日本看護科学会誌
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総説
日本の認知症看護における看護師の経験:ナラティブレビュー
村上 章比嘉 勇人
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2025 年 45 巻 p. 798-810

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Abstract

目的:日本の認知症看護における看護師の経験の様相を,既存の質的研究の知見から統合し明らかにすることである.

方法:医中誌Web,PubMed,CINAHLを用いて文献検索し,ナラティブレビューを行った.

結果:和文献19件,英文献1件を採用した.日本の認知症看護における看護師の経験は,【認知症の人に合わせた看護方法の模索と実践】【個別の認知症看護の枠を超え対象と協同職種を広げた実践】【認知症の人と家族のこれからを見据えた看護】【認知症看護の実践上の課題への直面】【認知症看護における価値観の確立】の5コアカテゴリーに統合された.

結論:認知症看護における看護師の経験の本質は,実践の反復,実践の省察と自分自身の省察を基盤とした経験であると考えられた.経験の本質を基盤とした知見の創出が,認知症看護実践の発展に寄与できると示唆された.

Translated Abstract

Aim: This study aimed to synthesize the findings of existing qualitative research to identify key aspects of nurses’ experiences in dementia nursing in Japan.

Method: We researched literature using Ichu-shi Web, PubMed, and CINAHL, followed by a narrative review.

Results: Nineteen Japanese-language articles and one English-language article were included. Nurses’ experiences in dementia nursing in Japan were categorized into five core themes: “Exploring and implementing nursing methods tailored to people with dementia,” “Expanding the scope of dementia nursing beyond individual cases to include collaboration with other professions,” “Providing nursing with consideration for the future of people with dementia and their families,” “Facing the challenges of dementia nursing in practice,” and “Establishing values in dementia nursing.”

Conclusion: The essence of nurses’ experiences in dementia nursing was considered to be grounded in repeated practice, reflection on practice, and self-reflection. This study suggests that knowledge based on these experiential insights may contribute to the advancement of dementia nursing practice.

Ⅰ. 緒言

認知症は,後天的な脳障害により一度獲得した知的機能が自立した日常生活が困難になるほどに持続的に衰退した状態(鳥羽ら,2024)である.DSM-5-TRの下位分類では,アルツハイマー病,前頭側頭変性症,レビー小体病,血管性疾患,外傷性脳損傷,物質・医薬品の使用,HIV感染,プリオン病,パーキンソン病,ハンチントン病,他の医学的疾患,複数の病因,特定不能の病因に分けられている(American Psychiatric Association, 2022/2023).

世界保健機関(WHO)は,2019年に世界の5,520万人が認知症を有していると推定し,2050年には約1億3,900万人への増加を予測している(WHO, 2021).日本では2012年に462万人であった認知症の有病者数の推計値は,2050年に797万人となり,世界の動向と同じく増加の一途をたどると予測されている.そのため,実践の場を問わず認知症の人を看護の対象とする機会の増加が想定され,看護職には認知症看護の実践力を身につけることが増々求められている.

認知症の人の増加を背景に,日本における認知症施策は1980年代から現在までに段階的に発展してきた.1990年代では,ゴールドプランにより増大する老人性痴呆症等の老人病の解明や,看護の研究等長寿科学研究の推進が図られることとなった(大井田,1992).2000年代では,2004年に痴呆から認知症への呼称が変更され(厚生労働省「痴呆」に替わる用語に関する検討会,2004),2005年に日本看護協会において認知症看護の認定看護師分野が創設されたことで認知症看護の高度実践者の育成が全国的に開始された.2010年代になると,オレンジプランと新オレンジプランが発表され,共生と予防を掲げた施策が進められてきた.そして,2020年代では2023年に認知症基本法が制定され,国と地方が一体となって共生社会の実現を目指した施策を進めつつある.

認知症看護に関する研究も,段階的に発展してきていると言える.テキストマイニングによる日本の認知症看護の研究動向では,1980年代は認知症の人の理解に関する基礎的研究,1990年代から2010年代ではケアに関する実践的研究,2020年以降はより高度な知見を求めることを目的とした文献レビューが増加していたと報告されている(山内・平川,2022).2020年以降に日本で報告された認知症看護の実践的研究の文献レビューを見ると,非薬物療法や看護技術の効果(佐藤・時田,2024豊嶋ら,2024小林・沖中,2024高野・青木,2023大西・鈴木,2021)や,行動・心理症状(BPSD)への対応(野本・中村,2024加藤ら,2024秋村・田中,2023古野ら,2020a),日常生活における看護(足立・榊原,2024池田・木宮,2023松久・田中,2023香山ら,2020),地域での生活継続の支援(中島ら,2023Okamura et al., 2023上野ら,2020)等の具体的な実践場面に関する知見を統合したものが多い.同様に,英語論文を対象にしたテキストマイニングでは,分析対象となった2,688件における主要なキーワードはCost,Cognitive Intervention,Caregiver,Alzheimer’s Disease,Residence等であったと報告されている(Atay et al., 2024).2022年にはCognitive Interventionに関する研究が最も多くなり,2023年以降も主要な研究キーワードとなっていることから,認知症の人への認知的介入に関する実践的研究が広く行われていることがうかがえる.

認知症看護の実践に目を向けると,看護に関連する理論や技法としてパーソン・センタード・ケアや,バリデーション,ユマニチュード等が広められてきた.パーソン・センタード・ケアについては,この理論を基に急性期病院で必要とされる認知症看護実践能力に関する研究が行われている(Edvardsson et al., 2013鈴木ら,2016).これらの理論や技法に基づく看護の有効性については,いくつかのランダム化比較試験が報告されているものの,質の高い研究を積み重ねたエビデンスの構築が課題と指摘されている(「認知症疾患診療ガイドライン」作成委員会,2017).また,近年では看護の質の評価や実践力の評価に関する研究が取り組まれ,認知症高齢者とのコミュニケーションスキルに関する尺度開発や認知症看護に関連した臨床判断の構造について報告されている(膽畑,2023浦島ら,2020).

一方で,認知症看護は,認知症の人が経験していることや必要としていることの内実をとらえて関わることが求められる.そのため,看護の視点を「本人視点」に切りかえて,見ること,感じること,考えること,関わること,振り返ることを日常の当たり前にすることが非常に重要である(中島,2024).よって,実践力の向上には看護師が認知症看護の場面において,本人視点で捉えた実践内容の振り返りを明らかにすることは重要である.

英語圏の国々を主な対象とした病院で認知症の人をケアする専門職の経験に関するシステマティック・レビューでは,専門職はパーソン・センタード・ケアが認知症の人への最適なケアと考える一方,最適なケアの提供を妨げられると感じると,専門職は精神的苦痛を経験し職務満足度が低下することが報告されている(Gwernan-Jones et al., 2020).また,パーソン・センタード・ケアを提供する上での障壁は,認知症の人へのケアに関する知識不足や,ルーチン中心のケアを優先する施設や病棟の文化であったと報告されている(Gwernan-Jones et al., 2020).この報告では,多国籍の結果を統合しているものの,対象国の認知症施策や文化的な価値観等が得られた経験に影響を及ぼしていることが示唆された.したがって,日本の認知症看護における看護師の限定的な経験のレビューによって,本邦の様々な背景を反映した看護師視点の経験を統合的に解釈できると考えた.

このように,認知症看護は認知症に対する理解の深化とともに,看護師の役割の拡大と専門性の高まりの中で,看護に関連する理論の構築から具体的な技法の創出,看護の質評価といった過程を歩み,現在も発展途上にあると言える.この過程の中で,看護師を対象とした認知症看護に関する質的研究が数多く実施され,様々な経験知が報告されている.これらの知見を統合することは,認知症看護を実践する看護師の経験を包括的に理解し,経験の本質を見出すことが可能となり,認知症看護の実践基盤の具体化や質向上に向けた研究課題を導く上で有益であると考える.以上より,本研究では,日本の認知症看護における看護師の経験の様相を,既存の質的研究の知見から統合し明らかにすることを目的とした.

1. 用語の定義

1) 経験

福田は,「経験」であることの必要十分条件は「1)それが私自身に生じている,あるいはそれが私に帰属することと,2)そのとき私がそのことに気づいていること」であり,例として感覚知覚,身体感覚,情動や感情,思考,行為を挙げている(福田,2020).「体験」と「経験」は明確な区別をもって使用されていないものの,「体験」は「特定時期の身体感覚と反応」に着目する一方,「経験」は「一連の過程における主観や内面的変化」に着目することが多い(中木ら,2007).これらのことから,本研究においては,看護場面のプロセスの中で生じる知覚や思考,行為等を包含する「経験」を使用することが適切と考えた.したがって,本研究における「認知症看護における看護師の経験の様相」とは,「認知症の人への看護場面で,看護師に生じた看護の一連のプロセスにおける主観的・内面的変化とそれに基づく行為」と定義した.

2) 認知症看護

看護学を構成する重要な用語集(日本看護科学学会看護学学術検討委員会,2011)の「看護」と「看護実践」の定義を参考に,本研究における「認知症看護」を「看護師が看護の専門的知識や技術を用いて,認知症の人や家族らに対して働きかける行為や,あらゆる実践の場で看護師個人または看護師を含む集団で取り組む活動」と定義した.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザイン

Noblit & Hare(1988)のメタ統合法を参考にしたナラティブレビューである.

2. データ収集方法

1) 文献検索データベース

医中誌Web,PubMed,CINAHLを用いて,各データベースの収録開始年から2023年3月(検索日:2023年3月29日)に収録された論文を検索対象とした.

2) 検索語

医中誌Webにおいては,認知症,看護師,質的研究をキーワードに原著論文に限定してAND検索し,PubMed,CINAHLにおいては,Dementia,Nurse,Qualitative Research,JapanをキーワードにAND検索した.

3) 論文選定基準

医中誌Webで得られた219件とPubMed,CINAHLで得られた14件の計233件のタイトルと抄録を読み,文献レビュー,会議録,量的研究,重複文献,対象者不適文献(研究対象者に看護師以外の職種が含まれているもの),目的不一致文献(認知症看護における看護師の経験が記述されていないもの)を除外し,55件(和文献53件,英文献2件)を選定した.さらに55件を全文精読し,データの詳細記述がない14件と対象者不適な3件,目的不一致な2件を除外し,36件(和文献35件,英文献1件)を選定した.

選定された36件に対し,質的研究の質評価ツールであるJoanna Briggs Institute批判的評価ツール(Lockwood et al., 2015)を用いて評価した.評価の際は先行研究(寺岡ら,2021)を参考に,評価ツールの10項目中5項目以上の該当する文献を選択した.また,5項目以上該当の文献であっても,研究手法とその結果の整合性に関する評価項目(項目1~5)を満たさない文献は除外し,最終的に20件(和文献19件,英文献1件)を採択した.なお,一連の選定過程は2名の独立したレビュー担当者(AMとHH)で実施した(図1).

図1  対象論文選定のフローチャート

3. 分析方法

Noblit & Hare(1988)の7段階の分析手順を参考にした.①研究者の関心の明確化では,日本の認知症看護における看護師の経験を関心とした.②対象論文の選択,③対象論文の精読を経て,④対象論文相互の関連の検討では,各論文の著者,発表年,論文タイトル,対象者の特徴,分析方法,結果に記述されたカテゴリーを整理した.⑤各対象論文の成果の解釈では,各論文の知見を集めてコード化した.コードを抽出する際は,それぞれの方法論で抽出されたカテゴリーの内,意味内容を損なわないレベルの抽象度のものを抜き出した(質的記述的研究,グラウンデッドセオリーアプローチ(GTA),修正版グラウンデッドセオリーアプローチ(M-GTA)ではカテゴリー,現象学では本質的要素,KJ法ではシンボルマーク).⑥解釈結果の統合では,⑤で抽出したコードを内容の類似性を基にサブカテゴリー,カテゴリー,コアカテゴリーとして統合した.⑦統合結果の表現では,コアカテゴリー間の関連を経験の定義に基づいて記述した.なお,一連の分析過程では研究者間で討議を重ね,分析の妥当性を高めるよう努めた.

4. 倫理的配慮

分析対象文献の研究内容を正確に読み取り,著者の意図に反しないよう留意した.

Ⅲ. 結果

1. 分析対象文献の概要

20文献の看護師の総数は245人,女性189人,男性28人(不明除く),年齢20~60歳代(不明除く),経験年数3~48年(不明除く)だった.所属は病院166人,介護施設38名,訪問看護事業所18名だった.分析方法は質的記述的研究14件,GTA2件,M-GTA2件,KJ法1件,現象学1件だった(表1).

表1 分析対象文献の概要

No 著者(年) タイトル 対象者の特徴
①年齢②性別③経験年数④看護師以外の資格⑤所属
分析方法
1 古野ら(2022) アパシーのある認知症患者に対する看護実践 ①30~60代(平均不明) ②男性5名,女性6名 
③7~48年(平均23.0年) 
④精神看護専門看護師1名,認知症看護認定看護師2名,認知症ケア専門士5名,認知症看護認定看護師+認知症ケア専門士1名,精神科認定看護師2名 ⑤医療機関11名
質的記述的研究
2 篠原ら(2022) 急性期病棟で働く看護師が認知症を持つ患者と関わる際に抱く感情の捉え方 ①20~40代(平均35.7歳) ②不明 
③5~28年(平均13.2年) 
④認知症看護認定看護師2名 ⑤病棟10名
質的記述的研究
3 岡本・小山(2022) 一般病棟における認知症患者の攻撃的行動を未然に防ぐ支援の検討(第2報) 認定看護師・専門看護師の実践に焦点を当てて ①不明 ②男性1名,女性9名 ③12~30年(平均19.5年) 
④老人看護専門看護師2名,認知症看護認定看護師8名 
⑤病棟8名,看護部付2名
質的記述的研究
4 古野ら(2020b) 行動・心理症状の薬物療法を受けている認知症高齢者に対する訪問看護師の判断の視点 ①30~60代(平均不明) ②男性1名,女性11名 
③8~40年(平均20.0年) 
④認知症看護認定看護師1名,介護支援専門員1名 
⑤訪問看護事業所12名
質的記述的研究
5 吉元・沖中(2019) BPSDのある認知症高齢者の「心地よさ」に働きかける看護職の支援の特徴 ①20~40代(平均不明) ②女性3名 
③8~25年(平均不明) ④不明 ⑤介護老人保健施設3名
質的記述的研究
6 浅居ら(2019) 一般病棟に入院する認知症高齢者の転倒予防に関する看護師の認識 ①20~30代(平均不明) ②女性6名 
③5~13年(平均8年) ④不明 ⑤一般病棟6名
質的記述的研究
7 牧野・加藤(2019) 一般病棟の認知障害高齢者へ身体拘束回避で転倒を予防する熟練看護師の思考と実践のプロセス ①20~50代(平均不明) ②女性18名 
③13~38年(平均不明) 
④認知症看護認定看護師1名,認知症ケア専門士3名 
⑤総合病院18名
M-GTA
8 鈴木(2017) 認知症患者の攻撃的行動に対する認知症治療病棟看護師の観察視点及び看護ケアの実際 ①範囲不明(平均44.2歳) ②男性1名,女性4名 
③範囲不明(平均22年) ④不明 ⑤認知症治療病棟5名
質的記述的研究
9 山地・長畑(2017) 高齢者施設での日常生活において認知症高齢者がアドボカシーを必要とする状況と看護師の支援内容 ①30~60代(平均不明) ②女性9名 ③不明 
④認知症看護認定看護師9名 
⑤介護老人保健施設5名,特別養護老人ホーム2名,認知症対応型通所介護2名
質的記述的研究
10 日野ら(2017) 重度のBPSDで精神科救急入院病棟に入院した認知症患者への看護実践 ①不明 ②男性8名,女性2名 ③5~24年(平均15年) 
④不明 ⑤精神科救急入院病棟10名
質的記述的研究
11 磯ら(2016) 血液透析療法を受ける認知症高齢者に対する透析看護認定看護師の困難と工夫 ①30~50代(平均44.4歳) ②男性3名,女性7名 
③14~34年(平均22年) ④透析看護認定看護師10名 
⑤不明
GTA
12 久米ら(2015) がんに罹患した認知症高齢者に対する疼痛の観察・判断に関する看護師の困難と工夫 ①20~50代(平均不明) ②女性5名 
③8~30年(平均18年) ④緩和ケア認定看護師2名 
⑤緩和ケア病棟5名
質的記述的研究
13 Fukuda et al.(2015) Issues experienced while administering care to patients with dementia in acute care hospitals: A study based on focus group interviews ①20~50代(平均32.3歳) ②男性1名,女性49名 
③3~30年(平均10年) ④不明 
⑤内科病棟17名,外科病棟8名,混合病棟16名,その他9名
KJ法
14 嘉藤・原(2014) 一般病棟における認知症高齢者の転倒の危険性に対する看護師の判断 ①20~40代(平均34.3歳) ②女性9名 
③6~18年(平均11年) ④不明 ⑤一般病棟9名
質的記述的研究
15 渡辺(2014) 認知症高齢者との関わりから引き起こされる看護師の感情に関する生きられた体験 ①20~40代(平均36.3歳) ②男性3名,女性3名 
③5~25年(平均16年) ④不明 ⑤認知症病棟6名
現象学(Husserl)
16 長岡・大渕(2013) 介護老人保健施設における看護師の認知症高齢者ケア場面のとらえ方とケア行動の特徴 ①30~50代(平均不明) ②男性2名,女性8名 
③4~23年(平均14年) ④不明 ⑤介護老人保健施設10名
質的記述的研究
17 油野ら(2010) 認知症を伴う大腿骨頸部骨折患者に関わる整形外科看護師の対応困難な場面における臨床判断 ①範囲不明(平均32.6歳) ②男性2名,女性14名 
③範囲不明(平均10年) ④不明 ⑤整形外科病棟16名
M-GTA
18 高藤ら(2010) 認知症高齢者の生活機能の維持・向上を支援する訪問看護師の姿勢 ①不明 ②不明 ③11~23年(平均15年) ④不明 
⑤訪問看護事業所9名
質的記述的研究
19 高藤ら(2009) 認知症高齢者の生活機能を維持・向上するための訪問看護師の働きかけ ①不明 ②不明 ③11~23年(平均15年) ④不明 
⑤訪問看護事業所9名
質的記述的研究
20 谷口(2006) 医療施設で認知症高齢者に看護を行ううえで生じる看護師の困難の構造 ①20~50代(平均42.6歳) ②男性1名,女性26名 
③3~34年(平均19)年 ④不明 
⑤内科病棟5名,外科病棟6名,介護老人保健施設7名,療養型医療施設9名
GTA

2. 認知症看護における看護師の経験の統合結果

認知症看護における看護師の経験は,127コードより,54〈サブカテゴリー〉,16《カテゴリー》,5【コアカテゴリー】に統合された(表2).

表2 認知症看護における看護師の経験

コア
カテゴリー
カテゴリー サブカテゴリー 代表的なコード 対象論文に記述されている代表的なコード又はローデータ 論文No.
認知症の人に合わせた看護方法の模索と実践 認知症の人を中心とした看護を実践する 認知症の人と対話をする 言葉で向き合う 「これからすることを丁寧に説明する.」 8
認知症の人の反応を受け看護の実施者や場所・時間を変える 対応する人を変える 「自分の受け入れが悪かったらほかの人に代わりを頼む.」 8
認知症の人に合わせて看護に柔軟性を持たせる 透析中の認知症高齢者の立場に立った柔軟なかかわり 「(透析中)興奮したのはこんな理由だと思うから次からこうやってみようかとか,いろんな案がみんなから出てくるので,1回それをやってみる.」 11
認知症の人を責めずに受け入れながら関わる 目が離せない人に対する許容 「(入所者)本人としては何か目的があるから,何かをしようとしているから(中略)そこで自分を受け入れてくれないというか.やっぱりちょっと立腹されたりとかね.でも病気だからというのでね,言われたりするぶんには全然一時的に“なんでこんなこと言われなきゃいけないの”ぐらいは皆思うけど,そういうことでへこたれていてはこういう仕事はできないので.」 20
認知症の人の意思表出を希求し意思の汲み取りを模索する 認知症の人の反応を意識的に引き出す 情動的な反応を引き出す意図的な刺激 「(アパシーにより)できないことに直面すると認知症の方が自信を失ってしまうと思うので,少しでも自信をもってもらえるよう,作業で作ったものとか,頑張ってできたことは心からすごい,ってほめるようにしています.」 1
認知症の人の反応には必ず本人の意思が込められていると思える 意思や感情が生きていることを忘れずに反応を気長に待つ姿勢 「(看護師が何らかの働きかけを行った後の)反応ですよね.患者さんの反応でいまいち反応が悪くなったり,その後,自分が行った行為の後の,その日の夜間の状態だとか,その後例えば著しく午睡が激しいとか,やっぱり不眠だったとかいうときは,いったん元に戻す.やっぱりあまり急がない,慌てない.」 1
認知症の人の言動の意味に納得し理解が深まる 患者の言動が理解でき,腑に落ちる 「尿道カテーテルが入っているのにトイレに行きたいと大声で訴える患者がいた.実際にトイレに連れていき,排便したら落ち着くようになった.それで『あぁーそれであんなに訴えていたんだ』とわかった.患者はつらくてうったえているのに自分の忙しさ任せで『あぁ,また言ってる』と思っていた.」 2
認知症の人の反応から本人の意思を読み取る 最終的に辿りつくニーズをその人とともに見つける 「なせその行動を繰り返すのかを考える.例えば,どこがこ行きたいのか,その時間はもともとデイサービスの時間だからソワソワするのかとか.」 3
認知症の人を中心に本人の意思決定を支援し意に沿った看護を提供する 意思決定を支援する 「入浴は午前中入るのがいい?お昼寝の後がいいかな?とか,いまご飯食べないというと時間をずらして提供したり,本人と相談しながら本人に合わせて,決める.」 9
認知症の人の精神的な欲求の充足に向けた看護を行う 看護の中に認知症の人にとっての楽しみを取り入れる 楽しみが必要 「意思表示のほとんどない人がコーヒーを好きだったのを知って,おやつの時間に起こすと,コーヒーの香りにスッと口を開けてくるの.」 16
認知症の人の活力を引き出す看護を行う 生きる意欲につなげる対応 「おむつから思いきってパンツに変え,トイレ誘導すると放尿がなくなった.」 16
認知症の人の安楽を目指した看護を行う 認知症の人が心理的に安心を抱けるような関係性を築く ここにいても大丈夫と感じられる関係性を築く 「ずっと一緒には過ごせないが,しっかり関心を寄せてひと声かけるだけで,本人にとっての安心材料こなる.」 3
認知症の人の感じている苦痛緩和や入院環境に適応できるように看護を工夫する その人を気遣う対応 「皮膚をきれいにしてかゆみがとれると寝られるようになる.」 16
身体・精神面の安楽・健康を守るため客観的な観察とアセスメントを行う 客観的な指標と行動変化の照合による疼痛の判断 「薬剤の血中濃度が高い時間に痛い場所をかばうことがないとか,薬が切れる時にそわそわしていたら足りないと考えて,レスキューを使うかどうかの判断をする.」 12
安全に過ごせる環境調整と入院中でも行える余暇活動を通して心地よさを提供する 居心地の良い環境マネジメント 「ふらつきがあっても,夜間もトイレで排泄したい人だった.最初はセンサーマットで対応していたが,トイレが頻回で夜間回数も多く,対応が手薄になってしまった.そこで,個室に変更して,ベッドをトイレのドアが開けられるぎりぎり近くに配置したところ,壁伝いに1人で安全にトイレに行けるようになった.」 7
認知症の人が安心感を抱けるよう家族との交流を設ける 安楽に過ごせるように対応する 「家族の声を聞いてもらったり,実際に家族に会ってもらって,認知症高齢者が安心できるように働きかける.」 5
集団生活の中で他者との繋がりを維持できるよう調整をする 他者とのつながりを感じながら,今の生活を楽しんでもらう 「認知症高齢者ができることを施設での生活に活かし,人の役に立つ.」 5
表情や口調,行動を観察しどのような場面で不快感を抱いているか観察する 表情の変化 「表情がちょっときつくなる.」 8
その場の判断・予測により認知症の人にとって望ましくない帰結を避ける 入院中の転倒リスクとして認知機能低下が最も高いと考える 転倒リスクは認知症状が最大リスク 「自分が今どういう状況であるかわからず点滴を引張ったり,ふらついても歩こうとする.」 6
入院中の認知症の人を見守り危険の回避手段を講じる 引き金となる状況を避ける 「自分ですると言ったときは,できるだけやってもらう.」 8
認知症の人の反応・行動からリスクを予測する 動作をみて危険性を予測する 「車いすから立ち上がる時に自分で立ち上がれるか.立ち上がれるとしたら,自分でベッドに移れるのか.人の手を借りずに.どこかにつかまってでも,自分で座れるかとかをみて判断しているかな.見守っているだけでスムーズに動ける人はおそらくまあ,大丈夫かなと思う.」 14
認知症の人の転倒予防として疾患や治療,環境に伴うリスクを予測・察知する 疾患と治療の影響を予測する 「心疾患だったら利尿剤とか,あと精神安定剤も飲んでいるのか.トイレに行く時が危ないかな.」 14
入院から退院までの回復過程において認知機能の低下に伴う入院生活上のリスクを自覚する 療養経過に応じた時期ごとに危険がある 「環境に慣れるまでのところだね.その人の性格とか行動パターンを私たち(看護師)も理解できてくるから,お互いにこの人の場合はこうすればいいんだというのがわかってくる.」 14
混乱によって生じる自傷他害を防ぐため認知症の人の安全を第一に行動する 予想外の状況ではとにかく安全を守る 「お家の人の話を聞いたら落ち着いて寝ます.家族の力ってすごいと思いますね.電話をさせてもらったり,来ていただいたこともありますね.表情が変わります.」 17
個別の認知症看護の枠を超え対象と協同職種を広げた実践 看護の受け手を拡大させる 認知症の人の家族や同室患者にも看護が必要だと感じる 認知症患者と精神疾患患者どちらの患者も守る 「徘徊があったり,他の患者さんとの距離がはかれなくて(近づきすぎたりすると),他の患者さんとトラブルになるので.(認知症患者の)衝動性が落ち着くまでは他の患者さんとは違うエリアを使ったりします.」 10
多職種連携によって認知症の人を看護する 多職種連携を取りながら看護を創造する 「その人の場合」に基づくケアができるようスタッフと一緒に取り組む 「認知機能が低下しているからではなく,怒りたくなるのは人として正常なことではないか,一概に認知症だからと決めつけないように伝えている.」 3
情報共有を基盤とした具体的な看護によって危険を未然に防ぐ 危険を未然に防ぐ 「安全が守れないように思いますから,入院された時の病室の設定も,なるべくスタッフが傍を通ってちょっとでも横目で見られるような場所にします.完全な個室にするとか,看護師の目に触れないような部屋の奥には入院しないようにします.」 17
組織・看護師個人を守るためリスクマネジメントに取り組む 看護師として関わることを意識し関りの中で生じた否定的な感情から自身を守る 急性期病棟にいる認知症を持つ患者の看護場面に合わせた感情を持とうとする 「患者は帰りたくないと言っているのに寝かされたりして,そんなことばかり繰り返してしまうのは,とくかく患者が不安だと思う.だから,大丈夫だよって言ってあげるようにしている.」 2
病院・看護師を守るためのルールを作る 病院の保護計画 原文:When a patient falls and problems ensue, the family may ask the nurse, ‘‘Why did you not prevent the fall?’’ or ‘‘Why did the patient fall down?’’ The use of a sensor mat is an indication to families that we take many precautions.著者翻訳:「患者が転倒して問題になったとき,家族は看護師になぜ転倒を防げなかったのか,なぜ患者が転倒したのかと問う可能性がある.センサーマットの使用は,私たちがいろいろな予防策を講じていることを家族に示すものだ.」 13
認知症の人と家族のこれからを見据えた看護 認知症の人や家族のストレングスを維持する 認知症の人の望む回復像に向けその人の強みや馴染みの関係を活用する リカバリー促進に向けたストレングスやなじみの関係の活用 「仕事とか,役割とか,長年の経験で培われてきたものがあるんです.それを引き出すというか,その人のストレングスを見出すことを意識して関わるようにしています」 1
家族のもてる力を引き出せるように支援する 家族が気持ちを整理し退院後の生活が整えられるよう支援する 「(認知症患者の)入院生活は問題がなくなって,家族にも聴く余裕が出来て,家族も今の感じならいいですけど退院したらどうなるんだろうって話が出たら,話をしてみて,具体的に関わり方で本当に悩んでいるっていう時には,方法を伝えてあげていますね.」 10
認知症の人の日常生活機能を維持できるように関わる 認知症高齢者がしている活動の維持を支える 「ADLの維持ということも考えて,外を歩いたりしてましたね.」 19
長期的な視野で認知症の人を看護する 認知症の人の人生を支える上で長期的な視野を持つ 将来に向けて準備する 「今は訪問系で生活は営めてますけど,将来的なことを考えたらやっぱりグループホームや施設へ行かないと,介護する人がいないし,限界があるんですよね.集団の中に慣れるようにしないといかんのかな.」 19
認知症の人のストレングスを損なわない看護を志向する BPSDの悪化やその人の持つ機能への影響を考慮し抗精神病薬の服薬管理を行う 抗精神病薬やBPSDが心身に与える影響の予測 「抗精神病薬でもし動けなくなったら怖いなって.すぐに筋力とか落ちぢゃうじゃないですか.家族とかからどれぐらい動けてますか,っで聞くようにしています.」 4
抗精神病薬の使用や身体拘束の実施に至らない看護を模索する 効果的な非薬理的介入の見極め 「どういう時に症状が落ち着いているかご家族さんから聞くことがあります.あ,こういう時に落ち着いてるんだなってのがわかれば:それが日常生活に取り入れれないかなって,考えます.例えば,その人ぱ体を動かすことが好きなんですけど,訪問の時に話を聞ぐとき,ちょっと散歩しながらお話聞かせてもらえませんかって,散歩しながらきいてみたり.それを繰り返して普段から散歩の習慣がつけばいいなって思ってます.」 4
認知症の人のもてる力の発揮を奪っているのではないかと思考する その人のもてる力を発揮していない 「子どもたちはどこに行ったのかしらと朝,起きてくる(元教師の)方(に),人のお世話をしてもらうと結構落ち着く.」 16
認知症の人に主体性を持たせその人の人間性や「できる」ことを知る 認知症高齢者が主体的に活動することを支える 「その人がやりたい,したいということなので,そういう行為を大事にして見守った.」 19
認知症看護の実践上の課題への直面 認知機能の低下に対応した実践への困難を自覚する 繰り返し必要となる同じ看護に対し感情的な負荷を自覚する ケアがリセットされることを虚しく思いながら,面倒がおこらないことを祈る 「説明すると一回は納得してくれるのにまた同じ訴えを繰り返してきて,何度も同じ事が繰り返されるとどうじてわかってくれないんだろうと切ない気持ちになってくる.」 2
認知症の人の意思決定に難しさを感じる 意思決定がむずかしい 「今後認知症がさらに進行したときに,本人がなにを望むのかを理解することはいまよりももっとむずかしくなる.」 9
集団生活において他者との繋がりの維持に難しさを感じる 集団生活においてコミュニケーションが図りにくい 「利用者同士が同じ場所で会話しているとき,失語のある人に会話が通じていなかったり,言動が周りの利用者に理解されていない.」 9
認知症の人の尊厳の尊重に難しさを感じる 尊厳が尊重されにくい 「利用者のとった行動はトラブルやアクシデントとされ,行動を規制する働きかけが行われている.」 9
認知症の人の日常生活上の看護への苦慮を自覚する 認知症ゆえに生じる(認知症高齢者の)生活管理の問題に対応しきれないことへの苦慮 「心機能に負担があってもたくさん食べるから体重が増えて.増えた分だけ引こうとすると血圧が下がるし,無理のない透析をしていたら,ほんとに心不全気味になって困りました.」 11
実践への反応が受け取れないこともあり自身のケアに手ごたえの無さを自覚する 認知症高齢者に対する隔たり 「日々,認知症でよかれと思ってしゃべったことが逆効果だったりっていうのは(中略)違ったんだなって思いますけどね.」 15
認知症への先入観に基づいた看護で失敗する 偏った情報を基にしたアセスメントによる判断の誤りを自覚する 訴えを中心とした判断による鎮痛薬投与の遅れと過量 「日常動作の具合とか表情とか,細かいところを見て,洞察するというか,うかがう.見ていて辛いかなと薬を使うけど,一般の人達から見ると使い方が遅れる,少なくなっていると感じる.」 12
認知症の人を「分からない人」と捉えた看護で失敗を自覚する 認知症だから分からない 「いい日と悪い日があるまだら呆けの人に,その人が呆けているからと子どものような言葉がけをした.」 16
望ましい認知症看護とその障壁との間で葛藤する 効果的な看護実践を行う上で組織内の人的・物的・システム上の不十分を自覚する 病院内の組織の不備 原文:Nurses do not have opportunities to acquire specific knowledge or advice about dementia. Therefore, they deal with problems as they occur.著者翻訳:「看護師は認知症に関する具体的な知識やアドバイスを得る機会がない.そのため,発生した問題にその都度対処している.」 13
自分の理想とする看護と実際の看護のズレによる葛藤を自覚する 看護師としての自分と人間としての自分の葛藤 「やですねー.これ(無理やり患者の口に食事や服薬を入れること)やりたいために看護婦になったわけじゃないなとも思いますし(中略)仕方ない,仕方ないですよね.ほっとくわけにはいかんですもんね,うん,かといって.」 15
認知症の人の現状にそぐわない家族からの要望への葛藤を自覚する 家族からの応じられない要望 「ご家族様の理解と患者様の状態がやや一致しないで(中略)もうそういうレベルではない状態で,要求されているときにはこう,葛藤がありますよね.(中略)おうちの方には見せない“夜の顔”ということもあるので,私もどこまでお伝えして,今大事に思っていらっしゃるお父様,お母様の像をあまり崩すというのもどうかなと思ったり.」 20
認知症看護における価値観の確立 認知症看護に向かう自身の信念に基づいて看護に臨む 認知症である以前に一人の人間であることを大前提に尊厳を持って関わる 認知症の症状を理解し認知症高齢者を1人の人として尊重する 「忙しくても,認知症高齢者の話をよく聴く.」 5
認知症看護を行う際に認知症看護モードへ意識を切り替える 認知症ケアモードへ切り替え 「トイレに行きたいのに『ダメ,オムツ内でして』と禁止されたら不穏になるのは当然だし,看護師に敵対意識を持つから,駄目という言葉や態度は極力しない.」 7
認知症の人との関係性が深まったとしても専門職としての一定の距離を保つ 専門職として認知症高齢者と一定の距離を保たなければならない 「面会に来ている家族に(中略)何であの人,そういう風にゆってるのみたいな感じで,思われるんじゃないかなとかね.やっぱりそれはちょっとまずい.」 15
認知症の人は相手の言動の思いを敏感に感じ取るということを念頭を持つ 認知症の人は相手の思いを察知する 「本人の意向を聞いて声をかけるとスッと立つときもあるし,命令的な口調で声をかけるとすごく抵抗するときもあって」 16
認知症看護に対する自身の看護観に基づいて関わる 認知症高齢者に対する看護観に基づいてかかわる 「この人がなんで今こういう発言をするのかとか,こういう立ち振る舞いをするようになったのだろうかっていうことを,起きている現象ばかりに捉われずに,なんでだろうっていう視点を常に持っていないと.やっぱり直接見えていること以外のことをまず理解していかないと….」 18
認知症看護への達成感を得る 認知症の人や他スタッフからの肯定的反応によって肯定的感情を抱く 他者からのプラスのフィードバックで自分のケアに手ごたえを感じる 「認知症でときどき落ち着かない患者さんや利用者さんに嬉しいと言われると,やっぱりあぁよかったなって心から思う.」 15

看護師は看護の対象となり得る認知症の人との出会いを通し,【認知症の人に合わせた看護方法の模索と実践】や,1対1の個別の関りの枠を越えた【個別の認知症看護の枠を超え対象と協同職種を広げた実践】を行っていた.また,目先の看護だけではなく,認知症の人や家族のストレングスを活かしながら,【認知症の人と家族のこれからを見据えた看護】をしていた.このような実践の中で,自身の看護実践やその周囲の環境に関連した【認知症看護の実践上の課題への直面】をしながらも,次の実践へ向けた省察を行っていた.そうした実践の反復と実践の省察の連続は,認知症看護における自分自身を省察する機会となり,【認知症看護における価値観の確立】を支えていた.この経験の様相を図2に示す.

図2  認知症看護における看護師の経験の様相

3. コアカテゴリーの説明

1) 【認知症の人に合わせた看護方法の模索と実践】

このコアカテゴリーは,5《カテゴリー》,24〈サブカテゴリー〉から構成された.

看護師は,〈認知症の人と対話をする〉ことや,〈認知症の人に合わせて看護に柔軟性を持たせる〉こと等,《認知症の人を中心とした看護を実践する》経験をしていた.また,〈認知症の人の反応には必ず本人の意思が込められていると思える〉という考えの基,〈認知症の人の反応を意識的に引き出す〉ことや,〈認知症の人の反応から本人の意思を読み取る〉工夫をしながら,〈認知症の人を中心に本人の意思決定を支援し意に沿った看護を提供する〉等をして,《認知症の人の意思表出を希求し意思の汲み取りを模索する》経験をしていた.さらに,〈看護の中に認知症の人にとっての楽しみを取り入れる〉ことや,〈認知症の人の活力を引き出す看護を行う〉ことによって,《認知症の人の精神的な欲求の充足に向けた看護を行う》経験をしていた.そして,〈表情や口調,行動を観察しどのような場面で不快感を抱いているか観察する〉ことや,〈身体・精神面の安楽・健康を守るため客観的な観察とアセスメントを行う〉ことを基に,〈安全に過ごせる環境調整と入院中でも行える余暇活動を通して心地よさを提供する〉ことや,〈認知症の人が安心感を抱けるよう家族との交流を設ける〉こと等を実施しながら《認知症の人の安楽を目指した看護を行う》経験をしていた.加えて,〈認知症の人の反応・行動からリスクを予測する〉ことや〈入院中の認知症の人を見守り危険の回避手段を講じる〉こと等,《その場の判断・予測により認知症の人にとって望ましくない帰結を避ける》ための方法の模索と実践を行っていた.

このように,看護師は認知症の人へのより良い看護の提供を目的に,本人の意思の確認から具体的なアセスメントを経て,本人の安心や安楽を目指した看護の経験をしていた.

2) 【個別の認知症看護の枠を超え対象と協同職種を広げた実践】

このコアカテゴリーは,3《カテゴリー》,5〈サブカテゴリー〉から構成された.

看護師は,認知症看護の対象を本人だけでなく〈認知症の人の家族や同室患者にも看護が必要だと感じる〉ことによって,《看護の受け手を拡大させる》経験をしていた.また,〈情報共有を基盤とした具体的な看護によって危険を未然に防ぐ〉ことや,〈多職種連携を取りながら看護を創造する〉等,《多職種連携によって認知症の人を看護する》経験をしていた.さらに,組織単位で〈病院・看護師を守るためのルールを作る〉ことや,個人単位で〈看護師として関わることを意識し関りの中で生じた否定的な感情から自身を守る〉行動をとり,《組織・看護師個人を守るためリスクマネジメントに取り組む》経験をしていた.

このように,看護師は認知症看護の対象を拡大し,看護師同士または他職種との連携によるリスクマネジメントや,組織または個人単位で自身を守るための取り組みを行う経験をしていた.

3) 【認知症の人と家族のこれからを見据えた看護】

このコアカテゴリーは,3《カテゴリー》,8〈サブカテゴリー〉から構成された.

看護師は,〈BPSDの悪化やその人の持つ機能への影響を考慮し抗精神病薬の服薬管理を行う〉ことや,〈認知症の人に主体性を持たせその人の人間性や「できる」ことを知る〉こと等,《認知症の人のストレングスを損なわない看護を志向する》経験をしていた.また,〈認知症の人の日常生活機能を維持できるように関わる〉ことや,〈家族のもてる力を引き出せるように支援する〉こと等,《認知症の人や家族のストレングスを維持する》経験をしていた.さらに,認知症の人の人生を支える視点として《長期的な視野で認知症の人を看護する》経験をしていた.

このように,看護師は目先の看護だけではなく,認知症の人と家族のストレングスの維持を目的にこれからを見据えた看護を経験していた.

4) 【認知症看護の実践上の課題への直面】

このコアカテゴリーは,3《カテゴリー》,11〈サブカテゴリー〉から構成された.

看護師は,〈認知症の人の意思決定に難しさを感じる〉ことや,〈実践への反応が受け取れないこともあり自身の看護に手ごたえの無さを自覚する〉等から,《認知機能の低下に対応した実践への困難を自覚する》経験をしていた.また,〈認知症の人を「分からない人」と捉えた看護で失敗を自覚する〉ことや,〈偏った情報を基にしたアセスメントによる判断の誤りを自覚する〉こと等を通し,《認知症への先入観に基づいた看護で失敗する》経験をしていた.さらに,〈自分の理想とする看護と実際の看護のズレによる葛藤を自覚する〉ことや,〈効果的な看護実践を行う上で組織内の人的・物的・システム上の不十分を自覚する〉こと等から,《望ましい認知症看護とその障壁との間で葛藤する》経験をしていた.

このように,看護師は自身の看護実践やその周囲の環境に関連した課題に直面する経験をしていた.

5) 【認知症看護における価値観の確立】

このコアカテゴリーは,2《カテゴリー》,6〈サブカテゴリー〉から構成された.

看護師は,〈認知症の人との関係性が深まったとしても専門職としての一定の距離を保つ〉ことや,〈認知症看護に対する自身の看護観に基づいて関わる〉こと等,《認知症看護に向かう自身の信念に基づいて看護に臨む》経験をしていた.また,〈認知症の人や他スタッフからの肯定的反応によって肯定的感情を抱く〉ことを通し,《認知症看護への達成感を得る》経験していた.

このように,看護師は認知症看護実践の経験を積み重ねる中で自身の認知症看護における価値観を深め,実践に対する周囲からの肯定的な反応を実感する過程で,看護実践者としての芯を確立する経験をしていた.

Ⅳ. 考察

本研究により,2006~2022年に発表された質的研究を基に,日本の認知症看護における看護師の経験の様相を5コアカテゴリーに統合できた.ここでは,5コアカテゴリーから,日本の認知症看護における看護師の経験への見識を深め,認知症看護に関する研究の展望について示唆を得ることとした.

1. 日本の認知症看護における看護師の経験の様相

本研究で得られた日本の認知症看護における看護師の経験は,認知症看護を展開する様々な局面における実践の反復(【認知症の人に合わせた看護方法の模索と実践】【個別の認知症看護の枠を超え対象と協同職種を広げた実践】【認知症の人と家族のこれからを見据えた看護】),実践の省察(【認知症看護の実践上の課題への直面】)と自分自身の省察(【認知症看護における価値観の確立】)に基づく様相であると考えられた.これらの経験について,それぞれ考察していく.

1) 認知症看護における実践の反復を基盤とした経験

【認知症の人に合わせた看護方法の模索と実践】,【個別の認知症看護の枠を超え対象と協同職種を広げた実践】,【認知症の人と家族のこれからを見据えた看護】は,認知症の人への実践の反復を基盤とした最適な看護方法の模索や実践に求められる視点への気づきの経験であった.

認知症の人に生じる困難さには,周囲の者との関係に生じるズレがあると言われている(小澤,2003).認知症の人は「やらないではなく,やれない」と思っている一方で,家族や周囲の人は「やれるのに,やれない」と捉えることがあり,両者の期待と現実のズレは,家族や周囲の者からの一方的な押し付けや認知症の人への無理解を生み,ズレが修正されなければ,絶望的なすれ違いを生むことになる(小澤,2003).そのようなすれ違いを生まないためには,認知症の人自身が何を考え,何を望んでいるのか知る必要がある.2006年に開催された認知症の人たち自身による「本人会議」では,「どんな支えが必要か,まずは,わたしたちにきいてほしい.」,「少しの支えがあれば,できることがたくさんあります.」等の,認知症の人の声が紹介されている(認知症の人と家族の会,2006).本研究結果から,認知症看護に携わる看護師は,《認知症の人を中心とした看護を実践する》ことや,《認知症の人の意思表出を希求し意思の汲み取りを模索する》ことを経験しており,言語的・非言語的な情報を注意深く観察し,本人を中心とした看護を提供するために模索し続けている現状がうかがえた.

《認知症の人の安楽を目指した看護を行う》《看護の受け手を拡大させる》《多職種連携によって認知症の人を看護する》経験では,看護師は認知症の人にとって意味のある生活・療養環境の物質的・精神的な調整を個人または多職種連携の基に行い,その環境を評価していた.認知症の徴候や症状は,認知機能の働きが認知機能のキャパシティを超えたときに出現しやすい(Pace et al., 2011).また,住み慣れた環境からの変化は身体活動の低下や自尊感情・精神活動の低下,活動範囲の縮小,役割の喪失等の身体的・精神的・社会的側面への影響がある(赤星ら,2018).そのため,環境の変化に影響を受けやすい認知症の人に対し,その人の認知機能に合わせた環境調整を行い,認知症の人と周囲の人も含めたより良い環境構築に努めることは認知症看護の本質的要素の1つだと言える.

また,日本において罹患者の多いアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症には根治療法は確立されておらず,生活の質の維持・向上を目的とした薬物療法と非薬物療法を組み合わせた治療が一般的である.診断からの10年生存率は,アルツハイマー型認知症18.9%,血管性認知症13.2%,レビー小体型認知症2.2%程度と報告されている(Matsui et al., 2009).そのため,認知症の人は暮らしを継続する中で様々な医療・福祉サービスを受ける機会が想定され,その時々で看護職が関わることとなる.保健・医療・福祉の場で関わる看護職が,その場で求められている看護を提供するとともに,長期的な視点でできる限り認知症の人やその家族がその人らしく暮らし続けられるよう,ストレングスを活かしながら看護を提供することが認知症看護の本質であると考えられた.

2) 認知症看護における実践の省察を基盤とした経験

【認知症看護の実践上の課題への直面】は,実践の省察を基盤とし,認知症看護に対する課題の認識に関する経験であった.

《認知機能の低下に対応した実践への困難を自覚する》や《望ましい認知症看護とその障壁との間で葛藤する》では,生活・療養の場における認知症の人の意思を汲み取ることの困難さや,繰り返し同じ看護をしなければならないことへの感情的な負荷,看護場面におけるジレンマ等が語られていた.すなわち,認知症の人への治療や看護の遂行,日常生活の維持・継続に関する様々な局面において看護師は悩み,日常的な看護における倫理的な課題を経験していたと考えられる.認知症看護において遭遇することの多い認知症の人の独り歩きやケアの拒否・抵抗等の状況は,日常ケアに多くの問題があっても,ありふれた日常ケアの現実,あるいは介護技術上の問題だと認識されることが多いと言われている(箕岡,2011).一方,これらの課題に倫理的問題が内包されているという倫理的気づきをすることによって,より的確な視点でこれらの問題をとらえることができるとも指摘されている(箕岡,2018).

また,《認知症への先入観に基づいた看護で失敗を経験する》は,偏ったイメージのまま看護をすることで生じる課題であった.認知症の本質は「暮らしの障害」であり,それまで当たり前のようにできていた「普通の暮らし」ができなくなっていくのが特徴である(長谷川・猪熊,2019).したがって,認知症であること以前に,先ずはその人その人の視点に立った困りごとに目を向けなければならず,その人を知ろうとする姿勢が不足してしまうと誤った判断に繋がり得る.様々な実践経験を経て看護師自身が自己の見方の偏りや困難さの具体に気づき,それらを課題として認識することが認知症看護の本質の1つであると考えられた.

3) 認知症看護における自分自身の省察を基盤とした経験

【認知症看護における価値観の確立】は,自分自身に対する省察を基盤とし,認知症看護の実践者としての成長に関する経験であった.

《認知症看護に向かう自身の信念に基づいて看護に臨む》では,看護専門職として認知症の人との向き合い方が語られており,認知症の人との心理的な距離感や人間としての尊厳を保持すること等が含まれていた.日本看護協会の定める看護職の倫理綱領の本文1には,「看護職は,人間の生命,人間としての尊厳及び権利を尊重する」ことが明記されており(公益社団法人日本看護協会,n.d.),前述のカテゴリーはこの倫理綱領の内容に類似していた.ケア提供者による認知症の人の言動の解釈の誤りにより,無危害原則や自立尊重原則に反するような場面が繰り返されており,そのことにケア提供者が気づいていないことがあると言われていることから(諏訪,2012),看護の受け手として尊厳が損なわれやすい現状が反映された結果と考える.そのため,認知症看護へのぶれない姿勢を持つことが,認知症看護における本質の1つであること考えられた.

さらに,《認知症看護への達成感を得る》では,自身の看護実践が他者から認められ,必要とされていることを実感できることが,看護師としての使命感を抱くことに繋がることが語られた.そのため,認知症看護の実践者として互いの実践内容を共有し認め合う機会や,役割の必要性を実感できる機会の創出が,モチベーションの維持・向上に寄与できると考えられた.

2. 本研究の知見を踏まえた認知症看護に関する研究の展望

本研究で得られた日本の認知症看護における看護師の経験の様相は,今日までの認知症看護に関わる様々な社会的背景を踏まえた認知症看護における看護師の経験の本質であることが示唆された.本研究結果を踏まえた研究は,日本における認知症看護の実践力の向上に寄与できるものと考える.

認知症看護における看護師の経験の本質の1つは,実践上の課題を自覚し,実践者としての価値観を確立していくことであった.それらを促進するためには,自分自身や実践に対して客観的な自己分析のできる省察力が要であり,認知症看護場面の省察に視点をおいた研究を進めることが望まれる.また,実践の反復を基盤とした経験については,看護方法のエビデンスの検証と看護実践の評価方法の確立が重要であると考える.特に本研究で示された本人中心の看護実践の経験や,認知症の人とその周囲の人を1つの看護単位として環境調整をする経験,認知症の人のストレングス評価と長期的な視野での実践経験等について,看護の実践場面で運用・活用可能なエビデンスの生成とその有効性の検証が望まれる.そのためにも,それらに関する実践的研究を進めることが望まれる.さらに,認知症の人は生活環境の変化に適応する能力が低下しており,特に住み慣れた環境から別の環境へ移らなければならない場合,適切な関りが不十分であると行動・心理症状を発症または悪化させやすい.看護実践の場では,限られた時間の中で対象者の状況を見極め,適切に対応する判断力と実践力が必要である.看護師が認知症看護の方法を模索しているという状況も踏まえると,認知症の人を看護する看護師の臨床判断能力の向上と能力評価のための指標を開発し,臨床における実装研究は重要な課題であると言える.

Ⅴ. 結語

日本の認知症看護における看護師の経験の様相は,【認知症の人に合わせた看護方法の模索と実践】【個別の認知症看護の枠を超え対象と協同職種を広げた実践】【認知症の人と家族のこれからを見据えた看護】【認知症看護の実践上の課題への直面】【認知症看護における価値観の確立】に統合された.認知症看護における看護師の経験の本質は,実践の反復,実践の省察と自分自身の省察を基盤とした経験であった.これらの経験の本質を踏まえた新たな知見の蓄積が,認知症看護実践の発展に寄与できると示唆された.なお,経験の様相は看護を取り巻く社会的背景の変化によって差が生じると考えられる.本研究結果は,日本における限られた期間の知見を統合した内容であった.

付記:本論文の内容の一部は,第3回看護ケアサイエンス学会学術集会において発表した.

謝辞:本研究は,JSPS科研費JP22K11091の助成を受けたものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:AMは本研究の着想,デザイン,文献の収集,分析,解釈,論文執筆のプロセス全てを主導し執筆した.HHは,研究プロセスへの助言,論文執筆に関与した.全ての著者が最終原稿を確認し承認した.

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