日本看護科学会誌
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原著
精神科病院における患者から暴力を受けた新人看護師に対するベテラン看護師の支援のプロセス
重田 ちさと天野 敏江根本 友見岡田 佳詠
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2025 年 45 巻 p. 581-591

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Abstract

目的:患者から暴力を受けた精神科新人看護師に対するベテラン看護師の支援のプロセスを明らかにする.

方法:精神科経験10年以上・看護管理者・精神看護専門看護師のいずれかに該当する看護師12名に面接を実施し,M-GTAを用いて分析した.

結果:ベテラン看護師は【見えにくい不適応な反応を探る】【孤立しやすさを探る】ことで支援の必要性を判断し,一方で〈言語的暴力被害に対する支援のタイミングを逃す〉ことも経験していた.さらに,【安心して相談できる土台づくり】【隠そうとする感情を受け止めコントロールする手助け】【周囲のサポートを強化する働きかけ】の心理的支援から【暴力体験を今後のケアへ繋げる内省の促し】の教育的支援へ移行していた.

結論:心理的支援から教育的支援への移行は,感情のコントロールを支え,二次被害の予防に重きを置いたプロセスであった.また,言語的暴力被害に対する支援体制の確立も今後の課題であると考えられた.

Translated Abstract

Objective: To elucidate the support process provided by experienced nurses to novice psychiatric nurses who have experienced violence from patients.

Method: Interviews were conducted with 12 nurses who met at least one of the following criteria: over 10 years of experience in psychiatric nursing, nursing management position, or certified psychiatric nurse specialist. The data were analyzed using a Modified Grounded Theory Approach (M-GTA).

Results: Experienced nurses assessed the need for support by “identifying subtle maladaptive responses” and “exploring tendencies toward isolation.” They also reported “missing the appropriate timing to provide support in cases of verbal abuse.” Once the need for support was established, they transitioned from psychological support—“creating an environment where the novice nurse felt safe to consult,” “helping to manage and accept suppressed emotions,” and “encouraging the surrounding staff to provide further assistance”—to educational support aimed at “facilitating self-reflection to connect experiences of violence with future Care.”

Conclusion: The transition from psychological support to educational support was a process that emphasized preventing secondary harm while assisting in emotional regulation. In addition, establishing a support system for victims of verbal abuse was considered an ongoing challenge.

Ⅰ. 緒言

精神科看護師の患者からの暴力の経験率は67.9%(木村・井上,2017)と半数以上の看護師が経験しており,言語的暴力にいたっては,8割以上の看護師が経験していたという報告や,複数回にわたって経験していることが明らかになっている(田辺,2009新井ら,2015本武,2019).中でも,若手看護師は患者からの暴力の対象となりやすく,ケア技術の未熟さにより患者の敵意を生じる対応をしやすいことが指摘されている(小宮,2005下里,2019).さらに,須田・出口(2022)は,精神科新人看護師の離職に最も影響する要因は,患者からの攻撃対象になることであり,暴力を受けたことにより生じる否定的感情を処理する困難さを有することや患者への恐怖心から抜け出せない状況が続くことを指摘している.このように,新人看護師は,患者からの暴力の対象となりやすく,かつ,暴力を受けた経験は離職につながる恐れがあるため,被害後のサポートは重要であるといえる.しかし,患者からの暴力に対する支援においては,施設や支援者個人に対応が任されており(槙平ら,2012),支援体制や支援方法が確立されていないという課題がある.

そのような中,国内外における,患者からの暴力に対する支援や対策について,病院内の環境下で暴力事故を発生しにくくするための環境整備や暴力リスクの評価ツールの開発・暴力防止のためのプログラムの導入(Woods & Almvik, 2002下里ら,2007下里,2019Somani et al., 2021)が進められている.さらに,患者から暴力を受けた看護師が求める支援についての調査では,否定的な感情を表出できる機会の提供や安心安全感の保障といった情緒的支援,休息時間の取得のための環境・業務の調整,暴力被害時に誰がどうサポートできるのかという支援体制の整備が挙げられている(城田・土井,2016新井ら,2015松本ら,2019).

また,患者からの暴力を受けた看護師を対象とした,PTSDの予防や早期介入を目的とした研究では,暴力被害後に生じやすい否定的な思考に対する認知行動療法による介入や集団精神療法の効果が示唆されている(新山・岡村,2012Inoue et al., 2011).

一方で,先述のように患者から暴力を受けた看護師に対して求められている支援や効果的な支援の個々の要素はいくつか抽出されているが,精神科新人看護師に焦点を当てた支援体制・方法,支援プロセスの報告は見当たらない.

また,精神科新人看護師が患者からの暴力を受けた際に,支援者の役割を担うのは,主に病棟内の管理者,精神看護専門看護師,経験年数の長い看護師などのベテラン看護師である.ベテラン看護師の特性や能力についての調査では,ベテラン看護師は臨床実践能力に加え,同僚を育てる力,感情のコントロール力,全体を捉える力を有すると抽出されている(八重樫・福井,2022).管理者や精神看護専門看護師ではない役職のついていないベテラン看護師においても,病院看護管理者や専門看護師と同様に,暴力被害後の支援において,相談や調整,教育といった役割を果たしていると考えられる.

そこで,支援経験が豊富であると考えられるベテラン看護師の暴力被害後の新人看護師に対する支援のプロセスに焦点を当て,支援の必要性をどのように判断し,どのように個々の支援を展開しているかを抽出することで,支援体制や支援方法の確立に必要な課題や示唆を得ることが必要である.

Ⅱ. 目的

本研究は,患者から身体的・言語的暴力を受けた精神科新人看護師に対するベテラン看護師の支援のプロセスを明らかにすることを目的とした.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下,M-GTA)(木下,2007)を用いた質的帰納的研究である.M-GTAは,データに密着した分析により理論を生成し,生成された理論から対象の行動の説明と予測が可能となり,さらに生成された理論を現実場面で応用することを前提とした研究手法である.本研究では,身体的・言語的暴力を受けた精神科新人看護師とベテラン看護師の相互作用に焦点を当てて,ベテラン看護師の新人看護師への支援プロセスを明らかにすることを目的とし,さらに,精神科病院内での同様のケースへの応用を想定しているため,M-GTAが適していると判断した.

2. 用語の定義

暴力

下里(2019)の定義を参考に,本研究では,患者から新人看護師に対して,危害を加える要素を持った行動で,暴力を受けた新人看護師自身,またはその暴力を把握した新人看護師を支援するベテラン看護師が容認できないと判断した,すべての脅威を与える行為とした.なお,患者から叩かれる・蹴られるという身体的暴力被害と,大声や罵声,侮辱するような言葉や性的な言葉を投げかけられる言語的暴力被害を含むものとした.

精神科新人看護師

看護基礎教育課程を卒業後1年以内の精神科病院で勤務している看護師とした.

ベテラン看護師

ベテラン看護師の定義として,精神科では10年以上と定義されることが多いと報告されている(八重樫・福井,2022).また,精神科において,暴力被害後の指導や支援の役割を担うのは,多くは,管理職や精神看護専門看護師であり(亀田ら,2025松本ら,2019),暴力被害後の看護師の支援経験が豊富であるといえる.よって,本研究では,精神科勤務経験が10年以上,看護管理者,または精神看護専門看護師,のいずれかに該当する看護師をベテラン看護師と定義した.

支援プロセス

支援プロセスとは,支援の開始から終結までの支援の意図を持った関わりのプロセスとした.

3. 研究対象者

機縁法により,関東圏内の精神科病院を選定し,病院管理者に研究協力の許可を得たのち,看護部長または病棟所属長から,選定条件を満たす看護者の推薦を得た.選定条件は,精神科病院に勤務する看護職者のうち,①看護管理者,②精神看護専門看護師,③精神科の看護師経験が10年以上のいずれかに該当し,患者から暴力を受けた精神科新人看護師を支援した経験がある者とした.

4. データ収集方法

データは対面とZoomを用いたオンラインによる半構造化面接により収集した.調査期間は2020年10月~2023年4月であった.インタビューは,インタビューガイドに沿って,①新人看護師が暴力被害を受けた具体的な状況と反応,②支援が必要と判断した根拠や基準,③支援体制の構築方法,支援内容の詳細,支援する際に抱く思いや困難感,④支援後の新人看護師の反応,支援を終了した根拠について質問した.支援内容については,成功事例の他に,失敗や困難事例についても語ってもらった.

5. 分析方法

分析テーマを「ベテラン看護師の暴力を受けた精神科新人看護師に対する支援のプロセス」とし,分析焦点者を「精神科経験が10年以上または,看護管理者・専門看護師であるベテラン看護師」とした.インタビュー内容の逐語録を起こし,分析ワークシートを作成し,概念を抽出し,概念の統廃合の検討を進め,最終的に20概念が抽出された.概念間の関係を検討しながら,カテゴリーの生成を進め,全体を結果図としてまとめ,分析結果をストーリーラインとして記述した.また,分析とデータ収集は同時進行的に実施し,理論的飽和に達したと判断した12人目時点でデータ収集を終了した.分析については,M-GTAの手法に精通した研究者2名からスーパーバイスを受けて実施した.また,M-GTAで生成される理論の特性に含まれる,「現実との適合性」,「理解のしやすさ」,「一般性」について検討するため,精神科での臨床経験が6年と17年の看護師2名と協議を重ねた.さらに,研究参加者の中で,概念のヴァリエーションが最も多く抽出された2名より,カテゴリーについてメンバーチェッキングを実施し,分析の厳密性,結果の信憑性の確保に努めた.

6. 倫理的配慮

施設管理者・対象者に,研究目的・方法・調査内容に加え,研究参加の任意性やプライバシーの保護について口頭と文書で説明し同意を得た.また,暴力を受けた看護師への支援について語ってもらう際に,患者や看護師の個人名を出さないように伝えてからインタビューを開始し,インタビューでは,プライバシーが守られるよう個室での面接または,Zoomを使用した面接を実施した.また,収集された録音データを文字データにする際に,個人が特定されないよう氏名・施設名の箇所は伏せ字として加工した.なお,本研究は順天堂大学医療看護学部研究等倫理委員会(順看倫第2023-5号)の承認を得て実施した.

Ⅳ. 結果

1. 研究参加者の概要,暴力被害,支援者について

関東圏内の5か所の精神科病院に所属する看護師12名にインタビューを実施し,インタビューの平均時間は47.6分(SD = 18.1)であった.男性7名,女性5名,平均年齢は44.6歳(SD = 6.9)であり,精神科勤務平均年数は18.9年(SD = 3.9)であった(表1).役職は病棟師長が3名,副師長が5名,主任が2名,スタッフ看護師が2名であった.最終学歴は,大学院が4名,大学が2名,専門学校が6名であった.取得している資格については,精神看護専門看護師が4名,Comprehensive Violence Prevention and protection program(以下,CVPPP)のトレーナーが3名,インストラクターが1名であった.

表1 対象者の概要

看護師 性別 年代 経験年数 役職 基礎教育 CNS,認定 CVPPP資格
A 40代 24 スタッフ 専門学校 なし なし
B 40代 16 副師長 専門学校 なし トレーナー
C 50代 24 師長 大学院 精神看護CNS インストラクター
D 40代 20 主任 専門学校 なし なし
E 40代 23 師長 大学 なし なし
F 40代 20 副師長 大学院 精神看護CNS トレーナー
G 40代 15 主任 大学院 精神看護CNS トレーナー
H 60代 19 スタッフ 大学 なし なし
I 40代 19 副師長 専門学校 なし なし
J 40代 18 副師長 大学院 精神看護CNS なし
K 50代 23 師長 専門学校 なし なし
L 30代 12 副師長 専門学校 なし なし

研究内容で語られた暴力被害については,身体的暴力被害と言語的暴力被害であり,身体に後遺症が残るような暴力被害は含まれていなかった.

また,研究対象者である管理者,精神看護専門看護師,役職のない経験年数10年以上のスタッフ看護師からは,それぞれが新人看護師本人と面接を実施した場面が中心に語られており,誰が面接を担当するかについて,本研究において統一した対応は抽出されなかった.なお,役職のないスタッフにおいては,暴力被害が発生した際に,新人看護師の側にいたことで,先輩や同僚の立場で支援にあたったことや,病棟内に管理者が不在の夜勤帯や休日に,代理の責任者の立場で支援にあたったことが語られていた.

2. カテゴリーと概念

分析の結果,全体として,9つの【カテゴリー】と20の〈概念〉が生成された(表2).カテゴリーと概念の関係性を示す結果図を作成し,「患者から暴力を受けた精神科新人看護師に対するベテラン看護師の支援のプロセス」として示した(図1).

表2 カテゴリー・概念・ヴァリエーション一覧

カテゴリー 概念 ヴァリエーション ヴァリエーション数
見えにくい不適応な反応を探る 過剰に自分を責めていないかの確認 暴力を受けた自分っていうことをどう理解してるかっていうところ.あとはそのバランスが少ししっかり取れてるかっていうところ.バランスが考えられてるかっていうところが.自責がすごく強かったら,関わりの話をするとなんか,責められてるような気がしてしまうかなと思うので(F). 15
我慢したり隠そうとする言動を捉える 表情が「自分は大丈夫」っていうふうに表現してんのかなと思うような,恐怖っていうよりは,変な苦笑いをするような.「もう少し」「ちょっとこうしとけばよかったですかね」みたいな.だからあたしからしてみれば,「え,そんなことが起きたのに」って,「首赤いじゃん」って言ってるのに,本人自身が軽いものの見方をするみたいに感じ取ったっていうか(H). 5
孤立しやすさを探る 周囲のサポート状況の確認 あの,困ったときに,そのー,多分夜眠れないとか,ご飯食べられなくなっちゃったっていうときに,身近で誰か相談できる人がいないかと,そういうふうな確認を一通りしました(G). 3
自分から相談できるかの見極め どんどん相談してくるような職員ではなかったんです.そこが心配で,ため込まないかなっていうのと.たまる前に介入したほうがいいかなって思って,ちょっと早めに動きました(I).
やっぱりこの彼女の場合はあまり弱音を吐かない方だったので.いつも明るい感じの子で.ちょっと休憩中にも彼女からは「私は怒ったりしないですよ」みたいな感じで,怒ったり,あと「私はいらいらしないんですよ」っていうふうなことを言う子だったので(D).
8
安心して相談できる土台づくり 申し訳なさを和らげる声かけ 受けた職員は悪くないんだよっていう感じで.誰々さんがいけないことしたからそういうふうに,悪かったわけじゃないよとか,そんな感じ(K).
一番最初に出る反応はどんなときでも,私たちもそうですけど,自分ができてないとか,迷惑掛けてすみませんとか,患者さんの具合悪くしちゃったみたいな,そんなふうな反応をしているので,まずはそこのフォローをしっかりしていくといいかなって感じで関わっています(F).
まず「謝ることじゃない」とは言いましたね.職員は何も悪くないからってことは伝えました.そもそも一人の責任ではないので,これは.たぶん,何言っても悪かったって感じで捉えちゃうと思うんで.当日ですし(I).
8
傷や辛さへの労い たぶん細かい話すると責められる感じになっちゃうと思うんで,申し訳なさそうに思ってるんで,謝る必要はないってことと,傷の心配を基本的にしました.大丈夫かっていう(I).
十分泣いてもらってね.最初はね.最初のほうはもう,行ってするのはもう,まあね,泣きながら「大変だったね」とかね,少し時間は,そういう時間も使います(C).
3
隠そうとする感情を受け止めコントロールする手助け 被害後のストレス反応と回復過程の説明 急性不安障害みたいなね,そういうやっぱり,心の反応として,いつもの自分じゃないような考えだったり感情だったりっていうね,そういう反応は絶対出てくるよっていうか.要はまあ,これから起こり得ることを伝える.PTSDに移行するか移行しないかね,その辺の知識ね.長くても3週間,1カ月ぐらいではだんだん元に戻るからって.簡単に言うとね.だから焦らなくていいよって(C). 3
本当の気持ちを話せるよう後押し 「怖かったでしょう」「怖かったんじゃないの.そういうことは言葉に出して言ったほうがいいよ」って伝えてみました(H).
患者さんの悪口じゃないですけど,嫌なこととか言っちゃいけないかなって,1回目はたぶんそういったスタンスだったんですけど,…人間対人間だから言っていいんだよって言ったことによって,2回目からはどんどん言葉に出てくるようになりましたね(I).
4
周囲のサポートを強化する働きかけ チームでの支援の必要性を共有 やっぱりチームの中で共有するようなことはしてますよね.で,本人に「このぐらいのことは,みんなに分かってもらった方がいいよね」っていう話はして,で,みんなで共有をして.どうなんでしょうね.やっぱりその,暴力被害を受けたら,すごいショックだっていうのは,やっぱみんな共通理解してるところがあるので,やっぱり休息をするとか,休むっていうことに関して,そんなに嫌な顔をする人はいないし(F).
そうですね,師長さんがされてましたね.で,他のあのー,まあ,中堅くらいの看護師さんたちが,積極的に協力をされてましたね.その子がまた同じことを繰り返さないで済むようにはどうしたらいいのかしらね,みたいに考えらえる状況ではあると思います,私自身は(H).
8
患者対応の負荷の軽減 あと満足感,達成感を感じられる.自己効力感が感じられる患者さんを選んで.付けているので.付けていたので,まあ,そういうふうな話のほうにもっていきますね.自信付けさせていくので.本当にこうそういう精神的な負担が多い患者さんっていうのは.基本的には考えていなかったですね(B). 3
休息への抵抗感に配慮した環境調整 「一般的にはそういうふうに言われてるけど,実際僕もそうだったから」って.「だから,仕事をすごい休むことに抵抗あるかもしんないけど,休んで」って(G). 4
回復の程度の見守り 暴力被害前後での看護ケアの変化の観察 普段のケアがどうなのかっていうことをしっかり見ていかなきゃいけないと思ってます.それまで,このイベントがある前までの関わりの状況と,その後の関わりの状況と,どういうふうに違うのかっていうのをこっそりのぞくっていうことをよくやってるんですけどね,陰で見て.イベントがある以前と,大きくその差がある,ないかどうかとか,そこら辺は見ていきますかね.だから,本人は「大丈夫です」とか「いや,私の関わり方が」とか言ってても,実際のケアがどうなのかというところも,一つ見ていくとこかなと(F). 2
ストレス反応についての情報収集 普段どおり仕事ができてるっていうところが大きいかもしれないです.あとは,そのー,彼女と親しい関係性のスタッフに,病棟の様子とか「働いてるけどどう?」って「なんか,あんときのこと思い出して嫌な気持ちになったりしない?」とか「つらくなったりしない?」みたいのも,そっちの方から確認をしてもらって「あ,もう,全然大丈夫です,あんときお世話になりました.」みたいなこと聞かれたので(G).
本人にセルフケアとは言わないですけど,セルフケア的な確認をしてます,まず「眠れてる?」とか「ご飯食べれてる?」とかですね.あとは身なりも見ながら,反応も見ながらっていう感じですけども.生活がしっかりできてるかどうか,寝れてるか,朝,起きれてるかとかっていうことをまず確認して.毎回,その比重は違いますけど,セルフケアは必ず確認してるし,あとは,その,理解について,相手とか自分の理解についても,あの,毎回,その,比重を変えながら話していってますね(F).
2
暴力体験を今後のケアへ繋げる内省の促し 徐々に患者と向き合えるよう促す でもそこを通らないと,安全に,少しでも安全に安心できるような環境をつくってチャレンジしてもらわないと,それそのままにふたして逃げる対応だけしてたら,ずっとやっぱりのちのち引いてくるので.やっぱり安心だって,みんな支えてもらってるっていうような中で「じゃあきょうやってみようか」ってね.っていうことで,やっぱり何ともなかった,大丈夫だったって.やっても,最初はそこの部屋には行けないよ.行けないけど,だんだんやっぱり,何回かこう,重ねていくうちに,その部屋もやっぱり夜入れるようになるとかね(C). 2
暴力につながったケアに気付きを促す問いかけ 正直,「技術が足りないから受けるんだよ」とは言わないですね.ただその状況を聞いて「どんな状況だったの」って部下に,新人ですね,その対象の子に聞いているときにはまず状況を聞きますね.で,足りなそうだな.その考えというか,何て言うんですかね,その情報の中でくみ取れてないだろうと思える.じゃあそのときの患者さんの言動はこうだったとか,その前後,怒ってたとか怒ってないとか,大きな声出してたとか,目つきがすごかったとか~~リスクはあったっていうのを感じたときには,ある程度ひととおり話が終わった中で「じゃあ次の時どうしようか」とかっていうことはお話ししますね(L). 5
再トラウマ防止の意識 過去のトラウマ体験の影響を考慮 他の要因があるんじゃないかと思って.「なんか過去にそういう辛い体験ある?」とか,あとは「今まで自分が生きてきた中で,理不尽な暴言を受けて,学生時代も含めて受けて,しんどくなったことある?」なんていう話をして(F).
言葉じゃないんですけど,暴力を受けた経緯があって,それがトラウマなんですってかなり初期に相談を受けてたっていう情報があったので(I).
2
長期的に支援していこうとする姿勢 基本的には,あの,暴力ってトラウマ的な反応になる可能性があるじゃないですか.そう考えると,一時的な関わりっていうだけではうまくいかないことがたくさんある.ま,このケース以外にもいろいろあるんですけど(F). 3
新人の未熟さを踏まえた暴力ケア技術向上の意識 暴力被害前からの技術の未熟さに対する懸念 話を雑な形で説得をしてしまって終わらせてしまうんですよ.だから,ちょっとそういう癖がこの子にあるなっていう,その新人看護師のコミュニケーションの取り方に気になってたところはあったんです(H). 3
暴力を発生させたくないという思い その患者さんの状態がなるべくよくなるようにしていきたいのに,そうやってじゃあ拘束ですって.もしそのことでなっちゃったら,やっぱり患者さんも気の毒(A). 3
言語的暴力被害に対する支援のタイミングを逃す 暴言の一連があってから急に,あのー,調子が悪いと.「眠れてません.ご飯も食べてないんです,実はこの1週間,あんまり」みたいな話になって.よくよく聞くと,その,毎日暴言を言われるもんだから,あのー,「その人の部屋に行くだけでもう,なんか心臓がどきどきして,胸が苦しくなってしまって,どうしようもないんです」みたいなことを言って.だから,こっちの気付くのが遅かったっていう(F). 3
図1  患者から暴力を受けた精神科新人看護師に対するベテラン看護師の支援のプロセス

1) ストーリーライン

以下にストーリーラインについて述べる.【】はカテゴリー,〈〉は概念として記載した.

精神科のベテラン看護師は,患者から暴力を受けた新人看護師に対して,〈過剰に自分を責めていないかの確認〉や〈我慢したり隠そうとする言動を捉える〉という被害状況をどのように解釈し,被害や傷つきを隠そうとしているかどうかなどの【見えにくい不適応な反応を探る】ことと,〈周囲のサポート状況の確認〉〈自分から相談できるかの見極め〉という,【孤立しやすさを探る】ことで支援の必要性を判断し,支援を開始していた.一方で,〈言語的暴力被害に対する支援のタイミングを逃す〉ことも経験していた.

次に,本人の回復する力を支える心理的支援として,【安心して相談できる土台づくり】,【隠そうとする感情を受け止めコントロールする手助け】をしながら,【周囲のサポートを強化する働きかけ】をしていた.

その後,継続的に【回復の程度の見守り】をし,新人看護師の通常業務を遂行できる程度の心理的回復が見られた場合は,【暴力体験を今後のケアへ繋げる内省の促し】という暴力被害の再発防止のための教育的支援へと移行していた.【回復の程度の見守り】には,【再トラウマ防止の意識】が影響を与えており,回復せずにストレス反応が持続している場合は,トラウマの影響も考慮しながら,本人の回復する力を支える心理的支援に戻るプロセスがあり,新人看護師のストレス反応の程度に応じて,支援が展開されていた.

また,【暴力体験を今後のケアへ繋げる内省の促し】という,暴力被害の再発防止のための教育的な支援については,【新人の未熟さを踏まえた暴力ケア技術向上の意識】が影響していた.

2) カテゴリーと概念の内容

以下にカテゴリー【】と概念〈〉について述べる.表2には,カテゴリー・概念名・ヴァリエーション・ヴァリエーション数を記載した.

(1) 【見えにくい不適応な反応を探る】

【見えにくい不適応な反応を探る】のカテゴリーは,〈過剰に自分を責めていないかの確認〉〈我慢したり隠そうとする言動を捉える〉の2つの概念で構成されていた.〈過剰に自分を責めていないかの確認〉は,暴力被害状況を過度に自責的に認識していないか確認することである.方法として,暴力被害状況をどのように認識しているかを問いかけ,暴力発生の原因を患者側,病棟の管理状況などからバランスよく客観的に捉えられているか,会話の中で判断していた.〈我慢したり隠そうとする言動を捉える〉は,客観的に見ても精神的に辛くなるような暴力被害状況に対して,大げさにしたくないという心理から,我慢したり,抑圧したりしているのではないかと反応に対して抱く違和感を捉えることである.

(2) 【孤立しやすさを探る】

【孤立しやすさを探る】のカテゴリーは,〈周囲のサポート状況の確認〉〈自分から相談できるかの見極め〉の2つの概念で構成されていた.〈周囲のサポート状況の確認〉は,周囲に相談に乗ってくれる先輩や同僚がいるかといったサポート体制を確認することである.〈自分から相談できるかの見極め〉は,周囲の迷惑になると考え,相談せずに悩みを抱え込みやすいかどうかを見極めることである.

(3) 【安心して相談できる土台づくり】

【安心して相談できる土台づくり】のカテゴリーは,〈申し訳なさを和らげる声かけ〉〈傷や辛さへの労い〉の2つの概念で構成されていた.〈申し訳なさを和らげる声かけ〉は,暴力の発生要因について,当該新人看護師のみの責任ではないと伝えることである.〈傷や辛さへの労い〉は,身体的・精神的に傷ついていることに対して,心配し気にかけていると伝えたり,辛い体験を労ることである.

(4) 【隠そうとする感情を受け止めコントロールする手助け】

【隠そうとする感情を受け止めコントロールする手助け】のカテゴリーは,〈被害後のストレス反応と回復過程の説明〉〈本当の気持ちを話せるよう後押し〉の2つの概念で構成されていた.〈被害後のストレス反応と回復過程の説明〉は,暴力被害後にストレス反応が生じることは正常であり,かつ回復には一定の時間が必要であることを説明することである.〈本当の気持ちを話せるよう後押し〉は,暴力被害を受けたことに対して,どのような感情が生じるか,また感情が続くのか問いかけながら,新人看護師が感じた恐怖や怒りのような,感情の表出や言語化を促すことである.

(5) 【周囲のサポートを強化する働きかけ】

【周囲のサポートを強化する働きかけ】のカテゴリーは,〈チームでの支援の必要性を共有〉〈患者対応の負荷の軽減〉〈休息への抵抗感に配慮した環境調整〉の3つの概念で構成されていた.〈チームでの支援の必要性を共有〉は,暴力被害の影響や支援の必要性について,チーム内で共有することで,病棟全体での支援体制を構築し,勤務調整もしやすくすることである.〈患者対応の負荷の軽減〉は,暴力リスクの高い患者や,刺激が強いと考えられる患者対応をしばらくの間はさせないように業務内容を調整することである.これは,業務の遂行よりも,新人看護師の心理的な回復を優先することを意図して行われていた.〈休息への抵抗感に配慮した環境調整〉は,必要な休息を取ることができるよう,患者の受け持ちを外す,場合によっては病棟を移動するといった環境調整を実施することである.その際に,休むことへの罪悪感や抵抗感が生じたり,自分の能力不足で担当患者変更や病棟移動が生じたと新人看護師が考えないよう配慮することである.

(6) 【回復の程度の見守り】

【回復の程度の見守り】のカテゴリーは,〈暴力被害前後での看護ケアの変化の観察〉〈ストレス反応についての情報収集〉の2つの概念で構成されていた.〈暴力被害前後での看護ケアの変化の観察〉は,暴力被害の前後で,患者との距離感の変化や患者を避けるような言動がないかを観察することである.〈ストレス反応についての情報収集〉は,ストレス反応が軽減しているかどうかについて,セルフケアに支障が生じていないか等,新人看護師に直接または,親しい関係の周囲のスタッフ等から広く情報を収集し,回復の程度を確認することである.

(7) 【暴力体験を今後のケアへ繋げる内省の促し】

【暴力体験を今後のケアへ繋げる内省の促し】のカテゴリーは,〈徐々に患者と向き合えるよう促す〉〈暴力につながったケアに気付きを促す問いかけ〉の2つの概念から構成されていた.〈徐々に患者と向き合えるよう促す〉は,被害後の心理的回復状況を確認しながら,可能な範囲で少しずつ患者と向き合えるように促すことである.〈暴力につながったケアに気付きを促す問いかけ〉は,暴力被害に対するメンタルケアに留まらず,次に同じような事態になった際に,暴力被害を回避・軽減できるように対処技術の向上を図ることを視野に入れて支援することである.この時,一方的に指導するのではなく,新人看護師本人がケアの改善点に気づくことができるように,問いかけるように関わることである.〈暴力につながったケアに気付きを促す問いかけ〉は,自責的思考が強い場合は,精神状態を悪化させる可能性があるため実施されず,また,【回復の程度の見守り】により,新人看護師の心理的回復を待ち,振り返りが実施できる状況であると判断してから実施されていた.

(8) 【再トラウマ防止の意識】

【再トラウマ防止の意識】は,〈過去のトラウマ体験の影響を考慮〉〈長期的に支援していこうとする姿勢〉の2つの概念から構成されていた.〈過去のトラウマ体験の影響を考慮〉は,暴力被害に対して,身体的・心理的反応が強い,長期に影響が出ている,業務への支障が大きい場合は,過去のトラウマ体験が刺激されているのではないかと考え,情報収集を行うことである.〈長期的に支援していこうとする姿勢〉は,一時的な心理的介入だけではその場しのぎにすぎないため,心的外傷後ストレス障害への移行も視野に入れつつ,長期的に関わろうとする姿勢のことである.

(9) 【新人の未熟さを踏まえた暴力ケア技術向上の意識】

【新人の未熟さを踏まえた暴力ケア技術向上の意識】のカテゴリーは,〈暴力被害前からの技術の未熟さに対する懸念〉〈暴力を発生させたくないという思い〉の2つの概念で構成されていた.〈暴力被害前からの技術の未熟さに対する懸念〉は,暴力被害前から新人看護師のコミュニケーション技術について気になるところがあり,いつか患者の暴力につながるのではないかという懸念を抱いていることである.〈暴力を発生させたくないという思い〉は,患者が加害者になってほしくないという,患者の暴力を防止したいという思いであり,新人看護師を支援する際の動機にもなっている.

(10) 〈言語的暴力被害に対する支援のタイミングを逃す〉

〈言語的暴力被害に対する支援のタイミングを逃す〉はカテゴリーではないが,カテゴリーと同程度の説明力をもつ概念として抽出された.〈言語的暴力被害に対する支援のタイミングを逃す〉は,言葉の暴力については日常のことと捉えてしまい,新人看護師が影響を受けていることに気づくことが難しく,支援のタイミングが遅れることである.

Ⅴ. 考察

1. 支援のプロセスと支援方法の確立への示唆

本研究結果より,ベテラン看護師は,暴力を受けた精神科新人看護師に対して,【見えにくい不適応な反応を探る】【孤立しやすさを探る】ことで支援の必要性を判断し,支援が必要と判断した場合は,【安心して相談できる土台づくり】【隠そうとする感情を受け止めコントロールする手助け】【周囲のサポートを強化する働きかけ】という心理的支援を実施していた.次いで,【回復の程度の見守り】を経て,回復していた場合は,【暴力体験を今後のケアへ繋げる内省の促し】という教育的支援へと移行するプロセスがあり,ストレス反応が持続している場合は,心理的な支援に戻るプロセスがあり,新人看護師のストレス反応の程度に応じて,支援が展開されていることが示された.

杉山ら(2021)は患者から暴力を受ける体験について,失敗や欠点ではなく成長の機会として肯定的に受け止められるような支援体制を構築することの必要性を指摘している.本研究結果のように,心理的支援に留まらず,暴力被害に対して,患者の興奮や攻撃性へのケア技術向上のための成長の機会とすべく,暴力ケア技術向上のための教育的支援も心理的支援に続き,実施する重要性が示唆される.

また,浮舟・田嶋(2018)は,暴力被害のような否定的感情体験後に,関係構築に向けて,前向きな関わりに切り替えるために必要な方略について,【自分の感情をコントロールする】【チームで関わる体制を整える】を抽出しており,本研究結果の【隠そうとする感情を受け止めコントロールする手助け】【周囲のサポートを強化する働きかけ】と類似していた.先述したような,教育的支援を展開するためには,まず心理的な支援として,【隠そうとする感情を受け止めコントロールする手助け】【周囲のサポートを強化する働きかけ】を通して,ケアを前向きに振り返ることができるよう,否定的な感情の対処方略を支える支援が必要であると考えられた.

さらに,心理的支援から,教育的支援への移行は,単純な支援の順序性や時間経過による移行ではなく,【回復の程度の見守り】により,ストレス反応の軽減,回復を確認してから慎重に行われており,二次被害の予防に重きを置いたプロセスであるといえる.二次被害とは,暴力を受けた後に,管理者や同僚からさらに傷つけられること(三木,2020)であり,二次被害は,暴力の原因や責任を追求されることや,対応について批判されることで生じる.新人看護師のストレス反応が持続している場合,〈暴力につながったケアに気付きを促す問いかけ〉のような教育的な支援は,新人看護師が対応や技術の未熟さを責められているように感じ,二次被害が生じる可能性があるため,ストレス反応が持続している場合は,心理的な支援に戻るプロセスが必要であると考えられる.

三木(2020)は,暴力を受けた看護師への支援における,二次被害を防止する対応として,孤立させず,受容的・共感的態度で接し,自責感を和らげるために「あなたは悪くない」「あなたの対応は間違っていない」と伝えるなどの配慮の重要性を指摘しており,本研究結果の【安心して相談できる土台づくり】の内容と共通性があるといえる.

また,【回復の程度の見守り】に影響を与えていたカテゴリーに,〈過去のトラウマ体験の影響を考慮〉〈長期的に支援していこうとする姿勢〉という【再トラウマ防止の意識】があると考えられる.ベテラン看護師は,〈過去のトラウマ体験の影響を考慮〉〈長期的に支援していこうとする姿勢〉により,ストレス反応が持続することもあるという予測を立てて支援を展開していた.心理的支援の後にストレス反応が持続していても,心理的支援に効果がみられなかったと捉えるのではなく,過去のトラウマの影響や長期で支援が必要な場合もあることを認識し,その場合は,教育的支援に移行せずに,すぐに心理的支援に戻っていたと考えられる.

次いで,教育的支援に影響を与えていたカテゴリーに,【新人の未熟さを踏まえた暴力ケア技術向上の意識】があると考えられる.経験の浅いスタッフは,患者のパーソナルスペースに不用意に侵入したり,態度があいまいになりやすく患者の敵意を生じる対応をしやすいことが指摘されており(下里,2019),新人看護師は,暴力被害を受けやすい患者対応をしている可能性が高い.患者の暴力や攻撃が発動される要因の一つに,コミュニケーションストレスが挙げられ(下里,2005),新人看護師は,看護ケアに対して,知識や経験の不足により,十分に説明することができなかったり,看護ケアを実施することを優先し,患者に対して,正論で追い詰めてしまい,患者の怒りにつながることも少なくない.本研究結果からも〈暴力被害前からの技術の未熟さに対する懸念〉や〈暴力を発生させたくない思い〉が抽出されており,ベテラン看護師は,新人看護師自身の対応が暴力を引き起こす一因であることを認識しており,上述した教育的支援の根底には【新人の未熟さを踏まえた暴力ケア技術向上の意識】があったと考えられる.昨今,暴力防止プログラムとして精神科領域で広く取り入れられているCVPPPにおいても,ケアの対象は暴力を振るう危険人物ではなく「人」であり,どうすればうまく抑えられるかではなく,どうすれば患者が安心できるか,最も気持ちよくいられるかを考えるべきである(下里,2019)と暴力に対するケアのあり方が指摘されている.【暴力体験を今後のケアへ繋げる内省の促し】のような教育的支援においても,安全管理としての暴力を防止することに留まらず,患者が安心できるようなコミュニケーション技術や関係構築を意識した教育的支援が一層求められるといえる.

2. 暴力被害後の支援の必要性の判断について

本研究結果より,ベテラン看護師は,暴力を受けた精神科新人看護師に対して,【見えにくい不適応な反応を探る】ことと【孤立しやすさを探る】ことで支援の必要性を判断していることが示された.

先行研究より,暴力を受けた看護師は,患者に暴力を振るわせてしまったという罪悪感や自責の念,上司や同僚に対する羞恥心,迷惑をかけたくないという思いを抱きやすいことが明らかとなっている(小宮ら,2004三木,2005金谷ら,2015).さらに,梅本ら(2025)の,新人看護師のコミュニケーションの困難についての調査では,先輩に認められたい,思いをうまく伝えられない,また自分のできなさによる落ち込みを経験することが報告されている.よって,先述した先行研究より,新人看護師の場合,患者から暴力を受けた際に,より自責の念を抱きやすく,暴力被害を上司や同僚に知られたくないと感情を抑制する傾向があることが推察される.そのため,ベテラン看護師は,注意深く【見えにくい不適応な反応を探ること】で支援の必要性を判断していたと考えられる.

また,暴力被害は心的外傷体験(トラウマ)となり得る出来事である.心的外傷体験を契機に発症するPost Traumatic Stress Disorder(以下,PTSD)に関する先行研究において,Zalta et al.(2021)は,ソーシャルサポートがPTSDの予測因子の一つであることを報告している.さらに,ストレス対処理論の一つである資源保存理論(Hobfoll, 1989)では,ストレスに対処するための資源を十分に有しているかどうかが個人のストレス対処に関わるといわれている.これらが示すように,ベテラン看護師は,〈周囲のサポート状況の確認〉〈自分から相談できるかの見極め〉により,PTSD発症のリスクや,外傷体験というストレスを乗り越えるための対処資源が不足していないか査定するために【孤立しやすさを探る】ことをしていたと考えられる.

一方で,言語的暴力被害後の支援の必要性の判断について,失敗体験として語られていた,〈言語的暴力被害に対する支援のタイミングを逃す〉という概念が抽出されたことは,本研究の特徴的な結果であった.

先行研究では,看護師は暴力被害を仕事の一部であると認識しており,暴力被害が報告されづらく(Bekelepi & Martin, 2022),「暴力はよくあることでたいしたことではない」と暴力の程度を低く見積もることで,上司への援助要請が妨げられることが報告されている.身体的暴力被害と比べ,言語的暴力は,身体への損傷がないため,上司への報告や相談されづらいことが推察され,さらに,先述したように,新人看護師の場合は,暴力被害後の不適応な反応が見えづらく,支援に繋がりにくい特徴があると考えられ,言語的暴力被害への支援の必要性の判断や支援の開始のタイミングを掴むことに課題があることが示唆された.そのため,言語的暴力被害に対しては,新人看護師自身がより自発的に周囲へ支援を求められるように教育することや,新人看護師自身の言語的暴力被害に対するセルフケア能力を向上するようなプログラム開発が望まれる.

Ⅵ. 研究の限界と今後の課題

本研究では,精神科のベテラン看護師として,看護管理者・精神看護専門看護師・経験年数10年以上の看護師を対象にM-GTAを用いて支援プロセスを明らかにしている.そのため,今後の支援体制の確立に向けて,本研究結果で明らかになったプロセスにおいて,誰がどのプロセスを支援していくことが効果的であるか,役職や職責に応じた役割分担や連携方法についても,実践での応用を通して検討していくことが求められる.

Ⅶ. 結論

ベテラン看護師は,暴力を受けた精神科新人看護師に対して,【見えにくい不適応な反応を探る】【孤立しやすさを探る】ことで支援の必要性を判断し,支援を開始していたが,一方で,〈言語的暴力被害に対する支援のタイミングを逃す〉ことも経験していた.また,心理的支援として,【安心して相談できる土台づくり】【隠そうとする感情を受け止めコントロールする手助け】【周囲のサポートを強化する働きかけ】をし,その後,継続的に【回復の程度の見守り】をし,回復が見られた場合は,【暴力体験を今後のケアへ繋げる内省の促し】という教育的支援へと移行するプロセスが見られた.

このような心理的支援から,教育的支援への移行は,感情のコントロールを支えながら,二次被害の予防に重きを置いたプロセスであった.

また,言語的暴力被害に対する支援体制の確立も今後の課題であると考えられた.

付記:本研究は,第41回日本看護科学学会学術集会で発表した.

謝辞:ご協力いただきました研究協力施設の皆様に深く御礼申し上げます.また,精神看護学領域ゼミ生の皆様やご助言いただきました全ての方に心より御礼申し上げます.なお,本研究は,JSPS科研費18K17535の助成を受け実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:CSは研究の着想及びデザイン,データ収集と分析,論文作成,YO,TN,TAは分析,論文作成に貢献し,全ての著者が最終原稿を読み承認した.

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