日本看護科学会誌
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原著
若年性認知症家族介護者の秘匿感情:秘匿から開示への過程における経験
出貝 裕子勝野 とわ子青山 美紀子森田 牧子前田 優貴乃
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2024 年 44 巻 p. 408-418

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Abstract

目的:秘匿感情をもつ若年性認知症家族介護者が,認知症の進行と共にどのような経験をして開示していったのかを記述し理解することであった.

方法:質的記述的研究デザインを用い,若年性認知症家族介護者8名に対し,半構造化面接によりデータを収集した.

結果・考察:秘匿感情とその生じる背景として,【保持したいプライバシー】【偏見の存在】【守りたい自身の自己像】が抽出された.時間の経過とともに開示していく中で【相手との関係性に左右される開示抵抗感】【開示により生じる支障の見積もり】【開示により目指す当事者の希望の実現】【認知症の進行とともに変動する開示して得る支援ネットワークの必要性】【疾病受容に伴うセルフスティグマの変化】【開示の扉を開く外力】等を経験していた.介護生活の見通しを立てる支援,家族介護者の秘匿あるいは開示に対する認識や価値づけをアセスメントし心に寄り添う支援を行う必要性が示唆された.

Translated Abstract

Objective: To describe and understand how the concealment feelings and behaviors of family caregivers of persons with early-onset dementia changed and were eventually disclosed as dementia progressed.

Method: Using a qualitative descriptive research design, data were collected through semi-structured interviews with eight family caregivers of persons with early-onset dementia.

Results & Discussion: “Wanting to maintain privacy,” “stigma,” and “wanting to protect self-image” were extracted as reasons for concealment and their background. In the process of disclosing feelings over time, family caregivers experienced “resistance to disclosure determined by the relationship with the other parson,” “evaluation of the effects after disclosure,” “a desire to fulfill their loved one’s wishes through disclosure,” “need for the support network that can be gained through disclosure which changes as dementia progresses,” “changes in self-stigma associated with disease acceptance,” and “external forces opening the door of disclosure.” These results suggest the need for support that makes a forecast for long-term care life, and that also assesses the family caregiver’s perceptions and values toward hiding or disclosing and understands their feelings.

Ⅰ. 研究背景

我が国における若年性認知症者数は2018年の調査で3.57万人と推計される(粟田,2020).若年性認知症者を介護する家族介護者(以下家族介護者)には老年期発症認知症者の家族介護者と比較すると特有の課題がある.粟田(2020)は,家族介護者に特に多い困り事として将来的な経済状態に対する不安があること,認知症者がデイサービスに行きたがらないこと,介護者自身の仕事に支障が出ること,さらに,多重介護がより多いことを報告している.国外でも家族介護者には多重介護が必要な状況が生じやすいこと(Gibson et al., 2014Withers et al., 2021),心理的には介護自己効力感の中で,思考をコントロールする自己効力感が低いことや精神的ストレスが高いことが報告されている(Wawrziczny et al., 2018).

また,家族が認知症と診断された家族介護者が周囲に言えず孤立感や疎外感を感じること(原田・安孫子,2015市森ら,2016小池ら,2015),介護の抱え込みや閉鎖的な介護が生じていること(横瀬,2012)が報告されてきた.家族介護者の疎外感や閉鎖的な介護の要因として,認知症に対する羞恥心・周囲の偏見(市森ら,2016小池ら,2015)やそれを避けるための秘匿傾向(横瀬,2015)が示唆されている.特に妻が介護する場合に秘匿傾向が強く一人で抱え込む傾向が示唆されている(横瀬,2012).

家族が認知症であることを秘匿することは,家族介護者にどのような影響があるのであろうか.粟田(2020)は,家族介護者の介護負担がより重くなる傾向,近所付き合いの減少,社会との接点の減少などを指摘している.さらに,家族介護者は,認知症の診断時から社会からの孤立を体験し,診断後にも体験していることが報告されている(浦田・安武,2019).幻覚・妄想等の症状悪化により認知症者を一人で置いておけない状況になることや介護者自身の身体の不安をきっかけにサービス利用を決定する状況(原田・安孫子,2015)などから,他者からの支援がないと生活が立ち行かなくなるぎりぎりまで一人で抱え込んでいる家族介護者の姿が浮かび上がってくる.家族介護者の介護生活を縦断的に捉えた先行研究では,家族介護者の心の安定のために友人や家族会等の第三者の支援の重要性が示されている(宮嶋ら,2021).しかし,他者との支援体制構築の具体的内容やその前提として他者にどのように開示していったのかは明らかになっていない.

以上から,家族介護者の秘匿感情が,どのような経験で生じるのか,また,秘匿感情がありながら他者に開示し支援を得ていく過程でどのような経験をしているのかをより明確に理解することが,具体的な介護家族支援を検討する上で必要であると考える.この経験が明らかになることによって,閉じられた介護から周囲の人に支援を求めるきっかけについて示唆が得られると考える.さらに,それにより若年性認知症者の家族が孤立せずに必要なタイミングで必要な支援を得る行動を促進する方策の検討ができると考える.

Ⅱ. 目的

若年性認知症者の家族介護者がどのような秘匿感情を持ち,認知症の進行とともにどのような経験をして若年性認知症と診断されたことを開示していったのかを記述し理解することにより,家族介護者支援について示唆を得ることを目的とした.

Ⅲ. 用語の定義

秘匿感情

本研究では,秘匿感情を「家族が若年性認知症であることを隠したい・誰にも言えない・秘密にしたい感情」と定義する.

Ⅳ. 方法

1. デザイン

質的記述的研究デザイン

2. 研究参加者及び標本抽出方法

目的的標本抽出法及び機縁法を用いた.関東圏にある1か所の若年性認知症家族会の会員,および研究者らが参画するインフォーマル支援活動の参加者や知人に参加を依頼した.参加要件は,介護経験が5年以上であること,若年性認知症者が施設入所あるいは他界している場合は,想起して語ってもらうことが可能な期間を考慮し入所・他界後5年以内であることとした.了解の得られた10名の内,秘匿感情を有していた8名を研究参加者とした.

3. データ収集方法

面接調査の経験を有する研究者1名がインタビューガイドに基づく半構造的面接を個別に実施しデータを収集した.面接方法は対面及びオンラインとし,面接場所はプライバシーが守られる参加者の自宅および公共施設であった.面接内容は,背景情報,秘匿感情とその感情が生じる背景,認知症の進行に伴う秘匿感情の変化等であった(例.家族が若年性認知症になったことで,誰にも言えない・隠したい感情が生じましたか?強く感じた時はどんな時でしたか?).オンライン面接には,Zoomを用い了解を得てインタビュー内容を録音した.面接時間は平均81分(SD = 13)であった.データ収集期間は2020年1月~2021年10月であった.

4. 分析方法

質的な内容分析(グレッグら,2017)により分析を進めた.許可を得て録音したデータから逐語録を作成し精読したうえで,文脈に沿って「家族介護者の経験している秘匿感情と背景」「開示していく経過の中での経験」に関する記述を抽出した.そして,抽出したデータを意味内容が変化しないように抽象化し,コード化した.その後,コードを内容の類似性・相違性に着目して分類し,抽象化しサブカテゴリー,カテゴリーを抽出した.

分析においては,質的研究の経験のある研究者間で繰り返し検討し,分析内容について合意するまで確認し,分析の真実性を確保した.

5. 倫理的配慮

亀田医療大学研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:2019A007・2020A020).研究参加者には文書を用いて研究の趣旨や自由意思による参加であること,データの管理方法,公表方法等について説明し,文書により承諾を得た.

Ⅴ. 結果

1. 研究参加者の背景

8名の研究参加者の背景を表1に示した.8名全員が若年性認知症者の配偶者であり,女性6名と男性2名で,平均年齢65.4歳(SD = 8.3),平均介護期間は9.1年(SD = 2.8)であった.7名が家族会に参加していた.若年性認知症者の診断名はアルツハイマー型認知症が4名で最も多かった.診断時の平均年齢は54.5歳(SD = 6.9)であった.

表1 研究参加者の背景

平均(SD) 度数(%)
年齢 65.4(8.3) 続柄
診断後の介護期間1 9.1(2.8)  配偶者 8(100.0)
性別
若年性認知症者の診断時 54.5(6.9)  女性 6(75.0)
年齢  男性 2(25.0)
診断名
 AD2 4(50.0)
 FTD3 2(25.0)
 その他 2(25.0)
若年性認知症者の現在の状態
 他界 6(75.0)
 施設入所中 2(25.0)

1 診断後,入院・入所・死亡までの期間

2 AD:アルツハイマー型認知症

3 FTD:前頭側頭葉変性症

2. 若年性認知症家族介護者の経験している秘匿感情と背景

抽出されたカテゴリーは【 】,サブカテゴリーは「 」,生データは斜体で記述する.研究参加者が語った秘匿感情とその背景としては,3つのカテゴリーが抽出された(表2参照).その内容は,【保持したいプライバシー】【偏見の存在】【守りたい自身の自己像】であった.

表2 秘匿感情が生じる背景とその時期

カテゴリー サブカテゴリー コード 時期
保持したいプライバシー 知られることへの抵抗 人に知られたくない(B) *
自分の友人に当事者の疾病ことを話したくない(B) 入院後2年位まで
隣人には病気を話せない,隠したい気持ちがある(E) 発症時
症状がひどくなってきた時期には誰にも言えなかった(D) 症状悪化時
近所の人には話さない(G) 診断時期
親や友人に言えない(I) 初期
あえて触れない見えていない状態の維持 症状が明らかでないうちに入院となった場合は認知症であることは近所の人に言わない(A) 入院時(初期)
向こうから聞かれることも違和感を伝えられることもないため黙っている(H) *
偏見の存在 開示後に危惧される偏見や憐憫 この病気の社会との隔離・差別,憐みを受けたくない思いはあった(E) 診断時期
自分が孤立することは世の中の病気に対する偏見があること(E) 現在まで
当事者に生じる名誉の侵害 当事者の名誉を考えさらけ出したくない(B) *
できないことを他者に見せたくないという当事者の羞恥心を考慮して知られないようにしたい(B) 発症時
自己の内にある偏見 初期から失語症状があり疾患を理解できずばかになっていくのかと感じて他の人に言えない(A) 初期
スティグマがある隠したい気持ちから必要以外の人に対してが言わなかった(J) 現在まで
自分自身も(偏見を)持っている裏返し(E) 現在まで
守りたい自身の自己像 表出できない援助を必要とする自己 孤立感は介護者として自分がやらないといけないのに出来ないこと,誰か助けてといえない(E) *
開示で危うくなる自尊感情 プライドが近所の人に病気のことを言うことを阻害する(A) 死別後まで
病気を話したことで相手が気配りするのは耐えられない(E) 現在まで
自分が打撃を受けていることを他者に見せられない(B) *

*時期が特定されないコード

【保持したいプライバシー】は,「知られることへの抵抗」「あえて触れない見えていない状態の維持」から構成された.「知られることへの抵抗」は,発症時や診断時期を含む初期,さらに症状悪化時に経験していた.家族介護者は親や友人,近隣の人々には話せず孤立した状況であった.

個人的には……隠したいというか,あまり人に知られたくないっていう感情はよりはっきり持ってたんですよね(B氏)

(社会的孤立感は)あります.隣人には全くしゃべれない.この病気になったこと自体を隠したい気持ちがある(E氏)

特におかしくなってきたときに,しばらく誰にも言えなかったし,友達にももちろん主人がそうなっているって(D氏)

「あえて触れない見えていない状態の維持」は,症状が他者の目に明らかにならない初期の状況では隠す気持ちとなっていた.

(近所の人に)多分しゃべらないでそのまま……病気で入院しやったのよっていうぐらいで(A氏)

【偏見の存在】は,「開示後に危惧される偏見や憐憫」「当事者に生じる名誉の侵害」といった周囲からの偏見にさらされることを避けようとすることから生じる秘匿感情と,「自己の内にある偏見」といった家族介護者自身の中にある偏見に基づく秘匿感情から構成された.これらの感情は,病気の発症時や診断時期を含めた初期からインタビュー時まで継続して経験していた.

「開示後に危惧される偏見や憐憫」について家族介護者は,病気を知られることにより社会からの隔離や差別を受けるのではないかという懸念や他者からの憐みを受けたくない思いを以下のように語った.

座談会にでることによって世間がどういう目で見るか,哀れみを受けたくないとかがある……自分の病気ではないが社会との隔離,差別みたいなもの(E氏)

孤立するということは世の中が病気に偏見を持っているだろうと思う(E氏)

「当事者に生じる名誉の侵害」では,認知症をもつことによる世間からの認知症者に対する低評価への懸念が語られた.

いや,正直言うと,あの,家内の名誉の為を考えれば,え~今特定されないというベースで,あれなんですけど,曝け出したくはないですね.正直なところはね(B氏

「自己の内にある偏見」

認知症であることは他者からの偏見と同時に家族介護者自身の中にある偏見に直面せざるを得ない経験となっており,以下のように語った.

(隠したい気持ちが)うーん,それはありますね……何もわからないわけじゃないんだろうけれども,うちはすぐ言葉がでなくなったじゃない……やっぱりだから,おばかさんになってっちゃうのかなーっていう……混乱してそういうふうになるんだっていうのが,なかなかこっちが理解できなかった(A氏)

外から見た時のことを思ってしまうところがあるから必要以外の人に対しては言わなかったというのはそういうこと(スティグマ)なのかもしれない(J氏)

【守りたい自身の自己像】は,「表出できない援助を必要とする自己」「開示で危うくなる自尊感情」の二つのサブカテゴリーから構成された.

「表出できない援助を必要とする自己」

家族介護者は介護することを自分の責任と感じ,その責任感から他者からの支援を受けることが出来ない状況を語った.

孤立感は自分に介護者としての責任,自分がやらなくちゃいけないのにできないこと,そういう時に誰か助けてというわけにはいかない(E氏)

「開示で危うくなる自尊感情」

開示することで己の自尊感情が危うくなる気持ちとそれに伴う他者と疎遠になる行動について,男性介護者であるB氏は以下のように語った.

打撃を食らっているんだけど,もともとそれを見せられないから,見せないって面もあるじゃないですか?見せられないから会いたくない.(B氏)

3. 開示していく経過における経験

インタビューにより開示していく中で経験していることと開示したことで経験したことが語られた.

1) 開示していく経過の中での経験

家族介護者は秘匿感情を抱きながら,少しずつ開示し支援が得られるようになっていた.親族や友人,職場関係者以外の人に自ら開示するようになったきっかけとして,家族会参加を機に会以外でも開示するようになった参加者(E氏),家族介護者が仕事を始めることがきっかけになった参加者(D氏),認知症進行に伴う症状が顕著になりその対応により開示した参加者(A氏,I氏,J氏),明確なきっかけがない参加者(G氏),自分からは言わない(B氏,H氏)参加者がいた.その経過の中で経験していることとして,以下の12のカテゴリーが抽出された(表3参照).家族介護者は,【相手との関係性に左右される開示抵抗感】【開示により生じる支障の見積もり】【開示により目指す当事者の希望の実現】【開示しない選択による支障の見積もり】【認知症の進行とともに変動する開示して得る支援ネットワークの必要性】【理解されたい欲求とあきらめ】のバランスにより多面的な観点から開示するか否かの判断をしていた.開示の促進につながる経験としては【疾病受容に伴うセルフスティグマの変化】【開示を促進する時間の経過】【開示の扉を開く外力】があった.そして【限定的開示】として段階的に開示したり,【開示に向けた心を強くする準備】をし,さらには開示によって【加速する開示】も経験し開示を拡大していった.

表3 秘匿から開示していく経過の中で体験していること

カテゴリー サブカテゴリー 代表的なコード 時期
相手との関係性に左右される開示抵抗感 同じ体験者に対する開示抵抗感の軽減 同じ立場の人には話せる(B) *
信頼関係のある人に対する開示抵抗感の軽減 言いたいことが言える関係だったから話しやすかった(D) *
色々話を聞いてくれる仲のいい友人の存在(D) 在宅介護期間
日頃の交流の少ない人に対する開示抵抗感 交流の少ない近所の人にこちらから大っぴらに言うことはできない(A) 初期
元々付き合いが少ない周囲の人に聴かれることもなかったため疾病のことを言わない(H) 在宅介護期間
開示により生じる支障の見積もり 遺伝にまつわる偏見への懸念 遺伝性と言われることが嫌で隠すことにつながる(A) *
病気を知らせることが結婚している子どもの離婚に引き金になることを危惧(A) 診断時期
回避したい開示相手への心理的衝撃 友達に言えないのは,びっくりするかなと思う気持ち,気を使わせてしまう(D) *
高齢の両親に心配かけたくないという気持ち(I) 診断時期
家族にショックを受けさせたくない気持ちと一緒に受け止めたい気持ち(E) 診断時期
開示後に予測される苦痛・被害の危険性 心無い言葉で打撃を受ける可能性があるため会わない方がよい(B) *
周囲の人を良く知らないため,悪いことに巻き込まれることがないよう知られたくない(B) 発症時
開示により目指す当事者の希望の実現 開示により実現した当事者の希望 連絡をくれた当事者の親しい友人で,当事者が会いたがったため疾患について話した(B) 在宅介護期間
開示しない選択による支障の見積もり 自分の職場への支障による判断 職場で言いふらすようなものではない(D) 在宅介護期間
敢えて言わなくても仕事自体に支障なし(D) 在宅介護期間
開示しないことで予測される支障 突発的な事態に備えて(D) 在宅介護期間
近所の人の協力をがないと仕事を始められない(D) 在宅介護期間
一人で抱え込んだら自分の健康を害する(D) *
疾病を伝えない人とのつながりを維持する際のつらさ(B) *
認知症の進行とともに変動する開示して得る支援ネットワークの必要性 開示の有益さの認識 夫が迷子になったりどこかで寝てしまう心配で近所の見守りがあれば安心(D) 在宅介護期間
地域支援ネットワーク構築の必要性による開示判断 近所の子供に失語症状のある夫への対応方法を伝えた(A) 症状悪化時
近所の人には支援の必要性から話す(A) 症状悪化時
相談しても満足の行く答えが返ってこないことが多いため,相談する人は限定される(H) *
開示が不要な自立の段階 ある程度自立している段階では他者に話さなくてもよいのではないか(A) 初期
地域からの支援を見越した準備 進行していく病気であることから予め近所に行っておいた方が良い(A) 症状悪化時
近所の人の支援してもらわざるを得ない状況が来るため隠しても意味がない(A) 症状悪化時
理解されたい欲求とあきらめ 理解してもらえる人の判断 分かってくれる人がいるかもしれないから発信したいという思いもある(B) *
相手が人の気持ちが分かる人かどうかをみて話す(E) 現在まで
理解してもらえることのあきらめ 理解してもらえない可能性から(隠す)(D) *
同じ境遇でなければ,話しても理解してもらえないから話しても仕方がない(B) *
開示の扉を開く外力 開示のきっかけとなる相手からの接近 心配して聞かれたことを機に,自分の兄弟に伝えた(G) 診断時期
症状が進み,疾病を疑われたことで親類にも話した(G) 症状悪化時
聞かれれば疾病のことを言うが自分からは言わない(H) 現在まで
隠しようがなくなった症状 症状が第3者にも認識されるようになったら隠す必要がない(A) 症状悪化時
症状や介護している姿が周囲に人にも目に見えるようになって周囲の人から指摘されるようになり言わざるを得ない状況になる(A) 症状悪化時
開示のきっかけとなる家族会の雰囲気 家族会の勢いで病気のことを話せる(A) 家族会参加時
疾病受容に伴うセルフスティグマの変化 同じ体験者との出会いによる羞恥心の解消 家族会とつながり自分だけはないことが分かり,病気であることを言っても恥ずかしいことではないと思えた(A) 家族会参加時
疾病受容の進展による秘匿の無意味化 認知症を受け入れてからは隠すことに意味を感じない(A) 症状悪化時
自分の中で当事者の疾病を受け入れられてきたことで話せるようになった(G) 施設入所後
加速する開示 他者に話すことで加速する開示 近所の人1名には病気のことを話した後は,介護中のエピソードも話せた(A) 症状悪化時
開示を促進する時間の経過 開示を促進する時間の経過 介護中のエピソードは介護が終わってからよく話している(A) 死別後
まとめて話せるようになるには時間がかかる(B) 現在まで
限定的開示 相手を限定した開示 皆にオープンにはできなかった思い(J) 現在まで
選択した内容での開示 友人に症状に関連した出来事位しか話していない(D) 在宅介護期間
友人にも具体的に金銭的なことは言わない(D) 在宅介護期間
家族には本当に大変な部分(介護)は見せていない(B) *
大きな場所や表舞台では本音は出にくい(B) *
開示に向けた心を強くする準備 開示に向けた心を強くする準備 実母に病気を伝える為に受けたカウンセリング(I) 診断時期
外枠を固めてからの両親への病名の報告(I) 診断時期
信頼する親戚に事前に求めた支援(I) 診断時期

*時期が特定されないコード

【相手との関係性に左右される開示抵抗感】は,「同じ体験者に対する開示抵抗感の軽減」「信頼関係のある人に対する開示抵抗感の軽減」「日頃の交流の少ない人に対する開示抵抗感」のサブカテゴリーから構成され,それまでの話しやすい関係性の有無や,同じ経験の有無によって開示しやすい対象に開示していた.

同じ病気をやった人は,その点ね 家族会なんかは.いい……(B氏)

仲が良くていろいろお互いに言いたいことが言える関係だったから,余計に話し易かった……(D氏)

やっぱり初期のころ,近所には言えなかったっていうか,近所の人との交流もあまりなかったから……(A氏)

【開示により生じる支障の見積もり】【開示しない選択による支障の見積もり】では,家族介護者は,開示した場合あるいは秘匿し続けた場合に生じる可能性を想定して開示するかどうかを判断していた.開示により生じると想定される「遺伝にまつわる偏見への懸念」「回避したい開示相手への心理的衝撃」「開示後に予測される苦痛・被害の危険性」という望ましくない事態を想像することで秘匿につながっていた.逆に,秘匿を継続することで「自分の職場への支障による判断」あるいは「開示しないことで予測される支障」を見積もって開示するか否かの判断につながっていた.

「遺伝にまつわる偏見への懸念」では,認知症が子どもの婚姻関係にまで影響する懸念が語られた.

例えば娘のお姑さんとか,娘夫婦に言えば,やっぱり夫の方にも伝わるし,そうするとやっぱり離婚状態にとか,そういうひとつの引き金になったら嫌だなって思うのはありましたね.(A氏)

「開示後に予測される苦痛・被害の危険性」では,認知機能低下による他者から受ける不利益や被害への懸念が語られた.

誰が住んでいるかもわからないんだから,どっちかというとそりゃ,知らせない,悪いことをする人がいる確率も相当あるわけだから,だから,自分は意図的にあの,知られたくないと思っている.(B氏)

「開示しないことで予測される支障」では,介護を一人で抱え込むことで生じる健康への懸念が語られた.

誰でもいいんですけど,支援する人が絶対に必要.自分の中で抱え込んだら絶対 その人が病気になったりするのかなって思います.病気になってもおかしくない.(D氏)

【認知症の進行とともに変動する開示して得る支援ネットワークの必要性】は,認知症の行動心理症状(Behavioral Psychological Symptoms of dementia, BPSD)が出現し始める時期に多く語られており,「開示の有益さの認識」「地域支援ネットワーク構築の必要性による開示判断」「開示が不要な自立の段階」「地域からの支援を見越した準備」といったサブカテゴリーから構成された.

「開示の有益さの認識」では,当事者の認知症の進行にともなう危険性の認識から近隣の人々への開示を決断したことが語られた.

家にいる間にやっぱ,なんかその,フラーって行って帰って来れなくなるんじゃないかなとか,そういうのもあったので,(開示した)(D氏)

「地域からの支援を見越した準備」では,認知症の進行により周囲の支援が必要になることを予測した開示の判断が語られた.

だからもう,やっぱ事前に言っておいた方がいいんだなって.いずれやっぱり病状,病気そのものが変化していく訳だから,だから最初に言った方がいいのかな,って(A氏)

【理解されたい欲求とあきらめ】は,「理解してもらえる人の判断」「理解してもらえることのあきらめ」の対極的なサブカテゴリーから成り,開示する相手が理解してくれそうかどうかで判断していた.

「理解してもらえる人の判断」では,開示前に相手の資質を評価することが語られた.

相手がちゃんと人の気持ちが分かる人かどうかみる,一言でいうと思いやりのある人かどうか(E氏)

「理解してもらえることのあきらめ」では,同じ境遇の他者でなければ,介護の現実を理解してもらえないという認識から他者からの理解を得ようとするあきらめが語られた.

いくら話しても同じような境遇な人じゃなきゃわかりませんよって,われわれの結論です.だから,話してもしょうがないんだよね.(B氏)

以上のような家族介護者自身の判断以外に【開示の扉を開く外力】によって開示していく経験も語られた.このカテゴリーは,「開示のきっかけとなる相手からの接近」「隠しようがなくなった症状」「開示のきっかけとなる家族会の雰囲気」のサブカテゴリーから構成された.

「開示のきっかけとなる相手からの接近」では,自分からは他者に開示出来ない状況の中で,他者からの気遣いの声掛けで開示に至った経験が語られた.

夫の姉から電話がかかってきて「おかしいよ,病気なの?」ということで初めて本当の事を話した.(G氏)

「隠しようがなくなった症状」では,認知症の進行にともなって諸症状が他者の目に明らかになっていくなかで開示していく心の動きについて語られた.

やっぱりね,症状がある程度ひどく,誰から見てもおかしいっていうような,徘徊が多くなったとか,そうなったら隠しといても駄目なのかな,とは思うけど(A氏)

【疾病受容に伴うセルフスティグマの変化】は,介護者自身の自己及び疾病のとらえ方が変化したことにより秘匿することに意味を感じなくなることを示すカテゴリーである.「同じ体験者との出会いによる羞恥心の解消」「疾病受容の進展による秘匿の無意味化」のサブカテゴリーから構成された.

「同じ体験者との出会いによる羞恥心の解消」では,同じような経験をしている他者がいることの認識が,家族の認知症を恥ずかしいという思いをなくしていくことが語られた.

(家族会)に結びついたことによって,ああ,自分家だけじゃないんだ,っていうのが分かったので,それで少しは言っていけばいいっていうか,恥ずかしいことじゃないんだな(A氏)

「疾病受容の進展による秘匿の無意味化」では,介護者自身が被介護者の認知症を受け入れたことが,隠すことに意味を与えないことが語られた.

それ(認知症を受け入れたこと)過ぎたらもう隠したって全然意味がないし(A氏)

2) 開示後に経験したこと(表4参照)

若年性認知症家族介護者は様々な経験をする中で,開示に至っていた.開示によりどのような経験をしているかは家族介護者支援において重要な視点となる.本研究では,開示したことで【開示により生じる前向きな心理】【開示により獲得する直接的支援】【開示により生じる心理的負担】といった経験をしていたことが語られた.

表4 開示により生じたこと

カテゴリー サブカテゴリー コード 時期
開示により生じる前向きな心理 姻族からの変わらない承認 病気のことを理解してくれる姻族であり責められるようなことはなかった(A) 診断時期
ほっとする安心感 近所の人に病気のことを話してよかったと思うため,他の家族にも話して近所の人との支援体制を得るように助言する(A) 症状悪化時
見えてくる希望 会社の女性陣に吐き出すことで,頑張ろうかなとリセットされた気持ち(J) 現在まで
病気のことを他者に話せるようになって自分だけではないから卑屈にならなくてよいと感じる(A) 家族会参加
ピアサポートグループで相談もできたことが心の支えになった(G) 家族会参加
心が解放される心情 他者に話すことで気持ちが楽になる(G) 家族会参加
同じ立場の人との何気ない会話に救われた気持ち(J) 家族会参加
自分の状況を言えると軽くなる(B) *
開示により獲得する直接的支援 開示により獲得する直接的支援 当事者が一人で歩いているとどっちにいったかを近所の人が教えてくれるようになった.(A) 症状悪化時
家族と協力していたため介護負担感はなかった(A) 症状悪化時
開示により生じる心理的負担 精神的侵害 無理解による心無い言葉で傷つけることはよくある(B) 在宅介護期間
理解してもらうまでの険しい道 症状が進んでいることを親類に理解してもらえず,冷たいと感じる(G) 症状悪化時
理解していない人に口出しされると文句を言ってしまう(H) *
外から見て理解してもらえない中で大変だった(H) 診断時期
娘に対して取り繕う妻と母親の病気を信じない娘(E) 診断時期

*時期が特定されないコード

【開示により生じる前向きな心理】は開示したことで心理的安寧が得られる経験であり,「姻族からの変わらない承認」「ほっとする安心感」「見えてくる希望」「心が解放される心情」から構成された.

「姻族からの変わらない承認」は悪影響を心配したものの変わらず受け入れられた経験である.

あっち(姻族)のご両親もそういうのは,誰でもなるものだっていう意識はあったみたいで,だから責められるっていうのは娘もなかった(A氏)

「見えてくる希望」は共感が得られ,前向きな気持ちになれる体験であった.

会社の女性陣に対しては,大変だねーといってもらって頑張ろうかなとか,そういう場があったからよかったと思う.職場でリセットさせてもらっているから続けてこられたのもある(J氏)

他方,【開示により生じる心理的負担】として「精神的侵害」「理解してもらうまでの険しい道」といった望ましくない経験も語られた.家族介護者は以下のように語っていた.

同じ境遇じゃないとわからない,分からないで言っている人たちは実に,分からないで心無い言葉を容赦なく浴びせて,めちゃめちゃに傷つけているのは,なんか本当に普通に行われているなって思った(B氏)

(娘に)お母さんが病気だというとびっくりして最初はしょっちゅう来ていた.取り繕うから最初は,「お母さん,どこが病気なの?」と.お父さんの方がおかしいと言われた(E氏)

Ⅵ. 考察

1. 研究参加者の特性

本研究参加者は,平均65.4歳で平均約9年の長期にわたる介護期間で多様な経験を有する家族介護者であると言える.この経過の中で,若年性認知症の当事者あるいは家族介護者自身の職場との調整も必要となった経験やまだ若い子どもの婚姻への影響を心配する経験も語られ,若年性認知症者の家族としての特徴が表れていたと考える.

2. 秘匿感情の背景

8名の家族介護者は,言いにくい,隠したい等様々な程度の秘匿感情を抱いていた.秘匿感情の背景には,家族介護者自身も含め社会にある偏見や認知症に対する理解不足があること,他者に助けを求めることや支援が必要な自分を見せられないという家族介護者自身のプライドがあると推察される.

若年性認知症あるいは認知症の特徴として疾病に対する偏見の存在がある.偏見は日本に限らず存在し,また,老年期発症の認知症よりも若年性認知症に強いとされ(Werner et al., 2020),介護負担感やQOL低下に関連すると言われる(Velilla et al., 2022).本研究に参加した家族介護者も社会あるいは自己内にある偏見によって,当事者の名誉が侵害される,あるいは他者から憐れみを受けるという捉え方が表出されていた.認知症であることを知られたくないと感じることは若年性認知症の家族介護者に限らず報告されている(秋吉ら,2016)(廣瀬・生田,2010).しかし,これらの文献では名誉が侵害されることへの危惧は明確に語られていない.他方,精神障がい者を対象にした報告でも当事者を隠そうとすること(松下,2019)やパートナーが孤立する体験(林・蔭山,2020)が報告されている.パートナーが孤立する体験の要因として周囲から理解が得られにくいという体験は本研究と同様であるが,憐れみを受けるということではなく,病気を自分(パートナー)のせいにされることが語られていた(林・蔭山,2020).不名誉あるいは憐れみをうける疾病であるという捉え方はとりわけ若年性認知症により強く生じる可能性があると推測される.これは,認知症・若年性認知症に対する理解不足がいまだ解消されていないことを示しており,当事者・介護家族とともに行う地域づくりの強化が求められていると考える.

「自己像を守るための秘匿感情」は男性参加者の語りが比較的多いカテゴリーであった.在宅で介護する男性介護者は女性介護者と比較し,【周囲の援助活用力】【介護に対する負の感情表出力】が低いとする報告(櫟ら,2019)にも通じる.さらには,【介護に対する負の感情表出力】は介護負担感との関連が認められている(櫟ら,2019).特に男性介護者にとって,愚痴をこぼし弱音を吐く場や情緒的サポートの構築を支援することも必要である.加えて,後述する介護に対する意味や自己像の再構築を進められるよう,専門職としてカウンセリング的な関係性を早期に構築していくことが重要であると考える.

3. 秘匿感情を持つ家族介護者が開示により必要な支援を求めていった変化

2000年以降の文献では,若年性認知症家族が,診断後に周囲に隠したり,介護を抱え込むといった社会から孤立している体験,および他人に介護の一部を頼る等の介護とうまく付き合っていくための工夫の体験をしていることが報告されており(浦田・安武,2019),本研究でも大筋としてこれと類似する結果が得られた.本研究結果の新規性は,家族介護者の秘匿から開示していく経過の中での開示を促す経験および開示を躊躇させる経験について詳細に記述した点である.家族介護者は,開示する相手との関係性,開示により生じる支障の見積もり,開示しない選択による支障の見積もり,認知症当事者の希望の実現などの多面的な観点から開示するか否かの判断をしていることが示唆された.特に,【開示により目指す当事者の希望の実現】は,若年認知症者と家族介護者がまだまだ体力と行動力,さらに気力を有していることから抽出された特徴的なカテゴリーといえる.また,開示を躊躇させることとして,家族介護者は,若年性認知症当事者だけでなく,高齢な親世代への心的負荷を避けることや遺伝・婚姻が関わってくる子ども世代への影響を最小にするという,家族全体への具体的な気遣いの経験が抽出された点である.加えて,開示を躊躇させる背景に犯罪等へ巻き込まれる危険性等の地域への不信感も示唆された.認知症高齢者の主介護者を対象にした研究でも地域への不信感から認知症であることを隠す(廣瀬・生田,2010)ことが報告される一方で,資源として〈地縁を活用する〉〈外部委託する〉対処がとられていることも報告され(西岡ら,2014),認知症高齢者の家族介護者にとって地域がより身近な存在であると考えられる.地域の人との付き合いは年齢が高くなるほど付き合っている傾向(内閣府,2023)があることから,本研究対象者も高齢な介護者に比べ地域とのかかわり方が少ない可能性がある.このことが本研究結果の地域への不信感に影響している可能性があり,家族介護者自身も仕事等のために地域との関りが少ない世代の体験としての特徴であると考える.

本研究の結果では,秘匿感情は必ずしも消失するわけではなく,偏見を基盤にした秘匿感情を抱えながらも,主体的に状況へ対応しようと模索していることも明らかにできた.具体的には,【認知症の進行とともに変動する開示して得る支援ネットワークの必要性】に代表されるように,開示あるいは秘匿によって生じることを想定しながら必要な判断をしていた.そのため,家族介護者が支援の必要性や自分の生活や仕事への支障の評価によって,開示するかどうかの判断が異なるといえる.これまでも,幻覚等の症状によって一人で置いておけない状態や介護者自身の身体の不安をきっかけにサービス利用につながることも報告(原田・安孫子,2015)されている.つまり,支援の必要性や生活への支障の認識が適時・適切なものでなければ必要な支援が受けられないリスクを含んでいる.したがって,専門職としては,疾病の進行を的確に予測し,家族介護者がこれから起こるであろう介護生活の見通しを立てる支援が求められると考える.

また,【疾病受容に伴うセルフスティグマの変化】を体験する参加者もいた.秘匿に意味を感じなくなった契機は,疾病を受容できたことと家族会を通じて自分が特異な存在ではないことを認識できたことであった.家族介護者の疾病受容過程については,介護者が認知症の症状に気づき,戸惑う段階から,同じ経験をした者として介護の経験を伝えたいという自己実現に向けて成長していくプロセスが事例報告されている(小林,2019).本研究でも受容が進むことで他者に伝えるようになる点で同様の結果である.社会的役割も多く頼りになる存在である家族が若年性認知症と診断されることを家族介護者が受容していくことは非常に困難を伴うことであると推測される.しかし,家族会参加により,自分だけではないと実感し羞恥心が軽減する体験が語られ,家族会での人とのつながりにより自分の素直な感情を表出したり,介護者としての新たな役割や使命による社会とつながりが広がるという(澤谷ら,2017),家族会の意義は本研究でも再確認された.

そして,「疾病受容の進展による秘匿の無意味化」を経験していたが,疾病などのストレスに対する受容過程を効果的に支援するためには専門職としての技術が必要である.介護者の自我を強めること,課題やニードの明確化,適切なコーピングの強化とともに,判断的ではなく共感的で親切なともにある姿勢,つまりカウンセリング的な関係性が受容を支援する上での資源となるとされている(Roos, 2018).さらに受容過程を支える専門職にとって望ましい特性として受容と承認する能力が指摘されている(Roos, 2018).対象者の受容の試みが受け入れられ認められていることを伝えられる能力である.秘匿していることによって支援を受けられないという医療者側からみた価値観を押し付けるのではなく,家族介護者が秘匿あるいは開示にどのような価値づけや意味づけを行っていくかを見守り伴走する姿勢が求められると考える.

4. 本研究の限界と今後の課題

本研究参加者は都市部に居住しそのほとんどが家族会に参加しており,意欲的に活動していることが多く,若年性認知症者の家族介護者全体への適用可能性には限界がある.そのため,社会資源の状況が異なる地域や,他者とのつながりが希薄な家族介護者への研究参加者を拡大していくことが課題である.また,約9年にわたる長期の介護期間を振り返りながら語ったデータであり,想起バイアスにより印象の強く残った経験が語られている可能性があることや経験の正確性への課題を考慮して解釈する必要がある.

Ⅶ. 結論

若年性認知症者の家族介護者への面接調査から,家族介護者が秘匿感情を抱えながら,家族が認知症であることを開示し必要な支援を得ていく経過の中で経験していることを記述した.家族介護者は【保持したいプライバシー】【偏見の存在】【守りたい自身の自己像】を抱きながらも,少しずつ開示し支援が得られるようになっていた.その経過の中で【相手との関係性に左右される開示抵抗感】【開示により生じる支障の見積もり】【開示により目指す当事者の希望の実現】【開示しない選択による支障の見積もり】【認知症の進行とともに変動する開示して得る支援ネットワークの必要性】【理解されたい欲求とあきらめ】【疾病受容に伴うセルフスティグマの変化】【開示を促進する時間の経過】等を経験していた.この結果から,未だ存在する社会全体の偏見を解消する努力とともに,専門職としては疾病の進行を的確に予測し,家族介護者がこれから起こるであろう介護生活の見通しを立てる支援とともに,家族介護者が秘匿あるいは開示にどのような認識を持ち,価値づけを行っているかを見守り必要な支援を行っていく重要性が示唆された.

付記:本論文の内容の一部は,第42回日本看護科学学会学術集会において発表した.科学研究費(基盤C19K10991)の助成を受けた.

謝辞:本研究にご協力いただいた研究参加者の皆様,また,研究協力依頼にご協力いただいた家族会の皆様に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:YDはデータ分析および草稿の作成,MAは研究の着想,データ収集,分析に貢献した.MMおよびYMはデータ分析に貢献し,TKはデータ分析及び研究プロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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