日本看護科学会誌
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資料
OOVL日本版を用いた看護学部2年次生への意思決定支援教育の評価
姫野 雄太福田 広美荒木 章裕矢野 亜紀子
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2025 年 45 巻 p. 278-285

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Abstract

目的:OOVL日本版を用いた意思決定支援教育の評価を行うこと.

方法:A大学看護学部2年次生80名を対象とした.教育の評価は,意思決定支援に関する授業前後で意思決定支援に必要な人的環境の整備,意思形成の支援,意思表明の支援について,独自に作成した質問項目を用いて調査し分析した.データは,EZR ver. 1.61を用い,Wilcoxonの符号順位検定により分析した.

結果:授業前後両方の回答が得られた76名を分析対象とした.授業前後で比較した結果,人的環境の整備の4項目,意思形成の支援の7項目,意思表明の支援の2項目で授業後に有意に得点が上昇していた.

結論:OOVL日本版は,看護基礎教育課程における意思決定支援を教授するためのツールとして活用できることが示唆された.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to evaluation of an education on decision-making support using the Japanese version of the OOVL.

Methods: The study targeted 80 second-year students enrolled in the Faculty of Nursing at University A. The evaluation of the education was investigated and analyzed by using original questionnaires to assess the preparation of the human environment necessary for decision-making support, support for decision-making processes, and support for decision expression, both before and after the classes on decision-making support. The data were analyzed using Wilcoxon signed rank test with EZR ver. 1.61.

Results: The analysis targeted 76 students who provided responses both before and after the class. Comparisons between pre- and post-class results showed a significant increase in scores after the class for four items related to the preparation of the human environment, seven items related to support for decision-making processes, and two items related to support for decision expression.

Conclusion: The results suggest that the Japanese version of the OOVL can be utilized as a tool to teach decision-making support in basic nursing education programs.

Ⅰ. 緒言

意思決定支援について看護職の倫理綱領では,「看護職は,人々の権利を尊重し,人々が自らの意向や価値観にそった選択ができるよう支援する」と示されている(日本看護協会,2021).そのため,意思決定支援における実践は,終末期に限らず救急部門や退院支援の場面など幅広い部署での報告がされている(掛谷ら,2023尾野・西谷,2023濱野・辻,2022).しかし,意思決定支援においては,行った対応が対象者にとって最善なのか迷いがあることや知識・経験不足など,実施においての困難についての報告も存在しており(川浪・鈴木,2022),意思決定支援についての教育の必要性が示唆されている(山内ら,2023).看護基礎教育においても,厚生労働省の「看護基礎教育検討会報告書」(厚生労働省,2018)の中で,卒業時の到達目標の中で「対象者の選択権及び自己決定権を尊重し,対象者及び家族の意思決定を支援する」という項目が示されており,意思決定を支援することの重要性および方法論を学ぶことが位置付けられている.

日本における意思決定支援教育に関する研究については,高齢のがん患者にケアを提供している医療従事者を対象に,意思決定に関する制度や患者と接する際の理論やスキルを教授したものが見られている(平井ら,2023).看護基礎教育における意思決定支援に関する研究では,実習において学生が体験した意思決定支援についての報告があり,意思を尊重する関わり方に対して難しさを感じたことが示されているが(熊谷,2024),授業の中でどのように教授することで基礎教育課程にある学生の意思決定支援能力が獲得できるかについては示されていない.看護職として働き始めると,1年目から対象者の意思決定に同席することもあると考えられる.そのため,看護基礎教育の時点で対象者の意思決定を支える方法を知っておくことが必要であると考える.

A大学看護学部(以下,A大学)では,これまで様々な科目で意思決定の必要性や意思決定における看護職の役割を教授してきた.しかし,2023年に2年次生を対象に行った意思決定支援に関する授業のアンケートの中で,「意思決定支援の重要性は理解できたが,実際にできるかどうかは自信がない」「どのように意思決定支援をしたらよいか分からない」といった,実践に対する不安がみられていた.実際に実践という点では,実習での実施や見学ができる機会は限られており,知識として意思決定支援の重要性は理解できていても,活用できるスキルとして習得するには限界があった.そこで,看護基礎教育においても意思決定支援を行うための具体的な方法について教授し,学生が実施できると思えることが重要であると考えた.

意思決定支援のためのツールにOptions, Outcomes, Values, Likelihoods decision-making guide(以下,OOVL)というものがある.OOVLは,Corcoran-Perryら(Corcoran-Perry et al., 2000Lewis et al., 1999)によって看護実践における意思決定を研究する中で開発されたものであり,Options(選択肢),Outcomes(判断基準・成果),Values(重みづけ),Likelihoods(実現可能性)の頭文字をとっている.OOVLは日本版が作成され(以下,OOVL日本版),作成者らによって学術集会の交流集会や雑誌での紹介が行われている(内橋ら,2024内橋,2020).OOVL日本版を用いた意思決定支援は,OOVL日本版の表を用いて,①「誰」の意思決定を支援するかの特定,②問題の特定,③選択肢の列挙,④判断基準(成果)の特定,⑤判断基準(成果)の重みづけ,⑥各選択肢の実現可能性の評価と得点化,⑦選択肢の決定を書き込むという手順で実施する(内橋・青山,2025).OOVL日本版の特徴として,意思決定に関係する要素が1つの表に整理できることにあり,各要素を可視化することで最終的な点数だけでなく,総合的に状況を把握し,選択肢を検討することを可能としている.

以上より,看護基礎教育において意思決定支援への理解を深めるためにOOVL日本版を用いた授業を実施し,その効果について評価することがより良い意思決定支援教育の一助になると考えた.A大学では,2年次生で開講する看護管理学概論Iの中で意思決定支援を教授しており,教育内容にOOVL日本版の講義および演習を含め,授業を実施した.

Ⅱ. 目的

本研究の目的は,A大学2年次生に対して,OOVL日本版を用いて行った意思決定支援に関する教育の評価をすることである.

Ⅲ. 方法

1. 用語の定義

意思決定支援:意思決定支援・ワーキンググループ(2020)の定義を参考に,「本人の意思決定をプロセスとして支援することであり,そのプロセスは,本人が意思を形成することの支援(意思形成支援)と,本人が意思を表明することの支援(意思表明支援)が含まれる」とした.

2. 研究デザイン

本研究は,看護学部2年次生を対象に実施した,介入前後で評価項目を比較する準実験研究(コントロール群をおかない)である.

3. 授業の内容(表1)

本授業は,令和6年度A大学2年次生の9月に開講された「看護管理学概論I」のうちの1コマを用いた.講義では,前回の講義の復習や本日の講義の目標の確認を行った後に,意思決定支援についての講義を行い,意思決定支援とは何を行うものなのか,意思決定の段階などを説明した.その後,OOVL日本版について説明し,内橋(2020)の例を示しながら使用方法を講義した.具体的には,表1に示した到達目標に沿って,意思決定支援が重要となっている背景や意思決定支援の種類とそれらの特徴,Thompson & Thompson(1992/2004)の意思決定のための10ステップと各ステップでの看護職の役割について,学生にどのような役割を担えるか発問を交えて説明した.

表1 授業内容

到達目標

1.意思決定の段階を識別することができる

2.意思決定支援に必要な能力を列挙できる

3.OOVL日本版を用いた意思決定支援を,例に従って実践できる

4.作成したOOVL日本版の表を用いて,選択肢や判断基準についてグループで討論することができる

I.授業前調査(5分)

II.意思決定支援に関する講義

1.前回の講義の復習(5分)

2.ブリーフィング(5分)

  1)本講義の目標の説明

  2)本講義のスケジュール説明

3.講義受講(20分)

  1)意思決定支援とは何か

  2)OOVL日本版とは何か

  3)OOVL日本版使用例

• 講義に入る前に,目標とスケジュールを共有し,本講義で到達してほしい内容を学生と確認した.

• 意思決定支援については,意思決定の定義を確認した後に,意思決定の種類(パターナリズム,シェアードディシジョンモデル,インフォームドディシジョンモデル),より良い意思決定に必要な内容および支援者に必要な能力,Thompson & Thompson(1992/2004)の意思決定のための10ステップについて講義した.

• OOVL日本版の使用方法については,内橋(2020)が示した例を参考にして,作成するプロセスを講義した.

III.OOVL日本版を用いた演習

  1)事例紹介(5分)

  2)個人ワーク(15分)

  3)グループワーク(20分)

  4)結果の共有(5分)

  5)教員による例示(5分)

• 事例は,意思決定の書籍(西川ら,2016)を参考に,脳梗塞を既往に持つ90歳代の心不全患者の胃瘻造設に対する家族の意思決定支援の場面を設定した.本授業のねらいを,患者本人と家族が納得した選択肢を検討できることとした.

• 青山(2020)の事例検討の進め方を参考に,個人ワークの後にグループワーク(6名/1グループ)を実施.

• 個人ワークでOOVL日本版の表を各自で作成してもらった.その後,グループワークで選択肢や判断基準を共有し,グループとして最終的な選択肢をどうするか決定してもらった.

• 教員による例示はあくまでも一例であり,実際の状況によって選択肢や判断基準が変わることを説明した.

IV.授業後調査(5分)

その後,書籍(西川ら,2016)を参考に作成した事例を提示し,個人ワークおよびグループワークを実施してもらった.グループワークについては,青山(2020)の事例検討の進め方を参考にして実施した.これまでは意思決定支援における看護師の役割を説明し,胃瘻増設や手術を受けるかどうかの患者と家族の間での意思決定についての事例紹介を行うのみで,学生自身に具体的にどのような選択肢があるかということや,判断する上での選択肢の重要度の検討などは授業で扱っていなかった.OOVL日本版の特徴として,意思決定に関係する要素が1つの表に整理できることにあり,意思決定の各要素を可視化することで最終的な点数だけでなく,総合的に状況を把握し,選択肢を検討することを可能としている.表を作成する中で,どのような選択肢があるかということや,選択肢の判断の基準も表の中で記述することが求められるため,事例の情報を聞き,看護師や対象者がどのような選択をしたのかだけでなく,学生自身が選択肢や判断の基準を考える点が本授業の特徴であった.

4. 調査項目と測定用具

1) 基本属性

意思決定支援に関するこれまでの学習機会の有無について,「講義で聞いたことがある」「実習で見学したことがある」「研修や勉強会に参加したことがある」「本を読んだことがある」「聞いたことがない」で回答を得た.

2) 意思決定支援に対する自信について

看護学生を対象とした意思決定支援を行うことへの自信に対する既存の尺度が存在しなかったため,意思決定支援に関するガイドライン(厚生労働省,2018)を参考に独自で作成した.参考にしたガイドラインは認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援であったため,本研究の定義を参考に,意思形成支援に関する内容と意思表明支援に関する内容を研究者間で協議し,質問項目を作成した.参考にしたガイドラインは,認知症の人への意思決定支援を行う際のガイドラインとして作成されていたが,内容は意思決定支援の基本的考え方や姿勢,方法,配慮すべき事項等が含まれており,認知症以外の人の意思決定支援を行う際にも重要となるものであると研究者間で合意が得られたため,本ガイドラインを使用した.その結果,『人的環境の整備』が6項目,『意思形成の支援』7項目,『意思表明の支援』3項目の計16項目となった.回答は,「そう思う」から「そう思わない」の5段階のリッカート尺度により回答を求め,選択した回答に応じて1~5点を付与し,得点化した.

3) OOVL日本版を使用した感想

意思決定支援に対する自信についての調査項目は研究者が独自に作成したものであり,OOVL日本版を用いたことへの設問ではなく,意思決定支援についての自信について測定した.そこで,実際にOOVL日本版を使用して行った意思決定支援が学生にとって有用であったかを評価することを目的に,講義後のアンケートにおいて,OOVL日本版を使用した感想について自由記述で回答を得た.

5. 対象と調査方法

対象はA大学2年次生80名とした.

調査方法は,授業前調査として授業開始後5分間,授業後調査として授業終了前5分間を用いてGoogle Formsを用いた無記名自己回答式調査を行った.研究依頼の後,Quick responseコード(以下,QRコード)へ学生自身がアクセスすることで回答を得た.授業前調査用QRコード配布時にExcelのランダム関数で作成した3桁の数字を添付し,授業前調査および授業後調査で数字を入力してもらうことで回答を紐づけた.

6. 分析方法

授業前後の比較は,まず正規性の確認のためにShapiro-Wilk検定を行った.その結果,正規性は確認できなかったため,Wilcoxonの符号順位検定を用いた.統計解析にはEZR Ver. 1.61を使用し,有意水準は5%未満とした.

OOVL日本版を使用した感想については,OOVL日本版を看護基礎教育で用いたことによる質問項目以外の視点での分析および改善点を検討するため,記載内容を『意思決定支援にOOVL日本版を用いることについての良かった点』『意思決定支援にOOVL日本版を用いることについての難しかった点』『意思決定支援を学んだ感想』に分類した.

7. 倫理的配慮

本研究は,大分県立看護科学大学研究倫理・安全委員会の承認(承認番号:24-43)を受けて実施した.なお,本研究は通常の授業の中で行われたものである.そのため,参加者に対しては研究への参加不参加に関わらず授業への出席は必要であることを説明した.その上で,質問紙への回答は任意であり,研究への参加や回答内容が一切成績に反映されないことを説明した.

匿名化の方法として,研究者が個人の特定をできないように,依頼文書にExcelのランダム関数で作成した3桁の紐づけ用の数字を添付し,配布する際は裏向きで配布した.加えて,強制力が働かないように対象者に回答時間を提示し,その間,研究者は講義室から退室した.依頼文書には,研究課題,研究目的,研究方法,自由意思による任意参加であること,匿名性の確保の方法,研究協力の撤回の方法,研究への参加や回答の内容によって科目の成績に影響がないことを明記し,同意欄への回答により同意を得た.研究に同意が得られない場合は,回答時間中は講義資料を読むように指示を行った.

また,研究者は内橋らが開催するOOVL日本版の勉強会に参加し,OOVL日本版の使用方法について習得した.

Ⅳ. 結果

1. 回答者の属性

科目履修者80名のうち77名から回答が得られ,授業前調査と授業後調査両方が揃った76名(有効回答率95.0%)を分析対象とした.

意思決定支援について,これまでの学習機会を複数回答で回答を求めたところ,「講義で聞いたことがある」が61名(80.3%)で最も多く,「実習で見学したことがある」が15名(19.7%),「本を読んだことがある」が2名(2.6%),「研修や勉強会に参加したことがある」1名(1.3%),「聞いたことがない」が6名(7.9%)であった.

2. 意思決定支援への自信の授業前後の比較

授業後の意思決定支援への自信の変化について,表2に示す.『人的環境の整備』において,「私は意思決定支援を行う自信がある」,「本人との信頼関係の構築に努めることができる」,「本人を急がせることがないようにできる」,「本人が意思を表明しやすいような態度で接することができる」の4項目で授業後に有意な上昇が認められた.

表2 意思決定支援に対する自信の授業前後の比較(n = 76)

項目 中央値(四分位範囲) Z p
授業前調査 授業後調査
人的環境の整備 私は意思決定支援を行う自信がある 4.00(4.00~5.00) 4.00(4.00~5.00) 2.336 .020
本人の意思を尊重する態度で接することができる 4.00(4.00~5.00) 4.00(4.00~5.00) 1.214 .222
本人の意思を都度確認することができる 4.00(4.00~5.00) 4.00(4.00~5.00) 0.146 .884
本人との信頼関係の構築に努めることができる 4.00(3.00~4.00) 4.00(3.25~5.00) 2.110 .035
本人を急がせることがないようにできる 4.00(4.00~5.00) 4.00(4.00~5.00) 2.343 .019
本人が意思を表明しやすいような態度で接することができる 4.00(3.25~4.00) 4.00(4.00~5.00) 2.846 .004
意思形成の支援 本人が意思形成をするために,必要な情報を説明することができる 4.00(4.00~5.00) 4.00(4.00~5.00) 2.831 .005
本人に説明する際には,分かりやすい言葉を用いてゆっくり話すことができる 4.00(3.00~4.00) 4.00(4.00~5.00) 4.294 p < .001
本人が意思決定に必要な情報や,それぞれの選択のメリットとデメリットをどの程度理解しているか確認することができる 4.00(3.00~4.00) 4.00(4.00~5.00) 3.504 p < .001
意思決定に必要な情報を整理するために,本人の理解の程度に合わせて要点を繰り返し説明することができる 3.00(3.00~4.00) 4.00(4.00~4.00) 4.341 p < .001
意思決定の支援をする過程で,支援者の価値判断が先行しないような話の仕方をすることができる 4.00(3.00~4.75) 4.00(4.00~5.00) 4.076 p < .001
意思決定に必要な情報を整理するために,口頭で説明するだけでなく,紙に書いたり,図を使ったりすることができる 4.00(4.00~4.00) 4.00(4.00~5.00) 2.273 .023
本人が意思決定に必要な情報を整理するために,複数の選択肢を提示することができる 4.00(4.00~5.00) 5.00(4.00~5.00) 2.900 .004
意思表明の支援 意思決定の方針が決まった後でも,本人の意向が変わることがあっても良いことを伝えることができる 4.00(4.00~5.00) 5.00(4.00~5.00) 1.520 .129
決定した内容について,本人の望んでいることと合っているかを確認することができる 4.00(4.00~5.00) 4.00(4.00~5.00) 2.024 .043
本人の意思決定が難しい場合には,本人にとってより良いと思われる選択肢について一緒に検討することができる 4.00(3.00~4.00) 4.00(4.00~4.00) 3.392 p < .001

Wilcoxonの符号付順位検定

『意思形成の支援』においては,「本人が意思形成をするために,必要な情報を説明することができる」,「本人に説明する際には,分かりやすい言葉を用いてゆっくり話すことができる」,「本人が意思決定に必要な情報や,それぞれの選択のメリットとデメリットをどの程度理解しているか確認することができる」,「意思決定に必要な情報を整理するために,本人の理解の程度に合わせて要点を繰り返し説明することができる」,「意思決定の支援をする過程で,支援者の価値判断が先行しないような話の仕方をすることができる」,「意思決定に必要な情報を整理するために,口頭で説明するだけでなく,紙に書いたり,図を使ったりすることができる」,「本人が意思決定に必要な情報を整理するために,複数の選択肢を提示することができる」の7項目で授業後に有意上昇が認められた.

『意思表明の支援』では,「決定した内容について,本人の望んでいることと合っているかを確認することができる」,「本人の意思決定が難しい場合には,本人にとってより良いと思われる選択肢について一緒に検討することができる」の2項目で授業後に有意な上昇が認められた.

3. OOVL日本版を用いた意思決定支援の授業の感想(表3

OOVL日本版に対する感想について自由記述で回答を求めた結果,49名より記載があった.

表3 OOVL日本版を用いた意思決定支援の授業の感想(n = 49)

自由記述の内容
意思決定支援にOOVL日本版を用いることについての良かった点 OOVL日本版を使用することで状況を整理しやすくなり,看護ケアの道筋を立てることができそうだと思った(2)
患者さんに状況の説明がしやすく,患者も状況を客観視できるツールだと思う(8)
使いこなせるようになると分かりやすく整理できると思うため,これから自分の意思決定でも活用していきたい(9)
意思決定を支援するときの手順が分かりやすかった(7)
患者さん自身も考えがまとまっていない状況から活用すると,大切にしている考えや選択肢を可視化することができ,本当の気持ちに気づくことができると思う
意思決定支援にOOVL日本版を用いることについての難しかった点 判断基準や選択肢を考えるためには色々な知識や経験が必要となり,1人で考えるのは難しかった(8)
問題を特定して選択肢を考えたり判断基準を考えたりすることは自分が想像しているよりも難しかった(6)
意思決定支援を学んだ感想 患者さんと家族それぞれの意思があり,どちらを優先すべきなのかがいちばん難しい課題になると思った.それぞれの判断基準に基づいて何が1番最適なのかをしっかり考えるようにしたい
意思決定支援という言葉では知っていたが,実際に考えてみると看護以外にも色々な知識が必要になることが分かった
もっと色々な事例で意思決定支援を考えてみたいと思った(2)
実際の現場だと患者さんの命や家族の思いなども関わってくるため,支援するのは難しそうだと思った
グループワークでできたので,自分にない他の人の考えが参考にできて良かった(3)

*自由記載内容の( )は類似内容の回答人数を表す

OOVL日本版を用いることについての良かった点については,「OOVL日本版を使用することで状況を整理しやすくなり,看護ケアの道筋を立てることができそう」,「患者さんに状況の説明がしやすく,患者も状況を客観視できるツールだと思う」,「患者さん自身も考えがまとまっていない状況から活用すると,大切にしている考えや選択肢を可視化することができ,本当の気持ちに気づくことができると思う」,「使いこなせるようになると分かりやすく整理できると思うため,これから自分の日常生活や実習でも活用していきたい」といった意見がみられた.一方で,「判断基準や選択肢を考えるためには色々な知識や経験が必要となり,1人で考えるのは難しかった」「問題を特定して選択肢を考えたり判断基準を考えたりすることは自分が想像しているよりも難しかった」等,意思決定支援に対する難しさも示されていた.

Ⅴ. 考察

1. OOVL日本版を用いた意思決定支援による教育の評価

今回の対象は,授業前から平均が4点前後の項目が多く,意思決定支援に対する自信が高い集団であったと言える.その背景には,「講義で聞いたことがある」「実習で見学したことがある」という回答に見られたように,何らかの形で意思決定支援に関する情報を得ていたことが影響していると考えられる.しかし,そのような集団であっても,OOVL日本版を使用した授業を行うことで更に意思決定支援に対する自信が高まった.OOVL日本版は意思決定支援のプロセスを可視化し,表を作成する過程で思考が整理されていくことが特徴である.自由記述による授業の感想でも,手順の透明性や可視化することによる整理のしやすさが述べられており,看護基礎教育の学生においてもOOVL日本版は活用可能であることが示唆された.

質問項目でみていくと,『人的環境の整備』では,「私は意思決定を行う自信がある」と「本人との信頼関係の構築に努めることができる」,「本人を急がせることがないようにできる」,「本人が意思を表明しやすいような態度で接することができる」の項目で有意に上昇した.意思の確認や態度については,OOVL日本版を用いた演習の前の講義に意思決定支援に必要な内容として教授したため得点が上昇したと考えられる.意思決定に対する自信が上昇した要因については,自己の成功体験の振り返りが課題に対して正の影響を与えることが示されており(藤村,2014),本研究においてもOOVL日本版を活用しながら意思決定支援のプロセスを辿ることができたという認識が意思決定支援への自信につながったと考えられる.そのため,意思決定支援に対する自信を持ってもらうには,学生に演習を通して意思決定支援を経験してもらうこと,そして,それを成功体験として認識してもらえるような関わりの重要性が示唆された.反対に,講義後に有意な上昇がみられなかった「本人の意思を尊重する態度で接することができる」と「本人の意思を都度確認することができる」に関しては,今回の演習では実際に患者との関わりができていないことが影響しているのではないかと考える.そのため,演習で患者役を経験したり,実習で受け持った対象者との関わりを通したりして,今回上昇がみられなかった項目への教育的な関わりが求められる.

『意思形成の支援』では,全ての項目で有意な上昇が認められた.意思決定支援では,患者自身に意思決定が必要であることを認識してもらい,選択肢に対する価値観を表出してもらいながら意思決定が達成されるのを支援することが必要とされている(Eleyn et al., 2006).しかし,治療選択に悩む患者に対して意思決定を支援することに迷いや困難を知覚するという現状が明らかになっている(太田,2007糠塚・兒玉,2006).OOVL日本版は意思決定が必要な問題に対して選択肢と判断基準を複数挙げることができるツールとなっており,この特徴によって,対象者が悩んでいることに対して複数の選択肢を提示し,それらのメリット・デメリットを考えて判断を行うという過程を経たことで,意思形成の支援に対する自信がついたと考えられる.

また,OOVL日本版は最終的に算出される点数だけで判断するのではなく,選択肢や判断基準を考える過程や,点数化をしていく過程で対象者が持つ本当の望みが明らかになることもあるという特徴も有しており,可視化する過程で選択肢に対する思いを知ることができると感じ,意思形成支援に対する自信につながったと考えられる.加えて,今回の講義では,個人で考えた後に,グループで意見交換の時間を持った.その際に,自分の考えや挙げた選択肢などを他者に説明したことで説明に対する自信にもつながったと考えられる.意思形成の支援に関連して,感想の中で判断基準や選択肢の検討に困難感を示している学生も存在した.今回の対象が2年次生であり,様々な領域・対象への看護に関する授業が始まった学年である.そのため,まずは学生に身近な事例から練習を行い,OOVL日本版の活用方法を習得することが望ましいと考えられる.

『意思表明の支援』では,「決定した内容について,本人の望んでいることと合っているかを確認することができる」と「本人の意思決定が難しい場合には,本人にとってより良いと思われる選択肢について一緒に検討することができる」の項目で有意に上昇した.これらの項目も,OOVL日本版を用いたことで選択肢を提示することができ,本人がより良いと思う意思決定を支援することができたと認識できたことが影響していると考えられる.有意な上昇が認められなかった「意思決定の方針が決まった後でも,本人の意向が変わることがあっても良いことを伝えることができる」については,今回の対象が2年次生で実習経験も少なく,患者がどのような経過をたどるのかイメージしづらかったことも影響していると考えられる.

実際の臨床現場では,医療に関する知識やスキルを有する医療従事者であっても意思決定支援スキルが不足していることによって,意思決定支援が行われる機会が少ないことが指摘されている(Stacey et al., 2008).今回得られた知見から,意思決定支援能力を獲得するためには,まずは様々な対象に対する看護の知識を教授し,対象者の抱える疾患や問題を把握できる基盤をつくること.そして,意思決定支援方法を学ぶ際には,個人ワークだけではなく,グループワークを通して他者の考えを知り,これまで学んだ様々な知識を統合させていくことの重要性が示され,統合させるためのツールとして,OOVL日本版は有用なものになり得ることが示唆された.

2. 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界として,本研究は単一の教育機関の1学年での実施であることから,結果の一般化には限界がある.今後は対象機関や対象者を増やし,研究結果の一般化を目指す必要がある.次に,研究デザインの限界として,対照群は設定していないこと,評価が授業の前後のみであり,かつ主観的な評価のみであったことが挙げられる.OOVL日本版を用いることが,看護基礎教育の学生の意思決定支援の自信にどのように影響を与えたのか,獲得した知識が実際の場面でどの程度活用できるかについては評価できていない.また,使用した質問項目は研究者が独自に作成したものであり,信頼性・妥当性は検証していないため,結果の解釈には慎重な検討が必要である.今後は,実習や臨床に出てからどのように活用されたのか等の長期的な効果を明らかにする必要がある.

Ⅵ. 結論

本研究より,OOVL日本版を用いた意思決定支援に対する教育は,授業前後の評価測定において,学生の意思決定支援への自信の向上につながることが明らかとなり,OOVL日本版は看護基礎教育においても有用な意思決定支援のツールとなり得ることが示唆された.

謝辞:本研究の実施にあたり,研究にご協力いただいた学生の皆様に,心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:YHは研究の着想,研究デザインの設計,データ収集と分析,原稿作成の全プロセスに貢献した.HF,AA,AYは,研究デザインの設計,データ分析および結果の解釈に助言し,原稿に加筆・修正を加えた.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
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