日本看護科学会誌
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原著
新人看護師が職場におけるコミュニケーションの困難を経験しながらも就業継続の選択に至った径路
梅本 知子坂本 真優河村 奈美子
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2025 年 45 巻 p. 14-24

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Abstract

目的:本研究の目的は,新人看護師が職場におけるコミュニケーション困難を経験しながらも就業継続の選択に至った径路について明らかにすることである.

方法:新人看護師5名を対象に半構造化面接を実施し,現象学的方法を基盤にテーマを抽出し,複線径路・等至性モデリングを用いてモデル化した.

結果:インタビューより,【先輩看護師に自身の存在価値を示せないことがもどかしく苦しい】,【精一杯の虚勢を張る】,【十分に仕事はできない中で自分が目指す看護を模索する】,【〈看護師〉として成長を勝ち取る】の4つの段階のテーマが抽出された.

結論:新人看護師は先輩とのコミュニケーションに困難を経験しながら,インシデントのような衝撃的な出来事への直面や同期の退職等を契機として,自分の成長や周囲の人間関係,環境の支えを改めて認識し,成長意欲を得て職業継続の選択に至った.この過程は『自己変成』の生起と考えられる.

Translated Abstract

Objective: The aim was to elucidate the pathways and experiences of novice nurses who choose to continue working despite experiencing communication difficulties in the workplace.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with five novice nurses. Themes were extracted using phenomenological methods and were subsequently used to model the process through Trajectory Equifinality Modeling.

Results: From the interviews, four thematic stages were identified: (1) Frustration and distress from being unable to demonstrate one’s worth to senior nurses, (2) Putting on a brave front, (3) Struggling to find one’s ideal nursing practice despite inadequate job performance, and (4) Achieving growth as a ‘nurse’.

Conclusion: Novice nurses experience communication difficulties with senior members of staff and through incidents and interactions with their peers, recognize their own growth, interpersonal relationships, and support from their environment. This recognition leads to a renewed motivation for growth and the choice to continue in their profession. This process can be considered as the emergence of ‘self-transformation’.

Ⅰ. 問題の所在

日本は高齢化社会を迎え,医療および介護の需要の上昇とともに医療の高度化による質の確保も課題とされている(厚生労働省,2010).医療従事者の不足は深刻であり(厚生労働省,2022),2021年の新卒看護師の離職率は10.3%,新人以外の正規雇用者の離職率は11.6%に上り(日本看護協会,2021),新卒看護師の1年間の離職率は7.5%から10.3%の間で推移し,離職率は増加傾向にある.看護職者の確保・育成と新人看護師のサポートは,多くの施設で継続的な課題とされている.

新人看護師が経験する困難については,Kramer(1974)により「リアリティ・ショック」という概念が提唱された.国内では宗像・及川(1986)が,新卒の専門職者のリアリティ・ショックについて,燃えつきとノイローゼを呈することを述べており,身体症状や不安神経症,抑うつ症などの精神症状をきたし,交替勤務による不規則な生活リズムが影響することを指摘している.また,厚生労働省の2010年の報告書「新人看護職員の臨床実践能力の向上に関する検討会」では,職場におけるメンタルヘルスの積極的な保持と増進の課題と,支援のシステム化が実現されていない現状について明示されている.そこで,平成21年7月に「保健師助産師看護師法及び看護師等の人材確保の促進に関する法律」が改正され,平成22年4月から新たに業務に従事する看護職員の臨床研修等の努力義務化と研修ガイドラインが提示された(厚生労働省,2014).しかしながら,実施内容は努力義務として各施設に委ねられており,施設による卒後教育・メンタルヘルス支援の体制に差が生じていると考えられる.梅本ら(2023)は,新人看護師が職場で経験するストレス要因について,コミュニケーション,ストレスマネジメント,業務遂行,環境,個人特性,職業性アイデンティティの6つに分類しており,具体的には新人看護師のストレスは,職場に馴染めないことを自覚した状況下で生じるコミュニケーションの困難によって引き起こされると指摘している.

国外の報告によると,新人看護師の教育に必要な要素として,良好な人間関係を築くコミュニケーション能力(Soo et al., 2019),看護職仲間のコミュニティにおける連帯感を高める教育(Margareth, 2021),タスク習熟や役割の明確化,および社会的受容を経験(Elin, 2019)の4つが指摘されている.新人看護師がどのように職場におけるコミュニケーションの困難を乗り越えていくか,その要因や過程に関する研究は国内外において十分ではなく,新人看護師のコミュニケーション能力や環境,業務,個人特性,職業性アイデンティティ形成などの具体的な能力獲得の過程について十分に明らかにされていない.新人看護師は,就職しての1年間は,多様なコミュニケーション上の困難に遭遇していると推察される.その1年間のさまざまな困難や葛藤等を含む出来事と経験を,効果的な支援の時期や内容を含め丁寧かつ詳細に明らかにするために,径路という考え(安田・サトウ,2012)を参考にしたいと考えた.そこで本研究においては,新人看護師の職場におけるコミュニケーションの困難の経験と,それを経験しながらも就業継続の選択に至った径路を明らかにし,就業継続の選択に必要な支援の検討を試みた.

Ⅱ. 研究目的

本研究の目的は,新人看護師が職場におけるコミュニケーションの困難を経験しながらも就業継続の選択に至った径路を明らかにすることである.

用語の定義

本研究において,以下のように用語を定義した.

経験:物,真実,価値で構成されたその瞬間の生活におけるその人の存在のその人の認識というMorse & Firld(1996)の定義を受け,本研究では,新人看護師が職場でコミュニケーションの困難の知覚に関連して生じた思考や感情について得た認識.

径路:非可逆的な時間の流れの中で生きている新人看護師の複数存在する行動や選択.

新人看護師:看護基礎教育課程を修了して看護師免許を取得後,医療機関における勤務経験が1年以内であり,それまでの社会人経験を有さない看護師.

就業継続の選択:新人看護師が,現在の職場で働き続けることを決めること.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,現象学的方法を基盤にし,抽出されたテーマを軸に複線径路・等至性モデリング(Trajectory Equifinality Modeling:以下TEM)を用いて,新人看護師が就業継続を決断するに至った径路をモデル化した.Husserlの『諸々の自明性を「理解する」』という一貫したモチーフを受け,田口(2014)は,「本当に何の疑いもなく『確か』だと言われていることは,かえってことさらに『確か』だと言われることはなく,あまりにも確かなことは,語られることさえなく,沈黙のうちに沈んでいる」と指摘している.すなわち,自明とされるものの自明性を改めて問う反自然的態度の必要性を述べている.現象学的方法により抽出されたテーマに基づき,非可逆的な時間の流れの中で,人それぞれが多様な径路を辿っても等しく到達する等至点(Equifinality)の存在を前提として人間の発達や人生径路の多様性,複線性の時間的変容を捉えるTEM(安田・サトウ,2012)を用いて,それぞれの参加者の経験に基づく径路を作成し,それらの径路を比較・分析することで,共通のテーマやパターンを特定した.

2. 研究対象者

Z県内の約250~600床の総合病院に勤務し,入職後に職場のコミュニケーションにおいて困難を経験し,新卒1年が経過する最終月の時点において就業継続を予定している看護師5名とした.TEMでは,経験の多様性を描くために4 ± 1名の対象者が適切とされている(荒川ら,2012).これらを参考に,研究参加者を5名に設定した.除外基準として,1ヶ月以上の休職を経験している看護師を設定した.対象者の選定について,病院の看護部長から研究協力の承諾を得た後,各部署の看護師長から新人看護師に研究協力者募集について案内を依頼した.コミュニケーションの困難の経験の有無の該当に関する判断は新人看護師各自に委ね,研究への協力の希望者を募り,申し出のあった順に研究協力を依頼した.

3. 調査期間(インタビュー実施)

2023年3月~5月(2022年4月に入職した新人看護師が1年目を終了する時期)

4. データ収集方法

対象者には個別に半構造化面接を1人につき2回実施した.同意を得た上で研究対象者ごとにICレコーダーを用いて面接内容を録音した.1回目は,看護師として入職後,職場でコミュニケーションの困難を自覚するまでの経験や困難さを抱えながらも就業継続に至った経験について自由に語りを得た.2回目は1回目に語られた内容とTEM図の確認を得て,不足した内容について確認した.

5. 分析方法

語られたデータはColaizzi(1978)に基づき以下の1)~4)の手順によりテーマを抽出した.その後5)~7)の手順によりTEM図を作成した.

1)全ての研究対象者から得られた語りを感じ取り(研究者の先入見をいったん保留し),意味を理解するためにデータを精読した.

2)職場でコミュニケーション上の困難さを抱えながらも,就業継続に至った経験と直接関連する重要な語りを抽出し,意味を形成した.この段階では,明確に言語で語りきれないことについても注目し,研究対象の文脈や視野に隠されたその意味についても創造的に洞察した.

3)上記の手続きを繰り返し,意味の集合体から複数のテーマの群を形成した.

4)これまでの分析結果を包括的な説明に統合し,明確に記述した.

5)研究対象者ごとに時間軸に沿ったテーマを配置し,TEMの枠組みモデルを使って社会的方向付け(阻害・抑制する事象:Social Direction;以下SD),社会的助勢(促進的な影響を及ぼす事象:Social Guidance;以下SG),必須通過点(ある地点からある地点に移動するためにほぼ必然的に通らざるをえないポイント:Obligatory Passage Point;以下OPP),分岐点(径路が発生・分岐するポイント:Bifurcation Point;以下BFP),等至点(ある定常状態に等しく辿り着くポイント:Equifinality Point;以下EFP),両極化した等至点(EFPとは相反する事象:Polarized Equifinality Point;以下P-EFP)を抽出し,TEM図を作成した.作成したTEM図は,2回目のインタビュー時に研究対象者にテーマと経験が時系列に提示されているか確認した.

6)研究対象者5名のTEM図から多様な径路を統合したTEM図を作成し,経験の全体像を可視化した.

7)統合したTEM図の等至点・分岐点・必須通過点と社会的方向づけ,社会的助勢との繋がりを検討し関連づけ,得られたすべての結果を詳細に記述した.

面接から得られた記録を質的研究の経験を持つ研究者2名を含む計3名が各々独立して分析した.その後各自の分析結果を比較し,議論を重ねて相違箇所の意味を解釈した.最終的なテーマおよびTEM図は精神看護学の専門家であり看護部長経験を有する1名に妥当性の確認を得た.

6. 倫理的配慮

本研究は,「滋賀医科大学研究倫理委員会」において審査を受けて実施した(承認番号:RRB22-04).研究参加を希望した新人看護師に倫理的及び個人情報の保護等について直接口頭で説明し,書面にて同意を得た.

Ⅳ. 結果

1. 研究対象者の属性

Z県内の総合病院2施設に勤務する5名の新人看護師から本研究の参加の同意を得た.対象者は,精神科,地域包括ケア,小児科,心臓外科,外科系混合病棟に所属しており全て女性であった.4名は大学卒業,1名は看護専修学校専門課程卒業であった.新人看護師の教育をサポートする役割として,5名全員に勤務経験4~8年のプリセプターが配置されており,4名にはエルダーが配置されていた.各対象者に対する2回のインタビュー時間の合計は,95~131分であった.

2. 新人看護師の職場におけるコミュニケーションの困難の経験と就業継続の選択に至った径路

新人看護師5名に対する計10回のインタビューを通して,職場におけるコミュニケーションの困難の経験と就業継続に至った径路について意味の単位は重複を含み132個抽出された.最終的に4個のテーマと21個のサブテーマが抽出された(表1).またSDは7個,SGは14個認められた(表2).これらの内容についてテーマを【 】,サブテーマを〈 〉,SDを[ ],SGを{ },OPPを〖 〗,BFP,EFP,P-EFPについて統合したTEM図を以下に示す(図1).

表1 生成されたテーマおよびサブテーマと具体的な語りの例

テーマ サブテーマ(意味の単位数) 語りの例:[ ]は識別の番号
【先輩看護師に自身の存在価値が示せないことがもどかしく苦しい】 〈先輩に好かれたい・認めてもらいたい〉 (7) 振り返りシートみたいなんを,(自分で)めっちゃ点数よくつけたり,悪くつけたり.(先輩たちに)いや,もっとできてるよっていうところもあったりとか.[A-2-6]
〈先輩に考え・思いをうまく伝えられない〉 (3) いろんな人と組むってなったときに《中略》いつも教えてもらっている人と,効率とかもあると思うんですけど.言っていることが違うので,それに挟まれて,苦手意識っていうか[A-1-1]
〈先輩に対する緊張・近寄りがたさ〉 (11) 聞きたいことをもっと聞いてよいと(先輩が)言ってくれたが,忙しい先輩を見ると,聞いていいんかなとか,迷惑をかけるのではないかと思い,すごく話かけづらいと思った.[E-1-1]
〈自分の出来なさによる落ち込み・辛さ〉 (12) 指導者さんからは《中略》色々突っ込むところが出てくる.《中略》鬱陶しいやろなこんなんが一緒に居たらって勝手に思っていた.[C-1-4]
〈先輩の指導方法に対する不満や怒り〉 (7) (自分が)わかってなかったけど,(先輩に対して)もうちょっと優しく言ってほしかったっていう気持ちにはなりました《中略》私にとっては,当たり前じゃなかったなって.[B-1-2]
【精一杯の虚勢を張る】 〈できる自分を装いたい〉 (6) (先輩に)こんな質問してくるんかって失望させたくないていうかなんか,《中略》何でもかんでも(先輩に)聞くんじゃなくて,本当に大事なところだけを聞いてくる後輩っていうか.《中略》(勉強を)やってくるやろうって思われたい.[B-2-12]
〈自分の苦手意識を先輩に投影〉 (5) (自分が苦手と感じている先輩は)他の先輩とかとは,こう,笑いながら話したりとかしてはるんで.(私に対しては)それがないってことは,何か,私も,緊張しているのが見えているのか,向こうは向こうで話しかけづらいし,苦手意識をもっているんやなっていう風に思って.それで,開き直るというか,まぁ仕方ないなって.[B-1-7]
【十分に仕事はできない中で自分が目指す看護を模索する】 〈先輩を避けたい〉 (3) 振り返ったときに,なんで聞かへんかったん?みたいな感じになって.先輩が忙しくしてたのでって言ったんですけど.その時でも絶対聞かなあかん(力強い言い方)って言われて.その時の自分は,でも忙しくしてたら,聞きづらい.[E-1-2①]
〈仕事の怖さと責任の重さを実感〉 (3) いつか,患者さんを重大な病気というか,障害を負わせてしまうかもしれないって思ってー,怖くなったりとかー,あと,夢とかでも,仕事の夢見たり.[B-1-4]
〈疲れ果てて覚えることも追いつかない・辞めたい〉 (4) 夜勤とか,遅出,早出とか,色々勤務が,勤務形態が変わってきたときに,まだ日勤の業務が全部覚えられてなかったりで.《中略》頭がパンクして,辞めたいなって思ってました.[E-1-10]
〈他の職場や他の仕事も選択可能であるという気づき〉 (3) 他の同期の話とかも聞いてて,みんな辛いことはあるし,自分だけじゃないって思えるのも安心《中略》辞めようと思えば辞めれるっていうその,逃げ道もあるっていう思いがある[B-1-9]
〈これ以上迷惑をかけないために出勤を継続〉 (3) (インシデントの翌日は仕事に行くことが)嫌すぎて吐きそうやったんですけど,《中略》一人として動いてねって感じで言われてた中,《中略》(仕事を)休むともっと迷惑じゃないですか.[C-2-7]
〈先輩から受けていたサポートの気づき〉 (8) 苦手な先輩が,《中略》(点滴を)更新したら見に行ったりとか,何回も確認してくれはることが続いて.最初はプレッシャーやなって思ってたんですけど《中略》守ってくれてるんやな[B-1-5]
〈中途半端に仕事を辞めたくない〉 (3) なんか,もし,自分が,辞めるってなったときは,あの,自信をもって辞めようって.で,そういう道的な,やりたいことを見つけてから辞めようって.それくらい自信を持って辞めれるくらい,中途半端に辞めたくない.[A-1-8]
〈自分の恵まれている環境を認識〉 (2) その同期の話聞いて《中略》その同期よりかはひどくないかって.自分,自分はまだ優しい方なんかなって,話聞いて思って《中略》.[E-2-4]
【〈看護師〉として成長を勝ち取る】 〈職場を辞めない決断〉 (5) 自分の中で,半年以上,築きあげてきたものもあるし,一からそれをよそに行ったら作らなあかんから,また同じことを繰り返すんじゃないかなと思って.それやったら,今まで,大切にしてきたものを磨き上げるというか,大切にしたいなって思った部分はあります.[B-2-15]
〈患者優先の行動の大切さの認識〉 (5) インシデントがあったことで,《中略》今まで忙しくて先輩に話しかけられなかったけど,《中略》患者さんの方が絶対に優先なので,絶対聞いた方がいいので,自分が変わりました.[E-1-2]
〈病棟の一員としてのふるまい方の獲得〉 (15) 《中略》最初は,自分から全然声が掛けられなかったけど,今は年近い先輩やったら自分から声を掛けられるようになったところが慣れたって思います.[D-1-10]
〈先輩を通した目指したい看護師像の獲得〉 (12) 指導者さんがすごかった《中略》(ずっと変わらない態度で接することは)絶対できひんなって,自分には.《中略》やりたいと思うけど,絶対になれない,なりたい人なんで.[C-1-21]
〈自分の成長を自覚〉 (13) 患者さんのバイタル測るだけでドキドキしてたんですけど,《中略》一年くらい経って,患者さんとの関わり方も,わかってきたし,先輩とも上手く関われるようになってきて.[D-1-11]
〈先輩になる自覚の芽生え〉 (2) 自分が(先輩にサポート)されて嬉しかったんで.なんか,もし下の子が,悩んでやったら,(私が)話とか聞けたらいいなって.私もしてもらったので,できたらいいなーって思います.[D-2-14②]
表2 社会的方向づけ(SD)・社会的助勢(SG)・必須通過点(OPP)の該当する語りの一覧

段階 社会的方向づけ(SD) 該当する語りの例
第1段階 〔家や職場での孤独感〕 同期と全くシフトが被らないように.《中略》しゃべる人もいないし,空気みたいになってる.[C看護師]
〔身体症状の出現〕 蕁麻疹とか,《中略》体調管理ができなくって.普通に睡眠不足とかになって,で,体に出るみたいな.《中略》5月くらいから,薬飲んで抑えてる.[A看護師]
〔夜勤の開始による生活リズムの乱れ〕 生活リズムが結構,夜勤がある.《中略》夜勤は4月から始まってました.《中略》先輩について回るだけでしたけど.で,普通にやってました.で,5月くらいに独り立ち,夜勤独り立ちして.その,明けの日に遊んだりしてたんですけど,体調管理ができてなくって.[A看護師]
第2段階 〔今の自分の行動を支持する意見〕 結構,サポーターさんも言ってくれてはったんですけど,なんか,「私らみたいなタイプはおらん病棟やと思う」って.《中略》私がどんだけ頑張ろうとしても,多分無理なところは無理.って思えたのが,孤独でもしゃーないって思えてっていう始まりですね.[C看護師]
第3段階 〔同期の退職〕 (仕事を)辞めようと思ったら,(退職する同期のように)そんな簡単に辞められるんやみたいとか.[A看護師]
〔変則勤務による業務負荷の増大〕 7月から夜勤とか,遅出,早出とか,色々勤務が,勤務形態が変わってきたときに,まだ日勤の業務が全部覚えられてなかったりで[E看護師]
〔転職情報サイトの閲覧〕 《中略》私が休んだら,《中略》大変やったのを見て感じたから,抜けるわけにはいかないなって《中略》でも,転職サイトには1回入れました.[B看護師]
段階 社会的助勢(SG) 該当する語りの例
第1段階 {同期との交流} (同期と)その先輩と,今日はこんなことがあって,辛かったて,素直に自分の気持ちを 《中略》共有して.私だけじゃないって思うのが自分の中では支えになっていました.[B看護師]
{看護師以外の友人との交流} 看護師じゃない人を選んでます.《中略》その方が気兼ねなくしゃべれる.向こうもなんか,感情移入せずに聞いてくれるやろし.[C看護師]
{気にかけてくれる先輩の交流} 実地の先輩とか,他の先輩もそやし,年が近い先輩とか,師長さんもいい人やし.《中略》私をきにかけてくれる人.大丈夫やったみたいな.気軽に言ってくれたり[A看護師]
第2段階 {看護師以外の友人との交流} 地元も青年団があって《中略》今年から副団長になって,《中略》その団には,看護師が一人も居なくて,だから,色々聞かれたりとか,褒められることも増えて.[A看護師]
{過去の人間関係構築の成功体験} 話しかけてきてくれはる方が,話しやすくなるって自分の中ではあって 《中略》私の友達の中でも,話していくうちに,打ち解けていって,っていう経験もあって.[B看護師]
第3段階 {医療事故のニュース} 医療事故の新聞とか目にすることとかもあって,それで,怖い職業についてるっていう気持ちを忘れずにいたいですけど.[B看護師]
{辞めた場合のあらゆる可能性を想像} 転職サイトを見ていると,どこにいっても(怖い先輩と)同じような人は居るなって思って.《中略》築きあげてきたものもあるし,一からそれをよそに行ったら作らなあかん[B看護師]
{先輩からの励まし} (実地指導者さんは)めっちゃいい人で,めちゃくちゃいい人で,ご飯も誘ってくれ張ったり.《中略》(嫌な先輩に関しては)いつも頑張りやとか言ってもらってました.[D看護師]
{奨学金の縛り} この奨学金を,奨学金を借りたおかげで,《中略》これは達成しなあかんって思ってました.このおかげで,これの縛りは強いです.[E看護師]
{同期との交流} みんな辛い中,頑張ってる.こんだけ実習も頑張ってきたのに,・・・こんなことで辞めたらもったいないなって.《中略》辞めたら,今までの3年間が,無駄になるって.[E看護師]
第4段階 {看護師以外の職員・友人との交流} 看護助手さんと仲良くさせてもらっていて,楽しいこともあるぞって思って[B看護師]
{同期との交流} ここの新人研修で,同期が集まる機会があると,嬉しくなります.そこで,ストレス発散して.みんな,早く研修来ないかなって.[E看護師]
{先輩からの承認とサポート} 指導者さんが一番わかりやすいんですけど,「最近は,すごい回る前にめっちゃ考えてくれてるのもわかるし」みたいなんをいってくれはって[C看護師]
{患者からの肯定的評価} なんか,今日も点滴とってて「やっぱAさんってうまいですね」みたいなんをさらっと言ってくれるんですけど.《中略》そういう,さらっとした言葉がうれしい.[A看護師]
段階 必須通過点(OPP) 該当する語りの例
第3段階 〖衝撃的な出来事(インシデント等)の経験〗 あの,人工鼻.気管切開の人工鼻を外してネブライザーをしないといけないのに,付けたまましようとしちゃてて.《中略》先輩が1分くらい後に来て,「これあかんよ」って言われて.《中略》その時に,自分はしたらあかんことをしちゃたんやなって.(インシデントの)経験のおかげで,《中略》自分が変わりました.[E看護師]
図1  新人看護師が職場におけるコミュニケーションの困難を経験しながらも就業継続の選択に至った径路:統合したTEM図

1) 第1段階【先輩看護師に自身の存在価値を示せないことがもどかしく苦しい】

このテーマは,〈先輩に好かれたい・認めてもらいたい〉〈先輩に考え・思いをうまく伝えられない〉〈先輩に対する緊張・近寄りがたさ〉〈自分の出来なさによる落ち込み・辛さ〉〈先輩の指導方法に対する不満や怒り〉の5個のサブテーマから構成された.新人看護師は看護師の資格は得たものの,知識や経験を持ち合わせていなく,業務全般や先輩に対する関わり方について覚えることが多く,学んだはずの看護技術も実際の臨床現場で先輩のようにスムーズに実践できない自分自身に落ち込む.その結果,先輩の評価が自身にとって大きな価値を占めるようになる.ここに,[家や職場での孤独感][身体症状の出現][夜勤の開始による生活リズムの乱れ]が影響し,先輩の指導を否定的に捉えたり,先輩の自身に対する指摘の仕方等の指導に対して不満や怒りを覚えていた.同時に{同期との交流}{看護師以外の友人の交流}{気にかけてくれる先輩の交流}が勤務の継続に影響していた.

E看護師:(先輩は)初めの方は,もっと聞いていいんやでって言ってくださってたんですけど,忙しい先輩を見ると,こんなん(些細なこと)で聞いていいんかなとか,迷惑かけちゃわないかなって思って.話かけづらいって思って.〈先輩に対する緊張・近寄りがたさ〉

B看護師:(自分が)わかってなかったのはわかってなかったけど,(先輩に対して)もうちょっと優しく言ってほしかったっていう気持ちにはなりました《中略》言い方とかもあると思うんですけど,私にとっては,当たり前じゃなかったなって.〈先輩の指導方法に対する不満や怒り〉

2) 第2段階【精一杯の虚勢を張る】

このテーマは,〈できる自分を装いたい〉〈自分の苦手意識を先輩に投影〉の2個のサブテーマから構成された.新人看護師は,自身が根底に抱いている先輩看護師に対する苦手意識を,自身の性質や新人という理由から向けられるものであると認識していた.ここに,[今の自分の行動を支持する意見]が影響し,あたかも先輩が自身に対して不都合な態度を向けているように解釈していた.また,先輩に聞きたいことがあったとしても敢えて質問を控え,先輩から関心を得ようと僅かな自信や能力をアピールしていた.ここに,{看護師以外の友人との交流},{過去の人間関係構築の成功体験}が影響し,技術や知識,先輩との関係に不安を感じながらも,できる自分を装うような,自身の感情や行動に矛盾が生じる様子が読み取れ,次第に精神的疲労を蓄積した径路について語られた.

B看護師:(先輩に)こんな質問してくるんかって失望させたくないっていうかなんか,大きく言うと,「できる(自分)」というか《中略》何でもかんでも(先輩に)聞くんじゃなくて,本当に大事なところだけを聞いてくる後輩っていうか.ちゃんと自分で調べて,(勉強を)やってくるやろうって思われたい.〈できる自分を装いたい〉

A看護師:(カンファレンス中にナースコールが鳴り)私が一番遠いところにいて毎回先輩が(ナースコールを)とってて.《中略》(怖い先輩が私を一瞬見て)「ナースコールとって」って言われ(たけど)とりたくない訳じゃないし《中略》(私は)その時できることをしていたので,《中略》間違ってなかったってのを考えるようにしました.〈自分の苦手を先輩に投影〉

3) 第3段階【十分に仕事はできない中で自分が目指す看護を模索する】

このテーマは,〈先輩を避けたい〉〈仕事の怖さと責任の重さの実感〉〈疲れ果てて覚えることも追いつかない・辞めたい〉〈他の職場や他の仕事も選択可能であるという気づき〉〈これ以上迷惑をかけたくないために出勤を継続〉〈先輩から受けていたサポートの気づき〉〈中途半端に仕事を辞めたくない〉〈自分の恵まれている環境を認識〉の8個のサブテーマから構成された.4名の新人看護師は,この段階に〖衝撃的な出来事(インシデント等)の経験〗に直面した.看護という仕事に伴う責任の前に立たされ,これまでに見聞きした{医療事故のニュース}が影響し,自分の選択や行動の引き起こした事実の重大性に直面していた.この頃,業務の増加により心身ともに疲弊している新人看護師に,[同期の退職][変則勤務による業務負荷の増大][転職情報サイトの閲覧]が影響し,今の職場から離れたいという気持ちが高められ,今の環境よりももっと良い職場環境や自分に適した別の仕事があるのではないかと期待し転職の検討に至った.同時に,入職からずっと自分の失態を援護してくれていた先輩方にこれ以上の迷惑をかけられないと何とか出勤を続け,さらに{奨学金の縛り}{同期との交流}が影響し,辞めたい気持ちを抱きつつ,{辞めた場合のあらゆる可能性を想像}が展開され,転職は検討に留まった.次第にこれまでの先輩の教えの意味や先輩のサポートに気づき,{先輩からの励まし}が影響し,現在の業務環境の良さを実感していた.そして中途半端な状態で看護師を辞めたくないという思いに至っていた.

E看護師:夜勤とか,《中略》勤務形態が変わってきたときに,まだ日勤の業務が全部覚えられてなかったりで….その時に(業務を)覚えることが多すぎて,頭がパンクして,(仕事を)辞めたいなって思ってました.〈疲れ果てて覚えることも追いつかない・辞めたい〉

C看護師:(インシデントの翌日は)もう,(仕事に行くことが)嫌すぎて吐きそうやったんですけど,《中略》(仕事に)行かへんかったら,また迷惑をかける.また,来うへんかったら,《中略》一人として動いてねって感じで言われてたなか《中略》,「(仕事を)休むともっと迷惑じゃないですか」っと思って.〈これ以上迷惑をかけたくないために出勤を継続〉

4) 第4段階【〈看護師〉として成長を勝ち取る】

このテーマは,〈職場を辞めない決断〉〈患者優先の行動の大切さの認識〉〈病棟の一員としてのふるまい方の獲得〉〈先輩を通した目指したい看護師像の獲得〉〈自分の成長を自覚〉〈先輩になる自覚の芽生え〉の6個のサブテーマから構成された.

この段階の新人看護師は,なによりも患者を第一に行動を考える視点を備え,{看護師以外の職員・友人との交流}{同期との交流}が影響し,看護師としての成長意欲を高めていた.さらに,{先輩看護師からの承認とサポート}{患者からの肯定的評価}を得られたことが影響し,先輩の普段の姿や業務に対する姿勢を,自分の価値観や意識に偏らせず理解する態度を獲得していた.自身が先輩になり新人看護師を迎える立場になる責任や意識が高まり,自分自身の力で獲得した〈看護師〉としての就業継続の意志を持ちながら,2年目へ到達したことが語られた.

C看護師:なんか全部の出来事(看護業務)に対して,怖くなった.《中略》これどうなんやろ何なんやろって(疑問に)思わへんかったら,勉強もしないじゃないですか.(仕事が)怖いって思えるようになったのがでかいですね.《中略》一旦やる前に,「これ,え,いいんか,これで」って思うことが多くなりました.〈自分の成長を自覚〉

D看護師:自分が(先輩にサポート)されて嬉しかったんで,なんか,もし下の子(後輩)が悩んでやったら,(私が)話とか聞けたらいいなって.〈先輩になる自覚の芽生え〉

Ⅴ. 考察

1. 新人看護師がコミュニケーションの困難を経験しながらも〈看護師〉として成長を勝ち取る径路

新人看護師の経験するコミュニケーションの困難は,先輩とのコミュニケーションや職場にどのようになじむのか,また自身がそれをどう受けとめ自分なりの答えを得たのかについて大部分が占められていることについて明らかになった.社会学者のMead(1913/1991)は,コミュニケーションを通じて形成される自己を社会的自己と述べている.本研究においても新人看護師は先輩から「自分がどう映っているか」に注力し,自身の出来なさや未熟さに直面しながら奮闘し自身はどのような存在であり,またどのような存在であろうとするのかという看護師としてのアイデンティティを形成していく経験と径路を辿ると考えられた.

径路の第1~2段階では,新人看護師は業務を覚える中で辛さや落ち込みを感じることが多く,その辛さは時にわかってもえらえないもどかしさから先輩に対する怒りの感情となり,さらに,できる自分を見せたいと思いながら過ごし精神的疲労も蓄積する.この努力は,阿保(2008)の指摘する「肥大化した自己意識」に重なる.そして,自身の出来なさや,自身が期待する評価を先輩から得られていないことによる落ち込みに対してなんとか虚勢を張ることで対応し,それらの感情に立ち向かおうとしている経験である.

第3段階では,対象者はインシデントのような衝撃的出来事に直面し,その出来事を通して自身の看護行為が患者の健康に影響することに伴う仕事の責任を自覚している.仕事の重要さを感じるだけに自身がこのまま働き続けられるかという不安が生じていた.そこで対象者は,「もし…」という反事実的仮想を頼りにする.田口(2022)の,「膨張した可能性の世界全体を『いまここ』に生きる自分の身体的生とうまく関係づけられなくなっているのではないか」という指摘と重なる.そして「もし…」という仮想を展開しながらも『転職しても状況は変わらないのではないか』という現実的思考についても同時に吟味される.田口(2022)は半事実的仮想からの呪縛を解くには「自分の生きた身体を出発点にして,さまざまな可能性との関係をつなぎ直すこと」であり,『生きた身体へ立ち戻る経験』とも述べている.すなわち新人看護師が十分に認識していなかった先輩からの継続的な支援に気づき,周囲の人とのつながりを改めて認識し,先輩と自身を比べ,自身の出来なさに苦しみながらも日々の業務を継続する中で,『今は辞める時ではない』,『今いる場所は悪くはない』と今の自分や職場の価値を確かめながら,周囲の人と自身との関係をつなぎなおすことにより,半事実的仮想を看破する第一歩を踏み出すと考えられる.この半事実的仮想による対象者自身の『辞めたくない・続けたい』という感覚は,対象者,により確かに自覚されるように見える.では,そのような感覚を推し進めたものは何か.Weil(1934/2005)は,「行為のいっさいが,目指す目的と目的達成にみあう手段の連鎖とにかかわる判断から生ずるとき,その行為は完全に自由」であると述べている.対象者は,半事実的仮想を用いることにより今の職場や仕事を『継続する』ことも『辞める』ことも選択可能であると自覚する.その上で改めて本当に自身が目指したい看護師や目指したい看護実践(目的)を意識し,看護師であらねばならないという観念からではなく,自由な意志をもって目的に向かう選択に至ったように考えられる.

この第3段階では,これまでサポートし続けてくれた先輩の存在や励ましに気づき,自身の中に,「今後も仕事を継続することができる」という『見込み』を見出したようにも見える.これにより新人看護師は,これまでの自分自身に集中した世界から飛び出し患者との関係や職場における自身の役割を俯瞰的に捉える視点を獲得したように考えられる.高橋(2007)は,「〈わたし〉が自ら構成できるものではなく,むしろ〈わたし〉が成り立つ場所が揺らぎ,崩壊し,寄る辺なさを覚醒させられる受動的な出来事」かつ,「人が他者,異文化,異世界などのさまざまな外部と出会う経験を通して,古い世界から脱皮していくプロセス」を,『自己変成(メタモルフォーゼ)』と説明している.新人看護師は,職場の先輩や患者という他者との出会いや新たな文脈に多くの不安を抱きそれが防衛的にもなりつつあった『自分しか見えない状態で精一杯取り組む看護』の世界から,他者との相互関係を考え,『患者に焦点を当てた看護』の実践が可能になる第3段階から第4段階において,『自己変成(メタモルフォーゼ)』の生起と考えられる経験をしていた.池川(1991)は,「患者の中に自分と自由な意識の存在を発見し,自分自身を他者に向けてひらかれた存在として自覚できたときに,ケアする者として成長する糸口をつかむことができる」と述べている.新人看護師に経験された自己変成のプロセスは,患者に向かう〈看護師〉になるプロセスであると考えられる.

第4段階では,『辞めない』という決断によって,先輩との人間関係が発展する時期であると考えられる.これまで休まず出勤し業務を遂行し続けた実績や自身の看護実践に対して患者から得られた評価は『自分の良さ』と認識され,看護師として自信を得る.患者を優先する責任ある行動は,先輩からの評価を得て,『もっと成長したい』という成長意欲につながる.その結果,看護師である自身の価値の判断を先輩との人間関係に依存させていたこれまでの状況から解放され,自身を看護師として成長させてくれた周囲の人を含めた職場環境に感謝の念を抱き,2年目になる自覚を得ていると考えられる.

坂村ら(2008)は,職業的アイデンティティについて専門職者としての自立として捉え,その自立の過程では新卒看護師が先輩との関係から自分の不足に気づき,やりがいを得ることを報告している.本研究で新人看護師のこれら4つの段階に至った経験は,先輩との関係から新人看護師自身の葛藤や悩みを経験し目指す看護師像の明確化の過程であり,職業的アイデンティティ形成の過程として捉えることができる.

2. 看護への示唆

新人看護師が辿るこれらの径路は,看護師に限らず企業等に入職した新人一般が辿る径路とも見ることができる.同時に新人看護師が,国家資格を得て社会的には「看護師」であるが,看護師という自覚や自信を持ち合わせていない新人期間を経験することは興味深い.この社会的にみなされている自分の姿とまだ看護師という自信のなさを自覚している自分との間隙による心理的な不安定さが読み取れた.

山内(2017)の企業における新卒1年目の学習過程の調査においても,無力感やもどかしさの経験は本研究とも重なる.しかしながらIT企業等の場合は,組織の中で独立したサイロ内での十全的なスキル獲得が中心となり人的相互作用よりも手順化が重要となると指摘されている.看護師の場合はこれと比較し,一連のケアを十全的に修得することや人的相互作用のある共同体の中で学ぶことが求められているように考えられる.そのため,本研究の新人看護師の初期には先輩からの評価が大きな部分を占めていたことが理解できる.

新人看護師を支援する看護師は,新人看護師の辿る径路を予測しながら支援することが可能になると考えられる.第1段階に相当する時期は,さまざまな葛藤から精神的に不安定になりやすい.そのため,新人看護師が自身の資源を活用しなんとか適応しようとする努力を理解し,新人看護師同士の悩みやストレスを共有しあえる人間関係づくりや,精神的疲労等自身の状態の知覚を高める力を涵養するセルフケアの研修や支援が必要とされる.第2段階には,新人看護師自身の怒りに動じず,思いに理解を示しつつ自己肯定感を高められるよう,小目標の設定や具体的なフィードバックが必要と考えられる.次の第3段階では,現状から逃れたい気持ちが高まりつつも一つずつ日々の看護の経験を重ねることにより,自身の看護の基盤を育む段階である.衝撃的出来事に直面すると,新人看護師の自信が挫かれることを想定し落ち込みを理解しつつも,指導の意図の丁寧かつ継続的な説明が必要となる.この時,周囲からは新人看護師が前進していないように見えても,休まずに出勤する等,その時の新人看護師が最大限できることを捉え直し,自身の中に成長の『見込み』を得て,次第に周囲のサポートにも気づくことができるようになると考えられる.そのため,新人看護師の自ら気づきを得る力を信じて,先輩として普段通りの看護を提示しつつ,変化する新人看護師を見守る姿勢が重要である.第4段階では,見守りと一人の責任を担える看護師として認める支援が必要であると考えられる.

1段階と3段階,4段階では[同期との交流]がSGであり,3段階の[同期の退職]はSDとして抽出された.同期の存在は新人看護師の励ましとなり,また退職等の別の選択をする同期の存在については,自分の存在を揺らがせるものとなりつつも,それにより自分が看護師として今いることを改めて自身に問うような機会にもなりうる.職場の上下関係や同期とのライバル関係,さらには家族から期待されている関係の中で受ける自身の評価とは切り離され,省察できる心理的安全性の保障された場とその仕組みづくりが課題である.研修に限らずとも交流会等,同期と交流可能な機会を設定することが有効であると考えられる.

現在の新人看護師及び指導者に向けた研修においては,経験者の経験を共有する機会が多く持たれている場合もある(独立行政法人地域医療機能滋賀病院,2024)が,各段階の特徴を踏まえ,新人看護師の感情が揺らぎやすい複数の時期を想定し,支援者が長期的な成長の見通しを持ちつつ新人看護師の戸惑いを受け止めることができるよう支援が重要である.加えて,1・2段階においては,怒りの対象となり得る指導者に対する精神的支援についても重要であると考えられる.

Ⅵ. 本研究の限界と今後の課題

本研究は,新人看護師5名を対象としたものであるが,対象者の所属する診療科の特徴や所属機関の教育プログラムの影響,また教育背景の差等も事象の受け止め方に影響している可能性があり,今後検討が必要である.新人看護師の教育背景やストレスの大きい時期,プリセプターとの関係性等を検討し,新人看護師の就業継続に必要なサポートや職場環境を明らかにすることが課題である.

Ⅶ. 結論

職場におけるコミュニケーションの困難を経験しながらも新人看護師が就業継続の選択に至った径路を分析した結果,4段階に相当するテーマ【先輩看護師に自身の存在価値を示せないことがもどかしく苦しい】,【精一杯の虚勢を張る】,【十分に仕事はできない中で自分が目指す看護を模索する】,【〈看護師〉として成長を勝ち取る】が抽出された.SDは7個,SGとしては14個認められた.

新人看護師は,入職初期の段階に,先輩看護師との関係性や思うように看護実践をできないことに精神的疲労を重ねる.またインシデントのような衝撃的な出来事への直面や同期の退職等を契機として,転職等を考えつつも,先輩の変わりないサポートや自分の属する環境との関係を改めて認識し,それが現実の自分から出発し半事実的仮想を看破する第一歩となる.このころ自身の成長の『見込み』を得つつ『辞めない』という決断をすることにより,自身の看護に向けた成長意欲を得る.そして先輩との人間関係に自身の価値を依存することから脱却し,自身を看護師として成長させてくれた職場環境に感謝の念を抱き,2年目に入る自覚を得る過程が明らかになった.

付記:本稿は,滋賀医科大学大学院に提出した修士論文の一部に加筆修正したものであり,また,一部を文化看護学会第16回学術集会において発表した.

謝辞:本研究の趣旨にご賛同いただき,お忙しい中インタビューに快くご協力いただいた研究参加者の皆様に厚く御礼申し上げます.また,研究フィールドの使用や研究参加者との調整についてご協力いただきました,各施設の看護部長様,看護師長様に心より御礼申し上げます.また貴重な御助言を賜りました,北海道医療大学阿保順子名誉教授に深く感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:T.Uは研究の着想及びデザイン,データ収集と分析,原稿作成のプロセス全体に貢献した.M.Sはデータ分析と解釈,原稿作成に貢献した.N.Kは研究デザイン,データ分析と解釈,原稿作成に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み承認した.

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