日本看護科学会誌
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資料
保育所で勤務する看護師が抱く看護師役割の困難感に関する質的研究
―COVID-19の感染拡大を受けて―
盛岡 淳美菊地 七海高島 瑠太三上 日和村上 聖加
著者情報
キーワード: 保育所, 看護師, 困難感, COVID-19
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2025 年 45 巻 p. 709-716

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Abstract

目的:COVID-19感染拡大によって生じた保育所で勤務する看護師が抱く看護師役割の困難感を明らかにすることを目的とした.

方法:A県の保育所で勤務する看護師を対象に自由記述の無記名自記式質問紙調査を実施した.

結果:看護師は『子どもを対象とした看護師役割の困難感』では【未熟な感染予防行動】【徹底できない感染予防対策】【成長・発達への影響】を,『保護者を対象とした看護師役割の困難感』では【難しい家庭保育の依頼】【保護者の疾患と感染予防対策に対する理解の不足】を,『保育士を対象とした看護師役割の困難感』では【保育士の疾患と感染予防対策に対する理解の不足】【保育士-看護師間の連携不足】を,『その他の看護師役割の困難感』では【確信がもてない感染予防対策】【発揮できない看護師としての専門性】を感じていた.

結論:保育所で勤務する看護師と保育士への研修の充実と保育士,保護者,医療機関との連携体制の強化が重要である.

Translated Abstract

Objective: The purpose of the present study was to clarify the sense of difficulty in the roles of nurses working at nursery school.

Method: We conducted an anonymous self-administered survey with open-ended questions to nurses working for nursery schools in “A” Prefecture.

Result: Nurses felt, as “the sense of difficulties in roles of nurses regarding children,” “immature actions for infection prevention,” “Inadequate infection control measures” and “influences on growth and development of children.” Additionally, as “the sense of difficulties in roles of nurses regarding parents and other guardians,” “difficulties to request home nursing” and “insufficient understanding of parents and other guardians regarding the disease and its infection control measures.” Moreover, “insufficient understanding of nursery teachers regarding the disease and its infection control measures” and “lack of coordination between nursery teachers and nurses” were perceived as “difficulties with nursery teachers.” As “the sense of difficulties in roles of other nurses,” “infection control measures that they did not have confidence in” and “unable to exert their nursing expertise” were provided.

Conclusion: It is important to reinforce training for nurses and nursing teachers working at nursery schools and to strengthen the coordination with nursery teachers, parents, and medical institutions.

Ⅰ. 緒言

保育所における保健師または看護師の配置については1998年「児童福祉施設最低基準の一部を改正する省令(平成10年厚生省令第51号)附則第2項の規定により,乳児4人以上を入所させる保育所に係る保育士の数の算定について,当分の間,当該保育所に勤務する保健師又は看護師を1人に限って保育士とみなすことができるとされた.

保育所保育指針(厚生労働省,2017)によると,保育所における看護師,調理員,栄養士など専門性を有する職員は,子どもの健全な心身の発達を図るという目的の下,各々の職種における専門性を認識するとともに,組織の一員として共通理解を図りながら保育に取り組むことが必要とされている.しかし,先行研究では保育所において保育業務にも従事することから看護師としての専門性を発揮できないなどの困難感を抱えている看護師がいることも報告されている(川上・國方,2006須藤・鈴木,2008矢野ら,2010阿久澤ら,2013山本ら,2016須藤ら,2016鳥海・小林,2017横山,2019福永,2020森田・矢野,2021).

このような状況の中,2019年に未知の感染症であるCOVID-19の感染拡大が生じた.

COVID-19の感染拡大を受けて,2020年3月,全国保育園保健師看護師連絡会(2020)は「保育所等でのCOVID-19感染症対策における見解」において,「保育所等の感染症対策は手指衛生,咳エチケット,高頻度接触部位の消毒を含めた環境衛生など『保育所等における感染症対策ガイドライン』(厚生労働省,2018)に基づいた基本的な感染症対策を徹底する」とした.しかし乳幼児は正しくマスクを着用することが難しいため,感染の広がりを予防する効果はあまり期待できず(日本小児科学会,2020),厚生労働省(2022)も就学前の子どもについてはマスクの着用は求めていない.また,保育所は乳幼児の集団生活の場であり,健全な心身の発達を図ることを目的としていることから,子ども同士の関わりの他,保育士らによる日常生活の支援と愛着形成を育む関りが重要となる.したがって,感染予防を目的とした一定の距離を設けることは非常に難しい.これらより,COVID-19の感染拡大は保育所に勤務する看護師に,更に多くの看護師役割に対する困難感を抱かせたことが考えられる.

本研究は,COVID-19感染拡大によって生じた保育所で勤務する看護師が抱く看護師役割の困難感を明らかにすることを目的とした.これらを明らかにし考察することは,保育所で勤務する看護師の専門性の向上と保育所における感染対策に向けた体制整備のための基礎情報の提供を可能にする点で意義がある.

Ⅱ. 用語の定義

看護師役割:子どもと保護者への健康支援,職員への保健指導,関連諸機関との連携とした.

保育所で勤務する看護師が抱く看護師役割の困難感:園児の発達段階と個別性を考慮した関わりとそれらに応じた保育所での看護技術の展開,また,園児とその家族,保育士への健康管理とかかわりの難しさによって,看護職としての専門性を発揮することができず,悩んだり,葛藤したり,戸惑ったりする感情とした.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

質的記述的研究デザインとした.

質的研究はいまだにその現象が十分に認知されていない場合等に用いる研究方法である.また,限定された現象や対象について,その詳細を,そこに属したり関わったりしている関係者や当事者のリアルな言葉をもって記述し,さらにそれらを抽象化するということによって,すでに学問の領域の中に存在している概念との関連性や関係性を見出し,位置づける機能をもつ(萱間,2007).

そのため,質的記述的研究デザインは本研究の目的を達成するために妥当な研究デザインであると考える.

2. 研究対象者

A県の保育所で勤務する看護師を対象とした.

3. データ収集方法

データ収集は2022年3月から11月にかけて実施した.

A県の子育てサイトに掲載されている看護師が在籍している保育所54件に研究協力の依頼を行い30件の保育所から研究の協力が得られた.30件の保育所へは申告のあった看護師数である34人分の看護師への研究協力の依頼書と研究参加の意思が記載できる質問紙などを郵送した.データの収集方法はインタビュー調査ではなく,自由記述の無記名自記式質問紙調査とした.その理由は調査による研究対象者の拘束時間の短縮と,研究者と研究対象者との接触による感染拡大の防止を図るためである.

4. 調査内容

1) 研究対象者の属性に関する質問

研究対象者の年代,医療施設での勤務経験年数,小児科での勤務経験,保育所での勤務経験年数,勤務形態,非常勤者の1週間の勤務回数と1日の勤務時間とした.

2) 困難感に関する自由記載質問

質問内容はCOVID-19感染拡大による看護師が抱いた「子どもを対象とした看護師役割の困難感」「保護者を対象とした看護師役割の困難感」「保育士を対象とした看護師役割の困難感」「その他の看護師役割の困難感」とした.

5. 分析方法

1) 研究対象者の属性に関する質問

研究対象者の属性は単純集計とした.

2) 困難感に関する自由記述質問

自由記載の回答は内容の意味が類似した項目に分類しコード化した.その後,類似するコードを集め,抽象度を上げてサブカテゴリ・カテゴリを生成した.これらの抽出プロセスは「子どもを対象とした看護師役割の困難感」「保護者を対象とした看護師役割の困難感」「保育士を対象とした看護師役割の困難感」「その他の看護師役割の困難感」の視点を基に,確証性を確保するために,何度もデータを読み返し,十分にデータ理解を行った.また,分析の過程は小児看護学の研究者と解釈が客観的かつ論理的であるか,飛躍はないかについて合意が形成されるまで討議を重ね,データ解釈が研究者の先入観によって偏らないように進めていくことで確保した.

6. 倫理的配慮

北海道科学大学倫理審査委員会の承認(承認番号624)を得た.研究対象者には研究の概要,匿名性の厳守,公開発表,研究への自由な参加,途中辞退の権利等について文章で説明し署名によって同意を確認した.個人が特定される文脈がある場合はデータから削除した.

Ⅳ. 結果

1. 研究対象者の概要

質問紙は34人に配布され,21人より返送があった(回収率61.8%).質問項目に欠損がなかったため21人の看護師を研究対象者とした(表1).研究対象者の年代は20代が2人,30代が7人,40代が5人,50代が5人,60代が2人であった.医療施設での勤務経験は「5年未満」が5人,「5~10年」が9人,「11年以上」が7人であった.そのうち小児科での勤務経験は「経験なし」が7人,「1~4年」が7人,「5~10年」が5人,「11年以上」が2人であった.保育所での勤務経験は「1年未満」が5人,「1~4年」が14人,「5~10年」が1人,「10年以上」が1人であった.

表1 研究対象者の基本属性

n 人数(%)
年代 21 20代 2人(9.5)
30代 7人(33.4)
40代 5人(23.8)
50代 5人(23.8)
60代 2人(9.5)
医療施設での勤務年数 21 5年未満 5人(23.8)
5~10年 9人(42.8)
11年以上 7人(33.4)
小児科での勤務年数 21 経験なし 7人(33.4)
1~4年 7人(33.4)
5~10年 5人(23.8)
11年以上 2人(9.4)
保育所での勤務年数 21 1年未満 5人(23.8)
1~4年 14人(66.6)
5~10年 1人(4.8)
11年以上 1人(4.8)

2. COVID-19感染拡大による保育所に勤務する看護師の看護師役割に対する困難感

分析の結果,62コードから21サブカテゴリ,9カテゴリが生成された.また,9カテゴリは『子どもを対象とした看護師役割の困難感』『保護者を対象とした看護師役割の困難感』『保育士を対象とした看護師役割の困難感』『その他の看護師役割の困難感』の4つの設問のテーマ毎ごとに分類した(表2).

表2 COVID-19感染拡大による看護師が抱いた「子ども」「保護者」「保育士」「その他」に対する看護師役割の困難感

テーマ:子どもを対象とした看護師役割の困難感
カテゴリ サブカテゴリ コードの代表例 ( )は研究者による補足
未熟な感染予防行動 発達段階による子どもの特徴 よだれが多い時期の子どもがおもちゃをなめる.
言葉が十分ではない児への説明(感染予防行動の指導)が難しい.
乳幼児はマスク着用ができない.
手洗いができなかったり,咳エチケットが理解できず実施できない場面が多い.
子どもたち同士で遊んでいるときに密着する場面がある.
徹底できない感染予防対策 詮方ない対応 園内で子どもが過ごす際はマスク未着用.
抱きかかえて移動するなど(子どもとの)密着を避けられない.
病児保育では医師の診察が行われるがコロナの検査はできない.
アレルギー性鼻炎等の体質的なものに対しても神経質(な対応)になる.
発熱した子どもを保護者の迎えまで預かることがある.
成長・発達への影響 身体への影響 消毒をしすぎることによって獲得するべきはずの免疫が獲得できないのではないか.
発達への影響 職員がマスクを着用することで言葉の獲得や表情のわかりにくさによって発達への影響があるのではないか.
テーマ:保護者を対象とした看護師役割の困難感
カテゴリ サブカテゴリ コードの代表例 ( )は研究者による補足
難しい家庭保育の依頼 スムーズではない家庭保育 子どもが発熱しても保護者が仕事中で,すぐ迎えに来られない時がある.
登園できないことについて納得されない場合がある.
難しい登園中止判断 微熱でもすぐに保護者へ連絡し早めのお迎えをお願いするか,しばらく様子を見てから体調不良児としてお預かりし保護者へ連絡するか判断に迷う.
発熱の判断基準で登園を控えてもらうのは数値が出るので伝えやすいが,咳・鼻汁など風邪症状ではコロナによるものか他の疾患からくるものなのか判断しにくい.
割り切れない登園中止判断 今までは多少の微熱や風邪症状があっても看護師の判断で様子を見ていたが,コロナ禍になってからは少しでも症状があれば登園を断るという事に対して割り切れない思いがある.
病児室が満床の場合は保護者に了承を得たうえで疾病が同じ児は同室で看護をする.しかし,帰宅後に発熱するケースがあるためできれば利用をお断りしたい.
保護者の疾患と感染予防対策に対する理解の不足 難しい受診行動の促し 子どもに発熱があった場合は病院受診をお願いしているが,コロナの感染拡大に伴い病院に受診しにくい状況もあるため対応してもらうのが難しい場合もある.
発熱した子どもにPCR検査の強要はできない.保護者への指導や説明の方法が難しい.
子どもの体調不良報告の遅れ 園で発熱しお迎えに来てもらった時に,服薬していることや症状があったことを報告することがある.
行政からの情報が曖昧なため感染やその疑いがあっても(保護者から)園への報告が無い場合がある.
テーマ:保育士を対象とした看護師役割の困難感
カテゴリ サブカテゴリ コードの代表例 ( )は研究者による補足
保育士の疾患と感染予防対策に対する理解の不足 疾患と感染予防対策に対する認識の違い 防護服やシールドの準備がない状況なのに簡単に抗原検査の依頼がある.
(疾患や感染対策方法について)保育士それぞれの価値観が異なり,統一が難しい.
コロナワクチン接種に対する協力が得られない.
身体や病気に対する知識が不足している.
コロナ疲れや慣れから感染症対策の必要性が薄れてきているため,感染症対策を維持してもらうのが難しい.
感染予防対策について保育士それぞれの価値観が異なり,統一が難しい.
研修時間の不足 職員の研修を行う時間がない.
保育士-看護師間の連携不足 保育士-看護師間のコミュニケーション不足 保育士だけの判断で体調不良児としてみるかみないか決められることが多い.
看護師の知らない間に児が怪我をしていたり,発疹が出ているなど体調に変化があっても報告がない場合がある.
職場内での飲み会ができなくなり,職場全体のコミュニケーション不足にもつながり,人間関係もギスギスしてきた.
看護師役割の間違った認識 “看護師なら何でもできる”という間違った認識をされていることが多く感じられる.
テーマ:その他の看護師役割の困難感
カテゴリ サブカテゴリ コードの代表例 ( )は研究者による補足
確信がもてない感染予防対策 不鮮明な感染予防対策の基準 保育園という環境で,どこまで,どの程度の感染対策を実施するべきか難しさを感じている.
子どもから陽性者が出た時の園内の消毒作業をどの程度行えばよいのか.
他の疾病との併発がある場合は(コロナウイルス感染の有無について)判断がむずかしいため,どのような基準を設けるべきか悩む.
感染予防体制の不備 こまめな消毒は必要であるが消毒する時間が足りない.
感染対策をするための,隔離できる場所やおもちゃの消毒場所がない.
感染予防対策に関する頻回な行政の指示変更 感染者・濃厚接触者の自粛期間などが何度も変更され混乱した.濃厚接触者の出勤前の抗原検査をどの期間行うと良いのかなど変化のスピードについていけなかった.
行政からの通知を基に感染対策を実施しているが内容が頻繁に変わるため,内容を全職員に周知することに大変さを感じている.
感染拡大への不安 病児保育では陽性者や濃厚接触者が周りにいないことを保護者に確認しているが,病児が(コロナウイルス)陰性である証拠がなく,空調などの設備が十分でない中の病児の預かりに対して不安が大きい.
(発熱以外の症状で)症状がひどくなければ登園して様子を見ることが多いため,コロナだった場合,園内で感染拡大してしまうのではないかという不安がある.
自身の感染の危険性 抗原検査やPCR検査が未検で発熱している児の保護者と接している間,感染リスクの不安がある.
発揮できない看護師としての専門性 看護師としてのモチベーションの低下 コロナやその他の健康に関する悩み・相談など,もう少し専門的な立場として関わりが持てると,自分の仕事に対するモチベーションや達成感に繋がると思う.
看護師としての不明瞭な立ち位置 保育士の一人として人員配置されているため,看護職としての役割を果たす機会がほとんどない.
現実は“看護師”よりも“保育補助者”としての業務が8割で自分の立ち位置に対しての葛藤がある.
園として看護師に何を期待しているのか不明確なことも多く,保育士とは違う立場でいる視点を持ち続けなければいけない.
期待に添えない無力感 コロナウイルスの症状が様々なので,相談があっても医療機関への受診をすすめることくらいしかできない.
ワクチンについて接種した方が良いのか接種頻度はどうなのか質問があっても有効性がはっきりしていなかったり,コロナの変異株が出てきたりなどで返答が難しい.

以下,文中の『 』はテーマ,【 】はカテゴリ,〔 〕はサブカテゴリ,〈 〉はコードを示す.

1) 『子どもを対象とした看護師役割の困難感』

看護師は【未熟な感染予防行動】として,子どもの〈手洗いができなかったり,咳エチケットが理解できず実施できない場面が多い〉〈よだれが多い時期の子どもがおもちゃをなめる〉などという〔発達段階による子どもの特徴〕に困難感を抱いていた.また,【徹底できない感染予防対策】では〈園内で子どもが過ごす際はマスク未着用〉など〔詮方ない対応〕を感じていた.さらに,【成長・発達への影響】として〔身体への影響〕〔発達への影響〕を危惧し,困難感を抱いていた.

2) 『保護者を対象とした看護師役割の困難感』

看護師は【難しい家庭保育の依頼】として,保護者の〈子どもが発熱しても保護者が仕事中ですぐに迎えに来られない時がある〉など〔スムーズではない家庭保育〕に困難感を抱いていた.また〔難しい登園中止判断〕〔割り切れない登園中止判断〕も感じていた.さらに【保護者の疾患と感染予防対策に対する理解の不足】として〔難しい受診行動の促し〕〔子どもの体調不良報告の遅れ〕に困難感を抱いていた.

3) 『保育士を対象とした看護師役割の困難感』

看護師は【保育士の疾患と感染予防対策に対する理解の不足】として,保育士との〔疾患と感染予防対策に対する認識の違い〕〔研修時間の不足〕を感じていた.【保育士-看護師間の連携不足】として〔保育士-看護師間のコミュニケーション不足〕〔看護師役割の間違った認識〕に困難感を抱いていた.

4) 『その他の看護師役割の困難感』

看護師は【確信がもてない感染予防対策】として〔感染予防対策に関する頻回な行政の指示変更〕〔不鮮明な感染予防対策の基準〕を感じ,〔感染予防体制の不備〕によって〔感染拡大の不安〕〔自身の感染の危険性〕を危惧し困難感を抱いていた.

また,看護師は【発揮できない看護師としての専門性】として,〔看護師としての不明瞭な立ち位置〕〔期待に添えない無力感〕を感じ,〔看護師としてのモチベーションの低下〕という困難感を抱いていた.

Ⅴ. 考察

1. 感染予防対策への困難感

子どもは幼児期から認知的な「病気」の理解が発達していくため自ら感染予防対策の必要性を理解し十分な感染予防行動をとることは難しいばかりか,免疫機能が発達途上であるため感染しやすく重症化する可能性がある.したがって,乳幼児の感染予防は周囲の大人による対策が重要となる.しかし,須藤・鈴木(2008)は,看護師は保育士に衛生管理や感染症対策の理解が得られず,感染症対策は保育現場で継続されないことについて困惑していることを報告している.つまり,COVID-19の感染拡大がなくても,医療の専門職ではない保育士と看護師との感染予防対策の協働は容易ではない.したがって,本結果において,看護師は保育士に対して【疾患と感染予防対策に対する理解の不足】と【保育士-看護師間の連携不足】を感じたことは十分に予測されることであり,感染の完全な防御が極めて難しく明確な治療方法が確立されていないCOVID-19の感染拡大は感染予防対策に向けた看護師と保育士との協働を一層困難にさせたと推察される.

さらに,看護師は【成長・発達への影響】についても困難感を抱いていた.髙木(2005)は,表情は他の非言語コミュニケーションと共に用いられることによって,より多くの情報を含むようになると述べ,西館(2016)は,保育士の7割以上が保育中にマスクを着用していることについて「保育者の声が子どもに届きにくい」「保育者の表情(感情)が子どもに伝わりにくい」と感じていることを報告し,乳幼児が相手の表情を読み取ることに支障をきたす可能性があることを危惧している.それは,乳幼児期は知覚を通して得られた情報をもとに自己や周囲の世界を認知し,様々な経験を通して社会性を育むからである.そのため,乳幼児にとって,相手の声が聞きづらい,相手の表情が見えづらいという状況は,子どもの社会性の発達,言語能力の獲得などに支障を及ぼす危険性がある.

小児を対象とした看護は子どもの成長・発達を促す支援が必須となる.本結果において看護師が子どもの【成長・発達への影響】について困難感を抱いていたのは,看護師が感染予防対策の他,乳幼児期にある子どもの特徴を理解し,成長・発達を促す支援についても重要視していたためであると考える.

これらより保育所で勤務する看護師はCOVID-19の感染が拡大するなか,保育所において子どもの成長・発達を守りつつ,COVID-19の感染予防に努め,保育所閉鎖という事態にならないように困難感を抱えながら尽力していたことが推察される.

2. 看護師役割遂行に対する困難感

近年,小児在宅医療の推進により,保育所には医療的支援の提供というニーズが高まっている.

これらをうけて保育所では看護職の配置が進んでいるが,保育所における看護師は保育士の配置人数の一人として配置することが出来るため,看護師は保育業務を担う場合もある.

2024年,厚生労働省は「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」は保育士の配置について,保育士ひとりが担当する満3歳以上満4歳に満たない幼児はおおむね20人から15人に,満4歳以上の幼児はおおむね30人から25人とした(厚生労働省,2024).

しかし,乳幼児は行動範囲が拡大される一方で危険回避行動が未熟であることから,基準に沿った保育士数でも十分な保育をすることは難しい.そのため,看護師が保育要因としての業務を担うことはいたしかたなく,鳥海・小林(2017)が述べているように,保育所の看護職の配置要件は専門職としての配置となっているが,時間的に保健業務に専念できない施設が多く,実態として看護職としての専門性を十分発揮できない状況であることは大いに推察される.また,横森ら(2022)はCOVID-19拡大防止対策に取り組む保育現場での保育所看護職者に求められる看護職者の役割として,医療と看護の専門知識を発揮した職員への教育や指導,連携,園児や職員の健康管理に関する期待が大きいものの,クラス担任の役割も担う等の多重な業務により専門性を活かしきれていないといった活動状況の難しさがあることを明らかにしている.本研究においても【発揮できない看護師としての専門性】という困難感が明らかになっている.

さらに,本研究において看護師は【確信が持てない感染予防対策】という困難感も抱いていた.それは,COVID-19が感染の完全な防御が極めて難しく明確な治療方法が確立されていない疾患であるが故,〔感染予防対策に関する頻回な行政の指示変更〕がなされたことと,医師が常駐していないことによって,タイムリーな指示を受けることができず,看護師が判断・実行しなければならない重圧と葛藤によるものであると考えられる.

これらより,保育所で勤務する看護師が困難感の少ない状況で感染予防対策を行うためには,保育士,保護者,医療機関との連携体制の強化と看護師と保育士に対する感染予防対策に向けた定期的な研修の充実が重要であると考える.

Ⅵ. 研究の限界

本研究は2022年に実施された研究であり研究対象者の保育所での経験年数の幅が広く,限られた地域の一部の調査である.また,現在,COVID-19は5類感染症に移行された.しかし,多くの医療施設ではマスクの着用が義務付けられている現状がある.こられより保育所で勤務する看護師の戸惑いや困難感は変化していることが考えられるため,データの飽和化はできていない.さらに,本研究の調査期間はCOVID-19の感染拡大が危惧される時期であった.そのため,調査による研究対象者の拘束時間の短縮と,研究者と研究対象者との接触による感染拡大の防止を図るため,自由記述の無記名自記式質問紙調査とした.これにより,インタビュー調査に比べると得られたデータとその分析には限界があったことが考えられる.したがって本研究は一般化はできない.

Ⅶ. 結論

1.COVID-19感染拡大によって保育所で勤務する看護師が抱く看護師役割の困難感は,『子どもを対象とした看護師役割の困難感』として【未熟な感染予防行動】【徹底できない感染予防対策】【成長・発達への影響】を,『保護者を対象とした看護師役割の困難感』として【難しい家庭保育の依頼】【保護者の疾患と感染予防対策に対する理解の不足】を,『保育士を対象とした看護師役割の困難感』として【保育士の疾患と感染予防対策に対する理解の不足】【保育士-看護師間の連携不足】を,『その他の看護師役割の困難感』として【確信がもてない感染予防対策】【発揮できない看護師としての専門性】であった.

2.保育士,保護者,医療機関との連携体制の強化と看護師と保育士に対する感染予防対策に向けた定期的な研修の充実が重要であることが示唆された.

付記:本研究は北海道科学大学卒業研究の一部に加筆修正したものである.

謝辞:研究にご協力いただいた保育所の皆様に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:AMは研究の着想から最終原稿まで研究プロセス全体に貢献.NK,RT,HM,KM,は研究の着想,データの収集と分析・解釈に貢献した.また,すべての著者は最終原稿を読み承認した.

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