日本看護科学会誌
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認知症と診断された夫/妻を配偶者が自宅で看取る過程での夫婦関係の変化:Modified Grounded Theory Approach
白坂 宏美
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2025 年 45 巻 p. 658-667

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Abstract

目的:認知症と診断された夫/妻を配偶者が自宅で看取るまでの夫婦関係変化を記述する.

方法:認知症と診断された夫/妻を自宅で看取った配偶者に半構造化インタビューを行い,M-GTAを用いて分析をした.

結果:1コアカテゴリー,3カテゴリー,7サブカテゴリー,18概念が生成された.

夫婦関係は,〔病とともにあるあなたに歩み寄る〕【私とあなた】に変化し,【あなたのための私】自身を保つ必要がある.【私とあなたともう一人のあなたとしての私】になることで夫婦という2者関係は維持される.別離後肉体を持つあなたは居ないが,私の中のあなたは存在し続けるため《私と私の中のあなた》になり関係変化は終了する.

結論:《私と私の中のあなた》になる過程で専門職が関係性に着目し,関係のスムーズな移行と良好に維持できるよう夫婦双方への多職種での支援の必要性が示唆された.

Translated Abstract

Objective: To describe the changes in the marital relationship of a husband/wife diagnosed with dementia up to the point at which the spouse took care of him or her at home.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with spouses who had a husband/wife diagnosed with dementia and were looked after at home; the data were analysed using the modified grounded therapy approach (M-GTA).

Results: A core category, three categories, seven subcategories, and 18 concepts were generated.

The relationship of ‘me and you’ changes to ‘you being with the illness and me adapting to you’. To maintain the relationship, I must maintain ‘myself for you’. The two-party relationship of husband and wife is maintained by becoming ‘me and you and me as the other you’. After bereavement, there is no physical you, but the ‘you’ in me continues to exist; thus, the change in relationship ends as ‘I and you in me’.

Conclusion: The study suggests the need for professionals to focus on the relationship in the process of becoming ‘you in me and me in you’, to provide multidisciplinary support to both spouses to ensure a smooth transition and good maintenance of the relationship.

Ⅰ. 背景

現在65歳以上の者のいる世帯の構成は,高齢夫婦のみの世帯が3割を占め(内閣府,2021),夫婦間での介護は増加している(宇都宮・神谷,2016).また,今後ますます認知症と診断される人は増加の見込み(厚生労働省,2015)であり,認知症と診断された人の配偶者介護者が増加すると考えられる.

認知症と診断された人の自宅での看取りは,「重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続ける(厚生労働省,2016)」ことを理念とする地域包括ケアシステムの構築に伴い,選択肢として検討されることが増加すると考えられる.現状の認知症と診断された人の在宅死に影響を与える要因は,本人と家族の意向(花里・芦谷,2017増本・佐藤,2020松谷,2014上田・黒木,2012),2人以上の家族の同居(Masumoto et al., 2019)とされている.また,在宅死を可能にする支援は,本人の意向を確認できる支援(荒木ら,2008大澤,2019吉岡,2013)や看取りを行いたい・行えると思える安心感をもたらす介護者への社会支援(荒木ら,2008花里・芦谷,2017),医療者と認知症当事者・家族との信頼関係構築(上田・黒木,2012),多職種での支援(花里・芦谷,2017松谷,2014望月,2021上田・黒木,2012)が挙げられている.このように自宅で最期を迎えるには認知症当事者の意向,家族の存在や意向,家族への支援が鍵となる.厚生労働省(2023)の最期を迎えたい場所の調査では,自宅や病院といった場所ではなく,「家族の負担にならないことを重視する」が最多であった.このことから,自宅での看取りという経験が十分理解され,支援が整うことが当事者の意向の表出や介護者の選択や決断に必要であると考えられる.

認知症は,当事者だけでなく,人間関係にも大きな影響を及ぼし(Kitwood, 1997),認知症と診断された人を取り巻く人間関係は介護の形成と継続の両方において重要な役割を果たす(McGovern, 2011)とされる.また,配偶者関係にある2者の関係と経験に焦点を当てることは,2人の経験を理解する上で重要であるとされ(Weicht & Tolhurst, 2023),「the Couplehood Concept」として社会学において認知症研究で用いられることが増加している(Hernandez et al., 2017Molyneaux et al., 2012Weicht & Tolhurst, 2023).国内で「配偶者を含む家族介護者」が終末期ケアを行う経験に焦点を当てた研究は,5件(岩原ら,2018牧野ら,2020松下・長田,2019森山・長岡,2015諸岡,2012)あるが,「当事者と配偶者」あるいは「配偶者」の経験について調査した研究はなく,且つ施設または医療機関での看取りの経験を主に調査されており,自宅での看取りのみを調査した研究は行われていない.認知症と診断された人の配偶者介護者は,配偶者以外の介護者以上に認知症と診断された人と親密な関係を築き,多くの時間介護に携わり社会生活や心身の健康への影響を受けることになるため,その介護経験は異なるとされる(Johansson et al., 2021).そこで,本研究は認知症と診断された人の配偶者が自宅で看取るまで経験を理解するためにその過程での関係性の変化を記述することとした.

Ⅱ. 目的

認知症と診断された夫/妻と配偶者の夫婦関係の調整・変化から自宅で看取るまでの経験を記述する.リサーチクエスチョンは以下とした.

・認知症と診断された夫/妻の配偶者は,夫婦の関係性をどのように調整・変化させながら自宅での看取りを行ったのか?

Ⅲ. 用語の操作的定義

本研究では以下のように,用語を定義する.

看取り:配偶者が死にゆく過程から死に至るまでのプロセスに携わること.

自宅での看取り:死去の少なくとも1週間前から自宅で療養を行い,看取りを行うこと.

配偶者:婚姻関係にある夫婦の一方.

夫婦関係:婚姻が成立しているI(私)とYOU(あなた)による相互作用関係.

Ⅳ. 方法

本研究は,修正版グラウンデット・セオリー・アプローチ(M-GTA)用いた質的探索的研究である.M-GTAは現象を相互作用のあるプロセスとして理解し,実践へ向けた理論形成を行うことを目的とした分析方法である(木下,2020).夫婦関係とは夫と妻という相互作用の継続からなるプロセスであり,且つ人を看取るということは看取られる人と看取る人の相互作用のあるプロセスである.そこで「自宅で看取るまでの夫婦関係の変化」を記述するため,個別の事例分析ではなくM-GTAという分析方法を用いることとした.また,M-GTAでは方法論的限定を行い,分析対象者を「認知症と診断された夫/妻を自宅で看取った配偶者」とし,協力を得られた11名分のデータを分析対象として限定した.M-GTAは,大小二つの段階で理論的飽和を行う手法(木下,2007)であり,本研究では,まず小さい理論的飽和の段階で,対象データ内において概念生成と継続比較分析を繰り返し,新たな概念やカテゴリーが抽出されなくなった時点で飽和と判断した.大きい理論的飽和の段階は,小さい理論的飽和に達した概念やカテゴリーを結果図とストーリーラインで示し過不足ないことで確認した.

1. 研究対象者

研究対象者は,認知症と診断された夫/妻を自宅で通算6か月以上介護し看取った配偶者11名とした.死別から6か月以上経過し,120か月(10年)以内の者でインタビュー可能な者とした.認知症の診療を行うクリニック2か所,家族会より紹介を受け,リクルートを行った.除外基準は,18歳未満の者,婚姻関係になかった者とした.2016年時点で認知症と診断を受けた方の死亡場所は病院が約50%,施設が約40%,自宅が約10%であり(Koyama et al., 2019),自宅での看取りは少ない.そのため,死別後からの期間も120か月後までの方を対象とした.本研究では夫婦間介護の増加と地域包括ケアシステムの構築が推進されるにあたって増加していくと考えられる,認知症という診断を受けた夫/妻を配偶者が「自宅で看取る」という現象の中での関係性の変化を記述するため,若年性認知症の方の配偶者も対象とした.しかし,30,40代の方を看取る経験と80,90代の方を看取る経験は異なると考えられるため,諸外国では高齢者と定義される60歳以上で亡くなった若年性認知症を対象とした.対象となる夫婦間の年齢層による文化的背景の違いは存在すると考えられるが,限定したデータの中で概念生成と継続比較分析を繰り返し新たな概念やカテゴリーが抽出されない段階に達したことで小さな理論的飽和化がされたと判断した.併存疾患に関しては,根治を目的とする積極的な治療を行っていなかった方は対象に含めた.

2. データ収集

令和5年7月~10月にかけてA県,都内6区において実施した.インタビューガイドを用いて,半構造化インタビューを行った.面接は1人1回60分程度とし,同意を得てICレコーダーに録音した.また,面接中の反応や印象などをメモに記録した.また,対象者の概要は,対象者の同意を得てリクルート時に研究協力施設の担当者からの情報収集とインタビュー実施前に対象者本人にアンケート調査を実施した.インタビューは,①看取りについて考え始めた時点,②自宅で看取ると決断した時点,③看取りが迫っていると意識した時点,④看取りという4つのフェーズに分けインタビューを行った.また,①~③について看取りについて考えなかった・自宅で看取ると決断していない・看取りが迫っていると意識していなかった場合はありのまま答えるよう促した.①で終末期についての事前意思表出の有無,各フェーズでの認知症と診断された夫/妻の状態,対象者がその時点で行っていたケアとその時の思いについて聞き出した.「自宅での看取り」という経験理解を通して夫婦関係という2者間の相互関係の変化を捉えることを目的としたため,配偶者に対し関係性という言葉を用いた質問は行わなかった.

3. 分析方法

インタビュー内容は速やかに逐語録にし,メモの内容も記載した.分析焦点者は「認知症と診断された夫/妻を自宅で看取った配偶者」,分析テーマを「認知症と診断された夫/妻を配偶者が自宅で看取るまでの関係性変化のプロセス」とした.データを繰り返し読み,分析ワークシートを使用し,具体例を抜き出し,定義と概念生成作業を行い,継続的比較分析を行い概念同士の関係性からカテゴリーを生成した.概念同士の関係性の強弱は,双方の概念の成立にどの程度影響を与えるかによって判断を行った.分析結果は構成する概念やカテゴリー同士の関連性とその強弱を示すため,結果図を作成した.結果図の完成後,分析結果を簡潔に記述するストーリーラインを作成した.分析の妥当性を確保するため,1事例分析ごとに質的研究の複数実績のある研究者と検討を行い,分析の終盤にM-GTAの指導を行う看護社会学の研究者に手順と分析の妥当性の評価を受けた.

4. 倫理的配慮

対象候補者に研究の目的・方法・意義・倫理的配慮・研究結果の公表,研究参加による利益・不利益,研究協力は自由意志であること,同意の撤回は随時可能であり,これによる不利益は生じないことを文章と口頭にて説明し研究協力を依頼した.同意を得た場合同意書に署名し1部ずつ研究者と協力者保管した.本研究は聖路加国際大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号23-A013).

Ⅴ. 結果

1. 研究対象者の概要

研究に承諾した対象者は11名,平均年齢は77.7歳,63%が夫婦のみの世帯であり,全員が主介護者として介護期間平均9.7年を担っていた.また認知症と診断された夫/妻の死去時の年齢は平均77.9歳で,81%がアルツハイマー型認知症であった(表1).デイサービスは100%,訪問看護は82%,訪問介護は73%,福祉用具の貸与は82%と認知症と診断された夫/妻は全員が介護保険サービスを利用し生活していた.インタビューは対面で1名につき1回,平均77.9分,総分析データは231,108語であった.

表1 対象者および認知症と診断を受けた夫/妻の概要

ID 年齢
(歳)
性別 看取り後(か月) 介護期間(年) 同居者 夫/妻の診断/死去時(歳) 夫/妻の診断から死去までの期間(年) 夫/妻の認知症の種類
A 89 18 5 84/90 6 AD
B 75 16 16 55/71 16 若年性AD
C 58 15 15 母・妹 53/68 15 若年性意味性認知症
D 82 7 5 74/85 11 AD
E 69 32 18 53/72 19 若年性AD
F 70 63 13 55/63 8 若年性AD
G 75 82 10 62/72 10 若年性AD
H 79 7 1 息子 76/83 7 DLB
I 96 6 9 72/91 19 AD
J 89 85 5 82/87 5 AD
K 73 17 10 63/75 12 若年性AD
平均 77.7 31.6 9.7 66.2/77.9 11.6

2. 分析結果

1) 抽出した概念およびカテゴリー

分析の結果,1コアカテゴリー,3カテゴリー,7サブカテゴリー,18概念が生成された(表2).これらの関連性を結果図として示した(図1).

表2 生成されたカテゴリー,概念

コアカテゴリー カテゴリー サブカテゴリー 概念
私と私の中のあなた 私とあなた 病とともにあるあなたに歩み寄る 変わっていくあなた
あなたに合わせていく
いつまでも続く
あなたのための私 維持するために私を保つ 不満を飲み込みサービスを利用し守る
尊厳を守ることで保つ
他者には深く踏み込ませない
一人で抱え込まない
あなたはあなた,私は私 あなたに一喜一憂する
私のために時間を使う
私とあなたともう一人のあなたである私 あなたと最後まで添い遂げたい 私の役目
過去の清算
夫婦になったんだから
あなたになっていく 私たちの居場所
あなたを見れば“わかる”
あなたとの別れ 終わりの予期
あなたとの別れ
残された私とあなたになった私 納得の最期
私は納得できない
図1  認知症と診断された夫/妻を配偶者が自宅で看取るまでの夫婦関係変化

2) ストーリーライン

ストーリーライン,結果の記述では,コアカテゴリーは《 》,カテゴリーは【 】,サブカテゴリーは〔 〕,概念は[ ]で示す.分析対象者を「私」,認知症と診断された夫/妻を「あなた」と表記する.

認知症という診断は,これまでの私とあなたの夫婦関係を変化させ,〔病とともにあるあなたに歩み寄る〕【私とあなた】にする.夫婦関係は2者間の相互作用で成り立つ関係であり,〔あなたはあなた,私は私〕であることが必要である.そのため私はこの関係を〔維持するために私を保ち〕,【あなたのための私】を作り上げていく.病状の進行によりあなたはあなたとして存在するが,相互作用が困難となっていくため【私とあなたともう一人のあなたとしての私】になることで夫婦関係は継続される.これは夫婦という枠組みの中で〔あなたと最後まで添い遂げたい〕という関係性継続への思いを抱き,判断力の低下していくあなたに代わって私はあなたとして決断し,[あなたになっていく].〔あなたとの別れ〕によって,〔私とあなたとしての私〕が残される.認知症と診断された夫/妻を自宅で看取るまでの夫婦関係の変化は,私とあなたの関係を最後まで保つため《私と私の中のあなた》になっていくプロセスである.

3) 結果の記述

具体例は斜字で記載し,対象者は( )内のアルファベットで表す.

(1) 【私とあなた】

関係性の変化よりも,あなたが生き続け,私とあなたの関係がこれからも継続することに価値を感じることである.サブカテゴリー〔病とともにあるあなたに歩み寄る〕は,徐々に認知症の症状で変化していくあなたの状態を受け入れて,介護者としての私を受け入れていくことである.[変わっていくあなた][あなたに合わせていく][いつまでも続く]という3概念が影響し合うことで成り立っている.概念[いつまでも続く]のE氏の具体例で,関係変化よりもあなたとの変わらない日々を守ることに価値を感じていることが語られている.

僕はやっぱり一緒にいたいっていう気持ちが強かったんで,…そういう気持ちはもう,なんせ仕事の時間が長いっていうか本当に顔見れ,見れる時間は帰ってきたら顔を見るっていうその,その毎日でしょ帰ってきて本当に顔を見てほっとするっていうか,それの毎日の繰り返し…それが何年続いたって言われればあれだけど,一つ一つ毎日ただそれだけよ,毎日一日一日大事に…それが積み重なって10年なり15年なり(E氏)

(2) 【あなたのための私】

夫婦は「私」と「あなた」という2者間の相互作用で成り立つ関係であり,一人では成立しないため,あなたとの夫婦関係を維持するために,あなたを大切にするだけでなく私自身を保つ必要がある.〔維持するために私を保つ〕〔あなたはあなた,私は私〕の2サブカテゴリーで構成される.

〔維持するために私を保つ〕は4概念で構成される.[不満を飲み込んでサポートを利用し守る]は欲しいサービスが近くでは利用できないこと,画一的な対応をされることや相手の都合に合わせた利用となることやその技術者によって質が均一ではないことといった不満はあっても,それでもあなたとの関係を守るために利用するである.[一人で抱え込まない]は,あなただけでなく他の家族,専門職,家族会の同士や友人などと相互的な関係性をもつことで私という存在を保つための関係性である.[他者には踏み込ませない]は,他者に必要以上に踏み込まれないようにすることであなたのための私を維持することである.この3概念は相互に影響し合っている.[尊厳を守ることで保つ]は,認知症という疾患そのものと認知症と共に生きるあなたについて正しく認識をしてもらうことであなたの尊厳を守ることで結果的に私の尊厳も保たれ関係維持に繋がることである.[他者には踏み込ませない]ことが[尊厳を守ることで保つ]に繋がる場合もあるため弱いが関連する.[一人で抱え込まない]のG氏具体例では,他者との関係性が助けとなったことが述べられている.

お友達も上辺だけ分かってくれてんじゃないですか,××は大変だって,だからそれ以上突っ込まないし多分その多くは分からないと経験者じゃないから,片方はね(家族会の仲間だから)もう経験者でお互いにもう変なことでも,わかる,わかるって言ってくれる,両方必要ですよ(G氏)

〔あなたはあなた,私は私〕とは,私自身のモチベーション維持・向上を通して関係性の継続に繋げることであり,あなたの変わらない様子やできないと思っていたことがふとできたことなどで意欲が上がる[あなたに一喜一憂する]と[私のために時間を使う]ことで気分転換を行い,私を維持するという2概念からなる.

〔あなたはあなた,私は私〕[私のために時間を使う]のB氏の具体例であなたに関連しない時間の使い方で日々の意欲向上をしていたことが述べられている.

訪問看護とか,それから訪問介護の人,と話せることはね,雑談を含めてね,良かったよね,それはね…あとはもう,僕は長男なんでね,この辺に住んでるのがね,(*笑いながら)長男がいっぱい住んでる訳,そういうやつといっぱい話したり,それこそ飲みに行ったり,気晴らしっていうかね,(B氏)

(3) 【私とあなたともう一人のあなたとしての私】

あなたは確かに存在するけれど,認知症の進行により相互作用が困難となり私の中にこれまでの二人の関係性からあなたならこのように考えるというもう一人のあなたを創造し最後まで夫婦として添い遂げることである.〔あなたと最後まで添い遂げたい〕〔あなたになっていく〕〔あなたとの別れ〕〔残された私とあなたになった私〕の4サブカテゴリーで構成される.

〔あなたと最後まで添い遂げたい〕は,あなたと私の関係性は変わっても最後まで夫婦として過ごしたいという関係継続を望むことであり,[私の役目][過去の清算][夫婦になったんだから]の3概念で構成され,概念同士も影響し合っている.[私の役目]のJ氏の具体例で介護を担うことが夫婦関係にとっては自然なことであることが語られている.

いや,役目っていうほどおこがましいことではないんですけどまあ当たり前のことなんです.(J氏)

〔あなたになっていく〕は,約10年にわたる介護生活を通じてあなたならこのように考えるというこれまでの関係性からのあなたの意見として代理で決断していくことで私の中にもう一人のあなたを創り上げていくことであり,だからこそあなたのいるべきところは私のそばであると考える関係性である.[私とあなたの居場所][あなたを見れば“わかる”]の2概念で構成され,この概念同士も影響し合っている.[私とあなたの居場所]は,施設や病院などに入り離れることを可哀想と思い,私とあなたの関係性のあるべき場所は自宅だと考えることであり,この考えに至るまでには入所を断られるなど外的要因で至る場合もあれば,疑うべくもなくそれが自然だと捉える場合もあった.断られたことで考えに至ったB氏の具体例は以下である.

自宅で面倒見るっていうのは,施設入れないって言われたしね,どうしようもない,するしかないからね,結果的に,これが良かったよね,うん(B氏)

自然だと捉えたK氏の具体例は以下である.

看取りのことに関しては,そんな思わなかった なんでかっていうと家にいるっていう感じがあったから,そういうことがまずは信じられなくて(K氏)

[あなたを見れば“わかる”]とは,あなたの行動やしぐさ,表情からあなたを見るだけであなたの思いを汲み取れる関係性であることであり,具体例でD氏はいつもと違う様子からあなたを理解したことが語られている.

12月6日にデイサービスに行ったんですよね,これ何かねちょっとあまり気が進まないんじゃないかなって気がしたんですね(D氏)

〔あなたとの別れ〕は,医療者からあなたの余命について話をされたり,自然とあなたの様子からあなたの死期を悟ることや実際に離別し関係が終わりを迎えることである.[終わりの予期][あなたとの別れ]の2概念で構成され,終わりの予期は必ずしも経験しないため弱い関連である.[終わりの予期]G氏の具体例で,余命宣告とそれを受け入れられなかったことが語られている.

病院から預かってきたカルテと言うのかな,封書渡して,(中略),「あと1週間」って言われた.そこで初めて看取りというか,あの,本当に覚悟せないかんなと,(中略),私は変わらないと思ってるんだけど,先生が1週間って言うから,確認の意味で,あの,まあ(妻が)わからないように「先生ワンウィークですか」って言って,「そうだって」(G氏)

〔残された私とあなたになった私〕はあなたとの離別によってあなたという存在はいなくなったものの,私の中のあなたとしての思いは残り続ける.あなたは肉体的には存在しなくなり2者間の相互作用はなくなるため夫婦関係は終わりとなるはずだが,私の中にあなたになった私が存在することで夫婦関係はそのままの形で残り続ける.[私とあなたの納得の最期][私は納得できない]の2概念で構成され相互の関連はない.

私自身の看取りに対する思いが遂げられ,あなたが苦しむことなく自然な最期を迎えた様子に私の中のあなたも納得できた場合[納得の最後]を迎える.[納得の最後]を迎えたI氏の具体例が以下である.

自分はやるべきことを,自分なりにまあ やったんだしまあこれはまあ人間の定めかなと,ええ,いうふうに 思いました まあ自分としてはやったことは間違ってなかったし,悔いがないと言う風に思いました(I氏)

あなたの様子や,私が手を尽くしきれなかった看取りになった場合[私は納得できない]となる.E氏の具体例にて納得できていないが納得するしかない,納得しようとしている思いが語られている.

病院に行ったからって良くなって帰ってくるわけじゃないし,それもなかなか難しいなーと思って…いい方に考えてるんだけど最後の最後まで一緒にずっと,居れたからって 一応そういう風に自分としてはそういう風に考えてるんだよ,うん,でも悔いは残ってんだよ,いっぱい,…悔い残ってるんだけど,でも…周りからやっぱり「(*妻の名前)さんと最後までずっと居られたから最高じゃないの」って,まあ言われてさ,まあそっちを,ちょっとね,そっちを考えて 後悔はもう本当にね何やっても後悔すると思う(E氏)

Ⅵ. 考察

1. 認知症と診断を受けた夫/妻を自宅で看取る過程での《私と私の中のあなた》になっていく夫婦関係

夫婦は「私」と「あなた」という2者間の相互作用で成り立つ関係である.この「あなた」の呼び方はそれぞれの夫婦で,「お前」,「あいつ」,「〇〇さん」と呼び方は違うが,他の誰でもない夫/妻を指すものであり,現在までの様々な二人の相互作用から「あなた」に関する様々な情報や感情を含んでいる.認知症という診断を受けたことや介護が必要となった出来事をきっかけとし,それまでの「私」と「あなた」から支援者と被支援者あるいは介護者と被介護者という「する者」と「される者」という明らかに対等でない関係性へと変化する.Ablitt et al.(2009)は,認知症という診断は夫婦関係に影響を与え,夫婦関係は認知症当事者へのケアに影響を与えるとしている.また,配偶者と夫婦であるという感覚を持ち続けられることは,認知症後期の在宅介護の継続か施設入所かを決定する最も重要な要素であると報告されている(Hirschfeld, 1983).本研究では,夫婦関係は病により変化していくあなたを受け入れ,〔病とともにあるあなたに歩み寄る〕ことで【私とあなた】の関係を変化させ継続していた.認知症と診断された夫/妻と暮らす配偶者の経験についてPozzebon et al.(2016)は変化を認めること,適応して調整すること,受け入れて前進することし,Hout et al.(2025)は,認知症と診断された人と配偶者の関係調整において配偶者から介護者へ移行の重要性を述べ,スムーズに移行できるよう夫婦双方向への支援が必要であるとしている.

関係性の維持には2者間の相互作用が必要であり,あなたに認識される私という自己を保つ必要がある.自己の喪失は,認知症患者の介護者における健康状態や精神的健康の低下などを起こすとされ(Enright et al., 2018),私の健康状態が損なわれることで介護生活に影響を与えることからも【あなたのための私】を保つ必要があると考えられた.

認知症の進行によって,認識力・判断力が低下し,言語によるコミュニケーションの能力が低下するなど,あなたは確かに存在するが相互の明確なやり取りは困難になる.そのため,【私とあなた】の関係を維持するために,【私とあなたともう一人のあなたとしての私】が必要となる.【私とあなたともう一人のあなたとしての私】は急速にあなたになるのではなく,これまでの私とあなたの歴史と約10年という介護生活の中で次第にあなたの代わりに決断し,あなたの思いを汲み取っていく中で〔あなたになっていく〕ことがわかった.あなたとの離別を経験し,肉体を持つあなたは居ないが,私の中のあなたは存在しており夫婦関係が終わったと感じた配偶者はいなかったと考えられる.そのため自宅で認知症と診断された夫/妻を看取る過程を通して《私と私の中のあなた》という関係になりこの経験は終わりを迎えると考えられた.

2. 認知症と診断を受けた夫/妻を自宅で看取る経験

夫婦関係の変化から見た自宅での看取りという経験は,[私の役目][過去の清算][夫婦になったんだから]という強制ではないが,あなたへの思いだけでなく,関係性に基づいた役割意識が原動力となっていた.Eskola et al.(2022)も,夫婦の親密さと互いに対する責任感は,資源であるとしている.また,最終的に自宅で看取るという決断には[私とあなたの居場所]という私のそばがあなたの居場所という関係性と[あなたを見れば“わかる”]というあなたの思いが汲み取れる関係性であることが必要であることがわかった.そのためには,その夫婦毎のニーズに合わせた認知症早期からの情報提供や関係が拗れないよう支援・介入を行う必要があると考えられる.

また夫婦関係には,〔維持するために私を保つ〕ことが必要であることが分かった.そのために本研究では,[不満を飲み込んでサポートを利用し守る][一人で抱え込まない][他者には踏み込ませない][尊厳を守ることで保つ]といった概念が抽出された.このことから,介護保険サービスの質向上,地域格差のない地域包括ケアサービスの構築,認知症に残るスティグマへの対策が必要であると考えられる.

一方,施設での看取りの経験は先行文献において,施設を「第二の自宅」(牧野ら,2020)と認識していたことから,介護者は自宅がいるべき場所であるという意識があり,本研究の[私とあなたの居場所]の概念と一致していると考えられた.また病院,施設での看取りはどちらも専門職と一緒に認知症と診断された人に対してケアに取り組めたと感じられたこと,安らかな死(牧野ら,2020)を迎えられたことや自然な最期を迎えることができたと感じること(森山・長岡,2015)が看取りの満足度を高めていた.これは本研究の[納得の最後]でも表出された言葉であり,看取りの場所に関係なく,認知症と診断された人の最期の様子は看取りの評価に影響を与えると考えられた.施設,病院での看取りの経験では施設に預けることに対する後ろめたさという言葉はあるが,専門職によるケアや施設でのケアに対して不満の表出はされていない.一方,配偶者による自宅での看取りの経験では,提供されるサービスに対し[不満を飲み込みサポートを利用し守る]が抽出された.また,あるべき場所という思いから自然と決断に至る場合や,入所を断られたから仕方がなくではあったがそれが良かったという結局は私のそばがあなたの居場所であるという[私とあなたの居場所]という概念より,夫婦の思いだけでなく他の要因に影響を受ける経験であると考えられた.そのため夫婦の思いによって選択できるようサービスや支援が拡充していく必要がある.

3. 実践への示唆

これまでの考察から認知症と診断された夫/妻を配偶者が自宅で看取りを行うためには,変化していく夫/妻を変化ごと受け入れていくため必要な情報提供や配偶者が自分自身を保てるための地域格差のない地域包括ケアシステムの構築,多職種で共に取り組んでいく精神的支援,私を保つために家族会や地域のコミュニティなど他者の繋がりが持てるあるいは保てる支援が必要であると考えられた.またサービスの有無だけでなく質の向上のために専門職への認知症に対する正しい知識と,夫婦関係に着目した支援についての教育が必要である.認知症に関するスティグマを減少させていくべく正しい知識を広めていくために様々な自治体や家族会で行われているイベントやインターネットを通じた情報発信活動などを通じて行っていく必要がある.

Ⅶ. 研究の限界

本研究の限界は,対象者の選定基準に過去の夫婦関係が含まれない点,対象者の年齢が50~90代と幅広いため語りの背景がさまざまであること,認知症と診断された夫/妻の合併症について詳細に調査されていないこと,全員が当時専門職による支援を受けており,専門職の支援のない人の経験は含まれない点がある.さらに,後ろ向き研究であり記憶の薄れや書き換えが起こっていないとは言い切れない.また本研究は夫婦関係の変化を一方の視点から捉えた変化を記述したものである.また,結果図やストーリーライン,分析結果全体に関する対象者の反応を確かめていない点である.

Ⅷ. 結論

認知症と診断された夫/妻を自宅で看取る過程での夫婦関係は,認知症という診断を受け,症状による日常生活への困難が出現するところから〔病とともにあるあなたに歩み寄る〕【私とあなた】に変化する.関係性を変化させることと,2者間の相互作用で成り立たせるために【あなたのための私】を保つ必要がある.病状の進行によりあなたはあなたとして存在するが,相互作用が困難となっていくため【私とあなたともう一人のあなたとしての私】になることで夫婦の2者関係は継続される.認知症と診断された夫/妻を自宅で看取るまでの夫婦関係の変化は,別離により肉体を持つあなたは居なくなるが,私の中のあなたは存在し続けるため《私と私の中のあなた》になり関係変化は終了する.

夫婦という関係はケアの原動力となるため,関係性に着目し,関係のスムーズな移行と良好に維持できるよう夫婦双方への支援とその支援が行えるような教育が必要である.また,専門職も含めたすべての人に対して認知症という疾患への正しい知識を伝える活動が引き続き行われる必要がある.

付記:本論文の一部は,第29回日本在宅ケア学会学術集会において発表した.

本研究は,聖路加国際大学大学院看護学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究に快くご協力いただきました皆様,丁寧に指導して下さった指導教授の老年看護学 亀井智子教授に厚く御礼申し上げます.また研究にご助言下さった看護社会学 木下康仁特命教授に心から御礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

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