日本看護科学会誌
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原著
救命救急センター初療室で患者の家族対応をする救急看護師の共感疲労とレジリエンスの関連
中村 真依子, 永野 みどり
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2024 年 44 巻 p. 853-862

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Abstract

目的:救命救急センター初療室で患者の家族対応をする救急看護師の共感疲労とレジリエンスの関連を明らかにする.

方法:救急看護師を対象に,基本属性,Japanese version of the Professional Quality of Life Scale for Nurses [ProQOL-JN]」,「看護師レジリエンス尺度」の自記式質問紙調査を郵送法により実施した.

結果:186名を分析対象とした(有効回答率31.1%).レジリエンスと共感疲労に有意差はなく(p = .162,OR = .499 (95%CI = [.189, 1.322])),有意差があったのは共感満足(p < .001, OR = 7.368 (95%CI = [2.587, 20.983]))であった.

結論:レジリエンスと関連がみられたのは共感満足であり,自身の看護を肯定的に捉える共感満足は,救急看護師のレジリエンス能力に影響を与えていたことが示唆された.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to clarify the association between compassion fatigue and resilience in emergency nurses who deal with patients’ families in the first treatment room of an emergency and critical center.

Methods: The ER nurses’ demographics of subjects, and scores of the Japanese version of the Professional Quality of Life Scale for Nurses (ProQOL-JN), and scores of the Resilience Scale for Nurses were collected.

Results: Data from a total of 186 nurses were analyzed (valid response rate: 87.7%). There was no significant association between resilience and compassion fatigue (p = .162, OR = .499 (95%CI = [.189, 1.322])). However, resilience was significantly associated with compassion satisfaction (p < .001, OR = 7.368 (95%CI = [2.587, 20.983])).

Conclusion: Resilience was closely associated with compassion satisfaction, suggesting that compassion satisfaction, a positive perception of one’s own nursing care, influenced the resilience of emergency nurses.

Ⅰ. 緒言

救急看護師は,予期せぬ不慮の事故や突然死などといった,心理的危機に直面した患者の家族のグリーフケアを行う際に,家族の思いに共感することで,共感疲労に陥り心身とも疲弊してしまうことがある.

共感疲労とは,Figley(1995)によって提唱された概念であり,援助関係の中で人をケアリングする共感によって生じる現象のことである.また,共感疲労は自覚されていないまま生じているおそれがある.看護師の共感に関して,山本ら(2018)は,常に患者・家族の気持ちに共感することが看護実践の中で看護職者に負担を与えている可能性があると述べている.

医療従事者の共感疲労については複数の研究で指摘されている.集中治療室スタッフの共感疲労経験率は7%から40%とされており,また,小児病院スタッフや,救命救急室スタッフはとくに共感疲労を呈しやすいとの報告がある(Maytum et al., 2004).福森(2017)によると,医療従事者のなかでもとくに,これまで研究対象となることが多かったのは看護師であり,その理由として,看護師は患者と接する頻度が相対的に高く,物理的・心理的な患者との距離が近くなりやすい職種であることが関与している可能性が高いと述べている.実際,我が国における報告では,看護師の約90%が勤務中に,患者のトラウマ体験に遭遇しているとされており,共感疲労は,直接的には医療従事者の健康状態に影響を及ぼし,間接的には,生産性の低下や離職率の上昇といった職場への影響を通して,彼らがかかわる患者にも被害をもたらすことから,医療従事者にとって看過できない問題であるとも述べている.

救急看護師は,来院時心肺停止(CPAOA; Cardiopulmonary Arrest On Arrival [CPAOA])のような,初療室で亡くなる患者の家族への看護実践において,「家族の衝撃的な反応に対応する困難感」,「悲しみを表出させることの困難感」,「患者・家族に対するケアへの戸惑い」,「家族に対する申し訳なさと自身に対する無力感,不全感,後悔」,といった感情を抱えている(原田ら,2014).このような特殊な環境下から,救命救急センターの看護師は他部署の看護師と比較し,精神的健康度が低いとの報告がある(川口ら,1999).また,救急看護師は,労働ストレスが多く,仕事の困難さや人命にかかわる仕事内容,患者・家族との関係,患者の死との直面といったストレッサー因子が,一般病棟の看護師と比較して有意に高かったとの報告もある(宇田・森岡,2011).救急現場において,患者の家族のグリーフケアを行う看護師の悩みや葛藤といったケアへの困難さは,看護師の共感疲労の要因となり得ると言える.

荒尾・北川(2015)は,がん看護の分野において,看護師が共感疲労を起こさないためには,自分自身にも思いやりをもち,レジリエンスを高める必要があるとし,また,共感疲労に陥らないためには,看護師のレジリエンスの強化と共感疲労にどう対処していくのかが重要であると指摘している.Figley(1995)も,共感疲労は,ケアをする看護師自身が,自覚していないまま過去の傷つき体験が再燃する,などといった,潜在的なリスクがあると指摘しており,早い段階での看護師へのケアが必要となると考える.

レジリエンスとは,不運なできごとに直面した際に,精神医学的疾患に陥らないように防衛する機能のことである(Rutter, 1985).レジリエンスについて,Grotberg(2003)は,周囲からの働きかけや適切な支援によって変化し,どの世代の人でも伸ばすことができると述べている.看護師を対象としたレジリエンス研究は,近年では数多く行われており,井原ら(2009)は,看護師のレジリエンスは,心身の健康維持にとどまらず,質の高い看護を達成し,一人のプロフェッショナルとして自立していく原動力となる可能性があると述べている.

救命救急センターには,CPAOA患者や,生命の危機的状況にある時間的猶予のない重症患者が数多く搬送される.切迫した状況の中で,患者の治療が最優先に行われ,同じくケアの対象であるはずの患者の家族へのケアは二の次となってしまいがちである.そのような独特な特徴を持つ中で,救急看護師は,患者の家族もケアの対象であることを念頭に置き,限られた時間の中で,初療室に搬送され,救命を希望したのにも関わらず亡くなった患者の家族のグリーフケアのような,非常に困難とされている看護実践を行っている.そこで,本研究では,このような非常に大きな感情労働を伴う救急看護師の共感疲労とレジリエンスとの関連について検証する.これらの関連を明らかにすることにより,救急看護師が初療室で家族対応を行う際に経験する共感疲労に対する適切なケアの示唆を得ることが期待できる.

白野(2016)は,共感疲労は,ケアする患者や家族と同様に,看護師自身もケアされる存在であることを認識する必要があると述べている.Gillman et al.(2015)が,共感疲労には,看護師のレジリエンスを支援したりするための教育とトレーニングを提供することや,感情の処理と経験からの学習を支援することの必要性を指摘しているように,救急看護師が共感疲労を適切に対処できるようになることが重要であると考える.

Ⅱ. 用語の操作的定義

1. 共感疲労(Compassion Fatigue)

共感疲労について,Figley(1995)は,自分とは別の人の苦しみを緩和しようと強く望むことから生じるものであり,人との相互作用と仕事の内容がストレスの原因となって生じ,援助関係の中で人をケアリングする共感によって生じる.傷ついた人のケアや治療を行う人には共感が強ければ強いほど,その疲労が強まると述べている.本研究においては,救命救急センターの初療室において,救命を希望したのにも関わらず亡くなった患者の家族のグリーフケアのような,心理的危機状況にある患者の家族のグリーフケアを行うことで,衝撃的な出来事と向き合わなければならない家族の思いに共感し,それにより家族に感情移入し,まるで自分の身に起こったことのような衝撃を受けたり,自身の過去の傷つき体験が再燃してしまったりして心身ともに疲弊してしまうことと定義した.

2. レジリエンス(Resilience)

救急看護師が共感疲労という心的外傷から生じたストレスに直面したときに,それにうまく適応するプロセスであり,困難な経験からの回復を意味するもの.

3. 家族対応(patients’ family care)

救急看護師が救命救急センターの初療室において,患者に付き添う家族に対し行うケアのことを指し,生命の危機的状況にある患者の家族に対し,家族の心情に寄り添い,共感することで家族の心理的負担を和らげようとするケアを意味する.また,医療チームによる懸命な治療行為を行っても死亡確認となってしまった患者の家族に対し,複雑性悲嘆に陥らないよう患者の死の受容を助けるために行うグリーフケアを含む.

Ⅲ. 方法

1. 調査対象施設と研究対象者

関東圏の三次救急医療機関の救命救急センターで,病院長および看護部長から書面で研究協力の承諾が得られた24施設を対象とした.

対象となる看護師は,先行研究においても非常に困難とされている,CPAOAのような初療室で亡くなる患者の家族のグリーフケアを行った経験のある看護師とした.

2. 研究期間

2020年4月から2021年3月

3. データ収集方法・内容

1) 対象者の選定と研究参加同意の取得方法

対象となる救命救急センターの病院長および看護部長から,書面で研究協力の承諾を得た.また,同意取得時に,対象となる看護師の人数を伺い,指定人数分の質問紙を送付した.質問紙の配布に関しては,各医療機関の救命救急センター看護師長宛てに質問紙配布時の注意事項として,研究参加の有無について,看護師長や看護部長といった上司に報告する義務は一切ないことを書面で説明した上で配布していただいた.看護師個人に対しても書面で研究への参加同意の有無を確認した.質問紙の回収は研究参加者である看護師各自が,同封されている返信用封筒を用いて自らポストに投函する手法で回収した.回答途中で中断される場合は研究対象者からは除外し,質問紙すべてに回答した者のみを調査対象とした.

2) データ収集項目

(1) 基本属性の項目(図1)

先行研究では,年齢が若く経験年数が少ない看護師はメンタル不調に陥りやすい(川口,2010)ことが指摘されているため,本研究においても基本属性の収集項目とした.

図1  調査項目

また,性別に関しては,レジリエンスと性差については,男性に比べて女性の方にレジリエンスの発揮が高い(Skolnick, 1986)という報告や,大学生を対象とするレジリエンス得点においては,男女で差が無い(田中・兒玉,2010)という報告もあることから,レジリエンスと性差に関する研究は,その集団や対象によって異なることを考慮し,同じく収集項目に含めることとした.

婚姻状況や同居者の有無においては,ライフスタイルが看護師のストレス反応に影響を与えるとの先行研究の結果(島,2007)を踏まえて調査項目に入れることとした.

学歴や資格の有無に関しては,関東圏の看護師に質問紙を配布していることから,その土地柄から,看護系大学および大学院が多く存在していることが考えられたため,属性に影響があるか調査することとした.

資格の有無に関しては,日本看護協会が認める認定看護師,専門看護師,認定看護管理者といった資格を保有しているかを,それぞれ「ある」,「なし」で回答してもらった.

役職に関しても,看護師長や看護主任といった上司のサポートの有無により救急看護師のストレス反応に影響を与えることを考慮し(山勢・長谷川,1994a, 1994b),調査項目に加えた.

異動・離職の意向など,救急看護に対する考えや看護実践状況については,1=まったくない,2=ほとんどない,3=ときどきある,4=よくある,5=とてもよくある,の5段階のリッカート式で回答してもらった.

本研究の共感疲労の測定に用いた「ProQOL-JN; a Japanese version of the Professional Quality of Life Scale for Nurses [ProQOL-JN]」(福森ら,2018)では,質問紙に回答するにあたり,「あなた自身とあなたの現在置かれている状況について,各文章が過去30日間において,どの程度で当てはまるかを正直に数値で表してください」と表記されている.そのため,本研究においても,初療室に搬送され,救命を希望したのにも関わらず亡くなった患者の家族のグリーフケアを,直近30日間の間に行った経験があるかを調査項目とした.

(2) 共感疲労の測定

荒尾・北川(2015)は,がん看護に携わる看護師の共感疲労を測定する尺度として,FigleyとStammによって開発された「ProQOL; Professional Quality of Life Scale [ProQOL]」(Figley, 1995;Figley & Stamm, 1996;Stamm, 2002, 2010)を紹介している.また,福森ら(2018)は,この「ProQOL」を日本人看護師を対象に信頼性・妥当性の検討を行い,「ProQOL-JN」を作成している.「ProQOL-JN」は原版の「ProQOL」と同じく,共感疲労・共感満足・バーンアウトの3因子構造として解釈可能と判断されており,一定基準の信頼性および妥当性を持ち合わせた尺度であることが検証されている.よって,本研究においても,救急看護師の共感疲労を測定するツールとして,「ProQOL-JN」を用いて測定することとした.「ProQOL-JN」においても3因子それぞれのカットスコアは原版(Stamm, 2010)の得点とほぼ同様の数値で,共感疲労で28点以上,共感満足で26点以下,バーンアウトで33点以上となっている.「ProQOL-JN」では共感疲労・共感満足・バーンアウトそれぞれに関する説問に対し,1=まったくない,2=ほとんどない,3=ときどきある,4=よくある,5=とてもよくある,の5段階のリッカート式で回答し,その合計得点(逆転項目を含む)で評価している.

(3) レジリエンスの測定

救急看護師のレジリエンスを測定するツールとして,井原ら(2010)の「看護師レジリエンス尺度」を使用した.肯定的な看護への取り組み,対人スキル,プライベートでの支持の存在,新奇性対応力の4つの下位項目がある.尺度の作成には,妥当性の検討に自尊感情尺度(山本ら,1982),ハーディネス・パーソナリティ尺度(河嶋ら,2001),バーンアウト尺度(西堀・諸井,2000),ベック抑うつ自己評価尺度(林・瀧本,1991)を用いており,レジリエンス尺度全体として十分な内的整合性が確認されている.全22問の説問に対し,5=はい,4=どちらかというとはい,3=どちらでもない,2=どちらかというといいえ,1=いいえ,の5段階のリッカート式で回答し,その合計得点(逆転項目を含む)で評価している.

4. 分析方法

対象者の基本属性の分布と要約統計量を算出し,従属変数の正規性はShapiro-Wilkを用いて確認した.

対象者の基本属性と「ProQOL-JN」,「看護師レジリエンス尺度」のそれぞれの得点を算出した.「ProQOL-JN」の共感疲労の得点,バーンアウトの得点,共感満足の得点をそれぞれのカットスコア以上・未満で二値にわけ独立変数として用いた.「看護師レジリエンス尺度」に関しては,レジリエンスの合計得点を従属変数として用いた.

対象となる看護師の基本属性に関しては,年齢や看護師経験年数,救急看護経験年数などの連続変数以外は,度数分布を確認して二値にわけ,名義変数に変換し,強制投入法による二項ロジスティック回帰分析による単変数解析を行なった.有意水準は0.1とした.

本研究では二つの異なる尺度を掛け合わせていることから,相関係数で多重共線性を確認したうえで,有意差が認められた属性項目を独立変数として,「看護師レジリエンス尺度」の合計得点を従属変数とし強制投入法で二項ロジスティック回帰分析による多変数解析を行なった.ここでの有意水準は0.05とし,統計解析には,IBM SPSS Statics 21を使用した.

5. 倫理的配慮

本研究は東京慈恵会医科大学倫理審査委員会の承認を受け,以下の倫理的配慮のもとで実施した(承認番号:31-486(10068)).

1) 対象者に対する自由意思の尊重と不利益の排除

研究参加により対象者に起こりうるリスクとして,質問紙に回答することにより時間的拘束が生じる.また,質問紙の内容によっては思い出したくない過去のつらい体験を想起させてしまうおそれがある.そのため,研究への参加は個人の自由意思とし,研究参加の有無により不利益は生じないこと,質問紙の内容において答えたくない,と思う内容が少しでもあった場合には,そのまま回答をやめることができ,研究対象からいつでも辞退できることを質問紙に明示し,研究参加可否を選択してもらった.

2) スケールおよび尺度の使用に関して

「ProQOL-JN」と「看護師レジリエンス尺度」の使用にあたり,開発者に許諾を得て実施した.

3) 研究に関わる個人情報保護の方法

回答は無記名であり,統計的に処理されるので個人が特定されることはない.

Ⅳ. 結果

了承が得られた24施設の救命救急センターに所属する看護師598名へ質問紙を配布した.回答があった196名のうち,回答に欠損のない186部のみを本研究の分析対象とした(質問紙回収率32.8%,有効回答率31.1%).

1. 対象者について

対象者は,男性 37 名(19.9%),女性 149名(80.1%)で,年齢は平均 36.3 歳(SD = 7.7),看護師経験年数は平均14.8 年目(SD = 7.5),そのうち救急部門での経験年数は平均 8.5 年目(SD = 5.4)であった(表1).また,救急看護に対する考えおよび実践状況では,「患者の家族におけるグリーフケアについて困難を感じている」,と回答した看護師は全体の88.7%であり,「日頃からグリーフワーク(グリーフケアを経験する中で,看護師自身が悲嘆や不全感,ジレンマなどといった感情を抱くことに対して行う自分自身へのケア)を取り入れている」,と回答した看護師は全体の46.2%という結果であった(表2).

表1 対象者の属性

n = 186

項目 mean(SD)
年齢(歳) 36.3(7.7)
看護師経験年数(年) 14.8(7.5)
救急看護経験年数(年) 8.5(5.4)
n(%)
性別 男性 37(19.9)
女性 149(80.1)
婚姻状況 未婚 88(47.3)
既婚 98(52.7)
同居者 あり 110(59.7)
なし 76(40.3)
看護教育の最終学歴 専門学校・その他 131(70.4)
大学・大学院 55(29.6)
役職 あり 34(18.3)
なし 152(81.7)
専門的な資格 あり 16(8.6)
なし 170(91.4)
表2 救急看護に対する考えおよび看護実践状況

n = 186

項目 n(%)
現在の仕事に対し,患者やその家族と関わることが「つらい」と感じ,仕事をやめたい,または違う領域に異動したいと思うことがある ありa 58(31.2)
なしb 128(68.8)
救急部門で看護師をはじめてからこれまでに患者の家族おけるグリーフケアについて困難を感じたことがある ありa 165(88.7)
なしb 21(11.3)
日頃からグリーフワーク(グリーフケアを経験する中で,看護師自身が悲嘆や不全感,ジレンマなどといった感情を抱くことに対して行う自分自身へのケア)を取り入れている ありa 86(46.2)
なしb 100(53.8)
直近で行ったCPAOA患者の家族のグリーフケアの時期 30日未満 99(53.2)
30日以上前 87(46.8)

a あり(3:ときどきある,4:よくある,5:とてもよくある)

b なし(1:まったくない,2:ほとんどない)

対象者における「ProQOL-JN」のカットスコア未満・以上と「看護師レジリエンス尺度」の合計得点平均未満・以上の割合は,共感疲労の得点においては,カットスコア未満であったものが88.2%であり,共感疲労のリスクがあると判断される看護師の割合は11.8%であった.また,レジリエンスの合計得点においては,110点満点中,本研究の対象者の最低得点は55点,最高得点は100点で,平均点は 81 点であった(表3).

表3 対象者のProQOL-JNと看護師レジリエンス尺度の得点結果

n = 186

項目 未満 以上
n(%) n(%)
ProQOL-JN 共感疲労(10~50点)(カットスコア28点) 164(88.2) 22(11.8)
共感満足(10~50点)(カットスコア26点) 29(15.6) 157(84.4)
バーンアウト(10~50点)(カットスコア33点) 156(83.9) 30(16.1)
看護師レジリエンス尺度 合計得点(22~110点)(対象者の平均:81点) 84(45.2) 102(54.8)

2. レジリエンスの合計得点を従属変数とした二項ロジスティック回帰分析結果について

「看護師レジリエンス尺度」の合計得点を従属変数として二項ロジスティック回帰分析を行ったところ,レジリエンスの合計得点と「ProQOL-JN」の共感疲労の得点に有意差はなく(p = .162,OR = .499 (95%CI = [.189, 1.322])),有意差があったのは「ProQOL-JN」の共感満足の得点であった.共感満足の得点がカットオフ値よりも高い得点である看護師は,「看護師レジリエンス尺度」の合計得点が,カットオフ値より低い看護師と比べて,高いという結果だった(p < .001,OR = 7.368 (95%CI = [2.587, 20.983]))(表4).

表4 レジリエンスの合計得点を従属変数とした二項ロジスティック回帰分析結果

n = 186

独立変数 二変数解析a 多変数解析b
オッズ比(OR) 95%信頼区間(95%CI) 有意確率(P) オッズ比(OR) 95%信頼区間(95%CI) 有意確率(P)
共感疲労カットオフ(0:未満,1:以上) .529 .214 1.306 .167 .499 .189 1.322 .162
性別(0:女,1:男) 1.231 .590 2.567 .580
年齢 .973 .936 1.010 .151
婚姻状況(0:既婚,1:未婚) 1.093 .611 1.956 .765
同居(0:なし,1:あり) 1.309 .724 2.366 .373
看護師経験年数 .970 .932 1.009 .130
救急看護経験年数 1.003 .950 1.058 .925
学歴(0:専門,1:学士以上) .991 .525 1.873 .978
役職(0:あり,1:なし) .647 .305 1.372 .256
資格(0:あり,1:なし) 1.846 .612 5.565 .276
異動・離職の希望(0:なし,1:あり) .539 .282 1.031 .062 .720 .346 1.498 .380
グリーフケア困難感(0:なし,1:あり) .942 .376 2.380 .907
グリーフワーク実施(0:なし,1:あり) 1.389 .766 2.516 .279
30日以内のグリーフケア(0:30日未満,1:30日以上) 1.057 .587 1.902 .854
共感満足カットオフ(0:未満,1:以上) 8.620 3.094 24.015 <.001 7.368 2.587 20.983 <.001
バーンアウトカットオフ(0:未満,1:以上) .369 .160 .847 .019 .646 .248 1.682 .371

a 独立変数に各変数を投入した解析結果

b 独立変数に因子探索でp < 0.1であった因子を投入した解析結果(モデルの適合度:HosmerとLemeshowの検定p = 0.728,判別的中率66.1%)

Ⅴ. 考察

1. 救命救急センター初療室で患者の家族対応をする救急看護師の特徴

先行研究において,年齢や性別,婚姻状況や同居者の有無,最終学歴や役職,専門的な資格の有無などからレジリエンスに影響があるかを検討したが,本研究の対象者においては二変数解析の結果に有意差はみられなかった.Jackson et al.(2007)は,看護師にとってのレジリエンスは,急変・死・事故など平常心を揺るがす状況で冷静さを維持し,数々の課題に挑戦していくうえで重要な役割を果たすと述べている.また,尾形ら(2010)は,看護師にとってのレジリエンスは,その標的となるストレスや逆境が職業状況と密接に結びついていると述べていることから,看護師のレジリエンスは,職業状況に大きく影響を受けており,その職業状況は複雑で多岐にわたることから,本研究においては,年齢や性別,婚姻状況や同居者の有無,最終学歴や役職,専門的な資格の有無などといった看護師の基本属性とはレジリエンスの間に有意差がみられなかったと考えられる.レジリエンスに影響を与える看護師の要因に関しては今後も精査が必要であると考える.

初療室で亡くなる患者の家族の看護を行う救急看護師は,患者の死や患者・家族へのケアが十分にできなかった思いからバーンアウトにつながる可能性が指摘されている(原田ら,2014).本研究の対象者においても,救急看護の仕事に対し,患者やその家族と関わることがつらいと感じ,仕事をやめたい,または違う領域に異動したいと思うことがあると考えている看護師の割合や,「ProQOL-JN」のバーンアウトと共感疲労のカットスコア以上の得点に該当した者の割合から,少なからずその傾向にあることが明らかとなった.医療従事者の中でも看護師は特に共感疲労を起こしやすいとされており(福森,2017),救命救急室のスタッフは共感疲労の経験が高いとの報告もあることから(Maytum et al., 2004),救急看護師はバーンアウトや共感疲労により心身の健康を害するリスクがあるといえる.

そして,初療室で患者の家族のグリーフケアを行うことに,大多数の救急看護師が困難感を抱いていた.先行研究でも指摘されているように,三次救急医療機関におけるグリーフケアで救急看護師がつらいと感じる場面には,【遺族に対するケアの心残り】,【グリーフケア実践の困難さ】があるとされる(茎田・小林,2018).初療室では,患者への治療が優先されることから,家族に十分に関わる時間がなく,かつ家族は患者の状況を受け入れることが困難で様々な反応を示すことから,看護師は自身の感情が揺さぶられ戸惑いや困難さを感じている(原田ら,2014),などといったことが,看護実践に困難を抱かせる要因となっていると考えられる.

一方で,本研究の対象看護師は,共感満足の得点がカットスコア以上であった者は8割を超えていた.共感満足とは,人々を援助することや職務をうまく行うことにより得られる職業的喜びのことで,共感疲労と相対する概念であり「ケアの報酬」と表現されている(Stamm, 2002).本研究の対象者は,救急看護の仕事において,困難感や共感疲労になり得る感情を抱えていながらも,それ以上に共感満足が高く,「仕事がうまくいくことから得られる喜び」という「ケアの報酬」を見出していた集団であったのではないかと考えられる.竹下(2016)は,看護職のグリーフ・ストレスとストレス関連成長の研究において,ストレスに対する意味の付与で共感疲労を軽減する間接的な効果が示された,と結論づけている.また,良い結果が得られなかった看護場面における経験の意味づけ,価値ある側面に気づくことができれば,ストレス関連成長となると述べている.初療室での家族へのグリーフケアのように,患者の命を救うことはできなかったが,救急看護師がその家族へのグリーフケアに意味づけを行うことで,共感疲労ではなく,ストレス関連成長につながり,その結果として,救急看護師の共感満足に影響を与えたと考えられる.西田ら(2011)は,死に関わる体験は多大な苦悩を看護師にもたらすことが多いが,このような体験から成長を見出すことで,看護師自身の精神的安定が保たれ,質の高いケアの提供につながると述べている.この成長を見出す対処行動こそが,ケアの報酬と呼ばれる共感満足そのものであると考えられる.

2. 救命救急センター初療室で患者の家族対応をする救急看護師のレジリエンスと共感疲労の関連について

本研究の目的は,初療室にCPAOAで搬送され,救命を希望したのにも関わらず亡くなった患者の家族のグリーフケアのような,非常に困難とされている看護実践を行っている救急看護師の共感疲労とレジリエンスの関連を明らかにすることであった.しかし,本研究においては,救急看護師の共感疲労とレジリエンスに関連性は見出せず,その対概念とされている共感満足において関連性を見出すことができた.

Figleyは援助者が共感疲労に至るまでの過程をモデル化し,その一連の過程において影響を与えているものの一つに満足感があることを示している.そして,Stamm(2002)は,共感疲労と相対する概念に,「人々を援助することや職務をうまく行うことにより得られる職業的喜び」として,共感満足を提唱している.Stamm(2010)は,共感満足を「苦しむ人々に対してよいケアができたことから生まれる喜び」とも表現しており,救急看護師が初療室での患者の家族のグリーフケアを困難と感じながらも,竹下(2016)が指摘する,その看護場面における経験に意味づけをし,その価値に気づいたからこそ得られる満足の結果であると考えられる.実際に,本研究の対象者は,グリーフケアを経験する中で,看護師自身が悲嘆や不全感,ジレンマなどといった感情を抱くことに対して行う自分自身へのケア,すなわち,グリーフワークを日頃から取り入れている者が約半数を占めていた.グリーフワークを行うことで自らの看護場面における意味づけをしていたと考えられる.

また,Stamm(2002)は,共感疲労を強く感じているものが同時に高い共感満足を経験していることを示唆しており,これらは対概念とされているものの,その関係には類似性があるとも考えられる.そして,Figley & Stamm(1996)は,共感満足が共感疲労からバーンアウトへ至るのを防ぐことができるのではないか,とも指摘している.藤岡(2012)は,共感疲労には最適水準があるとし,共感疲労が適度に保たれていることによって,かえって,共感的な満足感が得られていると述べている.本研究の参加者も,共感疲労は少なからず抱えていながらも,それを適度に保つことで共感満足を得ていた集団であったと考えられ,その結果として,共感満足が看護師のレジリエンスに強い影響を与えていたと考えられる.

3. 看護実践への示唆

看護師はその職業柄,患者や家族にケアをすること,つまり他者に関心を寄せることがほとんどであり,自己に関心が向きにくいと考えられる.とくに,CPAOAで蘇生を希望したにもかかわらず亡くなった患者の家族のグリーフケアのような,時間的猶予のない看護実践においては,突然の出来事に現実を受け入れられないでいる家族を目の前にして,自己もケアされる対象として捉えることが難しく,また,自己をケアすることよりも,患者や家族に対する申し訳なさや,自身の救急看護への不全感,無力感を抱いてしまう傾向にあると考えられる.また,山田・野島(2002)は,医療現場で看護職はグリーフを同僚と分かち合うことをためらいやすく,多忙な業務の中でグリーフを重ね,自身の感情を対処できないまま持ちこし蓄積することで,心身の健康状態を害することになると述べている.このような特殊な職業環境も看護師自身がケアの対象であることを自覚しにくい要因となっていると考えられる.白野(2016)が,共感疲労は,ケアする患者や家族と同様に,看護師自身もケアされる存在であることを認識する必要があると述べているように,救急看護師は非常に大きな感情労働を伴う看護実践の中であっても,自己に関心を向ける必要があると考える.

竹下(2016)は,グリーフ・ストレスと,ストレスを経験した個人が,その経験を通してコーピング方略を身につけ,肯定的な自己概念を獲得し成長していくストレス関連成長は,相互関係にある可能性を示唆している.看護職は日々の体験の中でグリーフ・ストレスからストレス関連成長に至る過程を繰り返していると考えられるとも述べており,共感疲労とストレス関連成長が相互に影響している可能性についても指摘している.そして,看護職が話し合いの機会を持つことでストレス体験をポジティブな方向へ意味づけをする機会を与えることの重要性に関しても指摘している.

以上のことから,救急看護師が,自身と向き合う時間,自分を見つめなおす時間を意図的に設けて,自己に関心を向けられるようにすることは,看護者である自分自身もケアされる対象であるということを認識するためにも重要なことであると考える.

本研究において,救急看護師のレジリエンスに強い影響力を示したのは,共感疲労ではなく共感満足であったことから,救急看護師は,その職務環境から日常的に遭遇することの多い患者の死に直面した家族の行動を支えるケアといった,家族のグリーフケアに対し,そのケアの結果から,共感満足を得ていたと考えられる.「人々を援助することや,職務をうまく行うことにより得られる職業的喜び」である共感満足は,自身の看護を肯定的に捉えることができた結果,得られる満足感である.また,三宅(2010)は,レジリエンスを高め,精神的健康を保つためには,自己に対する否定的でない見方をすることが重要であると述べている.この自己に対する否定的でない見方には,自己の内省だけではなく,自身の看護実践や思いを他者に語ることで,自分だけがつらい思いをしているのではない,他の看護師も同じ気持ちだった,と自身の思いに共感してもらうことも含まれると考える.他者と語り合い共感してもらうことにより,困難と思えた出来事を次の看護実践に活かそうと思えるようになり,救急看護の仕事に誇りとやりがいを感じ,モチベーションを保ちながらいきいきと働き続けることへの原動力につながっているのではないかと考える.その原動力が救急看護師のレジリエンス能力に影響を与えるものと考えられる.

Ⅵ. 本研究の限界と今後の課題

本研究の対象者の基本属性と,「ProQOL-JN」および「看護師レジリエンス尺度」の関連において,対象となった24施設,186名の結果だけで一般化することには限界がある.とくに対象の基本属性は個人差があり,本研究のサンプルサイズだけでは限界があると考える.また,本研究で使用した「ProQOL-JN」(福森ら,2018)と「看護師レジリエンス尺度」(井原ら,2010)はどちらも心理社会的な尺度であり,質問紙に答えたときの対象者の心情により多少の変化が生じることが推測される.このほか,研究時期がCOVID-19感染拡大の時期と重なり,本研究の対象者である看護師は,まさに医療現場の第一線で戦っている方々であり,こういった医療現場のひっ迫した状況も少なからず影響していたと考えられる.

今後,救急看護師の共感満足を高め,自身の看護を肯定的に捉えられるようにするための効果的な支援方法やワーク内容について考案し,それにより,救急看護師の共感満足の得点や「看護師レジリエンス尺度」の合計得点がどの程度変化するのか,共感満足とレジリエンスの因果関係についても検証していくことが今後の課題であると言える.

Ⅶ. 結論

本研究では救命救急センター初療室で患者の家族対応をする救急看護師の共感疲労とレジリエンスの関連について,救急看護師の個人特性と「ProQOL-JN」,「看護師レジリエンス尺度」の合計得点の関連を調査した.救命救急センター初療室で患者の家族対応をする救急看護師の「看護師レジリエンス尺度」の合計得点に強い影響力があったのは,「ProQOL-JN」の共感満足の得点であった.

共感満足は,自身の看護を肯定的に捉えることができ,その結果として,救急看護師のレジリエンス能力に影響を与えていたことが示唆された.

付記:本論文の内容の一部は,第41回日本看護科学学会学術集会において発表した.本研究は,東京慈恵会医科大学大学院医学研究科看護専攻博士前期課程成人看護学分野(クリティカルケア看護学領域)に提出した修士論文に加筆,修正を加えたものである.

謝辞:本研究の調査にご協力くださいました,対象施設の救急看護師の皆様,本研究にご助言,ご指導くださいました名古屋市立大学大学院中村美鈴教授に心より厚く御礼を申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MaNは研究の着想およびデザイン,調査実施とデータ収集,統計解析とデータ分析,論文執筆まで研究全体のプロセスを中心に行った.MiNは研究デザイン,統計解析とデータ分析,結果の解釈,研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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