目的:本研究は,医療福祉現場における対人ケアの「思いやり(コンパッション)」を測定する尺度について,海外での開発状況と異文化適用の課題を明らかにすることを目的とした.
方法:2009年以降に発表された英語文献を対象にRapid Evidence Assessmentによる文献レビューを実施し,尺度の構成,評価主体,異文化での翻訳・適用状況を整理した.
結果:信頼性・妥当性が確認された14尺度のうち10が自己評価尺度であり,項目は「内的志向性」「共感・理解」「行動」に分類された.尺度は主にアメリカ合衆国(8件),イギリス(2件),カナダ,スペイン,韓国,イラン,オランダで開発されており,アメリカ主導の傾向が顕著であった.異文化適用時には,項目削除や因子構造の変更が見られた.
結論:尺度の開発国の文化的前提が測定内容に影響する可能性があるため,翻訳や新規開発に際しては,適用国の文化や医療制度を十分に考慮する必要がある.
Purpose: This study aimed to clarify the development and cross-cultural application challenges of compassion measurement scales used in interpersonal care in healthcare and welfare settings.
Methods: A literature review was conducted using the “rapid evidence assessment” method, targeting English-language publications published from 2009 onward. The review focused on the structure of scales, rater types, and processes of translation and application across different cultural contexts.
Results: Among the 14 scales confirmed to be psychometrically reliable and valid, 10 were self-report measures. The items were categorized into three domains: internal orientation, empathy and understanding, and compassionate behavior. The majority of the scales were developed in the United States (n = 8), followed by the United Kingdom (n = 2), and one each in Canada, Spain, South Korea, Iran, and the Netherlands, indicating a strong U.S.-centric trend. Item deletions and changes in the factor structure were frequently observed in cross-cultural applications.
Conclusion: As the cultural assumptions of the country in which a scale is developed may influence its measurement content, the cultural and institutional contexts of the target country should be carefully considered when translating or developing compassion measures.
対人サービスの質を評価する際に「思いやり」は欠かせない要素であり,特に看護をはじめとする医療福祉現場では最も重要視されている.国際看護師協会の倫理綱領(International Council of Nurses, 2021)では,思いやり(Compassion,以下コンパッションと表現.文脈に応じて「思いやり」という語も用いる)は看護の基本的価値として位置づけられている.また,アメリカ看護協会の倫理綱領には,第1条に「すべての人の尊厳と個性を尊重し,思いやりをもって実践する」と記されている.
欧米では2000年代以降,医療福祉分野で思いやりの重要性が注目され,関連研究が進展した.2010年代以降の研究では,コンパッションが医療の質や満足度を高めることが明らかにされた(Burnell & Agan, 2013;Epstein & Street, 2011;Sinclair et al., 2016).イギリスでは医療現場におけるコンパッションの欠如が問題となり,Francis Reportがまとめられ政策的関心を集めた(Francis, 2013;Dixon-Woods et al., 2012).また,エビデンスに基づく医療実践の推進を背景として,コンパッションの科学的根拠を示す研究が増加し,その意義が広く認識されるようになった(Goetz et al., 2010;Bellosta-Batalla et al., 2020).近年では,人工知能技術(AI)やデジタルデバイスを用いたメンタルヘルスへの介入(Ghandeharioun et al., 2019)が急速に広がり,またCOVID-19後の医療従事者支援(Hendrickson et al., 2022)が進んだこともあいまって,コンパッション研究が多様化している.
コンパッションは,全ての医療従事者に備わる資質として期待されている一方で,可視化が難しいものでもある.コンパッションはあくまでも受け手の主観的な評価によるところが大きく,客観的評価が難しいため,教育や実践においては測定の方法が様々に模索されてきた(Pommier et al., 2020).加えて,コンパッションには文化を超えた共通性とともに,宗教・文化的背景による違いも存在する(Papadopoulos & Ali, 2016;Singh et al., 2018).このような背景をふまえ,コンパッションの定義や尺度(Perez-Bret et al., 2016;Strauss et al., 2016;Sinclair et al., 2017a, 2017b;Durkin et al., 2019;Pavlova et al., 2022;Zaragozá et al., 2023),教育効果(Durkin et al., 2018;Patel et al., 2019;Menezes et al., 2021;Sinclair et al., 2021b)等に関するレビュー論文が多数発表されている.
日本では,医療福祉現場における患者や関係者へのコンパッションの構成概念や測定に関する研究は少ない.社会福祉分野で木原(2005)がコンパッションの思想史的背景を整理して論じているが,評価や測定のための尺度には触れていない.日本でコンパッションの調査研究が少ない理由として,思いやりは職務遂行の大前提とされ,あえて言語化して測定しようとする発想そのものが生じにくいことが推測される.一方,英語圏の研究では,コンパッションは明示的に言語化され,構成概念として様々に定義されている.日本でコンパッション研究をすすめるにあたり,まずは,こうした海外で展開されているコンパッション研究を参照し,コンパッションがどのように捉えられているかについての現状把握が必要である.
本研究では,特に,海外で活用されているコンパッション尺度について文献に基づいて情報収集と整理を行う.コンパッション尺度で測定されている内容は定義や本質と相即していると考えられるからである.そして,これらの尺度が国や文化を超えて適用されるという国際的な観点から尺度の異文化適用の課題を把握し,日本でのコンパッション研究の基礎資料の一つとしたい.
医療福祉現場(病院,地域のクリニック,高齢者福祉施設等)や医療福祉の教育現場(医学,看護,医療福祉関連の教育現場)で医療福祉従事者(当該国において資格を持つ医師や看護師,病院の臨床スタッフ,医療看護や福祉系の教員と学生)が患者やその関係者に対して示す,相手の人間性を尊重した行動・態度等を暫定的にコンパッションとして捉える.
2. 対象文献以下の条件をすべて満たす文献を対象とした.
(1)医療・福祉分野における文献
(2)コンパッション尺度の開発または適用が記述された文献
(3)英国で話題となった2008年の医療現場の事案(詳しくはFrancis(2013)を参照されたい)より後,つまり,compassionへの関心が国際的に高まり始めた2009年以降の英語文献.
3. 文献収集方法2025年1月20日~1月30日の期間に,著者2名が別々にPubMed,EBSCOデータベースを用いて文献を検索し,タイトルに「compassion」または「compassionate care」を含み,且つキーワードに「measurement」「assessment」「scale」のいずれかを含む英語論文を抽出した.このうち,「compassion fatigue」(Figley, 2002),「compassion-focused therapy」(Gilbert, 2009),「self-compassion」(Neff, 2003)を中心に扱う論文は除外した.可能な範囲で,これらの条件を満たすと考えられる引用文献も併せて収集した(図1).

大竹ら(2020)の適用事例を参考に,Rapid Evidence Assessment(REA)の手法を用いた(Varker et al., 2015;Noble & Smith, 2018).この手法の採用理由は下記の通りである.
①既存研究の網羅性と迅速性のバランスを取ることができる.
②尺度を用いた調査研究に対象を限定することが容易である.
③関連研究を効率的に抽出・分析できる.
④システマティック・レビューほど厳密なプロトコルは要さないが,検索条件や基準を明示することで再現性が確保できる.
本研究におけるREA実施プロセスは以下の通りである(Varker et al., 2015).まず,第1段階(レビューの開始)として,レビューの作業チームを編成し,レビューのニーズアセスメントを実施した.第2段階(質問の策定)では「海外の医療福祉現場において,医療福祉従事者の患者や関係者に対するコンパッションを測定する尺度にはどのようなものがあるのか」というリサーチクエスチョンを設定した.第3段階(方法論の策定)として,文献の選択基準および検索戦略を策定した.第4段階(情報検索/管理)においては,Microsoft ExcelおよびWordを用いて情報管理をした.第5,6段階(スクリーニングステップ1:タイトル・要旨,スクリーニングステップ2:全文検討による抽出)において,図1に示されているように,目的に合致しない文献を除外,残された文献について内容を確認して最終的な文献の選択をした.全文検討による抽出では,全文を取得できた対象文献40編について2名で内容確認を行い,評価者間信頼性を測定したところ,一致率は97.5%であった.第7段階(エビデンスの評価)については,抽出された31編の論文について,著者1名が表1に挙げた項目それぞれについて記載,整理した.最後に,その結果の妥当性について,別の著者と確認をした.
| 尺度ID | 尺度名(著者・年) | 因子数・項目数 〔評価方法〕 |
下位因子名 | 項目例(1項目のみ抜粋) | 評価主体 | 開発国/対象 | 翻訳語 | 調査実施国/対象 | 異文化適用における変更点 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Bolton Compassion Strengths Indicators: BCSI (Durkin et al., 2020) |
8因子・48項目 〔6段階リッカート〕 |
【Connection】【Empathy】【Character】【Engagement】【Interpersonal skills】【Competence】【Self-care】【Communication】 | I try to make a meaningful connection with patients in my care. 私は自分が担当する患者との間で,意味のあるつながりを作ろうと努めている. |
自己評価 | イギリス/看護学生521名 | トルコ語 (Ercan et al., 2024) |
トルコ/看護学生500名 | 原版は48項目,トルコ語版では分析により14項目削除. |
| 2 | Capacity for Compassion Scale (Ruiz-Fernández et al., 2024) |
4因子・17項目 〔4段階リッカート〕 |
【Motivation & compromise】【Presence】【Common humanity】【Self-compassion】 | I feel a great desire to prevent suffering, alleviate it and/or avoid it. 私は苦しみを予防し,それを軽減し,または回避したいと強く感じる. |
自己評価 | スペイン/看護師,医師,理学療法士など264名 | NA | ||
| 3 | Compassion Competence Scale (Lee & Seomun, 2016) |
3因子・17項目 〔5段階リッカート〕 |
【Communication】【Sensitivity】【Insight】 | I can express my compassion towards patients through communicating with them. 私は患者とのコミュニケーションを通じて,思いやりを表現することができる. |
自己評価 | 韓国/看護師233名 | トルコ語 (Çiftçi & Aras, 2022) アラビア語 (Alabdulaziz et al., 2021) |
トルコ/看護学生180名 サウジアラビア/看護学生と看護インターン317名 |
トルコ語版看護学生用では原版から6項目が削除.また,5段階から4段階のリッカート尺度に変更. |
| 4 | Compassion Scale (Pommier et al., 2020) |
6因子・24項目 短縮版では16項目 〔5段階リッカート〕 |
【Kindness】【Indifference】【Common humanity】【Separation】【Mindfulness】【Disengagement】 | I like to be there for others in times of difficulty. 私は他の人が困難な時に支えとなりたい. |
自己評価 | アメリカ合衆国/PA学生99名 | ペルシア語 (Khanjani et al., 2019) |
イラン/看護師213名 | |
| 5 | Sussex-Oxford Compassion for Others Scale (SOCS) (Gu et al., 2020) |
他者へのコンパッション5因子・20項目 自己へのコンパッション5因子20項目 〔5段階リッカート〕 |
【Recognizing suffering】【Understanding the univer- sality of suffering】【Feeling for the suffering person】【Tolerating uncomfortable feelings】【Motivation to act/act to alleviate suff-ering】 | I recognise when other people are feeling distressed without them having to tell me. 他の人が苦しんでいる時は,彼らが言わなくても気づくことができる. |
自己評価 | イギリス/医療従事者1,319名 心理学部学生371名 |
スペイン語 (Sansó et al., 2024)(Vidal-Blanco et al., 2024) チェコ語 (Halamová & Kanovský, 2021) |
スペイン/看護学生683名 スペイン/看護学生924名 チェコ/医療従事者・その他1,080名 |
他者へのコンパッションと自己へのコンパッションの2尺度から構成.チェコ語版では5因子階層モデル,スペイン語版では3因子構造が確認された. |
| 6 | Compassionate Care Questionnaire for Nurses (Tehranineshat et al., 2021) |
4因子・28項目 〔5段階リッカート〕 |
【Professional performance】【Continuous follow-up】【Patient-centered performance】【Empathetic communication】 | I respect my patients and their beliefs when I am giving nursing care. 看護ケアを行う際,患者と患者の信仰を尊重する. |
自己評価 | イラン/看護師420名 | NA | ||
| 7 | Compassion towards Clients Scale (Ropes & de Boer, 2021) |
2因子・11項目 〔5段階リッカート〕 |
【Compassion motivation】【Empathetic concern】 | I actively try to alleviate my clients’ suffering. 積極的に患者の苦しみを軽減させられるよう努める. |
自己評価 | オランダ/看護師を含む社会福祉系労働者849名 | NA | Gilbert et al.(2017)やDavis(1980)による尺度を参考にして作成されている. | |
| 8 | Confidence in Providing Calm, Compassionate Care Scale (CCCS) (Kemper et al., 2015) |
1因子・10項目 〔10段階リッカート〕 |
― | In what percentage of your patient encounters do you practice centering (being peaceful and focused)? 患者とのやりとりに,どのくらいの割合で集中(心を落ち着け,焦点を合わせること)していますか? |
自己評価 | アメリカ合衆国/医療従事者・医療系学生213名 | NA | ||
| 9 | An Assessment of an Outpatient Urology Clinic’s Compassion, Comfort and Knowledge of Transgender Care (Teplitsky et al., 2020) |
3因子12項目 〔5段階リッカート〕 |
【Comfort】【Compassion】【Knowledge】 | Transgender pts have specific health needs + conditions that other pts may not. トランスジェンダーの患者には,他の患者にはない特別な健康上のニーズや症状がある. |
自己評価 | アメリカ合衆国/看護師・医師を含む医療系スタッフ67名 | NA | ||
| 10 | Caregiving Compassion Scale (Schulz et al., 2017) |
1因子11項目 〔5段階リッカート〕 |
― | It is important for me to try to do everything possible to help reduce the suffering of my partner/relative. パートナー/関係する人々の苦しみを軽減するために,できる限りのことをすることが大切である. |
自己評価:介護者 | アメリカ合衆国/介護者108名 | スペイン語 (Gallego-Alberto et al., 2022) |
スペイン/介護者236名 | スペイン語版では2因子10項目で調査. |
| 11 | 5-item Compassion Measure (Roberts et al., 2019) |
1因子5項目 〔4段階リッカート〕 |
― | How often do you feel your provider cares about your emotional or psychological well-being? 医療従事者があなたの感情的または心理的な健康を気遣ってくれていると感じますか? |
他者評価:患者 | アメリカ合衆国(Sabapathi et al., 2019)患者866名(Roberts et al., 2022)患者3,031名 | トルコ語 (Özsaban et al., 2023) |
トルコ/患者402名 | |
| 12 | Compassionate Care Assessment Tool (CCAT) (Burnell & Agan, 2013) |
4因子20項目 〔4段階リッカート〕 |
【Meaningful connection】【Patient expectations】【Caring attributes】【Capable practitioner】 | The provider gives timely treatments. 医療従事者はタイムリーな治療を提供してくれる. |
他者評価:患者 | アメリカ合衆国/患者250名 | アムハラ語 (Gebrekidan et al., 2024) ペルシア語 (Vaisi-Raygani et al., 2021) |
エチオピア/産科患者410名 イラン/患者300名 |
アムハラ語版では3因子13項目5段階リッカート評価.ペルシア語版では4因子20項目,4段階リッカート評価. |
| 13 | Schwartz Center Compassionate Care Scale (SCCCS) (Lown et al., 2015) |
1因子12項目 〔10段階リッカート〕 |
― | Show respect for you, your family, and those important to you. あなた自身,あなたの家族,あなたの大切な人たちに敬意を示す. |
他者評価:患者 | アメリカ合衆国/患者801名 | アムハラ語 (Zeray et al., 2021) |
エチオピア/患者414名 | 原版は12項目だが,アムハラ語版では2因子10項目. |
| 14 | Sinclair Compassion Questionnaire (SCQ) | 1因子15項目 〔5段階リッカート〕 |
― | My healthcare provider showed genuine concern for me. 医療従事者は私に対して真摯な関心を示してくれる. |
他者評価:患者 | カナダ/患者330名 | NA |
注1)各文献では尺度の下位因子に相当する用語がdomain,dimension,factorなどと記述されているが,本稿では「因子」と統一して表した.
注2)項目例は紙面の都合上,1項目のみとした.
31論文より,14尺度が抽出された.それぞれに尺度IDを付し,尺度名(開発国/適用された他国,NAは他国での適用なし)と概要を一覧にまとめた(表1).
以下,自己評価尺度と他者評価尺度に分類し,それぞれの尺度の特徴,異文化適用について述べる.
1. 自己評価尺度 1) Bolton Compassion Strengths Indicators:BCSI(イギリス/トルコ)8因子48項目,6段階リッカートDurkin et al.(2020)によってイギリスで開発された尺度であり,看護学生を対象としている.思いやりの資質(compassion strength)という概念を軸に項目が構成されており,この自己評価が思いやりのある看護実践のための教育や思いやり疲労(compassion fatigue)の防止教育に役立つとしている.
Ercan et al.(2024)が作成したトルコ語版による調査では,因子負荷量,平均分散抽出(AVE)値,交差負荷や内部整合性の分析を基に項目削除を行い,最終的には34項目としている.例えば「I don’t see each patient as a whole person」や「I am confident about the future」といった項目が削除された.これらの削除はトルコの文化的価値観や生活環境の違いに起因するのではないか,と著者らは推測している.
2) Capacity for Compassion Scale(スペイン/NA):4因子17項目,4段階リッカートRuiz-Fernández et al.(2024)によって開発された尺度であり,看護師,医師,理学療法士など多職種を対象とする.「I feel a great desire to prevent suffering, alleviate it and/or avoid it.」など,医療従事者の意思や倫理観を問う項目が多く,コンパッションを表す具体的行動を問う項目はない.看護師と臨床検査技師を対象とする調査では,コンパッションと年齢や職業経験との間に相関が認められた.
3) Compassion Competence Scale(韓国/トルコ,サウジアラビア)3因子17項目,5段階リッカート韓国のLee & Seomun(2016)によって開発された看護師を対象とする尺度である.態度や知識よりも,関連するコミュニケーションスキルに焦点を当ててコンパッションを評価する点が特徴である.
Çiftçi & Aras(2022)は11項目のトルコ語版を作成している.原版が作成された韓国では患者と看護師の親密な関係が重視されるが,トルコでは看護師の専門性が重視されることや,看護教育において客観性が重視される傾向があることから,患者とのコミュニケーションに関する6項目が除外されている.
Alabdulaziz et al.(2021)はアラビア語版を作成して,サウジアラビアの看護学生と看護インターンを対象に調査を実施した.韓国語原版と同じ因子構造,および尺度の信頼性と妥当性が確認された.
4) Compassion Scale(アメリカ合衆国/イラン)6因子24項目,5段階リッカートNeff(2003)によるセルフ・コンパッション理論を基に,Pommier et al.(2020)が開発した尺度であり,後に16項目の短縮版も作成された.セルフ・コンパッションの理論を参照しているが,実際の項目は他者に対するコンパッションについての内容となっている.この尺度は医療従事者に限らず,その他の一般の人々も対象としている.6因子のうち,3つのネガティブ因子(Indifference; Separation; Disengagement)があり,これらは「I try to avoid people who are experiencing a lot of pain.」などの項目を含んでいる.
Reichman et al.(2021)は16項目の短縮版を用いて,アメリカのPhysician Assistant(PA)学生の調査を行った.PA学生は,学習が進むにつれて思いやりが低下する傾向があると予想されたが,分析結果では学年による有意差は認められなかった.また,女子学生の方が下位因子【Kindness】のスコアが高かったものの,その他の因子に男女差は認められなかった.
Khanjani et al.(2019)は24項目版のペルシア語訳を作成し,イランの看護師の思いやりを測定した.原版同様の6因子構造であり,構成概念妥当性と収束的妥当性が確認された.
5) Sussex-Oxford Compassion for Others Scales:SOCS-O(イギリス/チェコ,スペイン)5因子20項目,5段階リッカートStrauss et al.(2016)による尺度をもとに,Gu et al.(2020)が開発したものである.この尺度は,他者へのコンパッションを測定する20項目(SOCS-O)とともに,自己へのコンパッションを測定する20項目(Sussex-Oxford Compassion for Self-Scales: SOCS-S),つまり2軸の尺度で構成されている点が特徴的と言える.コンパッションの対象が他者か自己かによって多少表現が異なるものの,2つの尺度項目は文章構成がほぼ同じである.
Halamová & Kanovský(2021)はSOCS-Oのスロバキア語版を作成し,チェコの医療福祉従事者を含む1,080名を対象に調査を行った結果,原版と同じ5因子構造が確認された.
この尺度はSansó et al.(2024)によってスペイン語にも翻訳されており,看護学生の調査では原版とは異なる3因子構造が確認された.また,同じくスペイン語版を用いたVidal-Blanco et al.(2024)による看護学生の調査では,原版と同様の5因子構造が確認された.
6) Compassionate Care Questionnaire for Nurses:CCQ-N(イラン/NA)4因子28項目,5段階リッカートTehranineshat et al.(2021)による看護師向けの尺度である.コミュニケーションのあり方だけでなく,患者に提供する専門的看護技術をも含めてコンパッションと捉えている.イスラム圏で開発された尺度であり,「患者の問題を特定し解決するにあたり,私はその文化的・宗教的背景を考慮した上で,患者と誠実な関係を築く(To identify and solve my patients’ problems, I establish a sincere relationship with them within the cultural and religious framework)」などの項目に示されるように,文化・宗教への配慮についての内容も含まれる点が特徴的である.この尺度を他文化に適用する際には,さらなる調査が必要であることが指摘されている.
7) Compassion towards Clients Scale: a scale and test on frontline workers’ burnout(オランダ/NA)2因子11項目,5段階のリッカートRopes & de Boer(2021)によって,医療福祉従事者のクライアントに対する思いやりや共感がバーンアウトに与える影響を分析するために作成された尺度である.対象には医療福祉従事者の他,公務員なども含まれる.調査の結果,共感性の高い労働者はバーンアウト傾向が高く,コンパッションとバーンアウトは残業によって媒介されていること,コンパッションの動機や意欲がバーンアウトを抑制することが示唆された.
8) Confidence in Providing Calm, Compassionate Care Scale(CCCS)(アメリカ合衆国/NA)1因子10項目,10段階リッカートKemper et al.(2015)によって開発された尺度である.「患者とのやりとりに,どのくらいの割合で集中(心を落ち着け,焦点を合わせること)していますか(In what percentage of your patient encounters do you practice centering (being peaceful and focused)?)」などの項目が含まれ,落ち着いた心理状態や穏やかな態度を思いやりと捉えている.医師,看護師,栄養士,ソーシャルワーカーを対象とした調査では,1因子構造であることが確認された.
9) An Assessment of an Outpatient Urology Clinic’s Compassion, Comfort and Knowledge of Transgender Care(アメリカ合衆国/NA):3因子12項目,5段階リッカート外来泌尿器科クリニックのスタッフがトランスジェンダー患者のケアにおいて,コンパッションをどの程度持っているかを自己評価する尺度である(Teplitsky et al., 2020).管理者やアシスタント,研修生等も含めたクリニックのスタッフを対象とした調査の結果,コンパッション行動のスコアは高かったものの,適切なケアをするための知識が不足していることが示唆された.
10) Caregiving Compassion Scale(アメリカ合衆国/スペイン)1因子11項目,5段階リッカートFeeney & Collins(2001, 2003)によって開発された尺度を,Schulz et al.(2017)が介護者向けに改変したものであり,原版と同様の1因子構造が確認されている.この尺度は,医療福祉従事者ではなくケアをする家族やパートナーを対象とした自己評価尺度である.また,Schulz et al.(2017)は,認知症患者の介護者が感じる患者の苦しみが,介護者自身の抑うつにどう影響しているのかを調査した.
のちに,Gallego-Alberto et al.(2022)が10項目のスペイン語版を作成し,介護従事者を対象として調査を行ったところ,2因子構造であることが確認された.また,Schulz et al.(2017)の研究と同様に,コンパッションと介護者の情動的健康,特に抑うつや罪悪感との関連が示された.
2. 他者評価尺度 11) 5-item Compassion Measure(アメリカ合衆国/トルコ)1因子5項目,4段階リッカートRoberts et al.(2019)が開発した,医療従事者のコンパッションを患者が評価する尺度である.「医療従事者があなたの感情的または心理的な健康をどの程度気遣ってくれていると感じますか?(How often do you feel your provider cares about your emotional or psychological well-being?)」など医療従事者の態度を評価する内容であり,具体的な行動の有無等を問う項目はない.救急をはじめ複数の領域で適用され,有効性が確認されている(Sabapathi et al., 2019).医師と看護師を分けて評価した調査では,コンパッションがコミュニケーション満足度と強く関連していた(Roberts et al., 2022).
トルコ語版においても,尺度の信頼性および患者のケア満足度との相関が確認された(Özsaban et al., 2023).
12) Compassionate Care Assessment Tool©:CCAT(アメリカ合衆国/イラン,エチオピア)4因子20項目,4段階リッカートBurnell & Agan(2013)が開発した,患者の視点から看護師のコンパッションを測定する尺度である.患者がケアの中にどの程度思いやりを認識しているのかを問う項目が設定されている.因子分析により20項目が選定された.
Vaisi-Raygani et al.(2021)はISPOR(International Society for Pharmacoeconomics and Outcome Research)タスクフォースによる翻訳ガイドラインに基づいて,ペルシャ語版を作成し,イランの入院患者を対象に調査を行ったところ,原版同様の因子構造および信頼性と妥当性が確認された.また,特にケアの「倫理的・精神的側面」が重視されているという結果が示された.イランでは,イスラム的価値観が強く,看護は崇高な行為として捉えられ,患者のケアをすることは宗教的含意があることが述べられている.
Gebrekidan et al.(2024)は,エチオピアでCCATのアムハラ語版を作成し,5段階のリッカート尺度を採用した.これを用いた調査分析の結果,因子負荷量を手掛かりに7項目が削除され,3因子13項目で測定ができると結論づけた.
13) Schwartz Center Compassionate Care ScaleTM:SCCCS(アメリカ合衆国/エチオピア)1因子12項目,10段階リッカートLown et al.(2015)によって作成された尺度である.医師の思いやりについての調査結果では,確認的因子分析で1因子モデルであることが示された(Lown et al., 2015).その後,Rodriguez & Lown(2019)はアメリカ合衆国において,成人患者を対象にこの尺度を用いて調査し,信頼性・妥当性を確認している.
Zeray et al.(2021)はアムハラ語版を作成し,エチオピアの成人患者を対象に調査を行っている.原版にある2項目を削除して10項目としており,2因子構造,および信頼性と妥当性が確認された.エチオピアの医療文化では,患者の治療方針への関与は一般的ではないという.また,目に見えるケアの実践が重視されることから,削除された項目はアメリカ合衆国における思いやりとは異なる意味で捉えられた,との推察が述べられている.
14) Sinclair Compassion Questionnaire:SCQ(カナダ/NA)1因子15項目,5段階リッカートカナダでコンパッション研究をリードしているSinclair et al.(2021a)によって開発された尺度である.事前にデルファイ法によって構築された包括的なPatient Compassion Modelを基に,ターミナル期の患者へのインタビュー調査によって項目を作成しており,これらの項目は,ターミナル期以外の患者にも活用できるとしている.この尺度を用いた患者を対象とした調査結果では,急性期病院やホスピスに比べ,長期療養施設での平均スコアが有意に低いことが示されている(Sinclair et al., 2021a).
コンパッション尺度に含まれる項目は,(1)内的志向性(相手の苦しみを和らげたい,相手を助けたい,支えたいなどの意思や動機),(2)対象理解や共感(相手を観察する,苦痛に気付く,相手の信念を尊重するなど),(3)上記(1)(2)を具現化する態度表出や行動(相手への配慮や苦痛緩和のコミュニケーション,専門的知識・技術に基づくケア実践などの行動)の3方向から捉えられていた.
殆どの尺度は(1)~(3)に関連する項目から構成されていたことから,コンパッションとは,他者理解や共感に基づき,相手の苦痛を緩和させる言動全般であり,特にコミュニケーションによって知覚されうるものとして捉えられていることが示された.Sinclair et al.(2016)は,コンパッションは内的動機と行動に単純に二分されるものではなく,動機-感情-認知-行動という連続的なプロセスであると述べている.本稿で考察の対象となった尺度も,これらのプロセスに関連する項目を含むものが多かった.既存の尺度を用いた調査においては,これらのどこに着目しているのかを明確にすることで,信頼性が高く実用的なデータが得られると考えられる.
また,一部の尺度を用いた調査からは,上記(2)(3)に含まれる観察可能な態度や行動は国や文化によって受け止められ方が異なる可能性が示唆された(例えば,尺度ID 1/3/12/13).これらを踏まえ,日本での尺度の適用を想定するならば,例えば,高コンテクスト文化と低コンテクスト文化の違いが問題となることも考慮すべきである.Hall(1976)はコミュニケーションを高コンテクストと低コンテクストの二つのスタイルに分類しており,高コンテクスト文化圏として,日本,中国,中東,ラテンアメリカを,低コンテクスト文化圏として,アメリカ合衆国,ドイツ,スカンジナビア,スイスを挙げている.高コンテクストコミュニケーションでは,情報がその場の状況や個人に内在しており,参加者同士の暗黙の了解や非言語的な手がかり,共有された文化的背景にコミュニケーションの在り方が大きく依存する.一方,低コンテクストコミュニケーションでは,情報の大部分は明示的な言語として表出される傾向が強く,メッセージの内容は曖昧さを避けて,詳細に言葉で説明される.日本のような高コンテクスト文化では,あえて相手に確認せずに汲み取る,相手の意図を察して行動することがコンパッションと捉えられやすい.対して,相手に確認する,明確に意思表示することが求められる低コンテクスト文化においては,日本的な行動はコンパッションの欠如として受け止められかねない.新たな尺度開発や既存尺度の翻訳,そして比較検討においては,このような文化圏の特徴も十分に吟味することが必要である.
2. 評価主体14尺度のうち自己評価尺度が10,他者評価尺度が4であった.自己評価尺度の評価主体は,医療従事職およびこれを目指す学生,関連職種であった.看護師が最も多いが(尺度ID 1/2/5/6/7/8/9),介護者を評価主体とする尺度もあった(尺度ID 10).多くの論文で,自己評価には社会的望ましさバイアスなどが介在する恐れがあり,実際の行動と乖離する可能性があることが指摘されていた.
他者評価は,いずれも患者を評価主体としていた.患者の多くは,何らかの疾病や障害を抱えているため,心身の状態や認知的負荷が医療従事者のコンパッション測定結果に影響することが考えられ,時には測定結果が妥当とはいえない場合もある.
コンパッションの測定にあたっては,自己評価,他者評価の特性を理解したうえで,両者のデメリットを補えるような評価主体と尺度の組み合わせが求められる.
3. 項目数今回取り上げた14尺度は,5項目から48項目と項目数に大きな幅が見られた.項目が少ない尺度は回答しやすいが,内容の網羅性や当該次元の妥当性に欠ける恐れがある.項目数が多い場合は重症患者や多忙な医療者にとっては負担となり,回答率や信頼性の低下を招く恐れがある.これらをふまえ,測定目的や対象者の状況に応じた柔軟な調査デザインが求められる.
4. 作成国と適用国多くの尺度はアメリカ,イギリス,カナダ,スペイン等のWEIRD諸国(Western, Educated, Industrialized, Rich, Democratic:西洋的で高学歴,産業化され,富裕で民主的な国々)で開発されていた.これらがアジアや中東など非英語圏で翻訳され,調査に用いられている.異文化適用が見られた8尺度のうち4尺度で,文化的価値観の違いや統計的な根拠から,項目削除が行われている.翻訳には概念的等価性や文化的適応の検証が不可欠である.ある文化圏において特有の姿勢や行動に関連する項目は,適用国での質的調査もふまえ,翻訳の際に適用国でみられる姿勢や行動に置き換えるなどの工夫が求められる.
また,文化的要因以外にも医療福祉の制度や疾病・障害などの要因が結果に影響する可能性がある.尺度の開発や適用に際しては,多国間協働や国際的に構成された専門家チームを交えた意見交換などにより,信頼性や妥当性を確保することも必要であると考えられる.
5. コンパッション測定の賛否Bradshaw(2009)は,「コンパッションとは見えない人格的な徳であり,それを測定する試みは,市場志向的な医療制度に迎合してケアを“マクドナルド化”する誤りである」と批判している.また,Sturgeon(2008)は,患者が看護師の複雑な職務内容を理解できないままスコアを付けることの限界や,見えるケアに偏重した評価への懸念を表明している.このように,コンパッションの測定を重視することに対しては,本来多様な側面を持つケアの本質が,表面的に理解された「コンパッション」という単一の概念に矮小化されてしまうのではないか,という疑念が提示されている.
このようにコンパッションの測定に対する批判はあるものの,医療現場のスタッフからの思いやりは患者によって知覚され,周囲の関係者や他のケアラー自身によって気づかれる面があることも事実である(Sinclair et al., 2021a).Sinclair et al.(2017a)は,コンパッションの測定尺度のレビューで次のように述べている.「コンパッションを測定することは困難な試みであるが,患者中心,思いやりのあるヘルスケアが重視される状況を鑑みると,ヘルスケアシステムや教育機関においてコンパッションを評価する包括的な道具は必須である」(p. 404).
緒言で述べた通り,看護をはじめとする医療福祉現場では,コンパッションは欠かせない要素である.そして,コンパッションの実践的な追求が,ケアのアカウンタビリティを確保するために必要とみなす国際的な趨勢も見逃すことはできない.以上により,その測定・評価は不可欠であると考えられる.
本研究の課題として,対象論文が英語の論文に限られていた点が挙げられる.英語以外の言語(例えば,ポルトガル語など)でもコンパッション尺度の調査論文が見出されたことをここで追記しておきたい.
コンパッション尺度を開発または適用した英語論文を対象として,文献を収集し整理した結果,コンパッションを測定する項目は(1)内的志向性,(2)対象理解や共感,(3)行動の3つの方向性に分類され,殆どの尺度がこれらの項目に関連して構成されていた.また,多くの尺度はWEIRD諸国で開発され,このうちの8尺度で翻訳版が作成されており,統計分析に基づいた項目削除や因子構造の変化がみられた.その背景には,医療制度やより広い文化的要因が考えられることから,新たな尺度開発や既存尺度の翻訳,そして比較検討においては,適用国の文化・医療制度等の特徴を十分に吟味することが必要である.
謝辞:本研究は日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究C(課題番号20K02280)の助成を受けたものである.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:TTは研究構想,研究デザイン,論文収集,収集論文の内容確認,対象論文の内容確認,論文執筆,論文校閲までの全体のプロセスに貢献した.KSはデータの視覚化(図表作成),対象論文の内容確認,論文執筆,論文校閲を行った.NKは研究デザイン,論文収集,収集論文の内容確認,文献情報の整理,論文執筆,論文校閲を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.