2025 年 45 巻 p. 412-422
目的:助産学生が自身の価値観や希望する働き方に基づいて就職先を主体的に選択できるよう支援する「助産学生キャリアガイド(Decision Aid: DA)」の有用性および検証的ランダム化比較試験(RCT)の実施可能性を検討した.
方法:修士課程1年の助産学生を無作為に介入群(DA使用)と対照群に割り付け,DAをURLで配布し,2時点で調査を実施した.プライマリアウトカムは32項目の職業的アイデンティティ尺度,セカンダリアウトカムは7項目の選択に対する納得尺度とし,変化量と効果量を算出した.
結果:分析対象は47名(介入群23名,対照群24名)で,学生からはDAに対する肯定的評価が得られたが,効果量はいずれも小さく,明確な介入効果は確認されなかった.
結論:DAの有用性は一定程度示唆され,検証的RCTの実施は倫理的・運営的に可能と判断された.ただし,対象設定や評価指標の課題は改善が求められる.
Objective: This pilot randomized controlled trial (RCT) evaluated the effectiveness of a decision aid (DA), the Midwifery Student Career Guide, developed to help midwifery students make informed first workplace choices aligned with their values and work preferences. The study also assessed the feasibility of conducting a larger RCT.
Methods: First-year graduate midwifery students were randomly assigned to an intervention group (DA use) or a control group. The DA was accessed via a web link, and data were collected through two surveys. The primary outcome was measured using the 32-item Professional Identity Scale; the secondary outcome used the 7-item Satisfaction with Career Choice Scale. Change scores and effect sizes were computed to evaluate impact.
Results: Forty-seven students participated (23 in the intervention group; 24 in the control group). Intervention group participants reported favorable impressions of the DA. However, effect sizes for both outcomes were small, and no statistically significant differences were observed between groups.
Conclusion: The usefulness of the decision aid (DA) was partially supported, and the implementation of a confirmatory randomized controlled trial (RCT) was judged to be ethically and operationally feasible. However, issues related to participant selection and outcome measures need to be addressed.
助産師としてのキャリアを主体的に選択し,早期に職業的アイデンティティを形成することは,就業継続や専門職としての成長に重要である.特に,初期キャリアの出発点である就職先の選択は,学生が自己の価値観や希望する働き方を踏まえて判断できるよう支援する必要がある.意思決定支援のためのディシジョンエイド(Decision Aid: DA)は,医療分野において汎用されており,近年は看護学生のキャリア支援にも応用されている(山本ら,2023).助産師を含む新卒看護職の離職率は10%を超え(日本看護協会,2023),早期離職を防ぐためにも,キャリア選択における意思決定支援の重要性は高まっている.
厚生労働省(2022a)は,医師のタスク・シフト/シェアの一環として,院内助産所や助産師外来の普及を推進し,助産師の専門性発揮と医療の効率化を図るため,チーム医療による協働体制の強化や助産師数の増加,および資質向上策の充実を提起している.一方で,少子高齢化の影響により,2012年には分娩を取り扱う病院の約8割が産科混合病棟へと移行し(日本看護協会,2015),2022年には,周産期母子医療センターの47%が産科混合病棟であることが報告されている(厚生労働省,2022b).このような状況下で,病院に勤務する多くの助産師は,混合病棟での勤務を余儀なくされている.
周産期の混合病棟とは産科を含む他の診療科の入院患者が混在する病棟であり,助産師は助産師と看護師の2つの役割を担って働いている.そのため,混合病棟に勤務する助産師は,「助産師業務と看護師業務の負担というストレス」(猿田ら,2015),「助産師としてのアイデンティティ確立や専門性が十分に発揮できない」(小林ら,2017)と感じている.助産師としての専門性を発揮できないことは自尊感情の低下となり,就業継続に影響を及ぼす可能性があることから,助産師の職業的アイデンティティ形成と専門性が高められる職場環境を整えることは急務である.
なお,日本では助産師は正常分娩を取り扱う専門職として教育されている.しかし,ハイリスク妊産婦の増加により正常分娩の助産実践が難しい状況があることや異常時の対応を学んでいても,異常を予測した臨床判断力は備わっていないことが課題となっている(日本看護協会,2014).しかし,特に新人助産師は学生時代の体験と現場の実践にギャップを感じ,現場で求められる能力と自分の持っている能力のギャップに悩みを抱えており(礒山ら,2017),産科混合病棟で働くということだけではなく,就職後すぐに正常分娩の助産ケアを実践できないといった職場環境にリアリティギャップを感じている(鈴木・小川,2018).
看護職が専門職として就業継続し,早期離職を防ぐために「職業社会化」が促進されることが重要とされている(藤井,2018;卯川・細田,2023).「職業社会化」とは,個々人がその職業における価値や規範を受け入れ内面化しながら,その職業に特有の知識や技術を習得し,自己概念をその職業へ同一化させ職業アイデンティティを形成していく過程のことで,職業社会化が進んでいないことは就職後にリアリティ・ショックを経験しやすく,看護職という職業に自己を同一化させる程度によって,職業に対するコミットメントの程度も左右され,就職後の職業継続にも影響を及ぼす(長谷川,2012).
また,助産師として高い職業的アイデンティティを持って就業することをサポートしていく体制を整えることで,職業継続意志を支援することにつながる可能性があることから(佐藤・菱谷,2011),キャリアの始点となる初めの就職施設を決めることは重要である.
ライフイベントにおける重要な意思決定を支援する方法として,シェアード・ディシジョン・メイキング(Shared Decision Making: SDM)がある.SDMは,良好な対人関係のもと,個人の価値観を尊重しながら自律的な意思決定を支援するアプローチであり,医療における治療やスクリーニングの選択場面で用いられている.その実践を支えるツールであるDAは,有用性が確認され,意思決定支援の方法として広く活用されている(Stacey et al., 2017).近年では,大学・大学院修了後の進路選択における看護職のキャリア支援にもDAの応用が進んでおり,その活用が報告されている(山本ら,2023).こうした背景のもと,林田・奥(2025)は,助産学生が自身の価値観や希望する働き方に照らして就職先を主体的に選択できるよう支援する「助産学生キャリアガイド(DA)」を開発した.本ガイドは,就職活動の開始前後に活用されることを想定し,情報の整理や優先順位の明確化を促す構成となっているが,その有用性はこれまで実証的に評価されておらず,検証が求められている.
助産学生が将来のキャリアを考え,初めての就職施設を決めることを支援する「助産学生キャリアガイド」(Decision Aid,以下DA)(林田・奥,2025)の有用性と課題を見出し,検証的なランダム化比較試験に向けた実現可能性を検討した.プライマリアウトカムは「職業的アイデンティティ」,セカンダリアウトカムは「選択に対する納得」とした.
DA使用群と非使用群のパイロットランダム化比較試験(以下,RCT).
2. サンプルサイズサンプルサイズは介入群と対照群の2群の差を検定することから,両側検定,効果量を0.5(中程度),αエラー0.05,検出力0.8に設定した.Whitehead et al.(2016)のパイロットRCTのサンプルサイズの求め方を参考に,各群15名,合計30名とした.第2回調査の脱落率を約30%と設定し,第1回調査の目標人数は各群22名ずつ合計44名とした.
3. 研究参加者助産師教育を行う大学院の修士課程1年に在籍し,就職活動中の助産学生.
4. 調査方法 1) 対象施設と調査期間就職に関する状況は地方により差が生じやすいため,全国の助産師教育を行う大学院47施設(養成可能人数347名)の所在都道府県を北海道・東北,関東,中部,近畿,四国・中国,九州の6区分とした(東北地方は1施設のため北海道と同じ区分とした).地方区分ごとに養成可能人数が多い施設の上位4施設を選定し,合計24施設(養成可能人数245名)に依頼した.
調査は2回に分けて実施した.第1回調査は,修士課程1年次末(2024年3月1日~3月31日)に実施し,第2回調査は,就職施設への応募時期と想定される修士課程2年次の初め(2024年5月1日~5月31日)とした.
2) 割付研究参加の承諾が得られた施設名と在学中の助産学生の人数を記載した用紙を作成し,割付調整因子を「地方」として1対1の割合にした.施設数が奇数の地方は白紙の用紙を含め,くじ引きで割付けた.第2回調査の配信と紐づけ,謝礼の送付をすることから,介入群と対照群を識別するために単盲検法で行った.
5. 介入方法 1) 介入群(DA使用群)研究協力書に掲示したURLまたはQRコードからGoogle Formsにアクセスし,Web質問紙調査に回答するよう依頼した.DAはダウンロード可能なURLを提示し,DAを入手・閲覧するよう依頼した.DAの利用の有無については,第2回調査において自己申告によって確認した.第1回調査に入力されたメールアドレスに第2回調査のURLを配信し,回答を求めた.
DAの構成は,「ガイドの使用方法」,「Step 1:決めることを明らかにする」,「Step 2:選択肢の特徴を知る」,「Step 3:何を大事に決めたいか明確にする」,「Step 4:決める」,「Stepを進めるために」から成る.Step 2では,日本の周産期医療の現状,助産師の活動場所や役割,キャリアパス,施設機能の違いなど,就職施設を選択する際に必要とされる情報を網羅的に提示し,Step 3では,自己の価値観と照らした比較検討ができ,Step 4で決定を導く構成になっている.
2) 対照群(無介入群)研究協力書に掲示したURLまたはQRコードからGoogle Formsにアクセスし,Web質問紙調査に回答するよう依頼した.第1回調査に入力されたメールアドレスに第2回調査のURLを配信し,回答を求めた.
6. 介入効果の測定項目 1) 職業的アイデンティティ尺度藤井ら(2002)の医療系学生の職業的アイデンティティ尺度を用いた.尺度は32項目で①医療職の選択と成長への自信,②医療職観の確立,③医療職として必要とされることへの自負,④社会への貢献の志向の4つの因子で構成される.評価段階は「非常によく当てはまる」~「まったく当てはまらない」の7件法で,得点が高いほど職業的アイデンティティが高いことを示す.
2) 選択に対する納得の項目本研究では,助産学生がキャリア選択において,自身の価値観や将来像と照らし合わせて主体的に意思決定できたかを評価するため,「選択に対する納得」をセカンダリアウトカムとした.この納得感は,単なる情報の理解や選択の有無ではなく,意思決定の質を反映する心理的側面として重要であり,DAの有用性を評価するうえで有効な指標と考えた.さらに,納得感はキャリア選択後に生じうる現実とのギャップを軽減し,就業継続や職業的持続性にも影響する可能性があることから,評価項目として採用した.
納得に関する7項目の質問は,今井ら(2016)の「納得」の定義「ある事象に対して自分のもつ価値や自分への利益を明確にすることで理解を深め,認知的にも感情的にも受容した状態であり,主体的かつ他者との信頼関係のなかで生み出される流動的な状態」を参考に項目を設定した.質問の表現はKawaguchi et al.(2013)のDecisional Conflict Scale(日本語版)を参考にした.「自分の選択に納得している」ことを評価基準とし,内容の妥当性・適切性は本研究に直接関わっていない看護学の研究者2名と検討した.回答のしやすさは本研究の対象者ではない助産学生2名に確認した.評価段階は「よく当てはまる」~「まったく当てはまらない」の5件法とし,点数が高いほど選択に対する納得が強いことを示すこととした.
3) 検証的RCTにむけた実現可能性の評価今後の検証的RCTの実施に向けた実現可能性の評価として,①対象者の確保とサンプルサイズの妥当性,②介入時期と介入方法の適切性,③調査時期の妥当性,④DA内容の修正の必要性,の4点から検討を行った.各項目について,研究遂行上の困難や不備がないかを整理し,それらを踏まえて検証的RCTの実施が可能であるかを総合的に判断した.
7. 分析方法全ての変数の記述統計を行った.各変数の正規分布を確認し,職業的アイデンティティ尺度の総得点,選択に対する納得の総得点から効果量を求めた.介入群と対照群の差は,介入後の総得点の平均値と効果量を比較した.介入群と対照群の変化は,各群の介入前後の変化量と効果量を比較した.効果量は推定値の中で最も正確とされるHedges’gと信頼区間を用いた(Marfo & Okyere,2019).Hedges’gの評価は絶対値とし,基準は小(g = 0.2),中(g = 0.5),大(g = 0.8),信頼区間は95%とした.
検証的RCTのサンプルサイズを算出するために効果量(各群の総得点の平均値の比較,変化量の比較)の推定と実現可能性(介入時期,介入方法,調査時期,DAの修正の必要性,測定内容)を検討した.統計的解析はIBM SPSS Statistics Ver.29を用いた.
検証的RCTのサンプルサイズは,介入群の職業的アイデンティティの総得点の変化量のHedges’gを用いて算出した.
8. 選択に対する納得の項目の信頼性と妥当性の検討就職施設を選択することに対する認識を確認するために「選択に対する納得」を7項目作成した.尺度の信頼性分析の対象は第1回調査に参加した47名(介入群23名,対照群24名)とした.尺度の信頼性統計量を算出したところ,Cronbachのα係数は0.64であった.COSMIN(COnsensus based Standards for the selection of health Measurement INstruments)チェックリスト(Terwee et al., 2012)における尺度作成のサンプルサイズは,項目数×7,かつ100名以上が推奨される.従って,本研究の対象者数は基準より少ないため参考値とした.
9. 倫理的配慮聖路加国際大学倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:23-A104).
研究依頼説明書と質問紙調査の冒頭に,研究の参加は自由意思であること,辞退可能であること,辞退により不利益が生じないこと,個人情報保護,研究結果の公表について説明し,同意を得たうえで実施した.
研究参加に承諾した施設数は,北海道・東北2施設,関東1施設,中部2施設,関西2施設,中国・四国3施設,九州3施設であった.実施手順はCONSORT 2025声明(Hopewell et al., 2025)に則り作成した.図1に示す.
第1回調査に参加した助産学生は介入群,対照群ともに29名であった.そのうち,第2回調査に参加した助産学生は,介入群26名,対照群24名であった.介入群は,DAを使用しなかった2名と介入後の総得点の変化量が–50点以上となった1名を外れ値とし,分析対象から3名除外した.分析対象者は47名(介入群23名,対照群24名)となった.
1) 第1回調査の研究参加者の属性第1回調査の研究参加者の属性を表1に示す.
介入群(n = 23) | 対照群(n = 24) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
人数(人) | 割合(%) | 人数(人) | 割合(%) | ||||
1 | 年齢 | ||||||
1)23 | 18 | 78.3 | 21 | 95.8 | |||
2)24 | 3 | 13.0 | 3 | 4.2 | |||
3)30代以上 | 2 | 8.7 | 0 | 0 | |||
2 | 社会人として仕事をした経験 | ||||||
1)ある | 3 | 13.0 | 0 | 0 | |||
2)ない | 20 | 87.0 | 24 | 100 | |||
3 | 卒業後は助産師として働きたい | ||||||
1)はい | 24 | 100 | 24 | 100 | |||
2)いいえ | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
4 | 就職を検討している施設数 | ||||||
1)1施設 | 5 | 21.7 | 6 | 25.0 | |||
2)2施設 | 12 | 52.2 | 10 | 41.7 | |||
3)3施設 | 6 | 26.1 | 6 | 25.0 | |||
4)4施設 | 0 | 0 | 2 | 8.3 | |||
5 | 就職を検討している施設の種類(複数選択可) | ||||||
1)総合周産期母子医療センター | 16 | 34.0 | 15 | 28.8 | |||
2)地域周産期母子医療センター | 19 | 40.4 | 21 | 40.4 | |||
3)産科が単科の病院 | 7 | 14.9 | 8 | 15.4 | |||
4)産科が混合病棟の病院 | 4 | 8.5 | 5 | 9.6 | |||
5)診療所(クリニック) | 1 | 2.1 | 2 | 3.8 | |||
6)助産院 | 0 | 0 | 1 | 1.9 | |||
7)保健センター | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
8)まだわからない | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
9)答えたくない | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
10)その他 | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
【病院奨学金の受給者】 | |||||||
6 | 貸与条件に就職先を限定する規定の有無 | (n = 4) | (n = 4) | ||||
1)はい | 0 | 2 | |||||
2)いいえ | 4 | 2 |
年齢は,介入群は23~42歳,対照群は23~24歳であった.社会人として職務経験がある学生は介入群3名,対照群0名であった.全員が「卒業後は助産師として働きたい」と回答した.就職を検討している施設数は,両群とも70%以上の学生が複数の施設を検討し,総合周産期母子医療センター,地域周産期母子医療センター,産科が単科の病院が占めていた.病院奨学金を受けている学生は,各群4名で貸与条件に就職先を限定する規定があったのは,対照群に2名であった.
2) 第2回調査の研究参加者の属性第2回調査の研究参加者の属性を表2に示す.
介入群(n = 23) | 対照群(n = 24) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
人数(人) | 割合(%) | 人数(人) | 割合(%) | ||||
1 | 第1希望の施設の決定状況 | ||||||
1)決まっている | 22 | 95.6 | 19 | 79.2 | |||
2)決まっていない | 0 | 0 | 5 | 20.8 | |||
3)答えたくない | 1 | 4.4 | 0 | 0 | |||
2 | 第1希望の施設への応募状況 | ||||||
1)就職の内定をもらった | 2 | 8.7 | 8 | 33.3 | |||
2)採用試験に応募した | 17 | 73.9 | 8 | 33.3 | |||
3)これから応募する予定である | 4 | 17.4 | 8 | 33.3 | |||
4)まだ応募していない | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
5)答えたくない | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
【「内定をもらった」・「応募した」・「これから応募予定」を選択した者】 | |||||||
3 | 施設の数 | ||||||
1)1施設 | 16 | 66.6 | 18 | 75.0 | |||
2)2施設 | 6 | 25.0 | 5 | 20.8 | |||
3)まだわからない | 0 | 0 | 1 | 4.2 | |||
4)未記入 | 2 | 8.4 | 0 | 0 | |||
4 | 施設の種類(複数選択可) | ||||||
1)総合周産期母子医療センター | 7 | 26.9 | 5 | 17.2 | |||
2)地域周産期母子医療センター | 12 | 46.2 | 11 | 37.9 | |||
3)産科が単科の病院 | 4 | 15.4 | 5 | 17.2 | |||
4)産科が混合病棟の病院 | 3 | 11.5 | 5 | 17.2 | |||
5)診療所(クリニック) | 0 | 0 | 2 | 6.9 | |||
6)助産院 | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
7)保健センター | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
8)まだわからない | 0 | 0 | 1 | 3.4 | |||
9)答えたくない | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
10)その他 | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
5 | 採用される職種 | ||||||
1)募集要項は「看護職」のため助産師採用か不明 | 9 | 39.2 | 5 | 20.8 | |||
2)助産師 | 13 | 56.5 | 19 | 79.1 | |||
3)看護師 | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
4)未記入 | 1 | 4.3 | 0 | 0 |
第1希望の施設の決定状況は,介入群は95.6%が「決まっている」と回答し,対照群は79.2%であった.第1希望の施設への応募状況は,両群とも全員が「内定をもらった」,「応募した」,「これから応募予定」と回答し,施設数は1,または2施設に絞っていた.
採用される職種は,介入群に比べて対照群の方が助産師で採用される施設を選んでいた.
2. 介入群のDAの使用状況介入群のDAの使用状況と感想を表3に示す.
介入群(n = 23) | ||||
---|---|---|---|---|
人数(人) | 割合(%) | |||
1 | DAを読んだ回数 | |||
1)1回 | 20 | 87.0 | ||
2)2回 | 3 | 13.0 | ||
2 | DAの感想 | |||
1)役に立った | 8 | 34.8 | ||
2)まあまあ役に立った | 12 | 52.2 | ||
3)どちらでもない | 2 | 8.7 | ||
4)あまり役に立たなかった | 1 | 4.3 | ||
5)役に立たなかった | 0 | 0 |
介入群の23名のDAを読んだ回数は1回または2回で,83.4%は「役に立った」と回答した.自由記載があったのは1名で,「就職試験にとても役立った」と回答した.
3. 介入効果の推定 1) 介入後の比較介入群と対照群の職業的アイデンティティ尺度と選択に対する納得の項目の第2回調査の総得点の平均値を比較した(表4).
介入群(n = 23) | 対照群(n = 24) | 平均値の差 | g | 95%CI | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
M | SD | M | SD | 下限 | 上限 | ||||
職業的アイデンティティ尺度 第2回の総得点 | 169.39 | 18.33 | 177.17 | 22.59 | 7.78 | –.371 | –.936 | .199 | |
選択に対する納得の項目 第2回の総得点 | 27.96 | 3.30 | 28.04 | 2.81 | .08 | –.027 | –.590 | .535 |
M:mean SD:standard deviation MD:mean difference g:Hedges’s g 95%CI:95% Confidence Interval
総得点の平均値は,介入群M = 169.39点(SD = 18.33),対照群M = 177.17点(SD = 22.59)で平均値の差7.88点で対照群が高値となった.効果量はg = –0.371(95%CI [–.936, 0.199])で,対照群が僅かに大きい差がみられた.
(2) 選択に対する納得総得点の平均値は,介入群M = 27.96点(SD = 3.30),対照群M = 28.04点(SD = 2.81),平均値の差–0.08点で対照群が僅かに高値となった.効果量はg = –0.27(95%CI [–0.590, 0.535])で,対照群が僅かに大きい差がみられた.
2) 介入前後の比較第1回調査と第2回調査の紐づけから介入群と対照群の職業的アイデンティティ尺度と選択に対する納得の項目の総得点の変化量を比較した(表5).
第1回 | 第2回 | 変化量 | max | min | g | 95%CI | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
M | SD | M | SD | 下限 | 上限 | |||||||
職業的アイデンティティ尺度 総得点 | 介入群(n = 23) | 164.30 | 19.41 | 169.39 | 18.33 | 5.09 | 30 | –26 | –.300 | –.701 | .108 | |
対照群(n = 24) | 172.38 | 23.43 | 177.17 | 22.59 | 4.79 | 48 | –35 | –.242 | –.633 | .153 | ||
選択に対する納得の項目 総得点 | 介入群(n = 23) | 26.13 | 3.73 | 27.96 | 3.30 | 1.83 | 8 | –4 | –.490 | –.905 | .065 | |
対照群(n = 24) | 27.13 | 2.95 | 28.04 | 2.81 | .92 | 6 | –4 | –.336 | –.732 | .066 |
M:mean SD:standard deviation MD:mean difference g:Hedges’s g 95%CI:95% Confidence Interval
総得点の変化量の比較では,介入群5.09点(max 30, min –26),対照群4.79点(max 48, min –35)で対照群が大きく,効果量は介入群g= –0.300(95%CI [–0.701, 0.108]),対照群g = –0.242(95%CI [–0.633, 0.153])で,両群とも小さい効果であった.
(2) 選択に対する納得総得点の変化量の比較では,介入群1.83点(max 8, min –4),対照群0.92(max 6, min –4)で介入群が大きく,効果量は介入群g = –0.490(95%CI [–0.905, 0.065]),対照群g = –0.336(95%CI [–0.732, 0.066])で,両群とも小さい効果であった.
4. 今後のRCTの実現におけるサンプルサイズCohen(1988)の基準に則り,検出力0.8(中等度),有意水準0.05,効果量(Hedges’s g)から算出した.効果量は介入群の職業的アイデンティティ尺度の総得点の変化量(Hedges’g –0.30(95%CI [–.701, .108])の絶対値を用いた(表5).必要なサンプルサイズの設定は両側検定,検出力0.8,効果量0.30,有意水準0.05とし,各群176名,合計352名となった.検証的RCTのサンプルサイズは,施設受託率と脱落率を踏まえて考察で検討する.
本研究ではDAの介入効果は小さく,就職施設の選択において職業的アイデンティティを高めていなかった.
助産学生の職業的アイデンティティ形成を促進する要因には,助産実習での肯定的感情を伴う体験や(小泉ら,2008),自尊感情の高さ,分娩介助実習の到達度の高さがあり(永橋・入山,2019),自己効力感が高いほど職業的アイデンティティも高い傾向がある(中島・山内,2014).反対に,分娩介助実習における否定的感情を伴う体験は職業的アイデンティティに揺らぎを生じやすいことから(三谷ら,2020),実習等により心理的な影響を受けた可能性が考えられた.また,修士課程の助産学生は,助産師免許取得のための教育内容のほか,大学院で習得するべき教育科目と研究科目が修了要件に定められており,他の教育課程の学生に比べて「助産師としての自覚の芽生えと強化」や「研究力と思考力の修得」が高い傾向があることから(三瓶ら,2019),本研究において介入群と対照群の差が生じなかった一因になったと推測する.
看護学生の職業的アイデンティティの形成過程の中心的なテーマは看護職が自分に向いているか,自分にできるかという自分探しであり(山内ら,2009),職業的アイデンティティは1年生が最も高く,学年進行と共に低下し,卒業時に再び上昇する傾向がある(髙瀬ら,2018).本研究では,介入群,対照群ともに職業的アイデンティティはプラスに変化していた.看護学生の傾向と同様に,助産学生も授業や実習等を通して専門的知識や技術を学び,自己の職業適切性を確認しながらアイデンティティを高めているプロセスの中にあったと推察される.
本研究では第1希望の就職施設の決定を指標とし,助産学生の就職活動が本格化する最終学年になった直後に依頼した.そして,DAを読む期間を置いて2回目の調査を行ったが,実際には就職活動が早期化しており,教育機関によっては実習と並行して就職活動を行うといった現状があった.第1回の調査時期とDAの配布を設定した.2回目の調査の時点で介入群は内定を得ていた学生は2名であり,採用試験を終えていない学生の方が多かったことから2回の調査時期は早かったと考える.
本研究における介入効果は限定的であったが,一因として,教育機関によっては既に進路支援に関する資料の提供や教員による個別指導などが行われており,こうした既存の支援がDA単独の効果評価において交絡要因となったと考えられる.また,変化量の結果からは,DAの配布時期が遅れたことも影響した可能性がある.
以上より,今後の検証的RCTでは,DAの効果をより的確に測定するため,評価指標の再検討が必要である.さらに交絡因子の影響を抑えるために,介入以外の支援内容について把握・統制し,DAの配布は就職活動の開始前に設定する.また,第2回調査は就職先の内定後に実施することで,心理的影響を低減できると考えられる.
2. 選択に対する納得への効果の推定本研究では,DAの介入効果は小さく,就職施設の選択において選択に対する納得を高めていなかった.
DAは治療における意思決定など重要な決定を行う場合のツールとして,様々な種類が開発され,その効果の測定には意思決定に対する葛藤を評価するO’Connor(2010)のDecision Conflict Scale(以下,DCS)が汎用されている.
DAの効果に関するシステマティックレビューの結果,情報不足を感じることに関連する意思決定の葛藤,個人的な価値観に関する優柔不断,および意思決定に消極的な人の割合が減少したことが明らかにされている(Stacey et al., 2017).しかし,情報提供を行わなくても意思決定後のDCSが自然に低下することもあり,タイムリーな情報提供が決定に対する早期終結を防ぐことから(Stacey et al., 2020),介入時期が最も重要となる.
本研究におけるDAは治療方法の意思決定支援とは異なり,就職施設の選択という自由度の高い意思決定へのツールであることから,DCSは該当しなかった.そのため,DAの効果の指標として今井ら(2016)の「納得」の概念を基に,Kawaguchi et al.(2013)の日本語版DCSを参考にして「選択に対する納得」を作成した.しかし,選択に対する納得の項目における信頼性分析では,サンプルサイズはCOSMINチェックリストの評価基準に達していないため,Cronbachのα係数は0.64で低い水準であった.本尺度はDAの介入効果を測定するには不十分であり,変化量への影響も否定できない.今後は,測定指標の再構築が必要である.
以上より,DAの配布時期は就職活動を開始前とする.また,測定の精度を高めるために項目を修正する.
3. キャリア選択におけるDAの有用性介入群の学生は,1名を除くすべての学生が第1希望の就職施設を決定していた.DAを読んだ回数は1回(87.0%)であった.DAの有用性については,「役に立った」「まあまあ役に立った」との肯定的評価が多かったが,その具体的内容は,「就職試験でとても役に立った」という記述が1件得られたのみであり,DAの活用場面や影響過程をより詳細に理解するためには,定性的データの収集が必要であった.一方,「あまり役に立たなかった」と回答した学生が1名いたが,就職施設の選択においてDAによって第1希望の選択ができない状況に至っていないことから,DAの有用性は否定されないと判断する.
修士課程の助産学生は,看護学生時代に助産師養成機関の受験と並行して,インターンシップ研修や就職説明会に参加した経験が考えられ,就職施設の情報収集や条件設定をすることは可能であり,学生は他者の意見も取り入れながら優先条件を具体化していた可能性があった.使用後の定性的評価が限定的であったことから,DAの内容が対象者にとって適切であると判断する根拠は不十分と考える.今後は,DAの構成要素が助産学生の意思決定にどのように寄与しているかを明らかにするため,内容妥当性や使用満足度の多面的な評価が求められる.
以上より,DAの配布時期は就職活動を開始する前,または助産師養成機関に入学時など早期に設定することで,DAの有用性を明確に検証できると考える.
4. 検証的RCTにむけた実現可能性の検討 1) 対象とサンプルサイズHedges’gから算出された必要なサンプルサイズは各群176名となった.本研究では施設受託率は54%であった.介入群の参加率は第1回調査53%,第2回調査の脱落率17%であったことから,検証的RCTでは第1回調査の参加率を50%,第2回調査の脱落率を20%とすると第1回に必要な参加者は634名(各群317名)となった.2023年度の文部科学大臣指定(認定)の助産師養成機関と養成可能人数は,大学院50施設370名,大学78施設716名,大学専攻科31施設340名,大学別科11施設173名,短期大学3校5名,計173施設1,664名である.また,2023年度の厚生労働省に認可されている助産師養成機関と募集人数は,大学校1施設10名以下,専修学校は37施設765名,計38施設775名で,合計は221施設,養成可能人数・募集人数は2,439人である.
次回のサンプルサイズは,施設受託率を50%と仮定し,学生数の多い施設から順に110施設の研究協力が得られると必要数の参加者が見込まれる.
2) 介入時期と介入方法DAの配布時期は就職活動中では遅いことが明らかとなった.また,DAの配布は第1回調査の最後にDAのURLを提示してダウンロードをする方法とした.しかし,DAを読んでいない学生が2名いたことから,ダウンロードは負担になった可能性があった.SDMにおける他者との共有のしやすさを考慮すると紙媒体(冊子)の方が実用的と感じる場合もある.
次回の配布時期は,就職活動を開始する前とし,入学直後とする.媒体はダウンロード版,または冊子のどちらかを選択する方法にする.
3) 調査時期本研究は,第1希望の施設の決定を指標として就職活動中の学生を対象としたことから,調査時期を採用試験が行われる時期に応じて設定した.置かれている状況は教育機関によって異なるが,第2回調査(5月)は,実習期間中や課題研究等の多重課題を抱えていた可能性があった.加えて,採用試験前や採用試験直後は,心理的に揺らぎが生じやすいため,職業的アイデンティティも選択に対する納得への影響はあったと推察する.就職の内定が決定した後,または大学院修了前など学生の心理的負担の少ない時期に行っていた場合,異なる結果になった可能性があると考える.
次回の第1回の調査時期は,今回と同様にDAを配布する時期とし,第2回の調査時期は就職後とする.
4) DAの修正の必要性本研究では「募集要項は『看護職』と記載されており,助産師で採用されるかわからない」と回答した学生がいたことから,就職するまでは,看護師,あるいは助産師のどちらで採用されるか知らされない場合があることがわかった.DAに施設の特徴として,総合周産期母子医療センター,地域周産期母子医療センター,産科が単科の病院,産科が混合病棟の病院に「周産期病棟に配属されない可能性がある」と明示した.しかし,助産師として配属されない場合があることについては記載していなかったため,「産科ではない病棟(一般病棟)に看護師として配属になる場合がある」と具体的な記載が必要である.
次回の調査では統計的データを更新するとともに配属に関する情報の修正を行う.
5) 介入効果の測定項目本研究ではDAによって得られた「知識」については確認していなかった.介入効果として助産師のキャリアに関する知識の拡充の程度を測定する必要があった.次回の調査では助産師の就労条件や職場環境における知識を測定する.
6) 測定用具の検討選択に対する納得の項目のサンプルサイズはCOSMICチェックリストの基準を満たしておらず,内的一貫性は参考値となった.
次回の調査では「選択に対する納得」の概念を再考し,具象を測定する項目に変更する.
本研究では,DAの介入効果として,職業的アイデンティティおよび選択に対する納得に明確な効果は確認されなかった.その要因として,以下の点が考えられる.
1.対象者は就職活動中であり,すでに情報提供や助言を受けていた可能性が高く,DAの効果が相対的に低減していた.また,配布時期が意思決定プロセスの後半であったと推察される.
2.採用試験を控える学生は心理的影響を受けやすく,第2回の調査時期が早すぎたことが結果に影響した可能性がある.
3.DAの使用時期や頻度を十分に把握できず,利用状況と効果との関連を評価できなかった.
4.知識や認識の変化を測定する評価指標が整備されておらず,効果の検出が限定された.
就職先の選択はキャリア形成の始点となる重要な意思決定であり,DAは思考の整理や納得感のある選択を支援する有効な手段である.リアリティギャップの軽減や就業継続支援にも資することから,今後は介入時期を適切に設定し,評価指標を改善した上で検証的研究を実施する必要がある.
本研究では,助産学生のキャリア選択を支援するDAの有用性と,検証的RCTの実施可能性を探索的に検討した.定量的な効果は限定的であったものの,DAは一定の肯定的評価を得ており,倫理的・運営的観点から検証的RCTの実施は可能と判断された.一方で,評価指標の信頼性や介入時期には課題があり,今後の研究設計の改善が求められる.また,今回得られた効果量に基づく必要サンプルサイズの試算(各群317名)は,評価指標の妥当性や効果検出力の限界を踏まえると,あくまで暫定的な指標にとどまる.今後の検証的RCTでは,より適切な評価指標の選定および介入時期の最適化とともに改めて検討する必要がある.
付記:本研究は,筆者の聖路加国際大学大学院博士論文に加筆・修正したものであり,内容の一部は28th East Asian Forum of Nursing Scholars(2025年2月)にて発表した.
謝辞:本研究にご参加された助産学生の皆様,及び,本研究にご支援をいただきました新潟大学の有森直子教授,聖路加国際大学の青木裕見准教授,米倉佑貴准教授に深く感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:SHは研究の着想・デザイン,データの収集・分析・解釈,原稿の作成に貢献し,HOは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言に貢献した.両著者は最終原稿を読み承認した.