2024 年 44 巻 p. 882-892
目的:デジタル聴診器を用いた遠隔授業方式による聴診プログラムを作成し,それを授業に取り入れて実践し,学生からの評価に基づき有用性を検討する.
方法:A大学の2年次生85名を対象に,作成した聴診プログラムを授業に組み込んで実践し,Web調査により評価した.
結果:回答率は76.5%であった.正常な呼吸音では,聴診器の当て方による違い,呼気と吸気の違いについて「よくわかった」と回答した学生が全体の約50%を占め,異常音との区別については全体の約60%あるいはそれ以上を占めていた.心音では,全ての項目で全体の25%未満であった.リアルタイムに音を共有することで,学生間のディスカッションがしやすい方法だと「とても感じた」と回答した学生が全体の約50%を占めていた.
考察:デジタル聴診器の活用により学生間でのディスカッションがしやすく,聴診音に関する知識の理解がさらに深まるなどの有用性が示唆された.
Objective: The purpose of this study was to create a distance learning auscultation program using digital stethoscopes, incorporate the program into class, and examine its usefulness through student evaluations.
Methods: The distance learning auscultation program was incorporated into classes for 85 sophomore-year students from the nursing department of University A, and the program results were evaluated after completion through a student web survey.
Results: The response rate was 76.5%. Regarding normal breathing sounds, approximately 50% of students answered that they “understood well” differences in sound depending on how the stethoscope was applied and the difference between exhalation and inspiration. Approximately 60% or more of the students answered that they “understood well” the distinction between normal sounds and abnormal sounds. For heart sounds, less than 25% of students answered that they “understood well” all the items. Approximately 50% of the students responded that they “felt very much” that sharing sound in real time was an easy way to facilitate student discussion.
Conclusion: The results suggest that the use of digital stethoscopes facilitates discussion among students and further deepens their knowledge and understanding of auscultation sounds.
A大学では,2年次生を対象に「解剖生理,病態生理,主な疾患の基本的知識に基づき,看護に必要となる対象者の身体的な情報について,五感を駆使して収集する方法を系統別に学び,アセスメント能力を身に付ける」ことを目的としたフィジカルアセスメント教育を行っている.フィジカルアセスメントとは,「全身の状態を系統別に把握し,その情報を整理,分析して,状態が正常であるのか,正常から逸脱しているのか,予測される問題はないかなどを判断することである」(日本看護科学学会 看護学学術用語検討委員会,n.d.).健康歴の聴取をはじめ,視診・触診・打診・聴診といった「フィジカルアセスメント技術は看護師には欠かせない能力」(厚生労働省,2007)であり,看護基礎教育においては,「フィジカルアセスメントを強化する内容」とすることが「看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン」の留意点に記されている(厚生労働省,2019).中でも聴診の技術は,臨床で高頻度に用いられているフィジカルアセスメント技術であり,「胸背部の聴診(呼吸音の聴取)」は看護基礎教育のフィジカルアセスメント教育で教授しておく必要のある項目とされている(池谷ら,2014).また,「呼吸音聴取」はフィジカルアセスメント教育として最低限身につける必要があることが示唆されている(椿ら,2018).例えば,「呼吸音の聴取」において必要とされる能力は,正しい場所で正しい音を聴取できること,副雑音を認めた際にその副雑音が何であるかを判断できること,である」(山内ら,2017)ように,対象者の身体の正しい位置に聴診器を当てて,位置に応じた正常音や異常音を聞き分けること,聞き分けた音を評価し,対象者の状態を判断することが必要な能力と考えられるため,看護基礎教育においては,そのような基礎的能力を養成する必要がある.しかし,その一方で「心音聴取」は困難度が高く,「聴診における30 Hz以下/500 Hz以上の周波数帯域は,音圧と周波数の関係性により人間の聴覚では認識できない領域とされ」(小城ら,2020),一般的な聴診器の機能では聴取できないため,初学者には明確な音の特定が困難で,正確に音を聴取できているかなどの不安を感じやすいと考えられる.また,聴診音は音の特徴の表現自体が難しく,正確に言語化することは容易ではないため,曖昧な認識に留まりやすいと推測される.
オンライン診療その他の遠隔医療については,情報通信技術の発展並びに地域の医療提供体制及び医療ニーズの変化に伴って,近年ますます需要が高まっている(厚生労働省医政局長,2023).医療機器を搭載したオンライン診療のための専用車両が,看護師と一緒に通院困難な高齢者等の自宅等へ出向き,車内からの通信等によりオンライン診療を行う,新しい医療提供の形態「モバイルクリニック事業」が各地で実施されている(長野県伊那市,2024;長崎県五島市,2024;岩手県北上市,2024).遠隔下を前提としたデジタル化の必要性は,医療現場のみならず,教育環境においても同様である.このことは,今後も感染症の流行や様々な災害時などにより,対面授業ができずに遠隔授業しかできない状況が生じれば,従来のアナログ式聴診器を用いてはフィジカルアセスメント技術で重要とされる聴診技術の教育を継続することは極めて困難になることからも明らかである.これを起因として,遠隔下においても不可欠な教育を継続していけるように,本研究では遠隔下での教育におけるデジタル聴診器の実用性を中心に検証することにした.遠隔授業を前提としてデジタル聴診器の実用性を評価できれば,対面授業でもその基本的な評価は共通するものであると考える.また,デジタル聴診器を教育環境において活用することができれば,聴診技術の遠隔授業が可能になるだけではなく,同じ生体音をリアルタイムに多数の学生が同時に共有することができ,学生にとっても聴診技能の修得に効果があるのではないかとも考え,デジタル聴診器の教育環境における有用性についても検証することにした.
そこで,遠隔授業方式(大学-学生の自宅間)を授業形態の前提とした場合におけるデジタル聴診器を用いた聴診プログラムを作成し,それを授業の1コマに取り入れて実践した結果,教育環境におけるデジタル聴診器の実用性が確認でき,また,学生からの評価により,聴診音に対する知識の理解が深まるなどの有用性が示唆されたので報告する.
遠隔授業:通信回線を用いて講義発信地(教員)と遠隔地(学習者/学生)を結びリアルタイムで双方向授業を行う授業形態.
対面授業:教員と学習者/学生が同じ場所にいて,対面しながら行う授業形態.
2. プログラム原案の作成 1) 使用するシステムA大学では,2020年4月からオンライン会議システム「Zoom®」を使用しており,ユーザー向けの使用マニュアルを作成して,オンライン授業等に活用している.授業を実施する教員は対象となる学生にURLを事前にメールで通知し,学生は自宅から各自のパソコン(PC)等を用いて,教員から送られたURLより参加する方法で運用している.本研究においても同様にZoom®を使用した.デジタル聴診器は「nexstetho®」(株式会社シェアメディカル)を使用した.また,シミュレータは「フィジカルアセスメントモデルPhysiko®」(株式会社京都科学)を使用した.
2) 原案としてのプログラムの作成(表1)表1のように学習目標となるポイントを整理し,原案を作成した.時間は60分間で,内容は以下のように構成した.まず初めに学習の流れと方法を「画面共有」(PCの画面に表示)のうえ説明することとした.前半に呼吸音の聴診演習を行い,後半に心音の聴診演習を行うように計画した.正常呼吸音の聴診では,共同研究者の教員1名が模擬患者役となり,気管呼吸音・気管支肺胞呼吸音・肺胞呼吸音の順に,デジタル聴診器を使用して呼吸音を送信することとした.その際に,模擬患者役の胸部がPCの画面に映るように位置を調整し,呼気と吸気での胸郭の動きや,聴診器を当てている場所が画面を通して学生に見えるようにした.呼気と吸気で1回分の呼吸音とし,これを各部位で2回ずつ送信し,その後,音の特徴などを簡潔に伝えるようにした.なお,心音を避けるために右側に聴診器を当てるように留意した(図1).異常呼吸音(副雑音)はシミュレータのメニューから2種類を選択して,デジタル聴診器を使用して各種類を2回ずつ送信し,音の特徴などを簡潔に伝えるようにした(図2).次に,正常心音の聴診では,第2肋間胸骨右縁・第2肋間胸骨左縁・第4肋間胸骨左縁・第5肋間左鎖骨中線上やや内側の順に,デジタル聴診器を使用して模擬患者役の心音を送信することとした.その際に,模擬患者役の胸部がPCの画面に映るように位置を調整し,聴診器を当てている場所が画面を通して学生に見えるようにした.I音とII音で1回分の心音とし,これを各部位で2回ずつ送信し,音の特徴などを簡潔に伝えるようにした.異常心音(III音・IV音:S3・S4ギャロップ)と心雑音2種類はシミュレータのメニューから選択して,デジタル聴診器を使用して各種類を2回ずつ送信し,音の特徴などを簡潔に伝えるようにした.最後に,質問や感想などがあれば述べてもらう時間を設けることとした.
演習のポイント 身体の正しい位置に聴診器を当てて,位置に応じた正常音や異常音を聞き分ける. 聞き分けた音を評価し,対象者の状況を判断する. 1)呼吸音: ①正常な呼吸音と副雑音の区別 ②気管呼吸音・気管支肺胞呼吸音・肺胞呼吸音の区別 ③副雑音の種類の区別 2)心音: ①正常な心音と異常心音の区別 ②I音とII音の区別,③心音と心雑音の区別 |
|
| 時間 | 内容 |
|---|---|
| 5分 | 演習の流れと方法を説明(画面に掲示) |
| 10分 | 生体の正常な呼吸音の聴診と解説 |
| 10分 | シミュレータの異常呼吸音(副雑音)の聴診と解説 |
| 5分 | 休憩 |
| 10分 | 生体の正常な心音の聴診と解説 |
| 10分 | シミュレータの異常心音(III音・IV音)と心雑音の聴診と解説 |
| 5分 | Web調査 |

「ラングTシャツ」(京都科学)を着用

以上の原案に沿って,2022年11月に2022年度の2年次生を対象に,予備的調査(女子学生8名)を実施した.4名1組のグループを2組編成し,同じ日に組別に60分ずつ実施した.対象者全員の許可が得られたので,Zoom®のレコーディング機能を使って録画を行った.終了後にWeb調査を実施した.調査内容は,正常音と異常音の区別がわかりやすいと感じたか,気管音・肺胞音・水泡音・笛音の各々の特徴がわかりやすいと感じたか,心音のI音とII音の区別がわかりやすいと感じたか等,聴診音の特徴の理解や学習効果を問う選択回答式8項目と,聴診音に関する知識の理解の深まりや聞き分け技術に対する自信,学習意欲などの全体的な評価を問う5項目と,自由記述式2項目で構成し,無記名で回答を求めた.回答の際には,自分の聴診器を用いた従来の演習体験と比べてどのように感じたかということに重点をおいて回答するように説明した.回答形式は「とても感じた」・「少し感じた」・「あまり感じなかった」・「全く感じなかった」の4件法とした.倫理的配慮として研究者の所属施設の研究倫理・安全委員会の承認を得て実施した(承認番号22-58).Web調査の結果,聴診音の区別や特徴の理解については「気管音の特徴」と「副雑音(笛音)の特徴」では対象者全員が「とても感じた」と回答した.「教員に質問がしやすそうな方法だと感じましたか」という質問への回答に対して2名が「あまり感じなかった」と回答したが,それ以外のすべての項目において8名中の7名以上が「とても感じた」または「少し感じた」と回答した.自由意見では“遠隔授業のほうが音に集中できて学びやすい”,“聴診音と教員の解説が同時進行で聞けるので記憶に残りやすい”などの肯定的な意見を得た.「生体のデータをリアルタイムに共有できることにより,聴診音に関する知識の理解が深まり,学生間での疑問の解決や学習意欲の向上など,様々な有用性があることが示唆された」(石田ら,2023)ことから,教育効果が期待できると判断し,本プログラム原案を授業内容に取り入れることとした.なお,“学習環境(騒音の有無,スピーカーやイヤホンの質など)により授業の満足度が左右される”との意見もあったので,Wi-Fi環境に影響を受ける点に留意することとした.
3. 対象者対象者は,A大学の必修科目「ヘルスアセスメント」の履修者である2年次生85名全員(女子学生83名,男子学生2名)とした.
4. 科目の概要開講時期は2年次1学期(4月中旬~6月上旬)で,時間数(単位数)は15コマ(1単位)である.科目の目的は,「解剖生理,病態生理,主な疾患の基本的知識に基づき,看護に必要となる対象者の身体的な情報について,五感を駆使して収集する方法を系統別に学び,アセスメント能力を身に付ける」ことである.授業形態は演習で,主に実習室を使用して,1つのベッドを4~5名で使うようにグループ編成している.教員4名で分担して指導にあたるため,教員1名につき学生約20名を担当している.学習目標は,既習の知識や技術を活かし,「呼吸器系,循環器系,消化器系,神経系,運動器系などに障害をもつ対象に対し,ヘルスアセスメントのための観察視点や根拠について説明できる」,「観察した情報から健康問題を予測し説明できる」としている.系統別(呼吸器系・循環器系・消化器系・神経系・運動器系)アセスメント演習が終了し,看護過程の展開につなげるための事例演習に入る前に,1コマ分(90分)を遠隔授業とし,本聴診プログラムを入れることとした.なお,既習の関連科目としては,1年次にバイタルサイン,フィジカルイグザミネーションなどの基本技術,日常生活援助技術,解剖・生理学,病理・病態学,基礎看護学実習を履修済みである.
担当教員が演習開始日の1週間前に当日の演習の進め方の概略を説明した.事前課題として,演習前までにシミュレータの呼吸音・心音の異常音を自分の聴診器で聴いておくように伝えた.担当教員が演習前日にZoom®のURLを学年専用のグループアドレス宛に送信し,演習当日,学生は自宅から各自のPC等を用いて,教員から送られたURLより参加した.発言が必要なときには直接発言してもよいしチャット機能を使ってもよいこととした.カメラ(ビデオ)オンは強制せず常時オフの状態でよいこととし,学生のプライバシーに配慮した.
5. 演習後Web調査本聴診プログラム終了後にWeb調査を実施した.調査内容は,呼吸音に関する学習効果や心音に関する学習効果に関する選択回答式26項目(回答形式は「よくわかった」・「少しわかった」・「あまりわからなかった」・「全くわからなかった」の4件法),演習の運営,全体的な評価などについて6項目(回答形式は「とても感じた(深まった)」・「少し感じた(深まった)」・「あまり感じ(深まら)なかった」・「全く感じ(深まら)なかった」の4件法),自由記述式4項目で,Googleフォームを用いて無記名で行った.自分の聴診器を用いた従来の演習体験と比べてどのように感じたかということに重点をおいて回答するように説明した.数量的データは項目ごとに単純集計し,質的データは意味内容を損なわないようにカテゴリー化して整理した.
6. 倫理的配慮倫理的配慮として著者の所属施設の研究倫理・安全委員会の承認を得て実施した(承認番号22-85).研究を兼ねた授業で,研究データとして収集する内容は,演習終了時のWeb調査(無記名)への回答内容のみであること,Web調査への参加は自由意思に基づいて決定でき,参加しなくても不利益は無いこと,プライバシーを守ること,学業成績とは無関係であること,データの保管・処分を適切に行うこと,調査結果を専門の学会や学術雑誌に発表する予定があること,本研究目的以外に使用しないことを協力依頼書に明記し,文書と口頭で説明した.なお,調査に関する質問等が随時できるように,研究責任者の連絡先を協力依頼書に明記した.
実施に要する総時間は1コマ分であるため,VDT作業による悪影響を考慮して間で5分間の休憩を設けた.対象者が調査中に体調不良を訴えた場合には,直ちに当該学生の参加を中断し,横になるなどの適切な対応を指示するようにした.Web調査に要する時間は約10分であり,回答に係る負担は少なく,また,通常の授業で使用する物品以外は使用しないので,環境面での負担も少ないことを説明した.Web調査にあたり,データ送受信の際は通信が暗号化されており,Googleによるセキュリティ対策によりデータの漏洩を生じるリスクは低いこと,回答回収後はクラウド上からは削除し,データとして別の媒体で鍵のかかる場所で保管すること,また,回答の閲覧権限を制限し,回答者が他の回答者の回答を見ることができないこと,回答は無記名とし,回答者のアドレスなどの個人情報は収集しないので,個人が特定されることはないことを説明した.
90分間(1コマ)のプログラムは表2のとおりである.基本的な流れはプログラム原案の流れに沿って作成し,前半は呼吸音について,模擬患者役の正常音とシミュレータの異常音を送り,各音の特徴を簡潔に説明した.具体例としては,「気管呼吸音は荒く,高く,大きい音,吸気と呼気の間の音の切れ目が明らかですね.気管支肺胞呼吸音はそれより小さく,吸気と呼気が連続して聴こえますね.肺胞呼吸音はやわらかくさらに低く小さく,呼気は初期しか聴こえないですね.」という具合に説明した.また,「笛音はヒューヒューという高い音で,比較的細い気管支の狭窄がある場合にこのような音が聴こえますね.」という具合に説明した.その後,グループ毎にZoom®の「ブレイクアウトルーム」に分かれて話し合う機会を設けた.これは,学生同士で聴取音に対する疑問点などを話し合ったり,感想を述べあったり,自由に意見交換ができる機会を設け,「対話を促すことが,思考力育成の重要なポイント」の一つとの考え方によるものである(道田,2011).なお,学生間での自由な意見交換に支障をきたさないように,この話し合いには教員は参加しないようにした.話し合い後に,グループで話し合った内容を数組のグループに発表してもらい,他者の感想を聴いて,体験したことを振り返る機会を設けたとともに,教員からのフィードバックを受ける機会とした.後半は心音について,模擬患者役の正常音とシミュレータの異常音を送り,同様に実施した.
| 時間 | 内容 |
|---|---|
| 5分 | 演習の流れと方法を説明(画面に掲示) |
| 5分 | 生体の正常な呼吸音の聴診と解説 ・模擬患者役の頸部,胸部,背部に聴診器を当てながら説明 ・気管呼吸音,気管支肺胞呼吸音,肺胞呼吸音 |
| 5分 | シミュレータの異常呼吸音(副雑音)の聴診と解説 ・連続性副雑音:笛音,いびき音 ・断続性副雑音:捻髪音,水泡音 |
| 10分 | グループ毎に話し合い |
| 10分 | 発表,フィードバック |
| 5分 | 休憩 |
| 5分 | 生体の正常な心音の聴診と解説 第2肋間胸骨右縁,第2肋間胸骨左縁,第4肋間胸骨左縁,第5肋間左鎖骨中線上やや内側 |
| 5分 | シミュレータの異常心音(III音・IV音)と心雑音の聴診と解説 ・異常心音:III音,IV音 ・心雑音:僧帽弁狭窄症(拡張期雑音), 大動脈弁閉鎖不全(拡張期逆流性雑音) |
| 10分 | グループ毎に話し合い(「ブレイクアウトルーム」に分かれて) |
| 10分 | 全体発表,フィードバック |
| 10分 | Web調査(Googleフォーム) |
| 10分 | 次週の予告など |
聴診音の送信の際に,模擬患者役の胸部の動きも画面に映し,吸気と呼気のタイミングがわかるようにした.シミュレータの聴診音については,吸気と呼気のタイミングがわかるようにするために,胸郭の動きを上下に手を動かして教示した.また,送信中の音の名称を記載した札を画面に見える位置に置いて表示した.チャット機能を活用して,演習を進めている教員とは別の教員が要点や補足事項を随時チャットへ書き込んだ.具体例としては,「気管呼吸音は吸気よりも呼気が長く聞こえましたね」「気管呼吸音と逆で肺胞呼吸音は吸気時によくきこえましたね」「いびき音は,太い気管支の狭窄なので,肺門付近でよく聞かれます」という具合に補足説明した.
3. Web調査の結果(表3)85名のうち65名からの回答を得た(回収率:76.5%,有効回答率:100%).
(n = 65)
| よくわかった | 少しわかった | あまりわからなかった | まったくわからなかった | 無回答 | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 呼吸音に関する学習効果 | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | |
| 1 | 正常な呼吸音で,聴診器の当て方の違いによる音の違い | 32 | 49.2 | 30 | 46.2 | 1 | 1.5 | 1 | 1.5 | 1 | 1.5 |
| 2 | 正常な呼吸音で,気管呼吸音の呼気と吸気の違い | 35 | 53.8 | 21 | 32.3 | 7 | 10.8 | 1 | 1.5 | 1 | 1.5 |
| 3 | 正常な呼吸音で,正常な呼吸音で,気管支肺胞呼吸音の呼気と吸気の違い | 33 | 50.8 | 26 | 40.0 | 6 | 9.2 | 0 | 0.0 | 0 | 0.0 |
| 4 | 正常な呼吸音で,正常な呼吸音で,肺胞呼吸音の呼気と吸気の違い | 30 | 46.2 | 27 | 41.5 | 6 | 9.2 | 0 | 0.0 | 2 | 3.1 |
| 5 | 正常な呼吸音で,気管呼吸音・気管支肺胞呼吸音・肺胞呼吸音の区別 | 12 | 18.5 | 43 | 66.2 | 9 | 13.8 | 1 | 1.5 | 0 | 0.0 |
| 6 | 正常な呼吸音と笛音の区別 | 49 | 75.4 | 12 | 18.5 | 4 | 6.2 | 0 | 0.0 | 0 | 0.0 |
| 7 | 正常な呼吸音といびき音の区別 | 48 | 73.8 | 14 | 21.5 | 1 | 1.5 | 0 | 0.0 | 2 | 3.1 |
| 8 | 正常な呼吸音と捻髪音の区別 | 41 | 63.1 | 20 | 30.8 | 4 | 6.2 | 0 | 0.0 | 0 | 0.0 |
| 9 | 正常な呼吸音と水泡音の区別 | 38 | 58.5 | 22 | 33.8 | 4 | 6.2 | 0 | 0.0 | 1 | 1.5 |
| 心音に関する学習効果 | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | |
| 1 | 正常な心音で,聴診器の当て方の違いによる音の違い | 16 | 24.6 | 35 | 53.8 | 13 | 20.0 | 1 | 1.5 | 0 | 0.0 |
| 2 | 大動脈弁領域におけるI音とII音の大きさの違い | 16 | 24.6 | 29 | 44.6 | 19 | 29.2 | 1 | 1.5 | 0 | 0.0 |
| 3 | 肺動脈弁領域におけるI音とII音の大きさの違い | 13 | 20.0 | 33 | 50.8 | 18 | 27.7 | 1 | 1.5 | 0 | 0.0 |
| 4 | 三尖弁領域におけるI音とII音の大きさの違い | 10 | 15.4 | 32 | 49.2 | 20 | 30.8 | 3 | 4.6 | 0 | 0.0 |
| 5 | 僧帽弁領域におけるI音とII音の大きさの違い | 11 | 16.9 | 37 | 56.9 | 15 | 23.1 | 2 | 3.1 | 0 | 0.0 |
| 6 | 僧帽弁領域における正常な心音と異常心音(III音もしくはIV音)の区別 | 5 | 7.7 | 34 | 52.3 | 21 | 32.3 | 5 | 7.7 | 0 | 0.0 |
| 7 | 大動脈弁領域における正常な心音と大動脈弁閉鎖不全症の心雑音の区別 | 12 | 18.5 | 34 | 52.3 | 16 | 24.6 | 3 | 4.6 | 0 | 0.0 |
| 8 | 僧帽弁領域における正常な心音と僧帽弁狭窄症の心雑音の区別 | 12 | 18.5 | 35 | 53.8 | 14 | 21.5 | 0 | 0.0 | 4 | 6.2 |
正常な呼吸音で,聴診器の当て方の違いによる音の違いについては「よくわかった」と回答した学生が32名(49.2%)で全体の約半数を占めていた.正常な呼吸音で,呼気と吸気の違いについては「よくわかった」と回答した学生が最も多く,気管呼吸音で35名(53.8%),気管支肺胞呼吸音で33名(50.8%),肺胞呼吸音で30名(46.2%)であった.気管呼吸音・気管支肺胞呼吸音・肺胞呼吸音の3つの区別に関しては,「よくわかった」と回答した学生が12名(18.5%),「少しわかった」と回答した学生が43名(66.2%)であった.正常な呼吸音と異常音の区別に関しては,「よくわかった」と回答した学生が多かった順に,「笛音」49名(75.4%),「いびき音」48名(73.8%),「捻髪音」41名(63.1%),「水泡音」38名(58.5%)であった.
2) 心音に関する学習効果について正常な心音で,聴診器の当て方の違いによる音の違いについては「よくわかった」と回答した学生が16名(24.6%)で全体の約4分の1であった.正常な心音で,各聴診部位でのI音とII音の大きさの違いについては,「よくわかった」と回答した学生が多かった順に,「大動脈弁領域」16名(24.6%),「肺動脈弁領域」13名(20.0%),「僧帽弁領域」11名(16.9%),「三尖弁領域」10名(15.4%)であった.僧帽弁領域における正常な心音と異常心音(III音もしくはIV音)の区別については,「よくわかった」と回答した学生は5名(7.7%)で,「あまりわからなかった」21名(32.3%)と「まったくわからなかった」5名(7.7%)を合わせて全体の40%の学生が「わからなかった」と回答していた.大動脈弁領域における正常な心音と大動脈弁閉鎖不全症の心雑音の区別,僧帽弁領域における正常な心音と僧帽弁狭窄症の心雑音の区別については,各々「よくわかった」と回答した学生が12名(18.5%)であった.
3) 演習の運営,全体的な評価などについて(表4)音を共有することで,学生間のディスカッションがしやすい方法だと「とても感じた」と回答した学生は33名(50.8%)で,全体の約半数を占めていた.理由については56件の回答があり,「感じた」理由としては「みんなが共通した音を聞けているので共通した認識で話せるから」,「みんなで同じ音を聞いているので,感想や疑問点が話しやすかったし,みんなで共有しやすかった」などの意見があった.「あまり感じなかった」理由としては「他の雑音が多く聞こえづらかった」などの意見があった.
(n = 65)
| とても感じた(深まった) | 少し感じた(深まった) | あまり感じ(深まら)なかった | まったく感じ(深まら)なかった | 無回答 | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | |||
| 1 | 音を共有することで,学生間のディスカッションがしやすい方法だと感じましたか. | 33 | 50.8 | 28 | 43.1 | 4 | 6.2 | 0 | 0.0 | 0 | 0.0 | |
| ※「とても感じた」と回答した理由 | カテゴリー | サブカテゴリ― | ||||||||||
| 意見交換のし易さ | 全員が同じタイミングで同じ音を聴いているため意見の共有や意見交換がし易かった | |||||||||||
| 同じ音を共有しているため具体的な意見に共感し易かった | ||||||||||||
| 擬音を使うことで話し合いが円滑に進む | ||||||||||||
| 明瞭な音の聴取による音の性質や違いの理解 | 音がはっきりと聴こえるため音の違いが分かった | |||||||||||
| 実際の音を聴くことで音の違いがよく分かった | ||||||||||||
| 音と胸郭の動きが同時に観れたため,呼吸音の違いがとても分かり易かった | ||||||||||||
| 聴診部位と音の性質の理解ができた | ||||||||||||
| みんなで一斉に聞けるので(各々が)聴診器(で聴く)よりも個人差が少なくなる | ||||||||||||
| 意見交換の十分な時間の確保 | 全員が一斉に聞けるので時間の短縮になり,考える時間や話し合う時間が増える. | |||||||||||
| 2 | 音を共有することで,教員に質問がしやすそうな方法だと感じましたか. | 21 | 32.3 | 33 | 50.8 | 11 | 16.9 | 0 | 0.0 | 0 | 0.0 | |
| ※「とても感じた」と回答した理由 | カテゴリー | サブカテゴリ― | ||||||||||
| 音の共有による疑問点の伝わり易さ | 教員も同じ音を聴いているため疑問点が伝わりやすい | |||||||||||
| 疑問点の明確化による質問のし易さ | 聞き取り辛かった音が明確に分かり質問し易い | |||||||||||
| 皆で話し合うことで疑問点を共有できる | ||||||||||||
| 質問し易い雰囲気 | 判別が難しい音があってもすぐに聞くことができる雰囲気だった | |||||||||||
| リアルタイムな音の解説 | リアルタイムで先生の解説を聞ける | |||||||||||
| 音の理解の深まり | 実際に音を聞くことで文字よりも頭に入ってきやすく理解が深まった | |||||||||||
| (音の)違いが理解できた | ||||||||||||
| 音の言語化 | 音を聞くことで擬音として言葉で説明できるようになった | |||||||||||
| チャット機能のほうが質問し易い | 直接質問するより,チャット機能のほうが質問し易い | |||||||||||
| 心音の一部を示して質問したいときに便利である | 心音の一部を示して質問したいときに便利である | |||||||||||
| 3 | 音の聴取直後に教員が解説したことで,その音に対する理解が深まりましたか. | 35 | 53.8 | 29 | 44.6 | 0 | 0.0 | 0 | 0.0 | 1 | 1.5 | |
| 4 | 聴診音に関する知識の理解が深まりましたか. | 30 | 46.2 | 34 | 52.3 | 0 | 0.0 | 0 | 0.0 | 1 | 1.5 | |
| 5 | 聴診音の聞き分け技術(正常と異常の判断)についての自信が深まりましたか. | 30 | 46.2 | 34 | 52.3 | 0 | 0.0 | 0 | 0.0 | 1 | 1.5 | |
| 6 | 聴診音に関する興味や関心が高まりましたか. | 25 | 38.5 | 39 | 60.0 | 1 | 1.5 | 0 | 0.0 | 0 | 0.0 | |
教員に質問がしやすそうな方法だと「とても感じた」と回答した学生は21名(32.3%)で,理由については52件の回答があり,「感じた」理由としては「先生も全く同じ音を聞いているから疑問に思ったことなどが伝わりやすい」,「実際の聴診器だと,同時に聞ける人が限られてしまうけれど,先生方も含めて一緒に聞けるため,疑問点なども伝わりやすい」などの意見があった.「あまり感じなかった」理由としては「対面のほうが質問し易い」,「理解がしやすいので質問をするのが難しい」,「感じたことを整理する時間が足りない」などの意見があった.
音の聴取直後に教員が解説したことで,その音に対する理解が「とても深まった」と回答した学生は35名(53.8%)で,全体の半数以上を占めていた.また,聴診音に関する知識の理解が「とても深まった」と回答した学生は30名(46.2%),聴診音の聞き分け技術(正常と異常の判断)についての自信が「とても深まった」と回答した学生は30名(46.2%),聴診音に関する興味や関心が「とても高まった」と回答した学生は25名(38.5%)であった.
その他の効果として,「聴診器を当てる場所がパソコンの大画面で見れるから分かりやすかった」,「聴きながら先生のコメントを見れたので理解がしやすかった」,「(正常と異常の)違いが分かりやすく,集中して聞くことが出来た」などの意見があった.
学生間のディスカッションでは,「呼吸音より心音の方が聞き取りにくいと感じた」,「心音は聞き分けるのが難しそう」という感想を述べあい,「異常がわかってもどこが異常でその音になっているのかがまだ区別できない」,「弁の位置など解剖学の復習をしないといけないと感じた」などの今後の学習課題を共有したグループもあれば,「実際の患者さんで聞いたときに判断できるか不安」,「臨床の現場で聞き分けるのは難しそうだと感じた」などの臨床での活用に向けての困難さや不安な気持ちなどを共有したグループもあった.
なお,オンラインによる方法で何らか支障を感じていることについては,ネット環境や使用機器に左右されるなどの意見もあったが,「手技などの学習を行う時は実際に患者役を立てて実践した方が良いが,本日のように聴診の判断や学習に関しては支障を感じなかった」,「特になし」など,支障を感じていないという意見もあった.
文部科学省は,「大学・高専における遠隔教育の実施に関するガイドライン」(令和5年3月28日)を大学等に示し,「新型コロナウイルスの感染拡大は,大学・高等専門学校における遠隔教育の急速な普及をもたらした」と述べたうえで,「遠隔教育の利点」として,「学生にとって自分のペースで学修できること」,「自分の選んだ場所で授業を受講できること」等を挙げ,「ポストコロナにおける高等教育の在り方を考えるに当たっては,このような遠隔教育の利点や可能性を生かした新しい高等教育の姿を構築していくことが重要である.その際,学修者本位の視点に立ち,面接か遠隔かの二分法から脱却し,双方の良さを最大限に生かした教育の可能性を追求することが重要である」との周知を行っている(文部科学省,2023).予備的調査の自由意見の中には“遠隔授業のほうが音に集中できて学びやすい”という意見や,本聴診プログラムを受けた学生の中には「違いがわかりやすく,集中して聴くことができた」という意見があったことから,自宅における学習であったことが,音を聴くことに集中でき学びやすさにつながっている可能性が考えられる.なお,「支障を感じなかった」「特になし」など,支障を感じていないという意見が得られていることから,対面授業と遜色なく効果が得られる可能性が示唆されたと考えられる.看護基礎教育において,デジタル化された生体音データをフィジカルアセスメントの遠隔授業として双方向で行った国内論文は,筆者の検索した限りでは見当たらず,本稿が初めての実践報告であると考えられる.今回の結果からは,特に呼吸音の聞き取りにおいて学習効果が期待できると考えられる.フィジカルアセスメントの中でも,「患者の生命の維持・管理に直結する呼吸音聴診は看護師に欠かせない技能」とされる(山内ら,2017).そのような呼吸音の聴診に関して有益となり得る教育内容を遠隔授業方式でプログラム化したことにより,遠隔教育の利点や可能性を生かした新しい姿の構築の端緒となるのではないかと考える.ちなみに感染防護下においても有用性が高い方法であると考えられる.
また,本研究対象者から,音を共有することで,学生間のディスカッションがしやすい方法との肯定的な評価を得ることができた.道田は,思考力を育成するためのポイントについて,「何が思考を促すか」についてのポイントを5つ挙げている.それら5つのポイントとは,「他者との対話」「経験できる場作り」「アウトプット」「知識」「教員自身の思考」で,批判的思考は「対話」と親和性が高く,授業場面における対話はさまざまな形で作りうるということを第一に挙げている(道田,2011).本結果では,学生同士の小グループでの話し合いもあれば,その全体報告を他者が聞いて考えることも対話として含めた.「先生も全く同じ音を聞いているから疑問に思ったことなどが伝わりやすい」などの意見があったように,学生と教員の間での対話を促進できるような雰囲気作りができたことも効果的だったと考える.「アウトプット」はグループワークでの意見交換であり,「知識」は当該領域についての知識である.音の聴取直後に教員が解説したことで,全体の半数以上の学生がその音に対する理解がとても深まったと回答しており,教員は学生が深い理解を伴って,能動的に,批判的に学べるように,ファシリテーターとなり関わることが必要と考える.そのためには教員自身が常に探究する姿勢をもって接することが大切と考える.
2. 本聴診プログラムの改善のための課題について本研究結果においては,心音の聴診において呼吸音の聴診に比べて困難性が示された.その理由として,正常な心音が正常な呼吸音に比べて低周波であることから,低音域での音の聴取に限界があるためと考えられる.しかし,低音域に強いイヤホンを利用するなどオンラインの利点を理解したうえで工夫して活用すれば,聴診スキルの向上に効果が期待できる.また,医学部5年生を対象に,本研究で使用したシミュレータと同じシミュレータを実習教育に用いて双方向型の遠隔授業を行った報告があり,「肺動脈弁領域の心音図を見ることで,視覚的にIIAとIIPのずれを確認でき,音の予測をしながら聴診することが可能である.音のみではなく,呼吸相と心音図を統合することでII音分裂の理解を促すことが出来た」(佐藤ら,2021)ことから,心音聴診画面と心音図も併用して,心音を可視化することで,心音の聴診がわかりやすく学べるツールになると考えられる.今後は本聴診プログラムにII音分裂もメニューに加え,心音聴診学習を促進する効果をさらに高めていきたいと考える.
本聴診プログラムでは,学生は音を聞くことに集中でき,正常音や異常音を聞き分けることと,聞き分けた音を評価し,対象者の状況を判断することに重点を置いたからか,肯定的な意見が多かった.しかし,先行研究では,技術演習については対面による演習を望む声が圧倒的に多く,技術を「理解する」ことはできても「実施する」ことに不安が残るとの報告がある(清水ら,2021).本結果からも,臨床での活用に向けての技術習得の困難さや不安な気持ち,自信のなさなどが一部の意見として確認された.生体音を画像として可視化することは,看護ケアを実施するための根拠である聴診を,自信を持って行えるようトレーニングするツールとなる可能性があると述べている(小城ら,2020).その他にも,聴診スキルの向上を目指した学習教材に関しては,Bluetooth®機能付きイヤホンを取り付けた聴診器とインターネット環境を用いたファイル形式のWeb教材の開発(吉越ら,2022)や学習者自らパソコンやスマートフォン端末を用いて学習できる双方向型Web教材の開発(山内ら,2017)などの報告があり,様々な試みや工夫がなされている.今後はDXが進む現場の中でオンライン診療(D to P with N)等にも活用可能な教育内容も実習教育等で必要とされるかもしれない.海外では学生教育にすでに遠隔診療を取り入れている大学が多数あることに対して,日本は海外よりも遠隔医療の普及が遅れていること,その理由の一つに日本のほとんどの医学部には遠隔医療に関するカリキュラムが卒前医学教育に組み込まれておらず,興味を持つ若手医師が育ちにくい環境にあるとの指摘がある(津田ら,2021).学生はCOVID-19以降,オンラインツールを用いてのコミュニケーションに慣れている面があるので,そのような面を強みとして活かしながら,プログラムのさらなる改善に努めたいと考える.
今回は,研究を兼ねた授業ということでは,学生には特別な意識を持たずに通常の授業と同じ意識で臨んでもらえるように,イヤホンやヘッドホン等の使用の有無,自宅の通信環境(Wi-Fiなど)など,学習環境について指定したり確認したりはしていない.A大学の学生は当該大学の方針により入学時に全員がPCまたはタブレットを保有することとなっているため,保有率は100%と推察されるが,個別な学習環境の相違が回答に影響を及ぼした可能性は否めない.
フィジカルアセスメントにおける聴診技能の修得のために,デジタル聴診器を用いた遠隔授業方式(大学-学生の自宅間)による聴診プログラムを作成し,それを授業の1コマに取り入れて実践した.その結果,学生からの評価により,聴診器を用いた従来の演習体験と比べて,正常な呼吸音の聞き取りにおいては1つ以外のすべての項目において「よくわかった」と回答した学生が約半数あるいはそれ以上を占めていた.副雑音との区別については「よくわかった」と回答した学生が最も多かったのは「笛音」であった.また,聴診音に関する知識の理解が深まり,聴診音の正常と異常を聞き分けることに対する自信が深まるなどの有用性が示唆された.デジタル聴診器の活用により,明瞭な音の聴取とリアルタイムに音を共有できる効果から,学生間でのディスカッションがしやすく,他者との対話がさらに深い理解を促進する可能性が考えられる.今後は,音のみではなく,視覚教材も併用して,よりわかりやすく学べるツールを工夫することが課題である.
付記:本稿の内容の一部を,日本看護研究学会第49回学術集会において発表した.また,本稿の要旨を第43回日本看護科学学会学術集会において発表した.
謝辞:本研究にご協力いただいた学生の皆様にお礼申し上げます.本研究は,所属施設における令和4~5年度の学内競争的研究費(先端研究費)の助成を受けて行いました.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:KIは研究の着想およびデザイン,演習の運営とデータ収集,データ分析と解釈,原稿の作成など,全過程を行った.TYとYUは研究デザインへの助言,演習の運営とデータ収集の補助,データ分析と解釈,原稿への助言を行った.MTは研究プロセス全体への助言,演習の運営とデータ収集の補助,データ分析と解釈,原稿への助言を行った.著者全員が最終原稿を読み承認した.