日本看護科学会誌
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助産所における夫立ち会い出産の体験
齋藤 真希薮内 美南海田中 夢乃武政 亜美要 輝奈
著者情報
キーワード: 助産所, 立ち会い出産, , , 体験
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2024 年 44 巻 p. 473-481

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Abstract

目的:助産所における夫立ち会い出産がどのように体験されているのかについて,夫婦それぞれの視点から明らかにすることを目的とした.

方法:過去1年以内に助産所で立ち会い出産をした妻と夫を対象とした.半構造化面接で得たデータを内容分析で分析した.

結果:妻9名,夫7名が参加した.妻の視点では【出産時に夫にして欲しいことを考える】,【出産時に夫にして欲しいことの実現に向けて準備する】,【夫に支えられ出産に臨む】,【夫の関わりを肯定的に受け止める】,【夫の関わりを否定的に受け止める】,夫の視点では【出産時に自分ができることを考える】,【出産時に妻をサポートできるよう準備する】,【自分なりにできることを考えて実行する】,【妻・助産師に促されて妻をサポートする】のカテゴリーが抽出された.

結論:妻は夫の関わりを肯定的にも否定的にも受け止めていた.夫による妻へのサポートは,夫が自ら考えたサポートも,妻や助産師から促されたサポートもあった.

Translated Abstract

Purpose: This study explores how couples experience husbands’ attending childbirth at maternity homes, from the viewpoint of wives who have experienced husbands attending childbirth and husbands who have attended the birth of their children in maternity homes.

Methods: This study recruited wives who gave birth in maternity homes with their husbands present within the preceding year, along with husbands who had attended their wives’ childbirth within the past year. Data obtained from semi-structured interviews were analyzed using content analysis.

Results: Nine wives and seven husbands participated in the study. There were categories from the viewpoint of wives: 1) considering what I want my husband to do at childbirth, 2) preparing to actualize what I want my husband to do at childbirth, 3) being supported by husband at childbirth, 4) thinking positively about husband’s support, and 5) thinking negatively about husband’s support. There were categories from the viewpoint of husbands: 1) considering what I can do at childbirth, 2) preparing to be able to support my wife at childbirth, 3) carrying out what I can do to support my wife, and 4) implementing wives or midwives’ suggestions regarding the support needed.

Conclusion: Wives thought positively or negatively about their husbands’ support depending on time. Husbands carried out what they could do to support their wives. Husbands sometimes provided support based on their wives or midwives’ suggestions.

Ⅰ. 緒言

女性が出産経験を振り返った先行研究(Karlstrom et al., 2015)では,すばらしい,不思議,信じられない,圧倒的などの言葉が多く語られたように,女性にとって出産は印象深い経験である.その出産に先立ち女性は,不安などの気持ちを抱くことがある(松野,2019).出産時の不安を軽減するため,出産への立ち会いを求めるなど家族の支援を期待することがある(Wigert et al., 2020).そして,夫など家族の立ち会いによって安心感を得ている(Karlstrom et al., 2015).また,妊娠期から感情的に安定している群は感情的に不安定な群と比べて,出産を肯定的に受け止める傾向があるとされている(Hildingsson & Rubertsson, 2022).さらに,出産に夫が立ち会うことで,夫婦間のコミュニケーションが改善したり,意思決定時の共同が増加したりすると示されている(Tokhi et al., 2018).

立ち会い出産は夫にとっても貴重な経験である.出産に立ち会った男性の多くは,それがパートナー,子どもにとって有益であり,パートナーとの関係性に有益なだけでなく,自分自身にとっても有益な経験と認識している(Vischer et al., 2020Johansson et al., 2012).出産に夫が立ち会うことで,夫婦それぞれに自尊心が高まること,夫婦の関係性が親密になること,父親と児のつながりが強まることが示されている(Callister, 1995).同時に,出産に立ち会うことが男性にとって心理的な負担となっているとも指摘されている(Johansson et al., 2012).

日本では,夫立ち会い出産を望む人は増加傾向である(島田,2013).先行研究(松永,2014)では,立ち会い出産をした妻は,夫に対して「そばにいてくれて安心した」「心強かった」と肯定的な感情を抱く場合がある一方で,「いるだけであまり役に立たなかった」「いらいらした」と否定的な感情を抱く場合もあると示されている.夫自身は「妻を支えたい」気持ちを持ちつつも(竹原・須藤,2014),「無力感」を感じること(竹原・須藤,2014千葉ら,2019),妻の支援を行うことで立ち会い出産についての夫の満足度に影響すること(松田,2015)が示されている.

日本では,出産の大多数は病院や診療所で行われており,助産所での出産は出産全体の1%に満たない(厚生労働省,2019).立ち会い出産についての研究の多くも,病院や診療所での出産を対象に行われている(松永,2014千葉ら,2019).病院で研究実施した松永(2014)の研究では,その医療施設の特性として「経腟分娩における夫立ち会い出産に対しては,特別な指導を行うことなく分娩前に希望された場合に立ち会い出産を行っている」と示している.それと比較して,助産所では病院や診療所とは異なる特性があると想定される.しかし,助産所での立ち会い出産での経験については,出版物としてはあまり多く残されていない.そこで本研究では,助産所における夫立ち会い出産がどのように体験されているのかについて,夫婦それぞれの視点から明らかにすることを目的としている.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は質的記述的研究である.

2. 用語の定義

本研究では「立ち会い出産」を「夫が妻の出産までの時間を一緒に立ち会うこと」とした.

3. 研究参加者

研究参加者は過去1年以内に助産所で立ち会い出産を経験した妻と夫とし,出産まで立ち会いを継続できなかった者は対象から除外した.A市内にある分娩を扱う有床助産所2施設でリクルートした.2021年5月時点で過去1年以内(2020年5月〜2021年4月)に夫立ち会い出産を経験した夫婦に研究概要について周知し,研究協力を依頼した.研究への協力の意思があり連絡があった者に詳細な研究説明書と同意書をメールで送り,署名した同意書をメールもしくは郵送で送っていただいた.夫婦とも研究に協力いただいた場合も同意書は妻,夫それぞれに記入いただいた.妻と夫を分けて,それぞれの視点から分析するために,夫婦のいずれかから研究協力の同意が得られた場合,その者を研究対象に含めた.

4. データ収集方法

1時間弱の半構造化面接を1回実施し,助産所での立ち会い出産について,出産の経過,立ち会い出産を希望した理由,立ち会い出産への事前のイメージ,夫婦での話し合いの内容,立ち会い出産時の夫の(夫の場合は自身の)様子とそれについて感じたこと,振り返って考えたことについて尋ねた.面接は,プレインタビューにより質問内容や表現方法を吟味して作成したインタビューガイドを用い,コロナ禍の感染予防対策を考慮してオンラインで行った.面接はプライバシーが確保されるように,夫婦が別室になる状況で個別に実施した.面接は参加者の自宅,職場など,参加者が希望する場所で,参加者が希望する時間に実施した.面接は許可を得て録音した.データ収集は2021年5~10月に実施した.

5. 分析方法

録音データから逐語録を作成した.分析には内容分析(Elo & Kyngäs, 2008)を採用し,逐語録から文章の意味のまとまりごとに区切って切片化し,各切片の内容を示すコードを作成した.トライアンギュレーションにより信憑性を確保するため,2名以上の研究者がそれぞれ独立して分析した後,研究者同士の協議により1つのコードに決定した.妻,夫それぞれに分けた上で,コードの共通性に着目して,カテゴリー・サブカテゴリーを抽出した.データの解釈の妥当性を検証するため,研究参加者によるメンバーチェッキングを受けた.

6. 倫理的配慮

自由意思による研究参加,いつでも同意撤回が可能なこと,個人情報の保護,研究成果の公表,インタビュー内容は夫婦の相手には公表しないことについて文書により説明し,同意を得た.オンラインインタビューでは,事前に連絡したパスワードを用いて接続してもらい,また,他者がオンラインへ接続していないことを確認した.本研究は和歌山県立医科大学倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号3169).

Ⅲ. 結果

9名の妻,7名の夫から研究協力が得られた.夫婦での参加が7組,妻のみの参加が2名であった.研究参加者の背景を表1に示す.初産婦が5名(うち1名は妻のみ参加),経産婦が4名(うち1名は妻のみ参加),前回も助産所での立ち会い出産を経験しているものが1名だった.以下,カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを〈 〉,研究参加者の語りの引用を斜体,説明のため研究者が補った箇所を( )で示す.カテゴリー表を表2表3に示す.

表1 研究参加者の背景

(インタビュー所要時間) 妻A(34分) 妻B(37分) 妻C(22分) 妻D(38分) 妻E(51分) 妻F(53分) 妻G(39分) 妻H(32分) 妻I(47分)
夫B(33分) 夫C(26分) 夫D(36分) 夫E(41分) 夫F(41分) 夫G(33分) 夫I(44分)
子どもの数 2*2 1 1 4*3 1 1 2*4 1 3*5
出産への夫立ち合い回数 1 1 1 4 1 1 1 1 3
子どもの年齢*1 10か月 1歳 5か月 10か月 4か月 1歳 5か月 5か月 6か月

*1 今回の立ち会い出産で出生した子どものインタビュー時点での年齢

*2 以前の出産場所 第1子:病院

*3 以前の出産場所 第1子:病院,第2・3子:助産所

*4 以前の出産場所 第1子:病院

*5 以前の出産場所 第1・2子:診療所

表2 妻の視点から見た助産所における夫立ち会い出産の体験

カテゴリー サブカテゴリー
出産時に夫にして欲しいことを考える 出産について夫に望むことを考える
助産師から助言を受ける
出産時に夫にして欲しいことの実現に向けて準備する 出産時に夫に望むことを夫と共有する
夫婦が助産師と協働して準備する
夫婦と助産師が信頼関係を構築する
夫に支えられ出産に臨む 夫と共に時間を過ごす
安心して出産できる空間・環境だと感じる
出産に集中できている
夫から身体的サポートを受ける
夫が助産師と協働してサポートする
夫が助産師からサポートを促される
夫の関わりを肯定的に受け止める 望んだことを夫がしてくれている
夫と同じ気持ちを共有している
夫が自分の意向を尊重してくれている
夫の関わりを否定的に受け止める 自分が望まないことを夫がしている
夫が助産師と協働できていない
表3 夫の視点から見た助産所における立ち会い出産の体験

カテゴリー サブカテゴリー
出産時に自分ができることを考える 出産について妻の意向を尊重したい
出産時の自分の役割について考える
自分に何ができるか不安に感じる
出産時に妻をサポートできるよう準備する 出産時に望むことを夫婦で共有する
出産に向けて夫婦で準備する
自分なりにできることを考えて実行する 出産する妻を案じる
安心して出産できる空間・環境をつくる
身体的サポートをする
自分の役割を遂行する
助産師と協働して立ち会い出産に臨む
妻・助産師に促されて妻をサポートする 自分に何ができるかわからない
妻から指示されたことを実行する
助産師から指示されたことを実行する

1. 妻の視点から見た助産所における夫立ち会い出産の体験

1) 【出産時に夫にして欲しいことを考える】

妻は〈出産について夫に望むことを考える〉ことで立ち会い出産に備えていた.出産に立ち会う夫の存在を心強いと感じ,夫が傍に居ること自体が重要だと認識していた.

「ただ,いてて(「居て」の意味)くれるだけでいいかな,みたいな.(中略)ほんまに立っててくれるだけでいいやぐらいに思ってました.」(妻A)

出産時の夫にして欲しいことを考える中で〈助産師から助言を受ける〉こともあった.

「出産する前の健診中とかは,『立ち会いの時は奥さんの産まれてくるおしりの方じゃなく,奥さんの顔の方にいてあげてね』っていうのは言ってくれてたんですよ.『その方が奥さんは安心するからね』っていう風に言ってくれてたんですけど.(中略)私の前に居てくれて,やっぱり私の視界に入ってくれてた方が私も安心するし,それこそ手握ろうと思ったら手握れるし,ちょっとしゃべろうと思ったらしゃべれるし.だから確かに私の目の前にいてくれたほうがいいなっていうのはその時に思いました.」(妻I)

2) 【出産時に夫にして欲しいことの実現に向けて準備する】

〈出産時に望むことを夫と共有する〉こと,〈夫婦は助産師と協働して準備する〉ことで,夫婦が望む立ち会い出産の実現に繋げていた.

「(助産師から)こういう状況になるからどうするかとか.そんなんは予行練習の時にちょっと言ってたかな.あとはビデオの撮る位置とか,どこが撮りやすいとか,ああしてあげてこうしてあげてみたいな感じでゆうてくれてた(「言ってくれてた」の意味)かな.」(妻A)

妊娠期から〈夫婦と助産師が信頼関係を構築する〉ことが,出産時に夫が妻を支援できる準備に繋がっていた.

「やっぱり旦那さんと,[助産師]と,(中略)いつも健診一緒でしたし.その合間にほんまに絆っていうかね,できてきて.なんかほんとファミリーって感じだったからすごく信頼もおけてたし.主人も毎回健診について来てくれてたので,助産師さんのことはみんな知ってたし.すごくいろんな話も長い時間とってくださるので,普段のお話もできるし.人間関係がすごく構築できていたので,入った瞬間に家っていう感じでシフティングして.彼もそうやし,[助産師]もほんまにみんなでっていう感じでできてほんと良かったですね .」(妻F)

3) 【夫に支えられ出産に臨む】

妻は〈夫と共に時間を過ごす〉中で,立ち会う夫から声援を受けても,反応する余裕がないこともあった.

「そんなに会話できてないと思います.でも声はかけてくれてたんで.『大丈夫,大丈夫』って.こっちは喋れてないと思う.そんなゆとりはなかった.」(妻C)

言葉を交わすことがなくても,夫に手を握られ〈夫と共に時間を過ごす〉ことで精神的支えとなっていた.

「本当,手握ってるだけだけど,すごいパワーもらえるっていうか.一緒に頑張ってる感じがあって.なんか頑張れました.なんかたぶん(夫が)いたから頑張れたって感じですかね.」(妻E)

また,妻は出産の空間・時間を夫と共有できたことや,夫が傍で支えてくれたことにより,〈安心して出産できる空間・環境だと感じる〉ことに至っていた.

「ちょっとした言葉が何かほっとしたという.面白いこと言うんで,そういう面白いこと言ったら力んでたのがふっと緩んだりして,力を緩めたほうがいい時とかはすごくよかったですね.」(妻F)

〈安心して出産できる空間・環境だと感じる〉ことで,妻は〈出産に集中できている〉状態が保てていた.

「別に(夫が)慌ててる様子もなかったんで,こっちもワタワタせんでこっちはしんどいから,普段と変わらんからイラっとすることもないし.ワタワタすることもなく,イラッとせーへんかったし(「しなかったし」の意味),出産,分娩に集中できたっていうのはある.」(妻A)

妻は例えば,体位を支えられていたり,汗を拭いてもらうことや扇いでもらったり,腰をさすってもらうなど,〈夫から身体的サポートを受ける〉ことができていた.

「(夫は)[助産師]たちと一緒にさすってくれたり,言わなくても『お茶いる?』とか『なんか食べる?』とか声をかけてくれたり,もう本当陣痛始まってからは,寝転がっていたりしても,一緒に寝転んで腰さすってくれたり,一番に動いてくれてた.気が利くというか,こっちがお願いしなくても『何かいる?食べる?』って聞いてくれたり,やってほしいことをやってくれてたって感じです.」(妻E)

出産中に夫に手を握ってもらっていることは,夫婦一緒に出産に取り組む感覚に繋がり,精神的支えとなっていた.出産中に夫と助産師が協働していたことが〈夫が助産師と協働してサポートする〉という認識に繋がっていた.

「いきむ時とかも,主人も合わせるというより,[助産師]の声掛けを主人がもう一回頭もとで言ってくれて.『体を丸めていきんだ方がいいよ.』とか言われる時とかだったら,体を丸めてくれたりとか,主人が手で押さえて,私が丸めやすく力を入れやすくしてくれたっていうのもあったので.主人も[助産師]の言うこと聞いてくれてたなと思ったので.それもあって力も入れやすかったりだとか.」(妻D)

〈夫が助産師からサポートを促される〉こともあった.

「体を動かす時に,主人と[助産師]と私の体を持って,『よいしょ』ってずらしてくれたりとか,そういうことはしてたと思います.『この辺ちょっとさすってあげてよ』とかそういうことは言ってもらってたなとは思うんですけど.(中略)あと,へその緒を主人が切ってくれるので,『その時はこことここを持つから,ここ切るんやで.』っていうのは,なんか人形使って教えてくれてました.」(妻D)

4) 【夫の関わりを肯定的に受け止める】

「会社の人に,『男は無力だよ』っていう感じで言われてたみたいで.(夫は)『全然役に立たないかも』って言ってたんですけど.全然役に立ちすぎて.」(妻E)のように〈望んだことを夫がしてくれている〉時には,夫の関わりを肯定的に受け止めていた.また,出産時に夫が喜ぶ姿を見ることで〈夫と同じ気持ちを共有している〉ことは,肯定的な受け止めにつながっていた.

「私はちょっとヘトヘトな感じだったので全然すぐ見れなかったんですけど.でもそうやってやっぱり言ってくれるの嬉しいですし,我が子だしね.だから主人の口から出てきた率直な『ちっちゃい.かわいいな.』っていうのは本当に私も嬉しい気持ちでした.」(妻I)

〈夫が自分の意向を尊重してくれている〉ことも肯定的に受け止められていた.

「本当に感謝しかなくて.そういう風に私のやり方をすごく尊重してくれて『こうしたいねん』って言ったら,(夫は)『それでいいんちがう』とか言って『やりたいんやったらそれが一番いいよ』という感じで(中略).なんでも賛同してくれる感じだったんで.」(妻F)

5) 【夫の関わりを否定的に受け止める】

妻自身は下半身側から夫に出産を見られるのが嫌なのに,夫が自分の下半身側から児が生まれてくるのを見ていたりなど〈自分が望まないことを夫がしている〉時には,夫の関わりを否定的に受け止めていた.また,〈夫が助産師と協働できていない〉時には,妻は夫の関わりを否定的に受け止めていた.

「[助産師]が『力抜いてよ』っていう時に『いきめよ』って言われたりとか,言ってることがバラバラな時もあって『どっちやねん』というツッコミを,下の3人目,4人目の時はそんなことがあったので,どっちかはっきりさせといてって話をしたことがあります.」(妻D)

2. 夫の視点から見た助産所における立ち会い出産の体験

1) 【出産時に自分ができることを考える】

「まあ基本,お産は女性が主体.本人が一番やりやすい形で,っていうので.」(夫D)と〈出産について妻の意向を尊重したい〉と考えていた.

立ち会い出産に備えるにあたり,夫は〈出産時の自分の役割について考える〉ことにより,妻を応援することや傍で寄り添うこと,安心感を与えることが自分の役割と考えていた.

「(出産中は妻に)寄り添ってやりたいなっていうのがあったので,離れて立っているだけでなくって.」(夫B)

「役割はもうほんとに声掛けだと思う.『もう少しやで』とか,『がんばれよ』とか『大丈夫やで』とか,特に初産やったんでそういう不安はあるだろうから,そういう声かけが大事かなという.そこを大事にしようと思っていましたね.」(夫F)

妻の支えになれるよう,気配りするなど妻を尊重することに配慮していた.

「本当にちょっとした気配りですよね.ちょっと喉乾いてないかなとか,痛いところがあったらさすってあげたらいいんだろうなとか.そういうのをできるだけ細かく気を配れるぐらいのことしかないですね.」(夫D)

しかし同時に,〈自分に何ができるか不安に感じる〉こともあった.

「僕も初めてだったんで,何もすること,応援しかないんで,それぐらいでしたね.初めてだったので,若干不安ってのはちょっとありましたけど,それくらいでしたね.」(夫C)

2) 【出産時に妻をサポートできるよう準備する】

立ち会い出産時に妻をサポートできるよう,〈出産時に望むことを夫婦で共有する〉ようにしていた.例えば,「『手をガッて握っといて』っていうのは言われてましたね.」(夫E)とか,「ビデオカメラ回して収めてほしいって要望があったんで.」(夫I)のように,具体的な行動を役割として求められることもあれば,精神的サポートを自分の役割として共有することもあった.

「やっぱりそばにいてほしいって言われてましたね.」(夫E)

夫自身がどのように立ち会うのか,夫婦で共通のイメージを持つようにしていた.

「前に[助産師]のところでビデオを見せてもらってたんで,腟から子どもが出てくるっていうね.ものすごいリアルに見えたので,それはたぶん(妻と)一緒(の考え)だろうから.そこは興味はなかったんで(子どもが生まれる瞬間を直接見ないことを希望した).」(夫F)

妊婦健診に同行することで,〈出産に向けて夫婦で一緒に準備して〉いた.

「僕が定期健診も結構ついて行けたので,おなかの中に入っている段階からの状態とかも,僕も仕事に余裕があれば一緒に同行して経過を追えたらいいなと思って一緒に行ったりしてたんですけど.」(夫I)

3) 【自分なりにできることを考えて実行する】

出産時に夫は,陣痛の辛さに耐えて出産を頑張る姿を傍で見て,〈出産する妻を案じる〉状態であった.

「『痛いんやろうな.でもがんばれー.』みたいな.『苦しいよなー,痛いよな』っていう.同じ痛みを僕は分かち合えないのが,ごめんじゃないけど,僕が代わりに受けられなくて申し訳ないとか.そんな思いはありました.」(夫E)

夫は周囲に気を配り,妻が〈安心して出産できる空間・環境をつくる〉ことに努めていた.それが,妻への精神的サポートにつながっていた.

「僕の話も聞こえてるか聞こえてないかぐらいのあれなんで.でも,ちょっと落ち着いたときに声かけたりしたら,ちょっとホッとはしてましたね.」(夫E)

「もう(妻の)好きなようにしてよって.(中略)ほんまに嫁さんがちょっとでも安心できるんやったらって.」(夫G)

〈安心して出産できる空間・場所をつくる〉ためには,妻に不安を感じさせないため,まず自分が落ち着くことが必要だと考えていた.

「できるだけ落ち着こうとは思ってましたね.僕がうろたえて奥さんに不安を与えたらいけないんで.一応,平常心のつもりでいましたね.」(夫C)

その場の雰囲気から自分の役割を考えたり,妻の要望に応じる形で,「おでこを拭いてあげた」(夫B)り,「とりあえず手を握ってこうっていうのと,あと背中さすったり」(夫E),汗を拭いたり,〈身体的サポートをしてい〉た.

夫は妊娠期に考えていた自分の役割について,〈自分の役割を遂行する〉ことで妻をサポートしていた.そして,夫婦で頑張っていることが妻に伝わるように行動することもあった.

「妻がいきむときには,一緒に力を入れてあげたりだとか.妻が緩めるときはこっちも緩めたりとか.呼吸とかもできるだけ妻の呼吸に合わせるようにっていうのはちょっと意識してましたね.シンクロじゃないですけど.本当に二人で頑張ったというようなイメージを持ってもらったほうがいいのかなと思って.そういうのは意識したかもしれない.」(夫D)

出産する妻をサポートするため,その場にいるすべての人が一丸となって〈助産師と協働して立ち会い出産に臨む〉状態であった.

「あの現場にいてたら,なんかやらずにいられなくなってくる感じなんですよ.僕のほかに助産師さん3人と妻がいてたんですけど,みんなそれぞれ必死で頑張ってるんで,こっちもなんかやらなってなって,それで考えてできるだけのことを自分にできだけのことをやろうかなという感じですね.」(夫B)

4) 【妻・助産師に促されて妻をサポートする】

夫は〈自分に何ができるかわからない〉と感じることがあった.

「僕も見ているしかできない,見てちょっと何かできること探してっていうことしかできないので.頑張って頑張ってって思うことくらいしかなかったです.」(夫B)

〈妻から指示されたことを実行する〉ことで妻をサポートすることがあった.

「自分が痛みっていうのが分からないので.どうしても傍観しているイメージですかね.背中とかもさすったりっていうのもしますけど,もう(妻に)言われるがままにすればいいかなっていうぐらい.」(夫D)

〈助産師から指示されたことを実行する〉ことで妻をサポートすることもあった.助産師からは具体的なサポートについての促しだけでなく,夫から妻への声かけのきっかけにつながることもあった.

「そんな会話という会話は無かったんですけど(中略),助産師さんもおったんで,助産師さんがいくらか話題振ってくれて『しんどくなってくるでな』とかそういう感じで話しかけてくれて,それに僕も乗ってしゃべるんですけど」(夫B)

Ⅳ. 考察

1. 妻の視点から見た助産所における夫立ち会い出産の体験

本研究では,妻は夫に支えられて出産に挑んでいた.出産時に夫と共に過ごすことで精神的に支えられていると感じ,夫がいることで安心して出産できる空間・環境になっていると感じていた.これは,夫の存在から励まされていた先行研究(松永,2014)と同様の結果であった.また,妻は,声援を受ける,体位を支えられる,汗を拭いてもらう,扇いでもらう,腰をさすってもらうなどの身体的サポートを夫から受けていた.特に夫からの声援や手を握ってもらうことに精神的支えを感じ,出産を頑張ることができる活力となっていた.小田ら(2017)は,助産師が女性に手を当てることを通して安心感を与えていたと示している.本研究では,夫が手を握ることで,助産師が妻に手を当てることと同様に,妻に安心感が与えられていたと考えられる.

本研究で妻は,自分が望んだことを夫がしてくれているとき,夫が自分と同じ気持ちを共有しているとき,夫が自分の意向を尊重してくれているとき,夫の関わりを肯定的に受け止めていた.これは,夫立ち会い出産をした妻が夫の存在を頼りに感じたり,夫からの十分なサポートが出産満足感に影響するという先行研究(中野ら,2003)と同様であった.出産時に夫に自分が望んだことをしてもらうためにも,夫と同じ気持ちを共有するためにも,出産時に夫に望むことについて,妊娠期から夫と共有することが必要になると考えられる.

妻は,自分が望まないことを夫がしていると感じている時や夫が助産師とうまく協働できていない時には,夫の関わりを否定的に受け止めることがあった.出産に立ち会う男性は,慣れない出産の環境に怯えたり(Johnson, 2002),出産への準備が不足していることで手に負えないと感じたり(Johnson, 2002Longworth & Kingdon, 2011)する.出産に立ち会う夫の経験についてのメタ統合(Johansson et al., 2015)では,身体的サポート,声かけ,呼吸法など,妻へのサポート方法について医療従事者から具体的な指示を頼りにしていることが示されている.立ち会い出産時に夫に望むことを事前に夫婦で相談していたとしても,出産が始まって刻々と分娩経過が進行する中で,夫はすべきことがわからなくなることが考えられる.そのため,分娩経過に応じてそのタイミングで夫ができる妻への支援について,助産師が夫に具体的に伝えることが有効だと示唆された.それにより,夫は助産師の促しのもと妻への支援をすることで助産師と協働することができ,妻は夫の関わりを否定的に受け止めずに済むことにつなげられると考えられる.

妻にとって夫立ち会い出産は,「手を握ってるだけだけど,すごいパワーをもらえる」(妻E)のように,【夫に支えられて出産に臨む】体験であった.夫からの身体的なサポートの有無に限らず,夫が存在していること自体を精神的なサポートと認識していた.これには,【出産前に夫にして欲しいことを考える】【出産時に夫にして欲しいことの実現に向けて準備する】ことを出産前に行えたことで,〈安心して出産できる空間・環境だと感じる〉状態を作れた成果だと考えられる.しかし,〈自分が望まないことを夫がしている〉時や〈夫が助産師と協働できていない〉時には【夫の関わりを否定的に受け止める】ことがあった.これは,出産前の準備が及んでいない部分であり,準備の不足を補うように助産師からの夫へのケアが求められる部分だと考えられる.

2. 夫の視点から見た助産所における立ち会い出産の体験

本研究で夫は,出産時に妻へのサポートについて自分なりにできることを考えて実行していた.立ち会い出産時のサポートの一つとして,本研究の参加者は妻が安心して出産できる空間・環境を作ることに努めていた.そのためにまず自分自身が落ち着くことが大切と考えていた.先行研究(竹原・須藤,2014)では,出産に立ち会う男性は妊娠期にも分娩期にも「未知の世界に対する不安と恐れ」を抱いていたと示されている.不安と恐れがある状態で夫自身が落ち着き,妻のために安心して出産できる空間・環境を提供することは難しい.出産時には助産師が何もしていなくても部屋にいるだけで安心感を感じ,出産に立ち会う父親は助産師からケアされていると感じる(Backstrom & Herfelt, 2011)と報告されている.本研究では,助産所での立ち会い出産であったことから,病院や診療所と比べて,助産師が常に産婦のそばに寄り添っていて,出産に立ち会う夫にとっても,常に同室に助産師がいる状態であった.そのため,本研究の夫は助産師がいる安心感から,妻のために安心して出産できる空間・環境を提供することにつながっていたと示唆される.

本研究で夫は,出産時に自分なりにできることを実行する中で,自分の役割を遂行していた.出産への準備不足により立ち会う夫は手に負えないという気持ちを抱きやすい(Johnson, 2002Longworth & Kingdon, 2011)と示されている.本研究の夫は,出産時に望むことを出産前に夫婦で共有し,出産に向けて夫婦で準備をしていた.そのことで,出産に立ち会うことについて夫自身の準備ができていて,出産時に自分の役割を遂行することにつながっていたと考えられる.先行研究(Johansson et al., 2015)では緊急時や分娩時の医療介入時には,夫は平穏を保つことが難しいことが示されている.本研究では,正常経過を逸脱するリスクが比較的少ない助産所での立ち会い出産の経験であったため,夫自身が平穏を保ち,妻への支援を続けられたと考えられる.

夫は自分にできるサポートを行う一方で自分に何ができるかわからないと感じることもあった.これは,夫は自分が行ったサポートについて何もできていないと感じていた寺内ら(2010)の研究と同様の結果であった.本研究で夫は,妻や助産師にその場で言われたことを実行するなど,促されて妻のサポートをしていた.医療従事者との信頼関係は,出産に立ち会う父親はその場の状況への対処の助けとなる(Johansson et al., 2012)とされている.夫が何もできずに終わることがないよう,助産師から分娩の進行状況に合わせて支援できることを伝え,その時点で夫が遂行できるサポートを提案することが必要だと考えられる.

夫にとって立ち会い出産は,〈出産について妻の意向を尊重したい〉と【出産時に自分にできることを考える】ことから始まり,出産時には〈妻を案じる〉中で【自分なりにできることを考えて実行する】など,妻のために行動する体験であった.また,夫自身にとっても「あの現場にいてたら,なんかやらずにいられなくなってくる感じなんですよ.」(夫B)のように,一体感を持って出産に臨む体験となっていた.時には,【妻・助産師に促されて妻をサポートする】こともあり,立ち会い出産における夫としての役割を見出すこともあった.

Ⅴ. 研究の限界と課題

本研究で研究参加者をリクルートしたのは,同一地域の2施設の助産所のみであったため,当該助産所2施設の特徴,地域特性の影響を受けていることが考えられ,助産所を一般的に代表していない可能性がある.また,助産所での立ち会い出産をよく受け止めている人のみが研究に協力した可能性があり,受け止めがよくない人の意見を反映できていない可能性がある.今後は,より多くの助産所で,多様な意見を反映できるよう,検討することが求められる.また,本研究では夫婦それぞれの視点を明らかにする目的で,妻と夫に分けて分析しており,夫婦のデータを対にして語られた内容の比較検討はしていない.今後は,夫婦のデータを対にして比較することで,さらに深い知見の探究が期待される.

Ⅵ. 結論

妻の視点から見た助産所における夫立ち会い出産の体験では,出産時に夫にして欲しいことを考え,その実現に向けて準備していた.出産時には,夫に支えられ出産に臨み,夫の関わりを肯定的に受け止めることも否定的に受け止めることもあった.

夫の視点から見た助産所における立ち会い出産の体験では,出産時に自分ができることを考え,出産時に妻をサポートできるよう準備していた.出産時には自分なりにできることを考えて実行することも,妻・助産師に促されて妻をサポートすることもあった.正常経過でリスクの少ない分娩を扱う助産所で,助産師が常に側にいる状態で出産に立ち会えたことが,夫が安心して妻をサポートできることにつながっていたと考えられる.

付記:本研究は第36回日本助産学会学術集会で発表した内容に一部加筆・修正しています.

謝辞:研究参加者の皆様,研究にご協力いただいた全ての皆様に心よりお礼を申し上げます.本研究は和歌山県立医科大学共同研究助成事業の助成を受けて実施しました.

利益相反:論文内容に関し開示すべき利益相反の事項はない.

著者資格:齋藤は研究のデザイン,データ分析,研究全体の統括,執筆;薮内,田中,武政,要はデータ収集,データ分析,および草案の作成を行った.全ての著者は最終原稿を読み,承認した.

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