日本看護科学会誌
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資料
学童期の先天性心疾患児における母親の養育の様相
宮川 藍岡田 淳子
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2024 年 44 巻 p. 863-872

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Abstract

目的:学童期の先天性心疾患児における母親の養育の様相を明らかにする.

方法:在宅で養育する保護者21名に半構造化面接を実施し,内容を分析した.

結果:「体調面について常に不安を抱えている」,「体調管理の正解がわからない」,「体調管理をする上で自分なりの判断基準がある」,「子育ての範疇を越えた役割がある」,「子どもの世話に孤軍奮闘する」,「子どもの教育を保障する」,「自分の暗い気持ちに折り合いをつける」,「自立に向けた準備をする」,「心疾患をもつ子どもの豊かな人生を願う」,「日常の中に嬉しさを感じる」,「周囲の支援を受ける」の11のテーマが抽出された.

結論:子どもの医療・福祉・教育全般に渡る調整やサポートを親が一手に担い孤軍奮闘する様相が明らかとなり,包括的に支援する体制構築の必要性が示唆された.

Translated Abstract

Aims: This study clarified the aspects of maternal care of school-age children with congenital heart disease.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with 21 parents providing home care for their children, and the contents were analyzed.

Results: A total of eleven themes emerged from the interviews: “having anxiety about child’s physical condition everytime,” “lack of clarity regarding the proper management of the child's condition,” “having personal decision-making criteria for managing the child’s condition,” “assuming roles beyond conventional parenting,” “working hard alone in providing child care,” “coming to compromise for own feeling,” “securing child’s education,” “preparing for child’s independence,” “wishing for a fulfilling life for a child with heart disease,” “feeling happiness in daily life,” and “receiving support from others.”

Conclusions: The findings revealed that parents single-handedly undertake the comprehensive coordination and support across all aspects of their children’s medical care, well-being, and education, and endure struggles alone. These findings underscore the necessity for a system that provides holistic support to parents raising children with congenital heart disease.

Ⅰ. はじめに

先天性心疾患は,治療技術の飛躍的な進歩により手術施行時期が低年齢化し,多くのケースで就学前に修復術を終えるようになった.しかし,修復術以降も長期的に不整脈や,治療に用いた人工物の変性および身体の成長に伴う形態変化などの続発症のリスクは継続する(大内ら,2022).また,心内膜炎予防のための歯科的衛生管理や,感染症予防のための予防接種スケジュールの管理(Boyle et al., 2015)などにより,学童期も親の健康管理は継続する.さらに,重症先天性心疾患児の母親は「コミュニケーションがうまくいかない」「栄養がうまく摂れない」など発達の遅れを気にしており(中込ら,2022),神経発達の遅延がある場合は学習面などにおける支援も生じる(Boyle et al., 2015).また,先天性心疾患患者の90%以上が成人に達することができるようになり,成人先天性心疾患患者はすでに50万人以上と推測されていることから(Shiina et al., 2011),患者の自立と成人期医療体制への移行の問題が生じている.自立については6歳程度から心臓病に関する教育を開始することが必要とされている(三谷ら,2022)が,母親は「説明内容の特性」や「子どもへの配慮」のために病気説明のしにくさを感じている(遠藤・堀田,2016).先天性疾患児の母親は,子どもが乳幼児期には,「状況判断の難しさ」や「循環管理の難しさ」を感じ(造田ら,2016),思春期になると「子どもに申し訳ない」や「甘やかせすぎてしまった」という思いを抱く(仁尾・藤原,2004)ように,学童期も発達段階の特性に応じた困りごとを抱えている.

このような状況にある先天性心疾患患児の母親に対する支援として,乳幼児期は児童福祉法を根拠とした乳児全戸訪問事業や1歳半健診,3歳児健診により定期的に行政保健師が介入し,必要に応じて個別支援を提案される.しかし,学童期になると児童の健康管理は教育施設ごとに養護教諭が担うこととなり,医療専門職との関わりは希薄になる.さらに,学校保健安全法第9条において養護教諭は「児童生徒等の心身の状況を把握し,健康上の問題があると認めたときは,遅滞なく,当該児童生徒等に対して必要な指導を行う」と記され,先天性疾患をもつ児童の生活全般やその親に対する支援については定められていない.

これらのことから,学童期の先天性心疾患児の母親は養育に支援を必要としていることが推測できるが,子どもに健康の自己管理を望む(石河ら,2013),療養行動は生活の中で身に付く(半田・二宮,2020)という認識に関する報告にとどまっており,養育の全容は明らかにされていない.親の養育態度は小学校高学年児童の授業場面や規則・ルールへの適応に影響し(姜・酒井,2006),親の育児ストレスはチアノーゼ性心疾患の子どもの精神面における問題に影響する(Chang et al., 2020)ことがわかっており,子どもの良好な生活のために母親の健全な養育は欠かせない.

そこで,学童期の先天性心疾患児における母親の養育の様相を明らかにし,必要な支援について検討する.

Ⅱ. 用語の定義

養育の様相:子どもを育てるなかで生じている意識,困難,喜び,とっている行動,抱えている思い,受けているサポートを含むあり様.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

学童期の先天性心疾患児における養育について,実際の経験に基づいた養育の様相を明らかにするため,質的記述的研究を用いた.

2. 研究協力者

学童期(6~12歳)の先天性心疾患児を在宅で養育する親で,30~40分程度の面接調査が可能な心身の状態にある者とした.リクルート方法は機縁法とし,全国心臓病の子どもを守る会A県支部の会長へ候補者の選定を依頼した.研究の主旨に同意した21名を研究協力者とした.

3. データ産出方法

データ収集期間は,2019年4月~9月であった.データ収集方法は,半構造的面接を実施した.基本情報として,養育者の年齢,患児との続柄,患児の年齢,主疾患名,術式,内服の有無,在宅酸素療法の有無,水分制限の有無,学校生活管理指導区分などの聞き取りを行った.次に,養育する上で気をつけていること,養育する上で感じる困難と直面した問題,困難や問題の対処方法,養育する上で受けているサポート,養育をする中で感じる喜び,先天性心疾患児の子育てに対する思い,養育する上で関わってきた医療・行政・学校に感じることをインタビューガイドに沿って質問した.面接は,研究協力者の都合がよく,プライバシーを確保できる場所にて実施した.面接内容は研究協力者に了承を得てICレコーダーに録音した.データ収集を実施するにあたり,インタビューガイドの内容の精錬およびインタビュー技術の向上を目的に予備面接を行った.

面接は同一の研究者が実施した.研究者は看護師として先天性心疾患児への看護経験があるが,研究協力者に対して看護を提供する立場にはなかった.

4. データ分析方法

データ分析は,質的な内容分析(グレッグら,2016)を用いて行った.インタビューデータから作成した逐語録を繰り返し読み込み,語りの中から学童期の先天性心疾患児における親の養育に関連する部分をまとまりとして抜き出した.抜き出した部分の意味が変わらないよう,また明確になるようコード化した.次に,コードの意味の類似性に焦点を当て分類し,共通している意味を表す名前をつけてまとまりを作った.同様の作業を繰り返し,サブカテゴリー,カテゴリーへと抽象度をあげた.文脈の意味を意識し,データおよびコードに戻ることを繰り返しながら分析を進めた.

分析は,質的研究のデータ産出および分析の経験のある研究者とともに検討を繰り返した.真実性確保のために,小児看護学および質的研究者からスーパーバイズを受けた.

5. 倫理的配慮

本研究は県立広島大学研究倫理審査委員会の承認(19MH023号)を得て実施した.

研究協力者に,研究目的,方法,プライバシーの保護,研究協力の自由意思の尊重,研究協力の同意を撤回する権利の保証,どんな場合でも不利益を受けないことを説明し,文書への署名をもって同意を得た.データ内容は個人が特定できないよう記号にて管理し,第三者に漏れないよう十分に配慮した.

Ⅳ. 結果

1. 研究協力者の概要

親は30~40代の母親21名で,全員が子どもの主たる養育者であった.患児は,低学年5名,中学年5名,高学年11名であった.主疾患名は,全員がチアノーゼ性心疾患であり.主疾患に対する治療として,フォンタン術などの修復術後が16名,グレン術などの姑息術後が3名,カテーテル治療が1名,手術歴・カテーテル治療歴なしが1名だった.その他,詳細は表1に示す.

表1 患児の概要

ID 学年 疾患名 最終術式※1 服薬 在宅酸素 水分制限 学校の種類※2 学級の種類※3 学校生活管理指導区分
1 左心低形成症候群 フォンタン 支援 病弱児 D
2 弁逆流ほか グレン 支援 訪問 不明
3 単心室症 グレン 普通 病弱児 D
4 ファロー四徴症 修復術 普通 通常 E
5 三尖弁閉鎖症 フォンタン 普通 通常 D
6 左心低形成症候群 フォンタン 普通 通常 D
7 両大血管右室起始症ほか フォンタン 普通 病弱児 C
8 左心低形成症候群 フォンタン 支援 訪問 B
9 肺動脈閉鎖症ほか ラステリ 普通 普通 E
10 極型ファロー四徴症 ラステリ 普通 病弱児 C
11 大動脈縮窄症 カテーテル治療 普通 普通 E
12 大動脈弁二尖弁 手術歴無 普通 情緒 管理不要
13 両大血管右室起始症 修復術 支援 知的 不明
14 三尖弁閉鎖症 フォンタン 普通 普通 D
15 左心低形成症候群 フォンタン 普通 普通 D
16 両大血管右室起始症 フォンタン 普通 知的 B
17

三尖弁閉鎖症

右胸心

フォンタン 普通 普通 D
18 完全大血管転位 ジャテーン 普通 普通 E
19 左心低形成症候群 修復術 普通 情緒 不明
20 僧帽弁閉鎖不全症 修復術 普通 普通 E
21 両大血管右室起始症 フェネストレーション形成 普通 病弱児 C

※1 心疾患に対する手術の術式.一度に数種類の術式があった場合は主たる術式のみ記載.術式名が不明な場合は姑息術か修復術かのみの記載とした.

※2 特別…特別支援学校,普通…普通小学校

※3 普通…普通学級,病弱児…特別支援病弱児学級,情緒…特別支援情緒障害児学級,知的…特別支援知的障害児学級,肢体…肢体不自由児学級,訪問…訪問学習

2. 学童期の先天性心疾患児における母親の養育の様相

学童期の先天性心疾患児における母親の養育の様相として11のカテゴリーと49のサブカテゴリー(表2)が抽出された.コードは2398コードであった.以下,カテゴリーは【 】,サブカテゴリーは〈 〉で示す.研究協力者の語りは斜字を用いて記述し,必要に応じて意味を保持したまま( )を用いて情報を補足した.語りには対象者のIDを付した.

表2 学童期の先天性心疾患児における母親の養育の様相

カテゴリー サブカテゴリー
体調面について常に不安を抱えている

今後いつ起こるかわからない状態変化を不安に思う

24時間体調を気にかける

今後の治療の目処が立たない

親の努力で心疾患をコントロールすることには限界がある

標準的な身体発達の過程を辿れていない

体調管理の正解がわからない

何か症状が発現した時,心疾患のせいなのか関係ないのか判断が難しい

食事面の管理が難しい

親のしている体調管理が正しいかどうか分からない

体調管理をする上で自分なりの判断基準がある

飲水量・運動量は親が調整している

親の判断で酸素療法を続けている

精神的影響も考えて活動量を判断する

医師の意見だけでなく自分の勘も信じる

子どもの様子で体調を判断する

客観的な指標で体調を判断する

子育ての範疇を越えた役割がある

心疾患や社会保障についての情報を自分で収集する

医療的ケアをする

医療・福祉・教育のコーディネート役をしなければいけない

子育てというより介護に近いと感じる

子どもの世話に孤軍奮闘する

自分が倒れると子どもの世話をできる人がいなくなる

子どものことは最終的には自分が決めるしかない

病児ときょうだいの世話を両立させなければいけない

生まれてから絶え間ない病児の養育に心身の疲労を感じる

自分の暗い気持ちに折り合いをつける

心疾患をもって生まれたことを子どもに申し訳なく思う

医療者,行政の配慮のない発言に傷つく

自分の気持ちに折り合いをつける

子どもの教育を保障する

入園・入学できるよう親が行動した

子どもが学校にいる間も親が付き添わなければいけない

学校生活が続けられるよう親が学校の環境を整える

自立に向けた準備をする

心疾患による経済的自立や結婚への影響を心配する

子どもに心疾患について説明する

心疾患についての子どもの理解の程度を把握する

子どもに自分のことは自分でさせる

できないことはできないとはっきり伝える

心疾患をもつ子どもの豊かな人生を願う

今より状態が良くなることはないと思っている

子どもが自分より長くは生きられないと覚悟する

子どもの人生を長さではなく質で考える

心疾患をもつ子どものしあわせな人生を願う

日常の中に嬉しさを感じる

子どもの情緒的な成長が嬉しい

子どもが自分でできることが増えて嬉しい

生きていてくれさえすればいいと思う

体調が安定していることが嬉しい

家族揃って暮らせることが嬉しい

子どもがかわいいと思えることが嬉しい

学校に通えていることが嬉しい

周囲の支援を受ける

安心して病児をみてもらえる人的環境がある

周囲の人の前向きな姿勢に救われた

先天性心疾患の子どもをもつ他の母親に救われた

周囲の人が心疾患のことを理解してくれている

第三者の支援のおかげで入園・入学できた

なお,面接は研究協力者1名につき21分~65分の平均34分であった.

1) 体調面について常に不安を抱えている

学童期の先天性心疾患の子をもつ母親は,修復術から一定の期間を経た現在においても〈今後いつ起こるかわからない状態変化を不安に思う〉,〈24時間体調を気にかける〉と,子どもの病状についての不安は続いていた.それは,〈今後の治療の目処が立たない〉,〈親の努力で心疾患をコントロールすることには限界がある〉,〈標準的な身体発達の経過を辿れていない〉といったことが原因となっていた.

やっぱ手術して10年くらいになるんで,まぁガタがくるって聞いてるんで,漠然とはしてますけど身体的な変化が不安ですね.(6)

この調子がいいのがいつまで続くかっていうのは常に不安はありますよね.(17)

2) 体調管理の正解がわからない

子どもの体調不良は健常児にもあり,〈何か症状が発現した時,心疾患のせいなのか関係ないのか判断が難しい〉と,一般的な体調不良との判別に難しさを感じていた.また,〈食事面の管理が難しい〉,〈親のしている体調管理が正しいかどうかわからない〉と,症状発現時だけでなく日々の生活における体調管理にも難しさを感じている様子が明らかになった.

調子悪くなった時に近くの病院に行くのか○○病院(心疾患のかかりつけ医)に行くのかは悩みますね.(4)

3) 体調管理をする上で自分なりの判断基準がある

学童期の先天性心疾患児の母親は,主治医から指示が出ていない場合でも,その日のむくみの有無や発汗量に合わせて摂取水分量を決めるなど,〈飲水量・運動量は親が調整している〉,〈親の判断で酸素療法を続けている〉と,子どもの病状や体調に応じて自分なりの制限を設けていた.一方,友人との鬼ごっこを,息切れがするまでは止めないなど,生活上の制限をかけすぎることで生じる子どもの精神的苦痛も考慮し,〈精神的影響も考えて活動量を判断する〉こともしていた.また,先天性心疾患を診察できる医師や病院が限られるという状況から,〈医師の意見だけでなく自分の勘も信じる〉ようにしながら子どもの体調管理を行っていた.母親は出生から続く先天性心疾患児の養育の中で,活気や口数などの〈子どもの様子で体調を判断する〉ことや,尿量や飲水量などの〈客観的な指標で体調を判断する〉といった自分なりの指標をもっていた.

(水分)制限というのはなくて.気温が高かったり,朝のむくみがひどいとか,尿の出具合がどのくらい出たとか.まぁ毎日(記録を)つけてるとだいたいこのくらい(の飲水量)でいいかなって.最近暑くなってきたからなぁとか,その辺の微妙なとこで(飲水量を調整している).(2)

せっかく友だちと楽しそうに鬼ごっこしてるのに,いちいち止めに入ると本人も怒るし,友だちも「えっ」て,微妙な空気になっちゃうから,まぁしばらくは様子見て,息が切れてきたなと思ったら(休憩させる).(14)

4) 子育ての範疇を越えた役割がある

また,学童期の先天性心疾患児の母親は〈心疾患や社会保障についての情報を自分で収集〉していた.そして,日々の体調管理や〈医療的ケアをする〉ことから,〈親が医療・福祉・教育のコーディネート役をしなければならない〉現状にあった.〈子育てというより介護に近いと感じる〉母親もおり,一般的な子育ての範囲を超えていた.

子どもだったらそれ全部お母さんが軸になって,医療とか教育とかまぁ学校とかやらないといけない状況にはあると思いますね.なんでおじいちゃんおばあちゃんにはケアマネさんがいて,その担当の人がこういう状態だって把握してくれて,じゃあこういうサービス使えますよって.なんで子どもにはそれがないんかなっていうのがすっごい不思議で.(8)

5) 子どもの世話に孤軍奮闘する

学童期の先天性心疾患児の母親は,〈自分が倒れると子どもの世話をできる人がいなくなる〉というプレッシャーや,学校や学級の選択などの〈子どものことは最終的には自分が決めるしかない〉という重圧を感じていた.また,〈病児ときょうだいの世話を両立させなければいけない〉状況のなかで,〈生まれてから絶え間ない病児の養育に心身の疲労を感じ〉ていた.

私がもし倒れたら,誰も(患児の世話を)できる人がおらんと思うからどうしよう.(3)

今もクラスを,最初知的には問題ないってことで情緒(学級)にいるんだけど,だんだん勉強についていけんくなってきて.ただ知的(学級)はまた雰囲気全然違うから合わんのじゃないかなぁとか(考える).もちろん本人にも(希望を)聞くけど,最終的には親が決めるしかないから難しいよね.(12)

何度かほんとに体調悪くなって(中略)心療内科行って,そこでカウンセリングしておられる方がおられたんで,どうしても孤立感が自分の中であるので.(10)

6) 自分の暗い気持ちに折り合いをつける

学童期の先天性心疾患児の母親は,学校のクラブ活動で運動部に入らせてやれないことなどから,〈心疾患をもって生まれたことを子どもに申し訳なく思う〉と自責の念を抱いていた.また,行政の相談窓口で,心疾患児が普通小学校に入学を希望することに難色を示されたことなどから,〈医療者・行政の配慮のない発言に傷つく〉という心理的負担も抱えていた.そのような状況において〈自分の気持ちに折り合いをつける〉ことをしながら養育していることがわかった.

今スポ少をやってて.ハンドボール.でもそれは親もずっと見てるし.もう(練習)時間もコーチと相談して決めてて.これが(学校の)クラブとかってなるとそんなわけにもいかないから,やりたいことやらせてあげれんのは申し訳ないなっていう気にはなりますよね.(5)

なんか,他の子はみんな「ようこそ!」みたいな感じで,言ってもらえるのに,うちの子だけなんか(入学に対し)「困ります」みたいな.すっごい傷つく.(7)

消えないよね,そういう色んな不安とかって.だからこう…飲み込む…折り合いをつける.(6)

7) 子どもの教育を保障する

学童期の先天性心疾患児の養育においては,母親が学校や学級について情報収集したり,自ら足を運んで学校に交渉したりと,子どもが学校教育を受けるために〈入園・入学できるよう親が行動した〉ことがわかった.小学校に入学できた後も〈子どもが学校にいる間も付き添わなければならない〉だけでなく,子どもが学校で過ごしやすくなるようクラスメイトの理解を得るために行動するなど〈学校生活が続けられるよう親が学校の環境を整える〉ことをしていた.

まず市役所に電話してん.病児受け入れてくれる(公立の)学校のリストみたいなん把握されてますかって.そしたらないって.もう自分で一個ずつ問い合わせてもらうしかないって.そんで一個ずつ(電話を)かけて,やっと直接お子さん見させてくださいって,話聞いてもらえるとこまでいったのが○○(学校名).もうなーんでも,親が動くしかないんよ.(1)

学校にいる間ずっと付き添う,それが入学の条件.(1)

周りの子が変な言うんか不思議な感じで見てる感じがあってん.でも聞いちゃいかんのかなみたいな.そう思わん子はズケズケ聞いてきて本人もどう言うたらいいんか分からんし.やから私が担任の先生にお願いして,1回学活やったか道徳やったか時間をもろうて全部説明して.心臓の病気でこれこれこうやから車椅子を使うてて,このチューブは酸素でこうやから必要でって.そしたらそっからすごい雰囲気変わって.車椅子とかも自然と押してくれたりするようなって.(3)

8) 自立に向けた準備をする

学童期の先天性心疾患児の母親は,〈心疾患による経済的自立や結婚への影響を心配する〉ことから,将来への準備として,自立に向けて〈子どもに心疾患について説明する〉,〈心疾患についての子どもの理解の程度を把握する〉と同時に,内服管理など〈子どもに自分のことは自分でさせる〉,〈できないことはできないとはっきり伝える〉といった関わりをしていた.

薬とかも自分で飲ませるようにして.(子どもは)やっぱ忘れちゃうことはあるけど,最初から(母親が)「飲んでよ」とかは言わない.(20)

9) 心疾患をもつ子どもの豊かな人生を願う

一方で,重症度の高い患児の母親は,〈今より状態がよくなることはないと思ってる〉と,我が子の状態を客観的に捉え,〈子どもが自分より長くは生きられないと覚悟する〉ことがわかった.そのうえで〈子どもの人生を長さではなく質で考える〉とし,〈病気の子どものしあわせな人生を願う〉母親の様子が明らかになった.

フォンタンしても年々サチュレーション落ちてきてるから.よくなることはないんよ,もう.(中略)合併症起こして入退院繰り返すようになって点滴が外せれんくなってっていうのがないわけじゃないじゃん.そういう子たちも見てるから.(1)

ただいつも思ってますね,この子にとって楽しかったっていう時間がたくさん作れるように.だから逆に振り返っても長ければいいってもんじゃないなと.(2)

10) 日常の中に嬉しさを感じる

学童期の先天性心疾患児をもつ母親は,〈子どもの情緒的な成長が嬉しい〉,〈子どもが自分でできることが増えて嬉しい〉と,子どもの成長を感じる場面に嬉しさを感じていた.また,〈生きていてくれさえすればいいと思う〉と感じる日々の生活の中で,〈体調が安定していることが嬉しい〉,〈家族揃って暮らせることが嬉しい〉,〈子どもがかわいいと思えることが嬉しい〉,〈学校に通えていることが嬉しい〉と,特別なことではない日常に嬉しさを見出していた.

一個一個の成長が全部嬉しい.他の子(きょうだい)はやっぱ,できて当たり前と思ったらだめなんですけど,勉強も普通にできるよね,みたいな.この子は一個でも問題が解けると拍手,みたいな.(19)

11) 周囲の支援を受ける

学童期の先天性心疾患児の母親は,〈安心して病児をみてもらえる人的環境がある〉という環境に支えられ,〈周囲の人の前向きな姿勢に救われた〉,〈先天性心疾患の子どもをもつ他の母親に救われた〉と,同じ境遇にある他の母親の存在を精神的な支えと感じていた.また,マラソンの授業では担任の先生が並走することで参加できるように配慮してくれるなど,〈周囲の人は病気のことを理解してくれている〉なかで養育できていることや,〈第三者の支援のおかげで入園・入学できた〉ことに感謝していた.

マラソンの授業があって,(担任の)先生がずっと横一緒について走ってくれて.(マラソンへの参加は)無理かなーと思ってたんやけど,(担任の先生から)「一緒に走るんで参加させていいですか」って.(15)

やっぱ精神的に一番救われるのは,同じような病気のお母さん,が救ってくれると思います.そこは家族でも,おばあちゃんとか心配もしてくれるし気にもかけてくれるけど,やっぱり難しい.(8)

Ⅴ. 考察

学童期の先天性心疾患児をもつ母親は,【体調面について常に不安を抱えている】状態で,【体調管理の正解がわからない】なかで養育をしていた.そのような状況においても蓄積してきた知識や経験によって【体調管理をする上で自分なりの判断基準がある】ように,体調管理は養育に大きな比重を占めていた.また,母親は,先天性心疾患に起因した【子育ての範疇を越えた役割がある】状況にも対応せねばならず,【子どもの世話に孤軍奮闘する】なかで【自分の暗い気持ちに折り合いをつける】様子が明らかになった.

そして,【子どもの教育の保障をする】ことや,【自立に向けた準備をする】という学童期特有の養育の様相があり,一方で【心疾患をもつ子どもの豊かな人生を願う】という様相も明らかになった.また,一連の養育のなかで【日常の中に嬉しさを感じる】と感じることや,【周囲の支援を受ける】ことが支えとなっていた.

1. 養育の大きな比重を占める先天性心疾患児の体調管理

先天性心疾患児においては,子どもが小学生になってもなお体調管理が養育の大きな比重を占めていた.厚生労働省の患者調査における年齢別外来受療率(人口10万人対)は,0~4歳が13,623に対して5~14歳が8,129と,学童期に入る頃には大きく減少している(厚生労働省,2022).これは子どもの年齢が上がるにつれ体調を崩す頻度が低下することを推測できるが,先天性心疾患児は学童期に入っても体調の変動に注意しなければならない.さらに,先天性心疾患は術後30年間で生存例の13%に心不全が認められ(Moller & Ray, 1992),ファロー四徴症などの複雑先天性心疾患に限定すると8割近くの患者にNYHA(New York Heart Association)機能分類II以上の心不全があるとされている(Bolger et al., 2002).これらにより,学童期の先天性心疾患児の母親は【体調面について常に不安を抱えている】ことが示された.また,先天性心疾患は内部障害のため,酸素療法をしていたりチアノーゼがあったりしない限り,外見から疾患の状態を把握することはできない.学童期の先天性心疾患児が心疾患に起因する身体的変調をきたした場合に出現する症状は,顔面蒼白や呼吸促拍など典型的な症状に加え,活動量の低下や食欲低下などがある(及川ら,2006).活動量低下や食欲低下は体調不良時の健常児にも出現しやすい症状であり,学童期の先天性心疾患児の母親は心疾患の関係なのか判断が難しく【体調管理の正解がわからない】と感じていた.これらのように,母親にとって子どもの体調管理が養育の中心になっていることが明らかになった.

しかし,子どもを観察し続けてきた先天性心疾患児の母親は,子どもが小学生になった今では【体調管理をする上で自分なりの判断基準がある】ところにまで至っていた.小児がん患者の母親が「母親なりの判断で児の体調を管理」しているように(山地・桑田,2013),心疾患を持つ子どもの母親も,日常の子どもの様子から生活における独自の基準を設け体調を管理していることがわかった.先天性心疾患児の運動能力は,チアノーゼ性心疾患と非チアノーゼ心疾患で格差はなく,個人差が大きい(Wohlgemuth et al., 2019)という報告があり,同じ診断名でも心血管の奇形の程度などによって経過は異なる.そのため,母親に委ねられてきた体調管理は,経験値によって培われた母親独自の判断基準によるものとなっている可能性がある.医療従事者などのサポートがあることと親の育児ストレスは負の相関があることが報告されている(廣瀬ら,2015)ことから,学童期の先天性心疾患児の母親が適切な体調管理を行えるような医療者の支援が望まれる.

2. 子育てを超えた役割

学童期の先天性心疾患児を包括的に支援してくれる専門職がいないことから,母親自らが医療・福祉・教育のコーディネート役を担わなければならない現状を【子育ての範疇を越えた役割がある】と感じていた.これは,広汎性発達障害児をもつ母親が抱える,「適切な医療・療育環境の不整備ゆえに増大する苦悩」(松岡ら,2013)や,慢性疾患をもつ児童の保護者が抱える「トータルサポートシステム不備への困難感」(川崎・萩本,2017)と類似する.また,また,左心低成症候群の幼児の親が,「予期せぬ事態に注意して適応する」「新たな課題に遭遇する」などのプロセスを行き来する(Rempel et al., 2013)ことが報告されている.学童期の先天性心疾患児の親においても,教育などの新たな課題に直面し対応している様相が明らかになった.このように,乳幼児期と比べ社会的な支援体制は手薄になる学童期において,先天性心疾患児の母親は自分にしかできない【子どもの世話に孤軍奮闘】していた.Hertz(2020/2021)は,「孤独とは一般市民や雇用主,地域社会,政府の支援やケアがないという感覚でもある」と述べている.母親を孤立させないためにケアマネージャーのような,在宅療養中の親と子どもを包括的に捉えてくれる支援の構築が必要と思われる.

このような状況下で,学童期の先天性心疾患児の母親は,子どもに対する自責の念や,他者の配慮のない言葉などの心理的負担があるなか,【自分の暗い気持ちに折り合いをつける】ように心掛けていた.中込ら(2022)は,重症先天性心疾患の母親が,周囲の配慮のない反応から乳幼児期の集団健診に抵抗感があることを報告している.学童期においても,先天性心疾患児の母親は他者の発言や反応に傷ついていることが明らかになった.しかし,先天性心疾患の子どもが前向きでいるために親が前向きでいることを意識している(藤澤ら,2020)ように,暗い気持ちがあっても自分で折り合いをつけている様相が明らかとなった.

3. 現実に向き合い,子どもの未来を考える

学童期の先天性心疾患児の母親は,子どもに適した就学の場の選択も母親に委ねられ,【子どもの教育を保障する】という役割も担っていた.慢性疾患のある子どもの保護者は“学校・教師へ疾患を理解し,受け入れてもらうことへの困難”や“学校の設備などにかかわる困難”,“就学時の教育相談への不満”を感じていた(川崎・萩本,2017).先天性心疾患児においても,こうした困難を感じながら,内服管理や運動制限,体調の不安定さのある子どもが学校生活を継続できるような調整やサポートを行っていることが明らかになった.また,青木(2012)は,先天性心疾患患者が学童期において,自分の状態について友だちに“全く理解されていない”,“中途半端に理解されている”と実感していることを報告している.精神面において学童期の子どもは,メタ認知能力の発達により自分を客観視できるようになり他者と比較し,それが劣等感につながる可能性がある(渡辺,2021).そのため,学童期の先天性心疾患児の母親は,子どもがクラスメイトと同じ活動ができるよう工夫し,情緒面の著しい成長をみせる学童期に影響を及ぼさないよう配慮していた.

そして,障害幼児を療育している母親の多くが「子どもの将来」を不安に思っている(澤江,2003)ように,学童期の先天性心疾患児の母親も心疾患をもつ子どもの経済的自立や結婚について心配し,疾患の自己管理への移行を含めた【自立に向けた準備をする】をようになっていた.一方で,重症度の高い患児の母親は,乳幼児期から手術を受けるときに“合併症や術中死,万が一のことが怖い”と感じていた(中水流,2017)ことが,学童期においても変わらず,厳しい現実のなかで【子どもの豊かな人生を願う】行動をしていた.

こうした子育てをする学童期の先天性心疾患児の母親は,【日常の中に嬉しさを感じる】と,子どもの成長や日々の生活の中に喜びを見出していた.フォンタン術を受けた先天性心疾患児のうち40~50%がのちに学習障害などの発達障害を併発する(Wernovsky et al., 2000)という報告がある.このように,非定型的な発達を辿る子どもが多く,また,長期入院や複数回に渡る入院などにより家族が一緒に暮らせないこともあった.これらのことにより,学童期の先天性心疾患時の母親は,特別ではない日常に幸せを感じるようになったと推察される.そのような状況で母親たちは,【周囲の支援を受ける】ことを認識していた.東村(2006)は,学齢期の障害児の親の会が“親にとって必要な時に頼れる基地”になっていることを報告している.先天性心疾患児の母親にとっても同じ先天性心疾患の子どもをもつ親の存在は,子どもの病態や発達の状態に個別性はあっても,共通する思いが多いことで支えになっていると考えられる.ピアサポートは対面だけでなくオンラインであっても有効である(Bray et al., 2017)ことがわかっており,ピアサポートのネットワークのデジタル化の促進などによって,より参加しやすいシステムを構築する必要がある.

Ⅵ. 結論

学童期の先天性心疾患児の養育においては,子どもが小学生となった現在でも体調管理が大きな比重を占めていた.また,子どもの医療・福祉・教育全般に渡る調整やサポートを一手に担いながら,養育に孤軍奮闘する母親の様子が明らかになった.さらに,小学生である子どもの教育を保障する一方で,将来の自立に向けた関りも行い,子どもの豊かな人生を願いながら日常のできごとを嬉しく思ったり周囲の支援を受けたりすることを支えとしていた.

学童期の先天性心疾患児とその母親を,医療・福祉・教育全般に渡って包括的に支援する体制構築の必要性が示唆された.

Ⅶ. 研究の限界と今後の課題

本研究の対象者の子どもは全員がチアノーゼ性心疾患であり,養育の様相にも疾患の種類による影響が生じた可能性はある.重症度も,ほぼ健常児と同じように学校生活を送れているケースから,入退院を繰り返しながら自宅での訪問学習を受けているケースまでさまざまであり,今回の結果がただちに学童期の先天性心疾患児全般に当てはまるものとしての解釈は難しいと考えられる.

今後は学童期の先天性心疾患児を養育する母親に対するサポートを具現化していくことが課題となった.

付記:本研究は,2019年度公益財団法人循環器病研究振興財団 循環器疾患看護研究助成を受けて実施した.

謝辞:本研究にご協力いただきました全国心臓病の子どもを守る会A県支部役員及び対象者の皆様に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反はない.

著者資格:AMは,研究デザイン,データ収集および分析,原稿の作成を行った.JOは,研究デザイン,データ収集,研究プロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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