日本看護科学会誌
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原著
看護小規模多機能型居宅介護に従事する看護師の看護実践自己評価尺度の開発と妥当性の検討
小野 博史渡邊 里香中西 永子河野 孝典粟村 健司芳賀 邦子撫養 真紀子真鍋 雅史新居 学坂下 玲子
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2025 年 45 巻 p. 60-71

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Abstract

目的:看護小規模多機能型居宅介護サービス(看多機)は,通所,訪問,宿泊サービスを組み合わせた新しいサービスである.本研究の目的は看多機に従事する看護師に求められるコンピテンシーに基づいた看護実践自己評価尺度の開発と妥当性の検証にある.

方法:2021年6月末時点で開設されていた看多機729施設に所属する看護師を対象として,評価指標案を用いた質問紙調査を実施し,因子構造の決定と尺度の内的一貫性,妥当性を評価した.

結果:949枚のアンケートを配布し,865枚を回収した.欠損値がない649枚を分析し,9因子59項目で構成される尺度を開発した.各因子のクロンバックα係数は全て0.9以上であり,全ての因子における経験年数3年以上の得点は,有意に3年目未満の得点を上回っていた.

結論:開発した尺度は十分な妥当性を備えており,今後は看多機で提供されているケアを評価することへの活用が期待される.

Translated Abstract

Purpose: Small-scale multifunctional in-home nursing care, called Kantaki, is a new service that combines day care, home-visit nursing, and short-stay services. This study developed a self-assessment scale for practical nursing skills required by nurses engaged in Kantaki and examined its validity.

Methods: Using the developed assessment instrument, a questionnaire survey was conducted with registered nurses from 729 Kantaki facilities that were open by the end of June 2021. The scale’s factor structure was determined, and the internal consistency, content validity, construct validity, and criterion validity were evaluated.

Results: From the 949 distributed questionnaires, 865 responses were received. Of these, 649 questionnaires with responses to all items were analyzed. Subsequently, a scale comprising 59 items and nine factors was developed. Cronbach’s alpha coefficient was greater than 0.9 for each factor. Content and construct validities were sufficient, and the factor points of each factor for participants with more than three years of clinical experience were significantly higher than for those with less than three years of clinical experience.

Conclusion: The developed scale had adequate validity, and can be used to evaluate care provided by nurses in Kantaki.

Ⅰ. 緒言

2000年に介護保険制度が制定されて以降,様々な訪問サービス,通所サービス,入所サービスが展開されているが,その多くは医療処置を伴うサービスの提供が想定されておらず,医療ニーズを抱える療養者にとっての利用のしにくさが指摘されている(田邉・嶋津,2018).継続的な医療処置や介護が必要な人々が地域で在宅療養を継続できるようなシステムとして,2012年に訪問看護・訪問介護サービス,通所サービス,泊まりサービスなど多様なサービスを1つの事業者が提供する複合型サービスである看護小規模多機能型居宅介護サービス(以下,看多機)が設立された.看多機が持つサービスの強みとして,柔軟で切れ目のない利用者・家族支援,看取りを含めた医療ニーズの高い利用者のケア,連泊を利用した円滑な在宅移行支援,月額固定制による利用者の経済的負担の軽減,看護と介護の連携と学びあいによる成長が挙げられている(片平ら,2019).

看多機の事業所は2023年4月時点で全国に952施設あり,右肩上がりで増加しているものの,小規模の自治体ではまだ1か所もないところも多い(日本看護協会,2023).看多機のサービス普及が滞る原因として,利用者だけではない医療者自身のサービス理解の低さ,利用者ごとにサービス内容が異なるという制度の難解さ,臨機応変な対応能力を持つ人材の不足などが挙げられており(近松・宮園,2024),新たなサービスの中で看護師がどのように実践すればよいか明確になっていないことが大きな課題である.看護実践能力の不足は,急な予定の変更や優先度の判断といった複雑なタスクに対する困難感を生み出し,自己効力感の低下をもたらすと言われている(小口ら,2020).実際に,受診の必要性の判断や緊急時の対応,柔軟なケアサービスの利用の手配など看多機に従事する看護師が利用者に提供するサービスの内容が多岐にわたるため,看多機で働く看護師の自己効力感が低くなっていることが報告されている(Katahira & Tsukasaki, 2016).看護実践能力を高めることによる専門職的自律性の向上が,看護師の自己効力感を高めていく(中谷・森,2018)ことから,看多機のサービスを普及させていくためには,看護師が自分に求められるサービス内容を把握してその専門性を確立し,実践能力を向上させていく必要がある.

看護師の実践能力を評価するための概念として,コンピテンスが注目されている(東京大学医学部附属病院看護部,東京大学医科学研究所附属病院看護部,2014).コンピテンスとは,仕事を成功に導き,卓越した成果を生むための能力を意味する概念であり,現実に確認が可能な思考や行動の特性をコンピテンシーと呼び(McClelland et al., 1977),コンピテンシーを重視することは質の高い看護実践へとつながる(Almarwani & Alzahrani, 2023).しかし,看護実践に求められるコンピテンスは多次元的で,複雑な構造であるため,測定することは容易ではなく(Prendi et al., 2022),臨床能力を効果的に評価するためのツールとして省察に基づく自己評価が最適であると言われている(Cowan et al., 2008).そのため,質の高い看護実践を実現するためにはコンピテンスを明らかにするだけではなく,看護実践を自己評価できるツールが必要となる.

地域高齢者へのケア実践に関係する自己評価ツールとして,在宅における看護実践自己評価尺度(三浦ら,2005)や特別養護老人ホームにおける看護実践能力尺度(笹谷・長畑,2019),介護老人保健施設に従事する看護職の看護実践能力自己評価尺度(小野・夏原,2020),地域包括ケア病棟看護師における高齢者の生活を支える看護実践自己評価尺度(荒井ら,2023)などが挙げられるが,これらの尺度は看多機という複雑な制度下でのサービスに求められる多様な看護実践を十分に反映したものではない.そこで本研究では,看多機に従事する看護師が自分自身の看護実践を自分で振り返り,評価するための十分な妥当性を有する尺度を開発することを目的とする.

Ⅱ. 研究方法

1. 項目プールの作成

尺度の構成概念として,撫養ら(2023)の看護小規模多機能型居宅介護施設で働く看護師に求められるコンピテンシーで示されている【その人の生活の中で歩み寄りを続ける】【その人や家族の強みを引き出し生活に取り入れる】【個々に合わせ臨機応変にケアを創造する】【命をまもる】【最期まで『生きる』を支える】【家族を支える】【その人の居場所をつくる】【その人を地域で支えるチームをつくる】の8つのカテゴリーを採用した.これは,坂下ら(2021)がコンピテンシーモデル開発の手法(Spencer & Spencer, 1993/2001)に基づいて実施した調査から明らかになった7つの行動特性を精錬したものであり,渡邊ら(2023)によって重要度の観点から項目内容の妥当性が検証されている.

まず,坂下ら(2021)が調査したインタビューデータの再分析と文献検討を通して,看多機のサービスとして実際に提供されていると考えられる92項目の行動指標の原案を作成した.次に,機縁法を用いて地域属性や設置主体属性が偏らないように全国の様々な地域から看多機に従事する看護師18名を選出し,1グループを4~5名とした4グループのそれぞれに2回のフォーカスグループインタビューを実施した.8つのコンピテンシーに基づく看護実践を評価するという観点から92項目の行動指標の表面的妥当性を検討し,不適切な項目の削除や項目表現の見直し,必要な項目の追加を行い,最終的な項目プールとして,看多機の独自性が反映されていると考えられる87項目の実践評価尺度案を作成した.

2. 本調査

2021年6月末時点で介護サービス情報公表システムに登録されていた729か所の看多機全施設に所属している看護師を対象として,作成した評価尺度案を用いた質問紙調査を実施した.質問紙は,個人属性項目(年齢,看護師経験年数,看多機経験年数)と評価尺度案87項目で構成され,評価項目は「十分に実践している(5点)」,「かなり実践している(4点)」,「ある程度実践している(3点)」,「あまり実践していない(2点)」,「全く実践していない(1点)」の5段階のリッカート形式での回答を求めた.また,回答者にとっての各項目の表現内容のわかりやすさを確認するために「意味が分かりにくい」のチェック欄を設けた.加えて,施設によって重視されるサービス内容が異なっているという現状(粟村ら,2023)を考慮して,「そのような場面はない」のチェック欄を設けた.

看多機の施設管理者に依頼文を送付し,同意が得られた管理者から施設に所属している看護師に質問紙調査票を配布した.各施設での配布人数は最大6名とし,看護師が6名以上在籍している場合は,1週間の勤務時間が長い順番に配布を依頼した.管理者による強制力を排除するため,質問紙は無記名とし,返送方法は個別の郵送とした.また,管理者には施設内での質問紙配布枚数を記した用紙を返送してもらい,全体の配布枚数を算出した.

3. 分析方法

統計解析には,IBM SPSS statistics28を用いた.「そのような場面はない」の欄にチェックがあった回答は,実践していないことと同義であることから「全く実践していない(1点)」のデータとして取り扱った.また,質問紙内にひとつでも未回答項目があった場合は分析対象から除外した.

まず各項目の平均値と標準偏差を算出し,天井効果として[平均値+標準偏差]が5点以上の項目とフロア効果として[平均値-標準偏差]が1点を下回る項目を除外した.次に主因子法によるプロマックス回転を用いた因子分析を行い,カイザー基準(Kaiser, 1960)に則って,固有値が1.0を下回らない解釈可能な因子構造を確定したあと,主因子法によるプロマックス回転を用いた探索的因子分析を行った.相関係数が0.8以上であった項目の組み合わせに対しては,因子負荷量が低い方の項目を取り除いた.再び主因子法によるプロマックス回転を用いた因子分析を実施し,因子負荷量が0.4未満のものを取り除いた.最後に複数の因子で0.4以上の因子負荷量を持つ項目を除外した.

尺度の妥当性の検証として,各因子のCronbach’s α係数を算出し,内的整合性の確認を行った.また,各因子内項目の合計点を因子内項目数で除した値を因子得点とし,看多機における経験年数と因子得点との関係性について評価した.Bennerは,看護師が実践経験を通して熟達していく段階を,初心者(novice),新人(advanced beginner),一人前(competent),中堅(proficient),達人(expert)の5段階で分類し,3年目以上を中堅看護師となる目安としている(Benner, 2001).そのため,看多機に従事するためのコンピテンシーが備わる時期として経験年数3年を採用し,t検定を用いて比較した.

4. 倫理的配慮

本調査は,兵庫県立大学看護学部・地域ケア開発研究所研究倫理委員会の承認(承認番号:2021F11)を受けて実施した.

Ⅲ. 結果

1. 調査票の回収率と対象者の概要

2021年6月末時点において開設されていた看護小規模多機能型居宅介護729施設の管理者に依頼状を配布した結果,227施設(31.1%)において949枚の質問紙が看護師に配布された.そのうちの865枚(回収率91.1%)が回収され,質問紙の同意欄にチェックがあった枚数は838枚(88.3%)であった.ひとつでも欠損データが存在したアンケートは除外し,649枚(有効回答率77.4%)を分析対象とした.

回答者の年齢区分は,34歳以下が68名(10.5%),35~39才が103名(15.9%),40~44才が77名(11.9%),45~49才が84名(12.9%),50~54才が105名(16.2%),55~59才が85名(13.1%),60~64才が68名(10.5%),65歳以上が53名(8.2%),未回答が6名(0.9%)であった.看護師経験年数は22.8 ± 12.2年,看多機の経験年数は2.8 ± 2.7年であった.

各項目の回答結果を表1に示す.「意味がわかりにくい」という回答はほぼなく,最も高かったものは項目87「その人の状況に応じた,より機能的なチームを臨機応変に再編する」の4名(0.6%)であった.

表1 回答結果の概要

項目 意味が分かりにくい そのような場面はない 有効回答 平均値 標準偏差 天井効果
Mean + 1SD
フロア効果
Mean – 1SD
1 1.生活歴や性格等の情報をその人や家族から引き出す 0 12 649 3.53 0.88 4.41 2.65
2.その人の価値観,人生観,信条等を引き出す 0 11 649 3.36 0.85 4.21 2.51
3.継続した観察や関わりを通して,その人や家族の変化に気づく 0 8 649 3.65 0.81 4.46 2.84
4.その人や家族が納得いくまで,根気よく説明する 0 9 649 3.50 0.88 4.38 2.62
5.その人のペースに合わせて,じっくりと関わる 0 2 649 3.74 0.81 4.55 2.93
6.その人と率直な気持ちを伝えあえる関係性を築く 0 3 649 3.57 0.78 4.35 2.78
7.何でも遠慮なく話してよいことを伝える 0 5 649 3.87 0.89 4.76 2.99
8.その人や家族の望みを確認し続ける 0 7 649 3.61 0.88 4.50 2.73
2 9.その人ができることを探し,生活に取り入れる 0 6 649 3.38 0.84 4.22 2.54
10.その人が成功体験を得られるよう,できることを実施してもらう 0 7 649 3.31 0.83 4.14 2.49
11.その人の能力を見極めながら,徐々にできることが増やすように関わる 0 6 649 3.36 0.82 4.18 2.54
12.その人の興味や関心のあることに着目し,意欲を高める 0 5 649 3.41 0.82 4.22 2.59
13.その人の状況をその人自身や家族にわかりやすく伝え,共有する 0 12 649 3.49 0.85 4.34 2.64
14.その人や家族が持つ強みをスタッフ間で共有し,足並みの揃った働きかけをする 1 5 649 3.35 0.84 4.20 2.51
15.日常動作の中でその人のADLの維持・回復につながることを取り入れる 0 2 649 3.50 0.80 4.30 2.70
16.その人に備わっている機能を引き出せるように関わる 0 3 649 3.42 0.81 4.23 2.61
3 17.その人の身体状況や要望等個別性を重視しながら,ケアの方法やタイミングを工夫する 0 6 649 3.57 0.80 4.37 2.77
18.個別的な要望に応じて生活環境を整える 0 13 649 3.34 0.88 4.22 2.46
19.その人の生活に合わせてケアの内容を柔軟に変える 0 8 649 3.60 0.84 4.45 2.76
20.その人の思いだけを尊重するのではなく,時間をかけて双方が合意できる着地点を探す 0 12 649 3.29 0.83 4.12 2.46
21.その人の状況の変化に合わせ,迅速に緊急の泊まり等の調整をする 0 48 649 3.45 1.23 4.68 2.23
22.その人のその日の状態や希望にあわせ,スケジュールを臨機応変に組む 0 34 649 3.48 1.12 4.60 2.37
23.その人の生活のなかでみられる,普段とは異なる徴候やその変化を察知する 0 2 649 3.68 0.76 4.44 2.92
24.その人が上手く訴えられないケアニーズを把握する 0 5 649 3.38 0.75 4.13 2.63
25.経済的な負担を考慮し,居宅にあるもので代用してケアを提供する 0 26 649 3.43 0.98 4.41 2.44
26.介護の点数や自己負担額に応じたサービスをケアマネージャーと話し合い,サービス内容を見直す 0 45 649 3.16 1.12 4.28 2.04
4 27.排泄困難な人に対して,医師と連携し適切な排泄管理を実施する 0 16 649 3.67 0.97 4.64 2.70
28.喀痰の喀出困難な人に対して呼吸管理を行い,安楽な呼吸を助ける 0 29 649 3.69 1.03 4.73 2.66
29.緊急時に必要な医療的ケアを実施する 0 13 649 3.86 0.94 4.80 2.91
30.症状コントロールが難しい人に対して,検査データ等をモニタリングしながら症状の緩和を行う 0 38 649 3.23 1.01 4.24 2.22
31.褥瘡や難治性の皮膚トラブルを抱える人に対して,スキンケアを実施する 0 9 649 4.00 0.87 4.87 3.14
32.感染を繰り返す人の在宅療養を維持する 0 81 649 3.25 1.21 4.46 2.04
33.肺炎を起こさないために口腔内の清潔を保つ 0 6 649 3.96 0.85 4.81 3.11
34.その人や家族が適切な感染予防を実施できるような教育的関わりを行う 0 35 649 3.21 0.98 4.20 2.23
35.在宅で衛生的な環境が保てるように感染経路別の予防策を実施する 0 42 649 3.11 1.01 4.12 2.10
36.介護職が判断できない急変に対応する 0 9 649 3.96 0.87 4.83 3.09
37.誤嚥対策をした上で,食べたい物を安全に食べられるように支援する 0 8 649 3.72 0.91 4.63 2.82
38.言語療法士等の専門職と連携しながら食べられるように間接訓練を実施する 0 153 649 2.41 1.29 3.70 1.12
5 39.その人が最期まで生きようとする希望を実現するために,看多機としてできることを示す 0 31 649 3.68 1.07 4.75 2.61
40.終末期に変化するその人や家族の意向を確認し続ける 0 40 649 3.73 1.14 4.86 2.59
41.その人の思いと家族の思いがずれている場合は,折り合いをつけるための場を設ける 0 73 649 3.20 1.20 4.41 2.00
42.家族の能力をアセスメントし,訪問や宿泊を組み合わせ看取りの場を整える 0 65 649 3.44 1.27 4.71 2.18
43.最期にその人や家族が望むことをできる限り叶える 0 47 649 3.62 1.15 4.76 2.47
44.家族/重要他者のスケジュールや状態を踏まえた上で,最期までその人と過ごせる時間を確保する 0 60 649 3.52 1.21 4.73 2.30
45.終末期にその人と家族/重要他者が同じ部屋で寝泊まりできるように,部屋の環境を調整する 0 123 649 3.01 1.45 4.46 1.56
46.終末期にその人が好きなことを家族/重要他者と一緒に行えるように環境を整える 0 89 649 3.18 1.31 4.49 1.88
47.終末期にその人がありのまま気兼ねなく過ごせるように関わる 0 53 649 3.46 1.11 4.57 2.35
48.その人が亡くなる過程をあらかじめ家族/重要他者に説明する 0 75 649 3.42 1.26 4.69 2.16
49.看取りの以前からその人の死生観や信条を尊重して関わる 0 56 649 3.21 1.15 4.36 2.06
50.その人が孤立,孤独感を感じないような工夫や関わりを実践する 0 46 649 3.39 1.05 4.44 2.34
51.最期まで家族/重要他者と一緒にケアをし,そばで見守り続ける 1 67 649 3.40 1.20 4.60 2.19
52.その人が楽に過ごせるように,薬剤(麻薬等)を使用し苦痛を緩和する 0 114 649 3.20 1.37 4.58 1.83
53.終末期に起こる症状や苦痛に対してケア(タッチング,マッサージ,マット使用等)を実践する 0 66 649 3.49 1.21 4.70 2.27
6 54.その人のおかれている状況と展望を伝え,家族と目標をすりあわせる 0 36 649 3.29 1.02 4.32 2.27
55.家族の状況や介護能力を把握する 0 24 649 3.54 0.95 4.49 2.59
56.家族の持てる力(介護力)が活かせるように支援する 0 27 649 3.40 0.97 4.37 2.43
57.家族のこれまでの方法を否定せず,前向きに取り組めるように技術や精神面を支援する 0 26 649 3.47 0.96 4.44 2.51
58.家族の思いをじっくりと聞き,不安を軽減するための提案を行う 0 26 649 3.51 0.97 4.48 2.55
59.家族の生活や介護状況に応じて,できることが増えるように介護サービスの情報や技術を提供する 0 36 649 3.35 1.02 4.37 2.34
60.家族が休息できるように声かけし,通所や宿泊のサービス利用を調整する 0 56 649 3.41 1.17 4.59 2.24
61.看取りを経験した家族の,その人との思い出話を傾聴する 0 101 649 3.05 1.31 4.36 1.73
62.看取りを経験した家族の状況をアセスメントし,必要時は専門的な支援につなげる 0 128 649 2.66 1.32 3.98 1.34
7 63.看多機をその人が安心できる場として整える 0 6 649 3.59 0.86 4.46 2.73
64.その人と顔なじみになり安心感を作る 0 4 649 3.85 0.82 4.66 3.03
65.その人と家族がどのように暮らしたいかを聞き,その人が望む生活リズムをつくる 0 26 649 3.43 0.98 4.40 2.45
66.その人の生活の中で楽しみや集中できることを大切にしながらともに過ごす 0 8 649 3.47 0.86 4.32 2.61
67.自宅で快適に過ごせるように,施設での過ごし方をその人や家族と相談する 0 26 649 3.31 1.00 4.31 2.32
68.その人が,できることを通して,その人の役割を見いだせるよう支援する 0 9 649 3.32 0.88 4.20 2.44
8 69.家族が様々な専門職と知り合う場を調整する 0 80 649 2.70 1.16 3.85 1.54
70.家族に必要な専門職や社会資源(医療材料業者,家事代行サービス等)を紹介する 0 84 649 2.75 1.19 3.94 1.56
71.その人と家族を含めたチームの構成員がその人の思いの実現に向けて前向きに挑戦する 0 43 649 2.99 0.99 3.98 1.99
72.介護職が不安なケアや技術を,一緒に見ながら実施できるように支援する 0 13 649 3.50 0.94 4.44 2.55
73.看護職と介護職が相互理解できるように,カンファレンスやノート等で情報を共有する 0 4 649 3.82 0.91 4.73 2.90
74.介護職が疑問に感じたことを,気軽に相談できる関係性を築く 0 2 649 3.84 0.87 4.72 2.97
75.定期的にケアマネージャーとケースカンファレンスを実施し,その内容をケアに活かす 1 25 649 3.31 1.13 4.44 2.19
76.迅速なサービス変更のために,その人についての情報を,ケアマネージャーと共有する 0 20 649 3.61 1.06 4.67 2.56
77.緊急時の対応等について,看護の専門性を持って医師や多職種に意見を伝える 0 23 649 3.67 1.04 4.71 2.63
78.円滑な意思疎通のため,その人や家族と医師との仲介役になる 0 29 649 3.46 1.06 4.52 2.40
79.専門職(主治医,セラピスト,看護職,ケアマネージャー,薬剤師,歯科医師等)が相談して,その人にあった個別プログラムを作る 2 71 649 2.87 1.17 4.04 1.70
80.地域の資源(民生委員やボランティア等)を活用する 0 117 649 2.20 1.06 3.26 1.14
81.組織に所属する関係者も含めた定期的な多職種カンファレンスを開催する 0 91 649 2.46 1.16 3.62 1.30
82.カンファレンスを通して,互いに良いケアや関わりを伝え合う 0 24 649 3.17 1.02 4.19 2.15
83.再入院をさせない等,チーム全体で実現すべき目標を確認し共有する 0 30 649 3.06 1.02 4.09 2.04
84.退院前カンファレンスに参加し,入院中の状態を把握する 0 95 649 3.01 1.32 4.33 1.69
85.異なる施設の看多機間で互いに情報共有をする 0 137 649 2.11 1.20 3.32 0.91
86.平時より地域での催し物に参加する 1 128 649 2.03 1.09 3.12 0.94
87.その人の状況に応じた,より機能的なチームを臨機応変に再編する 4 100 649 2.47 1.16 3.63 1.31

「そのような場面はない」という回答が最も高かったものは項目38「言語療法士等の専門職と連携しながら食べられるように間接訓練を実施する」で153名(23.6%),次に高かったものは項目85「異なる施設の看多機間で互いに情報共有をする」で137名(21.1%)であった.カテゴリー別では【最期まで『生きる』を支える】【その人を地域で支えるチームをつくる】【家族を支える】【命をまもる】で頻度が高く,【その人の生活の中で歩み寄りを続ける】【その人や家族の強みを引き出し生活に取り入れる】【個々に合わせ臨機応変にケアを創造する】【その人の居場所をつくる】では比較的に頻度が少なかった.

2. 尺度項目の分析

87項目の天井効果とフロア効果を確認した結果,項目85,86がフロア効果に該当したため除外した.主因子法による因子分析を行って固有値を確認したところ,11因子以上の場合に固有値が1以下を示した.8因子と仮定した場合には因子構造と質問紙のカテゴリー構造に不一致が生じ,9因子と仮定した場合には,8番目のカテゴリーが2因子に分かれるものの,全体の因子構造が質問紙のカテゴリー構造と一致したことから,解釈が可能な因子構造として9因子が妥当であると判断した.

次に尺度構造を9因子として,主因子法によるプロマックス回転を用いた因子分析を行った.まず,相関係数が0.8以上あった組み合わせに対して因子負荷量が低い項目12項目を取り除き,次に因子負荷量が0.4未満かつ最も小さい項目を取り除いて,再度プロマックス回転をかける手続きを繰り返した結果,13項目を除去した時点で,全ての尺度項目の因子負荷量が0.4以上となった.さらに複数の因子で0.4以上の因子負荷量を持っていた1項目を除外して尺度項目を確定した.9因子59項目の累積寄与率は71.6%であった.表2に最終的な因子分析の結果を示す.

表2 看護小規模多機能型居宅介護に従事する看護師の看護実践評価尺度の因子分析結果

項目 I II III IV V VI VII VIII IX
I.【その人の生活の中で歩み寄りを続ける】
1.生活歴や性格等の情報をその人や家族から引き出す .89 –.02 –.14 .02 –.02 –.05 .06 –.01 .05
2.その人の価値観,人生観,信条等を引き出す .81 .07 –.11 .04 –.01 –.12 –.02 –.03 .15
3.継続した観察や関わりを通して,その人や家族の変化に気づく .80 –.07 –.01 .08 –.02 .04 .02 .00 –.04
4.その人や家族が納得いくまで,根気よく説明する .70 .03 .04 –.01 –.02 .05 –.07 .07 .00
5.その人のペースに合わせて,じっくりと関わる .45 .15 .25 –.11 .02 .01 .08 –.02 –.12
6.その人と率直な気持ちを伝えあえる関係性を築く .65 .08 .12 .00 .00 –.06 .10 –.04 –.06
7.何でも遠慮なく話してよいことを伝える .53 –.02 .09 –.01 .08 –.07 .25 –.01 –.13
8.その人や家族の望みを確認し続ける .68 .10 .05 –.05 .04 .05 –.01 .03 –.02
II.【その人や家族の強みを引き出し生活に取り入れる】
9.その人ができることを探し,生活に取り入れる .04 .78 .01 –.02 .01 .10 .03 –.04 –.02
10.その人が成功体験を得られるよう,できることを実施してもらう .07 .94 –.09 –.06 .02 –.06 –.05 .07 –.02
11.その人の能力を見極めながら,徐々にできることが増やすように関わる .00 .88 –.01 .05 .00 .00 .00 .00 –.04
12.その人の興味や関心のあることに着目し,意欲を高める .04 .83 –.03 .01 –.01 –.01 –.02 .03 .04
16.その人に備わっている機能を引き出せるように関わる .04 .55 .22 .04 .04 –.09 .08 –.01 .03
III.【個々に合わせ臨機応変にケアを創造する】
17.その人の身体状況や要望等個別性を重視しながら,ケアの方法やタイミングを工夫する –.01 .15 .64 .07 .06 .02 –.03 .10 –.14
18.個別的な要望に応じて生活環境を整える –.02 .06 .81 .04 –.05 .04 –.05 –.12 .16
19.その人の生活に合わせてケアの内容を柔軟に変える .03 –.10 .86 .05 –.03 .04 .04 .01 –.01
20.その人の思いだけを尊重するのではなく,時間をかけて双方が合意できる着地点を探す .17 .05 .66 –.05 –.02 .01 –.10 –.08 .24
IV.【命をまもる】
27.排泄困難な人に対して,医師と連携し適切な排泄管理を実施する –.04 .01 .13 .54 –.02 –.08 –.06 .27 –.01
28.喀痰の喀出困難な人に対して呼吸管理を行い,安楽な呼吸を助ける –.12 –.03 .10 .68 .18 –.14 .15 .00 –.11
29.緊急時に必要な医療的ケアを実施する .00 –.08 .04 .62 .20 –.01 .02 .21 –.18
30.症状コントロールが難しい人に対して,検査データ等をモニタリングしながら症状の緩和を行う .08 .11 –.04 .72 .02 –.02 –.18 .01 .09
31.褥瘡や難治性の皮膚トラブルを抱える人に対して,スキンケアを実施する –.04 –.01 .04 .64 .01 –.01 .17 .17 –.23
32.感染を繰り返す人の在宅療養を維持する .08 –.10 –.08 .86 .07 –.06 –.01 –.12 .15
34.その人や家族が適切な感染予防を実施できるような教育的関わりを行う .08 .10 –.04 .64 –.12 .22 –.05 –.07 .09
35.在宅で衛生的な環境が保てるように感染経路別の予防策を実施する .02 .07 .01 .59 –.06 .21 –.04 –.17 .20
V.【最期まで『生きる』を支える】
39.その人が最期まで生きようとする希望を実現するために,看多機としてできることを示す .11 –.04 –.01 .07 .58 .10 .08 .11 –.11
41.その人の思いと家族の思いがずれている場合は,折り合いをつけるための場を設ける .13 –.10 .06 .12 .46 .07 –.07 –.02 .22
44.家族/重要他者のスケジュールや状態を踏まえた上で,最期までその人と過ごせる時間を確保する .00 –.04 –.03 .04 .85 .07 .03 .03 –.05
45.終末期にその人と家族/重要他者が同じ部屋で寝泊まりできるように,部屋の環境を調整する –.02 –.11 –.07 –.02 .79 –.04 .03 –.08 .23
46.終末期にその人が好きなことを家族/重要他者と一緒に行えるように環境を整える .03 –.05 –.04 –.01 .87 –.09 .07 –.14 .22
47.終末期にその人がありのまま気兼ねなく過ごせるように関わる –.03 .06 .03 –.02 .90 .02 .07 –.10 –.06
48.その人が亡くなる過程をあらかじめ家族/重要他者に説明する .07 –.01 –.01 –.10 .83 .14 –.13 .12 –.06
50.その人が孤立,孤独感を感じないような工夫や関わりを実践する –.01 .19 .06 .00 .77 –.01 .03 –.07 .00
51.最期まで家族/重要他者と一緒にケアをし,そばで見守り続ける –.06 .09 –.07 .01 .90 –.04 –.02 .04 .03
52.その人が楽に過ごせるように,薬剤(麻薬等)を使用し苦痛を緩和する –.01 –.06 .04 .14 .65 .00 –.05 –.02 .05
53.終末期に起こる症状や苦痛に対してケア(タッチング,マッサージ,マット使用等)を実践する –.06 .09 .00 .04 .85 –.01 –.02 –.03 –.04
VI.【家族を支える】
54.その人のおかれている状況と展望を伝え,家族と目標をすりあわせる .02 –.07 .12 –.03 .17 .56 –.01 .09 .10
56.家族の持てる力(介護力)が活かせるように支援する .03 –.04 .06 .05 .08 .66 .01 .06 .02
59.家族の生活や介護状況に応じて,できることが増えるように介護サービスの情報や技術を提供する –.07 .05 .01 –.06 .05 .89 .05 .05 –.03
60.家族が休息できるように声かけし,通所や宿泊のサービス利用を調整する .00 –.03 –.01 .00 .11 .65 .10 .06 .03
VII.【その人の居場所をつくる】
63.看多機をその人が安心できる場として整える .05 .02 –.12 –.02 .07 .03 .77 .10 .02
64.その人と顔なじみになり安心感を作る .14 –.06 .05 –.03 .04 .01 .81 .06 –.13
65.その人と家族がどのように暮らしたいかを聞き,その人が望む生活リズムをつくる –.04 .07 –.06 .07 –.03 .28 .50 –.05 .23
66.その人の生活の中で楽しみや集中できることを大切にしながらともに過ごす .02 .12 –.02 .05 –.06 .06 .65 –.06 .20
68.その人が,できることを通して,その人の役割を見いだせるよう支援する .02 .21 –.01 .02 –.07 .05 .50 –.03 .27
VIII.【よりよいケアを目指して他職種と協働する】
73.看護職と介護職が相互理解できるように,カンファレンスやノート等で情報を共有する –.01 .00 .08 .01 .01 –.10 .33 .52 –.03
75.定期的にケアマネージャーとケースカンファレンスを実施し,その内容をケアに活かす –.06 –.01 –.06 –.01 –.08 .07 .01 .72 .28
76.迅速なサービス変更のために,その人についての情報を,ケアマネージャーと共有する –.01 –.02 –.02 .01 –.12 .12 .07 .80 .04
77.緊急時の対応等について,看護の専門性を持って医師や多職種に意見を伝える .07 .11 –.14 .09 .13 .06 –.12 .68 .00
78.円滑な意思疎通のため,その人や家族と医師との仲介役になる .16 .02 –.02 .03 .08 .08 –.06 .54 .12
IX.【地域の人脈や資源を巻き込んだチームをつくる】
69.家族が様々な専門職と知り合う場を調整する –.04 –.05 .07 –.05 .07 .25 –.03 –.01 .63
70.家族に必要な専門職や社会資源(医療材料業者,家事代行サービス等)を紹介する .05 –.02 .02 –.04 .07 .27 –.06 .00 .54
71.その人と家族を含めたチームの構成員がその人の思いの実現に向けて前向きに挑戦する –.02 .08 –.04 .04 .02 .17 .08 .09 .50
79.専門職(主治医,セラピスト,看護職,ケアマネージャー,薬剤師,歯科医師等)が相談して,その人にあった個別プログラムを作る .03 –.03 .03 –.03 .11 .01 –.08 .26 .59
80.地域の資源(民生委員やボランティア等)を活用する .00 .00 .02 –.07 .01 –.01 .01 –.09 .83
81.他の組織に所属する関係者も含めた定期的な多職種カンファレンスを開催する .01 –.03 –.02 .01 .07 –.19 –.02 .08 .87
82.カンファレンスを通して,互いに良いケアや関わりを伝え合う –.07 –.01 .12 .01 .02 –.20 .13 .30 .52
83.再入院をさせない等,チーム全体で実現すべき目標を確認し共有する –.02 .02 .13 .06 .02 –.19 .05 .25 .54
87.その人の状況に応じた,より機能的なチームを臨機応変に再編する –.01 .02 –.01 .01 .02 –.07 .01 –.03 .82
※主因子法,プロマックス回転を用いて因子を抽出
除外された項目 因子間相関
13.その人の状況をその人自身や家族にわかりやすく伝え,共有する I
14.その人や家族が持つ強みをスタッフ間で共有し,足並みの揃った働きかけをする II .72
15.日常動作の中でその人のADLの維持・回復につながることを取り入れる III .70 .71
21.その人の状況の変化に合わせ,迅速に緊急の泊まり等の調整をする IV .65 .59 .67
22.その人のその日の状態や希望にあわせ,スケジュールを臨機応変に組む V .62 .50 .59 .69
23.その人の生活のなかでみられる,普段とは異なる徴候やその変化を察知する VI .67 .56 .61 .66 .68
24.その人が上手く訴えられないケアニーズを把握する VII .62 .70 .67 .58 .55 .59
25.経済的な負担を考慮し,居宅にあるもので代用してケアを提供する VIII .62 .50 .63 .67 .65 .59 .57
26.介護の点数や自己負担額に応じたサービスをケアマネージャーと話し合い,サービス内容を見直す IX .54 .54 .54 .58 .60 .69 .55 .58
33.肺炎を起こさないために口腔内の清潔を保つ
36.介護職が判断できない急変に対応する
37.誤嚥対策をした上で,食べたい物を安全に食べられるように支援する
38.言語療法士等の専門職と連携しながら食べられるように間接訓練を実施する
40.終末期に変化するその人や家族の意向を確認し続ける
42.家族の能力をアセスメントし,訪問や宿泊を組み合わせ看取りの場を整える
43.最期にその人や家族が望むことをできる限り叶える
49.看取りの以前からその人の死生観や信条を尊重して関わる
55.家族の状況や介護能力を把握する
57.家族のこれまでの方法を否定せず,前向きに取り組めるように技術や精神面を支援する
58.家族の思いをじっくりと聞き,不安を軽減するための提案を行う
61.看取りを経験した家族の,その人との思い出話を傾聴する
62.看取りを経験した家族の状況をアセスメントし,必要時は専門的な支援につなげる
67.自宅で快適に過ごせるように,施設での過ごし方をその人や家族と相談する
72.介護職が不安なケアや技術を,一緒に見ながら実施できるように支援する
74.介護職が疑問に感じたことを,気軽に相談できる関係性を築く
84.退院前カンファレンスに参加し,入院中の状態を把握する
85.異なる施設の看多機間で互いに情報共有をする
86.平時より地域での催し物に参加する

第I因子から第VII因子までの因子は元のカテゴリー名を採用した.第VIII因子と第IX因子は元の第8カテゴリーが分割されたため,新たな因子名をラベリングした.第VIII因子は,看護職と介護職との相互理解や,介護職が気軽に相談できる関係性,迅速なサービス変更のためのケアマネージャーとの情報共有など,利用者によりよいケアを提供するための協働を示す項目の因子負荷量が高かったことから【よりよいケアを目指して他職種と協働する】とした.また第IX因子は,利用者や家族が地域内の様々な人脈や資源とつながり,それらを活用するためのチームづくりに関する実践を示す項目の因子負荷量が高かったことから【地域の人脈や資源を巻き込んだチームをつくる】とした.

3. 因子間の関連

看多機に従事する看護師に求められる看護実践自己評価尺度を構成する9因子それぞれのCronbach’s α係数を算出した結果,全て0.9以上であった(表3).また,因子間の相関はすべてが互いに有意な正の相関を示した.

表3 各因子の平均得点とα係数

因子 度数 平均値 最小値 最大値 標準偏差 α係数
I.その人の生活の中で歩み寄りを続ける 649 3.60 1.00 5.00 0.67 0.91
II.その人や家族の強みを引き出し生活に取り入れる 649 3.39 1.00 5.00 0.72 0.93
III.個々に合わせ臨機応変にケアを創造する 649 3.45 1.00 5.00 0.73 0.90
IV.命をまもる 649 3.50 1.00 5.00 0.78 0.91
V.最期まで『生きる』を支える 649 3.36 1.00 5.00 1.02 0.96
VI.家族を支える 649 3.36 1.00 5.00 0.94 0.92
VII.その人の居場所をつくる 649 3.53 1.00 5.00 0.77 0.92
VIII.よりよいケアを目指して他職種と協働する 649 3.57 1.00 5.00 0.88 0.90
IX.地域の人脈や資源を巻き込んだチームをつくる 649 2.74 1.00 5.00 0.87 0.93

4. 看多機経験年数と尺度得点の検討

看多機での経験年数3年目未満と3年目以上の2群で各因子得点の比較を行った結果,全ての項目において3年目以上の得点は3年目未満の得点を有意に上回っていた(表4).

表4 経験年数別の因子得点の比較

因子 経験年数 度数 平均値 標準偏差 p Hedges’s g
I.その人の生活の中で歩み寄りを続ける 3年目以上 281 3.76 0.62 <.001 0.43
3年目未満 367 3.48 0.68
II.その人や家族の強みを引き出し生活に取り入れる 3年目以上 281 3.51 0.66 <.001 0.30
3年目未満 367 3.30 0.75
III.個々に合わせ臨機応変にケアを創造する 3年目以上 281 3.60 0.68 <.001 0.35
3年目未満 367 3.34 0.75
IV.命をまもる 3年目以上 281 3.69 0.70 <.001 0.44
3年目未満 367 3.36 0.82
V.最期まで『生きる』を支える 3年目以上 281 3.65 0.92 <.001 0.51
3年目未満 367 3.14 1.05
VI.家族を支える 3年目以上 281 3.59 0.88 <.001 0.43
3年目未満 367 3.19 0.95
VII.その人の居場所をつくる 3年目以上 281 3.68 0.75 <.001 0.34
3年目未満 367 3.42 0.77
VIII.よりよいケアを目指して他職種と協働する 3年目以上 281 3.83 0.75 <.001 0.53
3年目未満 367 3.38 0.92
IX.地域の人脈や資源を巻き込んだチームをつくる 3年目以上 281 2.93 0.84 <.001 0.39
3年目未満 367 2.60 0.87

unpaired t-test,経験年数の欠損データ1件

Ⅳ. 考察

看護小規模多機能型居宅介護に従事する看護師の看護実践自己評価尺度の構成概念を検討し,9因子構造の尺度を開発した.

1. 尺度の因子構造

本尺度の因子構造は8因子を想定していたが,探索的因子分析の結果,9因子構造が適切であることが明らかとなった.第8カテゴリーが2つの因子に分割されたものの,全体的には想定していた尺度の構成概念を逸脱しておらず,最終的な累積寄与率も71.6%あったことから,9因子構造は妥当であると判断する.第8カテゴリーが分割された理由として,看多機に求められる地域密着型サービスとしての役割が強く影響した可能性が考えられる.地域包括ケアが念頭におかれた第5期介護保険事業計画で介護と医療の連携が重点事項として掲げられたように,地域医療の分野では医療,介護,福祉に関わる職種の連携や協働が求められている(阿部・森田,2014).チーム医療の概念は,専門職種の細分化を背景として多種多様なスタッフが互いの高い専門性を前提に連携しながら患者の状況に応じた医療を提供するという他職種連携の視点で発展してきた(勝山,2014).第VIII因子の【よりよいケアを目指して他職種と協働する】は,この視点での看護実践を反映したものであるといえる.一方で看多機は,市町村単位で地域に開かれたサービスを提供する地域密着型サービスの1つとして,事業所を拠点とした地域づくりという役割も担う必要があり,地域住民の相談窓口や地域行事への参加,地域住民からの協力を得るための関係づくりなど,利用者が地域とのつながりを感じながら暮らせるような支援が求められている(永田,2016北村,2018三菱UFJリサーチ&コンサルティング,2023).第IX因子の【地域の人脈や資源を巻き込んだチームをつくる】は,このような地域密着型サービスである看多機ならではのチームづくりの実践が,他職種連携のような実践と弁別された結果であると考えられる.

2. 尺度の妥当性

尺度の妥当性について,看多機に従事する看護師に求められる看護実践自己評価尺度を構成する9因子のCronbach’s α係数は全て0.9以上であり,尺度の内的一貫性の高さが確認された.また,本尺度の項目内容は,項目プールの作成段階において大学研究者や看多機に従事する看護師によるディスカッションを通して精錬されたものであり,調査結果においても項目表現のわかりにくさは確認されなかったことから,尺度の表面的妥当性は確保されていると判断できる.構成概念妥当性については,開発された尺度の構造が調査前に想定していた尺度構造から逸脱しなかったことから妥当であるといえる.また,コンピテンシーは経験年数の高さと相関するといわれており(相原,2002),看護職のコンピテンシーに関する多くの研究においても経験年数が高いほど実践能力も高くなることが報告されている(塩見ら,2009大重ら,2019河野ら,2019).本尺度の因子得点と経験年数との関係性を検証した結果,全ての因子において,3年目以上の得点が有意に3年目未満の得点を上回っていたことから,尺度の既知グループ妥当性も担保されているものと考える.

3. 看多機で求められる看護実践の特徴

本尺度の開発によって明らかとなった看多機で求められる看護実践の特徴として,その人らしさの重視,生活の場での継続的な医療ケアの提供,サービス特性を活かした積極的な看取りの実践,地域密着型サービスとしての地域を巻き込んだチームづくりの4つが挙げられる.

三浦ら(2005)が開発した在宅における看護実践自己評価尺度では,ケアの対象がクライエントと家族として位置付けられていたが,特別養護老人ホームにおける看護実践能力尺度(笹谷・長畑,2019)や地域包括ケア病棟看護師における高齢者の生活を支える看護実践自己評価尺度(荒井ら,2023)では,「その人」という表現が使用されている.本尺度においても,【その人の生活の中で歩み寄りを続ける】【その人や家族の強みを引き出し生活に取り入れる】【個々に合わせ臨機応変にケアを創造する】【その人の居場所をつくる】の4因子には「その人」を対象とする行動指標が多く含まれていた.黒田ら(2017)は,概念分析を通して,「看護学分野における『その人らしさ』とは,内在化された個人の根幹となる性質で,他とは違う個人の独自性をもち,終始一貫している個人本来の姿,他者が認識する人物像であり,人間としての尊厳が守られた状態という特性を指す」と定義している.医療ニーズを抱えて生活する人々はなんらかの病の体験を持っており,このような病体験は日常生活に大きな影響を及ぼすことが報告されている(馬場ら,2015).また人は,普段の自分とは異なる状況のときや,いつもの生活ペースと違うとき,自分の意向を抑制しているときなどに自分らしさを損ないやすくなる(伊藤・小玉,2007).これらの看護実践には,医療ニーズを抱えて自分らしさを失いやすい状況にあるその人の「その人らしさ」を表に出して,発揮させるという地域密着型サービスとしての看多機の看護ならではの特徴が表れていると考えられる.

医療ケアの提供について,高齢者は入院生活中に生じる咀嚼や嚥下機能の低下によって肺炎を起こしやすく,身体が安定しても医療的なケアの必要性から在宅療養の継続が難しくなり,社会的理由で病院や施設が終の棲家となってしまうことが多いと報告されている(玉木ら,2017).【命をまもる】は,身体的コンディションや症状のコントロール,褥瘡や感染の予防,緊急時の対応など,医療ニーズを抱えた利用者が命の安全を守りながら,住み慣れた地域で生活し続けるために必要不可欠な実践であるといえる.また,看多機の従業員数は,看護職よりも介護職の方が多く,介護職がサービスを担っているため(渡邊ら,2020),看護師には医療ニーズの高い利用者に対する介護職の経験不足のサポートや,互いの専門性の理解と尊重が求められる(宮本,2015).実際に,介護職には難しい判断や対応を看護職が補うことで利用者の全体像に看護を反映できたり,状況に応じて柔軟にケアを変更できたりするようになるこという報告(片平ら,2020)もあり,【よりよいケアを目指して他職種と協働する】は,居宅での生活の継続に必要な医療ニーズに対応するために,主なケアの担い手となる介護職やケアマネージャーと効果的な連携を果たすという看多機ならではの実践が反映されている.

看取りケアは,小規模多機能型居宅介護サービス(小多機)での実現が難しかった課題(永田・松本,2010)のひとつであり,看多機に従事する看護師に期待されている実践能力であるといえる.入居者の約半数が施設内で死亡するという報告(岩本,2009)がある特別養護老人ホームでは,看取りケアが重要な実践のひとつとなっており,看取りの意向確認や説明,家族のケアへの参加といった内容が示されている(笹谷・長畑,2019).比較して,看多機では自宅での療養生活の支援を第一義的な役割としながら,家族とともに本人の願いを推し量り,宿泊サービスや訪問看護サービスを組み合わせたより個別性の高い看取りケアが実践されている(山田,2018).本尺度での看取りケアに該当する【最期まで『生きる』を支える】では,このような看多機サービスの特徴を活かした臨機応変な看取りの実践が反映されている点が大きな特徴であるといえる.

地域密着型サービスは,要介護者が自身の住み慣れた地域で生活していくことを支えることを目的として2005年に創設された制度であり,利用者や利用者の家族,地域住民の代表,市区町村の職員,地域包括支援センターの職員や地元の医師などで構成された運営推進会議の推進が義務付けられている(佐久間,2021).実際に看多機での取り組みを通して,地域の他職種や住民,行政などと常に情報交換を行い,顔の見える関係性をつくることによって,医療福祉の縦割り制度を打破し医療ニーズの高い人々の地域生活を継続させるためのシームレスな支援体制が構築されている(沼崎,2019).【地域の人脈や資源を巻き込んだチームをつくる】は,このような地域を巻き込んだチームづくりを反映したものであり,利用者の住み慣れた地域での安心した生活を実現していく上で必要不可欠な実践であるといえる.

4. 尺度の活用可能性と今後の課題

本尺度は,看多機に従事する看護師が実践しているケアを網羅的に捉えたものである.今回の調査結果でも,実践項目によっては「そのような場面がない」という回答が多かった項目があり,あらためて看多機で実践されるべきケアが十分に提供されていない状況が浮き彫りとなった.本尺度の活用方法として,総得点を算出するものではなく,各因子を5点満点としたレーダーチャート方式の評価を想定している.そうすることで自身の実践の中でよく取り組めていることやあまり取り組めていないことが把握しやすくなり,提供しているケアの質を高めるために,自分がどの部分を強化したらよいのか,改善のヒントを提供することができると考える.

本尺度は59項目で構成されており,定期的に実践をチェックすることを想定したときにやや項目数が多く,臨床の看護師が使用するには負担が大きいことが想定される.しかし,看多機のサービス内容が多岐にわたり,どのような実践が必要であるかについての理解が不十分な状況にあることを考慮すると,時間をかけてでも自分たちが提供しているケアを詳細にチェックすることは意義があると考え,現時点ではあえて多様な質問項目を残した.今後の課題として,尺度の実用性を高めていくために,短縮版の開発が必要である.

5. 研究の限界

本尺度は,制度として創設されてから発展途上にある,看護小規模多機能型居宅介護サービスに従事する看護師に求められる看護実践について,先行研究で明らかとなったコンピテンシーから導いた行動評価指標の尺度化を試みたものである.今回は尺度の内的一貫性,表面的妥当性,構成概念妥当性,予測妥当性について検証したが,尺度の併存妥当性や信頼性の検討は行っておらず,さらなる検証が求められる.

合わせて,本尺度は制度の複雑さに由来する多様な看護実践の側面が反映されたものとなっている.今後,臨床での本尺度の活用を通して,看多機に従事する看護師に求められる看護実践についての理解が深まり,実践内容が精錬されていくことを通して,本尺度自体も見直ししていくことが求められる.

Ⅴ. 結論

全国にある看護小規模多機能型居宅介護施設に所属する看護師を対象に,看護実践自己評価尺度の質問紙調査を実施し,得られた回答の因子分析を行い,9因子59項目で構成される尺度を開発した.この尺度は現時点で看多機に従事する看護師に求められていると考えられる看護実践を,網羅的に自己評価することができる尺度である.今後は,本尺度を用いて看多機で提供されているケアを継続的に評価し,よりよいサービスの提供へとつなげていくことが望まれる.

謝辞:本研究の実施にあたり,研究にご協力いただいた看護小規模多機能型居宅介護の看護師の方々及び,施設管理者の方に感謝いたします.本研究は,日本学術振興会の科学研究費助成事業(基盤研究B:18H03076)の助成を受けて実施しました.

利益相反:本研究の実施において,開示すべきCOI関係にある企業・組織および団体はない.

著者資格:共著者の全員が研究デザインの構想に貢献;坂下,撫養,小野,渡邊,芳賀,真鍋,新居は評価指標案を決定するためのプロセス;小野,渡邊,中西,河野,粟村はデータ収集の実施;小野,中西,河野は統計解析の実施;小野,渡邊は草稿の作成;坂下は原稿への示唆および研究プロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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