09 0.20
23 2.40 1.01 5 (2.18) 1 (21.09) 3.41 1.39 0.31 0.14 –0.48 0.29
24 2.44 0.89 5 (1.45) 1 (14.91) 3.34 1.55 0.19 0.14 –0.13 0.29
25 2.56 0.84 5 (0.73) 1 (10.55) 3.40 1.73 –0.05 0.14 –0.19 0.29
26 2.41 0.92 5 (1.09) 1 (17.09) 3.33 1.50 0.17 0.14 –0.40 0.20
27 2.31 0.89 5 (1.09) 1 (20.00) 3.21 1.42 0.21 0.14 –0.28 0.29
28 2.71 1.00 5 (3.64) 1 (11.64) 3.71 1.71 0.12 0.14 –0.43 0.29
29 2.64 0.92 5 (0.73) 1 (11.27) 3.56 1.73 –0.06 0.14 –0.60 0.29
30 2.72 1.02 6 (0.36) 1 (12.36) 3.74 1.70 0.06 0.14 –0.51 0.20
31 2.69 1.08 6 (0.36) 1 (14.91) 3.76 1.61 0.12 0.14 –0.66 0.29
32 2.72 0.95 5 (2.55) 1 (10.91) 3.67 1.78 –0.02 0.14 –0.28 0.29
33 2.71 1.24 6 (2.55) 1 (16.73) 3.95 1.48 0.57 0.14 –0.07 0.29
34 2.84 0.92 5 (2.55) 1 (8.36) 3.76 1.91 –0.12 0.14 –0.23 0.20
35 2.93 1.02 5 (3.64) 1 (9.45) 3.94 1.91 –0.19 0.14 –0.61 0.29
36 2.69 0.98 5 (2.18) 1 (13.09) 3.67 1.72 –0.07 0.14 –0.47 0.29
37 3.14 1.08 6 (0.73) 1 (8.00) 4.22 2.06 –0.22 0.14 –0.42 0.29
38 3.23 1.08 6 (1.82) 1 (6.55) 4.31 2.15 –0.10 0.14 –0.09 0.20
39 2.27 0.97 6 (0.36) 1 (22.91) 3.24 1.30 0.60 0.14 0.42 0.29
40 3.34 1.16 6 (2.18) 1 (6.55) 4.50 2.18 –0.10 0.14 –0.41 0.29
41 3.10 1.15 6 (1.09) 1 (9.09) 4.25 1.95 –0.03 0.14 –0.54 0.29
42 2.89 0.92 5 (1.82) 1 (6.91) 3.81 1.98 –0.19 0.14 –0.44 0.20
43 2.95 0.97 6 (0.36) 1 (7.27) 3.91 1.98 –0.11 0.14 –0.29 0.29
44 3.28 1.00 6 (0.73) 1 (4.36) 4.28 2.28 –0.17 0.14 –0.12 0.29
45 2.59 0.93 5 (2.18) 1 (13.45) 3.52 1.67 0.03 0.14 –0.15 0.29
46 3.01 1.03 6 (0.36) 1 (8.00) 4.04 1.99 –0.13 0.14 –0.39 0.20
47 3.05 1.08 6 (0.36) 1 (8.73) 4.14 1.97 –0.13 0.14 –0.57 0.29
48 2.65 1.24 6 (2.91) 1 (19.64) 3.89 1.41 0.62 0.14 0.09 0.29
49 2.96 1.37 6 (4.73) 1 (16.73) 4.34 1.59 0.34 0.14 –0.56 0.29
50 3.30 1.06 6 (2.55) 1 (5.82) 4.37 2.24 –0.10 0.14 0.18 0.20
51 3.11 1.11 6 (1.45) 1 (8.73) 4.22 2.00 –0.02 0.14 –0.23 0.29
52 3.24 0.93 6 (0.36) 1 (3.64) 4.18 2.31 –0.18 0.14 –0.01 0.29
53 3.55 1.10 6 (4.00) 1 (4.73) 4.65 2.46 –0.23 0.14 0.21 0.29
54 3.41 1.12 6 (3.64) 1 (5.45) 4.54 2.29 –0.07 0.14 0.00 0.20
55 2.71 1.11 6 (1.09) 1 (15.64) 3.82 1.60 0.30 0.14 –0.08 0.29
56 2.69 0.95 5 (2.18) 1 (12.73) 3.64 1.74 –0.10 0.14 –0.30 0.29
57 3.11 1.01 6 (0.36) 1 (6.91) 4.12 2.10 –0.20 0.14 –0.23 0.29
58 2.55 0.91 5 (0.73) 1 (14.18) 3.45 1.64 –0.08 0.14 –0.50 0.20
59 2.33 0.90 4 (9.09) 1 (20.00) 3.23 1.44 0.05 0.14 –0.82 0.29
60 2.40 0.92 6 (0.36) 1 (17.09) 3.32 1.48 0.32 0.14 0.17 0.29
61 3.58 1.15 6 (5.09) 1 (4.73) 4.73 2.43 –0.11 0.14 –0.05 0.29
62 2.68 1.01 5 (2.55) 1 (14.55) 3.68 1.67 –0.03 0.14 –0.56 0.20
63 3.32 1.20 6 (4.00) 1 (8.00) 4.52 2.11 –0.01 0.14 –0.25 0.29
64 3.39 1.22 6 (2.91) 1 (7.27) 4.61 2.17 –0.14 0.14 –0.53 0.29
65 2.81 1.04 6 (0.73) 1 (12.36) 3.85 1.77 0.01 0.14 –0.19 0.29
66 3.36 1.02 6 (2.18) 1 (4.00) 4.38 2.34 –0.16 0.14 0.13 0.29
67 3.24 1.01 6 (1.09) 1 (5.45) 4.25 2.23 –0.22 0.14 0.02 0.20
68 2.99 0.98 6 (0.36) 1 (6.91) 3.97 2.01 –0.14 0.14 –0.34 0.29
69 2.73 1.00 5 (2.91) 1 (11.27) 3.73 1.74 0.04 0.14 –0.55 0.29
70 3.36 1.21 6 (4.73) 1 (6.55) 4.57 2.15 0.03 0.14 –0.33 0.29

4. 探索的因子分析による因子の抽出

養護教諭が抱く職務上困難感がどのような因子から構成されているかを明らかにするために,質問項目70項目について最尤法・プロマックス回転で探索的因子分析を行った.因子数はスクリープロット基準,初期解における固有値の減少状況及び累積寄与率を参考に判断した結果,5因子が抽出された.そこで因子数を5に固定し,相関が0.7以上の項目と因子負荷量が0.35未満の項目を除外し,再度最尤法・プロマックス回転で因子分析を行った.最終的に53項目5因子が抽出され,累積寄与率は51.45%であった.また,因子妥当性を表すKMOの標準妥当性は0.948,Bartlettの球面性検定においては有意確率p < 0.01となった(表3).

表3 

養護教諭が抱く職務上困難感の因子分析 N = 275

項目 第1因子 第2因子 第3因子 第4因子 第5因子
第1因子【専門的知識を活用し,関係者と連携して健康課題を抱える児童生徒を支援する】α = 0.930
52(特別支援教育)専門的知識を活用し,児童生徒の症状や行動の変化に気づく. 0.785 –0.007 –0.076 0.034 0.108
50(保健室登校)専門的知識を活用し,心身の問題の背景を明確化する. 0.757 0.029 –0.083 –0.043 0.103
54(特別支援教育)医療機関や福祉機関等の専門機関と連携する. 0.753 –0.010 –0.051 0.067 –0.068
67(他)専門的知見や各職種の役割について,共通理解できるよう調整する. 0.728 –0.127 0.203 –0.052 0.133
44(健康相談)医学的知識を活用し,病気や障害の有無をアセスメントする. 0.675 0.084 0.039 0.037 –0.135
66(他)教職員の心理的なニーズに対応する. 0.665 –0.015 0.035 –0.027 0.174
68(他)学校と関係機関の連絡の窓口となる. 0.615 –0.032 0.095 –0.023 0.191
70(他)専門職として研究活動を行う. 0.525 –0.136 –0.059 0.175 0.283
55(特別支援教育)特別支援教育コーディネーターと連携する. 0.465 0.227 0.121 –0.163 –0.024
43(健康相談)必要のある児童生徒へ健康相談を実施する. 0.459 0.352 0.013 0.050 –0.062
47(健康相談)虐待の疑いの早期発見に努める. 0.457 0.419 –0.133 0.026 0.026
51(保健室登校)支援チームの共通理解のもとで対応する. 0.446 0.366 0.028 –0.161 –0.036
40(保健学習)学級担任や教科担任とのチーム・ティーチングによる保健学習へ参画する. 0.430 0.071 0.030 0.150 –0.018
45(健康相談)常に心的な要因を念頭に置いて対応する. 0.400 0.327 0.017 –0.102 0.118
48(健康相談)スクールカウンセラーと連携する. 0.374 0.118 –0.158 0.070 0.136
63(保健組織活動)学校保健委員会において,専門的立場から具体的な提言をする. 0.368 –0.198 0.351 0.081 0.113
7(救急処置)迅速な判断を行う. 0.359 0.184 0.227 –0.051 –0.094
第2因子【全教職員の共通理解を得ながら,疾病の予防・早期発見・早期対応にあたる】α = 0.931
27(感染症対策)感染症の罹患状況の把握を行い,全教職員の共通理解を図る. –0.011 0.735 0.012 0.033 0.115
26(感染症対策)感染症の疑わしい症状がある時は,速やかに学校医または医師の診断を受けるよう指導する. 0.043 0.676 0.045 –0.062 0.127
25(感染症対策)感染症の発生や流行の早期発見に努める. 0.002 0.667 –0.047 0.105 0.100
34(保健指導)個別の保健指導の実施の必要性を判断する. 0.092 0.621 0.075 0.012 –0.039
12(救急処置)管理職に速やかに報告する. 0.062 0.611 –0.053 –0.061 0.174
29(疾病管理)学校生活管理指導表に基づき,慢性疾患を持つ児童生徒の健康管理を行う. –0.058 0.606 0.146 0.057 0.055
11(救急処置)学級担任と情報共有する. 0.121 0.545 0.000 –0.059 0.085
35(保健指導)必要のある児童生徒へ個別の保健指導を行う. 0.262 0.543 0.017 –0.013 –0.028
28(感染症対策)感染症が集団発生した場合は,保健所等の関係機関と連携できるよう体制を整備する. 0.121 0.511 0.008 0.225 –0.123
32(学校環境衛生)学校環境衛生の日常的な点検を行う. –0.178 0.485 –0.006 –0.058 0.281
31(疾病管理)アナフィラキシー反応への対応について,全教職員の共通理解を図る. 0.061 0.451 0.187 0.114 0.001
23(健康観察)健康観察結果を分析し,管理職に報告する. 0.010 0.426 –0.065 0.235 0.186
38(保健指導)必要に応じて,保護者への指導や助言を行う. 0.350 0.419 0.062 0.134 –0.171
20(健康観察)全教職員と連携して実施する. 0.115 0.384 –0.032 0.219 0.081
65(他)複数名来室した際に,優先順位をつけて対応する. 0.238 0.357 0.153 –0.205 0.338
第3因子【学校保健・安全管理体制において,計画や連絡体制の整備を行う】α = 0.891
4(危機管理)全教職員に,緊急時の連絡体制について周知を図る. –0.069 0.176 0.828 –0.153 –0.010
2(学校保健計画・安全計画)全教職員に,計画の周知を図る. –0.070 –0.137 0.820 –0.017 0.171
3(危機管理)緊急時の関係機関の連絡先を,速やかに活用できる状態に整備する. –0.126 0.211 0.675 –0.127 0.056
6(危機管理)危険等発生時対処要領(危機管理マニュアル)の整備に参画する. 0.167 0.006 0.644 0.122 –0.215
1(学校保健計画・安全計画)学校保健計画や学校安全計画の策定へ参画する. 0.037 –0.022 0.585 0.031 0.070
57(保健室経営)保健室経営計画を,全教職員の理解と協力を得て実施する. 0.235 –0.165 0.545 0.135 0.119
5(危機管理)校内職員研修について,専門的立場から参画する. 0.169 0.147 0.537 0.025 –0.141
56(保健室経営)前年度の評価を踏まえ,保健室経営計画を作成する. 0.213 0.020 0.356 0.053 0.192
第4因子【健康診断の結果を速やかに分析し,児童生徒の健康課題を全教職員に周知する】α = 0.884
18(健康診断)終了後,結果を速やかにまとめる. –0.116 0.004 –0.217 0.900 0.200
19(健康診断)結果を分析し,健康課題について全教職員に周知を図る. 0.150 –0.092 0.007 0.833 –0.042
14(健康診断)教職員の理解と協力を得ながら実施する. –0.016 0.122 0.186 0.588 –0.062
13(健康診断)健康診断実施計画を作成する. –0.067 0.065 0.280 0.504 0.005
16(健康診断)児童生徒の発達段階に応じた事前指導を行う. 0.144 0.099 0.104 0.483 –0.017
15(健康診断)学校医・学校歯科医と連携して実施する. –0.012 0.117 0.239 0.389 0.051
第5因子【個々の児童生徒に対応する時間の確保や保健室の環境づくりを行う】α = 0.824
64(他)一人一人にじっくりと対応する時間を確保する. 0.394 –0.049 –0.120 –0.053 0.513
59(保健室経営)保健室の備品や諸帳簿等の管理を行う. –0.320 0.262 0.289 0.079 0.503
69(他)あらゆる機会や研修を活用して,知識や技術の習得に努める. 0.340 0.091 –0.059 –0.037 0.467
60(保健室経営)心身共に安心して居られる空間づくりを行う. 0.225 0.077 0.110 0.011 0.451
58(保健室経営)保健室利用状況を分析する. –0.085 –0.005 0.413 0.093 0.438
39(保健指導)保健だよりや掲示物を有効に活用する. 0.109 0.150 –0.025 0.172 0.404
22(健康観察)欠席,早退,遅刻等の健康観察結果を集計する. 0.017 0.201 –0.091 0.272 0.369
累積寄与率(%) 40.867 44.263 46.612 49.106 51.454
因子抽出法:最尤法 回転法:プロマックス法 KMO = 0.948 Bartlettの球面性検定<0.01
因子間相関 第1因子 1.000 0.703 0.639 0.610 0.452
第2因子 1.000 0.695 0.652 0.453
第3因子 1.000 0.633 0.418
第4因子 1.000 0.398
第5因子 1.000

5. 因子の命名

第1因子は17項目で構成され,関係機関との連携に関することや児童生徒が抱える問題の背景の明確化など養護教諭としての専門知識を活用する職務内容が含まれた.そこで各項目の意味内容から【専門的知識を活用し,関係者と連携して健康課題を抱える児童生徒を支援する】と命名した(α = 0.930).第2因子は15項目で構成され,感染症への迅速な対応や疾患を持つ児童生徒の健康管理 ,そして感染症発生時における体制づくりについての職務内容が含まれた.そこで各項目の意味内容から【全教職員の共通理解を得ながら,疾病の予防・早期発見・早期対応にあたる】と命名した(α = 0.931).第3因子は8項目で構成され,学校保健管理や安全管理について平常時および緊急時への対策や,計画策定や研修への参画に関する職務内容が含まれた.そこで各項目の意味内容から【学校保健・安全管理体制において,計画や連絡体制の整備を行う】と命名した(α = 0.891).第4因子は8項目で,全て健康診断に関する項目から構成された.健康診断における一連の職務が含まれたが,特に終了後の職務内容についての負荷量が高く【健康診断の結果を速やかに分析し,児童生徒の健康課題を全教職員に周知する】と命名した(α = 0.884).第5因子は7項目で構成され,保健室での児童生徒への対応や環境整備など,養護教諭の日々の業務についての内容が含まれた.そこで各項目の意味内容から【個々の児童生徒に対応する時間の確保や保健室の環境づくりを行う】と命名した(α = 0.824).

6. 経験年数による職務上困難感の平均値の差異

経験年数を独立変数,各因子の職務上困難感を従属変数としてKruskal-Wallis検定を行った結果,第1因子,第2因子,第3因子,第4因子において有意差が見られた.それら全ての因子において,経験年数5年未満は,経験年数30年以上より職務上困難感が有意に高かった.また経験年数5~9年は,第2因子,第3因子,第4因子において,経験年数30年以上より職務上困難感が有意に高かった(表4).

表4 

経験年数による職務上困難感の平均値の比較

5年未満 5~9年 10~19年 20~29年 30年以上
n = 42 n = 67 n = 61 n = 50 n = 55
平均値(SD) 平均値(SD) 平均値(SD) 平均値(SD) 平均値(SD) 有意確率 多重比較
第1因子 56.80(10.52) 55.22(10.56) 52.65(10.95) 52.42(13.92) 48.70(15.12) 0.021 30年以上<5年未満*
第2因子 43.76(10.84) 40.89(9.41) 38.72(9.08) 39.22(10.37) 33.87(10.39) 0.000 30年以上<5年未満**
30年以上<5~9年**
第3因子 26.54(6.69) 23.67(5.88) 22.42(5.28) 21.74(6.01) 19.38(6.14) 0.000 30年以上<5~9年**
30年以上<5年未満**
20~29年<5年未満**
10~19年<5年未満*
第4因子 17.33(4.52) 17.92(4.59) 16.88(4.05) 15.48(4.64) 13.56(4.94) 0.000 30年以上<5年未満**
30年以上<5~9年**
30年以上<10~19年**
第5因子 18.45(5.37) 18.22(4.39) 18.06(4.25) 18.50(5.07) 17.16(5.47) 0.456

** p < 0.01 * p < 0.05

Ⅳ. 考察

1. 養護教諭が抱く職務上困難感の構成因子

養護教諭が抱く職務上困難感を構成する因子として,抽出された5因子それぞれの特徴について考察する.

第1因子【専門的知識を活用し,関係者と連携して健康課題を抱える児童生徒を支援する】の項目内容から,養護教諭は複雑かつ多様化している健康課題を抱える児童生徒への対応を求められる中で,専門職として他職種や家庭と連携することについて強い困難感を抱いていると考える.「現代的健康課題を抱える子供たちへの支援~養護教諭の役割を中心として~」(文部科学省,2017)では,「養護教諭は児童生徒の抱える健康課題に応じた支援を行うのみでなく,児童生徒が生涯にわたって健康な生活を送るために必要な力を育成するよう他の教職員や学校医等の専門スタッフと連携し,家庭や地域における取組みを促すことが求められている」と示され,養護教諭は連携において中心的な役割を担うことが期待されている.しかし佐光・伊豆(2008)は,養護教諭が日頃の養護実践に感じている困難な事柄として,担任や管理職などの教職員,校医や関係機関,また保護者との連携に関する内容が大多数を占めていることを明らかにしている.また亀﨑(2012)は,養護教諭は地域との連携が必要な子どもの複雑な問題に関わる際,学校内外の関係者との関係作りや問題の共有に困難感を抱き踏み込めない躊躇や,地域や家庭の関係者から援助を引き出せない困難に直面していることを報告している.本研究結果は,多様な場面で求められる連携に対する養護教諭の困難を反映していると考える.佐光・伊豆(2008)は,養護教諭が連携を図るためのスキルを身につけるためには,専門的な現職研修プログラムの構築が必要であると述べている.また後藤(2014)も,養護教諭の職務について理解を得られるよう,養護教諭養成を支える学問の観点から,養護教諭の専門性を明らかにしていくことが重要であると指摘している.今後いっそう重要となるコーディネーター役割を果たすためにも,教育的側面からの養護教諭への支援体制の構築・整備の必要性が示唆された.

第2因子【全教職員の共通理解を得ながら,疾病の予防・早期発見・早期対応にあたる】は,感染症対策や保健指導,疾病管理,救急処置といった,保健管理に関する項目で構成されていた.わが国の疾病構造は社会状況の変化に伴い,従来からの疾病に加えて新たな疾病も加わるなどその内容は多岐に渡っており,子どもの疾病についても同様である(采女,2019).堂前・中村(2004)は,養護教諭は慢性疾患患児の健康管理に関し,疾患を持つ児童生徒への理解や関わり方について教諭間で共通認識を持つことに困難感を抱いていることを報告している.学校生活管理指導表に基づく健康管理や学級担任との情報共有等は,児童生徒が安心して学校生活を送ることができるために養護教諭に求められている職務であり,養護教諭は疾病に対する直接的な関わりだけでなく,そのための体制整備について困難感を抱いていると考える.学校における適切な疾患管理にあたっては,養護教諭自身の活動のみでなく他の教職員や保護者へ専門的な知識を提供する機会を設けるなど,理解と協力を得られるように積極的に働きかけていくことの必要性が示唆された.

第3因子【学校保健・安全管理体制において,計画や連絡体制の整備を行う】は学校保健・安全計画,危機管理,保健室経営に関する項目で構成されていた.2008年の中央教育審議会答申(文部科学省,2008)にて保健室は学校保健活動のセンター的役割を持つことが明記され,養護教諭は保健室経営計画を立案し,組織的に保健室経営を行っていく必要性が示された.しかし,2013年度の学校保健会の調査(日本学校保健会,2013)によると,27%の養護教諭が保健室経営計画を作成しておらず,また56%が作成していても他者評価に取り組んでいなかったことが報告されている.養護教諭には,企画力・実行力・調整能力に加えてリーダーシップを発揮できる力がこれまで以上に求められており(文部科学省,2008采女,2019),保健室を拠点として子どもたちの健康課題解決のための具体的な計画を立案し,管理職や学級担任等に働きかけていくことや,関係者との協働のための仕組み作りを行う必要があると考える.そのために,養護教諭は日頃から管理職やその他の教職員,関係機関との連絡体制を整備し,意見共有・交換の場を主体的に設け,活動にタイムリーに反映させていく必要性が示唆された.

第4因子【健康診断の結果を速やかに分析し,児童生徒の健康課題を全教職員に周知する】は全て健康診断に関する項目で構成されていた.特に,結果を速やかにまとめることや,結果を分析し健康課題について全教職員に周知を図るといった項目の因子負荷量が高く,養護教諭は健康診断において,実施後の業務について強い困難感を抱いていることが明らかになった.健康診断は保健管理のみならず健康教育に生かすことが重要であり,全教職員がその意義を理解し,教育活動の一環として計画的に行う必要がある.そのため,養護教諭は健康診断の計画立案の段階から他の教職員が全体の流れを把握できるよう発信し,役割分担のもと業務をすすめることにより,児童生徒の健康課題について共有し組織的に対応するための体制づくりの必要性が示唆された.

第5因子【個々の児童生徒に対応する時間の確保や保健室の環境づくりを行う】は,養護教諭が日常的に行う職務で構成されていた.2016年の保健室利用状況に関する調査報告書(日本学校保健会,2016)によると,保健室を利用する児童・生徒の人数と一人あたりの対応に要する時間は増加しており,児童生徒の抱えている問題の複雑化や保健室登校の増加のため,よりきめ細やかな対応が求められている(全国養護教諭連絡協議会,2012).第5因子は,一人一人にじっくりと対応する時間を確保することについての因子負荷量が最も高く,養護教諭が日々多忙な状況の中で児童生徒への個別的な対応を行っている状況を反映していると考える.養護教諭の配置は,公立学校では小学校851人,中学校801人以上の学校に複数配置の基準がある(文部科学省,2006)が,私立学校ではいまだに教育職としての養護教諭が配置されていない現状,非正規雇用や一人で中高兼務などの現状が多くあるとの指摘もある(参議院,2018).全国養護教諭連絡協議会(2012)は,養護教諭の力量形成のための研修への参加や,特別な支援を要する子どもの増加に伴う合理的配慮の提供のために,養護教諭複数配置基準の引き下げの必要性を示している.先行研究(佐光・伊豆,2008畑中,2015武田ら,2010)で指摘されているように,本研究結果からも,養護教諭の複数配置促進の必要性が示唆された.

2. 対象者の経験年数による職務上困難感の特徴

第5因子以外の全因子において,経験年数5年未満はいずれかの経験年数グループより職務上困難感が有意に高いという結果であった.中下ら(2010)は,新規採用養護教諭・5年経験養護教諭は,「保健室の運営」,「感染症予防」,「保健指導・保健学習」,「救急処置・救急体制」に困難感を抱いていることを報告している.これらの内容は,第1因子から第4因子に含まれる職務であり,先行研究を支持するかたちとなった.

また畑中(2015)は,他の教職員との連携は日頃からの人間関係が重要となり,経験の浅い養護教諭にとってはより困難であると述べており,松元・満田(2019)は,10年未満と30年未満の養護教諭は,周囲との連携のあり方を判断していくといったコーディネーション行動について負担を感じていることを報告している.養護教諭は多くの職務において連携のもとで行うことが求められるため,経験年数が低い養護教諭は困難感を抱きやすく,職務全体のやりにくさに影響していると考えた.

第5因子でのみ,経験年数による職務上困難感の差は見られなかった.第5因子【個々の児童生徒に対応する時間の確保や保健室の環境づくりを行う】は,保健室での児童生徒への対応や環境整備等,養護教諭が日常的に行う職務内容である.本研究で得られた結果は,養護教諭が日々多忙な状況に置かれていることを反映しており,子どもの健康課題が複雑化する中,児童生徒一人一人への対応の充実のために養護教諭を複数配置することやスクールヘルスリーダーを活用する必要性がうかがえた.また,一人配置であっても職務を安全に遂行するために,多重課題が発生した際に養護教諭がとるべき行動の優先順位を検討する研修や,危険予知訓練により,個々の養護教諭の対応能力を向上する機会を確保する必要性があると考えた.

Ⅴ. 研究の限界と課題

本研究の限界は,職務内容や連携の定義について回答者によって異なる認識のもと回答した可能性があることや,コロナ禍による学校現場への影響が大きい調査時期であったことである.また,対象者の層別化により一集団のサンプル数が少なくなり,経験年数や勤務する学校種による因子構造の差異の分析の信頼性や妥当性が低く,因子構造の差異を確認することが困難であった.本研究は四国四県の国公立小・中学校に勤務する養護教諭を対象としたが,今後私立学校を含めた全国調査を実施し,一般化できるよう検討することが課題である.

Ⅵ. 結論

本研究では,養護教諭が抱く職務上困難感の構成因子を明らかにすることを目的に,四国4県の国立・公立の小学校・中学校(3学級未満の学校を除く)に勤務する養護教諭960人を対象に,質問用紙調査を行った.無効回答を除外し,更に職務内容において「経験なし」の選択がなく各項目に欠損値がみられなかった275人を本研究の分析対象として分析した結果,以下の結論を得た.

1.養護教諭が抱く職務上困難感は,【専門的知識を活用し,関係者と連携して健康課題を抱える児童生徒を支援する】【全教職員の共通理解を得ながら,疾病の予防・早期発見・早期対応にあたる】【学校保健・安全管理体制において,計画や連絡体制の整備を行う】【健康診断の結果を速やかに分析し,児童生徒の健康課題を全教職員に周知する】【一人一人の児童生徒に対応する時間の確保や保健室の環境づくりを行う】の5つの因子で構成されていることが明らかになった.各因子のCronbach’s α係数から,一定の妥当性が確認された.

2.第1因子から第4因子において,経験年数5年未満はいずれかの経験年数グループより職務上困難感が有意に高かった.学校内外における連携においてコーディネーション役割を求められている一方で,経験年数の低い養護教諭は強い困難感を抱いていることが明らかになった.

3.第5因子は養護教諭が日常的に行う職務内容であり,養護教諭は経験年数にかかわらず日々多忙な状況に置かれていることがうかがえた.複数配置の促進や,校内での協力体制整備とともに,個々の養護教諭への教育的側面からの支援の必要性が示唆された.

付記:本研究は高知大学大学院総合人間自然科学研究科に提出した修士論文の一部を加筆修正したものである.なお,本論文の一部は第41 回日本看護科学学会学術集会にて発表した.

謝辞:本研究にご協力いただいた養護教諭の皆様,ご指導いただきました先生方に,心から感謝申し上げます.

利益相反:本研究において,申告すべき利益相反は存在しない.

著者資格:Sは研究の着想,計画,統計解析の実施;Sは研究の統計解析の実施に貢献;Yは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
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