日本看護科学会誌
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原著
日本の中高年期の住民における自己の認知症発症に対する強い心配に関連する心身の健康特性
酒井 美加子, 佐伯 香織, 宇佐美 利佳, 古川 直美, 中山 綾子, 滝川 満理奈, 田中 七月, 星野 純子
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2024 年 44 巻 p. 723-731

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Abstract

目的:本研究は,日本の地域住民の抱く自己の認知症発症に対する心配の程度と関連する心身の健康特性について年代別(64歳以下,65歳以上)に明らかにすることを目的とした.

方法:40歳以上の地域住民を対象に,無記名自記式質問紙調査を行った.認知症発症に対する心配の程度についての回答の割合と心身の健康との関連について検討を行った.

結果:自己の認知症発症に対しおおいに心配している者は,64歳以下の者60名(27.1%),65歳以上の者75名(22.8%)であった.両年代とも,年齢・性別などの個人属性と自己の認知症発症に対する心配の有無との間に有意な関連は見られず,健康不安・ストレス・記憶力の低下の有無との間には有意な関連が見られた.

結論:40歳以上の地域住民の約25%は自己の認知症発症に対し強い心配の感情を抱き,年代に関係なく,精神・神経的な要因が強い心配と関連する可能性が考えられた.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to clarify the mental and physical health characteristics associated with the degree of “concern about the developing dementia” of local residents in Japan by age group (64 years old or younger, 65 years old or older), and to examine possible factors related to feelings about the developing dementia.

Methods: This was a descriptive epidemiological study using anonymous self-administered questionnaires for community residents aged ≥40 years. We examined the relationship between the proportion of respondents who responded to the level of concern about developing dementia and their physical and mental health.

Results: Those who were greatly concerned about dementia development were 60 individuals (27.1%) aged ≤64 years and 75 individuals (22.8%) aged ≥65. In both age groups, there was no significant correlation between personal attributes, such as age and sex, and the presence or absence of concerns about dementia development. Conversely, a significant correlation was found between the presence or absence of health anxiety, stress, and memory decline and concerns about dementia development.

Conclusions: Approximately 25% of local residents aged 40 years and older had severe feelings of concern about the developing dementia, and regardless of age, it was thought that psychiatric and neurological factors may be associated with severe concern.

Ⅰ. 緒言

内閣府の令和5年度版高齢社会白書(内閣府,2023)によると,世界の高齢化率は2020年の時点では9.4%,さらに2060年には18.7%まで上昇することが見込まれており,今後40年で世界において高齢化が急速に進展することが予測されている.本邦において,2022年10月時点の65歳以上の人口は3,624万人,高齢化率は29.0%となった.さらに高齢化率は上昇を続け,2070年には38.7%に達し,国民の2.6人に1人が65歳以上の者となる社会が到来することが推測されている.これは先進地域と比較しても最も高い高齢化率である.そして,人口の高齢化とともに有病率が高まる疾患が認知症である.WHOは2020年7月時点で,世界で5,500万人以上が認知症を抱え,2030年には7,800万人,2050年には1億3,900万人に増加することを予測している(World Health Organization, 2017).認知症の有効な治療法が確立していないこと,自律性が喪失するイメージ,認知力低下,これらに対する恐怖から,アメリカ・フランス・ドイツ・ポーランド・スペイン(Alzheimer Europe, 2011)オーストラリア(Watson & Sanson-Fisher, 2023)の国民は,認知症ががんに次いで2番目に恐ろしい疾患であると考えていることが報告されている.これに対し,認知症発症に対する恐怖や不安をもつことの概念は,“Dementia Worry”(以下DWとする)として各国で研究が行われている.

本邦において,厚生労働省は2015年に認知症施策推進総合戦略(厚生労働省ら,2017)を公表している.その中で,認知症の人もできる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指し,認知症への理解を深めるための普及・啓発が推進されている.また,昨今では認知症基本法が成立し,国民への認知症教育の推進などがさらに進められていくこととなった.しかしながら,2019年の内閣府が実施した国民の認知症に対するイメージ調査では,【認知症に対する不安】として73.5%が「家族に身体的・精神的負担をかけるのではないか」と回答し,56.4%が「地域では生活することはできないと思う」と回答している(厚生労働省ら,2020).また,本邦の先行研究も地域の住民が自己の認知症発症に対して,「恐怖」「懸念」「脅威」「否認」等といった否定的な感情を抱いていることを報告している(中山ら,2022).これらのことから,本邦においても諸外国と同様に,認知症発症に対する恐怖や不安をもつ者が存在していることが予測される.

認知症に対する不安をもつことは,認知症の早期発見のための受診行動へつながること(Tang et al., 2017),認知症予防に対する関心の高まりや,社会参加や人との触れ合い,食事や健康管理などを認知症予防として自発的に行おうとする行動変容に影響すること(Suzuki et al., 2022)が報告されている.しかしながら諸外国における先行研究によると,認知症に対する強い恐怖や不安をもつ者は,認知機能の低下に影響すること,希死念慮や人生の満足度が低下するリスクを高めること(Kessler & Bowen, 2012),認知機能の低下を自覚した場合に認知症診断を拒否するリスクとなり得ること(Parker et al., 2022)が明らかになっている.したがって,これらの影響を予防するためには,認知症に対する強い心配や不安をもつ者を特定し,早期から対応していくことが必要であると考える.また,認知症に対する強い心配や不安への関連要因を調査した先行研究では,健康不安,主観的な記憶機能の低下は認知症に対する強い心配や不安を増悪させることが報告されている(Werner et al., 2021).これらの要因は加齢による身体機能の低下とともに増加する要因であり,前述のオーストラリアの研究(Watson & Sanson-Fisher, 2023)においては,65歳以上に限定した場合,認知症をより身近な疾患と捉え最も恐れる疾患としたことが報告されている.それに対して,年齢が上がるにつれて認知症の心配レベルが低下することを報告した先行研究(Ostergren et al., 2017)も存在している.このように,年齢と認知症に対する強い心配や不安との関連は,先行研究によって結果が異なる(Werner et al., 2021).また,認知症のイメージや老後の価値観,それに対する感情は文化背景によって,異なることが報告されている(An et al., 2017;Liu et al., 2022).そのため,諸外国ですでに明らかにされている認知症に対する強い心配や不安に関連する要因が,本邦においても同様であるのかは不明であり,また本邦における認知症に対する強い心配や不安と年齢の関係においても,先行研究から予測することは困難である.しかしながら,レターでの研究報告を除き,本邦における認知症に対する強い心配や不安などの感情を調査した報告は見当たらない.そのため,認知症に対する強い心配をもつ者の存在の有無や程度は不明である.また仮に認知症に対する強い心配をもつ者が存在していたとして,どのような心身の状態なのか,また年代による違いはあるのかも不明である.そこで,本邦の認知症に対する心配に関する調査の第一ステップとして,これらを明らかにする必要がある.そして,その後,結果に基づいたDWの概念枠組みを構築し,交絡因子を調整したDWの関連要因を検討するための大規模な調査が求められる.

よって本研究は,日本の地域住民の抱く「自己の認知症発症に対する心配」の程度と関連する心身の健康特性について年代別(64歳以下,65歳以上)に明らかにすることを目的とする.

II. 研究方法

1. 用語の定義

1) 自己の認知症発症に対する心配

Kessler & Bowen(2012)は,自身の認知症発症の脅威に対する感情的な反応を“Dementia Worry”と呼び,主観的・客観的な認知機能の低下に関わらず,認知症に罹患している,または罹患する可能性があるという考えに強い執着心を抱くことであると説明している.そのため本研究では,DWの定義を参考に,自己の認知症発症に対する心配について,自分が認知症を発症するかもしれないと捉えたときの心配の感情のことと定義した.

2. 対象者

対象者は,隣接する愛知県と岐阜県内に在住している40歳以上の中高年者とした.対象の募集は,次の方法により行った.愛知県および岐阜県内で実施されている健康支援活動,レクリエーション活動,委員会活動等の代表者もしくは対象者に対して,研究説明書,質問票を1,049部配布し,研究の目的,意義,研究方法,調査協力は自由意思に基づくこと等について口頭で説明を行った.研究内容を理解し,質問票とともに同意書を提出した624名(回収率59.4%)を研究参加者とした.そのうち,従属変数である認知症発症に対する心配の質問項目に欠損がない550名(有効回答率52.4%)を本研究の分析対象者とした.

3. 調査方法

本研究は,無記名自記式質問紙調査を用いた.対象者に対し,質問票と必要に応じて返信用封筒を配布し,その場で質問票を回収もしくは後日研究者宛に郵送する方法をとった.

認知症発症に対する心配についての質問票の質問項目は,「あなたは,自分が認知症を発症することについて,どの程度心配していますか」とした.それに対する質問票の回答選択は,「おおいに心配している」「多少心配している」「あまり心配していない」「まったく心配していない」とした.その他の質問項目は,年齢,性別,職業,同居家族,経済的ゆとりの有無,仕事としての認知症の者の介護の経験の有無,家族としての認知症の者の介護の経験の有無,認知症の知識(Dementia Knowledge Assessment Scale)(Annear et al., 2016b)といった個人属性,治療をしている持病の有無,最近1年間の気になる症状として,記憶力の低下・物忘れの有無,ストレスの有無,健康不安の有無,抑うつ(Beck Depression Inventory-Second Edition)(Beck et al., 1996)の程度といった心身の健康要因であった.認知症の知識(Dementia Knowledge Assessment Scale)尺度(Annear et al., 2016b)は,認知症に関する原因と特徴・コミュニケーションと行動・ケアの考慮事項・リスクと健康増進の知識を測定する18項目から構成される尺度であり,世界各国で使用されている.得点範囲は,0点から36点であり,得点が高いほど認知症の知識を持っていることを示す.本研究においては,その日本語版(Annear et al., 2016a)を使用した.抑うつ(Beck Depression Inventory-Second Edition)尺度は,抑うつ症状の有無とその程度を客観的に測定する21項目から構成され,世界各国で使用されている.得点範囲は0点から63点であり,得点が高いほど抑うつが強いことを示す.本研究においては,その日本語版(Kojima et al., 2002)を使用した.これら2つの既存尺度は開発者もしくは著作権者の許可を得て用いた.調査期間は,2021年8月から2023年2月までであった.

4. 分析方法

本研究において従属変数となる自己の認知症発症に対する心配については,「おおいに心配している」と回答した者を,強い心配の感情をもつ者として強い心配群とした.また,「多少心配している」「あまり心配していない」「まったく心配していない」と回答した者を非心配群とした.また,年齢について,本邦の前期高齢者となる65歳以上と,それ以前の年齢である64歳以下に分けて分析結果を示した.自己の認知症発症に対する心配の程度と年齢(64歳以下と65歳以上)との関連には,χ2検定を用いた.性別・職業・同居家族・経済的ゆとり・仕事として認知症ケアの経験・家族として認知症ケアの経験・治療中の持病・気になる症状としての記憶力低下・気になる症状としての物忘れ・健康不安・ストレスと自己の認知症発症に対する強い心配との関連には,χ2検定を用いた.また,年齢・認知症の知識・抑うつと自己の認知症発症に対する強い心配との関連は,対応のないt検定を用いた.質問に対する回答がみられない場合は,除外して分析した.

検定ソフトにはSPSS ver. 28.0.1 for Windowsを用い,有意水準は<0.05とした.

5. 倫理的配慮

対象者に研究目的,方法,調査協力は自由意思に基づくことの他,データの取り扱い等について,文書を用いて説明した.質問票には,氏名,住所等の個人情報は含まなかった.研究参加に同意が得られる場合,質問票とともに無記名の同意書を提出した.本研究は名古屋大学大学院医学系研究科・医学部附属病院生命倫理審査委員会(承認番号:2021-0100,2021-0100-2,2021-0100-3),岐阜県立看護大学研究倫理委員会(承認番号:0282)および愛知医科大学看護学部倫理委員会(承認番号:258)の承認を得て実施した.

III. 結果

1. 研究参加者の概要

対象者の基本属性を表1に示す.64歳以下の対象者数は221名(40.2%)であり,年齢の範囲は40歳から64歳であった.また,平均年齢と標準偏差は53.1 ± 6.7歳であった.65歳以上の対象者数は329名(59.8%)であり,年齢の範囲は65歳から91歳であった.また,平均年齢と標準偏差は73.8 ± 5.6歳であった.性別について,64歳以下の者は男性60名(27.1%),女性161名(72.9%),65歳以上の者は男性121名(39.8%),女性183名(60.2%)であり,いずれも女性が多かった.居住地について,64歳以下の者は愛知県196名(88.7%),岐阜県25名(11.3%),65歳以上の者では愛知県164名(49.8%),岐阜県165名(50.2%)であり,岐阜県では65歳以上の者が多かった.

表1 対象者の基本属性

64歳以下
n = 221
65歳以上
n = 329
n(%),mean ± SD n(%),mean ± SD
年齢 53.1 ± 6.7 73.8 ± 5.6
45歳未満 28(5.1) ―
45歳以上55歳未満 102(18.5) ―
55歳以上65歳未満 91(16.5) ―
65歳以上75歳未満 ― 184(33.5)
75歳以上85歳未満 ― 130(23.6)
85歳以上 ― 15(2.7)
性別 男性 60(27.1) 121(39.8)
女性 161(72.9) 183(60.2)
職業 有 198(89.6) 171(56.8)
無 23(10.4) 130(43.2)
居住地 愛知県 196(88.7) 164(49.8)
岐阜県 25(11.3) 165(50.2)

不明回答不記載

2. 地域住民の自己の認知症発症に対する心配

自己の認知症発症に対する心配の程度について,回答数と割合を表2に示す.64歳以下で「おおいに心配している」と回答した者は60名(27.1%),「多少心配している」は111名(50.2%),「あまり心配していない」は42名(19.0%),「まったく心配していない」は8名(3.6%)であった.65歳以上で「おおいに心配している」と回答した者は75名(22.8%),「多少心配している」は165名(50.2%),「あまり心配していない」は74名(22.5%),「まったく心配していない」は15名(4.6%)であった.自己の認知症発症に対する心配の程度と年齢との間に有意な関連は見られなかった(p = 0.471).また,認知症発症に対する強い心配の有無と年齢との間にも有意な関連は見られなかった(p = 0.267).

表2 自己の認知症発症に対する心配についての回答数と割合

64歳以下
n = 221
65歳以上
n = 329
p値
n (%) n (%)
おおいに心配している 60 (27.1) 75 (22.8) 0.471
多少心配している 111 (50.2) 165 (50.2)
あまり心配していない 42 (19.0) 74 (22.5)
全く心配していない 8 (3.6) 15 (4.6)

3. 年齢別にみた個人属性および心身の健康と自己の認知症発症に対する強い心配との関連

64歳以下の者の個人属性および心身の健康と自己の認知症発症に対する強い心配との関連について表3に示す.年齢・性別・職業・同居家族の有無・経済的ゆとりの有無・認知症の者の介護経験の有無・認知症の知識と認知症発症に対する強い心配の有無との間に有意な関連は見られなかった.心身の健康に関する項目について,治療中の持病の有無・気になる症状としての物忘れの有無と認知症発症に対する強い心配の有無との間に有意な関連は見られなかった.一方,気になる症状としての記憶力の低下(p = 0.006)・ストレス(p = 0.015)・健康不安(p < 0.001)の有無と認知症発症に対する強い心配の有無との間には,有意な関連がみられた.また,抑うつについて,強い心配群の平均得点と標準偏差は12.6 ± 9.6点,非心配群では8.3 ± 6.8点であり,強い心配群の平均得点は有意に高い値を示した(p = 0.003).

表3 64歳以下の者の個人属性および心身の健康と自己の認知症発症に対する強い心配との関連

n 強い心配群
n = 60
非心配群
n = 161
p値
n(%),mean ± SD n(%),mean ± SD
個人属性
年齢 221 53.5 ± 6.4 53.0 ± 6.7 0.593
性別 男性 60 13(21.7) 47(29.2) 0.310
女性 161 47(78.3) 114(70.8)
職業 あり 198 55(91.7) 143(88.8) 0.628
なし 23 5(8.3) 18(11.2)
同居家族 あり 26 7(11.7) 19(11.8) 1.000
なし 195 53(88.3) 142(88.2)
経済的ゆとり あり 151 37(61.7) 114(70.8) 0.198
なし 70 23(38.3) 47(29.2)
仕事として認知症ケアの経験 あり 78 18(30.5) 60(37.3) 0.427
なし 142 41(69.5) 101(62.7)
家族として認知症ケアの経験 あり 74 22(37.3) 52(32.3) 0.521
なし 146 37(62.7) 109(67.7)
認知症の知識 200 18.7 ± 8.0 17.1 ± 8.2 0.203
心身の健康
治療中の持病 あり 87 26(46.4) 61(43.0) 0.751
なし 111 30(53.6) 81(57.0)
気になる症状:記憶力の低下 あり 121 42(70.0) 79(49.1) 0.006
なし 100 18(30.0) 82(50.9)
気になる症状:物忘れ あり 66 23(38.3) 43(26.7) 0.101
なし 155 37(61.7) 118(73.3)
ストレス あり 184 56(93.3) 128(79.5) 0.015
なし 37 4(6.7) 33(20.5)
健康不安 あり 108 40(66.7) 68(42.2) <0.001
なし 113 20(33.3) 93(57.8)
抑うつ 200 12.6 ± 9.6 8.3 ± 6.8 0.003

不明回答不記載

65歳以上の者の個人属性および心身の健康と自己の認知症発症に対する強い心配との関連について表4に示す.年齢・性別・職業などの個人属性と認知症発症に対する強い心配の有無との間に有意な関連は見られなかった.心身の健康に関する項目について,治療中の持病の有無と認知症発症に対する強い心配の有無との間に有意な関連は見られなかった.一方,気になる症状としての記憶力の低下(p = 0.005)・気になる症状としての物忘れ(p < 0.001)・ストレス(p = 0.009)・健康不安(p < 0.001)の有無と認知症発症に対する強い心配の有無との間には,有意な関連がみられた.また,抑うつについて,強い心配群の得点の平均値と標準偏差は11.9 ± 6.5点,非心配群の平均値は9.0 ± 6.6点であり,強い心配群の平均得点は有意に高い値を示した(p < 0.001).

表4 65歳以上の者の個人属性および心身の健康と自己の認知症発症に対する強い心配との関連

n 強い心配群
n = 75
非心配群
n = 254
p値
n(%),mean ± SD n(%),mean ± SD
個人属性
年齢 329 73.8 ± 5.6 73.8 ± 5.6 0.985
性別 男性 121 29(40.8) 92(39.5) 0.898
女性 183 42(59.2) 141(60.5)
職業 あり 171 38(54.3) 133(57.6) 0.680
なし 130 32(45.7) 98(42.4)
同居家族 あり 42 13(18.3) 29(12.5) 0.240
なし 261 58(81.7) 203(87.5)
経済的ゆとり あり 223 49(69.0) 174(74.7) 0.213
なし 81 22(31.0) 59(25.3)
仕事として認知症ケアの経験 あり 65 12(16.4) 53(32.9) 0.412
なし 259 61(83.6) 108(67.1)
家族として認知症ケアの経験 あり 104 19(26.0) 85(33.9) 0.255
なし 220 54(74.0) 166(66.1)
認知症の知識 261 15.3 ± 8.0 15.2 ± 7.1 0.906
心身の健康
治療中の持病 あり 181 41(64.1) 140(70.4) 0.355
なし 82 23(35.9) 59(29.6)
気になる症状:記憶力の低下 あり 190 54(76.1) 136(57.6) 0.005
なし 117 17(23.9) 100(42.4)
気になる症状:物忘れ あり 164 50(70.4) 114(48.3) <0.001
なし 143 21(29.6) 122(51.7)
ストレス あり 176 50(71.4) 126(53.6) 0.009
なし 129 20(28.6) 109(46.4)
健康不安 あり 142 44(65.7) 95(41.7) <0.001
なし 156 23(34.3) 133(58.3)
抑うつ 261 11.9 ± 6.5 9.0 ± 6.6 <0.001

不明回答不記載

IV. 考察

本研究は,日本の地域住民の抱く「自己の認知症発症に対する心配」の程度の割合と年代別に,個人属性および心身の健康と地域住民の認知症発症に対する強い心配との関連について調査した.「認知症発症をおおいに心配している」と回答した地域住民の割合は,64歳以下の者が27.1%,65歳以上の者が22.8%であった.本研究と同様のリッカート尺度を使用し,地域住民を対象として認知症に対する心配を調査した先行研究では,「認知症発症に対する心配がおおいにある」と回答した者がアメリカの50歳以上で9.5%(Cutler & Bragaru, 2015),ドイツの40歳から94歳で3.2%(Bowen et al., 2019)であった.また,フランスの35歳から64歳の64.4%,65歳以上の75.4%は「認知症に対する心配が多少,またはおおいにある」と回答している(Kallen & Pin, 2011).本研究の対象者は,健康センターで文化活動を行うことができる身体状態と精神状態の活動的な地域住民である.そのため,認知症についてマスメディアやインターネットから情報を得ている可能性や,認知症施策推進総合戦略の政策の推進による地域での取り組みから(厚生労働省ら,2017),より高い認知症の知識と意識をもっていた可能性がある.そのため,先行研究と比較すると,本研究において「認知症発症をおおいに心配している」の回答をした者が,多い結果となったことが示唆される.また,この結果から本邦においても海外の先行研究と同様に,認知症発症に対する強い心配をもつ者が存在していることが明らかになった.しかしながら,本研究結果は4段階のリッカート尺度での評価であり,頻度や程度などの多様な側面の評価は難しいと考える.そのため,今後は,本邦におけるDW測定尺度の開発に取り組むこと,さらに,尺度得点を従属変数としてDWの関連要因を明らかにし,支援を検討することが必要である.

年齢との関連については,65歳以上の者の方が大幅に64歳以下の者より認知症発症に対する強い心配や不安をもつ者が多いと報告した先行研究(Ryu & Park, 2019)や,65歳以上は,64歳以下よりも認知症をより身近な疾患と捉え,最も恐れる疾患と認識したことが報告されているオーストラリアの先行研究(Watson & Sanson-Fisher, 2023)が存在している.また,それらと相反して年齢が上がるにつれて認知症の心配レベルが低下することを報告した先行研究(Ostergren et al., 2017)や,年齢による認知症の心配の程度に差はなかったことが報告されている先行研究(Low & Anstey, 2009)も存在している.これらの違いは,国や文化などの背景によって大きく左右されたために生じたと予測される.本邦におけるレターでの研究報告(Arai et al., 2012)によると,認知症発症に対する心配の有無を問う質問に対し,20歳から39歳の年齢がそれ以降の世代よりも認知症発症に対する心配と有意な関連が見られた.また,厚生労働省による国民への認知症に関する世代別調査において,「家族や周りの人に身体的・精神的迷惑をかけるのではないか」「大切な思い出を忘れてしまうのではないか」「これまで出来ていたことができなくなるのではないか」といった不安を18歳~59歳までの80%以上の国民がもっているのに対し,60歳代,さらに70歳代以降では段階的に低値となっていることが報告されている(厚生労働省ら,2020).このことから,研究者らは,本邦において認知症に対して若年者の方がより心配なイメージをもっていることを想定していた.しかしながら,本研究では,年齢(64歳以下と65歳以上)と認知症発症に対する強い心配の有無の間には有意な関連はみられなかった.65歳以上の者の方が64歳以下の者より認知症発症に対しての心配が有意に高いと報告した韓国の先行研究では,より多くの認知症の者との接触経験をもつ65歳以上の者が,認知症発症の心配が強いのではないかと示唆している(Ryu & Park, 2019).また,年齢が上がるにつれ認知症発症の心配が有意に低下していることを報告したアメリカの先行研究では,64歳以下の者は,65歳以上の者よりも認知症発症の予測遺伝子検査の受診率が高く,自身の健康や認知症に対する意識の高さが影響した可能性が報告されている(Ostergren et al., 2017).今後は,認知症の者との接触経験や健康もしくは認知症に対する意識の高さと認知症発症の強い心配との関連を検討していく必要性が示された.

次に,64歳以下の者・65歳以上の者の両者において,健康不安があること,ストレスがあること,抑うつがより高いこと,気になる症状としての記憶力の低下の自覚が認知症発症の強い心配と関連していた.また65歳以上の者のみ,気になる症状としての物忘れの自覚と認知症発症の強い心配との関連が見られた.これらの結果は,代表的な先行研究で明らかになっている認知症に対する強い心配や不安の関連要因と一致している(Kessler & Bowen, 2012).その理由として,健康状態の悪化や認知機能の低下を自覚することが,それらの不安や自覚をもたない者よりも自己の健康について関心を高め,認知症をより身近なものと捉えることで認知症発症の心配の感情に影響した可能性が考えられる.また,抑うつが強いことは疾患に対してより否定的な感情をもつことが予測され,認知症発症に対する心配が高まった可能性が考えられる.特に,65歳以上の対象者において,気になる症状としての物忘れがあるという自覚と認知症発症の強い心配に関連が見られたことは,64歳以下の対象者よりも身体的な老化に伴う認知機能の低下が現れていることで,気になる症状としての記憶力の低下の自覚,気になる症状としての物忘れの自覚と認知症発症の強い心配との関連が見られたものと考える.また,自身がその疾患になる可能性が高いと認識することにより,疾患への心配が高まることが明らかとなっている(Shiloh et al., 2013).そのため,65歳以上の者の人生のステージを考慮すると,64歳以下の者よりも認知症をより自身と密接な関係があると捉え,物忘れの自覚から自身の認知症発症を連想し,心配感情に繋がったことが示唆される.

V. 研究の限界と今後の課題

本研究は,限定した2県の健康センターで文化活動を行っている地域住民を対象として調査した.対象者は,ひとりでの外出が可能で健康管理に意欲的な考えをもつ者が多く含まれていたことが推察される.そのため,本研究における結果を,地域住民の自己の認知症発症への心配として一般化することは難しい.また,本研究の結果は,交絡因子の影響を調整できておらず,認知症発症に対する強い心配に関連する心身の健康特性と言い切ることはできない.そのため,今後は,本研究の結果をもとに,調査地域を広げて全国から無作為抽出するなど大規模な調査に繋げ,本邦におけるDWの関連要因や特徴を明らかにすることが重要である.さらに,本研究は単一尺度を使用していることから,多様な側面で構成されるDWの程度や頻度の測定はできていない.そのため,強いDWをもつ者の抽出までは困難であると考える.そのため,本邦の社会文化的背景に即した,本邦におけるDW測定尺度の開発が望まれる.また,それに合わせた具体的支援方法を検討していくことが必要であると考える.

VI. 結論

本研究では,64歳以下の地域住民の27.1%,65歳以上の地域住民の22.8%が認知症発症に対する強い心配をもつことが明らかとなった.また,64歳以下の者,65歳以上の者ともに健康不安・ストレス・気になる症状としての記憶力の低下の有無,抑うつの程度と,認知症発症に対する強い心配との間に有意な関連が見られた.加えて65歳以上の者では,気になる症状としての物忘れの有無と認知症発症に対する強い心配の間にも有意な関連が見られた.以上のことから,40歳以上の地域住民の約25%は自己の認知症発症に対し強い心配の感情を抱き,年代に関係なく,心身の健康に不安要素があることと認知症発症に対する心配感情とは関連がある可能性が示唆された.

付記:本論文の内容の一部は,第43回日本看護科学学会学術集会において発表した.

謝辞:研究の趣旨を理解し,ご協力くださった地域の皆様に心より感謝申し上げます.なお,本研究は,JSPS科研費19K11275の助成を受け実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MSはデータ分析および原稿執筆,RU,NFはデータ収集および分析,KS,AN,MT,NTはデータ分析および原稿作成,JHは研究の着想およびデザイン,分析,原稿作成に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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