日本看護科学会誌
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原著
新人看護師のキャリア・アダプタビリティ
川本 紀子前田 ひとみ松本 智晴
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2025 年 45 巻 p. 503-512

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Abstract

目的:新人看護師のキャリア・アダプタビリティを明らかにする.

方法:3年目看護師12名に半構造化面接を行い,質的記述的に分析した.

結果:分析の結果,【看護の力を感じ,将来のキャリアを考えた】【尊敬する先輩看護師がいた】【看護師・社会人として早く自立したいと思った】【看護師として責任を果たさなければならないと思った】【仕事を続けられるように気持ちをコントロールした】【患者との関係構築を大切にした】【仕事の要点をつかむことを意識した】【積極的,計画的に学ぶことを意識した】【自分の成長を自覚できた】【仕事ができないと思われたくなかった】【良い人間関係を築こうと意識した】【頼れる職場環境だと認識できた】が抽出された.

結論:新人看護師のキャリア・アダプタビリティには,キャリア構築理論の次元と同様の内容が示された.一方,既存概念にはない「安心感」が含まれることが明らかになった.

Translated Abstract

Aim: To outline career adaptability among novice nurses.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with 12 third-year nurses, whose responses were qualitatively and descriptively analyzed.

Results: The following themes were extracted from the data: “Felt the power of nursing and thought about my future career,” “Had a senior nurse whom I respected,” “Wanted to become independent as a nurse and as a member of society as soon as possible,” “Felt I had to fulfill my responsibilities as a nurse,” “Controlled my feelings to continue working,” “Valued building relationships with patients,” “Was conscious of grasping the key points of the work,” “Was conscious of learning actively and systematically,” “Was able to recognize my own growth,” “Did not want to be perceived as someone who could not do the job,” “Was conscious of building good human relationships,” and “Was able to recognize that the work environment was dependable.”

Conclusions: Career adaptability among novice nurses showed similarities with the concept of Career Construction Theory. By contrast, the responses highlighted a sense of security, which is not something that forms part of the existing theory.

Ⅰ. 緒言

学生から社会人・専門職に移行した新人看護師にとって,自らが置かれた社会的役割や生活環境が大きく変化するキャリア・トランジションの過程は非常にストレスを伴うものであり,新人看護師の約7割が離職を考えた経験があることが明らかになっている(大山ら,2018).新人看護師の特徴としては,業務実践力やサポートを得る能力の不足,対人関係調整能力の未熟さ,責任能力や感情コントロールに起因するストレスを抱えており(梅本ら,2023),専門職としての立場や役割に適応する過程で,身体的・心理的・社会文化的・知的といった多様な変化に直面することでトランジションショックを経験している(Duchscher, 2009).新人看護師のトランジションショックは,離職意向(Cao et al., 2021)や職業への適応(Duchscher & Windey, 2018)に関連しており,その先行因子としてキャリア・アダプタビリティ(Career Adaptability,以下CAと略す)が示されている(Wang et al., 2023).CAは「現在あるいは今後の職業的発達課題,職業上のトランジション,個人的トラウマなどに対処するためのレディネスおよびリソース」(Savickas, 2005)と定義されており,変化の激しい現代社会に適応して個人が望むキャリアを歩むために重要な概念である.

キャリア構築理論を提唱したSavickas(1997)は,Super D. E.のキャリア発達理論の枠組みを継承し,不確実性の高い状況においても個人が環境に適応し続けるための心理社会的資源としてCAの概念を発展させた.CAは多次元かつ階層的なモデルであり,4つの独立した次元(関心,コントロール,好奇心,自信)が相互に補完し合う統合的概念とされている(Savickas & Porfeli, 2012).CAの評価指標は,13か国を対象とした横断的研究によって大学生や社会人向けのCareer Adapt-Ability Scale(CAAS)が開発されており(Savickas & Porfeli, 2012),複数の研究が報告されている.社会人を対象とした研究では,CAが高い社員ほどキャリア満足度が高く,離職意思が低いことが示されている(Zhu et al., 2019Chan & Mai, 2015Guan et al., 2015).また,CAは主体的に業務に取り組む行動と正の相関(Cai et al., 2023),仕事のストレスと負の相関(Maggiori et al., 2013)があると報告されている.さらに,新人看護師を対象とした研究(Ma et al., 2024)では,支援的な職場環境はCAに影響を及ぼし,トランジションを促進することで職業継続意思や仕事への満足感を高めることが明らかとなっている.

一方,国内においては,社会人や大学生を対象にCAの評価指標が開発され,この尺度を用いた研究が進展している(渡辺・黒川,2002高木ら,2008益田,2008古田,2012北村,2021Lee et al., 2021塩川ら,2024).国内の大学生を対象とした研究(北村,2021)では,国際的なCAASとは異なるCAの因子構造が示されている.また,看護師のCAに関する研究は,一般企業の社会人を対象として開発された既存尺度(益田,2008)を用いて影響要因が検討されてはいるが(佐藤・中根,2019),看護師を対象に開発された尺度はなく,看護師におけるCAそのものの検討もなされていない.CAは環境との相互作用の中で発達し,特定の役割や文脈から大きな影響を受けるため(Savickas & Porfeli, 2012),文化的背景や看護師の職業的特殊性によってCAの構造は異なる可能性が考えられる.既存のCA尺度は,限られた対象者や社会的背景を基盤として作成されており,異なる対象に使用するためには評価指標の妥当性を慎重に検討する必要がある.そのため,学生から専門職へ移行した新人看護師がどのような心理社会的資源を備えているのかを検討したうえで,適用可能なCA尺度を用いる必要がある.

そこで本研究は,国内の新人看護師がどのようなCAを備えているかを明らかにすることを目的とした.新人看護師のCAを理解することで,個人の職業継続やキャリア発展を支援するためのCA育成に関する示唆を得ることができる.

Ⅱ. 用語の定義

本研究では,Savickas(2005)および塩川ら(2024)の定義に基づき,CAを「現在および将来的に予想されるキャリア開発のタスク,職業上の移行および仕事上のトラウマに対処するための個人の心理社会的資源」と定義した.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

質的記述的研究

2. 研究参加者

研究参加者は,200床以上の病床を有する3施設の総合病院に勤務し,看護基礎教育課程を卒業後,初めて就職し継続して勤務している3年目の看護師12名とした.3年目の看護師を対象とした理由は,技能習得モデルにおいて一人前とされる時期であり(Benner, 2001/2005),新人看護師時代の経験を鮮明に記憶していると考えられること,さらに,入職1年目の経験や当時の思いを客観的に振り返り,冷静に言語化することが可能であると想定されるためである.1・2年目の看護師については,リアリティショックを感じていることが指摘されており(鈴木・河津,2018齊藤ら,2024),心理的負担を考慮して対象から除外した.なお,過去の就業経験が研究結果に影響を及ぼす可能性があるため,入職前に社会人経験がないことを参加要件とした.

3. 研究参加者への依頼方法

研究参加者の選定は,1年目に仕事の継続が困難と感じるようなストレスや辛い経験をしながらも,それらを乗り越えて勤務している看護師を看護管理者に推薦してもらった.研究参加者に対しては,看護管理者を通じて,あるいは研究者が個別に電子メールで連絡することを文書にて依頼し,研究参加者の希望に基づいて調査日時や場所を調整した.

4. データ収集方法

インタビューガイドを用いた半構造化面接を行った.インタビューガイドの作成にあたっては,目的に沿ったデータが得られる質問内容であるかどうかを2名の研究者で検討し,質的研究の経験を有する5名の研究者にインタビューガイドに沿ったプレテストを行い,分かりやすい表現に修正した.質問内容は,「看護師を辞めたいと感じるような予想外の辛い経験をしても継続できた理由やその時の思い」,「看護師として適応するために重要と思っていたこと」,「キャリアの目標やそれを実現するために意識していたこと」とした.研究参加者が自身の経験を想起しやすいよう,インタビューガイドを事前に提示した.調査は2024年2月~3月に実施した.

5. データ分析

インタビューデータから逐語録を作成してテキストデータとし,質的記述的に分析した.職業への適応や継続の原動力となった思いや意識に関する語りを抽出し,意味内容が変化しないように要約してコード化した.意味内容の類似性に基づいて分類を行い,サブカテゴリおよびカテゴリを作成した.これらの分析過程においては,看護研究の経験者や看護教育分野に精通する研究者,同分野に所属する大学院生など10名と共に解釈の妥当性を確認し,内容の厳密性を確保した.また,研究参加者7名よりメンバーチェッキングを受けることで分析の真実性の確保に努めた.

6. 倫理的配慮

本研究は,熊本大学大学院人を対象とする生命科学・医学系研究疫学・一般部門倫理委員会の承認を得て実施した(倫理第2898号).調査が業務や生活に支障をきたさないように日程を調整し,インタビューはプライバシーが守られる研究協力施設内の個室で実施した.研究参加者には,研究の趣旨,方法,利益と不利益,参加は自由意思であること,インタビュー途中での中断や中止,調査後の同意撤回が可能であること,個人情報の保護および得られたデータが参加者を特定できないように分析し,研究以外の目的で使用しないこと,研究成果の公表,データ保管および研究終了後の破棄方法について書面を用いて説明した.その上で,同意書への署名をもって研究参加の同意を得た.インタビューの際は,研究参加者の許可を得た上で,ICレコーダーで録音を行った.

Ⅳ. 結果

1. 研究参加者の概要

研究参加者は23~25歳の女性12名で,卒業した看護基礎教育課程は専門学校6名,高校専攻科5名,看護系大学1名であった.研究協力施設は,A県内の看護配置基準7対1の3病院であり,各施設よりそれぞれ4名が参加した.所属部署は内科系病棟6名,外科系病棟4名,集中治療室1名,手術室1名であった.面接時間は29~46分(平均39.2分)であった.

2. 新人看護師のCAの構成要素

研究参加者の語りから220コード,56サブカテゴリ,12カテゴリが抽出された(表1).分析結果について,以下に代表的な語りを挙げて述べる.なお,本稿ではカテゴリを【 】,サブカテゴリを〈 〉で示した.また,インタビューで研究参加者から語られた代表的な内容を「斜体」で示し,語りの最後に参加者IDを記した.研究者による意味の補足は( )内に記し,中略は…とした.

表1 新人看護師のキャリア・アダプタビリティ

カテゴリ サブカテゴリ 発言者
看護の力を感じ,将来のキャリアを考えた 看護のすごさを感じていた
看護の専門性を追求したいと思うきっかけがあった
今の学びと経験を次のキャリアに活かしたいと考えていた
活躍の場が多様な看護師に魅力を感じていた
看護師の能力を活かして活動の場を広げたいと思っていた
働きながらキャリアの目標を見つけたいと思っていた
D
E
C
J
J
B L
尊敬する先輩看護師がいた 尊敬する先輩がいた
先輩のすごさを感じていた
F K
F
看護師・社会人として早く自立したいと思った 逃げずに努力して早く一人前の看護師として自立したいと思っていた
仕事ができない自分に焦っていた
周囲に迷惑をかけたくないと思っていた
学生気分から抜け出し,社会人として自立しないといけないと思っていた
D F H
A
A D I
A B K
看護師として責任を果たさなければならないと思った 看護師として責任を果たさなければならないと思っていた
仕事を休まないように心身の健康管理を心がけていた
D E G I J L
A G H I
仕事を続けられるように気持ちをコントロールした 辞めない期間,一人前になるための期間(3年など)を目標に頑張っていた
今辞めると頑張ってきたことが無駄になり自分が困ると思っていた
仕事を休まずやるしかないと思うようにしていた
辛い時,気持ちをポジティブに切り替えるようにしていた
仕事を覚えられる時期に休むのはもったいないと思っていた
学校と現場のギャップをそういうものだと受け入れていた
今は辛い時期と思うようにしていた
楽しみをモチベーションにして仕事をしていた
ストレス解消法を見つけて実践することを意識していた
仕事と休日を切り分けて考えるようにしていた
B E G I J
B G I
E F G H J
C F G J L
G
A D
J H
C D I J
C D E G I J
G L
患者との関係構築を大切にした 患者とのコミュニケーションや関係づくりを大切にしていた
患者に寄り添い,信頼される存在になりたいと思っていた
患者には笑顔で明るく対応することが大事と思っていた
焦っている自分を見せずに,患者に対応できるよう意識していた
A E H K L
H K L
B J
B
仕事の要点をつかむことを意識した 先輩をみて学び,真似していた
仕事の優先順位やスピードを考えたスケジュール管理を意識していた
役割を理解して冷静に対応できるように意識していた
仕事を覚えるための工夫(自作マニュアル作成など)をしていた
B F J
A F H K
I K
C
積極的,計画的に学ぶことを意識した 役に立つ重要な知識を予測して勉強するようにしていた
自分から経験を積むことを意識していた
計画的に課題に取り組むようにしていた
仕事の振り返りをして納得したうえで理解を深めるようにしていた
わからないことは積極的に聞くようにしていた
F L
A C D G H I K L
A F I
A B D H L
A B D E F H
自分の成長を自覚できた 学生時代に習得したことを仕事に活かしていた
認められることで成長を自覚できた
少しづつ目標を達成していくことを意識していた
褒められることで得意な看護技術を自覚できた
看護師に向いていると思うことがあった
D F
C D F G H
B H J
B C F
C F
仕事ができないと思われたくなかった 基礎的知識や技術の不足を自覚していた
同じ失敗や指摘を繰り返し受けないように気をつけていた
ミスをしたくない,怒られたくない,注意されたくないと思っていた
仕事ができないと思われることが嫌だと思っていた
師長や先輩からの評価を意識していた
失敗しないためにわからないことを減らしたいと思っていた
G
E I
C E F I J
K
J
E
良い人間関係を築こうと意識した 場の雰囲気を読んで柔軟に対応できることが大事と思っていた
職場で良い人間関係を築くために気を遣っていた
先輩の役に立ちたいと思っていた
医師や他のスタッフとのコミュニケーションのタイミングをつかむことを意識していた
J
L J
F
E G L
頼れる職場環境だと認識できた 頼れる周囲の環境に安心感があった
周囲の支えのおかげで勉強や仕事ができていた
同期はお互いに刺激を受けながら支え合える存在だと思っていた
辞めたいと思った時,周囲が守ってくれていた
A E G J K
A B C F G H I K
B C D E F G H I J
G

【看護の力を感じ,将来のキャリアを考えた】は7コード,6サブカテゴリで構成された.〈看護のすごさを感じていた〉では,「入院時の状態が不安定な時から退院までっていう(患者さんの)回復をみると,看護してるなっていうふうに.すごい,看護の力って.」(D)と,患者との関わりを通じた看護の職業的魅力が表現された.また,「ストーマに対して興味を持ったのが1年目の時で…一人の患者さん,その方との関わりで自分も勉強したいなと思って.」(E)と,患者との出会いから〈看護の専門性を追求したいと思うきっかけがあった〉経験が語られた.将来のキャリアについては,「訪問(看護師)になったら,(対象者が)悪くならないように,生活できるようにサポートできたらいいなと思って.今の経験が活かせられたらなと.」(C)と,〈今の学びと経験を次のキャリアに活かしたいと考えていた〉ことが語られた.また,「学生の頃は学生指導に携わることが選択肢のひとつと思っていたけど,働きはじめて(先輩の)指導(を見て),大変だなと思って.」(B)と,先輩の仕事ぶりを見て〈働きながらキャリアの目標を見つけたいと思っていた〉ことが語られた.

【尊敬する先輩看護師がいた】は4コード,2サブカテゴリで構成された.目標を持って仕事ができていた理由として「先輩とか見てて,何でもできて,対応できて,かっこいいなっていう,あこがれ.」(K)と,〈尊敬する先輩がいた〉ことが語られた.また,「新人だと…電話で聞いても答えずにそのまま電話を聞いたりとかで,なんで先輩たちってあんなに喋れるんだろうと.」(F)と,医師との会話や対応を見て〈先輩のすごさを感じていた〉ことが語られた.

【看護師・社会人として早く自立したいと思った】は18コード,4サブカテゴリで構成された.自立への思いについて「2年生になるのになんでこんなにできないんだ,のほうが多分強かったんじゃないかと思います.後輩も入ってくるのに,みたいな感じですかね.」(A)と,〈仕事ができない自分に焦っていた〉ことや,「看護師1人分としての働きができていないと,周りに迷惑をかけてしまったり,フォローさせてしまうというところにも申しわけなさを感じて.」(D)と〈周囲に迷惑をかけたくないと思っていた〉ことが語られた.また,「学生の時は先生頼りで,上に誰か居て従うっていうのだったんですけど,仕事したら自分で判断して動いていかなきゃいけない.」(K)と,〈学生気分から抜け出し,社会人として自立しないといけないと思っていた〉ことが語られた.

【看護師として責任を果たさなければならないと思った】は10コード,2サブカテゴリで構成された.「実習で来てたんですけど,それと違った責任性とか求められるなっていう,重荷,重圧が.」(J)と,〈看護師として責任を果たさなければならないと思っていた〉ことが語られた.また,「やっぱり健康管理ですかね.管理できてなくて,泣きながら先輩にわーって言ったこともありました.」(G)といった〈仕事を休まないように心身の健康管理を心がけていた〉経験が語られた.

【仕事を続けられるように気持ちをコントロールした】は45コード,10サブカテゴリで構成された.仕事を継続しなければならないという思いについて「今辞めたら次どこで(仕事)する,ここでもうちょっと,十分成長しないと次(の職場に)行っても何もできないよね,みたいな.」(B)や,「今の状態で(仕事を)辞めて,また病院で働きたいと思った時に自分が困ると思って.」(I)のように,〈今辞めると頑張ってきたことが無駄になり自分が困ると思っていた〉ことが語られた.また,「休憩とか行ってる間に,巻き返すぞっていうか,後半は上手くやるぞみたいな気持ちに変えられて,なんとか立ち直った感じ.」(F)や,「あと1時間しかないって思うんですけど,1時間でできること結構あるな,と思いながら.」(J)と,〈辛い時,気持ちをポジティブに切り替えるようにしていた〉という意識が語られた.そして,仕事の継続目標について「どんなにきつくてもとりあえず(仕事に)行こう,行ったらどうにかなるっていうので行き続けました.」(G)という〈仕事を休まずやるしかないと思うようにしていた〉経験や,「3年は働かないと一人前になれないみたいな…結構それが自分の中ではしっくりしていて.学生の時から言われるじゃないですか.」(G)と,〈辞めない期間,一人前になるための期間(3年など)を目標に頑張っていた〉ことが語られた.〈ストレス解消法を見つけて実践することを意識していた〉こととしては,「(仕事のことは)引きずりたくないなって思うんですけど,紙に書いて自分こういうふうに思っているんだって,客観的にわかるので….」(J)と,自分なりのストレス対処の実践が語られた.

【患者との関係構築を大切にした】は13コード,4サブカテゴリで構成された.患者との関わりについて「(最初は)時間をかけて患者さんと関わることができてなかった…業務してる感じ.(患者との)時間を作ることを目標にやっていました.」(K)といった〈患者とのコミュニケーションや関係づくりを大切にしていた〉ことや,「看護師として一人前じゃないですけど,ちゃんと患者さんに関われるように頑張りたいなということを就職した時から決めてた.」(H)といった〈患者に寄り添い,信頼される存在になりたいと思っていた〉ことが語られた.また,「(自分が)すごい緊張してるのはわかるけど,焦ってると一回落ち着かないと.やっぱり患者さんと話すときは一旦落ち着いてってなる.」(B)と,〈焦っている自分を見せずに,患者に対応できるよう意識していた〉経験が語られた.

【仕事の要点をつかむことを意識した】は14コード,4サブカテゴリで構成された.仕事の要点をつかむための努力として「(先輩から)補足で指導いただいたことを書いて,こうやって動くみたいなのを作ってました.マニュアルだけじゃやっぱりプラスアルファの,…これこうした方がいいよとかっていうのも,できるようになりたくて.」(C)と,〈仕事を覚えるための工夫(自作マニュアル作成など)をしていた〉経験が語られた.また,「先輩とか見てて,ここ上手くやり過ごしてるなとか,こういうこともいいんだと思って学びました.」(J)と〈先輩をみて学び,真似していた〉経験が語られた.〈役割を理解して冷静に対応できるように意識していた〉では,「何か急変があったらリーダー層が全員行くので,外回りをしっかりやろうと.こういうリスクがあるから気をつけようというのも共有して.」(K)と,自分の立場を意識していたことが表現された.

【積極的,計画的に学ぶことを意識した】は28コード,5サブカテゴリで構成された.積極的な姿勢として,「1年生のうちは自分たちが一番下っていう気持ちだったんですけど,後半くらいからはもう先輩になるからって…処置とか業務とかを率先してやったりとか,聞いたりとかも割としてた.」(A)や,「ちゃんと学びたいですよって姿勢を(先輩に)見てもらうことが大事かな.学びたい,頑張ろうと思ってるほうが先輩も教えてくれることが多くなる.」(D)と〈自分から経験を積むことを意識していた〉ことが語られた.また,「他の病棟に行っても,(心電図は)何言われてもわかるから使えるっていうか,一番(勉強)やってていいのかなと.」(F)と,今後のキャリアを考慮して〈役に立つ重要な知識を予測して勉強するようにしていた〉ことが語られた.

【自分の成長を自覚できた】は18コード,5サブカテゴリで構成された.先輩からの肯定的なフィードバックの経験として「成長したねって褒められたり,気が利くね,いいじゃん,みたいな感じで言われて,こうしたらいいんだって思い始めた.」(C)と,〈認められることで成長を自覚できた〉ことが語られた.また,「早出とか外回りの業務の時は,結構もう次,何しようって考えてさっさと終わらせられて,ここは看護師に向いてたのかなって思いました.」(F)と,仕事ができている自分を認識して〈看護師に向いていると思うことがあった〉経験が語られた.

【仕事ができないと思われたくなかった】は14コード,6サブカテゴリで構成された.周囲からのネガティブな評価への思いについて「これできない人なんだって思われるのも嫌だったし,後輩ができて自分ができないのも嫌だったし,いろいろプライドみたいなこともあって….」(K)と,〈仕事ができないと思われることが嫌だと思っていた〉ことが語られた.また,「もっと,前は怒る先輩だったんだよとか聞いたら,すごい怒られる手前だから,今のうちに改善しようと.」(F)というように,〈ミスをしたくない,怒られたくない,注意されたくないと思っていた〉ことが表現された.〈師長や先輩からの評価を意識していた〉では,「評価されるじゃないですか,人事評価とか.この人はこうだ,みたいな捉えられ方.こうあるから仕事を任せられないとか.」(J)と語られた.

【良い人間関係を築こうと意識した】は13コード,4サブカテゴリで構成された.職場でのコミュニケーションについて「些細なプライベートのことでも,仕事以外にもなるべく会話は大事にしてました.(同僚が)どういう人か分からないので,とりあえず一緒に仕事していく中でちょっとずつコミュニケーションをとって,この人はこういう人なんだ,とか.」(L)と,〈職場で良い人間関係を築くために気を遣っていた〉ことが語られた.また,「先生(医師)に指示受けないといけないけど今いいかな,みたいな気遣い.先輩が先生に,今指示受け良いですかって聞いてくれて,そのタイミングで私が行って.」(G)というように,〈医師や他のスタッフとのコミュニケーションのタイミングをつかむことを意識していた〉ことが語られた.

【頼れる職場環境だと認識できた】は36コード,4サブカテゴリで構成された.先輩や同期との関係について「(先輩から)大丈夫?とか,終わりそうかな?っていう(声かけで),何かあったら頼れるなっていう存在がいるっていうのが安心につながって.大丈夫じゃないですって言って,そこをこれからやろうねとか,これはするよっていうのでチームで分担して.」(K)と,〈頼れる周囲の環境に安心感があった〉という経験が語られた.また,「エルダーさんと評価してるのがあって,社会人に必要な力ですね.社会に出る上で基礎的なことなので,教えていただけるっていうのはありがたいことだと思います.」(I)と,〈周囲の支えのおかげで勉強や仕事ができていた〉ことが語られた.〈同期はお互いに刺激を受けながら支え合える存在だと思っていた〉では,「先に同期が(技術チェックの)合格をもらってたら,私まだもらってないからやらなきゃ,みたいな焦りは時々あって.そういうのを二人で声かけして頑張りました.」(F)という経験が語られた.

Ⅴ. 考察

本研究で抽出された新人看護師のCAの12カテゴリには,多次元・階層的な理論的構造を持つCAの各次元(関心,コントロール,好奇心,自信)と共通する内容が含まれる一方で,新人看護師特有の経験や課題に基づく新たな内容も含まれていることが明らかになった.本研究では,CAの4つの次元と比較しながら考察を行う.

まず,【看護の力を感じ,将来のキャリアを考えた】【尊敬する先輩看護師がいた】では,仕事の経験や先輩の姿から職業的魅力を感じ,看護師としての将来のキャリアに関心を持っていたことが示された.これは,キャリア構築理論におけるCAの「関心」,すなわち,将来に向けた準備に対して向き合い,関わっている程度(北村,2019)と同じ意味を持つ要素であると考えられる.しかしながら,本研究においてこれら2つのカテゴリに関連した明確なキャリアプランについての語りは少なかった.その要因として,看護師経験1年から5年未満の約6割は職業上の目標がなく,5年程度の臨床経験を通じて自身の適性を見出していく(野口,2021)ためと考えられた.したがって,新人看護師は将来への関心を持ちつつも,自身の適性を見極める段階にあると推察される.若年就業者においては,職場のキャリア支援施策が活用されるほど離職意思は低減し,職場定着の指標である情緒的コミットメントが上昇することが明らかとなっている(三沢ら,2024).そのため,具体的な目標設定や行動計画に迷う傾向がある初期キャリアの段階は,将来のキャリアへの関心を高め,方向付けるための支援が重要であると考えられた.

次に,【看護師・社会人として早く自立したいと思った】【看護師として責任を果たさなければならないと思った】【仕事を続けられるように気持ちをコントロールした】では,仕事における責任を自覚し,自己の未熟さや緊張を受け止めながら,自身に適したストレス対処を行うといった自立に向けたセルフコントロールが示された.新人看護師は前向きな思考を持ち,ストレス解消の機会を得ることで,ワークライフバランスの満足度を高め,リアリティショックを乗り越えて職場に適応していくことが明らかになっている(齊藤ら,2024).さらに,困難や失敗に直面しても前向きに物事を捉えることができる人は,仕事の満足度が高いことも示されている(Luthans et al., 2007).このことから,看護師・社会人としての自立心や責任感に基づくセルフコントロールは,新人看護師が仕事と生活の両方に充実感を持ちながら,望むキャリアを形成するために不可欠な要素であると考えられる.セルフコントロールは,キャリアを構築する責任を自覚し,その責任を担うのは自分自身であると確信することで職業的発達課題に取り組み,仕事上のトランジションを乗り越えることを促進する働きを持つ(堀越・道谷,2007)とされるCAの「コントロール」に相当すると言える.

【患者との関係構築を大切にした】【仕事の要点をつかむことを意識した】【積極的,計画的に学ぶことを意識した】では,患者との関係構築を通じて看護師としての信念を高め,自らの可能性を広げようと努力していた.具体的には,先輩から業務のコツをつかむことを意識したり,自分専用のジョブエイドを作成する工夫を行ったりしていた.これらは,未知の情報や未経験の業務から看護実践能力を獲得しようとする姿勢を示しており,仕事上の課題解決に向けて主体的に学びを継続する探究活動と言える.新人看護師は,新しい経験に対して挑戦的に取り組みながら学びを蓄積している段階にあり(秋庭,2021),このような仕事への探究心は,将来につながる多様なキャリアの選択肢や機会を探るモチベーションとなると考えられる.探究心は,批判的思考態度の下位因子である「好奇心」と相関関係にある(齋藤,2015)ことが示されている.このことから,新人看護師の探究心は,自分自身や職業に関することを知るために様々な探索を促す(北村,2019)とされるCAの「好奇心」と同様の意味を持つと考えられた.

4つ目のCAの次元である「自信」は,挑戦に向き合い,障害を乗り越えることで成功をつかめるという予期や自己効力感を示す(北村,2019).本研究では,【自分の成長を自覚できた】【仕事ができないと思われたくなかった】が抽出され,これらは看護師としての自信を築く基盤的要素となることが考えられた.具体的には,他者評価を意識して失敗しないように慎重に行動し,知識やスキルの向上を図ろうとしていた.仕事に対して達成感を抱き,成果を周囲から評価される経験は,自身が役に立ち,必要とされているという実感につながるとされている(中村・岡田,2016).本研究の対象者は,チーム内で良好な人間関係を保ち,他者評価によって自身の存在価値を実感することで,仕事への自己効力感を高めていたと推察される.看護師の自己効力感は,離職願望に負の影響を及ぼす(竹内,2016)ことや,キャリア・トランジションへの適応を促してキャリア形成につながることが示されている(中村・岡田,2016).また,新人看護師が看護業務を遂行できるようになったという実感は,困難を乗り越える転換点になることが指摘されている(飯倉・恩幣,2024).さらに,上司に成長を認められた看護師は,自身の能力や可能性に見合った課題に取り組み,キャリア発達の方向性を明確にして目標に向かう力を高める可能性があることも指摘されている(塩入ら,2024).これらのことから,周囲からの承認や肯定的な関わりが新人看護師の自己効力感を高め,看護師としての自信を得ることでキャリア継続につながると考えられる.したがって,これらの要素はCAの「自信」を意味すると言える.

【良い人間関係を築こうと意識した】【頼れる職場環境だと認識できた】については,CAの次元には含まれていないが,緊張感の高い臨床現場に早期に適応しなければならない新人看護師にとって,職場における安心感の認識は不可欠な要素であると考えられる.入職1年目は強い不安やストレスにさらされやすい時期であり,安心は危機的な状況に伴う不安が生じた際に求められるものであることから(岩瀬・野嶋,2013),CAの次元には含まれていない「安心感」が抽出されたものと考える.新人看護師が主観的に安心できる環境は,新しい経験への挑戦的取り組み(秋庭,2021)や困難に立ち向かう活力(勝山ら,2019)を促進させることが明らかになっている.また,相談や協力が得られる職場環境は,新人看護師に安心感や達成感,満足感,向上心をもたらし,職場への適応を促す(齊藤ら,2024)だけでなく,CAの向上や離職防止に寄与する(Zhang et al., 2022)ことが示されている.さらに,上司や同僚との良好な関係は,看護師のキャリアへの好奇心(佐藤・中根,2019)や,初期キャリアにある看護師の就業継続(河本ら,2021)に影響することが示されている.これらのことから,職場の良好な人間関係がもたらす安心感は,看護実践能力の向上や職業への適応に重要な資源であり,基盤となるものであることから,新人看護師のCAに安心感の要素を加える必要があると考えられた.

CAの4つの次元は,独立した個別の概念として扱うのではなく,一体となることで機能する統合的概念であり(北村,2019),CAの4つの次元のうちいずれかの発達が遅れると適応が困難になることが指摘されている(Savickas, 2005).このことから,新人看護師のCAを構成する理論的構造においても安心感が基盤となり,それぞれの要素が相互に影響し合うことが推察される.また,大学生を対象としたCA尺度(北村,2021)では,「未来自信」「好奇心」「自己決定」といった,学びを通じて形成される職業的アイデンティティや,職業選択・決定において重要な要素が抽出されている.一方,本研究において抽出された要素は,自律性や将来への関心,自己効力感といった大学生に共通する特性と類似する側面を持ちつつも,仕事の経験を通じて培われる責任感や自己管理能力など,より職業実践に密接に関わる要素が含まれていた.これらの違いは,個人の職業的発達段階や組織の一員として期待される役割の相違による影響が考えられる.本研究で明らかになったCAは,看護師の働き方が多様化し,幅広い領域での活躍が求められる現代社会において,新人看護師が継続的にキャリアを発展させていくために必要な心理社会的資源を示していると考える.

Ⅵ. 本研究の限界と今後の課題

本研究の新規性は,新人看護師が早期に職場に適応し,自身が望むキャリアを歩むために必要なCAを初めて明らかにしたことである.一方,本研究は,一県における3施設の研究参加者から得られたデータであることから,地域性や経験の個人差が存在する可能性があり,結果の一般化には限界がある.特に安心感については,当該施設の組織風土が反映されている可能性も否めない.また,過去の経験を想起した語りであるため,忠実に当時の思いを抽出することにおいては限界がある.

今後は,本研究で得られた新人看護師のCAの要素について妥当性を高め,適用可能なCAの評価指標の開発や関連要因の検討など,更なる研究の積み重ねが必要である.

Ⅶ. 結論

本研究は質的記述的研究方法を用い,新人看護師がどのようなCAを備えているかについて探索的に検討した.その結果,12のカテゴリが抽出され,キャリア構築理論におけるCAの次元である「関心」「コントロール」「好奇心」「自信」と同様の内容が含まれることが示された.加えて,既存のCAの次元にはない「安心感」が新人看護師のCAの特徴的な要素であることが明らかになった.

付記:本論文の内容の一部は,第44回日本看護科学学会学術集会において発表した.

謝辞:本研究にご参加いただきました看護師の皆様,ならびにご協力いただきました病院関係者の皆様に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:川本紀子は研究の着想および研究計画の立案,データ収集と分析の実施および論文執筆を行った.前田ひとみは研究デザイン,内容分析および研究のプロセス全体への助言に貢献した.松本智晴はデータ分析の実施,原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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