目的:看護職の超過勤務に関わる部署・病棟要因を明らかにする.
方法:6施設62病棟(急性期一般入院基本料1と特定機能7対1を算定している病棟)に在籍する1,215人のスタッフ看護職の無記名自記式質問紙調査から得られたデータを,令和3年度病床機能報告公表データと結合させた.個人,病棟,病院の3レベルのマルチレベル分析にて超過勤務時間に影響する要因を検証した.
結果:本研究の対象者における超過勤務時間は日勤1回当たり約2時間であった.病棟の平均看護職当たり患者数が1人増加すると病棟の平均超過勤務時間が10分増加していた.一方で,病棟の重症患者割合,平均在院日数,及び1床当たり救急入院数は有意な影響を及ぼしていなかった.
結論:各病棟において看護職当たり患者数が減少すると超過勤務時間が減少する可能性が示唆された.
Objective: To clarify the factors of hospital wards that are related to overtime work by nurses.
Method: Data obtained from an anonymous self-administered questionnaire survey of 1,215 staff nurses enrolled in 62 wards at six facilities (General ward hospitalization basic fee 1 and special function 7 to 1) were combined with the data from the 2021 Report on the Bed Functions. We verified the factors that affect overtime hours by using a three-level multi-level analysis.
Results: Overtime hours for the subjects in this study were approximately 2 hours per day shift. When the average number of patients per nursing staff in the ward increased by 1, the average overtime hours in the ward increased by 10.5 minutes. Conversely, the percentage of critically ill patients in the ward, the average length of stay, and the number of emergency hospitalizations per bed displayed no significant effect.
Conclusion: The findings suggest that overtime hours in each ward could be reduced by increasing nurse staffing levels.
働き方改革によって,病院においても労働時間への注目が高まった.だが,関連法案の施行以降,「全国就業実態パネル調査」(層化2段抽出法による標本調査である「労働力調査」の母集団を反映するように割付を行ったデータ)によると全職種の長時間労働者(月45時間以上超過勤務者)の割合は減少傾向を示す中で,看護職は2019年に7.3%であったのが2021年に8.7%に上昇する等,改善が認められない(リクルートワークス研究所,2022).看護職の超過勤務に関する調査を概観すると,日勤後2時間以上働く者の割合は8.5%(日本医療労働組合連合会,2022),月当たりの平均超過勤務時間が17.4時間(日本看護協会,2021a)となっている.それほど多くないように見えるものの,看護職は24時間シフト制で夜勤がある勤務体制の者が多く,患者の生命に直接かかわる処置も多いことからわずかな超過勤務であっても心身への負担が大きい.更には,看護職の多くは子育てを行いながら働いているが,分単位の超過勤務が帰宅後の家事の忙しさや保育所の延長料金の負担増との有無と関わることも多い(竹中,2018).超過勤務の単純な数値だけを見て些末な問題と片付けるわけにはいかない.
一般労働者を対象にすると多少の超過勤務は健康問題には有意な影響を及ぼしていないことが報告されているが(Bannai & Tamakoshi, 2014),看護職に限定すると超過勤務は種々の健康問題と関連することが報告されている(Bae & Fabry, 2014).また,超過勤務の増加が患者の安全管理やケアの質の低下や,ケアのやり残しを有意に増加させたと言う報告がヨーロッパ12カ国(Griffiths et al., 2014),及び韓国(Cho et al., 2016)の看護職において報告されている.また,現場においては超過勤務の影響は離職の増加という形で現れることが多く,実際に超過勤務削減対策の実践報告においては,離職率の低下をその効果として報告するものが多い(廣岡,2020;稲垣,2021).従って,超過勤務の増加は病院の人材確保,看護職の健康やモチベーション,ケアの質の維持を困難にする可能性が高い.今後労働人口減少社会となり看護職になり得る人材が更に逼迫していく中では,超過勤務対策は重要性が高い.
超過勤務の主要な要因の一つに仕事量の多さがある(Takami, 2019;Watanabe & Yamauchi, 2018).課せられた仕事量が定時時間内で処理できる量を超えている場合,超過勤務が生じると考えられる.看護職の仕事量の規定要因としては,大きく分けると患者要因,看護職要因,組織運営要因がある(Alghamdi, 2016;Ferramosca et al., 2023).この3つの関係性を整理すると,仕事の需要に関わるのが患者要因であり,供給に関わるのが看護職要因である.この需要と供給のバランスが崩れると各部署・病棟の仕事量における「キャパシティ」を超え(Kohn et al., 2023),超過勤務が生じる.更に,このバランスはチームワークやサポートの有無,物品等がどの程度整備されているかなどの組織運営に関わる要因(Yanchus et al., 2017;Myny et al., 2012)に影響を受ける.本研究はこの3つの要因の中でも,特に仕事量バランスの主要な要因である患者要因と看護職要因に着目して検証を行う.この仕事量のバランスは,部署・病棟単位で考察することが重要である.看護ケアの性質と特性は部署・病棟によって大きく異なることや(Junttila et al., 2016),その影響を検証するためにはより実情を反映している部署・病棟単位が適切である(Hirose et al., 2022)ことが指摘されている.また,超過勤務時間の分散のうちかなりの部分が病棟レベルの分散で説明されており,超過勤務の要因に関しては部署・病棟単位の寄与が大きいことも報告されている(渡辺・山内,2019).
患者要因として考えられるのが患者の在院日数,患者の重症度,救急入院数,病床稼働率等である.在院日数の短縮は,より複雑なケアがより少ない日数に集約されることを意味し,節約された分の期間に入院した患者は退院した患者よりも多くの看護を必要とする(Cho et al., 2014).近年は入院基本料の要件やDPC及び機能評価係数における在院日数の評価により短縮が進み,一般病床の平均在院日数は2011年の17.9日から2021年の16.1日と短縮が進んでいる(厚生労働省,2021b).患者の重症度は,高いほど治療・処置や日常生活援助,リハビリ等を要するようになると考えられ,実際に医療従事者の仕事量が患者の重症度に応じて増加していることが示されている(Iosa et al., 2019).入院基本料施設基準における重症度,医療・看護必要度の基準該当患者の割合や要件は改正の度に厳正化されており,令和元年の急性期一般入院基本料1を算定する病棟における重症患者の割合は36.6%であったのに対し,令和3年度は40.2%に上昇している(厚生労働省,2021a).救急入院は,患者が健康状態の急激な変化の結果として入院するため緊急性が高く病歴等の情報不足があり(Tago et al., 2023;Willert et al., 2021),予定入院と比較して受け入れる病院の負荷は高まる.救急入院の年間搬送人員はコロナ禍で減少したものの,その前までは増加の一途を辿っていた(総務省,2023).救急入院に関連する診療報酬の新設や点数増加は相次いでおり,更には入院基本料の要件においても重症度,医療・看護必要度のA項目に「救急搬送後の入院」が追加された.更に,2022年度改定ではその期間が5日間に延長されている.病床稼働率は部署・病棟内のベッドの定数に対して特定の期間に実際にどのように使用されたかを表すものであり,高いほど特定の期間内における患者数が増加することを示している.病床稼働率に関するシステマティックレビューでは,75%の研究で稼働率が院内感染の発生率と関連していることが報告されている(Kaier et al., 2012).また,病床稼働率の上昇が褥瘡,院内肺炎,院内尿路感染の増加に影響していたことが示されているが,この背景には病床稼働率の増加による「過密さ」があることが指摘されている(Abhicharttibutra et al., 2018).この過密さは看護職の仕事量増加に大きく影響すると考えられる.
一方で看護職要因としては,一定の仕事量をこなすための人員がある.人手に関しては,看護職と患者の比率自体が「仕事量」測定のツールとして使用されることも多いが,この2つは別物である(Alghamdi, 2016).適切な人員配置が有意に看護職の仕事量の負荷に影響していたことが示されている(Ivziku et al., 2022).人員不足に関する過去の看護職に対する調査において,仕事を辞めたい理由として47.7%,医療事故の原因として81.7%の者が「人手不足」を上げている(日本医療労働組合連合会,2017;全国保険医団体連合会,2018).日本の人口あたり看護職数は他国と相違ないが,病床数が突出して多いために病床当たり看護職数が他国と比較して非常に低くなっている(武藤,2019).日本の病院では入院基本料において看護配置が定められているが,各入院基本料の最低人員で十分な充足感が得られるとは言い難い.こういった状況を踏まえ,より手厚い配置への加算を看護協会が厚生労働省に要望している(日本看護協会,2021b).図1に本研究の概念図を示した.

本研究の目的は,部署・病棟レベルにおいて看護職の仕事量増加要因のうちどれが超過勤務に影響しているのかを明らかにすることである.看護職の仕事量の規定要因である患者要因,看護職要因,組織運営要因の内,特に仕事量バランスの主要な要因である患者要因と看護職要因に着目して検証を行う.看護職の超過勤務がどういった要因に規定されるのかを部署・病棟単位で検証している研究はほとんど存在しない.これが明らかになることによって,各部署・病棟における超過勤務を減らすための方策を特定することが可能となり,看護職によってより働きやすい職場の実現や安定的な人材確保に貢献することが期待できる.
本研究の研究デザインは横断的研究である.無記名自記式質問紙を6施設に配布した.これらの施設はいずれも特定機能病院入院基本料7対1入院基本料あるいは急性期一般入院基本料1を算定する病棟を持ち,うち2施設は特定機能病院である.いずれの病院も首都圏あるいは首都圏の近郊県に立地する.研究対象をこれらの入院基本料を算定する病棟に特定した理由としては,急性期一般入院基本料を算定している病院の超過勤務が,それ以外の入院基本料を算定している病院と比較して多い可能性が高いからである.急性期一般入院基本料を算定している病院は比較的病床数が多いと考えられるが,看護職の実態調査にて病床数が多いほど平均超過勤務時間数が多い傾向が見られている(日本看護協会,2020).また,急性期一般入院基本料を算定していないと,「令和3年度病床機能報告公表データ」(厚生労働省,2022)において急性期一般入院基本料の重症度,医療・看護必要度が得られなかったためである.6施設の合計98部署に在籍する2,934人のスタッフ看護職(師長以外の部署勤務者)に質問紙を2021年10月から2022年2月にかけて配布した.
1. 質問項目 1) 超過勤務時間勤務前及び勤務後の超過勤務を両方とも把握できるように,勤務1回あたりの労働時間について「あなたは大体何時に部署に入り,何時に部署を出ますか.その時間をご記入ください」と言う質問から実働の労働時間を得た.ここから定時の労働時間を引くことで超過勤務時間を算出した.本研究においては,日勤の超過勤務時間を使用した.
2) 看護職属性性別,年齢,教育歴,夜勤の有無,未就学児の有無を含めた.子供の有無ではなく未就学児の有無を変数として投入したのは,超過勤務に影響するのは育児時間が長いと考えられる未就学児の方であると考えられるからである.子供がいる共働き世帯の家事・育児・介護時間は,夫婦ともに全体平均よりも6歳未満の子を持つ夫婦の方が長いことが示されている(内閣府,2020).
3) 部署・病棟の特徴「令和3年度病床機能報告公表データ」(厚生労働省,2022)より,「様式1_病棟票」から,各病棟の在院日数,病床利用率,1床あたり救急入院数,患者重症度,看護職当たりの患者数の変数を以下のようにして得た.在院日数は「在棟患者延べ数」/(1/2×(「新規入棟患者数」+「退棟患者数」),病床利用率は「在棟患者延べ数」×100/「許可病床数」×365,1床あたり救急入院数は「うち,救急医療入院の予定外入院の患者」/「許可病床数」として計算した.患者重症度は「A得点が2点以上かつB得点が3点以上またはA得点が3点以上またはC得点が1点以上の患者割合」(重症度,医療・看護必要度)を用いた.看護職当たりの患者数は,まず,各病棟の「看護師」と「助産師」(「常勤」と「非常勤」の合計)を合計した数を病棟の看護職数とした.次に,先行研究(Morioka et al., 2021)を参考にし,1日3勤務帯,1勤務帯8時間,看護職の年間労働時間を1,800時間と仮定して「在棟患者延べ数」×3×8/(「看護職数」×1,800)として算出した.
2. 倫理的配慮質問紙は無記名式であり,同封しておいた糊付けされた封筒に入れ,留置法にて回収された.関東学院大学における人に関する研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した(承認番号:2021-2-4).調査への協力は自由意志にもとづき,回答しなくても不利益を受けることはないこと,結果は統計的に処理し個人が特定されることはないこと,調査票およびデータの管理は厳重に行うことを説明書に明記し,回答をもって同意とみなした.
3. 分析方法本研究のデータは病院,部署・病棟,看護職の3レベル構造を持ち,それぞれのレベルの影響を考慮して分析を行うためにマルチレベル分析を実施した.病院レベルは,病院の影響を調整するためにレベルとして設定はしたものの,サンプル数が6と少ないため,説明変数は投入せずに分散の算出のみを行った.部署・病棟レベルにおいては,超過勤務時間に影響している項目を特定するために,部署・病棟の超過勤務時間を目的変数とし,在院日数,病床利用率,1床あたり救急入院数,患者重症度,看護職当たりの患者数を説明変数として重回帰式を設定した.部署・病棟レベルの説明変数は,病院平均で中心化した後に投入した.個人レベルにおいては,調整目的で超過勤務時間を説明変数,性別,年齢,教育歴,夜勤の有無,未就学児の有無を説明変数とした重回帰式を設定した.なお,調査実施時期は新型コロナウィルス感染症の流行期となっており,新型コロナウィルス感染症の患者用の部署・病棟においては通常より手厚い人員配置がなされている可能性が考えられた.このため,追加分析として看護職当たり患者数が3未満と非常に手厚い人員配置となっている病棟に関しては,当該病棟を除いた分析を実施した(付録1).
分析ソフトはMplus version 8.7を使用した.欠損値は完全情報最尤法を用いて処理した.
配布した2,934人中2,005人(68.3%),98部署から回答があった.98部署のうち患者重症度のデータを有する特定機能病院入院基本料7対1入院基本料あるいは急性期一般入院基本料1を算定している62病棟1,218人の看護職のデータを対象とした.1,218名分のデータの内,超過勤務時間,性別,年齢,教育歴,夜勤の有無,子供の有無の全てに無回答だった3名分のデータを除外し,1,215名分のデータを最終的な分析に使用した.
表1に本研究のサンプルの記述統計を示した.94%が女性であり,平均年齢は32.1歳であった.専門学校や短期大学卒の者は約半数(46%),既婚の者は3分の1程度(32%),子どもがいる者は2割程度(23%)であった.超過勤務時間の平均は1日あたり118.5分であった.病棟の特徴としては,病床数の平均が42.5床,重症患者割合(A得点が2点以上かつB得点が3点以上またはA得点が3点以上またはC得点が1点以上の患者割合)の平均が35.5%,在院日数の平均が11.9日であった.看護職当たりの患者数の平均は5.3人であった.
| 平均 | 標準偏差 | ||
|---|---|---|---|
| 個人レベル(N = 1,215) | |||
| 年齢 | 32.1 | 9.5 | |
| 経験年数 | 9.4 | 8.9 | |
| 残業時間(分) | 118.5 | 60.1 | |
| サンプル数 | 割合 | ||
| 性別 | |||
| 女性 | 1,131 | 94% | |
| 男性 | 78 | 6% | |
| 教育歴 | |||
| 専門学校・短大卒 | 552 | 46% | |
| 大学・大学院卒 | 654 | 54% | |
| 夜勤有無 | |||
| 夜勤有り | 1,132 | 94% | |
| 夜勤なし | 78 | 6% | |
| 婚姻歴 | |||
| 未婚 | 817 | 68% | |
| 既婚 | 381 | 32% | |
| 子供の有無 | |||
| 子どもなし | 929 | 77% | |
| 子どもあり | 272 | 23% | |
| 平均 | 標準偏差 | ||
| 病棟レベル(N = 62) | |||
| 病床数(床) | 42.5 | 7.5 | |
| 看護職数(看護師+助産師)(人) | 29.4 | 4.0 | |
| 在棟患者延べ数(人) | 11,735.2 | 3,156.4 | |
| 新規入棟患者数(人) | 1,127 | 388.3 | |
| 退棟患者数(人) | 1,113.5 | 376.3 | |
| 重症患者割合※ | 35.5 | 9.2 | |
| 在院日数(日) | 11.9 | 6.8 | |
| 病床利用率(%) | 75.6 | 15.4 | |
| 看護職当たり患者数(人) | 5.3 | 1.4 | |
| 1床あたり新規入棟患者数 | 26.5 | 7.9 | |
| 1床あたり救急入院数 | 4.2 | 3.5 | |
※A得点が2点以上かつB得点が3点以上またはA得点が3点以上またはC得点が1点以上の患者割合(%)
病棟当たり看護職の平均人数は19.6人,病院当たり看護職の平均人数は202.5人であった.超過勤務時間の級内相関は,病棟レベルでは21.2%,病院レベルでは22.7%であった.表2に,病棟レベルの変数間の相関行列を示した.
| 超過勤務時間 | 看護職当たり患者数 | 重症患者割合 | 平均在院日数 | 病床利用率 | 1床辺り救急入院数 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 超過勤務時間 | 1.00 | |||||
| 看護職当たり患者数 | .41 | 1.00 | ||||
| 重症患者割合※ | –.03 | .13 | 1.00 | |||
| 平均在院日数 | –.09 | .10 | .28 | 1.00 | ||
| 病床利用率 | .20 | .73 | .29 | .29 | 1.00 | |
| 1床辺り救急入院数 | .01 | –.20 | –.14 | –.29 | –.20 | 1.00 |
※A得点が2点以上かつB得点が3点以上またはA得点が3点以上またはC得点が1点以上の患者割合(%)
表3には,超過勤務時間を目的変数とするマルチレベル重回帰分析の結果を示した.病床利用率に関しては,これを投入した分析において超過勤務時間に有意な影響を及ぼしていなかったことに加え,看護職当たり患者数と病床利用率の間に0.73と高い相関があり多重共線性の懸念があったため,最終モデルからは除外して重回帰分析を実施した.その結果,看護職当たり患者数が超過勤務に有意な影響を及ぼしており,看護職当たり患者数が1人増加すると病棟の平均超過勤務時間が10分増加していた.
| 推定値 | 95%CI | P値 | ||
|---|---|---|---|---|
| 個人レベル(N = 1215) | ||||
| 性別(1=男性,0=女性) | 9.70 | [–3.50, 22.89] | .15 | |
| 年齢 | –0.40 | [–.83, .02] | .07 | |
| 夜勤有無(1=無,0=有) | –21.64 | [–41.32, –1.96] | .03 | |
| 教育歴(1=大学・大学院,0=専門・短期) | –2.54 | [–7.52, 2.44] | .32 | |
| 未就学児の有無(1=有,0=無) | –31.44 | [–39.57, –23.32] | .00 | |
| 病棟レベル(N = 62) | ||||
| 看護師当たり患者数 | 10.07 | [4.26, 15.88] | .00 | |
| 重症患者割合※ | –.04 | [–.77, .70] | .92 | |
| 在院日数 | –.46 | [–1.43, .51] | .35 | |
| 1床あたり救急入院数 | .81 | [–.77, 2.39] | .32 | |
| 病院レベル(N = 6) | ||||
| 残業時間(平均) | 137.07 | [112.93, 161.21] | .00 | |
| 残業時間(分散) | 891.12 | [431.48, 1,350.76] | .00 | |
※A得点が2点以上かつB得点が3点以上またはA得点が3点以上またはC得点が1点以上の患者割合(%)
看護職当たり患者数が3未満の病棟は5つ存在し,感度分析としてこの5病棟を除いた分析を実施した結果,看護職当たり患者数の影響はやや縮小したものの(看護職当たり患者数が1人増加すると病棟の平均超過勤務時間が約7分増加),有意な影響を及ぼしていた(付録1).
本研究は,主に部署・病棟レベルにおける超過勤務時間に影響する要因を明らかにすることを目的に分析を行った.
本研究での超過勤務時間は日勤1回当たり約2時間であり,単純計算では月当たり40時間程度の超過勤務となる.上述した過去の超過勤務に関する調査(リクルートワークス研究所,2022;日本医療労働組合連合会,2022;日本看護協会,2021a)と比較しても超過勤務時間が多いが,これは本調査対象病院が主に首都圏に立地するいわゆる「急性期病院」を対象にしていることが理由と考えられる.こういった病院では依然としてかなり長時間に渡る超過勤務が常態化していることが伺える.
分析の結果では,病棟レベルにおいては,超過勤務に対しては看護職当たり患者数のみが有意な影響を及ぼしており,重症患者割合,在院日数,1床あたり救急入院数は有意な影響は及ぼしていなかった.看護職当たり患者数が1人増えると病棟の平均超過勤務時間は1日あたり10分増加することが示された.1病院における超過勤務の影響要因を検証した研究では,看護師充足率が上昇すると超過勤務が有意に減少することが示されている(秋山,2019).各病棟において看護職当たり患者数が増加すると超過勤務時間も増加する可能性が高い.看護職あたり患者数と超過勤務の関連を検証した研究はほとんど存在しないものの,看護職あたり患者数の全般的な影響については研究が蓄積されている(Morioka et al., 2020;Hirose et al., 2022).また,18研究のシステマティック・レビューでは,ケアのやり残しに影響したことが報告されている(Griffiths et al., 2018).これは,看護職当たり患者数が増加すると患者状態悪化の発見や予防のための観察と言ったケアが省略され,死亡率等が上昇するというメカニズムが背景にあると考えられる(Clarke & Aiken, 2003).こういったケアの削減ややり残しを引き起こす主な要因として時間不足が指摘されている(Schubert et al., 2008).また,労働時間の延長と,定時時間の超過それぞれが看護職の疲労を増加させる可能性が報告されている(Griffiths et al., 2014).看護職当たり患者数の増加が時間不足を引き起こして超過勤務が発生し,疲労によってケアの削減が起こることで患者への悪影響が及ぼされると言うメカニズムが考えられる.
病棟における重症患者割合,在院日数,1床あたり救急入院数は超過勤務時間には大きな影響を与えているとは言えないことが示された.先行研究では,HCUレベルの患者割合は有意に病棟の超過勤務時間を増加させていたが,それより重症と考えられるICUレベルの患者割合は有意な影響がなかったことが示されている(秋山,2019).この事例では,超過勤務時間に対しては患者の重症度よりは患者の状態変化の激しさや処置のルーティン化が影響している可能性が指摘されている.在院日数と救急入院数も同研究では超過勤務時間に有意な影響があったことが示されているが,本研究では有意な影響があるとは言えない状況であった.人手不足は超過勤務に影響する一方で,全体的な仕事量の増加要因は影響があるとは言えなかった理由として,病棟における人手不足はそれを補う有効な病棟マネジメント方法があまり無いか,あるにしても超過勤務削減には有効でない可能性が考えられる.一方で,病棟全体の仕事量増加に関しては病棟のマネジメントによって比較的容易に超過勤務を増加させないような対応ができる可能性がある.例えば,病棟においてある程度人員が豊富であれば,全体的な仕事量が増加したとしてもそれを各スタッフ間で調整し合うことで超過勤務を抑制できる可能性が考えられる.しかしながら,病棟全体の重症患者割合,在院日数,1床あたり救急入院が一定だった場合でも,人手が不足するとその調整は困難なのではないかと考えられる.先行研究では,病棟全体の必要性を考慮しながら柔軟度の高い勤務スケジュールを組むことが病棟の超過勤務を有意に減少させたことが報告されている(Kullberg et al., 2016).こういった勤務スケジュールを作成するような病棟マネジメントも,人手不足下では柔軟性の確保が困難になることが予想される.
各病院においては,患者数に対する看護職数を厚くする努力は超過勤務の減少に寄与する可能性が高いことが示された.病院において,新規雇用で発生する諸経費を軽減するために常勤職の雇用停止で対応することがあることが指摘されている(Caruso et al., 2006).超過勤務は,増加した仕事量を担う労働力の確保を,新規雇用ではなく既存従業員の労働時間の延長で確保する策であるとも言える(Lobo et al., 2013;Louly et al., 2014).しかし一方で,超過勤務増加によるケアの質や医療安全の低下により,コスト削減効果については疑問が投げかけられている(Griffiths et al., 2014).本研究においても,患者数に対する看護職数を増加させてもその分超過勤務代を削減できる可能性が示されている.更には患者アウトカムの向上,またそれによる病院の評判向上による経営効果は,看護職の人件費上昇を相殺し得る可能性もあると考えられる.更には,超過勤務時間減少によって離職率が低下した場合はそれに伴う採用・研修費用も抑制できる可能性がある.
近年,都道府県立病院のうち,約4分の1となる49施設が2014年から2017年の間に労働基準監督署から労働時間等に関する是正勧告もしくは改善指導を受けていたことが明らかになっている(メディカルケア・ワークデザイン研究会,2018).看護職においては超過勤務に未払いがあることが以前より指摘されているが(日本医療労働組合連合会,2022;日本看護協会,2009),今後はより一層正確な労働時間の把握が各医療施設に求められていくことが予測される.これまでは離職率低下の戦略としての超過勤務対策を必ずしも必要としなかった病院においても,もし超過勤務代未払いがあった場合には正確な労働時間の把握によって人件費の大幅な増加が起こりうるため,超過勤務対策は急務となる可能性が高い.各病院においてどのような対策を講じるべきかを考えると,本研究の結果は,人員の検討がまず取り組むべき課題であることを示唆している.病床の機能分化への引き締めが厳しくなる中で,看護職当たり患者数を減少するために各病院が取り組むべき方策として考えられるのが看護職数を増やすことである.上述したように,長期的視点に立つと人員増は,病院の人件費率を必ずしも負担が高すぎる形で高める訳ではない可能性も示唆される.7対1以上の手厚い配置に対する診療報酬上の評価も,結果的には超過勤務削減に貢献すると考えられる.また,急性期一般入院基本料では傾斜配置が認められているため,同病院内でも病棟の看護職当たり患者数には大きなばらつきがある.各病棟の超過勤務時間や重症患者割合等の複数のデータを用いて,同一病院内においては複合的な観点から見て公平な看護配置となるように努める必要がある.患者の状況と看護職配置を可視化して病院全体でマネジメントする事例等が参考になる(秋山,2020;伊波,2022).
本研究の1つ目の限界としては,横断研究であるため因果関係の特定が難しいところである.本研究においては看護職当たり患者数が超過勤務時間に影響を及ぼすという方向性を想定したが,実際には超過勤務時間を考慮して各病棟で人員配置を調整した可能性もある.例えば,超過勤務時間が平均的に多い病棟において,その対策のために新規雇用や他病棟からの異動等によって当該病棟の看護職数を増やす等が考えられる.ただし,本研究においては看護職当たり患者数と超過勤務時間には正の関係性があるため,超過勤務時間が増加することに対して病棟の看護職を減らす対応をしたことになり,現実的には考えにくい.2つ目に,病院数が6,病棟数が62とサンプル数が少ないことである.サンプル数が少ないと標準誤差が大きくなり,推計値の精度が低い可能性がある.今後は,より多いサンプル数による追加調査を行う必要がある.3つ目に,本研究の対象病棟は急性期一般入院基本料1と特定機能7対1を算定している病棟に限定されていることである.これ以外の入院基本料を算定している病棟において同様の結果が得られるとは言えない.今後は,急性期一般入院基本料1以外の病棟における調査を重ねていく必要がある.
本研究の調査対象である急性期一般入院基本料1と特定機能7対1を算定している病棟の平均超過勤務時間は日勤1回当たりおよそ2時間であった.病棟の看護職当たり患者数が増えるほど病棟の超過勤務時間は有意に増加していた.一方で,病棟の重症患者割合,平均在院日数,及び1床当たり救急入院数は有意な影響を及ぼしていなかった.
謝辞:お忙しい中,調査にご協力いただきました看護職の方々にお礼を申し上げます.本研究は,2018~2022年度科科学研究費助成事業 若手研究(研究代表者 渡辺真弓),課題番号18K17443の助成を受けて行った研究の一部である.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:MW,MM,KY,MKは研究の着想およびデザインに貢献,MW,MM,MKはデータの入手,MWは統計解析の実施および草稿の作成,MM,KY,MKは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.