2025 年 45 巻 p. 49-59
目的:意味づけの概念を明らかにし,その特徴と心理的ケアへの適用可能性を検討する.
方法:国内外の30文献を対象に,Rodgersの概念分析法を用いた.
結果:属性は【自己との対峙】【考え方の変容】【新たな自己の発見】【新たな解釈】が抽出された.先行要件は6カテゴリー,帰結は3カテゴリーが導き出された.
結論:本概念は,「直面する状況において自己と対峙する中で,考え方の変容や新たな自己を発見し,自分自身を再解釈するプロセス」と定義された.これにより,意味づけは,個人が直面する困難を乗り越える際の認知的アプローチとして,人としての成長や適応を促す重要な役割を持つことが支持された.また,意味づけの概念を心理的ケアに適用する可能性が示唆された.
Objective: The purpose of this study was to clarify the concept of meaning-making, examine its characteristics, and explore its applicability to psychological care.
Methods: A conceptual analysis of 30 domestic and international publications was performed using Rodgers’ method.
Results: The attributes identified include “confrontation with the self,” “transformation of thinking,” “discovery of a new self,” and “new interpretations.” Six categories of antecedents and three categories of consequences were derived.
Conclusion: The concept of meaning-making was defined as “the process of confronting oneself in challenging situations, transforming one’s way of thinking, discovering a new self, and reinterpreting oneself.” This cognitive approach aimed at overcoming difficulties was shown to play a crucial role in promoting personal growth and adaptation. The study also suggested the possibility of applying the concept of meaning making to psychological care.
人はしばしばストレスフルな出来事に遭遇する.Lazarus & Folkman(1984/1991)によると,これらの出来事に対する個人の認知的評価は大きく異なり,同じ状況でも人によってネガティブあるいはポジティブな評価に分かれる.特に1980年代以降,心理学の領域では個人のストレス反応に対する認知評価のプロセスに焦点を当てた研究が増え,ストレスフルな出来事から生じるポジティブな影響や適応の過程における「意味づけ」の概念について注目されるようになった.
意味づけは経験に対する解釈であり,Adler(1931/2010)によると,その解釈によって人々は行動や結果を選択する.過去の事実は変えられないが,その経験に対する意味づけを変えることで心身の健康回復や適応を促進する効果があるとされる(George & Park, 2013;Updegraff et al., 2008).また,Nerken(1993)は,ストレスを受けた個人が直面する課題に対して意味を見出すことの重要性を強調し,意味づけが心身の健康に及ぼす肯定的な効果について論じている.このように意味づけは,心身の健康度に貢献する重要な概念として扱われている.
意味づけについては,これまで心理学領域を中心に検討が行われてきた.堀田・杉江(2013a)は大学生を対象に挫折体験の意味づけが自己変容を促すことを,宅(2005)は高校生を対象にストレスに起因する自己成長感が生じるメカニズムについて調査し,自発的な意味づけの心の働きが自己成長感に影響を及ぼしていることを明らかにした.さらに喪失体験からの回復過程は意味再構成の過程であるとする理論(Neimeyer, 2002/2006)や,逆境に直面した際に内在的な動機づけがなされ,同化,負の適応,および正の適応の3つが行われるとする「Organismic valuing theory(有機的価値理論)」なども提唱されている(Joseph & Linley, 2005).このように独自のプロセスの中で自身の体験を「意味づける」ことの重要性が認識されるようになった.
一方,看護学領域においては,主に対象者の体験に関する意味づけを明らかにした研究(中原ら,2020;髙橋ら,2020)が存在する.多くの研究では,「意味づけ」という言葉が頻繁に使用されているものの,対象者が自身の体験に対してどのように「意味づけ」を行うのか,その具体的な概念や効果については十分には明らかにされていない.また「意味づけ」の概念が曖昧であることからも,看護者が対象者の体験にどのように意味づけを支援できるかについて,統一された理論的枠組みが不十分な現状がある.看護者が対象者の体験を深く理解し,直面する出来事や困難に対して意味を見出す支援を提供することは,心理的ケアを充実させる上で重要である.このような支援は,看護実践において大きな意義を持つと考えられる.
そこで,本研究では,対象者の体験における「意味づけ」の概念を明らかにし,その特徴と心理的ケアへの適用可能性を検討することを目的とする.
本研究ではRodgers(2000)の概念分析の手法を用いた.この手法は概念を時間と状況に応じて変化する発展的なものとして捉えて,その特性を明らかにするため,時代の流れや社会的背景,医療の変遷に伴って変化する意味づけの概念の分析に適切であると考えた.本手法では概念の属性だけでなく,先行要件や帰結を明らかにし,概念の社会文化的側面や学問間の比較,経時的変化や文脈を損なわない探究によって概念の理解を高め,看護学や看護実践への示唆を得ることができる(濱田,2017).また,帰結は介入後のアウトカム指標につながることからも,意味づけを支援する手がかりとなり得るこの手法が適切であると判断した.
2. 対象となる文献の選定意味づけの概念は,個々の文化的背景や社会的環境の影響を受けると考えられること,また,看護学に限らず他分野の学問においても議論されてきた背景から,本研究では国内外の文献や看護学以外の論文も対象とした.データベースは,医学中央雑誌Web版,CINAHL,PubMed,CiNii Researchを使用し,2012~2022年の期間を対象に検索を行った(2022年7月検索).検索期間を過去10年間に限定した理由は,最新の意味づけの研究動向を反映し,現代の看護実践に適した知見を得るためである.また十分な文献量を確保しつつ,質の高い分析を行うために適切な範囲であると判断した.検索語は,意味づけという概念がどのように定義され,使用されているかを幅広く把握することを目的とし,特定の文脈に限定せず,概念そのものに焦点を当てることが重要だと考え,和文では「意味づけ」のみを使用した.英文では,既存の研究において「meaning making」が意味づけに関連する主要な概念として広く使用されているため,このキーワードで網羅できると判断し,「meaning making」のみとした.会議録,症例報告,事例,文献レビューは除外し,全文が入手可能であることとした.
その結果,医学中央雑誌Web版で124件,CiNii Researchで40件,CINAHLで58件,PubMedで24件の計246件が抽出された.これらの抄録を精読し,意味づけに関する記述がない文献や重複する文献を除外し,165件を抽出した.さらに本文を精読し,抄録に意味づけの内容が含まれていても,意味づけが中心的な主題でない文献や,医療従事者が行う意味づけに関する文献を除外した.その上で,対象者自身がどのように自らの経験や出来事を解釈し,意味を見出しているか,明確に記載されている論文を選定基準とし,最終的に30件を分析対象とした.内訳は和文献24件および英文献6件(看護学13件,心理学12件,教育学3件,医学1件,社会学1件)であった.
3. データ分析方法対象とした文献を精読し,「意味づけ」や「meaning making」という言語が使用されている文章に着目した.意味づけの過程が文章の中でどのように展開しているかを確認するため,出現前後の文脈も含めて原文のデータをコーディングシートに抽出し,概念の特徴を構成する「属性」,概念に先だって生じる「先行要件」,その概念に引き続き起ったことを示す「帰結」に関する記述内容を要約した.また,抽出内容の意味を損なわないようにコード化し,文脈の意図,さらに項目間の関係性やプロセス性を考慮しながら,内容の類似性や相違性に従ってサブカテゴリー,カテゴリーへと抽象化した.カテゴリー化の過程では信頼性と妥当性を確保するため,質的研究・概念分析に精通した看護学研究者の監督を求めた.
分析の結果,意味づけは4つの属性,6つの先行要件,3つの帰結で構成された.以下に,カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを[ ],内容を〈 〉で示す.
1. 属性属性は,【自己との対峙】を通して【考え方の変容】や【新たな自己の発見】により自分自身に【新たな解釈】を与えるプロセスであることが導き出された(表1).
カテゴリー | サブカテゴリー | 内容 | 文献 |
---|---|---|---|
自己との対峙 | 苦難に向き合う覚悟 | 治療と精一杯向き合うことを決意 | 淺野ら(2019) |
生きることを諦めない意思 | 田中・藤田(2015) | ||
喪失に対する積極的な対処 | Pritchard & Buckle(2018) | ||
自己の存在意義の再考 | 苦悩する自己の存在意義 | 益子・住吉(2021) | |
根拠づける自分という存在 | 江口(2012),Hakkim & Deb(2022) | ||
再考する自分の生き方 | 安藤ら(2020) | ||
自分にしかできないこと | 首藤・辻内(2021),三橋・藤田(2012) | ||
困難を受け入れ乗り越えること | 大変な状況を頑張らずに楽しむこと | 日高(2021) | |
困難を自分なりに切り抜けること | 安達(2022) | ||
産痛を呼吸法で乗り切ること | 小野ら(2022) | ||
自己の課題を乗り越え未来を見据えること | 治療の効果を期待して前を向くこと | 淺野ら(2019) | |
困難と折り合うこと | Hakkim & Deb(2022) | ||
自分にとって大切な人生に向けて取り組む | Kelmendi et al.(2020) | ||
考え方の変容 | 受け止め方の変換 | 体験に対する捉え方の切替 | 長田・相澤(2021) |
前向きな捉え方の変換 | Fauk et al.(2021) | ||
自分にとって必要な時間だったと理解 | 岸・佐々木(2022) | ||
与えられている試練だと理解 | 江口(2012) | ||
運命だったと理解 | 安藤ら(2020) | ||
人生に対する意味の再考 | 死を意識して今の生き方を思案 | 首藤・辻内(2021) | |
留学の意義の再考 | 北出(2018) | ||
(家族との)残された時間の大切さを認識 | 三橋・藤田(2012) | ||
自己を捉え直すこと | 自己への前向きな見方 | 首藤・辻内(2021) | |
自分の母性やアイデンティティの再考 | Sturrock & Louw(2013) | ||
生きることが最優先であることを認識 | 淺野ら(2019) | ||
新たな自己の発見 | 新たな知の獲得 | 経験知として受容 | Fauk et al.(2021) |
新たに知る学校の大切さ | 伊藤(2015) | ||
産痛をコントロールできる感覚 | 小野ら(2022) | ||
自己の新たな変化を実感 | 出産体験によって変化した自分の思いを認識 | 飯嶋ら(2021) | |
人の気持ちや痛みを理解できるようになった実感 | 伊藤(2015) | ||
ショックを前向きな姿勢へ転換 | 安田(2017) | ||
辛い体験を乗り越えた自信 | 藤井(2014) | ||
新たな自己理解 | 自分にとって大切なものを認識 | 安藤ら(2020),益子・住吉(2021) | |
自分自身に対する新たな理解 | 北出(2018),片桐ら(2022) | ||
やりがいへの気づき | 梅沢(2022) | ||
新たな解釈 | 家族との絆を再認識 | 夫婦の絆の深まりを認識 | 飯嶋ら(2021) |
家族の大切さやありがたさを認識 | 伊藤(2015),淺野ら(2019) | ||
(家族との)情緒的つながりを認識 | 江口(2012) | ||
あらためて抱く周囲への感謝 | 周囲の支えに対する感謝の念 | 飯嶋ら(2021) | |
現状への感謝の念 | 安田(2017) | ||
支えてくれる人のありがたさの実感 | 日高(2022) | ||
出来事の肯定的な解釈 | 価値のあるベストな選択 | 飯嶋ら(2021) | |
大変な出来事を前向きに認識 | 江口(2012),益子・住吉(2021) | ||
経験を肯定的に認識 | 日高(2022),水井・下平(2022),片桐ら(2022) | ||
自分にとって必要なことだと認識 | 淺野ら(2019),小林・福崎(2021) | ||
未解決な過去に対する肯定的な意味の付与 | 藤井(2014),Pritchard & Buckle(2018) | ||
人生において大事なことだと認識 | 日高(2021),Fauk et al.(2021) | ||
ストレスの意義について再考 | Romney et al.(2021) | ||
喪失の理由の発見 | Sturrock & Louw(2013) | ||
等身大の自己役割の認識 | 稲江・宮戸(2019) | ||
不登校だからこそ得た人間関係 | 岸・佐々木(2022),伊藤(2015) | ||
夫とお産を一緒に頑張れたと実感 | 小野ら(2022) | ||
乗り越えた自分への評価 | 飯嶋ら(2021) | ||
ありのままの自己を受容 | 不登校経験の受容 | 岸・佐々木(2022) | |
病気になった自分を受容 | 関谷ら(2022),田中・藤田(2015),Fauk et al.(2021) |
【自己との対峙】とは,個人が困難な出来事や内面的な課題に直面し,それに立ち向かう様相を表しており,意味づけに至るプロセスの開始点となる.これには,がんやその治療,パートナーの自殺などの[苦難に向き合う覚悟](淺野ら,2019;田中・藤田,2015;Pritchard & Buckle, 2018),個人が自己について深く掘り下げ,新たな視点から評価し直す過程を示す[自己の存在意義の再考](益子・住吉,2021;江口,2012;Hakkim & Deb, 2022;安藤ら,2020;首藤・辻内,2021;三橋・藤田,2012),直面する困難をどのように克服し,乗り越えるかを探求する過程を表す[困難を受け入れ乗り越えること](日高,2021;安達,2022;小野ら,2022),現在の困難や課題を乗り越え,未来へ向かって積極的に進む態度を表す[自己の課題を乗り越え未来を見据えること](淺野ら,2019;Hakkim & Deb, 2022;Kelmendi et al., 2020)が含まれた.
2) 考え方の変容【考え方の変容】とは,自分自身や出来事に対する認識や解釈を変えることを指し,自己認識を深めて再評価し,新しい視点から受け止め直すプロセスである.これにより,状況に対する認識や解釈を積極的に変化させる過程を表す[受け止め方の変換](長田・相澤,2021;Fauk et al., 2021;岸・佐々木,2022;江口,2012;安藤ら,2020)や[人生に対する意味の再考](首藤・辻内,2021;北出,2018;三橋・藤田,2012)を通して,[自己を捉え直すこと](首藤・辻内,2021;Sturrock & Louw, 2013;淺野ら,2019)が示された.
3) 新たな自己の発見【新たな自己の発見】とは,新しい知識や洞察を通じて自己の変化を促進して深い自己理解に至るプロセスである.学習や体験を通じて[新たな知の獲得](Fauk et al., 2021;伊藤,2015;小野ら,2022)がなされ,[自己の新たな変化を実感](飯嶋ら,2021;伊藤,2015;安田,2017;藤井,2014)することで,[新たな自己理解](安藤ら,2020;益子・住吉,2021;北出,2018;片桐ら,2022;梅沢,2022)に至っていた.
4) 新たな解釈【新たな解釈】とは,以前の理解や認識とは異なる新しい解釈や意味を与えるプロセスである.家族や友人関係を見つめ直し,[家族との絆を再認識](飯嶋ら,2021;伊藤,2015;淺野ら,2019;江口,2012)し,[あらためて抱く周囲への感謝](飯嶋ら,2021;安田,2017;日高,2022)を得ることで,その重要性や価値を再認識することが示された.また,遭遇する出来事を肯定的に解釈し直すことを示す[出来事の肯定的な解釈](飯嶋ら,2021;江口,2012;益子・住吉,2021;日高,2022;水井・下平,2022;片桐ら,2022;淺野ら,2019;小林・福崎,2021;藤井,2014;Pritchard & Buckle, 2018;日高,2021;Fauk et al., 2021;Romney et al., 2021;Sturrock & Louw, 2013;稲江・宮戸,2019;岸・佐々木,2022;伊藤,2015;小野ら,2022)を経て,[ありのままの自己を受容](岸・佐々木,2022;関谷ら,2022;田中・藤田,2015;Fauk et al., 2021)することに至っていた.
2. 先行要件先行要件では,【命が脅かされる体験】,【命の尊さを感じる体験】,【生殖と向き合う体験】,【心理・社会的ストレス体験】が意味づけへのプロセスを開始する契機となる体験を指すことが明らかとなった.これらの体験は,意味づけへのプロセスに先立って生じるものの,直接的に意味づけを生み出すわけではない.意味づけへのプロセスを進めるためには,【意味づけへの過程を支える要素】および【意味づけへの過程を促進する要素】が重要な役割を果たすことが示された(表2).
カテゴリー | サブカテゴリー | 内容 | 文献 |
---|---|---|---|
命が脅かされる体験 | 自身の病気体験 | HIV陽性 | 首藤・辻内(2021),Fauk et al.(2021) |
上部消化管がんの診断 | 淺野ら(2019) | ||
がん | 日高(2021),田中・藤田(2015) | ||
白血病 | 日高(2022) | ||
小児がん | 益子・住吉(2021) | ||
視覚障害 | 安達(2022) | ||
肺がん | 関谷ら(2022) | ||
病気の治療経験 | 治療 | 首藤・辻内(2021) | |
術後補助療法 | 淺野ら(2019) | ||
手術療法 | 淺野ら(2019) | ||
術後内服・化学療法 | 益子・住吉(2021),関谷ら(2022),田中・藤田(2015) | ||
災害 | 災害,震災 | Hakkim & Deb(2022),稲江・宮戸(2019) | |
戦争体験 | 戦争体験 | Kelmendi et al.(2020) | |
命の尊さを感じる体験 | 重要他者の喪失体験 | 新生児死亡(喪失体験) | Sturrock & Louw(2013) |
パートナーの自殺 | Pritchard & Buckle(2018) | ||
死を身近に感じる体験 | 喪失(家族を失うこと)への恐怖 | 江口(2012) | |
スピリチュアルペイン | 安藤ら(2020) | ||
死への不安 | 日高(2021) | ||
不安や恐怖 | Kelmendi et al.(2020) | ||
アイデンティティや安心感の喪失 | Kelmendi et al.(2020) | ||
家族の命の危機を感じる体験 | 終末期がん患者の看病 | 三橋・藤田(2012) | |
家族の救急搬送 | 江口(2012) | ||
生殖と向き合う体験 | 出産体験 | 産痛 | 小野ら(2022) |
出産(帝王切開) | 飯嶋ら(2021) | ||
分娩体験 | 小野ら(2022),水井・下平(2022) | ||
不妊体験 | 不妊治療 | 藤井(2014),安田(2017) | |
不妊経験 | 安田(2017) | ||
心理・社会的ストレス体験 | 心身の苦痛を伴う体験 | (生殖補助医療における)自尊心の傷つき | 藤井(2014) |
自閉症スペクトラム障害児をもつ夫婦が体験するストレス | Romney et al.(2021) | ||
(不妊である自分が受ける)精神的なショック | 安田(2017) | ||
自尊感情の傷つき体験 | 益子・住吉(2021) | ||
配偶者の心のダメージ | 稲江・宮戸(2019) | ||
(不妊治療に伴う)辛い体験 | 藤井(2014) | ||
(いじめにまつわる)辛い体験 | 長田・相澤(2021) | ||
先の見えない不安 | 見通しが立たない未来 | 小林・福崎(2021) | |
不確かな状況による不安 | 江口(2012) | ||
先の見えない不確かさ | 関谷ら(2022) | ||
不登校経験 | 不登校 | 小林・福崎(2021),岸・佐々木(2022) | |
挫折体験 | 伊藤(2015) | ||
いじめ体験 | 安達(2022),長田・相澤(2021) | ||
環境変化 | 留学経験 | 北出(2018) | |
環境の変化 | 小林・福崎(2021) | ||
仕事のストレス | 煩雑化する多様な業務 | 梅沢(2022) | |
学業におけるストレス | 看護学実習 | 片桐ら(2022) | |
学習課題 | 片桐ら(2022) | ||
意味づけへの過程を支える要素 | 支えとなる信仰心 | 宗教的な意味の付与 | Hakkim & Deb(2022) |
神への信仰と祈り | Kelmendi et al.(2020) | ||
支えとなる存在 | キーパーソンとの出会い | 小林・福崎(2021) | |
補い合える他者の存在 | 首藤・辻内(2021) | ||
自分に最も近い人物の存在 | Sturrock & Louw(2013) | ||
生きる喜びへ引っ張る母親の存在 | 益子・住吉(2021) | ||
ソーシャルサポート | 長田・相澤(2021) | ||
意味づけへの過程を促進する要素 | 困難な状況への取り組み | 不確かさを減らすためのコーピング | 淺野ら(2019) |
セルフケア行動 | 三橋・藤田(2012) | ||
体験の振り返り | 帝王切開による出産体験の回想 | 飯嶋ら(2021) | |
体験の想起 | 藤井(2014) | ||
辛い体験を他者に話すこと | 長田・相澤(2021) |
【命が脅かされる体験】は,[自身の病気体験](首藤・辻内,2021;Fauk et al., 2021;淺野ら,2019;日高,2021;田中・藤田,2015;日高,2022;益子・住吉,2021;安達,2022;関谷ら,2022),[病気の治療経験](首藤・辻内,2021;淺野ら,2019;益子・住吉,2021;関谷ら,2022;田中・藤田,2015),[災害](Hakkim & Deb, 2022;稲江・宮戸,2019),[戦争体験](Kelmendi et al., 2020)から構成され,個人や家族の生命,そして身体の安全が脅かされるような状況や出来事を示している.
【命の尊さを感じる体験】は,[重要他者の喪失体験](Sturrock & Louw, 2013;Pritchard & Buckle, 2018),[死を身近に感じる体験](江口,2012;安藤ら,2020;日高,2021;Kelmendi et al., 2020),[家族の命の危機を感じる体験](三橋・藤田,2012;江口,2012)から構成され,〈パートナーの自殺〉など一瞬にして消える命の脆さや,〈終末期がん患者の看病〉において生命の価値を深く実感させられる出来事を示している.
【生殖と向き合う体験】は,[不妊体験](藤井,2014;安田,2017)と[出産体験](小野ら,2022;飯嶋ら,2021;水井・下平,2022)から構成され,〈不妊治療〉や〈出産(帝王切開)〉など,生殖に関連する様々な側面に向き合う出来事を示している.
【心理・社会的ストレス体験】は,[心身の苦痛を伴う体験](藤井,2014;Romney et al., 2021;安田,2017;益子・住吉,2021;稲江・宮戸,2019;長田・相澤,2021),[先の見えない不安](小林・福崎,2021;江口,2012;関谷ら,2022),[不登校経験](小林・福崎,2021;岸・佐々木,2022;伊藤,2015;安達,2022;長田・相澤,2021),[環境変化](北出,2018;小林・福崎,2021),[仕事のストレス](梅沢,2022),[学業におけるストレス](片桐ら,2022)から構成され,〈いじめにまつわる辛い体験〉や〈不登校〉,〈不確かな状況による不安〉などの心理・社会的な要因に起因する出来事や,〈留学経験〉,〈煩雑化する多様な業務〉,〈看護学実習〉などのストレスフルな出来事を示している.
【意味づけへの過程を促進する要素】は,〈不確かさを減らすためのコーピング〉や〈セルフケア行動〉を積極的に行う[困難な状況への取り組み](淺野ら,2019;三橋・藤田,2012)と〈辛い体験を他者に話すこと〉や〈帝王切開による出産体験の回想〉から成る[体験の振り返り](飯嶋ら,2021;長田・相澤,2021)から構成され,困難な状況に積極的に取り組んで克服する力を得ることで意味づけへと向かう過程に寄与していた.さらに体験を振り返ることは,意味づけへ向かう過程を促進する手段となっていることが示された.
【意味づけへの過程を支える要素】は,[支えとなる信仰心](Hakkim & Deb, 2022;Kelmendi et al., 2020)と[支えとなる存在](小林・福崎,2021;首藤・辻内,2021;Sturrock & Louw, 2013;益子・住吉,2021)から構成された.信仰心は,人生の困難や挑戦を乗り越えるための内的な指針となり,持続的な精神的サポートとなっていた.さらに,家族,友人,恩師,社会などの重要なサポート役の存在が,困難な状況に対処し意味づけへ向かう過程を支える力となっていることが示された.
3. 帰結帰結は概念に後続し,【自己成長】や【自己肯定感の向上】を経て【新たな自己への適応】が得られた(表3).
カテゴリー | サブカテゴリー | 内容 | 文献 |
---|---|---|---|
自己成長 | 成長への自己変革 | 現在と過去の受容 | 藤井(2014),伊藤(2015) |
自身の成長や肯定的変化の知覚 | 小林・福崎(2021),安田(2017) | ||
プラスになった | 日高(2021) | ||
人としての成長 | 片桐ら(2022),長田・相澤(2021),Kelmendi et al.(2020) | ||
アイデンティティ変容 | 小林・福崎(2021),Pritchard & Buckle(2018),安達(2022) | ||
考え方や生き方の変化 | 安田(2017) | ||
他者理解の深化 | 家族の変化(病気)に伴う日常生活への順応 | 三橋・藤田(2012) | |
(経験を通し)他者へ広がる視野 | 安田(2017) | ||
多様性の受容 | 岸・佐々木(2022) | ||
深まる他者支援 | 水井・下平(2022) | ||
他者への深まる理解 | 安藤ら(2020) | ||
自信の獲得 | 自信につながる体験 | 岸・佐々木(2022) | |
どんなことも乗り越えていける自信 | 益子・住吉(2021) | ||
自己肯定感の向上 | 肯定的感情への変化 | 出産体験を肯定的な出来事として認識 | 小野ら(2022) |
厳しい状況を肯定的に認識 | 田中・藤田(2015) | ||
現在の自分への肯定的な認識への変化 | 伊藤(2015) | ||
ポジティブな体験との認識の変化 | 岸・佐々木(2022) | ||
気持ちの充足 | 晴れ晴れとした気持ち | 飯嶋ら(2021) | |
感謝の気持ち | 関谷ら(2022) | ||
幸福を感じる能力が高まる | 益子・住吉(2021) | ||
新たな自己への適応 | 新たな生き方の獲得 | 治療継続に必要な目的・目標の設定につながる | 淺野ら(2019) |
自己の健康管理を見直す | 三橋・藤田(2012) | ||
ストレッサーの意味の再評価 | 小林・福崎(2021) | ||
自らの経験を活かして誰かの助けとなること | 関谷ら(2022) | ||
病いと共に生きる方法の獲得 | 首藤・辻内(2021) | ||
前進への新たな一歩 | 新しい生き方の実現 | 日高(2021) | |
能動的に治療へ参加 | 田中・藤田(2015) | ||
希望に繋がる | 関谷ら(2022) | ||
自由と独立 | Kelmendi et al.(2020) | ||
新たな家族の構築に向けての準備 | 江口(2012) | ||
未来を志向し行動に移す力,行動力 | 日高(2022) | ||
未来へ生きる | Fauk et al.(2021) | ||
立ち直ること | レジリエンス(回復力) | Kelmendi et al.(2020),日高(2022),Hakkim & Deb(2022) | |
回復する | Sturrock & Louw(2013) | ||
喪失へ適応する | Pritchard & Buckle(2018),稲江・宮戸(2019) | ||
浮き沈みを経験したことが私たちを強くした | Romney et al.(2021) |
【自己成長】は,自己意識の変化や精神的な成長を表し,〈アイデンティティ変容〉や〈考え方や生き方の変化〉などを通して[成長への自己変革](藤井,2014;伊藤,2015;小林・福崎,2021;安田,2017;日高,2021;片桐ら,2022;長田・相澤,2021;Kelmendi et al., 2020;Pritchard & Buckle, 2018;安達,2022)や[他者理解の深化](三橋・藤田,2012;安田,2017;岸・佐々木,2022;水井・下平,2022;安藤ら,2020)が生じ,[自信の獲得](岸・佐々木,2022;益子・住吉,2021)につながっていた.
【自己肯定感の向上】は,肯定的な評価がより良い状態に変化し高まることを表し,[肯定的感情への変化](小野ら,2022;田中・藤田,2015;伊藤,2015;岸・佐々木,2022)と[気持ちの充足](飯嶋ら,2021;関谷ら,2022;益子・住吉,2021)で構成された.
【新たな自己への適応】は,[新たな生き方の獲得](淺野ら,2019;三橋・藤田,2012;小林・福崎,2021;首藤・辻内,2021)から[前進への新たな一歩](日高,2021;田中・藤田,2015;関谷ら,2022;Kelmendi et al., 2020;江口,2012)を踏み出し[立ち直ること](Kelmendi et al., 2020;日高,2022;Hakkim & Deb, 2022;Sturrock & Louw, 2013;Pritchard & Buckle, 2018;稲江・宮戸,2019;Romney et al., 2021;Fauk et al., 2021)で,新たな自己に適応することが示された.
4. 概念図と定義意味づけの概念図を図1に示す.意味づけとは,【命が脅かされる体験】,【命の尊さを感じる体験】,【生殖と向き合う体験】,【心理・社会的ストレス体験】といった先行要件となる出来事を起点とし,これらが直接的に意味づけを生むのではなく,【意味づけへの過程を支える要素】や【意味づけへの過程を促進する要素】を経て進展し,【自己との対峙】を通じて【考え方の変容】や【新たな自己の発見】を経験し,それによって自分自身に【新たな解釈】を与える.この一連の流れは,自己の内面的変容を示すプロセスである.その結果,【自己成長】や【自己肯定感の向上】が促されるだけでなく,[立ち直ること]や[新たな生き方の獲得],[前進への新たな一歩]を踏み出し,【新たな自己への適応】へとつながることが見いだされ,内面的変化を含む動的な変化へと発展することが明らかとなった.
以上のことから,意味づけを「直面する状況において自己と対峙する中で,考え方の変容や新たな自己を発見し,自分自身を再解釈するプロセス」と定義した.
意味づけの概念分析の結果を踏まえた上で,3つの特徴について考察する.
1つ目として,意味づけは,【自己との対峙】を通して,【考え方の変容】や【新たな自己の発見】により自分自身に【新たな解釈】を与えるプロセスであり,個人が直面する出来事や状況自体を変えることはできないが,その状況が持つ意味を変化させる解釈の仕方に特徴があると考える.これは出来事への対処法として捉えることができ,Lazarus & Folkman(1984/1991)による認知的再評価型コーピングと類似している.このアプローチは認知の見直しを通じて新しい適応策を模索する戦略であり,ストレス反応の軽減が期待できる.さらに個人の心理的調整や回復が促されるとの報告もある.しかし,乳がん治療後の女性を対象にして意味づけプロセスのパターンを時間経過とともに記述した研究Kernan & Lepore(2009)では,この対処法がうまくいかない場合,慢性的なストレス反応が持続し,心理的・身体的に悪影響を及ぼす可能性があることが指摘されている.この視点からも,意味づけは個人が直面する困難を乗り越える際の認知的アプローチとして,その人の精神的健康やウェルビーイングに直接的な影響を与える役割を果たすことが推察でき,これまでの研究が支持された(George & Park, 2013;Updegraff et al., 2008).
2つ目は,意味づけに至る過程において,個人が直面する困難を乗り越える上で,その過程を支え,意味づけを促進する要素が必要であることが特徴として挙げられる.これは,先行要件である【命が脅かされる体験】などの厳しい体験が意味づけへと直接つながるわけではなく,家族,友人,社会的サポートなど[支えとなる存在]や[困難な状況への取り組み]などの【意味づけへの過程を支える要素】と【意味づけへの過程を促進する要素】が体験の意味づけには必要であることを意味する.上田・雄西(2011)は,乳がん再発患者を対象にした研究において,有効なサポート機能を持たない家族関係は心理的適応を妨げていたと報告している.また,Roberts et al.(2006)はソーシャルサポートが体験への認知的対処を支援し,精神機能を改善する可能性があると述べている.よって,これらの要素は個人が自身の体験を解釈し,意味を見出す上で欠かせない支援といえる.つまり,意味づけは個人の内面的探求だけでなく,社会的・環境的要素との相互作用の中で展開するプロセスであるといえる.
3つ目は,帰結において意味づけのアウトカムに相当する内容が示されたことである.意味づけを行った結果,【自己成長】や【自己肯定感の向上】が促され,[立ち直ること]や[新たな生き方の獲得],[前進への新たな一歩]を踏み出し,【新たな自己への適応】へとつながることが明らかとなった.堀田・杉江(2013a)は,調節を通した意味づけは,成長,感謝,自己高揚感,自他連帯感といったポジティブな変容を導くことや,ストレスフルな体験後の社会適応を高める可能性を示唆している.この調節はJoseph & Linley(2005)により提唱された理論に基づき,堀田・杉江(2013b)によって「その体験を理解・解釈するために意識的,意図的に行う認知や感情的処理,自身の物事の見方や考え方を修正していくこと」と定義されている.このように意味づけは,人としての成長や適応に導く重要な役割を果たしていることが支持された.
2. 心理的ケアに適用することの可能性本研究では,意味づけが直面する困難を乗り越えるための重要な認知的アプローチであり,精神的健康やウェルビーイングに直接的な影響を与えることが示唆された.このことから,意味づけを心理的ケアに適用する可能性が見出されたと考える.Travelbee(1971/1974)は看護を「病気や困難な体験を予防し,あるいは,それに立ち向かうように,そして必要なときにはいつでもそれらの体験の中に意味を見つけ出せるように,個人や家族,あるいは地域社会を援助することである」と定義している.また,意味を見出す支援の重要性を強調しつつ,専門職としての看護において避けて通れない課題であるとも述べている.しかし,意味づけを具体的に心理的ケアにどのように適用するかについては,これまで明確な方法が提示されていない.これは意味づけの概念が曖昧であったことが一因といえる.看護者がまず対象者の体験における意味づけとは何かを理解することが,心理的ケアにおける適切な支援の出発点となる.
さらに,意味づけの過程を支援および促進する要素から,具体的な支援方法を検討することが可能である.先行要件である【意味づけへの過程を促進する要素】は個人が自身の体験を解釈し,意味を見出す上で欠かせないことが本研究において示された.ここで,[体験の振り返り]が心理的ケアにおける具体的な支援方法として挙げられる.やまだ(2010)は,物語を語り直すことで過去の出来事が再構成される可能性とその意義を指摘している.自分の言葉で体験を語ることは,過去の出来事が新たな視点で捉え直され,有意義な心理的ケアとなり得る.
[体験の振り返り]を行うにあたり,看護者は積極的傾聴の技術を用いることが求められる(Rogers, 1942/1967).これは,相手の言葉に含まれるニュアンスを感じ取り,主観や価値観を押し付けずに,話し手の本心や思考を引き出し,注意深く熱心に聴くことである.鷲田(2008)によれば,聴き手の反応が自分自身に関する見方を変える鏡となり,同じ苦しみの中にあっても苦しみの意味づけが変わるチャンスを与えてくれると述べている.
以上により,看護者が積極的傾聴を通じて対象者の体験を振り返る支援を行うことは,対象者が体験に新たな意味を見いだすプロセスを促進するだけでなく,看護者自身がその意味づけを深く理解する手段にもなり得る.よって,意味づけは心理的ケアに適用可能であり,看護者が対象者の体験を通じて困難の中に意味を見いだす支援を提供する重要な方法となると考えられる.
本研究において対象者の体験における意味づけの帰結には,マイナス要素は含まれていなかった.Joseph & Linley(2005)は認知感情処理の結果としての負の適応の可能性についても言及している.今後は,ストレスフルな出来事を体験した後の負の意味づけについても検討する必要があると考える.また,特定の期間内で発表された文献に基づいており,より長期にわたる研究や他の分野における意味づけの概念が十分に網羅されていない可能性があるため,本概念の検討を重ねる必要がある.
さらに,先行要件を基に,がん患者や不妊治療を経験している方などに対象者を限定し,対象が今現在,体験をどのように意味づけているのかを理解するため,客観的な根拠資料として本研究で抽出された属性を考慮したアセスメントツールや尺度の開発が課題である.
本研究では,意味づけを「直面する状況において自己と対峙する中で,考え方の変容や新たな自己を発見し,自分自身を再解釈するプロセス」と定義した.本概念は,意味づけが個人の直面する困難を乗り越える際の認知的アプローチとして,人としての成長や適応を促す重要な役割を持つことを支持した.また,意味づけの過程を支え促進する要素が,個人が自身の体験を解釈し,意味を見出す上で不可欠な役割を果たすことが明らかとなった.体験を振り返ることが,意味づけの過程を支援すると同時に,看護者が対象の意味づけの程度を理解する手段となり得ることも示唆された.さらに,意味づけの概念を心理的ケアに適用する可能性が示唆された.
謝辞:本研究の分析過程において貴重なご助言をいただきました獨協医科大学の上田理恵准教授,西岡啓子准教授,群馬大学の恩幣宏美准教授に心より感謝いたします.本研究は,科学研究費助成事業の基盤研究Cの助成を受けて行った研究の一部である(課題番号21K10923).
利益相反:本研究における利益相反は存在しない
著者資格:AHは研究の着想・デザイン・データ収集・分析・解釈,原稿の作成に貢献;TYは研究の着想デザインへの助言,原稿への示唆および研究全体への助言に貢献.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.