日本看護科学会誌
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総説
看護師による終末期患者の死の予測:スコーピングレビュー
神谷 綾子習田 明裕
著者情報
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電子付録

2025 年 45 巻 p. 1045-1061

詳細
Abstract

目的:看護師が終末期患者の死をどのような項目・視点で予測しているかを整理し,用語に表れる死の捉え方の違いを踏まえ,今後の研究への示唆を得ることを目的とした.

方法:JBI Manual for Evidence Synthesisに基づくスコーピングレビューを実施し,医中誌Web,CiNii,PubMed,CINAHLから文献を検索した.看護師による死の予測に関する文献(日本語・英語)を対象に,検索期間を設けずに収集・分析した.

結果:22編を抽出した.看護師は,客観的な医学的変化に加え,患者の表情や死に関する発言,家族や他職種の所感といった多面的な要素を活用していた.用語は疾患特性に応じて使い分けられており,判断の視点や構えに反映されていた.

結論:看護師の臨床判断は客観的評価と内面的感受性を統合していることが示唆された.判断過程の構造化は,終末期ケアの質向上と死の予測における臨床的理解に寄与する可能性がある.

Translated Abstract

Purpose: To clarify how nurses predict the death of terminally ill patients using the factors and viewpoints they employ, while considering variations in how death is conceptualized through terminology, and to obtain suggestions for future studies.

Methods: A scoping review, guided by the JBI Manual for Evidence Synthesis, was conducted. Literature was sourced from Ichushi-Web, CiNii, PubMed, and CINAHL. Literature (in Japanese and English) focusing on nurses’ prediction of death was collected and analyzed without publication date restrictions.

Results: Twenty-two pieces of literature were identified. Nurses utilized multifaceted elements, including objective medical changes, the patient's facial expressions and statements about death, as well as the observations of family members and other professionals. Terms were chosen based on illness-specific traits, mirroring distinct perspectives and stances on judgment.

Conclusion: The findings suggest that nurses’ clinical judgment integrates objective assessments with intuitive sensitivity. Structuring this decision-making process could improve end-of-life care quality and contribute to clinical insight into predicting death.

Ⅰ. 緒言

死にゆく人の尊厳を守り,「良い死」を迎えられることは,その死に携わるすべての者にとって大切なことである.日本人の「良い死」として,心身の安楽が保たれ,家族や医療スタッフと良好な関係を保つこと,死への準備が挙げられている(Hirai et al., 2006).患者は,生命予後よりもいつまで会話や食事などの日常生活動作が可能か,機能的な予後についての情報を必要としている(Hamano et al., 2022).このような今後起こり得る生活上の支障について時宜を得て伝えていくことは,看護師にも可能であり,患者や家族の予後理解に寄与する(石川ら,2018).患者や家族は今後の見通しを持つことで,残された時間をどのように過ごすか決めることができ,最期までその人らしく過ごすことに繋がる.

予後予測研究は,がん患者に特化して国内外で確立され(Morita et al., 1999Pirovano et al., 1999Gwilliam et al., 2011),月単位から3週間以内の予後をある程度予測できるようになった.また,死亡直前の多くの臨床所見が統計的に明らかになり(Hui et al., 2014, 2015),医療者は患者の死が差し迫っているかどうかある程度予測することが可能となった.しかしながら,近年の研究において,予後予測ツールの精度は,医師や看護師からなるチームの合意による臨床的予測を下回ると報告されており(Stone et al., 2021),ESMO(European Society for Medical Oncology)ガイドライン(Stone et al., 2023)においても臨床的予測が推奨されている.予後予測ツールの項目を概観すると定量的な特徴を持つがゆえ,医学的所見による項目がその多くを占めており(熊谷・前川,2012),他の要素は十分に含まれていない.

看護師の予後予測の研究では,Lunney et al.(2002)の死亡までの経過分類別にみるとがん(熊谷ら,2011, 2012, 2015),慢性疾患(山根・中島,2020坂本,2023小林ら,2024),老衰(高山・三重野,2005林ら,2019岩瀬・勝野,2013岩瀬,2018, 2020)など疾患による検討や,看護師の経験知や暗黙知に着目した研究がある(萩田・大村,2021小林ら,2024).さらには,患者の身体的変化に依らない死の予測に関する研究がある(山下ら,2014, 2016).これらの研究において,死の予測を表す用語として「予測」,「察知」,「予見」などが用いられているが,それぞれの用語が死期をどのように捉えているのか,またその視点の違いが予後予測項目にどのように反映されているのかについては,十分に明らかにされていない.看護師が患者を全人的に捉える視点は,看護の根幹を成すものであり,そのような視点から導かれる予後予測項目は,看護師の臨床的予測の特徴を理解する上で重要であると考える.

本研究では,看護師による終末期患者の死の予測に関する文献を包括的にレビューし,予測に用いられる項目の全体像を明らかにするとともに,それらの項目を表現する用語に表れる死の捉え方の違いに着目し,看護師の臨床的予測の視点を多角的に探究することを目的とした.

Ⅱ. 用語の定義

終末期患者:終末期医療に関するガイドライン策定検討会(厚生労働省,2009)によると,終末期は以下の三つの条件を満たす場合に定義される.第一に,医師が客観的な情報を基に,治療による病気の回復が期待できないと判断すること.第二に,患者が意識や判断力を失った場合を除き,患者・家族・医師・看護師等の関係者が納得すること.第三に,患者・家族・医師・看護師等の関係者が死を予測し,対応を考えることである.

本研究では,終末期患者を治療による回復が困難で死が避けられない状態にあり,看護師が死を予測し対応を考える患者と定義する.また,終末期はその期間を予め定めることは困難であり(厚生労働省,2009),死を予測する時期(予測のタイミング)は限定しないこととする.

看護師の死の予測:看護師が対象者の身体的・心理的・社会的・スピリチュアルな変化を総合的に捉え,生命の終末が近づいていると判断する一連の認知と感覚の働きを指す.

Ⅲ. 方法

本研究では,スコーピングレビューを実施した.スコーピングレビューとは,「研究領域の基盤となる主要な概念,主な情報源,利用可能な文献や情報を迅速に概観すること」(Arksey & O’Malley, 2005)と定義され,研究する必要がある未解決な部分を特定することを目的としている(友利ら,2020).看護師による死の予測に関する先行研究は,用語や判断の視点が多様であり,知見が断片的である.そこで本研究では,これらの知見を広く多角的に整理し,体系的に把握するためにスコーピングレビューを選択した.これにより,臨床的予測の可能性を検討し,今後の研究への示唆を得ることを目的とした.本研究では,JBI Manual for Evidence Synthesis(2020 ver.)(Peters et al., 2020)に則り,文献検索および精読を行った.PRISMA‑ScRに準拠した対応表は,付録に示した.文献検索には,PCCフレームワークを用い,包含・除外基準は表1に示した.なお,本レビューは事前にプロトコルを登録していない.

表1 PCCの枠組み,文献選択の包含基準・除外基準

PCC 包含基準 除外基準
Population(対象者)
・看護師
Concept(概念)
・死の予測
《研究目的,死を予測した内容,その死を予測する観点(身体的,心理的,社会的等)》
Context(文脈)
・終末期
・看護師による死の予測に関する記述を含む文献(主観的判断,徴候,または気づきに関する記述を含むもの)
・対象患者が終末期にある文献
・日本語または英語で記載された文献
・看護師による死の予測に関する判断過程の記述がない文献(主観的判断,徴候,または気づきに関する記述を含まないもの)
・患者の状況が終末期でない文献
・18歳以下の対象者を含む文献
・他の職種による死の予測である文献
・解説,文献レビュー,学会発表抄録

1. 文献検索方法と選定・除外基準

国内文献は,文献データベース医中誌WebとCiNiiを用いた.文献を網羅的に収集するため,検索期間の限定は行わなかった.医中誌Webは収録開始年から2025年まで,CiNiiはデータが蓄積されている年から2025年までを検索対象とした.国内文献のキーワードについて,広辞苑と類義語辞典を参考に検索ワードを検討した(表2).これらの検索語は,看護師が死をどのように捉え,どのような視点で臨床判断を行っているかを反映するものである.看護師の臨床判断は,Tanner(2006)のモデルに示されるように,「気づき」から始まり,解釈,反応,振り返りへと展開する.しかし,この「気づき」の内的構造は理論的にも経験的にも十分に解明されておらず,実践においても一様に定義されていない.本研究では,この多様な「気づき」を捉えるために,Rosch(1973)のプロトタイプ理論とFillmore & Atkins(1992)のフレーム意味論を参考に,抽出語の意味的特徴を整理した.各語が示す「判断の視点」(死の捉え方)と「判断の姿勢」(判断に臨む態度・構え)に着目し,それらをプロトタイプ的に整理した.その結果を表2に示し,各用語の意味的特徴を中心/周辺の両側面から記述した.

表2 文献検索語 選定過程の整理表

検索用語 広辞苑の語義 判断の視点 判断の姿勢 使用される文脈例 予測項目の例 プロトタイプ的
中心性
フレーム(判断状況)
類義語
看護
nurse
予後 prognosis ①〔医〕罹患した場合,その病気のたどる経過についての医学上の見通し.
②俗に,病後の経過.
医学的・診断的・時間軸に基づく 能動的・計画的・見通しを立てる 看護師が,呼吸状態やバイタルサインなどの明確な身体的変化をもとに,死期の見通しを立てる場面 呼吸困難,血圧低下,尿量減少,意識レベルの低下,チアノーゼなど 中心的(典型的な死の徴候に基づく判断.語義と使用実態が一致しており,プロトタイプの中心に位置づけられる) 医学的知見と臨床所見に基づく予後の見積もり.死期までの時間軸を意識した判断場面で用いられる.判断は主に身体的変化に基づいており,看護師の観察と評価により構成される.
死/死亡
death
予測 prediction 将来の出来事や有様をあらかじめ推測すること.前もっておしはかること.
予期 anticipation あらかじめ待ち設けること.前もって推測・期待・覚悟すること. 「予期」は検索語として設定していたが,本研究で抽出された文献には含まれていなかったため,意味的特徴以下の項目の記載はなし.
察知 sense おしはかって知ること. 観察的・経験的・感覚的 日々のケアの中で培われた観察に基づく,微細な変化への気づきの姿勢 特養における高齢者の死の約1か月前に見られる微細な変化に気づく場面 食欲不振,傾眠,眼の変化,声の変化,活動性の低下,体重減少など 中心~周辺(身体的変化に基づくが,明確な指標ではなく,微細な兆候への感受性が求められる) 日常的なケアの中で,明確な医学的指標がない中でも,患者の微細な変化を拾い上げる判断状況.特に高齢者施設などでの継続的観察に基づく.
予知 forecast※1 前もって知ること. 感覚的・非言語的・直感的 日々のケアの中で培われた感受性に基づき,明確な根拠がない中でも患者の変化や雰囲気を多角的に感じ取ろうとする姿勢 明確な身体的変化がない段階で,患者の言動や雰囲気,視線,発言などから死期の近さを感じ取る場面 患者の発言,言語化困難な違和感,空気感の変化,視線の変化など 周辺的(典型的な身体的徴候からは外れた,非言語的・感覚的な判断) 明確な医学的指標が得られない状況で,患者の雰囲気や言動,看護師自身の感覚をもとに死期の近さを感じ取る判断場面.多角的かつ非明示的.
予見 foresight, foresee※1 事がまだ現れない先に,推察によってその事を知ること.予知.
予感 hunch, premonition※1 事をあらかじめ暗示的に感ずること.虫のしらせ.
直感/直観 intuition, sixth sense (直感)推理や考察によらず,感覚によって物事の状況などを瞬時に感じ取ること.
(直観)推理などの論理的判断によらず,ただちに対象の本質を見抜くこと.
感覚的・即時的(直感)
洞察的・全体的(直観)
経験や関係性の蓄積に基づき,言語化困難な違和感や気配を瞬間的に感じ取る姿勢 身体的変化が明確でない段階で,患者の存在感や空気の変化から死期の近さを“感じる”場面 言語化できない違和感,患者の雰囲気の変化,空気感の変化,説明できない「何かおかしい」感覚 周辺的(判断の根拠が明示されず,語り手の感覚に依存する) 明確な指標や観察項目が存在しない中で,看護師が経験や関係性を通じて,瞬間的に死の近さを感じ取る判断場面.言語化が困難で主観的.
判断※2 ある物事について自分の考えをこうだときめること.また,その内容.判定.断定. 論理的・統合的・意思決定的 複数の情報や観察結果をもとに,死期の近さを見極めようとする構造的・意図的な姿勢 身体的変化や患者の状態を総合的に捉え,「そろそろだと思う」「もう長くないと判断した」と語られる場面 呼吸状態の変化,意識レベルの低下などの身体的変化に加え,表情や関係性の変化,ケア場面での違和感など,心理的・社会的な要素も含まれる. 中心的(判断の語義と使用実態が一致し,典型的な意思決定プロセスを示す) 身体的・心理的・環境的な複数の情報を統合し,死期の近さを見極める場面.ケアの方向性や家族対応を考慮する必要がある状況で用いられる.
経験知/暗黙知※2※3 広辞苑に記載なし/明確に言葉で表現することが困難な直観的・身体的・技能的な知識をいう. 実践的・身体的・非言語的 日々のケア実践を通じて蓄積された知に基づき,言語化困難な変化や気配を捉えようとする姿勢 看護師が「経験的にわかる」「言葉にできないけど感じる」と語る場面. 表情や雰囲気,空気感,関係性の変化,患者の語りなど,経験に基づく感受性によって意味づけられる多様な要素が予測項目として挙げられている. 周辺的(判断の根拠が明示されず,語り手の経験に依存する) 長期的なケア経験や患者との関係性の蓄積を通じて,言語化されない知識が判断に活かされる場面.特に熟練者による直感的判断に現れる.

※1:「予知」「予見」「予感」は,文献上では語ごとに使い分けられているが,いずれも明確な身体的変化がない段階で,看護師が患者の雰囲気や言動,感覚的な違和感をもとに死期の近さを感じ取る判断を表している.本研究では,これらの語が共通する判断状況に属しており,プロトタイプ理論における周辺的カテゴリーのバリエーションと捉え,1カテゴリとして統合して整理している.※2:「判断」「経験知/暗黙知」は検索語に含めていないが,抽出文献において一定の使用傾向が見られるため,分析対象に含めている.※3:「経験知」と「暗黙知」は理論的には異なる概念であるが,いずれも実践に根ざし,言語化されにくい判断の基盤として共通する性質を持つため,本表では1カテゴリに統合して示している.

国外文献の検索式は,国内で実施した検索式を参考にし,対応する単語を和英辞典で検討し,作成した.また適宜検索を行い文献中の表現を参考にした.PubMedは主要な収録期間から2025年まで,CINAHLは収録開始年から2025年までを検索対象とした.また,適宜図書館司書に相談し,最終的な検索式を決定した(表3).

表3 各データベースの文献検索式

学術論文データベース 検索語および検索式 絞り込み条件
医中誌 230件
最終検索日2025/7/12
(((看護師/TH or 看護師/AL) and (((予後/TH or 予後/AL) and (("予測(社会科学)"/TH or 予測/AL) or ("予期(心理学)"/TH or 予測/AL))) or 予後予測/AL) or (看護師/TH or 看護師/AL) and ((死亡/TH or 死/AL) or (ターミナルケア/TH or 終末期/AL) or (ターミナルケア/TH or エンドオブライフケア/AL)) and ((("予測(社会科学)"/TH or 予測/AL) or ("予期(心理学)"/TH or 予測/AL)) or ("予期(心理学)"/TH or 予期/AL) or 察知/AL or ("予期(心理学)"/TH or 予知/AL) or 予見/AL or 予感/AL or (直観/TH or 直観/AL) or 直感/AL)) and (PT=原著論文 and SB=看護)) 原著論文
看護
CiNii 43件
最終検索日2025/7/12
看護師 AND ((予後 AND 予測) OR 予後予測) OR 看護師 AND (死 OR 終末期 OR エンドオブライフケア) AND (予測 OR 予期 OR 察知 OR 予知 OR 予見 OR 予感 OR 直観 OR 直感) 紀要論文
学術論文
PubMed 93件
最終検索日2025/7/2
((("Nurses"[Mesh]) AND ("Prognosis prediction")) OR (("Prognosis"[Mesh]) AND (prediction))) AND ((("Death"[Mesh]) OR ("Terminal Care"[Mesh]) OR "End-of-Life care" OR "Terminal phase") OR (("Terminal Care"[Mesh]) AND ("Hospice Care"[Mesh]))) OR (("Nurses"[Mesh]) AND (("Death"[Mesh]) OR ("Terminal Care"[Mesh]) OR "End-of-Life care" OR "Terminal phase" OR ("Terminal Care"[Mesh] AND "Hospice Care"[Mesh])) AND (("Prognosis"[Mesh]) OR (prediction) OR (Expectations) OR ("Sensation"[Mesh]) OR ("Forecasting"[Mesh]) OR (foresight) OR (foresee) OR (hunch) OR (premonition) OR ("Intuition"[Mesh]) OR (sixth sense))) AND ("journal article"[pt]) AND ("Nurs*"[Affiliation]) English
Japanese
Humans journal article
Nurs*[Affiliation]
CINAHL 331件
最終検索日2025/7/2
(MM "Nurses" AND (("Prognosis prediction" OR (MM "Prognosis+/NU" AND Prediction) AND (MM "Death+" OR MM "Terminal Care" OR MM "Hospice Care")) OR (MM "Nurses" AND (MM "Death+" OR MM "Terminal Care" OR MM "Hospice Care" OR Terminal phase OR End-of-Life care) OR (MM "Prognosis+/NU" OR Prediction OR Expectations OR MM "Sensation+" OR MM "Forecasting" OR foresight OR foresee OR hunch OR premonition OR MM "Intuition" OR sixth sense) 英語,日本語
査読,人間
第一著者が看護師
すべての大人

文献選択の包含基準,除外基準について表1に示す.文献の選択は,筆頭著者が選定基準に従って,タイトルと要旨を確認した.タイトルと要旨で除外できない文献は,共著者を含む2名で検討した上で選抜を行った.

2. データの抽出

採用された文献から,著者,発表年,研究が実施された国,タイトル,死を予測する観点,死を予測した項目,患者の属性(疾患または年齢層,看取りの場),研究目的,看護師の属性(専門性,対象者数),研究方法(データ収集方法,分析方法),主な結果,文献のキーワードを抽出し,要約,分類した.

Ⅳ. 倫理的配慮

文献は,すべて公開されている文献を用いた.また,引用する場合は,出典を明記することで,著作権などの侵害がないように配慮した.

Ⅴ. 結果

1. 文献の選定

検索結果を図12に示す.国内文献は,医中誌Webで230編,CiNiiで43編の合計273編に加え,ハンドサーチにより3編が抽出された.国外文献は,PubMedで93編,CINAHLで331編の合計424編に加え,ハンドサーチにより1編が抽出された.検索で得られた文献の重複を削除したのち,タイトルと要旨を確認し,選定基準に沿って文献を選抜した.この一次スクリーニングでは,研究主題と関連しない文献(テーマ不一致)および除外基準への該当の有無を確認し,適合しない文献を除外した.保持された文献は二次スクリーニング(全文確認)を行い,適格性を評価した.Web上で閲覧できない文献を取り寄せ,全文を確認したのち,採用文献を選定した.最終的に採用された国内文献は20編,国外文献は2編,計22編であった.

図1  文献抽出過程(PRISMAフローチャート) 和文献
図2  文献抽出過程(PRISMAフローチャート) 英文献

2. 採用文献の概要

文献の概要を表4に示す.著者が使用している「死の予測」を表現する用語に沿って分類した.「予後・予測」5編,「予測・直感/直観」3編,「予測/洞察/判断」1編,「察知」4編,「予知(予感)」1編,「予知」2編,「予見」1編,「経験知」1編,「暗黙知」1編,「判断」3編であった.対象者の疾患または年齢層などによる分類では,がん3編,慢性疾患3編,高齢者8編,がん・慢性疾患・高齢者の3分類1編,慢性疾患・高齢者(療養病床)1編,限定なし6編であった.研究デザインは,質的研究13件,量的研究3件,尺度開発検証研究3件,コンセンサス形成研究2件,混合的研究1件であった.

表4 看護師の終末期患者の死の予測 文献概要

使用語分類 ID 著者
発表年
タイトル 死を予測する観点 死を予測した項目 患者の属性 研究目的 看護師の属性
対象者数
研究方法 主な結果 キーワード
疾患または
年齢層
看取りの場 データ収集方法 分析方法
予後・予測 1 熊谷ら(2015)日本 訪問看護師が評価した終末期胃がん患者の予後10日および3日の予測項目 身体的変化 ・安静時の呼吸困難
・肩呼吸・下顎呼吸・喘鳴
・呼吸リズムの変化・無呼吸
・不整脈の出現・脈の緊張
・血圧低下・末梢の浮腫・尿量減少/無尿
・傾眠・昏睡・倦怠感
・顕著な骨突出・口内乾燥
・口臭・発熱・褥瘡
・便失禁・尿失禁・腹水貯留
・食欲不振・嘔気・嘔吐
・嚥下困難・歩行困難・座位保持が困難
・ベッドから起き上がれない
胃がん 在宅 訪問看護師の胃がん患者の予後10日と3日を簡便に予測する症状や徴候の意見の明確化 訪問看護師
72名
デルファイ法 内容妥当性の評価
適切率を量的に検証
予後3日の適切率が有意に高かった症状や徴候は,呼吸器系,・肩呼吸/下顎呼吸・喘鳴など8項目.意識レベル,手足を動かせない・昏睡など3項目であった 記載なし
2 熊谷ら(2012)日本 終末期がん患者の予後予測項目の検討 肺・胃直腸結腸がん 病棟
在宅
看護師が終末期,肺・胃・直腸結腸がん患者の予後10日と3日を予測する有用な項目の明確化 がん看護専門院生,院修了者,
がん看護に携わる
病院看護師
訪問看護師
44名
自記式質問紙 内容妥当性の評価
適切率の比較を量的に検証
予後10日では,「倦怠感」「生気・活気のなさ」「食欲不振」の3項目が,肺・胃・直腸結腸がんに共通していた.予後3日では呼吸器症状3項目,循環器症状4項目,意識レベル2項目,全身状態5項目,日常生活動作レベル3項目,そのほか1項目の計17項目が共通していた. がん患者,終末期,予後予測項目
身体精神的変化 ・混乱/せん妄・生気/活気のなさ
・目がうつろになる
・発語減少
3 熊谷ら(2011)日本 終末期がん患者の予後予測項目に対する訪問看護師と病院看護師の評価 精神的変化 ・感謝の言葉を述べる(ID2.3) 終末期がん(肺・胃・直腸結腸)患者の予後予測項目に対する訪問看護師と病院看護師間の評価の相違の明確化 がん看護領域臨床経験5年以上
訪問看護師27名
病院看護師17名
自記式質問紙 内容妥当性の評価
適切率,属性の比較を量的に検証
訪問看護師のみが適切と評価した項目.予後10日,肺がんで発語減少,胃がんでベッドから起き上がれない,直腸結腸がんで嚥下困難.予後3日,肺がんで昏睡,胃がんで脈の緊張,結腸直腸がんで不整脈であった. がん患者,終末期,訪問看護師,病院看護師,予後予測項目
看護師の感覚 ・昨日とは違うという感覚(ID2.3)
4 片山ら(2014)日本 がんを含む慢性疾患3類型別にみた訪問看護師の予後予測の的中率と症状との関連 身体的変化 ・疼痛・全身倦怠感・便秘・下痢
・浮腫・呼吸困難
がん
慢性疾患
高齢者
在宅 がんを含む慢性疾患を3群に分類し,疾患類型別の訪問看護師の予後予測の的中率と予測時点に出現していた利用者の症状との関連を明確化 施設票61票
訪問看護師130票
自記式質問紙 訪問看護師の判断の的中率,判断と実際の差について量的に検証 A型(がん)は疼痛,全身倦怠感などの5症状.B型(慢性疾患)は全身倦怠感,浮腫などの4症状.C型(認知症など)は便秘・下痢と全身倦怠感の増悪があり,3型共通に悪化期にかけて呼吸困難の増強があった. 予後予測,訪問看護師,的中率,慢性疾患
身体精神的変化 ・認知力低下・せん妄・不眠
精神的変化 ・抑うつ気分・不安
5 佐藤ら(2012)日本 療養病床における終末期のケアに関する研究 終末期徴候の特徴 身体的変化 ・呼吸器機能の低下・循環機能の低下・表情の変化・腎機能の低下・食欲の減退・嚥下機能の低下・消化器機能の低下・咀嚼機能の低下・栄養指標の低下・皮膚・粘膜組織の脆弱化・るい痩・意識レベルの低下・睡眠・臥床時間の延長・生体反応の鈍化 療養病床患者 療養病棟 療養病床における患者の予後予測におけるアセスメントの暗黙知を可視化. 療養病床
看護師13名
患者11名カルテの記載/半構成的面接 質的記述的 インタビュー調査の結果から患者カルテの記述内容を分析した結果【脳神経機能の衰退】など4カテゴリーが抽出された. 療養病床,終末期ケア,徴候
精神的変化 ・生きる気力の喪失
予測・直感/直観 6 Johnson et al.(2014)英国 ナーシングホームにおける終末期の診断,予後予測,終末期の認識:ゴールドスタンダードに向けて 身体精神的変化 ・飲み物を拒否するようになる
・内服を拒否する
・一瞬回復したように元気になる
医療的ケアが必要な高齢者 ナーシングホーム ナーシングホームの関係者が認識する終末期ケアの側面の明確化 2施設関係者43名
内看護師12名
半構成的面接
参与観察
質的記述的 特に末期がん以外の病状では,死期の判断は難しく,直感的であり,LCPの基準に沿わないことが多い.仕事のやり方,システム,文化も終末期ケアをサポートするように変化が必要である. awareness, communication diagnosis of dying end-of-life care nursing homes
看護師の感覚 ・看護師が直感的に分かる
7 Domeisen Benedetti et al.(2013)ヨーロッパ9か国 人生の最期の数時間~数日を示す現象についての国際的な緩和ケアの専門家の見解 身体的変化 ・死前喘鳴・呼吸リズムの変化
・呼吸の変化
・意識レベルの低下と悪化
・呼吸パターンの変化
・不可逆的な意識の悪化
・大理石のような肌
・身体的劣化・全身状態の急速な悪化
・昏睡状態
・臓器不全・飲めない・四肢の冷感
・飲食の摂取量なし・半昏睡状態
・末梢循環不全
・鼻や口の周りが青白い・嚥下不可能
限定なし 限定なし 患者の最期の数時間~数日を特定し,予測するための現象について,専門家のコンセンサスの明確化. 医療従事者
ボランティア
一般市民252名
デルファイ法 内容妥当性の評価
適切率を量的に検証
21項目7カテゴリー【呼吸の変化】【意識・認知機能の変化】【経口摂取の変化】【皮膚の変化】【情動的な状態の変化】【全身状態の悪化】【医療者の直観】が抽出された. Phenomena Delphi technique Last hours/days of life
身体精神的変化 ・落ち着きのなさ
医療者の感覚 ・医療者の直感/直観
予測・直観 8 井本ら(1996)日本 看護婦の死の予測と直観能力との関連性 身体的変化 ・死前喘鳴・青あざの急激な増加
・顔の艶がなくなる・鼻筋が尖る
・急激な尿量減少・気弱になる
・生をあきらめる言葉
限定なし 病棟 看護婦の直観能力と死の予測の関係性の明確化. 20~50代の看護婦21名 半構成的面接
質問紙
死の予測項目を抽出
黒田本質的直観能力尺度との関連を検討
死を予測した現象は,経験を積むことで生理的ニードだけでなく,精神・社会的ニードまで及ぶ.死期の看護においては,看護婦の直観能力の高さ,特に感受性と経験の豊かさが死の予測と関連がある. 記載なし
身体精神的変化 ・穏やかな表情・挿入物の自己抜去,暴れる,落ち着きのなさ
・視線が合わない虚ろな目
精神的変化 ・周囲への感謝の言葉
・傍にいてくれることを望む言葉
・死を受け入れるような言葉・帰宅願望
・治療行動の受容
看護師の感覚 ・部屋に入った瞬間に感じる独特な臭い
予測/洞察/判断 9 小林・山下(2016)日本 特別養護老人ホームの看取りケアにおける看護職員の実践 身体的変化 ・看取りの段階に入る身体の徴候に早く気づくための観察(食事状況,声が出づらい)
・呼吸状態と変わりゆく全体の姿からの死期の洞察(呼吸状態,チアノーゼ,全体の様子)
高齢者 特養 施設入所から死亡後までの長期的視点を踏まえ,看取りケアに取り組む特別養護老人ホームの看護職員が,看取り看護をどのように実践しているかの明確化. 特養看取りケア
リーダー的役割
看護師8名
半構成的面接 質的記述的 看取り看護は,【高齢者と家族の意思の尊重】【アセスメントと予後予測】【その人らしい生活の模索と援助】【家族に対する死の準備教育】【家族が納得できる状況づくり】の5カテゴリーに基づく施設入所時から死後に至る長期的かつ連続的な過程である. 特別養護老人ホーム,看取り,看護職員
察知 10 岩瀬(2020)日本 介護老人福祉施設の看護師が高齢者の死の約1か月前に察知した症状や変化の妥当性の評価 身体的変化 ・食事摂取量の減弱・できなくなる食事摂取・嚥下機能の低下・傾眠傾向・反応鈍麻・浮腫の増減・声の減弱・表情の変貌・苦しげな食事摂取・著しい体重減少・阻止できない体重減少・顔色の変化・発熱する 高齢者 特養 特養看護師が高齢者の死の約1か月前に察知した症状や変化を統計的に評価 特養施設
看護師256名
自記式質問紙 質内容妥当性の評価
適切率を量的に検証
身体機能面の変化項目のスコア平均が4.1 ± 0.8,精神心理面の変化項目のスコア平均が3.1 ± 1.0であった. 記載なし
11 岩瀬(2018)日本 介護老人福祉施設に勤務する看護師が高齢者の死の約1か月前に察知した症状や変化 身体精神的変化 ・食事の意欲がない・食事を拒否する
・失われる目の輝き・会話が減少する
・どこを見ているかわからない視線
・声のトーンの低下
介護老人福祉施設に勤務する看護師が高齢者の死の約1か月前に察知した症状や変化の明確化 特養施設
看護師20名
半構成的面接
参与観察
質的記述的 症状や変化として【高齢者が訴えた死の恐怖】【意欲の減弱】【食事摂取機能の低下】【形相の変化】【眼の変化】【声の変化】【他覚症状の出現】【活動性の低下】【体重減少】の9項目が抽出された. 死の察知,介護老人福祉施設,看取り,高齢者,症状や変化
12 岩瀬・勝野(2013)日本 看取りを積極的に行っている特別養護老人ホームにおいて看護師が高齢者の死期を判断したサインとそのサインを察した時期 精神的変化 ・死にたくないという
・死の恐怖を訴える
・生きる気力がない・減弱するこだわり
特別養護老人ホームにおいて看護師が高齢者の死期を判断したサインとそのサインを察した時期の明確化 特養施設
看護師8名
半構成的面接 質的記述的 死の1か月前の第1段階のサインとして【目力のなさ】など12カテゴリー,約2日前に発せられる第2段階のサインは【呼吸状態の変化】など3カテゴリーが抽出された. 特別養護老人ホーム,看取り,死期のサイン,高齢者,死期を察知した時期
13 林ら(2019)日本 高齢者の臨死期における看取りケア―熟練看護師のナラティブから― 身体的変化 ・呼吸は乱れ不規則になる
・表情がなくなる・目の輝きがなくなる
・自分でできたことができなくなる
・血流が悪くなった黄色や黒っぽい皮膚
・食事量が極めて少ない
高齢者 病棟
高齢者
施設
訪問看護
看護師が高齢者の臨死期の兆候をどのように捉え,看取りケアを実践しているのかの明確化 老人看護
専門看護師を含む熟練看護師15名
フォーカスグループインタビュー 質的記述的 【臨死期の兆候:経験知から判断】【余命を見極める難しさ:臨死期に近づく徴候を捉える】【看取りへつなぐ:臨死期が近い現実を医師や家族と共有】など6の最終ラベルが抽出された. 高齢者,看取りケア,臨死期,エンドオブライフケア,質的統合法
身体精神的変化 ・会話がなくなる・急に話し出す
・食べてない人が急に食べたいと言い出す
精神的変化 ・苦痛や恐怖が現れる
看護師の感覚 ・今までと違う匂いがする
予知(予感) 14 前田ら(2014)日本 看護師の暗黙的な情報処理技術に関する研究 死の予知ができる看護師は存在するか 身体精神的変化 ・急に元気になる
・つじつまの合わない発言
・表情が急に優しくなる
限定なし 一般/療養病棟 明らかな生命徴候の変化によらず,看護師による患者の死が近いことを知る技術の実在とその技術をもつ看護師の特性の明確化 療養型病棟
看護師25名
自記式質問紙 直近で亡くなった患者に対し,死を予見した看護師と,それを聞いた看護師の有無を検証 25名中11名の看護師が1~4名の範囲で,11名の死亡事例について亡くなる前に死期を予感した.死期を予見した看護師本人の他に予見を聞いた看護師がおり,死期の予見が事実であることが明らかとなった. 看護技術,暗黙知,経験知,臨床判断
精神的変化 ・自分はだめだと話す・生まれた家に帰りたいと言った・今までより不安を強く訴える
看護師の感覚 ・臭いがしなくなった
周囲の人の反応 ・他の患者が落ち着かない
予知 15 北島ら(2016)日本 看護師の急変予知についての主観的報告の表現特徴 経済学的考察 看護師の感覚 ・におい 限定なし 精神科病棟 入院患者の急変を予知する看護師の傾向と予知内容の明確化 精神科単科病院
看護師15名
フォーカスグループインタビュー 質的記述的 患者の急変を予知する看護師の指標の一つは患者から発せられる臭いであることが示唆された. 暗黙的な看護技術,看護師経験,外部経済私的価値,社会的価値
16 山下ら(2016)日本 看護師の急変予知についての報告の表現特徴 心理学的考察 身体的変化 ・皮膚の色:どす黒くなる 限定なし 精神科病棟 質問紙調査と同様の急変予知体験内容についてインタビュー調査で得られるか検討 精神科単科病院
看護師15名
グループディスカッション 質的記述的 急変予知の内容として,【看護職が認知した患者の変化】【患者の発言】【看護職の所感】【言語化困難】【その他】の5つの項目に分類し,内容が明確化された. 急変予知,死,言語化困難,知覚,障害物知覚
身体精神的変化 ・顔つきが変・目つき・目の動きが変わる
精神的変化 ・患者の発言:御礼を言う
看護師の感覚 ・におい:線香のにおい
予見 17 前田ら(2015)日本 看護職による入院患者の死期予見研究における情報学的考察 身体的変化 ・顔色の変化 限定なし 限定なし 看護師の死期予見に関する質問紙調査結果を,Blum(1986)の定義に基づき解釈する試み. 認定看護師教育課程(認知症看護,感染管理)の受講者および教員36名 Webフォーム無記名式アンケート調査 質的記述的 予見時の感覚として17の自由記載データが得られた.また死期予見ができる看護師の特徴として看護経験が長いという結果が得られた. データ,情報,知識,暗黙知
身体精神的変化 ・患者の顔貌,表情が違う・活気がない
看護師の感覚 ・空気の重さ
・亡くなるのではないかと直感的に感じた
経験知 18 萩田・大村(2021)日本 特別養護老人ホームでの看取りにおける看護師の経験知に基づく予後予測項目の内容妥当性の検討 身体的変化 (看取りの開始時期)・嚥下に,かなり時間がかかるようになってくる(予後10日~1週間程度)・昼夜傾眠状態が続き,呼びかけに対してかすかな反応しかみられなくなる・全身の皮膚が乾燥して張りが無くなる.あるいは,透明感のある綺麗な状態になる(予後2.3日程度)・浮腫が青白く変色してくる・ほうれい線が下がる,眼窩が落ちくぼむなど,顔貌が変化してくる(予後数時間以内)・足趾から足底にかけてチアノーゼが出現してくる・下顎呼吸が出現するようになる 高齢者 特養 特養で予後を予測する看護師の情報を項目化し,統計的に検討 特養に勤務する看取り経験が豊富な看護師72人 自記式質問紙 内容妥当性の検証 72人の有効回答を得た(回収率36.6%,有効回答率97.2%).また,I‑CVIが0.80以上の43項目について,内容妥当性が確認された. 特別養護老人ホーム,看取り,予後予測,看護師の経験知,内容妥当性
身体精神的変化 (看取りの開始時期)・目の焦点が定まらず,表情がうつろになってくる
看護師の感覚 (予後10日~1週間程度)・これまでになかったにおい(死臭,ケトン臭など)が感じられるようになる
周囲の人の反応 (看取りの開始時期)・ほかの職員や家族から「だんだん弱ってきている」など衰弱の変化をとらえた発言が聞かれる・ほかの職員から,「看取りの時期が近いのではないか」という発言が聞かれる(予後2.3日程度)・他の職員から,死が間近なことを予測した発言が聞かれる
暗黙知 19 小林ら(2024)日本 看護師の暗黙知に基づく看取りケアへの移行を判断する予後予測指標の開発-非がん性呼吸器疾患患者に焦点をあてて 身体的変化 ・日常観察される疲労感や眠気により反応とも異なり,とろとろ寝ている・顔色が真っ青ではなく土気色やどす黒くなる 非がん性呼吸器疾患患者 病棟 看護師の暗黙知に基づき,非がん性呼吸器疾患患者の看取りケアへの移行を判断するための予後予測指標の開発. 臨床経験5年以上看取り経験のある看護師33名 自記式質問紙 内容妥当性の評価 予後予測指標案28項目の内容妥当性についてCVIを用いて調査し,CVI0.78以上の4項目とCVI 0.67~0.73を示した14項目について暗黙知に基づく予後予測指標項目として抽出された. 予後予測,暗黙知,エンドオブライフケア,非がん性呼吸器疾患患者
身体精神的変化 ・つじつまの合わない会話をし始める・力が抜けているような目になる・どこを見ているか分からない目線やぼんやりとした表情になる
精神的変化 ・一人でいるのが淋しく,不安であると普段よりも強く訴える・攻撃的な言動がなくなる・「ありがとう」など感謝の気持ちを伝える言動がある・慣れ親しんだ家に帰りたいと言う
判断 20 坂本(2023)日本 心不全終末期患者へのend-of-lifeケアの明確化(第一報)看護師のケアの移行に関する判断内容 身体的変化 ・食欲の低下・尿量の低下・筋肉量の低下・全身の浮腫・下肢がパンパンに浮腫む・トイレ歩行ができなくなる・自発的な生活行動の減少 心不全 病棟 心不全終末期患者のend-of-lifeケアへ移行するきっかけとなった看護師の判断内容の明確化 循環器病棟
看護師6名
半構成的面接 質的記述的 end-of-lifeケアへの意向の判断内容は【表情や目の力から覇気がないと感じ,大事にしてきた価値・信条へのこだわりがなくなり,弱さを感じた】などの7カテゴリー4つのテーマが抽出された. 心不全の終末期患者,エンドオブライフケア,ケアの移行
身体精神的変化 ・食事への喜びが無くなる・表情や目に覇気がない・生活にこだわりを感じなくなる
精神的変化 ・治療や制限に我慢していた患者の心がついてこれなくなる・家に帰りたいという姿
21 山根・中島(2020)日本 看護師が行う心不全患者の終末期に至る局面の判断と実践 身体的変化 ・酸素化が悪くなっている・尿量の減少 心不全 病棟 心不全患者が終末期に至る局面での看護師の判断と実践の明確化 循環器病棟経験
5年以上
看護師3名
半構成的面接 質的記述的 看護師の判断として【予後予測が難しく看取りが近いことの実感が湧かないから終末期と判断できない】などの5カテゴリー,実践として【家族の苦痛を緩和する】など6カテゴリーが抽出された. 心不全患者,終末期,看護師,局面,判断,実践
身体精神的変化 ・生きる気力がない・身の置き所がない感じ
精神的変化 ・患者自身が死期を悟った様子
・本人の訴え
周囲の人の反応 ・家族から「しんどそうなので」という発言も判断になる
22 高山・三重野(2005)日本 介護老人福祉施設の看護師が行うEnd-of-Life Careの実際 身体的変化 ・摂食・嚥下機能の低下によるムセや嘔吐・衰弱
・著しい体重減少
高齢者 介護老人福祉施設 介護老人福祉施設の長期入所者に対するEnd-of-Life Careにおいて看護師が行う看護の実際と特徴の明確化 介護老人福祉施設長期入所者の看取りケア経験のある看護師4名 半構成的面接 質的記述的 看護師は日常生活にあらわれる生命力の変化から死を予見し,End-of-Life Careを開始.看護師は嘱託医や介護職との協働の中,入居者・家族の思いを尊重した看護を展開し,その看護行為の原動力には入居者に対する家族のような愛情が関連していた. End-of-Life Care,介護老人福祉施設,看護師
身体精神的変化 ・食事への意欲の低下
精神的変化 ・患者の死を予見する言葉

3. 用語による分類が示す死の予測に関する多様な視点

先行研究では,看護師の終末期患者の死の予測に関連して多様な用語が用いられており,それらは共通して患者の状態変化を捉える一方で,語ごとに異なる意味づけや判断の構えを示していた.これらの用語の整理過程および,検索語の設計過程は表2に示した.以下では,採用文献の結果に基づき,各用語の特徴と,それに対応する死の予測項目を概観する.

1) 「予後・予測」の用語を用いた文献

熊谷は,文献レビュー(熊谷・前川,2012)で抽出された32項目に基づき,看護師による予後予測評価を量的に検証した.具体的には,病院看護師と訪問看護師の評価の相違(熊谷ら,2011)や,がん患者(肺・胃・直腸結腸)に対する予後10日および3日の予測項目(熊谷ら,2012, 2015)を明らかにした.文献内で「予後・予測」は,主として患者の身体的変化(例:安静時の呼吸困難,血圧低下,食欲不振など)の具体的な項目を捉えるための用語として使用されており,「予後」の語義である「病気のたどる経過についての医学上の見通し」による客観的な所見を重視した項目が示されていた.また,質的研究(佐藤ら,2012)においては,データを帰納的に構築する過程で,他の用語分類と比較して抽象度が高くなる傾向が示された.

2) 「予測・直感/直観」の用語を用いた文献

Domeisen Benedetti et al.(2013)は,ヨーロッパ9ヵ国の専門家を対象にデルファイ法を適用し,死亡直前にみられる現象を類型化した.患者が数時間から数日以内に死亡するかを識別するため,専門家の意見を集約し,21項目を7カテゴリー〈呼吸の変化〉,〈意識・認知機能の変化〉,〈経口摂取の変化〉,〈皮膚の変化〉,〈情動的な状態の変化〉,〈全身状態の悪化〉,〈医療者の直感/直観〉に分類した.文献内で「直感/直観」は,医療従事者が臨床経験を通じて培った主観的な感覚を指す用語として使用されていた.〈医療者の直感/直観〉は,調査の3サイクルを通じて抽出・高く評価され,専門家が死亡予測との関連性を認めた.これにより,医療者は身体的特徴だけでなく,自身の感覚も重視して患者の死を捉えていることが示唆された.また,井本ら(1996)の研究では,看護師の死の予測と直観能力との関連を量的に検討し,看護師が経験を積むことにより,生理的ニードに加えて精神・社会的ニードにまで及ぶ死の予測項目を提示し,特に感受性と豊かな経験が直観能力に影響を与えていることを明らかにした.

3) 「予測/洞察/判断」の用語を用いた文献

特別養護老人ホーム(以下,特養)での看取りケアに関する研究(小林・山下,2016)では,看護師の実践をインタビュー調査により明らかにし,「呼吸状態および変化する全体の姿からの死期の洞察」といった項目が示された.「洞察」は,広辞苑によると「物事を観察してその本質や奥底にあるものを見抜く,すなわち見通す能力」を意味する.同研究においては,看護師が患者の細かな状態変化に鋭敏に気づくための深い観察の視点を表現し,これが後の判断に繋がることが示された.なお,文献検索時には「判断」という用語は検討対象に含めなかった.しかし,後述する文献(坂本,2023山根・中島,2020高山・三重野,2005)にもみられるように,看護師が終末期ケアへの移行を最終的に決定する前段階,すなわち患者の表情,動作,治療反応性などの微細な変化に気づく段階で,死の予測項目が抽出された.

4) 「察知」の用語を用いた文献

岩瀬(2018)は,特養に勤務する看護師が,高齢者の死の約1ヵ月前に察知した症状や変化をインタビューおよび同行観察によって明らかにした.文献内で「察知」とは,看護師が直接的な観察に基づき,患者の状態変化を的確に捉える行為として使用されていた.主要カテゴリーとして「精神心理面の変化」と「身体機能の変化」が抽出され,〈高齢者が訴えた死の恐怖〉,〈意欲の減弱〉,〈食事摂取機能の低下〉,〈形相の変化〉,〈眼の変化〉,〈声の変化〉,〈他覚症状の出現〉,〈活動性の低下〉,〈体重減少〉の9項目が示された.さらに岩瀬(2020)は,尺度開発に向けた内容妥当性検証において,身体機能面の変化項目のスコア平均が4.1 ± 0.8,精神心理面の変化項目のスコア平均が3.1 ± 1.0であったと報告した.また,林ら(2019)は,熟練看護師のナラティブから高齢者の臨死期の兆候を具体的に抽出し,「察知」は上記同様の語義として使用されていた.

5) 「予知(予感)」「予知」「予見」の用語を用いた文献

これらの用語は,同一の研究者(北島,前田,山下)によって統一的に使用され,明らかな生命徴候の変化がない場合において,看護師が直感的または多角的な判断により,死期を予見する項目を明らかにするために使用されていた.質問紙調査(山下ら,2014)にて抽出された項目は,〈看護職が認知した患者の変化〉,〈患者の発言〉,〈看護職の所感〉,〈言語化困難〉,〈その他〉に分類され,追加研究(山下ら,2016)では,グループディスカッションにより,患者の微細な変化や発言,看護師の所感や感覚を反映する内容が,身体的要因のみにとどまらない観点からより具体的に明確化された.

6) 「経験知」の用語を用いた文献

萩田・大村(2021)は,特養の看護師の経験知に基づく予後予測項目の内容妥当性を検証した.検証した項目は,先行文献およびガイドライン,書籍などから抽出し,看取りの開始時期(25項目),予後10日~1週間程度(13項目),予後2,3日程度(13項目),予後数時間以内(11項目)の4つの時期,62項目を検証した.項目の作成に関しては,症状や徴候の単語ではなく,看取りの時期における経時的な状態や状況の変化をイメージできる表現となるよう精錬が加えられ,臨床での様子が伝わるよう配慮されていた.文献内で「経験知」とは,看護師が実践を通じて蓄積した生命予後を予測する能力として,臨床現場での感覚や判断の裏付けとして捉えられていた.

7) 「暗黙知」の用語を用いた文献

小林ら(2024)は,看護師の暗黙知に基づく看取りケアへの移行を判断する予後予測指標を非がん性呼吸器疾患患者に焦点をあてて検証した.文献レビュー(小林ら,2023)により抽出した28項目を検証し,そのうちCVIが0.78以上を示した4項目とCVI 0.67~0.73を示した10項目,計14項目を看護師の暗黙知の予後予測指標として抽出した.文献中で「暗黙知」は,「看護師が過去の経験により獲得した,死期が近いことを察知する予見や直観など言語化しにくい知識」と定義され,予測項目は患者の死期の徴候を具体的に表現するものとなっていた.また,同指標の抽出に用いられた文献は,本研究で抽出された「察知」や「予見」,「直感/直観」といった用語を用いた文献であり,予後予測指標は,これらが統合されたものとなっていた.

「経験知」と「暗黙知」はいずれも実践に根ざした非言語的な判断の基盤であるが,前者が看護師の臨床経験に基づく知識の蓄積を強調するのに対し,後者は言語化困難な直感的判断や予見の性質をより強く含んでいる.

8) 「判断」の用語を用いた文献

抽出された3編の文献は,看護師が終末期の看護ケアに移行する際に行った意思決定プロセス,「判断」について明らかにした質的研究であった.坂本(2023)は,心不全終末期患者のend-of-lifeケア移行に関する判断内容を「表情や目の力から覇気がないと感じ,大事にしてきた価値・信条へのこだわりがなくなり,弱さを感じたとき,今回は退院できないと思う」や「いつもよりもカテコラミンへの治療反応性が悪く,すっきりせず,呼吸困難感や体重増加などの症状がなかなか改善しない」といった判断として示し,気づきの中で看護師の直感や身体的変化に伴う死の予測項目が明らかになっていた.山根・中島(2020)は,心不全患者の終末期に至る局面での看護師の判断と実践を明らかにし,判断の中で「患者から苦痛の訴えや身の置き所がない様子を読み取った」や「患者自身が死期を悟った様子に気づく」などの死の予測に繋がる気づきを明らかにした.文献内で「判断」は客観的所見と看護師の主観的評価が統合されたプロセスとして使用されていた.

4. 疾患別による分類が示す死の予測項目

本研究では,Lunney et al.(2002)の死亡までの経過分類に基づき,採用した文献を,予後経過別に【がん】【慢性疾患】【高齢者】【限定なし】の各群に分類した.なお,3群比較の片山ら(2014),療養病床患者を対象とした佐藤ら(2012)の文献は,対象が明確でないため除外した.

1) 【がん】群

がん患者を対象とした研究(熊谷ら,2011, 2012, 2015)では,主に客観的な身体的変化,例として呼吸状態の変化,意識レベルの低下,循環不全,食欲不振,せん妄などが主要な予測項目として抽出された.これらは,「予後・予測」として定義されるように,病気の経過に対する客観的見通しを示すための指標として使用されていた.

2) 【慢性疾患】群

慢性疾患を対象とする研究(山根・中島,2020坂本,2023小林ら,2024)においては,がん群と比較して,身体的変化に加え,看護師の主観的な感覚から得られる患者の身体精神的変化が多く抽出される傾向が見られた.また山根・中島(2020)の研究では,酸素化の悪化や尿量の減少といった身体的変化に加え,家族からの「しんどそうなので」という発言など間接的なサインも死期の近さの判断に寄与することが示された.

3) 【高齢者】群

高齢者を対象とした研究(高山・三重野,2005岩瀬・勝野,2013岩瀬,2018, 2020Johnson et al., 2014小林・山下,2016林ら,2019萩田・大村,2021)では,身体的変化のみならず,精神・社会的側面が強調される傾向があった.具体的には,表情の変化,目の輝きの喪失,さらには患者自身の死に対する言動や,家族・他職員からの「だんだん弱ってきている」といった発言などが死の予測項目として抽出された.

4) 【限定なし】群

特定の疾患に絞らず,一般的な終末期患者を対象とした研究(井本ら,1996Domeisen Benedetti et al., 2013前田ら,2014, 2015北島ら,2016山下ら,2016)では,【がん】【慢性疾患】【高齢者】各分類で抽出された項目が混在し,全体として非常に多角的な予測項目が示された.【限定なし】では,対象となる患者の状態や個々の看護師の判断により,直感に基づく気づきが大きく関与していることが示唆された.

これらの結果から,各分類における予測項目は,その対象患者の病態や臨床的特徴を反映しており,【がん】では客観的な臨床所見について,【慢性疾患】や【高齢者】では看護師の経験知や主観的評価がより重視されていることが明らかとなった.

Ⅵ. 考察

本研究の結果から,看護師が終末期患者の死を予測する際には,客観的な医学的変化に加え,患者の表情の変化や死に対する発言,さらには家族や他職種の所感といった精神的・社会的側面をも総合的に考慮していることが明らかとなった.

看護師による多様な判断を可視化するため,本研究では「判断の視点」と「判断の姿勢」の2軸を設定した(表2).表2に示した検索語の設計過程に基づき分析を行った結果,用語の選択は単なる表現の差異ではなく,判断の質や方向性の違いを反映していることが示唆された.

用語分析からは,各文献において患者の状態変化を捉えるために,多様な視点が反映された用語が用いられており,これらの用語が暗示する異なる観点は,分類ごとの予測項目の抽出にも影響を与えていることが考えられる.これは,看護師が直感/直観や経験など主観的評価を統合し,多面的に判断していることを示している.考察においては,各分類における特徴を踏まえながら,看護師の多面的な視点,すなわち臨床的予測の特徴と今後の研究の可能性について述べる.

【がん】群では,予後予測ツールの発展(Morita et al., 1999Pirovano et al., 1999Gwilliam et al., 2011)に伴い,一定の予測が可能となっている.看護師においてもこれらの知見を活用しながら,患者の予後を予測する試みがなされてきたと推察される.そのため,死の予測に用いられる看護師の判断項目も,客観的な身体的変化が中心となり,使用語の表現も臨床所見に即した明瞭な観察項目に限定されていたと考えられる.

その一方で,【慢性疾患】や【高齢者】群では,病態経過が不明瞭であること(Lunney et al., 2002)から,看護師個人の観察力や感受性に基づく気づきが死の予測において重要な役割を果たしており,研究として深化してきたと推察される.使用される語も「予測/洞察/判断」,「察知」,「経験知」,「暗黙知」,「判断」など多岐に渡り,さまざまな観点から,患者の状態を捉えようとする姿勢が認められる.

しかしながら,文献上は,客観的な予測が重視されている【がん】群であっても,実際の臨床において看護師は,患者を多面的に捉え,臨床判断を行っていると考えるのが自然である.このことは,「患者が感謝の言葉を述べる」,「生きる気力の喪失」,「昨日とは違うという感覚」など,患者の精神的変化や看護師の感覚に基づく判断項目が他の群と共通して見られたことからも支持される.看護師の死の予測は多面的であり,各要素の影響は患者個々の状況に応じて変化するものの,共通する視点が存在する可能性が示唆された.表2の設計過程に基づく分析では,各語は異なる判断の視点と姿勢を示していた.「予感」「暗黙知」は感覚的,「予後・予測」「判断」は構造的,「察知」はその中間に位置し,判断のあり方は連続的であると考えられる.語の違いは判断の質を反映しつつも,臨床ではそれらが編み合わされて機能していることが示唆された.

また,死の直前の明確な身体的変化(Hui et al., 2014, 2015)は医学的にも明らかになっている一方で,終末期におけるケア方針の転換には,患者個々の身体的状態のみならず,精神的な状態や社会的なサポート体制など,より広範な状況を踏まえた総合的な評価が求められる.そのため,看護師には広い視点から全体を捉え,総合的に評価する能力が求められ,これが死の予測に対する看護師の独自の視点を広げていることが考えられた.さらに,日本の看護実践では,ハイコンテクスト文化(藤本,2011)が判断様式に影響を与えている可能性がある.非言語的な気づきや空気を読む感性は,死期予測において臨床判断の中心にあると推察される.

一方で,海外においても看護師の直感や感覚に基づく判断を臨床的に活用しようとする試みが進められている.たとえば,Haegdorens et al.(2023)は,看護師の直感に基づく臨床悪化の予測を定量化するために,Nurse Intuition Patient Deterioration Scale(NIPDS)を開発・検証した.NIPDSは,患者の表情,行動,皮膚の色,反応性など,看護師が観察する微細な変化を10項目に整理し,4段階で評価するスケールであり,24時間以内の死亡やICU転棟などの重大イベントを高精度で予測することが示された(AUROC = 0.957).日本の看護師の感覚的判断と共通点が多く,文化を超えて直感が臨床判断に寄与していることが示唆される.

しかし,NIPDSをはじめとする国際的な研究の多くは,「死の予測(death prediction)」ではなく,「状態悪化(deterioration)」の早期発見を目的としており,死を明示的に予測するという枠組みは少ない.これは,死を予測することに対する文化的・倫理的な感受性の違いや,医療制度における看護師の役割の違いが影響している可能性がある.これに対して,日本の看護実践では,死の予測がケアの移行期を見極める判断として位置づけられており,患者や家族への説明,看取りの準備,医療者間の連携など,実践的な意味を持っている.今後は,国際的な「deterioration」概念との接続を図りつつ,日本における「死の予測」の意義を明確化していくことが求められる.

これらの知見は,客観的な医学的エビデンスだけでは捉えきれない,看護師特有の観察力や感受性が,死の予測の根幹をなしていることを浮き彫りにした.しかしながら,こうした微細な表情の変化や直感的理解は,他者と共有することが困難であり,科学的根拠を提示することも難しい.そのため,看護師は医師との情報共有に難しさを感じていることが報告されており(木下ら,2009),臨床の場で十分に活用されていない可能性がある.

本調査において最も古い井本ら(1996)の研究は,多面的な予測項目や直観の価値に注目し,重要かつ示唆に富む視点を提供している.近年では,経験知や暗黙知に焦点を当て,それらを体系的に評価しようとする研究も進展している.しかしながら,看護師が一見すると,死の予測とは直接関係がないように思われる項目を判断材料として用いる背景には,未だ十分に解明されていない内面的思考プロセスが存在しており,これが今後の研究課題の一つであると考えられる.この思考プロセスを明らかにすることで,その構造が可視化され,臨床判断の妥当性や情報共有の促進に繋がると期待される.これらの知見は,死の予測精度の向上および終末期ケアの質的改善に資する新たな臨床的示唆として活用される可能性がある.

看護師の直感や感受性は個人の経験や文脈に依存し,共有が難しいとされてきたが,近年では内的プロセスの可視化や言語化の試みも進められている.たとえば,患者との関係性や臨床判断の背景を語り直すナラティヴアプローチ(宮坂,2021),実践を振り返るリフレクション(武口,2011),臨床状況を模したバーチャル・シミュレーション(Alharbi et al., 2024)などは,看護師の判断力や感受性の育成・共有に寄与する教育的アプローチとして注目されている.

本研究で明らかになった語の使い分けや判断の多義性は,教育的アプローチの基盤となり得る.すなわち,「予感」「察知」「予測」といった語が,どのような状況で,どのような判断の質と結びついているのかを明示することで,看護師間での判断の共有や教育的フィードバックが可能となる.

今後は,語の意味と判断の文脈を組み合わせた教育的活用や,熟練看護師の判断過程の構造化を通じて,内的プロセスの共有可能性を高めていくことが期待される.これは,死の予測における看護師の判断力を支援し,終末期ケアの質を高める一助になると考える.

Ⅶ. 本研究の限界と今後の課題

スコーピングレビューの特性により,本研究では採択文献に対する質的評価や,エビデンスレベルの比較は行っていない.採択文献の多くは質的研究であり,主観的記述に基づく知見が中心であることから,報告バイアスや記述の深度にばらつきが存在する可能性がある.また,設定した採択基準の適用により,海外文献の多くが除外され,結果として採択された文献は限定的な範囲にとどまった点も,本研究の限界の一つである.さらに,予後予測項目の妥当性に関する評価は,主に内容妥当性にとどまっており,実際の予測精度を統計的に検証した研究は含まれていなかった.したがって,本レビューで得られた知見は,看護師の臨床判断に関する視点を明らかにする上では有用であるが,予測モデルとしての精度や臨床的有効性を直接的に示すものではない.

Ⅷ. 結論

本研究は,看護師が終末期患者の死を予測する際に,身体的変化だけではなく,精神的変化,さらには看護師自身の感覚や周囲の反応といった多面的な要素を総合的に考慮していることを示した.文献ごとに「予後・予測」「判断」「察知」「予見」といった用語が使い分けられている点からは,各分類群(がん,慢性疾患,高齢者など)の経過特徴に応じた視点が反映されていることが明らかとなった.また,分類の種類を越えて共通する項目が認められることは,看護師の判断プロセスに内面的な要素が存在する可能性を示唆している.これらの知見は,看護師の観察力と感受性に根ざす判断が終末期ケアで重要な役割を果たしていることを示している.

付記:本論文の内容の一部は,第45回日本看護科学学会学術集会において発表した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:神谷は研究の着想から文献の選定と分析,解釈に貢献し,論文の作成および改訂に関与した.習田は文献の選定と研究プロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み承認した.

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