日本看護科学会誌
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総説
看護学生の「情動知能(Emotional Intelligence: EI)」に焦点をあてた教育介入研究の動向と課題:スコーピングレビュー
渡邉 惠加藤木 真史佐々木 杏子長島 俊輔森 朱輝水戸 優子
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2025 年 45 巻 p. 513-525

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Abstract

目的:看護学生の情動知能(EI)に焦点をあてた既存の教育介入研究の教育方法とその効果を概括し,教育上の課題を明らかにすることで,EI向上にむけた効果的な教育方法の示唆を得る.

方法:JBIガイドラインに基づきスコーピングレビューを実施した.看護学生のEIに焦点をあてた教育介入研究を検索し,教育内容と方法,評価指標,主な成果と課題を抽出した.

結果:対象文献は17件で,コミュニケーションスキル,ストレス管理能力等をテーマに多様な教育プログラムが開発されていた.教育方法は学生が自己の感情と向き合い省察を深めることに主眼が置かれ,対人対応能力や課題解決能力等,看護実践に不可欠な多様な能力の向上が確認された.しかし,学生の知識や実践知の影響が大きいことが課題とされていた.

結論:看護学生のEI向上に向けた教育の意義が示された.実証研究の継続によりエビデンスを構築し,レディネスにあわせた教育の体系化が望まれる.

Translated Abstract

Purpose: The purpose of this study was to review the educational methods and their effectiveness in existing educational intervention studies focusing on the emotional intelligence (EI) of nursing students, and to obtain suggestions for effective educational methods to improve EI.

Methods: A scoping review was conducted based on the JBI guidelines. We identified educational intervention studies focusing on nursing students’ EI, and extracted educational content and methods, evaluation measures, and main outcomes and challenges.

Results: Seventeen studies were included in the literature, and we found that a variety of educational programs were developed on topics such as communication skills and stress management competencies. The educational methods were focused on dealing with the students’ own feeling and deepening their self-reflection, and the results confirmed the improvement of various competencies essential to nursing practice, such as interpersonal skills and problem-solving skills. However, considerable influence of the students’ knowledge and practical experience was found to be an issue.

Conclusion: This study demonstrated the significance of education for improving nursing students’ EI. Continued empirical studies are needed to build evidence and to systematize education in accordance with the readiness of students.

Ⅰ. はじめに

「看護」という仕事は,看護を必要とするひとを対象として展開され,看護を提供する側と受け手側の相互の関係性を基盤とした対人援助職である(有田ら,2023深井ら,2021).看護実践が行われる現場では,患者の生命に関する危機的状況への対応や患者や家族の不安への対処,多様な医療スタッフとの調整など,その場に応じた柔軟な対応力が求められる.看護は流動的でかつ複雑な状況の中で行われるものであり,看護師は不安やストレスからバーンアウトを起こしやすい特性があることは以前から知られている(贄川・松田,2005糸嶺ら,2006Moustaka & Constantinidis, 2010).そのため,看護師は感情の消耗が避けられない職種であり,不安やストレスの多い環境下で質の高い看護業務を遂行するためには,自身や他者の感情を理解し,適切に管理・対処できるスキルが必要とされる(Dugué et al., 2021Foster & McCloughen, 2020).

自己や他者の感情に向き合い,自己の思考や行動を導くためのリソースとして活用できる社会的能力を総称して「情動知能(Emotional Intelligence:以下,EI)」といい(Salovey & Mayer, 1990),看護師のEIは良好な人間関係の構築や問題解決能力,看護実践のパフォーマンスなどに深く影響する社会的なスキルとして注目されている(Lewis et al., 2017Dugué et al., 2021).

近年の日本の看護基礎教育においては,医療の多様性・複雑性に対応できるよう,コミュニケーション能力や対人関係能力の強化,および臨床判断能力育成の必要性が提言されている(厚生労働省,2023)が,これらの能力はいずれも情動知能(EI)と深く関連する重要な要素である(Lewis et al., 2017).看護師がこれらの能力を発揮し,質の高い看護を提供するためには,臨床現場において予測不能な様々な状況に直面した際に自身に生まれる感情を知り,その感情に適切に対処できるよう訓練しておく必要があるとされ(Dugué et al., 2021Ireland, 2022),看護基礎教育においてEIの向上に焦点を当てた教育の必要性が示されている(Choi et al., 2015Dugué et al., 2021Ireland, 2022).

これまでの先行研究から,EIと自主的な学習能力には相関があること,(Hwang & Kim, 2023)そしてEIの向上は看護ケアの質を高め,患者にもたらす成果に強く影響すること(Ramadan et al., 2020)がわかっている.また,EIは対人関係能力の形成に寄与することに加え,チーム活動を円滑に行うための能力,看護業務を遂行する上での自己効力感の向上など,専門職業人としての能力の向上に密接に関係するため(Napolitano et al., 2024),EI向上を目指した教育を初年次カリキュラムから積極的に導入することが推奨されている(Dugué et al., 2021Batmaz et al., 2022).

臨床での看護経験が乏しく,患者対応の困難さや緊張からストレスを受けやすい看護学生のEIを高めるためには,学生が自分の長所と短所を理解することで自己を受け入れ,自分の意志で課題解決に向かう姿勢を養うことが重要といわれている(Hwang & Kim, 2023Shahbazi et al., 2018).また,EIは目標を持ったトレーニングにより習得できる能力とされており(Erkayiran & Demirkiran, 2018),臨地実習での看護実践をはじめとしたさまざまな体験をとおし,自身の思考や行動に関する自己理解を促す学習機会の設定が重要であると考える.

看護学生のEIに焦点を当てた既存の研究においてEIを構成する要素として扱っていた主要な能力は,コミュニケーションや批判的思考能力,リーダーシップ能力など多様であった(Dugué et al., 2021Napolitano et al., 2024).日本では,EIの評価指標として内山ら(2001)が開発した「Emotional Intelligence Scale(以下,EQS)」が用いられており,看護学生の自己評価に基づき,自己対応,対人対応,状況対応の3領域からEIを評価した報告が散見されている(井村ら,2012平井・橋本,2013橋本・平井,2014野村ら,2016小出水ら,2016服部ら,2016).日本の先行研究は,看護学生のEIの特徴や影響要因を調査するための観察研究が多い.EIの発達には学年の進行や多様な患者とのコミュニケーションの経験が影響すること(小出水ら,2016),また,EIの高さがストレス対処能力に影響すること(服部ら,2016)などが報告され,看護学生に対するEIトレーニングの必要性が指摘されている(井村ら,2012服部ら,2016).

海外で取り組まれた教育については,教育方法とその効果の明確化に向けた文献レビュー(Dugué et al., 2021Lewis et al., 2017Napolitano et al., 2024)の結果が報告されている.Lewis et al.(2017)はEIに影響した出来事に焦点をあてており,学生の経験とEI向上の関連を述べているが,学生が得た具体的な学びの内容が十分に検討されていないことから,教育エビデンスには課題があるとされている.EIに焦点をあてた教育の概要を調査したDugué et al.(2021)の報告では,EIが高い学生は感情の認識や対処が上手く,臨床場面での対応力が概ね高いことが示された.しかし,学生に実施した教育介入の実際は不明であった.Napolitano et al.(2024)は看護学生を対象としたEIの教育介入を7つの教授方法(受動的,行動的,協働的など)に分類することで教授活動の構造を明確にした.最も効果的な教育はシミュレーションであるとの結論が得られたが,対象となった授業や講義・演習等の構成,用いられた事例や教材,介入の時期,回数などの詳細は明らかにされていない.さらに,EIの評価指標と主な結果については記載されているが,その構成要素(下位因子など)や評価方法に関する言及がなく,EIの評価プロセスにおける課題は不明であった.いずれの文献レビューにおいても,EI向上を目的とした教育プログラムの導入の意義について触れられている一方で,プログラム構築のための課題や方略に関する考察はなかった.そのため,教育プログラムの参考となる具体的情報が不足している現状にあると考える.

したがって,EIは看護学生の社会適応と看護実践能力の発揮に強く影響をもたらすものであり,看護基礎教育においてEI向上のための教育を明文化し,カリキュラムに位置付けていくことが望まれるが,その効果的な教育方法は国内外においてこれまで明らかにされていない状況である.そこで,看護学生のEI向上のための教育プログラムの導入に向け,より効果的な教育方法の示唆を得る目的でスコーピングレビューを行うこととした.国内外の既存の研究で用いられている教育方法の動向と課題を概括することで,看護学生のEI向上のための効果的かつ具体的教育方法を把握でき,今後の教育開発と実証研究に向けた重要な基礎資料を得ることができると考える.

Ⅱ. 本研究の目的

看護学生の情動知能(EI)に焦点をあてた既存の教育介入研究の教育方法とその効果を概括し,教育上の課題を明らかにすることで,EI向上にむけた効果的な教育方法の示唆を得る.

Ⅲ. 用語の定義

本研究において情動知能(Emotional Intelligence: EI)とは,「自己や他者の感情を認識し,社会生活を送るうえで必要な思考や行動を導くための道具として活用できる能力であり,心身の健康と安定した人間関係の形成,変化する状況に見通しをもって対応するための社会への適応能力のこと.」として用いる.なお,情動はひとの心理状態の総称であり,個人が認知する主観的な体験は感情と表記する.

Ⅳ. 研究方法

1. スコーピングレビューのアプローチ方法および研究疑問の設定

レビューの実施にあたっては,Joanna Briggs Institute(JBI)(2024)が公表している「JBI Manual for Evidence Synthesis」のスコーピングレビューガイドライン(以下,JBIガイドライン)に基づくアプローチ方法を参考にした.なお,本レビューの報告はJBIガイドライン内で推奨されているスコーピングレビューの報告ガイダンス「PRISMA-ScRチェックリスト」(Tricco et al., 2018)を参照し,報告内容に各項目が含まれるよう努めた.

本研究で扱う主要概念(PCC)には,「P(Population):看護学生」,「C(Concept):情動知能(EI)に焦点化した教育介入の内容と評価指標,教育の効果と課題」,「C(Context):看護基礎教育」を設定した.本研究の研究疑問は,1)看護学生のEIに焦点を当てた研究における教育介入はどのような内容か,2)EIの教育効果は看護実践においてどのような意義があるか,3)EI向上にむけた効果的な教育における課題は何か,の3点を設定した.

2. 重要な研究の特定のための検索プロセス

データベースには,PubMed,MEDLINE,CINAHL,Health Source,SocINDEX,ERIC,医学中央雑誌Web版を用い,発表年は無制限とした(2024.10.25検索).海外文献のキーワードは((nursing students)or(nursing education))and((Emotional Intelligence: EI)or(emotional skills: ES))or(emotional competencies: EC)),日本語文献は(看護学生)and((情動知能)or(感情知性))を用いて検索を行った.なお,PubMedでは約10,000件がヒットしたため,記事の種類をClinical Trial,Meta-Analysis,Randomized Controlled Trialに選定し,書籍やレビュー文献は除外して検索した.医中誌Webでは1,200件がヒットしたため,会議録を除外して検索した.

さらに,検索過程で抽出された文献の引用・参考文献をたどり,本研究の目的に近い文献や,インターネットブラウザからの検索により本研究に関連の強いテーマをもつと思われる文献をハンドサーチで加えた.

3. 研究の選択(適格基準・除外基準)

本研究のPCCおよび研究疑問を明確にするため,対象とする文献の適格基準は,1)看護学生を対象としている,2)教育介入方法が具体的に明記されている,3)教育に用いたEIモデルやEIのアウトカム指標が明確である,4)介入研究または縦断的な観察研究に基づき教育効果が評価されている,とした.除外基準は,倫理審査について未記載の論文や取り組みの詳細が不明な会議録,情動知能に関する論述が副次的で看護実践の影響を論じていない文献とした.

4. スクリーニングおよびデータ抽出のプロセス

データベースとハンドサーチによる検索の結果,抽出された文献から重複論文を除外したうえで1次スクリーニングとしてタイトル・アブストラクトの読み込みを行った.この過程で本研究の目的・研究疑問・適格基準に合致しない文献を除外し,2次スクリーニングの対象となる文献の選定を行った.2次スクリーニングでは全文を確認し,先に述べた適格基準に基づき各文献の適格性の評価を行い,本研究の適格基準に合致しない文献を除外し,採用文献を決定した.最終的に採用した文献の概略把握のため,設定した研究疑問に基づき,研究の種類,著者,出版年,国,研究目的,研究方法(デザイン,対象,教育プログラム概要,教育展開方法,評価指標など),教育介入の主な結果,教育プログラムの有用性と課題を示す重要な考察を抽出した.

本作業にあたっては,まず1名の研究者がスクリーニング作業を行い,それぞれの文献から情報を抽出した.次に,博士号の学位を有しスコーピングレビューの経験のある2名の協力者が同様の方法に基づき独立して確認作業を行った.文献の選定に迷う場合は研究者間で内容を確認しあい,適格性を判断した.抽出する情報については複数の研究者間で本文を繰り返し確認しあうことで信頼性を高めた.

Ⅴ. 結果

1. スクリーニング結果

文献選択のプロセスをフロー図で示した(図1).データベースとハンドサーチによる検索の結果,計2,456文献が抽出されたが,1次スクリーニングを経て2次スクリーニングの対象となった文献は48文献であった.2次スクリーニングではその全文を確認し,各文献の適格性の評価を行ったが,この過程で教育の詳細が不明な会議録や倫理的配慮の記載がない調査研究,看護学生を対象としていないもの,横断評価のみで介入効果が明らかでないもの,EIに関する記述が副次的で学生の能力として焦点が当てられていないものなど,本研究の適格基準に合致しない文献を除外した.これらのプロセスを経て最終的に適格基準を満たした17文献を分析対象とし,本研究の研究疑問にもとづき,教育介入研究で用いられていた具体的な介入の内容と教育方法,その成果と課題等の把握に努めた.

図1  対象文献の選定までのプロセス

2. 対象文献にみる教育介入研究の動向と特徴

1) 分析対象となった17文献の概要

対象文献の概要(国,目的,デザイン,対象)を表1に示す.17文献の内訳は海外文献14件,和文献3件で,発表年は2015年以降であった.いずれもEIは対人援助職である看護師に必要な能力として扱われ,看護学生のEIの向上に加え,EIと相互に影響する能力の明確化をねらいとした研究が行われていた.教育介入における主な目的とキーワードは,看護学生の「コミュニケーションスキル」「問題解決能力」「ストレス管理能力」「対人関係能力」等の向上や「臨床での看護実践の評価」などであり,研究者らの教育目的に沿って多様な教育プログラムが実施され,その効果の検証が試みられていた.

表1 対象文献の概要

文献No. 著者 目的 デザイン 対象
1 Donnaint et al.(2015) フランス 看護学生の省察的実践と情動スキルを育成する 質的研究
(インタビュー)
看護学生15名
2 Szeles(2015) アメリカ ピアコーチングプログラムが看護学生リーダーの情動知能に及ぼす影響を測定する 混合研究
(探索的研究)
看護学生13名
3 Choi et al.(2015) 韓国 スマートフォンの動画を用いたコミュニケーションスキル研修の効果を検証する 準実験研究(RCT) 通信制講座を受講した看護学部2年生87名
(介入45名,対照42名)
4 岡村(2015) 日本 感情知性理論を用いた教育プログラムによる援助関係形成力獲得のプロセスと教育効果を明らかにする 観察研究(前後比較),
質的研究(自由記述)
基礎看護学を学ぶ看護学部1~2年生31名
5 Orak et al.(2016) イラン 情動知能教育が看護学生に与える影響を明らかにする 準実験研究
(前後比較)
看護学生1年生66名
(介入31名,対照35名)
6 Gómez et al.(2017) スペイン 情動知能の発達のための実践的演習による社会情動スキル育成の効果を測定する 介入研究(前後比較) 看護学科1年生108名
7 井上ら(2017) 日本 特性不安の高低差と情動知能の能力差による,感情の言語化の前後におけるストレス負荷の違いを明らかにする 準実験研究
(前後比較)
看護学部3年生6名
8 Erkayiran & Demirkiran(2018) トルコ 情動知能スキル向上トレーニングが情動知能と対人関係のスタイルに及ぼす効果を評価する 準実験研究(RCT) 看護学科1年生72名
(介入36名,対照36名)
9 Shahbazi et al.(2018) イラン 看護学生の情動知能促進における問題解決トレーニングの成果を評価する 準実験研究
(前後比較)
第7学期の看護学生43名
(介入20名,対照23名)
10 Hurley et al.(2020) オーストラリア 看護学生が情動知能トレーニングの成果を臨床現場でどのように活用するかを理解する 質的研究
(インタビュー)
看護学生12名
11 Goudarzian et al.(2019) イラン セルフケアトレーニングが看護学生の情動知能に与える影響を明らかにする 準実験研究
(前後比較)
2~6学期に在籍する看護学生60名
(介入30名,対照30名)
12 Teskereci et al.(2020) トルコ 「ケアリング行動」コースが看護学生の思いやりと情動知能に及ぼす影響を評価する 準実験研究
(前後比較)
看護学科1年生73名
(介入37名,対照36名)
13 Ramadan et al.(2020) エジプト 情動知能プログラムが看護学生の臨地実習のパフォーマンスに及ぼす影響を評価する 準実験研究
(前後比較)
地域保健看護学コースの4年生100名
14 Sisman & Buzlu(2022) トルコ 感情に焦点をあてたトレーニングとインタラクティブな活動が看護学生の感情認識と表現に与える影響を調査する 介入研究(RCT) 看護学部2年生120名
(介入40名,プラセボ40名,対照40名)
15 Kou et al.(2022) 中国 支援的コミュニケーション,対人関係能力を向上させるためのマインドフルネストレーニングの有効性を評価する 介入研究(RCT) 看護学生3年生60名
(介入30名,対照30名)
16 Lee & Kim(2022) 韓国 感情ロールプレイプログラムがコミュニケーションスキル,臨床パフォーマンス,情動知能に与える影響を検討する 準実験研究
(前後比較)
看護学生3年生83名
(介入45名,対照38名)
17 直正・日下(2023) 日本 対人関係能力育成を目指したEQ教育プログラムの効果を明らかにする 準実験研究
(前後比較)
看護学部1年生90名
(介入45名,対照45名)

※個人が認識する主観的な「感情」を生理学的指標や言動の観察などを用いて客観的に評価しようとする場合,「感情」の下位概念の「情動」を用いる

2) 具体的な教育介入方法とその成果

各研究で行われていた教育介入の具体的内容とその結果,および考察で述べられていた課題を表2に示す.教育の骨子となる講義・演習はいずれも複数のセッションによりプログラム化されて構成されていることが特徴であった.動画を用いたコミュニケーショントレーニング(Choi et al., 2015)やケアリング行動の教育を導入した思いやりのトレーニング(Teskereci et al., 2020),マインドフルネストレーニング(Kou et al., 2022)を取り入れたものなど,プログラムの主要テーマは多様であった.トレーニングを中心とした教育プログラムの実施に要する期間は研究者らの教育目的に沿って設定され,数日間から数カ月に及び,1回のみ,1日のみという短期間の介入はなかった.EI向上を目的とした既存の教育プラットフォーム「GENOS」(Genos International, n.d.)を活用した外部コーチによるトレーニングの導入も行われていた(Hurley et al., 2020).なお,EIとストレスの関連を交感神経反応により評価した実験プログラム(井上ら,2017)が1件あり,感情の言語化とストレス反応の軽減の関係が示されていたが,これ以外の16件は全て研究者らが独自に開発したトレーニングプログラムの検証であった.

表2 具体的教育介入方法と主な結果,課題

研究方法 文献No. 介入内容 教育展開方法 評価指標 介入効果 主な結果 重要な考察,課題
質的研究 1 内省の技術「PRECE」(Reflective Practice and Emotion Skills) 臨地実習での体験に基づき,自己の感情や学びの表出を促すインタビュー 学びに関する質的評価 対話の中での状況の説明は自己の感情と向き合うことを促進し,学びを深めた ・内省と感情のスキルの発達に向け,さらなる検証が必要である
・内省に関する教員のトレーニングも重要である
10 プラットフォーム「GENOS」によるEIトレーニング 理論と実践の学習,EIアンケート結果のフィードバック,フォローアップコーチングなど 学びに関する質的評価 レジリエンスの向上,共感と思いやり,ノンテクニカルなスキルを活かした関わり方などを学んでいた ・看護学生に向けた臨床前のトレーニングの意義が示唆された
・レジリエンスは批判的で建設的なフィードバックから学ぶ姿勢を育て,実践力向上につながる
混合研究 4 感情知性理論に基づき,違和感の対自化,状況把握,問題解決など援助関係形成を目的とした5段階のプログラム 講義,プロセスレコードの記載,ロールプレイ,実技試験,事例演習,ビデオ映像を用いた看護過程演習など ①EQS(Emotional Intelligence Scale)
②学びに関する質的評価
①の「状況対応領域」の得点の上昇が認められた
②学生は自己・対人・状況対応に関する洞察を深めながら援助関係の形成を学んでいた
・基礎看護学の段階においても感情を理解し活用する能力の習得は援助関係形成の獲得に影響する
・学生が自身の現状を振り返り,今後の課題を明確にするプロセスを支援するための教員の役割が重要である
2 学生アンバサダープログラムにおける15週間のピアコーチングセッション 参加者とペアになり,傾聴,フィードバック,内省などのピアコーチングを毎週行う ①MSCEITe(Mayer Salovey Caruso EI Test)
②学びに関する質的評価
①無
②有
介入前後の①の得点に有意差はなかったが,参加者の9割がピアコーチングがリーダーシップの開発に有益だったと報告した ・リーダーシップ能力の開発にピアコーチングが役立つ可能性があり,介入期間や規模を拡大したさらなる調査が必要である
自己評価を用いた介入または
準実験研究
3 スマートフォンの動画作成とフィードバックに基づく8週間のコミュニケーション教育 講義,ロールプレイに加え,シナリオに基づいた動画作成,プレゼンテーション,フィードバック,共有を行う ①GICC(Global International Communication Competence Scale)
②AEQT(Adult Emotional Qotient Test)
①②ともに介入群に得点の上昇が認められた ・スマートフォンは教材として活用しやすく,映像は状況や感情を理解するのに役立つ
・EIに影響を与える要因や看護教育方法について検討すべきである
5 コミュニケーションやアサーティブトレーニングなどで構成された2時間8回・8週間のトレーニング 講義,ロールプレイ,ブレインストーミング,課題学習,グループワークなど MSEIS(Modified Schutte Emotional Intelligence Scale) 介入後の得点に有意差はなかった ・学んだ知識や技術を実践で適用する機会がない初学者の場合,EIの向上が困難な可能性がある
・効果的な教育方法(介入時期,内容,方法,回数や頻度など)の開発に向け,EIの習得プロセスを調査する必要がある
6 1回4時間・隔週で4回の実践的な社会的・情動的スキル開発トレーニング グループディベート,観察,傾聴,ロールプレイ,フィードバック,交渉,マインドフルネス,呼吸法など TMMS-24(Trait Meta-Mood Scaleスペイン語版) 介入後,「感情的注意」領域の得点の上昇に有意差が認められた ・実践を通した振り返りにより自分の感情を正しくとらえ表現できることが重要である
・多様性を考慮した継続的な教育が必要である
8 コミュニケーション,ボディランゲージ等で構成された10セッション ロールプレイ,グループワーク,自己レポートなど ①Bar-on EQ-I(Bar-On Emotional Quotient Inventory)
②Interpersonal Styie inventoly(対人関係スタイル)
①②ともに介入群に得点の上昇が認められた ・EIは意図的なトレーニングによって向上できることが示された
・EIは学生や看護師の看護実践の水準の向上に寄与する
・トレーニングの効果に関する継続的な調査が望まれる
9 2時間6回・2か月間の問題解決トレーニングプログラム グループディスカッション,ブレインストーミング,ジグソー学習法など ①Bar-on EQ-I(Bar-On Emotional Quotient Inventory)
②自作の問題解決スキル評価票
①②ともに介入群に得点の上昇が認められた ・自分の長所・短所を認識することが問題解決力につながる
・看護教育におけるEI向上のための継続的なトレーニングが推奨される
11 ストレスや感情の管理などで構成された全12回のセルフケア行動プログラム 主にチェックリストを用いたセルフケア行動の自己評価とグループワーク Bradberry and Greaves’ standard emotional intelligence questionnaire 介入群に得点の上昇が認められた ・看護学生のEIの向上を目指したプログラムの体系化と実装が推奨される
12 ヒューマンケアリング理論を基盤に構成された週2時間14週間の「ケアリング行動」コース 表出,質疑応答,ケアリング分析,ロールプレイ,ブレインストーミング,映像を用いたディスカッションなど ①The Emotional Intelligence Evaluation Scale
②The Compassion Scale
①無
②有
介入後,①の得点に有意差はなかったが,②の思いやりに関する得点の上昇に有意差が認められた ・ケアリングの学習は思いやり行動の育成に役立つ
・EIは個人の意志で学習することで発達する能力とされており,教育における実証研究が必要である
13 自己認識やストレス管理などの対人関係スキルと,傾聴,共感,問題解決など人間関係スキルを学ぶ12のプログラム 講義,ファシリテーションとグループディスカッション,シミュレーション,認知行動スキルトレーニング,フィードバックなど ①アンケートによる知識評価
②SSEIT(Schutte Self-Report Emotional Intelligence Test)
③6-DSNP(The Six Dimension Scale of Nursing Performance)
①②③において介入後に得点の上昇が認められた ・EIの教育は臨床実践のパフォーマンス向上に寄与するため,看護教育カリキュラムに導入すべきである
14 心理劇療法に基づき,ボディランゲージや自己表現,共感などの技術を学ぶ1.5~2時間全10回のセッション ソシオメトリ―,ロールプレイ,ダブリング,ミラーリングなどの心理劇療法 ①LEAS(Levels of the Emotional Awareness Scale)
②EES(Emotional Expression Scale)
介入後および追跡6か月後において①②の介入群の得点が有意に高かった ・インタラクティブな技術を用いた感情トレーニングは,自己や他者の感情の認識と自己表現のスキルの向上に寄与する
・多様な地域,教育レベル,他のスキル等との関連も含めた実証研究や長期的な追跡調査が必要である
15 ストレス軽減法や認知療法を含むマインドフルネストレーニングで,感情の認識や困難の対処などを学ぶ1回2時間8週間のコース 意識化,呼吸法,マインドフルな瞑想,ウオーキング,認識の記録,自宅での実践など ①SCS(Supporting Communication Scale)
②SSEIT(Schutte Self-Report Emotional Intelligence Test)
③CAI(Caring Ability Inventory)
介入後および追跡3か月後において①②③すべての介入群の得点が有意に高かった ・支援的コミュニケーション能力はEIの向上を介して促進されることが示唆された
・患者とのコミュニケーション能力向上に向け,EIに焦点をあてた教育プログラムが必要である
16 ハイリスク妊婦の誘発分娩,妊娠中毒症,前期破水,早産,不妊症の5事例のロールプレイシナリオを含む計11時間3日間9セッションのプログラム 講義,グループワークプレゼンテーション,ロールプレイ,フィードバック,リフレクション日記,など ①Communication skills
②clinical performance
③WLEIS(Wong & Law Emotional Intelligence Scale)
①②有
③無
介入後,①②は得点の有意な上昇が確認された
③の情動知能は有意差がなかった
・ロールプレイはコミュニケーションスキルと臨床パフォーマンスの向上に寄与することが示唆された
・本プログラムは3日間の短期集中型であり,また,すでに臨地実習の体験を積み重ねた3年生を対象にしたことで低学年に比べてEIの変化が見られなかった可能性がある
17 「人間関係論」の授業で,対人関係能力を育成する講義を2回導入するプログラム 講義,ビデオ上映,自分や相手の感情を知るためのスキルトレーニングなど ①EQS(Emotional Intelligence Scale)
②状況別対人不安尺度

ただし,群間差はなし
介入後の①の得点は有意に上昇し,②の得点は有意に減少したが,対照群との間に有意差はなかった ・自我の確立途中である1年生への短期間のトレーニングでは効果が表れない可能性があり,対象者や調査時期,介入内容などの検討が必要である
身体反応を用いた
準実験研究
7 騒音・照明・不快指数を統制した実験室での感情の言語化を促す実験プログラム 看護師国家試験の模擬試験(20分間)と感情を言語化する面接(10分),無言(10分)の低刺激環境で過ごす ①交感神経活動LF/HF
②特性不安尺度STAI(State-Trait Anxiety Inventory)
③EQS(Emotional Intelligence Scale)
(※②③は個人特性として事前調査のみ)
言語化面接では対人対応能力に優れた学生は自己対応能力が優れている学生より①のLF/HFの7分以降の変化が有意に低かった ・感情の言語化は情動知能と関係があり,ストレス負荷の軽減につながる可能性があることが示唆された

プログラムの各セッションで活用されていた具体的な教育手法はEIの基礎知識を学ぶ講義をはじめ,学生によるロールプレイ(Choi et al., 2015岡村,2015Orak et al., 2016Gómez et al., 2017Erkayiran & Demirkiran, 2018Teskereci et al., 2020),ピアコーチトレーニング(Szeles, 2015),ジグソー学習法(Shahbazi et al., 2018),面接による内省法(Hurley et al., 2020),リフレクション日記(Lee & Kim, 2022)など多岐に渡っていたが,主に内省を促すことを基盤とした教育が多かった.

各研究の教育プログラムは一様ではなく,評価指標も多様であったが,13文献で介入によるEI向上の効果が明確に示されていた.その成果から,EIはトレーニングにより向上できることが明らかになり,とくに,看護実践のパフォーマンスの向上に寄与することから,学生の看護実践能力の習得に向け,臨床現場の状況を視野に入れたEIの教育を看護基礎教育の早期から積極的に導入する意義が述べられていた(Shahbazi et al., 2018Ramadan et al., 2020Kou et al., 2022).

なお,EI向上が明確に認められない報告もあった.対象が初年次生の場合,看護学の学習経験や基礎知識,EIの意義等に関する学習経験が浅く,プログラム内容に対しレディネスレベルが低いこと(Orak et al., 2016)や,学生の学習姿勢などの影響(Teskereci et al., 2020)が要因として述べられていた.教育プログラムの開発過程においてその有効性が十分に検証されていないことも要因として報告されていた(直正・日下,2023).また,すでに臨地実習を複数回経験している3年次生を対象とした場合,これまでの実習経験で得た学びの蓄積により介入前のEIの得点が高い傾向にあることや,3日間という短期間集中のトレーニングによる効果の検証には限界があることも述べられていた(Lee & Kim, 2022).EIの教育にあたっては,学生が自己の課題に向き合い目的意識を持って学習に取り組む姿勢を養うことが重要であるとされ(Shahbazi et al., 2018Teskereci et al., 2020),学生の内省を支援する教員の指導技術も課題であることが示されていた(Donnaint et al., 2015岡村,2015).

EIの教育の体系化の実現に向け,看護基礎教育における継続的な実証研究や長期的な追跡調査によりその成果を蓄積していくことが引き続きの課題とされていた(Erkayiran & Demirkiran, 2018Teskereci et al., 2020Sisman & Buzlu, 2022).

3) EIの評価指標

EIの教育開発において,各研究者の教育モデルとして参考とされていたもの,または教育介入効果の検証に用いられていたEIの評価指標を表3に示す.

表3 各研究で用いられていたEIの評価指標

EIの評価指標(評価ツール) 開発者 評価指標の構成要素 件数 文献No.
学びに関する質的評価 ・教育プログラムに基づく気づきや学び(自由記述,インタビューなどから収集) 4件 1,2,4,10
EQS(Emotional Intelligence Scale) 内山ら(2001) ・日本独自の尺度で,変化する状況の中で見通しをもって対応する能力が独立して設定された
・自己対応,対人対応,状況対応の3領域で構成された計65項目
・5段階で回答
3件 4,7,17
SSEIT(Schutte Self-Report Emotional Intelligence Test) Schutte et al.(1998) Salovey & Mayer(1990)の感情知能モデルを基盤に改良され開発された
・感情の評価と表現,感情のコントロール,感情の活用の3つの領域に焦点化した 33 項目
・5段階で回答
2件 13,15
Bar-on EQ-I(Bar-On Emotional Quotient Inventory) Bar-On & Parker (2000) ・対自己,対他者,適応性,ストレス対処,一般的気分の5つの概念と共感性や感情コントロール,自尊心,などの15の下位概念で構成された計133項目
・5段階で回答
2件 8,9
AEQT(Adult Emotional Qotient Test) Moon(1997) Salovey & Mayer(1990)の感情知能モデルを基盤に韓国版の成人向け尺度として開発された
・感情評価,感情表現,共感,感情の活用,感情調節の5分野からなる計45項目
1件 3
MSCEITe(Mayer Salovey Caruso EI Test) Mayer et al.(2002) ・感情の識別と感情の使用という2つの経験的領域,および感情理解と感情管理の2つの戦略的領域の合計得点で評価する計141項目
・5段階で回答,合計90~110点を平均とみなして評価する
1件 2
MSEIS(Modified Schutte Emotional Intelligence Scale) Austin et al.(2004) Schutte et al.(1998)の質問票を基盤に修正版として作成された
・楽観性,気分調節,感情の利用,感情評価の視点を踏まえた計41項目
・5段階で回答
1件 5
TMMS-24(Trait Meta-Mood Scaleスペイン語版) Extremera & Fernández-Berrocal(2004) Salovey & Mayer(1990)の感情知能モデルを基盤にスペイン語の短縮版として改良された
・感情的注意,感情の明瞭さ,感情の修復の分野に関する計24項目
・5段階で回答
1件 6
Emotional Intelligence Evaluation Scale Hall(2005) ・感情認識,感情管理,自己動機付け,共感,社会的スキルの5つの下位尺度からなる計30項目
・信頼性と妥当性が研究されたうえで主にトルコで活用されている
1件 12
LEAS(Levels of the Emotional Awareness Scale) Kuzucu(2008) ・トルコ語版として開発され信頼性と妥当性が検証された
・自由記述式のスケールで20のシナリオに基づき,自身と他者の感情をどの程度認識できているかを評価する
・6段階で評価
1件 14
Bradberry and Greaves’ standard emotional intelligence questionnaire Bradberry & Greaves(2009) ・Ganji et al.(2006)により信頼性・妥当性が確認され,主にイランで活用されている
・自己認識,自己管理,社会的認識,人間関係マネジメントなどの設問で構成された計28項目
・6段階で回答
1件 11
EES(Emotional Expression Scale) Kuzucu(2011) ・対人関係においてどの程度自己表現できているかを評価する計16項目
・7段階で回答
1件 14
WLEIS(Wong & Law Emotional Intelligence Scale) Wong & Law(2002) ・自分の感情の理解,他者の感情の理解,感情の比較,感情の使用の4つの領域からなる計16項目
・7段階で回答
1件 16

学生の学びに関する質的評価を採用しているものが4件あった.そのうち2件は主要評価として用いられていた.既存の評価ツールを用いた文献のうち,日本語文献ではいずれも内山ら(2001)の「EQS(Emotional Intelligence Scale)」が活用されていた.海外文献で用いられていた評価ツールはSchutte et al.(1998)が開発した「SSEIT(Schutte Self-Report Emotional Intelligence Test)」が2件,Bar-On & Parker(2000)が開発したBar-on EQ-i(Bar-On Emotional Quotient-Inventory)が2件,Wong & Law(2002)が開発した「WLEIS(Wong & Law Emotional Intelligence Scale)」が1件など,その種類は国内外を合わせて13種類と多岐に渡っていた.各評価指標の構成要素は自己認識,ストレス対処,感情表現,共感,自尊心などが幅広く含まれ,項目数も異なっていた.これらの評価ツールはすべて自己評価尺度であり,学生の自己評価に基づき介入効果を検証していた.

Ⅵ. 考察

1. 看護学生のEIに焦点をあてた教育の効果と意義

1) EIの教育がもたらす多様な教育効果

看護学生のEIに焦点をあてた教育介入研究は国内外を合わせて17件のみであり,その報告は2015年からと比較的新しい研究分野であることが示された.海外文献の出版国は欧米諸国,中東諸国,アジア諸国などで散見されており,各国の教育介入の成果を統括するだけの十分な報告数は確認できず,看護基礎教育課程におけるEI向上の実証研究は発展途上の段階にあるといえる.しかし,本研究の対象となった17文献の介入の結果から,それぞれの研究者がEIの要素として焦点化している能力の向上を概ね確認できたことは,EIの向上を目的としたトレーニングの有効性が検証されたといえる.17文献の教育プログラムや評価指標は一様ではなかったが,いずれの報告においても学生が自己や他者の感情に向き合い,課題に対処しながら看護実践を行う能力を習得するためのEIの教育の意義や重要性が述べられていた.より効果的な教育方法を明確にするために,継続的な実証研究の積み重ねが必要であると考える.

また,表3にみるように,EIの評価ツールに含まれる下位概念は,自己認識,ストレス対処,感情の表現,他者への共感の能力など多様な要素が確認され,幅広い視点から評価されていることが示された.EIに関する既存の評価ツールを自国で適用できるよう独自に改良して活用している研究もあり(Choi et al., 2015Orak et al., 2016Gómez et al., 2017Goudarzian et al., 2019Ramadan et al., 2020),各国におけるEIの考え方や教育目的・目標を反映させながら評価指標を考案している現状が把握できた.日本ではEIの評価にEQSが活用されていたが,このツールは内山ら(2001)によって開発された日本独自ものであり,自己や対人能力だけでは対処することができない社会や環境の問題にどのように対応するかという状況対応能力を独立して測定できる点が特徴とされている(内山ら,2001).したがって,EIの考え方には各国の社会・文化的背景や必要とされる社会的スキルが反映されるものであり,その教育のモデルや評価指標の選択には学生のEIをどのように捉え,教育においてどのような成果を期待するのか,明確なねらいをもって教育活動に活用することが重要であると考える.なお,質的な評価を主要評価として用いていた研究(Donnaint et al., 2015Hurley et al., 2020)では,学生の語りや記述内容から,プログラムをとおしEIを習得していく学びの様相を把握できていた.教員によるインタビューや学びの記述により感情の言語化を促すことで,学生は自身が体験した出来事と気づきを振り返る意義を学んでおり,感情を表現し考察することが自己の課題と向き合う姿勢の育成に役立つことが示唆された(Donnaint et al., 2015).教育効果の明確化には質的な評価も活用し,学生の感情の動きやそこから得られる学びを明確化することも有用であると考える.

教育介入の効果の測定においては,EIを測定する既存の評価ツールだけでなく,コミュニケーション能力(Choi et al., 2015Kou et al., 2022)や対人対応能力(Erkayiran & Demirkiran, 2018),問題解決能力(Shahbazi et al., 2018)の評価指標を併用した研究も多く,多様な評価指標が採用されていた.これらはいずれも臨床現場において必要となる看護師のスキルであり,本研究においてこれらの能力の向上も確認されていたことから,EIの向上を目的とした教育プログラムは,対象者との関わりを深めながら質の高い看護の実現に寄与する(Napolitano et al., 2024)ことができ,看護実践に必要な多様な能力の向上をもたらすものと考えられる.また,自己理解や感情表現の能力の向上は,困難な状況に遭遇した際の適応行動に役立ち,看護師としての就業継続や職務上の課題への対処に寄与することが報告されている(Dugué et al., 2021Ireland, 2022).

したがって看護基礎教育の現場では,学生が様々な状況に遭遇した際に生まれる感情に向き合い,課題を乗り越えられるよう支援していくことが重要であると考える.

2) EI向上に効果的な教育内容の考察

教育介入に向け開発されたプログラムの所要期間は様々であり,その教育方法も多岐に渡っていた.プログラムの構成内容と展開方法は各研究者の目的に沿って独自に考案されたものであったが,教育のねらいを有する複数のセッションを組み合わせた長期間のプログラムが主軸であったことから,教育介入には学生の体験が学びへと変化する過程を経るための一定の期間を設定することの重要性が示唆されたといえる.しかし,現時点で教育介入報告が国内外において17文献のみである状況から,効果的な教育カリキュラムの検討には引き続きの実証研究が必要であると考える.

また,本研究により各プログラムを展開するための主な教育方法としてロールプレイやフィードバック,面接法,ピアティーチングといった手法が採用されている実情がわかり,学生が自己の感情と向き合い省察により学びを深めるプロセスに主眼が置かれている特徴が明確となった.各教育プログラムは学生が実際に体験できる様々なワークで構成された実践型プログラムであり,複数の教育手法を組み合わせて実施されていたが,看護という仕事の遂行において内省と感情管理の関係に注力している視点は共通していた.他者とのやり取りの中で自分の感情を正しくとらえ,適切に表現し日々の状況に立ち向かうスキルを持つことは,看護師としての成長に大きく影響するといわれている(Gómez et al., 2017).また,看護は対象者や家族,医療従事者などあらゆる人々と関係を構築しながらチーム活動により仕事を行うものである.他者とのかかわりの中で遭遇する困難やチーム活動を行う上での批判的なフィードバックは学生の内省の姿勢を養う重要な学習機会とされ(Hurley et al., 2020),周囲の声を建設的な指摘として受け止めながら前向きに学ぶ姿勢をサポートしていくことが重要であると考える.したがって,看護基礎教育においては早期からEIの概念の必要性を伝えるとともに,他者とのやり取りをとおした内省の姿勢と感情管理を育成することが重要であるといえ,その体系化した継続プログラムの実現が望まれる.

2. EI向上にむけた教育プログラムの課題と展望

本研究では,EIの教育効果が明確に確認できない報告もあった.EIの向上は学生の看護学に関する基本知識や対人援助職に関する理解など,実践知の幅や学習の姿勢が大きく影響することが指摘されている(Gómez et al., 2017Batmaz et al., 2022).明確に効果が見られなかった研究の対象者は初年次生(Orak et al., 2016Teskereci et al., 2020直正・日下,2023)と3年次生(Lee & Kim, 2022)であったが,いずれも学生の学習レディネスに対しプログラムの実現可能性の検討が不十分であった可能性が述べられていた.したがって,学生の既習学習や臨地実習での実践知など,学習のレディネスレベルを踏まえたうえでEIの教育を導入する重要性が示唆されたといえ,十分な学習効果が得られるよう,介入の時期,内容は慎重に考える必要性がある.EIは目標を持った意図的なトレーニングにより向上する(Erkayiran & Demirkiran, 2018)性質を持つため,学生が看護の本質に関する基礎知識に触れ,看護学への興味・関心が芽生えているという前提条件が学習効果を高めるものと考える.とくに初年次生を対象とした場合,看護という仕事には感情を持った対象が存在することや看護師自身も感情の揺らぎが生じること(Dugué et al., 2021Foster & McCloughen, 2020),看護には一人ひとりに合わせた適切な方法があり,対象者との関係性の構築が看護実践のパフォーマンスに影響する(Lewis et al., 2017Ramadan et al., 2020)ことなど,看護という仕事の奥深さとEIの関連性が理解できるよう,これらの知識の提供から段階的に取り組んでいくことが重要であると考える.

また,臨床での看護体験を積むことでEIが向上することが報告されている(Batmaz et al., 2022)が,どのような体験からEI向上に発展するのか,その学びのプロセスは明確にされていない.今後はどのような出来事が学生の情動に作用し学びへと発展するのか,学びの様相を調査・分析し,教育エビデンスを構築していく必要があると考える.継続的な実証研究とその効果の検証により,体系的な教育プログラムの導入と普及を目指していきたい.

3. 限界

本研究では17文献を対象としたが,スクリーニングの過程では教育内容の詳細が不明な会議録や介入の効果が不明な横断調査が多く,各研究者のこれまでの教育の成果を十分に反映できていないことが考えられる.加えて,日本語文献は3件のみであり,日本の文化的背景や教育カリキュラムを反映した十分な情報を得られていないため,EI向上に向けた効果的な教育の戦略を検討するためには引き続きの検証が必要である.

Ⅶ. 結論

看護学生のEIの向上に向けた教育介入研究の動向と課題を明らかにし,効果的な教育方法の示唆を得る目的でスコーピングレビューを実施した.対象文献は17(海外文献14,和文献3)件で,2015年から報告が確認された.

主な研究目的は,「コミュニケーションスキル」「問題解決能力」「ストレス管理能力」等の向上とされ,研究者らの教育目的に沿った多様な教育プログラムが開発されていた.プログラムの所要期間や教育方法は多岐に渡っていたが,主にロールプレイやフィードバック,ピアティーチングなどの手法が採用され,学生が自己の感情と向き合い省察を促す教育に主眼が置かれていた.EIの教育は学生の対人対応能力や課題解決能力など,看護業務を遂行する上で不可欠となる多様な能力の向上に寄与することが報告され,教育の意義が示された.しかし,EIの向上は学生の知識や実践知の幅が大きく影響することがわかり,学生のレディネスを十分に考慮した教育の開発が望まれる.学生のEI向上に影響する学びの様相を調査・分析し,より効果的な教育方法を検討することが課題である.

付記:本論文の内容の一部は,日本看護技術学会第22回学術集会において発表した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:渡邉は研究の着想からデザイン,文献スクリーニング,文献レビュー,原稿の作成を行った.加藤木,佐々木,長島は文献スクリーニング,文献レビュー,レビュー結果の整理,および原稿作成に貢献した.森は文献レビュー,レビュー結果の精査,考察における助言を行った.水戸は研究の着想からデザイン,文献スクリーニングとレビュー結果への助言,原稿の洗練など,研究の全プロセスに貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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