目的:看護師長のリフレクションを阻害・促進する要因を明らかにし,効果的なリフレクションの方略を検討する.
方法:リフレクション教育を導入している6施設の看護師長16名に半構造化面接を実施し,質的記述的分析を行った.
結果:阻害要因は,【時間的制約】【心理的抵抗】【リフレクション理解の浅さ】【ファシリテーター機能不全】【行動変容の困難さ】など6カテゴリーを抽出した.促進要因は,〔個人要因〕〔環境・文化的要因〕〔リフレクションプロセスの要因〕の3コアカテゴリーに分類され,特に自己成長意欲と柔軟性といった個人要因は看護師長に特有であり他者の成長を通じて自己を成長させるという学習構造が示唆された.
結論:効果的な方略は,①心理的状況の確認,②心理的安全性を基盤とした経験共有の場の構築,③継続的実践を可能にする仕組み化であり,看護管理における学習文化の醸成に寄与する可能性が示唆された.
Purpose: This study aimed to identify factors that hinder or facilitate reflection among head nurses and to explore strategies for promoting effective reflection in nursing management.
Methods: This study adopted a qualitative descriptive design. Semistructured interviews were conducted with 16 head nurses from six hospitals, and content analysis was used to analyze the transcripts.
Results: The analysis extracted six categories of factors hindering reflection, including time constraints, psychological resistance, limited understanding of reflection, dysfunction of facilitator roles, and difficulty in behavioral change. Conversely, factors facilitating reflection were classified into three core categories: individual factors, environmental/cultural factors, and process-related factors. In particular, individual factors such as intrinsic motivation for self-growth and flexible attitudes appeared to be unique to head nurses. Furthermore, the findings suggested a learning structure in which head nurses develop themselves through the growth of others.
Conclusion: Three key strategies were identified for effective reflection among head nurses: (1) assessment of head nurses’ psychological readiness, (2) establishment of psychologically safe and open forums for sharing experiences, and (3) development of organizational systems that enable continuous reflection. These strategies are interrelated and provide a foundation for transforming reflection from a superficial exercise into a sustainable learning process that fosters behavioral change and contributes to organizational learning in nursing management.
近年,急速に変化する医療環境においては,状況の変化に柔軟に対応できる質の高い看護管理能力を有する人材の育成が求められている(厚生労働省,2014;金井,2013).特に看護師長は,多様かつ複雑な課題に日々直面し(山本ら,2013),限られた時間で自身の経験や知識に基づき,的確な判断と迅速な行動が求められる(倉岡,2019;西向,2011).一方でその過程で判断の妥当性に迷い,後悔を抱くことも少なくない(古布,2020).
看護師長は,看護ケアの質と患者安全を確保するため,スタッフの育成やチームの円滑な運営に努める必要がある.このためには,自己の経験から学び成長し続ける姿勢が不可欠であり,その手段としてリフレクションに注目が集まっている.リフレクションとは,自己の経験を客観的・批判的に捉え,実践に生かす学習プロセスである(Schutz, 2008;田村ら,2003).教育学や心理学の領域では,思考活動としての定義(Dewey, 1933),経験学習モデル(Kolb, 1984),リフレクティブサイクル(Gibbs, 1988)など,多様な理論的枠組みが展開されてきた.
日本では2000年代以降,これらの理論に基づいた教育プログラムが学生や臨床看護師を対象に導入され,思考の深化と実践力の向上に寄与してきた(武藤・前田,2018;金井,2013).リフレクションの形式には,①一人での内省(ジャーナリングなど),②一対一の対話,③複数人での事例検討などがあり(上田・宮崎,2010),このグループでのリフレクションは,多様な視点の共有を通じて意味づけを深め,個人の学習にとどまらず,組織的学習にもつながる有用性が国内外で報告されている(河野,2013;Mannix et al., 2013).そのため,本研究では③に該当するグループでのリフレクションに焦点を当てる.
看護師長におけるリフレクションの有用性については,西向(2011)が対話的リフレクションによる実践力の再構築を示し,金井(2013)も専門性への深化の貢献を報告している.さらに,古布(2020)や金子ら(2021)は,リフレクションの質と習慣化が看護管理コンピテンシーの向上に影響することを明らかにしている.海外でも,看護管理者におけるリフレクションを実践知やリーダーシップ開発の一環として捉える研究が蓄積されつつあり,Mannix et al.(2013)は,看護マネジャーが経験の省察を通じてリーダーとして成長する過程を示している.以上の先行研究から,看護師長にとってリフレクションは,実践知の獲得と管理能力を向上させる重要な手段であることは示されている.しかし,その実践形態,特に効果を左右する阻害要因や促進要因については,ほとんど知見がないのが現状である.
本研究の目的は,グループでのリフレクション経験を有する看護師長を対象に半構造化面接法を用いて,リフレクションの阻害要因と促進要因を明らかにすることである.また,得られた知見をもとに,看護師長における効果的なリフレクションの方略を提示することで,管理能力の向上に貢献することを目指す.
・看護師長:中間管理者として,一つまたは複数の看護単位を管理し,スタッフの育成や看護の質向上を担う責任を有する看護師を指す.
・リフレクション:自己の経験を客観的・批判的に捉え,思考・感情・行動を再構築し,将来の実践に活かすことを目的とした学習プロセス(Schutz, 2008;田村ら,2003)とした.
・阻害要因と促進要因:リフレクションの深まりを阻害する要素,またはリフレクションプロセスの進行を妨げる要素を『阻害要因』,促進する要素を「促進要因」とした.
質的記述的研究
2. 研究対象者対象者は,2021年4月に医学中央雑誌およびWeb上で検索した,看護師長のリフレクションに関する研究や研修報告を行っている全国の36施設から,研究協力に同意を得た6施設の看護師長16名とした.研究への協力依頼は各施設の看護部長を通じて行い,事前に協力可能な人数を伺った上で,その人数分の依頼文を郵送した.なお,同意は個別に郵送で回収した.リフレクション研修は経験年数を問わず実施されるため,看護師長歴の長短を問わず,多様な対象者を選定した.
3. データ収集期間2021年9月~11月
4. データ収集方法面接日時は対象者の都合に応じて調整した.面接方法は新型コロナウイルス感染症の感染拡大が懸念される期間であり,対象者の健康と安全を最優先しつつ,研究への参加の機会を確保するため,対面またはリモート会議システム(Zoom等)を併用した.面接に先立ち,研究の概要,自由意思に基づく参加,および同意撤回の権利について説明し,同意を得た.インタビューは,半構造化面接法にて実施し,フェイスシートで看護師長歴,勤務部署,リフレクションの実施回数・方法を確認した.主な質問内容は,①リフレクション研修中の状況,②リフレクションの具体的な事例,②リフレクションを通して得られた気づきとその後の行動の変化,③ファシリテーターの有無や対象者との関係性,関与の仕方(傾聴中心,助言型,主導的進行など),④リフレクションの課題と要望や期待,とした.面接内容は,同意を得たうえでICレコーダーに録音した.
5. データ分析方法面接によって得られた録音データはすべて逐語録を作成した.質的記述的アプローチ法(グレッグら,2017)を用いて内容を精読し,「阻害要因」と「促進要因」に着目してコード化を行った.コード間の類似性・相違性に基づいて,それぞれサブカテゴリー,カテゴリーへと統合し,促進要因についてはコアカテゴリーを生成した.
分析過程の妥当性と信頼性を確保するため,共同研究者との意見交換を記録し,看護師長研修にリフレクションを導入している医療機関の看護部長および看護管理学研究者からスーパーバイズを受けた.さらに,リフレクション歴や勤務施設の規模,看護師長歴の異なる3名の研究参加者に対して分析結果を提示し,メンバーチェッキングを実施した.これは,属性の異なる立場からの評価を得ることで,分析内容の妥当性と多様性の確認を図ることを目的とした.
6. 倫理的配慮本研究は研究者が所属する施設の倫理審査委員会による審査と承認を受けて実施した(承認番号2021-06).研究対象者に対しては,文書と口頭にて,研究の目的,研究方法,研究参加の任意性,同意後の撤回の権利,個人の匿名性,個人情報の保護,データは本研究以外に使用しないこと,研究終了後はすべての記録を破棄すること,学会や学術誌での発表について説明し,署名により研究協力の承諾を得た.
研究対象者は,看護部長の協力を得た6つの医療機関から,同意を得た16名であった(表1).面接平均時間は48.7分で,女性15名,男性1名であった.看護師長歴は平均5.8年(SD ± 4.5)で,リフレクション研修の受講回数は平均7.5回(SD ± 2.0)であった.リフレクションは全員がグループ形式で行っており,1事例あたりの検討時間の平均時間は32.5分(SD ± 17.9)であった.上司のグループリフレクションへの参加の有無は,参加ありがほぼ半数を占めた.
| ID | 看護師長 経験年数(年) |
性別 | 勤務部署 | 研修受講回数 (概ね・回) |
1事例の検討時間 (概ね・分) |
リフレクション中の 上司の参加状況 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A | 5 | 女性 | 感染管理部門 | 10 | 30 | なし |
| B | 10 | 女性 | 外科系病棟 | 8 | 10 | あり |
| C | 3 | 男性 | 混合病棟 | 8 | 30 | なし |
| D | 20 | 女性 | 患者支援部門 | 8 | 10 | あり |
| E | 5 | 女性 | 混合病棟 | 5 | 10 | あり |
| F | 5 | 女性 | 内科系病棟 | 7 | 30 | なし |
| G | 2 | 女性 | 外科系病棟 | 5 | 60 | ときどきあり |
| H | 4 | 女性 | 訪問看護ステーション | 10 | 30 | あり |
| I | 11 | 女性 | 看護部管理室 | 10 | 30 | なし |
| J | 2 | 女性 | 検査部門 | 5 | 60 | あり |
| K | 3 | 女性 | 訪問看護ステーション | 6 | 30 | なし |
| L | 3 | 女性 | 混合病棟 | 5 | 10 | なし |
| M | 9 | 女性 | 看護部管理室 | 10 | 30 | なし |
| N | 3 | 女性 | 内科系病棟 | 10 | 30 | なし |
| O | 5 | 女性 | 外科系病棟 | 5 | 60 | あり |
| P | 3 | 女性 | 外科系病棟 | 8 | 60 | あり |
| mean ± SD | 5.8 ± 4.5 | 7.5 ± 2.0 | 32.5 ± 17.9 |
看護師長のリフレクションの阻害要因は,97のコードと意味内容の類似性から,12のサブカテゴリー,6つのカテゴリー【時間的制約】【関係性への配慮による事例選択】【リフレクションへの心理的抵抗】【リフレクションの理解の浅さ】【ファシリテーターの機能不足】【行動変容への困難さ】を生成し,表2に示した.なお,カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを《 》,コードを「 」で記述した.
| カテゴリー | サブカテゴリー (コード数) |
代表的なコード |
|---|---|---|
| 時間的制約 | 時間制限による不十分な分析(8) | 1事例30分くらいで終わらせるので考え方が変わるまで至らないこともある |
| 30分という時間制限の中で発表まで行うため,深く考察することができないことがある | ||
| 煩雑なリフレクション(7) | 時間を気にして何がもやもやの原因かを深掘りできずに終わることがある | |
| 限られた時間の中で語り手が考えている間に周りがあれこれ答えを出すみたいな会になっていた | ||
| 関係性への配慮による事例選択 | 利害関係を意識した事例選択(12) | 人間関係が崩れることを考え,リフレクションしたい事例ではない事例を出すことがある |
| リフレクションに出したい事例がおのずと限られることでリフレクションに対して不満足感は否めない | ||
| 上司の関わる事例は,同期の師長と共有することにとどめてリフレクションの場には出さない | ||
| 先輩看護師長からの指摘を危惧した事例選択(8) | 先輩の師長たちにどう思われるかが気になってしまい,リフレクションではつい無難な事例を選んでしまう | |
| いろいろな指摘が来ることが想像できるような事例は,持っていく勇気が出なくて選ばなかった | ||
| 心理的な防衛機制 | 自分に向き合う余裕の欠如(10) | 師長に就任したばかりの頃は先輩の話を素直に受け入れる余裕がなく,一生懸命な自分を擁護するので精いっぱいだった |
| 自身の思考や管理者としての感性,倫理観と向き合う準備が整っていない限り,もやもやした経験の良い解決策に気づけない | ||
| 自分を直視することへの抵抗感(9) | 師長はプライドを持って働いている分,自分が責められてるような感じで辛い気持ちを抱いた | |
| 最初は質問に対して言い訳のように話すことがあった | ||
| リフレクションの理解不足 | リフレクションに対する知識不足(11) | はじめは出来事の羅列や一般的な感想で終わり,思考の掘り下げまでいかなかった |
| 反省と内省の違いがわからず,正直これはお悩み相談じゃないのかと思っていた | ||
| リフレクションを次の行動に活かすという視点はなく,リフレクションが終わったことで満足していた | ||
| 問題解決の場と誤認識(8) | はじめは他責志向になったり,すぐ対策を考えようとしたりしていた | |
| グループワークとなるとどうしてもアドバイスをしたくなる | ||
| ファシリテーターのスキル不足 | ファシリテーターの役割不足(6) | 師長がファシリテーターだとすぐに役割を超えて話し込んでしまう |
| 副部長の支援を受けながら持ち回りで師長がファシリテーターを務める | ||
| 担当者が時間管理しているが,結構しゃべりたい人もいるので最初は全然できなかった | ||
| リフレクション支援の困難さ(3) | 主任たちのリフレクションのファシリテーターとして,動機づけがうまくできずリフレクションが進まなかった | |
| 行動変容の困難さ | 実践への展開不足(7) | リフレクションの場で問題の本質に気づくことができたが,それを実践につなげるまでにはいかない |
| 同じような事例が繰り返し出てきて,リフレクション出来ていなかったことを再確認する | ||
| 前向きのなるように意識はしているが行動までつながらない | ||
| 現状維持への固執(8) | 新しい視点や改善点を受け入れることへの抵抗感がある | |
| 経験年数が増えるにつれてプライドも高くなるためかなかなか行動変容につなげられない | ||
| リフレクションしても自分のマネジメントスタイルを変えられない先輩師長がいる |
【時間的制約】は,「1事例30分くらいで終わらせるのではじめは考え方が変わるまで至らないこともある」などの《時間制限による不十分な分析》と,「時間を気にして何がそのモヤモヤの原因かを深掘りできずに終わることがある」や「限られた時間の中で語り手が考えている間に周りがあれこれアドバイスをする会になっていた」という《煩雑なリフレクション》から生成された.
【関係性への配慮による事例選択】は,「人間関係が崩れることを考え,リフレクションしたい事例ではない事例を出すことがある」や「上司の関わる事例は,同期の師長と共有することにとどめリフレクションの場には出さない」という《利害関係を意識した事例選択》と,「先輩の師長たちにどう思われるかが気になってしまい,リフレクションではつい無難な事例を選んでしまう」などの《先輩看護師長からの指摘を危惧した事例選択》から生成された.
【リフレクションの心理的抵抗】は,「師長に就任したばかりの頃は先輩の話を素直に受け入れる余裕がなく,一生懸命な自分を擁護するので精いっぱいだった」などの《自分に向き合う余裕の欠如》と,「師長はプライドを持って働いている分自分が責められているような感じで辛い気持ちを抱いた」などの《自分を直視することへの抵抗感》から生成された.
【リフレクションの理解の浅さ】は,「はじめは出来事の羅列や一般的な感想で終わり,思考の掘り下げまで行かなかった」や「反省と内省の違いがわからず,お悩み相談じゃないのかと思っていた」という《リフレクションに対する知識不足》と,「はじめは他責思考になったり,すぐ対策を考えようとしたりしていた」などの《問題解決の場と誤認識》から生成された.
【ファシリテーターの機能不全】は,「師長がファシリテーターだと,すぐに役割を超えて話し込んでしまう」などの《ファシリテーター役割不足》と,「主任会のリフレクションのファシリテーターとして参加して,動機づけがうまくできずリフレクションが進まなかった」という《リフレクション支援の困難さ》から生成された.
【行動変容への困難さ】は,「リフレクションの場で問題の本質に気づくことができたが,それを実践につなげるまでにはいかない」などの《実践への展開不足》と,「新しい視点や改善点を受け入れることへの抵抗感がある」や「経験年数が増えるにつれてプライドも高くなるためかなかなか行動変容につなげられない」という《現状維持への固執》から生成された.
3. 看護師長のリフレクションの促進要因看護師長のリフレクションの「促進要因」として,96のコードを収集し,23のサブカテゴリー,12のカテゴリーを生成し,さらに〔個人の要因〕〔環境・文化的要因〕〔リフレクションプロセスの要因〕の3つのコアカテゴリーに大別し,(表3)に示した.
| コア カテゴリー |
カテゴリー | サブカテゴリー | 代表的なコード |
|---|---|---|---|
| 個人の要因 | 自己成長を志向する内発的動機 | 高い学習意欲 | 色々な問題に対応できる看護管理能力を高めたいと思っている |
| 新しい知識やスキルを積極的に取り入れていく姿勢が必要である | |||
| チャレンジ精神 | 周囲の意見に耳を傾けて新たな挑戦をする | ||
| 失敗経験から学びを得ようとする前向きな姿勢が必要 | |||
| 柔軟な自己認識と他者受容 | 自己認識への意欲 | 自分の強みや弱みを認識していることが大切だと思う | |
| 自分の行動の傾向を客観的に認識できていることが必要である | |||
| 自分自身を知ろうとすることからリフレクションがはじまる | |||
| 多様性の尊重 | 自分の考え方や行動を振り返り,必要に応じて変わっていこうという気持ちがないと成長していかないと思う | ||
| 自分の意見に固執せず,他者の意見や考え方を尊重し,柔軟に議論や協調できること | |||
| 環境・文化的要因 | リフレクションを支える心理的安全性 | 師長同士のオープンなコミュニケーションの場 | 同じ立ち位置の者同士とのリフレクションは,自分のもやもやが解決できる場になる |
| 師長たちが自由に話し合えるよう,リフレクションの場には上司は入らない | |||
| 信頼できる上司のリフレクション支援 | リフレクション報告会における部長や副部長のコメントは,リフレクションの内容を再確認したり,深めたりすることができる | ||
| 副部長がリフレクションに入ると安心感がある | |||
| 安心できるリフレクションの場の存在 | お互い何を話してもよいという安心感と内心に留めておくという暗黙の了解の場である | ||
| もやもやしたことや困りごとに対して,安心して自分の考えを共有できる場になっている | |||
| 建設的なフィードバック | 上司の承認による行動変容への後押し | 自分自身の足りない部分に気付いたときに,部長からの「気付けて良かった」との声掛けは,今後の行動変容に対する意識が高まった | |
| 自分が取り組んでいることに,なんらかの形でスタッフや上司から承認されると,自分の行動を変えていこうという思いが強くなる | |||
| 自信が高まる上司・同僚・部下の承認 | 上司の自分のリフレクションに対して承認や後押し,アドバイスされると自信につながる | ||
| リフレクションの場での上司や同僚や部下からの承認はすごく自信につながっているのを感じる | |||
| 学習志向の組織文化 | 整備されたリフレクションツール | 看護管理行動を振り返り,自分の思考過程を整理するリフレクションシートがある | |
| リフレクションをするたびにマイセオリーシートに記載して蓄積している | |||
| 継続的な学習の場の存在 | 研修やワークショップなどリフレクションを促す機会が計画されている | ||
| 定期的にあるリフレクションの場は,管理上の問題を広い視点で考えることができる | |||
| ロールモデルの存在 | 模範となる上司や同僚の存在 | リフレクションでの気付きや学びを管理実践に生かしている上司や同僚がいる | |
| 尊敬する上司の質問や意見や考えを聞くことで,新しい気づきを得てやってみようと思う | |||
| リフレクションプロセスの要因 | 継続的リフレクションを支える仕組み | 継続的なリフレクション | 問題の本質に気づくには,何度もリフレクションを行うことが必要である |
| リフレクションを繰り返すことで,広い視点で問題の本質を見ることができるようになった | |||
| 定期的なリフレクションの機会 | リフレクションの機会が定期的にあることで,自分自身で考える訓練になり習慣化する | ||
| 定期的に何度もリフレクションすることで,自分を見つめる機会が増え,実践につなげることができる | |||
| 記述を通じた自己概念の自覚 | 記述による経験の客観視 | 経験をリフレクションシートに書いて俯瞰してみる | |
| リフレクション時は書記係が事例をホワイトボードに書いて整理する | |||
| リフレクションペーパーの記述を通して自身の実践を冷静にみる | |||
| 記述による感情や思考の認識 | 自分の書いた事例の文面にはマネジメントに対する考え方や傾向が表れていた | ||
| リフレクションシートを書きながらその時抱いた感情と向き合う | |||
| 対話を通じた見解の変容 | 対話による自己への気づき | 対話を通してその時の感情や思いに気づく | |
| グループメンバーとの対話を通して,本当の感情や自分の足りなかったことに気づいた | |||
| 対話による気づきと経験の再構築 | 誘導されない自由に発言する中で腑に落ちるのを実感した | ||
| 師長たちの語りを自分の経験に置き換えて考えなおしたり,参考にしたりしている | |||
| 気づきを促進するファシリテーターの支援 | ファシリテーターの効果的な進行 | 愚痴の言い合いになってしまうことがあるのでファシリテーターは必ず必要だと思う | |
| 利害関係,上下関係があると言えないこともあるので,外部支援者が一人入るとまた違う形で進んでいたのかなと思う | |||
| 話が脱線したり,感情的な話になったときに,路線に戻すファシリテーターが必要だと思う | |||
| 気づきを促す意図的な質問 | あの混沌としている何がなんだかわからない状況の時ファシリテーターの質問で気づきを得た | ||
| 問題の本質を追求できるファシリテーターは必要だと思う. | |||
| 意図的な実践に対する成果 | 学びの実践に対する手応え | リフレクションを通じて得た気づきを実践した結果,スタッフが活き活きと働いている様子を感じることができ,患者からの評価も向上した | |
| リフレクションでの学びを実践したら,相手の反応も変わってきたことを実感した | |||
| 相手の自尊心を尊重した関わり | 言いたいことを言う前に自分の気持ちにゆとりをもって,相手の話をまず聞くということを意識して関わるようにしている | ||
| 今まで問題だと考えるスタッフとの関わりは,今思っていることを聞いたり,考えて述べしたり,慎重に進めていくことで問題行動が少なくなった | |||
| 他者のリフレクション支援の機会 | 部下のリフレクション支援 | スタッフのリフレクションのファシリテーターとなることで,自分自身のリフレクション(整理する)が上手になった気がする | |
| スタッフの語りの中から学びや感動を得て,看護管理者としての気づきや成長が促進される | |||
| 部下のリフレクションのメンバーに入ることでリフレクションスキルの理解が深まった |
結果の記載は,コアカテゴリーを〔 〕で,カテゴリーを【 】で,サブカテゴリーを《 》で,コードを「 」で記述した.
1) 〔個人の要因〕自己成長への意欲に関する要因で【自己成長を志向する内発的動機】と【柔軟な自己理解と他者受容】の2つのカテゴリーから構成された.
【自己成長を志向する内発的動機】は,「いろいろな問題に対応できる看護管理実践能力を高めたいと思っている」などの《高い学習意欲》と,「周囲の意見に耳を傾けて新たな挑戦する」などの《チャレンジ精神》から生成された.
【柔軟な自己認識と他者受容】は,「自分の強みや弱みを認識していることが大切だと思う」という《自己認識への意欲》と,「自分の意見に固執せず,他者の意見や考え方を尊重し,柔軟に議論や協調できること」などの《多様性の尊重》から生成された.
2) 〔環境・文化的要因〕安心して自身の意見や感情を表明でき,批判的を恐れない,職場や組織に共有された価値観・信念・行動様式である環境・組織文化は,【リフレクションを支える心理的安全性】【建設的なフィードバック】【学習志向の組織文化】【ロールモデルの存在】の4つのカテゴリーから構成された.
【リフレクションを支える心理的安全性】は,「師長たちが自由に話し合えるよう,リフレクションの場には上司は入らない」などの《師長同士のオープンなコミュニケーション》と,「リフレクション報告会における部長や副部長のコメントは,リフレクションの内容を再確認したり,深めたりすることができる」などの《信頼できる上司のリフレクション支援》と,「お互い何を話してもよいという安心感と内心に留めておくという暗黙の了解の場である」などの《安心できるリフレクションの場の存在》から生成された.
【建設的なフィードバック】は,「自分自身の足りない部分に気づいたときに,部長から“気づけて良かった”と声をかけられると今後の行動変容に対する意識が高まった」などの《上司の承認による行動変容への後押し》と,「リフレクションの場での上司や同僚からの承認はすごく自信につながっているのを感じる」などの《自信が高まる上司・同僚・部下の承認》から生成された.
【学習志向の組織文化】は,「リフレクションをするたびにマイセオリーシートへ記載して蓄積している」などの《整理されたリフレクションツール》と,「定期的にあるリフレクションの場は,管理上の問題に対して広い視点で考えることができる」などの《継続的な学びの場の存在》から生成された.
【ロールモデルの存在】は,「リフレクションでの気付きや学びを管理実践に生かしている上司や同僚がいる」などの《模範となる同僚と上司の存在》から生成された.
3) 〔リフレクションプロセスの要因〕リフレクションを効果的かつ円滑に進めるための要因で【記述を通じた自己概念の自覚】【対話を通じた見解の変容】【気づきを促進するファシリテーターの支援】【意図的な実践に対する成果】【他者のリフレクション支援の機会】【リフレクションの習慣化】の6つのカテゴリーから構成された.
【記述を通じた自己概念の自覚】は,「経験をリフレクションシートに書いて俯瞰する」などの《記述による経験の客観視》と,「リフレクションシートを書きながらその時抱いた感情と向き合う」などの《記述による感情や思考の整理》から生成された.
【対話を通じた見解の変容】は,「対話を通してその時の感情や思いに気づく」などの《対話による自己への気づき》と,「グループメンバーとの対話を通して,本当の感情や自分の足りなかったことに気づいた」などの《対話による気づきと経験の再構築》から生成された.
【気づきを促進するファシリテーターの支援】は,「話が脱線したり,感情的になったりしたときに路線に戻すファシリテーターが必要だと思う」などの《ファシリテーターの効果的な進行》と,「あの混沌とした何が何だかわからない状況の中で,ファシリテーターの質問によって気づきを得た」などの《気づきを促す意図的な質問》から生成された.
【意図的な実践に対する成果】は,「リフレクションでの学びを実践したら,相手の反応も変わってきたことを実感した」などの《学びの実践に対する手応え》と,「今まで問題だと考えていたスタッフとの関わりは,今思っていることを聞いたり,考えを述べたり,慎重に進めることで問題行動が少なくなった」などの《相手の自尊心を尊重した関わり》から生成された.
【他者のリフレクション支援の機会】は,「部下のリフレクションに入ることでリフレクションスキルの理解が深まった」や「スタッフの語りの中から学びや感動を得て,看護管理者としての気づきや成長が促進される」などの《部下のリフレクション支援》から生成された.
【継続的リフレクションを支える仕組み】は,「リフレクションを繰り返すことで,広い視点で問題の本質を見ることができるようになった」などの《継続的なリフレクション》と,「定期的に何度もリフレクションすることで,自分を見つめる機会が増え実践につなげることができる」などの《定期的なリフレクションの機会》から生成された.
ここでは,生成された6つのリフレクションの阻害要因について先行研究と照らし合わせて考察する.
1) 時間的制約リフレクションは熟慮を伴う思考過程であるため(Dewey, 1933),十分な時間を要する(Rogers, 2001).しかし,看護師長は臨床・管理・人材育成といった多様な役割を同時に担っており,リフレクションの時間を確保することが難しい(水野,2013;金井,2013).本研究でも【時間的制約】がリフレクションの深化を妨げ,経験の吟味が浅くとどまる状況が確認された.特に「はじめは考え方が変わらない」との語りは,初期段階で省察が深まりにくい傾向を示していた.
一方で,西向(2011)は,継続的なリフレクションが自己理解や思考の変容を促すと報告している.本研究でも,時間的制約の中でも繰り返し経験を振り返ることで,概念的な見方の変化につながる可能性が示唆された.したがって,リフレクションの経験の浅い看護師長には,十分な時間の確保と継続的な機会の提供を制度的に保障する必要がある.
2) 関係性への配慮による事例選択・リフレクションへの心理的抵抗看護師長は,他者の模範であるという役割意識や,弱みや失敗を語ることに対して心理的抵抗感を抱きやすい(Carmeli & Gittell, 2009).本研究でも【関係性への配慮による事例選択】や【心理的抵抗】は,《自分に向き合う余裕のなさ》や《自己直視への抵抗感》といった内的要因からリフレクションが表層的にとどまる状況が確認された.これは,「心理的安全性の欠如が学習行動を妨げる」(Edmondson, 1999)という理論と一致する.さらに,学習者が安心して語れる場の必要性(田村ら,2003)や看護師長が弱みを表明できる心理的安全性の重要性(西向,2011)が報告されている.これらから,看護師長が安心して自己を開示でき,批判を恐れず自由に発言や感情表現できる環境の構築は不可欠である.特に初期段階では,参加者の心理状態に応じて傍聴や非発言を許容するなど,柔軟な参加形態を認める工夫が求められる.
3) リフレクションの理解の浅さ・ファシリテーター機能不全リフレクションが出来事の列挙や一般的感想に終始する傾向は,《リフレクションに関する知識不足》に起因すると考えられる.看護師長がファシリテーターを兼ねると体験談や指導的態度が強まり,参加者の自由な発言を抑制する可能性があった.これらは,ファシリテーターのスキルがリフレクションの深まりを左右するという先行研究(Mezirow, 1990)と一致する.また,Bulman & Schutz(2013)が述べるように,成人学習者と対等に関わる経験豊富なスーパーバイザーの存在や安全な環境での対話の必要性を示している.西向(2011)は,看護師長が心理的に安全な環境で対話的にリフレクションを行う意義を強調している.本研究対象者16名のうち9名がファシリテーターを兼ねており,立場の違いが語りの内容や自由度に影響した可能性は否定できない.この点は本研究の限界の一つであり,今後は,ファシリテーターの役割や訓練状況,対象者との関係性を明確に区別して検討する必要がある.看護師長がファシリテーターとして対等性と共感性を保ち対話を深めるためは,高度なスキルの習得と組織的な支援が求められる.
4) 行動変容への困難問題を認識しても実践に移せない《展開不足》や,新しい視点や改善点への受容を拒む《現状維持への固執》は,看護師長が日々多くの責任を担う中で,従来の価値観や判断基準を変えることへの心理的・実践的負担を反映していると考えられる.新たな視点の受容には自己概念の再構成が不可欠であり(Mezirow, 1990;金井,2013),これには心理的葛藤が伴うことが指摘されており(西向,2011),本研究結果とも整合する.本研究の語りからは,気づきを得てもそれを実践に移すには,さらに時間と他者からの支援が必要であることが示唆された.したがって,看護師長が気づきを行動に移すプロセスを支援するためには,反復的なリフレクション機会の確保に加え,安心して語れる共感的な支援体制を整えることが重要である.
5) 阻害要因の関連性明らかになった6つの阻害要因は,独立して存在するのではなく,連鎖的に作用してリフレクションを阻害していた.すなわち,心理的安全性の欠如が心理的抵抗感を生み,それがリフレクションの理解不足やファシリテーション不全を助長し,最終的には行動変容の困難へとつながっていた.したがって,阻害要因に対して個別対応するのではなく,心理的安全性の確保と時間的資源の保障を並行して行う包括的介入が,阻害の連鎖を断ち切る上で重要である.
2. 看護師長のリフレクションの促進要因促進要因は,〔個人要因〕,〔環境・文化的要因〕,〔リフレクションのプロセスに関わる要因〕の3つのコアカテゴリーから構成され,それぞれの下位カテゴリーとの関係を以下に考察する.
1) 個人要因成人学習において内発的動機づけは学習の持続と深化に直結する(Moon, 1999).この知見は,本研究の【自己成長を志向する内発的動機】や【柔軟な自己認識と他者受容】が,リフレクションを単なる反省にとどめず,出来事や感情の探究や行為の再構築を通じて実践へとつなげる推進力となることを示唆している.看護師長は,責任の重さから自己概念が固定しやすい傾向にあると指摘されている(Shirey, 2006).しかし,本研究対象者に見られた「自分の意見に固執しない」「他者の意見を尊重する」といった開かれた姿勢は,他者との関わりを通じ自己の行動の前提や価値観を見直す事を可能にし,リフレクションの促進に寄与すると考えられる.この要因は,看護師長特有の促進要因であると考えられる.
2) 環境・文化的要因看護師長のリフレクションを支える環境的要因としてEdmondson(1999)が提唱する【心理的安全性】の概念に照らすと,弱みや失敗を共有できる職場環境はリフレクションの深化を支えていた.特に,上司からの承認や【建設的なフィードバック】は師長の自信や内発的動機を高め,次の実践行動へ後押ししていた.この点は,倉岡(2015)の看護師長の成長に影響を与える支援の一つに「成果の価値の承認」であることや武藤・前田(2018)が新人看護職員に対するリフレクション支援の効果で示した「支援者の存在による安心感」と類似の結果である.また,【学習志向の組織文化】に含まれる《整備されたリフレクションツール》や《定期的なリフレクションの機会》は,Senge(1990/2011)の個人やチームが継続的に学び変化に適応する力を高める組織文化である「学習する組織」と整合していた.この組織文化はリフレクションを一過性で終わらせず,知識の共有を促進し,個人の成長のみならずチーム学習にも波及すると考えられる.
さらに,本研究で特徴的であったのは,上司や同僚の【ロールモデルの存在】であり,リフレクションの方向性を示す重要な要因であった.これは他の研究では十分に報告されていない知見である.これらにより,心理的安全性は看護管理者の教育支援において,個人能力だけでなく組織的な支援環境の整備が不可欠であることを示唆している.
3) リフレクションプロセスの要因本研究で生成されたリフレクションプロセスの要因は,看護師長という特有の職務特性に根ざしている.金井(2013)や武藤・前田(2018)も,【記述】や【対話】は新人・中堅看護師のリフレクション促進要因として報告している.一方で,看護師長の場合にはこれらに加え【気づきを促進するファシリテーターの支援】【継続的リフレクションを支える仕組み】が,管理者として組織的学習を促進する基盤として位置づけられる.さらに【意図的な実践に対する成果】や【他者のリフレクション支援の機会】を通じて,スタッフの活き活きと働く姿や部下の成長が自己成長の実感へとつながるプロセスが明らかとなった.これは,「個人の経験に基づく学び」が中心となる新人・中堅看護師とは異なり,「他者の成長を媒介として自己を成長させる」という特有の構造を示している.このようなプロセスは,看護師長のリフレクションにおける新規性を示す重要な知見であり,管理職としての学習様式の特性を理論的・実践的観点から裏付けるものである.
4) 看護師長のリフレクションを促進する要因(図1)本研究で明らかになった要因間の関係性は,【自己成長を志向する内発的動機】や【柔軟な自己認識と他者受容】といった個人要因がリフレクションの基盤として機能することを示している.この個人のレディネスが原動力となり,【心理的安全性】【建設的なフィードバック】といった環境要因によって,学びの意欲はさらに高められると考えられる.この個人要因と環境要因が相互に作用することで,リフレクションプロセスが円滑に進行し,その結果,内発的動機が高められるという好循環が形成される可能性が示された.つまり,個人の意欲という土台が良好な環境に支えられることで,質の高いリフレクションが効果的かつ継続的に展開され,看護管理能力の向上に寄与することが期待される.

本研究では明らかになったリフレクションの阻害・促進する要因を踏まえ,看護師長に即した効果的な方略を検討した.看護師長は組織の課題解決やマネジメントに関わる複雑な意思決定を日常的に行っており,リフレクションの対象も多岐にわたる.したがって看護師長のリフレクションを支援するためには,スタッフとは異なる組織的視点を踏まえたリフレクション支援が必要である.
1) 看護師長特有の心理的状況を考慮したアプローチリフレクションは,自己認識や批判的分析を伴うため,しばしば不快感や痛みを伴う(Mezirow, 1990).看護師長のリフレクションは,自身のリーダーシップやマネジメントの失敗,さらには組織課題に直面するため,心理的負担が強いと考えられる.心理的安全性が確保された環境であっても自己と向き合う余裕がない場合,苦手意識が先行し,リフレクションが表面的な反省にとどまる可能性がある.看護師長がリフレクションに参加する際には,まず自身の心理的状態を確認し,弱点や失敗の開示に抵抗感や嫌悪感がある場合は,他者のリフレクションを観察する段階から始めるなど,心理的負担を軽減し,段階的な参加が有効であると考えられる.
2) 心理的安全性を基盤とした経験共有の場の構築とファシリテーション心理的安全性は,看護師長のリフレクションを支える前提条件である.リフレクションの場が,権威や上下関係に縛られず率直な意見交換が可能な環境でなければ,看護師長は発言を躊躇する可能性がある.敬意を持った傾聴や支援の受容,秘密の厳守(Bulman & Schutz, 2013),業績評価に反映しないなどの基本原則を明文化し,環境を整える必要がある.また,承認文化やロールモデルの存在といった組織的支援も不可欠である.さらに,対話を促すファシリテーターや支援者の存在(鈴木,2022)が求められるが,看護師長がリフレクションスキルとファシリテーション能力を同時に習得することは困難である.以上より,初期段階では外部講師や経験豊富なファシリテーターを活用するなど,段階的な支援が有効であると考えられる.
3) 多忙な管理業務に適応した継続的なリフレクションの仕組み化学習は「経験→省察→概念化→実践」を継続的に繰り返すことで深化する(Kolb, 1984).しかし多忙な業務を担う看護師長はまとまった時間を確保しにくく,リフレクションが断続的になりやすい.したがって,看護師長が日常業務の中で継続的にリフレクションが行えるような仕組み作りが必要である.具体的には,①管理職会議や研修にリフレクションの時間を組み込む,②「短時間でも繰り返すことで効果をもたらす」という認識を共有する,③同一事例を複数回再考することで思考の深化を促す,といった工夫が有効であると考える.これにより,リフレクションの習慣化が促進され,スタッフ育成や組織運営における実践知の獲得につながることが期待される.
さらに,新人・中堅看護師のリフレクションが“自己経験中心の学び”であるのに対し,看護師長のリフレクションは,「他者の成長や組織的学習を媒介として自己を成長させる」という特有の構造をもつことを明らかにした.この点を踏まえたリフレクションの仕組み化は,看護師長特有のリフレクション方略であり,本研究の独自性を示す重要な知見である.
4. 本研究の限界と今後の課題本研究の限界は,第一に,対象者が16名にとどまり,施設規模や組織文化の違いを考慮すると一般化には慎重さを要する.第二に,本研究は質的記述的研究であるため,要因の影響度や効果は明らかでない.第三に,自己報告データに依拠しているため,社会的望ましさや回想の偏りによる影響は否定できない.
今後は,本研究で提示した「方略」を研修に導入し効果を量的に検証すること,多施設研究を通じて組織文化や職務環境の違いを比較し,リフレクションの普及と質的向上に資する研究が期待される.
本研究では,看護師長のリフレクションの阻害要因として【時間的制約】【関係性への配慮による事例選択】【リフレクションへの心理的抵抗】【リフレクション理解の浅さ】【ファシリテーター機能不全】【行動変容への困難さ】の6カテゴリーが抽出された.これらの阻害要因は,看護師長の職務特性に起因し,リフレクションの深化や持続性を妨げていることが明らかとなった.一方,促進要因は,〔個人の要因〕〔環境・文化的要因〕〔リフレクションプロセスの要因〕の3つのコアカテゴリーと12のカテゴリーから構成された.特に自己成長への意欲や柔軟性といった個人要因は看護師長に特有であり,3つのコアカテゴリーは相互に影響し合っていた.
これらの知見に基づき,看護師長の効果的なリフレクションの方略として,①看護師長の心理的状態の把握,②心理的安全性を基盤とした経験共有の場の構築,③多忙な業務に適応した継続的な仕組み化,の3点が重要である.これらの方略が相互に作用することで,リフレクションを単なる反省にとどめず,行動変容や組織的学習へと発展する可能性が示唆された.
付記:本研究の一部は,第27回日本看護管理学会学術集会にて発表した.
謝辞:本研究の実施にあたり,ご協力いただきました各施設の看護部長の皆様ならびに看護師長の皆様に深く感謝申し上げます.また,分析過程における助言とスーパーバイズを賜りました,看護部長および看護管理学研究者の皆様には心より感謝申し上げます.さらに,分析結果の妥当性確認にご協力いただいた研究参加者の皆様にも,深謝の意を表します.なお,本研究はJSPS科研費基盤研究(C)(21K10574)の助成を受けて実施した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:NNは,研究テーマの着想,研究計画,データ収集・分析・解釈,論文の作成を行った.ETは,データ分析・解釈,論文の校閲を行った.