2023 年 43 巻 p. 930-942
目的:地域包括ケア病棟看護師における高齢者の生活を支える看護実践自己評価尺度を開発し,妥当性・信頼性を検証する.
方法:概念分析による高齢者の生活を支える看護の属性と先行研究および質的研究を参考に抽出した7つの看護の特徴から尺度原案を作成した.内容的・表面的妥当性を検討後,全国の地域包括ケア病棟看護師を対象に質問紙調査を実施,尺度の信頼性・妥当性を検証した.
結果:分析対象は457名(有効回答率97.6%),探索的因子分析により6因子23項目からなる尺度を作成した.モデルの適合度はRMSEA = .053,CFI = .98であった.併存的妥当性,収束的妥当性と弁別的妥当性も十分な値を示した.Cronbach’s α係数は,下位因子で.73~.89,尺度全体では.93であった.
結論:地域包括ケア病棟看護師における高齢者の生活を支える看護実践自己評価尺度を開発し,妥当性・信頼性が確認された.
Objective: To develop a self-evaluation scale for nursing practice to support the lives of elderly people and evaluate its validity and reliability.
Methods: We developed a draft of a scale based on the attributes of nursing practice to support the lives of elderly people extracted from conceptual analysis, and seven nursing characteristics that were designed by referring to previous studies and qualitative research. After assessing validity in terms of content and superficially, we conducted a questionnaire survey with ward nurses engaged in hospitals for community-based care and evaluated the credibility and validity of this scale.
Results: The analysis involved 457 subjects (valid response rate: 97.6%). Based on an explorative factor analysis, a scale consisting of 6 factors and 23 items was designed. The adaptability of the model was RMSEA = .053 and CRI = .98. The concurrent validity, convergent validity, and distinctive validity were all satisfactory. Regarding Cronbach’s α coefficient, the hypostatic factor ranged from 0.73–0.89, and the overall scale was .93.
Conclusion: We developed a self-evaluation scale for nursing practice to support the lives of elderly people in hospitals for community-based care for ward nurses and confirmed its validity and reliability.
地域包括ケア病棟は,2022年診療報酬改定において在宅で療養を行っている患者等の受入れ機能を促進する方向での見直しされ(厚生労働省,2022b),在宅で療養を行っている患者の状態が悪化した場合に受け入れる後方支援体制の役割強化を求められた.したがって,地域包括ケア病棟看護師の役割は,患者の退院をゴールとしたこれまでの支援だけではなく,地域で療養生活する患者を支え続けることにまで拡大したといえる.しかし,地域包括ケア病棟看護師は,在宅での生活をイメージする力が低く(田淵ら,2018;藤澤ら,2023),退院支援に関しては退院調整部門へ依存(藤澤ら,2023)し,退院後継続するケアについて家に帰った後の発想につながらない(加藤,2022)現状がある.一方,患者は退院後の生活を入院中に相談できる人がいないと捉えており,退院後はやりたいことが自分で出来ず辛い状況にあることが報告されている(加藤,2020).荒井ら(2023)は,地域包括ケア病棟看護師における高齢者の生活を支える看護実践は,高齢者が望む退院後の生活を念頭に,高齢者の身体を整え,生活環境を調整しその人なりの生活ができるように変える看護実践であったことを明らかにしている.高齢者看護は,日々の実践の積み重ねであり,地域でその人らしく生活する高齢者を支え続けるために,地域包括ケア病棟看護師(以下看護師とする)は,高齢者の生活を支える看護実践を高めていく必要がある.
地域包括ケア病棟の高齢者は急性期治療を経過しているが,複数の疾患を有し,ADLと栄養状態,認知機能が低下し包括的な生活支援が必要である(地域包括ケア病棟協会,2023).「生活」とは,人間の生存そのものであり,その人の生きてきたプロセスを通じて,その人固有の意味を帯びることであり,看護の独自性は,どのような健康状態にある人においても,生活を幅広い視点から総合的に捉え,安全安楽にその人らしく尊厳をもって生きられるよう日常生活を中心とした援助を行う点にある(日本看護科学学会,2019).看護師は,高齢者の生活を支える看護実践を行うために2つの側面から生活を捉える必要がある.1つは,入院中の日々の生活である.看護師が高齢者の入院中の日々の生活に着目した研究では,誤嚥性肺炎予防のための取り組みより,経口摂取に関するかかわりは,高齢者患者から「食べたい」という意欲を引き出し身体機能の改善へつながる(中島ら,2021),患者の能力に応じた排泄ケアへの取り組みにより排泄動作能力が向上する(松岡ら,2022)など,看護師の日々の実践が心身回復に寄与する可能性が示唆されている.これらの研究は,日々の看護を実施している実態や一部の日常生活ケアがもたらす効果を明らかにしている.しかし,日常生活ケアの個々でなく,それぞれがつながりあう生活機能として捉え,その実践を表現したものではない.生活を包括的に捉えるとは,看護職者と対象者の相互作用の中でその人の身体や健康を通して生活そのものの事実やその人にとっての意味や経験等から包括的に捉えることである(河口,2003;野並,2006).その人なりの生活実現へ向けた看護は,生活機能の一部の実践ではなく,生活を構成する要素を包括した看護実践が必要である.2つめの生活の視点は,退院後の生活である.地域包括ケア病棟の看護師を対象にした研究を概観すると,病棟機能である退院支援に関する研究(榊ら,2021;藤澤ら,2020;田淵ら,2018)や暮らしの場へのスムーズな移行に関する研究(渡邊ら,2018;小木曽ら,2019)は多く行われ,退院後の生活を見据えた看護の展開が明らかにされている.しかし,退院支援や在宅移行への支援が強調されると,在宅へ帰ることが支援の目的となりその人らしく生きていくことへの支援を見落とした実践につながる可能性がある.高齢者の生活を支える看護実践は,看護師が日常生活援助や何気ない関りを通して,高齢者のできる力を多職種と連携し日々の生活で困らないよう適応させることである(荒井ら,2023).退院支援といった枠組みではなく,看護師が日々行っている高齢者の生活を支える看護実践において退院後の生活を捉えることが必要である.
荒井ら(2021)は,「高齢者の生活を支える看護」の概念を「看護職者は,高齢者の尊厳を持って生きられるよう寄り添い,日常生活が行えるよう整え,その人に合った疾病予防・病気の回復を支援しつつ,安全で快適な環境を提供し,支援体制づくりを調整することである」と定義したが,具体的な実践として説明はされていない.看護師を対象とした高齢者への支援に関する看護実践指標に着目すると,認知症高齢者への意思決定支援に対する態度尺度(濵﨑ら,2020),地域包括ケアシステムにおける看護職の在宅シフト支援コンピテンシー尺度(小野,2020),地域包括ケアにおける認知症高齢患者のシームレスケア実践力尺度(小木曽ら,2019)が作成されている.これらの尺度は,退院支援を受ける患者,認知症高齢者を対象とし,在宅移行支援に焦点をあてたものであり,日々の高齢者に対する包括的な看護実践の指標は少ない.高齢者の生活を支える看護実践を高めていくためには,日々の実践内容を看護師自身が振り返ることが必要である.それゆえ,高齢者の生活を支える看護実践とはなにか説明し実践できる指標が必要である.より多くの看護師が実践指標として活用することで,高齢者看護実践の質を向上できると考える.
そこで,本研究では,地域包括ケア病棟看護師における高齢者の生活を支える看護実践自己評価尺度を開発し,信頼性と妥当性を検証することを目的とした.
日本看護科学学会第13・14期看護学学術用語検討委員会(2019)を参考に「生活」とは,人間の存在そのものであり,その人の生きてきたプロセスを通じて,その人固有の意味を帯び①生命維持「呼吸・循環・栄養など」②日常生活「排泄・食事・活動等」③その人の望む暮らし「価値観・生きがい等」の3側面より捉えられるものと定義する.
「地域包括ケア病棟看護師における高齢者の生活を支える看護実践」とは,荒井ら(2023)を参考に,60日以内にその人にとっての住まいでの生活を目指し看護師が,これからの生活について高齢者が自己決定する過程を支えながら,加齢による衰弱を予防し,日々の困りごとに焦点をあてその人なりの生活実現にむけて働きかけることと定義する.
「高齢者の生活を支える看護」の概念分析(荒井ら,2021),地域包括ケア病棟看護師における高齢者の生活を支える看護実践のプロセス(荒井ら,2023)を参考に7つの看護実践の特徴〈高齢患者の望む生活の本質を導き出す支援〉,〈現実と望む生活のずれを最小限にする〉,〈自分らしい生活を決定するプロセスを支える〉,〈身体・認知機能低下をおこさない支援〉,〈高齢患者の能力を最大限に伸ばす支援〉,〈日々の生活でできるようになるための支援〉,〈退院後その人らしい生活が送れる環境調整〉を見出し下位概念に位置付けた.
尺度項目は,「地域包括ケア病棟看護師」,「高齢者看護」に関する文献検討及び「看護実践」,「高齢者」,「質指標」,「尺度開発」を用いた文献検討とハンドサーチより抽出した8件の先行研究(小楠,2004;Hirschman et al., 2015;山岸ら,2015;Sakai et al., 2016;丸山,2018;加藤,2020;石橋ら,2021;渡邊ら,2021)と,「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(厚生労働省,2018a)「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」(厚生労働省,2018b)を参考として尺度案92項目を選出した.
2) 尺度案の内容的妥当性と表面的妥当性の検討内容的妥当性の検討は,老年看護学研究者3名,終末期看護研究者1名,尺度開発に精通した保健学分野研究者1名,地域包括ケア病棟において5年以上直接高齢者看護に従事し,看護管理者の推薦する知識・技術が高度な看護師5名の合計10名を対象に,コンセンサスメソッド(友利ら,2019)の手法を参考に行った(荒井ら,2024掲載予定).内容妥当性指数Content Validity Index(以下,CVI)を算出し,CVI得点が.80以上なら適切な内容と判断し,採用されなかった項目に関してはコメントを参考に修正,削除を繰り返し行った.結果,11項目はCVI = .9,35項目はCVI = 1.0となり,7下位概念46項目からなる尺度原案が完成した.
2. 尺度の妥当性・信頼性の検証 1) 調査対象者対象施設は,2022年12月現在,一般社団法人地域包括ケア病棟協会正会員の地域包括ケア病棟入院料1.2の届出が受理されている病院の中から無作為に抽出した200施設の地域包括ケア病棟看護師とした.看護管理者宛に,研究の趣旨や調査方法,倫理的配慮等を示した研究依頼文と承諾書,調査用紙を郵送し,調査協力の許否,許諾施設には対象者数について回答を依頼した.63施設より調査協力の許諾が得られ,978名の看護師を対象とした.対象者には看護管理者を通して研究協力説明書,調査用紙,返信用封筒を配布した.なお,看護管理者,夜勤専従看護師は,日々の高齢者看護実践が少ないと判断し除外した.
2) 調査方法無記名自記式質問紙調査及びオンライン調査
調査期間:2023年2月~4月
3) 調査内容研究対象者の基本属性は,年齢,性別,看護師勤務年数,地域包括ケア病棟勤務年数,所有資格,病床数,病院病棟総数について回答を求めた.
作成した尺度原案46項目に対し,あるべき理想の姿ではなく,あなたの日頃行っている看護実践について該当する番号に〇をつけてくださいと指示し,回答は,「当てはまらない」~「非常に当てはまる」の4件法で求め,1点~4点で得点化した.得点が高いほど,自己評価が高いこととした.なお,調査票の冒頭に「『在宅支援者』とは,在宅において主介護者以外の高齢者を支援する人であり,介護保険サービス等公的サービス提供者や近隣住民・地域のボランティア等を含む者のことを指す」と明記した.
併存的妥当性を確認するために「在宅の視点のある病棟看護の実践に対する自己評価尺度」(山岸ら,2015)を用いた.この尺度は,退院支援を受ける患者に提供することが推奨されている病棟看護(退院支援を受ける患者にとってよい病棟看護)の実践に対する自己評価を測定し,「まったくしていない(1点)」~「常にしている(6点)」の6件法であり,尺度の信頼性と妥当性は検証されている.今回開発する尺度は,地域包括ケア病棟看護師が,退院後の生活を見据えたうえで高齢患者へ提供する生活を支える看護実践の内容である.いずれも生活に着目している.対象にとっての日常の“場”での生活の自立を目指した看護を測定するものである.既存の尺度は,高齢者に焦点を当てたものではないため,加齢による身体機能,認知機能,心理状態を踏まえた生活変化に伴う支援に対する視点が十分に反映できているとはいえない.また,入退院支援専任の役割りを包含している内容もみられる.しかし,両者の間には理論的に関連がみられると予測され,正の相関があると仮定した.
4) 分析方法回収された調査票のうち,同意確認欄にチェックがないもの,本尺度および併存的妥当性を検討するための尺度のうち10%以上の欠損のあるデータを除き,有効回答とした.欠損値の処理は,欠損パターンを踏まえて全データを活用しながら尤度が最大化するパラメータを探しだす完全情報最尤測定法(友利ら,2019)を行った.
(1) 項目分析項目特性の検討では,項目反応理論(Item Response Theory以下,IRT)を用いて項目の識別力と困難度を算出した.識別力(α)では.2~2.0,困難度(β)は絶対値4.0以内を基準とした(友利ら,2019).また,各項目の記述統計により天井効果(mean + standard deviation以下,SD > 4)・床効果(mean – SD < 1)を確認した.さらに相関分析を行い,その値が.80以上の場合は,意味内容を研究者らで検討し冗長性のある項目と判断された場合はどちらか一方を削除するものとした(中山,2018).
(2) 妥当性の検討 ① 構造的妥当性の検討項目分析により採択された項目を用いて,探索的因子分析(OBLIMIN回転)を実施した.なお,因子数は初期の固有値1以上,スクリープロットの変化点を目安に,解釈可能性から検討した(中山,2018).因子負荷量は一つの因子に.4以上かつ他の因子に.3以下であることを採用の基準とした.次に探索的因子分析の結果の検証をねらいとして,探索的因子分析により得られた因子を一次因子,「地域包括ケア病棟看護師における高齢者の生活を支える看護実践」を二次因子として配置した二次因子構造モデルを仮定し,このモデルの適合性を確認的因子分析により検討した.推定法はいずれもロバスト重みづけ最小二乗法(以下;WLSMV)で行い,確認的因子分析におけるモデルの適合度指標は,Root Mean Square Error of Approximation(以下;RMSEA),Comparative Fit Index(以下;CFI)を算出した.適合度基準は,CFI > .90,RMSEA < .05(良好),<.08(良),<.1(可)とした(友利ら,2019).
② 仮説検証(収束的妥当性,弁別的妥当性)仮説検証は,理論的に推定した通りに測定できている程度を表し,収束的妥当性と弁別的妥当性で行われることが多い(友利ら,2019).収束的妥当性は,因子を測定する項目の適切な収集の検証であり,弁別的妥当性は各因子が他の因子との分別の検証である.これらの確認により,各因子は適切に概念を測定しながらも,それぞれ異なる方面より,概念を測定していることが証明される(小池ら,2021).収束的妥当性は,各項目のパス係数から平均分散抽出(Average Variance Extracted: AVE)を算出し,.50 ≤ AVEを基準とした(友利ら,2019).弁別的妥当性は,AVEと因子間相関の比較で検討した.基準は因子間相関係数の平方値<AVEとした(友利ら,2019).
③ 併存的妥当性の検討併存的妥当性は,開発した尺度と在宅の視点のある病棟看護の実践に対する自己評価尺度(山岸ら,2015)の合計得点との相関係数を算出した.
④ 構成概念妥当性の検討構成概念妥当性は既知集団妥当性で検討した.地域包括ケア病棟の勤務年数により下位25%を短い群,上位25%を長い群とし,尺度得点の比較をMann-Whitney’ Uにより行った.
(3) 信頼性の検討内的一貫性の確認のため項目全体と各因子のCronbach’s α係数を算出し,.8以上を基準とした.
以上の統計解析には,Mplus8.0,SPSS Statistics28,Exametrika5.5を使用した.また,本尺度の作成過程を図にて示した(付録1).
5) 倫理的配慮調査の実施は,対象施設の看護管理者および対象者に,文書により研究の主旨,権利保護等について説明を行った.看護管理者を通して,対象者へ研究の目的および方法,研究協力の自由,匿名性の確保,研究結果の公表等について説明した書面を配布した.調査への同意の確認は,調査票に同意確認欄を設けチェックをもって同意が得られたとみなした.併存的妥当性の測定用具の使用にあたり,著作権法などの関係法規を遵守し,許可を得て使用した.本研究は,岡山県立大学倫理委員会の承認を得て実施した.(受付番号22-72)
地域包括ケア病棟看護師468名(回収率47.9%)より回答を得て,457名(有効回答率97.6%)を分析対象とした.
2. 研究対象者の概要(表1)研究対象者の年齢は平均40.0 ± 11.1歳,看護師勤務平均年数15.6 ± 10.2年,地域包括ケア病棟勤務平均年数3.5 ± 2.3年であった.
研究対象者の概要 n = 457
人 | (%) | 平均値±SD | ||
---|---|---|---|---|
性別 | 男性 | 27 | (5.9) | |
女性 | 422 | (92.3) | ||
回答しない | 3 | (.7) | ||
無回答 | 5 | (1.1) | ||
年齢 | 20歳代 | 102 | (22.4) | 40.0 ± 11.1 |
30歳代 | 114 | (24.9) | ||
40歳代 | 133 | (29.1) | ||
50歳代 | 79 | (17.3) | ||
60歳代 | 18 | (3.9) | ||
無回答 | 11 | (2.4) | ||
看護師経験年数 | 1年未満 | 15 | (3.3) | 15.6 ± 10.2 |
1~3年未満 | 34 | (7.4) | ||
3~5年未満 | 45 | (9.8) | ||
5~10年未満 | 59 | (12.9) | ||
10~20年未満 | 139 | (30.4) | ||
20年以上 | 163 | (35.7) | ||
無回答 | 2 | (.04) | ||
地域包括ケア病棟経験年数 | 1年未満 | 32 | (7) | 3.5 ± 2.3 |
1~3年未満 | 147 | (32.2) | ||
3~5年未満 | 125 | (27.4) | ||
5~8年未満 | 128 | (30.6) | ||
8年以上 | 19 | (4.2) | ||
無回答 | 6 | (1.3) | ||
所有資格 | 准看護師のみ | 17 | (3.7) | |
看護師のみ | 340 | (74.3) | ||
看護師と准看護師 | 100 | (21.9) | ||
保健師 | 24 | (5.3) | ||
介護支援専門員 | 17 | (3.7) | ||
認定看護師 | 5 | (1.1) | ||
専門看護師 | 2 | (.4) | ||
その他 | 6 | (1.3) | ||
無回答 | 1 | (0.2) |
※SD:Standard Deviation
天井効果・床効果を確認した結果,除外対象となる項目はなかった.
尺度原案の項目内容と記述統計量・IRTの結果
記述統計 | IRT | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
質問項目 | mean | SD | α | β1 | β2 | β3 |
x1.私は,高齢患者が「何に生きがいを感じているのか」について,本人から話を聴く時間を設けている | 2.28 | .64 | .88 | –1.33 | .35 | 2.29 |
x2.私は,高齢患者が歩んできた人生について,本人から話を聴く時間を設けている | 2.58 | .63 | .83 | –1.78 | –.19 | 1.78 |
x3.私は,高齢患者が大切にしている人との関係について,本人から話を聴く時間を設けている | 2.51 | .66 | .90 | –1.60 | –.04 | 1.66 |
x4.私は,高齢患者がどのような生活を理想としているのか,その時々の思いを聴く時間を設けている | 2.61 | .66 | .93 | –1.64 | –.29 | 1.68 |
x5.私は,高齢患者が,自分でできると思うことと実際の能力との間にズレがないか確認している | 2.92 | .60 | .84 | –2.48 | –.81 | 1.11 |
x6.私は,高齢患者の入院前のADLと今後回復が期待できるレベルのADLとのギャップが,生活に及ぼす影響をアセスメントしている | 3.08 | .62 | 1.15 | –2.62 | –1.06 | .75 |
x7.私は,高齢患者の今後の生活をイメージして,本人と現実的な日常生活について話し合っている | 2.78 | .69 | 1.19 | –1.94 | –.45 | 1.14 |
x8.私は,医師からの病状・治療等の説明の際に,高齢患者・家族等が理解・納得できるように,わかりやすい言葉で補完している | 2.99 | .61 | .95 | –2.22 | –.98 | .98 |
x9.私は,医師からの病状・治療等の説明の際に,高齢患者が自身の思いを表現できるように支援している | 2.76 | .64 | 1.00 | –2.16 | –.45 | 1.30 |
x10.私は,医学的知見に基づく現在の状況や今後の見通しについて,高齢患者・家族等の理解度に合わせて,その都度説明している | 2.83 | .61 | 1.07 | –2.02 | –.71 | 1.32 |
x11.私は,高齢患者の今までの生活を把握するために,本人又は在宅支援者から入院前のADLについて,確認している | 3.17 | .62 | .98 | –2.62 | –1.22 | .58 |
x12.私は,高齢患者にどこまでできるようになりたいかを確認し,一緒に実現可能な目標をたてている | 2.79 | .68 | 1.26 | –2.02 | –.47 | 1.14 |
x13.私は,院内の多職種,在宅支援者,家族等と高齢患者の退院後の生活について話合う際に,本人の希望を代弁している | 2.83 | .67 | 1.21 | –2.02 | –.58 | 1.14 |
x14.私は,家族が,高齢患者とこれからの人生をどのように過ごしていきたいと考えているのかを,確認している | 2.86 | .66 | 1.21 | –2.29 | –.60 | 1.04 |
x15.私は,高齢患者と家族が互いの状況を理解しあえるような話し合いの場を設けている | 2.48 | .72 | 1.10 | –1.46 | .02 | 1.53 |
x16.私は,高齢患者に,退院後の生活の場での選択肢(在宅サービスや施設等)を説明している,もしくは説明を専門職に依頼している | 2.99 | .71 | 1.07 | –2.06 | –.78 | .75 |
x17.私は,高齢患者に,退院後の生活の場での選択肢(在宅サービスや施設等)について,どのように理解しているかを確認している | 2.59 | .69 | 1.21 | –1.73 | –.15 | 1.43 |
x18.私は,高齢患者の日常生活ケアを通してフレイルの兆候(体重減少・疲労感・握力/歩行速度の低下等)を観察している | 2.78 | .68 | 0.82 | –1.98 | –.47 | 1.17 |
x19.私は,身体・認知機能の低下を予防するために高齢患者の栄養状態をアセスメントしている | 2.75 | .65 | 0.89 | –2.01 | –.46 | 1.30 |
x20.私は,低栄養に陥りそうな高齢患者が食事を摂取できるように栄養士や言語聴覚士らと相談している | 2.96 | .68 | 1.06 | –2.16 | –.77 | .86 |
x21.私は,高齢患者の環境変化や行動範囲の拡大に伴い生じる転倒転落等のリスクを予測し,本人に合わせた危険防止策を行っている | 3.34 | .53 | .90 | –1.90 | .34 | |
x22.私は,高齢患者の皮膚の脆弱性に気を付けながら,日常生活を援助している | 3.33 | .55 | .75 | –1.78 | .33 | |
x23.私は,長期臥床による褥瘡発生リスクを考えて,日常生活を援助している | 3.37 | .55 | .84 | –2.85 | –1.87 | .25 |
x24.私は,高齢患者の趣味や娯楽活動への意欲を把握し,楽しみを得られるような機会を作るために余暇活動を促している | 2.51 | .71 | .96 | –1.69 | .06 | 1.38 |
x25.私は,高齢患者のADL(起居動作・移動・食事・排泄・清潔・更衣等)ひとつひとつの動作を評価し,今後期待できる回復レベルについて院内の多職種と話し合っている | 3.00 | .61 | 1.17 | –2.85 | –.93 | .90 |
x26.私は,高齢患者の能力をその都度評価し,本人に合わせて援助を工夫している | 2.99 | .58 | 1.10 | –2.85 | –.96 | 1.01 |
x27.私は,高齢患者自身が行うことのできる動作に対しては手を出しすぎず,寄り添い見守っている | 3.06 | .59 | .84 | –2.85 | –1.08 | .84 |
x28.私は,高齢患者が退院後に取り戻せる能力を信じて日常生活を援助している | 2.82 | .62 | .88 | –2.38 | –.57 | 1.24 |
x29.私は,リハビリスタッフから高齢患者のADL訓練の状況を確認し,連動するように日常生活を援助している | 3.09 | .58 | 1.00 | –1.16 | .78 | |
x30.私は,高齢患者のできていることを伝え励ましている | 3.17 | .54 | .89 | –1.46 | .70 | |
x31.私は,高齢患者の生活能力に合わせて,院内の多職種それぞれの専門性を活かした 介入を調整している | 2.94 | .67 | 1.18 | –2.11 | –.77 | .92 |
x32.私は,高齢患者の夜間や外出等も含め1日の在宅生活をイメージして困るかもしれない事象を収集している | 2.63 | .70 | 1.36 | –1.69 | –.18 | 1.27 |
x33.私は,高齢患者の夜間や外出等も含め1日の在宅生活をイメージしてADLをアセスメントしている | 2.71 | .70 | 1.41 | –1.90 | –.32 | 1.22 |
x34.私は,高齢患者の夜間や外出等も含め1日の在宅生活をイメージして困るかもしれない事象の解決方法を,院内の多職種と検討している | 2.71 | .71 | 1.46 | –1.76 | –.36 | 1.22 |
x35.私は,退院前訪問や在宅図面・写真等を提供してもらうことで,高齢患者が実際に帰る場所の構造を確認し,入院中から退院後の住環境に連動した援助を行っている(在宅でおこなうベッドの乗り降りの方向に,病室のベッド位置を合わせる等) | 2.44 | .83 | 1.15 | –1.13 | .06 | 1.32 |
x36.私は,高齢患者が入院中に獲得したADLを在宅生活でも活用できるように援助方法を工夫している | 2.78 | .66 | 1.29 | –1.13 | .06 | 1.32 |
x37.私は,入院中から退院後に高齢患者が使用する物(お薬カレンダー・体位変換枕・福祉用具等)を用いて,日常生活の援助を行っている | 2.88 | .73 | 1.18 | –1.76 | –.66 | .94 |
x38.私は,入院中行っている処置や看護ケアが退院後も可能なように見直し,高齢患者に合わせた指導方法を工夫している | 2.89 | .64 | 1.34 | –2.38 | –.68 | 1.06 |
x39.私は,高齢患者が退院後も実施できるよう医師・薬剤師と相談し服薬方法を検討している | 2.85 | .71 | 1.25 | –1.81 | –.61 | 1.01 |
x40.私は,身体・認知機能低下,症状悪化,合併症予防について高齢患者・家族等,在宅支援者らに説明している | 2.77 | .66 | 1.26 | –1.90 | –.52 | 1.29 |
x41.私は,今後予測される事態とそれが生じた時の対処について,高齢患者・家族等在宅支援者らに説明している | 2.71 | .67 | 1.30 | –1.87 | –.40 | 1.34 |
x42.私は,高齢患者のこれまでの楽しみや親しい人とのつながりを,退院後も維持できるようケアマネジャーに情報提供している | 2.47 | .78 | 1.18 | –1.31 | .07 | 1.35 |
x43.私は,高齢患者や家族等が負担なく安心・安全な生活を送ることができることを考え,在宅サービスを調整している | 2.69 | .79 | 1.39 | –1.46 | –.34 | 1.13 |
x44.私は,高齢患者から在宅サービス利用に関する不安を聴き,サービス提供者に代弁することで不安を解消するように調整している | 2.64 | .76 | 1.39 | –1.54 | –.22 | 1.23 |
x45.私は,退院後の生活での課題を家族または在宅支援者に伝えている | 2.92 | .66 | 1.35 | –1.90 | –.79 | .99 |
x46.私は,在宅支援者に,高齢患者への病状説明内容やそれに対する反応・理解の程度を伝えている | 2.78 | .67 | 1.33 | –1.87 | –.55 | 1.25 |
〈高齢者の望む生活の本質を導き出す支援〉x1~x4,〈現実と望む生活のずれを最小にする〉x5~x10,〈自分らしい生活を決定するプロセスを支える〉x11~x17,〈身体・認知機能低下をおこさない支援〉x18~x24,〈高齢患者の能力を最大限に伸ばす支援〉x25~x31,〈日々の生活の中でできるようになるための支援〉x32~x39,〈退院後その人らしい生活が送れる環境調整〉x40~x46
次にIRTにより,識別力(α)の平均値は1.10,範囲は.75~1.46であった.困難度(β)の範囲は,β1は–2.85~–1.13,β2は–1.90~.35,β3は.25~2.29であった.ただし4項目(x21, x22, x29, x30)はβ1が算出されず,困難度が低すぎると解釈されるため削除した.
Shapiro-Wilkの正規性検定により,正規性が確認できなかった.そのため,スピアマンの順位相関係数による相関分析を実施したところ,.80以上であった項目は3組(x32とx33,x32とx34,x33とx34)であった.項目の意味合いを検討しx33の1項目を削除した.
4. 構造的妥当性の検証項目分析により5項目を除外し,41項目を用いて探索的因子分析を行った.因子数は,固有値,スクリープロットなどから解釈可能性を検討し,6因子とした.因子負荷量を確認しながら探索的因子分析を繰り返し,最終的に表3に示す因子構造が得られた.なお,x35の因子負荷量は.36と.40以下であるが,「私は,退院前訪問や在宅図面・写真等を提供してもらうことで,高齢患者が実際に帰る場所の構造を確認し,入院中から退院後の住環境に連動した援助を行っている」との内容は,暮らしの場へのスムーズな移行を目指す地域包括ケア病棟の看護実践として重要な項目であるため,尺度項目として採用した.探索的因子分析により得られた23項目を用いて,6因子二次因子構造モデルを仮定し確認的因子分析を行ったところ,データのモデルへの適合度は,χ2 = 509.34,df = 224,RMSEA = .053,CFI = .98であった(図1).
41項目での探索的因子分析の結果 n = 457
質問項目 | 因子1 | 因子2 | 因子3 | 因子4 | 因子5 | 因子6 |
---|---|---|---|---|---|---|
第1因子【望む生活の本質を導き出す支援】α = .840 | ||||||
x1.私は,高齢患者が「何に生きがいを感じているのか」について,本人から話を聴く時間を設けている | .782 | .010 | .004 | –.054 | .017 | .139 |
x2.私は,高齢患者が歩んできた人生について,本人から話を聴く時間を設けている | .843 | –.031 | .002 | .071 | .012 | –.062 |
x3.私は,高齢患者が大切にしている人との関係について,本人から話を聴く時間を設けている | .915 | .011 | .009 | .045 | .008 | –.066 |
x4.私は,高齢患者がどのような生活を理想としているのか,その時々の思いを聴く時間を設けている | .692 | .095 | –.024 | –.079 | .011 | .151 |
第2因子【その人なりの生活構築にむけた支援】α = .800 | ||||||
x8.私は,医師からの病状・治療等の説明の際に,高齢患者・家族等が理解・納得できるように,わかりやすい言葉で補完している | .038 | .796 | .033 | .058 | –.040 | –.060 |
x9.私は,医師からの病状・治療等の説明の際に,高齢患者が自身の思いを表現できるように支援している | .036 | .813 | .028 | –.055 | .060 | –.008 |
x10.私は,医学的知見に基づく現在の状況や今後の見通しについて,高齢患者・家族等の理解度に合わせて,その都度説明している | –.096 | .649 | .007 | .108 | –.007 | .181 |
x13.私は,院内の多職種,在宅支援者,家族等と高齢患者の退院後の生活について話合う際に,本人の希望を代弁している | .174 | .478 | .146 | .066 | .054 | .059 |
x15.私は,高齢患者と家族が互いの状況を理解しあえるような話し合いの場を設けている | .090 | .414 | –.022 | .159 | –.006 | .153 |
第3因子【身体・認知機能低下をおこさない支援】α = .733 | ||||||
x18.私は,高齢患者の日常生活ケアを通してフレイルの兆候(体重減少・疲労感・握力/歩行速度の低下等)を観察している | .016 | .071 | .643 | –.066 | .095 | .049 |
x19.私は,身体・認知機能の低下を予防するために高齢患者の栄養状態をアセスメントしている | .010 | –.006 | .897 | .016 | .015 | –.012 |
x20.私は,低栄養に陥りそうな高齢患者が食事を摂取できるように栄養士や言語聴覚士らと相談している | –.062 | .165 | .522 | .18 | .091 | –.006 |
第4因子【退院後その人らしい生活が送れる環境調整】α = .894 | ||||||
x42.私は,高齢患者のこれまでの楽しみや親しい人とのつながりを,退院後も維持できるようケアマネジャーに情報提供している | .008 | .044 | –.120 | .770 | .189 | –.059 |
x43.私は,高齢患者や家族等が負担なく安心・安全な生活を送ることができることを考え,在宅サービスを調整している | –.020 | .180 | –.026 | .702 | .011 | .083 |
x44.私は,高齢患者から在宅サービス利用に関する不安を聴き,サービス提供者に代弁することで不安を解消するように調整している | .025 | .091 | –.012 | .800 | .045 | .048 |
x45.私は,退院後の生活での課題を家族または在宅支援者に伝えている | .014 | –.062 | .144 | .703 | –.008 | .174 |
x46.私は,在宅支援者に,高齢患者への病状説明内容やそれに対する反応・理解の程度を伝えている | .121 | –.034 | .172 | .782 | –.064 | .049 |
第5因子【潜在能力発揮を目指した支援】α = .731 | ||||||
x26.私は,高齢患者の能力をその都度評価し,本人に合わせて援助を工夫している | –.011 | .072 | .135 | –.038 | .628 | .210 |
x27.私は,高齢患者自身が行うことのできる動作に対しては手を出しすぎず,寄り添い見守っている | –.007 | –.056 | .047 | .017 | .804 | –.019 |
x28.私は,高齢患者が退院後に取り戻せる能力を信じて日常生活を援助している | .116 | .058 | –.031 | .105 | .651 | –.019 |
第6因子【その人なりの生活を継続するための支援】α = .797 | ||||||
x32.私は,高齢患者の夜間や外出等も含め1日の在宅生活をイメージして困るかもしれない事象を収集している | .091 | –.028 | .057 | .162 | .038 | .675 |
x34.私は,高齢患者の夜間や外出等も含め1日の在宅生活をイメージして困るかもしれない事象の解決方法を,院内の多職種と検討している | .031 | .063 | .009 | .030 | .060 | .872 |
x35.私は,退院前訪問や在宅図面・写真等を提供してもらうことで,高齢患者が実際に帰る場所の構造を確認し,入院中から退院後の住環境に連動した援助を行っている(在宅でおこなうベッドの乗り降りの方向に,病室のベッド位置を合わせる等) | –.087 | .146 | .013 | .271 | .063 | .361 |
因子間相関 | ||||||
第1因子 | 1 | |||||
第2因子 | .318 | 1 | ||||
第3因子 | .244 | .379 | 1 | |||
第4因子 | .416 | .585 | .400 | 1 | ||
第5因子 | .321 | .386 | .460 | .472 | 1 | |
第6因子 | .353 | .543 | .436 | .635 | .467 | 1 |
尺度全体のCronbach’s α係数.925,RMSEA = .053,CFI = .979 推定法:WLSMV OBLIMIN回転
地域包括ケア病棟看護師における高齢者の生活を支える看護実践自己評価尺度の確認的因子分析の結果(n = 457)
第1因子は4項目からなり,状況や時間経過によって変わる高齢者の望む生活の本質になにがあるのかを導き出すための支援であり【望む生活の本質を導き出す支援】とした.第2因子は5項目からなり,高齢者自身の身体状況,今後の回復の見通し等を高齢者と家族に同じように理解してもらい,その人なりの生活を組み立てるまでの過程の支援であり【その人なりの生活構築にむけた支援】とした.第3因子は3項目からなり,高齢者の特性を考えて身体・認知機能の低下をおこさない支援であり,【身体・認知機能低下をおこさない支援】とした.第4因子は5項目からなり,在宅で他者の援助を得ながらもその人なりの生活を送ることができる調整であり【退院後その人らしい生活が送れる環境調整】とした.第5因子は3項目からなり,高齢者の今できる動作から日常生活において活用できる動作に変えるための支援であり【潜在能力の発揮を目指した支援】とした.第6因子は3項目からなり,退院後その人なりの生活を継続できるために調整する支援であり【その人なりの生活を継続するための支援】とした(表3).
5. 仮説検証(収束的妥当性,弁別的妥当性)(表4)AVEを基準とした収束的妥当性は,6因子全てにおいて基準値.50を上回っていた.
収束的妥当性・弁別的妥当性の結果
因子 | 項目数 | 収束的妥当性(AVE ≥ .5) | 弁別的妥当性(因子相関の平方<AVE) |
---|---|---|---|
望む生活の本質を導き出す支援 | 4 | .693 | .104~.251 < .693 |
その人なりの生活構築にむけた支援 | 5 | .580 | .213~.555 < .580 |
身体・認知機能低下をおこさない支援 | 3 | .599 | .104~.416 < .599 |
退院後その人らしい生活が送れる環境調整 | 5 | .740 | .251~.658 < .740 |
潜在能力の発揮を目指した支援 | 3 | .621 | .184~.449 < .621 |
その人なりの生活を継続するための支援 | 4 | .710 | .230~.658 < .710 |
弁別的妥当性については,すべての因子において,AVEがそれぞれ因子間相関の平方値を上回っていた.
6. 併存的妥当性の検討(表5)本尺度の合計得点は,在宅の視点のある病棟看護の実践に対する自己評価尺度(山岸ら,2015)の下位尺度(r = .26~.68)と合計得点と有意な正の相関(r = .71)が得られた.
併存的妥当性の結果
在宅の視点のある病棟看護の実践に対する自己評価尺度 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
退院後の生活に関するアセスメント | 患者・家族の今後の療養に関する意向の確認 | ケアのシンプル化 | 地域の医療者との連携 | 退院後の療養環境に合わせた患者・家族指導の実施 | 尺度合計 | |
高齢者の生活を支える看護実践自己評価尺度 | Pearsonの相関係数 | |||||
望む生活の本質を導き出す支援 | .404 | .440 | .398 | .313 | .333 | .444 |
その人なりの生活構築にむけた支援 | .507 | .503 | .511 | .418 | .431 | .560 |
身体・認知機能低下をおこさない支援 | .391 | .329 | .433 | .260 | .379 | .419 |
退院後その人らしい生活が送れる環境調整 | .611 | .542 | .587 | .496 | .504 | .649 |
潜在能力発揮を目指した支援 | .422 | .341 | .418 | .258 | .327 | .413 |
その人なりの生活を継続するための支援 | .640 | .492 | .608 | .454 | .499 | .635 |
本開発の尺度合計 | .676 | .609 | .669 | .511 | .562 | .713 |
全てp < 0.001
地域包括ケア病棟での尺度得点の平均±SDは勤務年数が短い群は60.3 ± 9.1(n = 120,勤務年数1.5年以下),長い群は65.3 ± 9.0(n = 95,勤務年数5.5~11.0年)であり,有意に長い群の方が高かった(p < .001).
8. 信頼性の検討本尺度の全体のCronbach’s α係数は,.93であった.各因子のCronbach’s α係数は,.73~.89であった(表3).
令和2年衛生行政報告例(厚生労働省,2022a)で,性別割合は,男性看護師8.1%,女性看護師97.1%,年齢階級別にみた割合は,20歳代21.4%,30歳代22.8%,40歳代27.8%,50歳代19.7%,60歳代8.4%であり,本研究の標本は性別や年齢構成において全国分布と類似傾向が確認できた.よって,母集団を代表するデータとして妥当と考える.
2. 尺度の信頼性信頼性は,内的整合性をみるCronbach’s α係数を求めた.各因子のCronbach’s α係数は,.731~.894,合計得点については,.925であり,本尺度は一貫性を持った項目で構成されているといえる.Cronbach’s α係数は,質問項目が増えるほどα係数の値は大きくなり,係数の値が高ければ高いほどよいという単純な解釈には注意が必要である(Streiner et al., 2015/2016).【身体・認知機能低下をおこさない支援】は.733,【潜在能力発揮を目指した支援】は.731,【その人なりの生活を継続するための支援】は.797とやや低い結果となったが,それぞれ項目数が3項目と少ないことを加味すると十分な値である.
3. 尺度の妥当性妥当性は,内容的妥当性・表面的妥当性,構成概念妥当性として構造的妥当性と仮説検証,併存的妥当性を検討した.
内容的妥当性・表面的妥当性では,研究者5名と看護師5名の10名を対象に,計3回検討し,CVIの高い値で項目を採用したことは,本尺度が十分に内容的妥当性と表面的妥当性を有する根拠となると考える(友利ら,2019).
構造的妥当性では,まず項目分析においてIRTをもちいて,尺度を構成する項目の識別力,困難度を測定し,ともに良好な値を示したものを採用した.そのため尺度の各項目は,回答に偏ることなく,適切に看護実践を自己評価することができると確認されたと考える(Streiner et al., 2015/2016).次に複数回の探索的因子分析を経て,6因子23項目を抽出した.確認的因子分析によりモデル適合度を確認した結果,適合度指数は統計学的許容水準を満たし,モデルはデータに適合した.また,仮説検証として収束的妥当性,弁別的妥当性の検討を行い,良好な結果を得た.つまり,この結果は本尺度の構成概念からみた妥当性が検証されたことを意味する.
併存的妥当性では,本研究で開発した尺度と「在宅の視点のある病棟看護の実践に対する自己評価尺度(山岸ら,2015)」について下位尺度得点と尺度合計得点でPearsonの相関係数を算出し,全て正の相関を示した.「在宅の視点のある病棟看護の実践に対する自己評価尺度」は,退院支援を受ける患者にとってよい病棟看護の実践を示すもので,本尺度の【その人なりの生活構築にむけた支援】,【退院後その人らしい生活が送れる環境調整】,【その人なりの生活を維持するための支援】と各下位尺度と全体尺度の合計と中程度の正の相関がみられた.これらは,生活の場での自立を目指した援助であり類似している.このことは,本研究で開発した尺度が,退院支援を受ける患者にとってよい病棟看護の実践を反映できることを示唆しているものと考えられる.しかし【望む生活の本質を導き出す支援】,【身体・認知機能低下をおこさない支援】,【潜在能力の発揮を目指した支援】は,高齢者の加齢による身体機能・認知機能の低下や心理状態を踏まえて働きかける日々の看護実践内容であることから,弱い正の相関であったと考える.このことから,併存性を確認しつつも,異なる尺度であることも確認できたといえる.
4. 尺度の構成要素本結果より本尺度は,尺度原案では,7下位概念を基盤に質問項目を作成したが,最終的には,6因子構造(図1)であることが確認された.
第2因子【その人なりの生活構築にむけた支援】は,尺度原案〈現実と望む生活のずれを最小限にする〉,〈自分らしい生活を決定するプロセスを支える〉が統合される結果となった.高齢者が長く自分の選択した住居で自立して生活していけるように,看護師は高齢者自身が選択できるように支えなくてはならない(Demiris et al., 2020).そのため,地域包括ケア病棟看護師は高齢者が病状を理解し,これからの生活を構築していく過程を支える必要がある.因子分析の結果,【その人なりの生活構築にむけた支援】に統合された理由は,高齢者・家族が病状・治療を理解する要素は自分らしい生活を決定する過程に必要な要素の前提であるため統合されたと考える.
本研究は,地域包括ケア病棟における高齢者の生活を支える看護実践を自己評価できる尺度の作成を試みた.これまでに開発されている病棟看護師の退院支援・在宅移行支援に関するツール(Sakai et al., 2016;山本ら,2017;小木曽ら,2019;小野,2020)と類似した内容が含まれた.
【望む生活の本質を導き出す支援】,【その人なりの生活構築にむけた支援】は,既存のツールの療養生活場所の意思決定支援の内容と類似している.しかし,【望む生活の本質を導き出す支援】は,高齢者が歩んできた人生から,望む生活の本質に何があるのかを導き出す支援の内容であり,意思決定支援と異なる本研究の特徴である.長江(2014)は,看護師であればこそ患者の身近な存在として日々の生活を知ることができ,患者の本当の気持ちに気づき,タイミングのよい情報提供や話し合いのきっかけを作ることができると述べている.本研究も看護師が,日々の援助を通し状況により移り変わる高齢者の望む生活の本質を捉えることが重要であることを示した.
また,【退院後その人らしい生活が送れる環境調整】,【その人なりの生活を継続するための支援】は,退院後に他者の援助を得ながらもその人の生活を調整し,日々の生活が困らないように生活の場に合わせた援助として抽出された.地域包括ケア病棟は,入退院支援及び地域連携に十分な経験を有する専従の看護師又は社会福祉士の配置が要件化されている(厚生労働省,2022b).退院にむけて地域サービス・制度等詳細について最新の知識を有する専従職員との協働により,日々の援助を通して知り得た高齢者の困りごとや不安,今の生活課題を解決するための方略を検討し,地域でその人なりの生活が送れるようにつなげていくことが病棟における看護師の役割である.つまり,既存のツールにある社会資源の活用や多職種連携の内容と類似しているが,看護師の役割を示した点で相違している.今までのように看護師が複雑な社会保障制度や多様な社会資源の知識不足により,高齢者の望む在宅サービスが選択できない(加藤,2022)といった弊害を無くすためにも,地域包括ケア病棟看護師の役割を示したことは,価値があると考える.
さらに,地域包括ケア病棟は,急性期を脱し在宅復帰を目的としている高齢者が多い(厚生労働省,2021)という,高齢者の特徴から【身体・認知機能低下をおこさない支援】,【潜在能力の発揮を目指した支援】が抽出された.高齢者は,加齢や疾病の影響により,在院日数が増すごとに身体・認知機能が低下しやすく,生活機能が障害され,生活の質を落とす危険性がある(相川ら,2012).そのため,現状を維持し,身体・認知機能低下をおこさないように栄養状態やフレイルの兆候を観察する質問項目が抽出されたことは,地域包括ケア病棟看護師ならではの看護実践の一つであると考える.
5. 尺度の活用の可能性本尺度は,地域包括ケア病棟において看護師が日々行う高齢者の生活を支える看護実践とはなにか説明し実践できる指標であることが確認できた.そのため,本尺度を用いて看護師自身が,日々の高齢者の生活を支える看護実践を振り返ることできる.高齢者の生活を支える看護実践できていない,あるいは実践していない看護師にとっても自身の評価として適用できるだけでなく,どのように実践したらよいか,具体的な支援を知り実践につなげていくことができる.また,病棟における高齢者の看護実践に関する話し合いの際,尺度を用いて支援を検討することで,病棟全体の看護師の高齢者の生活を支える看護実践の質向上に役立てられる.
同意の得られた地域包括ケア病棟協会加入施設の病院へ配布を依頼したが,回答は任意であり,高齢者の生活を支える看護に関心の高い回答者のデータであることは否めない.
今後さらに,調査対象者を広げて検証し,開発した尺度の精度を高めることが今後の課題である.
本研究で開発された地域包括ケア病棟看護師における高齢者の生活を支える看護実践自己評価尺度は,23項目6因子二次因子構造モデルとなり,信頼性と妥当性が確認された.本尺度は,地域包括ケア病棟における日々の看護実践を評価できる尺度として有用である.
付記:本研究は岡山県立大学大学院保健福祉学研究科に提出した博士論文に加筆・修正を加えたものである.
謝辞:本研究を実施にあたり,ご協力をいただいた全国の地域包括ケア病棟の看護管理者及び対象者の皆様に心より感謝を申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:YAは研究の着想から,デザイン,データ収集,統計分析とその解釈,論文執筆の全てのプロセスに貢献;SMは,研究のデザイン,統計分析とその解釈,論文原稿に助言,加筆修正を実施;MNは,研究の着想,デザイン,論文原稿に助言,加筆修正を実施.すべての著者は,最終原稿を読み,承認した.