日本看護科学会誌
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原著
脳卒中発症直後の患者の動きを再構築する看護介入の実現可能性と効果検証に向けた課題の検討:パイロットスタディ
鈴木 和代
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2025 年 45 巻 p. 246-257

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Abstract

目的:脳卒中発症直後の急性期の患者を対象に動きを再構築する看護介入の実現可能性を検討する.具体的には,介入効果の検証に必要な標本サイズと指標の妥当性,本格的な調査を行うための課題を明らかにすることである.

方法:対象者は発症後3日目以内にSCUに入院した60~85歳の患者で,対照群20名,介入群20名のデータを収集した.発症4日目~15日目の期間において動きを再構築する看護介入を行い,介入効果の主要評価指標はFIMで分析した.

結果:対照群と介入群の2群間の評価指標に統計学的な有意差は認められなかった.入院時のNIHSSが20未満の患者に限定した分析では,発症15日目のFIM認知項目得点利得が介入群において高く統計学的な有意差が認められた.

結論:今回の結果より必要な標本サイズや評価指標,その他研究方法において本格的な調査に向けた課題が明らかとなった.

Translated Abstract

Purpose: To examine the feasibility of nursing intervention to reorganize movements in patients in the acute phase immediately after the onset of stroke. Specifically, the purpose of this study is to clarify the sample size and the validity of the indices necessary to verify the effectiveness of the intervention, as well as the issues to be addressed in order to conduct a full-scale study.

Methods: This study included 40 patients (control group, n = 20; intervention group, n = 20) 60–85 years old who were admitted to the Stroke care unit within 3 days after the onset of stroke. Nursing intervention to reorganize movements was performed from days 4 to 15 after the onset of stroke, and the effectiveness of the intervention was analyzed using the Functional Independence Measure (FIM).

Results: There was no statistically significant difference in the outcome measures between the control and intervention groups. In an analysis limited to patients with NIHSS <20 on admission, the intervention group had a higher FIM cognitive score improvement on day 15, which was a statistically significant difference.

Conclusion: The results of this study revealed the issues associated with conducting a full-scale study in the future, such as establishing the necessary sample size, the need to standardize the assessment instruments, the methodology, and the other research methods.

Ⅰ. 緒言

脳卒中発症後の運動・生活機能回復においては,発症後遅くとも24~48時間以内に病態に合わせたリハビリテーション(以下,リハビリ)の計画立案と早期からのリハビリの実施が推奨されている(日本脳卒中学会,2023).発症から2週間の急性期は,血圧や脈拍,体温,呼吸状態などのバイタルサインが不安定で,集中治療が優先されるために安静が必要となるが,安静による弊害は機能回復を妨げる要因となる.安静により重力に抗する動きや抗重力姿勢をとることがない状態は,心肺系や筋骨格系に負荷がかからないために様々な生理的機能が低下する(石川ら,2004).安静による廃用を予防することはもちろん,脳卒中発症による機能の喪失を最小限とするためには,それらをいかに回避するかについて発症後早期から絶えず意識して関わる必要がある.しかし発症後早期からのリハビリが実施されているだけでは不十分で「リハビリ以外の時間の過ごし方,あるいは寝るときの姿勢でさえもアウトカムに著しい違いをもたらすほど重要である」(Davies, 1987/2012)とされており,効果的なリハビリ療法が行われても患者の日常の過ごし方がそれと逆行していればその効果はあがらない(菊池,2001).

脳卒中発症直後は意識障害や注意障害を呈し身体拘束が実施されやすい状況がある(大山ら,2010齋藤・鈴木,2019).脳卒中発症後1か月間の患者の活動レベルについて,患者のほとんどは日中の多くの時間を臥位か座位にさせられた状態で過ごしていたとの報告がある(Kramer et al., 2013).このように患者は自ら動くことが難しい状況があり,患者が自身の動きを取り戻すことができる環境や機会は限定されている.急性期における臥位の管理及び援助は患者の回復において重要な鍵となる看護の役割であり(小板橋・柳,2000),リハビリ以外の時間にベッドサイドで患者と関わる看護師のケア方法は,患者の機能回復に大きく影響する.しかし従来から実践されている体位変換や良肢位保持,関節可動域維持など,発症直後の急性期における看護実践が患者のその後の生活機能の回復にどの程度の効果をもたらしているのかについては十分に明らかとなっていない.脳卒中・脳障害の患者に対して,発症後早期から患者が“起きて”生活できることを目指す看護については紙屋(1994)の実践報告や大久保ら(2005)の研究によりその必要性は認識されている.これらの実践を推進するためにも,発症直後のベッド上安静で過ごす時期から患者の生活機能回復を意識した関わりが必要である.

脳卒中発症により患者はそれまで獲得し何気なく行ってきた動きを喪失する.単に運動に支障があるだけでなく知覚の仕方が今までと全く変わってしまっている場合があるため,発症前には苦労なくできていたこと全てが,努力や痛みを伴いながら行うことになる(玉地,2002, 2012).変化した知覚で新たな動きを構築していくためには,関節可動域訓練や筋力の維持といった他動的な骨格筋の伸縮運動のみならず,生活場面の中で自己が経験しながら新たな“行為”の再学習を重ねることが欠かせない(宮本,2001).つまり,普段の生活行動を行う中で動きを取り戻すことが重要であるため,看護師が行う生活援助は患者の動きを再構築する機会として貴重な関わりであると考えられる.

そこで本パイロットスタディでは,脳卒中発症直後の急性期の患者を対象に,動きを再構築する看護介入を実施し,その実現可能性を検討することを目的とする.具体的には,介入効果の検証に必要な標本サイズと指標の妥当性,本格的な調査を行うための課題を明らかにすることである.

Ⅱ. 方法

1. 動きを再構築する看護介入の概念枠組みと実践モデル

脳卒中発症直後の患者の動きを再構築する看護を実現する枠組みとして,作業療法士Affolter(1987/1993)の実践理論をもとに検討した.AffolterはPiagetの発達心理学を基盤として,人は環境との相互作用の中で“動き”を獲得していくと考えた.環境との相互作用には知覚(perception)が必要で,視覚や聴覚といった複数の感覚(modality)を用いるが「一番重要で,なおかつ非常に複雑な感覚は触-運動覚系」であると述べている.これは何かが触れて感じるフィーリング(feeling)と近似しているが,受動的に感じ取ったフィーリングのみならず,自ら動くことで周囲のものに触れて感じ取る感覚を意味していると考えられる.健常児ならびに触-運動覚に障害がある子どもや成人の動きを長年にわたり詳細に観察し比較分析を行ったAffolterは,生誕直後からの正常な運動発達において欠かせないプロセス(要素)を発見し,発達に障害がある子どもや脳に障害を受けた成人においてこの要素を満たす専門的関わりが必要不可欠であると述べている.このプロセス(要素)は順に4つがある.これらの要素を満たすことは運動麻痺や感覚障害を抱えた脳卒中発症直後の患者においても重要であることから,Affolterの理論をもとに動きを再構築する看護介入の実践モデルを作成した.要素を満たす看護介入の4つの要素は,脳卒中発症直後の患者が満たすことができるよう研究者が改変した内容である.本介入により患者は,発症直後には異質であった自分の心身と周囲の世界が,なじみあるものとして構築され,生活機能の回復が促進されることに帰結する(図1).

図1  動きを再構築する看護介入の概念枠組みと実践モデル

2. 実践モデルにおける各介入の内容(表1

1) 安定できる臥位の提供

動きを再構築する看護介入の実施内容を表1に示した.安定できる臥位の提供は,臥位であっても不安定さを感じている患者にとって「安定できる」臥位を提供することを目指す.脳卒中発症後の患者は,ベッド上臥位など安静臥床の姿勢でも常に左右差や不安定さを感じており(玉地,2007),身の置き所のない「内的不安定」に陥っているため(柏木,2007),適切なポジショニングが実施されなければ長時間のベッド上臥位は安楽ではなく緊張が高まる苦痛の時間となる.従って姿勢のアセスメントを実施し,患者の支持面や筋緊張の状態を把握するとともに,患者の身体の緊張状態を是正し,不良姿勢の修正やポジショニングを行う.このような介入は患者の筋緊張亢進を予防し,身体の柔軟性の維持をもたらす.

表1 動きを再構築する看護介入の目的・内容・方法・実施例

要素を満たす介入の要素
介入の目的
具体的内容と実施方法 実施のタイミング 実施例(介入と患者の反応の質的記録の抜粋)

①安定できる臥位の提供

目的

(1)できるだけ広く均等な支持面を得ることができる

(2)頭部・体幹・四肢それぞれの位置関係に苦痛がなく,左右対称でねじれのない姿勢で過ごすことができる

アセスメントの実施 日勤開始時に,患者の身体のアライメントを外観から観察する.また,患者の支持面全体に頭部から下肢の先端までマットレスとの接触部位に,マルチグローブ*1で直接看護師の手を入れ,外観からは把握できない接地面の範囲や圧力,筋緊張の状態を把握する.同時に圧抜き*2を実施することで局所に集中している体圧を分散し支持基底面を広げ筋緊張の緩和をはかる. 朝の最初の訪室時,体位変換の実施直前と直後(間隔は60~90分) 朝の訪室時,姿勢のアセスメントを実施するが身体の重い部分がエアマットに沈み込んでいる感じはない.骨盤部は沈んでいるが体重があまりないせいかそこまでの沈みはない.緊張が強い印象は受けないが,以後観察必要.(左脳梗塞・発症4日目)/朝訪室すると頭部枕から頭部が落ちてしまっており,身体もピローが外れ支持されていないため,介助グローブで全身圧抜き実施し,一旦仰臥位となり頭部の枕と身体のピローを挿入し直す.(左脳出血・発症8日目)
不良姿勢の回避 毎回の姿勢変換後に圧抜きを実施し体圧分散や接地面の摩擦の緩和をはかることで同一姿勢による苦痛や不快を最小限とする.訪室時,身体の歪みや捻じれのある不良姿勢になっている場合は,一旦全身の圧抜きを実施してから歪みや捻じれのない姿勢に修正し身体の変形や筋緊張亢進を回避する. 仰臥位,側臥位,ギャッチアップなど姿勢を変えた直後と以後30分毎 ベッド上仰臥位で過ごしている時,自己修正が不可能なために下方にずれた状態で臥床していることが多い.また,麻痺の影響で頭部が右へ傾き左右非対称の姿勢となる傾向がある.長時間同一姿勢とズレや歪み回避のため,30~1時間毎の訪室の度にマルチグローブで圧抜きを実施し,不良姿勢を修正する.患者は圧抜き等で背中に介助の手を感じると,深呼吸をして身体の緊張がゆるむ.(左脳梗塞・発症4日目)
ポジショニングの実施 すべての姿勢において適した枕・クッション(ピロー)を選択し身体各部位に支持面を提供する.特にベッドの背上げ姿勢を頻回に行う急性期においては,背上げ前のポジショニングにより背上げによる下方へのずれや姿勢の崩れを予防する. 体位変換後と背上げ姿勢の前後,車いす乗車時 発症4日目,通常ケア(夜間)で体位保持困難として「ヘッドアップ75度,クッション使用し体位調整実施.左手使用し自己摂取開始するが10分もしない間に傾き著明,頸部位置も回旋し屈曲した.」との記録あり.発症5日目,食事時の背上げ姿勢のポジショニングを,①円柱型ピローを頭部~肩まで挿入 ②ブーメラン型ピローを右肘下に挿入 ③正方形ピローの縫い目に両下肢が乗るよう挿入 ④右下肢が外旋するため,③のピローの膝下に頭部枕サイズのピローを挿入し右下肢外旋を防ぐ ⑤下肢10度アップ程度,ヘッドアップは38~40度まで,と介入者が計画実施した.結果,食事摂取による患者の疲労が少なく,食事自己摂取が可能となった.(左脳出血・発症4~5日目).

②能動的接触の誘導

目的

(1)患者が身体の変化と周りのものを知る手がかりを得,自己の状態を把握できる

(2)なじみのある感覚を通じて,麻痺側を含めた自己の手足を感じることができる

身体拘束の回避と探索的な動きの誘導 日中の時間帯,可能な限り健側の手のミトン装着等の身体拘束時間を最小限とし,患者が自分の手で様々なものに触れて手指を動かせる機会をできるだけ多く提供する(身体拘束をしない時間を設ける).また,安静度の制限内で患者が手の届く範囲で周囲の物(ベッド柵やナースコール等)に触れることが可能な状況をつくり,安全を確保しながら探索的な動きを誘導する. 毎日最低1回,可能であれば検温や更衣や手浴等のタイミングで1日のうち複数回実施 左手の身体拘束を外すとすぐにじっと自分の左手を見て左のベッド柵をつかむ.しばらく傍で本人に話しかけていると,患者が左手を差し伸べて介入者の頬に手を添える.(左脳梗塞・発症5日目)/車いす座位で洗面台まで移動し手浴した際に,(介入者が)先に患者の麻痺側の手に泡をつけて洗おうとするのを見て「おー」と声を出し,健側の手も出そうとする.(左脳出血・発症8日目)
自己身体感知の誘導 モーニングケアや整容の際に,健側上肢で麻痺側上肢の手指に触れる,あるいは麻痺側の手指で自己の身体(顔や体幹等)に触れることを誘導する. 毎日最低1回,ケアや整容のタイミングで複数回実施 整容の援助の際に,本人の左手で麻痺側の右手を持つよう誘導する.誘導すると左手で右手を持つが,視線は右手にいかず左手をじっと眺めているため,右の身体に対する認知は不十分であると考えられる(左脳出血・発症7日目).

③バランスのとれた姿勢の提供

目的

(1)床面に対して身体を垂直に保つ感覚を得ることで身体の正中線を認識できる

(2)端坐位や立位で身体が定位できるようバランスをとる感覚を得る

様々な姿勢をとる 頭部や体幹の角度を変更するなどの肢位変換*3を含め,できるだけ多くの種類の臥位姿勢がとれるよう体位変換や姿勢の変更を行う.圧抜きを実施して局所圧や蒸れを解消する. ケア計画の体位変換のタイミング以外に30~50分おきに身体の一部の肢位や高さを変える 10:00 仰臥位・背上げ14度,10:40 保清ケアを病棟スタッフと実施.10:45(介入者)訪室し体位変換.左45度側臥位・背上げ20度,背中・右腕・右下肢にピロー挿入.11:00 仰臥位・背上げ45度にて介入者が口腔ケア実施.11:10 右30度側臥位・背上げ30度で姿勢調整し,背中と左上下肢にピロー挿入.(11:30 仰臥位・背上げ60度にて受け持ち看護師が経鼻栄養開始.)12:50(介入者)訪室し患者の姿勢変更せず全身圧抜きのみ実施.13:20(介入者)訪室し患者は仰臥位のまま背上げ26度へ変更し,両下肢と左上肢のピローを変更.13:50(介入者)訪室し,左45度側臥位へ体位変換・背中右上下肢それぞれにピロー挿入.(右脳出血・発症9日目)
抗重力姿勢の導入 仰臥位で下衣を着衣する際等に骨盤を挙げることで起居動作や抗重力姿勢に必要な動きを維持する.端坐位で数分間過ごす等,重力に抗して動き姿勢を保持する機会をリハビリ以外の時間に1日1回以上実施する. 上方移動時,着替えやオムツ交換時.安静度が端座位可となった以降は,バイタルサインや呼吸状態の安定を確認し,1日1回1分以上から実施.離床時間は患者の状況に応じる 受け持ち看護師と相談し車椅子に移乗.血圧の著明な低下なく20分乗車した.起き上がりは左からであるが全介助.端坐位になってすぐは右に大きく傾き(患者は)「体が傾いていってる」と発言していた.傾きの原因は左手で柵を持って押していることで,左手をマットレスの方についてもらい「少し右に傾いていますよ」と伝えると少し左に自己修正し正中位となる.「今まっすぐですが分かりますか?」と尋ねると「わからない」と.(左脳出血・発症8日目)

④感覚情報の統合を導くフィードバック

目的

(1)自分の五感で周囲の状況を認知し,自身の身体で行為や移動を行うことができる

(2)起きた姿勢で過ごし,多様な感覚情報を得ることができる

(3)日常生活行動において様々な道具を使って複数の感覚器官から情報を得ることができる

動きのイメージを喚起する 動く前にあらかじめ「動きのイメージ」を想起できるように具体的に声かけしたり,動いた時に感じたことを患者本人に確認し,本人が動きの主体であると気づけるようフィードバックする. 体位変換や起居動作・移乗動作の援助に入る前 陰部洗浄の体位変換時に,左右どちらに触れるか,左右どちらに向くかを本人に伝え,本人の動きの準備を引き出す.寝返りを行うために体重移動の導入までは自己にてできるため,それ以降体位の安定が図れるまでを介助する.(介入者が)「左向きますよ」と声掛けすると,患者は視線を左に向け,左へ寝返りする準備を始める.動きの準備を自己にて開始できるようになっている.(左脳出血・発症10日目)
自分で動ける部分の尊重 ベッド上での移動や起き上がりや移乗の際には“自分で動いた”という感覚をつかめるよう,できる限り自身で動くことができるよう視線の方向や,次の動きの情報を声かけで伝える.把持できるベッド柵の位置を患者に伝える,車いすのアームサポートを把持しやすい位置にセッティングする等の援助で,患者への徒手的な援助が最小限となる環境を提供する. ベッド上での体位変換や上方移動,起居動作や移乗の援助を行う時 上方移動の必要が生じた際に,(介入者)がベッド柵を持つよう患者の健側の手(左上肢)を誘導すると左上方の柵を把持し,健側である左下肢も自己にて膝を屈曲し上方移動する態勢になる.(介入者が本人の右側に立ち,動きをサポートしようと患者の体に触れると)本人がベッド柵を持った左手で体幹を引きながら,左足底でマットレスを蹴り,全身の動きを連動させて動きに参加しようとする.(左脳出血・発症7~15日目)
動きへの意欲を促すフィードバック 日常生活行動で様々な道具を使って複数の感覚器官から情報を得る中で,うまくできている部分について動いた直後にジェスチャーや言語で伝えることで,動くことによる喜びや達成感が得られるようなフィードバックを伝える. 整容や食事,歯磨き等の日常生活行動を行う時,体位変換や移乗の後 尿意訴えあり車いすでトイレへ行くこと提案したところ「はい」と返答あり.ギャッチアップで上半身を徐々に起こし,ゆっくり頭部を挙げてから端坐位への動きをサポートする.端坐位になった際のめまいなし.まだ車いす位置が整わないうちにすぐに移乗しようとするため,まずは立位をとることを声掛けし,健側での支持ができることを確認したうえで麻痺側を軽度介助で移乗する.体幹の崩れなく,回転動作時は左足(健側)の力で右足(麻痺側)を(引きずるように)動かしている.移乗時や移乗後も周りをよく見ている.トイレへ行き左手で手摺をもち立位をとった後に回転動作時,右下肢を踏みかえる際に声かけし,軽く支える介助.ズボンとオムツの上げ下ろしを介助するが,左手で手すり持てば立位安定.排尿後の手洗いは左手のみで終わろうとするため,(介入者が)患者の右手にもハンドソープをつけて洗浄する介助を行う.(左脳梗塞・発症5日目)

*1 マルチグローブとは,介助時に発生する皮膚のずれや摩擦を緩和するグローブで,患者の身体接地面に介助者の手を挿入しやすくする介助用具

*2 圧抜きとは,マルチグローブを使って衣服のしわやよれを解消し,接地面と身体・衣服と身体とのずれにより局部に発生した摩擦を緩和し,体圧を分散すること

*3 肢位変換とは,頭頚部や四肢の位置や肢位を変える,全身ではなく身体の一部分について支持面や他の身体各部位との関係性を変えること

2) 能動的接触の誘導

この介入は,運動麻痺や健側の身体拘束で周囲を感じ取ることができない患者に,患者自らが健側の手を伸ばして周囲を能動的に探索できるよう,看護師が安全性を確保しながら誘導することである.自ら何かに触れることは「能動的接触(active touch)」と呼ばれ,「受動的接触(passive touch)」と異なり認識や動きにおいて重要であることが分かっている(岩村,2002).自分の手で自分の顔にさわるという行為は,感覚運動的な体験と知覚体験により,顔と手の両方に知覚体験が起こり身体の同定が可能となるもので,これは他の物体に触れる時には起こらないと考えられている(岩村,2001).看護師は検温時など患者のそばで見守ることができる時に短時間でも身体拘束を外し,患者が自ら自身の身体や周囲に触れることを促す.この介入により,患者は周囲の環境を徐々に把握し,自分が置かれている状況や自身の身体の変化など自己を認知することにつながる.

3) バランスのとれた姿勢の提供

バランスのとれた姿勢の提供は,臥位や車いす座位など同一姿勢で過ごす時間を最小限とし,できるだけ様々な姿勢をとれるようにすることで,重力に抗して動く経験を増やす介入である.体位変換の回数を増やすのではなく,体位変換のインターバルに肢位変換を入れることで,同一姿勢を回避する.たとえ枕の位置や肢位の変更だけであっても,一部分への介入が体全体の支持面や緊張状態に変化をもたらすため,患者の休息を確保しながら実施可能である.また,左右で感覚が異なる身体で端座位や車いす座位でのバランスをとり,自分の身体を定位させ抗重力姿勢をとる機会を短時間でもつくる.この介入によって,同一姿勢による苦痛や筋緊張の亢進が緩和され,柔軟な動きが可能な身体を維持し,重力に抗した姿勢になってもバランスがとれるように回復が進むことにつながる.

4) 感覚情報の統合を導くフィードバック

感覚情報の統合を導くフィードバックは,感覚情報の不足や偏りを抱え,半側空間無視など左右で空間認識が異なる患者が,複数の感覚情報を統合し,次の行為につなげられるよう,患者が動く時に感覚情報の統合を導くフィードバックを看護師が実施する.意図した動きを行う時には動くこと(重心の変化)による平衡の乱れを予防する予測的姿勢調節が行われるため(渡邉・樋口,2023),動く前の声かけを具体的に行い,動きの準備状態が整うようにする.また,手すりまでの距離や足底を着く位置等,本人自身で動くことができる環境の調整をはかり,動いた後にも達成状況をフィードバックする.それにより,状況の判断と認知が可能となり,状況になじんだ円滑な動きが一部でもできることにつながる.

3. 研究デザイン

動きを再構築する看護介入を受けた患者(介入群)と従来通りのケアを受けた患者(対照群)に対して,介入研究実施の実現可能性を検討する準実験研究であるが,データ収集におけるコンタミネーションを避けるため,対照群のデータ収集がすべて終了した後に介入群のデータ収集を行う準実験研究デザインとした.

4. 対象者

1) 研究対象となる患者の選択基準

・脳梗塞及び脳出血と診断された60~85歳の患者

・発症によりStroke care unit(SCU)に入院した発症3日目以内の患者

・入院時に医師が判断した重症度National Institutes of Health Stroke Scale(以下,NIHSS)が4~40の範囲にある患者

・代諾者としての家族及び親族がいる患者

2) 対象者の除外基準

・入院前のADLが自立していない患者

・頭蓋内外減圧術を受けた場合や,発症後48時間の時点で人工呼吸器を装着している場合(経皮的血栓回収術,血腫除去術は除外対象としない)

・発症3日目の時点で呼吸器・腎機能の障害もしくは消化管出血等の重篤な合併症がある場合

5. データ収集期間

2016年10月~2021年4月,A県の2施設のSCU及び脳卒中患者の急性期治療を行う病棟でデータ収集を実施した.発症日を1日目として発症29日目までを追跡の対象とした.発症29日目までに急性期病床を退院した場合は追跡を終了した.

6. 倫理的配慮

本研究は兵庫県立大学看護学部・地域ケア開発研究所研究倫理委員会の承認を得た(承認番号2016年度博士4).その後,各施設での倫理審査会の承認を得,各研究協力施設の院長,看護部長,当該病棟師長と看護師,リハビリ室長とスタッフに,口頭ならびに文書で研究協力を依頼し,書面にて同意を得たうえで研究を開始した.データ収集においては,対象者とその家族(代諾者)に文書で研究協力の説明を行い,書面での同意を得た後に開始した.署名が難しい対象者には口頭で同意を得て,代諾者に書面で同意を得た.

7. 介入の実施概要

介入の実施概要を図2に示す.介入群への介入は発症4日目から15日目の日勤帯で,介入期間は途中のインターバルを含めて合計10日間とした.介入実施者のアドヒアランスは,記録用紙への記載内容をスーパーバイザーである教員とともに振り返ることで評価を行った.また,介入対象者のアドヒアランスについては介入への反応を質的に記録した.

図2  介入実施と調査全体の概要

8. データ収集内容

1) 基本的情報

電子カルテの診療情報記録より対象者の年齢,性別,診断名(病型・病巣),重症度,同居者の有無,現病歴,既往歴,治療内容,内服薬,頭部MRIとCTの検査結果,身長,体重,各評価日における徒手筋力テスト(Manual Muscle Test,以下 MMT)を情報収集した.なお,重症度は入院時に医師が記録したNIHSSとした.NIHSSは脳卒中急性期診療における神経所見の変化を客観的に評価するスケールで,評価項目は,意識水準,意識障害,最良の注視,視野,顔面麻痺,左右上下肢の運動,運動失調,感覚,最良の言語,構音障害,消去現象と注意障害の15項目から成る.重症度は0~42点で評価し,点数が高いほど重症であることを示す(道免,2010).

2) 評価指標

評価指標は機能的自立度評価表(Functional Independence Measure,以下FIM),体幹機能テスト,意欲(Vitality Index)で,調査開始時の発症4日目をベースラインとし,発症から8日目,15日目,22日目,29日目に測定を行った.今回は主要評価指標としたFIMのみ報告する.

FIMはセルフケアや排泄,移乗・移動から成る「運動項目」と,コミュニケーションや社会認識から成る「認知項目」について7段階のスケールを用いて評価し,合計点が高いほどADLが自立していることを示すスケールである.FIMはADL評価法の中では最も信頼性と妥当性があり,異なる文化圏においても信頼性と妥当性が確認されている(千野ら,1997).本調査におけるFIM評価は研究者がFIM測定の研修で測定方法を学習したうえで研究を開始し,研究開始後は対象患者担当の理学療法士・作業療法士の評価と照合し最終の評定とした.FIM得点は,同じ症状であっても個人によって異なるため,獲得点数での比較ではなく,急性期病院入退院時のFIM得点差(FIM利得)をADL改善度としている研究(渡辺ら,2006)や,急性期リハビリ開始時と終了時のFIM利得でリハビリの効果を分析する研究(澤田ら,2009)がある.本研究でも発症から4日目のFIM得点とそれ以後の評価日のFIM得点の差を「FIM利得」とし,主要評価指標は発症15日目のFIM利得とした.

9. 標本サイズ

本研究に必要な標本サイズは,ICUでのリハビリ介入のFIM利得を算定根拠とした(Chigira et al.,2015).2群間の平均FIM利得の差が6.0,標準偏差が6.63から効果量はd = .8となり,α = .05,1 – β = .80でG*power3.1.9.7(Faul et al., 2007)にて算出した結果,脱落者を考慮しての必要な標本サイズを各群28名と算出した.

10. データ分析方法

対象者全員の生活機能回復の程度は各評価日のFIM得点,発症4日目と評価日との得点差(利得)について平均値を2群間で比較した.データの分布状況を確認し,その結果から正規分布ではないことが確認されたため,Mann-WhitneyのU検定を用いた.また,重症であるほど機能回復の進度や回復レベルは低くなるとされていることから(Baird et al., 2001上野ら,2010),入院時の重症度が高い対象者を除いて,サブグループ分析を実施した.重症者の基準として,発症後のt-PA療法ならびに血管内治療における転帰不良のカットオフ値をNIHSSが20以上としている報告があることから(The NINDS t-PA Stroke Study Group, 1997Broderick et al., 2013Koton et al., 2022),本研究においてもNIHSSが20以上の対象者を除いたサブグループ分析を実施した.また,対象者のベースラインの2群間の相違を除くために,介入の有無を従属変数とし,対象者の年齢,性別,重症度,原因疾患,急性期病床入院日数を共変量としてロジスティック回帰分析を実施した.統計解析は解析ソフトIBM SPSS Statistics ver. 29.0.1.1を使用し,有意水準は5%とした.

Ⅲ. 結果

1. 対象者の概要

研究開始後,感染症の流行等により臨床現場に研究者が入ることが難しい時期があり,目標とした対象者数のデータ収集は実施できなかった.対象者は42名であったが,うち2名は最初の評価日までに病態悪化が認められたため研究対象から除外し調査を中止した.従って,分析対象者は合計40名(対照群20名,介入群20名),平均年齢(SD)は74.0(6.1)歳,入院時のNIHSSの平均値は13.3(7.8)であった.発症の原因疾患は,脳梗塞が24名(60.0%),脳出血が16名(40.0%)であった.発症後の高次脳機能障害の有無について,急性期病床退院時に失語あるいは半側空間無視(もしくは両方)が認められたのは合計20名(50.0%)で,対照群と介入群で人数に差はなかった.発症16日目以降に急性期病床からリハビリテーション病床へ転院・転床した対象者は追跡を終了した.従って発症22日目の時点でデータ収集が可能であったのは,対照群15名,介入群16名の合計31名で,発症29日目(1か月後)まで追跡可能であったのは,対照群13名,介入群14名の合計27名であった.いずれの変数についても統計的な有意差は認められなかった(表2).

表2.1 対象者の概要

基本情報 全体 n = 40 対照群 n = 20 介入群 n = 20 p
年齢 M[SD] 74.0[6.1] 72.9[5.7] 75.0[5.7] .22a
性別 男性 n(%) 20(50.0) 8(40.0) 12(60.0) .21b
女性 n(%) 20(50.0) 12(60.0) 8(40.0)
入院時重症度(NIHSS) M[SD] 13.3[7.8] 11.5[5.2] 15.1[9.6] .29a
原因疾患 脳梗塞 n(%) 24(60.0) 11(55.0) 13(65.0) .51b
脳出血 n(%) 16(40.0) 9(45.0) 7(35.0)
急性期病床入院日数 M[SD] 30.5[12.3] 32.7[14.5] 28.4[9.7] .37a
評価項目ベースライン(発症4日目) FIM総得点 M[SD] 35.7[16.9] 36.9[18.2] 34.6[16.0] .68a
FIM運動項目 M[SD] 20.3[8.3] 20.9[8.9] 19.6[7.9] .61a
FIM認知項目 M[SD] 15.5[9.3] 16.0[9.9] 15.0[8.8] .76a
表2.2 NIHSS20未満の対象者の概要

基本情報 全体 n = 32 対照群 n = 19 介入群 n = 13 p
年齢 M[SD] 73.4[6.0] 73.8[5.7] 75.0[6.5] .67a
性別 男性 n(%) 16(50.0) 8(42.1) 8(61.5) .28b
女性 n(%) 16(50.0) 11(57.8) 5(38.5)
入院時重症度(NIHSS) M[SD] 10.2[4.2] 10.9[4.7] 9.2[3.3] .43a
原因疾患 脳梗塞 n(%) 22(68.8) 12(63.2) 10(76.9) .41b
脳出血 n(%) 10(31.2) 7(36.8) 3(23.1)
急性期病床入院日数 M[SD] 31.0[13.1] 32.8[14.8] 28.4[9.9] .40a
評価項目ベースライン(発症4日目) FIM総得点 M[SD] 38.6[17.4] 36.6[18.6] 41.5[15.7] .45a
FIM運動項目 M[SD] 21.8[8.5] 20.9[9.1] 23.2[7.8] .36a
FIM認知項目 M[SD] 16.8[9.6] 15.7[10.1] 18.4[8.9] .41a

a:Mann-WhitneyのU検定(両側),b:Peasonのχ2検定

2. 介入プロセスと介入の実施状況

1) 介入のプロセスについて

介入群のデータ収集に入る前と介入の実施当日は受け持ち看護師に介入の計画や内容を伝え,患者の治療や看護師の業務,看護計画の妨げとなることがないかを確認した.研究者が行ったデータ収集前の介入内容の説明は10分以内とし,各患者に実施する当日に研究者から行う説明は5分程度であった.病棟看護師は研究者の説明や報告を聞いて,介入内容が患者の生活や自身の業務に支障がないかの判断をする必要があったことから,多少の負担が生じたと考えられる.介入は看護師の通常ケアの流れの中でできる内容であるため,受け持ち看護師が清潔ケアや離床の計画を立てている場合には,研究者が受け持ち看護師と一緒に患者のケアを行い,そのケア実施中に介入を実施した場合もあった.研究者が立案した対象患者のポジショニング計画は受け持ちの看護チームメンバーに共有し介入内容について周知した.

2) 介入の実施状況について

想定した介入期間である10日間において介入群の患者全員に,計画した介入が実施できた.介入は研究者1名で行い,介入頻度は表1で示した実施のタイミングに従って行った.日勤帯8時間の介入で対象者のベッドサイドに訪室した回数の中央値は1日につき13回(最小7-最大22)で,通常ケアを行う看護師の訪室回数と著しい違いはなかった.対象者が研究者の説明内容や介入実施に拒否を示す事象はなく,介入受容率は100%であった.介入に必要なリソースとして,マルチグローブとポジショニングピローが不足している場合には研究者が研究用に持ち込み使用した.

3. 評価指標の結果

FIM総得点とFIM利得,それぞれの運動項目と認知項目の結果を表34に示す.なお,今回は介入が終了する発症15日目と追跡が終了する発症29日目の結果を示した.FIM総得点の平均値(SD)は,介入終了時点の発症15日目が対照群52.2(28.1),介入群53.0(28.0)で有意差は認められず(p = .95),効果量はr = –.01であった.発症4日目のFIMベースラインと発症15日目のFIM得点差を示すFIM利得も有意差は認められず,効果量はほとんどなしであった(p = .91, r = –.02.).発症22日目以降,追跡できたデータ数は減少し,発症29日目のFIM総得点は対照群52.9(27.7),介入群62.1(31.0)で(p = .51, r = –.13),発症29日目のFIM利得も含めて有意差は認められなかった(p = .95, r = –.01).FIM運動項目と認知項目に分けて得点と利得それぞれ分析した結果でも,2群間の有意差は認められなかった(表3).また,サブグループ分析においても,発症15日目のFIM総得点・利得,発症29日目のFIM総得点・利得に有意差は認められず,効果量は小で,発症29日目のFIM得点利得のみ中であった.(順にp = .11,r = –.28;p = .12,r = –.27;p = .08,r = –.37;p = .36,r = –.20).発症15日目のFIM認知項目の利得については,介入群の平均値が対照群に比べて高く,統計学的な有意差が認められ,効果量は中であった(順にp = .01,r = –.43).ロジスティック回帰分析の結果では,サブグループにおける発症15日目の認知FIM得点に有意差は認められなかった.

表3 全対象者の評価指標の結果

対照群 n = 20
(29日目はn = 13)
介入群 n = 20
(29日目はn = 14)
pa 95% CIb pc ORd 95%CIe
評価項目 発症日からの日数 M SD M SD
FIM得点 総得点 15日目 52.2 28.1 53.0 28.0 .95 [–19.00, 14.00] .17 1.00 [.98, 1.06]
29日目 52.9 27.7 62.1 31.0 .51 [–28.00, 15.00] .05 1.04 [.97, 1.10]
運動項目 15日目 32.2 19.2 32.2 19.3 .90 [–10.00, 9.00] .22 1.02 [.96, 1.07]
29日目 32.9 19.5 37.7 23.2 .77 [–19.0, 10.00] .07 1.03 [.95, 1.11]
認知項目 15日目 20.0 10.0 20.8 10.2 .96 [–9.00, 5.00] .11 1.08 [.98, 1.19]
29日目 20.0 9.1 24.4 9.7 .16 [–12.00, 4.00] .01 1.28 [.98, 1.68]
FIM利得 総得点 4~15日 15.3 11.3 18.4 18.6 .91 [–9.00, 7.00] .15 1.04 [.97, 1.10]
4~29日 24.2 17.0 27.1 21.8 .95 [–12.00, 13.00] .09 1.01 [.93, 1.09]
運動項目 4~15日 11.4 11.6 12.6 15.1 .91 [–6.00, 8.00] .22 1.02 [.96, 1.09]
4~29日 16.0 14.9 18.3 19.0 .97 [–12.00, 11.00] .09 1.01 [.92, 1.10]
認知項目 4~15日 3.9 2.8 5.8 4.5 .09 [–4.00, .00] .05 1.25 [99, 1.57]
4~29日 8.2 3.8 8.8 4.3 .62 [–4.00, 3.00] .09 1.02 [.71, 1.45]

a:Mann-WhitneyのU検定(両側),b:95%Confidence Interval:Hodges-Lehman の中央値の差,c:ロジスティック回帰分析

d:Odds Ratio,e:ORの95%Confidence Interval

表4 発症時のNIHSS20未満の対象者の評価指標の結果

対照群 n = 19
(29日目はn = 12)
介入群 n = 13
(29日目はn = 9)
pa 95%CIb pc ORd 95%CIe
評価項目 発症日からの日数 M SD M SD
FIM得点 総得点 15日目 51.4 28.7 65.5 25.3 .11 [–40.0, 4.00] .60 1.01 [.97, 1.06]
29日目 49.7 26.4 72.7 28.6 .08 [–51.0, 1.00] .002 .839 [.62, 1.13]
運動項目 15日目 32.0 19.7 40.0 18.3 .17 [–26.0, 4.00] .66 1.00 [.94, 1.06]
29日目 30.6 18.5 45.4 22.0 .09 [–36.0, 1.00] <.001 .004 [.00, ―]
認知項目 15日目 19.4 10.1 25.5 8.7 .18 [–16.0, 2.00] .39 1.08 [.96, 1.21]
29日目 19.1 8.8 27.2 8.6 .04 [–18.0, 0.00] .003 1.14 [.83, 1.56]
FIM利得 総得点 4~15日目 14.8 11.5 24.0 18.7 .12 [–15.0, 2.00] .50 1.03 [.96, 1.11]
4~29日目 22.2 16.1 32.9 22.4 .36 [–27.0, 6.00] <.001 .05 [.00, 2.38E]
運動項目 4~15日目 11.1 11.8 16.8 15.4 .18 [–12.0, 3.00] .64 1.01 [.94, 1.09]
4~29日目 14.1 13.8 23.6 19.4 .20 [–22.0, 3.00] <.001 .06 [.00, 4.53E]
認知項目 4~15日目 3.7 2.8 7.2 4.0 .01 [–6.00, –1.00] .04 1.61 [1.07, 2.43]
4~29日目 8.1 4.0 9.3 4.3 .59 [–5.00, 1.00] .004 1.15 [.05, 24.9]

a:Mann-WhitneyのU検定(両側),b:95%Confidence Interval:Hodges-Lehman の中央値の差,c:ロジスティック回帰分析

d:Odds Ratio,e:ORの95%Confidence Interval

Ⅳ. 考察

1. 標本サイズと評価指標の妥当性について

今回の結果から,今後の研究に向けて標本サイズと指標の検討が必要であることが明らかとなった.両群の比較からは,脳卒中発症直後の患者に対して動きを再構築する看護介入の生活機能回復の効果は認められなかった.重症度の高い患者を除いたサブグループ分析の結果より,本介入プログラムは発症2週間目の時期における患者の認知機能を高める可能性があると考えられた.しかし標本サイズが少なく,基本属性の相違による第一種の誤りが起きている可能性があるため,この結果の信頼性は低い.本介入における評価指標の効果量はほとんどの場合は小であったため,研究前の標本サイズ算出時の効果量の設定は過大であったと考えられる.研究計画時には,脳卒中発症後2週間のFIM利得について根拠となる論文が不足していたため,対象者の疾患や介入目的が本研究とは異なる先行研究を算出根拠としたことで効果量の違いが生じた可能性がある.今回の結果から,介入効果の主要評価指標を発症15日目のFIM利得とすると,効果量d = .2となり,α = .05,検定力1 – β = .80の下,G*power3.1.9.7(Faul et al., 2007)で算出し,必要な標本サイズは各群407名(合計814名)となった.脱落者を10%として考慮すると各群約450名の標本サイズを設定する必要があることが明らかとなった.

また,主要評価指標に設定したFIMは,本介入の効果を十分に反映しない可能性も考えられた.FIMは主に歩行自立や自宅退院の可否等リハビリ効果の予後予測(八木ら,2012平塚ら,2021今西・奥地,2021),急性期以降の回復期や発症後3か月以降の機能回復の評価に使用される傾向にあることからも,発症後1か月以内の生活機能回復に焦点を当てた本介入の評価指標としては感度が低かった可能性がある.さらに今回の評価期間では介入の効果判定は難しい可能性もあるため,回復期の追跡による評価も検討する必要があると考える.

介入に対する患者の反応は,ほとんど閉眼している状態から動くことへの協力動作が現れるなど些細な変化が多く含まれており,実際にFIMの運動機能では改善の加点とならない場合があった.FIMは介助量の算出により対象者の自立度を評価する指標であるため,大幅な介助量の減少には至らないが生活機能の回復につながる言動が見られている場合も少なからずあり,患者に少しずつ生じている変化を必ずしも反映しない場合もあると考えられる.脳卒中による機能障害の程度を査定する評価指標は多く存在するが,本介入で着目した患者の回復の現象を測定するツールは現存する評価指標のみでは不十分であると考えられる.従って,活動のみに着目するのではなく,呼吸・循環等の生理学的指標,睡眠状況,副交感神経指標などを含めて,脳卒中発症直後の1か月間の患者に生じている微細な変化や回復への兆しを敏感に反映する指標の検討や開発が必要であると考えられる.

2. 本格的な調査に向けた課題

1) 研究デザインについて

本研究は,対照群のデータ収集後に介入群のデータ収集を行う準実験研究デザインであったため,選択バイアスや各群の時間的ずれによる背景因子の差が生じた可能性があり,回復状況や介入以外の要因の影響が否定できない.このような点を回避するために,今後の本格的な介入研究では無作為化比較試験にて行う必要がある.

2) データ収集方法について

必要な標本サイズから考えると,大規模な本調査としてデータ収集を行う場合には,多施設での共同研究として実施する必要がある.今回,FIMは研究者以外に担当の理学療法士・作業療法士の評価と照合し最終評定としたが,介入実施者と評価者が同じであり,バイアスが生じた可能性は否定できない.臨床現場で無作為化比較試験を実施する場合,通常ケアを行う対照群と介入を行う介入群の盲検化を保持するためにも,評価者は介入実施者以外が望ましい.急性期の患者の負担を最小限とするためには,診療過程で記録される内容をできる限り活用することで介入者以外の測定者によるデータ記録が可能となると考える.また,急性期に受けたリハビリ時間数,マットレスの種類,介入に必要なマルチグローブやポジショニングピロー等のリソース量の違いが結果に影響を与える可能性もあることを考慮する必要がある.

3) 介入の標準化と質の担保について

介入内容を臨床現場の看護師が実践する際には,介入の目的を理解するための実践形式の教育を行い,介入の実施内容を標準化する必要がある.本介入において,介入①②③の実施方法やタイミングは標準化可能であるが,④については患者の状態や場面によって方法やタイミングを調整するという文脈依存性があるため,標準化に向けては患者の状況によって複数のアルゴリズムを作成する必要があると考える.また介入内容の質の維持や介入プログラムの実施を担保するためにも,介入を実施する看護師への定期的なフォローアップの機会や介入のスーパーバイザーの配置を検討する必要があると考えられる.

本介入は急性期の患者に実施するため患者の病態悪化や疲労を考慮する必要がある.今回,介入中に病態悪化よる脱落者は存在しなかったため,介入内容は患者に負担を与えるものではないと考えられる.介入の患者アドヒアランスについては客観的な評価が難しかったが,介入者がベッドサイドに訪室することについて患者からの拒否がなかったことは,介入への参加に対する患者の態度をあらわすものであると考える.意識障害や生命危機にある患者に対する介入研究は症例研究が多く,介入に対するアドヒアランスの評価方法は確立されているわけではない.以上のことから,意識混濁にある状態の患者アドヒアランス評価の方法を検討する必要があると考える.

3. 介入プログラムの臨床的意義について

重症度の高い患者を除いたサブグループ分析の結果より,本介入プログラムは発症後2週間の時期における患者の認知機能を高める可能性があると考えられた.発症後2週間の時点でFIM運動項目が重度であっても,FIM認知項目の得点が有意に高かった群の方に,その後の運動機能の促進が認められたという報告(中山,2018)や,発症後2週間以降の急性期病床におけるFIM認知項目の得点が高いことが,その後のFIM運動項目やADL改善につながるという報告(寺坂ら,2007)がある.従って発症後2週間の時点で認知機能の改善がみられることは,その後の患者の運動機能や生活機能の改善が期待される可能性が高いと考えられる.

脳卒中急性期の在院日数中央値は16日であり(日本脳卒中データバンク,2022),本介入を実施した発症15日目までの時期は患者にとってその後の回復の可能性を左右する重要な時期であると言える.発症から2週間までに最大限の機能回復ができるよう支援することは,回復期リハビリに向けた回復可能性を維持するうえでも重要であり,本介入は患者にとって有意義であると考える.特に,本介入は患者が病態管理上安静を必要とする場合でも実施が可能であり,ベッドサイドへの訪室頻度や1回の介入にかかる時間数も通常ケアにおける頻度や時間数と顕著に異なるものではない方法である.従って,看護師にとっても最小限の負担で有意義な成果につながる介入であると考えられる.

Ⅴ. 結論

脳卒中発症直後の患者を対象に,動きを再構築する看護介入の実現可能性と効果検証に向けた課題を検討した.その結果,主要評価項目である発症15日目のFIM利得について2群間に有意差は認められなかった.入院時の重症度(NIHSS)が20未満の患者について分析した場合に,介入群において発症15日目のFIM認知項目の利得が対照群よりも高く統計学的な有意差が認められたが,結果の信頼性は低い.今回の結果より,本格的な調査に向けての必要標本サイズや評価指標の妥当性,評価方法や介入の標準化などの課題が明らかとなった.今後,本格的な調査に向けて,標本サイズや介入の効果をはかる評価指標の見直しと介入の標準化やデータ収集方法など研究プロトコールの修正が必要であると考える.

付記:本研究は山路ふみ子専門看護教育研究助成基金の助成を受けて実施した.本研究は兵庫県立大学大学院看護学研究科博士論文の一部に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究に協力いただきました患者の皆様,病院スタッフの皆様に心より感謝申し上げます.また,主査・副査としてご指導くださいました坂下玲子先生,片山貴文先生,谷田恵子先生,鵜飼和浩先生に感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
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