日本看護科学会誌
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原著
地域・在宅看護論実習で看取り期の看護を経験する看護学生への訪問看護師の支援
川村 崇郎陳 俊霞安田 真美
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2024 年 44 巻 p. 452-462

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Abstract

目的:地域・在宅看護論実習において,看取り期の療養者に同行訪問する看護学生への訪問看護師による学びの支援のプロセスについて明らかにする.

方法:看護学生との同行訪問時に看取り期の看護を経験した訪問看護師9名に半構造的面接を行い,収集したデータをグラウンデッド・セオリー・アプローチで分析した.

結果:13のカテゴリからなる【看取り期の在宅看護を指導するスタンスの省察】という現象が明らかになった.訪問看護師による【看取り期の在宅看護を指導するスタンスの省察】と《気づきのためのヒントの発信》が影響し,《学生に感じる在宅での看取りに関わる意識の芽生え》等,3つの異なる帰結に至った.

結論:【看取り期の在宅看護を指導するスタンスの省察】は実習指導に関する訪問看護師の省察であり,その結果行われる《気づきのためのヒントの発信》によって看取り期の在宅看護に関する看護学生の学びは変化すると考えられた.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to clarify the process of the learning support provided by home health-care nurses who accompany nursing students attending to end-of-life patients in home health-care settings.

Methods: We conducted semi-structured interviews with nine home health-care nurses with experience providing end-of-life care while accompanying nursing students on their visits. Collected data were analyzed using the grounded theory approach.

Results: The phenomenon of [reflecting on the stance of instructing end-of-life home care nursing] was identified, consisting of 13 categories. Three different outcomes were derived from this phenomenon by «providing tips for students to realize», including «the budding awareness among students regarding home-based end-of-life care».

Conclusion: [Reflecting on the stance of instructing end-of-life home care nursing] is a reflective approach adopted by home health-care nurses regarding guiding practical training. It was thought that «providing tips for students to realize» resulting from this reflection would lead to significant changes in nursing students’ learning regarding end-of-life home care.

Ⅰ. 緒言

多死社会を迎え,看護学士課程においてコアコンピテンシーとして明示される「エンドオブライフにある人と家族を援助する能力」の育成は喫緊の課題である.特に,地域包括ケアシステムの推進により在宅での臨死期や終末期のケアの重要性は高まり,全国調査でも約6割が人生の最期を「自宅」で迎えることを望む(日本財団,2021).これより,看護基礎教育においても自宅での看取りを支援する能力の育成が不可欠と言える.

エンドオブライフケアに関する教育は,講義や事例検討に限らず,実習も含む学習経験全てが統合されるべきとされる(Carmack & Kemery, 2018).しかし実際は,私立看護大学で緩和ケア実習を導入しているのは1割程度と示唆され(田村・佐々木,2020),看護学生が経験的にエンドオブライフケアを学ぶことは難しい.さらに地域・在宅看護論実習は,訪問看護ステーションでの実習期間が平均6.2日程度と言われ(竹内・河野,2021),その中で看取り期の看護を経験する機会は極めて貴重である.その貴重な機会を得た学生は,その経験をもとに看取り期の在宅看護について学びを深化させることが重要である.

多くの場合,訪問看護ステーションでの実習は,同行訪問は訪問看護師が行い,教員は各施設の巡回指導に限られる.このような指導体制下で,訪問看護師と教員のタイムリーな連携の困難も報告され(柴田ら,2020),学生への看取り期の在宅看護に関する学びの支援が訪問看護師に委ねられることも少なくないだろう.その支援では,臨死期や終末期のケアを経験する看護学生が恐怖を感じることや(Dorney & Pierangeli, 2021),臨死期の患者との関わりにより看護職としての将来へ不安が高まること(清水ら,2020)も考慮し,その体験を精神的苦痛として終わらせず,肯定的な学びとして意味づけられる必要がある.しかし,そのような訪問看護師の支援のあり方は明らかにされていない.

Ⅱ. 研究目的

地域・在宅看護論実習における,看取り期の療養者に同行訪問する看護学生への訪問看護師による学びの支援のプロセスについて明らかにする.

Ⅲ. 用語の定義

本研究における用語の定義を以下に示す.

1)看取り期

療養者の予後が1か月以内と判断され,かつ以下①~③の状態にある時期.

①終日臥床状態である

②明らかな見当識障害があり,半昏睡/意識低下が認められる

③飲水や内服が可能な程度で経口摂取がほとんどできない

上記は,日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団のLiverpool Care Pathway(LCP)日本語版使用マニュアル(Liverpool Care Pathway(LCP)日本語版普及グループ,2010)の説明を参考にした.

2)学びの支援

実習の場面や状況に応じて看護学生に指導・助言することにより,学修を助ける一連の関わり.

Ⅳ. 研究方法

1. 研究対象

1) 研究対象施設

看取り期の療養者に同行訪問する看護学生への望ましい支援を検討するため,研究対象施設は地域・在宅看護論実習を受け入れ,看取り期にある療養者に看護学生を同行する訪問看護ステーションとした.

2) 研究参加者

研究参加者は看護実践の経験が豊富であり,看取り期の療養者の訪問看護という緊張感の高い場面で,学生の変化を捉えながら学びを支援する必要がある.そこで以下①~③を全て満たし,看取り期の療養者の同行訪問において,印象的な看護学生との関わりや場面を経験した訪問看護師とした.除外基準は,インタビューやアンケートの記入が困難な者とした.上記の経験を語る上で役職は影響しないため,除外基準には含めなかった.

①看護師としての経験が5年以上ある

②訪問看護師としての経験が1年以上あり,訪問看護における看取り期の看護を実施した経験がある

③看護学生と同行訪問時に看取り期の看護を実施した経験がある

①の設定理由は,看護学生へ実習で学びの支援のあり方を自分なりに検討する能力や,自身の訪問看護時の実習指導を振り返って言語化できる能力が必要であり,中堅以上の看護師を抽出するためである(Benner, 1984/2005).

サンプリングに偏りが生じないよう,訪問看護師によって語られる看護学生の教育機関の条件は設定しなかった.

3) 研究協力依頼

施設管理者を通して候補者に研究説明書類を配布し,希望者に研究説明を行った.自由意思により直接研究参加を申し出,同意書に自署した者を研究参加者とした.

2. データ収集方法

2021年12月から2022年7月の間に,約60分の半構造的面接を各研究参加者に1回実施した.データの信頼性を担保するため,事前に主に以下の質問内容を提示し,語られる最も印象的な場面を具体的に想起してもらった.

①看取り期のケアの具体的な場面と看護学生の反応

②研究参加者が捉えた看護学生の変化と学び

③看護学生に必要と考えた支援とその理由

④③で実際に行った支援とそれを受けた看護学生の反応

半構造的面接では,語りの内容に適宜理由等を問い,参加者の思考や行動の意図を引き出して語りを深めた.

面接前にアンケートで,研究参加者の年齢,性別,看護師や訪問看護師としての経験,実習指導や看取り期の看護に関する経験等の情報を収集した.

3. 分析方法

グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下GTA)(戈木クレイグヒル,2021)を用いた.GTAは相互作用によって生じる変化のプロセスを現象として把握する研究法である.したがって,訪問看護師と看取り期の療養者に同行する看護学生との相互作用により変化する,訪問看護師の学びの支援のプロセスを明らかにしようとする本研究に適切と考えた.以下に分析手順を示す.

(1)テクストの作成と切片化

逐語録に起こしたインタビューデータに面接中のメモを加えてテクストとする.文脈に縛られずに相互作用によって生じる変化のプロセスを分析するために,看護師の一つひとつの言動や意図,感情,看護師から見た学生の反応といった内容ごとにテクストを細かく切片化する.

(2)概念の抽出

切片ごとにプロパティ(物事を見るときの視点)とディメンション(プロパティから見たときの位置づけや次元)という抽象度の低い概念を抽出する.何らかの度合をプロパティとする場合には,収集したデータの比較にもとづき,ディメンションを低~高で示す.以上からその切片がどのような概念で構成されているか把握し,それらをもとに全ての切片にラベル名をつける.さらに,ラベル名の類似性や共通するプロパティをもとにラベルを統合して,より抽象度の高い概念であるカテゴリを抽出する.各カテゴリはそれらのプロパティとディメンションによって説明づけられる.

(3)カテゴリの関連性の検討

抽出したカテゴリ同士の関連性についてプロパティとディメンションをもとに検討し,カテゴリ関連図を作成して現象を把握する.

(4)ストーリーラインの生成

(1)~(3)の手順を通して事例ごとに作成された,同じ現象に関する各カテゴリ関連図を統合し,それをもとにストーリーラインを生成する.

分析の信頼性・妥当性を担保するために,GTAに造詣の深い研究者に分析結果を提示,指導を受ける機会を設けた.

4. 倫理的配慮

本研究の実施に関しては国際医療福祉大学倫理審査委員会の承認(21-Im-040)を得た.研究参加者は研究の主旨について口頭と書面で説明を受け,研究参加に同意する場合に自由意思に基づいて同意書に署名した.研究実施に関して,プライバシーと個人情報の保護を厳守した.

Ⅴ. 結果

1. 研究参加者および語られた看護学生と療養者

5つの訪問看護ステーションから9名が研究参加に同意した.各施設は複数の教育機関から実習を受け入れ,語られた看護学生の所属機関も多様であった.研究参加者および語られた看護学生と療養者の属性を表1に示す.

表1 研究参加者および語られた看護学生と療養者の属性

事例No. 研究参加者の属性 看護学生の属性 療養者の属性 同行訪問時の状況 面接時間
年代/性別 看護師の経験年数 訪問看護の経験年数 看護学生の実習指導を行う頻度 最後に実習指導した時期 年代/性別 所属機関/学年 年代/性別 主な病名 介護協力者
1 A氏30代/女性 14年 8年 毎年複数回 1か月以内 a氏20代/女性 4年制大学/3年生 70代/男性

肝臓がん

骨転移

・療養者は意識混濁があり寝たきりで,食事はほぼできず,予後1か月以内と見込まれていた.

・治療は在宅酸素療法とオピオイドによる疼痛コントロールをしていた.

・学生は療養者を受け持ち,実習期間中に複数回は訪問できた.

53分
2 B氏50代/女性 27年 6年 毎年複数回 1か月以内 b氏20代/女性 5年一貫課程校/5年生 80代/女性

乳がん

肺転移

骨転移

・療養者は入院先で予後1週間~1か月と告知された後,本人の希望に沿って退院し,オピオイドで疼痛コントロールをしながら自宅で看取り方針となっていた.

・学生は療養者を受け持ったわけではないが数回訪問しており,最終的にはエンゼルケアにも同行した.

76分
3 C氏50代/女性 22年 15年 毎年複数回 1か月以内 c氏20代/女性 4年制大学/3年生 70代/男性 肺がん

・療養者は学生の同行訪問時には意識混濁があり,経口摂取もほぼできなかった.肺がんの進行で呼吸苦増強もあり,在宅酸素療法と気管支拡張剤,オピオイドを使用していた.

・学生は療養者を受け持ち2回訪問したが,食事介助の必要性に固執していた.

62分
4 D氏40代/女性 21年 5年 毎年複数回 1か月以内 d氏20代/男性 4年制大学/3 or 4年生 90代/男性

胆管がん

肝転移

・訪問看護介入開始時点で予後2週間程度であった.学生の同行訪問時は意識レベルが低下し,食事,内服もできず,座薬や貼付薬で疼痛コントロールしていた.

・学生は療養者を受け持ち,複数回訪問した.最終の同行訪問したタイミングは,亡くなる2日前であったが,食事摂取できないことを心配していた.

74分
5 E氏30代/男性 11年 5年 毎年1回程度 3か月以内 e氏20代/女性 4年制大学/3年生 70代/男性

大腸がん

多発転移

・学生の同行訪問時,療養者は発語はあるが意思疎通が困難な程度の意識レベルであった.経口摂取は水分の摂取すらほぼできないという段階であった.疼痛も強く,疼痛コントロールを行っていた.

・学生は療養者を受け持ったわけではないが,実習期間中2~3回訪問できた.

61分
6 F氏60代/女性 40年 25年 毎年複数回 1か月以内 f氏20代/男性 4年制大学/3年生 90代/女性

大腸がん

肝転移

・食事を経口摂取できなくなり,寝たきりになった段階で訪問看護が開始した.本人と家族の合意のもと,自宅での看取りの方針は最初から決まっていた.

・学生は療養者を受け持ったわけではないが2回訪問した.1回目の訪問時は既に意識レベルが低下し,眠るようで,疼痛や呼吸苦の訴えもなかった.2回目はエンゼルケア目的で訪問し,ケアに参加した.

68分
7 G氏50代/女性 21年 2年 毎年複数回 半年以内 g氏20代/女性 4年制大学/3年生 80代/男性 胃がん

・学生の同行訪問時は,既に予後が日単位で,意識レベルも2~3桁,SpO2も著名に低下し,血圧は測定不能であった.疼痛に対してオピオイドのみ使用していた.

・学生は療養者を受け持ったわけではないが,看取り期の患者に同行訪問したいという希望で訪問した.直接的なケアにはほとんど参加せず,見学が主だった.

46分
8 H氏40代/女性 20年 9年 毎年複数回 半年以内 h氏20代/女性 4年制大学/4年生 70代/男性 肝臓がん

・家族とは音信不通で,生活保護を受給しながらで独居で生活していた.最期まで自宅で過ごしたいという本人の希望で,貼付薬で疼痛コントロールをしながら週に3回の訪問看護が介入していた.

・学生は療養者を受け持っていたわけではなく,実習期間中1回のみ同行訪問した.訪問時は,完全昏睡のような状態で,痛み,刺激に顔をしかめる程度だった.

64分
9 I氏40代/女性 24年 3年 毎年1回程度 半年以内 i氏20代/女性 4年制大学/3年生 80代/男性

肺がん

骨転移

・本人は延命を望まず,呼吸苦と疼痛をコントロールをしながら自宅で最期を迎える方針だった.

・学生は療養者を受け持ち,複数回訪問できたが,外国籍で文化的な違いから,延命しないという選択や,自宅で看取りを迎えるという方針に納得できずにいた.

60分

研究参加者の訪問看護師としての経験年数は多様であるが,全員が看取り期の看護を毎年複数回経験していた.実習指導についても,毎年1回程度と回答したE氏,I氏を除いて全員が毎年複数回経験していた.

看護学生は全員が20代であり,b氏を除く全員が4年制の看護系大学の3年生あるいは4年生であった.i氏は外国籍であった.

療養者は全員が高齢者で,末期がんであった.

2. 【看取り期の在宅看護を指導するスタンスの省察】という現象

13のカテゴリで構成される【看取り期の在宅看護を指導するスタンスの省察】という現象が明らかになった.13のカテゴリの抽象度は統一され,階層構造はないが,帰結に至るプロセスに最も影響するものを現象名かつ現象の中心となるカテゴリとして【 】で,その他の12カテゴリを《 》で示した.またプロパティは“ ”,ディメンションは‘ ’で示した.1)【看取り期の在宅看護を指導するスタンスの省察】という現象に関するカテゴリ関連図,2)ストーリーライン,3)各カテゴリの説明の順に述べる.

1) 【看取り期の在宅看護を指導するスタンスの省察】に関するカテゴリ関連図

【看取り期の在宅看護を指導するスタンスの省察】という現象に関わるカテゴリとして,【看取り期の在宅看護を指導するスタンスの省察】《看護師が捉える看取り期の同行訪問に臨む学生の様子》《学生に求める学びの目標設定》《療養者・家族と学生の距離の調整》《学生のレディネスに対する譲歩》《看取り期に関わる学習者としての資質の見極め》《療養者・家族と関わるための情報提供》《療養者・家族との学生の向き合い方の確認》《気づきのためのヒントの発信》《学びのチャンスに対して観察される学生の反応》《理解できているか分からない学生》《看護の実際とイメージに隔たりがありそうな学生》《学生に感じる在宅での看取りに関わる意識の芽生え》という13のカテゴリが抽出された.図1(カテゴリ関連図)はカテゴリ同士の関連,相互作用により異なる帰結へと至るプロセスを示している.各カテゴリは,そのカテゴリを構成するプロパティとディメンションの組み合わせによって関連づけられる.次にこの図が示すプロセス(ストーリーライン)について述べる.

図1  【看取り期の在宅看護を指導するスタンスの省察】に関するカテゴリ関連図

2) ストーリーライン

訪問看護師は《看取り期の同行訪問に臨む学生の様子》を捉え,“学生の様子”が‘関心が高そう’であれば,訪問看護師は《学生に求める学びの目標設定》をした.訪問看護師が積極的に“学びの目標を設定しようとし”,“求める学び”を‘家で看取る選択の意味’等とすると,《療養者・家族と関わるための情報提供》に移行した.そこで“情報提供の方法”として‘カルテ等からの情報収集の促し’が選択され,積極的に“情報提供”されず,“情報量の程度”が‘低い’と,その情報の解釈も学生なりのものとなり,帰結として《理解できているか分からない学生》に至るが,‘状況や方向性を補足’して,“関わるための情報量”を‘十分に’学生に提供すると,《療養者・家族との学生の向き合い方の確認》に至った.ここで“学生の行動”として‘記録を埋める’様子が観察され,“学生の姿勢”に‘義務感’を感じると,“療養者・家族と向き合おうとするように見える度合”が‘低い’と評価され,訪問看護師は【看取り期の在宅看護を指導するスタンスの省察】を行った.一方で,学生が‘療養者から目を背けず’に‘関心を寄せ’,“療養者・家族と向き合おうとするように見える”と,訪問看護師による《気づきのためのヒントの発信》に至った.“ヒントの発信の目的”が在宅での看取り期の‘場面の状況や看護の理解を促す’ためで,“積極的にヒントが発信”されると,《学びのチャンスに対して観察される学生の反応》に至った.学びのチャンスを得ても,“学生の反応”として‘自分の考えにこだわる’様子が観察され,“積極性”や“反応の好ましさ”が‘比較的に低ければ’,やはり【看取り期の在宅看護を指導するスタンスの省察】に至った.

一方で《看護師が捉える看取り期の同行訪問に臨む学生の様子》において,学生が‘身構える’ことから‘緊張’等が察知されると《療養者・家族と学生の距離の調整》に移行した.そこで,訪問看護師が“意図的に距離を調整する度合”が‘低く’,意図せず療養者・家族と学生の“両者の距離”が‘近づく’場合には,《療養者・家族との学生の向き合い方を確認》する必要性が生じる.しかし《療養者・家族と学生の距離の調整》において,訪問看護師が“意図的に距離を調整し”,‘同行やケアに誘う’ことで“両者の距離”を‘近づける’場合には,《学生に求める学びの目標設定》に移行する.一方で,学生が積極的でないため,同行や見学を‘無理強いせず’に“両者の距離”を‘遠ざける’場合には《学生のレディネスに対する譲歩》に至った.ここで,学生の‘経験が乏しい’ことを考慮し,‘看取り期のイメージの明確化’は難しいと判断して,看護師が“学生のレディネスを譲歩できる度合”が‘比較的に高い’と《療養者・家族と関わるための情報提供》に至るが,状況的に‘療養者や家族への失礼が許されない’ため‘実習態度’や‘学習’に関して‘譲歩できない’と判断する場合には,《看取り期に関わる学習者としての資質の見極め》に移行した.“学習者に備わる資質”が‘真剣’で,‘場に適した行動’もとれることから,“看護師が学習者の資質を好ましく思う度合”が‘高い’と《療養者・家族と関わるための情報提供》に至る.逆に‘社会性に欠けており’,‘学習不足’や‘場違いな言動’があるため,“学習者の資質を好ましく思う度合”が‘低い’と判断すると,看護師は【看取り期の在宅看護を指導するスタンスの省察】を行おうとした.

上記のように,学生の療養者・家族との向き合い方や,学習者としての資質,学びのチャンスに対する反応等において看護師が何らかのひっかかりを感じ,【看取り期の在宅看護を指導するスタンスの省察】に至る.ここで訪問看護師の“指導のスタンスを省察する度合”が‘低く’,十分に“学生のペースに配慮”できないまま,‘普段の実践者としての背中を見せる’という“スタンス”を貫くと,帰結として《看護の実際とイメージに隔たりがありそうな学生》に至った.一方で訪問看護師の“指導のスタンスを省察する度合”が‘高く’,十分に“学生のペースに配慮し”,‘指導者として学生の視点に合わせて’,積極的に“学生に看取り期の看護をイメージさせようとする”と,《気づきのためのヒントの発信》に至る.ここから《学びのチャンスに対して観察される学生の反応》に移行し,看護師の‘説明に納得する’反応が観察され,“積極性の度合”も‘高い’と見受けられると《学生に感じる在宅での看取りに関わる意識の芽生え》という帰結に至る.仮に《学びのチャンスに対して観察される学生の反応》が‘消極的’で“反応の好ましさ”が‘比較的に低く’とも,その反応に合わせて訪問看護師が再度【看取り期の在宅看護を指導するスタンスを省察】し,《気づきのためのヒントの発信》において‘学生に考えさせる’ために“学生の理解を見定めて”必要最低限に吟味された“ヒントを発信する”と《学生に感じる在宅での看取りに関わる意識の芽生え》に至った.一方で,指導のタイミング等に制限があり,“積極的にヒントを発信”できず,その結果“学生自身で気づかせる”ことができないと,《看護の実際とイメージに隔たりがありそうな学生》に至った.

一度帰結に至っても,《看護の実際とイメージに隔たりがありそうな学生》において“学生に学びの余地を感じる度合”が‘高い’場合や,《学生に感じる在宅での看取りに関わる意識の芽生え》において“学生の意識に変化を感じる度合”が‘高い’場合には,再度,《看護師が捉える看取り期の同行訪問に臨む学生の様子》に戻った.

3) 各カテゴリの説明

表2にプロパティとディメンションをもとに説明づけた各カテゴリの定義と,データ例を示す.データ例の内容を補足したり中略する場合には( )で示し,[ ]で参加者名を記載した.

表2 13のカテゴリと各カテゴリの定義

カテゴリ名 定義 データ例
(1)【看取り期の在宅看護を指導するスタンスの省察】  訪問看護師が自身の“指導のスタンスについて省察する”ことである.その省察の際には,“指導時に学生のペースに配慮しようとする”か,“指導時に学生に看取り期の看護をイメージさせようとしているか”等が考慮される. (学生に)そこ(感じとってほしいこと)を何がなんでも伝えなきゃとは,思っていないのかもしれませんね.私の(在宅での看取りの)やり方はこうだよとしか思っていない.[ケースF]
(看取り期の)イメージ(をつける)という意味では,その学生さんの立場に立ってというか,私も指導的というよりはこういうふうにたどってくんだよって,一緒に考えていったりとか,どう思うか聞いたりとかっていうところが大事だったんですかね.[ケースA]
(2)状況《看護師が捉える看取り期の同行訪問に臨む学生の様子》  訪問看護師が捉える“看取り期の同行訪問に臨む学生の様子”を示す.この学生の様子は,“看取り期の同行訪問に臨む学生の行動”等の情報をもとに判断される. (亡くなる人の)怖さよりも,興味の方があるのかなっていう.質問があったこともそうですし,私から話した情報も聞く姿勢が感じられたので.興味を持っているのかなっていうふうに思いました.[ケースD]
やっぱり緊張というか,声をかけても挨拶ができるわけでもない患者さんですし.どうしたらいいのかなって戸惑っているような感じ.最初お部屋に入ったときは,ちょっと遠巻きでいるような感じではありました.[ケースH]
(3)《学生に求める学びの目標設定》  訪問看護師が“学生自身での気づき”の必要性を検討し,”求める学び”を考えて,様々なレベルで“学生に求める学びの目標を設定”しようとすることである. (延命治療)しないことによってできる残された時間とか,家族の大事な思い出づくりだったり,それこそ自分の大事にしたいこと.治療だけがやれることじゃなく,やらないことによってできることもいっぱいあるっていうのを(感じ取ってほしかった).[ケースI]
学生さんは学生さんなりに,その終末期の看取り期の患者さんで,「ああ,こういうことが大事なのかな」っていうのを,ただ,なんだろう.感じ取るだけでいいのかなと,私は思ってて.[ケースG]
(4)《療養者・家族と学生の距離の調整》  訪問看護師が療養者・家族と学生の距離の調整についてその必要性を検討し,”意図的に調整する”働きかけを表す.その”距離の調整の方法”は‘同行やケアに誘ったり’,訪問や見学を‘無理強いしない’等であり,その結果として両者の距離が‘近づいたり’‘遠ざかったり’する.一方で,訪問看護師が強い意図でその距離を調整できない場合もある. 学生さんが見たいんだったら,見せてあげたいと思うんです.どのケースで,どの状態であっても.(中略)「これ(看取り期の看護の場面)見てみたいんです」って(学生が)言ったら「じゃあ見に来れば?誰と行く?」って一番最初に話をする.[ケースF]
「これからこういうところ(エンゼルケアの場面)に行くんだけれど,どうします?」って言って,(学生が)「いやー…」って考えたら,もう,そこでストップなんですけど.(中略)悩んでれば私は連れて行かない,無理強いしないし.[ケースB]
(看取り期にある方のように)なんとなく見どころがあるというか.見せて,なんかためになるっていうか.(中略)なにか,ありそうなところに…ま,連れて行こうと.[ケースE]
(5)《学生のレディネスに対する譲歩》  看取り期の看護に関する学生の‘経験が乏しい’という“理由”や,‘看取り期の看護では失礼は許されない’等の“理由”を考慮し,訪問看護師が“学生のレディネスに対して譲歩できる内容”や“度合”を検討することである. 看取り期に関わること自体が少ないので,思いが馳せられないところは,しょうがないかなとは思うんですけど.[ケースC]
在宅での実習で,あとはほんとに看取り期っていうところで,結構ご家族的にも,やっぱり厳しい状態っていうのはわかってると思うので,あんまり失礼がないようにというか.学生を受け入れることに対しても,ちょっと,よく思わない時期であるとは思うので.そこら辺も配慮していただいた上で訪問をしてもらいたいっていうのはありますかね.[ケースE]
(6)《看取り期に関わる学習者としての資質の見極め》  訪問看護師が,看取り期に関わる看護学生の”学習者として備わる資質”を見極めることである.その資質を見極める根拠として”学習者の言動”を観察し,その”言動が状況に適しているか”を考えて,“学習者の資質を好ましく思えるか”判断する. 別に実習態度としては,特に問題ない.問題ないっていうのも変ですけど,あの,しっかりされてる学生だったとは思います.ご自宅にうかがうにあたって…特別粗相というか,まあ,そんな,特に問題はなかったですし.しっかり挨拶とか,同行した看護師に対しても,その辺の態度というんですかね…挨拶面であったりとか,質問の内容に関しても,そんなに変な内容の質問が来たりとかはなかったので.[ケースE]
そういう発言(場違いな発言)する子って,こんなこと言ったら申し訳ないんですけど,やっぱりその発言だけじゃなくって,実習に対する態度とか,なんか,社会性って言ったら申し訳ないんですけど,ちゃんとした礼儀とか…挨拶とか,足りないという感じがします.[ケースB]
(7)《療養者・家族と関わるための情報提供》  ”情報提供の方法”として,学生への‘カルテ等からの情報収集の促し’,あるいは‘状況や方向性の補足’等を選択し,様々な強さで”情報を提供する”訪問看護師の働きかけである.その働きかけの強さにより,療養者・家族と”関わるための情報量”は異なる. (学生へのアプローチは)一応基本的な部分の病態というか,病名とか,その辺をカルテでとりあえず拾ってもらう感じではあります.[ケースE]
それ(学生の事前の情報収集)に加えた,私の感じたところとか,今の状態とかっていうのを,車の中で話をさせてもらうんですけど.「この方は最初に述べた通り,延命を望まない,何があっても,もう治療はしないと決めている方で」とお話をした.[ケースI]
(8)《療養者・家族との学生の向き合い方の確認》  ‘記録を埋める’ことや‘療養者から目を背けない’等の”行動”を根拠に,関わりに‘義務感を抱く’あるいは療養者・家族に‘関心を寄せる’等の“学生の姿勢”を感じとって,“学生が療養者・家族と向き合おうとしているか”判断することである. それは(カルテを見て病気やエピソードを調べることは),自分の記録の中に残していくために,たぶんやっていると思うんですね.意欲があるかって聞かれると,あるような,ないようなだし….[ケースF]
患者さんに関心を寄せて聞いてくれているんだなということは伝わるような態度でした.この患者さんが,どういう生活を送っていたかとか….[ケースH]
(9)《気づきのためのヒントの発信》  訪問看護師が,在宅での看取り期の看護に関する“学生の理解を見定めて”,”目的”に合わせて必要なヒントを“発信する”働きかけである.訪問看護師がそのヒントを検討する際には,“学生自身で気づかせる”か否かを考慮する. その後(エンゼルケアの同行の後)のフォローとかね,私もしなかったので.最終日じゃなきゃ,また気にかけて,話すんでしょうけど.その機会(エンゼルケアの同行後に話す機会)もないから.[ケースB]
(学生が)そういう肉親の死を経験してるっていうことは,それ以上に伝える必要もないし,実際見ていただいて,どう感じるかというところで,あとで教えていただければいいかなと思いました.[ケースG]
学生さん,現象を点で捉えることはできると思うんですけど,その意味とかまでには考えが及ばないと思うので.ちょっとしたヒントとか,こちらが考えたり,意図してやってるってことを,こちらは当たり前だから,当たり前として何も解説せずにすることもできはするんですけど,それを1つ1つ伝えていくようにした.[ケースH]
(10)《学びのチャンスに対して観察される学生の反応》  訪問看護師が‘説明に納得する’,‘消極的にふるまう’等の,何らかの”学生の反応を観察”し,捉えることである.その反応から“学生の積極性”や“反応の好ましさ”が評価される. 「治療をするだけじゃなくて,最期の時間を家で過ごすっていうのも大事な選択なんだよ」という話をさせてもらったら,「うーん」とちょっと考えるような仕草とかもあったんですけど,「中国だと最後まで治療をするんだ」みたいなことを仰ってた.~(中略)~あまり納得してなさそうに思う.[ケースI]
(「食べられなくても,あえて点滴はしない」という説明に)「そんなのしないなんてかわいそう」だとか,そういう感じではなく「そうなんだな」って.腑に落ちてくれたというか.[ケースH]
(11)帰結《理解できているか分からない学生》  訪問看護師が看取り期の看護に関する“学生の理解度を把握”できない状態を示す. (学生の学びは)どうでしょうね,うーん.私,同行だけはしたんですけど.記録はちょっと確認できていなくて.そのとき(訪問時)だけの様子だと,どういうふうに感じたのかは,私もわからないです.[ケースD]
(12)帰結《看護の実際とイメージに隔たりがありそうな学生》  在宅での看取り期の看護に関して,訪問看護師が“実際と学生のイメージに隔たり”を感じることで,“学びの余地”が残されていると感じている状態である. (学生は)看取りの場面っていうところにいまいちイメージがつかない.看取りというか,本当にエンゼルケアというところになると思うんですけれども,お亡くなりになられる瞬間をたぶんイメージができてない.[ケースA]
(13)帰結《学生に感じる在宅での看取りに関わる意識の芽生え》  訪問看護師が“学生に在宅での看取りに関わる意識の芽生えを感じる”とともに,“学生の変化を感じている”状態である. 彼(学生)の最後の感想の中には「人が死ぬということの意味を,もう1回考える」っていう言葉があったので.そこを,やっぱり簡単に考えないでほしいなってところを,しっかりと捉えてくれたなとは思ったんですね.(中略)彼は人が死ぬっていう過程で,「最期って,どう迎えられたら幸せだったんだろう」って(考えていた).[ケースF]

以下に,表2に示したデータ例をもとに各カテゴリの説明を補足する.

(1) 【看取り期の在宅看護を指導するスタンスの省察】

F氏は,学生が看取り期の看護をイメージできるように指導することより,看取り期の在宅看護を実践する普段通りの自身の姿を見せることに焦点を置き,実習指導を省察する必要性はあまり感じていなかった.この他にも,看護実践をする自分の背中を見せるというスタンスは複数語られた.

一方でA氏は,学生に看取り期のイメージをつけるために,学生の理解を確認し,学生の視点に合わせた指導のスタンスが必要と省察していた.他にも,訪問看護師としての考えを学生に押し付けず,学生の視点や価値観を尊重する必要性を自覚することで,指導のスタンスを省察する場合もあった.

学生の療養者・家族との向き合い方や学びのチャンスへの反応が適切でないまま,指導のスタンスが省察されないと,《看護の実際とイメージに隔たりがありそうな学生》に至った.一方でA氏の語りのように,訪問看護師が学生のペースに配慮しながら看取り期の看護をイメージさせようと自身の指導のスタンスを省察すると《気づきのためのヒントの発信》に移行した.

(2) 状況《看護師が捉える看取り期の同行訪問に臨む学生の様子》

D氏は,質問したり療養者の情報を聞こうとする学生の行動から,看取り期の同行訪問に対して,怖さよりも関心が上回っていると判断した.このように看取り期の同行訪問に積極的な様子であれば,《学生に求める学びの目標設定》がされた.

一方でH氏は,看取り期の療養者を前にして遠巻きに見ることしかできない学生から戸惑いを感じ取った.このような場合には,《療養者・家族と学生の距離の調整》が必要となった.

(3) 《学生に求める学びの目標設定》

I氏は,学生に実習を通して「延命治療せずに家で最期を迎える意味」を学ぶことを求め,具体的に目標を設定していた.この場合にはその目標の達成を目指し,《療養者・家族と関わるための情報提供》に移行する.

一方でG氏のように,家での看取り期の看護の雰囲気や空気感を学生なりに感じ取ることを求める場合もあった.このように学生自身での気づきを重視し,訪問看護師が具体的な目標を設定するわけではない場合には《学生のレディネスに対する譲歩》が検討された.

(4) 《療養者・家族と学生の距離の調整》

F氏は,学生が看取り期にある療養者への訪問を希望する様子を受けて,同行訪問できるように調整し,両者の距離を近づけようと働きかけた.

逆にB氏は,エンゼルケアの参加に学生が悩んだり,消極的な姿勢が見られるうちは,あえて訪問に同行せず,両者の距離を保とうと考えていた.

一方で,療養者と学生の距離の調整を意識せず,とりあえず同行する場合もあった.E氏は学生の様子から意図的に両者の距離を調整するよりも,そのケースが何らかの学びになると考えてとりあえず同行していた.

F氏のように意図的に両者の距離を近づける場合には《学生に求める学びの目標設定》へ,B氏のようにあえて両者の距離を保つ場合には《学生のレディネスに対する譲歩》へ,E氏の語りのように距離の調整を意図せず両者の距離が近づく場合には《療養者・家族との学生の向き合い方の確認》に移行した.

(5) 《学生のレディネスに対する譲歩》

C氏のように複数の訪問看護師が,経験の乏しさのため学生が看取り期をイメージできないことは仕方ないと譲歩していた.この場合には同行訪問の準備として《療養者・家族と関わるための情報提供》に至った.

しかしE氏のように,療養者宅で看取り期のケアに参加することには失礼は許されないと考え,学生の実習態度や学習等のレディネスを譲歩できず,《看取り期に関わる学習者としての資質の見極め》に移行する場合もあった.

訪問看護師は学生の経験や看護場面等を考慮し,学生へ譲歩できる内容やその程度を判断した.

(6) 《看取り期に関わる学習者としての資質の見極め》

E氏は,学生の挨拶の様子や質問の内容がその場の状況で適切であることを根拠に,学生はしっかりしていると判断していた.このように訪問看護師が学習者の資質を好ましいと見極めると,《療養者・家族と関わるための情報提供》をする段階に移っていた.

一方でB氏は,学生の場違いな発言から社会性を疑い,その資質を好ましく思えずにいた.他に学習してこないという姿勢等も,学習者としての資質が好ましくないと見極める根拠であった.このような学生への指導に関して,訪問看護師は【看取り期の在宅看護を指導するスタンスの省察】を行った.

(7) 《療養者・家族と関わるための情報提供》

E氏はカルテを提示して学生自身に情報収集させた.このように情報収集が学生に委ねられると,訪問看護師が学生の情報収集の状況やその解釈を把握できず,《理解できているか分からない学生》に至る.

一方でI氏は,学生自身の情報収集に加えて方針等を補足説明し,十分な情報量を提供していた.このような場合には,その情報をもとにどのように学生が療養者・家族と関わるか確認するため《療養者・家族との学生の向き合い方の確認》に移行する.

療養者・家族と関わるための情報提供は,学生自らの情報収集の促しに限られるか,それに看護師の積極的な補足や説明が加わるかにより,働きかけの強さが異なっていた.

(8) 《療養者・家族との学生の向き合い方の確認》

F氏は,学生が記録を埋めるという義務感のもとに療養者・家族と関わっていて意欲が十分でないと捉えた.この場合には,学生への指導のあり方を検討するため【看取り期の在宅看護を指導するスタンスの省察】に移行する.

H氏の語りからは,学生が療養者に関する説明を聞く姿勢から,療養者に関心を寄せ,向き合おうとしていることが示唆されるが,このような学生に対しては,次の支援として《気づきのためのヒントの発信》が行われる.

(9) 《気づきのためのヒントの発信》

B氏は実習期間とタイミングの問題でエンゼルケアの同行訪問後の振り返りができなかったと語ったが,同様の語りは複数聞かれた.この場合は学生へヒントの発信ができず,結果的に《看護の実際とイメージに隔たりがありそうな学生》という帰結に至った.

一方で意図的にヒントの発信の必要性が検討されたケースもある.G氏は,学生の経験をもとに検討した結果,学生自身で感じ,考えさせるため,意図的にヒントの発信を控えていた.このように学生の理解度に合わせて,学生が自身で考えるための必要十分かつ最低限のヒントが検討,発信されると《学生に感じる在宅での看取りに関わる意識の芽生え》に至る.

同じくヒントの発信の必要性が検討されたケースでも,H氏はその場面で生じている現象の意味まで学生が理解できていないと判断し,詳細に看護の意味を説明していた.そのような場合には,その説明に対する理解を確認するため《学びのチャンスに対して観察される学生の反応》に移行した.

(10) 《学びのチャンスに対して観察される学生の反応》

I氏は,最期の時間を自宅で過ごす選択の重要性を説明しても,自身の考えにこだわり,納得できていない学生の反応を捉えた.このように学生の反応が期待するものと異なる場合には,再度【看取り期の在宅看護を指導するスタンスの省察】が行われた.

H氏は,学生が自身の説明に納得できた様子を捉え,その反応を好ましく評価した.このような場合には,《学生に感じる在宅での看取りに関わる意識の芽生え》に移行した.

(11) 帰結《理解できているか分からない学生》

D氏は同行訪問後に学生の記録まで確認できなかったという理由で,学生の理解度を把握できずにいた.

(12) 帰結《看護の実際とイメージに隔たりがありそうな学生》

A氏は,学生が看取り期の看護の場面を実際に近い形でイメージできていないと評価し,学生の学びが不足していると考えた.

(13) 帰結《学生に感じる在宅での看取りに関わる意識の芽生え》

F氏は,実習を通して療養者が望む最期に思考を巡らせ,自身の課題も見出せた学生に,在宅での看取りに関わる者としての意識の変化を感じた.

Ⅵ. 考察

1. 【看取り期の在宅看護を指導するスタンスの省察】に基づいた《気づきのためのヒントの発信》

看取り期の在宅看護に臨む学生の資質,療養者や家族との向き合い方,反応にひっかかりを感じる場合,訪問看護師は指導のスタンスを省察し,気づきのためのヒントを発信していた.これにより学生の看取り期の在宅看護に関する学びは大きく変化すると考えられた.

実習における適切なロールモデルの提示は重要であり(Gül et al., 2022),看取り期の在宅看護の実践者として背中を見せる姿勢は不可欠である.しかし,看取り期や在宅看護という学生の経験が乏しく,環境的・時間的に制限の多い看護場面においては,背中を見せるだけのスタンスでは,学生が訪問看護師の実践の意味を十分に解釈することは困難と推察される.H氏も『学生さん,現象を点で捉えることはできると思うんですけど,その意味とかまでには考えが及ばないと思う』と語った.つまり訪問看護師は実践を見せるだけでなく,《気づきのためのヒントの発信》において,その実践の意図を言語化する必要があると考えられる.特に,同行した一場面から学生自身で看取り期の在宅看護について洞察を深めることが重要であり,講義や演習で獲得してきた理論的知識と実際に目にした実践が結びつくようにヒントは吟味されるべきではないか.先行研究でも,理論的学習と経験的学習を通じて終末期ケアの知識やスキルを獲得することが推奨される(Yoong et al., 2023).訪問看護師が理論に基づく自身の実践を示してその意味を言語化し,学生がその場面を振り返ることで,看取り期の療養者への同行訪問が肯定的な学びとして意味づけられると考えられる.

しかし実習で初対面となる学生の特性を訪問看護師が把握できず,《看護の実際とイメージに隔たりがありそうな学生》という帰結に至る場合もあると推測される.その場合には,訪問看護師が学生の学びの余地を見定め,《看護師が捉える看取り期の同行訪問に臨む学生の様子》という状況に立ち返って学生の様子やレディネスを正確に捉え,学生の資質や反応に合わせて上記のようにスタンスの省察とヒントの発信を行うことで,《学生に感じる在宅での看取りに関わる意識の芽生え》に導けると考えられる.

2. 《学生に感じる在宅での看取りに関わる意識の芽生え》に導くプロセス

看取り期の療養者への同行訪問に身構える様子の学生に,《在宅での看取りに関わる意識が芽生え》たように変化が感じられるためには,《療養者・家族と学生の距離の調整》,《学生のレディネスに対する譲歩》等の各転換点における訪問看護師の支援のあり方の選択が重要と考えられる.

患者の死に直面する看護学生は,患者やその状況から逃避しようとする場合がある(Zhou et al., 2022).そのような反応が観察された場合,訪問看護師は《療養者・家族と学生の距離の調整》において学生と療養者・家族の距離を縮めるタイミングを意図的に図る必要があると推察された.看護学生が患者の死を想像することに脅威を感じる場合には,徐々に死に近づくとよいとされ(Ek et al., 2014),学生のレディネスが整わない段階で無理に両者の距離を近づけることは避ける方が良いと思われる.その結果,《学生のレディネスに対する譲歩》の段階に移行し,“看取りに対するイメージ”や“学習”のレディネスについて検討される場合があるが,ここで重要なのは,レディネスの評価にとどまらず,それを高めることと考えられる.先行研究では,患者の死や終末期ケアを経験する学生への支援として,「看取りに備えた学修ポイントの統合」や「看取りに関わる学生の感情処理への関与」が推奨されている(Yoong et al., 2023).このような方法で学生のレディネスを高めることで,《療養者・家族との学生の向き合い方の確認》の段階で学生が療養者と正面から向き合うことができたり,《看取り期に関わる学習者としての資質の見極め》の段階で学習者としての適切な資質が備わると考えられる.

即時的に変化する学生の様子を捉え,それに合わせて療養者との距離を調整したりレディネスを整え高めることは,結果的に《在宅での看取りに関わる意識の芽生え》という帰結に導く近道となりうる.

3. 看護への示唆

看取り期の在宅看護について指導する訪問看護師は,学生の資質,療養者・家族との向き合い方や反応をもとに,【看取り期の在宅看護を指導するスタンスを省察】し,そこから学生自身が既習の知識と実習での体験を結び付けて解釈できるように理論に基づく《気づきのためのヒントを発信》することで,《学生に感じる在宅での看取りに関わる意識の芽生え》に至ると期待される.

4. 研究の限界と今後の課題

本研究結果は訪問看護師へのインタビューのみに基づくため想起バイアスが生じている可能性がある.さらに語られた看護学生の所属機関,実習指導体制,実習目的,スケジュール等も多様である.以上の違いが学びの支援に影響している可能性がある.また研究参加者が少なく偏りもあるため,理論的飽和を目指して,さらなるデータ収集と分析を要する.

Ⅶ. 結論

《学生に感じる在宅での看取りに関わる意識の芽生え》に導くため,訪問看護師は学生の資質,療養者や家族との向き合い方,反応をもとに【看取り期の在宅看護を指導するスタンスを省察】し,《気づきのためのヒントを発信》して学生の解釈を促す必要があると考えられた.ヒントの発信は,訪問看護師が理論をもとに実践の意味を言語化することで,学生自身がその場面を省察でき,看取り期の療養者への同行訪問が肯定的な学びとして意味づけられると考えられる.

付記:本論文の内容の一部は,第33回日本看護学教育学会学術集会において発表した.

謝辞:本研究実施にあたり,ご協力,ご指導いただきました皆様,研究にご参加いただきました皆様に心より御礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:川村崇郎は研究の着想およびデザイン,データ収集,分析,原稿の作成まで研究全体に貢献した.陳俊霞,安田真美は研究のデザイン,分析,原稿への示唆に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
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