目的:ゲノム医療を受けるがん患者の動機づけと結果の受容を明らかにする.
方法:がんゲノム外来を受診した193名を対象に,遺伝子パネル検査の結果,受診の動機づけ,結果の受容について後方視野的に解析した.
結果:検査を受けた39.3%にdruggable変異が提示され,8.9%が治療到達し,8.1%に二次的所見が判明した.動機づけとして,がん治療の探求,家族のがんリスクへの関心,最善を尽くす闘病スタイル,がんへの不安,医師の勧め,がんの原因の探求の6項目があった.説明を受けた患者の71.2%が受容し,28.7%が悲観したが理解した.
結論:治療到達できなくとも,事前にゲノム医療の限界を説明することと,患者の最善を尽くす闘病スタイルが,結果の受容を促進すると考えられた.患者の経過や価値観に応じ,チームで協働し説明することが,治療到達率が低い中で患者の満足度を高める可能性がある.
Purpose: The aime of the study is to elucidate the motivations for receiving genomic medicine and acceptance of the results in patients with cancer.
Methods: We retrospectively analyzed the results of gene panel testing, motivation for undergoing the testing, and acceptance of the results in 193 outpatients who visited the Cancer Genomic Medicine Department at our institution.
Results: Druggable mutations were found in 39.3% of the patients, treatment based on genomic findings was given in 8.9%, and secondary genomic findings were found in 8.1%. The following six motivations were extracted: exploring cancer therapies, concern about cancer risk in family members, determination to fight the disease, anxiety about cancer, doctor’s recommendation, and exploring the causes of cancer. After receiving an explanation, 71.2% of the patients accepted the results, while 28.7% felt pessimistic but understood the results.
Conclusions: Providing an explanation about the limits of genomic medicine in advance as well as patients’ determination to fight the disease appeared to promote acceptance of the results even if patients did not receive treatment based on genomic findings. Taking into account the disease course and the patient’s values, cooperation and providing explanations to patients as a team may enhance the patient’s satisfaction even if only a small proportion of patients receive treatment based on genomic findings.
2019年6月に,本邦において,がん遺伝子パネル検査(以下パネル検査とする)として,OncoGuideTM NCCオンコパネルシステム,FoundationOne®CDxがんゲノムプロファイルが,次いで2021年8月にFoundationOne Liquid®CDxが保険収載された.日本のがん医療の現場において,全国にがんゲノム中核拠点病院,がんゲノム拠点病院,がんゲノム連携病院が配置され,保険診療下で行われるようになった(厚生労働省,2023).
保険診療としてのパネル検査の対象は,2023年4月現在において,ECOGパフォーマンス・ステータス(Performance Status,以下PSとする)が0から1で,治癒切除不能または再発の①原発不明がん,②標準治療がない,標準治療が終了,もしくは終了が見込まれる固形がんの患者に限られている(国立がん研究センター,2022).つまり,この検査の対象は,残された治療選択肢が少ない患者ということになる.それゆえ,がんゲノム医療を受診する患者は大きな期待をもって臨んでいる(Shirdarreh et al., 2021).パネル検査の結果には,検出されたがんの発生に関わる遺伝子の変異,変異等に基づく候補薬剤とその推奨レベル等があるが,必ずしも変異が検出されるとは限らず,また変異があれば必ず候補となる薬剤があるとも限らない.さらに薬剤が候補となっても,その治療効果が明確でない場合や,治験や患者申し出療養など患者が容易に受けられない場合,さらに患者の身体状況が不良であれば,候補薬を使用できない場合もある.こうした背景から,検査を受けても遺伝子変異に合った治療に到達できる割合は10%程度(Sunami et al., 2019)と決して高くない実情があり,患者は個別化医療としての新規治療や標的治療に期待したものの,成果が得られないことや臨床試験への参加が制限されることで,困難感を抱くといわれている(Miller et al., 2014).
また,パネル検査では,二次的所見が数%の確率で判明する可能性があり,その結果を説明することに関しては慎重な配慮が求められている(国立研究開発法人日本医療研究開発機構,2019).多くの患者は二次的所見を知ることに関心を持つが,潜在する健康上の利益については楽観的かつ非現実的な考えをもつといわれている(Hamilton et al., 2017).しかし,遺伝性腫瘍であることを示すこの二次的所見は,本人のみならずその血縁の将来のがん罹患リスクに影響を与えるものであり,がんの早期発見やリスク低減手術などの治療選択肢に関する重要な情報となり得る一方で,それを知ることで患者や家族の心理的,身体的な負担と,社会的な影響をもたらす可能性があることも指摘されており(大川,2019),治療到達の低さとこの二次的所見の可能性ということから,がんゲノム医療においては検査結果を伝える難しさが指摘されている(関根ら,2020).
がんゲノム医療の目的の一つに,パネル検査を通じて患者に合った治療を提供し,延命や病気克服につなげることが含まれるのは間違いない.しかし,それだけが目的の場合,がんゲノム医療で目標が達成される可能性は現状では低いと言わざるを得ない.医療の最終的な目標は患者の人生を豊かにすることであり,そう考えると患者の視点から見たがんゲノム医療の問題点について検討していく必要があると考えられる.そこで,がん患者がどのような動機づけでパネル検査を受け,検査の結果をどのように受容したか,また受け入れた規定要因は何かについて後方視野的に解析し,がんゲノム医療の充実と看護への示唆を得るために本研究を立案した.
動機づけ:ひとに行動を起こさせ,目標に向かわせる心理的な過程(大辞泉,2012).本研究では,がんゲノム医療外来を受診するがん患者の行動要因とする.
受容:ある事実についてありのままに受け止め,心理的に安定した状態であること(日本看護科学学会看護学学術用語検討委員会第9・10期委員会,2011).本研究では,がんゲノム医療の結果に納得し,心理的に安定した状態を意味することとした.
二次的所見:パネル検査によって染色体情報を網羅的に観察するために,予期しなかった染色体異常を偶然発見される所見のことで,患者本人のみならず,その血縁の将来に影響を与える可能性がある(中込ら,2019).
横断的観察研究
2. 研究対象者2019年10月から2022年5月までに,関東圏内にあるがんゲノム拠点病院のがんゲノム医療外来を受診した20歳以上の成人患者を対象とした.
3. データ収集方法研究対象の患者について,下記1)~4)についてカルテから後方視野的にデータ収集し,患者属性,パネル検査の結果,がんゲノム医療の受診動機づけと結果説明の受容について記述統計で解析した.
1) 患者基本情報診療録を元に作成したデータベースより,年齢,性別,がん種,初診日のPS,治療レジメン数を調査した.
2) がん遺伝子パネル検査の結果診療録を元に作成したデータベースより,(1)がんゲノム外来患者数,(2)パネル検査数,(3)パネル検査の結果を患者に説明した人数,パネル検査の結果(4)actionabl変異(がんの発生に関わる遺伝子の変異)が提示された数,(5)druggable変異(治療薬の有効性に関わる遺伝子の変異)が提示された数,(6)治療到達率,(7)二次的所見が提示された数を調査した.
3) がんゲノム医療を受診した動機づけがんゲノム外来の初診,再診,及び結果説明の際の患者の反応に関する診療録から,がんゲノム医療を受診する動機づけの要因を以下の方法で分類し,症例数を調査した.
(1)2019年10月から2020年7月にゲノム医療を受診した患者を30症例,無作為に抽出した.
(2)診療録から,患者のがんゲノム医療を受診する動機づけのデータを抽出し,文脈に沿いデータの内容を抽象度を上げた表現に言い表し,要因を分類した.なお,一人の患者のデータから複数要因が抽出され,それぞれを分類した.
(3)さらに研究対象者のデータを追加,分析し,分類した.
(4)新たなデータを分析,分類する過程で,動機づけ要因の表現や分類を見直し,修正をはかった.
(5)(2)~(4)の過程は,がん医療に精通した看護師,医師で,最初の30例を含め繰り返し行い,最終的に以下の6項目を動機づけ要因として抽出した.
① がん治療の探求:今後の治療を希求し,未来に向けて行動するがん患者の姿勢である.
② 家族のがんリスクへの関心:家族のがんリスクへの危惧や,予防や早期発見に繋がる可能性への期待であり,医療者による遺伝性腫瘍の説明に呼応して表現されたものである.家族のがん予防,早期発見に役立てたい願いである一方で,家族への影響を知る事への恐れや,遺伝性腫瘍について理解しがたい困難感なども含まれている.患者個々のがん家族歴,家族の関係性,遺伝性腫瘍に関するリテラシーにより,関心は多様な様相を示す.
③ 最善を尽くす闘病スタイル:不確実な時間感覚の中で,過去の経験に基づき自分なりに精一杯力を尽くして生き抜きたいという闘病の姿勢である.ゲノム医療に際して,多くの患者から経験に基づく闘病の姿勢がリッチに表現され,無視できないと捉え,動機づけ要因とした.
④ がんへの不安:がんという病気や治療の副作用,予後への不安であり,自分の人生や家族を含めた日常生活への影響を心配する気持ちの表れである.
⑤ 医師の勧め:医師による勧めを動機とした要因である.
⑥ がんの原因の探求:がん,重複がんや再発の機序への関心を示す要因である.
(6)得られた6項目の要因は,がんゲノム医療に精通した医師,がん看護専門看護師,がんゲノム医療コーディネーター,がん相談支援センター相談員らに示し,患者の動機づけとして臨床像が合致しているか確認し,本要因の妥当性を確保するよう努めた.
(7)6つの動機づけ要因の症例数を調査した.
4) 結果説明の際の受容医療者が観察し,カルテ記載した結果説明時の患者の反応を,その受容として以下のように3つに分類し,症例数を調査した.
(1)は,落ち着いた態度で説明を理解し,自分のがん医療の価値や前向きな気持ち(今井ら,2022)の発言と共に受容した「納得し受容した」,(2)は,悲観的な態度が観察されたが,説明を理解した「悲観したが理解した」,(3)は,悲観的な態度が大きく,結果が受け入れられない「結果を受容できない」と分類した.分類にあたっては,がん医療に精通した看護師,医師により,複数回の検証を行い,精度を高めた.
4. データ分析方法データは,上記の分類に従い,マイクロソフト社Excelを用いて,記述統計を行った.動機づけ要因,結果説明の受け入れについては,分類ののち,表にその根拠となる患者の言動を示した.
5. 倫理的配慮本研究に当たり,筑波大学附属病院臨床研究審査委員会の承認を得て(受付番号R02-350)実施した.また研究者の所属する機関のHPに調査研究の概要について公開し,オプトアウトの機会を設けた.なお,動機づけ要因と受容の分類,結果表示に関し,患者の言動を一部抜粋しているが,個人の特定ができないよう,文意に影響のない範囲で加工している.
条件を満たす対象患者は193名であり,年齢中央値は62(範囲:27~83)歳であった.男性は92名,女性は101名で,がん種は表の通りであり,膵臓がん,乳がん,大腸がんの順で多かった.初診時のPSは,0が98名,1が79名と多数を占めた.治療レジメン数は,中央値3(範囲:0~15)であり,135名(データのある82.3%)が複数レジメンの治療を経験していた.
n = 193
| 項目 | 人数(人) | % | |
|---|---|---|---|
| 年齢 | 中央値 62 | (範囲:27~83) | |
| 性別 | 男性 | 92 | 47.6% |
| 女性 | 101 | 52.3% | |
| がん種 | 膵臓がん | 29 | 15.0% |
| 乳がん | 23 | 11.9% | |
| 大腸がん | 20 | 10.3% | |
| 前立腺がん | 13 | 6.7% | |
| 卵巣がん | 12 | 6.2% | |
| 胆道がん | 12 | 6.2% | |
| 肺がん | 11 | 5.6% | |
| 頭頚部がん | 10 | 5.1% | |
| 子宮頚部がん | 7 | 3.6% | |
| 皮膚がん | 6 | 3.1% | |
| 尿道/膀胱がん | 6 | 3.1% | |
| 胸腺がん | 5 | 2.5% | |
| 子宮がん | 5 | 2.5% | |
| 食道/胃がん | 5 | 2.5% | |
| 甲状腺がん | 4 | 2.0% | |
| 精巣がん | 3 | 1.5% | |
| 軟部組織がん | 3 | 1.5% | |
| 他 | 19 | 9.8% | |
| PS | 0 | 98 | 50.7% |
| 1 | 79 | 40.9% | |
| 2以上 | 5 | 2.6% | |
| 不明 | 11 | 5.7% | |
| 治療数 | 中央値 3 | (範囲:0~15) | |
| なし | 6 | 3.6% | |
| 1レジメン | 23 | 14.0% | |
| 2レジメン | 36 | 21.9% | |
| 3レジメン | 29 | 17.6% | |
| 4レジメン | 23 | 14.0% | |
| 5レジメン以上 | 47 | 28.6% | |
| 不明 | 29 | ||
対象患者193名のうち,動機づけ要因に関するデータが得られたのは183名(94.8%)で,結果の受容に関するデータが得られたのは139名(82.7%)であった.
2. がんゲノム医療の概要(表2)対象患者193名のうち,パネル検査を提出した症例は168名で,そのうち,結果が説明できたのは152名(90.5%)であった.
| 項目 | 人数 | 内訳と人数 | 対象患者全てからみた割合 | 検査提出数からみた割合 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 対象患者 | 193 | 100.0% | ||||
| パネル検査提出数 | 168 | 87.0% | 100.0% | |||
| 結果説明 | あり | 152 | 90.5% | |||
| なし | 16 | 検体不良のため解析中止 | 13 | 9.5% | ||
| 病状悪化や死亡 | 3 | |||||
| Actionable変異あり | 135 | 80.3% | ||||
| Druggable変異あり | 64 | 治験 | 48(75.0%) | 38.1% | ||
| 適応内治療 | 10(15.6%) | |||||
| 適応外治療 | 4(6.2%) | |||||
| 患者申し出療養 | 2(3.1%) | |||||
| 二次的所見あり | 14 | 8.3% | ||||
| 治療到達あり | 15 | 8.9% | ||||
パネル検査を提出した168名のうち,actionable変異は135名(80.3%)に,druggable変異は64名(38.1%)に提示され,最終的に提示された治療に到達したのは,15名(8.9%)であった.二次的所見は14名(8.3%)の患者に提示された.提示された治療は,75.0%が治験で,保険適応内で行える治療は15.6%であった.提示された治療を行わなかった症例は,治験規格適応や募集人数の少なさ,患者の体調などを患者と医師が話し合い,総合的に患者が希望しないという経過が多数を占めた.
3. がんゲノム医療を受診した動機づけ(図1,表3)1)がんゲノム医療を受診した動機づけとして,治療の探求の131名(71.5%)が最も多い動機づけ要因であった.次いで,家族のがんリスクへの関心79名(43.1%),最善を尽くす闘病スタイル76名(41.5%),がんへの不安36名(19.6%),医師の勧め28名(15.3%),がんの原因の探求6名(3.2%)であった.

| 動機づけ要因 | 患者の言動 |
|---|---|
| 治療の探求 | なにか治療があるなら,可能性が低くても試したい |
| もう治療はないと聞いたが,なにかできる治療はないかと思った | |
| 今の治療がいずれは効かなくなるとわかっているから,今のうちに次の治療を探したい | |
| 家族のがんリスクへの関心 | 子どもとは疎遠だが,何かがあれば知らせたい |
| 親として,子どもにしてあげられることがあるということだ | |
| 治療がみつかる可能性が低くても,子どものためになにかわかれば良い | |
| 知ることはショックだが,知ることで子どもはがんを予防できるかもしれない | |
| がんの罹患を娘に知らせたときに,婚家に申し訳ないと責められたから,結果を娘にきちんと知らせたい | |
| 子どもや孫にどう伝えたらいいのか? | |
| 知らなくていいと思う.いらぬ心配が増える | |
| がんは遺伝.親が肺がんだったから,私の子宮がんも遺伝だ | |
| 子どもに負の遺産を引き継ぐかもしれない | |
| 最善を尽くす闘病スタイル | あとどれくらい生きられるかわからないが,できることを試し,子ども達や社会に貢献したい |
| こんな感じで○○がんでも長生きできたから,できることがあるなら,最後まで頑張ってみて,それで死にたい | |
| 自分は(病状を)わかっている.でもくよくよせずに明るく受け止めているつもりだ | |
| がん告知を受けたとき,命の限りを知ってショックだった.だが今はそう言ってもらって良かったと思う | |
| 体力が落ちたが,なんとか動く元気が出ればと思う | |
| 治療が効かなくなってきたが,夫がその事実を辛いと感じている.夫のために頑張る. | |
| 10%の確率だとしても,なにかわかればいい.何もわからなくても,治療をやめるきっかけになると思う | |
| 5年がんばって,乗り越えたと思ったら転移した.そこから先は,あと1年先はいないかもと思いながら生きてきた | |
| 精一杯頑張って生きる.そのつもりで出来ることは頑張りたい | |
| (緩和ケアについて)私は,覚悟はしているつもりだ | |
| 最新の治療をやってきた.ゲノムも最先端だ.まだまだ治療を諦めたくない.体力はある | |
| がんへの不安 | 薬の副作用が心配だ.これまでの治療でいろいろあり,正直にいって,治療はもう嫌だなという気持ちもある |
| どんどん治療の選択肢がなくなる感じで不安だ | |
| 緩和ケアについて何度も話を聞いている.自分もそういう時期なのかと不安になった | |
| 医師の勧め | 今度の治療もあまり効果は期待できないと聞いている.それで医師にゲノム外来で話を聞くように言われた |
| 以前から主治医にがんゲノムを提案されていた | |
| がんセンターの医師の診察で,パネル検査はやったかと聞かれた | |
| がんの原因の探求 | 一番の理由は,三つもがんになった原因を調べることにある |
| 現在の転移再発が卵巣がん由来か乳がん由来かを知りたい | |
| 胃がんと胆のうがんは遺伝子の配列は違うのか |
2)動機づけは,すべての患者において複数要因が存在していた.治療の探求のみならず,複数の動機づけ要因を持ち,がんゲノム医療を希求したことがわかった.
4. 結果説明の受容(図2,表4)データのある139名のうち,99名(71.2%)がパネル検査の結果を納得し受容し,40名(28.7%)が悲観したが理解した.受容できない言動の患者はなかった.

| 治療提示の有無 | 結果の受け入れ度 | 患者の言動・態度 |
|---|---|---|
| Druggable変異あり | 納得し受容した | やって良かった.何かできることがあるなら,頑張りたい |
| 治験が実験的な意味を持つことはわかっているが,受けたい | ||
| もう,治療は不要だと思う.副作用がきつくて,やらない方が楽だ | ||
| 今の薬で体調はいい.その治療は不要だと思う | ||
| 悲観したが理解した | 難しい.でも変異が見つかって,治療もあるわけだから | |
| 治療が受けられない可能性が高いなら,仕方ない(泣き笑いの表情) | ||
| 険しい表情で発言なし.家族から治療を勧められ「全ての人に結果がでるわけじゃないというのに結果がでた.チャンスなので,やってみる」 | ||
| Druggable変異なし | 納得し受容した | ほとんど薬に繋がる結果がでないと聞いていたので,今回の結果は仕方ないことだ |
| 遺伝子変異が見つからないわけじゃなかった.それならまだ良かった | ||
| 仕方ない.自分ではやれることはやってきたつもりだ | ||
| 全然落胆していない.医師がいろいろな対策を考えていると思い,安心した | ||
| (二次的所見なし)それを聞いただけで良かった | ||
| もう治療は辛いから不要だと思っていた.だからこれで良かった | ||
| 悲観したが理解した | 涙をこらえ,「頑張った.再発したら終わりだ」 | |
| 副作用で辛い思いをするなら抗がん剤はやめて良いのではないか,辞めたらどうなるのか,自分はどうすればよいのか,と考えこんでいる | ||
| 今後,その遺伝子変異に対する薬が見つかったら,その情報をどうやって入手できるのか |
また,これをDruggable変異の有無で分類した上で受容の度合いを解析すると,Druggable変異があり,結果の受容に関するデータがあった57名のうち,「納得し受容した」のは42名(73.7%),「悲観したが理解した」のは15名(26.3%)であり,Druggable 変異がなく,結果の受容に関するデータがあった82名のうち,「納得し受容した」のは57名(69.5%),「悲観したが理解した」のは25名(30.5%)であり,いずれも受容できない反応はなかった.Druggable変異の有無にかかわらず,7割の患者は結果を受容していた.
Druggable変異があり,「納得し受容した」人には,「やって良かった.何かできることがあるなら,頑張りたい」と喜び治療を積極的に望む人がいた一方,「もう,治療は不要だ.副作用がきつくて,やらない方が楽だ」と,提示された治療は不要であると結論づけ,その後は緩和ケアを主体とすることで,結果を受容した人もあった.
Druggable変異があり,「悲観したが理解した」人の多くは,提示された治療の参加条件の厳しさに対し,「治療に入れないなら,仕方ない」と,説明内容は理解したものの治療に参加できない残念な思いを抱いていた.説明内容を一度では受容できず,苦悩する人もいた.
Druggable変異がなく,「納得し受容した」人の多くは,「ほとんど薬に繋がる結果がでないと聞いていたので,今回の結果は仕方ないことだ」という受けとめだった.また,薬剤につながらない結果であっても,がん遺伝子が明確になったことや,闘病の過程に意味を見いだして,結果を受容した人もいた.さらに「治療は辛いから不要だと思っていた.だからこれで良かった」など,パネル検査の結果を踏まえ,今後の治療方針を決断することで結果を受け入れた人もいた.また,たとえ治療の提示がなくとも,二次的所見がなかったという結果を提示された多くの人が「それを聞いただけで良かった」と述べていた.
Druggable変異がなく,「悲観したが理解した」人には,「遺伝子に変化がなくてもがんになるのか?結果に関わらず,何か治験で有効なものはないか?」等,期待する結果がなくとも何らかの方法で今後の治療を探索したいという姿勢が示されていた.
二次的所見があった患者14名では,「納得し受容した」が11名,「悲観したが理解した」が3名であった.否定的な反応はなかった.ただし,14名のうち11名(78.6%)にはDruggable変異も判明しており,二次的所見の説明と同時に,治療選択肢があるという説明が同時に行われていた.そのため,治療がみつかったことへの肯定的な感情が見受けられた.
本研究結果から,新規治療の有無に関わらず,7割の患者ががんゲノムパネル検査の結果を受容していることが明らかになった.本来,がんゲノム医療の目的は個別化医療であり,患者は自分にあった治療を探求しているはずである.そのため我々は当初,治療選択肢がない患者においては,期待に外れた説明に対し大きな落胆があるのではないかと危惧していた.なぜ,患者は期待外れの結果説明を受容したのだろうか.我々は,2つの理由があると考える.
まず,検査を受ける際に,パネル検査による治療提示の可能性が極めて低いものであるという限界を説明していることが挙げられる.本邦ではパネル検査の前に患者に,がんゲノム医療において治療到達率が約10%であることを文書を用いて丁寧に説明することが求められている(厚生労働省,2019).このため,多くの患者が治療の提示がないことを妥当な結果として受容したと考えられる.
次に,がん患者のもつレジリエンス(American Psychological assotiation, 2018;石井,2009)が受容に影響したと考える.がんゲノム医療を受ける患者の多くは,これまで複数レジメンを経ており,その都度,治療不能やがんの増大,再発を経験してきた.その過程で患者は悲嘆の中から気持ちを保つ経験を重ね,治療の限界を感じながら,前に向かおうと闘病してきた.がんゲノムを受診する患者には,こうした経験に基づくレジリエンスが備わっており,これは,本研究の最善を尽くす闘病スタイルという動機づけ要因の姿と重っている.がんゲノム医療を希望する患者は,治療に結びつく結果の如何に関わらず,気持ちに折り合いをつけ,これまでの経験から心を統制しており(岡本ら,2023),また,がん患者には,最後の治療という現実と対峙し自分なりの結論を出す力がある(今井・神田,2020).パネル検査を行ったという患者の闘病過程と,結果を踏まえて自分なりの方向性を結論づけたことが,最善を尽くしたいという患者らの価値観と合致し,結果の如何に関わらず納得したのだと想定される.ゲノム医療の満足度を研究した先行研究でも,臨床的有用性を得られなかったにも関わらず,多くの患者から肯定的な態度があり,その理由の1つに,できることはすべてやったという患者の終結感があることが報告されており(Halverson et al., 2016),最善を尽くした結果として,がんゲノム医療への納得が得られたと考えられる.
患者の納得は,その事象に対して主体的かつ他者との信頼関係のなかで生み出されるもの(今井ら,2016)であり,本研究でも結果を受容した患者には,パネル検査の結果の意味を自分なりに踏まえ,主体的に得心している姿がみられた.さらに,がんゲノム医療において患者の受容を促進するためには,医療者との良好な信頼関係のもとでの丁寧な結果説明が求められる.チーム医療の中で,看護師は患者の語りを傾聴し,患者個々の闘病経験に寄り添い,患者が最善を尽くした意義を丁寧に説明することや,今後の治療を継続するかやめるか自己決定できるように関わることが,がんゲノム医療の結果を受容する力を高めるために重要である.
また,治療選択肢の有無にかかわらず,患者が検査結果を踏まえて緩和ケアに専念する決心がついたという結果が得られた点も特筆すべきだろう.このような患者では,パネル検査前には治療を止め緩和ケアを主体とすることに納得できておらず,何か治療選択肢があるのではないかと必死に模索したり,有害事象の辛さをこらえながらどこまで治療を頑張れば良いのか苦悩していたことが推察される.がんゲノムパネル検査は図らずもそうした難題を解決する一つのツールとして機能していたことが,この結果からは読み取られる.
2. 患者の二次的所見への関心に応じた結果説明を行う重要性ゲノム医療を受ける動機づけ要因として,43%の患者に二次的所見への関心がみられていた.自分のためだけではなく,自分の子や孫らのために,がん遺伝子の生殖細胞系列変異(生殖細胞に存在する遺伝子の変異.子孫に遺伝しうる変異)を調べたいという意向を持っていたことがわかる.一方で知りたい思いとともに,躊躇や,もしも二次的所見が判明した場合はどう伝えれば良いのかという困惑も混在していた.また,一部の患者には遺伝に関する誤った知識や認識,陰性感情を伴う複雑な家族関係も垣間見え,患者の理解度,家族の関係性により,二次的所見への関心は多様な様相を示していた.こうした状況は,がん遺伝子パネル検査を受けるがん患者が二次的所見を知ることに関心を示し,さらに,自分自身のみならず,他のがん患者や社会への利益を期待しているものの,同時に感情的・臨床的な影響に懸念を抱いているという先行研究(Hamilton et al., 2017)と一致している.本研究においても患者の二次的所見の捉え方は多様で,また利他的だった.患者の価値観,知識,家族関係に応じた丁寧でわかりやすい二次的所見の結果説明を行うことが,患者の満足出来る結果説明につながると考えられる.多くの場合,二次的所見はないことが予測されるが,たとえ二次的所見がなくとも,がんの予防や早期発見のための情報提供は患者と家族にとって有益であろう.
また,本研究では,二次的所見があった患者の多くは同時に治療選択肢の提示もあり,結果説明における受容の度合いが高かった.患者が生殖細胞系列の変異があるという意味を相対的に低く感じた可能性も示唆される.しかし,遺伝性腫瘍の患者は,その結果開示後に精神的苦痛や罪責感を抱くという先行研究(村上,2010)や,遺伝性腫瘍であることを子どもに伝えるにあたり複雑な心理過程がある(川崎,2008)ことを踏まえると,患者家族にとって二次的所見の持つ意味は大きく,看護師には遺伝専門医らの介入調整や認定遺伝カウンセラー®との協働により,慎重で丁寧な,血縁者を含めた長期的なサポートが求められると考える.
3. 個別化医療としてがんゲノム医療の満足度を高める方策本研究結果より,がんゲノム医療を受けるがん患者の多くが,推奨治療がなくとも,その結果を肯定的に受け止めて,なかんずく緩和ケアの受容ができた症例もあったことが明らかになった.しかしながら,がんゲノム医療の本来の目的は,患者の遺伝子変異に基づくがんの個別化医療を行い,延命やがんの克服をめざすことにある.我々は,遺伝子変異に基づく個別化医療として治療選択肢を提示することに患者が満足できるような体制を構築していかなければならない.
一方で,たとえ今後,がんゲノム医療による治療到達の提示が向上した時であっても,延命や病気克服のみが目的であれば,がんゲノム医療を介して医療従事者が患者に届けることができるものは限られたものになってしまうだろう.延命やがんの克服だけではない,患者の人生における満足度を高めるようながん医療のあり方がここに問われている.
そこで我々が提案したいがんゲノム医療フローは以下の通りである.まず,〈傾聴〉である.初診時に,患者のこれまでの病歴と全身状態を把握し,患者が何を目的に本検査を受ける決意をしたかについて,その価値観を含め丁寧な〈傾聴〉を行う.
次に,がんの病状や遺伝子パネル検査結果の〈予測〉である.がん遺伝子パネル検査前に,その患者が新規治療に結び付く可能性が比較的高いか,低いかについては,血液検査結果,画像検査結果,病理検査結果,全身状態を元に,がん専門医はある程度〈予測〉することができるだろう.その〈予測〉を医師と共有することが看護師にとって重要である.
そして,傾聴と予測を踏まえた〈患者に応じた説明〉を行う.パネル検査の結果説明において,結果を踏まえて今後どのような医療が受けられるのかを伝えることの重要性は既に論じられている(池見・鈴木,2020)が,傾聴と予測を加えることにより,より患者の個別性を踏まえた結果説明へと改善できる.医療者は,新規治療を期待する患者においては,予測される治療の確率や概要,限界と同時に,緩和ケアを主体にすることを念頭においた説明を行うことが重要だろう.遺伝情報を知りたい患者においては,患者の遺伝子に関する知識と認識,家族状況を把握しながら,二次的所見について丁寧に解説することが求められる.最善を尽くしたいと願う患者においては,それまでの闘病の価値と,結果はどうあれがんゲノムパネル検査を行うことが,現在行うことができる最善のがん医療の過程であることを意味づけ,肯定的に人生を捉えることができるように関わることが重要だろう.緩和ケアに専心する時期が近づいている患者には,緩和ケアを強化することも重要である.そして,こうしたことには,看護師とがん専門医,薬剤師,認定遺伝カウンセラー®等がそれぞれの専門性を発揮し,効果的にチーム編成して行うことが望まれる.
このように,がん遺伝子結果を元に個別化医療を実践するだけではなく,患者側の視点に立った個別化医療が提供されるべきであると我々は考える.
本研究結果から,がんゲノム医療を受ける患者の動機づけとして,治療の探求や家族のがんリスクへの関心,最善を尽くす闘病スタイルなどが明らかとなった.7割の患者は結果を受容しており,事前にがんゲノム医療の限界を説明することと,患者の最善を尽くす闘病スタイルが,結果の受容を促進すると考えられた.患者の経過や価値観に応じ,チームで協働し説明することが,治療到達率が低い中で患者の満足度を高める可能性があると示唆された.
本研究は,患者の動機づけ要因や結果説明の受容に関し,後向き調査をもとにした査定結果である.そのため,患者の深意を追求しきれていない限界がある.また,一施設によるデータ抽出の限界がある.今後は前向き調査や患者インタビューによる受容の査定が望まれる.
付記:本稿は第19回日本臨床腫瘍学会学術集会に発表したものにデータの修正を加え,加筆したものである.
謝辞:本研究にあたり,ご協力いただいた研究対象者の皆様と,データ収集に助力いただいた医師,診療情報士,看護師,認定遺伝カウンセラー,薬剤師をはじめとする研究施設の皆様に深くお礼を申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:AIは研究の全てを実施し,TSは研究の着想およびデザイン,統計解析,草稿に貢献,ISは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.全ての研究者は原稿全てに目を通し承認した.