2025 年 45 巻 p. 490-502
目的:妊娠期に胎児の生命を脅かす病態に直面した親を対象とした「支援者向け:『子どもとの過ごしかた』意思決定支援ガイド試作版(以下,試作版)」を開発・評価する.
方法:収斂デザインによる混合研究法.支援者と母親(妊娠期に胎児異常を診断された,または/および,周産期喪失の体験者)を対象に,自記式質問票を用いて受容性(内容の理解しやすさ,長さや情報量,適切性)とユーザビリティを評価し,試作版の強みと課題を特定した.
結果:参加者23名(支援者18名,母親5名)から回答を得た.量的・質的結果の双方が試作版の適切性を支持していた.一方,ページ数や情報量の多さに加え,質的結果から支援者は【視覚的な魅力の向上】や【効率よく理解する工夫】を求めており,【標準化された手順で対応することの難しさ】への懸念が示された.
結論:試作版の強みとして適切性が確認され,臨床実装における課題が明確になった.
Aim: To develop and evaluate a decision guide prototype for guiding healthcare professionals in supporting parents faced with life-limiting or life-threatening fetal conditions on how to spend time with their baby.
Methods: A convergent mixed-methods design was used. The participants included supporters (such as doctors, nurses, midwives, and clinical psychologists), and mothers, particularly those who had faced fetal anomalies or had experienced perinatal loss. Self-administered questionnaires were used to evaluate the acceptability (e.g., comprehensibility of the components of the prototype, its length and amount of information, overall suitability for the decision-making) and usability of the decision guide prototype and identify its strengths and limitations.
Results: A total of 23 participants (18 healthcare professionals, 5 mothers) were included in this study. Both quantitative and qualitative results supported the overall suitability for the decision-making. On the other hand, it was found that supporters wanted an enhanced decision guide prototype not only in terms of the number of pages and the amount of information, but also in terms of “visual improvements” and “ways to efficiently convey information” from qualitative results. Furthermore, supporters had concerns regarding the “difficulty in standardizing support”.
Conclusion: The overall suitability of the prototype was supported as a strength, and challenges for clinical implementation were clarified.
周産期に緩和ケアを導入することは,子どもや親,家族だけでなく医療者にとっても多大な利益をもたらすという認識が広まりつつある(British Association of Perinatal Medicine, 2024).米国産婦人科学会(American College of Obstetricians and Gynecologists, 2019)は,周産期緩和ケア(Perinatal Palliative Care,以下,PnPC)を「早期乳児期に生命が限られた(life-limiting)可能性がある新生児の生活の質と快適さを最大にすることに重点を置いた,産科および新生児ケアの選択肢を含む包括的なケア戦略」と定義している.
PnPCの要素として,ホリスティックな家族支援,親としての力を引き出すための支援,集中治療と緩和ケアを並行して進めるパラレル・プランニング,症状管理,そして喪失と死別ケアが提唱されている(Wilkinson et al., 2024).これらを具現化するための重要なツールとして,バース・プラン(Birth Plans: BPs)の役割が注目されている.
BPsは,出産の過程や出産後の継続的ケアに役立つ情報など,支援者にとって重要な情報が幅広く含まれる文書である(Cortezzo et al., 2020).PnPCの文脈において,BPsは「分娩に関する希望を医療者に伝える」という従来の概念を超え,出産前から産後,そして新生児のケアも対象とし,アドバンス・ケア・プランニングと同義で使用されている(Cortezzo et al., 2020;Kobler & Limbo, 2011).また,BPsは単なる文書や一回の会話を示すのではなく,親と医療者の間で継続的に進められる「プロセス」として位置付けられる(千葉,2022;Tatterton & Fisher, 2023).
国内において,PnPCは未発達な領域である.過去5年間,新生児死亡は1歳未満の死亡の45%以上を占め(厚生労働省,2024),流産・死産を加えると,子どもの死は周産期に集中している.さらに,死因の多くは先天奇形・変形及び染色体異常であり(厚生労働省,2024),出生前診断によって「生命が限られた病態,あるいは生命を脅かす(life-threatening)病態(以下,生命を脅かす病態)」として,妊娠期に診断されることが増えている.このような状況により,医療者は妊娠期から子どもに関する意思決定に関与する機会が増え,親と家族の意思決定支援は周産期医療の重要な課題となっている.
そこで研究者らは,PnPCにおいてアドバンス・ケア・プランニングと同義で用いられているように,BPsを「出産から産後にわたる母体および胎児・新生児に関するケアの意向を明らかにし,それらをケアに反映させる継続的なプロセス」として再定義した.これに基づき,親の「子どもとの過ごしかた」に関する意思決定,すなわち,親役割や子育ての意思(希望,ニーズや価値観等)を明らかにするプロセスを支援するために,医療者に向けた「『子どもとの過ごしかた』の意思決定支援ガイド試作版」を開発するに至った.
本研究の目的は,妊娠期に胎児の生命を脅かす病態に直面した親を対象とした「支援者向け『子どもとの過ごしかた』の意思決定支援ガイド試作版(以下,試作版)」を開発・評価し,混合研究法を用いて,受容性(Acceptability)とユーザビリティ(Usability)の観点から試作版の強みと課題を明らかにすることである.
(1)親
妊娠期に胎児の生命を脅かす病態,すなわち,子宮内胎児死亡や早期新生児死亡の可能性が高く,緩和ケアの提供が考慮されるような子どもの状況を妊娠期に診断された母親と父親.
(2)意思
親が自律性を持ち,他の誰の意見でもなく,真に望んでいること.これには,「希望(hope)」,「意向(preferences)」,「要望(desires)」,「期待(expectations)」,「考え(views)」,「価値(values)」,「願い(wishes)」,「目標(goals)」等,希望とその類似概念も含む.
(3)BPs
出産から産後にわたる母体および胎児・新生児に関するケアの意向を明らかにし,それらをケアに反映させる継続的なプロセス.PnPCにおけるアドバンス・ケア・プランニングと同義とする.
(4)受容性
各々の状況において,試作版それ自体に対し,適切,満足,または魅力的であると判断すること.具体的には,試作版の内容の理解しやすさ,長さ,情報量,適切性(目的や対象,文脈に照らし合わせて適切であるか)に関する評価を指す.
(5)ユーザビリティ
支援者が各々の状況において試作版を活用して,効果,効率,および,満足を伴って意思決定支援を実施できると認識する度合いを指す.
収斂デザインを用いた混合研究法.このデザインでは,量的データと質的データを同時に収集し,別々に分析したのち,最終的にデータの比較や補完,統合が行われる(Creswell, 2015).このデザインにより,より深く包括的に研究課題を理解できると考えた.
2. 研究期間2021年7月~2023年12月.
3. 試作版の開発試作版は,患者ディシジョン・エイドの国際開発基準(Coulter et al., 2013)を参考に,①スコーピング(試作版が担う意思決定の範囲,目標,対象の特定),②試作版の設計(構成と配布方法の検討),③試作版の作成(専門家と体験者による妥当性の確認),の段階を経て開発した(付録1).
1) スコーピングまず,Ottawa Decision Support Framework(Stacey et al., 2020)を参考に,周産期緩和ケアの概念を取り入れ,試作版の枠組みを作成した(付録2).
次に,親の意思決定に焦点を当てた2つのレビュー(Allen, 2014;Blakeley et al., 2019)で採用された53文献のうち,重複を除き,周産期(胎児および新生児)とNICUに入院している乳児の親の意思決定を対象とした45論文を精査し,意思決定の場面・内容,子どもの疾患や状態,意思決定の要因,を抽出し,親の意思決定を概観した.これらにより,試作版が担う意思決定支援の範囲,目的,対象を明確にした(表1).
| 項目 | 説明 |
|---|---|
| 意思決定支援の範囲 | 妊娠期に胎児の生命を脅かす病態を診断されるという状況. ※「妊娠期に胎児の生命を脅かす病態を診断されるという状況」とは,子宮内胎児死亡や早期新生児死亡の可能性が高く,緩和ケアの提供が考慮されるような以下の状況を示す. ①出生前に長期生存が望めない状態であると診断された場合. (例:両側腎無形性や無脳症など) ②重大な罹患または死亡のリスクが高い状態と出生前に診断された場合. (例:染色体異常,手術困難な先天性心疾患,羊水過少を伴う下部尿路閉鎖など) ③成育限界週数で分娩予定の子どもであり,集中治療が困難と判断された場合. (例:22週の早産,22週未満の分娩) |
| 検討すべき決定 | 親の「子どもとの過ごしかた」 ※妊娠期に胎児の生命を脅かす病態を診断されるという状況に置かれた親の「親役割や子育て」に関する意思決定(ニーズや価値観,意向)を指す. |
| 目的 | 親が意思決定に関与(engage)することを促進し,親のニーズや価値観,意向に沿ったケアを支援者が実践するための一助となること |
| 使用する人 | ハイリスク妊娠や分娩に携わる医師,看護師・助産師,心理士,ソーシャルワーカー,チャプレンなど. 親が真の思いを伝えることができるか,あるいは相談しやすいか等,支援者との関係性は意思決定プロセスに影響を与える可能性が高い.したがって,支援者であれば,職種は問わない. |
| 意思決定を支援される人 | 妊娠期に胎児の生命を脅かす病態を診断されるという状況に置かれた親. |
| 使用する場 | 妊娠期に胎児の生命を脅かす状態を診断された親の妊娠・出産の管理の場である総合周産期母子医療センター,または地域周産期母子医療センター. |
スコーピングにおいて明確になった意思決定のニーズに沿い,以下を試作版の主軸とした.
①「子どもとの過ごしかた」を考えることは,親にとって苦痛を伴う可能性があることを念頭に置き,決定することだけをゴールに置かず,意思決定のプロセスを重視する.
②価値焦点思考(Keeney, 1996)の意思決定とし,選択肢の比較に重点を置かない.
③支援が具体的にイメージできるよう,意思決定支援の流れとポイントを具体的に記述する.
④同じような状況に在る他者の経験を掲載する.
(2) 試作版の構成(付録3)試作版は,以下の2部構成とした.
第一部は,①「意思決定支援のプロセス(意思決定の環境と3つの段階)」の概要,②「意思決定支援のプロセス」を活用した支援の流れ,③「意思決定の環境と3つの段階(意思形成・意思表明・意思実現)」と支援のポイント,について文章とフローチャートで示した.意思決定支援の流れは,認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定ガイドライン(厚生労働省,2018)と,胎児異常を診断された母親を対象にした支援プログラム(千葉,2022)を参考にした.
第2部は,「子どもとの過ごしかた」に関するアイデア集とした.原案の作成過程において,妊娠期に子どもの異常を診断された,または/および,周産期喪失(流産,死産,新生児死亡等)の体験者から写真の提供を受け,具体的なイメージ化を図った.
試作版全体にわたり,具体的な支援のポイントや支援において発生しうる状況について,コラム形式で示した.これらの作成には,米国の周産期緩和ケアのガイドブック(Denny-Kolesch & Côté-Arsenault, 2020)や,国内の先行研究(Chiba et al., 2022, 2023;北園,2016;北園ら,2018)を参考にした.
(3) 提供方法場所を問わずに手元資料として閲覧できること,多職種で話し合う際に供覧することを考慮し,初版はB5判,24ページ,全カラーの紙媒体を選択した(付録4).
3) 専門家と体験者による妥当性の確認試作版の原案は,妊娠期に子どもの異常を診断された,または/および,周産期喪失の体験者の母親5名と,今回参考にした意思決定支援の枠組み(厚生労働省,2018)を開発した法学者,胎児診断を専門とする産科医,小児緩和ケアを含む緩和ケアの専門家(医師2名,看護師1名),計5名の専門家を対象に,表面妥当性と内容妥当性の確認を依頼した.得られた意見をもとに修正を加え,試作版の完成とした.
4. 研究対象者 1) 支援者周産期医療に携わった経験が5年以上ある医師,助産師・看護師,心理士,ソーシャルワーカー,チャプレン等で,以下①~③のうちいずれかを満たす方.なお,親の支援者であれば,職種は問わなかった.
①総合周産期母子医療センター,または地域周産期母子医療センターにおいて周産期医療に従事した経験がある方.
②妊娠期に胎児の生命を脅かす病態を診断された親に関わったことのある方.
③周産期領域の研究者.
2) 母親妊娠期に胎児の異常を診断された,または/および,周産期喪失の体験者.
5. リクルートリクルートは機縁法で行った.支援者は,親に対するケア経験や知識が豊富な専門家で,研究への協力が得られる対象者に研究協力を依頼した.母親については,当事者支援団体の代表者にゲートキーパーを依頼し,研究参加可能な対象者をご紹介いただいた.
サンプルサイズは,Nielsen & Landauer(1993)を参考に,ユーザビリティの問題を検出するために必要なサンプル数を20名と見積り,20%の脱落を見込んで25名とした.
6. データ収集参加希望者は,郵送された試作版をよく読み,郵送法またはWebフォームのどちらか都合のよい方法で自記式質問に回答した.本研究のダイアグラムを図1に示す.

O’Connor & Cranney(2002)の受容性のUser Manualを参考に,支援者,母親それぞれに選択式の質問項目の調査票を作成し,回答を依頼した.
支援者へは,試作版のページ数の長さ(「長すぎる」から「短すぎる」の5件法),情報量(「多すぎる」から「少なすぎる」の5件法),言葉の表現は理解しやすいか(「とてもそう思う」から「全くそう思わない」の4件法),他の人に進めたいか,実際の支援に役立つか,チームでの支援に役立つか(「とてもそう思う」から「全くそう思わない」の4件法),各章の役立ち度(「非常に役立つ」から「全く役立たない」の5件法),満足度(「悪い」,「普通」,「良い」,「とても良い」,「非常に優れている」の5段階の形容詞評価),について回答を求めた.
母親へは,試作版を読んで嫌な気持ちになることはなかったか(「あった」,「なかった」の2件法),試作版は当事者の気持ちに沿っていると思うか,試作版を支援者に使ってもらいたいか(「とてもそう思う」から「全くそう思わない」の4件法)で回答を求めた.また,それぞれの項目について回答理由を尋ねた.
(2) ユーザビリティ支援者を対象に,System Usability Scale(SUS)(Brooke, 1996)翻訳版と,試作版を読むのに費やした時間への回答を求めた.
System Usability Scale(SUS)
SUSは,製品やサービスのユーザビリティを簡便に評価する1因子構造,10項目,5段階のリッカート尺度である.肯定的項目と否定的項目で構成されている.総得点は「全く同意しない」を1,「非常に同意する」を5とし,肯定的項目は回答得点から1を,否定的項目は5から回答得点を減じた値を10項目分合算して2.5を乗じる(Brooke, 1996).得点範囲は0~100点,ユーザビリティが平均的である場合の基準値は,総得点は68点,各項目の5段階評価の基準は各項目で異なり,肯定的項目は≧3.58~3.72,否定的項目は≦1.85~2.44である(Lewis & Sauro, 2018).SUSは多くの研究で使用されており,高い信頼性が示されている(Lewis & Sauro, 2018).本研究におけるCronbachのα係数は0.80であった.
SUSの日本語版は,研究者らが作成した翻訳版を用いた.翻訳版の作成にあたり,原作者に許可を得たのち,WHO翻訳ガイドライン(WHO, 2009)に従い,前方一致翻訳(英語から日本語)と日本語から英語へのバックトランスレーションを行い,3名の助産師にプレテストを行った.なお,本研究は実際に使用する前の評価であることから,原文の時制では評価しにくい1項目について,原文作成者に許可を得て修正したものを用いた.
2) 質的データ試作版に対する意見(良かった点,加筆や修正点)や感想について,自由記述で回答を求めた.
3) デモグラフィックデータ支援者からは,所属施設の種別,年齢,職種,経験年数を収集した.
母親からは,年齢,周産期喪失からの年月,周産期喪失のタイプ(流産,死産,新生児死亡,乳児死亡の別)を収集した.
7. 分析方法量的データは,SPSS ver. 27を用い,基本統計量を算出した.
質的データは,Graneheim & Lundman(2004)の帰納的内容分析の手順に従ってオープンコード化し,サブカテゴリーとカテゴリーを抽出した後,演繹的に受容性とユーザビリティに分類した.
量的データと質的データをそれぞれ分析した後,試作版を肯定的に評価している内容を「強み」,改善が必要であると回答した内容を「課題」として分類し,結果を視覚的に示すためのジョイント・ディスプレイを作成した.ジョイント・ディスプレイは,混合研究法において,質的結果と量的結果を並べて表示するために,様々な構造を用いた視覚的表現である(Fetters, 2020).本研究では,質的データと量的データを統合し,臨床実装に向けた強みと改善すべき点を双方から補完して解釈するためにこの手法を用いた.
8. 倫理的配慮研究の趣旨,研究協力は自由意思であること,協力しない場合も不利益を被ることはないこと,研究への協力の中止はいつでもできるが,匿名化のため回答を送信または郵送後の研究への参加中止はできないこと,データの厳重管理と破棄について,研究参加の説明文書に明記した.参加者の中には,周産期喪失や胎児異常と診断された経験を持つ母親が含まれることから,倫理的配慮には細心の注意を払った.本研究は,武庫川女子大学・同短期大学研究倫理審査委員会[承認番号:23-50]の承認を得て実施した.
26名(支援者21名,母親5名)に協力を依頼し,23名(支援者18名,母親5名)が調査に回答した(回答率88%).
N = 23
| n(%)/中央値(四分位範囲) | |||
|---|---|---|---|
| 1.支援者(n = 18) | |||
| 所属施設 | |||
| 医療機関 | 13(72) | ||
| 教育・研究機関 | 4(22) | ||
| 医療機関/教育・研究機関 | 1(6) | ||
| 年齢 | |||
| 30代 | 1(6) | ||
| 40代 | 12(67) | ||
| 50代 | 4(22) | ||
| 60代 | 1(6) | ||
| 職種 | |||
| 看護師・助産師・保健師 | 8(44) | ||
| 産科医師 | 4(22) | ||
| 小児科・新生児科医師 | 4(22) | ||
| 公認・臨床心理士 | 2(11) | ||
| 経験年数(年) | |||
| 18.7(範囲7~39) | (14~25) | ||
| 2.母親(n = 5) | |||
| 年齢 | |||
| 40歳未満 | 3(60) | ||
| 40歳以上 | 2(40) | ||
| 喪失からの期間(年) | |||
| 5(範囲3~26) | (3~5) | ||
| 周産期喪失のタイプ | |||
| 流産 | 2(40) | ||
| 新生児死亡 | 3(60) | ||
支援者は13名(72%)が医療機関に所属しており,40代が12名(67%)と最も多かった.職種は,医師8名,看護職(看護師・助産師・保健師)8名,公認/認定心理士2名で,職歴は中央値18.7年(IQR:14~25)であった.
母親の年齢は20代から50代で,周産期喪失のタイプは流産2名,新生児死亡3名,周産期喪失からの期間は中央値5年(IQR:3~5,範囲3~26)であった.
2. 試作版の評価試作版の受容性とユーザビリティをそれぞれジョイント・ディスプレイ(図2,図3)で示す.文中の【 】はカテゴリー,《 》はサブカテゴリーを示す.生データの( )内には,支援者は職種と経験年数,母親は周産期喪失の種類と喪失からの期間を記載した.


支援者のほとんどが,「言葉の表現は理解しやすいか」に対し「とてもそう思う」5名(28%),「まあまあそう思う」10名(56%),試作版の各章は,「非常に役に立つ」,「いくらか役に立つ」と回答した.すべての支援者が,試作版は親と家族を支援する上で,自分自身や医療チームにとって有用であると回答した.また,試作版の全体的な満足度は,「非常に優れている」,「とても良い」,「良い」は合わせて15名(83%),「普通」3名(17%)で,「悪い」と回答したものはいなかった.
加えて,母親全員が「医療者に試作版を使ってほしいか」,「試作版は女性・家族の気持ちに沿っているか」という問いに,「とてもそう思う」あるいは「そう思う」と回答した.「試作版を読んで嫌な気持ちになることがあったか」については,4名(80%)の母親が「なかった」と回答し,1名(20%)が「あった」と回答した.
一方,支援者の約半数が,ページ数が「やや長すぎる」10名(56%),情報量が「やや多すぎる」9名(50%),「多すぎる」2名(11%),「やや少ない」1名(6%)と回答し,「ちょうどよい」と回答したものを上回った.
(2) 質的結果受容性を示すカテゴリーとして,【適切な内容】,【実践的かつ具体的】,【視覚的な魅力の向上】,および【「希望」という用語への懸念】が挙げられた.
①適切な内容
【適切な内容】には,《大切なポイント・支援で迷ったときの答えがある》,《意思決定支援ガイドのコンセプトが良い》,《意思決定支援の流れが系統的に示されている》,《個人の経験や能力に影響されず一貫したケアが提供できる》,《温かく心地よい》が挙げられた.
ある医師は,親への支援の実践を後押しするものとして,試作版には《大切なポイント・支援で迷ったときの答えがある》と評価していた.
「現場でいつもこれで良いのだろうかと少し確信が持てないままご家族と対応している者として,色々なポイントとなる言葉がちりばめられていて,これを一度読んだだけでも少し自信をもって対応できると思います.」(小児科・新生児科医師,16年)
母親からは《温かく心地良い》が挙げられた.
「悲しみの中にあっても,温かくリラックスした気持ちにさせてくれます.」(流産,5年)
②実践的かつ具体的
【実践的かつ具体的】では,《「子どもとの過ごしかた」のアイデア集が役立つ》,《具体的で実践しやすい》が挙げられた.特に,「『子どもとの過ごしかた』についてのアイデア集」は,写真を使用したことによって支援のイメージ化を助け,臨床実装に役立つという意見につながっていた.
また,アイデア集は患者と共に使用できると回答した参加者もいた.ある母親はアイデア集を患者と共に使用することで,「自分にもできることがあるのだ,(私は)一人ではないのだ」と感じさせる助けになると評価した.
③視覚的な魅力の向上
【視覚的な魅力の向上】は,試作版の《文字が読みにくい》,《色使いを明るくする》,《図のデザインを試作版の内容と合わせる》の3つが挙げられた.
「老眼のスタッフには,少し字が小さいかもしれないと思いました.」(助産師,20年)
「ピンクの文字は読みづらい」(助産師,18年)
④「希望」という用語への懸念
「試作版を読んで不快に感じることがあったか」,について1名の母親が「あった」と回答した.その理由として,【「希望 」という用語への懸念】が挙がっていた.
「なんらかの選択をした人たちにとって,望めない事態(つまり,健康に幸せに生存し続ける将来が期待できない)の可能性が高いだけに,この「希望」という言葉に,傷つくことがあるかもしれません.発言した支援者にたいして,引っ掛かり(ネガティブな感情)を持つ可能性があります.」(新生児死亡,26年)
(3) 量的・質的結果の統合①試作版の強み
参加者の多くが試作版の受容性を肯定的に評価した.特に,量的結果では,母親全員が試作版を「医療者に使って欲しい」と回答し,支援者のほとんどが,「自分自身やチームを支援に導く」,「他の人にも進めたい」と回答した.これらは,試作版の適切性を表しており,質的結果で得られたカテゴリーである【適切な内容】と一致していた.さらに,女性,支援者双方に【具体的かつ実践的】と評価されたことも,臨床実践における強みであるといえる.
②試作版の課題
量的結果から,試作版の情報量とページ数の長さに課題があることが特定された.一方,質的結果からは,【視覚的な魅力の向上】が課題として挙がった.このことから,受容性を高めるためには,情報量や長さに加え,文字の大きさ,色使い,図のデザインなど,支援者にとって視覚的に魅力的のある伝達方法を用いる必要性が明らかになった.
加えて,【「希望」という用語への懸念】が母親から聞かれ,「希望」という用語の使用をする際に,配慮が必要なことが明らかになった.
2) ユーザビリティ(図3) (1) 量的結果支援者が試作版を読むのに要した時間は22.5分(中央値)であった.
SUSの中央値は52.5点(四分位範囲49.38~72.5)であり,基準値の68点(Lewis & Sauro, 2018)を下回った.SUS各項目の5段階評価では,3項目が基準値を満たし,複雑性,使いやすさ,学習しやすさに関連した7項目が基準値を満たしていなかった.
(2) 質的結果ユーザビリティに関するカテゴリーとして,【効率よく理解するための工夫】,【標準化された手順で対応することの難しさ】が挙がった.
①効率よく理解するための工夫
【効率よく理解するための工夫】には,《具体例や事例があるとよい》,《親しみやすい用語を使用する》,《記述内容を簡潔・明瞭にする》,《説明会や研修会が必要である》が挙がった.使用者の立場から,効率よく試作版の内容を理解し実装につながるよう工夫が必要であるという声が寄せられた.
「スタッフは,時間がない中でポイントを押さえてみたいのではと思う.意思決定が必要なことは分かるが,なぜ必要なのかを先に記載すると,臨床のスタッフは読んでみようと思うかもしれない.」(看護教員,助産師としての臨床15年)
②標準化された手順で対応することの難しさ
【標準化された手順で対応することの難しさ】では,意思決定のプロセスは,臨床現場では必ずしも一方向に進まないことや,プロセスを行き来するような複雑な事例に遭遇することもあり,《単純化された手順では対応できないこともある》が挙げられた.
(3) 量的・質的結果の統合①試作版の強み
SUS各項目のうち,3項目が基準値を満たしていた.これらは試作版に対する適切性に共通した項目と考えられた.
②試作版の課題
SUS得点の中央値が基準値を下回っており,ユーザビリティに課題があることが示された.要因として,量的結果からは,読むのに時間を要することや,SUS各項目において複雑性や使いやすさ,学習しやすさに課題があることが示された.一方,質的結果からは【効率よく理解するための工夫】が必要であることが明らかになった.これらから,内容伝達方法を検討することでユーザリティの向上につながる可能性が示唆された.
質的結果から新たに特定された課題として,【標準化された手順で対応することの難しさ】が挙がった.
参加者の多くが試作版の適切性を高く支持していた.特に,質的結果が示す受容性の強みでは,試作版は【適切な内容】で,《大切なポイント・支援で迷ったときの答えがある》,《意思決定支援の流れが系統的に示されている》と評価されていた.つまり,試作版の存在は,所属施設や自らのケアを振り返る機会や,「自分たちのケアは間違ってなかった」と確認する場となっていたと考えられる.
PnPCの先進国である米国において,PnPCは「草の根の努力」として,患者のニーズに対する支援者個人の認識に基づいて実践されてきた(Denny-Kolesch & Côté-Arsenault, 2020).国内でも同様に,支援者はケアの実践に際し参考にする指針のない中,手探りでケアを実践していたことが伺われ,支援者向けツールの開発は支援者のニーズと合致していたと考えられる.
さらに,試作版は【実践的かつ具体的】であり,《「子どもとの過ごしかた」のアイデア集が役立つ》との意見が,母親と支援者の双方から挙がっていた.母親からは「アイデア集は患者と共に使用できる」という回答が得られ,支援される側と支援する側の共通のツールとして試作版を活用できる可能性が示唆された.
国内では,2004年に「重篤な疾患を持つ新生児と家族の医療スタッフの話し合いのガイドライン」が公表されている.このガイドラインは『意思決定をサポートする話し合い』を繰り返し行うためのガイドライン」であり,特定の疾患や状況は示されていない(福原,2016).また,理念や規範が中心で,具体的な手順は書かれておらず,抽象的で使いにくい点が指摘されている(福原,2015).
本試作版も同様,特定の疾患には言及してない.その一方で,妊娠期に胎児の生命を脅かす病態を診断されるという状況において,親の「子どもとの過ごしかた」という特定の意思決定課題に焦点を当てている.さらに,子どもと過ごす写真やBPsに表明された親の声を例示したことでケアの抽象度が下がり,具体的で実践的であるという評価に繋がったと推察される.
2. 試作版の課題試作版の臨床実装に向けて建設的な意見が多く出され,課題が明確になった.
第1に,質的結果からは【効率的に理解する工夫】や【視覚的な魅力の向上】が挙げられ,受容性とユーザビリティの両面に共通する課題として内容の伝達方法の改善が求められていることが明らかになった.
医療者向け資料の代表例として,診療ガイドラインがある.Kastner et al.(2015)のリアリストレビューによれば,診療ガイドラインの普及には「質の高い内容」と「効果的な内容伝達」の2つが重要である.質の高い内容とは,利害関係者の関与やエビデンスの統合,臨床的現場での実用性の考慮,および実装可能性への対処である.他方,効果的な内容伝達とは,診療ガイドラインのメッセージを簡潔かつ明瞭に伝えること,説得力のある言葉を用いること,臨床で使いやすい短縮版や患者向け資料を提供することなどである(Kastner et al., 2015).同様に,患者や一般市民向け資料においては,語句の選択や文体,レイアウト,デザイン,視覚教材など,「理解しやすさ」を構成する具体的な指標が提案されている(Furukawa et al., 2022;Shoemaker et al., 2014).これらの視点は,資料を効果的に活用するためには,内容の適切さに加え,その伝達方法に工夫が必要であるという本研究の結果と共通している.
第2に,ユーザビリティの課題として【標準化された手順で対応することへの難しさ】が挙がった.試作版では,意思決定支援の流れをフローチャートと文章で説明した結果,《意思決定支援の流れが系統的に示されている》と評価された.一方で,支援が一方向に進まない事例や複雑な状況には,活用が難しいという懸念が挙がった.
この懸念は,医療の質向上と均てん化を進める際の障壁と類似する.例えば,国内の診療ガイドラインのデータベース「Mindsガイドラインライブラリ」(2023)は,「診療ガイドラインは,医療者それぞれの臨床経験を否定するものではない」ことや,「掲載された内容は一般的な診療方法であり,必ずしも個々の患者の状況に当てはまらない」ことを明示している.したがって,試作版はマニュアルや手順としてではなく,参考資料の一つとして柔軟に活用できるよう,提示方法に更なる工夫が求められる.
最後に,母親から【「希望」という用語に対する懸念】が示された.
希望の概念は曖昧で,その定義は一様ではない(大橋ら,2003).さらに希望は個人の経験や価値観に深く依存する,極めて個別的かつ複雑な概念である(Guedes et al., 2021).したがって,「希望」という語の受け止め方には個人差が生じやすく,文脈を踏まえず用いることは親に混乱や不信感を招く恐れがある.このような懸念に対処するためには,医療者はそれぞれの親にとって「希望」が何を示すのかを丁寧に理解し,用語の使用に際しては慎重さと配慮が求められる.
3. 研究の限界と今後の課題本研究のリクルートは機縁法を用いた.そのため,医療従事者18名,体験者の母親5名と少数例での結果であり,父親は含まれていないことが限界である.
また,試作版が担う意思決定の特徴から,RCTのような科学的根拠の高い研究ではなく,当事者の声や支援者の経験に基づき作成した.今後は,支援者や父親を含む当事者から広く意見を集積し,試作版の内容をさらに洗練させ,臨床現場における活用を評価するβテスト(フィールドテスト)を実施することが課題である.
本研究は,妊娠期に胎児の生命を脅かす病態に直面した親の「子どもとの過ごしかた」に関する支援者向け意思決定支援ガイド試作版を開発し,受容性とユーザビリティを評価した.試作版の強みが明らかになった一方で,臨床実装に向けた課題が特定され,改善すべき点が明確になった.
付記:本論文の一部は,第64回および第65回日本母性衛生学会学術集会において発表した.
謝辞:本研究にご協力くださった参加者の皆様,意思決定支援ガイドの開発にお力添えくださいました皆様に,深く感謝申し上げます.本研究は,日本医療研究開発機構(AMED)の課題番号JP21gk0110054(研究代表者:有森直子),および,JSPS科研費JP24K20362(千葉真希)の助成を受けたものである.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:MCは研究の着想,研究デザイン,データ分析,草稿の作成を行った,SHはデータ分析,論文執筆への助言を行った.YKとKOはデータ分析,NAは研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み承認した.