2024 年 44 巻 p. 873-881
目的:PNS導入の有無における看護実践能力とSelf-Compassionを比較する.
方法:看護師1,081名に自記式質問紙を配布した.質問紙は基本属性,看護実践の卓越性自己評価尺度病棟看護師用(NES)およびSelf-Compassion尺度日本語版短縮版(SCS-J-SF)で構成した.傾向スコアを用いて交絡因子を調整後,t検定を行った.
結果:890名の有効回答を得た(PNS群209,非PNS群681)(有効回答率82.3%).傾向スコアによる調整後,サンプル数はPNS群70名,非PNS群70名であった.NES得点は両群で有意差はなかった.PNS群はSelf-Compassionの自分へのやさしさ(p = .021)と,共通の人間性(p = .003)が非PNS群より有意に高かった.
結論:PNSにおいてSelf-Compassionの肯定的側面が高まる可能性が示唆された.
Aims: To compare the ability to practice nursing and Self-Compassion between Partnership Nursing System (PNS) implementation and non- PNS implementation.
Methods: Self-administered questionnaires were distributed to 1,081 nurses. The questionnaire consisted of basic attributes, the Nursing Excellence Scale in Clinical Practice (NES) and the Short Form of the Japanese version of the Self-Compassion Scale (SCS-J-SF). Participants were divided into two groups, those who implemented PNS (PNS group) and those who did not (non-PNS group). The t-test was conducted after adjusting for confounding factors using propensity scores.
Results: We obtained 890 valid responses from participants (209 in the PNS group, 681 in the non-PNS group) (valid response rate, 82.3%). After adjustment for propensity score, the sample size was 70 in PNS group and 70 in the non-PNS group. NES scores were not significantly different between the two groups. The PNS group was significantly higher than the non-PNS group in Self-Kindness (p = .021) and Common Humanity (p = .003).
Conclusion: The results suggest that PNS may increase positive aspects of Self-Compassion.
看護方式とは,病棟単位において効率よく質の高い看護サービスを提供するための仕事の分担法である(茂野,2022).松木(2001)は,「看護方式とは患者にとって看護師との信頼関係が成立し,率直な意思疎通を図ることができ,自己のニーズに見合う一貫性と継続性があり,最新の科学や技術に裏付けられた看護を受けられるものである」としている.また,看護師にとっては,「患者について知悉できるような関わりや,自己の能力の発揮と努力の効果が分かること,看護の効果がフィードバックされることで専門職としての満足や喜び,専門的興味や関心が生まれるようなものである」としている.
本邦における看護方式は,看護そのものの考え方の変化,マンパワーの変化,および社会システムの変化や診療報酬をはじめとした医療サービス提供システムの影響を受けながら,現行方式の持つ問題点に気づき,次の方式が生み出されてきた(坂口,2014).Partnership Nursing System(以下,PNS)は2006年の診療報酬改定に伴う入院基本料7対1看護の新設により,多くの新人看護師が採用されたことを契機に増大した新人教育への苦慮や,職場定着への困難に対して,2009年に福井大学医学部附属病院において開発された.橘(2014)は,PNSを安全で質の高い看護をともに提供することを目的に,2人の看護師がパートナーとして対等な立場で互いの特性を活かし,相互に補完し協力し合って,毎日の看護ケアをはじめ,委員会活動,病棟の係の仕事に至るまで1年を通じて活動し,その成果と責任を共有する看護方式と定義している.また,他者に依存せず,一人のプロフェッショナルとして自らの頭で考え,自らを助ける心であるパートナーシップ・マインドは,相手を尊重すること,互いを十分に理解し信頼すること,そして相手を思いやることなどの要素を含んでおり(橘,2014),PNSのパートナーとの関係性を構築することにとって重要である.
PNSを導入したことによる課題として,「受け持ち患者が倍になることに伴う仕事量や負担感の増大」「ペアとの力量の差」(丸岡ら,2015)そして,「1人で熟考することが少ない」(森岡・中本,2017)「自主的に動けない」(堀内ら,2016)「臨床判断能力の低下」(中川ら,2015)「自律性の低下」(高田,2022)が示されている.自主性をもって看護活動を行うことは,看護実践能力の構成要素である自律性の育成につながり(寺本,2020),限られた情報のなかでも効率的に思考し,臨床判断能力を活用している看護師は,看護実践能力が高いことが明らかとなっている(上條ら,2021).看護実践能力の概念や定義づけは様々であるが,松谷ら(2010)が示す「知識や技術を特定する状況や背景の中に統合し,倫理的で効果的な看護を行うための主要な能力を含む特質」のように知識,技術,態度などの統合的な能力と定義されることが多く,質の高い看護の提供に不可欠である.
PNSに関する先行研究は導入に伴う看護実践の変化への適応度については不明なことや,質的研究が中心であり,看護師の認識を調査するにとどまっているという研究上の課題があるものの,PNSで働く看護師は,「1人で熟考することが少ない」(森岡・中本,2017),「ペアとの力量の差」(丸岡ら,2015)があると感じており,堀内ら(2016),中川ら(2015)が看護師個々の自主性,臨床判断能力が発揮できていないという認識を明らかにしていることから,PNSで働くことにより,個人の自主性や臨床判断が低下し,看護実践能力の向上が妨げられるのではないかという懸念が指摘されている.以上より,PNSで働く看護師の自主性や,臨床判断能力が低下することは,看護実践能力,看護の質にも影響を及ぼしかねない.しかし,これまでの研究では,PNS導入と看護実践能力との関連について十分に検証されていない.したがって,本研究は,看護実践能力をPNS導入の有無において比較する.
一方,PNSを導入したことによる成果として「業務の経済的効率化」「ケアの効率化」「OJT(On the Job Training)効果」が示されている(上山ら,2012).また,PNSの看護に対する患者の満足度調査では「自分の状態を2人で確認してくれた」「必要時すぐに対応してくれる」という結果や(村田ら,2014),「適切なフィジカルアセスメントや観察漏れの減少」「患者に還元できる」「患者の要望や質問への迅速対応」という結果が示されている(森岡・中本,2017).さらに「パートナーとの良好な関係」(高田ら,2019)や「パートナーを尊重する力」(丸岡ら,2015)といった対人関係についての成果も報告されている.人間関係をつくる(コミュニケーション)力も看護実践能力の構成要素であり(松谷ら,2010),中谷・森(2018)は,個人特性などの人としての能力がコミュニケーション力に影響を与えることを示唆している.そこで,本研究では人間関係をつくる(コミュニケーション)うえで必要な人の能力としてSelf-Compassionに注目した.
Self-Compassionとは,メンタルヘルス不調を予防するための自身のストレスとのかかわり方として,仏教思想を取り入れた心理学的観点から開発された「困難な状況において,自己に生じた苦痛をありのまま受け入れ,その苦痛を緩和し,幸せになりたいと願う自己とのかかわり」である(Neff, 2003).国外の看護師を対象とした研究により,高いSelf-Compassionはバーンアウトを予防すること(Delaney, 2018),他者との関係性の構築および維持への動機づけ,他者への思いやりと正の関連があり(Baker & McNulty, 2011),患者を思いやったケアを継続的に実践できることが示されている(Dev et al., 2018).国内の研究においても,対人関係への満足は,適切な自己表現とSelf-Compassionの程度によって規定されることが明らかとなっており(吉村,2022),Self-Compassionが看護師のバーンアウトなどのメンタルヘルス不調や,経済的損失や患者安全に関わる臨床技術,患者やスタッフとの関係に影響を与えるとしている(岸本,2022).このことから,Self-Compassionは,すべての看護師にとって必要な心のあり方であり,特に,パートナーという他者との関係性の構築が必要不可欠であるPNSで働く看護師にとって,Self-Compassionの高さがパートナーとの良好な関係の構築に関わる可能性がある.しかし,本邦の看護師を対象としたSelf-Compassionの検証は少なく,看護方式の違いにおいて比較された例もない.したがって,本研究はSelf-Compassion をPNS導入の有無において比較する.
以上より,本研究ではPNSで働く看護師は,PNS非導入病院で働く看護師と比較して看護実践能力に関する尺度の得点が低い一方,Self-compassionの得点は高いのではないかという仮説を検証することとした.
本研究は,PNS導入の有無における看護実践能力とSelf-Compassionの差の有無を明らかにすることを目的とする.
PNS導入病院は大学病院が中心であることから,対象者特性をそろえるために,調査対象として一般病院・特定機能病院を含む病床数400床以上の病院を機縁法により選定した.対象者は,看護部長,看護師長に相当する役割を持たないこと,2022年4月以降の入職者でない病棟看護師とした.病院の特性による分析結果への影響を抑えるため,PNS導入病院,PNS非導入病院(以下,PNS群,非PNS群)ともに2施設以上からサンプルを集めた.
必要サンプル数については,47項目からなる質問紙データにおける信頼性の担保を目的とした因子分析を実施するため,項目数の10倍である470名(松尾・中村,2002)とし,回収率を40%と仮定して1,200名程度(PNS群600名,非PNS群600名)に調査を依頼した.
2. デザイン無記名自記式質問紙を用いた横断調査研究であった.
3. 調査期間2022年2月~2022年8月であった.
4. 配布と回収配布は,病棟師長等の看護管理責任者を通して行った.回答期間は,質問紙が到着してから1か月程度とした.回収方法は,看護管理責任者による取りまとめての返送または,個別投函とした.
5. 調査内容 1) 対象者特性PNS群と非PNS群における比較に必要,かつ看護実践能力とSelf-Compassionの背景要因となり得ると想定されたものとして,性別,年齢,最終学歴,看護師としての勤務年数,PNSでの勤務年数,PNSでない勤務年数,病棟での役割等について回答を求めた.
2) 看護実践能力看護実践の卓越性自己評価尺度病棟看護師用(Nursing Excellence Sale in Clinical Practice;以下NSE,)は上田ら(2005)によって開発され,連続的・効率的な情報収集と活用,臨床の場の特徴を反映した専門的知識・技術の活用,患者・家族との関係維持・発展につながるコミュニケーション,職場環境・患者個々の持つ悪条件の克服,現状に潜む問題の明確化と解決に向けた創造性の発揮,患者の人格尊重と尊厳の遵守,医療チームの一員としての複数役割の発見と同時進行の7因子,35項目で構成されている.内的整合性,因子的妥当性,構成概念妥当性については検証されており,Cronbach’s αは.84~.96である.回答は,「5点:かなり当てはまる」「4点:わりに当てはまる」「3点:少し当てはまる」「2点:あまり当てはまらない」「1点:全く当てはまらない」の5段階リッカート尺度であり,得点が高いほど看護実践の卓越性が高いことを意味する(舟島,2015).この尺度は看護実践能力の知識,技術,態度に関する項目を統合的に含み,熟練者から初心者まで幅広い経験年数の看護師に使用できることから,本検証に合致していると考え選択した.尺度の使用にあたり,作成者の許諾を得た.本研究では,この尺度の合計得点をNES得点とする.
3) Self-CompassionSelf-Compassion尺度(以下,SCS)は,自分への優しさ,共通の人間性,マインドフルネスという3つの肯定的側面と,対極として自己批判,孤独感,過剰同一化という3つの否定的側面を測定する(Neff, 2003).SCSには12項目の短縮版があり(Raes et al., 2011),本邦でも,SCS-Jの短縮版(以下,SCS-J-SF)が作成され,6因子,12項目で構成されている(有光ら,2016).内的整合性,因子的妥当性,構成概念妥当性については検証されており,Cronbach’s αは.50~.73である.Self -Compassionの定義である「困難な状況において,自己に生じた苦痛をありのまま受け入れ,その苦痛を緩和し,幸せになりたいと願う自己とのかかわり」を網羅的に含んでおり,Self-Compassionに関する介入研究ではSCS以外にも多くの尺度を測定する必要があることから,Self-Compassionのより簡便な測定を目的に短縮版が使用されている.本研究においても,NESと同時にSelf-Compassionを測定することから,回答者の負担を考慮してSCS-J-SFを用いることとした.尺度の使用にあたり,作成者に許諾を得た.「5点:ほとんどいつもそうする」から「1点:ほとんど全くそうしない」までの数値で評価し,得点が高いほどSelf-Compassionが高いことを意味する.この尺度の合計得点をSCS-J-SF得点とする.
6. 分析方法分析にあたり,性別,年齢,および勤務年数についてχ2検定,学歴についてはFisherの正確確率検定を用いてPNS導入の有無で比較し,対象者特性における差を確認した.そして,対象者がNESと,SCS-J-SFにおいて測定可能なサンプルであることを確認するため,Cronbach’s αを算出した.対象者特性や所属病院の要因による分析結果への影響を考慮し,傾向スコアを用いて交絡因子のコントロールを行った.傾向スコアは,複数の交絡因子を1つの変数に集約することで,1変数の上でマッチングを行うことができる方法である.PNS群において非PNSでの勤務年数の方が長い者,および非PNS群においてPNSでの勤務年数の方が長い者を除外したのち,対象者特性に差がみられた項目を交絡因子として選択し,PNS導入の有無を従属変数,選択した交絡因子を独立変数として多重ロジスティック回帰分析において強制投入法を行い,予測確率を傾向スコアとした.あわせて,モデルの予測精度の指標であるc統計量を算出した.そして,推計された傾向スコアを用いてスコアの分布がPNS群と非PNS群とで等しくなるよう,傾向スコアの標準偏差の0.2倍をキャリパーとした最近傍法により(康永ら,2018),両群の対象者をマッチングした.マッチングされたサンプルにおいて,PNS群と非PNS群の対象者特性をχ2検定で比較するとともに,Standardized Difference score(SD)が0.1未満であることを確認した.NES,およびSCS-J-SFの平均得点の差を比較するために対応のないt検定を実施した.統計ソフトはIBM SPSS Statistics 28を使用し,すべての検定において有意水準は5%とした.
7. 倫理的配慮本研究は,浜松医科大学臨床研究倫理委員会の審査を受け,承認を得て実施した(承認番号21-302).対象者に研究の意義,目的,方法,個人情報保護,協力の自由意志などを記載した説明文書を質問紙とあわせて配布し,質問紙の同意チェック欄への記入をもって同意が得られたものとした.回収は対象者自身が封筒に質問紙を封入したのち,看護管理者による取りまとめての返送または,個別投函とした.取りまとめての返送については,白紙回答による回答への任意性を確保した.
協力の得られたPNS群2病院,非PNS群3病院に勤務する看護師1,081名に質問紙を配布し,893名(回収率82.6%)から回答が得られた.そのうち,白紙回答を除外し,有効回答数は890であり(有効回答率82.3%),マッチング前の対象者特性は,年齢,勤務年数,学歴(専門学校,および大学)において,2群間で有意差がみられた(表1).
n = 890
| 対象者特性 | PNS群(n = 209) | 非PNS群(n = 681) | p | |||
|---|---|---|---|---|---|---|
| n | % | n | % | |||
| 性別 | ||||||
| 男性 | 13 | 7.0 | 59 | 8.7 | .255 | |
| 女性 | 196 | 93.8 | 621 | 91.3 | ||
| 年齢(Mean ± SD) | 31.2 ± 8.2 | 34.7 ± 10.6 | ||||
| ≦25歳 | 76 | 36.4 | 213 | 31.3 | <.001 | |
| 26~30歳 | 51 | 24.4 | 99 | 14.5 | ||
| 31~35歳 | 36 | 17.2 | 79 | 11.6 | ||
| 36~40歳 | 13 | 6.2 | 77 | 11.3 | ||
| ≧41歳 | 33 | 15.8 | 213 | 31.3 | ||
| 勤務年数(Mean ± SD) | 7.2 ± 6.0 | 7.2 ± 6.0 | ||||
| ≦5年 | 79 | 37.7 | 260 | 38.2 | <.001 | |
| 6~10年 | 66 | 31.6 | 133 | 19.5 | ||
| 11~15年 | 34 | 16.3 | 80 | 11.7 | ||
| 16~20年 | 19 | 9.1 | 61 | 9.0 | ||
| ≧21年 | 11 | 5.3 | 147 | 21.6 | ||
| 学歴 | ||||||
| 専門学校 | 94 | 45.0 | 565 | 83.1 | <.001 | |
| 短期大学 | 12 | 5.7 | 27 | 4.0 | .268 | |
| 大学 | 98 | 46.9 | 83 | 12.2 | <.001 | |
| 大学院 | 0 | 0.0 | 5 | 0.7 | .596 | |
| その他 | 4 | 1.9 | 0 | 0.0 | .003 | |
マッチング前の全対象者におけるNESの Cronbach’s αは.89であり,下位因子のCronbach’s αは.82~.90であった.SCS-J-SFのCronbach’s αは.63であり,下位因子のCronbach’s αは.58~.83であった(表2).
n = 890
| 尺度 | 下位尺度 | Mean ± SD | Chronbach’s α |
|---|---|---|---|
| NES(35項目) | 連続的・効率的な情報の収集と活用 | 17.6 ± 2.8 | .90 |
| 臨床の場の特徴を反映した専門的知識・技術の活用 | 17.7 ± 3.0 | .86 | |
| 患者・家族との関係の維持・発展につながるコミュニケーション | 19.3 ± 2.8 | .90 | |
| 職場環境・患者個々の持つ悪条件の克服 | 17.0 ± 3.0 | .89 | |
| 現状に潜む問題の明確化と解決に向けた創造性の発揮 | 16.2 ± 2.8 | .82 | |
| 患者の人格尊重と尊厳の遵守 | 18.7 ± 2.9 | .89 | |
| 医療チームの一員としての複数役割発見と同時進行 | 18.5 ± 3.0 | .89 | |
| SCS-J-SF(12項目) | 自己批判 | 6.5 ± 1.7 | .62 |
| 孤独感 | 5.6 ± 1.9 | .71 | |
| 過剰同一化 | 6.9 ± 1.9 | .83 | |
| 自分へのやさしさ | 6.3 ± 1.5 | .58 | |
| 共通の人間性 | 5.8 ± 1.6 | .59 | |
| マインドフルネス | 6.6 ± 1.4 | .58 |
PNS群において非PNSでの勤務年数の方が長い者,および非PNS群においてPNSでの勤務年数の方が長い者を除外し,551名(PNS群102名,非PNS群449名)が抽出された.マッチング前の対象者において有意差がみられた年齢,経験年数,学歴を共変量とした傾向スコアモデルのc統計量は0.87であった.キャリパーを用いた最近傍マッチングにより,PNS群70名,非PNS群70名の対象者が選択された.平均年齢はPNS群26.5 ± 4.6歳,非PNS群26.2 ± 3.8歳であった.平均勤務年数はPNS群4.7 ± 3.0年,非PNS群4.3 ± 3.1年であった.対象者特性におけるχ2検定の結果については,両群間に有意差はなく,すべての項目においてSDは0.1未満であった(表3).
n = 140
| 対象者特性 | PNS群(n = 70) | 非PNS群(n = 70) | p | |||
|---|---|---|---|---|---|---|
| n | % | n | % | |||
| 性別 | ||||||
| 男性 | 7 | 10.0 | 6 | 8.6 | .771 | |
| 女性 | 63 | 90.0 | 64 | 91.4 | ||
| 年齢(Mean ± SD) | 26.5 ± 4.6 | 26.2 ± 3.8 | ||||
| ≦25歳 | 45 | 64.3 | 45 | 64.3 | 1.000 | |
| 26~30歳 | 17 | 24.3 | 17 | 24.3 | ||
| 31~35歳 | 7 | 10.0 | 7 | 10.0 | ||
| 36~40歳 | 0 | 0.0 | 1 | 1.4 | ||
| ≧41歳 | 1 | 1.4 | 0 | 0.0 | ||
| 勤務年数(Mean ± SD) | 4.7 ± 3.0 | 4.3 ± 3.1 | ||||
| ≦5年 | 52 | 74.3 | 55 | 78.6 | .877 | |
| 6~10年 | 16 | 22.9 | 13 | 18.6 | ||
| 学歴 | ||||||
| 専門学校 | 31 | 44.3 | 31 | 44.3 | 1.000 | |
| 短期大学 | 1 | 1.4 | 1 | 1.4 | ||
| 大学 | 38 | 54.3 | 38 | 54.3 | ||
マッチング後の対象者における対応のないt検定の結果,NES得点は,PNS群123.6 ± 14.3点と非PNS群121.9 ± 14.2点の間に有意差はみられなかった.下位因子についても両群間に有意差はみられなかった.SCS-J-SF得点は,PNS群36.6 ± 6.6点と非PNS群35.5 ± 5.6点の間に有意差はみられなかったが,「自分へのやさしさ」においてPNS群6.8 ± 1.3点が非PNS群6.3 ± 1.3点より有意に高く(p = .021),「共通の人間性」もPNS群6.2 ± 1.4点が非PNS群5.7 ± 1.3点より有意に高い結果であった(p = .003)(表4).
n = 140
| PNS群(n = 70) | 非PNS群(n = 70) | p | |
|---|---|---|---|
| Mean ± SD | Mean ± SD | ||
| NES得点 | 123.6 ± 14.3 | 121.9 ± 14.2 | .475 |
| 連続的・効率的な情報の収集と活用 | 17.0 ± 2.6 | 16.7 ± 2.6 | .447 |
| 臨床の場の特徴を反映した専門的知識・技術の活用 | 17.3 ± 2.7 | 16.9 ± 3.0 | .442 |
| 患者・家族との関係の維持・発展につながるコミュニケーション | 19.3 ± 2.6 | 18.8 ± 2.6 | .330 |
| 職場環境・患者個々の持つ悪条件の克服 | 17.3 ± 2.6 | 16.7 ± 2.7 | .205 |
| 現状に潜む問題の明確化と解決に向けた創造性の発揮 | 15.9 ± 2.6 | 15.9 ± 2.6 | .958 |
| 患者の人格尊重と尊厳の遵守 | 18.9 ± 2.7 | 18.8 ± 3.0 | .953 |
| 医療チームの一員としての複数役割の発見と同時進行 | 17.9 ± 2.9 | 17.9 ± 2.9 | 1.000 |
| SCS-J-SF得点 | 36.6 ± 6.6 | 35.5 ± 5.6 | .281 |
| 自己批判 | 6.4 ± 1.7 | 6.6 ± 1.7 | .551 |
| 過剰同一化 | 7.0 ± 1.9 | 6.8 ± 1.8 | .553 |
| 孤独感 | 5.7 ± 2.0 | 5.7 ± 1.9 | .897 |
| 自分へのやさしさ | 6.8 ± 1.3 | 6.3 ± 1.3 | .021 |
| 共通の人間性 | 6.2 ± 1.4 | 5.7 ± 1.3 | .003 |
| マインドフルネス | 6.7 ± 1.4 | 6.7 ± 1.3 | .708 |
p値は対応のないt検定
本研究において,傾向スコアマッチング前の必要なサンプル数である470名を超える890名から有効回答を得ることができたため,分析に耐えうるサンプル数を集めることができたと判断した.マッチング前の対象者におけるNESのCronbach’s α係数は概ね十分な数値を示し,尺度開発時と同様の結果であることが確認された.また,SCS-J-SFにおけるCronbach’s αは,1つの下位因子につき2項目,かつSCS-Jの内容を網羅した項目で構成されているため内容が異なり,項目間相関が低くなるとされている(有光ら,2016).本研究においても先行研究と同様の結果を示したため,データとして適切性を保持していると判断した.さらに,傾向スコアマッチング後のPNS導入の有無における対象者特性に有意差はなく,SDが0.1未満であったため,適切なマッチングがなされていると考えた.
2. PNS導入の有無と看護実践能力看護実践能力をPNS導入の有無において比較した結果,PNS導入の有無で差がなく,仮説を支持しなかった.PNSで働く看護師に関するこれまでの質的研究では,自主性,臨床判断能力として「看護師が単独で最適なケアを実施する力」が低下していると語られるものが散見された(森岡・中本,2017;堀内ら,2016;中川ら,2015)が,本研究の結果からは,PNSで働く看護師は,NSEで測定可能な看護実践能力が必ずしも低いとはいえないことが明らかとなった.
看護実践能力は時代の変遷とともに,看護ケアの提供に必要な看護師個々の能力から,組織やチームで協働し,安全で質の高い看護を提供するための専門職としての役割を意識した能力へと変化している(井本,2022).特に,自主性,臨床判断能力を含む自律的スキルは「看護師が単独で考えてケアが実施できるスキル」から,「学習の機会を自ら作り出し,新たな知識を取り入れることができるスキル」に意味内容が変化している(井本,2022).これまでの看護方式は自己完結型であり,看護専門職として,単独で最適なケアを実施するための自主性や,臨床判断能力が求められていた.しかし,現在では組織や医療チームでの協働のなかで最適なケアを導くための自主性や,臨床判断能力が一層求められている.例えば,NESの,Ⅶ. 医療チームの一員としての複数役割発見と同時進行にある「緊急事態に対応しながら他のメンバーへの指示や医師への報告も行う」は,看護師が単独で緊急事態に遭遇し,急変時のケア,他メンバーの動きを考慮した指示や依頼,医師への報告,指示実施など,複数の事象に対応することを求められる場面が想像できる.しかし,PNSであればパートナーとともに緊急事態に遭遇し,他メンバーへの指示や依頼をすることなく,その場ですぐに必要な対応を2人で共有し,協働して対応することが可能である.そのため,看護師が単独で緊急事態に対応するときに求められる複数役割とは異なる.つまり,既存の尺度では,時代が求めているような看護実践能力を測定できていない可能性が推察される.看護をとりまく様々な状況のなかで生み出される看護方式が時代に即した看護実践能力を醸成するうえで効果的であるかを明らかにするためには,新たな看護実践能力の概念を捉えなおすことと,それに基づく尺度を開発することが急がれる.
3. PNS導入の有無とSelf-CompassionSelf-Compassion をPNS導入の有無において比較した結果,SCS-J-SFの下位因子である自分へのやさしさと,共通の人間性がPNS群は非PNS群より有意に高かった.
Self-Compassionの自分へのやさしさとは,自分の好きでないところや苦しみを理解し,受け入れることである(宮川・谷口,2016).PNSにおけるパートナーとの良好な関係性を構築する要素として,自分自身をよく理解していることが示されており(仮屋ら,2019),パートナーとの良好な関係性を構築する過程で,自分の好きでないところや,苦痛の経験を理解し,受け入れる必要がある.したがって,パートナーとの関係性を構築する過程において,PNS看護師は Self-Compassionの自分へのやさしさと類似した心のあり方を持つようになることが推察される.
Self-Compassionの共通の人間性とは,苦しみを感じるのはこの世の中で自分だけではないという認識である(Neff, 2003).仮屋ら(2019)は,パートナーとの良好な関係性を構築している者は,同じ時間を共有していることも述べている.協働するというPNSの特性上,パートナーと時間だけでなく,繁忙な業務という困難な状況も共有している.したがって,困難な状況を抱えているのは自分だけではないことを認識しやすいことが推察される.以上より,PNSにおいてSelf-Compassionの肯定的側面の得点が高かった可能性が考えられる.
しかし,本研究は,看護方式の違いにおいてのみSelf-Compassionを検証したものであるため,看護師のSelf-Compassionに影響を与える他の要因として,職場だけでなく,個人をとりまくストレス状況や周囲のサポート状況などが存在する可能性がある.
4. 今後の展望本研究により,安全で質の高い看護を提供するための協働を基盤とした看護実践能力を測定する必要性が見出されたことは新たな知見である.今後,看護実践能力の概念を捉えなおすことにより,教育プログラムの改善等が可能となる.
また,本研究によってSelf-Compassionの肯定的側面とPNS導入による関連の示唆を得たことで,看護師のSelf-Compassionと,看護実践能力や状況要因との関連についてさらなる検証の必要性を見出したといえる.
傾向スコアによる共変量の制御により,対象者の背景特性を可能な限りそろえることはできたが,限られたサンプル数における結果であったため,一般化可能性が低い点が本研究の限界の1つである.研究結果をより明確にするためには,対象者の背景特性がそろったより多くのサンプルを集める必要がある.
またSelf-Compassionについて,本邦の看護師の Self-Compassionに影響を与える要因についての先行研究がほとんどなく,PNS導入の有無についてのみの検討にとどまった点が本研究の限界である.また,SCS-J-SFは下位因子が2項目で構成され,内的整合性が高くない結果を示しており,因子ごとの分析にあまり向かない尺度であったことも限界点といえる.したがって,下位因子ごとの分析が可能なSCS-Jを用い,より多くの看護師を対象とした検証をすることで,Self-Compassionの影響因子に関する知見を得ることも今後の課題である.
1.PNS導入とNESの得点は関連していない可能性が示された.
2.PNSで働く看護師はSelf-Compassionの肯定的側面が高い可能性が示された.
付記:本論文の一部は,第42回日本看護科学学会学術集会において発表した.本研究は,浜松医科大学大学院研究科修士課程(看護学専攻)に提出した修士論文に一部加筆・修正したものである.
謝辞:本研究を実施するにあたり,質問紙調査にご協力いただきました看護師の皆様ならびに浜松医科大学医学系研究科基礎看護メンバーの皆様に深謝いたします.
利益相反:本研究における利益相反はない.
著者資格:金原あみは,研究の着想およびデザイン,統計解析の実施および草稿の作成すべてに貢献した.片山はるみは,原稿への示唆および研究のプロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み承認した.