2025 年 45 巻 p. 214-226
目的:介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担の概念を分析し,先行要件・属性・帰結による構成要素を明らかにし,概念の定義を行う.
方法:2023年までの日英54文献を対象に,Rodgersの分析方法(Rodgers & Knafl, 2000)で分析した.
結果:属性として【ケアの対象者にネガティブな感情を抱く】,【BPSD対応に疲弊する】,【困難なケアへの不安を感じる】,【倫理的苦悩に押しつぶされる】の4カテゴリーを抽出した.また先行要件として4カテゴリー,帰結として3カテゴリーを抽出した.
結論:介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担は「ケアの対象者に対してネガティブな感情を抱きながら,BPSD対応に疲弊し,困難なケアへの不安を常に感じている一方で,倫理的苦悩にも押しつぶされている状態」と定義した.認知症ケアの質確保のためには,ケア実践者の精神的負担の軽減が重要であることが示唆された.
Aim: The aim of this study was to clarify the attributes, antecedents and consequences of the concept, dementia-related caregiver burden.
Method: Based on a Rodgers’ concept analysis approach (Rodgers & Knafl, 2000), 54 articles until 2023 were fully reviewed in both Japanese and English.
Results: The four attributes were extracted: negative feelings to care recipients, exhaustion from dealing with BPSD, anxiety about difficult dementia care, moral distress. Also, four antecedents and three consequences were identified.
Conclusions: The burden on formal caregivers for residents with dementia was defined as a circumstance where formal caregivers have negative feelings, feel exhausted from dealing with BPSD, feel anxious about difficult dementia care and have moral distress. In order to ensure the quality of dementia care and secure human resources, it is important to alleviate the dementia-related caregiver burden on care practitioners.
要介護高齢者の増加に伴って,介護の社会的受け皿である介護保険施設定員数は年々増加し(内閣府,2021),施設の看護・介護職員の業務が多様化・複雑化しているのが現状である.介護施設における看護・介護業務は,日常的な生活介護をはじめ,医療的処置・ケア,感染管理,事故防止,看取り,多職種・他施設連携,家族ケアまで多岐にわたることがわかっている(百瀬,2016;大津,2020;柿田・會田,2020;澄川・長畑,2020;岡本,2014).一方,認知症をもつ高齢者の増加に伴い(厚生労働省,2019),介護保険施設の入居者の9割以上に認知症があるため(厚生労働省,2016),介護保険施設のケアは認知症ケアが中心となっていることがわかる.認知症ケア実践者は入所者の多様なニーズに対応する看護・介護について,さまざまなストレスを抱えていることが国内外の先行研究で示されてきた(Kalanlar & Alici, 2019;Kunkle et al., 2021;百瀬,2016;中村ら,2019;阿出川,2014).
介護施設における認知症のケア実践者のストレス・負担を考える際,Caregiver burdenという概念を考える必要がある.PubMedのMeSH TermでもあるCaregiver burdenは「精神的・身体的障害をもつ人をケアする時に体験するストレスや感情的反応」と定義されている.日本語では介護負担と訳されているが,英語では介護職に限定されることなく,看護職もCaregiverであるとされている.認知症ケアでは,特に高次脳機能障害により自立した生活が困難となり,認知症の行動・心理症状(Behavioral and psychological symptoms of dementia: BPSD,以下BPSDとする)による徘徊・不穏・攻撃性等により,ケアが複雑化し専門的知識や熟練した経験・技術を要することが多い(古村ら,2014;佐久間・渕田,2019;Kameoka et al., 2020;Hazelhof et al., 2016;Kunkle et al., 2021).またコミュニケーション障害により意思疎通が難しくなると,さらにケアする人の負担が大きくなる(Watson, 2018;松本,2016).このように,認知症ケア実践者が抱えるストレスは,認知機能障害をもつ人への複雑なケア実践に起因しており,ストレスという一般的な用語でとらえるのではなく,Caregiver burdenとして認識していく必要がある.
これまでは認知症を持つ人の家族介護者,すなわちFamily caregiverのCaregiver burdenが主に研究されてきた経緯があるが(Takasaki et al., 2023),近年では,看護・介護職などの専門職,すなわちFormal caregiverのストレスもFormal caregiver burdenとして研究が進められてきている(Kunkle et al., 2021).
看護・介護職のストレスについては,百瀬(2016)が高齢者施設で働く看護職のストレッサーとして,35項目9因子を明らかにしているが,その因子名の中にも不安,困難,負担,気遣いなどの言葉が含まれており,精神的負担が表現されている.看護職による高齢者虐待に関する調査では,虐待の背景には「精神的なゆとりのなさ」「認知症への対応の困難さ」があることが示され,看護職の精神面が虐待につながることがわかっている(永田・鈴木,2017).また精神的負担は,看護・介護職の自己効力感の低下(ペタスら,2022;Shrestha et al., 2021),バーンアウト(國井ら,2022),低い職業満足度(White et al., 2019)をもたらし,精神的健康の障害につながりやすい(稲谷ら,2008)ことも先行研究によって明らかにされている.したがって,認知症ケア実践者の精神面の負担を軽減し,ケアの質確保を考えていくことが重要であると考える.
これまで介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担は,ストレス,心理的ストレス,負担,負担感,困難,バーンアウトなどのさまざまな用語で研究されてきたが,一定の定義は存在していない.そこで,先行研究から「介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担」の概念分析を実施し,その構成要素を明らかにすることが必要であると考えた.居住型の介護施設における認知症ケア実践は,病院や,一日ごとの通所介護とは異なり,認知症の人の生活を長く支えるという点で,ケア実践者の精神的負担は特徴的であると考えられる.今後の介護人材不足により,元気高齢者や外国人等の多様な人材確保,介護ロボットやセンサーなどの新技術の導入などが進むことで,認知症ケア実践の様相や人的・物的環境も変化していくことが予想される.現在までの資源や環境下で行われてきた認知症ケア実践について,「認知症ケア実践者の精神的負担」の定義をすることで,居住型施設の認知症ケア実践者がどのような精神的負担を抱いているかを明らかにし,精神的負担を軽減するための有用な資料とすることが重要である.また,今後の社会変化やケア実践の発展などで影響を受ける可能性のある精神的負担の概念の変化を追っていくことは,ケア実践者の精神的負担を軽減し,よりよい就労環境を整備するためにも必要であり,これはその第一段階の定義化の研究と位置づけられる.
そこで本研究は,介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担の概念を分析し,概念の先行要件・属性・帰結による構成要素を明らかにし,その概念の定義を行うことを目的とする.
本研究における介護施設とは,認知症をもつ人が入所して生活し,看護または介護を受ける居住型の介護施設を指すこととする.
日本語文献は医中誌web(以下,医中誌とする),CiNii Articlesを使用し,検索式を(((心理的ストレス/TH or 心理的ストレス/AL)or 負担/AL or(心理的燃え尽き/TH or バーンアウト/AL)or 困難/AL)and((介護保険施設/TH or 介護保険施設/AL)or(老人福祉施設/TH or 老人福祉施設/AL))and((看護ケア/TH or 看護ケア/AL)or(介護/TH or 介護/AL))and(認知症/TH or 認知症/AL))and(PT=会議録除く)と設定し,期間は2023年までの全期間として論文を検索した.
医中誌では,373の論文が抽出され,CiNii Articlesでは176が抽出された.重複論文を除いた436から,タイトル・抄録の閲覧によってストレスや負担,バーンアウトの主語が看護・介護職員でないもの(高齢者自身,家族,金銭負担など)を除外すると85の論文が対象となった.85論文について抄録の精読と本文の閲覧によって,認知症ケアに関する看護・介護職の精神的ストレス・負担に関連する描写をしている論文を抽出し,26の論文を対象とした.
海外文献はPubMed,CINAHL Completeを使用し,次の①~④,①(stress, psychological or burnout, psychological or “caregiver burden” or difficulty/difficulties),②(“nursing care” or “long-term care”),③(“residential facility/facilities” or “nursing home/homes”),④dementiaをAND検索して論文を抽出した(difficulty/difficulties以外はMeSH Term).また言語は英語に限定した.PubMedからは325が抽出され,CINAHLからは214が抽出され,重複を除くと476となった.そこから,タイトル・抄録の閲覧によってストレスや負担,バーンアウトの主語が看護師や介護職員でないもの(高齢者自身,家族,金銭負担など)を除外すると,142が対象となった.142論文については,まずタイトル・抄録から認知症ケアに関する看護・介護職の精神的ストレス・負担を扱っている論文を抽出したところ,49となった.その49文献の内容を精読し,認知症ケアの精神的ストレス・負担を描写している28の論文を対象とした.
最終的に,分析対象とした論文は,日・英論文併せて54となった.
2. 分析方法分析にはRodgersの概念分析方法を用いた.Rodgersは,概念を時代や文脈によって変化し発展するダイナミックなものと捉えるという「進化的視点」をもっている(Rodgers & Knafl, 2000).認知症ケアを主体とする高齢者看護・介護の内容や性質は,社会の様々な要因によって変化する.高齢化率,平均寿命,看護・介護人材の需要・供給バランス,ケア技術の進歩,さらには介護器機・ロボットの普及などの要因である.例えば介護器機の普及によってケアの方法が変わることで,ケアにあたるスタッフがもつストレスや負担感にも変化が現れるため,Rodgersの手法を使用することが妥当と考えた.
分析方法として,各文献を精読しコーディングシートを作成し,介護施設の認知症ケアの精神的負担の概念を構成する属性,先行要件,帰結に関して内容を抽出した.意味のまとまりごとに抽出した内容を抽象化し,意味を損ねないようにコード化を行い,そのコードを類似性によって分類しカテゴリー化した.属性は,認知症ケアにあたる看護・介護職の精神的ストレス・負担の内容を表していると思われるコードによってカテゴリー化を行った.先行要件は,属性をもたらす要因となる事象,すなわち精神的ストレス・負担の原因にあたると思われるコードによってカテゴリー化した.帰結は,属性にあたる精神的ストレス・負担が高じた先に,認知症ケア実践者に起こる事象と思われるコードを中心にカテゴリー化を行った.分析は老年看護学分野で質的研究に精通している研究者によるスーパーバイズを受けた.
以下に,介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担の属性,先行要件,帰結について抽出したカテゴリーを【 】,サブカテゴリーを〈 〉,コードを「 」で表記する.
1. 属性属性を構成するのは【ケアの対象者にネガティブな感情を抱く】,【BPSD対応に疲弊する】,【困難なケアへの不安を感じる】,【倫理的苦悩に押しつぶされる】,の4カテゴリーであった(表1).
| 【カテゴリー】 | 〈サブカテゴリー〉 | 「コード」 | 文献 |
|---|---|---|---|
| ケアの対象者にネガティブな感情を抱く | 対象者にイライラする |
なんで暴力ををふるうのかとイライラする いつも立てるのに,とイライラする 自分の気持ちにゆとりがなく,イライラした感情を出してしまう |
越谷(2011);清水ら(2020);鈴木ら(2012);梅沢(2023) |
| 対象者に怒りや憎しみがある |
高齢者に対し,怒りが出る 利用者であれば何でも許されると思っているような態度に反感を抱いた 叱責されて,憎しみがわいた |
Briones-Peralta et al.(2020);茅野・谷口(2022);Hirata & Harvath(2015);越谷(2011);清水ら(2020) | |
| 対象者が怖い |
利用者の暴言・暴力が怖い 小さな老人ではなく身体的には強くてしっかりしており怖い 利用者と対応していて身の危険を感じたことがある |
國井ら(2022);松田ら(2018);Holst & Skär(2017);Savundranayagam et al.(2021);鈴木(2010) | |
| 対象者から面倒をかけられていると思う |
じっとしていて欲しい,静かにしていて欲しい 生活介護中に抵抗しないでほしい 性的な言動を止めてほしい 他人の物を取ってしまい争いごとになる 他者の居室に入って迷惑をかけてしまう |
Davison et al.(2017);Kuremyr et al.(1994);Hazelhof et al.(2016);Nunez et al.(2018);清水ら(2020);鈴木(2010);鈴木ら(2012) | |
| 対象者の話を聞きたくないと思う |
何度も聞くことに疲れた 何回も繰り返されると,“もうあっち行って”と感じる 同じことを何度も言わないでほしい |
Davison et al.(2017);越谷(2011);Savundranayagam et al.(2021);清水ら(2020) | |
| BPSD対応に疲弊する | BPSDにうまく対応できないことで不全感がある |
これ以上何も対応できないと思う ケアへの拒否があり苦慮する 自分のメッセージが何も伝わっていないと思う 無力感にさいなまれる 100回くらい帰りたいと出口を探して歩き続けるため,対応がわからない 同じ事を何回も言われ返答できなくなる |
Briones-Peralta et al.(2020);Chamberlain et al.(2017);Costello et al.(2019);Hazelhof et al.(2016);Holst & Skär(2017);越谷(2011);Kuremyr et al.(1994);前田ら(2019);松田ら(2018);Morgan et al.(2002);Savundranayagam et al.(2021);Smythe et al.(2017) |
| 暴言・暴力に精神的なダメージを受ける |
痛くて立ち上がれずショックを受けた 暴言を受け入れざるを得ない辛さがある 言葉の暴力で心が傷つく たたかれるより,つばをかけられるのが本当に嫌だ また暴力を受けるのではないかと思うだけで感情的に疲弊する 暴力を受けることが一番辛い |
Davison et al.(2017);Duffy et al.(2009);Hirata & Harvath(2015);Holst & Skär(2017);片山(2021);越谷(2011);Morgan et al.(2002);Savundranayagam et al.(2021);鈴木(2010) | |
| 困難なケアへの不安を感じる | 医療的ケアへの不安 |
医療的ケアへの拒否に困惑する チューブを自己抜去する可能性がある |
Hazelhof et al.(2016);片山(2021);Morgan et al.(2002) |
| 利用者の安全確保への不安 |
徘徊によってどこに行ってしまうかわからない 離施設への不安がある 徘徊により何人もが同時に見守りが必要になり,対応できないことがある |
片山(2021);清水ら(2020);鈴木ら(2012) | |
| 夜勤への不安 |
夜勤時の認知症症状への対応に不安がある 夜勤時になにか起こるのではないかと不安になる 夜間興奮した高齢者が,他の人を起こしてしまう |
古村ら(2014);Morgan et al.(2002);鈴木(2010) | |
| アセスメントへの不安 |
話せない人のニーズをどうやって把握すれば良いのか ニーズがわからず,怒らせてしまったり,傷つけてしまうのではないかと心配だ コミュニケーションがとることが難しく,表情・しぐさ等から異常を観察するのは難しい |
Edberg et al.(2015);片山(2021);松田ら(2018);Smythe et al.(2017) | |
| 倫理的苦悩に押しつぶされる | 理想的なケアができないジレンマがある |
認知症症状に否定的感情をもつことは良くないと思う 怒らせないために,本当でないことを伝えてしまう 無意識のうちに出る否定的感情に罪悪感を感じる 適切にケアできなかったとき罪悪感を感じてしまう 時間が無いため,ケアを急いで済ませてしまう 利用者と関わる時間をとれないことがやりきれない 入居者のことをもっと良く理解するために,もっと知ることができたらなあと思う |
Edberg et al.(2015);Edvardsson et al.(2014);Hirata & Harvath(2015);Knopp-Sihota et al.(2015);古村ら(2014);國井ら(2022);Morgan et al.(2002);Nunez et al.(2018);Pijl-Zieber et al.(2018);Savundranayagam et al.(2021);鈴木(2010);van der Lee et al.(2017) |
| 共感疲労におちいる |
十分にケアを受けられていない高齢者を見るのが辛い 認知症である彼らを見ているのが辛い 入所者が亡くなると家族を亡くしたように悲しい |
Albers et al.(2014);Briones-Peralta et al.(2020);Edberg et al.(2015);Mobily et al.(1992);Pijl-Zieber et al.(2018);Savundranayagam et al.(2021);梅沢(2023) |
【ケアの対象者にネガティブな感情を抱く】については,〈対象者にイライラする〉,〈対象者に怒りや憎しみがある〉,〈対象者が怖い〉,〈対象者から面倒をかけられていると思う〉,〈対象者の話を聞きたくないと思う〉の5つのサブカテゴリーで表された.ケア実践者はケア対象者の行動にイライラしたり,怒り・憎しみまでも感じていた.ケアする対象者に対して,怖いという感情を持つこともあった.また,じっとしていられなかったり,他者に迷惑をかけてしまう対象者に〈面倒をかけられている〉と思っていた.さらに認知症により話が繰り返される言動に対し,〈話を聞きたくない〉とも思っていた.
また,【BPSD対応に疲弊する】のカテゴリーは〈BPSDにうまく対応できないことで不全感がある〉,〈暴言・暴力に精神的なダメージを受ける〉のサブカテゴリーで表された.対象者のBPSDに対し「これ以上何も対応できないと思う」と考え,「無力感にさいなまれる」という言葉もあった.「暴力を受けることが一番辛い」のように,BPSDの中でも暴言・暴力を受けることで,物理的な痛みだけでなく,精神的な痛みを感じていることが明らかになった.
【困難なケアへの不安を感じる】のカテゴリーでは,ケア実践者が〈医療的ケアへの不安〉,〈利用者の安全確保への不安〉,〈夜勤への不安〉,〈アセスメントへの不安〉を抱えていた.徘徊によって安全が確保できないのではないかと感じ,勤務者の少ない夜勤で,認知症症状などで何か起こるかもしれないと不安を感じていた.さらに,コミュニケーション障害がある対象者のニーズ把握や,異常の発見に不安を持っていることが明らかになった.
一方でケア実践者には【倫理的苦悩に押しつぶされる】という状況があった.〈理想的なケアができないジレンマがある〉というサブカテゴリーでは,「利用者と関わる時間をとれないことがやりきれない」などのジレンマが示され,〈共感疲労におちいる〉というサブカテゴリーでは「十分にケアを受けられていない高齢者を見るのが辛い」など認知症の対象者に共感することで辛さを感じていた.
2. 先行要件先行要件として,【ケアの対象者との意思疎通が難しい】,【ケアの対象者との信頼関係が築けない】,【理想的な認知症ケアを実践しようと努力する】,【認知症ケアの専門知識・技術が不足したまま働く】の4カテゴリーが抽出された(表2).
| 【カテゴリー】 | 〈サブカテゴリー〉 | 「コード」 | 文献 |
|---|---|---|---|
| ケアの対象者との意思疎通が難しい | ケア実践者の意図が対象者に伝わらない |
説明しても理解できない 感謝の意など返ってくるものがない 正しいことを言っているのに受け入れてもらえない |
梅沢(2023);小野寺ら(2007);片山(2021);清水ら(2020);Albers et al.(2014);Briones-Peralta et al.(2020);Duffy et al.(2009);Hazelhof et al.(2016) |
| 言いたいことがわからないために複雑なアセスメントが求められる |
想像を膨らませてどういう人生だったのかを考える 表情・しぐさ等から異常を観察するのは難しい 疼痛評価に確信がもてない 1日中歌っているのか,泣いているのか,原因がわからない 何を必要としているのかわからない |
Bökberg et al.(2014);Brodaty et al.(2003);Duffy et al.(2009);Edberg et al.(2015);Morgan et al.;(2002);片山(2021);鈴木ら(2012);前田ら(2019);山本ら(2022) | |
| 同じ説明とケアを繰り返す必要がある |
何度も言い方を変えて聞いても返答が得られない 同じことを何度も繰り返し答え,説明する 何度も何度も同じ事を聞かれる |
Davison et al.(2017);Savundranayagam et al.(2021);越谷(2011);鈴木(2010) | |
| 複数のBPSD症状のある高齢者に同時に対応する必要がある |
落ち着かない人,転倒リスクのある人,床をはっている人が同時に発生する 転倒リスクの高い人の徘徊に付き添うと他の人も歩き出す |
Davison et al.(2017);鈴木ら(2012) | |
| ケアの対象者との信頼関係が築けない | ケアの対象者の攻撃性がある |
なんでそこまでたたかれないといけないのと思う 後ろから襲われたり,首を絞められたりした 言葉の暴力によって,心が傷つく 大声をあげテーブルをガタガタ揺すり,叫ぶ 物や食べ物を投げつけてくる 言葉や態度で威嚇される 排泄や入浴などの援助中に暴力を受ける |
Brodaty et al.(2003);Davison et al.(2017);Duffy et al.(2009);Hazelhof et al.(2016);Hirata & Harvath(2015);Holst & Skär(2017);Morgan et al.(2002);Rodríguez-Monforte et al.(2021);Savundranayagam et al.(2021);Zwijsen et al.(2014);越谷(2011);鈴木(2010);鈴木ら(2012) |
| ケアの対象者が提供しようとするケアに対し抵抗を示す |
ケアを怖がったり嫌がったりする 入浴時,奇声・つねる・湯をかけるなどの行為で強い拒否を示す 口を開けていただけない |
Brodaty et al.(2003);Davison et al.(2017);Edberg et al.(2015);Hazelhof et al.(2016);Hirata & Harvath(2015);片山(2021);Morgan et al.(2002);鈴木(2010);高木ら(2012) | |
| 理想的な認知症ケアを実践しようと努力する | 常に援助者として正しくあろうとする |
常に援助者としてふさわしい言動をとろうと心がける 援助者として求められる姿勢を取ることをへの義務感がある 公平に順番に対応しなければならない 入居者にとって何がベストのケアなのかを考える |
茅野・谷口(2022);Edberg et al.(2015);Holst & Skär(2017);松田ら(2018);清水ら(2020) |
| 自身の感情を抑え,ケアの対象者への共感を示さなければとならないと思う |
利用者の気持ちを理解しようと共感的にふるまう 本心とは違う感情を装うことがある |
國井ら(2022);松田ら(2018) | |
| 認知症ケアの専門知識・技術が不足したまま働く | 認知症ケアの専門知識・技術が必要とされる |
常に新しい知識・技術が必要となる 意思疎通が困難なためコミュニケーションの取り方を学ぶ必要がある BPSDへの深い理解が必要である |
Edvardsson et al.(2014);Kameoka et al.(2020);Morgan et al.(2002);Smythe et al.(2017) |
| 認知症ケアの専門知識・技術に関するスタッフ間のばらつきが大きい |
認知症状による言動の意味と背景を理解する方法が身についていない職員がいる 認知症ケアのトレーニングを受けた人がもっと必要だと思う チームでBPSDケアスキルの力量の差がある |
Edberg et al.(2015);古村ら(2014);前田ら(2019);Morgan et al.(2002);Savundranayagam et al.(2021);鈴木(2010) |
認知症の症状として言語機能障害があるため,〈ケア実践者の意図が対象者に伝わらない〉,〈同じ説明とケアを繰り返す必要がある〉ということが起こり,〈複雑なアセスメントが求められる〉ことが生じていた.また〈複数のBPSD症状のある高齢者に同時に対応する必要がある〉ことも起こっており,ケアの対象者との意思疎通が図れず,業務への負担につながっていた.
認知症ケア実践者は,〈ケアの対象者の攻撃性がある〉こと,〈ケアの対象者が提供しようとするケアに対し抵抗を示す〉ことによって,【対象者との信頼関係が築けない】でいることが示された.ケア実践者は「後ろから襲われたり,首を絞められたりした」といった暴力を受けたり,「入浴時,奇声・つねる・湯をかけるなどの行為で強い拒否を示す」など,ケアへの抵抗を受けており,これらが精神的負担の一要因として抽出された.
また,認知症ケア実践者は多くのストレスや負担の中でも,【理想的な認知症ケアを実践しようと努力する】姿勢でいることが明らかになった.〈常に援助者として正しくあろうとする〉,〈自身の感情を抑え,ケアの対象者への共感を示さなければとならないと思う〉のサブカテゴリーが示すように,自分の感情を優先するのではなく相手への共感を示しながら,常により良いケアをしようとする姿が表されており,このことが精神的負担につながる可能性が示された.BPSDの対応に追われるような現場でも,「公平に順番に対応しなければならない」といったコードが抽出され,理想的なケアをしようと努力するケア実践者を表していた.
しかし認知症ケアにおいては,〈認知症ケアの専門知識・技術が必要とされる〉ため,〈認知症ケアの専門知識・技術に関するスタッフ間のばらつきが大きい〉こともあり,認知症ケアの知識・技術が十分でないまま働いていることが明らかになった.「チームでBPSDケアスキルの力量の差がある」などチーム内で知識・技術がそろわず,そのことが精神的負担につがなる可能性があった.
3. 帰結帰結は,【ケアの専門職としての適性を失う】,【倫理性を欠いたケアになる】,【認知症ケアの場から去ろうとする】の3カテゴリーが抽出された(表3).介護施設の認知症ケア実践者の精神的負担は,〈ケアの対象者への人間的温かみを失う〉や〈職務への情熱を失う〉といった状況に発展し,他者を援助する専門職としての適性を失う場合もあることが示唆された.また〈人間的なケアをしなくなる〉,〈ケアをしながら攻撃的な言動をする〉,〈ケアをしなくなる〉の3つのサブカテゴリーに表されるように,倫理性を欠いたケアにつながる可能性も示された.また,〈休職する〉と〈離職を考える〉のサブカテゴリーから,認知症ケアの職から離れようと考えることも示された.「辞めたいと思う」というコードが示すように,離職を考えながら業務にあたっていることが表されていた.
本研究では,Caregiver burdenという概念を重視し,介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担の概念分析を行った.属性の分析結果から,その定義を「ケアの対象者に対してネガティブな感情を抱きながら,BPSD対応に疲弊し,困難なケアへの不安を常に感じている一方で,倫理的苦悩にも押しつぶされている状態」とした.
概念分析によって得られた先行要件,属性,帰結のカテゴリーの構造について概念図として図1に示した.属性の4カテゴリーは相互に影響を与え認知症ケア実践者の内面に渦巻いている様子を示している.要因となる先行要件は【ケア対象者との意思疎通が難しい】と【ケア対象者との信頼関係が築けない】の対象者に関するカテゴリー,【認知症ケアの専門知識・技術が不足したまま働く】と【理想的な認知症ケアを実践しようと努力する】の実践者に関するカテゴリーが関連し合いながら属性の要因となっていることが示されている.帰結では,【倫理性を欠いたケアになる】ことと【ケアの専門職としての適性を失う】状況が,最終的には【認知症ケアの場から去ろうとする】ことにつながっていく可能性を示した.

介護施設の認知症ケア実践者の精神的負担に関連する概念であり,代用語として使用できるのは「介護施設の認知症ケア実践者の心理的ストレス」である.ストレスとはラザルス・フォルクマン(1984/1991)によると「ある個人の資源に重荷を負わせる,ないし資源を超えると評価された要求」とされ,「心理的」を加えることで精神的負担と類似した概念となり得る.本研究が目指した概念はCaregiver burdenであり,ケアする人の精神的な重荷・負担を表している.ストレスは時として「良いストレス」と呼ばれるものもあるが(二木,2007),「良い精神的負担」という概念がないという点で,相違がある.属性として抽出された疲弊や,倫理的苦悩などのカテゴリーから見ても,精神的負担は心理的ストレスより心理面への影響の程度が大きいという点で相違があるが,関連概念であると言える.
認知症ケア実践者がもつ精神的負担の属性として抽出された4つのカテゴリーのうち,【ケアの対象者にネガティブな感情を抱く】は,対象者に対して否定的な思いを抱きながらケアを行うという葛藤を表していた.
看護・介護職は一般的に,対象者の立場に立って考え対象者の思いを理解するようにと教育されている.しかし認知症ケア実践者は,ケアの対象者にイライラや怒り,恐れを感じ,その言動に対し「じっとしていて欲しい,静かにしていて欲しい」と思い,面倒をかけられているという負担を感じていた.繰り返される発言や質問には,「同じことを何度も言わないでほしい」と感じ,傾聴もできないような状態になる可能性があることがわかった.前述の通り,介護保険施設の入居者は9割以上に認知症があり(厚生労働省,2016),平均在所・在院日数は長く,特別養護老人ホームでは1,400日を超えている(厚生労働省,2015).したがって,コミュニケーション障害のある対象者の攻撃性や抵抗性に日々繰り返し対応しなければいけない状況であることが推測される.それにより,前述のような対象者に対する負の感情が日常的にケア実践者の心中に渦巻いている状態が示唆された.そして心身機能が衰えつつある高齢対象者に,怒りや嫌悪の感情をぶつけるわけにはいかず,そのことを十分に理解しているケア実践者は,怒りや嫌悪を自分の中で留めようとするが,解決されなかった怒りや嫌悪によって不全感や無力感を感じ,抑うつ状態となる可能性もある(宮本,2010).この状況が毎日のように起こっていることが,介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担の特徴であることが明らかになった.
看護師の患者に対する陰性感情は精神科看護領域で多く研究されてきた経緯がある.精神科看護師が抱く陰性感情に関する文献検討では,陰性感情を抱いた場面として「攻撃的な言動・暴力」や「拒否・拒絶・無視」,「迷惑行為」が含まれており(佐藤・近藤,2019),本研究と類似した結果となっている.また,精神科看護師へのインタビューでは,BPSD対応に対し陰性感情を抱いてしまい,そのような思いをもちながらケアすることに負担感を感じているという報告もあった(上野,2015).これは,ケア対象者に対しネガティブな感情をもつことが認知症ケア実践者の精神的負担の属性であるとした本研究と同様の結果であると言える.
また【BPSD対応に疲弊する】のは,認知症ケア実践の特徴の一つであろう.BPSDは患者の機能低下へとつながり本人が苦しむばかりでなく,介護者にとって精神的ストレスなど大きな負担になることがわかっている(日本認知症学会,2014).BPSDは患者・介護者の心理要因,性格,環境など,多くの要因が関与し多様性を有しているため,その対応も個人差が大きく,より対応が困難となる(Hu et al., 2022).そのため〈BPSDにうまく対応できないことで不全感がある〉のは,むしろ当然であり,専門領域である精神科看護師もこれで良いのか疑問を感じながら介入していることが報告されている(上野,2015).またそうした不全感を感じながらケアにあたらなければならないことも,精神的負担となっていると思われる.
〈暴言・暴力に精神的なダメージを受ける〉ことも,【BPSD対応に疲弊する】のサブカテゴリーとして明らかになった.BPSDの中でも身体的暴力・言語的暴力は,「痛くて立ち上がれずショックを受けた」というコードが表すように,被援助者から直接暴力を受けることで精神的負担を受けやすいと思われる.特に,対象者に良かれと思って行っているケアの最中に,予期しない形でもたらされる暴力には精神的ストレスも増幅する(越谷,2011)とあるように,ケアが報われる形では戻ってこないとなれば,気持ちのやり場もないことが推察され,認知症ケア現場の過酷さが明らかとなった.三木ら(2023)の調査では,約6割の介護保険施設で利用者からの身体的暴力または精神的暴力があったと答えていることから,介護施設でのケア対象者の攻撃的な言動は少なくない可能性がある.「たたかれるより,つばをかけられるのが本当に嫌だ」や「言葉の暴力で心が傷つく」のコードから,単に身体的なダメージだけでなく,ケア実践者の自尊心を損なうという点で精神面への影響は大きい.また精神障害による労災認定を受けた介護職に対しトラウマティックな出来事を尋ねた研究では,約半数が暴力等の遭遇または目撃であったことからも(川上ら,2022),ケア対象者による暴力はケア実践者にとって精神的禍根となる可能性があると推測された.
一方で,認知症ケア実践者はベストな援助がしたいと思うがゆえに〈理想的なケアができないジレンマがある〉と感じている.これは,実践者の不全感をも表していると言える.一般病院では,認知症をもつ患者も主疾患について治療をし,何らかの回復が見られることが多い.しかし,認知症症状は不可逆的であり,コミュニケーション障害のある対象者を理解することの困難性により「うまくケア提供できた」と感じる機会を得にくい(竹井ら,2021).また,対象者の反応も少ない場合は,ケアへの手応えを感じられないこともある.そのため,理想的なケアができていないと考えジレンマに陥ってしまう可能性がある.また,認知症の人への関わり方を学んでいるがゆえに「認知症症状に否定的感情をもつことは良くないと思う」と良いケアをしたいともがく姿が見受けられた.加賀田ら(2015)も,自己の感情とは異なる,患者から期待される感情を示そうとする努力によって心理的および身体的ストレス反応を高めるという報告をしており,感情コントロールができていないと感じることが精神的負担になり得ることを示していた.このようにケア実践者が,認知症症状への対応に苦慮しながらも,より良いケアをしたいとジレンマを抱えるのは,介護施設での認知症ケアの大きな特徴と言える.
そして,認知症をもつ対象者が「十分にケアを受けられていない」のを見て辛い思いをし,「認知症である彼らを見ているのが辛い」という共感をもつことで精神的疲労を抱えてしまうことも明らかになった.福森(2017)によれば,病院や施設の看護師はその職務の性質上,思いやりや共感が求められやすいために共感疲労のリスクがある.そして,共感疲労は看護師の健康状態に悪影響を及ぼし,間接的にも生産性の低下や離職率の上昇につながり,ケア対象者にも不利益をもたらすとして共感疲労の軽減が重要だとしている.海外でも,倫理的苦悩はケア実践者の心理面に影響し,辞職につながることがあると報告されているように(Pijl-Zieber et al., 2018),倫理的なジレンマや共感疲労は看過できない精神的負担であることが明らかになった.
認知症ケア実践者は,常に不安を抱えていることも今回の分析で示された.施設の性質上,病院と比較して人的・物的に医療体制が整っていない中で,認知症の人は医療的処置の意味が理解しづらいことが多いため,チューブの自己抜去などの〈医療的ケアへの不安〉がつのることが明らかになった.ADLが低くBPSDを呈する人の離設など〈利用者の安全確保への不安〉を常に持ちながらケアをしている.特に夜勤のスタッフが少ない中でBPSDに対応しなければいけないことは,〈夜勤への不安〉を増強させるだろう.また,コミュニケーションに障害を抱えた認知症の人の〈アセスメントへの不安〉は大きく,対象者のニーズ把握に自信が持てない様子が伺えた.言葉で表現できない対象者に対しては,表情やしぐさ等を観察するが,そこからも異常を捉えることは難しく,アセスメントの難しさに不安をもっていることが示された.このことは,熟練看護師が感情の察知や経験値を生かすことで認知症をもつ人のニーズを把握していることを明らかにし,ニーズ把握が容易ではないことを示した先行研究(山本ら,2016)と一致した結果であった.
2. 認知症ケア実践者の精神的負担の先行要件の特徴ケア実践者が負担を感じる要因には,【ケアの対象者との意思疎通が難しい】こと,そしてケアの対象者の攻撃性や抵抗性のために,【ケアの対象者との信頼関係が築けない】ことがあった.認知症症状である言語機能障害や攻撃性は,根本治療がなく解決を図ることが難しい.本研究の分析では,援助者と被援助者とが円滑なコミュニケーションがとれないことでストレスがあるという文献は多く,「説明しても理解できない」,「同じ事を何度も繰り返し答え,説明する」などのコードが示すように,意思疎通がとれないことが認知症ケアの難しさの象徴であり,それが精神的負担の要因の一つであると考えられる.また,意思疎通が難しいことが,ケア対象者の不安を増強し,攻撃性や抵抗性となって表れることが推測される.本研究では,ケア対象者の攻撃性や抵抗性は,ケアの遂行を困難にし,良好な援助者・被援助者関係を築けず,精神的負担につながることが明らかになった.宮﨑(2011)は,認知症の攻撃的言動に対する対処効力感が高いほど,心理的ストレス反応が少ないことを明らかにしている.つまり,暴力や暴言,ケア拒否にケア実践者が対応し,対応できていると感じられるほど心理的ストレスは軽減されるということである.今後は,BPSD対応能力を高め自信を持ってケアするための実践的な教育が求められることが示唆された.
一方,【理想的な認知症ケアを実践しようと努力する】は,認知症ケア実践者が自身の感情をコントロールして,障害のある人を適切に援助しようとする倫理感を表している.宮本(2010)は,援助職が疲弊しているのは患者や被援助者に対して否定的感情を体験することそれ自体への抵抗感があり,その否定的感情を抑圧することで援助職の消耗や疲弊をもたらすと説明している.本研究でも「本心とは違う感情を装うことがある」というように,否定的感情を抑圧している姿が浮き彫りとなり,宮本が述べたことと同様の結果となった.このように認知症ケア実践者は職務において自身の感情の管理が課せられていることが明らかになり,ホックシールドが定義した感情労働を行っていることが示唆された(阿部,2010).海外では病院勤務の看護師の感情労働は,バーンアウトの要因となることがわかっており(Zaghini et al., 2020),認知症ケア現場で見られる感情労働は精神的負担の一要因となり得ることが示された.
3. 認知症ケア実践者の精神的負担の帰結から考える臨床への示唆認知症ケア実践者は,認知症ケアの場から去ることを考えながらケアを行っていることが明らかになった.多くの文献が,認知症ケア実践者は燃え尽きてしまったと感じ,仕事の満足感を得られない状態であることを示していた.職務に後ろ向きになり専門職としての適性を失った状態で働き,一方で倫理性を欠いたケアを行う場面もあることが示された.認知症の人をもののように扱っていると感じたり,無理やり引っ張る,要求を無視するなど不適切なケアも行う可能性があることが明らかになった.このことからも,ケア実践者の精神的負担を軽減し,予防していく対策をとらなければ,援助者の精神面の改善が図れず,ケアの質低下をまねき,認知症ケアの人的資源の喪失にもつながりかねない.厚生労働省(2023)も,高齢者虐待防止のためには,メンタルヘルスに配慮した職員面談,怒りの感情等へのストレスマネジメントに関する研修など,職員のストレス対策が重要であると述べている.吉田(2016)の調査でも,高齢者虐待の要因は職員のストレスや感情コントロールの問題であるため,ストレス対処の研修が望まれると述べている.ケアする人が適切にケアされることがないと,認知症ケアの質を確保することは難しい.認知症ケアを担う家族介護者(Family caregiver)への精神的負担を軽減させるための介入が様々な方法で行われてきたように(Takasaki et al., 2023),介護施設の認知症ケア実践者(Formal caregiver)の精神的負担を軽減することは同じく重要なことと考える.認知症ケア実践者の精神的負担を軽減することで,ケアの質向上,人材流出の防止を図っていくことは,認知症高齢者の増加が見込まれる今後,ますます必要性が高まることが予想される.
本研究の限界として,文献収集にあたり,第一段階ではタイトルと抄録に焦点化して取捨選択したことによって,対象論文として含めるべき文献を選択できなかった可能性が残ることが挙げられた.今後の課題としては,施設種別ごとに対象を絞る,もしくは職員種別毎に対象を絞ることで,認知症ケアの精神的負担の施設別・職種別特徴を明らかにすることが必要と考える.また,介護施設における認知症ケアの精神的負担を測定する客観的指標の開発が必要であり,今回の概念分析で抽出された属性のカテゴリーも活用可能であると考える.
本研究は,Rodgersの概念分析方法を用い,和論文26と英論文28を分析対象とし「介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担」の概念分析を実施した.その結果,認知症ケア実践者の精神的負担の属性として,【ケアの対象者にネガティブな感情を抱く】,【BPSD対応に疲弊する】,【困難なケアへの不安を感じる】,【倫理的苦悩に押しつぶされる】,の4カテゴリーが抽出された.認知症ケアの質確保,人材確保のためにはケア実践者の精神的負担の軽減が重要であることが示唆された.
付記:第45回日本看護科学学会学術集会で発表(予定)
謝辞:本研究に関して,ご協力くださいました皆様に深く感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:JSは研究計画,実施,執筆において実質的に寄与した.TSは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.両著者共に最終原稿を読み承認した.