日本看護科学会誌
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
原著
看護学生の臨床判断における気づきと解釈の共通性
髙橋 梓
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2025 年 45 巻 p. 764-772

詳細
Abstract

目的:臨床判断の基礎的能力育成に向けた教育検討のため,看護学生の臨床判断における気づきの共通性と解釈の共通性を見出す.

方法:看護学士課程4年生8名にシミュレーションの参加観察と半構造化面接を行い,質的帰納的に分析した.

結果:気づきは《現病歴の状態に着目する》《既往歴から看護技術実施上の注意点を考える》《予期した内容と患者の状態との差異から患者の異変に気づく》,解釈は《情報収集の順序と初期把握した内容に関連性がない》《初期把握した内容にとどまらず,予期した内容を確認するための更なる情報収集も行う》《初期把握した内容と整合する情報について意味づけを進める》《推論した内容を事実とみなして意味づけに組み入れていく》《これまでの経験や知識の活用を試みる》の共通性があった.

結論:気づきの共通性は疾患の統合方法,解釈の共通性は解釈中心の実践の省察,思考の言語化等の教育の必要性を示した.

Translated Abstract

Purpose: To identify common themes related to noticing and interpreting in the clinical judgment of nursing students and obtain insights about the training needs for developing basic clinical judgment skills.

Methods: Observational and semi-structured interview data were obtained from eight final-year undergraduate nursing students participating in a simulation. Data were analyzed qualitatively and descriptively.

Results: Three common themes for noticing and five common themes for interpreting were identified in the thinking process involved in the clinical judgment of nursing students. The noticing themes were “focusing on an aspect of the history of the present illness,” “medical history as a basis for identifying aspects of nursing skills that require extra care,” and “noticing an abnormal condition by the difference between the patient’s actual and expected condition.” The interpreting themes were “no relationship between the order of information gathering and students’ initial grasp of the situation,” “gathering further data to confirm not only students’ initial grasp but also their expectations,” “interpreting the information consistent with initial grasp,” “treating assumptions as facts during interpreting,” and “trying to use past experience and knowledge.”

Conclusion: The common noticing themes indicate that nursing students must learn to integrate disease-related knowledge. The common interpreting themes indicate that they must learn to mainly reflect on their interpreting, and to verbalize their thinking process.

Ⅰ. 緒言

近年の医療の高度化・複雑化に伴い,対象者の状況を判断し,状況に応じた適切な対応を行う看護実践能力が求められている(文部科学省,2017).これを受け,看護基礎教育課程第5次カリキュラム改正では,臨床判断の基礎的能力育成が明記され(厚生労働省,2019),その育成に関心が高まっている.

Tanner(2006)は,臨床判断について,患者のニーズ,不安,健康問題に関する解釈や結論,及び患者の反応によって適切と思われる行動をとるか,とらないか,標準的なアプローチを使用するか,修正するか,または新たなアプローチを即興で行うかという決定であると述べ,経験豊富な看護師の臨床判断の記述により,臨床判断が「気づき」「解釈」「反応」「省察」で構成されることを明らかにした.「気づき」では患者状況を初期把握し,「解釈」ではその状況を様々な推論パターンを用いて理解し,状況に適した看護行為を決定する.これらには,豊富な実践経験や知識を要する(Tanner, 2006Tanner et al., 2022, p. 229).

経験豊富な看護師に比べ,実践経験や知識に乏しい看護学生も臨地実習で看護学生なりに臨床判断を行っている(平川ら,2016今井ら,2007Okada & Tomari, 2017).そこで,限られた実践経験や知識を用いた看護学生の臨床判断を知ることができれば,看護職と看護学生の臨床判断を比較でき,看護学生が「看護師らしく考える(Tanner, 2006)」ための教育上の手掛りが得られるのではないかと考えた.

「気づき」や「解釈」では,豊富な実践経験や知識が必要であるので(Tanner, 2006Tanner et al., 2022, p. 229),それらに乏しい看護学生には,「気づき」や「解釈」を経た臨床判断が困難である.これは,看護学生の「気づき」に課題があるとの報告(新木ら,2012)からも明らかである.また,「気づき」での初期把握は「解釈」での推論パターンに影響を及ぼす(Tanner, 2006)ため,看護学生は「解釈」にも課題があることが推察される.

看護学生は,内省を繰り返すことで臨床判断の拠り所となる考え方を獲得し(岡田,2020),臨地実習の積み重ねは内省の機会の一つとなっている.そのため,内省の機会を多く経た最終学年の臨床判断能力が最も高いが(Ashcraft et al., 2013),看護学部4年生を対象とした臨床判断に関する先行研究はなかった.

以上を踏まえ,本研究では,看護学部4年生を対象に,看護学生が看護行為を決定するために,どのように患者状況に気づき,それを解釈しているか,それらの共通性を見出すことを目的とする.本研究により,看護学部4年生の気づきの共通性と解釈の共通性を見出すことができれば,看護基礎教育課程での学修が看護学生の臨床判断に与える影響が分かり,臨床判断の基礎的能力育成に向けた教育への示唆を得ることを可能とすると考える.

Ⅱ. 研究目的

看護学生が臨床判断を行うための基礎的能力育成に向けた教育について検討するために,看護学生の臨床判断における気づきの共通性と解釈の共通性を見出すことを目的とする.

Ⅲ. 用語の定義

1. 看護学生

看護学士課程在籍の4年生

2. 臨床判断

患者のニーズ,不安,健康問題に関する解釈や結論,及び患者の反応によって適切と思われる行動をとるか,とらないか,標準的なアプローチを使用するか,修正するか,または新たなアプローチを即興で行うかという決定であり,「気づき」「解釈」によって看護行為を決定し,当該行為を実施したことで得られた「反応」を「省察」するという4つのフェーズのことをいう(Tanner, 2006).

3. 気づき

患者について知っていること,知識や経験などをもとに,間近にある状況について予期し,知覚的に初期把握することであり(Tanner, 2006Tanner et al., 2022, pp. 225~226),本研究では,看護学生がカルテから収集した情報,知識や経験など訪室前の限られた情報をもとに,これから訪室する患者の状況を予期した内容,訪室時に五感で収集した情報をもとに初期把握した内容と定義する.

4. 解釈

「気づき」のフェーズを経て行われる情報収集や意味づけ,状況に適した看護行為の決定,または,実施した看護行為の結果の意味づけ,状況に適した次なる看護行為の決定(Tanner, 2006Tanner et al., 2022, p. 226)であり,本研究では,看護学生が気づきで初期把握した内容をもとに行った更なる情報収集と,その情報を初期把握した内容と合わせて意味づけ,状況に適すると判断して看護行為を決定することと定義する.

Ⅳ. 研究方法

1. 研究デザイン

質的記述的研究デザイン

2. 研究参加者

調査実施施設近隣の大学から便宜的抽出方法により抽出した大学の看護学士課程在籍の4年生で,本研究への参加に同意した者とした.

3. シミュレーション事例の設定

患者の全身状態について複数の可能性が想定でき,呼吸と循環の両側面の検証が必要な呼吸困難を訴える患者の事例を設定した.具体的には,咳嗽,苦しいという訴え,ピンク色の泡沫状痰を含むティッシュ,3時間で40 mLの尿が蓄尿バッグ内に貯留という情報から,現病歴の誤嚥性肺炎も踏まえ,現在も内服治療中の既往の心不全が急性増悪した可能性を疑い,推論する内容である.

本事例は,プレテストの結果を反映して改編した.

4. データ収集方法

臨床判断は即興性のある看護行為の決定を含む思考過程(Tanner, 2006Tanner et al., 2022, p. 226)であるため,2022年9~10月に以下の手順に従ってデータを収集した.

1)調査5日前に事例を配信し,内容確認を依頼した.

2)調査当日,事例状況設定下で,10分以内に事例患者(応答機能のないモデル人形)のバイタルサイン測定のシミュレーションを行った.研究参加者の言動に応じ,研究者が口頭で測定結果の情報を示した.研究参加者の言動は参加観察してフィールドノートにメモし,研究参加者の許可が得られた場合は,動画も撮影した.撮影した動画は,インタビュー開始前に,フィールドノートにメモした研究参加者の言動の正確性を確認するために利用した.

3)プレテスト結果を反映したインタビューガイドに沿って,フィールドノートにメモした研究参加者の言動を参考に,シミュレーション中の患者状況への気づきから状況に適すると判断した看護行為決定に至る思考過程について,60分程度の半構造化インタビューを行った.主なインタビュー内容は,訪室して最初に気づいたこととその理由,気づいたことから考えた患者の状況,その状況について検討するために必要だと考えた情報などである.フィールドノートにメモした研究参加者の言動を踏まえ,その言動を行った理由を質問し,研究参加者に語ってもらった.インタビュー内容は,研究参加者の許可を得てレコーダーで録音した.

5. データ分析方法

1)インタビュー内容を逐語録にした.逐語録にはメモ欄を設け,フィールドノートにメモした研究参加者の言動を補足的に記載した.

2)インタビュー内容を,a.訪室前,b.訪室直後,c.バイタルサイン測定時,d.バイタルサイン測定後,e.その他の場面に関するものに振り分けた.

3)振り分けたインタビュー内容の生データについて,「気づき」「解釈」に関わる内容に記号を付した.以下では,カッコ内に付した記号を示す.

「気づき」の内容は,①カルテから収集した情報(〈 〉),②①と知識や経験などの訪室前の限られた情報をもとにこれから訪室する患者の状況を予期した内容(〔 〕),③訪室時に五感で収集した情報({ }),④①~③にもとづいて初期把握した内容(『』)である.①とは,iバイタルサインの経過,ii年齢・性別・身長・体重,iii左踵部の褥瘡,iv排便状況,v検査結果:血液・胸部X線,vi現病歴:誤嚥性肺炎(点滴加療,膀胱留置カテーテル挿入中),vii既往歴:心房細動,心不全,脳梗塞(左半身麻痺),viii生活の状況である.②とは,カルテから収集した情報,研究参加者自らの知識や経験をもとに,これから訪室する患者の状況を推測した内容である.③とは,カルテに記載のない患者情報であって,研究参加者が訪室時に得た情報のことである.④とは,①~③をもとに初期把握した内容である.

「解釈」の内容は,⑤「気づき」で初期把握した内容とそれをもとに行われた更なる情報収集によって得た情報([ ])を意味づけた内容(斜字),⑥状況に適すると判断して決定された看護行為(太字)である.⑤とは,④の内容をもとに得た情報と④の内容を合わせて行う意味づけのことである.⑥とは,研究参加者がシミュレーション終了時に選択した看護行為のことである.

4)「気づき」「解釈」の内容に付された記号に着目し,類似性を持つ意味内容ごとにグルーピングした.

5)グルーピングした内容ごとに見出された類似性にラベルを付け,そのラベルを共通性として見出した.

分析の各過程では,看護教育学の専門家のスーパーバイズを受けた.

6. 倫理的配慮

研究参加者には,文書及び口頭で研究目的や方法,研究協力の任意性と撤回の自由,個人情報保護等について説明し,同意書への署名を得た.本研究は,武蔵野大学看護学研究科研究倫理委員会の承認(承認番号G2202-2)を得て実施した.

Ⅴ. 結果

1. 研究参加者の概要

研究協力を依頼した看護系大学14校のうち,承諾を得た3校で研究参加者を募集し,同意した8名にシミュレーションとインタビューを行った.

研究参加者は全て女性,COVID-19影響下で臨地実習科目を履修しており,患者を受け持った実習科目数は3~9科目,1科目あたりの受け持ち日数は2日~2週間であった.シミュレーション実施時間は7分30秒~10分(平均9分30秒),インタビュー時間は45~76分(平均60分)であった(表1).

表1 研究参加者の概要

研究参加者 性別 患者を受け持った実習科目数 シミュレーション実施時間 インタビュー実施時間
学生A 女性 5科目 9分 76分
学生B 女性 4科目 10分 58分
学生C 女性 9科目 10分 64分
学生D 女性 8科目 9分32秒 53分
学生E 女性 4科目 10分 56分
学生F 女性 4科目 10分 45分
学生G 女性 6科目 7分30秒 60分
学生H 女性 3科目 10分 65分

2. 看護学生の臨床判断における気づきの共通性と解釈の共通性

気づきは3つ,解釈は5つの共通性が見出された.

以下,本文中の《 》は気づき,または解釈の共通性,「」は生データを示す.

1) 看護学生の臨床判断における気づきの共通性

(1) 《現病歴の状態に着目する》

看護学生は現病歴の〈誤嚥性肺炎〉〈入院5日目で炎症反応低下〉を収集し,〔誤嚥性肺炎の改善〕〔誤嚥性肺炎の悪化〕を予期しており,《現病歴の状態に着目する》という共通性があった.

「〈誤嚥性肺炎〉って.シンプルに事前情報を見てたんで,〈5日目には炎症反応が低下〉したとか,〈熱が下がってきてる〉のも書いてあったんで.それをふまえて考えたら,〔良くなってるのかな〕って.(学生D)」

「〈誤嚥性肺炎〉として診断されて.で,まぁ,〈薬物治療が開始〉されて〈炎症反応は低下した〉けど.〔一度,改善した〕けど〔再発もありうる〕ので,感染兆候とか,炎症反応に関しては,常に目を凝らして見ておくべきだと.(学生E)」

(2) 《既往歴から看護技術実施上の注意点を考える》

既往歴の〈脳梗塞〉を収集した看護学生は,〈左半身麻痺〉から〔麻痺側は循環不良があるだろう〕と考え,循環不良の影響を受けず,正確にバイタルサイン測定が実施できるように健側で測定しており,《既往歴から看護技術実施上の注意点を考える》という共通性があった.

「既往に〈脳梗塞〉で〈麻痺〉ってことも情報から見てました.…〔麻痺だと血液循環が悪くて〕,体温が低く出たり,正確な値がとれないので,健側で測りました.(学生C)」

「〈脳梗塞〉の既往で〈左半身麻痺〉があって,〔麻痺側で測定すると血流が上手く流れていない〕ので,いつもより低い値がでるとか,正確な値がでないので,右で測りました.(学生D)」

(3) 《予期した内容と患者の状態との差異から患者の異変に気づく》

看護学生は,〔誤嚥性肺炎の改善〕を予期して入室し,{ティッシュ}や{咳}の情報から『呼吸器系の異常』を初期把握しており,《予期した内容と患者の状態との差異から患者の異変に気づく》という共通性があった.

「最初に目についたのは,{ティッシュが散らばっていた}ことで.…{咳をしている}ことに気づきましたね.『それで,まだ苦しいのかなって,痰が絡まっているのかな』っていう印象を受けました.予想とギャップがあるというか.…この方,〈誤嚥性肺炎〉で入院されてたんで.…昨日と比べて,〈今日から食事開始〉されるってことで,〔少しは改善方向にいっているのかなって思った〕状態で入室したので.(学生C)」

「この患者さん,〈誤嚥性肺炎〉だから.…最初に{咳をした}時に,んって思って.{咳}か,『最初咳怪しいなって思って』.…〔元気な感じかなって,この事前情報見て思ってて〕.〈食事も開始〉するし,〈5日目は炎症反応も結構低下〉してたし,〔大丈夫だろうなって勝手に思っていて〕.(学生F)」

2) 看護学生の臨床判断における解釈の共通性

(1) 《情報収集の順序と初期把握した内容に関連性がない》

看護学生は初期把握の『呼吸器系の異常』を検証するため,[呼吸数][SpO2][呼吸音]など呼吸器系の情報を含む更なる情報収集を行ったが,情報収集の順序と初期把握の内容との間に関連性はなく,《情報収集の順序と初期把握した内容に関連性がない》という共通性があった.

「とにかく,とりあえず,[肺音の聴取]と[SpO2の値]も見てみようって…一番最初に{苦しい}って言ってて,『自分は痰を考えてて』.バイタルサインの測定順序は,本当に癖で.いつも同じ順番ですね.体温,脈拍,呼吸数,血圧の順.(学生D)」

(2) 《初期把握した内容にとどまらず,予期した内容を確認するための更なる情報収集も行う》

看護学生は初期把握した『呼吸器系の異常』以外にも〔膀胱留置カテーテル抜去の恐れ〕〔腸蠕動の減弱〕などの予期を行い,[固定用テープの状況]や[腸蠕動音]の情報を更に収集しており,《初期把握した内容にとどまらず,予期した内容を確認するための更なる情報収集も行う》という共通性があった.

「〈膀胱留置カテーテルを入れてたので〉.…〔膀胱留置カテーテルが固定されていないと,患者さんにとって気持ち悪いかなって思ったのと,固定されてないまま,バッグが引っ張られたら抜けやすいかなって思った〕から[確認することにしました].(学生A)」

「〈便が2日出てなかった〉んで〔腸蠕動音弱まってるかなって〕.…[腸蠕動音を聴診しようと考えて].(学生C)」

(3) 《初期把握した内容と整合する情報について意味づけを進める》

看護学生は初期把握の『呼吸器系の異常』と整合する[SpO2][呼吸数][ティッシュの中身][呼吸音]の情報を用い,痰の貯留肺炎の悪化と意味づけたが,[末梢冷感]の情報を用いることはなく,《初期把握した内容と整合する情報について意味づけを進める》という共通性があった.

「[SpO2とかも低い]し…[頻呼吸気味,若干]だったので.後は[血痰]が.聴診したら全体的に[断続性ラ音].まぁ,正常ではないですよね.だから痰が溜まっているなって判断して.…あと[末梢冷感があって],苦しいと末梢冷感ってなっちゃうのかな?って疑問のまま,この時は終わっちゃって.(学生D)」

(4) 《推論した内容を事実とみなして意味づけに組み入れていく》

本事例では,ティッシュの中のピンク色の泡沫状痰が,心不全の急性増悪の兆候を示す情報の1つであった.ティッシュの中身を確認した看護学生は,[ティッシュの中の赤っぽい物]について,血痰だろうと意味づけ,ティッシュの中身を確認しなかった看護学生は,鼻水か痰だろうと意味づけた.しかし,看護学生はティッシュの中身を確認したか否かにかかわらず,意味づけの妥当性を確認するための行動をとることはなく,《推論した内容を事実とみなして意味づけに組み入れていく》という共通性があった.

「[ティッシュを見たら赤い],赤いのがついているって思って.血痰?…なんで血痰と思ったかっていうと,特にないんですけど.赤って血以外なんだろうっていう.血が連想されちゃって.咳してるから一緒に痰がでてるのかなとか.〈誤嚥性肺炎〉だしっていう.(学生G)」

「ティッシュがすごく多くて,痰が入ってるかなって.…正直,その時はそこまで頭が回らなくって中身は見なかった.…とりあえず,今の状態をすぐ看護師さんに報告するのと,痰を喀出できるようなケアを考えてみようかなとか考えて.(学生B)」

(5) 《これまでの経験や知識の活用を試みる》

看護学生は演習で痰貯留により苦しいと訴える術後患者にギャッジアップした経験や妊婦にとっての安楽な姿勢に関する知識を踏まえて,ギャッジアップを実施し,実習で考え得る複数のアプローチを検討するように看護師から指導を受けた経験から体位変換による痰の喀出,吸引,薬剤投与等を検討しており,《これまでの経験や知識の活用を試みる》という共通性があった.

「その人は術後の人だったんですけど.痰とか溜まってたら,ちょっと上体を起こしてあげると苦しいのが和らぐよって,演習で先生に言われて.ちょっとそれをやってみようかなって思って,それをやりました.(学生F)」

「妊婦さんだと,うつ伏せはだめだけど横向きが楽な人もいるし,座るのが楽な人もいるしっていうのがあったんで.…ベッドを上げてみて,患者さんにどうか聞いてみたらファーラー位で楽になったってことだったんで,これで過ごしてみたらどうかなって考えました.(学生A)」

「腹部膨満感がある患者さんを受け持って.下剤っていうか,薬の量は変えないんですかって聞いたら,指導者さんに看護師ができることは温罨法したりっていう選択肢もあるよって言われて.…実際にいくつか選択肢が出てくるかっていうと難しいんですけど,今回もそれで色々考えました.(学生G)」

Ⅵ. 考察

1. 看護学生の臨床判断における気づきの共通性と解釈の共通性

1) 看護学生の臨床判断における気づきの共通性

看護学生の気づきには,《現病歴の状態に着目する》という共通性があった.看護学生は,病態学の知識が不足しており(山下ら,2018),知識の関連付けの難しさから,入院当初の診断名だけに着目したり(泊ら,2020),複数の既往歴と現病歴を繋げて理解できない(中川ら,2020).本研究参加者も,《既往歴から看護技術実施上の注意点を考える》ことはしていたものの,既往歴と現病歴を統合した意味づけを行うことはなく,同様の理由から現病歴と既往歴の統合が困難であったと考えられる.また,香川・櫻井(2007)は,学内学習では各疾患を統合せずとも個別に学習すれば済むが,臨地実習では患者ごとに異なる複数の疾患を統合的に扱う必要があるという看護学生の認識を報告している.しかし,2020年度のCOVID-19に伴う看護学実習では,看護系大学の83.4%が実習変更を予定し,臨地の日数・時間の短縮等の変更を余儀なくされており(文部科学省,2021),本研究参加者の臨地実習も同様であった.これらのことから,《現病歴の状態に着目する》《既往歴から看護技術実施上の注意点を考える》という共通性を持ち,現病歴と既往歴の双方に着目しながらも,それらを統合しなかったことは,現病歴と既往歴の統合学習の機会である臨地実習経験が限られていたことの影響があると考えられる.

看護基礎教育課程では,看護学生は多様な対象の特性や状態に合わせた看護技術を実施することが求められる(日本看護系大学協議会,2018).《既往歴から看護技術実施上の注意点を考える》という共通性は,看護学生が,看護技術の適切な実施のためには,手順の理解だけでなく,各患者の状況を踏まえる必要があることを理解していることが表れたものと考えられる.

看護学生の気づきには,《予期した内容と患者の状態との差異から患者の異変に気づく》という共通性があった.看護学生の予期は,誤嚥性肺炎の状態に関するものだけであり,既往の心不全に与える影響に関する予期はなかったので,誤嚥性肺炎が改善していれば認められるはずの患者の状態と実際の患者の状態との差異によって呼吸器系の異常を捉えるにとどまっていた.岩本ら(2014)は,初療経験1年目看護師が事前情報から想定した病態の選択肢は非常に少なかった一方,初療経験5年目以上の看護師はあらゆる病態を予測した広い視野での観察を行っていたと報告する.これは,経験年数の長さが予期する内容の具体性に影響を与えることを示しており,臨床経験のない看護学生を対象とした本研究でも同様の結果が得られたと考える.

2) 看護学生の臨床判断における解釈の共通性

本研究参加者は,「一番最初に苦しいって言ってて,自分は痰を考えてて.(学生D)」などと呼吸器系の初期把握をしたが,呼吸器系以外の情報から収集し,《情報収集の順序と初期把握した内容に関連性がない》という共通性,及び,腸蠕動の減弱などの予期に関する情報を意味づけており,《初期把握した内容にとどまらず,予期した内容を確認するための更なる情報収集も行う》という共通性があった.看護学生は,臨床状況において,たとえ介入を遅らせる可能性があっても,誤った看護行為を決定しないために,できるだけ多くの情報を収集し,患者の全容を捉えたいと考えている(Dix et al., 2021).本研究参加者が,呼吸器系の初期把握をしたにもかかわらず,《情報収集の順序と初期把握した内容に関連性がない》《初期把握した内容にとどまらず,予期した内容を確認するための更なる情報収集も行う》という共通性があり,呼吸器系以外の情報収集にも時間を割く選択をしたことは,本研究参加者が,できるだけ多くの情報を収集し,患者の全容を捉えたいと考えたことを示唆するものと考えられる.

看護学生の解釈には,《推論した内容を事実とみなして意味づけに組み入れていく》という共通性があり,[末梢冷感]という予想外の情報を得ても,解釈にそれを使用せず,《初期把握した内容と整合する情報について意味づけを進める》という共通性があった.看護職は,臨床判断において,直観的に患者の状態を初期把握した場合,複数の仮説を検証するなかで,自らの直観の妥当性を確かめるための推論を行う(Tanner et al., 2022, p. 226).自らの推論過程を意識的に吟味する反省的な思考は批判的思考と呼ばれ,推論を支える根拠情報を検討することは重要とされる(楠見,2017,pp. 134~142).しかし,看護学生には,情報の一部を切り捨てて判断したり,状況を拡大解釈して問題を創り上げる現象があり,この現象は,援助できそうなことを早く探そうとして現状分析が疎かになっていることで生じ,看護学生が,根本的に思考プロセスとその重要性を理解していないことも指摘されている(中村ら,2007).本研究参加者も,援助できそうなことを早く探そうとしてティッシュの中身が痰であるかの確認や分析を疎かにし,また,末梢冷感という情報を切り捨てて判断しており,自らの推論や収集した情報を分析する思考プロセスとその重要性の理解が十分でないことが考えられる.

看護学生は,演習で痰貯留により苦しいと訴える術後患者にギャッジアップした経験や妊婦にとっての安楽な姿勢に関する知識を使用して解釈を行っており,《これまでの経験や知識の活用を試みる》という共通性があった.看護学生は,臨地実習において,別領域の類似の体験を統合するなど内省を繰り返して必要な観察を見出す分析的な考え方を理解し,患者を文脈的に解釈する力を身に付ける(岡田,2020).そのため,本研究参加者も同様に別領域の体験を統合しようとしたと考えられる.もっとも,本研究参加者が使用した経験や知識の内容は,本事例患者の特性とは異なる経験や知識であり,自らの経験や知識を臨床の場に応用できるものとして身に付けるには至っていないものと考えられる.

2. 看護学生が臨床判断を行うための基礎的能力育成に向けた教育への示唆

前述したとおり,看護学生は複数の疾患を関連付けて考えることに課題があること,できるだけ多くの情報を収集し,患者の全容を捉えたいと考えていたことが示唆された.

看護学生は,できるだけ多くの情報を収集したいと考える一方,多すぎる情報に圧倒され,臨床判断がより困難になる(Dix et al., 2021).特に病態生理学の知識不足が,収集した情報の処理能力に影響を及ぼすという指摘もある(Hunter & Arthur, 2016).そのため,複数の疾患の関連付けに課題がある看護学生が,収集した情報に圧倒されずにそれらを解釈しきるためには,解剖生理学や病態生理学の知識を臨床の場で応用できる知識として身に付ける必要がある.この点については,シミュレーション演習での経験が,同様の患者状況下での知識の活用に非常に役立つという報告がある(Hustad et al., 2019).したがって,複数疾患を持つ患者事例のシミュレーション演習を実施し,模擬的な臨床状況下で,既習知識の活用方法を学習することが考えられる.その経験が臨床での実践に反映できれば,解剖生理学や病態生理学の知識に基づく具体的な予期ができ,初期把握の内容も具体性を増すので,より状況に適した看護行為の決定が可能となることも期待される.また,看護学生は,臨地実習で複数の疾患を統合的に扱うことを認識するという報告(香川・櫻井,2007)がある.そのため,あえて受け持ち患者を設定しない実習を行い,複数の患者のカルテ情報を検討して多くの症例に接した後,担当看護師とディスカッションしてその判断過程を追体験し,疾患の統合の仕方を学習することが考えられる.

新木ら(2012)は,看護学生の臨床判断能力育成には,気づきへの働きかけが重要であると述べている.しかし,前述したとおり,解釈の共通性からは,推論を支える根拠情報の検討が十分でないこと,予期の範囲を超えた情報の意味づけが困難であること,自らの経験や知識を臨床の場に応用できるものとして身に付けるには至っていないことが示唆されており,解釈にも働きかける必要がある.この点については,実践の省察が臨床判断における思考の支援に効果があり(Hustad et al., 2019),発問のガイドも存在する(Nielsen et al., 2007).そこで,発問を通し,推論した内容を事実として組み入れるには何をすべきであったか,予期の範囲を超えた情報を意味づけずに解釈を進めたのはなぜか,使用した経験や知識を適用すべき状況であったかをふり返り,再考の機会を設けることが考えられる.また,看護学生の臨床推論力が協働学習によって向上したとの報告(Harmon & Thompson, 2015)もあるので,解釈における思考過程について,グループディスカッションの機会を設け,自らの思考を言語化し,他者の思考と比較検討することで,解釈のフェーズにおける思考の仕方を学習することが考えられる.

Ⅶ. 結論

看護学生の臨床判断における気づきには,《現病歴の状態に着目する》《既往歴から看護技術実施上の注意点を考える》《予期した内容と患者の状態との差異から患者の異変に気づく》という共通性があった.

看護学生の臨床判断における解釈には,《情報収集の順序と初期把握した内容に関連性がない》《初期把握した内容にとどまらず,予期した内容を確認するための更なる情報収集も行う》《初期把握した内容と整合する情報について意味づけを進める》《推論した内容を事実とみなして意味づけに組み入れていく》《これまでの経験や知識の活用を試みる》という共通性があった.

看護学生の臨床判断における基礎的能力を育成するためには,複数疾患を持つ患者事例のシミュレーション演習,看護職の判断過程を追体験して疾患の統合の仕方を学ぶ実習,解釈を中心とした実践の省察,思考を言語化して他者の思考と比較しながら思考の仕方を学ぶグループディスカッションといった教育の必要性が示唆された.

Ⅷ. 本研究の限界と課題

本研究は,COVID-19の影響下で臨地実習を履修した看護学生8名のデータを分析しており,実習経験が一様でなかったことが研究結果に影響を及ぼしている可能性がある.

今後は研究参加者数を増やし,平時の看護基礎教育課程での学修を経た看護学生の臨床判断と本研究結果を比較検討する必要があると考える.また,気づき・解釈だけでなく,その後の反応・省察を含む看護学生の臨床判断について明らかにすることも課題である.

付記:本研究は,2022年度武蔵野大学大学院看護学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.本論文の内容の一部は,第43回日本看護科学学会学術集会において発表した.

謝辞:本研究にご協力いただいた皆様,ご指導いただいた武蔵野大学大学院香春知永教授に感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:髙橋梓は研究の着想およびデザイン,データ収集・分析から論文作成に至る研究プロセス全体を実施し,最終原稿を読み,確認した.

文献
 
© 2025 公益社団法人日本看護科学学会
feedback
Top