目的:COVID-19拡大によって約2年に亘り看護研究活動が停滞している状況から,看護系大学教員の研究活動上の肯定的変化と関連要因を探索する.
方法:日本看護科学学会会員を対象に2022年3月に実施されたWeb質問紙調査に同意した899名のうち,「肯定的な変化」等の自由記載項目に回答した看護系大学教員355名の記述内容について質的内容分析を行った.
結果:肯定的変化として,【研究活動上の選択肢の拡大】,【仕事や研究活動に関する価値の捉え直し】等の5カテゴリ,関連要因として,【研究関係者とのつながりの維持】,【COVID-19を契機とする働き方や生活環境の変化】等の7カテゴリが明らかになった.
結論:看護系大学教員はCOVID-19に関する経験を通して,オンラインやデジタル技術を活用しながら,研究活動の効率化やコミュニケーションの促進を認識していた.研究関係者とのつながりやテレワーク活用の継続性との関連が,研究活動上の肯定的変化をもたらすことが示唆された.
Purpose: To explore positive changes and related factors in the research activities of faculty members at nursing universities during a period of approximately two years in which nursing research activities stagnated due to COVID-19.
Methods: Of the 899 respondents who agreed to a web-based questionnaire survey conducted in March 2022 targeting members of the Japan Academy of Nursing Science, qualitative content analysis was carried out on the open-ended responses of 355 faculty members at nursing universities who responded to open-ended response topics such as “positive changes.”
Results: Five categories of positive changes were identified, including “expansion of options in research activities,” and “reassessment of values related to work and research activities.” Additionally, seven categories of related factors were identified such as “maintaining connections with research personnel,” and “changes in working and living environments triggered by COVID-19.”
Conclusion: Through their experiences with COVID-19, faculty members at nursing universities recognized that they could improve the efficiency of their research activities and facilitate communication by utilizing online and digital technologies. The results suggested that maintaining connections with research personnel and the continuity of remote work use were associated with positive changes in research activities.
2019年12月にCorona Virus Disease(以下,COVID-19)と命名された肺炎の症例がはじめて報告され,世界各地で感染拡大を引き起こした(World Health Organization, 2020).COVID-19拡大は,医療体制の危機的な状況に加え,人々の生活様式,仕事や学習環境の変化をもたらした.看護研究活動も同様に変化しており,研究環境へのアクセスの難しさ等の問題が指摘されている(Im et al., 2021).
日本看護科学学会のCOVID-19看護研究等対策委員会は,COVID-19による会員の研究活動への影響と学会に求める支援に関する調査を行っており,2020年7~8月に第1回調査(日本看護科学学会,2023a),2022年3月に第2回調査(日本看護科学学会,2023b)を実施した.第1回調査で得られたデータの二次分析から,COVID-19拡大初期には看護学研究者の学生教育や情報通信技術に費やす時間の増加によって,研究活動の停滞(Kazawa et al., 2022;Inoue et al., 2022;Yoshinaga et al., 2022),研究意欲の低下(Takeuchi et al., 2022;Lee et al., 2023)を生じたことが明らかとなった.一方で,看護学研究者がCOVID-19拡大を転換期と捉え,挑戦する思考と行動力を発揮していたとの報告もあり(天野ら,2021),COVID-19拡大初期では,社会的制約や保健医療機関の逼迫を契機として,看護学研究者が求められる対応に苦慮しながらも,研究環境へ適応しようと対処していた可能性がある.
このようにCOVID-19拡大は研究者に仕事や研究活動に関するストレス経験をもたらしたにもかかわらず,研究者が目の前の課題へ果敢に挑戦していたことが報告されつつある.COVID-19拡大初期に多くの研究者は職業的ストレスを経験していたが,それにはポジティブリフレーミングや受容といった対処がなされていた(Shen & Slater, 2021).また,COVID-19拡大が精神的健康に加えて,仕事量や将来のキャリア志向に負の影響を与えた反面で,新たな研究の道を開く機会となったことも明らかにされていた(Finn et al., 2022).つまり,研究者はCOVID-19拡大初期において急激な環境変化による精神的健康への影響を経験し,それに対して認知活動や変化行動を広げて対処していたことが示唆される.
第1回調査はCOVID-19拡大初期の混乱期に実施されたため,時間の経過とともに看護研究活動への影響の質が変化している可能性がある(日本看護科学学会,2023b).国内外の研究より,研究者の精神的健康への影響を含む否定的変化に関するものは蓄積されているが,研究活動上の肯定的変化や要因については十分な知見が得られていない.例えば,COVID-19拡大初期から2年間に亘って実施された大学教員150名を対象とした面接調査から,オンライン授業の中で相互作用を促進するために様々なデジタルツールを活用していたことが報告されている(González et al., 2023).一方で,国内においてCOVID-19により急遽導入されたデジタルツールは,当初は感染対策として対面接触を減らすために活用が強く要請されたが,現在は職種により活用状況に差があることが指摘されている(国土交通省,2023).看護分野ではCOVID-19拡大初期の研究活動の肯定的な変化の1つとしてデジタルツールの活用が報告されている(菅原,2020)が,こうした変化が持続的なものとなっているのかに加えて,COVID-19拡大初期の調査では報告されてこなかった変化や要因が新たに生じているのかについても検討する必要があると考えられる.
また,人を対象とする看護学研究者のなかでも看護系大学教員は,COVID-19拡大初期に研究活動の遂行や研究参加者のリクルート等において様々な障壁に直面していたことが報告されている(日本看護系学会協議会・日本看護系大学協議会,2020).しかし,看護系大学教員が研究活動に関する実例や意見を述べた記事(貝谷,2020;山川,2020)がいくつか見受けられるのみであり,先行研究から,COVID-19拡大初期以降も看護系大学教員の研究活動上の肯定的変化を生じていることが推察されるが,包括的には示されていない.
そこで,本研究では,COVID-19拡大によって約2年に亘り研究活動が停滞している状況から,看護系大学教員が肯定的変化と関連要因をどのように認識しているかについて,日本看護科学学会が2022年3月に実施した第2回調査の質的データの二次分析により明らかにする.COVID-19拡大状況下で看護系大学教員に生じた研究活動上の肯定的変化を整理することは,今後起こり得る新興感染症拡大状況下の研究活動推進の方略を検討する上で有用と考える.また,質的研究を活用することによって,COVID-19拡大初期以降に特徴的な看護系大学教員の研究活動上の肯定的変化と関連要因について探索的に検討することができると考える.
質的探索的研究デザイン
本研究は,日本看護科学学会が2022年3月に実施した第2回調査の二次分析である.本研究の目的のために,以下の方法で二次分析を行った.
1. 分析対象者日本看護科学学会に所属する会員で,2022年3月1日~3月31日時点で学会にメールアドレスを登録していた9,661名の中で,研究参加に同意した899名(9.3%)(本調査の詳細については報告書を参照のこと:日本看護科学学会,2023b)のうち,看護系大学教員を対象とした.
2. 分析対象となったデータ本研究では,基本的属性の他,自由記載項目である「肯定的な変化」,「研究活動が阻害されなかった理由」,「研究活動を円滑に進めるための工夫」,「研究者と実践家の協働」への回答を分析対象とした.また,第2回調査項目に含まれる「研究活動が阻害された要因」,「研究活動についての不安」,「若手研究者の研究機会の確保のための工夫」の自由記載項目も分析対象とし,肯定的変化と関連要因に関する記述を確認した.
3. データ分析方法データの文脈を重視したKrippendorff(1980/1989)の方法を用いて内容分析した.まず,データを繰り返し読み,文脈の意味単位を検討しながら,COVID-19拡大状況下における看護系大学教員の研究活動上の肯定的変化と関連要因が記述されている箇所をまとまりとして抜き出した.なお,本研究では肯定的変化の記述がない対象者の場合でも,関連要因の記述があれば分析データに含めた.次に,データを意味内容が変化しないように要約し,コード化した.最終的にコードを共通性と相違性に従って分類しながら抽象度を上げ,サブカテゴリ,カテゴリを抽出した.これらのコード化およびカテゴリ化は,質的研究経験を有する研究者1名が行った.その後,看護学研究者5名全員の合意が得られるまで協議を繰り返し,分析結果の解釈の妥当性および信憑性を確保した(Polit & Beck, 2004/2010).
宮崎大学医学部医の倫理委員会の承認を得て実施した(審査番号:O-0733-9).第2回調査においては,Web質問紙調査フォームは日本看護科学学会事務所が管理する会員専用システムが用いられ,研究目的,方法,匿名性の保障,研究参加は自由意思であることについての説明文が閲覧できるようになっており,研究参加の同意は,同意の意思表示を確認する項目欄への押下をもって得られた.なお,データは個人を識別できない状態で研究者に渡された後,パスワードロックし,セキュリティ機能付きの記録媒体で厳重に管理された.
研究参加に同意した899名のうち,看護系大学教員は703名(78.2%)で,自由記載項目に1項目以上回答した355名(39.5%)を分析対象者とした.分析対象者355名の年齢は45~54歳119名(33.5%),55~64歳112名(31.5%),35~44歳79名(22.3%)であった.性別は女性292名(82.3%),男性49名(13.8%)であった.職位は教授107名(30.1%)が最も多く,次いで助教79名(22.3%),講師78名(22.0%)であった.勤務先大学の設置主体は私立192名(54.1%),公立84名(23.7%),国立68名(19.2%)であった(表1).
n = 355
| 項目 | n(%) | |
|---|---|---|
| 年齢 | ||
| 24歳以下 | 0(0%) | |
| 25~34歳 | 22(6.2%) | |
| 35~44歳 | 79(22.3%) | |
| 45~54歳 | 119(33.5%) | |
| 55~64歳 | 112(31.5%) | |
| 65歳以上 | 10(2.8%) | |
| 性別 | ||
| 男性 | 49(13.8%) | |
| 女性 | 292(82.3%) | |
| 育児・養育 | ||
| 有り | 120(33.8%) | |
| 無し | 223(62.8%) | |
| 介護 | ||
| 有り | 65(18.3%) | |
| 無し | 275(77.5%) | |
| 職位 | ||
| 教授 | 107(30.1%) | |
| 准教授 | 72(20.3%) | |
| 講師 | 78(22.0%) | |
| 助教 | 79(22.3%) | |
| 助手 | 8(2.3%) | |
| 雇用形態 | ||
| 常勤 | 339(95.5%) | |
| 非常勤 | 3(0.8%) | |
| 勤務先の組織 | ||
| 看護系大学(国立) | 68(19.2%) | |
| 看護系大学(公立) | 84(23.7%) | |
| 看護系大学(私立) | 192(54.1%) | |
分析の結果,肯定的変化を検討する際のデータは115コードあり,そのうち不明瞭なデータを除外し,目的に対応するデータとして69コードが抽出された.関連要因は106コードから,最終的に目的に対応するデータとして90コードが抽出された.これらより,COVID-19拡大状況下における看護系大学教員の研究活動上の肯定的変化として13サブカテゴリ,5カテゴリ(表2),関連要因として20サブカテゴリ,7カテゴリが抽出された(表3).なお,本研究で用いた質問項目と回答の傾向を表4(付録)に示す.以下に,カテゴリごとに特徴的な分析対象者の記述を抜粋しながら,その内容を述べる.本文中の【 】はカテゴリ,《 》はサブカテゴリ,記述単位は「斜体」で示し,調査当時の分析対象者の属性(職位および性別)を記述の最後に記した.
| カテゴリ | サブカテゴリ | コード数 |
|---|---|---|
| オンライン/デジタル化による研究活動の効率化 | オンラインツール使用による研究活動に関する移動時間の短縮化 | 9 |
| 電子データ化の推進に伴う効率的なデータ管理 | 4 | |
| 研究活動にかかる経費の削減 | 研究活動に関する旅費や交通費の削減 | 7 |
| オンライン研修の無料配信 | 1 | |
| 研究活動上の選択肢の拡大 | Web会議システム活用による研究活動のための時間や場所の自由度の高まり | 12 |
| オンライン開催に伴う学会参加の機会の拡大 | 8 | |
| 新たなデータ収集方法の実践 | 2 | |
| 研究関係者間のコミュニケーションの促進 | 遠方の人とのコミュニケーションの容易化 | 5 |
| オンラインコミュニケーションの気楽さを実感 | 4 | |
| コミュニケーションツール利用による研究者間の情報交換や情報共有の活性化 | 4 | |
| 仕事や研究活動に関する価値の捉え直し | 研究に関する視野の広がり | 6 |
| これまでの仕事を振り返る機会 | 4 | |
| COVID-19で培った経験が研究活動に活きている実感 | 3 |
| 分類 | カテゴリ | サブカテゴリ | コード数 |
|---|---|---|---|
| 個人要因 | 研究実施を目指した柔軟な思考・行動 | 従来の研究計画の再検討 | 11 |
| COVID-19拡大状況下で実施できる研究内容への注力 | 8 | ||
| 研究への前向きな見通しを持つこと | 5 | ||
| 研究計画に対してCOVID-19の影響を先読みすること | 3 | ||
| オンライン技術の活用による研究活動円滑化のための工夫 | データ収集方法へのオンラインの導入 | 12 | |
| 遠隔コミュニケーションによる研究者間の協働 | 7 | ||
| 研究活動でのオンラインと対面の併用 | 4 | ||
| クラウドサービス利用による情報共有 | 3 | ||
| 研究活動のための資源の確保 | 時間管理をすること | 2 | |
| 研究活動に集中できるような物理的環境の整備 | 2 | ||
| 研究関係者とのつながりの維持 | オンライン環境下での人間関係づくりに配慮 | 4 | |
| 人とのつながりを活かした研究協力の依頼 | 3 | ||
| 共同研究者と意見交換する場の継続 | 3 | ||
| 研究実施に伴う感染リスクへの配慮 | 研究の範囲や人数の限定 | 5 | |
| 研究依頼や実施に伴う研究参加者の感染リスクへの配慮 | 4 | ||
| 対面での接触機会の低減を考慮した研究方法の選択 | 3 | ||
| 環境要因 | 職場の上司や周りの人たちの支援 | 職場の上司や周りの人たちの支援 | 3 |
| COVID-19を契機とする働き方や生活環境の変化 | 仕事や家族のイベントの減少 | 4 | |
| 在宅勤務が可能になる働き方 | 2 | ||
| テレワークによる仕事上の制約の軽減 | 2 |
COVID-19拡大状況下で看護系大学教員が認識する研究活動上の肯定的変化として,【オンライン/デジタル化による研究活動の効率化】,【研究活動にかかる経費の削減】,【研究活動上の選択肢の拡大】,【研究関係者間のコミュニケーションの促進】,【仕事や研究活動に関する価値の捉え直し】の5カテゴリが明らかになった.
(1) 【オンライン/デジタル化による研究活動の効率化】このカテゴリは,《オンラインツール使用による研究活動に関する移動時間の短縮化》,《電子データ化の推進に伴う効率的なデータ管理》から構成された.分析対象者は,「ICTツールを用いることで対面での移動時間が無くなり,遠隔地にいる複数の対象者に対し同日にインタビューの実施が可能となる(助教:男性)」との記述にあるように,《オンラインツール使用による研究活動に関する移動時間の短縮化》を実感していた.また,《電子データ化の推進に伴う効率的なデータ管理》では,「Forms(オンラインアンケートツール)の利用で集計が楽になった(講師:女性)」,「電子データ化が進み,データ整理が効率的になった(准教授:女性)」との記述にあるように,オンラインフォームの活用やテキスト等のデジタル化により,効率的なデータ管理につながっていた.
(2) 【研究活動にかかる経費の削減】このカテゴリは,《研究活動に関する旅費や交通費の削減》,《オンライン研修の無料配信》から構成された.「遠方で開催される学会にオンライン参加が可能となったことから,研究費を旅費に充てる必要性がなくなった(助教:男性)」,「(遠隔地の方にインタビューをする場合)交通費等の予算が不要になった(教授:女性)」との記述にあるように,《研究活動に関する旅費や交通費の削減》が示された.また,分析対象者は,《オンライン研修の無料配信》といった,Web会議システム利用による無料の研修参加の機会を得ていた.
(3) 【研究活動上の選択肢の拡大】このカテゴリは,《Web会議システム活用による研究活動のための時間や場所の自由度の高まり》,《オンライン開催に伴う学会参加の機会の拡大》,《新たなデータ収集方法の実践》から構成された.「Web会議を用いることで,各自の場所を問わず研究を進めることができた(助教:男性)」との記述にあるように,《Web会議システム活用による研究活動のための時間や場所の自由度の高まり》が示された.また,「子育て中なので,オンライン開催があることで遠方の学会や研修に参加しやすくなった(助教:女性)」との記述から,子育てに従事する者を数多く含む看護系大学教員の場合は,《オンライン開催に伴う学会参加の機会の拡大》も示された.さらに,分析対象者は,COVID-19に関する経験を踏まえて,Webでのアンケート調査等の《新たなデータ収集方法の実践》も認識していた.
(4) 【研究関係者同士のコミュニケーションの促進】このカテゴリは,《遠方の人とのコミュニケーションの容易化》,《オンラインコミュニケーションの気楽さを実感》,《コミュニケーションツール利用による研究者間の情報交換や情報共有の活性化》から構成された.分析対象者は,海外を含む遠方の人へのアクセスのし易さやコミュニケーションの手軽さを実感していた.また,「多様な遠隔オンラインツールを用い,意見交換ができた(講師:男性)」との記述にあるように,対面での研究活動が制限された状況でも,《コミュニケーションツール利用による研究者間の情報交換や情報共有の活性化》が示された.
(5) 【仕事や研究活動に関する価値の捉え直し】このカテゴリは,《研究に関する視野の広がり》,《これまでの仕事を振り返る機会》,《COVID-19で培った経験が研究活動に活きている実感》から構成された.分析対象者は,「学際的に考える上で刺激になる他分野の先生方と知り合えて,アドバイスを頂けた(講師:女性)」,「リクルートには施設での調査が欠かせないと考えていたが,内容によってはSNSの口コミの方がより広い対象で集まるということが分かった(助教:女性)」との記述にあるように,オンライン研修の普及等による異分野の研究者との接点が拡大することや,新たな研究方法に対する利点に気づけるようになることといった《研究に関する視野の広がり》を示した者がいた.また,《これまでの仕事を振り返る機会》は,「国家資格をもつ医療職であることを再認識し,改めてキャリアを考える機会になった(准教授:女性)」との記述にあるように,COVID-19拡大の時間の経過によって,看護系大学教員がこれまでの研究活動のみならず,自分自身のキャリアについて省みる機会ともなっていた.さらに,「COVID-19感染拡大の初年度は,(講義に関する準備に費やす仕事量が尋常ではなかったため)まさに地獄のような日々を過ごした.しかし,基盤ができてから,物理的距離に費やしていた時間がほぼ全て,それ以外の時間に充てることができた(助教:男性)」との記述にあるように,分析対象者は,《COVID-19で培った経験が研究活動に活きている実感》から,研究活動の可能性を広げる価値の捉え直しにつながっていた.
2) COVID-19拡大状況下における研究活動上の肯定的変化の関連要因COVID-19拡大状況下で看護系大学教員が認識する研究活動上の肯定的変化の関連要因として,7カテゴリが明らかになった.これら関連要因は,【研究実施を目指した柔軟な思考・行動】,【オンライン技術の活用による研究活動円滑化のための工夫】,【研究活動のための資源の確保】,【研究関係者とのつながりの維持】,【研究実施に伴う感染リスクへの配慮】の5つの個人要因と,【職場の上司や周りの人たちの支援】,【COVID-19を契機とする働き方や生活環境の変化】の2つの環境要因に分類された.
(1) 個人要因 ①【研究実施を目指した柔軟な思考・行動】このカテゴリは,《従来の研究計画の再検討》,《COVID-19拡大状況下で実施できる研究内容への注力》,《研究への前向きな見通しを持つこと》,《研究計画に対してCOVID-19の影響を先読みすること》から構成された.分析対象者は,約2年の経験を踏まえて,「対面で計画していた研修会を,e-Learningに変更して実施した(准教授:女性)」との記述にあるように,研究方法を再考すること,研究対象を変更することといった《従来の研究計画の再検討》の他,文献検討等の《COVID-19拡大状況下で実施できる研究内容への注力》をしていた.また,「大学での様々な活動を通し,『この活動は研究になる』と思って準備する(講師:女性)」,「研究が進まないことに焦りを感じないよう自分に言い聞かせた(講師:女性)」との記述にあるように,分析対象者自らが現状に対する肯定的な見方を持つことや気持ちの切り替えを含む,《研究への前向きな見通しを持つこと》も示された.さらに,《研究計画に対してCOVID-19の影響を先読みすること》では,対面での研究活動が困難である等,COVID-19の影響を事前に予測して研究計画を策定していた.
②【オンライン技術の活用による研究活動円滑化のための工夫】このカテゴリは,《データ収集方法へのオンラインの導入》,《遠隔コミュニケーションによる研究者間の協働》,《研究活動でのオンラインと対面の併用》,《クラウドサービス利用による情報共有》から構成された.分析対象者は,《データ収集方法へのオンラインの導入》,《研究活動でのオンラインと対面の併用》に加え,「共同研究者の所属する病院では職員以外の出入りが禁止されていたため,(Web会議システムでの)面談やミーティングを取り入れてコミュニケーションを図った(助教:女性)」との記述にあるように,《遠隔コミュニケーションによる研究者間の協働》につながっていたことが示された.また,「研究室と在宅で円滑に執筆できるようにクラウドサービスでのデータ管理に移行した(准教授:女性)」との記述にあるように,《クラウドサービス利用による情報共有》というような,研究者の場所を問わず情報管理ができるクラウドサービスの活用がされていた.
③【研究活動のための資源の確保】このカテゴリは,《時間管理をすること》,《研究活動に集中できるような物理的環境の整備》から構成された.分析対象者は,「睡眠時間を削ったり,早朝出勤して数分だけでも研究時間を創出する(助教:男性)」との記述にあるように,早朝や深夜業務での埋め合わせをする,時間管理を1週間ごとに見直して明確化するといった《時間管理をすること》をしていた.また,「ネットワーク機器の充実と通信環境の確保(教授:男性)」の記述にあるように,《研究活動に集中できるような物理的環境の整備》も示された.
④【研究関係者とのつながりの維持】このカテゴリは,《オンライン環境下での人間関係づくりに配慮》,《人とのつながりを活かした研究協力の依頼》,《共同研究者と意見交換する場の継続》から構成された.分析対象者は,「感染状況が許せば対面でお会いし,関係づくりや研究に関する視点を合わせるための打ち合わせを行って,その後遠隔打ち合わせとなってもコミュニケーションエラーが生じないように努めました(講師:女性)」との記述にあるように,《オンライン環境下での人間関係づくりに配慮》することを示した.また,「これまであまり縁をつないでいなかった卒業生と連絡を取ることで,研究施設の確保で協力してもらえた(助教:女性)」との記述にあるように,立ち入り制限のある施設への調査に際して《人とのつながりを活かした研究協力の依頼》も示された.その他,《共同研究者と意見交換する場の継続》についても言及した.
⑤【研究実施に伴う感染リスクへの配慮】このカテゴリは,《研究の範囲や人数の限定》,《研究依頼や実施に伴う研究参加者の感染リスクへの配慮》,《対面での接触機会の低減を考慮した研究方法の選択》から構成された.《研究の範囲や人数の限定》は,研究対象者の人数の他,研究フィールドを縮小することが示された.また,分析対象者は,「感染状況をよくふまえながら調査の実施について,研究フィールドの皆様と検討を重ねました(講師:女性)」との記述にあるように,《研究依頼や実施に伴う研究参加者の感染リスクへの配慮》をすることもあった.さらに,「質問紙調査を郵送では無くWeb調査とした.非接触であり,コロナ禍でも安心して調査に協力していただけると考えたため(助手:女性)」との記述にあるように,《対面での接触機会の低減を考慮した研究方法の選択》を示した者もいた.
(2) 環境要因 ①【職場の上司や周りの人たちの支援】このカテゴリは,《職場の上司や周りの人たちの支援》から構成された.「研究室の主任教授が,『コロナ渦において研究の歩みを止めない』と明言してくださり,研究を進めやすかった.また,研究フィールドの大学病院が複数あったが,いずれもコロナ渦での研究進捗を支援してくださった(准教授:女性)」との記述にあるように,分析対象者は,環境的側面として《職場の上司や周りの人たちの支援》の存在を認識していた.
②【COVID-19を契機とする働き方や生活環境の変化】このカテゴリは,《仕事や家族のイベントの減少》,《在宅勤務が可能になる働き方》,《テレワークによる仕事上の制約の軽減》から構成された.分析対象者の中には,COVID-19拡大以前に対面で行っていた業務,職場の関係者との交流を深める飲み会や子供の学校行事といった《仕事や家族のイベントの減少》が,研究時間の増加をもたらしたことを示した者がいた.また,分析対象者は,「在宅勤務による集中できる環境づくり(講師:女性)」との記述にあるように,《在宅勤務が可能になる働き方》に加えて,「在宅勤務を含め,研究時間が流動的になったおかげで,他の教員から仕事を押し付けられることが減り,自分で研究時間を創出することができるようになった(助教:男性)」との記述にあるように,《テレワークによる仕事上の制約の軽減》から,研究活動に対する自由度を生みだすことにもつながっていた.
本研究の結果から,COVID-19拡大状況下における看護系大学教員の研究活動上の肯定的変化として,研究活動の効率化や選択肢の拡大,研究活動にかかる経費の削減,周囲の人々とのコミュニケーションの促進,仕事や研究活動に関する価値の捉え直しが明らかとなった.以下に,本研究の結果で特徴的だった【仕事や研究活動に関する価値の捉え直し】に関して考察した上で,研究活動上の肯定的変化をもたらす個人要因と環境要因について述べる.
1. 看護系大学教員の研究活動上の肯定的変化の特徴本研究の結果から明らかになった【仕事や研究活動に関する価値の捉え直し】は,COVID-19拡大初期に行われた看護学研究者を対象とした先行研究では言及されていない内容も含まれており,研究活動上の肯定的変化のなかでも特徴的なものと考えられた.すなわち,看護系大学教員は,COVID-19拡大に伴う労働環境の変化やオンライン技術の普及を通して,研究活動の効率化や選択肢の拡大,周囲の人々とのコミュニケーションの促進によって,仕事や研究活動を省察する契機となり,価値の捉え直しを引き起こしていた可能性がある.
分析対象者は,【仕事や研究活動に関する価値の捉え直し】として,《これまでの仕事を振り返る機会》,《COVID-19で培った経験が研究活動に活きている実感》のように,COVID-19拡大によって生じた研究活動やキャリアの問い直しと,これまでの経験の積み重ねが現在の研究活動に活きている実感をもたらしていた.このように看護系大学教員の中にはCOVID-19拡大を通した仕事経験を省察の機会にした者がいたが,変容的学習を提唱したMezirow(1991/2012)によれば,出来事の内容やプロセスについての省察は,問題解決,問題の設定,そして意味スキームや意味パースペクティブの変容をもたらす中心的な原動力であるとされている.また,COVID-19拡大が仕事経験に与えた影響を明らかにした先行研究でも,自分自身のアイデンティティの再認識やプロフェッショナリズムの醸成につながることが報告されており(Finn et al., 2022;小野寺,2022),看護系大学教員が省察を通して,COVID-19拡大に伴う研究活動の危機的状況を乗り越える経験からの気づきを積み重ねることによって,仕事や研究活動に対する意味づけや価値観を変化させていたといえよう.さらに,分析対象者は,オンラインの活用による新たな研究方法への価値や学際的視点の獲得といった《研究に関する視野の広がり》も認識していた.これは,看護系大学教員がCOVID-19拡大状況下においてオンライン技術を活用し,新たな研究活動の展開や異分野の研究者を含む周囲の人々とのコミュニケーションの活性化によって,研究に関する視点や幅を広げていたと考えられる.
2. 看護系大学教員の研究活動上の肯定的変化をもたらす個人要因と環境要因本研究の結果,COVID-19拡大から約2年の経験を通して通信機器や環境の整備が進み,看護系大学教員は,【オンライン技術の活用による研究活動円滑化のための工夫】として,対面接触が制限される中でのデータ収集やコミュニケーションにオンライン技術を活用するといった現実的に遂行可能な研究活動や,オンラインと対面を組み合わせたハイブリッド方式の柔軟な研究活動を展開していた.COVID-19拡大初期の研究でも,感染拡大防止を目的に急遽導入されたオンライン技術の活用による研究活動は,看護学研究者の見識の深化につながったことが報告されており(天野ら,2021),看護系大学教員が【研究実施に伴う感染リスクへの配慮】とともに,研究活動を停滞させないためにオンライン技術を活用し,COVID-19拡大のような社会情勢の大きな変化において臨機応変に研究を展開することで,研究活動の創造性を高めると考える.したがって,看護系大学教員の持続可能な研究活動推進の方略として,オンライン技術の活用には個人のデジタルリテラシーも影響することが考えられるものの,組織側が様々な種類のデジタルツールに触れることができるような補助をすることやオンライン技術を活用する継続性を担保することによって,研究活動上の肯定的変化を維持できる可能性がある.
このようなオンライン技術による研究活動円滑化のための工夫がなされた一方で,本研究の特徴的な結果である【研究関係者とのつながりの維持】として,分析対象者が注目していたのは他者の人間としての反応であり,オンライン技術を適用することが多い状況であっても,関係を維持しながら研究活動を円滑に進めるための解決を図ろうとしていた.例えば,《オンライン環境下での人間関係づくりに配慮》や《共同研究者と意見交換する場の継続》のように,他者との関係性が希薄にならないような手立てを講じることで,研究活動の維持や継続につなげていることが示唆された.また,《人とのつながりを活かした研究協力の依頼》が明らかになったように,COVID-19拡大状況下でもアクセス可能な研究協力者を有していた者は,積極的に連絡を取ることができ,それによって研究活動に関わる人間関係を広げていることが推察された.COVID-19拡大初期の労働者を対象とした研究では,対面でのコミュニケーションが困難となったことによって,仕事の弊害を経験していたこと(大塚ら,2021)が指摘されており,看護系大学教員も対面時にはなるべくコミュニケーションをとるといった関係性構築やオンライン上で関係者双方に合うコミュニケーションの工夫が必要になったといえよう.加えて,看護研究を遂行するためには対象者との相互作用を必要とする(Clissett, 2008;グレッグら,2016)側面もあり,看護系大学教員はコミュニケーションを駆使して,周囲の人々との関わりを続け,COVID-19拡大状況下における対人関係上の課題に立ち向かっていたと考えられる.
他方,本研究では環境要因として,【COVID-19を契機とする働き方や生活環境の変化】が示された.【COVID-19を契機とする働き方や生活環境の変化】には,《仕事や家族のイベントの減少》といった社会的制約に伴う変化と,《在宅勤務が可能になる働き方》,《テレワークによる仕事上の制約の軽減》といった働き方の変化が存在した.特に働き方の変化は,COVID-19拡大において外出自粛が広く要請されていたことに加え,在宅勤務を含むテレワークへの転換を迫られたことによるものといえる.例えば,分析対象者の中には,「在宅勤務になったおかげで他の教員から仕事を押し付けられることが減った」と記述している者がいたことから,テレワークにより看護系大学教員自身の仕事や研究に集中しやすい状況があったことが推測される.また,教員を対象者とした研究では,自分の行動に対して自律性を与えられている場合は,ワークライフバランスのコントロールが可能となったことも指摘されている(Khawand & Zargar, 2022).これら研究結果から,テレワークを単純に適用するだけでなく,看護系大学教員が研究活動における時間の自由度を高めることや自律性を発揮することが可能な環境の整備が必要とされる.さらに,COVID-19拡大下のテレワークに関する労働者を対象とした先行研究で,テレワークの適用には継続性を考慮する必要性も指摘されている(西村・西岡,2021).しかし,教員を含む専門・技術職の雇用型テレワーカー割合は2020年から2022年にかけて減少傾向にある(国土交通省,2021, 2023)ことから,COVID-19拡大が収束した後もテレワークの適用を感染対策として不要とするのではなく,その適用を継続的に可能とする勤務形態や制度の見直し等の検討によって,看護系大学教員の研究活動を長期的に促進すると考えられる.
本研究は,国内で最大規模の看護系学会の全会員を対象に研究協力依頼を行った調査で,研究活動についての質的データが含まれているといった強みを有する.しかし,次の3点の限界が存在する.1点目は,研究参加に同意した日本看護科学学会会員は全体の9.3%と少なく,看護系大学教員355名の回答に偏りがある可能性があり,研究結果の適用性に限界がある.次に,今回の分析で用いたのはWeb質問紙調査の自由記載項目への回答データであり,断片的な記述内容も含まれていること,また面接法等の手法で分析対象者の意図を捉えるためのデータ収集は行っていないことから,看護系大学教員の研究活動上の肯定的変化と関連要因に関するカテゴリの関係性を整理することは困難であった.3点目は,分析対象者の所属する組織のテレワーク導入の状況が結果に影響した可能性があるが,調査項目ではCOVID-19拡大状況下でのテレワークの形態は多岐にわたっているため,その実態を十分に把握できなかった点である.
COVID-19拡大状況下で,看護系大学教員はオンラインやデジタル技術の活用によって,研究活動の効率化や選択肢の拡大,研究活動にかかる経費の削減,コミュニケーションの促進,仕事や研究活動に関する価値の捉え直しといった研究活動上の肯定的変化を認識していた.柔軟な思考や行動,研究実施に伴う感染リスクへの配慮や資源の確保に加えて,研究関係者とのつながりの維持やテレワーク活用の継続性との関連によって,研究活動上の肯定的変化をもたらすことが示唆された.
謝辞:本研究にご協力いただきましたすべての皆様に心より感謝申し上げます.本研究の実施にあたりご支援いただきました日本看護科学学会のCOVID-19看護研究等対策委員会の皆様に感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:AHは研究の着想,デザイン,分析,解釈,原稿の作成に貢献;MI,HF,KK,NYはデータ収集と分析の解釈,原稿に対する全体的な助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.