2024 年 44 巻 p. 961-969
目的:天疱瘡・類天疱瘡は希少疾患であり,中等症以上の患者はステロイド内服を主とした入院治療を要し,身体面に限らず様々な影響を受ける可能性がある.本研究では,中等症以上の天疱瘡・類天疱瘡患者が発症後から治療と生活していく中での認識を明らかにする.
方法:中等症以上の天疱瘡・類天疱瘡患者15名に半構造化面接を行い,質的記述的に分析した.
結果:研究参加者の治療と生活する中での認識として【日常生活への支障】【難治性の病により先行きが不透明】【治療と社会活動の両立による辛さ】【療養生活を契機とした前向きな気づき】の4つのカテゴリーが導かれた.
結論:天疱瘡・類天疱瘡患者は,難病であること及び治療の特性により,心身のダメージを経験するだけでなく,病と共存する過程で自ら前向きな気づきを獲得していた.それには,周囲の理解が必要となることが示唆された.
Objective: Pemphigus and pemphigoid are rare diseases. Patients with moderate-to-severe symptoms require hospital treatment, primarily involving systemic steroids, and may be affected in various ways, not just physically. The aim of this study was to clarify the perceptions of patients with moderate-to-severe pemphigus and pemphigoid as they undergo treatment and continue with their lives.
Methods: Semi-structured interviews were conducted with 15 patients with moderate-to-severe pemphigus and pemphigoid, and a qualitative, descriptive analysis was performed.
Results: The participants’ perceptions during their treatment and daily life were classified into four categories: interference with daily life, uncertainty due to the refractory nature of the disease, difficulty balancing treatment and social activities, and positive self-awareness triggered by their recuperation.
Conclusion: Patients with pemphigus and pemphigoid experienced physical and mental adverse effects of the incurable disease and its treatment; however, while living with the disease, they gained positive self-awareness. This suggests that understanding from surrounding individuals is necessary for patients.
天疱瘡・類天疱瘡は皮膚,粘膜に水疱や糜爛が形成される自己免疫性疾患であり,天疱瘡の患者数は約6,000人,類天疱瘡の患者数は天疱瘡の約3~5倍と推定されており,どちらも厚生労働省指定難病とされる希少疾患である.天疱瘡患者の発症年齢は50歳代が最も多く,一方で類天疱瘡患者は70歳代後半以上の高齢者に多いとされている(難病情報センター,2015).自己免疫性疾患であることにより,抗体産生を抑制するためのステロイド内服療法が主体となり,加えて感染予防と糜爛面の保護,上皮化促進のための外用療法を併用する(天谷ら,2010).中等症以上の天疱瘡・類天疱瘡患者は,高用量のステロイド内服療法を要するため,1~2ヶ月の長期入院を要することがほとんどである.またステロイド治療効果が不十分と判断した場合には,免疫抑制剤,大量γグロブリン療法,血漿交換療法,ステロイドパルス療法等の追加治療が検討される.
先行研究において,天疱瘡・類天疱瘡患者は,頭部から足先まで広範囲にわたる水疱形成により疼痛及び掻痒感による苦痛の持続,半永久的にステロイドを内服し再燃と寛解を繰り返すことによる不安,長期にわたる治療により仕事や生活の中断が強いられる,など身体的,心理的,社会的にも影響を受けている(種村ら,2022)と言われている.身体症状の緩和やスキンケアなどに特化した局所的ケアだけでなく,体表に現れることからボディイメージの変容に対する支援やステロイド投与による心身の副作用に対する支援など全人的なケアの必要性を示唆している(梶西,2017;中浦,2004).一方で,これらは闘病記や患者会誌から患者のニーズを抽出しているものが多く,患者がどのように治療と生活をしているのか,患者の視点から捉えた研究は見当たらない.他方では,尋常性天疱瘡とQuality of Life(以下QOL)に関する先行研究において,重症度が高い患者の方がQOLは低い(Ghodsi et al., 2012)との結果がある.特に重症度の高い天疱瘡・類天疱瘡患者は様々な苦痛を抱えていると考えるが,患者数が少ないためか,重症度の高い患者を対象とした看護ケアに関する先行研究はみうけられない.そこで,本研究は,中等症以上の天疱瘡・類天疱瘡患者にインタビュー調査を通して,発症後から治療と生活をしていく中での認識を明らかにする.
本研究では中等症以上の天疱瘡・類天疱瘡患者が,発症後からの生活と治療に対してどのような認識をしているのかについて明らかにする.
中等症:天疱瘡重症度判定基準および類天疱瘡重症度判定基準に従いスコアを算定し重症度を判定する.また国際基準として用いられているPDAI(Pemphigus Disease Activity Index),BPDAI(Bullous Pemphigoid Disease Area Index)に準じ重症度判定基準を併設している(天谷ら,2010).なお,本研究の中等症患者とは,これらの基準に基づき主治医が重症度を判定した.
治療と生活における認識:発症から現在に至るまでの病気及び治療に伴う生活状況の変化と,その変化によって生じた思いや気づき
本研究は,患者がどのように治療と生活をしているのか,患者の視点から理解するために質的記述的研究を用いた.
2. 調査期間2022年10月~2023年5月
3. 研究参加者本研究は,天疱瘡・類天疱瘡の中等症以上の診断を受け,入院加療の経験がある都内大学病院の皮膚科外来に通院中の患者を研究参加者とした.選択基準は,20歳以上の者,自分の考えや日常生活の体験について語ることができ,意識・認知機能に障害がない者とした.また天疱瘡・類天疱瘡の初発,再発は問わないこととした.
4. データ収集方法予め選択基準に基づいて研究者が研究依頼候補者を選定し,主治医の承諾を得た研究依頼候補者に対して,外来受診時に医師からリクルートを行った.外来終了後,許可が得られた研究参加者に対して,自由に語ることができ,プライバシーが保てる外来の面談室を用いて対面にて実施した.回数は研究参加者1名につき1回とし,研究参加者の身体的・心理的な負担を考慮して,所要時間は約30分程度とした.研究者が本研究について詳細な説明を行い,同意取得後に事前に,カルテを閲覧し,年齢,現病歴・治療経過,既往歴,退院後の療養環境の情報を収集した.インタビューの日程は,研究参加者と相談して,当日もしくは後日で研究参加者の都合のよい日として実施した.以下のインタビューガイドに沿って,半構造化面接法を用いたインタビューを行うことで,研究参加者に発症から現在に至るまでの療養生活を振り返ってもらい,治療と生活をどのように認識をしているのか語ってもらった.なお,インタビューガイドの開発過程では,事前に天疱瘡・類天疱瘡患者に対する看護の経験を有する病院に勤務する看護師15名と共にディスカッションを行った.そこでは患者との関わりを通して考えていることを自由に出し合い,インタビューガイドの構成に生かした.
インタビューガイド
①これまでの自分の生活から変化したことがあるかと思いますが,まず,入院中の生活を振り返って,困ったことや気づいたことなど,どのような思いで過ごしていましたか.
②入院中によかったことはありますか.
③入院前,治療が開始されるまでの生活はどうでしたか.
④入院治療を終えて,退院後,自宅での生活はどうでしたか.困ったことや気づいたことはありますか.
⑤退院後,自宅での療養生活を通して嬉しかったことや役立ったことはありますか.
インタビュー内容は,対象者の許可を得た上で,ICレコーダーに録音し,研究者自身と一部反訳業者に依頼して逐語録を起こした.その際,個人情報の保護と守秘義務が管理されている業者を選択した.
5. データ分析方法ICレコーダーに録音したデータを逐語録に起こし,質的にデータを分析した.手順は次の通りである.1)逐語録に起こしたデータを繰り返し読むことで,研究参加者の治療や生活における認識を把握した.2)逐語録から研究目的に基づき,意味の単位で切片化した.3)1つ1つに意味内容を表すコードを付した.4)類似したコードを統合し,内容の意味を解釈し,サブカテゴリーをつけた.5)それぞれのサブカテゴリー,コード,データの全体を繰り返し見直し,概念的なまとまりをつくり,意味を解釈してカテゴリーをつけた.最後に各カテゴリーとデータに飛躍がないか,研究者らは検討を行い,研究者の間で合意が得られるまで分析を続け,最終的な結果をまとめた.
分析の過程では,まず3名のインタビューを終えた時点で,研究者間で逐語録を見直し,インタビューとデータの質を確認した.計5名のインタビューを終えた時点から分析を開始した.計8名,計11名,計15名の分析を終えた時点でそれぞれ,研究者間でデータとコードは合致しているか,データとサブカテゴリー及びカテゴリーは飛躍していないか検討を行った.
計15名の分析を終えた時点で,新たなカテゴリーは生成されないことを認め,データの飽和と判断したため,データ収集および分析を終了した.また,本研究の参加者の中には仕事をしている人が多く,スケジュール調整が難しい,あるいは,高齢で病院には家族の付き添いが必要な場合があり,研究参加者と家族の負担等を考慮して,メンバーチェッキングは実施しなかった.
6. 倫理的配慮本研究は慶應義塾大学医学部倫理委員会の承認(承認番号:20221076)を得て実施した.倫理審査委員会で承認の得られた同意説明文書を患者に渡し,文書及び口頭による十分な説明を行い,対象者の自由意思による同意を文書で得た.得られたデータは,逐語録が作成される時点で研究用のカルテIDとの規則性を有さない識別コードを付与し,匿名化,符号化を厳守して,個人情報の漏出を予防した.
天疱瘡8名,類天疱瘡7名の計15名にインタビューを行った.インタビュー時間は平均29分(17~50分).年齢は平均65.2歳(34~85歳),男性7名,女性8名で,発症からの期間は1~31年であった.
性別 | 年代 | 診断名 | 発症年 | ステロイド以外の主治療 | |
---|---|---|---|---|---|
A | 男 | 80代 | 水疱性類天疱瘡 | 2020年 | 大量γグロブリン療法 |
B | 男 | 70代 | 水疱性類天疱瘡 | 2018年 | アザチオプリン内服,大量γグロブリン療法,ステロイドパルス療法 |
C | 女 | 80代 | 粘膜類天疱瘡 | 2021年 | アザチオプリン内服 |
D | 女 | 30代 | 落葉状天疱瘡 | 2020年 | アザチオプリン内服,大量γグロブリン療法,血漿交換療法 |
E | 女 | 50代 | 尋常性天疱瘡 | 1992年 | アザチオプリン内服,大量γグロブリン療法,ステロイドパルス療法,血漿交換療法 |
F | 男 | 70代 | 落葉状天疱瘡 | 2021年 | アザチオプリン内服 |
G | 女 | 50代 | 落葉状天疱瘡 | 2022年 | アザチオプリン内服 |
H | 女 | 60代 | 尋常性天疱瘡 | 2018年 | アザチオプリン内服,大量γグロブリン療法,ステロイドパルス療法,血漿交換療法 |
I | 女 | 40代 | 粘膜類天疱瘡 | 2020年 | アザチオプリン内服 |
J | 男 | 80代 | 粘膜類天疱瘡 | 2009年 | シクロスポリン内服,シクロホスファミド投与 |
K | 女 | 70代 | 尋常性天疱瘡 | 2012年 | シクロスポリン内服 |
L | 男 | 50代 | 落葉状天疱瘡 | 2018年 | 大量γグロブリン療法,ステロイドパルス療法,血漿交換療法,シクロホスファミド投与,リツキシマブ投与 |
M | 男 | 80代 | 水疱性類天疱瘡 | 2022年 | 大量γグロブリン療法 |
N | 女 | 50代 | 落葉状天疱瘡 | 2021年 | 大量γグロブリン療法,ステロイドパルス療法,血漿交換療法,リツキシマブ投与 |
O | 男 | 60代 | 粘膜類天疱瘡 | 2018年 | シクロホスファミド投与 |
分析の結果,治療と生活における認識として,12サブカテゴリー,4カテゴリーが生成された.サブカテゴリーは〈 〉,カテゴリーは【 】で示した.
カテゴリー | サブカテゴリー |
---|---|
日常生活への支障 | 水疱や糜爛に伴う痛み |
治療に伴う身体機能低下 | |
難治性の病により先行きが不透明 | 不確かな状況における不安や恐怖 |
再燃と寛解を繰り返す中での葛藤 | |
治療と社会活動の両立による辛さ | 副作用予防のためのやむを得ない行動制限 |
ステロイドの副作用による心身のダメージの自覚 | |
ボディイメージの変容 | |
孤独感 | |
療養生活を契機とした前向きな気づき | 周りへのオープンな態度による肯定的な反応 |
病を契機とした健康における好転 | |
療養生活から得た発見や知恵 | |
ピアによる心の支え |
研究参加者は,全身の水疱や糜爛,粘膜病変により生じる疼痛や不快感などの症状によって,耐え難い苦痛を抱え,食事,更衣などの日常生活動作や睡眠が阻害されていた.主となる治療がステロイド投与であり,中等症以上の患者においては,プレドニゾロン1.0 mg/kg/日を標準量として投与が行われ,効果判定やステロイドの漸減などに時間を要するため入院は長期に及んだ.症状だけでなく,治療による二次的な弊害として体力や筋力の低下が顕在化して,入院中と比較して活動量の増える退院後の生活に支障をきたしていた.
(1) 〈水疱や糜爛に伴う痛み〉研究参加者は,特に発症初期には,全身に生じる水疱や糜爛,粘膜病変による疼痛によって,睡眠,更衣,食事などの日常生活に支障をきたしていた.身体症状に対して二次感染を予防するため,皮膚の洗浄や軟膏塗布などの創処置をほぼ毎日要するが,創処置時にも,洗浄時の水圧や貼付されたガーゼを交換する刺激で,強い疼痛を感じていた.また,症状の発現部位が口腔内など,限局的であっても,全身に症状がある場合と同様に,口腔内の疼痛によって食事摂取や歯磨きなど日常生活動作が困難になるほどの苦痛を抱えていた.さらに,身体的苦痛は発症初期ならず,治療効果が感じられ,全身の糜爛や水疱が痂皮化した後であっても,掻痒感や不快感などの症状が出現し,身体的な苦痛を抱えていた.
「そのうち,わーって全体的に出ちゃって.寝るのもつらいぐらい痛くて.[D氏]」
「破裂した水疱の,そういう(部位に)下着がくっついちゃって,バリバリみたいな.[G氏]」
「歯茎から急に血が出たりとか,ひどい時はうどんの汁がしみるとかって,ちょっとしんどい.[I氏]」
(2) 〈治療に伴う身体機能低下〉研究参加者は,高用量のステロイド投与により,筋力や体力の低下を実感していることが明らかになった.入院中は限られた活動量により,治療に伴って起こる自分自身の身体機能低下について気がつきにくい傾向にあった.しかし,退院後,入院前と同様の日常生活を送る中で,階段昇降や長距離歩行に困難感を感じる,転倒するなどの経験をすることによって,身体機能低下を実感していた.この経験は高齢者の研究参加者だけでなく,40~50歳代の壮年期の研究参加者からも同様の体験が語られ,対象者の年代を問わずに,治療に伴う身体機能低下により日常生活へ支障をきたしていることが明らかになった.
「退院してから1ヶ月くらいは家でトイレしか行けなかったんです.[A氏]」
さらに多くの研究参加者は,身体機能低下を経験することで,入院中からの身体状況に応じたリハビリの必要性を感じていた.
「たぶん若いから自分でなんとかするんだろうって思われてるのか,いざ帰ってきた時に体力全然なくなってて.あれ?って.[D氏]」
2) 【難治性の病により先行きが不透明】希少疾患であることにより,発症から診断がつき,治療が開始されるまでに時間を要した研究参加者は複数いた.そのため症状が遷延することで,自分自身に何が起きているのか分からない不確かな状況に置かれ,不安や恐怖を感じていた.ようやく診断された後は,今まで聞いたことない病名や治療法,また周囲に同様の疾患をもつ者がいないことから,新たな不安や恐怖を抱えていた.さらに治療開始後は,再燃と寛解を繰り返し,治療の終わりが見えないことや治療の効果が得られないことによって,治療を続けていくことへの葛藤を抱えていた.
(1) 〈不確かな状況における不安や恐怖〉研究参加者は,初診で診断がつかずに,治療が開始されるまでに病院を転々としている場合が多く,耐え難い身体症状を抱えながら,自分自身に何が起きているのか分からない恐怖を感じていた.診断がついた後は,聞きなじみのない病名や治療法から療養生活のイメージがわかずに先行きの見えない不安を抱えていた.また,難病指定されているなど病について知ることによって,具体的なイメージはわかないものの,重大なことが自分の身体に起きているのではないかといった不確かな状況に置かれていた.
「病名が分からないけれども,これはなんか死にそうな感じがするなって,身体がおかしいっていうのがあったんで.早くこの病気が見つかればいいなって思って.どうしてこうなっちゃったんだろうと思って.[H氏]」
「そんなにすごい病気だと思ってなかったから.あんまり聞いたこともなかったから.[B氏]」
(2) 〈再燃と寛解を繰り返す中での葛藤〉研究参加者は,不確かな状況下で治療を開始し,再燃と寛解を経験する.再燃期には,治療効果がでないことに焦り,治療への不安や意欲の喪失を経験していた.寛解期には,寛解を維持することに切望しながら,いつまで治療を続けていくのかゴールの見えない療養生活への不安や,いつか再燃するのではないかといった恐れから,治療を続けていくことに葛藤を抱えていた.
「薬でおさえて,気がついたらまた増えてっていうのを繰り返していくのかなって.なんか先が見えない.[N氏]」
「思ったように治っていかないって,割と短いスパンで繰り返したので,余計不安ですよね,もうちょっと長いこと安定期があれば.[K氏]」
3) 【治療と社会活動の両立による辛さ】研究参加者は,療養生活を送る中で様々な制限や心身のダメージを経験し,これまでの人付き合いや家族の中の役割,就労の仕方などの社会活動に支障をきたし,変容を強いられていた.療養生活を送る中での辛さを周りに理解してもらいたいと思う一方で,実際に経験したことのない他者へ理解してもらうことはできないという諦めや,理解してもらえない辛さを抱えていた.
(1) 〈副作用予防のためのやむを得ない行動制限〉研究参加者は,ステロイド投与に伴い,感染予防の必要性を生じている.治療上の副作用を予防するために感染予防行動を十分に実践したいという思いから,患者は,他者と直接会って交流することに対して抵抗を感じ,他者との付き合いを制限していた.
「感染に一番注意しなければならないので,なるべく外出をしないように生活をしています.[H氏]」
「感染とか怖いので(人と会う事を)遠慮しとこうと思う.[I氏]」
(2) 〈ステロイドの副作用による心身のダメージの自覚〉研究参加者は,これまで行ってきた仕事や家事,介護などに負担を感じることで,ステロイド投与による体力や筋力の低下を痛感していた.負担を軽減するために,周りの協力を得ることができる状況下であっても,自分自身が本来の力を発揮できないことに辛さを抱えていた.
「足は上がらない,胸は苦しい,はあはあっていってって,相当ダメージを受けてんだなっていうのを,ちょっとショックでした.[K氏]」
「職場にフルで働けないというか,テレワークとか組んでもらってたんですけど,ちょっと忙しくて,最近それも難しいので,出勤はしてるんですけど.やっぱりちょっと疲れちゃうし.[I氏]」
(3) 〈ボディイメージの変容〉研究参加者は,口腔内病変や顔の糜爛など,衣服などで隠すことが困難な場所に顕著に症状が現れている場合に,他者にみられるのが恥ずかしい,容姿が病であると再認識させ悲しくなるなど,自分の身体に対してネガティブなイメージをもっていた.またステロイドの副作用として生じるムーンフェイスによっても,同様のボディイメージの変容が生じていた.
「歯茎がずっと腫れてて真っ赤で,口開けるのとかも恥ずかしかった.[I氏]」
「ムーンフェイスとかで顔がすごく膨らんだ顔になったとかもあったし.なので自分がすごく病気的な顔になるのが見た目的に,メンタル面で言えばそれが一番きつかったかな.[N氏]」
(4) 〈孤独感〉研究参加者は,病や治療によって生じている障害や困難感について理解されたいと思う一方で,理解されないことに対して諦めを感じていた.他者へ病について伝えても,希少疾患であることから相手が具体的なイメージがつかないのではないか,疾患そのものだけでなく治療に伴う副作用の辛さまでは想像できないのではないかなどの思いから,他者へ理解を求めることをせず,孤独感を抱いていた.
「頭にちょっとでてるくらいです.だからそういう点では,本当にそんな難しい病気なのって言われることもあるぐらいです.[G氏]」
「副作用のことは多分理解はされないですよね.それは飲んだことのある人じゃなきゃ分かんない.[E氏]」
「見られたくないのと,見て,もうちょっとやさしくしてよって思うのもわがままだなと思ったりして.[I氏]」
4) 【療養生活を契機とした前向きな気づき】研究参加者は,療養生活を契機とし,健康増進への意欲や知恵の獲得を経験していた.様々な苦痛や困難感を経験しながら,同時に,自分自身の身体や健康について見直すきっかけを得ていたり,病と付き合っていく上で必要な工夫を見出したりすることで,成功体験を得ていることも明らかになった.
(1) 〈周りへのオープンな態度による肯定的な反応〉研究参加者は病について他者へ打ち明け,オープンな態度を示すことによって,職場や友人の理解を得られることができ,周囲の配慮や協力によって,無理なく療養生活を送ることができるようになっていた.特に仕事では,周りの理解によって,体力面で負荷のかからない業務を調整してもらったり,通院や入院を受け入れてもらえる環境があったりすることで,病と付き合いながら社会生活を送る上での不安を払拭することにつながっていた.
「びっくりはしてて.でも治療しないと治らないことには理解していただいて.仕事よりも身体を治すことの方が大事だよって言ってもらえたのでよかった.[I氏]」
「みんなが受け入れてくれているから,特にそこまで弱み,職場で不安っていうのはない.[D氏]」
(2) 〈病を契機とした健康における好転〉研究参加者は,病によって自分の身体と向き合い,自身の健康について考え,見つめ直す機会を得ていた.発症前には獲得していなかった健康増進への意欲や自分なりの工夫を,自ら発見することで前向きな気持ちをもっていた.
「自分の身体の事だからね.この年になってようやく食生活を考えられるようになりました.今回のこの病気を境にね.[C氏]」
「本当健康だったら,いいや吸っちゃえっていうのってあったかもというのがありますけれども,それぐらいですかね,たばこ,頑張れてるっていうことと.[G氏]」
(3) 〈療養生活から得た発見や知恵〉研究参加者は病とともに生活することを通して,自らのセルフケア方法を確立し,筋力低下を予防する運動法や症状を悪化させないための食事形態の工夫など,病と付き合っていく上での知恵や工夫を発見していた.また療養生活から得た発見や知恵を実践することで,イメージのつかない未知な療養を送る中での支えや不安の軽減につながっていた.
「やっぱり足が弱ってしまうので,大体30分ぐらいは歩いたりとかしてますね.あと骨密度体操を自分でやってます.[H氏]」
「何でも砕いちゃって流し込むっていう食事を心がけてたので,食べることに関しては初めて病気になった時よりかは心配なかった.[E氏]」
(4) 〈ピアによる心の支え〉研究参加者は,希少疾患であり,自分自身で簡単に療養に関する情報を手にすることができない状況にある.そのため,治療と日常生活の両立のための工夫や副作用への対処方法など,実際に同じ体験をしている人がどのような生活を送っているのか情報へのニーズを抱えていた.また同じような体験をしている人と単なる情報共有にとどまらず,お互いに共感し,励まし合うことによって,治療への意欲が向上したり前向きな気持ちになったりしていた.
「ステロイドであがったり,気持ちがうつになっちゃったりとかするっていうのを聞いてたから,何かおかしいのかなと思ったけど,別におかしくないというか,みんなそうやって気持ちを紛らわしているから大丈夫って言ってくれたのがよかった.[I氏]」
「やっぱりお互い励ませるってこと,必ずよくなるよとかっていう会話なんかもできますからね.[G氏]」
本研究では,中等症以上の天疱瘡・類天疱瘡患者が,診断のつかない発症初期から,入院治療,外来通院を経るまでの治療と生活に対して,どのような認識をしているのかについて明らかにした.その結果,【日常生活への支障】【難治性の病により先行きが不透明】【治療と社会活動の両立による辛さ】【療養生活を契機とした前向きな気づき】という4つのカテゴリーが導かれた.
まず,天疱瘡・類天疱瘡患者は,治療と生活の中で,【日常生活への支障】をきたしていたことが明らかになった.発症初期の全身の糜爛や水疱,粘膜病変による強い痛みは,睡眠,更衣,食事など日常生活行動を阻害し,また発症初期に重要になる二次感染予防を目的とした創処置は,さらに強い痛みをもたらしていた.これらの痛みは,ステロイド投与などの治療開始後に緩和されていく.一方で先行研究によれば,天疱瘡・類天疱瘡の治療としてのステロイドの慢性投与は,筋萎縮作用を起こすことが報告されている.また筋萎縮によって,QOLや死亡率に影響を及ぼすことはすでに知られている(Noormohammadi et al., 2023;Ringseis et al., 2013;Macedo et al., 2013).天疱瘡・類天疱瘡患者を対象とした筋萎縮作用と患者のQOLに関する研究は少ないが,本研究では,年齢にかかわらず,ほぼすべての研究参加者が,退院後に筋力・体力の低下を実感し,日常生活に支障をきたしていた.本研究は中等症以上を対象とした研究であり,研究参加者全員が高用量のステロイドの投与経験があったことで,身体機能の低下を実感したと考える.また,入院中は病室や病棟での限られた活動により気がつかなかった身体機能の低下を,社会生活を送ることで活動量が増える退院後に実感している.入院中に身体機能の低下を実感していなくとも,年齢にかかわらず早期からの予防的介入を検討することが望ましいと考える.
また身体的な側面だけでなく,先行研究ですでに,天疱瘡患者の診断時の感情として,47%以上が混乱,30%以上が悲しみと恐怖を感じるなど,重大な診断名がつくことによって,多くの患者が否定的な感情を抱いていることが報告されている(Sampogna et al., 2023)ように,本研究参加者も同様に,【難治性の病により先行きが不透明】な状況に置かれ,心理的な苦痛を抱えていた.これは患者が診断を受けることによって,重大なことが自分自身の身体に起きていることを知り,これからの生活を想像して,今までの自分の生活が病によって喪失してしまうかもしれないといった予期やそれに対する逃避から発生していると考える.この感情は治療を開始し,再燃と寛解を繰り返す過程の中でも,同様の予期や逃避がなされ,否定的な感情が発生していると推察される.また,本研究参加者の多くは,希少疾患であることから,1度で診断がつかず,いくつかの病院を経てやっと診断がついた場合も多く,発症初期から診断がつくまでにも,身体的な強い痛みとともに,自分の身体で何が起きているのか分からない不確かな状況に陥っていた.治療開始初期から,こうした心理状況を踏まえたサポートを行っていく必要がある.
さらに患者は,このような身体的・心理的な苦痛を持ちながら,社会生活を送る中で,【治療と社会活動の両立による辛さ】を抱えていた.同じ慢性皮膚疾患であり,自己免疫疾患でもある乾癬と診断された患者を対象とした先行研究でも,病が社会活動に深刻な影響を及ぼすことが報告されており,天疱瘡・類天疱瘡患者と類似しているといえる.乾癬患者が対人関係に影響を及ぼしている要因として報告されているものは,体表に現れる症状を人に見られることが恥ずかしい,皮膚のかゆみや痛みにより活動が妨げられる,などといった皮膚症状に伴うアピアランスの問題や症状そのものによる生産性の低下による社会活動の影響がほとんどであった(Ljosaa et al., 2020;Ou et al., 2024;Sampogna et al., 2012).本研究参加者にも同様の要因から社会活動への影響がみられたが,症状が活発な時に限らず,皮膚や粘膜症状が落ち着いている寛解期にも,社会活動に影響を及ぼしていることが特徴的であった.先に述べた身体機能低下などを含む治療の副作用による身体的な負担によって,本来の自分の力が発揮できず,職場や家庭での従来の役割を果たせない辛さを抱えている.自己免疫性水疱症患者の仕事の生産性の低下は,QOLの低下に関与していることがすでに報告がされており(Wang et al., 2018),これまで担うことができていた役割を果たせないことによって,患者は,例え目に見える皮膚や粘膜症状が落ち着いていても,病である自分を再認識させられ,喪失感や自己肯定感の低下といった心身のダメージを受けていると考える.そしてこのようなダメージを抱えた研究参加者は,他者には自分の辛さは理解しがたいという孤独を抱えていた.自身が診断された時に療養生活のイメージがつかなかったように,他者も療養のイメージがつかずに,どのような辛さなのかを理解することは難しいのではないかという思いや,そもそも親密な関係を築くことができていない職場や友人などの相手には十分に自身のことを開示できないことによって,理解されることは難しく,孤独感が強まるのかもしれない.
一方で研究参加者の中には,職場や友人,家族など周りの人たちに病について語り,自己開示をすることによって,療養生活を送る中で周囲からのサポートを受け,【療養生活を契機とした前向きな気づき】を獲得している場合があった.そのような場合では,病をきっかけとした体験を通して,病との付き合い方や療養生活を送る上での工夫,さらには健康増進への意欲も獲得し,健康が脅かされる危機に直面する状況であっても,今後病とどう生きていくのか肯定的に考えることができていた.研究参加者の中には,診断がついた時には「そんなにすごい病気だと思ってなかったから,あんまり聞いたこともなかったから」と戸惑いを感じていたが,療養生活を通して,「自分の病気なんだから負担というよりあきらめるかしかない」と病である自分,病が自分に及ぼす変化を受け入れていた.そして,変化を受け入れたことによって,従来の食生活を見直すなど自身の健康について見つめ直すことができていた.先行研究でも病勢が落ち着き,ステロイドの用量が減ることにより前向きな気持ちが増えることが報告されている(中浦,2004)が,本研究参加者は,職場や友人など周囲の人たちに病について積極的に開示したことによって,周囲の人たちが病による患者の変化を理解し,自分自身が周りに受け入れられている環境を得ていたことも前向きな気持ちに転換した要因の1つであるといえる.天疱瘡患者における周囲の人やピアにおける理解,サポートにおける研究は報告されていないが,慢性皮膚疾患を対象とした研究では,友人や家族などの社会的なサポートが得られることによって,心理的なストレスの緩和や病を受容する過程の手助けとなることが報告されている(Siddiqui, 2023).本研究参加者は,病によって変化をきたしている自分を,周囲の人たちに理解されることによって自分自身であると受け入れることができ,その結果,前向きな気づきが獲得できたと考える.また,研究参加者の中にはピアの存在によって,同様の体験をしている者がいることを知り,お互いに励まし合う中で,自分自身の変化が特別なものではなく,乗り越えられる体験であると気がつくことができていた.療養生活の中で生じる困難感や苦しみを乗り越えるためには,周囲の理解やピアサポートなどのコミュニティが助けになるだろう.
本研究は希少疾患であることから研究対象候補者が少なく,30~80歳代まで幅広い年代の認識を同様にデータ分析した.働き盛りであり家庭でも役割を担う年代と高齢者では,治療と生活における認識に差が生じ,分析結果に影響を及ぼしたかもしれない.また,今回は研究参加者の初発と再発の区別はしなかった.初発での入院治療を経た認識と,再発により再び入院治療を行った患者の認識は異なることが予想され,それぞれの治療と生活における認識について検討が必要と考える.
天疱瘡・類天疱瘡患者は,発症初期には診断がつかず遷延する症状によって,日常生活に支障をきたす身体的な痛みを生じながら,不安や恐怖といった不確かな状況に置かれていた.治療が開始されてからは,今までの就労や家庭での役割に一時中断が強いられることで,孤独感や自己肯定感の低下といった心身のダメージを受けていた.一方で治療と社会活動を両立できるように,療養生活を送りながら生活の知恵や工夫を獲得し,その過程の中で,健康増進への意欲といった意識の変容など前向きな変化もみられた.またこれには,周囲の理解やピアの存在が支えとなっていたことが示唆された.
付記:本研究結果の一部は,第54回日本看護学会学術集会(横浜)にて口頭発表を行っている.
謝辞・研究助成:本研究の実施にあたり,ご協力いただいた患者の皆さまに心より感謝申し上げます.また,研究協力依頼にご協力いただいた慶應義塾大学医学部 高橋勇人医師,朝比奈泰彦医師には,謹んで感謝の意を表します.さらに,本研究の推進にあたりご支援下さった慶應義塾大学病院看護部長 加藤恵里子様に深く感謝申し上げます.本研究は2022年度慶應義塾大学学事振興資金の助成を受けたものである.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:MGは研究着想,データ収集,分析,考察の研究プロセス全体に貢献した.KYは研究着想,データ分析,考察に貢献した.SI,MS,RSはデータ収集,分析に貢献した.KHは,データ分析に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.