目的:赤十字社の国際救援活動に従事したHead Nurse(以下,HN)の看護管理実践の内容を明らかにする.
方法:赤十字社の国際救援活動に従事したHN 7名に半構造的面接を実施し,得られたデータを質的記述的に分析した.
結果:看護管理実践の内容は【赤十字の理念を具現化する】【人道支援組織の管理者として意思決定する】【限られた資源を最大限に活用する】【非日常の環境下において要員の安全確保や不測の事態に対応する】【受益者と要員の多様性を尊重し関係を構築する】【要員が国際救援活動の知識やスキルを獲得し能力向上できるように支援する】【セルフマネジメントする】の7つに集約した.
結論:HNはセルフマネジメントを基盤に,赤十字の理念の具現化のために,受益者・要員との関係を構築し,要員としての成長を支援しつつ,限られた資源を最大限活用していた.安全確保や不測の事態への対応と看護管理者としての意思決定をしていた.
Objective: To elucidate the content of nursing management practices of head nurses engaged in international relief work for the Japanese Red Cross Society.
Methods: Semi-structured interviews were conducted with seven head nurses who had worked in international relief for the Japanese Red Cross Society. The interview data were analyzed qualitatively and descriptively.
Results: This study identified head nurses’ nursing management practices, including embodying the Red Cross philosophy, making decisions as a manager of a humanitarian organization, effectively using limited resources, ensuring staff safety and responding to contingencies in unusual environments, respecting the diversity of beneficiaries and staff and building relationships with them, assisting staff to acquire and improve their knowledge and skills in international relief work, and engaging in self-management.
Conclusion: The head nurses embodied the Red Cross philosophy by building relationships with beneficiaries and staff, assisting staff to acquire and improve their knowledge and skills in international relief work, and maximizing limited resources in nursing management practice. They also ensured staff safety, responded to contingencies in unusual environments, and made a range of managerial decisions. Furthermore, self-management was fundamental to nursing management practice.
国際看護師協会(以下,ICN)は,2021年に看護師の倫理綱領を改訂し,看護師と患者またはケアやサービスを必要とする人々,看護師と実践,専門職としての看護師,および看護師とグローバルヘルス,の4基本領域が設けられ,看護とグローバルヘルスでは,気候変動が人々の健康と地球に与える負の影響について知識を獲得して普及することや,健康に影響を与える地域・世界の問題について行動すること等を明記した(ICN, 2021).日本看護協会(2021)も同年に看護職の倫理綱領を改訂し,看護職は,様々な災害支援の担い手と協働し,災害によって影響を受けたすべての人々の生命,健康,生活をまもることに最善を尽くすことを追加した.近年気候変動による自然災害や国際情勢による人道危機が多発しており,グローバルヘルスにおける看護職の役割の重要性は増している.国連難民高等弁務官事務所は,迫害,紛争,暴力,人権侵害等,国際情勢の不安定により世界で8,240万人が強制的に避難をしていると報告している(UNHCR, 2020).
日本赤十字社はこれまで自然災害や紛争などの国際救援活動に,国際赤十字・赤新月社連盟の要請で281名,赤十字国際委員会の要請で189名の看護職の国際要員を派遣している.2001年以降,国際救援活動に従事する看護管理者であるHead Nurse(以下,HN)として派遣された要員は延べ28名であり(日本赤十字社,1991, 1999, 2011, 2020)人材育成は急務である.
このような人道危機の状況において,国内の医療活動や災害派遣活動とは異なる目的,気候や施設,社会情勢,派遣期間,人的・物的資源等の条件をもつ国際平和協力活動の場で看護活動を円滑に行なう為には,医療環境の管理者であるリーダー看護師のマネジメントが重要な鍵となる(尾立ら,2013).紛争地域,非紛争地域を問わず,赤十字の国際救援活動の鍵を握るのは看護職といっても過言ではなく,特に看護管理者であるHNは重要な役割を担っていると考える.
平時の日本において,看護管理者に求められる能力の指標は,Spencer & Spencer(2011)のコンピテンシー・モデルを参考にしたモデル(虎の門病院看護部,2013)が報告されている.この指標を活用した看護管理者の育成例(高井,2015;和田・森岡,2018)も報告されている.平賀(2003)は看護管理分野の国際協力に携わる人材育成の核となる要素を述べているが,国際協力事業団と2国間協力の技術協力を対象としたものである.
災害時の看護実践に関する枠組みの構築(早野ら,2010)は取り組まれているが,震災発生直後の看護活動に限定されている.国外では,紛争地域で活動する軍隊に所属する看護管理者のコンピテンシーの概念枠組みに関する報告(ICN, 2022;Alba et al., 2015;Huijuan et al., 2020)がある.
以上のように先行研究においては国際救援活動に従事する看護管理実践の内容は明らかにされていない.そのため,国際救援活動に従事する看護管理者の能力開発は,看護管理者個人に委ねられてきた.
本研究では,人道支援組織である赤十字の国際救援活動に着目し,国際救援活動に従事する看護管理者としてHNを研究対象とした.HNの看護管理実践の内容を明らかにすることにより,今後の国際救援活動に従事する看護管理者の育成のためのプログラム開発の資料になると考えた.
1.Head Nurse:赤十字の国際救援活動に従事する看護管理者であり,看護部門の責任者を指す.チームリーダー(以下,TL)あるいはプロジェクトマネジャー(以下,PM)とともに安全管理や不測の事態の対応等を含む国際救援活動全体の管理者でもある.TLあるいはPMが不在時には,代行者として他組織との調整や交渉を行う.
2.看護管理実践:組織の理念のもとに人・物・金・情報・時間などを活用し,看護の対象者のニーズと看護職の知識・技術が合致するよう働きかける思考や行動を指す.
日本赤十字社の国際要員登録者で,HNとして派遣経験がある看護職を対象とした.非紛争地域で活動した看護職は,2010年~2020年に派遣された者に限定し,紛争地域で活動した看護職は少ないため,2000年~2020年に派遣された者を研究対象者とした.HNのなかでもPMを経験した者は,HNよりも広い範囲の活動をしており,HNの活動と混同する可能性があるため研究対象から除外した.
2. 調査方法と内容日本赤十字社国際部に,研究対象者の抽出及び作成した研究協力依頼文書の配信を依頼した.研究対象者に,非紛争地域と紛争地域の両方の経験をもつ場合には,別々の日にインタビューを行うことを説明し,研究協力への同意が得られた7名にインタビュー調査を行った.インタビュー調査は半構造的面接法とし,インタビューは1人1回,1人あたり平均65.5分であった.非紛争地域と紛争地域の両方の経験をもつ対象者は,それぞれの活動について異なる日時に実施した.調査期間は2022年1月~3月である.インタビュー内容は研究参加者の許可を得て録音した.インタビュー内容は,HNとして派遣された救援活動の概要と看護管理実践とした.
3. 分析方法萱間(2007)の分析方法を参考に,インタビューによって得られたデータから逐語録を作成し,看護管理実践の内容に着目してデータを取り出し要約しコード化した.次に各コードを比較検討し類似したものをまとめて抽象化したサブカテゴリー名をつけた.各サブカテゴリーを比較検討し,共通性をもつものをまとめて,さらに抽象化しカテゴリーとした.分析過程において質的研究に精通した研究者によるピアスーパービジョンを受けた.なお,データ収集において非紛争地域と紛争地域での看護管理実践内容の違いを想定して別々にインタビューを行ったが,分析のプロセスで差異を見いだせなかったため,HNの活動地域を区別せずに看護管理実践内容を分析した.
4. 倫理的配慮本研究は日本赤十字九州国際看護大学研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した(承認番号:21-014).研究参加者には,研究参加の任意性と拒否・同意撤回の自由,研究参加による利益,不利益の軽減,個人情報とプライバシーの保護と破棄,研究結果の公表について文書を用いて説明し,署名により研究参加の同意を得た.非紛争地域と紛争地域の両方の経験をもつ対象者には,それぞれについて別々の日に行うことを説明した上で同意を得た.なお本研究の協力の有無が対象者の施設における業務や国際派遣等の機会には一切関係しないことを説明した.
活動地域を非紛争地域と紛争地域に分けて表1に示す.対象者の平均年齢は55.3歳であった.活動地域は非紛争地域と紛争地域にわけた.さらに非紛争地域の活動には自然災害による被災者救援と人道危機による避難民支援があった.紛争地域の活動には,自然災害による被災者救援と武力紛争による負傷者支援があった.7名のうち3名が非紛争地域と紛争地域の両方の活動を経験していた.
| 研究対象者 | Head Nurse としての 派遣経験回数 |
活動の種類及び活動地域 | 派遣期間(月数) | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 非紛争地域 | 紛争地域 | 短期 | 長期 | |||||
| 自然災害による被災者 | 人道危機に よる避難民 |
自然災害に よる被災者 |
紛争による 負傷者 |
|||||
| 地震 | 台風 | 1~2 | 6~12 | |||||
| A氏 | 1回 | 〇 | 〇 | |||||
| B氏 | 1回 | 〇 | 〇 | |||||
| C氏 | 1回 | 〇 | 〇 | |||||
| D氏 | 2回 | 〇 | 〇 | ◎ | ||||
| E氏 | 2回 | 〇 | 〇 | ◎ | ||||
| F氏 | 3回 | 〇 | 〇 | 〇 | ◎ | 〇 | ||
| G氏 | 4回 | ◎ | 〇 | 〇 | ◎ | 〇 | ||
◎は複数回
国際救援活動におけるHNの看護管理実践の内容は,【赤十字の理念を具現化する】【人道支援組織の管理者として意思決定する】【限られた資源を最大限に活用する】【非日常の環境下において要員の安全確保や不測の事態に対応する】【受益者と要員の多様性を尊重し関係を構築する】【要員が国際救援活動の知識やスキルを獲得し能力向上できるように支援する】【セルフマネジメントする】の7つに集約された(表2).カテゴリーは【 】,サブカテゴリーは[ ],コードは〈 〉として記述する.受益者とは,被災地の人々すべてをさし,現地スタッフも受益者に含まれる.また,要員とは,各国赤十字社から被災地に派遣されたメンバーをさす.
| カテゴリー | サブカテゴリー | 代表的なコード |
|---|---|---|
| 【赤十字の理念を具現化する】 | [赤十字の理念を多国籍の要員や現地スタッフに浸透させる] | 多国籍の要員に赤十字の理念,原則,魂を語る |
| 現地のスタッフを巻き込んで赤十字の理念を共有していく | ||
| [赤十字の理念に則り国際救援活動を展開する] | 過酷な状況の中で赤十字の原則や活動を理解して組織・団体とともに被災地を守るという意識で赤十字としての役割を遂行する | |
| この地域で唯一の仮設診療所として命と健康を守ることを優先し臨機応変に活動する | ||
| 赤十字の活動や原則を理解して受益者を分け隔てすることなく彼らの尊厳を守りながら実践する | ||
| [赤十字の理念に則った救援活動を継続させる] | 活動に必要な物資の確保と医療サービスの継続方法を検討する | |
| 現地の保健師たちが要員から活動を引き継ぎ継続できるように支援する | ||
| 【人道支援組織の管理者として意思決定する】 | [意見が対立した場面で公平に判断し決める] | 所属背景が異なるボランティア間の対立が生じた時に中立の立場で仲裁する |
| 無断欠勤をした現地スタッフに対し他のスタッフのことを考え警告する | ||
| [受益者のニーズを尊重して活動の方向性を決める] | 現地の風習によって医療を提供できないことで怒りを表した要員を諭す | |
| 今後の地域医療の復興に向けて方向性を決める | ||
| 【限られた資源を最大限に活用する】 | [限られた資源が枯渇しないように計画的に利用する] | 医療資機材数の限界を要員と共有し節約を促す |
| 資機材・医薬品等の物品について枯渇しないように工夫して管理する | ||
| [要員の能力を最大限発揮できるよう適材適所に配置する] | 要員の得意なことを聞きながら特徴をおさえて配置する | |
| 各要員が得意とする分野で力を発揮できるように調整する | ||
| [要員が環境に適応し活動を継続できるよう健康管理を行う] | 要員の健康管理とチーム内の人間関係に配慮する | |
| 診療活動とプライベイトな時間とのバランスを考え要員のオフの時間を確保する | ||
| [効率的に活動するために創意工夫をする] | 要員の勤務シフトを組む | |
| 患者の観察項目の記入表を作成する | ||
| 【非日常の環境下において要員の安全確保や不測の事態に対応する】 | [危機的な状況を予測し要員の安全を確保する] | 無線機の使用に習熟していない要員に対して訓練する |
| 二次災害を念頭に置き備蓄品を揃える | ||
| [発生した不測の事態に対応する] | 発熱した要員を活動地から撤退させる | |
| 車両の事故に巻き込まれた要員の安全を確認する | ||
| 【受益者と要員の多様性を尊重し関係を構築する】 | [受益者と要員の能力や教育背景を理解し尊重する] | 現地の方たちの教育背景やペースを尊重して働きかける |
| 他の要員に批判的な言動をとる要員に対して多様性を尊重するよう促す | ||
| [受益者と要員の習慣や行動様式を尊重しチームビルディングする] | 受益者と要員の経験や働き方が異なるため目的を明確にしてリーダー役を担う者を任命する | |
| 現地スタッフに対しミーティング時の座席位置に配慮しチームの一員として尊重する | ||
| [文化や価値観の違いから生じるコンフリクトに対処する] | 自身の生活再建を優先する現地ボランティアと現地スタッフとの間に立ちお互いの理解を促す | |
| 避難民スタッフと受け入れ国スタッフとの対立に対して同じで仲間であることを説明する | ||
| 【要員が国際救援活動の知識やスキルを獲得し能力向上できるように支援する】 | [要員に対して国際救援活動の基本をおさえる] | 役割遂行のため計画を立てさせ未経験のことは一緒に実践しフィードバックする |
| ただ単に活動をするのではなく主体的に活動内容を意識して参加できるよう促す | ||
| [要員に対して具体的な看護実践を指導し支援する] | 要員に基本的な看護の知識や技術を指導する | |
| 災害時の外傷の基本的な処置方法を現場で医師も含めて教える | ||
| [要員の課題を明確にした評価をする] | 評価に納得できない要員に対してわかりやすく相手が理解できるように説明する | |
| 英語を用いてロジカルに話し本人の長所や得意分野を認めながら評価する | ||
| 【セルフマネジメントする】 | [過酷な環境に自らを適応させる] | 現地の生活環境を過酷と思わず学びとしていく |
| 多様な社会,多様な対象を受け入れて自分がそこで適応していく | ||
| [自身の感情コントロールをする] | 自分の疲労やイライラを見せないようにセルフコントロールして行動する | |
| 自分とは異なる意見をもつ人に出会っても冷静に受け止めて話をする | ||
| [人道支援組織としての赤十字組織にコミットメントする] | どんな状況でも赤十字の理念に向かって活動をする覚悟と責任をもつ | |
| 赤十字の人道の原則に基づき受益者とスタッフの力を引き出すことを大切にする | ||
| [国際活動に必要な知識と経験を統合し学び続ける] | 自分の公衆衛生学の知識の不足を実感し帰国後に勉強する | |
| 現地で実際に自分の頭や体を使い経験値を上げる |
受益者:被災地の人々すべてをさし,現地スタッフも受益者に含まれる 要員:各国赤十字社から被災地に派遣されたメンバーをさす
赤十字の組織理念は「あらゆる状況下において人間の苦痛を予防し軽減することに努力する.生命と健康を守り,人間の尊重を確保すること」であり,この理念を実現するための行動規範として赤十字の基本原則がある.赤十字の基本原則は,人道,公平,中立,独立,奉仕,単一,世界性である(Pictet, 1979/2006).
様々な国際的な支援機関が災害の現場に結集する中,HNは人道支援機関の赤十字組織の看護管理者として,赤十字の理念をともに活動する要員や現地スタッフに浸透させたり,赤十字の理念に則り国際救援活動を展開したり,その活動を継続させたりして,赤十字の理念を具現化していた.
(1) [赤十字の理念を多国籍の要員や現地スタッフに浸透させる]HNは様々な場面で多国籍の要員や現地スタッフに〈赤十字の理念,原則,魂を語る〉や〈現地のスタッフを巻き込んで赤十字の理念を共有していく〉というように,赤十字の理念を多国籍の要員と現地のスタッフに浸透させていた.
(2) [赤十字の理念に則り国際救援活動を展開する]HNは〈過酷な状況の中で赤十字の原則や活動を理解して組織・団体とともに被災地を守るという意識で赤十字としての役割を遂行する〉,〈この地域で唯一の仮設診療所として命と健康を守ることを優先し臨機応変に活動する〉や〈赤十字の活動や原則を理解して受益者を分け隔てすることなく彼らの尊厳を守りながら実践する〉というように赤十字の理念に則り活動を展開していた.
(3) [赤十字の理念に則った活動を継続させる]HNは〈活動に必要な物資の確保と医療サービスの継続方法を検討する〉をし,自分たちの撤退後も現地の医療サービスが継続できるように〈現地の保健師たちが要員から活動を引き継ぎ継続できるように支援する〉をし,赤十字の理念に則った活動を受益者に引き継ぎ,持続させていた.
2) 【人道支援組織の管理者として意思決定する】看護部門の管理者であるHNは,安全管理や不測の事態の対応等を含む活動全体についてTLあるいはPMとともに組織の管理者として活動し,様々な意思決定を行っていた.そして判断に迷う時には赤十字の理念・原則に立ち戻り意思決定していた.
(1) [意見が対立した場面で公平に判断し決める]HNは活動中に関係者間の意見が対立する場面に直面しており〈所属背景が異なるボランティア間の対立が生じた時に中立の立場で仲裁する〉のように管理者として中立かつ公平に判断し,意思決定を行ない対処していた.
(2) [受益者のニーズを尊重して活動の方向性を決める]HNは要員が活動国の文化や風習に戸惑い葛藤する場面に直面しており〈現地の風習によって医療を提供できないことで怒りを表した要員を諭す〉のように,人道支援組織の赤十字の要員として受益者の価値観やニーズを尊重した対応をすることや〈今後の地域医療の復興に向けて方向性を決める〉などしていた.
3) 【限られた資源を最大限に活用する】HNは,想定する患者数や診療内容,活動期間等を基準に搬入された,限りある医療資機材や設備を,効率よく計画的に使用していた.そして様々な背景や経験をもつ要員が,慣れない環境に適応し活動を継続できるように健康管理をしつつ,要員が能力を発揮できるように配置を考えていた.このように限られた物的人的資源を効果的に活用していた.
(1) [限られた資源が枯渇しないように計画的に利用する]HNは限られた資源が枯渇しないように医薬品等の在庫管理をしながら計画的に利用していた.具体的には〈医療資機材数の限界を要員と共有し節約を促す〉や〈資機材・医薬品等の物品について枯渇しないように工夫して管理する〉などをしており,計画的に物品を利用していた.
(2) [要員の能力を最大限発揮できるよう適材適所に配置する]要員は多国籍であり派遣経験も様々であることから,HNは限られた要員が最大限能力を発揮できるように配置を考えていた.具体的には〈要員の得意なことを聞きながら特徴をおさえて配置する〉のように要員の能力や特徴を理解し,チームとして補完し合いながら得意分野をいかす配置をしていた.
(3) [要員が環境に適応し活動を継続できるよう健康管理を行う]要員の中には,気候の違い,人間関係の問題,言語の壁等で環境に適応できない者もいるため,HNは〈要員の健康管理とチーム内の人間関係に配慮する〉のように要員の現地での活動への適応を支え健康管理していた.
(4) [効率的に活動するために創意工夫をする]HNは限られた要員数と人材で効率的に活動するために〈要員の勤務シフトを組む〉や〈患者の観察項目の記入表を作成する〉のように日本での平常時の看護管理にもとづき要員の人員配置をしたり,看護記録を導入したりするなど工夫していた.
4) 【非日常の環境下において要員の安全確保や不測の事態に対応する】HNは非日常の環境下において 活動を展開する場所をTLとともに選択し,活動の拠点となる施設と設備を整えていた.そしてその環境のハザードやリスクをアセスメントし,要員が安全に活動できるように支援をしていた.また発生した不測の事態にも対応をしていた.このように要員の心身の安全が脅かされる環境で,要員や受益者の安全を守っていた.
(1) [危機的な状況を予測し要員の安全を確保する]HNは国際救援の場で発生する特徴的な危機を予測し,要員の心身の安全を確保していた.具体的には唯一の通信手段となる無線機について〈無線機の使用に習熟していない要員に対して訓練する〉や二次災害の発生のリスクをふまえ〈二次被害を念頭に置き備蓄品を揃える〉ことをしていた.
(2) [発生した不測の事態に対応する]HNは体調を崩す要員や事故に巻き込まれた要員を助け対応していた.具体的には〈発熱した要員を活動地から撤退させる〉や〈車両の事故に巻き込まれた要員の安全を確認する〉のように要員の安全を脅かす不測の事態が発生した場合に対応していた.
5) 【受益者と要員の多様性を尊重し関係を構築する】HNは受益者の多様性を理解し,受益者に受け入れられるよう信頼を得る努力をしていた.また活動をともにする要員も多国籍であり様々な背景があり,HNは要員の多様性も尊重し関係を構築していた.そして人道支援の目的に向かって受益者と要員の多様性を尊重し,時にはコンフリクトを調整しつつチームビルディングしていた.このように多様な背景をもつ受益者と要員双方と関係を構築していた.
(1) [受益者と要員の能力や教育背景を理解し尊重する]HNは〈現地の方たちの教育背景やペースを尊重して働きかける〉や〈他の要員に批判的な言動をとる要員に対して多様性を尊重するように促す〉のように支援者の立場での目的やペースではなく,受益者の考えやペースを尊重して信頼関係を構築していた.
(2) [受益者と要員の習慣や行動様式を尊重しチームビルディングする]HNは〈受益者と要員の経験や働き方が異なるため目的を明確にしてリーダー役を担う者を任命する〉や〈現地スタッフに対してミーティング時の座席位置に配慮しチームの一員として尊重する〉など,のように受益者と要員の習慣や行動様式を尊重し,受益者と要員を一つのチームとして結集し,チームビルディングをしていた.
(3) [文化や価値観の違いから生じるコンフリクトに対処する]HNは要員と現地のスタッフ間,または現地スタッフと現地ボランティア間で意見の対立が起きる場面で〈自身の生活再建を優先する現地ボランティアと現地スタッフとの間に立ちにお互いの理解を促す〉や〈避難民スタッフと受入れ国スタッフとの対立に対して同じ仲間であることを説明する〉のように文化や価値観の違いから生じる関係者間の対立に介入し対処していた.
6) 【要員が国際救援活動の知識やスキルを獲得し能力向上できるように支援する】HNは人材育成の視点から要員に対して,派遣中に様々な経験の機会を提供し,具体的な看護実践指導を通して支援をしていた.また要員としてのスキル向上を意図して,役割遂行上の課題を明確にして評価を行っていた.このように要員が派遣経験から国際救援活動の知識やスキルを獲得し能力向上できるよう支援していた.
(1) [要員に対して国際救援活動の基本をおさえる]HNは派遣を要員の成長の機会ととらえて〈役割遂行のための計画を立てさせ未経験のことは一緒に実践しフィードバックする〉のように,要員が一つ一つの活動に対して目的や自己の目標を明確にして主体的に取り組み,実践知を獲得できるよう支援していた.このように要員が貴重な派遣経験から国際救援に関する知識やスキルを獲得できるよう支援していた.
(2) [要員に対して具体的な看護実践を指導する]HNは要員の実践力を短期間で判断し〈要員に基本的な看護の知識や技術を指導する〉や〈災害時の外傷の基本的な処置方法を現場で医師も含めて教える〉のように具体的な指導をしていた.このように要員に対して,基本的な看護の知識や技術に加え,国際救援に特有な看護実践を指導していた.
(3) [要員の課題を明確にした評価をする]HNは活動終了時に,主に看護要員を中心に活動の評価を行っていた.英語を用いてロジカルに説明し〈評価に納得できない要員に対してわかりやすく相手が理解できるように説明する〉のように要員が自らの課題を理解し成長につなげられるよう評価をしていた.
7) 【セルフマネジメントする】HNは赤十字の理念,原則を自身の活動の核とし,過酷な環境に自らを適応させ様々な事象に対して自身の感情をコントロールしながら活動をしていた.また派遣経験を通して自己の課題を明確にし,帰国後に国際活動に必要な知識を学修し,経験と統合させていた.このように非日常の活動地で自らの心身をコントロールし,継続的に自己研鑽していた.
(1) [過酷な環境に自らを適応させる]HNは非日常の活動地で行動の制約や物資の限界がある中で,おかれた環境に自らを適応させていた.制約や限界がある生活においても〈現地の生活環境を過酷と思わず学びとしていく〉のように柔軟な思考で自身の学びの場として環境に適応していた.
(2) [自身の感情コントロールをする]HNは非日常の活動地で余裕のない相手から向けられる攻撃や強い意見に対して〈自分の疲労やイライラを見せないようにセルフコントロールして行動する〉のようにネガティブな感情をコントロールし,冷静に対処していた.
(3) [人道支援組織としての赤十字組織にコミットメントする]HNは〈どんな状況でも赤十字の理念に向かって活動をする覚悟と責任をもつ〉のように赤十字の理念と原則にもとづく国際救援活動を自身の使命として捉え,専心していた.
(4) [国際活動に必要な知識と経験を統合し学び続ける]HNは国際活動を通して〈自分の公衆衛生学の知識の不足を実感し帰国後に勉強する〉のように派遣前に学修していた知識を現場で適用させた結果,自己の学修課題を見出していた.このように,派遣中にこれまで獲得した知識と経験を結びつけ実践知を獲得したり,自身の課題を明確にしたりしていた.
国際活動に従事する看護管理者の実践内容を明らかにした先行研究はわずかであり,自衛隊の国際平和協力活動における看護マネジメント能力の構造を明らかにした先行研究(尾立ら,2013)の結果と本研究のHNの看護管理実践の内容を比較する.
本研究のHNの看護管理実践は,【赤十字の理念を具現化する】【人道支援組織の管理者として意思決定する】【限られた資源を最大限に活用する】【非日常の環境下において要員の安全確保や不測の事態に対応する】【受益者と要員の多様性を尊重し関係を構築する】【要員が国際救援活動の知識やスキルを獲得し能力向上できるように支援する】【セルフマネジメントする】の7つに集約された.
尾立ら(2013)は,国際平和協力活動における看護マネジメント能力に関するモデルにおいて,《看護管理実践》として〖現地での医療チーム管理〗と〖組織全体の力の活用〗の2つのカテゴリーを抽出した.それ以外に,《自己管理能力》《看護実践能力》《組織コミットメント能力》《リーダーシップ能力》の4つを示した.
本研究のHNの看護管理実践である【赤十字の理念を具現化する】に含まれるサブカテゴリー[赤十字の理念を多国籍の要員や現地のスタッフに浸透させる][赤十字の理念に則った救援活動を継続させる]は,尾立ら(2013)の《リーダーシップ能力》の「現場の指揮監督」「看護のビジョンをもつ」「チームをまとめる」と共通性がみられた.これは,国際活動に従事する看護管理者は,所属する組織が赤十字か自衛隊かを問わず,日本と異なる国や地域で,災害や紛争といった危険な状況下で,チームをまとめ,組織の使命を果たす任務を遂行していることから共通していると考えた.このことから,国際活動に従事する看護管理者は,非日常下においてもリーダーシップ能力を発揮し,所属する組織の理念にもとづいたマネジメントをすることが,重要であると示された.
本研究のHNの看護管理実践である【セルフマネジメントする】に含まれるサブカテゴリ―[過酷な環境に自らを適応させる][自身の感情コントロールをする]は,尾立ら(2013)の《自己管理能力》である「困難を克服できる強い精神力」「ストレス対処法」と共通性がみられた.齋藤ら(2005)によると,国際救援要員のストレス要因には,文化の違い,情報の不足,コミュニケーションや人間関係があることが指摘されている.本研究のHNと尾立ら(2013)の看護管理者は,国際活動の現場において,国内で経験をしたことのないような強いストレス下で,要員のストレスを把握し,安全を確保して活動をする.そのため,特に看護管理者は,自身の心身のコンディションをマネジメントすることが必要であることが示された.また,本研究の【セルフマネジメントする】に含まれるサブカテゴリ―[人道支援組織としての赤十字組織にコミットメントする]は,尾立ら(2013)の《組織コミットメント能力》と共通性がみられた.
また,本研究の【限られた資源を最大限に活用する】と【要員が国際救援活動の知識やスキルを獲得し能力向上できるように支援する】に含まれるサブカテゴリー[要員の能力を最大限発揮できるよう適材適所に配置する][要員に対して具体的な看護実践を指導し支援する]は,尾立ら(2013)の《看護管理実践》に含まれる〖現地での医療チームの管理〗の「臨時編成による見極め」「メンバーの保護」「メンバーの育成」に共通する点が見いだされた.これは本研究のHNと尾立ら(2013)の看護管理者は,国際活動の現場において,チームとして最良の医療を提供するために,要員の資質・能力を見極め,要員が能力を最大限に発揮できるようにマネジメントすることが求められているためと考えた.
以上のことから,自衛隊においても,赤十字においても,自己の精神や身体を自己管理しながら,組織にコミットメントし,リーダーシップを発揮することが,国際活動の場で看護管理者に求められるといえる.
一方,本研究の【受益者と要員の多様性を尊重し関係を構築する】は,先行研究(尾立ら,2013)には見当たらなかった.これは国際平和協力活動の看護の対象は隊員であること,本研究のHNは多様な要員とともに活動し,多様な背景の受益者を看護の対象としていること,つまり看護の対象の特性によるためと考える.以上のことから,本研究の【受益者と要員の多様性を尊重し関係を構築する】は,赤十字組織のHNの看護管理実践の特徴であると考える.
2. 国際救援における看護実践と看護管理実践との比較ここでは,国際活動に従事する看護師の認識と行動の特徴と看護管理者であるHNの実践内容を比較する.酒井(2003)は,看護師の国際救援活動時において4つの認識と10の行動の特徴を抽出し,4つの制約(時間的,物的,人的,自己への制約)を認識し行動していることを明らかにした.
本研究のHNの看護管理実践の内容と比較すると,本研究のHNは酒井(2003)の4つの制約を認識し行動をしていたことが明らかになった.本研究の【限られた資源を最大限に活用する】の[限られた資源が枯渇しないように計画的に利用する][要員の能力を最大限発揮できるよう適材適所に配置する]は,酒井(2003)の物的人的資源による制約を認識した実践と共通していた.また,本研究の【セルフマネジメントする】の[過酷な環境に自らを適応させる][自身の感情コンロトールをする]は,「特殊状況下において心身を統制する」という自己の制約(酒井,2003)と共通性がみられた.以上のことから,国際救援における看護実践の認識と行動は.本研究の看護管理者であるHNの看護管理実践の内容においても4つの制約を認識し行動する点で共通していた.
一方,看護実践と異なる看護管理実践の独自の内容として,本研究で抽出した【赤十字の理念を具現化する】【人道支援組織の管理者として意思決定する】が挙げられる.本研究のHNは,組織の責任者という立場から意思決定し,組織の理念を具現化すべく関係者に働きかけていた点が異なると考えた.
3. 今後のHN育成への示唆金子ら(2021)は,看護管理者がキーコンピテンシーを獲得する上で,内的要因と外的要因が関係していることを指摘している.HNの活動は国際救援活動に特有の困難性があり,国内の臨床現場では経験できない.そのために,内的要因と外的要因を考慮し,国際救援活動の事例を作成し,事例展開やシミュレーションをすることで,HNとしての素地を養うことができると考えた.特に英語を用いてシミュレーションすることで,多様な背景をもつ受益者や要員への理解を深めることができると考えた.
本研究の限界として,まず,研究対象者について,国際救援活動を担う組織の中でも日本赤十字社に所属するHNのみに限定したことが挙げられる.今後の課題は,日本赤十字社とは異なる国際救援組織の看護管理者を対象とすることで,本研究の網羅性を高めることが必要であると考える.次に,本研究では,研究対象者が限られており,研究対象者の非紛争地域の経験と紛争地域の経験を区別せず分析したが,紛争地の特に武力紛争地域の活動は,日本人の支援者が少なく,非紛争地域の派遣と比べて派遣期間が長い傾向にあるため,今後は区別したうえで,活動地ごとの看護管理実践の特徴を明らかにしていく必要があると考える.
国際救援活動に従事したHNの看護管理実践の内容は【赤十字の理念を具現化する】【人道支援組織の管理者として意思決定する】【限られた資源を最大限に活用する】【非日常の環境下において要員の安全確保や不測の事態に対応する】【受益者と要員の多様性を尊重し関係を構築する】【要員が国際救援活動の知識やスキルを獲得し向上できるように支援する】【セルフマネジメントする】の7つに集約された.
謝辞:本研究にご協力いただきました,HNの皆様,日本赤十字社事業局国際部の皆様に心より感謝いたします.本研究は2021年度日本赤十字九州国際看護大学奨励研究助成を得て行った.
利益相反:本研究に関する利益相反は存在しない.
著者資格:AIは,研究計画立案,データ収集,データ分析,結果の解釈,原稿執筆を担当した.YKは,研究計画立案,データ分析,結果の解釈をAIとともに行い,原稿に加筆・修正を加えた.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.