日本看護科学会誌
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原著
新卒看護師の社会人基礎力・倫理的行動とリアリティショックとの関連
岩永 理奈小山田 恭子
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2024 年 44 巻 p. 983-993

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Abstract

目的:新卒看護師の社会人基礎力と倫理的行動がリアリティショックにどの程度影響を与えるのかを明らかにすることである.

方法:2022年4月に入職した新卒看護師を対象に質問紙調査を実施し,社会人基礎力,倫理的行動とリアリティショックの関連を探索するために共分散構造分析を行った.

結果:調査票1,295部を送付した結果,有効回答数240名(有効回答率18.5%)だった.社会人基礎力,倫理的行動,リアリティショックの関係は,社会人基礎力と倫理的行動は関係があり(β = 0.60, p < 0.001),社会人基礎力が高いとリアリティショックのポジティブ因子が高くなり(β = 0.55, p < 0.001)ネガティブ因子は低くなる(β = –0.81, p < 0.001).

結論:倫理的行動とリアリティショックの間に直接的な関連は確認されなかったが,社会人基礎力が向上するとリアリティショックが軽減することが示唆された.

Translated Abstract

Objective: To determine the extent to which the basic work-related skills and ethical behavior of new graduate nurses influence their reality shock.

Methods: An anonymous self-administered questionnaire survey was conducted of new graduate nurses who started working in April 2022. A structural equation modeling was used to analyze the relationship among the basic work-related skills, ethical behavior, and reality shock of new graduate nurses.

Results: Of the 1295 questionnaires sent, 240 (18.5%) valid responses were obtained. There was a significant relationship between basic work-related skills and ethical behavior (β = 0.60, p < 0.001). When the number of basic work-related skills were high, the positive factor of reality shock significantly increased (β = 0.55, p < 0.001) whereas the negative factor of reality shock significantly decreased (β = –0.81, p < 0.001).

Conclusion: Although no direct correlation was confirmed between ethical behavior and reality shock, reality shock might be reduced if the number of basic work-related skills are high.

Ⅰ. 緒言

2010年4月に新卒看護師の早期離職防止として,新人看護職員研修が努力義務化された.しかし,離職率の低下は一時的であり,2011年から2018年までは7.5から7.8%で推移したが,その後2019年は8.6%,2021年は10.3%と増加傾向を示し(日本看護協会,2020日本看護協会,2022),2022年も10.2%と,新卒看護師の離職率は高止まり傾向にある(日本看護協会,2024).また,新型コロナウイルス感染症流行前と流行下の新卒看護師を比べて,流行下の新卒看護師は,コミュニケーションに対する困難感の増強や対面交流減少に伴う相互扶助の関係性の希薄化などを経験していることが示唆された(遠藤ら,2023).こうした状況から,近年の新卒看護師の特徴を踏まえた支援が必要である.

新卒看護師の離職要因の一つとしてリアリティショックが挙げられる(内野・島田,2015).リアリティショックとは,「認識,経験,そして看護師の集団によって共有されたものに関する,新卒看護師の期待値と現実のギャップによる特定のショック反応」である(Kramer, 1974).先行研究によれば,新卒看護師の約65%はリアリティショックを経験し(水田,2004a),その影響要因としては病床の種類,希望する病棟に配属されたかどうか(Kim & Yeo, 2019),プリセプターからの支援の有無(水田,2004a谷口ら,2014),修了した看護基礎教育課程の違い(加藤・香月,2019)が報告されている.リアリティショックの原因はさまざまであるが,就職して3か月後の新卒看護師は,特に看護実践能力と精神的要因に対してショック反応を示すことが報告されている(平賀・布施,2007).そして,精神的要因については,職場の人間関係の難しさが最も関係していることが指摘されている(Kim & Yeo, 2019水田,2004b).また岡本(2015)は,新卒看護師にとって,看護実践に関するギャップよりも,職場の人間関係に関するギャップの方が職場適応に大きな影響を与える可能性を論じている.以上より,新卒看護師のリアリティショックの主要因は,職場の人間関係である可能性が推測されるが,先行研究でエビデンスに基づく対策については十分に検討されていない.

職場の人間関係によるリアリティショックへの対策に関連して,水田(2004a)は,新卒看護師が分からないことを質問し,自分の意見を適切に表現しながら,職場の人間関係を円滑に調整し多様なケアに対応する力を獲得する必要性を主張している.そして,自分の意見を適切に表現して職場の人間関係を調整する力は,経済産業省が提言した社会人基礎力の一部と考えることができる.社会人基礎力とは,2006年に経済産業省(2017)が「職場や社会地域で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として提唱した概念で,「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力で構成される.北島ら(2011)は,社会人基礎力の育成は新卒看護師の組織社会化,職場適応の促進,リアリティショックの軽減に寄与することが期待できると述べている.しかしながら,先行研究ではリアリティショックと社会人基礎力の直接的な因果関係を示す研究は無く,この関係性を検証する研究が必要である.

看護師の社会人基礎力に関して,箕浦・高橋(2018)は,看護職には絶えず倫理的行動が必要になるとして,社会人基礎力の要素に〈倫理〉を加えることを主張した.また,奥田・深田(2019)は看護学生の社会人基礎力と倫理的な看護実践との間に関連がある可能性を指摘している.さらに,新卒看護師が患者に最善のケアを提供できない状況,つまり倫理的な看護実践ができない状況がリアリティショックに影響することも報告されている(水田,2004aBaldwin et al., 2021).換言すると,新卒看護師が社会人基礎力を向上させ,看護実践において倫理的に行動出来る状況は,リアリティショックを軽減する可能性があるといえる.

以上のことから,新卒看護師の社会人基礎力と倫理的行動は関連があり,これらはリアリティショックを軽減する関連因子であると推測した.これらの関係性を明らかにすることは,新卒看護師のリアリティショックを軽減するための具体的な支援や新卒看護師のキャリア継続に寄与すると考えた.

Ⅱ. 研究目的

新卒看護師の社会人基礎力と倫理的行動がリアリティショックにどの程度影響を与えるのかを明らかにすることである.

Ⅲ. 研究方法

1. 用語の定義

1) 新卒看護師

看護基礎教育を修了し看護師免許を取得した勤務年数1年以内の者である(厚生労働省,2014).なお本研究では,新人看護師のリアリティショック尺度の「新人」看護師と「新卒」看護師は同じ新卒看護師の意味で扱う.

2) リアリティショック

認識,経験,そして看護師の集団によって共有されたものに関する,新卒看護師の期待値と現実のギャップによる特定のショック反応である(Kramer, 1974).

3) 社会人基礎力

職場や社会地域で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力であり(経済産業省,2017),新卒看護師が分からないことを質問し,自分の意見を適切に表現しながら職場の人間関係を円滑に調整し多様なケアに対応していく力である(水田,2004a).

4) 倫理的行動

生命倫理の4原則である「自律尊重」「無危害」「善行」「正義(公正)」に依拠して実施される看護行為である(大出(2019)の定義を一部改変し作成).

2. 研究デザイン

無記名自己記入式質問紙を用いた横断的記述研究である.

3. 対象者

2022年4月に入職した新卒看護師である.

4. 対象人数

探索的研究で必要とされるサンプルサイズ(高木・林,2006)を計算すると,最低で202の回答が必要である.回収率20%,有効回答率90%で見積もり,質問紙配布数をおよそ1,100名とした.

5. 対象施設の選定

日本医療機能評価機構の公式ホームページに掲載されている全国の2,042病院から,病床規模別の新人看護師の割合(厚生労働省,2011)に基づき70病院を層化無作為抽出した.抽出した70施設へ依頼した結果,13施設(所属する新卒看護師,計288人)の研究承認を得た.しかし,目標研究対象者である1,100名に届かなかったため,再度層化無作為抽出によって新たに80施設を抽出して研究を依頼した.

6. データ収集期間

2022年7月1日から2022年8月15日

7. データ収集方法

調査協力を得られた看護部門責任者から新卒看護師に研究依頼文を渡してもらい,研究に同意する研究参加者は,Web質問紙にアクセスし回答を行った.

8. 測定用具

1) 研究対象者の特性(9項目)

項目は,性別,修了した看護基礎教育課程,学生時代の仕事(以下,アルバイト)の経験の有無,社会人経験の有無・年数,施設規模,病床の種類,希望部署への配属の有無,新人看護職員1人に対して決められた経験のある先輩看護職員(厚生労働省,2014)(以下,プリセプター)の有無,同じ部署での同期の有無である.

2) 新人看護師のリアリティショック尺度(41項目)

岡本・岩永(2015)が開発した「新人看護師のリアリティショック尺度」を用いた.この尺度は6因子41項目であり,学生時代に考えていたことと就職して感じたことが思っていたより良かったと肯定的なギャップを表した【新人教育に関するギャップ(以下,新人教育)】【患者・家族との関係に関するギャップ(以下,患者・家族との関係)】【就職後の満足感に関するギャップ(以下,就職後の満足感)】のポジティブ因子と,思っていたより否定的なギャップを表した【生活の変化に関するギャップ(以下,生活の変化)】【看護の実践に関するギャップ(以下,看護の実践)】【職場の人間関係に関するギャップ(以下,職場の人間関係)】のネガティブ因子から構成される.回答は,「1:思っていたより当てはまらない」「2:思っていたよりやや当てはまらない」「3:学生時代に思っていたとおりだ」「4:思っていたよりやや当てはまる」「5:思っていたより当てはまる」の5段階評価であり,3を基準に絶対値が高いとリアリティショックは大きいことを示す.尺度の信頼性と妥当性は検証されている.

3) 社会人基礎力尺度(36項目)

北島ら(2011)が開発した「社会人基礎力尺度」を使用した.この尺度は,【前に踏み出す力】【考え抜く力】【チームで働く力】の3つの能力と12の能力要素から構成され,3因子36項目である.回答は,「1:全くあてはまらない」から「6:非常にあてはまる」の6段階評価であり,得点が高いほど社会人基礎力が高いと解釈する.尺度の信頼性と妥当性は検証されている.

4) 倫理的行動尺度改訂版(15項目)

大出(2019)が開発した「看護師の倫理的行動尺度改訂版」を使用した.この尺度は,【リスク回避】【善いケア】【公正なケア】の3因子15項目である.回答は,「1:全く当てはまらない」から「6:非常に当てはまる」の6段階評価であり,得点が高いほど倫理的行動を実践していると解釈する.尺度の信頼性と妥当性は検証されている.

9. 分析方法

研究対象者の特性,新人看護師のリアリティショック尺度,社会人基礎力尺度,倫理的行動尺度改訂版の基本統計量を算出した.特性と各変数の関連についてデータの正規性を確認し,マンホイットニーのU検定,クラスカル-ウォリスの検定,多重比較の場合はDan-Bonferroniの検定を行った.また,社会人基礎力尺度,倫理的行動尺度改訂版と新人看護師のリアリティショック尺度との相関係数を求めた.そして,社会人基礎力,倫理的行動と新人看護師のリアリティショックの関連を検証するために共分散構造分析を行った.ただし,分析に際し質的データはダミー変数に置き換えた.分析には統計ソフトIBM SPSS Statistics Version 24,AMOS Graphicsを用い,全ての分析で統計学的有意水準は5%とした.

10. 倫理的配慮

本研究は,聖路加国際大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:22-A006).研究協力者は,看護部門責任者から依頼を受けるため,立場による強制がかからないよう,自由意思のもと職員が回答できるように配慮することを依頼した.また,研究依頼文書には,参加の自由,質問紙は無記名であり病院や個人が特定されることはないこと,研究協力者の参加の可否について責任者へ伝えることは無いこと,結果は研究目的以外に使用しないことを明記し,研究参加を依頼した.研究参加の同意は,研究協力者がWeb調査の冒頭にある研究参加の同意にチェックすること,ならびにインターネット回答結果を送信することにより得られたものとした.

Ⅳ. 結果

70病院を層化無作為抽出し13施設(所属する新卒看護師,計288人)の研究承認を得た.必要な配布数が確保できなかったため,再度層化無作為抽出によって新たに80施設を抽出して研究を依頼し,21施設から研究の承認を得た.合計34病院の看護部門責任者から研究協力の承諾を得られた.研究協力が得られた病院の内訳は,200床以上500床未満16病院(285名,22%),500床以上900床未満13病院(654名,50.5%),900床以上5病院(356名,27.5%)であった.そして,調査票1,295部を送付した結果,回収された調査票は250部(回収率19.3%)であった.

回答者250名のうち,自由回答を含めた回答が一致し同一の回答者と思われる重複回答1名と回答項目の中に欠損値のある9名を削除し,最終的に240名の回答を有効回答(有効回答率18.5%)とした.

1. 研究対象者の特性

分析対象となった新卒看護師240名の特徴を表1に示す.

表1 研究対象者の特性

n = 240)

項目 カテゴリー 度数 割合
性別 女性 228 95
男性 11 4.6
回答しない 1 0.4
修了した看護基礎教育課程 5年一貫 20 8.3
短大 11 4.6
専門学校 109 45.4
大学 100 41.7
アルバイト経験 ある 218 90.8
なし 22 9.2
社会人経験 ある 23 9.6
なし 217 90.4
施設規模 200床未満 6 2.5
200床以上500床未満 77 32.1
500床以上900床未満 115 47.9
900床以上 42 17.5
所属病床 一般病床 178 74.2
特殊病床 39 16.3
療養病床 11 4.6
その他 12 5
希望配属である はい 164 68.3
いいえ 65 27.1
希望なし 11 4.6
プリセプターがいる はい 228 95
いいえ 12 5
同期がいる はい 231 96.3
いいえ 9 3.8

単位:度数(名),割合(%)

2. リアリティショック,社会人基礎力,倫理的行動

新人看護師のリアリティショック,社会人基礎力,倫理的行動の下位尺度得点とCronbachの信頼係数αの結果を表2に示す.

表2 新人看護師のリアリティショック・社会人基礎力・倫理的行動尺度改訂版の下位尺度の基本統計量とCronbachの信頼係数α

n = 240)

下位尺度 平均値 標準偏差 第一四分位数 第二四分位数(中央値) 第三四分位数 α
〈新人看護師のリアリティショック〉
新人教育 3.67 0.705 3.25 3.75 4.25 .770
生活の変化 3.71 0.804 3.10 3.80 4.30 .878
看護の実践 3.71 0.642 3.25 3.75 4.17 .848
職場の人間関係 3.59 0.912 3.00 3.75 4.25 .820
患者・家族との関係 4.10 0.804 3.33 4.33 5.00 .753
就職後の満足感 3.22 0.875 2.50 3.25 3.75 .770
〈社会人基礎力〉
前に踏み出す力 3.61 0.682 3.33 3.67 4.00 .912
考え抜く力 3.48 0.691 3.11 3.44 3.89 .913
チームで働く力 4.05 0.589 3.78 4.00 4.33 .923
〈倫理的行動尺度改訂版〉
リスク回避 4.51 0.670 4.00 4.60 5.00 .785
善いケア 4.07 0.694 3.60 4.00 4.40 .736
公正なケア 4.22 0.944 3.50 4.25 5.00 .758

注)新人看護師のリアリティショック尺度は,ポジティブ因子(新人教育,患者・家族との関係,就職後の満足感)とネガティブ因子(生活の変化,看護の実践,職場の人間関係)で構成される.

ただし,倫理的行動について本研究では,大出(2019)が開発した「看護師の倫理的行動尺度改訂版」の尺度の構成を変更した.この尺度は,3因子15項目で構成されていたが,質問紙の設計にミスがあり,1問のみ6段階ではなく5段階評価となって回答を得ている設問があった.そのため,該当項目を採択した場合と削除した場合の結果を比較し得点や因子間の関連に大きな相違は見られないことを確認した.加えて統計学の専門家のコンサルテーションを受け,該当項目を削除し,3因子14項目で分析を進めた.

なお,本検討結果とその後の対応については尺度開発者の了承を得ている.

3. 変数間の関係

まず,尺度得点の正規性を確認した.検定の結果,倫理的行動尺度改訂版は正規分布しており(p > .05),新人看護師のリアリティショック尺度,社会人基礎力尺度は,正規分布をしているとはいえなかった(p < .05).

1) 「リアリティショック」と「研究対象者の特性」の関係

「新人看護師のリアリティショック尺度」の6因子と「研究対象者の特性」9変数との関連について探索的な目的でノンパラメトリックの検定を行った.「性別(男性・女性)」と「新人看護師のリアリティショック」各下位尺度得点とのマンホイットニーのU検定の結果は,「生活の変化」は「女性(p = .015)」,「就職後の満足感」は「男性(p = .049)」の方が高い値を示した.「修了した看護基礎教育課程」と「新人看護師のリアリティショック」とのクラスカル-ウォリス検定の結果は,「患者・家族との関係(p = .005)」で有意な差が認められ,さらにDan-Bonferroni法の結果,「短大」は「5年一貫(p = .003)」「専門学校(p = .007)」「大学(p = .008)」より高い値を示した.ただし,短大を卒業した対象者11名の「患者・家族との関係」の中央値は5だった.また,「希望配属」と「新人看護師のリアリティショック」とのクラスカル-ウォリス検定の結果は,「患者・家族との関係(p = .023)」と「就職後の満足感(p = .029)」で有意な差が認められた.さらにDan-Bonferroni法の結果,「患者・家族との関係(p = .006)」と「就職後の満足感(p = .009)」は,希望配属である群が希望配属でない群よりも高い値を示した.結果を表3に示す.

表3  リアリティショックと研究対象者特性の関係

2) 「社会人基礎力」「倫理的行動」と「リアリティショック」の関係

「社会人基礎力尺度」,「看護師の倫理的行動尺度改訂版」,「新人看護師のリアリティショック尺度」の各下位尺度間相関係数を算出するために,Pearsonの相関係数を確認した.「新人教育」は,「前に踏み出す力(r = .374, p < .001)」「考え抜く力(r = .216, p < .001)」「チームで働く力(r = .354, p < .001)」「リスク回避(r = .225, p < .001)」「公正なケア(r = .211, p < .001)」で有意な正の相関を認めた.「看護の実践」は,「前に踏み出す力(r = –.450, p < .001)」「考え抜く力(r = –.353, p < .001)」「チームで働く力(r = –.392, p < .001)」「リスク回避(r = –.365, p < .001)」「善いケア(r = –.389, p < .001)」「公正なケア(r = –.232, p < .001)」で有意な負の相関を認めた.「職場の人間関係」は,「前に踏み出す力(r = –.266, p < .001)」「チームで働く力(r = –.229, p < .001)」で有意な負の相関を認めた.「就職後の満足感」は,「前に踏み出す力(r = .318, p < .001)」「考え抜く力(r = .310, p < .001)」「チームで働く力(r = .204, p < .001)」「リスク回避(r = .253, p < .001)」「善いケア(r = .207, p < .001)」で有意な正の相関を認めた.

結果を表4に示す.

表4 社会人基礎力,倫理的行動,リアリティショック尺度との相関係数

変数 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
1 新人教育に関するギャップ 1
2 生活の変化に関するギャップ –.442** 1
3 看護の実践に関するギャップ –.318** .419** 1
4 職場の人間関係に関するギャップ –.512** .544** .464** 1
5 患者・家族との関係に関するギャップ .151* .033 –.018 –.002 1
6 就職後の満足感に関するギャップ .383** –.334** –.267** –.302** .260** 1
7 前に踏み出す力 .374** –.219** –.450** –.266** .097 .318** 1
8 考え抜く力 .216** –.186** –.353** –.188** .118 .310** .736** 1
9 チームで働く力 .354** –.177** –.392** –.229** .094 .204** .714** .631** 1
10 リスク回避 .225** –.063 –.365** –.068 .035 .253** .395** .276** .451** 1
11 善いケア .182** –.047 –.389** –.055 .134* .207** .405** .411** .460** .613** 1
12 公正なケア .211** –.085 –.232** –.149* .121 .061 .142* .052 .227** .230** .165* 1

* 有意確率 < .05

** 有意確率 < .01

4. 社会人基礎力,倫理的行動とリアリティショックの関連の検証

先行研究から導き出された社会人基礎力,倫理的行動,リアリティショックの関係仮説を検証するために,社会人基礎力,倫理的行動,リアリティショックを潜在変数として初期モデルを作成し,共分散構造分析を行った.なお,結果を図1に示す.

図1  リアリティショックと社会人基礎力,倫理的行動のモデル(初期モデル)

数値は標準回帰係数(β)を示す.

χ2 = 176.511, df = 51, 有意確率 = .00, GFI = .897, AGFI = .843, CFI = .875, RMSEA = .101

中山(2018)は,モデルの適合度の許容範囲の指標として,GFIは.9以上AGFIは.85以上,CFIは.9以上,RMSEAは.1を超えると不適で.08までは許容範囲と説明している.初期モデルの適合度は,GFI = .897,AGFI = .843,CFI = .875,RMSEA = .101であり,いずれの適合度もモデルの許容範囲に届かなかった.

そこで,初期モデルを基に修正モデルを作成した.まず,倫理的行動とリアリティショックの標準回帰係数はβ = .04であり2つの潜在変数を結ぶパスを削除した.そして,リアリティショックは互いが正の相関と負の相関を示すポジティブ因子とネガティブ因子で構成され,社会人基礎力と倫理的行動との関係についても正と負の相関がみられた.そこで,社会人基礎力と倫理的行動との関係の特定を行うため,異なる潜在変数として設定した.

修正モデルの結果を図2に示す.修正モデルの適合度は,CFIは.887とやや低い値となったが,GFI = .904,AGFI = .854,RMSEA = .096であった.つまり,このモデルは,高い適合度を示すとは言い難いものの,新卒看護師の社会人基礎力および倫理的行動とリアリティショックの関係を検討するモデルとして許容される結果であった.

図2  リアリティショックと社会人基礎力,倫理的行動のモデル(修正版)

数値は標準回帰係数(β)を示す.

χ2 = 163.6, df = 51, 有意確率 = .00, GFI = .904, AGFI = .854, CFI = .887, RMSEA = .096

結果は,社会人基礎力と倫理的行動は関係があり(β = .60, p < .001),社会人基礎力が高いとリアリティショックのポジティブ因子が高くなり(β = .55, p < .001),ネガティブ因子は低くなる(β = –.81, p < .001)可能性を示唆した.また,倫理的行動はリアリティショックと直接関係は見られなかった.言い換えると,倫理的行動はリアリティショックと直接的には関連がなく,社会人基礎力が向上するとリアリティショックは軽減するという結果であった.

Ⅴ. 考察

1. 新卒看護師のリアリティショックの特徴

新卒看護師のリアリティショックについて,中央値を確認すると,ポジティブ因子で下位尺度得点が高い順に,【患者・家族との関係】,【新人教育】,【就職後の満足感】であり,岡本(2015)が報告した先行研究の結果と同様の傾向を示した.一方で,ネガティブ因子については,先行研究(岡本,2015)で最もギャップを感じた因子は【職場の人間関係】だったが,本研究では【生活の変化】だった.その理由として,本研究の対象者は,学生時代に新型コロナウイルス感染症によって臨地実習から学内実習へ移行した(日本看護系大学協議会,2020)ことが関係していると推察した.臨地実習が学内実習に変更されたことにより,学生は学内や自宅など不安の少ない慣れた環境で学習でき,早朝から病院に行くなどの生活の変化を経験する機会も減少した.すなわち,新たな環境や新しい生活様式に適応する機会が制限されたことが影響していると考えた.

加えて,新型コロナウイルス感染症の影響を鑑みて,新卒看護師のフォロー体制の変更が影響している可能性を推察する.厚生労働省医政局看護課(2020)は,職場における丁寧なオリエンテーションやOJTの機会・期間の確保等,新人看護職員研修の工夫を医療機関等に要請した.この要請を受けて,一部の医療機関では新卒看護師を受け入れる際に,以前よりも丁寧な関わりや指導を意識した支援を実施したと考えられる.これらの変化によって,新卒看護師は,手厚い指導や分からないことを聞ける環境で学び,ポジティブ因子である職場の人間関係に関するギャップが軽減され,相対的に生活の変化のギャップが大きい傾向を示した可能性がある.今後,新卒看護師のフォロー体制の変更に関する具体的内容や,その変更がリアリティショックを軽減するかどうかを明らかにする必要がある.また,新型コロナウイルス感染症が終息した後に看護基礎教育を終えた新卒看護師と比較し,今回の結果が一時的なものなのか否かを検証していくことも必要である.

2. 社会人基礎力,倫理的行動とリアリティショックとの関連について

リアリティショックと社会人基礎力,倫理的行動の関係を示した修正版モデル(図2)を用いて,社会人基礎力と倫理的行動およびリアリティショックの関連を考察していく.

まず,倫理的行動と社会人基礎力の関連については,共分散で標準回帰係数は.60であることから,倫理的行動と社会人基礎力は正の相関を持つことが示された.これは,先行研究(奥田・深田,2019)で指摘されている,倫理的な看護実践と社会人基礎力との間には相互の関連性があることと同様の結果であった.

次に,社会人基礎力とリアリティショックとの関連については,社会人基礎力の向上がポジティブ因子を増加させ(β = .55, p < .001),ネガティブ因子の減少(β = –.81, p < .001)に関連していることが示された.このことから,社会人基礎力の向上がリアリティショックの軽減につながる可能性がある.その理由として,社会人基礎力の向上により,新卒看護師は初めて経験することや分からないことを先輩看護師や上司に自ら尋ね,指導を求める機会が増え,リアリティショックの負の側面が軽減することが考えられる.また,本研究の対象者が最もギャップを感じていたリアリティショックの下位因子【生活の変化】は,社会人基礎力のすべての因子と負の相関を認めた.大岡ら(2017)は,勤務に合わせた生活パターンを作ることができる人は,そうでない人と比べて社会人基礎力は高い傾向にあると述べ,本研究でもこの傾向が確認された.

一方で,倫理的行動とリアリティショックに直接的な関係がなかったことについては,回答欄の作成ミスと,リアリティショックと関連する倫理的側面が測定できていない可能性がある.使用した倫理的行動尺度改訂版は生命倫理の4原則に基づいた倫理的行動を測定する.他方,リアリティショックの先行研究では,新卒看護師がケアの過程で倫理的な懸念を抱くことや(Baldwin et al., 2021),患者に最善のケアが提供できない状況がリアリティショックの回復を妨げると報告されている(水田,2004a).すなわち,新卒看護師のリアリティショックに関連する倫理的側面は行動のみでなく,看護ケアの文脈における倫理的問題への認識も含まれていた.しかしながら,本研究は倫理的行動に焦点を当てているため,先行研究で言及された関係性を検証できなかったのではないかと考えた.今後,リアリティショックと関連のある倫理的側面の検証は,尺度を変えて再検討する必要がある.

3. 研究の限界と看護への貢献

本研究の限界は,以下が挙げられる.まず,倫理的行動尺度改訂版を変更したことによる研究結果への影響は否定できない.また,本研究は有効回答率18.5%であり,対象者は一般病床で勤務し500床以上の大規模病院に勤務している割合が高い傾向にあり,サンプリングバイアスが生じた可能性が考えられる.修正したモデルの適合度については,適合度指数は許容範囲であるものの,適合度が十分とはいえず,リアリティショックに影響を与える他の因子が存在する可能性がある.

本研究の結果から,新卒看護師の早期離職の一因であるリアリティショックを軽減するために,基礎看護領域や臨床現場での新人教育において社会人基礎力や倫理的行動を育成する必要性が示唆された.この知見は,対人関係を含むリアリティショックの具体的な軽減策について,どのような能力を育成すればよいかを定量的に記述したこと,そして,コロナ禍で異なる基礎教育,新人教育を受けている新人のリアリティショックの特性を記述したことが,今後の新人教育の発展に寄与できると考える.

Ⅵ. 結論

1.新卒看護師のリアリティショックで最もギャップを感じたポジティブ因子は,【患者・家族との関係】であり,ネガティブ因子は,【生活の変化】である.

2.新卒看護師のリアリティショックと社会人基礎力との関連は,社会人基礎力が向上するとリアリティショックの負の側面は軽減することが示唆された.

3.新卒看護師のリアリティショックと倫理的行動の間に直接的な関連は見られなかった.

4.新卒看護師の社会人基礎力と倫理的行動との関連は,正の相関関係であることが示唆された.

付記:本研究は,2022年度聖路加国際大学大学院看護学研究科に提出した修士論文に加筆・修正したものである.本論文の内容の一部は,第43回日本看護科学学会学術集会で発表した.

謝辞:本研究にご協力いただいた研究参加者の皆様に深く感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:RIは,本研究の着想,研究デザイン,データ収集と分析,論文執筆を行なった.KOは,本研究の着想,研究デザイン,データの分析,論文執筆への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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