日本看護科学会誌
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原著
中高生におけるがんの知識とイメージ
~がん対策基本法改訂による学校でのがん教育開始後の実態調査~
栄 裕海福井 里美
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2025 年 45 巻 p. 668-679

詳細
Abstract

背景:がん対策基本法改訂に伴い学校でのがん教育が開始されたが,がん教育を受けた中高生が持つがんの知識とイメージの実態を示すデータは少ない.

目的:学校でがん教育を受けた中高生が持つがんの知識とイメージの実態を明らかにすることを目的とした.

方法:2022年3月~7月に,関東圏内の中高生842名より質問紙とWeb質問票を併用して回答を得た.背景では,学年やがん教育の有無等の回答を求めた.がんの知識ついては26項目の質問文を3択形式で,がんのイメージでは12項目の形容詞対をSD法で調査した.

結果:がん検診や予防行動に関しては正答率が高く,具体的な治療方法,緩和ケア等は正答率が低かった.中高生のイメージは怖い,苦しいが強く,がんに触れる機会がない生徒の方が,より負のイメージを持っていた.

結論:中高生の持つがん知識には,項目により差がみられた.看護師はその特性を踏まえ適切な情報提供と支援を行う必要がある.

Translated Abstract

Background: Cancer education in schools began following the revision of the Cancer Control Act. However, there is little data on the actual knowledge and images of cancer among junior-high and high school students who have received cancer education.

Objective: We aimed to explore the knowledge and images of cancer among junior-high and high school students who received cancer education at school.

Methods: Between March and July 2022, a total of 842 first- and second-year junior-high school students and first- and second-year high school students from areas near Tokyo, Japan, participated in a questionnaire and web-based survey. Background information, including grade level and exposure to cancer education, was collected. Knowledge of cancer was assessed using a three-choice format with 26 items, while images of cancer were measured using the semantic differential method with 12 pairs of adjectives.

Results: In terms of cancer knowledge, the correct response rate was high for topics regarding cancer screening and preventive behavior. However, it was low for specific treatment methods and the timing of initiating palliative care. The images of cancer held by junior-high and high school students tended to be strongly associated with fear and pain. Students who had not been exposed to cancer-related education or experiences had more negative images.

Conclusion: Junior-high and high school students showed both accurate and limited knowledge of cancer, depending on the topic. Nurses need to provide appropriate information and support based on these characteristics.

Ⅰ. はじめに

1981年にがんが国内の死因第1位となり,2006年には「がん対策基本法」の制定,2016年には「がん患者の就労等」と「がんに関する教育の推進」をその柱に加えた改正が行われた.2016年度に小学校と中学校,2017年度に高等学校の学習指導要領が改訂され,義務教育としてのがん教育は始まったばかりである.移行期間を挟み,小学校では2020年度から,中学校では2021年度から,高等学校では2022年度から順次全面実施とされている.がん教育の具体的内容として,①がんとは(がんの要因等),②がんの種類と経過,③我が国のがんの状況,④がんの予防,⑤がんの早期発見,がん検診,⑥がんの治療,⑦がんの治療における緩和ケア,⑧がん患者の生活の質,⑨がん患者への理解と共生,と幅広く9項目が挙げられている(文部科学省,2015).しかし,実際には過密な学習時間の中で,がん教育に多くの時間を確保する困難さが推察される.文部科学省(2020)によると,学校で実施されたがん教育の内容は,がんとはどのような病気か(86.0%),がんの予防(84.8%),日本のがんの現状(62.0%),早期発見とがん検診(45.2%)等が主であり,偏りが否めない.

実際のがん教育の効果は,Hudson et al.(2021)が,中高生に対しパワーポイントを用いて教育的介入を行うと,がんに関する正答率が55.8%から84.9%まで上昇し,がんの基本の理解に役立つことを明らかにした.また,日本の中学1年生に対しても,養護教諭ががんに関するスライド教材,事例学習,DVD視聴を用いて保健指導を行ったところ,がんに関する正答率が上昇したことを示した(加藤・菊池,2019).このように,近年始まった学校でのがん教育により中高生ががんに関する知識を得ていると考えられるが,その実態を調査した研究はない.

また,がんのイメージについての先行研究では,子どもから大人まで「怖い」などの負のイメージを持っていることが明らかにされている(宮田ら,2015村本ら,2006藤岡ら,2019).特に,小学生より中高生の方が「怖い」というイメージを持つ生徒が少なく(植田ら,2014),家族にがん患者がいる場合は「怖い」というイメージが増加していた(Sugisaki et al., 2021).更に,小学6年生を対象にがんが怖いと思う理由を問うと,「なんとなく」が21.2%,「がんがどういうものか分からないから」が14.2%であった(河村ら,2010).この結果から,実際に看護学生を対象とした教育的な介入によってがんの負のイメージが減少する(平野・渋谷,2012渋谷・平野,2013, 2014小濱・目時,2012前澤ら,2021)ことを踏まえると,中高生も学校でのがん教育開始に伴う知識獲得によってがんのイメージが変化する可能性が考えられる.

以上より,中高生に対する学校でがん教育開始に伴い,中高生のがんの知識やイメージに変化が生じている可能性が考えられるが,がん教育開始後の実態を調査した研究はない.

一方で,看護師ががん患者家族となり得る子どもと関わる際には,子どもの持つ知識や発達段階に合わせたそれぞれの子どもの持つがんのイメージを把握した関わりが必要である(篠田ら,2019藤本・神田,2017鬼頭ら,2017廣瀬ら,2004).Inoue et al.(2015)によると,がんと診断された親を持つ未成年の子どもの平均年齢は11.2歳であり,年齢が高くなるほど親のがんの割合が高くなることが示されており,つまり中高生では親ががんと診断される生徒が増えてくる.これらのことから,がん教育開始後の中高生におけるがんの知識とイメージの実態を明らかにすることで,看護師が中高生を子どもに持つがん患者と関わる際の一助となると考える.

Ⅱ. 用語の定義

がん教育:文部科学省の定める学習指導要領によって学校の授業で行われているがん教育とする.文部科学省(2015)の定めるがん教育とは,健康教育の一環として,がんについての正しい理解と,がん患者や家族などのがんと向き合う人々に対する共感的な理解を深めることを通して,自他の健康と命の大切さについて学び,共に生きる社会づくりに寄与する資質や能力の育成を図る教育である.

がんの知識:文部科学省の定めるがん教育の内容に関する知識とする.

がんのイメージ:Semantic Differential Method(以下SD法とする)を用いて計測するがんのイメージとする.

Ⅲ. 目的

中高生ががんについてどのくらいの知識を有し,またどのようなイメージを持っているのかの実態を明らかにすることを本研究の目的とする.

学校でがん教育を受けている中高生に焦点を当て,中高生のがんの知識やイメージの実態を把握することで,中高生を子どもに持つがん患者家族を理解し関わっていく際の一助となると考える.

Ⅳ. 研究方法

1. 研究デザイン

自記式無記名質問紙調査による横断的観察研究

2. 研究対象者

関東圏内のがん教育を既に行っている学校に通う中高生とした.調査校は機縁法に加え,関東圏内の市区町村が公開している学校一覧を参照し,がん教育を開始しているかを学校長に確認の上,直接研究協力を依頼した.小学校では95.9%が6年生でがん教育を実施している(文部科学省,2020)ことから,中学生以上はがん教育を既に行っていると考え,中学生以上を対象とした.また,中学3年生と高校3年生は受験生であり,研究協力が得にくいと考え,実現可能性の観点から除外し,中学1,2年生と高校1,2年生を対象とした.

3. データ収集期間

プレテスト:2022年3月

本調査:2022年6月~7月

4. 調査方法

プレテストを実施し修正した後に本調査を実施した.正誤問題は,調査後に解説を配布し間違った知識が定着しないように配慮した.

1) プレテスト

中学1年生11名,高校1年生6名,高校2年生7名(全学年回収率100%)を対象にプレテストを実施した.分かりにくいとされた語句の修正や回答例の補足を行った.また,イメージを問う項目の解答肢を7件法の数字表記から「とてもそう思う」等の日本語表現に変更し,その下に両方向の矢印を加え分かりやすくなるように修正した.

2) 本調査

本調査では,学校を通じて質問紙と生徒への説明書,保護者への説明書を生徒に配布した.説明書にはQRコードを記載し,Googleフォームで作成した質問項目に回答できるように準備し,中高生自身に回答方法を選択していただいた.紙媒体を選択した場合は,事前に配布した封筒に質問紙を入れた後に,学校に設置する回収ボックスに提出してもらい,回収を行った.回答期間終了後に学校を通じて解説を配布し誤った知識が定着しないように配慮した.

同意取得方法として,質問紙では表紙に保護者と生徒の双方の同意の意思を確認するチェックボックスを用意し,2つともチェックされていた場合に同意したものとみなした.インターネットで回答する場合は,Googleフォームの最初に保護者と生徒の双方に対し,同意の意思を確認する設問を作り,2つともチェックされていた場合に同意したものとみなした.

一部学校では,学校の意向により,配布資料を学校が使用しているオンラインツールを用いて配布し,URLからWebフォームに移動できるように設定して実施した.

5. 調査内容

調査項目は,背景,がんの知識,がんのイメージの3項目を調査した.先行研究(副島ら,2012副島ら,2014堀毛,1994河内,1993前澤ら,2021バイエル薬品株式会社,2014内閣府,2016文部科学省,2021a, 2021b, 2021c, 2021d, 2021e, 2021f, 2021g, 2021h, 2021i植田,2018)を参考に,対象者の背景とがんの知識,がんのイメージに関する自記式無記名質問紙を作成した.

背景では,学年,性別,がん教育について(がん教育の有無,がん教育を受けた学年/先生/科目名),身近ながん患者の有無,TV等でがんに触れる機会,家族でがんの話をする機会,がんへの興味関心について調査した.

がんのイメージでは,SD法を採用し,7件法にて調査した.左右に形容詞を配置し,その間に7つのチェックボックスを置き,よりイメージに近い箇所に印を付ける形で回答を得た.結果の集計時には負のイメージを左側に配置し,左から右に1から7点と点数化し真ん中の4点を基準とする形で集計を行った.実際に調査を行った12個の形容詞対は,「怖いvs優しい」「重いvs軽い」「苦しいvs楽な」「治りにくいvs治りやすい」「危険なvs安全な」「暗いvs明るい」「高齢でなるvs若年でなる」「めずらしいvsありふれた」「障害の残るvs元通りになる」「弱弱しいvs元気な」「複雑なvs単純な」「難しいvs簡単な」である.

がんの知識については,学校におけるがん教育の在り方について報告(文部科学省,2015)の中で,がん教育の具体的な内容として取り上げられている9項目を参考に,一部を結合する形で大きく8項目の質問文を作成した.そこから,文部科学省が公開しているがん教育のための補助教材(文部科学省,2021a, 2021b, 2021c, 2021d, 2021e, 2021f, 2021g, 2021h, 2021i)を参考に,誤文を含む形式で27問の質問文を作成した.最終的に質問文は,8項目に分類され,がんの要因・がんの種類と経過・日本のがんの状況・がんの予防・がんの早期発見・がんの治療・緩和ケア・がん患者の生活の質である.回答方法は,正しい・間違っている・分からないの3択での回答とした.

6. 分析方法

対象者の基本属性について記述統計を行い,学年ごとに度数(人)および割合(%)で示した.がんの知識については,ピアソンのχ2検定を行い,有意差の認められた項目についてBonferroniの多重比較を行った.がんのイメージについては,Kruskal-Wallis検定を行った.その後有意差の認められた項目について,2群比較ではMann-WhitneyのU検定を,3群以上の比較ではBonferroniの多重比較を採用した.

分析にはIBM SPSS Statistics Ver.28.0.0.0(190)を使用し,有意水準は5%とした.

7. 倫理審査

本研究は東京都立大学荒川キャンパス研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:21097).

本調査では,まず協力施設の校長,教員に対して研究目的や調査内容について説明し,了承を得た.その後に,協力対象クラス,配布方法及び回収方法を相談の上,決定した.また,質問紙の表紙に保護者と生徒の双方への説明と同意の意思を確認するチェックボックスを用意し,2つともチェックされていた場合に同意したものとみなした.質問紙は匿名のため,同意撤回者と回答した質問紙との照合が不可能であり,回答提出後の同意の撤回又は拒否に対する措置を講じないことを明記した.

研究対象者自身やその家族等にがん患者である方がいた場合に,精神的負担を与えるリスクが考えられるが,質問紙表紙に途中で回答を中断して良い旨を記載し,加えて保護者の方の判断で質問紙への回答を中断していただいてよいことを記載した.

Ⅴ. 結果

1. 研究対象者

協力校は,関東圏内の学校でがん教育を実施している中学校3校,高等学校3校に通う,中学1,2年生と高校1,2年生である.質問項目の9割が空欄であった2名,保護者と生徒の両方の同意欄に印のなかった5名の計7名については無効回答として扱った.最終的に,中学生289名(質問紙:208名,インターネット:81名),高校1年生422名(質問紙:280名,インターネット:142名),高校2年生131名(質問紙:74名,インターネット:57名),合計842名を分析対象とした.中学1年生への調査は協力が得辛く回答数が少なかった為,中学1,2年生のデータに差異がないことを確認して1群として扱うこととした.

2. 背景項目

表1に各背景項目における学年別の回答割合を示した.性別については,中学生は男子が128名(44.3%),女子が149名(51.6%),高校1年生は男子が205名(48.6%),女子が213名(50.5%)と,男女の割合はほとんど同じ割合であった.高校2年生は,男子が45名(34.4%),女子が85名(64.9%)であった.がん教育を受けたと自覚している中高生は,中学生が172名(59.5%),高校1年生が272名(64.5%),高校2年生が77名(58.8%)と,どの学年も6割程度であった.続いて,身近にがん患者がいるかどうかについては,「いる」と回答した割合が,中学生は89名(31.1%)であったが,高校1年生は163名(39.2%),高校2年生は51名(39.2%)であり,中学生より高校生の方が身近にがん患者がいる割合が高かった.また,がんに触れる機会について,「よくある」及び「たまにある」と回答した中高生は,中学生は150名(52.6%),高校1年生は269名(64.2%),高校2年生は89名(69.0%)と,学年が上がるにつれてがんに触れる機会がある中高生が増えていた.一方で,家族でがんについて話す機会について,「よくある」及び「たまにある」と回答した中高生は,中学生は50名(17.7%),高校1年生は106名(25.3%),高校2年生は32名(24.6%)と,どの学年も家族と話をする機会がある中高生は,15~25%程度であった.がんについて興味関心がある中高生は,中学生では103名(36.5%),高校1年生は257名(61.9%),高校2年生は59名(46.5%)であった.

表1 背景項目の学年別割合

項目 中学生 高校1年生 高校2年生 合計
n % n % n % n %
性別 128人 44.3% 205人 48.6% 45人 34.4% 378人 44.9%
149人 51.6% 213人 50.5% 85人 64.9% 447人 53.1%
その他 12人 4.2% 4人 0.9% 1人 0.8% 17人 2.0%
合計 289人 100% 422人 100% 131人 100% 842人 100%
がん教育の有無 勉強した 172人 59.5% 272人 64.5% 77人 58.8% 521人 61.9%
勉強してない 66人 22.8% 101人 23.9% 31人 23.7% 198人 23.5%
覚えていない 51人 17.6% 49人 11.6% 23人 17.6% 123人 14.6%
合計 289人 100% 422人 100% 131人 100% 842人 100%
身近な
がん患者の
有無
いる 89人 31.1% 163人 39.2% 51人 39.2% 303人 36.4%
いない 187人 65.4% 240人 57.7% 77人 59.2% 504人 60.6%
答えたくない 10人 3.5% 13人 3.1% 2人 1.5% 25人 3.0%
合計 286人 100% 416人 100% 130人 100% 832人 100%
がんに触れる機会 よくある 24人 8.4% 25人 6.0% 9人 7.0% 58人 7.0%
たまにある 126人 44.2% 244人 58.2% 80人 62.0% 450人 54.0%
ほとんどない 92人 32.3% 117人 27.9% 32人 24.8% 241人 28.9%
ない 43人 15.1% 33人 7.9% 8人 6.2% 84人 10.1%
合計 285人 100% 419人 100% 129人 100% 833人 100%
がんの話を
する機会
よくある 4人 1.4% 6人 1.4% 4人 3.1% 14人 1.7%
たまにある 46人 16.3% 100人 23.9% 28人 21.5% 174人 20.9%
ほとんどない 113人 39.9% 179人 42.8% 57人 43.8% 349人 42.0%
ない 120人 42.4% 133人 31.8% 41人 31.5% 294人 35.4%
合計 283人 100% 418人 100% 130人 100% 831人 100%
興味関心 ある 103人 36.5% 257人 61.9% 59人 46.5% 419人 50.8%
ない 179人 63.5% 158人 38.1% 68人 53.5% 405人 49.2%
合計 282人 100% 415人 100% 127人 100% 824人 100%

次に,がん教育を受けたことがあると回答した中高生のみ,複数回答でがん教育を受けた学年と,がん教育を受けた授業,がん教育の担当者について調査した.がん教育を受けた学年について,中学生では,小学6年生が118名(63.1%)と最も多かった.高校1年生では,中学3年生が146名(37.0%),高校1年生が100名(25.3%),高校2年生は中学3年生が29名(28.7%),高校1年生が27名(26.7%)であった.がん教育を保健体育で受けた中高生は,中学生が152名(87.4%),高校1年生が249名(80.6%),高校2年生が70名(87.5%)であり,どの学年も80%以上と多かった.がん教育の担当者については,中学生では担任の先生と回答した生徒が112名(57.1%)と多く,高校生では保健体育の先生と回答した生徒が高校1年生で235名(72.8%),高校2年生で64名(71.1%)と最も多かった.また,外部講師ががん教育の担当者であったと回答した中高生は全学年合計で18名(3.0%)と5%を切っていた.

3. がんの知識

がんの知識の各問に関する正誤と正答率を図1に示した.がんの知識については,まず中高生全体の正答率に着目すると,正答率が80%以上と高い項目は7項目あり,「がんは誰もがなる可能性ある病気である(95.6%)」,「禁煙・節酒・ストレスの予防はがんの予防に効果はない(80.5%)」,「感染検査やがん検診を受けることはがんの予防として大切である(93.9%)」,「がんは早く見つかれば治りやすい(90.9%)」,「早くがんを見つけるために定期的な健診を受けることは重要ではない(90.6%)」,「治療法を理解し自分で選ぶという意識が大切である(84.3%)」,「がんの治療選択時に病気を治すだけでなく,生活の質の維持向上が大切である(82.5%)」であった.

図1  がんの理解の正答率

一方,正答率が50%以下と低い項目は5項目あり,「日本人の5人に1人ががんになる(21.3%)」,「がんは日本人の死因の2位である(36.3%)」,「がんを予防するためのワクチン接種はない(30.9%)」,「がんの治療方法は手術・放射線治療の主に2つである(24.4%)」,「がんに対する緩和ケアは可能な治療がなくなった時に開始される(44.7%)」であった.

学年別でがんの知識について比較した結果,有意差が認められた項目は15項目あり,その内11項目において,中学生より高校生の方が正答率の高かった.その詳細を図2に示す.

図2  学年別のがんの理解の正答率

次に,がん教育について勉強した521名,勉強していない198名,覚えていない123名で比較した結果,有意差が認められた質問は11項目であり,その内9項目において,がんについて勉強した中高生の方がその他の回答をした中高生より平均値が高かった.詳細を図3に示す.

図3  がん教育の有無別のがんの理解の正答率

その他の背景項目に関してもそれぞれ比較した結果,TVに触れる機会のある中高生,家族とがんに関して話す機会のある中高生,がんへの興味関心がある中高生の方がそうでない中高生より有意に正答率が高かった.

4. がんのイメージ

中高生全体では,平均値が7件法における真ん中の4点より高い項目は「ありふれた」の5.45点(標準偏差1.33)のみであった.その他の項目は4点未満であり,「怖い」が1.58点(標準偏差0.91),「苦しい」が1.59点(標準偏差1.10),「重い」が1.67点(標準偏差0.95)で,がんに対してありふれた病気であるが負のイメージを持っていた.

学年別のがんのイメージの平均値を図4に示した.がんのイメージに関して,学年ごとの比較で有意とされた項目は2項目あり,「高齢でなるvs若年でなる」(χ2 = 12.10, df = 2, p = .003)と,「障害の残るvs元通りになる」(χ2 = 17.53, df = 2, p < .001)であった.この2項目について,各学年の平均値を比較すると,「高齢でなるvs若年でなる」は,中学生が3.17点(標準偏差1.29),高校1年生が3.50点(標準偏差1.17),高校2年生が3.58点(標準偏差1.15)であり,中学生は高校1年生と比べて有意に「高齢でなる」というイメージを持っており(p = .005),高校2年生と比べても同様にそのイメージを有していた(p = .023).続いて,「障害の残るvs元通りになる」の平均値は,中学生が2.94点(標準偏差1.46),高校1年生が3.22点(標準偏差1.23),高校2年生が3.41点(標準偏差1.25)で,中学生は高校1年生と比べて有意に「障害の残る」というイメージを持っており(p = .003),高校2年生と比べても同様にそのイメージを有していた(p = .001).

図4  学年別のがんのイメージのセマンティックプロフィール

がん教育を受けたかの自覚によるがんのイメージの平均値を図5に示す.がんのイメージについて,がんについて勉強した,勉強していない,覚えていないの3群で比較した結果,有意差の認められた項目は2項目であり,「苦しいvs楽な」(χ2 = 7.55, df = 2, p = .023)と,「治りにくいvs治りやすい」(χ2 = 7.51, df = 2, p = .023)であった.項目ごとに比較すると,「苦しいvs楽な」では,勉強していない中高生が1.45点(標準偏差1.01),勉強した中高生が1.63点(標準偏差1.14),がんについて勉強したかどうか覚えていない中高生が1.64点(標準偏差1.01)で,勉強していない中高生の方が勉強したと自覚する中高生より有意に「苦しい」というイメージが強かった(p = .042).また,「治りにくいvs治りやすい」では,勉強していない中高生が2.07点(標準偏差1.23),がんについて勉強したかどうか覚えていない中高生が2.17点(標準偏差1.38),勉強した中高生が2.38点(標準偏差1.42)であり,勉強していない中高生の方が勉強したと自覚する中高生より有意に「治りにくい」というイメージを有していた(p = .038).

図5  がん教育の自覚によるがんのイメージのセマンティックプロフィール

その他の項目についても比較した結果,身近にがん患者のいる中高生の方が有意に「ありふれた」病気であるというイメージを持ち,がんに触れる機会がない中高生の方が有意に「治りにくい」というイメージを持ち,家族で話す機会のない中高生の方が有意に「高齢でなる,珍しい」というイメージを持ち,がんへの興味関心のない中高生の方が有意に「治りにくい,障害の残る,弱々しい」というイメージを持っていた.

Ⅵ. 考察

本研究の中高生のがんの知識とイメージの結果から,がん教育は予防に重点が置かれており,がん予防に関する知識は中高生に広く浸透している一方で,治療や緩和ケアに関する知識は十分とはいえない.がん全体に対しては依然として「怖い」「苦しい」「治りにくい」といった負のイメージが強く,その過度な不安や偏見から,健診及び医療が進歩しているがん種においても,がん検診の忌避,早期受診の遅れ等の健康行動に悪影響を及ぼす恐れがある.したがって,がんの負のイメージを軽減し,適切な行動に繋げやすいよう中高生への診断後の治療やQOLの支援等の適切な情報提供が重要であり,がん教育の課題と考える.

以下に,1.中高生のがんに関する知識と看護師の関わり方,2.中高生のがんに対するイメージと情報支援の可能性,に分けて考察する.

1. 中高生のがんに関する知識と看護師の関わり方

中高生のがんの知識について,「禁煙・節酒・ストレスの予防はがんの予防に効果はない」「感染検査やがん検診を受けることはがんの予防として大切である」「がんが早く見つかれば治りやすい」「早くがんを見つけるために定期的な健診を受けることは重要ではない」の項目は正答率80%以上と高かった.つまり,中高生は禁煙・節酒等ががんの予防となることや定期的な検診が予防行動として重要であることを知識として持っているといえる.がん教育を実施している学校の中で,がんの予防を取り扱っている割合は84.8%,早期発見とがん検診を取り扱っている割合は45.2%であり(文部科学省,2020),中高生は学校でのがん教育を通してがんの予防やがん検診に関する知識を獲得しているといえる.これはがん教育によってがんの知識が向上するという先行研究(Hudson et al., 2021加藤・菊池,2019)を裏付ける結果であった.

一方,「がんの治療方法は手術・放射線治療の主に2つである」「がんに対する緩和ケアは可能な治療がなくなった時に開始される」の項目は正答率が50%未満と低く,中高生はがん治療方法や緩和ケアについてはあまり知識がないといえる.これらについてがん教育で取り扱っている学校の割合は,がん治療が15.9%,緩和ケアが6.8%とほとんど実施されていない.そのため中高生のがん治療や緩和ケアに関する知識は不十分であり,がん教育が始まったとはいえ,中高生の持つがんの知識に偏りがある.

一方で,がんの知識に関する15項目のうち11項目で,中学生より高校生の正答率が高かった.これは,学校教育の中で同様の内容を段階的に学習することで,知識が徐々に定着していく可能性を示唆している.文部科学省(2019)による保健教育の手引きにおいても,繰り返し学習が保健の学習の特徴とされており,一度の教育だけでは知識の獲得やがんに対するイメージの変化が難しいことからも,継続的かつ段階的な学習機会の提供が重要であると考えられる.

看護師が中高生と関わる際には,がん教育を通じて一定の知識を得ていることを前提としつつも,治療や緩和ケアなど知識が乏しい領域への補足が必要である.がんへの理解を深めるためには,年齢や発達段階にかかわらず,繰り返し丁寧に説明することが重要である.特に中高生の場合は,発達段階や個々の理解度に応じた内容や表現を工夫した支援が求められると考える.

2. 中高生のがんに対するイメージと情報支援の可能性

中高生のがんのイメージはありふれた病気というイメージがあるものの,全体的に怖い,苦しい,重いという負のイメージを持っていることが明らかとなった.このことは,大人から子どもまでがんに対して負のイメージを持っているという先行研究(宮田ら,2015村本ら,2006藤岡ら,2019)を裏付ける結果であり,がんが身近な存在となった現代においてもイメージの改善は十分とは言えない.身近にがん患者がいる中高生や,家族とがんについて話す機会のある中高生は,そうでない中高生に比べて,がんに対する負のイメージが小さかった.つまり,がんについての直接的な接触経験や対話の機会が,がんに対する知識や受け止め方に影響を与えると考えられる.

このことから,看護師が中高生と接する際には,がんに関する知識だけでなくイメージの形成にも配慮する必要がある.病棟や外来での関わりの中で,がん患者の姿や治療経過に関する情報を伝えることは,がんの現実を知る機会となり負のイメージを軽減する一助となると考える.しかし,平均在院日数の短縮や看護師不足,看護業務量が多いことによる多忙さもあり(相川ら,2014),中高生に対する直接的な関わりを継続することは難しい場合が多い.そのため,看護師が信頼できる情報源を紹介し,中高生自身が正しい情報にアクセスできるよう支援することが重要である.厚生労働省(2022)は,がん患者が探していた情報にアクセスできた割合は71.0%にとどまっている.成人でも情報への到達が難しい現状を踏まえると,中高生自身が正確な情報にたどり着くのはさらに困難であり,情報ツールの紹介や利用の促進は中高生に対しても必要であると考える.

Ⅶ. 研究の限界と課題

本研究の調査対象校は,学習指導要領改訂以前よりがん教育に取り組んでいた先進的な学校であり,機縁法により協力を得た.アンケートは学校を通じて配布したが,回答は任意であったため,がんに対する関心が高い生徒が回答する傾向があった可能性がある.したがって,がんへ興味関心が低い層が調査対象から漏れている可能性があり,これが参加バイアスとなって結果に影響を及ぼした可能性がある.この点を踏まえ,本研究の結果を中高生全体に一般化する際には慎重な解釈が求められる.

Ⅷ. 結論

本研究は,親のがん治療が始まる未成年の子どもの平均年齢とされる中高校生のがんに対する知識とイメージの実態を,既にがん教育を行っている地域の生徒を対象に調査した.6割の生徒ががんについて勉強したと回答し,3~4割の生徒が身近にがん患者がいると回答した.がん検診等の予防に関しては正答率が高く,具体的な治療方法,緩和ケア等は正答率が低かった.中高生にとってがんは怖い,苦しいイメージが強いが,がんに触れる機会がない生徒はより負のイメージを持っていた.中高生に対して,学校教育の組み立て方同様に,身近なことから説明することを意識しながら,繰り返し説明していくことで治療や緩和ケア等についての情報提供を行っていくことや,学校に限らずがんに触れる機会を提供することが大切と考えられる.

付記:本研究は,東京都立大学大学院人間健康科学研究科に提出した修士論文に加筆修正を加え,第43回日本看護科学学会学術集会,第69第日本学校保健学会学術集会,East Asian Forum of Nursing Scholars 2023において発表した各部分をまとめ直したものである.本研究は,2022年度東京都立大学部局長裁量競争的研究費(部局分)の支援を受けて実施した.利益相反は存在しない.

謝辞:質問紙調査にご協力くださいました中高生の皆様と,調査の実施を快く許可くださった校長先生をはじめ,学校関係者の皆様に深く感謝いたします.

西村ユミ先生をはじめとした成人看護学領域と看護哲学の先生方,ゼミ生の皆様,先輩方,植田誠治先生をはじめ学校保健・保健科教育研究会の皆様,多くのご助言いただき大変お世話になりました.ありがとうございました.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:栄裕海および福井里美は研究の着想およびデザインに貢献;栄裕海は研究協力学校の開拓とデータ収集;福井里美は研究資金を得ること統計解析の実施,原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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